「ヨコエビがいるならタテエビはいないの?」などとよく聞かれます。
基本的に「いない」と答えてきましたが、やはり「いない」証明というのは難しいもので、とうとう見つけてしまいました。「タテエビ」を。
この図は『肥中古民具記』の一部です。江戸時代後期に成立したものと推測され、現在の山口県で海岸を歩き回って農具やら打ちあがっている物体やらを書き連ねた、狂気のスケッチブックのような書物です。
解説には判読が難しい部分もありますが、どうやらこれは「たてゑひ」という生物のようです。イラストは細かく書き込まれていて、節足動物の体制をよく捉えているように見えます。
現在の本邦既知種にこれに該当しそうなものはありませんが、かつて韓国で記載された Pseudocyrtophium longitudinem Jeong, 1987 という種の特徴とは、よく合致します。
生時は直立して触角を広げ、餌を集めているのではないかと考察されています。
発見時の状況について詳しい記述はありませんが、汀線近くで採集されたオス1個体、メス3個体、未成熟3個体を調査標本として挙げています。日本での発見のように打ちあがっていたものか、あるいは生きて水中を漂っていたものかは分かりません。
当時 Jeong は本種をドロクダムシ科の新属新種としています。現在もその見解を覆す研究は行われていないようです。
しかしながら、この種は長らく忘れ去られており、その後の主たるレビューにも取り上げられたことはありません。極めてマイナーで入手困難な雑誌に掲載されたことなどがその要因と考えられます。
日本でも韓国でもその後に報告はないということは、絶滅したのでしょうか。あるいは、突発的な発見だったのであれば、また機会があれば見つかるかもしれません。記録が乏しいのは、一般的なプランクトンやベントス調査で発見されにくい生活を送っているせいかもしません。再発見される日が来ることを願っています。
<Reference>
— Jeong, M. 1987. Less known crustaceans (Arthropoda) from Korean coast. Journal of the Royal Society of Cryptobiology, 24: 23–31.
— 神木芙明 1820 (年次). 肥中古民具記. In: 『文政・天保年間諸国産物聚』.伊達書院.
というわけで、今年もエイプリルフールでした。
鹿児島では実際に「タテエビ」と呼ばれるエビが食べられているようですが、正確な分類学的地位はよくわかりません。
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