2019年4月27日土曜日

Once Upon a Time in Okayama 2(4月度活動報告その2)


 また岡山です.
 こないだの様子はこちら.目録の行を1つでも増やすという目標に対しての成果はありましたが,フィールドの手応えはしょっぱい感じでした.海だけに.


 前回の反省をもとに,地形から塩分濃度を推定し,衛星写真から緑藻が多すぎるところを探り,採集候補地を更に絞り込みました.Googleで着生藻の種類まで特定するのは難しそうですが,リモセンでどんな光合成色素が多いとか将来的にロケハンに使えないものかしら.


 今回は日差しもあり,だいぶ暖かですが,海風が涼しいお陰で体力には影響ありません.申し分のない干潟日和です.

 


※雰囲気のみお楽しみください♡


 港の回りは新しい護岸が整備されています.着生生物には全く期待できません.


 最干潮のタイミングで本来の目的地をアタックしたいところですが,バスの本数がしぬほど少ない関係で結構早く到着していて,まだ時間があります.
 波消しブロックの間にいろいろあるので覗いてみます.


 そこらへんにアオサがでろでろと展開して,ところどころカヤモノリが生えているのはあまり魅力的に見えないものの,浅いところにもわずかにホンダワラ系が生えているのと,ロープが張ってあって,フクロノリを付けていたりして,基質のバリエーションが豊富です.張り出した岩の裏にはコケムシやカイメンがちらほら.

 この周辺は結構良いかもしれない.


Melita属の一種.たぶん東京湾にもいるあの方.



 信頼できる基質が少ない中,フクロノリの根元がかなり狙い目のようです

 石の下にはカニダマシ.どうやら競合するらしく,カニダマシがいるとヨコエビが採れません.果たして転石下はダメでした.





 さて,本命の自然海岸を目指します.

※雰囲気のみお楽しみください☆


 緑藻が目につきますが,潮が引くにつれて,着生したワカメやホンダワラ,紅藻などが見えてきます.緑藻や褐藻も先週の地点よりだいぶ種類が多いようです.岩肌にはカイメンのほか,群体ボヤ,オオヘビガイなど楽しい仲間がいっぱい.



Ampithoe属のアノカタ.

 
 色合いは変異が多いようですが,形態は外房で見たものによく似ています.最初は歓喜しましたがこの後は飽きるほど採れます.持ち帰って種同定したところ,やはり大陸で記載された種であると確信を得ました.




 付着生物も多様です.ワレカラやらタナイスやら小さなカニやら巻き貝やらやたら黒いコソミジンコやら貝形虫やら.特にタナイスはドロクダムシに混じって出現して非常に紛らわしい.



 そんなこんなで

Pereionotus属の一種.


 思わず声が出ました.
 あまり多くはないようですがよく探すと採れます.こいつがいるということは,外房並みの磯環境に出会えたようです.




 そして懸案の

Podocerus属の一種.


 これを採らずして帰れない,逆に採れたらもうこのへんで帰ってもいいかな的なドロノミです.ネットで話題(?)のフランダードロノミ(仮称)にたくさん会えました(黄色というより橙と青の組み合わせなので少し違いますが).

 岡山大学臨海実験所の伝統的リーフレットに Podocerus inconspicuus との記録があるものの,そもそも日本の沿岸からまともに記録のあるドロノミが少なすぎて真に受けるわけにはいきません.この種はオーストラリアのポートジャクソンから記載されたという怪しさもあります.しかし,分布や生息環境の齟齬を無視したとしても,背面の隆起の様子からして P. inconspicuus ではないようです.これから検討します.
 そして Podocerus brasiliensis でもないようです.関東でも海藻からPodocerus をたびたび得ていますが,全体の印象が結構違うのと,体サイズは小さく何と言っても数が少ないので性別やステージの違いを検討できていませんでした.壊れることも多いし.


 今回は壊れることを想定し,スウィートルームをご用意しました.厳選したオスとメスをそれぞれ個室へとご案内.
 それにしても,これほど飽きるくらいドロノミが採れたのはお台場以来です・・・



 あと,ヨコエビにありがちな3~7mmサイズ帯にひしめく怪しいヤツら.



Atylidaeは自己初.目録にもなし.

 Nototropis がどういう環境にいるのか今一つ分かっていませんでした.
 わりと外湾的な磯で,紅藻より褐藻や緑藻のある環境?少し土砂がある場所?


恐らく Gitanopsis属ではないかと.自己初.目録にもなし.



 あと,トゲホホヨコエビ(Paradexamine属)やテングの類(Pleustidae)っぽいのも採れました.



Ptilohyale 以外のモクズもやはりいる.属まで落ちるかすら不安.

 


Grandidierella属のアノカタ.


 Grandidierella は成熟オス採れず現場での種同定に至らず.メスと未成熟オスで何とかしなくては.



 最干潮を過ぎたので今日のところは撤収.ハマトビリティが感じられなかったのでハマトビチャレンジは割愛.








 二日目.

 頭が痛いです.

 駅前のチェーン居酒屋で地酒を引っかけたからでしょうか.
 それとも,深夜のスナックでバランタイン12年をロックで煽りながらヨコエビの良さについて熱く語ったせいでしょうか.
 岡山に来ると深酒をしてしまうのはなぜか.そんなことを考えながら濃いめのコーヒーを飲み干し,ホテルを抜け出します.


 6時半が最干潮です.採集に関係ない荷物を部屋に置いておけるのは便利.Googleロケハンでヨコエビリティを感じる海岸に近い宿を探したのは,他ならない朝の最干潮を狙うためです.

 朝の散歩が可能との旨を予め確認しておきましたが,フロントの人はどこを散歩するのかとても訝っていました.


※雰囲気のみお楽しみください♪


 釣り船の港のようです.1艘が港の中ほどでアイドリングしています.



 砂泥と緑藻を厚く纏った護岸.
イガイやフジツボは少なくわずかにコケムシが見られます.

 泥を掘ると小さなスナモグリ.これはこれで楽しい収穫ではありますが,ドロクダは少なくオスが採れません.


 屈んで,立ち上がって,の動作のたびに頭痛が走ります.もしかすると,ハーパー12年のせいかもしれません.


 アイドリングしていた釣り船が,調整を終えて港を出ていきます.浜を見ると,船底を掃除したのでしょう,カイメンやらコケムシやらシロボヤやらがごそっと転がっていました.これはありがたい.


Elasmopus属の誰か.種まで落ちる気がしない.



 科・属ともに目録に記載なし.前日のポイントで稼げなかったので儲けもの.ただ,このグループは日本での分類が進んでいなさすぎて,種に落ちる予感は全くありません.


とても少なかった Stenothoidae の一種.目録に記載なし.



 あとは先週のポイントにも多かったAmpithoeとか.



 砂浜は狭すぎ かつ キレイすぎたのでハマトビチャレンジを割愛.最干潮を見届けて,今回の採集を終了しました.






 総括.


 私のイメージしていた岡山の磯環境はまさにこんな感じです.ようやく狙ったレベルの採集が出来た気がします.
 ではこれから,と言いたいところですが,公共交通機関を利用した採集スタイルを基準に考えると,Googleロケハンで見る限りもう期待できる場所がほとんどないっぽいので,個人で稼げる種数はわりとこんなものなのではと思います(弱気).

 もちろん,確かめてみたいグループはまだ幾つもありますが,ピンポイントで狙って採りに行くには今ひとつ土地勘が足りない気がします.長期的な取り組みが必要です.また,潮下帯へのアタックは術がなく,文献に頼るほかないので,これから種数を増やすにあたってのやりこみ要素はそのへんにあるような気もします.

(つづく?)




(参考文献)
— 岡山大学理学部附属牛窓臨海実験所 刊行年不詳. 無脊椎動物実習手引 第3版.岡山大学理学部附属牛窓臨海実験所, 牛窓.

2019年4月19日金曜日

Once Upon a Time in Okayama(4月度活動報告)



 岡山に行きました.


 学生時代,臨海実習で牛窓に行ったことがあります.後にも先にも例のない3日酔いという失態を犯し,各方面に御迷惑をお掛けしました.改めましてこの場をお借りして謝罪します.大変申し訳ありませんでした.


 ひょんなことから,そんな思い出深い岡山のヨコエビ相を記述する機会を得ました.潮はあまり良くありませんが,発作的に新幹線へ飛び乗り,岡山攻略に向けた一歩を踏み出しました.臨海実習を受けていた当時はヨコエビを志す前だったので,全く採集はしていません.


 予報通り雨です.
 未経験のフィールドを訪ねるにはあまり良い条件とは言えませんが,弾丸ツアーなので仕方がない.前進あるのみ.


 夜なべをして県下の海岸をGoogleロケハンした末,ヨコエビリティが高そうで公共交通機関が使える場所を幾つか見つけました.今回は初回の肩慣らしとして,特に自然度の高そうなポイントが集まっていて,短時間でサクッと回れそうところにしました.

※雰囲気のみお楽しみください.


 自然ですね.

 関東でどうしてあんなにせせこましく採集していたのか分からなくなるくらい,ザ・自然という感じです(語彙力).

 ロケハンしていて,岡山県下の沿岸にはたくさん海苔網らしきものがあることは分かっていましたが,この場所も海苔網が見えました.沖合には漁師さんの船.立ち入り禁止標示などはありませんが,このへんは間違いなく漁師さんの仕事場の近くです.



 石英分の多いカーキの岩肌と粗砂の浜が瀬戸内っぽくて良いです.帰ってきた感じです.河口に程近く,前浜干潟に属するものと考えてよいのでしょう.


 岩場をよく見ると,海藻はあまりに貧弱.アオサの類などの緑藻に混じって,カヤモノリっぽい褐藻が少々.ヨコエビにしっかりした構造を提供してくれるワカメやホンダワラは岸には根を張らず,沖合いから切れ藻として漂着しているようです.

 外房や江ノ島では,岩を抱くように根を伸ばす紅藻や褐藻の間でたくさんヨコエビが採れたものです.

 ヨコエビリティを感じられないまま海中へ.


いつもの Ampithoe のあの方.


泥のたまったところに Monocorophium

 残念なことに「もう見た」の連続.悪い意味で予想を裏切らない展開です.

 海藻相が単調で,またどれも構造が単純なので,恐ろしくヨコエビリティが低いように感じられます.モズミヨコエビ(Ampithoe valida)は繁殖期のようでアオサの間ではよく成熟した個体も見ることができましたが,三番瀬などでよくあるcopepodやdecapod優占というわけでもなく,生き物の活性そのものが少ない感じです.
 

打ち上げ海藻の下に Ptilohyale のあの方.


 岡山のヨコエビリティは今年3月刊行の野性動物目録の3倍は下らないと豪語していた(してない)だけに,焦りが募ります.悪夢再来でしょうか.





 しかしここで落ち葉の下から岡山初記録属登場.

Pyatakovestia のあの方.



 こちらは目録上は初記録科.ただし,藤井ほか (1997) では普通に記録あります.

何らかの Pontogeneiidae.

 

 あとは Jassa も出ました(種まで落ちる予感は無いです).何とかリストの拡充に繋げることができそうです.




 砂浜には打ち上げ海草があります.アマモ場は沖にあるのでしょうか.確かに牛窓の実習でもアマモ場へは船で行った気がします.


Platorchestia属 の一種.この個体は P. joi ではなさそう.

 Platorchestia の密度はかなり良い感じです.そして気温も低いので,あまり跳ねず採りやすい.オス第2咬脚下部にわずかに毛が散生しており,第7胸脚腕節が細いので,もしかすると P. joi かもしれませんが,関東で採れるのとはまた顔立ちが違う印象の P. pacifica も採れており,訳が分かりません.
 砂浜は,堤防をくぐって注ぐ水路と通じていて,後背湿地を伴う汽水環境のグラデーションを保っている感じがします.浜の攪乱があまりないのもさることながら,堤防の内側にハマダイコンやヨシなんかがあって,他のsand hopperやmarsh hopper系に期待してもよいかもしれない.

 しかし,バスの本数があまりにえぐいので,採集は1時間ほどで切り上げ.




 総括.

 鬼退治に出掛けたら返り討ちにされたというか,ヨコエビ連れ去り犯という点で実は私が鬼だったのか.
 何にせよ,岡山侵攻はまだはじまったばかり.これから他の場所も回るので,その際にはより慎重にロケハンをする必要がありそうです.
 このように緑藻が優占する感じは三番瀬や盤州に似ているので,河口に近いことで海水が甘すぎて,外房のような外湾的な藻類に適さないのかもしれません.確かに浜の漂着物には陸由来のものが多いです.

 まだ日はあるので,次こそはヨコエビリティ溢れるポイントにたどり着けるよう精進します.

 

(参考文献)
— 藤井義弘・松村眞作・篠原基之 1997. 片上湾における底生生物の分布とエビ類の生息状況. 岡山水試報, 12: 51–58.

岡山県野生動植物調査検討会 (ed.) 2019. 岡山県野生生物目録2019 Ver. 1.0. 岡山県環境文化部自然環境課.


2019年4月1日月曜日

2019年4月1日活動報告


 ヨコエビは,海から陸まで幅広い環境に進出したと言われます.

 では,空はどうでしょうか.

 南太平洋沖の小島から得られた標本について記述した19世紀の文献に,次のような記述があります.



Pterotalitrus plumosa sp. nov. (fig.1–3.)

   Body cylindrical. Eyes oval. Upperlip inflated to 1/3 of the head and with convex epistoma. Flagellum of anterior antenna is vestigial. Anterior antennal sinus is absent, lateral head lobe placed behind of rostrum. Posterior antenna length as twice as body, armed plumose setæ with complicated fine setæ. Proximal part of mandible is inflated.  Anterior and posterior gnathopods, first and seond pereiopods similar; each segment with many setæ; coxæ fleshy and elongated proximally; first to seventh segments minutes. Each segment of fifth to seventh pereopods is strongly fringed; sixth and seventh segments strongly curved, with spinous setæ. Each pleopod with single-segmented rami, peduncles and rami with long setæ. Urosome fused completely and all uropods without rami and setæ. First uropod robust and reach to root of third uropod. Lacking second uropod. Telson single, fleshy and broad, same to third uropod in length. Length 1/2 in.
   Hab. Moss forest. 
   We collected the specimen which flying to oil lamp with many DIPTERA.




 形だけを見ると,ちょっと変わったハマトビがおるな~程度ですが,さらっとおかしなことが書いてあります.


 ”灯火に飛来した”


 飛ぶんかワレ


 この時に厳密にどんな双翅目が飛んでいたのかは分かりませんが,同じ報告書では,ガガンボ科,ブユ科,ヌカカ科,クロキノコバエ科の種が,雲霧林の灯火採集で捕獲されたことになっています.

 これらは湿った環境の中に生活している連中です.
 ここでいう「飛ぶ」が「跳ねる」でないと証明することはできませんが,Pterotalitrusの鰓が底節板に隠されていたり肢に毛が多かったりするのは,止まった先で湿り気を得ながら飛び石的に移動していく生態を示しているのかもしれません.

 他に似たような種がいるのか分かりません.この種とて,後に記録が見当たらないため,幻と言ってよいでしょう.