2022年2月23日水曜日

ヒメハマトビムシの最新動向(2022年2月度活動報告その3)

 

 ヨコエビ界の巨人・Lowry の遺稿となる論文 (Lowry and Myers 2022) が出版されました。

 ハマトビムシの亜科や属をいじったマニアックな論文ですが、日本の生き物界隈には大変な事件といえるでしょう。なぜなら、本邦で最も有名なヨコエビといえる「ヒメハマトビムシ」が、複数種どころか複数属に分かれてしまったのです。


これがいわゆる「ヒメハマトビムシ」です.
 

  掲載誌は有料ですし、これを読みこなさないと「ヒメハマトビムシ」を語れないというのもだいぶ酷だと思うので、こちらで要点をまとめておきます。

 

 

ヒメハマトビムシの歴史

 Lowry and Myers (2022) を読む前に、日本における「ヒメハマトビムシ」の歴史を軽く振り返っておきます。


 「ヒメハマトビムシ」の分類といえば、ガタガールsp.のヨコエビ回(以下、小原2016)を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

 忘れもしない2018年、冒険ありアクションありホラーあり恋愛ありギャグありで知られる、良い子のための無料漫画アプリマガジンポケットにて、突然ガチのヨコエビ分類談義が繰り広げられ、業界は一時騒然となりました(『ガタガールsp. 阿比留中生物部活動レポート』)。

 小原 (2016) では Demaorchestia joi (以下、ジョイ)なのか Platorchestia pacifica (以下、パシフィカ)なのかが端的に紹介されていました。2016年までの「ヒメハマトビムシ」にまつわる年表はこちらに載っていますが、当時すでに「沼」でした。

 

 日本にいる小さめのハマトビムシ類「ヒメハマトビムシ」は、長いこと Orchestia platensis(以下、プラテンシス)1種と考えられてきました。この「プラテンシス」というのは厳密には北大西洋の種なのですが、初めて日本の個体群に当てはめたのは Iwasa (1938) であろうと思います。

 大正時代には Orchestia属に「はまとびむし」という和名が対応されたこともありましたが (飯島 1918)、Iwasa (1938) によって詳細に形態が記述されて学名と対応されたことで、日本の浜辺やら湿地やらでピョンピョンしてるやつはプラテンシスで間違いない、という見解が広まったのであろうと思います。ただ、このプラテンシスは形態や生態の幅がかなりあることから、モリノオカトビムシ属なども内包されていた可能性があります。

 戦後、永田 (1965) はプラテンシスに対応する和名として「ひめはまとびむし」を挙げています。この頃もまだギリギリの感じでオカトビムシ類が混同されている雰囲気がありますが、影響力の大きい北隆館の図鑑に掲載されたせいか、この和名と学名のコンビネーションは、かなり多くの場面で採用されることになります。

 

 

手続き上の問題


 Bousfield の研究により、Orchestia 属が Platorchestia 属として分離独立するとOrchestia platensis という学名は、Platorchestia platensis という学名になります (Bousfield 1982)。この処遇は平山 (1995) でも紹介され、その後20年ほどにわたって有効なものとして扱われ続けました。

アジアの激震

 プラテンシスは台湾にもいると考えられてきました。しかし、調査の結果、これは本当のプラテンシスではなく別種だと分かりました。台湾の「ヒメハマトビムシ」には、Platorchestia pacifica という名前がつきました (Miyamoto and Morino 2004)。この研究では「アジアに真のプラテンシスはいない」との見解が示され、日本の「ヒメハマトビムシ」も本当はプラテンシスじゃないはず、という疑いが生まれます。

 実は、台湾からパシフィカが記載される20年ほど前、韓国の研究者が「韓国の"プラテンシス"は別種の Platorchestia crassicornis である」と発表していました。この Platorchestia crassicornis はかつて Talorchestia属 としてロシアで発見されましたが、あまり注目されてきませんでした。論文の記載図 (Державин 1937) がかなりラフで、なんとも扱いにくいものだったのが一因と思われます。その後、Гурьянова (1951) で再報告され、更に韓国でも見つかって詳細な図が載った (Jo 1988) ことから、研究が進められるようになりました。そして、日本の”ヒメハマトビムシ”=ジョイであるとされ (Jo 1988)Ishimaru (1994) もこれを受けて「ヒメハマトビムシ=Platorchestia crassicornis」として日本産「ヒメハマトビムシ」に対応する学名を改訂していたのですが、その後の研究ではどういうわけかほとんどスルーされていました。そんな折、Platorchestia crassicornis は実は Bousfield (1982) によって Talorchestia属から移動されたものと、Orchestia属から移動されたものの、2つの別種に適用されていることがわかり、ロシアで記載された方は別種として新しい名前が与えられる記載されるに至りました。
 これがジョイです。

 一方、Miyamoto and Morino (2004) の知見をもとに、日本の「ヒメハマトビムシ」にパシフィカの特徴を当てはめてみると、かなり一致しました。これまでのやり方で調べるとプラテンシスという結果になっていた標本が実はパシフィカだった、というケースが相次いだのです。笹子 (2011) や小川 (2011) でその旨が指摘されています。

  


Lowry and Myers (2022) を読む



 Lowry and Myers (2022)の主な内容は以下の通りです。

  • 新亜科の設立
  • 新属の設立
  • 新種記載
  • 新亜科に含まれる既知属のレビュー
  • 属の検索表


 詳細は省きますが、色々あって、本邦産属や種に変更があります。

 というわけで、以下、ハマトビムシ上科の本邦産種一覧です。


  Brevitalitridae科

  1.  Bousfieldia omoto Morino, 2014 ヤエヤマオカトビムシ /森林/石垣島,西表島(森野 2015)
  2.  Mizuhorchestia urospina Morino, 2014 トゲオカトビムシ /海岸林~森林/本州,四国,九州(森野 2015)  
  3.  Talitroides alluaudi (Chevreux, 1896) ミジンツメオカトビムシ /宮古島 (Takahashi et al. 2021a), 奄美大島 (Takahashi et al. 2021b)
  4.   Talitroides topitotum (Burt, 1934) ツメオカトビムシ /草地性 (Lowry and Myers 2019),林床/沖縄県・国頭郡 (森野 2015)

     

    ハマトビムシ科 Talitridae

    Talitrinae亜科

  5.  Aokinorchestia jajima Morino, 2020 ミナミオカトビムシ /海岸林/本州日本海岸,四国,九州,トカラ(森野 2015)
  6.  Bulychevia ochotensis (Brandt, 1851) オオハマトビムシ /礫浜/北海道東部 (森野・向井 2016)
  7.  Ditmorchestia ditmari (Derzhavin, 1923) ホッカイハマトビムシ /海岸性 (Lowry and Myers 2019),海岸林/北海道東部 (森野・向井 2016)
  8.  Ezotinorchestia solifuga (Iwasa, 1939) キタオカトビムシ /草地性 (Lowry and Myers 2019),海岸林/北海道東部,福井(森野 2015)
  9.  Kokuborchestia kokuboi (Uéno, 1929) コクボオカトビムシ /草地性 (Lowry and Myers 2019),海岸林~森林;北海道南西部,東北北部 (森野 2015)
  10.  Leptorchestia biseta Morino, 2020 ホソオカトビムシ /林床 落葉下/小笠原諸島 (Morino 2020)
  11.  Lowryella wadai Morino & Miyamoto, 2016 ヨシハラハマトビムシ /湿地性 (Lowry and Myers 2019),ヨシ原/宮崎県,愛媛県 (Morino and Miyamoto 2016b)  
  12.  Pyatakovestia boninensis Morino and Miyamoto, 2015 オガサワラホソハマトビムシ /海岸~森林/母島 (森野 2015)
  13.  Pyatakovestia iwasai Morino and Miyamoto, 2015 ミナミホソハマトビムシ / 海岸林 (森野 2015),礫浜/台湾,沖縄,本州関東以南太平洋岸,福井以南日本海岸 (Morino and Miyamoto 2015b)
  14.  Pyatakovestia pyatakovi (Derzhavin, 1937) ホソハマトビムシ /海岸林 (森野 2015),礫浜/ロシア,韓国,北海道,本州日本海岸,伊豆半島以北太平洋岸(Morino and Miyamoto 2015b)
  15.  Sinorchestia nipponensis (Morino, 1972) ニホンスナハマトビムシ /砂浜性 潮上帯上部 漂着物/茨城以南~四国,九州 (森野・向井 2016)
  16.  Sinorchestia sinensis (Chilton, 1925) タイリクスナハマトビムシ /砂浜性 潮上帯上部 漂着物/台湾,沖縄,西表,四国,紀伊半島 (森野・向井 2016)
  17.  Trinorchestia longiramus Jo, 1988(和名未提唱)/韓国,日本(笹子 2011)
  18.  Trinorchestia trinitatis (Derzhavin, 1937) ヒゲナガハマトビムシ /砂浜性/韓国,北海道~九州 (森野・向井 2016)
  19.  Minamitalitrus zoltani White et al., 2013 ダイトウイワヤトビムシ /洞窟性/南大東島 星野洞 (森野 2015)


    Platorchestinae亜科

  20.  Demaorchestia hatakejima Lowry and Myers, 2022(和名未提唱) /海岸/和歌山県・畠島 (Morino 1975)
  21.  Demaorchestia joi (Stock and Biernbaum, 1994) ヒメハマトビムシ /内湾的砂浜/日本各地 (森野・向井 2016);ロシア極東部,韓国 (Jo  1988)
  22.  Demaorchestia mie Lowry and Myers, 2022(和名未提唱) /海岸/三重県・志摩半島南側? (Stephensen 1945)
  23.  Miyamotoia daitoensis Morino, 2020 ダイトウオカトビムシ /海岸草地~海岸林?/南大東島,北大東島 (Morino 2020)
  24.  Miyamotoia spinolabrum Morino, 2020 クチトゲオカトビムシ /砂浜~森林/小笠原諸島 (Morino 2020)
  25.   Morinoia chichijimaensis Morino, 2020 チチジマオカトビムシ /河岸性/父島 (Morino 2020)
  26.  Morinoia humicola (Martens, 1868) オカトビムシ /森林/本州 (森野 2015);台湾 (Miyamoto and Morino 2004)
  27.  Morinoia japonica (Tattersall, 1922) ニホンオカトビムシ /湖岸,森林/北海道~沖縄 (森野 2015);台湾 (Miyamoto and Morino 2004)
  28.  Nipponorchestia curvatus Morino and Miyamoto, 2015 ヒメオカトビムシ / 海岸~海岸林/近畿,伊豆,四国,九州,対馬 (Morino and Miyamoto 2015a)
  29.  Platorchestia pachypus (Derzharvin, 1937) ニホンヒメハマトビムシ /外湾的砂浜,砂利浜 (笹子 2011)/潮間帯~潮上帯/北海道~九州 (森野・向井 2016);韓国 (Jo 1988)
  30.  Platorchestia pacifica Miyamoto and Morino, 2004 (和名未提唱)/内湾的砂浜,砂利浜,岩礁上部 (笹子 2011);礫浜 (小川 未発表)/台湾 (Miyamoto and Morino 2004);日本各地,韓国 (笹子 2011)
  31.  Yamatorchestia nudiramus (Morino and Miyamoto, 2015) トゲナシオカトビムシ /海岸林~森林/近畿,東海 (Morino and Miyamoto 2015a)

※ハマトビムシ上科の成立についてはこちらで、2019年の大改編についてはこちらで解説しています。

※ヒゲナガハマトビムシ属の2種については、それぞれの原記載を含めた既往研究で記述されている形態的特徴に不審があるものの、種の適格性がないものと結論するには至っていないため、従来の記録をそのまま掲載しています



 さて、上記の内、まあまあの数の種が過去に「ヒメハマトビムシ(あるいはプラテンシス)」として報告された経緯があったりしますが、現在はそれぞれ別の学名・和名が与えられています。国内で記録がありつつ和名が確立していないという意味で現在進行形で「ヒメハマトビムシ」に含まれうる種は、4種です。

 中でも特に鬼門なのは、Lowry and Myers (2022) において新属新種かつそれぞれ単一の文献記録に基づいた armchair taxonomy(安楽椅子分類学:自ら標本を収集・検討して分類に必要な一次情報を得ることはせず、出版済の文献およびそれに付随した私信を拠り所として行われる分類学研究:たった今思いついた言葉です)によって記載されている D. mieD. hatakejima の2種なわけですが、どちらについてもタイプ産地から30km圏内で得られた標本が偶然手元にあったので、軽く見てみます。ちなみに、いずれもオス第2咬脚前節下縁の棘状剛毛列が無いことと、第7胸脚腕節が太いこと等によって、パシフィカと同定していました。

 

 Lowry and Myers (2022) によると、D. mie は各腹節板の後縁が鋸歯状になるとのことです。


 

鋸歯状となる腹側板後縁(松坂市産オス).

 まあ確かに腹側板がギザギザ尖ってはいますね…。第6底節板後葉前縁下方は、微かに歯状突起を具えるものの基本的に直角のようです。

 

 また、Lowry and Myers (2022) によると、D. hatakejima は第6胸脚底節板前縁下方に突出部を欠き、丸みを帯びることで同属他種と識別可能なようです。「第6胸脚底節板前縁下方」が具体的にどこを指すのかよく分かりませんが、図を見る限りは前後で2葉に分かれる底節板の、後葉の部分に適用するもののようです。

 

第6底節板後葉前縁下方および第2腹側板後縁(白浜産オス).
右側は生時の色彩.

 まあ確かに第6底節板後葉前縁下方の角が丸いですね…。あと、腹側板も心なしか鋸歯が尖らず丸みを帯びて波打っている感じがしますね。言語化を試みるとすれば、第2腹側板において、D. hatakejima は「後縁に連なる鋸歯×2≧後角の歯状突起」なのに対して、D. mie は「後縁に連なる鋸歯×2<後角の歯状突起」というサイズ感です。

 

 

 いちおう他の産地の標本も見てみましょう。 


腹側板後縁の鋸歯は発達しない;
第6底節板後葉前縁下部は直角で歯状突起を具える(岡山県産オス).

  タイプ産地の標本ではないですが、第6底節板後葉前縁下方に突起があり、腹側板後縁のギザギザは穏やかに見え、Jo (1988) に記述された韓国産個体の特徴とよく一致します。



腹側板後縁の鋸歯は発達しない;
第6底節板後葉前縁下部は直角で下方へやや膨らむ(三番瀬産オス).

 これもタイプ産地の標本ではありませんが、腹側板の鋸歯は心なしか穏やかで、第6底節板後葉前縁下方は直角です。ただ、台湾産個体の原記載 (Miyamoto and Morino 2004) では鋸歯は全くないように見え、第6底節板後縁に歯状突起があるという点では気になります。


 これらをまとめるとこうなります。

「ヒメハマトビムシ」4種の形態的特徴.
オス第1咬脚指節上縁:段差のみ/突起あり.
第6底節板後葉前縁下方:歯状突起を具える/丸みを帯びる/尖る.
腹側板後縁の鋸歯:小さい/明瞭.

 

 D. hatakejimaD. mie は、記載に既往研究の線画のみを使用し、種を分ける根拠となる形態形質は定量性に欠け、分子的裏付けも皆無ではありますが、いちおう現場で得られる個体群の形態的特徴とは矛盾しません。たまたま手元にあった標本を見ただけなので個体差は分かりませんが、少なくとも過去の図の書き間違いやその時しかいなかった個体として簡単に片づけられる代物ではないと思います。したがって、これら2種がまさしく種として独立しているかの判断には至らなかったものの、「それぞれのタイプ産地に健在な個体群」という前提で調査する価値はあると思います。

 個人的に気になるのは、岡山でジョイを得た時に体表の質感や模様がだいぶパシフィカと違って見えたものの、和歌山で cf. D. hatakejima を採った時には体表の様子はパシフィカと全く違わないように見えた点です。これらは別属となっていますから、 D. hatakejima がジョイよりパシフィカに似てるのは道理に反しているように思えます。もちろん、ぱっと見の模様で同定できるほどヨコエビは甘くありませんが、正直なところ特定の形態形質を属の違いとして推してくる根拠について、論文から読み取ることが難しいです。分子でも流して距離を測るのが一番良い気がします。




<参考文献>

— Bousfield, E. L. 1982. The amphipod superfamily Talitroidea in the northeastern  Pacific region. 1. Family Talitridae; systematics and distributional ecology. National Museum of Canada, Publications in Biological Oceanography, 11: i–vii, 1–72.

Державин, А. Н. 1937. Talitridae Советского побережья Яапонского моря. Исследования морей СССР, 23: 87–99.

Гурьянова, Е. Ф. 1951. Бокоплавы морей СССР и сопредельных вод. (Amphipoda - Gammaridea). — М.—Л.: Издательство Академии наук СССР,  — 1032 с. — (Определители по фауне СССР, издаваемые Зоологическим институтом Академии наук; № 41).

— 平山明 1995. 端脚類. In: 西村三郎(ed.)『原色検索日本海岸動物図鑑[II]』. 保育社, 東京.

飯島魁  1918. 『動物学提要』. 大日本図書, 東京.

— Ishimaru S. 1994. A catalogue of gammaridean and ingolfiellidean Amphipoda recorded from the vicinity of Japan. Report of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, 24: 29–86.  

Iwasa M. 1939. Japanese Talitridae. Journal of The Faculty of Science Hokkaido Imperial University, Series VI. Zoology, 6(4): Plates IX–XXII, 255–296.

Jo Y. W. 1988. Talitridae (Crustacea — Amphipoda) of the Korean coasts.   Beaufortia, 38(7): 153–179.  

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Miyamoto H.; Morino H. 2004. Taxonomic studies on the Talitridae (Crustacea, Amphipoda) from Taiwan, II. The genus Platorchestia. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 40: 67–96. 

— Morino H. 1975. Studies on the Talitridae (Amphipoda, Crustacea) in Japan II.taxonomy of sea-shore Orchestia with notes on the habitats of Japanese sea-shore talitrids. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 22(1–4): 171–193.

— 森野浩 1991. ヨコエビ目. In: 青木淳一(ed.) 『日本産土壌動物検索図説』. fig.203–219.  東海大学出版会, 東京. [ISBN: 978-4-486-01156-9]

— 森野浩 1999. ヨコエビ目. In: 青木淳一(ed.) 『日本産土壌動物 -分類のための図解検索』. pp.626–644. 東海大学出版会, 東京. [ISBN:978-4-486-01443-0]

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Morino H. 2014b. A new Land-hopper species of Bousfieldia Chou and Lee, 1996, from Okinawa, Japan (Crustacea, Amphipoda, Talitridae). Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Series A, Zoology, 40(4):201–205.

— 森野浩 2015. ヨコエビ目. In: 青木淳一(ed.) 『日本産土壌動物 第二版-分類のための図解検索』[1]. pp.1069–1089. 東海大学出版会, 東京. [ISBN978-4-486-01945-9]

Morino H. 2020a. The description of two new genera and four new species of the terrestrial Talitridae (Crustacea, Amphipoda) from the Ogasawara and Daito Islands, Southern Japan. Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Series A, Zoology, 46(1): 1–23. 

— Morino H. 2020b. Description of Aokiorchestia jajima, A new genus and species from coastal forests in Southern Japan (Crustacea: Amphipoda: Talitridae). The Montenegrin Academy of Sciences And Arts Proceedings of The Section of Natural Sciences, 23: 191–208.

 — Morino H.; Miyamoto H. 2015a. A new Land-hopper genus, Nipponorchestia, with two new species from Japan (Crustacea, Amphipoda, Talitridae). Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Ser. A, Zoology, 41(1): 1–13.

 — Morino H.; Miyamoto H. 2015b. Redefinition of Paciforchestia Bousfield, 1982 and description of Pyatakovestia gen. nov. (Crustacea, Amphipoda,Talitridae). Bulletin of the National Museum of Natural Sciences, Ser. A, Zoology, 41: 105–121.

Morino H.; Miyamoto H. 2016b. A new talitrid genus and species, Lowryella wadai, from estuarine reed marshes of Western Japan (Crustacea: Amphipoda: Talitridae). Species Diversity, 21(2): 143–149.

森野浩・向井宏 2016. 砂浜フィールド図鑑 (1) 日本のハマトビムシ類. 海の生き物を守る会, 京都市. 

— 永田樹三 1965. 端脚目 (AMPHIPODA) 概説. In: 岡田要 (ed.) 『新日本動物圖鑑』. 北隆館, 東京.

小川洋 2011. 東京湾のヨコエビガイドブック. open edition ver.1.3. web publication. 140p.

— 小原ヨシツグ 2016. 『ガタガール①』. 講談社. 174p.

笹子由希夫 2011. 日本産ハマトビムシ科端脚類の分布と分子系統解析. 三重大学修士論文.  

— Stephensen, K. 1945. Some Japanese amphipods. Videnskabelige Meddelelser fra Dansk Naturhistorisk Forening I Kobenhavn, 108: 25–88, 33 figs. 

Takahashi T.; Morino H.; Tomikawa K.; Lai Y.-T.; Nakano T. 2020. Molecular phylogenetic position of Minamitalitrus zoltani elucidates a further troglobisation pattern in cave-dwelling terrestrial amphipods (Crustacea: Talitridae). Molecular Phylogenetics and Evolution, 154: 106984.

Takahashi T.; Sawada N.; Nakano T. 2021a. First record of the terrestrial amphipod, Talitroides alluaudi (Chevreux, 1896) (Crustacea, Amphipoda, Brevitalitridae), from Japan. Check List, 17(2): 359–363. 

— Takahashi T.; Sawada N.; Nakano T. 2021b. Occurrence of the terrestrial amphipod Talitroides alluaudi (Crustacea: Amphipoda: Brevitalitridae) on Amami- oshima Island, Japan. Edaphologia, 109: 33–34.




【補遺】27-II-2022

  • ジョイの顛末に関する記述を適切な表記に修正 
  • Державин (1937) の引用漏れを修正
  • Takahashi et al. (2020) の文献情報および知見を追加 

 

【補遺2】10-IV-2022

  • 新亜科名のスペルミスを修正







続・タイプ標本の値段(2月度活動報告その2)

 

 前回大好評を頂いた?「タイプ標本の値段」の続編です。

 というのも、実際のところ今回寄贈する機関では標本の単価を設定せず管理するのが通例とのことで公文書への金額記載は免れたものの、肝心のタイプ標本が輸送中に紛失するという事態が発生し、改めて評価額の算出が必要となったわけです。

 エクセルファイルを引っ張り出し、 わかりやすいかたちに改変しました。これを某運送会社に提出したわけですが、せっかく作ったので皆さんにも見てもらおうと思います。

 まず、採集したサンプルのリストを以下のような形式にあてはめます。

※以下、数値は全て架空のものです。

 

 日ごとに種の標本数をまとめます.

 

 記載の対象となる種だけ抜き出すか、あるいはその時に他に得られている成果があればそれを含めて表にするか、目的によりルールを決めるとよいでしょう。

  複数種を含める場合、この表を元に種ごとの割合を求めて重みづけします。

 

種の割合=種ごと標本数/全種合計標本数


 次に、採集にかかった実費を計算します。自分で採ったりしている場合は人件費を求めるのが難しいため、今回は採集日ごとに該当する地域および期間の労務単価をもとに手間賃を算出してみます。そして、採集にかかった諸経費(交通費、宿泊費、消耗品費、許可申請費用など)を加算します。これで理屈上は、「ただの自然由来の動植物」である標本を1日ごとに金額化できます。この金額に種の割合を掛け合わせれば、種ごとの経費が出ます。

 

労務単価+交通費+宿泊費+消耗品費


採集の諸経費×種の割合


 次に研究費です。

 とりあえず、年ごとの研究者の平均賃金を調べ、分類にかかった時間を掛けて、種ごとに加算します。これが同定(分類作業)後の標本の総額です。

 これに、標本種別の重みづけを行い、パラタイプの値段を求めます。このへんは全くコンセンサスが得られていないためアレですが、例えば「ホロタイプ70%」「パラタイプ20%」「その他10%」などはいかがでしょうか。

分類(記載)に使用した標本数と、
このうちタイプ標本に選んだ点数


 このパラタイプの合計金額を、論文に使用するパラタイプの点数で割り、これに標本そのもののに付随する実費(瓶、保存液、ラベル等)を足してみます。ちなみに当方がラベルに用いている耐水紙は1枚20円くらいで30平方センチでやっと1円のようです。

 

 こんな感じです。

採集実費+研究費,
タイプ標本の合計金額(9割掛け),
タイプ標本単価,
標本に付随する経費(100円)を足したもの.

 

 

 

2022年2月11日金曜日

ピアレビューが過ぎて・文献紹介『科学を育む査読の技法』(2月度活動報告)

 

 例の記事の後、21年内に納品は完了しています。諸々気がかりなことはありますが、無事出版されることを祈るばかりです。

 後で知ったのですが、どうやら9月後半(20日~24日)「ピアレビュー・ウィーク2021」で、査読について考える時期だったようです。こちらの「エディテージ・インサイト」というサイトでは研究者の活動に役立つコンテンツが提供されていますが、ピアレビューウィークに絡んで査読について考えを深める良い記事がいろいろ読めます。リアルタイムでこの波には乗れませんでしたが、もう少し査読について自分なりに考えてみようと思います。

 

 とりあえず、今回わたしが受けた査読の流れを改めて細かく整理してみます。あくまで「今回の実績」です。

  1. エディターから査読依頼着弾
  2. 規定・ガイドラインの確認
  3. 引用箇所の確認
  4. 関連文献の収集 
  5. 本文の論理性・構造の妥当性・ルールへの適合性の確認
  6. 用語・表現・図表・体裁など細部の確認 
  7. 引用箇所の再確認
  8. シート記入
  9. エディターへ流す

 

 「分類学は文献学」などという言葉を耳にすることもありますが、今回はかなり基本に忠実に文献情報の取り扱いまで確認しました。大枠のロジックに突っ込み所がなかったから細部に取りついた、というわけでもなく、単純に原稿をパッと見た時におかしい点が散見されたのと、今回の被査読論文と同じ著者が携わった過去の仕事で残念な点がいろいろ見受けられていたからです。もちろん、新しく設立されたタクソンの妥当性を補強するよう求めるなど、大枠に関わる部分も疎かにしたわけではありません。そんな感じで取り組みました。


 さて、これもまたエディターへの納品を済ませた後の話ですが、Amazonが『科学を育む査読の技法』(以下、水島 2021)を提案してきました。どうやら Google で「査読」「Peer review」などと検索しまくった影響が多少のタイムラグで反映されてきたようです。遅いよ。 とりあえず読みます。

 

 

水島 (2021) を読む 


 本書は三部構成になっていて、「実験医学」の連載を元に再構成された第一部と、それを踏まえた4人の現役研究者の座談会の様子が記された第二部、および具体的なシチュエーションごとに査読の例文がまとめられた第三部からなります。ここでは主に第一部を読んだ雑感を述べます。

 のっけから 

”通常,査読者は2~4名と少数である.「あなたの動物実験はn数が少ないのでもっと増やすように」などと査読者は指摘してくるが,その一方で査読者のn数は明らかに少ない” 

 などとぶちかます、とんでもない本です。他にも1ページごとに2,3個の至言が転がっていて、読み進めるごとに背筋が伸びる思いがします。

 基本的には大学所属の研究者を読み手に想定しているようですが、コンパクトかつシンプルな文章で非常に読みやすいです。わたしは本書に頻出する「PI」という語すらよく知らないド素人ですが(主任研究員の意とのこと)、豊富な経験に裏打ちされた査読に対する姿勢、ひいては科学者としての物腰に大きな共感と尊敬の念を感じざるを得ませんでした。

 

  査読にあたっての心構えから細かな作業上の工夫まで、階層の異なる様々な事柄が網羅的に論じられています。査読初心者にとっては全てが新鮮なのですが、特に「付けてはいけないコメント」が挙げられているのを読む中で、理解して実施していたこともあれば、おっかなびっくりでやっていて実は良くなかった点も多々ありました。反省。そして同時に、翻ってエディターや査読者にやさしい論文づくりについても知見を深めることができました。

 

 既存の査読システムが多くの問題を抱えていることが、部をまたいで繰り返し指摘されています。そして、それに対する新しいシステムの中身や良い点悪い点が簡潔に紹介されています。生命科学そのものの命運に関わる重たい問題提起ではありますが、感情論や綺麗事が介入してこない、科学者特有のドライな語り口が非常に読みやすいです。折しも「Talor & Francis」が出版までの納期を選べる新しいサービスを立ち上げたとのニュースも耳にして(これはシステムの見直しというより力業のようですが)、様々な問題意識に対してジャーナルが試行錯誤をしている時代の空気が肌で感じられたりもしました。


 全体を通じて、筆者・エディター・査読者の責任分担の重要性と、査読システムの不完全さによってそれぞれが浪費する時間を嘆くメッセージが強く感じられます。そして何といっても第三部の例文の充実度合い。じつは全3部の中で一番ページ数が多いのです。初心者の教科書というよりアンチョコと評するのが適当な気がします。


 

 水島 (2021) を通読して、今回の仕事で査読者として職責を全うできたのか、最後まで答えが出ませんでした。

 特にかなりの時間を割いた引用漏れや表記の適正さの確認は、単純に著者の責任だったのでは、という気がしてきました。「間違いが多いから探して直しといて」ぐらいのコメントで事足りたのかもしれません。

 ただ、わたし自身が件の記載論文で、引用文献の漏れや誤字脱字の類などわざわざエディターや査読者の手を煩わすまでもないくだらないミスに自力で気づけず、査読者から山ほど指摘を貰った身としては、「そんなもん完全に仕上げてきて当然だろ」というように偉そうなことは言えない立場です。特に、標本の体サイズ表記の誤記など、セルフチェックでしか見つけられないミスもあり、冷や汗が出ました。せいぜい「お互い気を付けましょう」みたいなセリフが関の山です。

 そういう意味では著者の責任は極めて重く、査読者は論文の根幹部分に対する新規性・論理性などの確認のみに専念して、ケアレスミスは必要以上に掘り起こさず掲載して恥を晒すスタンスも潔い気がします。ただ、論文が出版されればその著作権は出版社に帰属するため、恥も出版社に帰属する恐れがあります。エディターとは事前に役割分担の意思疎通をしておくべき、ということでしょう。


 そして、自らの文献収集力の低さ。

 これまでも、見かけた論文のリファレンスから読みたいと思ったもの、ブログを書くために集めようとしたもの、そういった時に文献が手に入らないことはありました。そして今回も、1割くらいの文献は入手できませんでした。野良研究者としてやっていく上でこういった不具合は織り込み済でしたが、結果としてムラのあるレビューをエディターへ提出することになりました。今回は論理の根幹には必ずしも関わらない部分でしたが、手に入る文献に制限があるということは、職責を果たせない場面も起こり得るということです。

 そんな中、また時すでに遅しなのですが、ヨーロッパの図書館にしか無いようなレア文献を、現地の人にスキャンしてもらえるというネ申サービスがあることを後から知りました。今回間に合わなかった文献もこのサービスで手に入ることがわかりました。詳細は来月の記事にてご案内する予定です。

 


 

 

<参考文献>

— 水島昇 2021. 『科学を育む査読の技法 +リアルな例文765』. 羊土社, 東京. 164pp.