2018年1月31日水曜日

ROAD TO DESCRIPTION IV (1月度活動報告)


 ヨコエビの新種記載を目指す野望をスレスレで発信するこの企画。
 過去の経緯はこのような感じです。

I(立志篇)
II(救済篇)
III(解剖篇・前篇)


 今回は、精密な解剖と、プレパラートに封入するところまでを扱います。 なお、例のごとく以下の内容は執筆当時の状況ですので予めご了承下さいませ。










タングステンニードル

Polish Hyper Fine SPINE



 前回のIIIにてちらっとふれたタングステンニードルの自作。
 できそうなのでやってみることにしました。

 今回の標本はやはり5mmより小さいのが含まれていて、私の解剖技術の向上も芳しくなく、昆虫針を砥石で研いで拵えた業物には限界が見えてきました。

 そこで、糸口を道具に求めたわけです。




素 材 集 め



 タングステンニードル作成にあたって必要なものは、ほとんどがホムセンなんかを回って揃えることができました。

 しかし、一つだけ手に入らなかったものが・・・それは・・・

 主役のタングステン線です。


 タングステンというのは非常にロマンのある物質で、非放射性元素の中では最も融点・沸点が高く、比重からしてもヘビー級の金属です。クラーク数は6×10の三乗とされており、地殻における存在度は1ppmを若干上回り、金や銀と比べても多めとなりますが、太陽系における珪素原子との相対存在量度の常用対数をとると-1程度と見積もられており、わりとレアな元素といえるでしょう。第6周期で両隣がタンタルとレニウムというところからも、物理的・化学的に非常に安定であることが伺えますが、我々の日常生活において電球のフィラメントやアクセサリーなどに使用されるほか、クロム族でもあり鋼に添加されてその性質を強化するという利用もなされています。そういった感じで大活躍しているものの、タングステン製などと言われてもピンとこない人がほとんどと思われ、素材としてはマイナーな部類に含まれます。

 基本的にホームセンターは普通の針金のほか、ステンレス,アルミ,銅,真鍮,エナメルくらいまでは何とかなるものの、タングステンは無いです。ぜんぜん見つからないです。タングステン鋼が置いてあることもありますがそれは違うやつです。

 そこでネットの出番ですが、さしものamaz○nにも無し。
 m○notaroにはタングステン棒の扱いはあるものの、これは1桁太いやつです。
 AS ○NEなど有名通販サイトでは各種太さのタングステン線が見つかりましたが、個人には開かれていません。
 直接取引のない場合は代理店を通すことになります。アテがないわけではありませんがそれは最終手段として、何か方法はないものか…

 途方に暮れていたところ、このようなサイトを発見。


 なんと、金属材料を直接仕入れられるようです。


  郵便番号を入力しても住所が自動で入らない,選択肢にクレカ決済が無いなど怪しげな雰囲気を感じさせるサイト設計ですが、もう他に頼れるところはありません。さすがに会員登録後にメールで送ったログインURLを踏ませるくらいはしてもいい気が・・・

 タングステン線φ0.5×500mmで4500円(別途送料)です。AS ○NEでは3000円しないのでやはり法人価格と個人価格は違います。

 さて、ダイレクトマテリアル社へのweb発注から2日後・・・

 タングステン線は無事納品されました。

 何ということでしょう。

 分析表とSDSが同封されています。混じりっけ無しのタングステンであることは間違いないとのことです。怪しげなどと言ってすみませんでした。




 さて、ネットの情報を頼りに揃えた道具はこの通り。

 こちらのサイトを参考にさせて頂きました。





・瓶


 適当な大きさのジャムの瓶です。電極を手で持ってるのもしんどいので割りばしやアイスの棒などで台を作成します。
 後述しますが、弐號機では別の材料を用います。
 ※ガラス瓶,バー: 0円


・溶液


 過炭酸ナトリウム溶液を水に飽和させたものです。 この過炭酸ナトリウムというのは衣類の漂白や洗濯槽の洗浄に用いられ、ホームセンターやドラッグストアで普通に売っています。参照サイトでは水酸化カリウムを推奨していますが、そんな危ないモノはやめておきましょう。"子供想い品質"どころではありません。
 60℃以上の熱湯を注いで溶かすとものすごい勢いで発泡しますが、これは酸素です。温度には気を付けましょう。
 参照サイトによると、溶液を再利用する際には全体の濃度が均一になるよう倒立混和する必要があるとのことです。ということで、保存・混合用の容器を用意するか、瓶のフタは捨てずにとっておくようにしましょう。
 ※過炭酸ナトリウム(酸素系漂白剤)500g : 300円



・電源


 今回は直流法です。
 交流法を行う場合は家庭用電源に何らかの抵抗を噛ませてやるようですが、家庭用電源は言わずもがな100Vで、結線だけならば電気工事士の資格が要らないとはいえ、まかり間違えば火花が散ってビリッときてしまいます。大惨事です。
 直流法に必要な電圧は12Vとのことで、1.5Vの単三電池を8本直列にしました。電池の電圧の計算は中学生以来ですが、足し算なので簡単ですね。トーシロ心に電圧を上げればもっと早くできるのでは、と思ってしまいますが、こちらのサイトによるとどうやらそうでもないらしく、とりあえず教科書通りに12Vに設定します。
 12Vといえばバイク用のバッテリーがこのくらいの電圧ですが、充電済みのものをホームセンターで買うと5,000円以上します。タングステンニードル作成にあたっての消費電力がどのくらいか分かりませんが、使用するうちに使えなくなった場合はまた充電済のものを買うか、充電器で充電することになるわけで、普段から縁のある人ならまだしも、そうではない人間としてはあまり手が出ません。
 これに対して1.5Vの単三電池は10本買っても1000円しませんし、電池ケースもやはり500円以内で揃えられるため、遥かにお得です。乾電池であれば他に普段の生活の中でも用途があるというのも強みです。
 ※工作用電池ボックス(単三×4本 6V用)×2 : 400~500円
 ※バッテリースナップ×2セット : 300円
 ※アルカリ単三電池(8本) : 600円


・配線


 ワニ口は100均で購入。配線はホームセンターで買いました。
 結線は絶縁テープを使用。
 タングステン線はプラス側に挟みます。
 参照サイトでは、マイナス側には銅線を使っていますが、 今回は銅メッキ鉄製ステイプルを使いました。林檎か蜜柑の段ボールの底を留めていたやつを真っすぐに伸ばしてとっておいたものです。貧乏性です。ステイプルを流用する場合、モノによって被膜があるかもしれないので要注意です。
 ※家庭用ワニ口(8個入り): 100円
 ※工作用コード(φ0.18mm×12芯 5m)ブラック・レッド: 320円
 ※ビニテープ(0.2mm×19mm×10m): 90円
 ※陰極用金属薄片 : 0円

 今回はスイッチを省略したので、乾電池の出し入れによってON/OFFを切り替えます。

たぶん図にするとこんな感じ

 (このへんのテストは常に成績が悪かったのでやらかしてたら教えてください)


 ニッパーやバーナーなどを含まずに、今回もろもろ一式かかったコストは8000円程度です(ニードルホルダーについては後述します)。ガラス瓶や陰極用銅線を買っても+200円程度でしょう。一番高かったのはタングステンですが、出来合いのタングステンニードルは3本で10000円くらいするので、それと比べるとかなりお得なはずです。


工作用コード,バッテリースナップ,電池ボックス,ワニ口クリップ,絶縁テープ


 懸念として、タングステン線から作成したニードルは、研磨を重ねるうちに焼結できていない撚り合わせ部分が出てきて、そういった状態で再研磨すると針先がホウキ状になって使い物にならなくなるのでは、ということが挙げられます。恐らく出来合いのタングステンニードルは内部が均一になっているはずで、もしそうであれば、理論上は消えてなくなるまで研磨して再利用できるはずです。

 まあ、ホウキ化したらそうなったで考えるとして、出来合いのニードルを研ぎ直すにも研磨装置が必要なので、どちらの針を使うにせよ数千円ばかりの投資で研磨装置を用意しておく必要性は看過できません。

 新人タングステンニードル作家としてはまずどんな品物が良作なのかが掴めていないため、試行錯誤しながら生み出される様々な形状のニードルをとっておいて、実地で試すことにします。また、七人の侍における三船敏郎スタイルよろしく、ダメになったらすぐ別のを使いたいというのもあります。結果は後程。





T E P U - I 、始 動



 材料が揃いましたので、さっそく研磨していきます。


割り箸の処理などいろいろひどい電解装置初號機
名付けて「TEPU-I」



タングステンニードル職人の朝は早い。

「まぁ好きではじめた仕事ですから」

最近は良い空き瓶が無いと愚痴をこぼした

まず、ガスバーナーの入念なチェックから始まる。

「やっぱり一番うれしいのはヨコエビのきれいな標本ができた時ね、この仕事やっててよかったなと」

「毎日毎日濃度と電圧が違う 自動では出来ない」


額に流れる汗をぬぐいながら

「いずれは一家に一本、うちのニードルが置いてある時代がくればと」


そんな夢をてらいもなく語る彼の横顔は職人のそれであった




①切断


 参照サイトの注意に従い、赤くなるまで焼いたタングステン線をニッパーで切断します。タングステンの融点は3000℃以上なのでたかだか2000℃に満たない炎に炙ったくらいで融着するとは思えませんが、ものは試しです。真空中で通電させながら切断すべしというサイトもありますが、いろいろと無理があるので私はガスコンロで焼きます。
 赤くなったところを切るために、とりあえずラジオペンチで端を押さえ、ニッパーを炎の中に入れるくらいの勢いで切りました。扱いの良さなどを考え、5~10cm程度の針を作ることになりますが、目分量です。
 ニッパーで切る時に切り口が潰れると、後述のホルダーへの取り付けに支障をきたす場合があります。要注意です。



②電解


 スタンバイしてある電解装置の陽極側に加熱切断したタングステン線をセットし、スイッチ代わりの電池を嵌めます。初回、溶液は熱めに溶かしたため酸素の泡で満たされています。
 すると、両極から細かな発泡がみとめられました。参照サイトには直流法はあまり泡が出ず、交流法は激しく発泡して針の表面を洗う、などと書かれていましたが、見た感じは直流法で生まれた発泡も針の表面を撫でて水流を起こすには十分なのではと思われました。
 そして放置。

 参照サイトによると1本仕上げるのに7~8時間かかるとのことで、夜仕掛けて朝には出来上がっているというのが普通とのことでしたが・・・
  
 なんと、ものの1時間弱で出来上がっているではありませんか・・・

 私が炭酸水素ナトリウムの泡に包まれながら温泉科学に身を委ねている間に、タングステン線は酸素やら何やらの泡に包まれながらニードルへと変身していました。

 もう1本作ろうとしたところ、1時間やそこらでは尖らないことが分かりました。やはり酸素がシュワシュワしている状態での電気分解は時短になるようです。

 2本目の針はとりあえず室温で一晩放置してみます。

 翌朝・・・

 2号の針もかなりいびつな形状に変わっていました。

 しかも短い・・・

 200円分くらいのタングステンは私が夢を見ているうちに溶けて消えたようです。


 電解研磨されるタングステン線のイメージ図です。

この真ん中の針が欲しい

 実際は微妙に水位が変動したり、針先への付着物によって研磨が妨げられたりして、多少いびつな形状になります。
 理想的なタングステンニードルの形状は約5mm長円錐形です。このようなニードルを安定的に作成できればタングステンニードル職人としては一人前でしょう。
 細すぎると針としての突破力がなくなり、更に研磨すると途中で脱落して短い針になってしまいます。



 何本も針を作ってみて気付いたのは・・・

・1本目が一番反応が良い
・溶液の温度が高いと激しく反応し電解が進む
・溶液は混和するより作り直したほうが良さげ
・電池を休ませてから使うと反応が良い

  つまり、溶液は徐々に劣化するらしく、電源もゆるゆるとパワーダウンしていくため、この設備で寝ながら安定した品質の針づくりは難しいのではということです。ではどうするか。アツアツ時短プランあるいは片手間で数時間かけて様子を見ながらやるしかなさそうです。

 ちなみにホウキ化現象は今のところ起きていません。




③装着


 尖らせたタングステン線をニードルホルダーに装着。これで解剖針の完成です。
 専用のニードルホルダーはAS ○NEで取り扱いがあるものの、販路のないパンピーには手の届かない代物です。
 そこで、参照サイトにて紹介されていた代用品を、半信半疑で購入してみました。

 0.5mmのシャープペンシルです。

 タングステンニードルホルダーは4000円くらいします。どうせならここはシャープペンシルにこだわってみようと思い、398円くらいのを買ってみましたが、それでも値段は10分の1です。

 ニードルホルダーはねじ込んで締めて固定するのが普通ですが、シャープペンはノックすれば把握器が開き、手を離せば締まる簡単操作で、ネジと異なり使ううちに緩むこともありません。
 どんな長さのニードルを使っても、好きな長さで固定ができます。非の打ちどころがありません。

 シャープペンにある程度の精度(重みがありしっかり握れること)が欲しいのと、標本を扱う場面ではエタノールが付着するのでゴム部材がないほうがよいということで、いろいろと探してみました。

 そこで選ばれたのは、ぺんてるのグラフギアです。

 これはその名の通り製図などの用途でプロが使うことを想定した商品で、描いた線が見えやすいようにペン先が細長くなっているなど、随所に工夫が施されています。

メタル調なのでかっこいい

 グラフギアは最長12cmのニードルまで対応可能。長めに作ったニードルを研ぎ直しながら使い続けるという用途にピッタリです。

 他社製品にも類似の製図用シャープペンシルがありますので、より使いやすいものはあるかもしれません。



過炭酸ナトリウム顆粒,タングステン線,ニードルホルダー





T E P U - II 、始 動



 後日、弐號機となる「TEPU(Tungsten Electrolysis Polishing Unit)-II」が完成したとの連絡を受け、取材班はさっそく現場に駆け付けました。


 元ネタはネットで見かけた「百均のグッズ間違った使い方選手権」的なやつですが、その時はディテールの紹介がなかったので、いろいろと考えました。

 まず絶縁体でなければいけないので、ガラスか陶器。樹脂は軽くそれ自体が重しにならないことや劣化が嫌なのでとりあえず除外。内部の様子を見たいので陶器は除外。
 そうなると、ガラス製の醤油差しが考えられます。
 陰極を差すために空気抜きの穴は必須。
 こうして選ばれたのがダイソーのコレでした。


 1個100円(税抜)でした。
 使用にあたり、注ぎ口や空気抜きの穴は少し削って広げています。

 注ぎ口をそのまま残して陽極を下ろすガイドとしていますが、そうすると水面までの距離が長くなります。そのため、タングステン線を切断する時には初號機よりも長めにとる必要があります。

 空気抜きの穴から線を入れて陰極につなぎます。
 ワニ口をフタの下につけるとクリップを水に浸すことになるのでよろしくないと考え、電極に直巻きしました。タングステン線と接触しないよう、電極にはあるていど水面下まで被覆をつけておきます。ただし、電線そのものを電解液に浸すと毛細管現象によって溶液が陰極線を逆流するという世にも恐ろしい現象が起こるので、必ず陰極は別にして電線を水面から出しておくようにします。今回はユニクロのチェーンを下げてみました。これは電線を直巻きしやすいのと、電極を複雑な構造にして電解槽の下まで垂らすことによって水流の発生を狙ったものです(実際のところあまり効果はなさそう)。
 陽極はワニ口クリップに挟んだタングステン線を、注ぎ口から放り込むだけ。ワニ口クリップの大きさが注ぎ口に合わなければ適宜調整します。


TEPU-II
 スナップの付け替えによって陰極側を交換できるという、

 TEPU-Iと共用可能な安心設計


 ガラス瓶は初號機に使用したブラックカラントのジャム瓶より二回りほど小さく、電解槽としてはあまり適正なサイズではないと思います。両極同士が近く短絡しやすいのです。


 ちなみに短絡するとこうなります。



 付近に燃えやすいものがあると大変危険です。電池ボックス用のお皿などがあったほうが良いです(その前に短絡さすなという)。



使 用 感


 さて、気になる手作りタングステンニードルの使い心地について。

 まず、めっちゃ鋭いです。細くて硬くてよく尖ってる。ヨコエビと闘うのに理想的な武器です。

 ただし、どうやら先端が鋭すぎて、普通の針を跳ね返すような胸節やら底節板やらに対しても簡単に針先が食い込んでしまいます。
 しかも、刺さったところがクモの巣状にヒビ割れやすいようです。
 これはまずい。

 ヒビ割れ現象のため線状の切断を要する胸脚の取り外しでは苦い思いもしましたが、文字どおりピンポイントの局所破壊には非常に優れており、腹肢,尾肢,触角,口器の取り外し効率は抜群に向上しました。すばらしい。

 ただし、標本に対して無敵でも人為的な接触には極めて弱く、どっかにぶつけたりすると容易く曲がったり折れたりします。



 電解しすぎて髪の毛より細くなったタングステン線にも活躍の機会はあります。

 肉眼で目に見えるか見えないかという太さになっても曲げ加工が可能なので、顕微鏡下で細工すれば小さなループを作れます。

 石丸(1985)で言うところのループはバラした付属肢を拾ったりするものですが、解剖途中にヨコエビが逃げないようにするサスマタ的な道具を作ってみたりしました。ただし、ヨコエビに押し付けると曲がってしまうこともあるため、あまりに細くなってしまった線を大きなヨコエビに使うのは厳しいと思います。
 



 以下、タングステンニードルを活用して一般的なサイズ(体長5mm ±3mm程度)のヨコエビを解剖する場合の要点です。

・ピンポイント破壊には文句なし絶大な効果

・胸脚の取り外しを行う際にはいきなり刺さない(特に硬い標本)


 最初に自由胸節と底節板の間にナイフ状に研いだ昆虫針を入れて、針を刺す凹みを作るとわりとうまくいきます。
 
前回紹介した、昆虫針メスを用いた解剖手法への補遺








プレパラート封入

Count Three glasses


 学生以来です。
 実は小学校の頃からプレパラート封入というのは苦手な部類に入っておりまして、大学の時分にもあまり巧くいかないなぁと思ってやっていました。小中学校の勉強なんか役に立たないと決めつけてはいけませんね!

 おおむね小学校の教科書の通りです。

①スライドグラスに過不足ない量の液体を置きます(液体については後述)

②サンプルを浸します

③カバーグラスの一方の端を液体の脇に触れるようにして針などを添え、もう片方の端をピンセットなどで支えながら、気泡が入ったりサンプルが逃げたりしないよう、絶妙なテンポで被せていきます。封入剤の性質やサンプルの様子によりテンポを調節します。




 師匠のおすすめはまずグリセリンで封入した後に(半)永久プレパラート化するというものです。

 大顎など立体的な構造をもつパーツは向きを変えながら観察することが必要で、いきなり封入剤に埋入してしまうより多少動かせる状態にしておいたほうがスケッチしやすいとの配慮だそうです。

 グリセリンプレパラートはそのままにしておいても乾くことはありませんが、横にしたりすれば垂れますし、上から押したりすれば圧が標本に伝わります。

 

 

プレパラート封入の例。
1個体分のパーツはスライドグラス1枚に封入したほうが後々管理しやすい。
(口器・触角 / 胸脚 / 腹肢・尾肢)

 
 封入時に潰れやすいのは各胸脚,尾肢大顎です。

 潰さないようにふわっと封入すると、高倍率で観察する時に対物レンズにぶつかったり、グリセリンが流動してサンプルが踊ったり、カバーグラスが逃げ出したり、像がシャープに見えない原因になったりします。

 封入がうまくいかないと、剛毛やら腹肢の毛やらは絡まったりあらぬ方向へいってしまったり、顕微鏡を覗いてみてガッカリな事態になりかねません。

 腹肢の毛については省略している文献も多く、ポージングにはあまり神経質にならなくてよいと思います。ただあまり副肢が絡まりすぎるのは良くないのと、retinaculaなど記述に値する形質は見えるようにしておく必要はあるでしょう。

 プレパラートには当然のことながら後々紐づけできるように、標本番号やら何やらを記入する必要があります。しかし、油性ペンを使うと、固定液などに使用しているエタノールやカバーグラスの縁に塗るトップコートに含まれる溶剤が触れて消えてしまうことが懸念されます。というか普通に消えます。

 スライドグラスには文字を書き込めるようフロストという加工を施したものもありますが、今回は買っていません。

 そこで、描画の際に用いるメンディングテープを流用してシャープペンシルで情報を記入してみました。これはおすすめです。













(参考文献)

- 石丸信一 1985. ヨコエビ類の研究方法. 生物教材, 19(20): 91-105.
- 富川光・森野浩 2009. ヨコエビ類の描画方法. 広島大学大学院教育学研究科紀要, 17: 179-183. 

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