2022年9月6日火曜日

しつこく文献紹介『ヨコエビ ガイドブック』を読む(9月度活動報告)

 

 突然製作発表された『ヨコエビ ガイドブック』(以下、有山2022)は、もはやヨコエビをマイナー分類群呼ばわりするのを躊躇わせるレベルの売れ行きであったようで、楽天では「発売日」の5月23日に動物学部門で1位を獲得、楽天・Amazonともに発売翌日には「在庫切れ」の文字が躍り、空前の品薄にネット上がざわつきました。

 Amaz〇nの業者についてはそもそも仕入れを行っていなかった説、また初版が相当弱気な部数だったせいもありましょうが、発売1週間程度で第二版決定というスピード重版をキメており、今後も伝説を作り続けていく気はしています。


これは初版です。



こちら第二版。
一部和名表記の修正が見受けられましたが大きな変更はないようです。



 ヨコエビという分類群には、1冊の本として成立する一般向けの日本語のテキストは恐らく存在せず、また日本産79科のキーが掲載された資料などというものはいかなる言語でも用意されておらず、そういった敷居の低さとコアな情報を両方摂取できる資料に注目が集まるのは無理からぬことと思います。それにしても 4,500円(税別)という、一般向けの生物学の書籍として高額であるにも関わらずこれだけ売れたというのは、そろそろヨコエビの種多様性・量的優位性にヒトの関心が追いついてきたという証左ではなかろうか、とオタク特有の早口でまくし立てたくなってきます。


 とりあえず、有山 (2022) がどのくらいスゴイのか独断と偏見でまとめてみました。


日本語で書かれた「図鑑的書籍」を中心に、代表的と思われるものを挙げた。日本語でないもの、図鑑形式でないものでも、有山 (2022) との対比で特に重要と思われる文献(*)は参考として加えてある。
「categories」が(ord.=目)となっているものは、ワレカラ類やクラゲノミ類を含めた解説が行われている中で、この表においてヨコエビ類部分のみ抽出していることを示す。
「Lists」は、特定の分類階級において当時の既知分類群が網羅されていることを条件とし、地域を限定したリストについてはカウントしていない。
種類ごとの解説の中で形態や生態に一言でも言及(図を含む)のある種類は全て「Basal info of species」とした。括弧内の数字は種同定されていないもの。
分類群の生物学的特性でなく、研究方法や研究状況を扱った内容を「Explanations on study scene」とした。


 改めて数えてみると 菊池 (1986) が扱う種数に驚きましたが、菊池 (1986) は既存文献から線画を引用しているものでオリジナルではなく、また1種ずつに細かな解説を伴うものではありません。ただ、九州西岸のヨコエビ種リストや、分類から生態まで幅広い学術論文のリストが充実していて、強力な手引書であることは間違いないです。

 こうして並べてみると、図鑑的書籍の中でいかに 有山 (2022) がスゴイかがわかると思います。出版決定の報を受けた時は、こういった期待値をもって出版社へ発注メールを流した次第です。


 さて、有山 (2022) の書評は和文誌タクサ53号に書かせていただいたわけですが、当然のことながら「書評」としての職責を全うすることに全ステ振りしています(なお、学術的批評よりコマーシャルに寄ってる感があるのは、評者が初めてこういう文章を書いたためです多分)。そこで、この場では個人的な感想に振ってコメントしていきます。

 ちなみに、内容がよく似ている小玉氏による Cancer での書評のほうが先に公開されましたが、それぞれ個別に書かれたものです(読んでびっくりしました)。他にまた別の評者による書評が出れば違った見方も出てくるかと思います。




有山 (2022) を読む前に思ったこと

 出版が予告された3月30日時点で、最初に考えたのはこの本の評価軸は2つになる、ということでした。その1つは「自分自身にとって良いものか」、もう1つは「底生生物学・甲殻類学にとって良いものか」という軸です。そして、ぶっちゃけて言うと、目次に目を通した時点でこれらの評価は概ね定まっていました。


 自分にとっては、特に真新しい情報はないように思えましたが、日本語でヨコエビを語る上で数多ある障壁(和名未提唱の分類群,気軽に紹介できる入門書の不足など)が解決されることが大いに期待できました。また、有山先生しか知りえないコアな情報がコラムなどの形で掲載されることが予見されたので、これは大いに楽しみでした。カラー写真については事前にそのクオリティが分からなかったのと、体色は分類の役に立たないという認識だったので、あまり期待はしていませんでした。

 そして、色々問題を孕みながら日本各地で読まれていると思われる「東京湾のヨコエビガイドブック」がとうとうその仮初めの役割を終える時が来たな、という感慨もありました。「東京湾のヨコエビガイドブック」の英題が「A Guidebook of ...」となっているのは実は意味があって、「The をつけるほど知見が洗練されていない」というのと、「日本各地でヨコエビのガイドブックが作られて本書が one of them になるくらいヨコエビ学が盛り上がってほしい」との願いだったりします。11年越しでしたが、引用可能な真っ当な書籍としての「ヨコエビガイドブック」が出る瞬間を見られたのはその些か他力本願な願望が成就した瞬間でもありました。


 底生生物学・甲殻類学の観点からすると、最新の知見が日本語で紹介され、また平山 (1995) から実に27年ぶりに日本産の科を網羅した検索表が提供されること、そして「140種」にも上るヨコエビがカラー図版で解説されるとのことで、一足飛びに分類への理解が進むことが期待できました。本邦において、アマチュアや部活動やサークル活動の学生はおろか、底生生物を扱う大学の研究室やプロの環境コンサルタントですら、ヨコエビの種同定ができるのはごく一部と思われます。その要因の最たるものは、参照できる資料が主に四半世紀~半世紀前の書物であることと思われ、本書の登場はまさに地獄に仏といったところです。

 ただ、「140種」という掲載種数は、本邦既知が約四百数十種と考えると網羅性は最大でも 34% 程度にとどまることを意味しています。目次に連なる科名を見ても、例えば淡水や潮下帯のグループはかなり省略されている印象ですし、直近でこのブログで採り上げたものではあの記載論文 (Ogawa et al. 2021) で扱ったナミノリソコエビ科は地域によりまともな報告がないためか科ごと欠落していたりします。後述しますが、本邦におけるヨコエビの書物で34%程度の網羅性は破格の高さであると同時に、ここから更に高めるのは非現実的だと思います。しかしながら、傍から見て専門性を期待できるインパクトのある書籍なので、「140種」も掲載されているとなるとだいたいの種類が載っていると考える読者が多いと思われ、種の選び方によっては漏れた普通種に対して強引な絵合わせ同定が行われる場面もあるのでは、とも思えました。




改めて 有山 (2022) を読む

 さて、ここからは実際に読んでみての感想です。 

 まず、著者の人柄が感じられる温もりのある文体と、知っていることを全てつぎ込もうという熱量に圧倒されました。往々にして「知っていることを全部入れる」姿勢で文章を書くととっ散らかってしまいますが、全体に非常にまとまりが良くサクサクと読みやすいです。

 研究方法について、採集や同定だけではなく記載論文投稿まで触れているのは完全に意表を衝かれました。ガイドブックや図鑑の類はおろか、教科書の類でもここまでの手厚さはそうそうない気がします。本ブログが言及されたり、本邦文献リストの中で Ogawa et al. (2021) が紹介されているのは嬉しいですね。共著者も喜んでいました。

 大量の和名提唱がなされたのはありがたく、特に科レベルで日本語表記のしようがなかった サキシマオカトビムシ科,オオテソコエビ科,ミコヨコエビ科 に和名がついたのは念願叶った感がありました。モクズヨコエビ科の各属についても Bousfield and Hendrycks (2003) による細分化から20年が経とうという今日この頃、コンセンサスが得られていないから等と言いながら旧来の モクズヨコエビ属 Hyale を使い続けるには年月が経ちすぎており、すっとぼけるのがキツくなっていた頃だったので、今後の日本語の各種テキストへも大きな貢献があると思われます。強いて言えば、既に「ミサキモクズ」が存在する分類群に「サキモクズ属」という和名を提唱するのは、「フサゲモクズ」「フサトゲモクズ」のような無用の混乱の再来かと少し身構えたりしました。

 あと、非常に細かい話ではありますが、Amphipoda(端脚目)の名前の由来について「第1~4は前向き,第5~7は後ろ向きなため」(p.9)と書いている点、人づてにはよく聞くものの、専門書の記述として世に出たことはないような気がしていて、今後ここが中心となって引用されていく予感がします。異説には文献が存在し、例えば Spence Bate & Westwood (1863) はこのように書いています。

This name was given by Latreille to the present order of Crustacea on account of the animals contained in it having both swimming and walking legs, and to distinguished it from the order Isopoda, in which the legs are adapted for walking only.

 しかしながら、当の Latreille (1816) にそのような記述はないことと、Isopoda(等脚目)が Latreille (1817) によって記載された(出版年の上では1年だけ)若いグループであることを踏まえると、由緒ある文献ではあるものの真相を示しているかどうかは分かりません。


 閑話休題。

 書評の中でも触れましたが、個人的な驚きポイントは雌雄の生体カラー写真にこだわった構成で、これは本当に度肝を抜かれました。活きた姿を写真に収めるだけでもかなりの苦労が伴いますが、観察に堪える雌雄を揃えるというのは本当に気の遠くなる作業だと思います。形態分類のみに供するヨコエビの標本は採ってからなるべく早くフォルマリンで固定してしまうのが最善で、有山先生はそういった標本を長年蒐集されて4桁とか5桁とかの単位で所蔵しているはず。今回他の方からも写真提供を受けたとはいえ、生体写真を確保するというのは、それを上回る採集努力が必要と思われます。実際、論文で使用した標本とは別に新たに採集して改めて生体写真を撮った種もあるとのことで、その色彩や質感についても丁寧なコメントがあります。


 さて、読む前は34%の網羅率を期待しましたが、掲載種類数140のうち実際は属どまり同定が2割程度を占め、実質の網羅率は本邦既知種の 23% に満たない数字になります。その上、種同定に有用な形態形質を挙げているのは一部の種類にとどまり、科から先の同定には読者の力量が試される構成となっています。

 しかし、実際のところいくら紙面を拡充したとて本邦産種を不自由なく同定できる図鑑の類を作ることはできないと思われます。なぜなら、本邦産ヨコエビ類の解明度は極めて低く、掲載されている5種類全ての種同定が見送られているドロノミ科(ドロノミ属)などは本邦で顧みるに足る分類学的研究が行われたのはせいぜい2種であろうと思われ、手つかずのままその5倍とか10倍に及ぶ種が残されている気配がするからです。本属は世界から80種ほど記載されていますが、ガイドブックに載せようにもまだ学名すらないものも多いと思われます。

 こういった細かい「学術上どうしようもない点」が累積していることと、現状として日本語で分類学の世界が構築されていないことから、こういった難物を相手に孤軍奮闘するような書物に対して、それ単体で「本邦ヨコエビ学」の麓から頂にロープウェイをかけるような働きを期待するのは筋違いではないか、という感はあります。ヨコエビについて「学術的に確実なこと」を知るためには、読みやすい日本語のテキストを漁るだけでは不十分で、原典たる外国語の文献にあたるほかなく、これは意地悪でもなんでもなく、無いものは仕方がない状態といえます。今後和文の学術論文がたくさん出るようになればそれも実現が近づいていくかと思いますが、それはこの研究分野が文化として成熟していくような状態だと思います。

 この「魔の分類群」を調伏させるには、確かなところから少しずつ固めていくしかないと思います。地域なり、分類群なり、という感じです。そのためにはマンパワーが不可欠で、本書が本邦端脚研究者人口の増加に寄与することを心から願っていますし、有山 (2022) はそれに適役だと思っています。



 

ネットの反応

 発売決定当初、Facebook のグループで紹介したところ、海外のヨコエビ研究者達から反響がありました。「いかなる言語であれこのような本が出版されることは意義深い」等のコメントをもらいました。

 出版直後、まだ献本分しか発送されていない時期ですが、写真提供もされている和田太一先生によるレビューが光のように早かったです。しかもじっくりと全体を読み込まれています。

 ゴカイの幼生期研究でおなじみ石巻専修大学の阿部先生のお手元にも。

 三重大の木村先生も大絶賛

 写真提供されている幸塚先生の一言

 伊豆大島で水中写真を撮られていて、有山先生との共著でも知られる星野さんによるレビュー

 柏島のダイビングショップもご購入。これまで絵合わせのしようがなかったヨコエビ界隈にも、とうとう「絵合わせの波」が生まれていることを実感します。

 組曲「甲殻類」でおなじみ井上さんもご購入。たいへん気に入っていただいているようです


 


<参考文献>

— 有山啓之 2011. 今原幸光 (編著) 『写真でわかる磯の生き物図鑑』. トンボ出版, 大阪. [ISBN:9784887162259]

有山啓之 2016. ヨコエビとはどんな動物か?―形態・色彩・生態について―. Cancer, 25: 121–126.

有山啓之 2022. 『ヨコエビ ガイドブック』. 海文堂, 東京. 160pp. [ISBN: 9784303800611]

Bousfield, E. L.; Hendrycks, E. A. 2002. The talitroidean amphipod Family Hyalidae revised, with emphasis on the North Pacific Fauna: Systematics and distributional ecology. Amphipacifica, 3(3): 7–134.

— 風呂田利夫・多留聖典 2016. 『干潟に潜む生き物の生態と見つけ方がわかる 干潟生物観察図鑑』.誠文堂新光社,東京.[ISBN: 978-4-416-51616-4]

— 平山明 1995. 端脚類. In: 西村三郎『原色検索日本海岸動物図鑑[II]』. 保育社, 東京. pp. 172–193.

Ishimaru S. 1994. A catalogue of gammaridean and ingolfiellidean Amphipoda recorded from the vicinity of Japan. Report of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, 24: 29–86.

— 石丸信一 2001. ヨコエビの分類学の発展 —近年の動向—.月刊 海洋, 号外No.26: 15–20.

加戸隆介(編著)/奥村誠一・広瀬雅人・三宅裕志(著)2021.『三陸の海の無脊椎動物』. 恒星社厚生閣,東京.[ISBN: 978-4-7699-1664-2]

菊池泰二 1986. 第一編 ヨコエビ類の分類検索, 及び生態, 生活史に関する研究. In: ヨコエビ類の生物生産に関する基礎研究. 昭和60年度農林水作業特別試験研究費補助金による研究報告書. pp.9–24.

小玉将史 2022. 書評 ヨコエビガイドブック 有山啓之[著]海文堂出版.Cancer, 31: 68.

— Latreille, P. A. 1816. Nouveau Dictionnaire d'histoire naturelle, appliquée aux arts, à l'Agriculture, à l'Economic rurale et domestique, à la Médecine, etc. Par une Société de Naturalistes et d'Agriculteurs. Nouvelle Édition. Paris. 1: 467–469.

— Latreille, P. A. 1817. Les Crustacés, les Arachnides, et les Insectes. In: [G. L. C. F. D.] Cuvier. Le Règne Animal, Distribué d'après son Organisation, pour Servrir de Base a l'Histoire Naturelle des Animaux et d'Introduction a l'Anatomie Comparée. Volume 3: i-xxix+1-653. Paris: Deterville.

— 森野浩 1991. ヨコエビ目. In: 青木淳一(編) 『日本産土壌動物検索図説』. fig.203–219.  東海大学出版会, 東京. [ISBN: 978-4-486-01156-9]

— 森野浩 1999. ヨコエビ目. In: 青木淳一(編) 『日本産土壌動物 -分類のための図解検索』. pp. 626–644. 東海大学出版会, 東京. [ISBN: 978-4-486-01443-0]

— 森野浩 2015. ヨコエビ目. In: 青木淳一(編) 『日本産土壌動物 第二版 -分類のための図解検索』. pp. 1069–1089. 東海大学出版会, 東京. [ISBN: 978-4-486-01945-9]

森野浩・向井宏 2016. 砂浜フィールド図鑑(1)日本のハマトビムシ類. 海の生き物を守る会, 京都市.

— 永田樹三 1965. 端脚目 (AMPHIPODA) 概説. In: 岡田要 『新日本動物図鑑[中]』第6版. 北隆館, 東京.

— 西村三郎 1999.『入門検索 海岸動物』.初版:1987年,保育社,東京.[ISBN4-586-31026-X]

— 小川洋 2011. 東京湾のヨコエビガイドブック. open edition ver.1.3. web publication. 140p.

—  小川洋 2022. BOOK REVIEWS ヨコエビ ガイドブック 有山啓之(著).タクサ53: 66.

Ogawa H; Takada Y.; Sakuma K. 2021. A new species of the sand-burrowing Dogielinotidae, Haustorioides furotai, from Tokyo Bay, Japan (Crustacea: Amphipoda). Species Diversity, 26: 65–78.

— Spence Bate, C.; Westwood, J. 1863. A history of the British sessile-eyed Crustacea 1. London: John van Voorst. pp. iii-vi,1-507

— 鈴木孝男・木村昭一・木村妙子・森敬介・多留聖典 2013. 『干潟ベントスフィールド図鑑』.  [ISBN: 978-4-9904238-8-9]

— 武田正倫 1982. 『原色甲殻類検索図鑑』. 北隆館,東京.

富川光・森野浩 2012. 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方. タクサ, 32: 39–51.

Tomikawa K. 2017. Chapter 9 Species Diversity and Phylogeny of Freshwater and Terrestrial Gammaridean Amphipods (Crustacea) in Japan. In: Motokawa M.; Kajihara H. (eds.), Species Diversity of Animals in Japan, Diversity and Commonality in Animals. [DOI: 10.1007/978-4-431-56432-4_9]

— 上野益三・入江春彦 1960. In: 岡田要『原色動物大圖鑑』. 北隆館,東京.


2022年8月23日火曜日

エイリアンとタルマワシ(8月度活動報告)

 

 ~ とう場人ぶつ ~
 
こうたくん
ヨコエビのことが気になっている男の子。


ひろきくん
さいきん、こうたくんやはかせと、あそぶようになった男の子。
あまりしゃべらないけど、するどい。


ひばりちゃん
 うつりぎな女の子。
ウミノミがすき。
 
 
よこえびはかせ
ヨコエビの本やひょうほんをいっぱいもっている。
ヨコエビのことにくわしくて、何でもしらべて教えてくれるけど、
そのほかのことにはまるっきりきょうみがないんだ。


~~~~~~~


よこえびたんていだん


だい4話 エイリアンとタルマワシ





じけんはっ生



こうたくん:はかせ!えい画に出たヨコエビがいるんだって!

はかせ:どれどれ、見せてごらん。

 



はかせ:ホッホッホ、こうたくん、これはタルマワシじゃよ。

こうたくん:タルマワシ?

ひばりちゃん:しん海生ぶつずかんとかにのってるやつ。かな。

こうたくん:・・・だれ?

ひばりちゃん:いいだ ひばり です。

こうたくん:せち こうた です。

はかせ:ひばりちゃんはときどき、ヨコエビとかウミノミの本を読みに来るんじゃよ。

こうたくん:ウミノミって、あの足をかじるやつ?

はかせ:それは、ごやくじゃったという話を、した気がするのう。ともかく、ヨコエビとウミノミはべつの生きものの名前なんじゃよ。そしてタルマワシは、ウミノミのほうのなか間なんじゃ。

こうたくん:じゃあ、えい画に出たのはウミノミってこと?

はかせ:どうじゃろうのう。ちなみに、こうたくんが見たのはこれかの?



こうたくん:そうそう!うちゅうせんがよその星?についたとこで、ねちゃった。

ひろきくん:ありえんほど、じょばんですね…。

こうたくん:ひろきくん、いたんだ。




かくにん

ひばりちゃん:「エイリアンのモデルはタルマワシ」って、テレビで水中しゃしん家の人が言ってた気がするかな。

はかせ:ツイッターでは日本のはくぶつかんのアカウントがそういうことを言っておったし、海外の「エイリアン」のデータベースにも書いてあるぞい。せかいさい大の学じゅつ組しきとも言われるスミソニアンきょう会も、「うわさ」としてしょうかいしておる。

ひばりちゃん:じゃあ、間ちがってないのかな。

はかせ:ちょっとしらべてみるかのう。「エイリアン」のえい画ではいろいろなデザイナーがしごとをしたみたいじゃが、「ゼノモーフ」のデザインはギーガーさんという画家のイラストが元になっているようじゃのう。

こうたくん:ゼノモーフ?

はかせ:いわゆる「エイリアン」のことじゃよ。

こうたくん:これゼノモーフっていうのか!

はかせ:ゼノモーフ、つまりエイリアンにはいろいろな形があるし、えい画のタイトルも「エイリアン」でまぎらわしいから、だい1作目のエイリアンだい3形たいのことは「ビッグチャップ」と、よぶことにするかのう。



はかせ:ギーガーさんの絵を気に入ったきゃく本家が、えい画につかうセットやきぐるみなんかを作るときに、ビッグチャップをふくめて、ギーガーさんにデザインをたのんだみたいじゃ。『ギーガーズ・エイリアン』のギーガーさんの日記には、このように書いてあるのう。

私はついていたのだ。画家仲間のボブ・ヴェノーサは,シュールレアリストのサルバドール・ダリの家にしばしば招待されていたが ふたりは同じ町,スペインのタガクに住んでいたのだ  あるとき私の作品カタログを彼に見せた。そしてダリに私の作品をどう思うかと尋ねた。ダリは明らかにそれを気に入ったようで,そのカタログをフランク・ハーバートのSF小説,『デューン』三部作の映画化を考えていたプロデューサーのアレハンドロ・ホドロフスキーに見せた。(中略)ホドロフスキーは私やほかの何人かが仕上げたものを携えて,プロデューサーを探すためアメリカに飛んだ。彼には運が味方しなかったとみえて,その後彼に会ったことはない。私の手に残った唯一のものは,もうひとりのがっかりした男(『デューン』では特殊効果を担当することになっていた)の住所だけだった。その男の名はダン・オバノン,『エイリアン』の作者である。(中略)

1977年7月 ハリウッドのダン・オバノンから,まったく予期していなかった電話が入った。(中略)話の内容は,彼の新しい映画『エイリアン』についてだった。(中略)『エイリアン』の恐ろしいモンスターたちは私に作られるべきだと提案した。

はかせ:『ギーガーズ・エイリアン』によると、そのあと7月11日にオバノンさんから手紙がとどいたようじゃのう。そこに、ギーガーさんにデザインしてほしいものが書いてあったそうじゃ。『メイキング・オブ・エイリアン』によると、こんなかんじだったそうじゃ

エイリアン(第3形態):宿主の身体から抜け出たエイリアンは急速に、人間の成人と同等のサイズにまで成長。この段階では非常に危険な生物と化している。あちこち動き回り、頑強で、人間をバラバラに引き裂くことも可能。人肉を食料とする。この生物は野卑で醜悪な、嫌悪感を抱かせる外見だ。プロデューサーは、巨大な奇形児のような感じにすれば忌まわしいイメージが出せるかもしれないと提案している。とにかく遠慮なく独自のデザインを編み出してほしい。

ひばりちゃん:タルマワシっぽいオーダーは、ないのかな。

はかせ:そこまでのしじはなかったみたいだのう。『ギーガーズ・エイリアン』にはその後のながれが書いてあるんじゃ

私は説明図やスケッチや模型を作ってオバノンの許に送り,そして待った。

ハリウッドからはなんの返事もなかった。ちょうど私の本,ネクロノミコン1(HRGiger’s Necronomicon 1)のフランス版が出たばかりだったので,できたての,まだインクが乾ききっていないものをオバノンに送った。

はかせ:エイリアン」のきゃく本を書いたオバノンさんがギーガーさんに、たまごがたくさんあった「いきせん」やゼノモーフのデザインをたのんだのは間ちがいないようじゃが、どうやらビッグチャップの元になったデザインは、その前からじゅんびされていた『ネクロノミコン1』という本の中の「ネクロノームⅣ」という絵のようじゃのう。

ひばりちゃん:それがタルマワシっぽかったのかな。

はかせ:『ネクロノミコン1』によると、「ネクロノームⅣ」は1976年に書かれたもののようじゃが、タルマワシがモチーフになっているとは書いてないぞい。

ひばりちゃん:じゃあ、モチーフは何なのかな。

はかせ:かいせつには、人間の体のパーツと、きかいのぶひんを組み合わたもの、と書いてあるんじゃ。「ネクロノームⅣ」を見ても、あえてタルマワシのようそをさがすより、人の体ときかいのイメージで、せつめいができると思うぞい。

ひばりちゃん:ギーガーのほかに、ゼノモーフのデザインこうほは、なかったのかな。

はかせ:そうじゃのう、じつはオバノンさんがきゃく本を書きはじめてから、ギーガーさんに手紙をおくるまでの間に、べつのすがたの「かいぶつ」が書かれたこともあったんじゃよ。

こうたくん:どういうこと?

はかせ:『メイキング・オブ・エイリアン』にはこのように書いてあるのう。オバノンさんは「クローンびょう」にかかっていて、友だちのシャセットさんの家で休ようしながら、きゃく本を書いてたみたいじゃ。

オバノンとシャセットは(中略)爆撃機が帰還途中に黒い嵐雲の中で隊からはぐれ、機内に忍び込んだ小さな悪魔に襲われるという展開になった。この凶悪な生物は機体後部の機銃塔から侵入し、機内を進みながら、遭遇した乗組員をひとり、またひとりと殺していく。

はかせ:『エイリアン|アーカイブ』には、その後のきゃく本について書いてあるんじゃ。

オバノンは「Star Beast(スター・ビースト)」と題した脚本を仕上げる。オバノンが監督、シャセットがプロデュースする計画で、独力で資金を集めようとしていた。しかし、オバノンは資金を調達するには何らかのビジュアル素材が必要だと考えた。それでオバノンは著名なイラストレーターで、ロサンジェルス・フリー・プレス紙の政治風刺漫画家だったロン・コブ(Ron Cobb)に頼み、脚本と一緒に送れるようなカラーイラストを依頼した。

はかせ:『メイキング・オブ・エイリアン』によると1976年の春ごろにえがかれたコブさんのイラストでは、かいぶつのすがたは「うろこ」におおわれた、はちゅうるいのようなイメージだったようで、タルマワシとはかんけいないんじゃ。そしてこれが、その「スター・ビースト」のあらすじと思われるのう。

乗組員たちは墜落した宇宙船の残骸と痩せこけたパイロットの亡骸を発見する。そして奇妙な形の頭蓋骨を自分たちの船に持ち帰るのだが、その頭蓋骨の内部に恐ろしい微生物が宿っており、それが急激に成長することは知る由もなかった。地球に向けて航行を開始するなり、その微生物が動き始める。

はかせ:このプロットはだいぶ「プロメテウス」っぽいのう。『メイキング・オブ・エイリアン』によると、その後、たねをうえつけられるアイディアが出てきたようじゃ。

「ダンは『ここで諦めちゃダメだよ。良い案が出かかってる。そんな気がする』と訴えた(中略)僕はダンのもとに駆け寄って、こう伝えた。『アイデアが浮かんだんだよ。謎の生命体は乗務員のひとりと<交わる>んだ。相手の顔に飛び乗って<種>を体内に植え付けるんだ』と」シャセットは当時の詳細をこのように語った。

はかせ:このアイディアができてから、タイトルも「エイリアン」にかわって、その後にギーガーさんへ手紙がおくられたみたいじゃのう。じゃが、『ネクロノミコン』がオバノンさんにとどいてからしばらくしても、まだビッグチャップのデザインには、きまっていなかったようじゃ。『ギーガーズ・エイリアン』にはこのように書いてあるぞい。

1787年(※注)2月23日,シェパートン・スタジオ(中略)まず第一に,『エイリアン』に登場するエイリアンがどんな姿をしているべきか定かでなかった。(中略)果しのない議論の末,エイリアンを昆虫のようなエレガントな形にしようということになった。(中略)

目の部分を前方から見たところは(図表番号省略),あまりにもオートバイ用のゴーグル然としている。これは黒く半透明の頭蓋に置き換えねばならなかった。頭蓋が長く延びて,前方に眼窩が見える(図表番号省略)

はかせ:この「ゴーグルっぽいかお」というのは、「ネクロノームⅣ」のイラストのことじゃのう。そこに、こん虫やとうがいこつのイメージを足して、ビッグチャップが出来上がったみたいじゃ。『エイリアン|アーカイブ』には、こんなコメントもあるんじゃ。

”地獄からやってきた、この黒いゴキブリを作ったのはギーガーだ” 

ロン・コブ

コンセプトアーティスト

はかせ:ちなみに、フェイスハガーやチェストバスターなど、ほかのゼノモーフについても、タルマワシとかかわりがありそうな話は、見つからなかったのう。

ひろきくん:「タルマワシ」というのは、見た目じゃなくて、べつのいみがあったりするんでしょうかね…

ひばりちゃん:あい手の中みを食べて子どもをそだてたり、にてるとこはあるかな。

はかせ:『メイキング・オブ・エイリアン』によると、ゼノモーフが人の体を食いやぶって生まれるのは、オバノンさんが「クローンびょう」のせいで、いつもおなかのいたみをかかえていたことが、かんけいあるみたいじゃ。そして、とうじオバノンさんが読んでいたという「エスエフ小せつ」「エスエフコミック」には、うちゅう生ぶつが人の体を食いやぶって出てくる話が、いろいろあるそうじゃ。タルマワシのえいきょうが、ぜったいなかったと言いきることはできんが、これだけほかのネタがあるのに、わざわざ引き合いに出すほどのこんきょもないのう。

ひろきくん:このひとによると、ビッグチャップより、「エイリアン2」にでてくる「エイリアンクイーン」のほうが、タルマワシににてるということです…

はかせ:たしかに、そのとおりに思えるのう。おなじことがマイケル・ボックさんののページにも書いてあって、さいしょに「クイーンのデザインはタルマワシが元になってる」という話が出たのは、デイヴィッド・アッテンボローさんのナレーションでゆう名なドキュメンタリーばん組「ブルー・プラネット」へのネットでのひひょうだった、と言われておる。

こうたくん:これできまりなの?

はかせ:じゃが、『エイリアン|アーカイブ』には、クイーンがタルマワシを元にしているとは、書いてないんじゃ

エイリアンクイーンはジェームズ・キャメロンのデザインに基づき、スタン・ウィンストンが監督の意向を取り入れて、デザインに忠実に造形した。(中略)「彼女はジムのコンセプト、構想、デザインなんだ。プロジェクトについて最初に話し合ったとき、ジムが美しい絵を見せてくれた。即座に気に入ったよ」

「拒食症の恐竜だと言った人がいた。仕方がないけれど、僕が思い描いていたのとは違う。実際、恐竜みたいな感じにするつもりもなかった。それだと少し、平凡で退屈になっただろうね。僕にとってクイーンは、ギーガーのデザインと、僕が欲しかったデザインの融合だ。大きくて力が強く、恐ろしくて、素早く動く雌の生物なんだ。醜悪で、なおかつ美しい。まるでクロゴケグモのように」と、キャメロン。

はかせ:『メイキング・オブ・エイリアン2』には、こんなこともかいてある。マハンさんはクイーンの「あたま」と「かお」、ローゼングラントさんは「うで」を、それぞれたんとうした、クリーチャーエフェクトコーディネーターじゃ。

マハンとローゼングラントはロンドン自然史博物館に赴き、インスピレーションを得るために化石のリサーチを行った。「先史時代から存在する魚、シーラカンスの化石を見て、思い浮かんだアイデアをスケッチしていった」と、マハンは語る。「そのシーラカンスが、エイリアン・クイーンの頭部に活かされているんだ。この博物館でのリサーチをもとに、僕らは頭部の彫刻にディテールを加えていった」

はかせ:そんなわけで、タルマワシではない生きもののイメージがあったようじゃ。

ひばりちゃん:ビッグチャップより、いろいろな生きもののイメージを活かすようになったのかな。

はかせ:『エイリアン|アーカイブ』には、とくしゅぞうけいコーディネーターのウッドラフさんのコメントも、のっておるんじゃ。

「物理的な構造の点から言うと、クイーンについてそれほどメカニカルな感じもなく、それほど完成された形でもない」と語るのはウッドラフ。「ギーガーのエイリアンが本質的には虫だったように、エイリアンクイーンの本質は甲殻類に近い。すごく細くてすごく貧弱な手足はそのままで、エイリアンの最初の見た目に比べると、海中生物らしさがある。だけど、原型は確かに同じで、顔だけはエイリアンの顔を思わる(※原文ママ)ものになっていた。うまく変化させたものだ」

はかせ:クイーンはビッグチャップを元にしながら、キャメロンさんが「クモっぽいかんじ」を入れたり、マハンさんが「シーラカンスのイメージ」を入れたりして、「こうかくるい」っぽく作り上げたもの、みたいじゃのう。キャメロンさんは学生じだいに「海よう生ぶつ学」をせんこうしておったようで、2009年の「アバター」ではパンドラのジャングルの中にクラゲのような生きものをとうじょうさせるなど、じぶんのえい画に「海よう生ぶつ」のイメージを入れたことがある。クイーンをデザインするときに、「海よう生ぶつ」があたまのかたすみにあったとしても、ふしぎではないと思うぞい。

ひばりちゃん:「ブルー・プラネット」より前から、「こうかくるい」ににてるという話があったなら、タルマワシとかんけいあるという話も、あったのかな。

はかせ:「ブルー・プラネット」のさいしょのほうそうは2001年じゃから、このせつでは2001年から2009年の間に「クイーンのモデルはタルマワシ」という話ができあがったことになるのう。えい画シリーズでは「エイリアン4」までこうかいされておるから、「エイリアン2」よりずっと後なんじゃ。ちなみに、『エイリアン|アーカイブ』を読んだかぎりでは、「エイリアン4」までに出てくるキャラクターにも、タルマワシのイメージが入ったものは、見あたらないぞい。

こうたくん:えっ、これできまりじゃないの?

はかせ:2011年にアイルランドのしん聞に「クイーンのモデルはタルマワシ」というきじがのったのがそうとうふるいんじゃが、2009年より前にエイリアンとむすびつけたコメントを見つけることはできなかったぞい。

こうたくん:なんだーちゃんとさがしたの?



すいり

はかせ:プリオサウルスさんは「エイリアンのデザイナーがタルマワシをモデルにした」と、はっきりかいてある本を見つけて、さらにべつのえい画がかんけいしているかも、とかんがえたようじゃな。じっさいに『うつくしいプランクトンのせかい』には、こう書いてあるぞい。

そして、タルマワシには風変わりなエピソードがある。フランスの漫画家メビウス(Moebius)がタルマワシの形態に触発されて描いた絵が、ハリウッド映画の大ヒット作「エイリアン」に登場するモンスターの元となったのだ。

はかせ:これの元になったしりょうがないか、さんこう文けんもかくにんしてみたんじゃが、えい画かんけいのものは見あたらなかったのう。げんしょもかくにんしたかったんじゃが、日本にはざいこがなくて、ゆ入もできないと、きの国やしょてんに言われてしまったぞい。

ひばりちゃん:メビウスという人が、キーパーソンなのかな。

はかせ:プリオサウルスさんも言っておるが、これまで見てきたとおり「エイリアン」に出てくるビッグチャップのデザインはギーガーさんが手がけたもので、メビウスさんはかんけいないはずじゃ。

ひばりちゃん:メビウスがエイリアンをデザインしたかのうせいは、ほんとうにないのかな。

はかせ:このサイトではしょきコンセプトにさんかしたとかいてあって、たしかに『エイリアン|アーカイブ』にはメビウスさんが書いた「わく星」や「いきせん」のしょきデザイン画ものっておる。じゃが、『メイキング・オブ・エイリアン』には、このように書いてあるのう。ちなみにスコットさんというのは、1作目「エイリアン」のかんとくじゃ。

 「メビウスには、映画全体の作業は引き受けられないが、宇宙服のデザインだけならやれると言われた」と、スコットは振り返る。(中略)

 「そうやってメビウスは宇宙服のデザインを描き、飛行機に乗ってフランスへ帰っていった」と、オバノンが顛末を説明する。「そのデザインは実際に採用されたが、メビウスとのかかわりも彼への支払いも、そこで終わりになった」

はかせ:『ギーガーズ・エイリアン』のギーガーさんの日記では、うちゅうふくをデザインしたメビウスさんとは1978年2月14日にホテルでかおを合わせたと、書いてあるんじゃ。ギーガーさんが「ネクロノームⅣ」を書いたり、オバノンさんにデザインをおくったりしたのは、それより前の話じゃからのう。「いきせん」のデザインもけっきょくギーガーさんがやることになったし、しりょうを見たかぎり、メビウスさんがビッグチャップのデザインにかかわったかのうせいは、ないと言ってよいじゃろう。まあ、『メイキング・オブ・エイリアン』にあるえい画のクレジットには、「いしょうデザイン」としてもメビウスさんはのってないようじゃから、クレジットに名まえがないだけでかんけいないときめつけることは、できんがのう。

こうたくん:なんだ、本はうそじゃん。

はかせ:プリオサウルスさんの話だと、えい画「アビス」にでてくるキャラクターのデザインはタルマワシとクラゲを合体させたような形をしとるから、デザイナーのメビウスさんつながりで「エイリアンのモデルはタルマワシ」という話になったんじゃないか、ということみたいじゃのう。

こうたくん:アビス?

はかせ:海をぶたいにした、エスエフえい画じゃよ。さっきの「エイリアン2」をふまえると、かんとくが「アビス」とおなじキャメロンさんという、きょうつうてんもあるのは、せっとく力としてかなり強いぞい。

ひろきくん:でも「アビス」と「エイリアン」って、間ちがえますかね…

はかせ:たとえば「かんとくがジェームズ・キャメロンでメビウスがデザインにかかわったえい画」みたいな話を聞いたときに、「エイリアン」を思いうかべるのは、正しいとはかぎらんが、むりもない気はするのう。

ひばりちゃん:じゃあ、メビウスがタルマワシを元に「アビス」の「うちゅう生ぶつ」をデザインしたのは、本とうなのかな。

はかせ:「アビス」のムック本『DANCING ON THE EDGE OF THE ABYSS』には、こう書いてあるのう。ジョンソンさんは、「アビス」の「うちゅう生ぶつ」のパペットを作った人じゃ。

キャメロン監督は地球外生物のデザインを何人ものアーチストとつくり出そうと何か月もかけた。「私の意図は天使のような異生物だった。(中略)興味ある形や模様を得るために、周囲の目を気にせず、高価なものから安価なものまであらゆる雑誌類に目を通した。イカからクラゲまで、ひかれるものはすべて見た。これらの生物が脅威的でなく美しいということが私にとって重要だった。(中略)メビウスのコンセプトは実際かなり愛らしかったが、私が望む特定のクオリティがなかった。私はそれらのクラゲのような、あるいはまったく未知の生物を人格化させたかったのだが、メビウスはその要求に抵抗したんだ」(中略)

「スタート時点でわかっていたのは、彼らが美しく、発光し、水中で機能し、まったく透けて見えるということだけだった」とジョンソンは言う。「きれいで発光し、水中にいる。この3つの要素を含んだ難しい作業をやらねばならなかった。ジムが選んだ大量の絵を渡されたが、それらすべてがエイや蝶のような外見だった(中略)」数週間が過ぎ、数か月がたったが、依然、承認されるデザインはなかった。(中略)

「最終デザインは脚本の中で描かれていた生物にとてもよく似ていた。デリケートな人間のような体をもち、広がった大きな羽と尻尾のある、透き通った流線形の生物だった。人間の全長より大きいが、頭が多少小さく、手や腕がかなり細かった。色を変え、模様をつくる、発光性の姿をしていたんだ。(中略)漂うマントのようなもののため、それはエイのようにも見えた。(以下鉤括弧まで省略)

はかせ:タルマワシがさんこうにされたとは、書いてないんじゃ。えい画のパンフレットにも、デザインのいきさつは書いておらんのう。

ひばりちゃん:そういわれてみると、「アビス」の「うちゅう生ぶつ」は、ほとんどエイみたいなものかな。

はかせ:画ぞうけんさくするといろいろイラストを見れるが、タルマワシに見えるかどうかは、人によるかもしれんのう。じゃが、「アビス」のデザインで海の生きものがとり入れられたのは、「うちゅう生ぶつ」だけじゃないぞい。「ぼせん」や「のりもの」、「ていさつてい」も、どくとくなコンセプトがつらぬかれておる。『DANCING ON THE EDGE OF THE ABYSS』には、こう書いてあるぞい。バーグさんはミニチュアデザインたんとうのスタッフじゃ。

「地球外生物の乗り物のインスピレーションは、いくつかの海洋微生物から得たものだった」とキャメロン監督は言う。「それらは地球的でなく、異様で視覚的におもしろい必要があった。(中略)たとえば乗り物が形を変える、いろんな幾何学的な状態や、エイのように動く羽のような構造など、多くのアイディアを検討した。(中略)」。(中略) 
「何年間もジムは何種もの海洋生物の写真を集めていた」とバーグは言う。「エイ型の乗り物はそれらのひとつをもとにしたもので、それは不気味な組織をもつ軟体動物だった。その生物自体のように、乗り物は透明な吹きガラスのような外見をもつ発光性のものだった。1・5~1・8㍍の翼長があり、ヘリコプターや偵察機のような機能をもつものだった。(中略)私のお気に入りは、ピンクで内部に球状の形をもつ、つばの垂れ下がるベレー帽に似たもので、エイリアンを載せる目に見えないコントロール脚やコックピットとして考えられた。ジムはそれに手を加えた。前部の先端周囲を変えて彼自身で絵を描き、腹部の下に取り入れ口がある、くぼんだ形を与えた。相互に連結した細い柄のワイン・グラスのような内装の特徴は、そのままだった」。(中略)「最初、偵察艇はリモコンで操作される、とても小さな乗り物になるはずだったが、結局、大きなバイクのサイズになってしまった。初めのアイディアは巨大なぞうり虫のようなものだった中略)」 



はかせ:「のりもの」と「ていさつてい」は、ムック本にもしゃしんなどはなくて、えい画のなかではみじかい間しか出ないのじゃが、エイのほかにはクシクラゲやサルパに見えなくもないのう。キャメロンさんがデザインをねり上げるよう子はこのように書いてあるのじゃが、「メビウスさんがタルマワシにしょくはつされた」とは、書いてなかったぞい。

こうたくん:じゃあ、うそなの?

はかせ:しょう言が見つからないだけかもしれんのう。いろいろな、うみの生きものをさんこうにしたみたいじゃから、タルマワシが目にふれなかったと言いきるのも、むずかしいと思うぞい。メビウスさんはざんねんながらすでになくなっておるから、しんそうは、ふかい海のようにくらいやみの中じゃ。

こうたくん:アッテンボローさんのやつはどうなったの?そっちがただしいの?

はかせ:「ブルー・プラネット」からの広まりは、大きかったんじゃろう。そもそも「メビウスさんデザインせつ」があって、それが「ブルー・プラネット」をきっかけにネットに広まったのかもしれんのう。

ひばりちゃん:ちょっとまって、ということは、ふかくじつな「うわさ」をはいじょすると、「アビス」と「エイリアン」をつなぐのは、メビウスじゃなくてキャメロンかんとくのかのうせいが高い、ということかな。

はかせ:そうじゃのう、もしかすると、「アビス」でキャメロンさんが「うちゅう生ぶつ」や「のりもの」にタルマワシのデザインをつかったという話があって、それがねじれて「エイリアン」になったのかもしれんのう。「しんそう」にせよ、「うわさ」にせよ、「エイリアン」ではなく「エイリアン2」から、タルマワシとむすびつけられたように思えるぞい。

ひばりちゃん:もし「アビス」でタルマワシを元にした「うちゅう生ぶつ」のデザインにかかわったキャメロンかんとくが、「エイリアン2」にそのイメージをもちこんだとしたら、「うわさ」ははんぶん「しんじつ」ということに、なるのかな。

はかせ:「エイリアン2」が「アビス」より、先に作られておるから、ありえないことになるのう。

ひばりちゃん:そうなんだ。

はかせ:もしかすると、キャメロンさんは「エイリアン2」で、本とうにエイリアンクイーンのデザインにタルマワシをつかったのかもしれんし、「こうかくるいみたい」というコメントが一人あるきしたのかもしれんのう。

ひばりちゃん:それにしてもタルマワシは、うちゅうせんみたいなサルパにすんでいたり、「うちゅう生ぶつ」っぽいとこはあるかな。

はかせ:さいしょに広まったのは、えい画「エイリアン」じゃなくて、「うちゅう生ぶつ」といういみで「エイリアン」に見える、という話だったのかもしれんのう。「ブルー・プラネットきげんせつ」が正しいとしても、もともと「うちゅう生ぶつっぽいイメージ」があったかもしれんからのう。

ひろきくん:なんか「きょくひどうぶつが、エイリアンのモデル」というせつも、あるみたいですね…

はかせ:たしかに、イギリスのしん聞のページにはこう書いてあって、ウミユリのしゃしんがそえられておるのう。

絵画「ネクロノームⅣ」を見たリドリー・スコットに見いだされ、エイリアンのクリエーターとなったスイスのシュールレアリスムアーティスト、ハンス・ルドルフ・ギーガーだが、彼のたくさんのデザインの一部は化石を元にしているといわれている。

はかせ:そもそもこの「いわれている」のこんきょがはっきりしないぞい。ウミユリに、にているのは「ネクロノームⅣ」が元になったビッグチャップではなくてフェイスハガーなんじゃが、これはギーガーさんがオバノンさんにたのまれてデザインしたものなんじゃ。たしかに『ネクロノミコン1』にはレリーフのような絵がたくさんあって「か石」のように見えるが、フェイスハガーはその後にえい画のためにデザインされたものじゃからのう。これは2013年のきじじゃが、こうしてあたらしい「うわさ」は作られつづけておるようじゃのう。




けつろん

ひばりちゃん:けっきょく「エイリアンのモデルはタルマワシ」は、しんようできる「しょうこ」が見つからなくて、しかも1作目の「エイリアン」については、ほとんど「しんぴょうせい」がないかんじ、かな。

こうたくん:なんだ、うそじゃん。

はかせ:すくなくとも『うつくしいプランクトンのせかい』に書いてあった「メビウスさんがエイリアンをデザインした」というのは、間ちがいじゃったのう。もしかするとギーガーさんはタルマワシを見たことがあったのかもしれんが、ご本人はもうなくなっていて、しんじつはうちゅうのように、くらいやみの中、なんじゃ。

ひばりちゃん:「エイリアン2」のクイーンは、ひょっとするのかな。

はかせ:キャメロンさんがタルマワシを元にデザインした「しょうこ」はないが、あたらしい「かせつ」にはなりうる気がするのう。

ひばりちゃん:「エイリアンのモデルはタルマワシ」と言いはじめた人も、けっきょくわからなかったかな。

はかせ:「エイリアン」にせよ「エイリアン2」にせよ、「うわさ」がどこからはじまったのか、たどれなかったのう。

ひばりちゃん:「アビスせつ」がただしいのかも、わからなかったかな。

はかせ:「うちゅう生ぶつ」も「のりもの」も、「しょうこ」はなかったし、そこまでにてるように見えんが、デザインが作られる「かてい」からかんがえると、タルマワシが元になったかのうせいはクイーンより高い気がするぞい。じゃが、それが「エイリアン」につながるようになった「けいい」は、はっきりせんかったのう。

こうたくん:せいかなしか、だらしないなあ。

はかせ:そうじゃのう、こんかいは手に入りやすい、ほんやくずみのムック本だけを読んだわけじゃが、ほかにもしらべようがあるはずじゃからのう。

こうたくん:ちょうさぶ足ってこと?

はかせ:えい画やドキュメンタリーばん組のしりょうをたくさんあつめられれば、何かわかったかもしれんぞい。どこかに「うわさ」の元になった、そのものズバリなインタビューがあるとも、思えるのう。

ひばりちゃん:それがあれば、かんぺきなのにね。

はかせ:じゃが、かんけいしゃのインタビューがたとえばぜんぶ手に入ったとしても、言ってることが食いちがうかのうせいはあるぞい。『エイリアン|アーカイブ』でも、出えんしゃと、せい作スタッフがわとの言いぶんが、ちがっていることがしょうかいされておる。

こうたくん:けっきょく、わからないってこと?

はかせ:人によっておぼえていることがちがったり、話をもったりするのは、しかたないと思うぞい。こういう、かんけいしゃしか「しんそう」がわからない話には、よくあることじゃ。

こうたくん:じゃあ、よの中のことは、ぜんぶ「わからない」ってこと?そりゃないよ。

はかせ:そうじゃのう、たとえば本などの活字に「しんそう」があれば、そこだけは「わかる」と言うことができるぞい。

こうたくん:どういうこと?

はかせ:「エイリアンのモデルはタルマワシ」が「しんじつ」かどうかはべつにして、そう書いてある本があって、後からそれを読んだ人が「この本にこう書いてあった」と言いながらべつの本を書けば、その話のながれだけは、おいかけることができるんじゃ。今はただの「でん言ゲーム」みたいな「うわさ」でそれすらもよくわからんから、「しんそう」を知ることにも、くろうしておる。

こうたくん:そういうもんなのか。

はかせ:これまでこのコーナーでとりあげたような「ろん文」や「しん聞きじ」などの活字だと、そういうながれをおいかけやすい「くふう」があるんじゃ。活字を読むことのいみは、こういうことなんじゃよ。

こうたくん:メタはつ言?いみがわからないよ…

はかせ:そうじゃな、活字をいやがる人もおるが、もんだいかいけつのためには、いやがらずに読むことは、ときにはとても大せつなんじゃ。

こうたくん:でも、ちょくせつ見たわけじゃないでしょ?あなたのかんそうですよね?それ「しんじつ」って言えるんですか?

はかせ:一人の人間がちょくせつ見たり聞いたりして「しんじつ」にふれられるのは、ごくかぎられておるぞい。気にしてないだけで、ふだんからむかしの人の見たこと聞いたことには、たすけられておるはずじゃ。活字を読むことにかぎらず、な。もちろん、だれかのかんがえの「出てん」をかくして「ひょうせつ」するのはダメじゃが、むかしの人の見たこと聞いたことの「かりもの」とむえんに生きてると思ってるのは、それはそれで、かなりごうまんなかんがえな気がするのう。

こうたくん:そうなの?

はかせ:そういう、だれかが活字にしてのこしたことを、うまくつかいこなして、じぶんでも活字にのこすようにすれば、さらに後の人にもやくだつぞい。それは、読む人と書く人がいるからできることで、だれかに教えようとせずだまっていたら、そのまま土にかえるだけになってしまうんじゃ。

 こうたくん:なんかせっ教くさいね。

はかせ:何でもかんでも人に教えるひつようはないが、もし何かをしらせたいなら、ふさわしいやりかたにのっとるのが、オススメじゃ。

 こうたくん:うん!帰ったらお母さんにも教えてあげようっと。


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※注:1978年の誤りと思われる。


<さんこう文けん>

 H.G.ギーガー(画)/伊藤俊治・武邑光裕(解説)1986.『H.G.ギーガー/ネクロノミコン1』.トレヴィル,東京.

 H.G.ギーガー(著)/田中克己(訳)1986.『ギーガーズ・エイリアン』.トレヴィル,東京.

 クリスティアン・サルデ(著)/吉田春美(訳)2014.『美しいプランクトンの世界』.河出書房新社,東京.

 マーク・ソールズバーリー(インタビュー)/株式会社Bスプラウト(訳)/平谷早苗(編)2014.『エイリアン|アーカイブ』.ボーンデジタル,東京.

 ニュータイプ編集部 1990.『DANCING ON THE EDGE OF THE ABYSS』.角川書店,東京.

 J.W.リンズラー(著)/阿部清美(訳)2019.『メイキング・オブ・エイリアン』.玄光社,東京.

 J.W.リンズラー(著)/阿部清美(訳)2021.『メイキング・オブ・エイリアン2』.玄光社,東京.

 20世紀フォックス極東映画会社 1990.『アビス』(パンフレット).東宝出版事業室,東京.


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補遺 (15-VIII-2024)
・一部書式設定変更。

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「よこえびたんていだん」シリーズ

だい1話「ダイダラボッチのなぞ」

だい2話「めいきゅうのヨロイヨコエビ」

だい3話「ようぎしゃ フトヒゲソコエビ」

2022年7月28日木曜日

ハッジヨコエビ上科について(II)センドウヨコエビ編(7月度活動報告)

 

 引き続きハッジヨコエビ上科のメンバーを紹介します。諸事情によりだいぶ時間が空いてしまいましたが。

前回:ハッジヨコエビ上科について(I)メリタヨコエビ編(2月度活動報告)

 

 センドウヨコエビ科は広義の「メリタグループ」に扱われることが多く、Ren (2012) では「Melita-Eriopisa Complex」という扱いになっていたりします。

 前回述べた通り、センドウヨコエビ科は 2節からなる長大な第3尾肢外葉 をもつことで知られます。実物を見ると、尾肢を含めたそのスレンダーな体形が特徴的に見えます。しかし、実際のところセンドウヨコエビ科のうち2割の属は外葉が1節からなり、逆にメリタヨコエビ科において先端の1節が根元の1節より発達している属は半数にも及ぶことから、注意が必要です。

 正確な分類にあたっては、こういった大枠の形質でまず目星をつけた後、他グループとされている中にある「例外」の形質を確認して、裏付けするとよいでしょう。

 

 
センドウヨコエビ科の形態マトリクス。

  21属約80種からなります。このなかの Panamapisa属 は記載されたばかりです。

 


<名前について> 

 「センドウヨコエビ」は Eriopisa属 に宛てられた和名ですが (Ishimaru 1994)、煽動なのか、仙道なのか、よくわかりません。長い尾肢を櫂に見立てて「船頭」とした、と推定するヨコエビストが多いようです。なお、中国語では洒落っ気も何もない「毛钩虾」(※钩虾=ヨコエビ)とされています。

 Eriopisa属 はもともと「Eriopis」として設立されましたが (Bruzelius 1859)、先取権の問題を解決するために Stebbing (1890) が Eriopisa として記載し直しました。ギリシャ神話に由来すると思われ、アポロンの娘あるいは「アルゴ探検隊の大冒険」でお馴染みの英雄・イアソンの娘に Eriopis という名前を見出すことができます。メリタヨコエビ属 Melita についてもアポロンの娘 Melite と関わりがあるものと思われます。

 


<グループ分け>

 さて、Stock (1980) は、次の特徴に基づいてセンドウヨコエビ類を大きく2つのグループ(①Eriopisa line/②Eriopisella line)に分けています。

  • ①第1小顎内葉は幅広い vs. ②第1小顎内葉は幅狭い三角形
  • ①第2小顎に斜走剛毛列および非縁部(内側の面)の剛毛を具える vs. ②第2小顎は縁部のみ剛毛列を具える
  • ①第1咬脚はtranseverseかつ第2咬脚と形状が異なる vs. ②第1咬脚と第2咬脚は形状が似ており亜はさみ形

 

   ただ、これらの特徴についても、きれいに分かれる属とそうでない属とがあり、厳密な定義として有用ではありません。ハッジヨコエビ界隈にはそういうのが多いですね。


  日本からは、とりあえず以下の種が報告されています。

  • (和名未提唱)Psammogammarus lobatus Ariyama, 2015 / 大阪 東川河口(砂干潟 石の下)
  • マワタリスキマヨコエビ Psammogammarus mawatarii Tomikawa et al., 2010 / 口永良部島(潮溜まり砂底)
  • ドロヨコエビ Nippopisella nagatai (Gurjanova, 1965)  / 瀬戸内海(水深30-50m);インド
  • (和名未提唱)Paraflagitopisa excavate Ariyama, 2015 / 大阪 豊国崎(小石、貝殻の間)
  • リュウキュウホソオ Victoriopisa ryukyuensis Morino, 1991 / 沖縄 泡瀬干潟 マングローブ泥底
  • シコクホソオヨコエビ Victoriopisa wadai Ariyama, 2015  / 愛媛 加茂川(泥干潟 石の下)

 ただし、どうやら不確定な記録や未報告の事例がまだあるようで、全貌の解明は遠そうです。特に、日本とインドという隔たった分布をもつ ドロヨコエビ は、地域によってわりと明確な形態形質の差があるように見受けられ、検証が俟たれます。

 世界的に見てセンドウヨコエビ類 はアンキアラインや湧水からも多く報告されているものの、日本ではそういった環境での知見がないため、それに近い場所を探せばまだまだ新種や新記録が出てくるような気がします。



 なお、スキマヨコエビ Psammogammarus属 を センドウヨコエビ Eriopisa属 の新参シノニムにすべきとの主張 (van der Ham and Vonk 2003) があったりしますが、コンセンサスは得られていないようです。この論文は純粋な形態分類で、ローラー作戦でフェノグラム解析をかけていますが、前述のように多様な形状を示す小顎の形質を十分考慮していないなど設計上の問題があるように思えます。

 なお、WoRMS(2022年7月現在)で独立した属として扱われている Impertiopisa属 については スキマヨコエビ Psammogammarus属 のシノニムとする説があります。Ruffo and Schiecke (1976) の原記載を見ても スキマヨコエビ属 の判別文の範疇に収まるのは間違いなく、こちらはコンセンサスが得られていると言ってよさそうです (Ariyama 2015)


 さきに述べた通り、長大な第3尾肢で特徴づけられている センドウヨコエビ類 の中には第3尾肢副葉先端に第2節を付加しない属も多く、副葉全長が柄部と同長の属すらいます。そのため、科レベルの同定でもポイントを絞らず、様々な形質を俯瞰的に確認する必要があります。強いて挙げるとすれば、第2咬脚の性的二形がないことが、他の近縁のハッジヨコエビ上科との安定した識別点です。ただ、成熟した雌雄を採取しないと同定できないというのは、あまり洗練された分類体系とはいえません。

 また、センドウヨコエビ類と下目レベルで異なる Niphargus属 は長い尾肢などの特徴が似ており、過去の文献ではしばしば混乱がみられます(といっても当時は”古き良きヨコエビ科”の時代なので、お隣さん程度の取り違えでしたが)。大きな外形的特徴としては、第5~7胸脚基節が幅広いことによって Niphargus属 と識別することができます。また、Niphargus属 は欧州から中東にかけての地下水域に生息しますが、センドウヨコエビ類はより広い分布を誇り、生息環境には海洋も含まれます。



<参考文献>

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Ariyama A. 2015. Three new species of the Eriopisa group (Crustacea: Amphipoda: Eriopisidae) from Japan, with the description of a new genus. Zootaxa, 3949(1): 91–110.

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Imbach, M. C. 1967. Gammaridean Amphipoda from the South China Sea. NAGA REPORT, Scientific Results of Marine Investigations of the South China Sea and the Gulf of Thailand 1959–1961. 4(1): 39–165. 

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Jarrett, N. E.; Bousfield, E. L. 1996. The amphipod superfamily Hadzioidea on the Pacific Coast of North America: Family Melitidae. Part I. The Melita Group: Systematics and Distributional Ecology. Amphipacifica, 2(2): 3–74.

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Lowry, J. K.; Fenwick, G. D. 1983. The shallow-water garnrnaridean Arnphipoda of the subantarctic islands of New Zealand and Australia: Melitidae, Hadziidae. Journal of the Royal Society of New Zealand, 13(4): 201–260.

— Ortiz, M.; Lalana, R. 1997. Amphipoda. Travaux du Museum. National d'Histoire Naturelle. Grigore Antipa, 38: 29–113.

— Ren X. 2012. Fauna Sinica, Invertebrata Vol. 43. Crustacea: Amphipoda: Gammaridea (II). Science Press, Beijing, 651 pp. (in Chinese with English abstract and descriptions of new species).

— Ruffo, S.; Schiecke, U. E. 1976. Descrizione di Eriopisa gracilis n.sp. (Amphipoda, Gammaridae) delle coste di Malta e ridescrizione di E. coeca (S. Karaman, 1955) (= E. peresi M. Ledoyer, 1968). Bolletino del Museo Civico di Storia Naturale di. Verona, 2: 415–438. 

— Ruffo, S.; Vigna Taglianti, A. 1988. Gammaropisa arganoi n. gen. n. sp. from the phreatic waters of southern Anatolia (Crustacea, Amphipoda, Gammaridae s. lato). Bollettino del Museo Civico di Storia Naturale di Verona, 14, 241–253.

— Stebbing, T. R. R. 1890. The right generic names of some Amphipoda. Annals and Magazine of Natural history, 6(5): 192–194.

Stock, J. H. 1980. Amsterdam Expeditions to the West Indian Islands, Report 8. A new cave amphipod (Crustacea) from Curacçao: Psammogammarus caesicolus n. sp. Bijdragen tot de Dierkunde, 50(2): 375–386.

— van der Ham, J. L.; Vonk, R. 2003. A phylogenetic analysis of the Eriopisa complex (Crustacea: Amphipoda: Melitidae) and a new species from beach interstitia in Venezuela. Journal of Natural History, 37: 779–796.

— Vonk, R. 1988. Psammomelita uncinata n. g., n. sp. (Crustacea, Amphipoda, Melitidae) from infralittoral sand interstices on Curaçao. Stygologia, 4: 166–176 .

— Yerman, M. N. 2009. Melitidae, the Eriopisella group. In: Lowry, J. K.; Myers, A. A. (Eds) 2009. Benthic Amphipoda (Crustacea: Peracarida) of the Great Barrier Reef, Australia. Zootaxa, 2260: 713–717.


2022年6月30日木曜日

再びチーバくんのおしり(6月度活動報告)

 

 いつ以来のオフ会でしょうか。電車に乗ったのがそもそも数年ぶりです。

 今回は「潮間帯スタッカー!」の管理人・ひろこりん氏を、以前来たことのあるフィールドへお招きしました。


良い磯ですが何にせよ遠い

 といっても今回やっと2回目の訪問です。前に来たのはだいぶ昔のような気がします。相変わらず褐藻と珊瑚藻が多いです。

 

サメの子供。いっぱいいた。


  褐藻をガサガサすると、微小なアゴナガヨコエビ属とモクズヨコエビ科が多いですね。

 

 

Pleonexes koreana

 コウライヒゲナガだと思います。

 メスの白色斑には個体差があるようですね。




テングヨコエビ科

 

 雨も降ってきたので撤退がてら潮上決戦に移ります。

 

陸域由来の竹や落ち葉と、打ち上げ藻が混じった漂着物が多い


 


cf. Lactioria

 

 シマウミスズメでしょうか。色が抜けてるとよくわかりませんが。




 スナハマトビムシ属しか採れませんでしたね…



 今回の調査はインベントリが目的で、上記以外にも色々なヨコエビを見ることができました。今後の「潮間帯スタッカー!」に期待させていただきます。


2022年5月22日日曜日

長崎のカタキを荒崎で(5月度活動報告)


 久々に海に行きましたので活動報告です。

 

 なお、「ヨコエビ」の呼称が文献に登場してから180年(たぶん)、日本で端脚類学が勃興して121年(たぶん)にあたる今年、日本中が熱望していたある本が出るとのニュースが駆け巡り、日本のみならず世界の研究者に衝撃を与えました。出版予定日は明日ですが、事情により本ブログでの書評は控えさせていただきます(追って情報は出します)。

 

 

 I県某所。タイトルとラベルで語るに落ちていますが。

 

 イソケナシザルの群れが多数みられました。エビトリケナシザルは異質な存在です。

 

 

カルガモ先輩。

 

 

ソファに寝そべるヒザラガイ。
 

 

 大小さまざまな紅藻が優占している波当たりの強い海岸で、ところどころ褐藻がみられます。

 

ミサキモクズ Hyale misakiensis
同地の既往研究 (井上 2012) でも記録があります。
 

 

テングヨコエビ科


 海藻を適当に採るとほとんどモクズヨコエビ科、少しテングヨコエビ科といった感じです。紅藻と褐藻からなる潮間帯の海藻群落だと、関東ではまあこんなもんでしょう。



イソヨコエビ属 Elasmopus の未記載種。

  イソヨコエビ属はこういった環境でしばしば優占しますが、今回は局所的でした。形態をざっと見ましたがやはり未記載種です。本邦のイソヨコエビ属はたぶん半分かそれ以下の解明度なので、見つかる個体はだいたい種に落ちません。全世界の種に対しては極めて有用な検索表が作成されている (Alves et al. 2016) ので、それ以降に出版された記載論文 (Myers 2014; Gouillieux & Sorbe 2015; Myers & Montazi 2015; Hughes 2015; Myers 2016; Myers et al. 2018; Nakamura et al. 2019; Sir & White 2022) と照らし合わせれば、未記載種の確認は比較的容易です。




 

よく探すとアマモ Zostera marina が生えている砂底があります。

 

ヤドカリモドキ亜科 Siphonoecetini


 岩礁の間の砂地に生える海藻を探ると採れます。触角が出てないものもたぶん中身は入ってると思いますが見ていません。



 しかし、今回の目的はこれらではありません。

 材料が揃わない例のグループをそろそろ補完しておきたいと考えていました。

 しかし、銚子にあったあの紅藻が見つからないのと、しっかりめの緑藻がないようなので、なかなか厳しい挑戦となりました。


触角に剛毛を密生する系のヒゲナガヨコエビ属 Ampithoe の一種。

 

 既知種でこの特徴をもつ種は限られるのですが、ちょっと怪しいので念のため汐ちゃんに隠してもらっています。成長途中の個体か、あるいは…



ヒゲナガヨコエビ属 Ampithoe の未記載種。


  千葉でメスだけ採れていたあのヒゲナガ銚子に乗って最近の銚子、とうとうオスを得ることができました。じつに4年越し。さすがに銚子固有ではないだろうと思っていましたが、それでも目と鼻の先でやっと見つかる程度なので、全国的に普遍的な種ではないのかもしれません。ざっと形態を見たところ、未記載であることはほぼ確実で、しかも過去の報告から30年以上放置されていた種であることがわかりました。詳細な検討を経てからの話にはなりますが、然るべき場でちゃんと学問のまな板に上げないといけませんね…

 

 何となく狙ったものは採れましたが、オスの個体差を見れるようなレベルではありません。しかし、最干潮時刻の前から東風が強く、そこそこの引きから上げ潮に転じてしまいました。気温が上がってきたらまた考えます。


 

<参考文献>

Alves, J.; Johnsson, R.; Senna, J. 2016. On the genus Elasmopus Costa, 1853 from the Northeastern Coast of Brazil with five new species and new records. Zootaxa, 4184(1): 1–40.

Gouillieux, B.; Sorbe, J. C. 2015. Elasmopus thalyae sp. nov. (Crustacea: Amphipoda: Maeridae), a new benthic species from soft and hard bottoms of Arcachon Bay (SE Bay of Biscay). Zootaxa, 3905(1):107–18.

Hughes, L. E. 2015. Maeridae from the Indo-Pacific: Elasmopus, Leeuwinella gen. nov., Maeropsis, Pseudelasmopus and Quadrimaera (Amphipoda: Crustacea). Zootaxa, 4059(2): 201.

井上久夫 2012. 茨城県の海産小型甲殻類 III. ヨコエビ相(端脚目,ヨコエビ亜目). 茨城生物, 32: 9–16.

Myers, A. A. 2014. Amphipoda (Crustacea) from the Chagos Archipelago. Zootaxa, 3754(1).

Myers, A. A. 2016. Amphipoda (Crustacea) from Palau, Micronesia: Families Maeridae and Melitidae. Zootaxa, 4170(3). 

Myers, A. A.; Montazi, F. 2015. Elasmopus alkhiranensis sp. nov., a new species of amphipod (Senticaudata, Maeridae) from the Persian Gulf. Zootaxa, 3973(1): 185–194. 

Myers, A. A.; Trivedi J.; Gosavi, S.; Vachhrajani, K. D. 2018. Elasmopus sivaprakasami sp. nov., a new species of amphipod (Senticaudata, Maeridae) from Gujarat State, India. Zootaxa, 4402(1):18.

Nakamura, Y.; Nakano, T.; Ota, Y.; Tomikawa, K. 2019. A new species of the genus Elasmopus from Miyako Island, Japan (Crustacea: Amphipoda: Maeridae). Zootaxa, 4544 (3): 395–406. 

Sir, S.; White, K. N. 2022. Maerid amphipods (Crustacea: Amphipoda) from Okinawa, Japan with description of a new species. Zootaxa, 5093(5): 569–583.