科博に行ってきました。
企画展「知られざる海生無脊椎動物の世界」 |
3月半ばから開催されているこの展示、チラシからも口コミからも端脚類の噂は聞こえてこない。海産無脊椎
フクロエビ上目の親戚を表敬訪問。 |
ヨコエビいました。 |
最後に真理が書かれていた。 |
この冊子、展示内容がぎゅっとまとまってるのに無料です。 正気とは思えないぜ(誉め言葉)。 |
ざっと15年ぶりですかね。 |
クジラジラミを表敬訪問。 |
徒然なるままにヨコエビ(gammaridean amphipod)を愛でる。主に活動の進捗報告。 ※当ブログの画像や文章を転載される場合は出典を明記願います。また商業利用の場合は事前にご連絡願います。
科博に行ってきました。
企画展「知られざる海生無脊椎動物の世界」 |
3月半ばから開催されているこの展示、チラシからも口コミからも端脚類の噂は聞こえてこない。海産無脊椎
フクロエビ上目の親戚を表敬訪問。 |
ヨコエビいました。 |
最後に真理が書かれていた。 |
この冊子、展示内容がぎゅっとまとまってるのに無料です。 正気とは思えないぜ(誉め言葉)。 |
ざっと15年ぶりですかね。 |
クジラジラミを表敬訪問。 |
端脚類にまつわる楽曲は以前紹介しましたが、今回は端脚類をコンセプトに含むバンドというのを採り上げたいと思います。
それは、1970年台からアメリカを拠点に活動した「Pods」(ポッズ)です。
ジャンルとしてはサイケデリックロックとファンクのブレンドとされ、近未来的なコンセプトを貫いたエレクトリックミュージックの実験者でした。メンバーはオリオン・ガストロポッド,マルス・ストマトポッドといった具合に、天体+生物という組み合わせの名前をもち、ルナ・アンフィポッドが端脚類担当ということになります。
[左より] ソラ・アイソポッド(ドラム),ルナ・アンフィポッド(キーボード),オリオン・ガストロポッド(リーダー兼メインボーカル),マルス・ストマトポッド(ギター),メテオ・コペポッド(ベース) |
国内外で有名なのは、1980年に発売された5枚目のアルバム「Stellar Morphology」で、全米200万枚のヒットを飛ばしました。
また、1985年7月にロサンゼルスで開催されたライブ「Jagged Orbit: Kaleidoscopic Exoskeleton」は、2万人の熱狂的なファンを集めました。この伝説的ライブでは、途中の演出で海産無脊椎動物をモチーフにしたコスチュームをまとったダンサーが登場したことも有名で、その中にはヨコエビっぽいものもいます。
サード・ディスコグラフィー「Ethereal Articulation」(1977年) |
そんな「Pods」ですが、音楽スタイルが時代とマッチせず興行に陰りが出始めたこと、環境活動へのメッセージ性を強めたことで純粋な音楽ファンが離れて徐々に勢いを失い、リーダーのオリオンがスピリチュアルへの傾倒を深めて放浪の旅に出たことが決定打となり、1990年台の早い時期に音楽シーンから姿を消してしまいました。
しかし、サイケデリックロックのブームが再燃するたび、「Pods」は後の時代の聴衆に再発見され続けているようです。今後も「Pods」の伝説は続いていくのではないでしょうか。
というわけで、今年もエイプリルフールでした。ただ、端脚類をモチーフとしたバンドが本当に存在しないとは言い切れないので、今後も捜索は続けていきます。
なお、本稿の画像作成にはChatGPTおよびCraiyonのサポートを得ました。
今年もヨコエビの知見を得るのに有用な文献を紹介します。
(第一弾)
— 富川・森野 (2009) ヨコエビ類の描画方法
— 小川 (2011) 東京湾のヨコエビガイドブック
— 石丸 (1985) ヨコエビ類の研究方法
— Chapman (2007) "Chapman Chapter" In: Carlton Light and Smith Manual (West coast of USA)
— 平山 (1995) In: 西村 海岸動物図鑑
— Barnard & Karaman (1991) World Families and Genera of Marine gammaridean Amphipoda
(第二弾)
— Lowry & Myers (2013) Phylogeny and Classification of the Senticaudata
— World Amphipod Database / Amphipod Newsletter
— 富川・森野 (2012) 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方
— Arimoto (1976) Taxonomic studies of Caprellids
— Takeuchi (1999) Checklist and bibliography of the Caprellidea
— 森野 (2015) In: 青木 日本産土壌動物
【コラム】文献情報のルール
(第三弾)
— 有山 (2016) ヨコエビとはどんな動物か
— 森野・向井 (2016) 日本のハマトビムシ類
— Tomikawa (2017) Freshwater and Terrestrial amphipod In: Species Diversity of Animals in Japan
— Bousfield (1973) Shallow-Water Gammaridean Amphipoda of New England
— Ishimaru (1994) Catalogue of gammaridean and ingolfiellidean amphipod
— 椎野 (1964) 動物系統分類学
【コラム】ヨコエビの分類にはどこから手を付けるか
(第四弾)
— Lowry & Myers (2017) Phylogeny and Classification
— Bellan-Santini (2015) Anatomy, Taxonomy, Biology
— Hirayama (1983–1988) West Kyushu
— 井上 (2012) 茨城県のヨコエビ
— 永田 (1975) 端脚類の分類
— 菊池 (1986) 分類検索, 生態, 生活史
【コラム】文献の入手
(第五弾)
— Arfianti et al. (2018) Progress in the discovery
— Ortiz & Jimeno (2001) Península Ibérica
— Miyamoto & Morino (1999) Talorchestia and Sinorchestia from Taiwan
— Miyamoto & Morino (2004) Platorchestia from Taiwan
— Morino & Miyamoto (2015) Paciforchestia and Pyatakovestia
— 笹子 (2011) 日本産ハマトビムシ科
【コラム】野良研究者
(第六弾)
— Lecroy (2000–2011) Illustrated identification guide of Florida
— Cadien (2015) Review of NE Pacific
— Copias-Ciocianua et al. (2019) The late blooming amphipods
— Spence Bate & Westwood (1863) British sessile-eyed Crustacea
— 青木・畑中 (2019) われから
— Bousfield & Hoover (1997) Corophiidae
【コラム】ヨコエビの同定
(第七弾)
— 岡西 (2020) 新種の発見
— Conlan (1990) Revision of Jassa
— Ariyama (1996) Four Species of Grandidierella
— Ariyama (2004) Nine Species of Aoroides
— Ariyama (2007) Aoridae from Osaka and Wakayama
— Ariyama (2020) Six species of Grandidierella
【コラム】ヨコエビリティの探索
(第八弾)
— Hughes & Ahyong (2016) Collecting and processing
— Буруковский & Судник (2018) Атлас-определитель Балтики и Калининградской
— Гурьянова (1938) Gammaroidea заливов Сяуху и Судухе
— Гурьянова (1951) Бокоплавы морей СССР
— Цветкова (1967) Бокоплавов залива Посьет
— Takhteev et al. (2015) Checklist of the Amphipoda from continental waters of Russia
【コラム】海外の司書さんを$29でパシる方法
(第九弾)
— 有山 (2022) ヨコエビガイドブック
— 富川 (2023) ヨコエビはなぜ「横」になるのか
— Bousfield & Hendrycks (1995) Eusiroidea in North American Pacific I
— Гурьянова (1938) Amphipoda, gammaroidea Zajibob Siaukhu i Sudzukhe
— Гурьянова (1951) Бокоплавы морей СССР
— Tomikawa et al. (2017) enigmatic groundwater amphipod Awacaris kawasawai revisited
【コラム】ヨコエビ採集の安全対策
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<今年の新作>
このブログでもたびたび取り上げてきた「ヒメハマトビムシ問題」について、本邦ハマトビムシ上科の権威・森野先生によるレビューが出ました。膨大な仕事量が伺えますが、本文はかなりコンパクトにまとまっています。標本の検討が国内の2種のみに留まっている点と、遺伝子の解析を行っていない点については、更なる研究が俟たれる状態といえますが、日本全国のかなりの地点を網羅していることから、地域個体群の種同定においてかなり心強い資料になるかと思います。
本研究では、Lowry and Myers (2022) で記載された Demaorchestia hatakejima を、記載の根拠となったスケッチと同ロットの標本を用いて検証し、タイヘイヨウヒメハマトビムシ Platorchestia pacifica の新参シノニムとするのが妥当との結論を下しています。また、同じ論文で記載された D. mie について、有効性の否定には及んでいませんが、同じ特徴を具える個体は国内から得られなかったと述べています。本邦の「ヒメハマトビムシ種群」は完全に解明されたとは言えないまでも、専らタイヘイヨウヒメハマトビムシとクシヒメハマトビムシ Demaorchestia joi の2種が優占すると考えてよさそうです。この2種については笹子 (2011) や森野・向井 (2016) で既に国内分布の検討が行われているため、これら資料を組み合わせることで地域個体群の理解はさらに深まるものと思われます。また、本論文の出版により「ヒメハマトビムシ」という種名のヨコエビは消滅し、この和名は種群名あるいは便宜名となりました。
日本産および採集される可能性がある7種について、二又式検索表を提供。ただし、かなりあっさりしているため、標本の同定に際しては、本文や他の文献も参考にして、複数の角度から検討したほうがよいです。本文は無料で読めます。
<アゴナガヨコエビ科の分類にオススメ>
2022年10月よりアゴナガヨコエビ科担当に就任しましたが、まだあまり仕事をもらってません。粛々と情報発信してまいります。
— Bowman, T. E. 1974. The "Sea Flea" Dolobrotus mardenis n. gen., n. sp., A Deep-Water Amarican Lobster bait Scavenger (Amphipoda, Eusiridae). Proceedings of the Biological Society of Washington, 87(14): 129–138.
6属の検索表を掲載。Djerboa属,Dolobrotus属,Schraderia属はアゴナガヨコエビ科から変更ありませんが、Leptamphopus属,Oradarea属はウラシマヨコエビ科、Bouvierella属のみテンロウヨコエビ科に移っています。
<イソヨコエビ属の分類にオススメ>
ブラジルからイソヨコエビの新種を記載した論文ですが、当時の世界の既知102種全てが検索表に落とし込まれており、非常に重要な資料です。ただし、なぜかNo.8が無いなど一部不可解な部分があるため注意が必要です。
<トゲホホヨコエビ属の分類にオススメ>
50年前の文献ですが、今なおトゲホホヨコエビ属の同定に有用な資料です。入手の敷居が低いのも嬉しいです。
韓国に産するトゲホホヨコエビ属のキーが掲載されています。日本近海で本属を同定するには欠かせない資料といえます。
<参考文献>
— 森野浩・向井宏 2016. 砂浜フィールド図鑑(1)日本のハマトビムシ類. 海の生き物を守る会, 京都市(*). (*当時)
— 笹子由希夫 2011. 日本産ハマトビムシ科端脚類の分布と分子系統解析. 三重大学修士論文.
<コラムの参考文献>
— Gurjanova, E. F. 1938. Amphipoda, gammaroidea Zajibob Siaukhu I Sudzukhe (Japonskoe More) [Amphipoda, gammaroidea of Siaukhu Bay and Sudzukhe Bay (Japan Sea)]. Fijnaj Akademii Nauk SSSR, Trudy Gidrobiojogicheskoi Ekspedichii Zinan 1934 Japonskoe Morei [Reports of the Japan Sea Hydrobiological Expedition of the Zoological Institute of the Academy of Science USSR in 1934], 1: 241–404. (In Russian)
— Myers, A. A. 2014. Amphipoda (Crustacea) from the Chagos Archipelago. Zootaxa, 3754(1).
— 島野智之・脇司 (編著) 2023. 『新種発見物語 足元から深海まで11人の研究者が行く!』. 岩波書店, 東京. 270 pp. ISBN:9784005009664
— Sir, S.; White, K. N. 2022. Maerid amphipods (Crustacea: Amphipoda) from Okinawa, Japan with description of a new species. Zootaxa, 5093(5): 569–583.
(1)じけんはっ生
こうたくん: はかせ!ヨコエビの名前が長いんだって!
はかせ: どれどれ、見せてごらん。
これまでにつけられた学名で最も長いとされるものは51文字のGammaracan-thuskytodermogammarus loricatobaical-ensisという甲殻類ヨコエビの仲間だ。発音すれば「ガンマラカントゥスキトデルモガンマルス・ロリカトバイカレンシス」となる。(ソトコト)
はかせ:ホッホッホッ、これはロマンのかけらじゃよ。
こうたくん:どこが?
はかせ:これはただのエッセイで、げんじつの「生ぶつ学」と、かんけいあるとは、かぎらないんじゃ。
こうたくん:なんだ~。じゃあうそなの?
はかせ:いやいや、「もっとも長いとされる」と、大じなところはだんげんしておらん。「生ぶつ学」の話ではないが、ウソでもないぞい。
こうたくん:じゃあ、いちばん長い名前は、ほんとにこのヨコエビなの?
はかせ:それはどうかのう。ちょっとしらべてみるぞい。
(2)しつもん
はかせ:「ガンマラカントゥスキトデルモガンマルス・ロリカトバイカレンシス」は長すぎるので、これから[K1]と書いてあったら、これのことじゃと思ってくれい。
こうたくん:うん。
はかせ:この話は、メアリー・ジェーン・ラスバンさんが「どうぶつ めい名ほう 国さい しんぎ会」にしつもんをしたところから、はじまるようじゃのう。ラスバンさんといえば、カニかいわいでちょうゆう名なアメリカのけんきゅうしゃだぞい。
こうたくん:どうぶつ…めーめー?
はかせ:どうぶつに学名をつけるときに、おきることがある、いろいろむずかしいこと話しあうための、あつまりのことじゃよ。
こうたくん:ふーん。何があったの?
はかせ:ラスバンさんのしつもんは「ディボフスキィさんが Dybowski (1926a) でヨコエビにつけた学名はこのままでいいのか?」というのじゃのう。たとえばこんな名前じゃ。
こうたくん:げー、なにこれ。きもちわるっ。ダメにきまってんじゃん。
はかせ:そしてこれが Dybowski (1926a) にのってる「ぞく」の、いちらんなわじゃが、
I. Genus Boeckia Grimm.II. Genus Siemienkiewicziella Dyb.III. Genus Sowicnskiella Dyb.IV. Genus Paradoxogammarus nov. gen. Dyb.V. Genus Hyalellopsis Stebb.VI. Genus Crypturopus Sow.VII. Genus Micruropus Stebb.VIII. Genus Baicalogammarus Stebb.IX. Genus Microgammarus Sow.X. Genus Echiuropus Sow.XI. Genus Brandtha BateXII. Genus Rugosogammarus Dyb.XIII. Genus Morawitzigammarus Dyb.XIV. Genus Smaradinogammarus Dyb.XV. Genus Paramicruropus Stebb.XVI. Genus Pentagonurus Sow.XVII. Genus Hakonboeckia Stebb.XVIII. Genus Gymnogammarus Sow.XIX. Genus Plesiogammarus Stebb.XX. Genus Sukaczewigammarus Dyb.XXI. Genus Poekilogammarus Stebb.XXII. Genus Ignotogammarus Dyb.XXIII. Genus Pictogammarus Dyb.XXIV. Genus Sophianosigammarus Dyb.XXV. Genus Bifasciatohammarus Dyb.XXVI. Genus Branchialogammarus Dyb.XXVII. Genus Hyacinthinogammarus Dyb.XXVIII. Genus Ommatogammarus Stebb.XXIX. Genus Kietlinskigammarus Dyb.XXX. Genus Pulexogammarus Dyb.XXXI. Genus Macropereiopus Sow.XXXII. Genus Ursinopereiopus Dyb.XXXIII. Genus Pristipereiopus Dyb.XYXIV. Genus Odontogammarus Stebb.XXXV. Genus Cyanogammarus Dyb.XXXVI. Genus Unguisetosogammarus Dyb.XXXVI. Genus Stanislaviechinogammarus Dyb.XXXVIII. Genus Kietlinskiechinogammarus Dyb.XXXIX. Genus Laeviechinogammarus Dyb.XL. Genus Sophiaeechinogammarus Dyb.XLI. Genus Lividoechinogammarus Dyb.XLII. Genus Aheneoechinogammarus Dyb.XLIII. Genus Ceratogammarus Sow. —Ceratoechinogammarus Dyb.XLIV. Genus Leucophtalmoechinogammarus Dyb.XLV. Genus Leptoceroechinogammarus Dyb.XLVI. Genus Ibexoechinogammarus Dyb.XLVII. Genus Crassicornoechinogammarus Dyb.XLVIII. Genus Parvoechinogammarus Dyb.XLIX. Genus Ibexiformiechinogammarus Dyb.L. Genus Czerskiechinogammarus Dyb.LI. Genus Maackiechinogammarus Dyb.LII. Genus Strenuechinogammarus Dyb.LIII. Genus Toxophthalmoechinogammarus Dyb.LIV. Genus Longicornoechinogammarus Dyb.LV. Genus Polyartroechinogammarus Dyb.LVI. Genus Parvexigammarus Dyb.LVII. Genus Nematoceroechinogammarus Dyb.LVIII. Genus Kuzuniezowiechinogammarus Dyb.LIX. Genus Capreoloechinogammarus Dyb.LX. Genus Stenophthalmoechinogammarus Dyb.LXI. Genus Schamanensiechinogammarus Dyb.LXII. Genus Saphiriniechinogammarus Dyb.LXIII. Genus Viridiechinogammarus Dyb.LXIV. Genus Viridiformiechinogammarus Dyb.LXV. Genus Vittatoechinogammarus Dyb.LXVI. Genus SiemienkiewicziechinogammarusLXVII. Genus Petersiechinogammarus Dyb.LXVIII. Genus Violaceoechinogammarus Dyb.LXIX. Genus Sarmatoechinogammarus Dyb.LXX. Genus Graciliechinogammarus Dyb.LXXI. Genus Swartschewskiechinogammarus Dyb.LXXII. Genus Ussolzewiechinogammarus Dyb.LXXIII. Genus Cornutokytodermogammarus Dyb.LXXIV. Genus Eucarinogammarus K. G. Dyb.LXV. Genus Rhodophthalmo K. G. Dyb.LXXVI. Genus Pulchello K. G. Dyb.LXXVII. Genus Cheiro K. G. Dyb.LXXVIII. Genus Bronislavia (Rakowski) K. G. Dyb.LXXIX. Genus Coniurogammarus Sow. C. K.G. Dyb.LXXX. Genus Conipleono C.K. G. Dyb.LXXXI. Genus Ruber K. G. Dyb.LXXXII. Genus Reissneri K. G. Dyb.LXXXIII. Genus Parabrandtia K. G. Dyb.LXXXIV. Genus Axelboeckia Stebb. K. G. Dyb.LXXXV. Genus Gammaracanthus Bate K. G. Dyb.LXXXVI. Genus Korotniewi G. K. Dyb.LXXXVII. Genus Flavo K. G. Dyb.LXXXVIII. Genus Neo K. G. Dyb.LXXXIX. Genus Zienkowiczi K. G.XC. Genus Garjajewia Sow. K. G. Dyb.XCI. Genus Roseo K. G. Dyb.XCII. Genus Dryshenkoi Garj.XCIII. Genus Meyeri K. G. Dyb.XCIV. Genus Nigro K. G. Dyb.XCV. Genus Radoszkowski K. G.XCVI. Genus Platytropo K. G. Dyb.XCVII. Genus Armato K. G. Dyb.XCVIII. Genus Cancelloido K. G. Dyb.XCIX. Genus Pallasea Bate K. G. Dyb.CI. Genus Acanthogammarus Stebb. Acantho K. G. Dyb.CII. Genus Puzylli K G. Dyb.CIII. Genus Parapallasea Stebb.CIV. Genus Dawydowi K. G. Dyb.CV. Genus Varinurus Sow. Carinuro K. G. Dyb.
こうたくん:長っ。
はかせ:ふしぎなことに、ラスバンさんは「原記さい」としてこのろん文を引用してるはずなのに、本当にのってる学名は[R1]しかないぞい。
こうたくん:元気なの?
はかせ:ちがわい!その「しゅ」を「記さい」したろん文、つまりこれらのヨコエビに名前をつけた「けっていてきしゅん間」じゃ。
こうたくん:じゃあ、めーめーなんとかとは、かんけいないの?
はかせ:いくつかパターンがあるようじゃのう。バブァーさんによると、ディボフスキィさんがつけた学名を「しんぎ会」がむこうにしたのは、つぎの4つだそうじゃ (Barbour 1943)。
はかせ:じゃが、ラスバンさんの[R1]~[R5]と同じ学名は、1つもないんじゃ。Dybowski (1926a) には1つだけ同じ学名が、のっておるがのう。
こうたくん:長いヨコエビの名前は、けっきょくどうなってるの?
はかせ:ヨズヴィアクさんが言うには、Dybowski (1926a) がつけた6つの学名を「しんぎ会」がむこうにして、同じろん文で名前がつけられた、あの長ったらしい[K1]は、むこうになってない、とのことじゃ (Jóźwiak et al. 2010)。
はかせ:じゃが、この中にラスバンさんの学名は[R1]しかないんじゃ。
こうたくん:どういうこと?みんなへんだよ?
はかせ:ヨバブァーさんもズヴィアクさんも、何かかんちがいをしてるとしか、かんがえられんのう。
こうたくん:つかれてたの?
はかせ:1つたしかなのは、こうたくんがさいしょに言っていた[K1]は、Dybowski (1926a) にも、ラスバンさんの[R1]~[R5]にも、本当はのってなかったということじゃ。
こうたくん:長すぎてダメになったからじゃないの?
はかせ:むこうになったという記ろくも、そもそも本当にあったしょうこも、何もないんじゃ。
こうたくん:わけがわからないよ。
(3)「つみ」なき「つみ」
はかせ:ちなみに「Gammaracan-thuskytodermogammarus loricatobaical-ensis」というハイフネーションは「ソトコト」のあの記じオリジナルのようじゃ。
こうたくん:よこぼうがあるのは、うそってこと?
はかせ:そうでもないんじゃ。どうぶつでは今でこそゆるされないが、古い学名には Polygonia c-album みたいにハイフンが入ったものがある。
こうたくん:なんだ!よこぼう、あってもいいの?
はかせ:じゃか、このハイフンは「C」と「白」というように、べつのことばをつなぐように入っとるぞい。「ソトコト」のハイフネーションは、ことばのつながりとは、かんけいないところに入っておる。日本ごにすると、だいたいこんなかんじじゃ。
Gammaracan-thuskytodermogammarus
ヨコエビ トゲあり ? 革質の ヨコエビ
loricatobaical-ensis
鎧を着た バイカル 産の
はかせ:「acan-thus」は、ことばのとちゅうでハイフンが入っていて、ふしぜんじゃ。さいごの「baical-ensis」はたしかにハイフンを入れることはできるが、それよりも、その前のことばとの間に入れるほうが、くぎりとしてはしぜんじゃ。
こうたくん:「?」はどうしたの?
はかせ:「kyto」が何をいみするのか分からなかったんじゃ。くすぶるとか、やけるとか、そういういみとは思うんじゃが…
こうたくん:だっさ。
はかせ:うるさいわい!
こうたくん:じゃあ、その「-」がないのが本当なの?
はかせ:ハイフンがない[K1]がネットにあらわれるのは、21せいきからじゃ。2001年にはこういう記じがあったぞい。しらべたかぎり、これが[K1]のいちばん古いものらしい。
こうたくん:あれ、ひろきくん、いつの間に?
はかせ:うむ。さっきたしかめたとおり、ディボフスキィさんもラスバンさんも、本当は[K1]の話をしてなかったわけじゃ。
ひろきくん:この記じが、1から学名をつくったんですかね・・・
はかせ:そのことなんじゃが、[K1]のもとネタは、Dybowski (1926a) の「Gammaracanthus loricato-baicalensis」のことかもしれん。
こうたくん:これも長いじゃん!
はかせ:この学名は Dybowski (1926c) では「Gammaracanthus loricatus baicalensis」となっておるが、もともとこの「へんしゅ」に名前をつけたのはソウィンスキィさんで、ディボフスキィさんではないんじゃ (Sowinsky 1915)。[K1]はディボフスキさんがつけた名前と言われてるが、そこも話がもられているようじゃ。ちなみにもう1つ Dybowski (1926b) は「アカントガンマルス あか」の「Carinurus ぞく」をとりあげたもので、ぜんぜんかんけいないぞい。
こうたくん:キャラふえすぎて、入ってこないよ。
はかせ:ちなみに、この「loricato-baicalensis」のハイフンの入れかたは「ソトコト」とはちがって、よりしぜんなばしょに入っておる。
ひろきくん:1927年というせつも、あるみたいっすね・・・
はかせ:がい当する文けんは、どうやら、そんざいしないようじゃ。10月にとうこうされた Dybowski (1926c) を、1927年のしゅっぱんだと、かんがえた人がいるようじゃ。
こうたくん:それからそれから?
はかせ:2009年12月には、クレタ大学の Poulakakisさんが[k1]を話だいにしたこうぎスライドをネットにあげておる。
こうたくん:学こうのじゅぎょうなの?
はかせ:そうみたいじゃのう。このスライドはラスバンさんのしつもんの「画ぞう」をはってるし、Dybowski (1926a) を引用してるんじゃが、今まで言ってきたように、これらに[K1]はのっていないはずじゃ。こんきょになってないんじゃ。
こうたくん:そうなの?
はかせ:2010年あたりには、この長ったらしい[K1]が「しんぎ会」でみとめられなかったことが、きせいじじつになっていくぞい。
こうたくん:こんきょがないのに?
はかせ:2014年には「だいきげんじほう」が目をつける。これで知った人も多いきがするのう。日本で[K1]が広まっていったのは、おそらく2015年からじゃ。
ひろきくん:長い[K1]は、引用文けんといっしょに、日本ばんウィキペディアにものってますよね・・・
はかせ:このウィキの内ようは、2017年3月に「ヨコエビ」のこう目へ、ついかされたぞい。そして引用文けんは、2019年1月についかされたわけじゃが、Poulakakisさんのスライドと同じで、こんきょはないんじゃ。そして今は、書きなおされておる。
こうたくん:えっ?ウィキペディアに書いてあることはぜんぶ正しいんじゃないの?
はかせ:いやいや、ウィキは、しろうとが書いている、いいかげんなサイトじゃわい。
(4)けつろん
ひろきくん:ふたしかな話が、「生ぶつ学しゃ」もふくめて、広まってしまったんですね・・・
はかせ:ウィキや「ソトコト」のような「科学っぽい」記じが、ちゃんと作られなかったことが、もんだいじゃのう。ふつう「分るい」をせんもんにする「分るい学しゃ」は、けんきゅうのなかで「分けん」をよまず話をすすめることは、ありえないんじゃ。あの学名は「てきかく名」じゃないから、正しくあつかおうという心がけが足りず、手をぬいたのかもしれん。
こうたくん:いいかげんな人、多いんだね。
はかせ:ヨコエビの分るいは、こみ入っておるからのう。「ソトコト」のエッセイストはせんもん外の人じゃし、「原記さい」をよまないのは、むりもないと思うぞい。それはともかく、ウィキのほうは、それなりにヨコエビをべんきょうしてたはずじゃから、このまちがいは「たいまん」としか言いようがないのう。
こうたくん:どこをどうまちがえたら、ああなるの?
はかせ:[K1]は、今もつかわれている「Gammaracanthus」に「kytodermogammarus」をつけたものみたいじゃ。「ロリカトバイカレンシス」は、Dybowski (1926a) にある「loricato-baicalensis」のことみたいだのう。じゃがこれはもともと「loricatus baicalensis」として「しゅ」「へんしゅ」をならべていたものを、なぜかハイフンでつないだものだぞい。
はかせ:ラスバンさんが「しんぎかい」にあげた[R1]~[R5]のうち、 Dybowski (1926a) には[R1]だけ同じ。[R2]~[R5]は「ぞく」の頭だけ同じじゃ。
=[D2] Dybowski (1926) Siemienkiewicziechinogammarus siemienkiewitshi
はかせ:バブァーさんの[B1]~[B4]のうち、[B4]だけ Dybowski (1926a) に同じ名前がない。[B2]は「ぞく」だけラスバンさんの[R2]と同じじゃ。
=[D7] Dybowski (1926) Leucophthalmoechinogammarus leucophthalmus
=[D2] Dybowski (1926) Stenophthalmoechinogammarus stenophthalmus
=[D8] Dybowski (1926) Cornutokytodermogammarus cornutus
はかせ:ヨズヴィアクさんの[J1]~[J6]のうち、ラスバンさんと同じなのは[J5]だけ、Dybowski (1926a) と同じなのは[J1]だけで、あとはDybowski (1926a) とよくにているが、べつものじゃ。
=[D10] Dybowski (1926) Crassocornoechinogammarus crassicornis
=[D13] Dybowski (1926) Toxophthalmoechinogammarus toxophthalmus
=[R1] ICZN (1929) Siemienkiewiczieshinogammarus siemienkiewitshi
はかせ:バブァーさんのろん文からわかるように、ラスバンさんのしつもんから20年もたってないのに、話はかならずしも正しくつたわってないんじゃ。その後、ネットにあがってくる2000年台の間に[K1]のうわさが、出来上がったのかもしれんのう。じゃが、そのしんそうまでは、たどることができんかったぞい。
ひろきくん:でも・・・いっぱんの人が、じょうだん半分に楽しんでいる「としでんせつ」に、ここまでやるひつよう、ありますかね・・・ウィキペディアとかのネット記じはしょせんは「しろうと」ですし、「ソトコト」にしてもせんもん外の人が書いた「エスディージーズのエッセイ」ですし・・・
はかせ:科学をよそおった「としでんせつ」によくあるのが、ソースを見ないことや、ニセのソースをでっちあげることなんじゃ。日ごろからソースふめいの「科学だんぎ」になれきってしまうと、「エセ科学」にのみこまれる人を、ふやしてしまうかもしれんぞい。
こうたくん: そうなんだ!帰ったらお母さんにも教えてあげようっと。
(ついしん)
ウィキまちがってた。ごめんね。
<さんこうぶんけん>
— Barbour, T. 1943. The Sea and the Cave. The Atlantic monthly, 99–103.
— Dybowski, B. 1926a. Spis synoptyczny i krótkie omówienie rodzajów i gatunko'w kiełży Bajkału.—Synoptisches Verzeichnis mit kurzer Besprechung der Gattungen und Arten dieser Abteilung der Baikalflohkrebse. Bulletin of the Polish Academy of Sciences, Scientific Letters B: 1–77.
— Dybowski, B. 1926b. Prazyczynek do znajomości kiełży Bajkału. Rodzaj Paramicruropus (Stebbing). —Beitrag zur Kenntnis der Gammariden des Baikalsees. Die Gattung Paramicruropus (Stebbing). Bulletin of the Polish Academy of Sciences, Scientific Letters B: 79–94.
— Dybowski, B. 1926c. Uwagi i uzupełnienia do mojej praci o kiełżach bajkałskich —Bemerkungen und Zusätze zu meinen Arbeiten über die Gammariden des Baikalsees: 1924–1926. Bulletin international de l'Académie Polonaise des Sciences et des Lettres, Classe des Sciences Mathématiques et Naturelles, Série B, Sciences naturelles, 8B, S: 673–700.
— Dybowski, B. 1927. Bemerkungen un Zusatze zu meinen Arbeiten uber die Gammariden des Baikalsees. 1924–1926. Bulletin International de l'Academie Polonnaise des Sciences et des Lettres, Classe des Sciences Mathematiques et Naturelles, Serie B: Sciences Naturelles, 1927, 8B: 673–700.
— Jóźwiak, P.; Rewicz, T.; Pabis, K. 2010. Inspiracje I osobliwości naukowego nazewnictwa zoologicznego. Kosmos, 59(1–2) (286–287): 39–59.
— Sowinsky, V. K. 1915. Amphipoda ozera Baikala (Sem. Gammaridae). Zoologicheskiye issledovaniya ozera Baikala, IX., Kiev, 381 pp. 37 pls.
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「よこえびたんていだん」シリーズ
ネットにただようヨコエビ(とか)のうわさを、じゅんすいすぎるこうき心をもった「はかせ」と「こうたくん」がすきかってにきりまくる!よむ人みんなをこんわくにつつみこむ、マイナー分るいぐんエンターテインメントここにばくたん!
広島大学でヨコエビの展示があるとの情報を掴み、日帰りで突撃してみました。
広島大学です。 |
その道では知らぬ者のいないヨコエビのメッカで、毎年何本も記載論文が出ています。
広島大学中央図書館です。 |
地域・国際交流プラザです。 |
この「ヨコエビの系統分類学的研究とその成果の書籍化」は、去年出版された『ヨコエビはなぜ横になるのか』に関連する展示で、著者の富川先生が担当されているそうです。
基本的には、書籍やネット記事や一般向け講演の内容がコンパクトにまとめられ、ポスター化されていますが、「書籍化による研究内容の周知の意義」といった新しい切り口です。
学生さん手作りと思われる世界地図にヨコエビの写真が貼り付けられているのはなかなかかわいかったです。
標本はジンベエドロノミPodocerus jinbe,オオエゾヨコエビJesogammarus jesoensis,アケボノツノアゲソコエビAnonyx eous,ヒゲナガハマトビムシTrinorchestia trinitatis,ヒロメオキソコエビEurythenes aequilatusの5種で、うち2種が富川先生が関わって記載されたものになります(Narahara-Nakano, Nakano, & Tomikawa, 2017; Tomikawa, Yanagisawa, Higashiji, Yano, & Vader 2019)。ヒロメオキソコエビのインパクトは抜群。
ヒゲナガハマトビムシは…よくわかりませんでした。 trinitatis/longiramus問題についてはこちら。 |
また、シツコヨコエビJesogammarus acalceolus,Paronesimoides calceolus,アカツカメクラヨコエビPseudocrangonyx akatsukaiの直筆原画と原記載論文(Tomikawa & Nakano 2018; Tomikawa & Kimura 2021; Tomikawa, Watanabe Kayama, Tanaka, & Ohara 2022)、そして”例のパンダメリタ”の直筆原画の展示。ほとんどホワイトを入れず一気に全身図を描ききる技が工芸品や絵画の職人そのものです。
「原画展」というとマンガでは一般的でしょうか。一方、分類に携わる人間として、記載論文に使われたスケッチの実物を見られるというのは、その実物の貴重さのみならず、テクニックの一端を見られるという実利があります。私は記憶の限り一発で線画の墨入れをできたためしがないのですが、手直しするには余計な時間がかかるので、一発で仕上げるというのは芸術的なスキルだけでなく、効率的な記載図の生産という部分を考えずにはいられませんでした。
展示は1月いっぱいまでとのこと。無料で誰でも見れます。
<参考文献>
— 富川光 2023. 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』. 広島大学出版会, 東広島. 198pp. ISBN:978-4-903068-59-6