ヨコエビの話をするとよく出てくる「それって食えんの?」という質問。結論から言うと、食えなくはないものの、一般的な食材となりえない要素がいろいろある感じです。以下、国内の例を挙げてみます。
古典から
— 茅原定 1833.『茅窗漫録』中巻.
四国ではワレカラを酒の肴にするとのこと。ただ、調理法は不明です。
また、山形県などの地域で食用にされていたという記録もあるようです(サイカルJournal)が、原典を見つけることはできませんでした。一方、クジラジラミについては食用にならんと一蹴している文献もあるとのこと(小山田是清 1829. 『勇魚取絵詞』)。
救荒食
— 原徹一・早川孝太郎 1944. 『戦時国民栄養問題』. 霞ケ関書房.
非常時の代替食糧として検討されたことがあるようです。このあたりは前述の伝統食がヒントになってるのかもしれません。
プレミア
— のりのふくい磯音ニュース「少し変わり種の海苔の話/えび等級というナゾの海苔」(2020/11/5)
「エビ入りの海苔はプレミア」という話は海苔業界の方から聞いていたのですが、こうしてネット記事になっている例はあまり多くない気がします。
現代の冒険者たち
— 東京湾のヨコエビガイドブック Open edition ver. 2.0 (2021/3/22)
水槽に湧いていたフトメリタをレンチンして醤油味にしたものです。エビの香りがしてうまいですが、肉はほぼ感じません。
— 原人のCatch & Eat「【キチ○イ回】ワレカラを食う!」 (2016/4/4)
玉ねぎや三つ葉?と一緒にワレカラをかき揚げにすると、香りが立って美味いようです。
— TW釣りetc.「ヨコエビを食ってみた」(2019/5/30)
これは有名な記事ですね。ヒゲナガハマトビムシを脱糞させて塩茹でにて齧ったはいいものの、汚いモノを食べてる気がして完食できなかったとのことです。確かに…
そもそも食べて大丈夫?
端脚類は固い殻を持ち、何かに隠れたり、泳いで逃げたり、トゲを生やしたり、あるいは多産でカバーしたりと、ケミカル方面以外の戦略を発達させているためか、毒を持ってるという注意喚起はあまり見かけません。
ワレカラにおいて咬脚に"poison tooth"と呼ばれる器官があり、どうやら水中で格闘する時に相手に毒の一撃を加えるもののようです。捕食された後に効かせることを想定したものではないにせよ、食べ方によっては口などに刺さるかもしれません。
また、海産物にコンタミしがちな端脚類にはアレルギーの表示義務はありません(塩見一雄 2009. 「えび」,「かに」のアレルギー表示の義務化. 日本水産学会誌,75(3): 495–499.)が、がっつりアレルゲンが含まれています (Motoyama et al. 2007. Allergenicity and allergens of amphipods found in nori (dried laver). Food Additives & Contaminants, 24(9).) ので、えびかにアレルギー持ちの方は忌避すべき食材です。混入については「えびかにが棲息する海域で採取」などとやんわり示唆するメーカーが多いので、事前に確認すべきでしょう。
さらに、生態系において分解者の役割を果たすヨコエビは、生物濃縮により有害な化学物資を溜め込んでいる可能性があります (一例:Curtis et al. 2019. Effects of temperature, salinity, and sediment organic carbon on methylmercury bioaccumulation in an estuarine amphipod. Science of The Total Environment, 687(15): 907–916. )。そういった面を考えると、無理して食べるべき食材でもないような気はします。