2016年6月7日火曜日

江ノ島のヨコエビ観察不完全ガイド(6月度活動報告)

 いかがお過ごしでしょうか。

 潮が引く日にはいてもたってもいられず、仕事をサボ休暇をとって訪れたのはこちら。



江ノ島です。


 去年秋、片瀬海岸よりホソツツムシCerapusとハマトビムシPlatorchestia、そしてホソヨコエビEricthoniusの触角を持ち帰ったことは記憶に新しいものの、その日はえのすいを満喫したところで日暮れも迫り、江ノ島上陸は断念しました。 「湘南の海にヨコエビを求めて」
 今回はそのリベンジです。


 片瀬海岸はやや泥の混じる粗砂の環境で、岩場には褐藻なんかがウネウネしてるイメージ。江ノ島に行った人から桟橋の下に大量の海藻が見えたと聞き、これはモクズヨコエビのフィーバーではないかと妄想を逞しくしておりました。



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 最干潮は昼、事情により上げ潮に転じるくらいのタイミングで到着しました。小雨ちらつくあいにくの天気にも関わらず途切れない人の列。やはりみんなこの潮を狙ってヨコエビを取りに来たのでしょうか(違)





 本土と連絡する橋のすぐ脇、砂泥底の上に転石やら漂着物やらが程よく乗っかっている海岸が見えます。名前の分からない紅藻が散乱していてgood!

今日の装備はとりあえずジーパンにスニーカー、念のため胴長と合羽をリュックに忍ばせてあります。




 おもむろに石の上の紅藻をちぎって掻きわけてみると、根元から出てくる出てくるモクズヨコエビ類、そしてカマキリヨコエビJassa属。

赤,緑,橙など色鮮やかなモクズヨコエビ類
Jassaのオス
 1ガサ目でこの成果とは、順調すぎる滑り出しです。

ちなみに根元のヒゲがない紅藻にはほとんど何もいない
  

 砂泥底にベタッと横たわる藻類やロープのかたまりをどかすと、モクズヨコエビ類に混じってフトメリタMelita rylovaeらしきものが採れます。(※補遺1)
緑のはモクズ、黒っぽいのがメリタ(おそらくフトメリタ)




 汀線の石の表面の紅藻を洗ってみると、わずかにヒゲナガヨコエビ科とドロクダムシ科が出るものの、カマキリヨコエビはついぞ見ず、ほぼモクズヨコエビ類しか出ません。モクズヨコエビ、だんだん食傷気味になってきます。このモクズも恐らく1種ではないのでしょうが、今回はとにかく潜在的なヨコエビリティ(ヨコエビが採れる可能性)の把握を目的としているので、似たものをそんなに採っても仕方がないのです。

 褐藻は打ちあがっている量が少なく、ヨコエビもほぼついていない。ここでは紅藻を狙うのがよいようです。

 ヨコエビと一緒によく採れるのがコツブムシ。イソガニっぽい丸みの強いカニ(未成熟含む)も多いです。





 陸側のコンクリート表面を黄色い双翅目幼虫が這い回り、それに混じっている黄色味を帯びた甲殻類はドロクダムシ科。どこから出てきたのかとよく見てみれば、階段も柱もことごとく表面がドロクダムシの巣で覆われています。表面にいるのは干潮時に巣に戻れなかった個体と思われますが、もしかしたら他に何か事情があるのかもしれません・・・  

この密度、恐らく平米数十万個体には達しているのではないか(適当)

  イガイやタテジマイソギンも共存しているようですが、付着の密度はとても低い。アリアケドロクダムシに覆われた三番瀬の杭でももう少しムラサキイガイやユウレイボヤが頑張ってる気がします。

  ちなみに、ここのドロクダムシはアリアケばかりの三番瀬とは異なり、トンガリドロクダムシMonocorophium insidiosumっぽいです。

石の上の藻類から採れたヒゲナガヨコエビ(※補遺1)とドロクダムシ、赤いのはモクズ



 石やカキをどかしてみると、モクズヨコエビ類よりフトメリタが多いです。(※補遺1)そしてなぜか暴れない。三番瀬でも新浜でも石をどかすとすぐに逸散してしまいますが、江ノ島のヨコエビはどっしり構えています。気温のせいか、土地柄なのか・・・・。とにかく接写の撮影は非常にやりやすそうです。

  その中に、見慣れないドロクダムシ上科ぽいヨコエビを見つけて拾ってみました。ニッポンドロソコエビよりかなり小さいですが、触角が赤味を帯びているドロソコエビGrandidierella属(ユンボソコエビ科)のようです。
触角の縞模様の違いは微妙ですが、オスの第一咬脚の基節の膨らみ具合がニッポンドロソコより弱い気がします 触角柄部はニッポンドロソコより太い気が・・・(※補遺1)

 今回は胴長の出番はなく、波を避けながら軽い足取りで採集を決めました(?)。
 潮目を選べば、長靴やマリンブーツで楽しめると思います。



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  さて、潮があがってきたため撤収。
  更なるヨコエビリティを求めて海岸の偵察をすることにします。

地元の海鮮を売るお店を眺めていたところ、うっかりホンビノスを発見してしまう



  橋の反対側の砂浜は、陸繋島たる江ノ島を象徴するような、本土との間に大きく弧を描いた砂州が波に洗われる光景が拡がっています。
  この砂浜からもややヨコエビリティを感じますが、前回はハマトビムシすらそれほど採れなかったことから、採集にはフルイを用いるなど工夫が必要かと思われます。

 
 江ノ島側の護岸には良い感じに付着生物がついて紅藻も漂い、ヨコエビリティの高さが伺えるものの、降りる階段などはありません。網で掬うか、本土側から歩いてくるか…一人ではやらないほうがよさそうですね。



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 更に進むとヨットハーバーに到着。
 
 
 桟橋や杭、ロープなど、船だまりにはヨコエビリティ高めのアイテムがつきものですが、いかんせんそうしたものを物色する行為は要らぬ警戒を引き起こすことが予想されます。案の定、桟橋の垂直面に触れられるような場所には、関係者以外立ち入り禁止の標示あり。



 ヨットハーバーのエリアの真ん中は突堤のような感じになっています。とりあえず先端まで行ってみます。

 すると・・・なんと、岬の先端に謎のスペースが・・・



タイドプールで・・・遊ぶ…だと…?

 お言葉に甘えてヨコエビを探します。

 お座なりに組まれてコンクリで固められた石の枠が、砂利の溜まったプールを囲むような構造です。


 プールの中には意図されているのかいないのか、いい感じに泥の溜まった部分もあり、何らかの生活痕も見えます。

  泥の上に転石が乗っているのでめくってみるとフトメリタ。(※補遺1)

  砂利の上の石の下には、シミズメリタっぽい白くて小さいヨコエビ。より大きく黄色っぽいメリタもいて、タイドプールでは3種程度のヨコエビがみられましたが、いずれもメリタです。

  壁面や転石ばかりでなく、捨てられたゴミの表面にもサンゴモが付着し、まさに磯的な環境となっています。ケガキとヒサラガイがあたちこちにひっつき、石の裏にはタマキビやトウガタガイ科っぽい巻き貝がみられます。
 
 ヤドカリもユビナガなどではなく干潟では馴染みのないもの。イソヨコバサミっぽいのは橋の下の砂泥底にもいた気がしますが、ここにいるのはホシゾラヤドカリ?江ノ島のヤドカリ相の論文を見つけましたが、このタイドプールは調査ポイントに入っていないっす。 また、フジツボの空き殻を拾い上げると、イソカニダマシぽい異尾類も見つかりました。

 カニ相はやはりイソガニが優占しているようです。

 プールの水が多いところに動きがあると思ったら、イソスジエビ的な十脚類。エビはもうええんや、ワイはヨコエビがほしいんや。


 結論: ここはメリタ天国


 タイドプールまわりは大型藻類がない代わりに石の表面に付着したサンゴモやその他のうっすらした藻類が非常に滑りやすく、サンダルはもってのほか。ただの長靴でも厳しいかもしれません。マリンブーツか胴長で、グローブを付けるなど手を切らないような工夫も必要です。



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 さらに足を伸ばしてみたところ、防波堤の先で釣り人が並んでいる岩場を見つけたものの、装備をもう少し考えねばならないと思われます。江ノ島の西半分はこのように天然の岩礁となっていて波当たりも強く、1人で行くと何かあったときにいろんな人に迷惑をかけるかも。

by Google Map


A:砂泥底
B:タイドプール



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橋を渡って本土へ戻ります。
ここは前回、ハマトビとホソヨコエビを採った場所ですね。



  漂着ワカメを攻めるも収穫なし。
 何だか期待して泣きそうな気持ち・・・

  このポヤポヤした紅藻(雑)にはモクズヨコエビやドロクダムシなどいろいろいました。

 そして念願の・・・
メスと思われますがフサゲヒゲナガAmpithoe zachsiの可能性が高いです
自分の手でフィールドでGETしたのは初めてのフサゲヒゲナガ的なヨコエビ。



   陸由来の漂着物、イネ科植物のヒゲ根をかきわけてみると・・・


モクズヨコエビ類。とにかくでかく、フサゲモクズの比ではない。

 巨大なモクズヨコエビが登場。小さな個体はもう見なかったことにして、十分に成熟した2カップルを持ち帰りました。
 このオス2個体の模様の違いが気になりますが、同所的に産していることから考えると、種内変異と思われます。
 


 これはかつて土嚢だったと思われるポリエチレンの編み製品。 
 モクズヨコエビがたくさん、そして小さなカマキリヨコエビ。



 他の漂着物を見ながらハマトビムシを探しましたが巡り会うことはできず。

 10月にはみられなかった巨大モクズヨコエビの嵐、潮目や漂着物の状態によるのか、季節性があるのか。


 本土側の砂泥底は長靴で楽しめそうです。普通の靴の場合は、木の枝などを持ってると、漂着物を引き寄せるのに使えるかもしれません。
  今日はバットを持っていきつつも全編をピンセットだけで強行しました。流れ藻などは水を入れたバットにぶち込んでからソーティングすると見やすく、またモクズが跳ねて逃げることも防止できます。

 チャック付き小袋を用意して臨みましたが、現場で「ドロクダムシ上科」「その他」に分けるようにしました。前回の教訓で、ハマトビムシのような掃除屋さんが他のサンプルを齧ってしまうような悲劇を繰り返してはならないと思ったからです。この点ではモクズが怖いのと、あとはコツブムシ。幸い、コツブムシが混入したパックでカマキリヨコエビのバラバラ死体が見つかるようなことはありませんでしたが、たぶんこいつはやらかすタイプです。コツブムシを持って帰っても学問のまな板に載せる予定はないのと、サンプルに悪さをするリスクから、なるべくコツブムシは海に返してから帰宅したいものです。
 ここでドロクダムシ上科を特別扱いするのは、身体が華奢なこと,フィルターフィーダーが多く互いに食べあうことがない,グレーザーであるヒゲナガヨコエビは純草食でやはりサンプルを害することがない、などの理由です。もし肉食性の種が採れたらそれはまたモクズのパックとも別にしなければならないと思います。




 今回は突然の思いつきで敢行となりましたが、今後は計画的に調査したいです! 
 あと、できれば桟橋の付着系もやりたい・・・



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<参考文献>

- 北嶋 円・伊藤寿茂・岩崎猛朗・冨永早希・佐野真奈美・植田育男・村石健一・萩原清司 2014. 江の島の潮間帯ヤドカリ類相. 神奈川自然誌資料, (35): 17–24.


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<補遺1>


ヒゲナガヨコエビ属 Ampithoe

 
 江ノ島の紅藻上のものはオスのみ同定し、A. validaの形質と概ね合致しました。
 本土側のフサゲヒゲナガ的な個体は抱仔メスでした。未同定です。


  

 ドロソコエビ属 Grandidierella

  本邦既知種の中ではアカヒゲドロソコエビG. insulaeに似ているものの、まだ検討できていない形質があります。


カマキリヨコエビ属 Jassa

 
  本邦既知種の中ではフトヒゲカマキリヨコエビJ. slatteryiに似ています。オスのサンプルにおいて形態変異の幅が大きく、研究材料としては良いものが採れましたが、同定には時間を要すると思われます。


 メリタヨコエビ属 Melita

 
  フトメリタによく似た色彩でしたが、触角および第3尾肢の形質を検討したところ、別種と判断されました。タイドプールのコーナーでは採取していませんので更に違う種かもしれませんが、フトメリタ然とした色合いはよく似ていました。




(2016年6月8日)

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2016年5月29日日曜日

5月度活動報告(東浜調査/文献調査)

 ご無沙汰しております。

 4月末より別件にて取り組んでいたことがあり、ブログ更新を後回しにしていたところ気がつけばタイムリミット。月内になんとか更新を。
 その別件についてはリリースされたらご紹介できると思います。


<三番瀬東浜調査>



 さて、5月度は三番瀬海域のベントス調査でヨコエビを探すも、主にモズミヨコエビAmpithoe validaとアリアケドロクダムシMonocorophium acherusicumしか見つからず、心なしかシミズメリタヨコエビMelita shimizuiも少なくなっているように思われました。ちなみにコドラートでの検出はなかった模様。

 生息基質には大きな変化があり、特に汀線側はカキ礁が派手にぶっこわれて破片が砂干潟を覆っている状況で、 潮間帯最下部あたりから広大なカキ礁が広がって、一般の方がそこで何を掘っているかというと還元土壌に染まって真っ黒になったホンビノスだったりして、何とも言えない光景が繰り広げられていました。
  ただ、カキ礁が干潟面を遮るように出来ると潮通しが悪くなり、カキの偽糞で有機物だらけになって干潟が死んでしまうかと思いきや、潮の流れが大きく変化した結果、カキ礁の手前の汀線付近の干潟の底質はさほど悪くないというか、むしろ以前の中途半端な場所にカキ礁があった頃より改善しているような印象でした。

 付着生物として優先しているアリアケドロクダムシの中からカマキリヨコエビが見つからないかと試みましたが発見ならず。今シーズン三番瀬で確認されたヨコエビは5種に留まっており、さみしい限りです。
地形が変わって大きな川が形成されていて、小学校の「水の流れ」の授業とかできるのではないかと。




<文献紹介>


佐藤隼夫・伊藤猛夫  1980. 『改訂 無脊椎動物採集・飼育・実験法』 (1956初版), 北隆館, 東京.



 僕が生まれる前に出た本ですね。そのためISBNコードもありません。


 この本にヨコエビが取り上げられていると知り、 もしかして飼育方法なぞを掲載しているのではと勘繰り、探して買いました。



 本書においてヨコエビが扱われている章は 13-1・8端脚類(Amphipoda)(p.257-258)。
掲載されているヨコエビは以下の種です。



 二ホンソコトビムシ [as Ampithoe japonica (synonymized taxon)] Ampithoe lacertosa Bate, 1858

 トゲドロクダムシ [as Corophium crassicorne] Crassicorophium crassicorne (Bruzelius, 1859)
 キクイモドキ Chelura terebrans
 ツノフトソコエビ [as Orchomenella nanaTryphosa nana (Krøyer, 1846)

 テングヨコエビ Pleustes panopla
 モクズヨコエビ [as Hyale grandicornis] Apohyale grandicornis (Krøyer, 1845)
 ヒメハマトビムシ [as Orchestia platensis ; not Platorchestia platensis (Krøyer, 1845)] cf. Platorchestia joi Stock & Biernbaum, 1994
 ヒゲナガハマトビムシ [as Talorchestia brito ; not Britorchestia brito (Stebbing, 1891)] cf. Trinorchestia trinitatis (Derzhavin, 1937)

 イソヨコエビ Elasmopus japonicus
 ニッポンヨコエビ [as Rivulogammarus nipponensis] Gammarus (Rivulogammarus) nipponensis (Uéno, 1940)
 シコクメクラヨコエビ Pseudocrangonyx shikokunis


 学名は近年の知見を元に直してみましたが、和名が今と違うものや、学名の対応に疑問が少なくないため、これを無視して引用などはできない代物です。生態情報は属ないし科レベルで理解できますので、本書の記述は和名に付属して定義される日本個体群の概論ということで、細かい分類はこの際はよいことにします。


 この顔ぶれ、蟹で言うところの渓流にサワガニ、干潟にオサガニ、岩場にイソガニといったオーソドックスなチョイスと思われます。ヨコエビについて「ベタ」と呼べるほど定番化したメニューはなく、これは貴重な資料です。

 特筆すべきは、ツノフトソコエビの紹介で筆者はこの仲間が魚を骨にするのを見たなどと書かれている点。実はヨコエビの入門に適した主な日本語の文献(永田1965;石丸1985;菊池1986;平山1995)において、この手の記述は見当たらない。貴重です。

 飼育については個別には記述されておらず、概ね同じだから他の各種小型甲殻類を参考にしてくれと軽くあしらわれております。

 まあ、かなり広範な生物を扱った中でのヨコエビということで些か物足りない部分もあるものの、当時としてはもちろん、今見てもかなり網羅的な見識が示された貴重な資料という印象です。


 <その他進捗>

 顕微鏡がまだ買えず、記載は進んでおりません。
 とにかく絵を描かねば・・・
 
 

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参考文献


-平山明 1995. 端脚類. In: 西村三郎(ed.)『原色検索日本海岸動物図鑑[II]』. 保育社, 東京.

-石丸信一 1985. ヨコエビ類の研究法. 生物教材, 19,20: 91-105.

-菊池泰二 1986. 第一編 ヨコエビ類の分類検索,及び生態, 生活史に関する研究. In: ヨコエビ類の生物生産に関する基礎研究. 昭和60年度農林水作業特別試験研究費補助金による研究報告書. pp.9-24.

-永田樹三 1965.端脚目(AMPHIPODA)概説. In: 岡田要(ed.)『新日本動物図鑑[中]』, 6th edition, 北隆館, 東京.






2016年4月14日木曜日

三番瀬ベントス調査(4月度活動報告)

                                                             
 お陰さまで端脚ライフをエンジョイしております。

 4月10日、絶好の干潟日和に三番瀬のベントス調査を行いました。


 3月の干潟では見られなかったコメツキガニや、タマシキゴカイの卵嚢と思われる物体を発見しました。そして何よりアナアオサの量。波打ち際にはところどころ緑の帯ができ、重なりあったアオサを掘り返すと、ハマベバエ科Coelopidaeが沢山飛び立つような状態でした。

ハマベバエ科の一種。海藻に集まる習性がある。


 漂着していたオゴノリの下にはヒメハマトビムシ属の一種Platorchestia pacifica(※1)がおります。まあまあのサイズ。アオサの下よりオゴノリの下の方が好きみたい。隙間が多いのか…?

 アナアオサ、スギノリ目?、オゴノリ、カキ殼、軍手など裏側にはほぼ決まってシミズメリタヨコエビMelita shimizuiやユビナガホンヤドカリと思われる異尾下目の子供。たまにモズミヨコエビAmpithoe validaもいました。

 3年前の春、初めて(記憶では)三番瀬でニッポンモバヨコエビA. lacertosaを捕獲したばかりか、なぜかモズミヨコエビがいないという現象に出くわしましたが、その後はやはりモズミヨコエビばかりです。

シミズメリタヨコエビM. shimizui
モズミヨコエビA. valida(♂)

 きれいな蛍光グリーンのモズミヨコエビ、体色には変化が多く種の判別の決め手にはなりません。

こちら3年前に採れたニッポンモバヨコエビA. lacertosa(♂)です。この個体は色が違いますが、そこに目を奪われてはいけません。

 オスに限って言えば、発達した第二咬脚2nd Gnathopod前節propodusの掌縁palmが垂直になり、真ん中にM字の角ばった出っ張りがあるのがモズミヨコエビで、掌縁が斜めになり、いびつな三角の出っ張りがあるのがニッポンモバヨコエビになります(Conlan and Bousfield 1982)。オスの第二咬脚前節はどちらの種でも長方形に発達しますが、モズミヨコエビのほうが厚みがある気がします。下の画像をご確認ください(ニッポンモバヨコエビの写真は左右反転したもの)。この第二咬脚がなぜここまで発達しているのかよく分かりませんが、メスを取り合う雄間闘争において使用されるといわれております。他の種のオスでは、発達した咬脚で素早いパンチを繰り出す様子を観察したことがあります。
 メスの場合は5~8箇所くらいのポイントを見れば、近縁属を含めて既知の種とはほぼ確実に区別できますが、いい写真がないのと、労力のわりにニーズがなさそうなので、今回は割愛します。
 
Distinguish Ampithoe valida from A. lacertosa (male gnathopod 2)




 さて、生物の生息基質として重要なアナアオサですが、簡単に千切れて漂着したと思えばすぐに溶け始め、急激な水質悪化を招きます。また、干潟面の沖側には沖のカキ礁が波で削られてできたと思われる大小のカキのかけらが散らばっており、これらも死貝となれば相当な危険物です。
  海藻や底生動物の死骸が有機物を放出すると分解に必要な酸素が足りなくなり、干潟は還元化し、黒く硫黄臭のする層が形成されます。 採泥器を使った調査で市川の塩浜あたりの深い潮下帯から底質を採取するとその最たる状態のものが得られます。要するに、酸素がなく有機物が多い状態がずっと続き、ヘドロ化するのです。

 今回の調査で砂を掘った印象では、粒径は陸に近いほど大きい一方、カキの漂着物が多い汀線付近は粒径がかなり細かく、泥っぽい状態でした。しかし、色や匂いにおかしい様子はなく、還元化は進んでいないと思われます。
 ベントスの分布としては、陸地側も汀線側も全体的に砂地上にツツオオフェリアが多く、小さなアサリも散見され、偏りはあまりありませんでした。ミズヒキゴカイイトゴカイスピオなどの還元的な環境で優占する傾向のある多毛類は、どちらかというと汀線側で目立っている印象ですが、陸側で全く採れないというわけでもなく、極端な分布とは思われませんでした。逆に、サラサラした砂干潟を好み、還元的な環境では全くいなくなってしまうこともあるアラムシロは全体的に分布しておりました。ということで、今のところは底質の腐敗など目に見えた要因のない、健全な砂泥底の干潟環境といえます。

  この状態でアナアオサやマガキが溶けて有機物を大量に放出するようなことになれば、還元化が進み、またベントス相は変わってきそうです。

アカクラゲさん。
普段より多くみられました。


 


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※1 ”ヒメハマトビムシ”問題
 従来、日本全国の海岸には”ヒメハマトビムシ”という種が広域分布していると考えられており、その学名はPlatorchestia platensisとされていました(平山, 1995)。しかし、アジアの種はP. platensisではないという研究結果が発表され(Miyamoto & Morino, 2004)、ヒメハマトビムシには学名が対応しなくなくなりました。その後、提言がなされて、ヒメハマトビムシの学名はP. joiとなりました(森野・向井, 2016)。
 現状の問題は、これまで”ヒメハマトビムシ”と呼ばれていたものがどうやら単一種ではなく、全てP. joiとは限らないということです。例えば東京湾の”ヒメハマトビムシ”に対応する学名は、今のところP. pasificaです(笹子, 私信)。ということで、三番瀬の”ヒメハマトビムシ”は真のヒメハマトビムシではなく、和名がありません。今後の調査でP. joiが見つかった場合は、真のヒメハマトビムシと言えるのですが・・・


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<参考文献>


- Conlan,K.E. and E.L.Bousfield 1982. The amphipod superfamily Corophiidea in the northeastern Pacific region, Family Ampithoidae: systematics and distributional ecology. Publications in Biological Oceanography, National Museums of Canada, 10:41-75,17figs.

- 平山明 1995. 端脚類, In; 西村三郎『原色検索日本海岸動物図鑑[II]』, 大阪. 保育社.

- Miyamoto, H. and H. Morino 2004. Taxonomic studies on the Talitridae (Crustacea, Amphipoda) from Taiwan. II. The genus Platorchestia. Publications of The Seto Marine BiologicalLaboratory, 40(1-2): 67-96.

- 森野浩・向井宏 2016. 砂浜フィールド図鑑(1)日本のハマトビムシ類. 海の生き物を守る会, 京都市.
 

2016年3月6日日曜日

2016年のヨコエビルーキーたちへ(ヨコエビ文献リスト第二弾)


 芽生えの季節、皆さまいかがお過ごしでしょうか。


 昨年の4月、「学部新四年生の皆様へ」と題してヨコエビの研究を始めるにあたって役に立つ文献を列挙させていただきました。


 ここ1年、いろいろと新しい情報が集まったりしたので、今年もビギナーにぴったりの資料をご紹介したいと思います。


 ちなみに前回紹介したのは次の通り。

・富川&森野(2009)
・小川(2011)
・石丸(1985)
・Chapman(2007)
・平山(1995) In;西村
・Barnard & Karaman(1991)

 詳しくは去年のブログをご覧ください☆



生物研究入門者向け

 学部4年生または研究室に出入りし始めたばかりの3年生は、まず論文を読み書きするための素養がない場合があることが分かりました。思い起こせば偉そうにこんなこと言ってる私も、卒研を始める頃は論文の集め方はもとより論文というものそのものをよく理解していなかったのです。だからラボで色々学んでいく必要があるのですが、初歩の初歩から勉強したい方にはまずこの書籍を紹介します。

・濱尾章二, (2010) 『フィールドの観察から論文を書く方法』. 株式会社文一総合出版, 東京. ISBN978-4-8299-1177-8.
  生態学や行動学をベースとして、ビギナーが論文を書くにあたって知っておくべきこと、気を付けることなど、盛りだくさんな内容を、平易な言葉で、イラストを交え、約200pというコンパクトなボリュームでまとめた、奇跡的な本です。もちろん分類の論文を扱うような場合でも一読すべきと思います。ゼミでもこれを紹介して共同購入するよう皆にオヌヌメしました。そういえば。



ヨコエビ事情を俯瞰する

・ Lowry, J.K. and A.A. Myers (2013) A Phylogeny and Classification of the Senticaudata subord. nov. (Crustacea:Amphipoda). Zootaxa, 3610 (1): 1-80.
 ヨコエビ界隈では大事件なのですが、 従来、ヨコエビ亜目Gammarideaとして理解されていたヨコエビのうち主要な幾つかのメンバーが、2013年に新設されたSenticaudata亜目に移動されたのです。その論文がタダで読めます。
 去年のブログ上でそれぞれの亜目の科リスト(SenticaudataGammaridea)を作成したので、暇なときにでも確認してください。



最新の情報を見る

World Amphipod Database(WAD)
 ヨコエビの研究は日々新しい知見が集積されてくるため、最新の情報を集めるのは至難の業です。ということで、これを使います。WADには最新の系統樹が掲載されており、既知の端脚類のほぼ全種の最新の所属およびシノニムまでチェックできます。しかもタダ
 そしてAmphipod Newsletterは年一回の発行で、その一年の間に記載された種を手っ取り早く把握することができるネ申ニュースレターです。しかもタダ
 ただし、これを引用適なソースとみなすかどうかについては意見が分かれると思います。最低限の留意として、引用日時を明記したり、魚拓をとっておいたりすべきでしょう。内容の真偽云々ではなく、すぐ更新されてしまう性質のものということで。
  また、当データベースのacceptedが、そのタクサにおける共通認識を権威付けるものとは考えない方がよいです。論文を書く場合はあくまでそのacceptされた見解が記された文献をチェックし、自分で判断すべきかと。



グループごと

富川光 ・ 森野浩 (2012) 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方, タクサ, 32: 39-51.
 2012年までに記載された日本の淡水産ヨコエビ全種の解説と検索表が掲載されているネ申論文です。淡水のヨコエビをやる人はもうこれさえあれば何というかいろいろ大丈夫ですよね(当ブログ筆者が海産しかやってないため紹介がいろいろ雑)。


Arimoto, I. (1976) Taxonomic studies of Caprellids (Crustacea, Amphipoda, Caprellidae) found in The Japanese and adjacent waters. Special publications from the Seto Marine Biological Laboratory, 3: iii-229.
 日本近海のワレカラの決定版です。ワレカラはヨコエビと区別されつつも近縁な甲殻類として長く親しまれてきましたが、前述のLowry & Myers (2013)によって晴れて(?) Senticaudataの一員となり、Gammarideaと併せた広義のヨコエビ類に内包されるかたちとなり、要するに今やヨコエビの一種なわけです。Arimoto(1976)は少し古いですが、このようなレビューが行われているのは本当にすごい。しかもタダで読める。これでもう何かいろいろ心強いですね(やはり紹介が雑)。

・Takeuchi, I. (1999) Checklist and bibliography of the Caprellidea (Crustacea : Amphipoda) from Japanese waters. Otsuchi marine science, 24(3): 5-17.
 Arimoto(1976)ほど細かい記述はありませんが、より新しい知見に基づいたシノニムリストを惜しげもなく全部乗せているのがTakeuchi(1999)です。この論文には分類学だけでなく生態学等の文献リストもついていて、ワレカラ研究のバイブル的な存在と言えるでしょう。しかもタダ

・森野浩 (1999) ヨコエビ目. In; 青木淳一(編) 『日本産土壌動物-分類のための図解検索』 1069-1089. 東海大学出版会, 東京. ISBN-10: 448601443X
・森野浩 (2015) ヨコエビ目. In; 青木淳一(編) 『日本産土壌動物 第二版-分類のための図解検索』 1069-1089. 東海大学出版会, 東京. ISBN978-4-486-01945-9
 1991年刊の『日本産土壌動物検索図説』を大幅に増補改訂した本書は、日本の陸生ヨコエビ(ハマトビムシ,オカトビムシなど)が網羅的に紹介されており、ヨコエビを扱うページ数も4p増えました。思いっきり図説に力が入れられており、検索時にはかなり重宝するものです。チェックしてみるとたぶんいろいろと完璧です(相変わらず紹介が雑)。


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 さて、ここからはおまけです。

 ルーキーの皆さんが研究をはじめるにあたり、ヨコエビに限らず文献を探すのに、文献リストが手元にあってもどれがタイトルなのか分からない、といったこともあるそうなので、文献情報のルールについて軽く紹介させて頂きます。

 

・論文の文献情報


 まずこちらをご覧ください。

-Barnard, J.L. and C.L. Ingram (1986) The Supergiant Amphipod Alicella gigantea Chevreux from the North Pacific Gyre.  Journal of Crustacean Biology, 6(4): pp.825-839.

ダイダラボッチが再発見されたときの論文です。
この一連の文献情報に含まれるものを抜き出してみます。

筆頭著者: J. L. Barnard
共著者: C.L. Ingram
出版年: 1986年
題名:  The Supergiant Amphipod Alicella gigantea Chevreux from the North Pacific Gyre
雑誌名:  Journal of Crustacean Biology
巻(Volume):  6
号(Issue number):  4
掲載ページ: 825~839ページ



 ギリシャ数字がある場合は、本文以外に何かがあるということです。これを見落とすと、コピーは届いたが本文だけで図表がない、なんてことになりますので要注意です。
-Sars, G.O.(1895) Amphipoda. An account of the Crustacea of Norway with short descriptions and figures of all the species, 1: viii + 711p.


 他には、出版年を括弧でくくらなかったり、出版月を入れたり、雑誌名の後や掲載ページの後に記述したりすることもあります。著者のイニシャルのピリオドを省いたり、雑誌名や巻数の書式を変えなかったり、学名をアンダーラインで表記したり・・・いろいろあります

 たとえばAPAスタイルに忠実にやるとこんな感じ。
-Kamihira, Y. (1979). Ecological studies of macrofauna on a sandy beach of Hakodate, Japan. II. On the distribution of paracarids and the factors influencing their distribution. Bulletin of Fisheries Sciences, Hokkaido University, 30(2), 133-143.  


 こちらはAMAスタイル。
-Chapman JW, Dorman JA Diagnosis, systematics, and notes on Grandidierella japonica (Amphipoda: Gammaridea) and its introduction to the pacific coast of the United States. Bulletin of the Southern California Academy of Science. 1975; 74(3): 104-108.


 雑誌名などは略称で表記されることが多く、ルール化されているのでググれば出ると思いますが、慣れないと戸惑うかもしれません。例をいくつかあげます。
Bull. = Bulletin
Suppl. = Supplment
Biol. =  Biology
Ecol. = Ecology
Zool. = Zoology
Nat. = NationalNatural
Natl. = National


 文献情報の表記は学域ひいては出版物ごとにルールがあると考えていただいたほうがよいかもしれませんが、基本はある程度共通しています。そして学術雑誌の形式はいわば基本形で、他にも書籍,報告書など、様々な文献から引用する際には、それぞれのバリエーションとなります。


・書籍の文献情報


 例えば、単行本を引用したものはこんな感じです。
-イヴレフ, B.C. (訳:児玉康雄,吉原友吉) (1985) 『魚類の栄養生態学-魚の採餌についての実験生態学-』, 新科学文献刊行会, 米子.


 本として出版されている媒体から一部を引用する場合はこんな感じです。
-駒井智幸 (2003)  甲殻類. In; 松浦啓一(編)『国立科学博物館叢書③標本学 自然史標本の収集と管理』 : 39-47. 東海大学出版会, 東京.
 
 書籍名は『』で囲うことが多く、部分的な引用であればページを記載します。ちなみに、ジャーナルに掲載された論文と書籍に掲載された論文(章など)では複写のルールが異なり、後者は単一のものとみなされて、図書館等では1度に全体の二分の一を越えるボリュームの複写ができないとのこと。図書館を利用する際にはまずは司書さんに相談ということですね…


 さて、いろいろと思い付くままに書き連ねてしまいましたが、お役に立てましたでしょうか…

 ご意見ご感想などありましたら、フォームまでよろしくお願いします。





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(補遺)

・ワレカラの文献にTakeuchi(1999)を追加しました。(6 Mar. 2016)

・コメント欄にてFlota様にご指摘をいただいた箇所を修正しました。(6 Mar. 2016)

・CiNiiのPDF無料公開サービスの終了に伴い、富川・森野(2012)のリンクを削除。(5 Mar. 2017)

・J-stageへの移管に伴い、富川・森野(2012)のリンクを復活。(19 Oct. 2018)