2023年5月23日火曜日

ヨコ●●国立大学(5月度活動報告その2)

 

 まだ関東近郊でアタックしていない自然海岸がありました。

 天下のヨコ⚫⚫国立大学(通称:横国)・臨海環境センターのお膝元、当然ヨコエビは研究され尽くしているものと思われますが、行ったことがなかったので覗いてみます。


 海水浴場になってるようです。朝の天気が微妙で大型連休から絶妙に離れてるので、たぶんごった返しではないはず。

 よい子の皆さんが磯遊びに興じていますね。

 打ち上げ海藻は多様ですが、歩いて行ける範囲には ヒラガラガラ? Dichotomaria が多く、そこにヒラミル Codium latum が混じったり、岩の空いてるところに サンゴモの類 Corallina が入ったりと、概ね単調なリズムです。ところどころ、潮間帯の上部には イシゲ Ishige、砂を被る岩のあたりに別の幅広い褐藻がチョロチョロと。


クロサギ(鳥)Egretta sacra

野生個体は初めて見たかもしれん



 汀線際まで進むと、ホンダワラ類 Sargassaceae が少し出てきて、紅藻も Laurencia が加わるなど多少バリエーションが増えてきますが、葉の切れ込みが多いヨコエビが好むような紅藻や緑藻が群生するようなエリアは見えません。少し特徴的なのは、ハイミル Codium lucasii sensu lato の近縁でしょうか。めくるとヒゲナガヨコエビ属 Ampithoe などがゴロゴロと採れましたが、かなり飛び石的な環境のようでほとんど見かけませんでした。


大きなチビマルヨコエビ属 Houstonius
5mmくらいあったので、現場では別のグループに見えた
もはやチビとは呼ばせない


タテソコエビ科 Stenothoidae


ヒゲナガヨコエビ属 Ampithoe


ユンボソコエビ属 Aoroides




ドロノミ属 Podocerus



カマキリヨコエビ属 Jassa


小さめのイソヨコエビ属 Elasmopus


たぶんフトメリタヨコエビ Melita cf. rylovae


 さて、水面に漂うこれは何でしょう。








 カツオノカンムリ Velella velella ですね。引っくり返ることもあるようです。瞬間的に相手の形態を捉えて類推する能力は磯で生き残るために重要です。


 これは何でしょう。




 死んだ ミカン属 Citrus のようですね。新鮮な個体は、捕食時に圧力を加えられると、刺激性・溶解性・引火性をもつテルペン油を霧状に噴射することで知られ、これも大変危険な生物です。



Hypselodoris festiva

アオ いいよね

いい…




 ここから潮上決戦へ移ります。
 海水浴場らしく人工物はある程度清掃され、河川由来とみられるヨシなどの枯死体と流木、わずかに海藻が混じっています。エボシガイまみれの浮きや瓶なども漂着している。



ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis


 なぜか ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis ばかり採れ、タイヘイヨウヒメハマトビムシの特徴を具えたヒメハマトビムシ種群 Demaorchestia joi sensu lato (cf. Platorchestia pacifica) が混じる感じでした。猫の額ほどの砂浜、塩分はかなり甘めで、不安定な環境に見え、ヒメハマトビムシ種群のみ定着できると予想していたので意外です。海藻の打ち上げが目立たないかわり陸域から植物の供給が多く、そのせいかもしれません。

 なお、落ち葉を噛んだ転石があったのでホソハマトビムシ属を探してみましたが、見つかりませんでした。


ニホンスナハマトビムシ♂(上)とヒメハマトビムシ種群♂(下)



潮上帯採集でごつい手袋が必要な理由(ウミケムシ Amphinomidae)


 ドロノミ属とカマキリヨコエビ属には不自由せず、またタテソコエビ科がわりと採れるという特徴がみられましたが、ヒゲナガヨコエビ属など同定が可能なグループは少ない場所と考えられます。昔から "The Only Good Amphipod Is an Identified Amphipod" と言われるように(言われたことない)、同定ができるグループが採れることは、誰かにオススメできるかどうかという点で重要と考えています。

 他に、サキモクズ属は採れたことは採れましたが、バイオマスも種多様性も少なそう。イソヨコエビ属も多産とは言えなさそうです。転石帯があるためか「砂の中の岩」だけの磯ではあまり会えないメリタを稼げるのは良いです。

 最干潮を二時間ほど回ってもあまり潮位に変化はなく、長く遊べる場所のように思われます。ただ、潮回りはそれほど悪くないにも関わらず歯応えは薄かったので、上記の種構成の特徴の他に、パピコの入手が非常に容易なことと、意外と便利だったアクセス以外には、あまり利点はなさそうです。



2023年5月9日火曜日

Gammarid Week (5月度活動報告)


  今年のGW後半はかなり良さげな潮廻りなので、いそいそと出かけてみました。

 なお、以下の写真はほとんどラヴ・プリズンを経て解凍した個体ですが、今回はサンプル処理の途中で資材が品切れとなり、仕入れ待ちの間は解凍・固定作業を止めていたため写真が録れず、そのぶんブログ更新が遅れました(言い訳)。



〈ハイアイアイ臨海実験所銚子臨海実習〉

 ハイアイアイ臨海実験所についてはこちらを参照。ハイアイアイ群島の生態系においてもヨコエビが重要な役割を担っていたことが示唆されていますが (Stümpke 1961)、ヨコエビ相の記述やその種間関係が解き明かされることがなかったのは慚愧に堪えません。

 さて、今回はヨコエビ採取のポイントを見て頂こうという実習です。特定のグループを狙っていましたが、勝手知ったる銚子を選んだのもそのためです。

 ただ、勝手知ったるとはいえ最後に来たのはコロナ禍の前で、銚子電鉄がバンナム資本に呑まれている状況は知らず。それより文豪つながりで角川とコラボとかしないすかね。


白波の騒ぐ磯辺の…

 風は容赦ありませんが、数字通りまでは潮は引いてる感じです。サクサクとヨコエビを集めていきます。


チビマルヨコエビ属 Hourstonius


テングヨコエビ亜科 Pleustinae 


モクズヨコエビ科 Hyalidae


Ampithoe changbaensis(和名未提唱)


コウライヒゲナガ Ampithoe koreana
さんざんヨコエビおじさんが不満をこぼしていた処遇がやっと見直され、
コウライヒゲナガは無事ヒゲナガヨコエビ属に戻ってきました (Souza-Filho and Andrade 2022)。おかえりなさい。


ヒゲナガヨコエビ類の未記載種



ソコエビ属 Gammaropsis



イソヨコエビ属 Elasmopus(どうせ未記載)


メリタヨコエビ属 Melita


カクスンナリヨコエビ属 Quadrimaera


アゴナガヨコエビ属 Pontogeneia


 うんざりしたのでサンプルはほとんど採っていませんが、褐藻・紅藻表面の付着ヨコエビで最も多かったのはサキモクズ属 Protohyale のようでした。


 コアマモの根元の砂をガサガサやると見慣れない白い影が。


ヒサシソコエビ科 Phoxocephalidae

 「波当たりの強い銚子に自然砂浜はないので潜砂性ヨコエビはいない」などと言っていたのは完全な思い込みでした(確かにこのへんの粒径はヒサシソコエビ科が優占していた光市の海岸に近いので、予想は働かせるべきでした)。そして今でこそ海水浴場として波消しブロックの裏側に飼い殺しにされている砂浜は、実は護岸の整備が進む前はこのあたりにありふれた風景の一つで、君ヶ浜あたりはとんでもない広さの自然海岸が広がっていたとのこと。改修によって幾多の潜砂性ヨコエビが滅んだかと思うと残念です。当時の粒径の構成や分布はよく分かりませんが、仮に今みられる砂に近い底質が主体であったなら、海水浴場に生き残っている面子は当時の潜砂性ヨコエビ相を反映していると期待してもよいかもしれません。




〈I県某所開拓事業〉

 新たなヨコエビ産地を求めて関東を彷徨っております。

 ある地域のヨコエビ相を知りたい、あるいは逆に特定のグループを見たい・採りたいといった要望にヨコエビおじさんが応えるためには、各地のヨコエビの状況を正確に把握している必要があります。こういう分布も積極的にアウトプットすべきなのですが、いかんせん未記載・国内未記録のオンパレードで、現状の種や属の分類も安定しないため、後世に禍根を残さぬためには記載レベルのしっかりとした報文となってしまいます。現状とりあえず明らかに未記載種というやつが多すぎるため、これを片付けながら各地のヨコエビ相を報告していければ理想的です。

 Googleロケハンによりかなりのポテンシャルは感じていますが、余裕をもって日帰り採集を行う場合の限界がこのへんになりそうです。


不安要素として相変わらず天候は微妙

 

関東にこんな砂州が残っているとは。


 最寄駅からしばし歩きます。電車が少ないためオンタイムの現着・離脱は難しく、時間ロスは大きめです。

 基本的には砂浜。かなりの規模がありヒゲナガハマトビムシに期待しましたが、粒径がお気に召さないのか全くヒットせず。

 波がすごい。不用意に近づくと被るでしょう。

 潜砂性種もいる可能性はありますが、今回は装備がないので見送り。気が向いたらチャレンジしてみたいです。

 それにしても海藻もとい硬質環境がない。1時間半前ですが気配なし。


 砂の表面に生えている紅藻をガサガサっと。


 ウソやん。





 大量のモクズヨコエビ科。

 拾うのが追いつきません。

 それにしても、同種なのに体色がこんなに違うのがヨコエビの怖いところです。


それにしてもこの金色は一体どうしたことでしょう。
筆で塗ったようにしか見えませんが、残念ながら生時からこれです。


 最干潮回ってからが引きが良くていい感じ。


イソホソヨコエビ Ericthonius pugnax


オタフクヨコエビ亜科 Parapleustinae ?

 科数はそれほどではありませんでしたが、物量が恐ろしい場所でした。


ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis


 潮上帯では流木下にニホンスナハマトビムシ,オオハサミムシ,シロスジコガネらしき幼虫と蛹がみられました。


 季節変化はわかりませんが、紅藻にひたすらモクズヨコエビ・コツブムシ・ヘラムシが多産する地域のようです。風が強く波頭の高さに恐怖を覚えたものの、マイナス潮位でこれですから、海況が穏やかであったとしても、かなり引かない限りは自由に歩き回れるフィールドではないかもしれません。動き回る必要のないほど量的な優位性を感じましたが、種構成は極めて単調でした。触れそうな基質が紅藻のみであるため、汀線に沿って移動しても種構成が劇的に変わる可能性はなさそうなので、通ってポテンシャルを見極める必要がありそうです。



<参考文献>

Souza-Filho, J. F.; Andrade; L. F. 2022. A new species of Pleonexes Spence Bate, 1857 (Amphipoda: Senticaudata: Ampithoidae) from the São Pedro and São Paulo Archipelago, Equatorial Atlantic, Brazil, with comments on the genus. Zootaxa, 5209(2): 199-210.