2019年4月19日金曜日

Once Upon a Time in Okayama(4月度活動報告)



 岡山に行きました.


 学生時代,臨海実習で牛窓に行ったことがあります.後にも先にも例のない3日酔いという失態を犯し,各方面に御迷惑をお掛けしました.改めましてこの場をお借りして謝罪します.大変申し訳ありませんでした.


 ひょんなことから,そんな思い出深い岡山のヨコエビ相を記述する機会を得ました.潮はあまり良くありませんが,発作的に新幹線へ飛び乗り,岡山攻略に向けた一歩を踏み出しました.臨海実習を受けていた当時はヨコエビを志す前だったので,全く採集はしていません.


 予報通り雨です.
 未経験のフィールドを訪ねるにはあまり良い条件とは言えませんが,弾丸ツアーなので仕方がない.前進あるのみ.


 夜なべをして県下の海岸をGoogleロケハンした末,ヨコエビリティが高そうで公共交通機関が使える場所を幾つか見つけました.今回は初回の肩慣らしとして,特に自然度の高そうなポイントが集まっていて,短時間でサクッと回れそうところにしました.

※雰囲気のみお楽しみください.


 自然ですね.

 関東でどうしてあんなにせせこましく採集していたのか分からなくなるくらい,ザ・自然という感じです(語彙力).

 ロケハンしていて,岡山県下の沿岸にはたくさん海苔網らしきものがあることは分かっていましたが,この場所も海苔網が見えました.沖合には漁師さんの船.立ち入り禁止標示などはありませんが,このへんは間違いなく漁師さんの仕事場の近くです.



 石英分の多いカーキの岩肌と粗砂の浜が瀬戸内っぽくて良いです.帰ってきた感じです.河口に程近く,前浜干潟に属するものと考えてよいのでしょう.


 岩場をよく見ると,海藻はあまりに貧弱.アオサの類などの緑藻に混じって,カヤモノリっぽい褐藻が少々.ヨコエビにしっかりした構造を提供してくれるワカメやホンダワラは岸には根を張らず,沖合いから切れ藻として漂着しているようです.

 外房や江ノ島では,岩を抱くように根を伸ばす紅藻や褐藻の間でたくさんヨコエビが採れたものです.

 ヨコエビリティを感じられないまま海中へ.


いつもの Ampithoe のあの方.


泥のたまったところに Monocorophium

 残念なことに「もう見た」の連続.悪い意味で予想を裏切らない展開です.

 海藻相が単調で,またどれも構造が単純なので,恐ろしくヨコエビリティが低いように感じられます.モズミヨコエビ(Ampithoe valida)は繁殖期のようでアオサの間ではよく成熟した個体も見ることができましたが,三番瀬などでよくあるcopepodやdecapod優占というわけでもなく,生き物の活性そのものが少ない感じです.
 

打ち上げ海藻の下に Ptilohyale のあの方.


 岡山のヨコエビリティは今年3月刊行の野性動物目録の3倍は下らないと豪語していた(してない)だけに,焦りが募ります.悪夢再来でしょうか.





 しかしここで落ち葉の下から岡山初記録属登場.

Pyatakovestia のあの方.



 こちらは目録上は初記録科.ただし,藤井ほか (1997) では普通に記録あります.

何らかの Pontogeneiidae.

 

 あとは Jassa も出ました(種まで落ちる予感は無いです).何とかリストの拡充に繋げることができそうです.




 砂浜には打ち上げ海草があります.アマモ場は沖にあるのでしょうか.確かに牛窓の実習でもアマモ場へは船で行った気がします.


Platorchestia属 の一種.この個体は P. joi ではなさそう.

 Platorchestia の密度はかなり良い感じです.そして気温も低いので,あまり跳ねず採りやすい.オス第2咬脚下部にわずかに毛が散生しており,第7胸脚腕節が細いので,もしかすると P. joi かもしれませんが,関東で採れるのとはまた顔立ちが違う印象の P. pacifica も採れており,訳が分かりません.
 砂浜は,堤防をくぐって注ぐ水路と通じていて,後背湿地を伴う汽水環境のグラデーションを保っている感じがします.浜の攪乱があまりないのもさることながら,堤防の内側にハマダイコンやヨシなんかがあって,他のsand hopperやmarsh hopper系に期待してもよいかもしれない.

 しかし,バスの本数があまりにえぐいので,採集は1時間ほどで切り上げ.




 総括.

 鬼退治に出掛けたら返り討ちにされたというか,ヨコエビ連れ去り犯という点で実は私が鬼だったのか.
 何にせよ,岡山侵攻はまだはじまったばかり.これから他の場所も回るので,その際にはより慎重にロケハンをする必要がありそうです.
 このように緑藻が優占する感じは三番瀬や盤州に似ているので,河口に近いことで海水が甘すぎて,外房のような外湾的な藻類に適さないのかもしれません.確かに浜の漂着物には陸由来のものが多いです.

 まだ日はあるので,次こそはヨコエビリティ溢れるポイントにたどり着けるよう精進します.

 

(参考文献)
— 藤井義弘・松村眞作・篠原基之 1997. 片上湾における底生生物の分布とエビ類の生息状況. 岡山水試報, 12: 51–58.

岡山県野生動植物調査検討会 (ed.) 2019. 岡山県野生生物目録2019 Ver. 1.0. 岡山県環境文化部自然環境課.


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