2017年12月26日火曜日

2017年の新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)


 2017年のヨコエビ界隈を総括するにあたり、適当な切り口と思われる「新種記載」の集計をしてみようと思います。

 Amphipod Newsletterでは毎年のヨコエビ論文というものを洗いざらい紹介しているためいずれキャッチアップは可能ですが、今年の新種は今年のうちに振り返りたい、それが人情と言うモノではないでしょうか(何がだ)(どこがだ)。


 本来、こういったリストは学名のアルファベット順あるいは上位分類ごとに並べたほうが親切ですが、振り返り的なテイストを持たせるため敢えてここではウェブ公開日または出版日に従い時系列にしてみます。目録として使用したい場合は各自で並び替えてください。
 そして追加の注意事項。当方はいわゆる「ヨコエビ」のみを興味の対象としているためワレカラ類,クジラジラミ類は含まれていないことと、私の情報収集方法は偏っているため全ての新種を追うことはできていないと思います。予めご了承ください(今年、ワレカラの新種を記載した論文が出ているということは一応存じております)。






New Species
of
Gammaridean Amphipods
Described 
in 2017

(Temporary list)






1月 January



Zhao & Hou, 2017

Pseudocrangonyx elegantulus Hou, 2017

 中国河南省の洞窟からPseudocrangonyxメクラヨコエビ属の新種。この類は極東のみに分布する暗居性淡水ヨコエビです。メクラヨコエビ属各種の検索表と分布地図を提供しています。Zookeysなので無料で読めます。





2月 February



Davolos, Matthaeis, Latella & Vonk, 2017

Cryptorchestia ruffoi Latella & Vonk, 2017

 ギリシャのロードス島からTalitridaeハマトビムシ科の新種。形態と遺伝子を検討しています。Zookeysなので無料です。





Bastos-Pereira & Ferreira, 2017

Spelaeogammarus uai

 ブラジルより洞窟性カンゲキヨコエビ類の新種。この類は近年ブラジルを中心に研究が盛んです。第5~6歩脚の前節に剛毛が多く、オールのように使って水中を泳ぐようです。属内の検索表を提供しています。本文は有料であるものの、アブストに詳細な形態的特徴の言及あり。





Myers, Lowry & Billingham, 2017

Fluviadulzura spinicauda

 オーストラリアより淡水性Hadzioideaハッジヨコエビ科の新種新属記載。本文は有料。





3月 March




Momtazi, Lowry & Hekmatara, 2017

Persianorchestia nirvana

 イランから砂浜性ハマトビムシ科の新属新種。本文は有料。




Tomikawa, Nakano & Hanzawa, 2017

Jesogammarus (Jesogammarus) bousfieldi ナガレヨコエビ
Jesogammarus (Jesogammarus) uchiyamaryui ウチヤマヨコエビ

 山形県と長崎県から、淡水性Anisogammaridaeキタヨコエビ科の記載です。富川先生の過去の仕事の流れを汲み、形態と分子系統学的解析を行っています。キタヨコエビ科の産地と遺伝子情報(28S,COI,16S領域)を表にまとめており、しかも無料で読めます。




4月 April



Esmaeili-Rineh, Mirghaffari & Sharifi, 2017

Niphargus hakani

 イランから地下水性ヨコエビを記載。このNiphargus属は第3尾肢が非常に長く伸長するという特徴的な形態をしており、欧州から中東にかけて旧北区の地下水系から既に320種ほどが記載されているという、驚異的な多様性をもちます(詳しく知りたい方にはNIPHARGUS infoというサイトがオススメです)。形態分類と遺伝子解析を併用。本文無料公開。




Matsukami, Nakano & Tomikawa, 2017

Nicippe recticaudata トヨタマミコヨコエビ

 今年一番の話題をさらったヨコエビです(たぶん)。
 日本で馴染みの薄いPardaliscidae科に属します。宮崎県都井岬沖の水深265~367mから採取され、海に縁のある「豊玉姫」の名が冠せられました。大学がプレスリリースを行い、ニュースにもなりました。富川先生によると、やはり学生さんが筆頭著者で記載したことで大学が大きく取り上げたようです。
 Zookeysなので無料で読めます。形態分類のみならず遺伝子の差異についても分析しており、加えてNicippeミコヨコエビ属の和名提唱と検索表の提供まで行っています。





5月 May


Sawicki, Holsinger, Lazo-Wasem & Long, 2017

Crangonyx sulphurium

 フロリダの地下水系よりCrangonyctidaeマミズヨコエビ科の新種を記載。本文は有料。





Zeina & Asakura, 2017

Cerapus maculanigra

 紅海からIschyrocerinaeカマキリヨコエビ亜科Cerapusホソツツムシ属の新種を記載。筒に入ったまま泳いだりするヨコエビの仲間です。触角の色素斑が目立つ特徴的な種です。属内全21種の検索表を提供しています。本文は有料。





Peart, 2017

Sunamphitoe angrox
Sunamphitoe batavia
Sunamphitoe dampierensis
Sunamphitoe jonathani
Sunamphitoe lehae
Sunamphitoe mixtura
Sunamphitoe naturaliste
Sunamphitoe stevesmithi

 ニュージーランドとオーストラリアよりAmpithoidaeヒゲナガヨコエビ科Sunamphitoeニセヒゲナガヨコエビ属の8種を記載。本属には昨年 Peramphithoeイッケヒゲナガヨコエビ属が編入された(Sotka et al., 2016)ばかりで、それを踏まえた属全体の議論も行っています。有料。





White & Krapp-Schickel, 2017

Leucothoe minoculis
Leucothoe pansa
Leucothoe reimeri
Paranamixis sommelieri 

 紅海からLeucothoeマルハサミヨコエビ属3種とParanamixisタンゲヨコエビ属1種の記載です。いずれも付着生物に棲み込みを行うグループです。タンゲヨコエビ属はオスの第1咬脚が退化・消失するという極めて珍しい特徴をもち、片腕の剣士・丹下左膳にちなみこの名があります。
 近縁種の報告と生息地および形態の比較にも余念のない、非常に密度の濃い論文です。European Journal of Taxonomyというあまりヨコエビ界隈で馴染みのない学術誌ですが、無料で公開されています。





 Delić, Švara, Coleman, Trontelj & Fišer, 2017

Niphargus alpheus
Niphargus anchialinus
Niphargus antipodes
Niphargus arethusa
Niphargus doli
Niphargus fjakae
Niphargus pincinovae  

 バルカン半島西部より、地下水性ヨコエビNiphargus属の中で特に大型の体躯を誇るNiphargus arbiterNiphargus salonitanus species complexから隠蔽種7種を記載。本文は有料。






6月 June



Zhao, Meng & Hou, 2017

Gammarus simplex
Gammarus glaber

 中国北西部から淡水性Gammarusヨコエビ属の記載です。類縁関係にある種について検索表を提供しています。本文は有料でのリリースですが、アブストに具体的な形態の記述があります。 






Delić, Trontelj, Rendoš & Fišer, 2017

Niphargus chagankae
Niphargus cvajcki
Niphargus goricae
Niphargus gottscheeanensis

Niphargus iskae
 Niphargus kapelanus
Niphargus kordunensis
Niphargus malagorae

 スロヴェニアから、地下水系ヨコエビNiphargus stygiusの隠蔽種8種を記載。驚くべきことに形態の記述は一切なく、104個体37種を使った分子系統樹を描いた上で、種を識別する遺伝子配列をmolecular diagnosisとして掲出しています。従来記述されてきたN. stygiusの識別形質を全て兼ね備え、他種とは識別できても互いには形態での見分けがつかない、ということでしょう。新しい時代の幕開けを感じさせます。本文をタダで読めます。





Andrade & Senna, 2017

Ampithoe robustimana
Cymadusa ygar 

 ブラジル北部よりAmpithoidaeヒゲナガヨコエビ科2種の記載。アブスト中で識別形質の言及あり。本文は有料。






7月 July



Suzuki, Nakano, Nguyen, Nguyen, Morino & Tomikawa, 2017

Solitroides motokawai 

 ヴェトナムからオカトビムシ類の新属新種。メスしか見つかっていないため、TalitrusグループかOrchestiaグループかは不明です。本文までタダで読めます。





Ortiz & Winfield, 2017

Nuuanu jaumei

 カリブ海からNuuau属の記載。地中海や中米,南太平洋など暖かい海域に分布するハッジヨコエビ上科の仲間です。属内の検索表も提供。本文は有料です。





Myers, Trivedi, Gosavi & Vachhrajani, 2017

Parhyale piloi

 インドよりHyalidaeモクズヨコエビ科の記載。既知種との比較を実施。本文は有料です。





Hudec, Fišer & Dolanský, 2017

Niphargus diadematus

 チェコから地下水性ヨコエビNiphargus属の記載。形態を重視した分類です。本文は有料。






8月 August




Tato & Moreira, 2017

Pareurystheus vitucoi
Photis guerra

 欧州イベリア半島北西部からCorophiidaeドロクダムシ科とPhotidaeクダオソコエビ科の記載です。いずれも盲目種です。本文は有料ですがアブストに形態の言及があるのと、なぜかこちらPhotis guerraの美麗イラストを拝むことができます。





Heo & Kim, 2017

Eocorophium longiconum

 韓国よりドロクダムシの記載。Eocorophium属は1997年にBousfield & Hooverにより分離新設されたグループで、それから20年の間、E. kitamoriタイガードロクダムシ(原記載は瀬戸内海)のみが含まれる単形分類群でしたが、これで2種目が見つかったことになります。本文は有料。





Jung, Choi, Kim & Yoon, 2017

Photis stridulus
Podoceropsis clavapes

 韓国よりPhotidaeクダオソコエビ科の2種の記載と1種の再記載です。本文は有料ですが、アブストで形態的特徴について言及があります。





Arfianti & Wongkamhaeng, 2017

Victoriopisa bantenensis

 インドネシアのジャワ島から、Eriopisidaeセンドウヨコエビ科ホソオヨコエビ属の記載。日本におけるこのグループの代表種として、V. ryukyuensis リュウキュウホソオ,V. wadai シコクホソオヨコエビが知られます。世界的には眼があったりなかったりしますが、本種は無眼です。本文は有料ですが、アブストで識別形質を挙げています。






Ball, Webber & Shepherd, 2017

Waematau kohuroa
Waematau rereke
Waematau ringanohinohi

 ニュージーランドから3種のオカトビムシ類の記載。Orchestiaグループに属します。分子系統学的な解析も行っています。本文は有料。





Heo & Kim, 2017
Sinocorophium jindoense

 韓国からドロクダムシ1種の記載です。尾節がすべて分節するSinocorophium属の仲間で、日本の河口干潟泥底などに産するS. japonicum二ホンドロクダムシとは近縁ということになります。本文は有料でのリリースとなっているものの、アブストに形態と分布の記述あり。



Huges & Lowry, 2017

Hermesorchestia alastairi

 オーストラリアから砂浜性ハマトビムシの新属新種を記載。本文は有料。





9月 September



Lowry, Springthorpe & Azman, 2017

Talorchestia bunaken
Talorchestia dili
Talorchestia seringat
Talorchestia sipadan
Talorchestia yoyoae

 東ティモール,シンガポール, マレーシア,インドネシアから5種のハマトビムシ類の新種。加えてパプアニューギニアなどから既知種の報告も行っています。本文は有料。






10月 October



Jung, Coleman & Yoon, 2017

Aroui minusetosus

 韓国からクツミガキソコエビ類の記載です。日本のA. onagawaeとは近縁ということになります。Zookeysなのでタダで読めます。





Hou & Zhao, 2017

Myanmarorchestia peterjaegeri Hou, 2017
Myanmarorchestia seabri Hou, 2017

 ミャンマーからTalitridaeハマトビムシ科の2新種1新属の記載。森林性のオカトビムシです。Zookeyなので無料です。






d’Udekem d’Acoz & Verheye, 2017

Epimeria (Drakepimeria) acanthochelon 
Epimeria (Drakepimeria) anguloce 
Epimeria (Drakepimeria) colemani 
Epimeria (Drakepimeria) corbariae 
Epimeria (Drakepimeria) cyrano 
Epimeria (Drakepimeria) havermansiana 
Epimeria (Drakepimeria) leukhoplites 
Epimeria (Drakepimeria) loerzae 
Epimeria (Drakepimeria) pandora 
Epimeria (Drakepimeria) pyrodrakon 
Epimeria (Drakepimeria) robertiana 
Epimeria (Epimeriella) atalanta 
Epimeria (Hoplepimeria) cyphorachis 
Epimeria (Hoplepimeria) gargantua 
Epimeria (Hoplepimeria) linseae 
Epimeria (Hoplepimeria) quasimodo 
Epimeria (Hoplepimeria) xesta 
Epimeria (Laevepimeria) anodon 
Epimeria (Laevepimeria) cinderella 
Epimeria (Pseudepimeria) amoenitas 
Epimeria (Pseudepimeria) callista 
Epimeria (Pseudepimeria) debroyeri 
Epimeria (Pseudepimeria) kharieis 
Epimeria (Subepimeria) adeliae 
Epimeria (Subepimeria) iota 
Epimeria (Subepimeria) teres 
Epimeria (Subepimeria) urvillei 
Alexandrella chione

 Epimeriidaeヨロイヨコエビ科の27新種とStilipedidae科の1新種を記載した上で、Epimeriaヨロイヨコエビ属の中に4亜属を新設して整理を試みた意欲作で、ネット記事でも盛り上がりました。
 掲載されているのは、ヨロイヨコエビ科2属8亜属59種(+未記載6種)のほか、Acanthonotozomellidae科3属7種,Dikwidae科1属1種,Stilipedidae科3亜科4属14種(+未記載4種),Vicmusiidae科1属1種の、計5科11属82種(+未記載10種)に及び、近年稀に見る大著といえます。
 南極から亜南極にかけて分布するテンロウヨコエビ上科の7科から、各亜属を構成する種に至るまで、各分類群ごとにまめに検索表を提供しています。種の記載および亜属のグルーピングにあたって形態分類と遺伝子解析を併用しており、非常に説得力のある仕上がりになっています。
 こちらもEuropean Journal of Taxonomyで無料公開されています。美麗な写真が多数掲載され、オススメです。





Streck, Cardoso, Rodrigues, Graichen & Castiglioni, 2017

Hyalella gauchensis 
Hyalella georginae

 ヒアレラ属にブラジルから2新種。このグループは、アメリカ大陸で多様性を誇るモクズヨコエビ系淡水ヨコエビです。本文は有料ですが、アブストで識別形質を確認できます。




Winfield, Hendrickx & Ortiz, 2017


Stephonyx californiensis

 カリフォルニア湾水深1150mの深海で得られた腐肉食性ヨコエビの新種。アブストで識別形質の言及あり。種群の分布についても属内での比較検討を行った決定版的な文献です。本文は有料。




11月 November


Rodrigues, Senna, Quadra & Bueno,  2017

Hyalella montana Rodrigues, Senna, Quadra, & Bueno, 2017

 ブラジルの標高2200mよりヒアレラ属の2新種を記載。モクズヨコエビ類に近縁の淡水性ヨコエビです。本文は有料。




Esmaeili-Rineh, Sari, Fišer, Bargrizaneh, 2017

Niphargus persicus
Niphargus hosseiniei
Niphargus ilamensis
Niphargus sohrevardensis

 イランより4種の地下水系ヨコエビNiphargus属を記載。形態分類と分子系統解析の手法を併用し、今後の研究に資する分類形質の開発にも取り組んだ研究とのことです。本文は有料。





Mamaghani-Shishvan, Esmaeili-Rineh & Fišer, 2017

Niphargus kurdistanensis

 イランの洞窟から地下水系ヨコエビNiphargus属を記載。形態分類と分子系統解析に基づいています。Zoological Studiesという聞きなれない学術誌ですが、無料で読めます。





Jung, Coleman & Yoon, 2017

Pseudorchomene boreoplebs

 韓国からLysianassidaeフトヒゲソコエビ科の記載。これまで南極および亜南極から報告されていたPseudorchomene属において、初の北半球産種かつ寒帯域外の記録となります。属内の検索表を提供。本文無料公開。





Labay, 2017

Sextonia caecus 

 サハリン島よりLiljeborgiidaeトゲヨコエビ科の1新種の記載と、Sextonia属内の検索表を提供しています。本文は有料。





Ortiz, Winfield & Ardisson, 2017

Psammogammarus barrerai

 メキシコ湾南西部の水深1317mよりEriopisidaeセンドウヨコエビ科スキマヨコエビ属の記載です。その属は日本からはP. mawatariiマワタリスキマヨコエビなどが知られます。本文は有料ですが、アブストに具体的な形態の記述があります。






12月 December


Ariyama & Taru, 2017

Grandidierella rubroantennata Ariyama & Taru, 2017 アカヒゲドロソコエビ
Grandidierella sanrikuensis Ariyama & Taru, 2017 サンリクドロソコエビ

 待望のドロソコ論文です。
 予報(藤田ほか, 2017)があったり、何かと気配が感じられていたAoridaeユンボソコエビ科Grandidierellaドロソコエビ属のニューフェイスが満を持して登場です。
 本邦において最もポピュラーと思われる、ベストオブ干潟ヨコエビことユンボソコエビ科のドロソコエビ属から、2種の新種に加えて、G. osakaensisオオサカドロソコエビを神奈川,静岡県,伊豆大島という新産地から報告しています。オオサカドロソコといえばかつて大阪市立自然史博物館に見に行った思い出のヨコエビですが、この分布を見るにもう(後略)
 かつて、アカヒゲドロソコエビという和名は、オーストラリアから記載されたG. insulaeという種に対応されていました(Ariyama, 1996)。しかし、後の研究により日本の個体群はオーストラリアのものとは別種と分かり、この度新種として記載されました。ヨコエビでは珍しく、和名を元に学名がつけられるというパターンで、rubro(紅い)+antennata(触角=ヒゲ)という種小名になっています。サンリクドロソコエビはその行く末が気になります。
 日本動物分類学会のSpecies Diversityに掲載されており、J-Stageから無料DL可能です。美麗な生体写真つきです。





Lowry & George, 2017

Leucothoe coelocarteriensis
Leucothoe coscinoderma
Leucothoe ircinia

 グレートバリアリーフにおいて3種の海綿から、Leucothoeマルハサミヨコエビ属の3新種を含む14種のヨコエビを記載。2017年の最後の記載となりました。他に、ブラブラソコエビ属の一種Aoroides parvusのハイパーアダルトを記録しています。本文は有料。





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 今回の集計では、今年の新種ヨコエビは109種です。
 ヨロイヨコエビの大量記載により種数がぐんと増えました。Niphargusが20種近く記載されているのもなかなかのハイペースだと思います。
 分子系統解析による隠蔽種の記載がトレンドとなっている感もあります。

 






(2017年新種記載論文)

Andrade, L.F., A.R. Senna 2017. Two new species of Ampithoidae (Crustacea: Amphipoda) from northeastern Brazil. Zootaxa, 4282(3).
Arfianti, T., K. Wongkamhaeng 2017. Restricted Access Subscription or Fee Access A new species of Victoriopisa bantenensis (Crustacea: Amphipoda: Eriopisidae) from West Java, Indonesia. Zootaxa, 4306(2).
Ariyama, H., M. Taru 2017. Three Species of Grandidierella (Crustacea: Amphipoda: Aoridae) from Coastal Areas of the Tohoku and Kanto-Tokai Districts, East Japan, with the Description of Two New Species. Species Diversity, 22(2): 187–200.
Ball, O.J.-P., W.R. Webber, L.D. Shepherd 2017. New species and phylogeny of landhoppers in the genus Waematau Duncan, 1994 (Crustacea: Amphipoda: Talitridae) from northern New Zealand. Zootaxa, 4306(2).
Bastos-Pereira, R., R.L. Ferreira 2017. Spelaeogammarus uai (Bogidielloidea: Artesiidae): a new troglobitic amphipod from Brazil. Zootaxa, 4231(1).

Davolos, D., E.D. Matthaeis, L. Latella, R. Vonk 2017. Cryptorchestia ruffoi sp. n. from the island of Rhodes (Greece), revealed by morphological and phylogenetic analysis (Crustacea, Amphipoda, Talitridae). ZooKeys, 652: 37–54.
Delić, T., V. Švara, C.O. Coleman, P. Trontelj, C. Fišer 2017. The giant cryptic amphipod species of the subterranean genus Niphargus (Crustacea, Amphipoda). Zoologica Scripta, 46(6): 740–752. 
Delić, T., P. Trontelj, M. Rendoš, C. Fišer 2017. The importance of naming cryptic species and the conservation of endemic subterranean amphipods. Scientific Reports, 7(3391).
d’Udekem d’Acoz,C., M.L. Verheye 2017. Epimeria of the Southern Ocean with notes on their relatives (Crustacea, Amphipoda, Eusiroidea). European Journal of Taxonomy, 359: 1–553.
Esmaeili-Rineh, S., S.A. Mirghaffari, M. Sharifi 2017. The description of a new species of Niphargus from Iran based on morphological and molecular data. Subterranean Biology, 22: 43–58. 
Esmaeili-Rineh, S., A. Sari, C. Fišer & Z. Bargrizaneh 2017. Completion of molecular taxonomy: description of four amphipod species (Crustacea: Amphipoda: Niphargidae) from Iran and release of database for morphological taxonomy. Zoologischer Anzeiger - A Journal of Comparative Zoology, 271: 57–79.
Heo, J.-H., Y.-H. Kim 2017. A new species and new record of the genus Sinocorophium (Crustacea, Amphipoda, Corophiidae) from Korean Waters. Zootaxa, 4312(1).
Heo, J.-H., Y.-H. Kim 2017. A new species of The genus Eocorophium
(Amphipoda, Corophiidae) from Korea. Crustaceana, 90(11-12): 1405-1414.

Hou, Z., S. Zhao 2017. A new terrestrial talitrid genus, Myanmarorchestia, with two new species from Myanmar (Crustacea, Amphipoda, Talitridae). Zookeys, 705: 15–39.
Hudec, I., C. Fišer, J. Dolanský 2017. Niphargus diadematus sp. n. (Crustacea, Amphipoda, Niphargidae), an inhabitant of a shallow subterranean habitat in South Moravia (Czech Republic). Zootaxa, 4291(1).
 — Huges, L. E., Lowry, J. K. 2017. Hermesorchestia alastairi gen. et sp. nov. from Australia (Talitridae: Senticaudata: Amphipoda: Crustacea). Zootaxa, 4311(4).
Jung, T.W., H.K. Choi, M.-S. Kim, S.M. Yoon 2017. Two new species of amphipods (Crustacea: Amphipoda: Photidae) from Korean waters with a redescription of Gammaropsis longipropodi. Zootaxa, 4300(3).
Jung, T.W., C.O. Coleman, S.M. Yoon 2017. Aroui minusetosus, a new species of Scopelocheiridae from Korea (Crustacea, Amphipoda, Lysianassoidea). Zookeys706: 17–29.
Jung, T.W., C.O. Coleman, S.M. Yoon 2017. Pseudorchomene boreoplebs, a new lysianassid amphipod from Korean waters (Crustacea, Amphipoda, Lysianassoidea). Zoosystematics and Evolution, 93(2): 343–352.
Labay, V.S. 2017. A new species of Sextonia Chevreux, 1920 (Crustacea: Amphipoda: Liljeborgiidae) from the Okhotsk Sea. Zootaxa, 4353(3).
Lowry, J.K., R.T. Springthorpe, B.A.R. Azman 2017. The talitrid amphipod genus Talorchestia from the South China Sea to the Indonesian Archipelago (Crustacea, Senticaudata). Zootaxa, 4319(3).
Mamaghani-Shishvan, M., S. Esmaeili-Rineh, C. Fišer 2017. An Integrated Morphological and Molecular Approach to A New Species Description of Amphipods in the Niphargidae from Two Caves in West of Iran. Zoological Studies, 56(33): 1–20.
Matsukami, S., T. Nakano, K. Tomikawa 2017. A new species of the genus Nicippe from Japan (Crustacea, Amphipoda, Pardaliscidae). Zookeys, 668: 33–47.
Momtazi, F., Lowry, J.K., Hekmatara, M. 2017. Persianorchestia, a new talitrid genus (Crustacea: Amphipoda: Talitridae) from Gulf of Oman, Iran. Zootaxa, 4238 (1): 119–126.
Myers, A.A., A.M. George 2017.  Amphipoda living in sponges on the Great Barrier Reef, Australia (Crustacea, Amphipoda). Zootaxa, 4365:(5).
Myers, A.A., J.K. Lowry, Z. Billingham 2017. A new genus and species of freshwater Hadziidae, Fluviadulzura spinicauda gen. nov., sp. nov. from rivers in Victoria, Australia (Amphipoda). Zootaxa, 4232(1).
Myers, A.A., J.N. Trivedi, S. Gosavi, K.D. Vachhrajani 2017. A new species of genus Parhyale Stebbing, 1897 (Crustacea, Amphipoda, Hyalidae) from Gujarat State, India. Zootaxa, 4294(5).
Ortiz, M., I. Winfield 2017. A new species of Nuuanu (Crustacea, Amphipoda, Nuuanuidae) from a Caribbean coral reef with identification keys to males and females of Nuuanu species. Zootaxa, 4294(2).
Ortiz, M., I. Winfield, P.-L. Ardisson 2017. A new deep-sea Psammogammarus species (Crustacea: Amphipoda: Eriopisidae) from the continental slope of the SE Gulf of Mexico.  Journal of Natural History: 1–16.
Peart, R.A. 2017. Analysis of the genus Sunamphitoe Spence Bate, 1857 (Amphipoda: Ampithoidae) with descriptions of eight new species. Zootaxa, 4269(3).
Rodrigues, S.G., A.R. Senna, A. Quadra, A.A.P. Bueno  2017. A new species of Hyalella (Crustacea: Amphipoda: Hyalellidae) from Itatiaia National Park, Brazil: an epigean freshwater amphipod with troglobiotic traits at 2,200 meters of altitude. Zootaxa, 4344(1):147–159. 
Sawicki, T.R., J.R. Holsinger, E.A. Lazo-Wasem, R.A. Long 2017. A new species of subterranean amphipod (Amphipoda: Gammaridae: Crangonyctidae) from Florida, with a genetic analysis of associated microbial mats. Journal of Crustacean Biology, 37(3): 285–295.
Streck, M.T., G.M. Cardoso, S.G. Rodrigues, D.A.S. Graichen, D.D.S. Castiglioni 2017. Two new species of Hyalella (Crustacea, Amphipoda, Hyalellidae) from state of Rio Grande do Sul, Southern Brazil. Zootaxa, 4337(2).
Suzuki, Y.,  Takafumi  Nakano,  Son  Truong  Nguyen,  Anh  Thi  Thu  Nguyen,  Hiroshi  Morino &  Ko  Tomikawa 2017. A  new  landhopper  genus  and  species  (Crustacea:  Amphipoda:  Talitridae)  from  Annamite  Range,  Vietnam. Raffles Bulletin of Zoology, 65:  304–31.
Tato, R., J. Moreira 2017. Two new species of the Suborder Senticaudata (Crustacea: Amphipoda) from the upper continental slope off Galicia (NW Iberian Peninsula). Zootaxa, 4300(2).
Tomikawa, K., T. Nakano, N. Hanzawa 2017. Two new species of Jesogammarus from Japan (Crustacea, Amphipoda, Anisogammaridae), with comments on the validity of the subgenera Jesogammarus and Annanogammarus. Zoosystematics and Evolution, 93(2): 189–210.
White, K.N., T. Krapp-Schickel 2017.  Red Sea Leucothoidae (Crustacea: Amphipoda) including new and re-described species. European Journal of Taxonomy, 324: 1–40.
Winfield, I., M.E. Hendrickx, M. Ortiz 2017. Stephonyx californiensis sp. nov. (Amphipoda: Lysianassoidea: Uristidae), a new bathyal scavenger species from the Central Gulf of California, Mexico, and comments on the bathymetric and geographic distribution of the Stephonyx species group.  Journal of Natural History, 51(47-48) :2793–2807.
Zeina、A., A. Asakura 2017. A new species of Cerapus Say, 1817 (Amphipoda: Ischyroceridae) from the Red Sea, with a key to the worldwide species of the genus. Journal of Crustacean Biology, 37(3): 296–302.
—  Zhao, S., Z. Hou 2017. A new subterranean species of Pseudocrangonyx from China with an identification key to all species of the genus (Crustacea, Amphipoda, Pseudocrangonyctidae). ZooKeys, 647: 1–22.
Zhao, S., K. Meng, Z. Hou 2017. Two new Gammarus species and a new name (Crustacea: Amphipoda: Gammaridae) from Northwest China. Zootaxa, 4273(2).



(その他参考文献)
Ariyama, H. 1996. Four species of the genus Grandidierella (Crustacea:Amphipoda: Aoridae) from Osaka Bay and the northern part ofthe Kii Channel, central Japan. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 37: 167–191.
Bousfield, E.L.,  P.M. Hoover 1997. The amphipod superfamily Corophioidea on the Pacific coast of North America. Part V. Family Corophiidae. Corophiinae, new subfamily. Systematics and distributional ecology. Amphipacifica, 2: 67-139.
藤田喜久, 下村通誉, 多留聖典, 有山啓之, 逸見泰久 2017. 近年国内から発見された希少甲殻類(端脚目,等脚目,十脚目)についての話題. Cancer, 26: 65-70.
Sotka, E.E., T. Bell, L.E. Hughes, J.K. Lowry, A.G.B. Poore 2016. A molecular phylogeny of marine amphipods in theherbivorous family Ampithoidae. Zoological Scripta, 46(1): 85-95.





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補遺(6-Mar.-2018)


*Winfield, Hendrickx & Ortiz (2017) を追加。
*種数に+1。


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補遺(9-Feb.-2019)
・Momtazi, Lowry & Hekmatara (2017) , Huges & Lowry (2017) を追加。
*種数に+2。

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補遺3 (30-VIII-2024)
・一部書式設定変更。

2017年11月25日土曜日

ROAD TO DESCRIPTION III (11月度活動報告)


 新種記載に向けた動きについて、ネタバレしない程度に御報告です。
 過去の経緯はこちらこちらから。




進捗報告

Dear Readers


 弟子入りを果たしてからのトレーニングメニューは以下のような感じです。

・プレパラート標本の観察とスケッチ
・解剖
・染色
・近縁グループのサンプルを用いた解剖,スケッチ

 今回は解剖技術の研鑽を取り上げます。





解剖について

Dissecting Me Softly


 卒論の際には勿論同定のために解剖しまくったのですが、ブランクがあるのと、そもそもそんなに巧くいった記憶がないので、レベル初期値からのスタートです。


 ヨコエビの解剖は要するに観察しやすいように付属肢を外す作業で、形態に基づいた分類を行う際には欠かせないものとされています。


 例えば、もしヨコエビの全身が無色透明で、重なりあった付属肢一つ一つの同定形質を容易に視認できれば、解剖の必要はありません

 私も驚きましたが、その例え話みたいな例が最近ありました。一切スケッチすることなく、ほとんどの種においては口器の解剖すらせず、写真のみを使用して記載を行った論文が10月に出たのです (d’Udekem d’Acoz & Verheye, 2017)。ヨロイヨコエビ属は体表の形状が極めて特徴的で変化に富んでおり(今後の研究の進捗によって資料を追加する必要性が出てくるのかもしれませんが)、現状では細かい形質を検討する必要がないのです。ヨコエビの中でもグループによって必要な解剖の度合いが異なる例です。

 とはいえ、そういったのはごくごく一部であり、大部分のヨコエビにおいて、口器を含め付属肢の取り外しは必要な作業です。何を隠そう今現在私が向き合っているヨコエビもそういった類です。






 まず解剖の前に準備する標本は、固定・保管されているものです。
 だいたいの場合、蓄積された標本の中から、アヤシイ奴が出てきます。


 以下、ヨコエビを採取してから標本を作成するのに必要になる、あるいはなるかもしれないグッズです。どれも基本的に各ネットショッピングサイトで手に入ります。




・スクリューバイアル(スクリュー管瓶,ねじ口瓶)

 No.3(9mL)100本入り:約5000~10000円
 色々な容量のものがあります。1ロットごとによほど大量に捕獲される場合でなければ、浅海性ヨコエビの保管にはNo.3で充分でしょう。材質はガラスも樹脂もありますが、フタにペフの入ったものが推奨です。



・マイクロチューブ(エッペンドルフチューブ)

 5mL 500本入り:約3000~5000円
 スクリューバイアルより小型・少量のサンプルをコンパクトに収納できます。ダーラム管を入れるのにも使えます。



・ダーラム管

 6mm径30mm長 50本入り:約1500円
 マイクロチューブは解剖済の標本を入れると、底に捉えられたり、側壁にくっついて分からなくなってしまうことがあります。スクリューバイアルは底の立ち上がりが直角で死角になりやすく、口が狭く、蓋やネジがあって構造が複雑なため、微細なサンプルの管理には向きません。ダーラム管は底の丸いガラス管であるため細かな付属肢を入れたり、小さな個体を入れるのに適しています。綿栓倒立して大きめのスクリューバイアル内にまとめて入れるか、サイズが合えばマイクロチューブ内でも保管できます。



 ・耐水紙

 A4 100枚入り:約1500円
 標本と一緒に瓶に入れるラベルを作成するのに使います。レーザープリンター対応のものとそうでないものとがあるようです。






・エタノール

 無水(99%)エタノール500mL:約1000~1500円(ドラッグストア等で購入可能)
 70%に希釈する際、水道水でもよいと思いますが、私は精製水を使っています。いろいろありますが150円程度でドラッグストア等で買えます。



・グリセリン

 50mL:約300円,500mL:約500円(ドラッグストア等で購入可能)



・スポイト

 ガラス製駒込ピペット;約1000円
 その他 約100円~
 液体の分取には必需品です。ただし、染色液や封入液を自作しない限りややこしい計量は必要ないため、100均の化粧品セットでも代用できます。



・メスシリンダー

 約200~1500円 
 70%エタノールを作るほかは特に活躍しないので、必須ではありません。



・漏斗

 約100円~
 バイアルに固定液を入れる場合など。スポイト等を使う場合は特に必要ありません。




 保存してある標本を解剖するにあたっての注意点。

 99%エタノール中では脱水が進んでかなりパリパリになってしまうので、解剖前に70%中でなじませることも必要です。また、解剖後にグリセリンプレパラートに封入する場合、アルコールとの相性が悪いため、直前に標本全体をグリセリンに浸す必要があります。そして、10年オーダーで長期間保存してあった標本はなかなか言うことを聞いてくれないのでそれはそういうものだと思ってやるしかなさそうです。


 そして以下は、標本を解剖し線画までもっていくのに必要なグッズです。


・有柄針

 柄:約500円(昆虫針用)~約4000円(タングステンニードル用)
 針:約1000円(無頭0号昆虫針100本入り)~約10000円(タングステン微細針3~5本入り)
 焼きを入れた昆虫針を柄に取り付けて使用します。柄の部分は割箸で代用可能です。



・ピンセット

 精密ピンセット:約500~5000円
 私は1000円程度のを使用しています。
 先の尖ったものを更に研いでかみ合わせを整えます。



・オイルストーン(油砥石)

 約500~2500円
 普通の包丁用砥石を使っていたので選び方がよく分かりませんが、切削工具用の精密仕上げに使われるものがよいようです。研ぐのはピンセットの先端や針先なので、小さいものが良いです。使うときはグリセリンを滴下します。



・染色液

 ローズベンガル:原体は25gで6000円程度。個人で調薬したことはないのですが、50μg/ml程度の水溶液として使うようです。入手の際には要メーカー問い合わせ。
 解剖する時、特に胸節と底節板の境界が見えにくい場合、染色するとかなり見やすくなります。〆めた後のサンプルをソーティングする時にも使えますが、濃く染めすぎると逆に分かりにくくなるなど、デメリットもあります。軟組織がよく染まりますが、毛などはそれほど見やすくなりません。







・スライドガラス

 水切放(76×26×t1mm)100枚入り:約500~1000円
 スライドガラスには「水切放」「白縁磨フロスト」などいろいろな種類があります。とりあえず水切放で良いと思いますが、「水」は傷がつきやすいため、「白」もアリです。ちなみに「水切放」と「白縁磨フロスト」では、値段が4倍くらい違います。
 ※水 = 板ガラスなどに用いられる最も一般的な種類のガラスを材料としたもの。安価。
 ※白 = ガラスの材質を指す場合、硬質で透明度の高いもの。高価。
 ※切放 = 切断したままのもの。安価。
 ※縁磨 = 切断し、縁を研磨したもの。高価。
 ※プレクリン = 脱脂処理済み。
 ※フロスト = 表面のざらつき。鉛筆で書き込めるように処理したもの。



・カバーガラス

 18×18mm 100枚入り:約500円
 高級硼珪酸ガラス使用で、材料としてはスライドガラスより良いものになります(強度と透明度を補完)。樹脂製のものもあるようですが使ったことはありません。



・封入剤

 ホイヤー氏液 20mL:約1500~2000円
 プレパラート標本を作製する時に使います。これを用いて永久プレパラートとしますが、ガム・クロラール系は長い時間を経て変質することが知られているのと、お湯で戻せるので、言うなれば半永久プレパラートです。真の永久プレパラート用封入剤としてカナダバルサムが知られていますが、扱いにくいのと、屈折率の関係からも甲殻類には適さないように思われます。ヨコエビ研究者はほぼ皆さんホイヤー氏液を使っているようです。石丸(1985)にはガム・クロラール液を自作する方法が載っていますが、便利な世の中ですので出来合いのものを買えます。20mLもあればかなりの枚数のプレパラートを作れます。



・トップコート

 10~15mL:約100~2000円
 本来はマニキュアを保護するためのものです。ホイヤー液で封入したカバーガラスの縁に塗って永久プレパラートとします。エッシーでもジルでもお気に入りのブランドのトップコートをご使用頂けますが、100円ショップでも買えます。



封入まで持っていくセット(二世)
100均のキャリアーとミニボトルを活用しています




 ヨコエビの解剖法、石丸(1985)でほぼ語り尽くされていますが、思ったところを述べます。


 明るさについて。
 顕微鏡には光源が付属していますが、解剖するにあたって光源は多ければ多いほうが良いです。手先の邪魔にならない程度に明かりを増やすことが肝要です。



 底節板について。
 ヨコエビの底節板というものは、往々にして自由胸節の背板が上に被さった状態で生えています。つまり、底節板側から胸節の被せをくぐってメスを入れないと、刃先が入りません。
例えばこのような

 刃先が入ればかなり楽になりますが、付属肢から複数の筋肉が延びており、これを断ち切るには底節板側からのアプローチは上手くありません。この段階では垂直あるいは胸節側から刃先を入れた方が得策です。



 ボディについて。
 ある程度まで解剖が進むとボディはくたびれてきます。作業は手早く正確に進める必要があり、訓練が欠かせません。

 付属肢を外した穴は(基本的には)もう使わないので、先を丸くした針を突っ込んで固定するという裏技も考えられます。


 
 道具の選定について。
 一定のサイズより小さなサンプルについては、タングステンの細線に電極をつけて電解研磨した微細解剖針を使用するのが一般的なようです。タングステンといえば強度と耐食性に優れた非常に強靭な金属なので、タングステンニードルはヨコエビを問わず幅広い微小な分類群においてポピュラーです。
 しかし、針も柄も1本でビフテキのコースが満喫できるお値段なのと、現状として設備もないため、今のところ顕微鏡下で物理的に摩擦してゴリゴリと針先を加工しています(電解設備はどうやらパンピーでも作ることができるらしく、現在模索しています)。
 
 錐状、ナイフ状、丸くしたものの3種を用意するとよいでしょう。

 分類群や解剖する人の特性にもよりますので、これもやりこむことが重要です。







(参考文献)

- d’Udekem d’Acoz,C., M.L. Verheye 2017. Epimeria of the Southern Ocean with notes on their relatives (Crustacea, Amphipoda, Eusiroidea). European Journal of Taxonomy, 359: 1–553.
- 石丸信一 1985. ヨコエビ類の研究方法. 生物教材, 19(20): 91-105.
- 富川光・森野浩 2009. ヨコエビ類の描画方法. 広島大学大学院教育学研究科紀要, 17: 179-183. 



2017年10月9日月曜日

ヨコエビ上位分類が最近ヤバい件についてざっくりまとめ(10月:甲殻類学会に行ってきました)



 10月7日と8日、第55回日本甲殻類学会に参加してきました。

会場は東京大学大気海洋研究所柏の葉キャンパス。


 柏の葉キャンパスを訪れるのは恐らく2010年以来で、性的ニ形シンポジウムとプラベン学会だったと思います。なつかしい。

 ヨコエビは2題ありましたが、前身となる研究内容を既に知っていたり、過程をある程度知っていたり(などと言うと業界通っぽいですがたまたまっス)、おいまさかこんな研究があるのか的な印象よりは、待ってました的な感じで聞き入っていました。

 音楽フェスなんかでは演者とオフィシャルにサシではなかなか呑めないです。
 学会はやっぱり良いですね。





 甲殻類学会でもヨコエビの上位分類がどうなってるのかという話がありました。

 Lowry and Myers 2013, 2017に基づくヨコエビ界隈の新体制については小ブログでもSenticaudataの顔ぶれ新Gammarideaの顔ぶれ、そしてGammaridea消滅後の世界について扱ったことがありますが、備忘録代わりの羅列的な内容で、じゃあどうすれば的な疑問はあまり掘り下げていませんでした。



何がどうヤバい?

 ヨコエビ類上位分類の異変、大まかに以下のような感じです。


・Senticaudata亜目の設立 (2013年)
  旧ヨコエビ亜目の半分以上がごっそり持っていかれました。

・ワレカラ亜目の降格 (2013年)
 ドロクダムシ類がワレカラ類を含めるようになりました。

・下目,小目,族の概念を導入 (2013年)
 これが分かりにくかちゅう人がばり多かとです。

・インゴルフィエラ亜目の昇格 (2017年)
 論文のタイトルにもなっています。新目が建つというのはわりと事件です。 

・ヨコエビ亜目の解体 (2017年)
 Senticaudataができた後のGammarideaはわずか4年の命でした。




 従来の4亜目分類体系(左),6亜目の新体系(右)
伝統的分類体系はBarnard & Karaman (1991)に基づく。


 他の言語はどうか分かりませんがとにかく「ヨコエビ=ヨコエビ亜目」というこれまでの定義が覆ってしまい、日本語で「ヨコエビ」といった場合に何に対応するのか、よく分からない状況になってしまいました。ワレカラ亜目だったワレカラ類やクジラジラミ類をヨコエビと呼んでいいのかどうか。おかげでwikipediaでもよく分からない定義になっています。

 ヨコエビはヨコエビですよと叫びたいところですが、 端脚目全体として「ヨコエビの仲間」と解釈することの重要性が増した気がします。

 



みんなどうしてる?


 私の知る限りですが、日本では「触らぬ神に祟りなし」といった傾向が強く、採用していない論文は多いです。

 今年開かれた日本動物分類学会に参加したヨコエビストの方々(研究者・学生) に質問した結果。
Lowry & Myers 2013, 2017の体系を積極的に支持する意見はなかった。


 海外ではあちこちで引用されていて、浸透している感もありますが、是非に立ち入って議論している論文もないような気がします。




ぶっちゃけ良いの?悪いの?


 何てことしてくれたんだと、関係者が口を揃えてこれでもかこれでもかって言うので、ヨコエビギナーの方はんなもん無視すればいーじゃんと思われるかもしれませんが、6月に申し上げた通り、それなりの材料を使っていわばビッグデータ的な解析を行い、その生データをエクセルでオンラインジャーナルのサイトに論文本体と並べてアップロードしてるところから、既に万全の備えで叩きあう覚悟が伺えますので、それなりの扱いをしなければいけないところはご理解頂けるかと思います。


 感覚的には、長く親しまれてきた上科の枠組みを、下目や小目に格上げし、科のまとめかたをより複雑化した感じです。従って全体的な雰囲気として、上科はよりコンパクトになった一方、下目や小目の枠組みを導入したことによって類縁関係のニュアンスを伝達しやすいように腐心されている印象です。


 とはいえ、正直なところ形態分類のみで導き出した系統関係の仮説が容易にコンセンサスを得られるとは思えませんし、そもそも生態学などの研究で用いられる種や属レベルを基本とした分類において科より上がどうなっていようが本当に心底どうでもいいのです。科より上の系統関係を研究するのであれば、Lowry and Myersの体系に対比させて分子系統学的なアプローチを行うのが自然でしょうが、そういった場合でもない限り、いちいち上位分類の改造には付き合ってられません。種の記載などにおいても同様です。

 しかしながら、例えば以前の分類であれば、上科をナチュラルにスルーしていても特に問題はなかったものの、今回は従来よく用いられていた亜目という単位から作り替えられてしまったためスルーし難く、一種の踏み絵のような状況になっているのではないでしょうか。




どうすればいい?

 現状、深入りしたくない人は、目と科の間に何も挟まないようにしているみたいです。
 それぞれ安定していますし、基本的な分類の階級をおさえることはできているので、妥当な落としどころだと思います。






(参考文献)

- Barnard, J.L., G.S. Karaman 1991.The Families and Genera of Marine Gammaridean Amphipoda (Except Marine Gammaroids). Records of Australian Museum supplment 13, part 1,2, 866p.
- Lowry, J.K., A.A. Myers 2013. A Phylogeny and Classification of the Senticaudata subord.nov.(Crustacea: Amphipoda). Zootaxa, 3610 (1): 1–80.
- Lowry, J.K., A.A. Myers 2017. A Phylogeny and Classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265 (1): 1–89.
 

2017年9月30日土曜日

科博の深海展に行ってきました(9月度活動報告)



 2017年夏、上野にまた深海展がやってきました。

 前回は2013年でしたね。実に四年ぶり。


 ネットでは、ホルマリン漬けにがっかりだの人混みでよく見えないだの飛び交っておりましたが、どうやらヨコエビの展示もそれなりにあるらしいとのことで、会期も終わりに近づいた9月末、覆卵葉いっぱいに希望を詰めこみつつ、仕事を放り出して上野の地に降り立ったのでした。





  今回は3点のダイダラボッチAlicella giganteaをはじめ複数種のヨコエビが展示されていました。

ダイダラボッチその1。


ダイダラボッチその2。
隣にはイガグリヨコエビ
Uschakoviella echinophora



ダイダラボッチその3。
 隣にはカイコウオオソコエビHirondellea gigas

えびのおすし。

 今回の目玉の一つが、しょこたんによる音声ガイド。しかもその中でカイコウオオソコエビ役まで務めているという驚きの仕様。リピートしてしまいました。行かれていない方はたぶん金輪際聴く機会がないと思われますがこれは勿体ない。けもフレでいうとツチノコっぽい感じでした。


最近の音声ガイドはすごいっすね。

 しょこたん(カイコウオオソコエビ)は「エビじゃなくてヨコエビ」と断言していたのでこれは端脚類界隈に光明となるでしょう(合掌)。
 



10924mから有孔虫の記録があるものの、
カイコウオオソコエビが稼いだ深度は相当なもの。



 深海の生物を紹介する中で、新種記載についてコーナーを設けていたのが印象的でした。図録でもそのへんの話題を見開きで紹介するなど、分類学のエッセンスを伝えようとする姿勢があります。


トウホクサカテヨコエビTrischizostoma tohokuense


 このトウホクサカテヨコエビという種は福島県沖で得られた標本に基づいて2009年に記載されたヨコエビで、フトヒゲソコエビ上科に含まれます。帰宅してから調べてみると、なぜかちゃんと文献をDLしてあったのですが全く記憶にない・・・ (記載論文はここからタダで読めます)

 サカテヨコエビ科サカテヨコエビ属は咬脚が亜はさみ状となりますが、普通のヨコエビと逆向きになっていて、特徴的なグループです。魚類に体表寄生することを最近知りました(Freire & Serejo, 2004)。



日本海のヨコエビとして紹介されていたオオオキソコエビ。
 ”ユーリテネス科”ということで、上位分類に和名はない。

 オオオキソコエビEurythenes gryllusは、Ishimaru 1994で和名提唱されたもののしばらく放置されていたヨコエビの一つです。こちらの書籍でも「エウリセネス・グリルス」と学名のカナ表記で紹介されていましたね。表記も揺れていて全く顧みられていない感が・・・
 
 カイコウオオソコエビ,ダイダラボッチ,オオオキソコエビはどれも「巨大ヨコエビ」あるいは「超巨大ヨコエビ」と表現されてよく似ています。


 こちらは去年作ってみた見分け方です。



 すみません、正しくはこちらです。
深海ヨコエビ3種の見分け方

 オオオキソコエビは生時はかなり鮮やかな赤色をしているようです。

 このEurythenes属は他の種もまあまあ大きいですが、オオオキソコエビは中でも飛びぬけています。



 後半は地学パートで、やはり東日本大震災のメカニズムが解き明かされていく様子は、国立博物館として世に出さねばいけないという強い想いを感じました。

 ずぶの素人ですが、地震発生時のプレートの状態から津波が発生する関係性や、実際にズレた断層を発見してその周辺を調査して明らかになった数々の要因など、恐るべき先端科学の威力というか、映画『アルマゲドン』を彷彿とさせるSFチックなガジェットや映像にしばし酔いました。


 

 流れで常設展(地球館)も見学。


Gammarus sp. !?

 今回一緒に行ったヨコエビストのK氏と2人で「どう見てもGammarusじゃない・・・」としばし戸惑いました。ヨコエビ下目ですらない可能性が高いです。

 何とも言えませんが、体サイズ・形態的特徴・入手しやすさから総合的に判断して、Hyalella aztecaの線を洗ってみた方がよさそうです。

 まあ、この展示を見た人が「これがGammarusなんだ~」 と信じきって他で間違いを犯す可能性があるかというとたぶんないですが・・・ でも仮にこうやって写真を撮った人がいてこれをGammarusの資料として使うのはアカンですね・・・ 相談案件ですかね・・・



 
 日本館では植物画の企画展やマリモの展示を見ました。

 「フローラ ヤポニカ」というかなりそそられるタイトルがついていましたが、キュー王立植物園で展示された現在の日本人画家が描いた植物画の原画と、英国で刊行され続けている市民向け植物専門誌『Curtis's Botanical Magazine』の挿絵原画の二本立てでした。日本産の植物を描いているというテーマに沿っていたものの、キュー王立植物園にピンとこない人にはよく分からない展示だったのでは。挿絵はどれも精緻ながら個性があり、必要に迫られて画を書く形態分類クラスタからすれば、さすが画家としか言えません。12月3日まで。

 マリモの展示は、分子系統解析と分布の考察や個体群維持機構など最新の知見をわかりやすく伝えようとしていました。




 科博はあの講座以来でしかもその時は展示はほぼ見ていないので、かなりのご無沙汰でした。根を詰めて観たせいかものすごく疲れましたが、楽しい休日を過ごせました。



K氏のイタリア土産。

恐らくGammarus roeselii




(参考文献)

Freire P.R., C.S. Serejo 2004. The genus Trischizostoma (Crustacea: Amphipoda: Trischizostomidae) from the Southwest Atlantic, collected by the REVIZEE Program. Zootaxa, 645: 1–15.
-Ishimaru, S. 1994. A catalogue of gammaridean and ingolfiellidean Amphipoda recorded from the vicinity of Japan. Report of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, 24: 29-86.
Tomikawa, K., H. Komatsu 2009. New and Rare Species of the Deep-sea Gammaridea (Crustacea: Amphipoda) off Pacific Coast of Northern Honshu, Japan. Deep - sea Fauna and Pollutants off Pacific Coast of Northern Japan , edited by T. Fujita, National Museum of Nature and Science Monographs, 39: 447-466.

2017年8月17日木曜日

ようぎしゃ フトヒゲソコエビ(8月度活動報告)



 ~ とう場人ぶつ ~



こうたくん
さいきんヨコエビとまりちゃんのことが気になっている男の子。


まりちゃん
ヨコエビのことがすきなちょっとおませな女の子。  
こうたくんとはかせのことはあまりすきじゃない。
今日はお休み。


ひろきくん
まりちゃんのきんじょにすんでいる。
あまりしゃべらないけど、するどい。



よこえびはかせ
ヨコエビの本やひょうほんをいっぱいもっている。
ヨコエビのことにくわしくて、何でもしらべて教えてくれるけど、
そのほかのことにはまるっきりきょうみがないんだ。




~~~~~~~


よこえびたんていだん


だい3話 ようぎしゃ フトヒゲソコエビ




(1)じけんはっせい



こうたくん:はかせ!こわい生きものがいるんだって!

はかせ:どれどれ、見せてごらん。





こうたくん:ウミノミっていうやつで、日本にもいるらしいよ!しってた?

はかせ:ホッホッホ、こうたくん、これはごやくじゃよ。

こうたくん:ごひゃく?ウミノミって番ごうがついてるの?

はかせ:ちがわい!えいごから日本語にしたときに、まちがえたのじゃ。

こうたくん:えー!じゃあこのウミノミはうそなの?

はかせ:まあまあ、これからたしかめるぞい。






はかせ:これはワシントンポストのニュースじゃよ。

こうたくん:しってる!ワシントンにあるポストでしょ!

はかせ:ちがわい!アメリカの新聞じゃよ。

こうたくん:えいごじゃん!

はかせ:アメリカなんじゃから、当たり前じゃよ。

こうたくん:なんて書いてあるの?

はかせ:とりあえず、日本語にしてみるかのう。



『肉食性の海の虫がオーストラリアの十代の若者の足を襲った「血が止まらなかった」』

 先週金曜日、
16歳のサム・カニザイはブリンストンビーチの水の中を歩いていた。それはこのオーストラリアの少年にとってよくあることだった。彼はメルボルンのこの地域で育ち、トライアスロンに参加したり、よく海で泳いだりするような、活動的な家族に囲まれていた。

 今日早くからのサッカーの練習で足には痛みがあり、それを冷たい海水で鎮めようと、アイフォーンで音楽を聴きながら、暗闇の中で30分ほど腰の深さほどの海に立っていた。

 水から揚がって間もなく、彼は足からの出血に気付いた。それもかなりの量だった。

”私たちは道路をはさんで海岸の向かいに住んでいます。”サムの父、ジャロッド・カニザイ氏はワシントンポストの取材にこう話した。

”サムはびっこを引きながらとても急いで家に戻ってきた。彼はすぐ外から私に電話をしてきた。そして彼は言った「父さん、外に出てきてくれないかな?」私が「どうして?」と訊くと、彼はこう言った「すぐに来て!」”

”私たちはとても驚きました。”

 彼らが少年の足に発見した、何千もの細かな噛み跡は、ピンで何度も突き刺したのとほとんど同じだった。大量の血もまた同様だった。

”血が止まらなかった。”ジャロッドは言った。”私たちはすぐに彼を病院に連れて行きました。”

 湾に立っている間に噛まれたのを感じなかったとき、水によってサムの足は全く感覚がなくなるまで冷えきっていた。

 しかし、病院へ向かう途中、サムは”8割以上”痛みが増した、と話したという。

 緊急措置室でそう長く待たねばならないということはなさそうだったため、ジャロッドは息子に、痛みについて正直に看護士へ話すよう言い聞かせた。

 サムの足と血だまりを一目見て、病院のスタッフはすぐにサムを収容してくれた。心配はなかったと、カニザイ氏は言った。
 

(サムへのインタビュー動画)

 当初、サムの傷は医師と看護士を困惑させた。

 彼らは出血を手当てするとともに足を診察したが、誰一人サムの足が映画『ピラニア 3D』 に出てくるエキストラのように血塗れになった原因について、確かなことを言えなかった。

 20年ほどブリンストンビーチの地区に住んでいるというカニザイ氏は、サムの足の写真をフェイスブックに投稿し、近所の住民や友人にミステリーとして話した。

”私も、ご近所さんも友人も、医療関係者の誰も、こんな事件は聞いたことがなかった。”ジャロッドは言った。”報道されるまで、何人かは小さな出血をしたことがあっても、地方の医者に行っただけだったのです。”

 カニザイ氏は湾に戻り、サムが立っていたのと同じ場所に歩いて行った - 皮膚を護るためにウェットスーツを二重に身に付けた上ではあったが。

 プールのゴミ取り用すくい網と生肉を使い、彼は体長2mmほどのダニのようなものを何千匹も採集した。

”御存知の通り、病院の看護士と医者は、この生物に言及することも捕らえようと試みることもしなかったんですよ?”カニザイ氏は言った。”何がサムの足を食ったのか、誰かがその難題を解いてくれると思っていました。”


(サムの写真)

 メルボルンにあるヴィクトリア博物館はフェイスブックの記事で、海洋生物学者ジェニファー・ウォーカースミスが、カニザイ氏が採集した生物を、分解されている肉から出る化学物質などに誘引される腐肉食性の小型生物であるフトヒゲソコエビの仲間の端脚類と同定したことを明かした。

 端脚類の仲間はしばしば”海のノミ”と呼ばれるが、傷が長引く原因にならないだろうと、彼女は言った。

”彼らは大群をなし、死んだ魚に群がり、瞬く間に食べてしまう”と、ウォーカースミス女史はABC(オーストラリア放送協会)に語った。

 彼女はこの事件はサムの”不幸”によって起きたものとして、ビーチを楽しむ他の人は同じような攻撃を怖がる必要のないことを付け加えた。

”食事をしている群れをサムがかき乱した可能性がありますが、彼らは普通はピラニアのように攻撃の期を待っていることはありません。”彼女はABCの取材に語った。”この甲殻類は死んだ魚の肉片に群がっていて、サムの足に接触したのでしょう。サムには恐らくすでに切り傷があって、彼らはその匂いや化学物質を嗅ぎつけたのです。”

(フトヒゲソコエビ類の動画)

 サムは快方に向かっている。

”確実に治ってきている。私たちは完治することを願っています。”父は言った。”彼が帰宅するとき、たぶん幾つか傷跡があるのでしょう。望んではいませんが。”


 サムは水を避けることは考えていない - もっとも、彼は水中の同じ場所に長い時間立つ前に2倍は考えなくてはいけない、と父は言っている。

”彼は大人しい子です。大人しくて落ち着いている。”カニザイ氏は言った。”これはちょっと人生が脇道に逸れただけ。些細なことです。息子の身に起こった本当に奇妙な一つの出来事に過ぎないのです。私たちは気持ちよく水辺に戻り、安心を感じることだってできます。”




こうたくん:かんじが多すぎるよ!

はかせ:シーエヌエヌのほうも読んでみるかのう。




『オーストラリアの十代の若者の足の噛み跡からの出血は、’海のノミ’によるものか?』

 オーストラリア メルボルンの十代の若者がビーチを訪れたところ、そこはホラー映画の世界へと変貌してしまった。真相はちょっとしたミステリーだが、おそらく小さな甲殻類によるものだろう。

 7ニュースによると、土曜日、16歳のサム・カニザイは友人とサッカーをした後、火照った筋肉を鎮めようと、慣れ親しんだブライトンデンジー通りの浜に足を浸していた。そして予期せぬことが起こった。

”歩いて水から揚がろうとしたら、ふくらはぎから足首に砂が覆っているのが見えて、強く振るうと、それは落ちたんだ。”彼はオーストラリアのセブンネットワークニュースに語った。だが、その時彼の足から振り落とされたのは砂ではなかった。

 サムの父、ジャロッド・カニザイは、サムが水から足を引き揚げたとき、大量の血を見たと言っている。

”サムはびっこを引きながらとても急いで家に戻ってきた。彼はすぐ外から私に電話をしてきた。そして彼は言った「父さん、外に出てきてくれないかな?」私が「どうして?」と訊くと、彼はこう言った「すぐに来て!」”

 彼らが少年の足に発見した、何千もの細かな噛み跡は、ピンで何度も突き刺したのとほとんど同じだった。大量の血もまた同様だった。

”私たちはこの細かい出血を拭き取ったほうがよいと考えたのですが、洗い流すことができないことがわかりました。”サムの母親、ジェーン・カニザイはセブンネットワークニュースに語った。

”血が止まらなかった。”サムの父はワシントンポストの取材に語った。”私たちはすぐに彼を病院に連れて行きました。”

 地方病院では医師たちが止血を試みていたが、サムの足にできた無数の針穴の大きさの噛み跡からは血が流れ続けていた。

 ジャロッドはワシントンポストの取材に、痛みについてサムは”8割以上”と言っていたと語り、病院のスタッフはサムの負傷に困惑していたと付け加えた。

 自ら調査すべく、ジャロッド・カニザイはウェットスーツを二重に着込むと、息子が足を休めていた場所へと戻って、生肉を餌に未知の有害生物をプールのゴミ取りネットに収めた。ワシントンポストによると、彼は体長2mmほどのダニのような小虫を数千匹採集した。

 その後、彼の信じる犯人が生肉の塊を貪る映像をユーチューブにアップロードした。

(フトヒゲソコエビの動画)

”奴らは肉片から血を啜り、表面に食らいつき続けたんです。”ジャロッド・カニザイはオーストラリアのセブンネットワークニュースにそう話した。

 ヴィクトリア博物館のフェイスブックの投稿によると、この甲殻類が出す抗凝血物質によって血が止まらなかったものと考えられるという。同組織の海洋生物学者ジェニファー・ウォーカースミスはカニザイ氏が捕獲したサンプルを検討し、”腐肉食性甲殻類の一種フトヒゲソコエビの仲間の端脚類”が容疑者らしいと結論づけた。

 投稿によると”端脚類はときに「海のノミ」と呼ばれる。”  ”メディアは加害者を「海のシラミ」と記述して報道したが、この用語は、甲殻類の別のグループである等脚類に対して用いられるものである。”
 端脚類は咬むことが知られている”自然にいる腐肉食生物”である。しかしながら、投稿によるとこのような類の負傷を引き起こすことは普通は無いという。

 ”血が止まらなかったことは抗凝血物質によって説明でき、また非常に冷たい水によってサムは噛まれたのを感じなかった”ことが有り得るという。

 投稿によると、彼らは有毒物質をもっておらず、ケガはそう長引かない、サムはすぐ回復するだろうという。

 オーストラリアのモナシュ大学生物科学部のリチャード・レイナ助教授は、フェイスブックの投稿で”海のシラミ”がサムのケガを引き起こしたとした。

 サムが足を齧られているのに気づかなかったことに対して、レイナ氏は”私の想像に余りある非開放創だが、長時間水の中に立ち続けたことが原因となったのだろう。”と記している。

”これは、あなたが蚊をとまらせるのに少し似ているが、もし何千匹もの蚊に腕の上で30分も食事を続けさせたなら - ただならぬ反応を示すだろうが、普通はそんなことをする人はいない。”そうレイナ氏は記した。彼は人々にさほど心配しなくていいと、加えてこう綴っている。

”水から出ていなければいけない、ということはないのです。”


 

はかせ:ワシントンポストとシーエヌエヌは、どっちも「うみのノミ」ということばがあるんじゃ。えいごでは「sea flea」と書いてあったものじゃよ。

こうたくん:じゃあウミノミは、ほんとうにいるの?

はかせ:ワシントンポストには「Sometimes referred to as “sea fleas,” the amphipods will not cause lasting damage, she said.」と書いてあったんじゃ。じつは、この「シ―フリー(sea flea)」は、ヨコエビのなかまのことなんじゃよ。

こうたくん:ウミノミはヨコエビってこと?

ひろきくん: ・・・こっちは・・・ヨコエビって・・・書いて・・・あるっす。



はかせ:ひろきくん、来てたのかい。

こうたくん:だれ?

ひろきくん:・・・まりちゃんの・・・きんじょに・・・すんでます。・・・あんのひろきです。

こうたくん:せちこうたです。

はかせ:ウミノミはヨコエビとはちがう生きもので、ひろきくんがおしえてくれたほうが、正しいんじゃよ。

こうたくん:ひろきくん、すごいじゃん!

はかせ:シ―フリー(sea flea)はざっくりしたよびかたなんじゃが、ニュースのしゃしんのヨコエビは、ウミノミのなかまとは、ぜんぜんちがうんじゃよ。


こうたくん:ふ~ん。





(2)ひぎしゃのなまえ




はかせ:ウミノミと書いてあるニュースは、かなりあるんじゃ。いくつかのニュースは、あとで気づいて、「ウミノミはまちがいでした」といって、あやまったりしておるんじゃよ。

こうたくん:どうしてそうなっちゃったの?

はかせ:まず、このニュースがどうやってつたわったのか、たしかめてみようかのう。

こうたくん:うん!




国内ニュース12本,海外ニュース15本を調査。
 記事に明記されていた出典を収録したが、3AWとHerald Sunは原典を確認できず。


はかせ:ネットにあるニュースをしらべてみたんじゃ。日本のニュースはだいたいシーエヌエヌワシントンポストを元にしておるのう。
 
こうたくん:そうなんだ!

はかせ:シーエヌエヌが「ウミノミ」と言いはじめたようなんじゃが、シーエヌエヌをそのままのせているヤフーライブドアのニュースにも「ウミノミ」ということばが出てきて、いっきに広まったのじゃ。ナショナルジオグラフィックカラパイアは、べつの新聞を元にしてるんじゃが、「ウミノミ」というなまえは、つられてつかってしまったようじゃのう。

こうたくん:へえ~、ニュースっていつも正しいのかとおもってた!


はかせ:「ウミノミ」と書いてないのが、ビービーシーと、ひろきくんがおしえてくれた、ギガジンなんじゃ。ビービーシーでは「フトヒゲソコエビ」と書いてあるし、ギガジンは「ヨコエビ」と書いてあったのう。

こうたくん:つられなかったんだね!


はかせ:おそらくそうじゃろう。ニュースの書きかたが、ちがったんじゃな。

こうたくん:つられないには、どうすればいいの?

はかせ:そうじゃのう・・・ たとえば左下にギガジンがあって、その上にエーエフピービービーというニュースがあるじゃろう。

こうたくん:うん!


はかせ:エーエフピーは、とてもれきしが長いニュースのかいしゃで、あんしんのブランドなんじゃ。サムくんの話も地元のラジオなどから聞いて、オーストラリアの海にくわしい人からも話を聞いて、ほかとはちがうニュースを書いているんじゃよ。それを元にしたギガジンも、シーエヌエヌやワシントンポストとはちがうニュースになっておるのう。

こうたくん:へえ~

はかせ:あと、よく見ると、右上のエイジという新聞は、赤い線が多いじゃろう。

こうたくん:たしかに!

はかせ:エイジはメルボルンの新聞で、4本の地方ニュースと、1本のしゃせつを出しておるんじゃ。地元の海でいつもおよいでいる人にインタビューするなど、ほかの新聞のやらないことをやっておるのう。ナショナルジオグラフィックは、いっしゅんつられてしまったようじゃが、エイジを元にして、ほかとはちがうニュースを書いていたんじゃよ。

こうたくん:そうなんだ!

はかせ:ナショナルジオグラフィックは、エイジなどがとりあげている「sea lice(海のシラミ)」「ウオジラミ」として、ほかの新聞がのせていない話もとりあげているんじゃ。


こうたくん:ほかの新聞がやらないことをやればいいんだね!

はかせ:それがそうでもないんじゃ。シーエヌエヌなどの日本のニュースに、つられずに書かれたハザードラボのニュースだと、「リシエンサス両生類(りょうせいる)」という、わけの分からないことばが生まれたりしておる。「amphipod(端脚類)」を「amphibia(両生類)」に、してしまったんじゃろう。

こうたくん:むずかしいんだね!

はかせ:そうじゃのう。とりあえず、日本でもともと「ウミノミ」と言っているものと、海外のニュースで「シ―フリー(sea flea)」と言っていたものとは、ちがうことはわかったかな?


こうたくん:うん…。でも、どっちもヨコエビのなかまなんでしょ?


はかせ:そうじゃのう・・・・。こうたくん、セミとカメムシが同じなかまというのは知ってるかな?

こうたくん:カメムシってあのくさいやつ?

はかせ:そうじゃ。セミとカメムシは見た目やくらしかたがちがうんじゃが、ハリのような口をもっているとか、よくにているところもあるから、おなじ目(もく)にぶんるいされているんじゃ。ヨコエビとウミノミも、そんなかんじなんじゃよ。


フトヒゲソコエビ(ヨコエビ)とウミノミ(クラゲノミ)の関係。Lowry and Myers (2017)に基づく。



こうたくん:じゃあ、このあぶないウミノミはヨコエビなの?ウミノミなの?

はかせ:「Genefor Walker-Smith, a marine biologist at Museum Victoria in Melbourne, identified the creatures Kanizay had collected as lysianassid amphipods, minuscule scavenging crustaceans that are attracted to the chemicals emitted by decaying meat, the museum said in a statement.」と書いてあるじゃろう。ウォーカースミスさんが言うには、これはフトヒゲソコエビというなかまのヨコエビなんじゃよ。

こうたくん:フトヒゲソコエビは人を食べるの?こわーっ!

はかせ:フトヒゲソコエビのなかまはたくさんおるんじゃが、ふつうはしんだ魚を食べたりしておるんじゃ。

こうたくん:フトヒゲソコエビは日本にもいるの?

はかせ:東北のりょうしさんは「スムス」といって、海にしずんだしたいを食べる虫をよく知っているようなんじゃよ。ここには、そんな話が書いてある。あと「とやまわん」で、りょうしさんが魚がかかったあみをひとばん海に入れておいたら、ほねとかわだけになったという、そんな話がテレビに出たこともあったんじゃ。そのはんにんもフトヒゲソコエビのなかまじゃよ。

こうたくん:こわすぎじゃん!

はかせ:フトヒゲソコエビのなかまは、日本のすなはまでは、ほとんど見つからないんじゃ。

こうたくん:よかった~。これであんしんして海に行けるよ!

はかせ:海水よくのときには、クラゲやエイなどあぶない生きものも多いから、気をつけるんじゃぞい。

こうたくん:うん!



(3)けんしょう



ひろきくん:・・・でも・・・フトヒゲソコエビはほんとうに・・・はんにん・・・なんですかね・・・。



はかせ:ひろきくん、なかなかするどいのう。じつは、何とも言えないんじゃよ。

こうたくん:ええっ!?こんなに引っぱったのに!?

はかせ:ホッホッホ、すまんのう。ニュースには「ちが止まらなくなった」と書いてあったじゃろう?

こうたくん:そうだったかも…

はかせ:ちが止まらないのは、フトヒゲソコエビが「ちをかたまらなくするぶっしつ」を出しているから、という人もおるんじゃが、それはヒルのように、ふだんから「ちをすっている」生きものが出すもので、しんだ魚を食べているフトヒゲソコエビのような生きものが出すとは、思えないんじゃよ。

こうたくん:そうなの!?

ひろきくん:・・・ヨコエビのなかまについて・・・日本一か二か三か四のせいたいけんきゅうしゃの人が・・・このブログで・・・ニュースにダメ出ししてる・・・っすね・・・

こうたくん:すごい人がいるんだ!


はかせ:これはすごい人のブログを見つけたのう。じゃが、ユーチューブを見て「ナミノリソコエビ」と言っておる。 ナミノリソコエビ科は、2004年からほかのヨコエビも入ることになったんじゃが、もともとは、すなはまにもぐって小さなエサのカケラを食べているヨコエビなんじゃ。

こうたくん:ちがうヨコエビなの?

はかせ:フトヒゲソコエビとはちがうんじゃ。日本にいるものとくらべても、目はここまで大きくないし、こんなに力強くおよがないし、「生にく」にむらがったりはせんのじゃよ。

ひろきくん:・・・オーストラリアにいるのが・・・とくべつということは・・・ありませんかね・・・?

はかせ:そうじゃのう・・・すなにもぐるナミノリソコエビは今のところ12しゅいるが、中国、かんこく、日本、カナダ、アメリカなど北たいへいようだけにすんでおるんじゃ。今のところオーストラリアでは見つかっておらん、ということじゃ。あと、ABCなどの新聞には、ウォーカースミスさんは、サムくんのお父さんがあつめた「ひょうほん」をその目でたしかめてから、「フトヒゲソコエビ」という答えを出したと書いてある。このユーチューブのヨコエビを「ナミノリソコエビ」と言うのは、むりがあるのう。

こうたくん:なんだ~またうそか~。


フトヒゲソコエビ類とナミノリソコエビ類
太い触角など似ている特徴もあるが複眼の形状は全く異なる。


はかせ:それが、あながちウソとも言えんのじゃ。このブログでは、ヨコエビがとれたからといってケガはさせてないと思う、スナホリムシがやったのではないか、と言っておるじゃろう。たしかに、明らかにスナホリムシにかまれてケガをしたという話はネットで見かけるんじゃが、生きた人がヨコエビにかまれてケガをしたという話は、これといったものがないんじゃ。

こうたくん:え~!?

はかせ:これは、こうかくるいのけんきゅうをしている人が、フェイスブックでしょうかいしてくれた話じゃ。海外のけんきゅうしゃが教えてくれたらしい。



  このニュース記事を見てすぐ、私は博物館のコレクションにあるPseudolana concinna(スナホリムシ科)の標本のことを思い出した。

 これは1959年の夏にパース海岸にほど近いロットネスト島(西オーストラリア)で採集されたものだ。古い登記書類にはこのような備考がある ”水辺に座っていた小さな子供のペニスに取り付いて食らいついてた;非常に出血していた”。確証はないが、その小さな子供は、当時の西オーストラリア博物館理事長の息子だったと考えられる。


アンドリュー・ホジー氏(西オーストラリア博物館)の証言





こうたくん:ふぇぇ・・・っ・・・

はかせ:男子には、ちとつらい話じゃのう。これは、サムくんのお父さんが海にもどってフトヒゲソコエビをあつめてウォーカースミスさんに見てもらう前のニュースじゃが、この時に、うたがわれていたのが、スナホリムシのなかま(モモブトスナホリムシぞく)なんじゃよ。このニュースはオーストラリアのゆうめいなおいしゃさん、ドクター・クリス・ブラウンがフェイスブックでしょうかいして、ネットで広まったんじゃ。ほかにも、スナホリムシがあやしい、と言っている人はけっこういるんじゃよ。


こうたくん:ってことは、スナホリムシがやったの?

はかせ:それじゃあ、これまでのニュースやしょうげんを、まとめてみよう。

こうたくん:うん!

各メディアの報道より抜粋した専門家の意見。
Facebookへの投稿を記事に掲載したものなど、
メディアによる直接取材に基づかないものもあるが、特に区別せずに集めた。


はかせ:この中で、ヨコエビのろんぶんをよく書いているのは、ニューサウスウェールズ大学の「プアじょきょうじゅ」と、メイン大学の「ワットリングきょうじゅ」じゃのう。シドニー大学のはかせは、お父さんがつかまえた「ひょうほん」を見ないで「ニセスナホリムシ」ときめつけておるようじゃが、あやしいもんじゃ。

こうたくん:「きょうじゅ」や「はかせ」でも、分からないの?


はかせ:たとえば、サムくんの足に食らいついている時につかまえたら、何でキズがついたのか、なやむことはないじゃろう。

こうたくん:そうだね。

はかせ:おしいことじゃが、サムくんは「しんはんにん」をつかまえてないし、すがたを見てもいないんじゃ。ただ、「水から上がる時に足にすなのようなものがモヤモヤまとわりついていた」という話をしておるから、小さな生きもののしわざとかんがえてみよう。そうすると、やはりフトヒゲソコエビとスナホリムシが、ようぎしゃになるんじゃ。「はかせ」や「きょうじゅ」も、答えを出すために、もっと知りたいことがあると思っているはずじゃ。

こうたくん:なるほどね。

フトヒゲソコエビ類とスナホリムシ類の比較。
人を出血させる可能性は、スナホリムシ類の方が高い。
一方、サム・カニザイ君の近くにいた可能性が高いのは、フトヒゲソコエビ類である。
サム君に傷を負わせたことについて、
どちらも裏が取れている状態ではない。


はかせ:ところでこうたくん、ダイダラボッチの話をおぼえているかな?

こうたくん:えっと・・・大きいヨコエビはうそだったっていう・・・

はかせ:ちがわい!ダイダラボッチはたしかに海の中におるんじゃが、つかまえようとしても、ちょっと日がたったりすると、もうつかまらないという話じゃわい。

こうたくん:ああ、そういえば・・

はかせ:サムくんのお父さんはフトヒゲソコエビをたくさんつかまえたが、それがほんとうにサムくんが海に入っていた時にもいたのか、たしかめることはできないんじゃよ。

こうたくん:ほかにかまれた人は、ほんとうにいないの?

はかせ:サムくんのニュースが広まったあと、オーストラリアのクイーンズランドにある「ゴールドコースト」というところで、3年前に同じような生きもの「シーライス(sea lice)」にかまれた、ということがあったらしく、アデーレ・シュリンプトンという女の人の話が、オーストラリアの新聞に出たんじゃ。2015年には、ヴィクトリアにある「サンドリンガム」というところで、ニック・マリーとウィル・マリーという父子が、サムくんほどではないが、こまかいキズをたくさんうけていたんじゃ。この時はメルボルン大学「マイケル・キーオきょうじゅ」が、「シーライス(sea lice)」だったと言っていたんじゃ。

こうたくん:シーライス?カレーライスみたいなの?

はかせ:ちがわい!ナショジオの話にも出たじゃろう。この「ライス」はお米じゃなくて、「シラミ」のほうじゃ。ウオジラミのことを「シーライス」とよぶこともあるが、シーエヌエヌのニュースでウォーカースミスさんは、スナホリムシのなかまの「とうきゃくるい」のことじゃと言っておる。どのみち、ヨコエビとはちがうんじゃ。

こうたくん:ええ~!じゃあ、スナホリムシがはんにんじゃん!

はかせ:そうとも言えるんじゃが、シュリンプトンさんがかじられてケガをしているとき、あせっていたはずじゃから、スナホリムシヨコエビを正しく見分けていたとは思えんじゃろう?これも、はんにんときめつけることはできないんじゃ。

こうたくん:けっきょく、どっちも人を食べるってこと?



(4)さいはんのおそれ



はかせ:サムくんやシュリンプトンさんをおそったのは、どっちか分からんが、もしこうたくんが海でかじられるとすれば、スナホリムシの方かも知れないのう。

こうたくん:そうなの!?





ニセスナホリムシとフトヒゲソコエビ類の比較。
矢印は、大顎のナイフ状突起の有無を示す。
体長は、Auroi onagawaeが11mmで、
ニセスナホリムシは12~13mmである。
スナホリムシ類の大顎の切歯部および中間突起は、
Auroi onagawaeより発達していると考えられ、
より肉食に特化している可能性がある。



はかせ:ヨコエビやスナホリムシは、「大あご」をもっておる。これをつかって、食べものをこまかくするようなんじゃが、食べものによって、かたちはちがうんじゃ。「ワットリングきょうじゅ」が言っていたのも、これじゃな。


こうたくん:ふ~ん。

はかせ:スナホリムシのなかま(ニセスナホリムシCirolana harfordiは、「大あご」に大きなナイフのようなものがついておる。じゃが、フトヒゲソコエビのなかま(アウロイ・オナガワエAuroi onagawaeには、それはないんじゃ。おそらくじゃが、にくを食べるのがとくいなのは、スナホリムシの方なんじゃよ。

こうたくん:そうなんだ!



(5)そうさしゅうりょう



はかせ:けっきょく、はんにんのきめては、見つからなかったのう。


こうたくん:どうすればいいの?

はかせ:たしかなことを、1つずつ、つみかさねることが、ちかみちになるんじゃ。さっき、シーエヌエヌのニュースが日本でいろいろなニュースにそのままながしていた、という話があったじゃろう?

こうたくん:あったかも。

はかせ:シーエヌエヌは”「ウミノミ」原因か”という見出しだったんじゃが、ライブドアニュースは”原因はウミノミと判明”と、きめつけたんじゃ。おんなじニュースなのに、見出しだけ、おおげさに書いたんじゃよ。

こうたくん:ええー!?うそじゃん!

はかせ:ライブドアだけではないぞい。カラパイアはヨコエビのしゃしんを、ウィキペディアコモンズから引っぱってきたんじゃ。これはBathyporeia sarsi(バシポレイア・サルシィ)というヨコエビなんじゃが、「Amphilochideaあもく」のフトヒゲソコエビではなく、べつの「Senticaudataあもく」「Gammaridaかもく」のなかまなんじゃ。カラパイアはほかにも、「half an hour」を「30分」ではなく「一時間半」と言ったり、かなりざつなんじゃ。


こうたくん:ええーっ!?これもうそじゃん!


はかせ:「ウミノミ」というなまえも、よくしらべてみるとまちがっていたし、お父さんがつかまえたフトヒゲソコエビも、しらべてみると、はんにんとは言いきれないことが分かったじゃろう。あせって、おおげさに言うと、知らず知らずのうちに、うそをついてしまうこともあるんじゃ。

こうたくん:うん!帰ったらお母さんにも教えてあげようっと。







(参考ウェブページ)

- ABC. 'Sea bug' creatures behind bloody attack on Melbourne teen's legs identified as amphipods. (投稿:現地時間2017.8.7 15:27)
- abc 10 NEWS. Teen taken to hospital after dozens mysterious sea creatures bite his feet. (投稿:現地時間2017.8.7 14:30)
- AFP BB. 海に漬かって血だらけに、足に原因不明の無数の穴 オーストラリア.(投稿:日本時間2017.8.7 22:00)
- AFP BB.  海で両足血まみれの少年、原因は肉食小型甲殻類? 父親が写真公開.(投稿:日本時間2017.8.10 12:17)
- Au one. 海水に浸した両足が血まみれに、「ウミノミ」原因か 豪州. (投稿:日本時間2017.8.8 11:47)
- BBC news. Sea bug attack: Why was a wading teenager left covered in blood? (投稿:現地時間2017.8.8)
- BBC日本版.豪の16歳、海に足をつけたら血だらけに 出血止まらず.  (投稿:日本時間2017.8.8)
- BIGLOBE.  海の中にある恐怖。オーストラリアの少年を襲った人食いヨコエビ(小型甲殻類大量注意).(投稿:日本時間2017.8.12 22:30)
- BUZFEED NEWS. An Australian Teenager's Legs Were Eaten By Sea Fleas And Everyone Is Traumatised. (投稿:現地時間2017.8.7 20:13)
- CNN. Are 'sea fleas' to blame for bloody bites on Australian teen's legs? (投稿:グリニッジ標準時2017.8.8)
- CNN日本版. 海水に浸した両足が血まみれに、「ウミノミ」原因か 豪州. (投稿:日本時間2017.8.8 11:47)
- Daily mail. 'He was in the wrong place at the wrong time': Expert solves mystery of exactly what ate teen's flesh when he went for evening swim at Melbourne beach - and why he was targeted. (発行:英国夏時間2017.8.7 11:25,投稿:英国夏時間2017.8.7 13:45)
- Dr. Chris Brown Facebook (投稿:現地時間2017.8.8 11:47)
- excite NEWS. 海の中にある恐怖。オーストラリアの少年を襲った人食いヨコエビ(小型甲殻類大量注意).(投稿:日本時間2017.8.12)
- フジテレビ FNSアワード. 第19回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『不可解な事実 ~黒部川ダム排砂問題~』 (制作:富山テレビ)
- GIGAZINE. 海から上がった少年の足に出血を伴う無数の穴ができるホラー現象発生、その原因とは? (投稿:日本時間2017.8.8 17:00)
- ハザードラボ. 閲覧注意「血が止まらない!」ビーチで謎の生物に足を食われた少年 豪州. (投稿:日本時間2017.8.8 13:48)
- Herald Sun. Gold Coast woman recalls sea flea bites after Melbourne teen likely ‘eaten’ by critters. (投稿:現地時間2017.8.8 22:56)
- Herald Sun. Sea lice bite and draw blood from swimmers at Sandringham beach. (投稿:現地時間2015.8.6 2:17)
- Independent. Experts reveal why Australian teenager's legs were ravaged by 'meat fleas' on Melbourne beach.  (投稿:英国夏時間2017.8.8 10:36)
- カラパイア. 海の中にある恐怖。オーストラリアの少年を襲った人食いヨコエビ(小型甲殻類大量注意). (投稿:日本時間2017.8.12,訂正:日本時間2017.8.14)
- 駒井智幸  Facebook (投稿:日本時間2017.8.11 12:32)
- LIVE SCIENCE. Horror at the Beach: 'Sea Fleas' Dine on Aussie Teen's Legs. (投稿:東部標準時2017.8.7 20:11)
- livedoor NEWS. オーストラリアで海に入った少年の足が血だらけ 原因はウミノミと判明. (投稿:日本時間2017.8.8 11:47)
- msn. Flesh-eating bugs at Brighton beach: What really ate Sam and why. (投稿:現地時間2017.8.7)
- National Geographic. Mysterious Flesh-Eating Sea Creature Causes Shocking Injury. (投稿:現地時間2017.8.7)
- ナショナルジオグラフィック日本版ニュース. 【動画】海で脚が血まみれに、犯人は?対策は? (投稿:日本時間2017.8.8,訂正:日本時間2017.8.9)
- 漁師の徒然なるブログ. 海の分解者 スムス. (投稿:日本時間2010.08.27 17:3'57")
- The Age. It's not a movie: Did marine critters eat Brighton teenager's legs? (投稿:現地時間2017.8.7)
- The Age. Explainer: What are sea fleas anyway? (投稿:現地時間2017.8.7)
- The Age. Bitten teen's dad films Brighton Beach sea fleas enjoying a meal of fresh meat. (投稿:現地時間2017.8.7)
- The Age. Flesh-eating bugs at Brighton beach: What really ate Sam and why.  (投稿:現地時間2017.8.8)
- The Age.Flesh-eating sea fleas enter the great Aussie wildlife folklore. (投稿:現地時間2017.8.8)
- The New York Times. Mysterious Sea Creatures in Australia Chew Up Teenager’s Legs. (投稿:現地時間2017.8.7)
- The Washington Post. Flesh-eating sea bugs attacked an Australian teen’s legs: ‘There was no stopping the bleeding.’ 
- Time. Strange Sea Creatures Chewed Up This Teen Boy's Legs. (投稿:東部標準時2017.8.7 11:37)
- 超サーランピー.【取り急ぎ】オーストラリアの海辺で青年が「ウミノミ」に足を食われて血まみれ事故案件について、ご質問へのお応えと所感.(投稿:日本時間2013.8.13) 
- Wikipedia commons. File:Bathyporeia sarsi.jpg
- Yahoo! ニュース.海水に浸した両足が血まみれに、「ウミノミ」原因か 豪州. (投稿:日本時間2017.8.8 11:48)
- YAHOO! 7. WATCH: Mystery sea creatures devour meat after vicious attack on teen.  (投稿:現地時間2017.8.7)





(参考文献)

- Barnard, J.L., G.S. Karaman 1991. The families and genera of marine gammaridean Amphipoda (except marine gammaroids). Part 1-2. Records of the Australian Museum, Supplement 13(1), (2): p.1–866. 
- Bousfield, E.L., N.L. Tzvetkova 1982. K izucheniju Dogielinotidae (Amphipoda, Talitroidea) iz priborezhnijh vod severnoij chasti Tihogo okeana. In; Korotkebich, B.S. (ed.) Bespozvonochnije pribpezhijh biochenozov Sebernogo ledovitogo i Tihogo okeanov. Issledovaniya faunij morej L.: Zool. in-t AN SSSR. 29(37): 76-94. (in Russian with English abstract)
- Jo, Y.W. 1988. Taxonomic studies on Dogielinotidae (Crustacea - Amphipoda) from the Korean coasts. Bijdragen tot de Dierkunde, 58(1): 25-46.
- Lowry, J.K., A.A. Myers 2017. A Phylogeny and Classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265 (1): 1-89.
- Ren, X. 2006.  Fauna Sinica, Invertebra. Vol. 41, Crustacea, Amphipoda, Gammaridea (I). Science Press, Beijing, China. 588 pp.
- Serejo, C.S. 2004. Cladistic revision of talitroidean amphipods (Crustacea, Gammaridea), with a proposal of a new classification. Zoologica Scripta, 33: 551–586.






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補遺(18 VIII 2017)
・コメント欄を通して指摘を受け、ブログ記事に対する「よこえびはかせ」のコメントを修正(赤字)。

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補遺[2] (15-VIII-2024)
・一部書式設定変更。