2022年8月23日火曜日

エイリアンとタルマワシ(8月度活動報告)

 

 ~ とう場人ぶつ ~
 
こうたくん
ヨコエビのことが気になっている男の子。


ひろきくん
さいきん、こうたくんやはかせと、あそぶようになった男の子。
あまりしゃべらないけど、するどい。


ひばりちゃん
 うつりぎな女の子。
ウミノミがすき。
 
 
よこえびはかせ
ヨコエビの本やひょうほんをいっぱいもっている。
ヨコエビのことにくわしくて、何でもしらべて教えてくれるけど、
そのほかのことにはまるっきりきょうみがないんだ。


~~~~~~~


よこえびたんていだん


だい4話 エイリアンとタルマワシ





(1)じけんはっ生


こうたくん:はかせ!えい画に出たヨコエビがいるんだって!

はかせ:どれどれ、見せてごらん。

 



はかせ:ホッホッホ、こうたくん、これはタルマワシじゃよ。

こうたくん:タルマワシ?

ひばりちゃん:しん海生ぶつずかんとかにのってるやつ。かな。

こうたくん:・・・だれ?

ひばりちゃん:いいだ ひばり です。

こうたくん:せち こうた です。

はかせ:ひばりちゃんはときどき、ヨコエビとかウミノミの本を読みに来るんじゃよ。

こうたくん:ウミノミって、あの足をかじるやつ?

はかせ:それは、ごやくじゃったという話を、した気がするのう。ともかく、ヨコエビとウミノミはべつの生きものの名前なんじゃよ。そしてタルマワシは、ウミノミのほうのなか間なんじゃ。

こうたくん:じゃあ、えい画に出たのはウミノミってこと?

はかせ:どうじゃろうのう。ちなみに、こうたくんが見たのはこれかの?



こうたくん:そうそう!うちゅうせんがよその星?についたとこで、ねちゃった。

ひろきくん:ありえんほど、じょばんですね…。

こうたくん:ひろきくん、いたんだ。




(2)かくにん

ひばりちゃん:「エイリアンのモデルはタルマワシ」って、テレビで水中しゃしん家の人が言ってた気がするかな。

はかせ:ツイッターでは日本のはくぶつかんのアカウントがそういうことを言っておったし、海外の「エイリアン」のデータベースにも書いてあるぞい。せかいさい大の学じゅつ組しきとも言われるスミソニアンきょう会も、「うわさ」としてしょうかいしておる。

ひばりちゃん:じゃあ、間ちがってないのかな。

はかせ:ちょっとしらべてみるかのう。「エイリアン」のえい画ではいろいろなデザイナーがしごとをしたみたいじゃが、「ゼノモーフ」のデザインはギーガーさんという画家のイラストが元になっているようじゃのう。

こうたくん:ゼノモーフ?

はかせ:いわゆる「エイリアン」のことじゃよ。

こうたくん:これゼノモーフっていうのか!

はかせ:ゼノモーフ、つまりエイリアンにはいろいろな形があるし、えい画のタイトルも「エイリアン」でまぎらわしいから、だい1作目のエイリアンだい3形たいのことは「ビッグチャップ」と、よぶことにするかのう。



はかせ:ギーガーさんの絵を気に入ったきゃく本家が、えい画につかうセットやきぐるみなんかを作るときに、ビッグチャップをふくめて、ギーガーさんにデザインをたのんだみたいじゃ。『ギーガーズ・エイリアン』のギーガーさんの日記には、このように書いてあるのう。

私はついていたのだ。画家仲間のボブ・ヴェノーサは,シュールレアリストのサルバドール・ダリの家にしばしば招待されていたが ふたりは同じ町,スペインのタガクに住んでいたのだ  あるとき私の作品カタログを彼に見せた。そしてダリに私の作品をどう思うかと尋ねた。ダリは明らかにそれを気に入ったようで,そのカタログをフランク・ハーバートのSF小説,『デューン』三部作の映画化を考えていたプロデューサーのアレハンドロ・ホドロフスキーに見せた。(中略)ホドロフスキーは私やほかの何人かが仕上げたものを携えて,プロデューサーを探すためアメリカに飛んだ。彼には運が味方しなかったとみえて,その後彼に会ったことはない。私の手に残った唯一のものは,もうひとりのがっかりした男(『デューン』では特殊効果を担当することになっていた)の住所だけだった。その男の名はダン・オバノン,『エイリアン』の作者である。(中略)

1977年7月 ハリウッドのダン・オバノンから,まったく予期していなかった電話が入った。(中略)話の内容は,彼の新しい映画『エイリアン』についてだった。(中略)『エイリアン』の恐ろしいモンスターたちは私に作られるべきだと提案した。

はかせ:『ギーガーズ・エイリアン』によると、そのあと7月11日にオバノンさんから手紙がとどいたようじゃのう。そこに、ギーガーさんにデザインしてほしいものが書いてあったそうじゃ。『メイキング・オブ・エイリアン』によると、こんなかんじだったそうじゃ

エイリアン(第3形態):宿主の身体から抜け出たエイリアンは急速に、人間の成人と同等のサイズにまで成長。この段階では非常に危険な生物と化している。あちこち動き回り、頑強で、人間をバラバラに引き裂くことも可能。人肉を食料とする。この生物は野卑で醜悪な、嫌悪感を抱かせる外見だ。プロデューサーは、巨大な奇形児のような感じにすれば忌まわしいイメージが出せるかもしれないと提案している。とにかく遠慮なく独自のデザインを編み出してほしい。

ひばりちゃん:タルマワシっぽいオーダーは、ないのかな。

はかせ:そこまでのしじはなかったみたいだのう。『ギーガーズ・エイリアン』にはその後のながれが書いてあるんじゃ

私は説明図やスケッチや模型を作ってオバノンの許に送り,そして待った。

ハリウッドからはなんの返事もなかった。ちょうど私の本,ネクロノミコン1(HRGiger’s Necronomicon 1)のフランス版が出たばかりだったので,できたての,まだインクが乾ききっていないものをオバノンに送った。

はかせ:エイリアン」のきゃく本を書いたオバノンさんがギーガーさんに、たまごがたくさんあった「いきせん」やゼノモーフのデザインをたのんだのは間ちがいないようじゃが、どうやらビッグチャップの元になったデザインは、その前からじゅんびされていた『ネクロノミコン1』という本の中の「ネクロノームⅣ」という絵のようじゃのう。

ひばりちゃん:それがタルマワシっぽかったのかな。

はかせ:『ネクロノミコン1』によると、「ネクロノームⅣ」は1976年に書かれたもののようじゃが、タルマワシがモチーフになっているとは書いてないぞい。

ひばりちゃん:じゃあ、モチーフは何なのかな。

はかせ:かいせつには、人間の体のパーツと、きかいのぶひんを組み合わたもの、と書いてあるんじゃ。「ネクロノームⅣ」を見ても、あえてタルマワシのようそをさがすより、人の体ときかいのイメージで、せつめいができると思うぞい。

ひばりちゃん:ギーガーのほかに、ゼノモーフのデザインこうほは、なかったのかな。

はかせ:そうじゃのう、じつはオバノンさんがきゃく本を書きはじめてから、ギーガーさんに手紙をおくるまでの間に、べつのすがたの「かいぶつ」が書かれたこともあったんじゃよ。

こうたくん:どういうこと?

はかせ:『メイキング・オブ・エイリアン』にはこのように書いてあるのう。オバノンさんは「クローンびょう」にかかっていて、友だちのシャセットさんの家で休ようしながら、きゃく本を書いてたみたいじゃ。

オバノンとシャセットは(中略)爆撃機が帰還途中に黒い嵐雲の中で隊からはぐれ、機内に忍び込んだ小さな悪魔に襲われるという展開になった。この凶悪な生物は機体後部の機銃塔から侵入し、機内を進みながら、遭遇した乗組員をひとり、またひとりと殺していく。

はかせ:『エイリアン|アーカイブ』には、その後のきゃく本について書いてあるんじゃ。

オバノンは「Star Beast(スター・ビースト)」と題した脚本を仕上げる。オバノンが監督、シャセットがプロデュースする計画で、独力で資金を集めようとしていた。しかし、オバノンは資金を調達するには何らかのビジュアル素材が必要だと考えた。それでオバノンは著名なイラストレーターで、ロサンジェルス・フリー・プレス紙の政治風刺漫画家だったロン・コブ(Ron Cobb)に頼み、脚本と一緒に送れるようなカラーイラストを依頼した。

はかせ:『メイキング・オブ・エイリアン』によると1976年の春ごろにえがかれたコブさんのイラストでは、かいぶつのすがたは「うろこ」におおわれた、はちゅうるいのようなイメージだったようで、タルマワシとはかんけいないんじゃ。そしてこれが、その「スター・ビースト」のあらすじと思われるのう。

乗組員たちは墜落した宇宙船の残骸と痩せこけたパイロットの亡骸を発見する。そして奇妙な形の頭蓋骨を自分たちの船に持ち帰るのだが、その頭蓋骨の内部に恐ろしい微生物が宿っており、それが急激に成長することは知る由もなかった。地球に向けて航行を開始するなり、その微生物が動き始める。

はかせ:このプロットはだいぶ「プロメテウス」っぽいのう。『メイキング・オブ・エイリアン』によると、その後、たねをうえつけられるアイディアが出てきたようじゃ。

「ダンは『ここで諦めちゃダメだよ。良い案が出かかってる。そんな気がする』と訴えた(中略)僕はダンのもとに駆け寄って、こう伝えた。『アイデアが浮かんだんだよ。謎の生命体は乗務員のひとりと<交わる>んだ。相手の顔に飛び乗って<種>を体内に植え付けるんだ』と」シャセットは当時の詳細をこのように語った。

はかせ:このアイディアができてから、タイトルも「エイリアン」にかわって、その後にギーガーさんへ手紙がおくられたみたいじゃのう。じゃが、『ネクロノミコン』がオバノンさんにとどいてからしばらくしても、まだビッグチャップのデザインには、きまっていなかったようじゃ。『ギーガーズ・エイリアン』にはこのように書いてあるぞい。

1787年(※注)2月23日,シェパートン・スタジオ(中略)まず第一に,『エイリアン』に登場するエイリアンがどんな姿をしているべきか定かでなかった。(中略)果しのない議論の末,エイリアンを昆虫のようなエレガントな形にしようということになった。(中略)

目の部分を前方から見たところは(図表番号省略),あまりにもオートバイ用のゴーグル然としている。これは黒く半透明の頭蓋に置き換えねばならなかった。頭蓋が長く延びて,前方に眼窩が見える(図表番号省略)

はかせ:この「ゴーグルっぽいかお」というのは、「ネクロノームⅣ」のイラストのことじゃのう。そこに、こん虫やとうがいこつのイメージを足して、ビッグチャップが出来上がったみたいじゃ。『エイリアン|アーカイブ』には、こんなコメントもあるんじゃ。

”地獄からやってきた、この黒いゴキブリを作ったのはギーガーだ” 

ロン・コブ

コンセプトアーティスト

はかせ:ちなみに、フェイスハガーやチェストバスターなど、ほかのゼノモーフについても、タルマワシとかかわりがありそうな話は、見つからなかったのう。

ひろきくん:「タルマワシ」というのは、見た目じゃなくて、べつのいみがあったりするんでしょうかね…

ひばりちゃん:あい手の中みを食べて子どもをそだてたり、にてるとこはあるかな。

はかせ:『メイキング・オブ・エイリアン』によると、ゼノモーフが人の体を食いやぶって生まれるのは、オバノンさんが「クローンびょう」のせいで、いつもおなかのいたみをかかえていたことが、かんけいあるみたいじゃ。そして、とうじオバノンさんが読んでいたという「エスエフ小せつ」「エスエフコミック」には、うちゅう生ぶつが人の体を食いやぶって出てくる話が、いろいろあるそうじゃ。タルマワシのえいきょうが、ぜったいなかったと言いきることはできんが、これだけほかのネタがあるのに、わざわざ引き合いに出すほどのこんきょもないのう。

ひろきくん:このひとによると、ビッグチャップより、「エイリアン2」にでてくる「エイリアンクイーン」のほうが、タルマワシににてるということです…

はかせ:たしかに、そのとおりに思えるのう。おなじことがマイケル・ボックさんののページにも書いてあって、さいしょに「クイーンのデザインはタルマワシが元になってる」という話が出たのは、デイヴィッド・アッテンボローさんのナレーションでゆう名なドキュメンタリーばん組「ブルー・プラネット」へのネットでのひひょうだった、と言われておる。

こうたくん:これできまりなの?

はかせ:じゃが、『エイリアン|アーカイブ』には、クイーンがタルマワシを元にしているとは、書いてないんじゃ

エイリアンクイーンはジェームズ・キャメロンのデザインに基づき、スタン・ウィンストンが監督の意向を取り入れて、デザインに忠実に造形した。(中略)「彼女はジムのコンセプト、構想、デザインなんだ。プロジェクトについて最初に話し合ったとき、ジムが美しい絵を見せてくれた。即座に気に入ったよ」

「拒食症の恐竜だと言った人がいた。仕方がないけれど、僕が思い描いていたのとは違う。実際、恐竜みたいな感じにするつもりもなかった。それだと少し、平凡で退屈になっただろうね。僕にとってクイーンは、ギーガーのデザインと、僕が欲しかったデザインの融合だ。大きくて力が強く、恐ろしくて、素早く動く雌の生物なんだ。醜悪で、なおかつ美しい。まるでクロゴケグモのように」と、キャメロン。

はかせ:『メイキング・オブ・エイリアン2』には、こんなこともかいてある。マハンさんはクイーンの「あたま」と「かお」、ローゼングラントさんは「うで」を、それぞれたんとうした、クリーチャーエフェクトコーディネーターじゃ。

マハンとローゼングラントはロンドン自然史博物館に赴き、インスピレーションを得るために化石のリサーチを行った。「先史時代から存在する魚、シーラカンスの化石を見て、思い浮かんだアイデアをスケッチしていった」と、マハンは語る。「そのシーラカンスが、エイリアン・クイーンの頭部に活かされているんだ。この博物館でのリサーチをもとに、僕らは頭部の彫刻にディテールを加えていった」

はかせ:そんなわけで、タルマワシではない生きもののイメージがあったようじゃ。

ひばりちゃん:ビッグチャップより、いろいろな生きもののイメージを活かすようになったのかな。

はかせ:『エイリアン|アーカイブ』には、とくしゅぞうけいコーディネーターのウッドラフさんのコメントも、のっておるんじゃ。

「物理的な構造の点から言うと、クイーンについてそれほどメカニカルな感じもなく、それほど完成された形でもない」と語るのはウッドラフ。「ギーガーのエイリアンが本質的には虫だったように、エイリアンクイーンの本質は甲殻類に近い。すごく細くてすごく貧弱な手足はそのままで、エイリアンの最初の見た目に比べると、海中生物らしさがある。だけど、原型は確かに同じで、顔だけはエイリアンの顔を思わる(※原文ママ)ものになっていた。うまく変化させたものだ」

はかせ:クイーンはビッグチャップを元にしながら、キャメロンさんが「クモっぽいかんじ」を入れたり、マハンさんが「シーラカンスのイメージ」を入れたりして、「こうかくるい」っぽく作り上げたもの、みたいじゃのう。キャメロンさんは学生じだいに「海よう生ぶつ学」をせんこうしておったようで、2009年の「アバター」ではパンドラのジャングルの中にクラゲのような生きものをとうじょうさせるなど、じぶんのえい画に「海よう生ぶつ」のイメージを入れたことがある。クイーンをデザインするときに、「海よう生ぶつ」があたまのかたすみにあったとしても、ふしぎではないと思うぞい。

ひばりちゃん:「ブルー・プラネット」より前から、「こうかくるい」ににてるという話があったなら、タルマワシとかんけいあるという話も、あったのかな。

はかせ:「ブルー・プラネット」のさいしょのほうそうは2001年じゃから、このせつでは2001年から2009年の間に「クイーンのモデルはタルマワシ」という話ができあがったことになるのう。えい画シリーズでは「エイリアン4」までこうかいされておるから、「エイリアン2」よりずっと後なんじゃ。ちなみに、『エイリアン|アーカイブ』を読んだかぎりでは、「エイリアン4」までに出てくるキャラクターにも、タルマワシのイメージが入ったものは、見あたらないぞい。

こうたくん:えっ、これできまりじゃないの?

はかせ:2011年にアイルランドのしん聞に「クイーンのモデルはタルマワシ」というきじがのったのがそうとうふるいんじゃが、2009年より前にエイリアンとむすびつけたコメントを見つけることはできなかったぞい。

こうたくん:なんだーちゃんとさがしたの?



(3)すいり

はかせ:プリオサウルスさんは「エイリアンのデザイナーがタルマワシをモデルにした」と、はっきりかいてある本を見つけて、さらにべつのえい画がかんけいしているかも、とかんがえたようじゃな。じっさいに『うつくしいプランクトンのせかい』には、こう書いてあるぞい。

そして、タルマワシには風変わりなエピソードがある。フランスの漫画家メビウス(Moebius)がタルマワシの形態に触発されて描いた絵が、ハリウッド映画の大ヒット作「エイリアン」に登場するモンスターの元となったのだ。

はかせ:これの元になったしりょうがないか、さんこう文けんもかくにんしてみたんじゃが、えい画かんけいのものは見あたらなかったのう。げんしょもかくにんしたかったんじゃが、日本にはざいこがなくて、ゆ入もできないと、きの国やしょてんに言われてしまったぞい。

ひばりちゃん:メビウスという人が、キーパーソンなのかな。

はかせ:プリオサウルスさんも言っておるが、これまで見てきたとおり「エイリアン」に出てくるビッグチャップのデザインはギーガーさんが手がけたもので、メビウスさんはかんけいないはずじゃ。

ひばりちゃん:メビウスがエイリアンをデザインしたかのうせいは、ほんとうにないのかな。

はかせ:このサイトではしょきコンセプトにさんかしたとかいてあって、たしかに『エイリアン|アーカイブ』にはメビウスさんが書いた「わく星」や「いきせん」のしょきデザイン画ものっておる。じゃが、『メイキング・オブ・エイリアン』には、このように書いてあるのう。ちなみにスコットさんというのは、1作目「エイリアン」のかんとくじゃ。

 「メビウスには、映画全体の作業は引き受けられないが、宇宙服のデザインだけならやれると言われた」と、スコットは振り返る。(中略)

 「そうやってメビウスは宇宙服のデザインを描き、飛行機に乗ってフランスへ帰っていった」と、オバノンが顛末を説明する。「そのデザインは実際に採用されたが、メビウスとのかかわりも彼への支払いも、そこで終わりになった」

はかせ:『ギーガーズ・エイリアン』のギーガーさんの日記では、うちゅうふくをデザインしたメビウスさんとは1978年2月14日にホテルでかおを合わせたと、書いてあるんじゃ。ギーガーさんが「ネクロノームⅣ」を書いたり、オバノンさんにデザインをおくったりしたのは、それより前の話じゃからのう。「いきせん」のデザインもけっきょくギーガーさんがやることになったし、しりょうを見たかぎり、メビウスさんがビッグチャップのデザインにかかわったかのうせいは、ないと言ってよいじゃろう。まあ、『メイキング・オブ・エイリアン』にあるえい画のクレジットには、「いしょうデザイン」としてもメビウスさんはのってないようじゃから、クレジットに名まえがないだけでかんけいないときめつけることは、できんがのう。

こうたくん:なんだ、本はうそじゃん。

はかせ:プリオサウルスさんの話だと、えい画「アビス」にでてくるキャラクターのデザインはタルマワシとクラゲを合体させたような形をしとるから、デザイナーのメビウスさんつながりで「エイリアンのモデルはタルマワシ」という話になったんじゃないか、ということみたいじゃのう。

こうたくん:アビス?

はかせ:海をぶたいにした、エスエフえい画じゃよ。さっきの「エイリアン2」をふまえると、かんとくが「アビス」とおなじキャメロンさんという、きょうつうてんもあるのは、せっとく力としてかなり強いぞい。

ひろきくん:でも「アビス」と「エイリアン」って、間ちがえますかね…

はかせ:たとえば「かんとくがジェームズ・キャメロンでメビウスがデザインにかかわったえい画」みたいな話を聞いたときに、「エイリアン」を思いうかべるのは、正しいとはかぎらんが、むりもない気はするのう。

ひばりちゃん:じゃあ、メビウスがタルマワシを元に「アビス」の「うちゅう生ぶつ」をデザインしたのは、本とうなのかな。

はかせ:「アビス」のムック本『DANCING ON THE EDGE OF THE ABYSS』には、こう書いてあるのう。ジョンソンさんは、「アビス」の「うちゅう生ぶつ」のパペットを作った人じゃ。

キャメロン監督は地球外生物のデザインを何人ものアーチストとつくり出そうと何か月もかけた。「私の意図は天使のような異生物だった。(中略)興味ある形や模様を得るために、周囲の目を気にせず、高価なものから安価なものまであらゆる雑誌類に目を通した。イカからクラゲまで、ひかれるものはすべて見た。これらの生物が脅威的でなく美しいということが私にとって重要だった。(中略)メビウスのコンセプトは実際かなり愛らしかったが、私が望む特定のクオリティがなかった。私はそれらのクラゲのような、あるいはまったく未知の生物を人格化させたかったのだが、メビウスはその要求に抵抗したんだ」(中略)

「スタート時点でわかっていたのは、彼らが美しく、発光し、水中で機能し、まったく透けて見えるということだけだった」とジョンソンは言う。「きれいで発光し、水中にいる。この3つの要素を含んだ難しい作業をやらねばならなかった。ジムが選んだ大量の絵を渡されたが、それらすべてがエイや蝶のような外見だった(中略)」数週間が過ぎ、数か月がたったが、依然、承認されるデザインはなかった。(中略)

「最終デザインは脚本の中で描かれていた生物にとてもよく似ていた。デリケートな人間のような体をもち、広がった大きな羽と尻尾のある、透き通った流線形の生物だった。人間の全長より大きいが、頭が多少小さく、手や腕がかなり細かった。色を変え、模様をつくる、発光性の姿をしていたんだ。(中略)漂うマントのようなもののため、それはエイのようにも見えた。(以下鉤括弧まで省略)

はかせ:タルマワシがさんこうにされたとは、書いてないんじゃ。えい画のパンフレットにも、デザインのいきさつは書いておらんのう。

ひばりちゃん:そういわれてみると、「アビス」の「うちゅう生ぶつ」は、ほとんどエイみたいなものかな。

はかせ:画ぞうけんさくするといろいろイラストを見れるが、タルマワシに見えるかどうかは、人によるかもしれんのう。じゃが、「アビス」のデザインで海の生きものがとり入れられたのは、「うちゅう生ぶつ」だけじゃないぞい。「ぼせん」や「のりもの」、「ていさつてい」も、どくとくなコンセプトがつらぬかれておる。『DANCING ON THE EDGE OF THE ABYSS』には、こう書いてあるぞい。バーグさんはミニチュアデザインたんとうのスタッフじゃ。

「地球外生物の乗り物のインスピレーションは、いくつかの海洋微生物から得たものだった」とキャメロン監督は言う。「それらは地球的でなく、異様で視覚的におもしろい必要があった。(中略)たとえば乗り物が形を変える、いろんな幾何学的な状態や、エイのように動く羽のような構造など、多くのアイディアを検討した。(中略)」。(中略) 
「何年間もジムは何種もの海洋生物の写真を集めていた」とバーグは言う。「エイ型の乗り物はそれらのひとつをもとにしたもので、それは不気味な組織をもつ軟体動物だった。その生物自体のように、乗り物は透明な吹きガラスのような外見をもつ発光性のものだった。1・5~1・8㍍の翼長があり、ヘリコプターや偵察機のような機能をもつものだった。(中略)私のお気に入りは、ピンクで内部に球状の形をもつ、つばの垂れ下がるベレー帽に似たもので、エイリアンを載せる目に見えないコントロール脚やコックピットとして考えられた。ジムはそれに手を加えた。前部の先端周囲を変えて彼自身で絵を描き、腹部の下に取り入れ口がある、くぼんだ形を与えた。相互に連結した細い柄のワイン・グラスのような内装の特徴は、そのままだった」。(中略)「最初、偵察艇はリモコンで操作される、とても小さな乗り物になるはずだったが、結局、大きなバイクのサイズになってしまった。初めのアイディアは巨大なぞうり虫のようなものだった中略)」 



はかせ:「のりもの」と「ていさつてい」は、ムック本にもしゃしんなどはなくて、えい画のなかではみじかい間しか出ないのじゃが、エイのほかにはクシクラゲやサルパに見えなくもないのう。キャメロンさんがデザインをねり上げるよう子はこのように書いてあるのじゃが、「メビウスさんがタルマワシにしょくはつされた」とは、書いてなかったぞい。

こうたくん:じゃあ、うそなの?

はかせ:しょう言が見つからないだけかもしれんのう。いろいろな、うみの生きものをさんこうにしたみたいじゃから、タルマワシが目にふれなかったと言いきるのも、むずかしいと思うぞい。メビウスさんはざんねんながらすでになくなっておるから、しんそうは、ふかい海のようにくらいやみの中じゃ。

こうたくん:アッテンボローさんのやつはどうなったの?そっちがただしいの?

はかせ:「ブルー・プラネット」からの広まりは、大きかったんじゃろう。そもそも「メビウスさんデザインせつ」があって、それが「ブルー・プラネット」をきっかけにネットに広まったのかもしれんのう。

ひばりちゃん:ちょっとまって、ということは、ふかくじつな「うわさ」をはいじょすると、「アビス」と「エイリアン」をつなぐのは、メビウスじゃなくてキャメロンかんとくのかのうせいが高い、ということかな。

はかせ:そうじゃのう、もしかすると、「アビス」でキャメロンさんが「うちゅう生ぶつ」や「のりもの」にタルマワシのデザインをつかったという話があって、それがねじれて「エイリアン」になったのかもしれんのう。「しんそう」にせよ、「うわさ」にせよ、「エイリアン」ではなく「エイリアン2」から、タルマワシとむすびつけられたように思えるぞい。

ひばりちゃん:もし「アビス」でタルマワシを元にした「うちゅう生ぶつ」のデザインにかかわったキャメロンかんとくが、「エイリアン2」にそのイメージをもちこんだとしたら、「うわさ」ははんぶん「しんじつ」ということに、なるのかな。

はかせ:「エイリアン2」が「アビス」より、先に作られておるから、ありえないことになるのう。

ひばりちゃん:そうなんだ。

はかせ:もしかすると、キャメロンさんは「エイリアン2」で、本とうにエイリアンクイーンのデザインにタルマワシをつかったのかもしれんし、「こうかくるいみたい」というコメントが一人あるきしたのかもしれんのう。

ひばりちゃん:それにしてもタルマワシは、うちゅうせんみたいなサルパにすんでいたり、「うちゅう生ぶつ」っぽいとこはあるかな。

はかせ:さいしょに広まったのは、えい画「エイリアン」じゃなくて、「うちゅう生ぶつ」といういみで「エイリアン」に見える、という話だったのかもしれんのう。「ブルー・プラネットきげんせつ」が正しいとしても、もともと「うちゅう生ぶつっぽいイメージ」があったかもしれんからのう。

ひろきくん:なんか「きょくひどうぶつが、エイリアンのモデル」というせつも、あるみたいですね…

はかせ:たしかに、イギリスのしん聞のページにはこう書いてあって、ウミユリのしゃしんがそえられておるのう。

絵画「ネクロノームⅣ」を見たリドリー・スコットに見いだされ、エイリアンのクリエーターとなったスイスのシュールレアリスムアーティスト、ハンス・ルドルフ・ギーガーだが、彼のたくさんのデザインの一部は化石を元にしているといわれている。

はかせ:そもそもこの「いわれている」のこんきょがはっきりしないぞい。ウミユリに、にているのは「ネクロノームⅣ」が元になったビッグチャップではなくてフェイスハガーなんじゃが、これはギーガーさんがオバノンさんにたのまれてデザインしたものなんじゃ。たしかに『ネクロノミコン1』にはレリーフのような絵がたくさんあって「か石」のように見えるが、フェイスハガーはその後にえい画のためにデザインされたものじゃからのう。これは2013年のきじじゃが、こうしてあたらしい「うわさ」は作られつづけておるようじゃのう。




(4)けつろん

ひばりちゃん:けっきょく「エイリアンのモデルはタルマワシ」は、しんようできる「しょうこ」が見つからなくて、しかも1作目の「エイリアン」については、ほとんど「しんぴょうせい」がないかんじ、かな。

こうたくん:なんだ、うそじゃん。

はかせ:すくなくとも『うつくしいプランクトンのせかい』に書いてあった「メビウスさんがエイリアンをデザインした」というのは、間ちがいじゃったのう。もしかするとギーガーさんはタルマワシを見たことがあったのかもしれんが、ご本人はもうなくなっていて、しんじつはうちゅうのように、くらいやみの中、なんじゃ。

ひばりちゃん:「エイリアン2」のクイーンは、ひょっとするのかな。

はかせ:キャメロンさんがタルマワシを元にデザインした「しょうこ」はないが、あたらしい「かせつ」にはなりうる気がするのう。

ひばりちゃん:「エイリアンのモデルはタルマワシ」と言いはじめた人も、けっきょくわからなかったかな。

はかせ:「エイリアン」にせよ「エイリアン2」にせよ、「うわさ」がどこからはじまったのか、たどれなかったのう。

ひばりちゃん:「アビスせつ」がただしいのかも、わからなかったかな。

はかせ:「うちゅう生ぶつ」も「のりもの」も、「しょうこ」はなかったし、そこまでにてるように見えんが、デザインが作られる「かてい」からかんがえると、タルマワシが元になったかのうせいはクイーンより高い気がするぞい。じゃが、それが「エイリアン」につながるようになった「けいい」は、はっきりせんかったのう。

こうたくん:せいかなしか、だらしないなあ。

はかせ:そうじゃのう、こんかいは手に入りやすい、ほんやくずみのムック本だけを読んだわけじゃが、ほかにもしらべようがあるはずじゃからのう。

こうたくん:ちょうさぶ足ってこと?

はかせ:えい画やドキュメンタリーばん組のしりょうをたくさんあつめられれば、何かわかったかもしれんぞい。どこかに「うわさ」の元になった、そのものズバリなインタビューがあるとも、思えるのう。

ひばりちゃん:それがあれば、かんぺきなのにね。

はかせ:じゃが、かんけいしゃのインタビューがたとえばぜんぶ手に入ったとしても、言ってることが食いちがうかのうせいはあるぞい。『エイリアン|アーカイブ』でも、出えんしゃと、せい作スタッフがわとの言いぶんが、ちがっていることがしょうかいされておる。

こうたくん:けっきょく、わからないってこと?

はかせ:人によっておぼえていることがちがったり、話をもったりするのは、しかたないと思うぞい。こういう、かんけいしゃしか「しんそう」がわからない話には、よくあることじゃ。

こうたくん:じゃあ、よの中のことは、ぜんぶ「わからない」ってこと?そりゃないよ。

はかせ:そうじゃのう、たとえば本などの活字に「しんそう」があれば、そこだけは「わかる」と言うことができるぞい。

こうたくん:どういうこと?

はかせ:「エイリアンのモデルはタルマワシ」が「しんじつ」かどうかはべつにして、そう書いてある本があって、後からそれを読んだ人が「この本にこう書いてあった」と言いながらべつの本を書けば、その話のながれだけは、おいかけることができるんじゃ。今はただの「でん言ゲーム」みたいな「うわさ」でそれすらもよくわからんから、「しんそう」を知ることにも、くろうしておる。

こうたくん:そういうもんなのか。

はかせ:これまでこのコーナーでとりあげたような「ろん文」や「しん聞きじ」などの活字だと、そういうながれをおいかけやすい「くふう」があるんじゃ。活字を読むことのいみは、こういうことなんじゃよ。

こうたくん:メタはつ言?いみがわからないよ…

はかせ:そうじゃな、活字をいやがる人もおるが、もんだいかいけつのためには、いやがらずに読むことは、ときにはとても大せつなんじゃ。

こうたくん:でも、ちょくせつ見たわけじゃないでしょ?あなたのかんそうですよね?それ「しんじつ」って言えるんですか?

はかせ:一人の人間がちょくせつ見たり聞いたりして「しんじつ」にふれられるのは、ごくかぎられておるぞい。気にしてないだけで、ふだんからむかしの人の見たこと聞いたことには、たすけられておるはずじゃ。活字を読むことにかぎらず、な。もちろん、だれかのかんがえの「出てん」をかくして「ひょうせつ」するのはダメじゃが、むかしの人の見たこと聞いたことの「かりもの」とむえんに生きてると思ってるのは、それはそれで、かなりごうまんなかんがえな気がするのう。

こうたくん:そうなの?

はかせ:そういう、だれかが活字にしてのこしたことを、うまくつかいこなして、じぶんでも活字にのこすようにすれば、さらに後の人にもやくだつぞい。それは、読む人と書く人がいるからできることで、だれかに教えようとせずだまっていたら、そのまま土にかえるだけになってしまうんじゃ。

 こうたくん:なんかせっ教くさいね。

はかせ:何でもかんでも人に教えるひつようはないが、もし何かをしらせたいなら、ふさわしいやりかたにのっとるのが、オススメじゃ。

 こうたくん:うん!帰ったらお母さんにも教えてあげようっと。


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※注:1978年の誤りと思われる。


<さんこう文けん>

 H.G.ギーガー(画)/伊藤俊治・武邑光裕(解説)1986.『H.G.ギーガー/ネクロノミコン1』.トレヴィル,東京.

 H.G.ギーガー(著)/田中克己(訳)1986.『ギーガーズ・エイリアン』.トレヴィル,東京.

 クリスティアン・サルデ(著)/吉田春美(訳)2014.『美しいプランクトンの世界』.河出書房新社,東京.

 マーク・ソールズバーリー(インタビュー)/株式会社Bスプラウト(訳)/平谷早苗(編)2014.『エイリアン|アーカイブ』.ボーンデジタル,東京.

 ニュータイプ編集部 1990.『DANCING ON THE EDGE OF THE ABYSS』.角川書店,東京.

 J.W.リンズラー(著)/阿部清美(訳)2019.『メイキング・オブ・エイリアン』.玄光社,東京.

 J.W.リンズラー(著)/阿部清美(訳)2021.『メイキング・オブ・エイリアン2』.玄光社,東京.

 20世紀フォックス極東映画会社 1990.『アビス』(パンフレット).東宝出版事業室,東京.


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「よこえびたんていだん」シリーズ

だい1話「ダイダラボッチのなぞ」

だい2話「めいきゅうのヨロイヨコエビ」

だい3話「ようぎしゃ フトヒゲソコエビ」