ロシアのバイカル湖に住む巨大ヨコエビを一目見るためこの夏に琵琶湖博物館を訪れましたが、どうやら11月そのヨコエビ達がお亡くなりになってしまったとのことで、日本全国のヨコエビスト達が哀しみに包まれました。そして今月、どうやら1種が復活したとのことで、現在はまた琵琶博にてその御姿を見ることができます。
(この展示に関連するツイートはモーメントにまとめました。)
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7月から11月まで琵琶湖博物館で展示されていたのはアカントガンマルスビクトリィとアカントガンマルスレイヘルティという2種のヨコエビで、どちらも日本には分布していないアカントガンマルス科に含まれます。12月現在はアカントガンマルスビクトリィ1種のみの展示のようです。
アカントガンマルスビクトリィ |
アカントガンマルスレイヘルティ Brachyuropus reichertii (Dybowsky, 1874) |
夏にはこんなものも作りました |
アカントガンマルス科の分類学的な位置づけは以下の通りです。
Suborder Senticaudata Lowry & Myers, 2003(和名未提唱) :6下目
Infraorder Gammarida Latreille, 1802(ヨコエビ下目) :2小目
Infraorder Gammarida Latreille, 1802(ヨコエビ下目) :2小目
Parvorder Gammaridira Latreille, 1802(ヨコエビ小目) :1上科
Superfamily Gammaroidea Latreille, 1802 ヨコエビ上科 :24科
Superfamily Gammaroidea Latreille, 1802 ヨコエビ上科 :24科
Family Acanthogammaridae Garjajeff, 1901 アカントガンマルス科
アカントガンマルス科はバイカル湖のヨコエビのうち約半分の種を含んでいます。6つの亜科から構成されます。
Acanthogammarinae亜科
模式属のロシア語表記: Акантогаммарус
学名: Acanthogammarinae Garjajeff, 1901
生態: 表在底生/近底遊泳性
構成: 15属2亜属47種13亜種
主に湖底を歩き回り、たまにカイメンに登ったり泳いだりするヨコエビです。種によって、背中には長いトゲがあります。ほとんどがバイカル湖およびその流域に生息しますが、Issykogammarus hamatus Chevreux, 1908 という種のみがキルギスの標高1600mにあるイシク・クルという塩水湖に生息しています。
Garjajewiinae亜科
模式属のロシア語表記: Гаржажевиа
学名: Garjajewiinae Tachteew, 2001
生態: 中層遊泳性
構成: 4属10種2亜種
湖のかなり深いところに住んでおり、水中を泳いで生活しています。第1触角が長く、背中にトゲやコブがあります。複眼は発達しません。
Hyalellopsinae亜科
模式属のロシア語表記: Хйалеллопсис
学名: Hyalellopsinae Kamaltynov, 1999
生態: 表在底生
構成: 2属19種2亜種
Parapallaseinae亜科
模式属のロシア語表記: Парапалласеа
学名: Parapallaseinae Kamaltynov, 1999
生態: 表在底生
構成: 3属10種2亜種
Plesiogammarinae亜科
模式属のロシア語表記: Пресиогаммарус
学名: Plesiogammarinae Kamaltynov, 1999
生態: 表在/埋在底生
構成: 3属2亜属8種
Poekilogammarinae亜科
模式属のロシア語表記: Пёкилогаммарус
学名: Poekilogammarinae Kamaltynov, 1999
生態: 近底遊泳性/表在底生
構成: 7属2亜属23種
湖底にいて、泳ぐこともあるヨコエビです。背中は比較的つるりとしており、歩脚の指節が長く伸長しています。ロシア語名としてПёкилогаммарус длинноногий(длинноногий=足長)との記述もみられます。
アカントガンマルス科のヨコエビには5cm程度の大型種がざらであり、淡水域に生息するヨコエビとしてはかなり異質、どちらかといえば深海性ヨコエビに似た傾向です。
その他のバイカル湖のヨコエビもトゲが伸長したり、足が長かったり、不思議な姿をしています。
バイカル湖は世界最古・世界最深とも評される湖で、種やそれ以上の単位での分化が進むのに十分な空間的そして時間的な資源があったためと理解されています。バイカル湖はなぜか湖底まで十分な酸素がいきわたるため、1000mを超える水深まで大型生物が生息しており、これも際立った特徴と言えます。
バイカル湖では古い時代に入り込んだ生物がそのまま、あるいは独自の発展を遂げているため、いわば淡水生物の宝箱のような場所です。ヨコエビもまたその一角を占めているわけです。
今年の琵琶博の巨大ヨコエビ展示ですが、国内でアカントガンマルスの標本が展示された例はあれど、恐らく生体展示は初の試みと思われます。始まりのこの夏を覚えてく、との思いで、今後も琵琶博の取り組みに期待したいと思います。そしてまたぜひ見に行きたいです・・・
<参考文献>
- Bazikalova, A. 1945.
Amphipods of Baikal. Proceedings of the Baikal limnological station. XI. USSR
Academy of Sciences Publishing House, Moscow. (in Russian)
- Kamaltynov, R.N. 1999. On the
higher classification of lake Baikal Amphipods. Crustaceana, 72(8): 933-944. (in Russian)
- Tachteev, V.V. 1997. The
gammarid genus Plesiogammarus Stebbing,
1899, in Lake Baikal, Siberia (Crustacea Amphipoda Gammaridea). Arthropoda Selecta, 6(1/2): 31-54. (in Russian)
- Takhteev, V.V., N.A.
Berezina, D.A. Sidorov 2015. Checklist of the Amphipoda (Crustacea) from
continental waters of Russia, with data on alien species. Arthropoda Selecta, 24(3):
335–370. (in Russian with English abstract)
<参考Web>