2017年10月9日月曜日

ヨコエビ上位分類が最近ヤバい件についてざっくりまとめ(10月:甲殻類学会に行ってきました)



 10月7日と8日、第55回日本甲殻類学会に参加してきました。

会場は東京大学大気海洋研究所柏の葉キャンパス。


 柏の葉キャンパスを訪れるのは恐らく2010年以来で、性的ニ形シンポジウムとプラベン学会だったと思います。なつかしい。

 ヨコエビは2題ありましたが、前身となる研究内容を既に知っていたり、過程をある程度知っていたり(などと言うと業界通っぽいですがたまたまっス)、おいまさかこんな研究があるのか的な印象よりは、待ってました的な感じで聞き入っていました。

 音楽フェスなんかでは演者とオフィシャルにサシではなかなか呑めないです。
 学会はやっぱり良いですね。





 甲殻類学会でもヨコエビの上位分類がどうなってるのかという話がありました。

 Lowry and Myers 2013, 2017に基づくヨコエビ界隈の新体制については小ブログでもSenticaudataの顔ぶれ新Gammarideaの顔ぶれ、そしてGammaridea消滅後の世界について扱ったことがありますが、備忘録代わりの羅列的な内容で、じゃあどうすれば的な疑問はあまり掘り下げていませんでした。



何がどうヤバい?

 ヨコエビ類上位分類の異変、大まかに以下のような感じです。


・Senticaudata亜目の設立 (2013年)
  旧ヨコエビ亜目の半分以上がごっそり持っていかれました。

・ワレカラ亜目の降格 (2013年)
 ドロクダムシ類がワレカラ類を含めるようになりました。

・下目,小目,族の概念を導入 (2013年)
 これが分かりにくかちゅう人がばり多かとです。

・インゴルフィエラ亜目の昇格 (2017年)
 論文のタイトルにもなっています。新目が建つというのはわりと事件です。 

・ヨコエビ亜目の解体 (2017年)
 Senticaudataができた後のGammarideaはわずか4年の命でした。




 従来の4亜目分類体系(左),6亜目の新体系(右)
伝統的分類体系はBarnard & Karaman (1991)に基づく。


 他の言語はどうか分かりませんがとにかく「ヨコエビ=ヨコエビ亜目」というこれまでの定義が覆ってしまい、日本語で「ヨコエビ」といった場合に何に対応するのか、よく分からない状況になってしまいました。ワレカラ亜目だったワレカラ類やクジラジラミ類をヨコエビと呼んでいいのかどうか。おかげでwikipediaでもよく分からない定義になっています。

 ヨコエビはヨコエビですよと叫びたいところですが、 端脚目全体として「ヨコエビの仲間」と解釈することの重要性が増した気がします。

 



みんなどうしてる?


 私の知る限りですが、日本では「触らぬ神に祟りなし」といった傾向が強く、採用していない論文は多いです。

 今年開かれた日本動物分類学会に参加したヨコエビストの方々(研究者・学生) に質問した結果。
Lowry & Myers 2013, 2017の体系を積極的に支持する意見はなかった。


 海外ではあちこちで引用されていて、浸透している感もありますが、是非に立ち入って議論している論文もないような気がします。




ぶっちゃけ良いの?悪いの?


 何てことしてくれたんだと、関係者が口を揃えてこれでもかこれでもかって言うので、ヨコエビギナーの方はんなもん無視すればいーじゃんと思われるかもしれませんが、6月に申し上げた通り、それなりの材料を使っていわばビッグデータ的な解析を行い、その生データをエクセルでオンラインジャーナルのサイトに論文本体と並べてアップロードしてるところから、既に万全の備えで叩きあう覚悟が伺えますので、それなりの扱いをしなければいけないところはご理解頂けるかと思います。


 感覚的には、長く親しまれてきた上科の枠組みを、下目や小目に格上げし、科のまとめかたをより複雑化した感じです。従って全体的な雰囲気として、上科はよりコンパクトになった一方、下目や小目の枠組みを導入したことによって類縁関係のニュアンスを伝達しやすいように腐心されている印象です。


 とはいえ、正直なところ形態分類のみで導き出した系統関係の仮説が容易にコンセンサスを得られるとは思えませんし、そもそも生態学などの研究で用いられる種や属レベルを基本とした分類において科より上がどうなっていようが本当に心底どうでもいいのです。科より上の系統関係を研究するのであれば、Lowry and Myersの体系に対比させて分子系統学的なアプローチを行うのが自然でしょうが、そういった場合でもない限り、いちいち上位分類の改造には付き合ってられません。種の記載などにおいても同様です。

 しかしながら、例えば以前の分類であれば、上科をナチュラルにスルーしていても特に問題はなかったものの、今回は従来よく用いられていた亜目という単位から作り替えられてしまったためスルーし難く、一種の踏み絵のような状況になっているのではないでしょうか。




どうすればいい?

 現状、深入りしたくない人は、目と科の間に何も挟まないようにしているみたいです。
 それぞれ安定していますし、基本的な分類の階級をおさえることはできているので、妥当な落としどころだと思います。






(参考文献)

- Barnard, J.L., G.S. Karaman 1991.The Families and Genera of Marine Gammaridean Amphipoda (Except Marine Gammaroids). Records of Australian Museum supplment 13, part 1,2, 866p.
- Lowry, J.K., A.A. Myers 2013. A Phylogeny and Classification of the Senticaudata subord.nov.(Crustacea: Amphipoda). Zootaxa, 3610 (1): 1–80.
- Lowry, J.K., A.A. Myers 2017. A Phylogeny and Classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265 (1): 1–89.
 

3 件のコメント:

  1. 呼称・同定・位置付けについての、誤りを糺し正確性を求めるご口調が、全体的にちょっぴり丸くなりましたね。

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  2. 川崎ピースケ様

    毎度コメントありがとうございます。ぜひ参考にさせて頂きます。

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  3. (補足)
    万が一にも誤解などないかと思いますが、正確性を求める姿勢については、変える気も、変えたつもりもございません。あしからず。

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