2012年4月21日土曜日

書籍紹介01 『深海3,000フィートの~』


ご無沙汰しております。

月1回更新の様相を呈してきました。



書籍紹介をします。
さっき届いたばかりの本です。



『深海3,000フィートの生物(ヴィーナス)たち』



約80種に及ぶ深海生物を一般向けに解説したものです。
「生物」を「ヴィーナス」と読ませるあたり、深海生物に対する深い愛情を感じます。

amazonをサーフィンしている時に見つけて、即買いでした。





表紙はこんな感じ。









ええ、萌え絵です。ある意味、色モノです。
しかし、こういうのに限ってしっかりした基盤をもっていたりする、というのが私の持論です。
果たして本書も、ただの萌え本ではありません。
(ちなみに、私は萌え絵に関しては全くの素人ですので、あしからず。)

本書には2種もヨコエビが載っています
タルマワシも含め、端脚目は3種も載っています。
これは快挙です。
こんなにヨコエビが載った一般書は見たことありません。
見たことがないだけかも・・・


さて、以下がそのページ。





全体的には、分類をベースに生態学的知見や人文的な話題を盛り込んでいる印象で、内容は充実しています。それこそマイナーな種にも平等に見開き2pが与えられているのは、とても良いです。
文中では深海以外のヨコエビに関しても簡潔に触れられていますね。

とにかく、これらのヨコエビはとてもでかいです。博物館でフクレソコエビの仲間(4,50mm)を見て驚愕したことはありますが、その比ではなく、世界には200~300mmレベルの巨大種もいるらしいです。
解剖する時はすごく楽にできるんだろうな・・・

本書で扱われているエウリセネス・グリルスとカイコウオオソコエビはともにフトヒゲソコエビ科Lysianassidaeに属し、形態は素人眼にはほとんど同じです。生態も似通っています。そんな調子で、他の分類群もぱっと見で似たようなものが並んでしまっているのは残念。種ごとの解説がしっかり書かれているだけに、通読した時に一部内容が重複していて勿体ないです。
種数を減らして個々の説明を掘り下げるような企画も面白いと思います。
それとも、女の子が80人勢ぞろいすることに意義があるってことなんでしょうか?




エウリセネス・グリルス(オオオキソコエビ)といえば、深海調査の論文にタダで読めるものが幾つかあったはず。Charmasson and Calmet(1987)などは調査機材の図などもあって、想像をかきたてられます。
分類以外の論文はあまり読んできませんでしたが、遊泳するヨコエビは深度分布などの切り口もあって興味深い題材ですね。

カイコウオオソコエビの論文でよく引用されるのはFrance(1993)でしょうか。これもネット上に転がっていたはず。
『深海3,000フィートの~』でも触れられていますが、本種には生息地ごとに形態的な違いが生じてきているようです。まともな分散様式をもたず、遺伝的交流が希薄なのが要因と考えられます。

ヨコエビは直達発生とよばれる発生様式をもち、プランクトン期がありません
例えばカニのように長距離を移動できない生物は、卵から孵った幼生がプランクトンとして海を漂い、分散していくのがセオリーなのです。ヨコエビは泳ぐといってもたかが知れてますから、どうやって分散しているのかよく分かっていません。France(1993)は、カイコウオオソコエビの遺伝的交流はあまり行われていないことを示唆しており、ヨコエビの分散が起こりにくいことを裏付けているともいえるわけです。
浅い海のヨコエビにもこうした研究を応用できないものかと思っています。


来月あたり、そろそろ調査に行きたいです。





紹介した書籍

北村雄一(著), 深海生物フューチャー・ラボ(編). 2011. 『萌え学イラストガイド 深海3,000フィートの生物(ヴィーナス)たち』 PHP研究所, 東京, 191pp. (ISBN978-4-569-79583-6)





追記

そういえば、個人のwebサイトでも深海生物を擬人化して紹介していたものがありました。その時もカイコウオオソコエビは萌えっ娘になっていたのですが、今回はまたタッチが違って面白いです。

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補遺(21 Jan. 2017)

・和名を修正
・長きにわたってフトヒゲソコエビ科Lysianassidaeは非常に形態が多様で種数の多い科であったが、整理を試みる動きが続いており、2000年前後から科の細分化が進んだ。そして、2013年には22科を含むフトヒゲソコエビ上科Lysianassoideaとして、新しいGammaridea亜目の中に位置づけられた(一覧表参照)。この分類体系では、カイコウオオソコエビはHirondelleidae科に、オオオキソコエビはEurytheneidae科に含められ、フトヒゲソコエビ上科にまとめられている。一方、この新しいフトヒゲソコエビ上科にはダイダラボッチAlicella giganteaを含むAlicellidae科が含まれていないなど、伝統的な見解とは大きな隔たりがある。
 
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文献

Charmasson, S.S. and D.P. Calmet. 1987. Distribution of scavenging Lysianassidae amphipods Eurythenes gryllus in the northeast Atlantic: comparison with studies held in the Pacific. Deep Sea Research Part A. Oceanographic Research Papers, Volume 34, Issue 9, pp.1509-1523.

France, S.C.. 1993. Geographic variation among three isolated population of the hadal amphipod Hirondellea gigas (Crustacea: Amphipoda: Lysianassoidea). Marine Ecology Progress Series, Vol. 92, pp.277-287.

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