2015年4月4日土曜日

学部新四年生の皆様へ

 蕾が花へ音も立てずに膨らみはじめるこの季節、いかがお過ごしでしょうか。
 じつに半年間、このブログを放置しております。自分に腹パンだっ!(ぜんぜんかわいくない)
 
 タクソノミックな話題に触れる機会がなく、あったとしてもだいぶ仕事に絡んできて表に出せない感じですね。はい。



 在宅ワークとして、題記のとおり、4月よりヨコエビの研究を始められる方の支援ができないかと思いましてこのたびブログを更新することにいたします。
(はたして何人いるのか・・・)

 ヨコエビ研究の何が難しいかというのはその人のテーマや適性によってそれぞれかと思いますが、まずは何を見ていいのか分からないというのがあると思うので、入門者の助けとなりそうなものをまず。




富川光,森野浩 (2009) ヨコエビ類の描画方法. 広島大学大学院教育学研究科紀要, 17, pp.179-183.
 これは必読です。描画方法と銘打たれていますが、基礎的な知識や標本の扱い方などが分かりやすく解説されています。富川氏と森野氏は淡水産ヨコエビ上科の分類の整理など、いくつもの著名な研究が知られています。リファレンスを読むだけでも楽しいです。


小川洋 (2011) 東京湾のヨコエビガイドブック. open edition ver.1.3. web publication. 140p.

 あまり入門書がないから作ったというのがこれです。東京湾のヨコエビしか載っていませんが、他エリアでも各パーツの名称,研究方法,文献リストなどが使えます。


・石丸信一 (1985) ヨコエビ類の研究方法. 生物教材. 19・ 20: pp.91-105.
 これはネットにはないのですが、本邦代表種や解剖の方法などが網羅的に掲載されています。何としても手に入れましょう(真顔) 石丸氏はテングヨコエビ科を中心に数多くの論文を執筆されています。



Chapman,J.W. (2007) Gammaridea. In; Carlton,J.T. The Light and Smith Manual Intertidal Invertibrates from Central California to Oregon. Fourth Edition, Universary California Press, pp.545-618.

 通称”Capman chapter” と呼ばれる、アメリカ西海岸産のヨコエビの決定版です。比較的新しい文献で、各科の検討にとても使えます。図版も豊富です。Chapman氏は日本とオレゴンのベントスを比較した研究で知られています。


・平山明 (1995) 端脚類. In;西村三郎『原色検索日本海岸動物図鑑[II]』 保育社, 東京, pp.172-193.
 日本の図鑑としてヨコエビがしっかり載っているものはあまりないため、浅海域のヨコエビについてはこれに目を通すことで全体を俯瞰できると思います。ただし、分類が古いものもあり注意が必要です。平山氏といえば瀬戸内海のヨコエビを大量に記載した伝説のヨコエビニストです。本書は絶版となっていて、現在古書に相当なプレミアがついていて入手は困難ですが、大学図書館などをあたりましょう。



分類的な知見を得るのに必要なもの。

・Barnard,J.L. and Karaman,G.S. (1991) The Families and Genera of Marine Gammaridean Amphipoa (Except Marine Gammaroids), Records of Australian Museum supplment 13, part 1,2, 866p.
The families and genera of marine gammaridean Amphipoda (except marine gammaroids). - See more at: http://australianmuseum.net.au/journal/barnard-and-karaman-1991-rec-aust-mus-suppl-131-1417#sthash.CDoUBxbJ.dpuf
The families and genera of marine gammaridean Amphipoda (except marine gammaroids). - See more at: http://australianmuseum.net.au/journal/barnard-and-karaman-1991-rec-aust-mus-suppl-131-1417#sthash.CDoUBxbJ.dpuf
<part 1>
<part2>
 ぶっちゃけ、これを持っていないとヨコエビの分類はできません。800ページを超えるマンモス文献ですが、なぜかネットで落とし放題です。1991年までの世界の海産ヨコエビが収録されています。



 その他、研究の場面のその時々で参考になる文献はヨコエビガイドブックにいろいろ載っていますので、ご参照いただければと思います。


 ネットでいろいろと手に入るご時世ですが、論文をあたる際には大学図書館も使えると思います。リファレンスの情報をもって司書さんにお願いして、他大学から取り寄せてもらうのです。
 日本中の学術機関が提携したデータベースで、所有している施設を探すこともできます。

 まあ、そんなゼミのガイダンスみたいなこと言われても困りますよね・・・ とりあえず、ご参考までに。


2014年8月18日月曜日

8月度活動報告(ごめんなさい)

ご無沙汰しております。

フリーズしたままで終わることができない状態でヨコエビがえしを放置しておりました(ノ∀`)


・千葉県立中央博物館 急襲

こないだも行ったのですが、また行きました。

先日の訪問は別の用事があってのことなのですが、今回は完全に展示を観るためだけに訪問しました。

今、中央博物館では「図鑑展」を開催しておりまして、これが分類マニアにはたまらない企画なのですなぁ。



これよこれ、種の起源フジツボのモノグラフ

今日は久々に常設展示もまわったのですが、分類のコーナーには「おでかけ中」の札が。そうです、普段は常設展示にある「種の起源」が企画展示に出張しておるのです。


もうツイッターで感想を述べさせていただきましたが、図鑑がたどってきた歴史が分かるし、昔の図鑑も目にすることができるし、その一部をミュージアムショップで買うこともできるという、一石三鳥にも四鳥にもなるんですなぁ



そして今日は液浸収蔵庫の見学ができるミュージアムトークの日でもあり、駒井先生についていきました。



上:ダイオウグソクムシ Bathynomus giganteus  
下:オオグソクムシ B. doederleinii  


coxal plateの発達がすごい!
何より身体が大きすぎて笑ってしまいました。
立派です立派。

同属でこの迫力の違いも面白いけれど、形態としてはかなり似ています。





ビンがいっぱい(小並感)






ねえ、こっち向いて

マルフクレソコエビStegocephalus inflatus Krøyer, 1842 ですなぁ。

過剰なまでにコロコロしてます。


実は中央博のヨコエビコレクションで白眉といえるのはこれで、あとはまだ整理が進んでいないとのことなのですなぁ。
でも、色々と隠してあることは知ってます!
いつか出してください!




オガサワラモクズガニEriocheir ogasawaraensis のホロタイプも見せてもらいました。

駒井先生が記載されたものですね。

父島で車に轢かれてるの見たけど、本当におっきかったなぁ。





 今日は特に引用文献はないんですが、とにかく普段から仕事に魂を吸い取られているのが分かりますね・・・
 
 分類の現場に足を踏み入れるたびに、卒論を引用不能な学位論文のまま放置してあることの罪深さをひしひしと感じます。
 
 

 
 でもね、今年から担当する案件が一気に増えて、どんどんゆとりが無くなってるんですなぁ。

 
 未記載の種を残していると、いざ生息地が無くなったりしたときに、その生物の情報は永遠に失われてしまうかもしれない。そんなことを考えると、焦りだけが募りますね。

 閑話休題・・・

 博物館の蔵書も標本も、本当に貴重なものばかり。大人一般500円で見れるなんてオトクすぎます。
 
 
 図鑑の裏側にいる人のドラマみたいなものを肌で感じることができる、そんな企画展示ではないでしょうか。

 とりあえず、寝よう・・・

2013年10月7日月曜日

9月度活動報告(文献調査,観覧)

ヨコ勉Now!
まだまだヨコエビ勉強中です。

でも最近は論文をぜんぜん読んでいませんね。
とりあえず手元にあるAmphipod Newsletterを全て読み返して 、自分の種リストに入っているか確認します。ただ、某氏の種リストが非常に使いにくいことが分かってげんなり。
改めて学生時代に作った自分のリストがかなり作り込まれていたことを実感。
WoRMSあたりの記事を適当にツギハギでコピペしただけだった気もするけど・・・


・博物館に行きました


大阪自然史博物館に行った話は書きましたが、今度は上野に行きました。
そう、宣言通り、科学博物館の深海展を観てきました。イェィ!

ぼっち参戦の予定が、友人とつるんでの上野。彼も私のツイッターやブログを読んでいるかのごとく科博を推してくれて・・・あれ・・・ひょっとして本当に読まれてる・・・のか?(汗)

どこにヨコエビいるかな~とあちこちを見渡して、変なフクロエビ上目のシルエットを見つけては、「違う、これは等脚目だ」と落胆していたが、とうとう深海の甲殻類のコーナーにヨコエビを発見



なにしらないこの子




相当でかい

調べてみたらスンナリヨコエビ科Maerideaとのこと。
すんなり分からなかったZE。
(というか、今適当につけちゃったけどこの日本語科名は果たして正しいのか)



そしてオオタルマワシさん!
我ら端脚目クラスタ一番の稼ぎ頭!!

かっちょええですわ。



そしてクラゲノミさん!
何がどうなってるのかチビっ子には絶対に理解されてないよ!





こっちは少し離れたところにあるコーナー。クラゲなんかに付着する連中、すなわち浮遊生物の体表面を生活基質として利用する生き物の展示。







クラゲノミさん。


オオタルマワシさん。

パネルの表示に明らかな誤りを見つけたけどそのまま帰ってきちゃったな・・・




あれーまだあいつ出てこないよーおかしいなあ、と思っていたら、とうとう来ました。

コーナーとしては、セルロース分解生物。
あいつの特技、すっかり忘れてた。

深海には消化しやすいお肉とかはそうそう落ちてなくて、あるものを食べるしかない。そこで、分解できる生物がほとんどいない、セルロース(植物の繊維)を分解できるよう進化した生き物がいる。陸上だとシロアリがそうだけど、深海ではカイコウオオソコエビHirondellea gigasがそうなのだ。



どーん



ちなみに、分解できるといっても、本人達が何か特殊な消化液を出すのではなく、消化管内に共生したセルロース分解バクテリアの作用によって、分解するのであります。




樹脂封入標本という抜群の扱いの良さ。
これは研究用標本ではなく、展示用のためだけの標本ということである。
こいつも稼ぎ頭や。大きいことは正義や。

同行の友人に底節板の素晴らしさを力説するも、反応薄い。

そりゃ、ヨコエビ好きな集まりじゃないもんな・・・


これだけヨコエビが見れるだけでもすごいのに、底節板の中まで覗ける展示なんて、そうはないですよ!

というか、よく考えると、ヨコエビ亜目はオニノコギリヨコエビMegaceradocus gigasとカイコウオオソコエビH. gigasの、巨人(Gigas)コンビだけだったか!



 10月も三番瀬の調査をやりますが、まだ行けるか分からない。ヨコエビ獲っていられるかもよく分からない。
在宅としてできることをやります。
とりあえずAmphipod Newsletterの洗い直しと、テングヨコエビ科の体系の整理かな。



















2013年8月15日木曜日

8月の活動報告(大阪遠征)


更新が遅いです!どうもすみません!


お盆に調査とかアリだな、って言ったりしていましたが、それほど暇にならず、できないことが判明。で、何を狂ったのか遠征。


http://www.mus-nh.city.osaka.jp/tokuten/

大阪市立自然史博物館

「いきもの いっぱい 大阪湾 ~フナムシからクジラまで~」



に行ってきたで~~♪♪♪


撮影制限がほぼないというネ申展示。



大阪水試絡みという話をきき、これはドロソコエビの展示を外す訳がない。そう信じて、確証もないまま大阪まで来ちゃいました。


で、結果は










思ったより扱いが良すぎて震える





 初めて見るオオサカドロソコエビGrandidierella osakaensisはダーラム管越しだからやっぱりよく見えなかったけど、有山氏の仕事を間近で見れることに感動。連れの友人たちにAriyama,1996の素晴らしさを力説するも反応薄い。

そりゃ、ヨコエビ好きの集まりじゃないからね・・




これだけでも相当満足したのに、まだまだヨコエビが続く。


ヒゲツノメリタヨコエビMelita rylovae setiflagellaヒメハマトビムシ
三番瀬にもいるコンビ!

ヒメハマトビムシの学名にPlatorchestia platensisが当てられている!
解剖したい!
(※投稿後、学名の誤りを訂正しました)


展示構成は生息環境を軸にしていて、その場所ごとに様々な生物の標本が展示されています。すごい物量。ぎっしり並べてあるのに見やすいです。
貝や海藻の乾燥標本,イルカ・クジラの骨格標本,鳥類の剥製、とにかくバラエティに富んでいます。パネルも、最低限の地理や社会的な説明を入れつつ、メインはやはり実物を見せるという姿勢が感じられました。
生体展示は、クロベンケイガニ,ヤマトシジミ,アシハラガニ。そして、フナムシ,キタフナムシ。空前のクラスタセアン推し。タカノケフサイソガニもいると書いてありましたが見れず残念。




そしてヨコエビはまだまだ続く。 

イソヨコエビElasmopus japonicaきた!
小さくてぜんぜん見えないよ!
でもかわいいよ!


モクズヨコエビHyale grandicornisニッポンモバヨコエビAmpithoe lacertosaも!
モクズヨコエビは初見!
ニッポンモバヨコエビは小櫃とか横浜のより小さい!
たまたまかな。



 興奮のうちに企画展を出て、本館へ。時間の都合で若干駆け足になりましたが、本館もまた素晴らしい。オーソドックスな標本の展示,豪華な模型、そして愛を感じるラベルや説明文ですね。

(ただ、クビキリギスとヤブキリの標本はいちど全て再同定したほうがいいかもしれませんね・・・)


 驚いたのは植物生態学の展示。メタ個体群など最新の知見をいちはやく取り込み、明快かつ視覚的に訴求する展示の技術と思想に感服しました。あのコーナーは、生態学を学ぶ大学生にはぴったり。 

(生態学なんて大学で選択しちゃだめだと思いますけどね・・・)





さて、大阪市立自然史博物館は、実はグッズも充実していました。



これは博物館オリジナルバンダナ。
ヨコエビが書かれているバンダナ初めて見た!
即購入!



オリジナルリーフレット『大阪湾の磯の甲殻類』のほうは、ヨコエビ類に関しては永田,1975のデチューン仕様。
『干潟ベントスフィールド図鑑』は恐らくこないだ教えてもらったやつ。これってWIJのフィールド図鑑の焼き直しじゃないですか。ただ、ヨコエビ類に関しては多留氏が担当と思われ、ヒメハマトビムシにPlatorchestia pasificaを、フサゲモクズにPtilohyale barbicornisをあてるなど、ちょっと新しくなってる気がする。Ampithoe validaからはcf.を外してもいいような気もしますが、標本がないということでしょうか。



さて、大満足のうちに 遠征は終了し、私はお土産を抱えて大阪を後にました。
サヨナラ、ありがとう。
付き合ってくれた皆さんも本当にありがとう。
たまにはいいよね、こういうの。


あとは、上野の深海展かなあ・・
カイコウオオソコエビHirondellea gigasの標本があるはずなんだよね・・
(これも憶測)





<引用文献>

- 永田樹三. 1975. 端脚目 (AMPHIPODA) 概説. In; 岡田要『新日本海岸動物図鑑〔中〕』 第六版. 北隆館, 東京.

- Ariyama, H. 1996. Four species of the genus Grandidierella (Crustacea: Amphipoda: Aoridae) from Osaka Bay and the Northern Part of Kii Channel, Central Japan. Publication of the Seto Marine Biological Laboratory, 37(1/2): 167-191.







2013年6月16日日曜日

6月度活動報告

ヨコ活やってま~す・・と言いたいところですが、5月は何にもやってません。

今日はNPOの会議。そして、海の上から三番瀬を見ることができました。
これぞハッピーサプライズ!


海が青いです。

青潮ですね。



 おっ、「しらせ」発見。




 どーん。

南極に行って帰ってきた船ですよね。ロマンを感じます。


航路に出ると、部分的にですが温泉地のようなすごい硫黄臭。
青潮から逃れるように、船橋漁港にボラやハゼの小さな個体が押し寄せて、釣りに興じている人も。

しかし、底質は見れてないので、ヨコエビはほとんど見つけられていません。
漁港に置かれた漁船の中で、ヒメハマトビムシPlatorchestia pacifica [sensu lato]らしきヨコエビは見ました。



未確認なのですが、新しく出たベントスのガイドブックにヨコエビの記述が充実しているらしいので、手に入ったら取り上げようと思います。


SNSで全く別の活動をやっていましたが、それをやめてこちらに力を入れたいと考えています。
(これ、考えてるだけのパターンやな・・)










2013年4月30日火曜日

4月の活動報告(三番瀬)


今月も何とかブログのネタがありました。

私が今回参加したのも、また合同調査です。
ヨコエビに夢中になって集団の和を乱したり乱さなかったり・・
気付いているくせにやめれない・・


当ブログで、少し前に夜間調査の話をしましたが、そのプロジェクトの一環でのベントス調査に行ってきました。
調査場所は三番瀬。大学の頃は週2回くらいのペースで通ってました。

写真は船橋側です。



潮干狩りに来た親子連れが多い!見ろ!人がスズガモのようだ!
(※肖像権に配慮して、潮干狩り客の写真は載せません)



杭についているロープを調べてみると、ヨコエビキタ━(゚∀゚)━! !!!



オスの2nd Gnathopodの形状が気になったので持ち帰って他の特徴を検討したところ、どうやらニッポンモバヨコエビAmpithoe lacertosaのようです。この種は、三番瀬では初めて獲りました。盤洲でも確認していますが、もっと岸から離れた場所で獲れたような気が・・

この後、海藻をいろいろと見てまわりましたが、獲れたAmpithoeは全てlacertosaでした。validaどこいった?


色々と杭を見てまわると、泥の塊を発見。もう、お決まりの・・

アリアケドロクダムシMonocorophium acherusicumです。

この写真はピントがやや合ってませんが、かなりの数の個体が写っています。
泥の塊の右上端に、オスの大きな第二触角が見えますね。 見えませんかね。

この泥の塊を調べてみると、

 竹の杭が打ちこまれる
→フジツボが付く
→イガイが付く
→足糸の間に泥が溜まる
→ドロクダが管を作って棲みつく
→筆者が誘引される

という流れだったようです。
「住み込み」の最たるものかと。


Ampithoeは論文を読めば普通種ならだいたいの場合は種までいけると思っているのですが、北米での記載が多く、そのまま同定して良いか迷う人も多いようです。
また、触角に毛の多いような種(A.zachsiA.koreanaなど)は、まだまだ日本で名前のついてないものもいるような気がします。
そもそもAmpithoeには、オスの2nd gnathopodが、propodasにトゲをもつような派手なsubchalateになるものと、A.validaのようにpropodasが細長くシンプルなrectipalmateになるものがいて、多系統なんじゃないの~と言いたくなることもあります。

形質がある程度多様なのは、仕方ないとして、広域分布なのも、当面は目をつぶって、とにかく一定の根拠を示してヨコエビに名前を付けていかなければ、何の足がかりもない状態が続いていくことになるかと思って、私はこうして名前を付け続けています。
ヨコエビのようにマイナーな分類群では、ネット掲示板とかで素人さんに素人さんが絵合わせだけで同定をサポートして、その結果が伝言ゲームで色々なサイトに拡散されて、いつしかマジョリティーになったりすると思うので、後追いができることは大切だと考えています。

ちなみに、今回はとりあえず「東京湾のヨコエビガイドブック」(笑)で形質を確認しました。
Chapman(2007)を参照すれば、より多くの種を確認できます。


さて、今後の活動はどうしよう。
外付HDぶっ飛んで、論文のバックアップをいちいちDVDにとりにいかなきゃいけなくなって、作業効率が大幅に落ち込んだしな・・
GWに新しいPCを開梱して設定する予定なので、今後の推し事はそっちでやります。たぶん。



先月に引き続きChapman Chapterを引用。John推しです!



<参考資料>

- Chapman, J.W. (2007) Gammaridea. In; Carlton, J.T.(ed.) 『The Light and Smith manual intertidal invertebrates from central California to Oregon, fourth edition』 Completely Revised and Expanded. University California Press, pp. 545-618.

2013年3月21日木曜日

3月の活動報告(青森・三沢漁港)


言い訳だとか過ちだとかを、いまさら何を言っても関係ないですね。
映ってしまったものは仕方がない。


3月20日、朝10時15分、三沢漁港へ。


 じつは新幹線を寝過ごして遠回りしたという失態。
 青森県初入県にして、このしでかし。
 そして乗り込んだタクシー。漁港内を大仰に一周した運ちゃんに若干の敵意を滲ませた。
 入口でいいって言ったのに!

 さて、海なし県埼玉のしがないサラリーマンがたった1日の休みを使って青森まで足を運んだ最大の理由は、オレゴン州立大のJohn Chapman博士に会うため。Light manualの端脚目の部分(Chapman 2007)を担当されるなど、カリフォルニア界隈のヨコエビといえばこの方、というイメージがあります。また、日本からアメリカへのニッポンドロソコエビGranddierella japonicaの移入を論じた論文(Chapman 1975)はそのテーマもさることながら形態の記載も詳細で、卒論で読んだ500本余りの論文の中でも最も好きなものの一つです。

今回の調査の具体的な内容としては、浮桟橋に付着している生物をコドラート(方形枠)で採取して持ち帰り、単位面積あたりの生物種数と量を調べるという、いわば王道的な手法です。
 先の震災で発生した津波によって、三沢漁港の4つの浮桟橋が太平洋へと流され、うち2つがアメリカ本土に漂着したとのことです。その、漂着した桟橋に付着していた生物と、現在三沢漁港でみられる生物とがどのくらい重複しているかを分析するようです。例えば、アメリカで新たに付着したと思われる生物はいないか、または流されてくる間にどのくらい死滅するのか、など。
 現在、漂着瓦礫(Tsunami debris)は国際問題となっていて、 漂着先に与える影響の一つとして付着生物の移入というのは無視できないもののようです。生態系の汚染は、人間に直接の危害はなくとも、長い目で見るとその土地の生物の有り様を大きく変えてしまうものです。

取材を受けるJohnと風呂田教授。

 調査結果の詳細はJohnの論文として発表されることになりますが、ヨコエビの出現科としてはお台場,神奈川方面の護岸でみられるような感じに近いらしいです。
 体長20mm近いヨコエビも得られましたが、細部の観察をしないと種までは落ちません。

 目からウロコだったのは、日本の普通種で、北アメリカでよく記載されるようないわばコスモポリタン種が、実はアジア起源なのではというJohnの説。海流の関係からすると、たしかし!と肯ける。もちろん、日本でのヨコエビをはじめとする様々な生物の記載が遅れているのは調査が行われていなかっただけで、タイプ標本が得られた場所(Type locality)が必ずしも原産地ではないことは承知していましたが、まさかまさか。あの種もあの種も、元は日本なのかな?そう思うとワクワクしてきます。

 Johnは私の作ったガイドブックやTシャツの話もしてくれて、未記載種(新種)が含まれてるはずだから記載しないか、と言ってくれました。そのためには月のお給料に匹敵する出費をして描画装置付きの顕微鏡を買わなくてはならない!無理!
 だからせめて、今手元にある資料の整理と、必要なものの洗い出しを行って、あとは実行するだけという状態を作らなければと思いました。

じゃあ、いつやるか。今でしょう。



P.S.

TBSのNews23Xでとりあげられて偉そうに喋りました。 
教授の受け売りです。
大学関係者でも何でもないのに、失礼致しました。
関係方面から「お前何してるん?」と問い合わせがありました。
ぺろっ。



Thank you for your present for me, John.
Now displaying it on my desk =)
See you next time!





<参考文献>

-Chapman, J.W. and Dorman, J.A. (1975) Diagnosis, systematics, and notes on Grandidierella japonica (Amphipoda : Gammaridea) and its introduction to The Pacific Coast of The United States. Bulletin of the Southern California Academy of Sciences, 74(3): 104-108.


- Chapman, J.W. (2007) Gammaridea. In; Carlton, J.T.(ed.) 『The Light and Smith manual intertidal invertebrates from central California to Oregon, fourth edition』 Completely Revised and Expanded. University California Press, pp. 545-618.