芽生えの季節、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
昨年の4月、「学部新四年生の皆様へ」と題してヨコエビの研究を始めるにあたって役に立つ文献を列挙させていただきました。
ここ1年、いろいろと新しい情報が集まったりしたので、今年もビギナーにぴったりの資料をご紹介したいと思います。
ちなみに前回紹介したのは次の通り。
・富川&森野(2009)
・小川(2011)
・石丸(1985)
・Chapman(2007)
・平山(1995) In;西村
・Barnard & Karaman(1991)
詳しくは去年のブログをご覧ください☆
生物研究入門者向け
学部4年生または研究室に出入りし始めたばかりの3年生は、まず論文を読み書きするための素養がない場合があることが分かりました。思い起こせば偉そうにこんなこと言ってる私も、卒研を始める頃は論文の集め方はもとより論文というものそのものをよく理解していなかったのです。だからラボで色々学んでいく必要があるのですが、初歩の初歩から勉強したい方にはまずこの書籍を紹介します。
・濱尾章二, (2010) 『フィールドの観察から論文を書く方法』. 株式会社文一総合出版, 東京. ISBN978-4-8299-1177-8.
生態学や行動学をベースとして、ビギナーが論文を書くにあたって知っておくべきこと、気を付けることなど、盛りだくさんな内容を、平易な言葉で、イラストを交え、約200pというコンパクトなボリュームでまとめた、奇跡的な本です。もちろん分類の論文を扱うような場合でも一読すべきと思います。ゼミでもこれを紹介して共同購入するよう皆にオヌヌメしました。そういえば。
ヨコエビ事情を俯瞰する
・ Lowry, J.K. and A.A. Myers (2013) A Phylogeny and Classification of the Senticaudata subord. nov. (Crustacea:Amphipoda). Zootaxa, 3610 (1): 1-80.
ヨコエビ界隈では大事件なのですが、 従来、ヨコエビ亜目Gammarideaとして理解されていたヨコエビのうち主要な幾つかのメンバーが、2013年に新設されたSenticaudata亜目に移動されたのです。その論文がタダで読めます。
去年のブログ上でそれぞれの亜目の科リスト(Senticaudata/Gammaridea)を作成したので、暇なときにでも確認してください。
最新の情報を見る
・World Amphipod Database(WAD)
ヨコエビの研究は日々新しい知見が集積されてくるため、最新の情報を集めるのは至難の業です。ということで、これを使います。WADには最新の系統樹が掲載されており、既知の端脚類のほぼ全種の最新の所属およびシノニムまでチェックできます。しかもタダ。
そしてAmphipod Newsletterは年一回の発行で、その一年の間に記載された種を手っ取り早く把握することができるネ申ニュースレターです。しかもタダ。
ただし、これを引用適なソースとみなすかどうかについては意見が分かれると思います。最低限の留意として、引用日時を明記したり、魚拓をとっておいたりすべきでしょう。内容の真偽云々ではなく、すぐ更新されてしまう性質のものということで。
また、当データベースのacceptedが、そのタクサにおける共通認識を権威付けるものとは考えない方がよいです。論文を書く場合はあくまでそのacceptされた見解が記された文献をチェックし、自分で判断すべきかと。
グループごと
・ 富川光 ・ 森野浩 (2012) 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方, タクサ, 32: 39-51.
2012年までに記載された日本の淡水産ヨコエビ全種の解説と検索表が掲載されているネ申論文です。淡水のヨコエビをやる人はもうこれさえあれば何というかいろいろ大丈夫ですよね(当ブログ筆者が海産しかやってないため紹介がいろいろ雑)。
・Arimoto, I. (1976) Taxonomic studies of Caprellids (Crustacea, Amphipoda, Caprellidae) found in The Japanese and adjacent waters. Special publications from the Seto Marine Biological Laboratory, 3: iii-229.
日本近海のワレカラの決定版です。ワレカラはヨコエビと区別されつつも近縁な甲殻類として長く親しまれてきましたが、前述のLowry & Myers (2013)によって晴れて(?) Senticaudataの一員となり、Gammarideaと併せた広義のヨコエビ類に内包されるかたちとなり、要するに今やヨコエビの一種なわけです。Arimoto(1976)は少し古いですが、このようなレビューが行われているのは本当にすごい。しかもタダで読める。これでもう何かいろいろ心強いですね(やはり紹介が雑)。
・Takeuchi, I. (1999) Checklist and bibliography of the Caprellidea (Crustacea : Amphipoda) from Japanese waters. Otsuchi marine science, 24(3): 5-17.
Arimoto(1976)ほど細かい記述はありませんが、より新しい知見に基づいたシノニムリストを惜しげもなく全部乗せているのがTakeuchi(1999)です。この論文には分類学だけでなく生態学等の文献リストもついていて、ワレカラ研究のバイブル的な存在と言えるでしょう。しかもタダ。
・森野浩 (2015) ヨコエビ目. In; 青木淳一(編) 『日本産土壌動物 第二版-分類のための図解検索』 1069-1089. 東海大学出版会, 東京. ISBN978-4-486-01945-9
1991年刊の『日本産土壌動物検索図説』を大幅に増補改訂した本書は、日本の陸生ヨコエビ(ハマトビムシ,オカトビムシなど)が網羅的に紹介されており、ヨコエビを扱うページ数も4p増えました。思いっきり図説に力が入れられており、検索時にはかなり重宝するものです。チェックしてみるとたぶんいろいろと完璧です(相変わらず紹介が雑)。
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さて、ここからはおまけです。
ルーキーの皆さんが研究をはじめるにあたり、ヨコエビに限らず文献を探すのに、文献リストが手元にあってもどれがタイトルなのか分からない、といったこともあるそうなので、文献情報のルールについて軽く紹介させて頂きます。
まずこちらをご覧ください。
-Barnard, J.L. and C.L. Ingram (1986) The Supergiant Amphipod Alicella gigantea Chevreux from the North Pacific Gyre. Journal of Crustacean Biology, 6(4): pp.825-839.
ダイダラボッチが再発見されたときの論文です。
この一連の文献情報に含まれるものを抜き出してみます。
筆頭著者: J. L. Barnard
共著者: C.L. Ingram
出版年: 1986年
題名: The Supergiant Amphipod Alicella gigantea Chevreux from the North Pacific Gyre
雑誌名: Journal of Crustacean Biology
巻(Volume): 6
号(Issue number): 4
掲載ページ: 825~839ページ
ギリシャ数字がある場合は、本文以外に何かがあるということです。これを見落とすと、コピーは届いたが本文だけで図表がない、なんてことになりますので要注意です。
-Sars, G.O.(1895) Amphipoda. An account of the Crustacea of Norway with short descriptions and figures of all the species, 1: viii + 711p.
他には、出版年を括弧でくくらなかったり、出版月を入れたり、雑誌名の後や掲載ページの後に記述したりすることもあります。著者のイニシャルのピリオドを省いたり、雑誌名や巻数の書式を変えなかったり、学名をアンダーラインで表記したり・・・いろいろあります
たとえばAPAスタイルに忠実にやるとこんな感じ。
-Kamihira, Y. (1979). Ecological studies of macrofauna on a sandy beach of Hakodate, Japan. II. On the distribution of paracarids and the factors influencing their distribution. Bulletin of Fisheries Sciences, Hokkaido University, 30(2), 133-143.
こちらはAMAスタイル。
-Chapman JW, Dorman JA Diagnosis, systematics, and notes on Grandidierella japonica (Amphipoda: Gammaridea) and its introduction to the pacific coast of the United States. Bulletin of the Southern California Academy of Science. 1975; 74(3): 104-108.
雑誌名などは略称で表記されることが多く、ルール化されているのでググれば出ると思いますが、慣れないと戸惑うかもしれません。例をいくつかあげます。
Bull. = Bulletin
Suppl. = Supplment
Biol. = Biology
Ecol. = Ecology
Zool. = Zoology
Nat. =NationalNatural
Natl. = National
文献情報の表記は学域ひいては出版物ごとにルールがあると考えていただいたほうがよいかもしれませんが、基本はある程度共通しています。そして学術雑誌の形式はいわば基本形で、他にも書籍,報告書など、様々な文献から引用する際には、それぞれのバリエーションとなります。
例えば、単行本を引用したものはこんな感じです。
-イヴレフ, B.C. (訳:児玉康雄,吉原友吉) (1985) 『魚類の栄養生態学-魚の採餌についての実験生態学-』, 新科学文献刊行会, 米子.
本として出版されている媒体から一部を引用する場合はこんな感じです。
-駒井智幸 (2003) 甲殻類. In; 松浦啓一(編)『国立科学博物館叢書③標本学 自然史標本の収集と管理』 : 39-47. 東海大学出版会, 東京.
書籍名は『』で囲うことが多く、部分的な引用であればページを記載します。ちなみに、ジャーナルに掲載された論文と書籍に掲載された論文(章など)では複写のルールが異なり、後者は単一のものとみなされて、図書館等では1度に全体の二分の一を越えるボリュームの複写ができないとのこと。図書館を利用する際にはまずは司書さんに相談ということですね…
・論文の文献情報
まずこちらをご覧ください。
-Barnard, J.L. and C.L. Ingram (1986) The Supergiant Amphipod Alicella gigantea Chevreux from the North Pacific Gyre. Journal of Crustacean Biology, 6(4): pp.825-839.
ダイダラボッチが再発見されたときの論文です。
この一連の文献情報に含まれるものを抜き出してみます。
筆頭著者: J. L. Barnard
共著者: C.L. Ingram
出版年: 1986年
題名: The Supergiant Amphipod Alicella gigantea Chevreux from the North Pacific Gyre
雑誌名: Journal of Crustacean Biology
巻(Volume): 6
号(Issue number): 4
掲載ページ: 825~839ページ
ギリシャ数字がある場合は、本文以外に何かがあるということです。これを見落とすと、コピーは届いたが本文だけで図表がない、なんてことになりますので要注意です。
-Sars, G.O.(1895) Amphipoda. An account of the Crustacea of Norway with short descriptions and figures of all the species, 1: viii + 711p.
他には、出版年を括弧でくくらなかったり、出版月を入れたり、雑誌名の後や掲載ページの後に記述したりすることもあります。著者のイニシャルのピリオドを省いたり、雑誌名や巻数の書式を変えなかったり、学名をアンダーラインで表記したり・・・いろいろあります
たとえばAPAスタイルに忠実にやるとこんな感じ。
-Kamihira, Y. (1979). Ecological studies of macrofauna on a sandy beach of Hakodate, Japan. II. On the distribution of paracarids and the factors influencing their distribution. Bulletin of Fisheries Sciences, Hokkaido University, 30(2), 133-143.
こちらはAMAスタイル。
-Chapman JW, Dorman JA Diagnosis, systematics, and notes on Grandidierella japonica (Amphipoda: Gammaridea) and its introduction to the pacific coast of the United States. Bulletin of the Southern California Academy of Science. 1975; 74(3): 104-108.
雑誌名などは略称で表記されることが多く、ルール化されているのでググれば出ると思いますが、慣れないと戸惑うかもしれません。例をいくつかあげます。
Bull. = Bulletin
Suppl. = Supplment
Biol. = Biology
Ecol. = Ecology
Zool. = Zoology
Nat. =
Natl. = National
文献情報の表記は学域ひいては出版物ごとにルールがあると考えていただいたほうがよいかもしれませんが、基本はある程度共通しています。そして学術雑誌の形式はいわば基本形で、他にも書籍,報告書など、様々な文献から引用する際には、それぞれのバリエーションとなります。
・書籍の文献情報
例えば、単行本を引用したものはこんな感じです。
-イヴレフ, B.C. (訳:児玉康雄,吉原友吉) (1985) 『魚類の栄養生態学-魚の採餌についての実験生態学-』, 新科学文献刊行会, 米子.
本として出版されている媒体から一部を引用する場合はこんな感じです。
-駒井智幸 (2003) 甲殻類. In; 松浦啓一(編)『国立科学博物館叢書③標本学 自然史標本の収集と管理』 : 39-47. 東海大学出版会, 東京.
書籍名は『』で囲うことが多く、部分的な引用であればページを記載します。ちなみに、ジャーナルに掲載された論文と書籍に掲載された論文(章など)では複写のルールが異なり、後者は単一のものとみなされて、図書館等では1度に全体の二分の一を越えるボリュームの複写ができないとのこと。図書館を利用する際にはまずは司書さんに相談ということですね…
さて、いろいろと思い付くままに書き連ねてしまいましたが、お役に立てましたでしょうか…
ご意見ご感想などありましたら、フォームまでよろしくお願いします。
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(補遺)
・ワレカラの文献にTakeuchi(1999)を追加しました。(6 Mar. 2016)
・コメント欄にてFlota様にご指摘をいただいた箇所を修正しました。(6 Mar. 2016)
・CiNiiのPDF無料公開サービスの終了に伴い、富川・森野(2012)のリンクを削除。(5 Mar. 2017)
・J-stageへの移管に伴い、富川・森野(2012)のリンクを復活。(19 Oct. 2018)
このコメントは投稿者によって削除されました。
返信削除いつもブログを大変興味深く拝見しております。本記事中で2点気になった点がございます:
返信削除1. 『日本産土壌動物-分類のための図解検索』は昨年に第二版が出版されております(ヨコエビ目の項がどの程度更新されているかについては把握しておりません)。
https://www.press.tokai.ac.jp/bookdetail.jsp?isbn_code=ISBN978-4-486-01945-9
2.雑誌名などの略称について、「Nat. = National」としておられますが、「Nat.」は「Natural」の略称として用い、「National」の略称には「Natl.」を用いるのが通例と思われます。例えば以下のサイトをご参照ください。
http://lgdata.s3-website-us-east-1.amazonaws.com/docs/262/94044/biosciences2005.txt
ただし、これら略称についても「出版物ごとにルール」があり、例えば国立科学博物館研究報告(Bulletin of the National Science Museum)では「National = Natn.」とされていた時期もあります。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004312125
以上、ご参考までに。
Flota様
返信削除ご指摘痛み入ります。
土壌動物図鑑のほうは、第二版を参照したものの、ページ数以外のCitationの表記が初版のものとなっていました。
修正をしました。