台風2号(マーワー)接近に付随する前線の活性化に伴う豪雨災害で被災された方に、心よりお見舞いを申し上げます。
ちなみに私事ですが日本動物分類学会に遅刻しました。
〈地下鉄エビ〉
事の発端は6月3日の朝6時半、東京駅で新幹線全線死亡の報に触れたことです。わたしが東京へ向けて出発した頃にどうやらHPのお知らせが更新されたようですが、確認が甘かったですな。
かたや在来線下り復活も近いとの報もあり、ごった返す新幹線ホームを見るのも辛く、そちらに賭けることとしました(これが遅刻の元凶です)。
ただどのみち電車は動いてないため東京駅近傍を離れられず、日本橋ならではの採集と洒落込みます。
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某ユーチューバーのアレ |
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なぜかスポイトが荷物に入ってたので |
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ミズムシしかおらん |
〈熱海リベンジ〉
過去、8月の熱海でヨコエビリティを探索した時は、打ち上げ海藻の乏しさに絶望しました。
今回は在来線運転再開の日和見のため熱海入り。時間もあるのでサンビーチでも行きますか。
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意外と魅力的な砂浜模様 |
今回はメカブなどが見られて良い感じです。夏のビーチ全盛の頃と今とでは、恐らく清掃強度が異なるのでしょう。
ウェーダーはまだ出さずに漂着海藻だけ見ます。
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めかぶ |
ハマトビは出ず。
代わりに
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サキモクズ属 Protohyale |
少し放置されてる感のある流木。
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ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis |
熱海にヨコエビはいないものと思っていたので、個人的にはかなり快挙です。しかもスナハマトビムシ属とは。夏にはリセットされるのでしょうが、どのように個体群を維持しているのか気になります。
〈第58回日本動物分類学会大会および第n回日本端脚類連絡協議会総会〉※個人の感想です
今回は満身創痍で迎えた伝説的な回と捉えるむきもあるようですが、交通機関の混乱により実際に新幹線車内で急病人が出るなど、混雑そのものも災害と言え、また車の渋滞も緊急車両への影響や交通事故のリスクを高めると考えられることから、交通が大規模に麻痺した状態で参加者の招集を止めなかったことを武勇伝のように語るべきか、疑問もあります。過酷なフィールドワークに関しても同様。ただ天候そのものは開催予定時刻の時点で回復傾向にあり、2日目以降に関して開催を止める理由は何ら存在しない状況だったので、開催を延期や中止までにはしなかった判断そのものは妥当かと思います。
2日目から参加なので半分しか聴けていませんが、全体を通して、普通種こそしっかり見つめる重要性を改めて認識することになりました。特にインパクトが大きいのはフナムシの件だと思います。また、印象に残ったのは、寄生性コペの幼生期表記を改めようという提言。とてもロジカルかつドラスティックな構成でした。
通常の発表以外の部分、メタ的なところで印象に残ったのは、普通種の重要性に加えて、純粋な記載的研究と記載+αの意義、『海岸動物図鑑』の後の空白を埋めるべきというお話。特に “分類学から始まる総合生物学“ から「分類学者が実学的な他分野と積極的に協働して真価を示すべき」との提言は、多少物分かりが良すぎるように見えるきらいもありつつ、パイを取り合うしかない今日の日本社会を生き抜いていく強かさを、この上なく明確に示したハングリー精神の結晶にも見えます。区画整理されてない土地にどんなに立派なオブジェクトを設けようと、それは砂上の楼閣に過ぎないわけで、適切な(種)分類は実践的生物学に再現性をもたらす最低ラインだと思います。分類学者が興味の赴くまま土地を均すのをただ待っていろというのも、おかしな話かもしれません。よく人が通る場所こそ優先的に、精密に、整備していく。そういったプラオリティの付け方は、普通種をちゃんとやるという動きにも繋がっていくのかもしれません。
日本端脚類協会決起集会の内容については、あまりにコアすぎるためここには記しません。
〈C県某所開拓事業〉
月曜豊橋17時バラしというスケジュールがキツかったため、命名規則勉強会をブッチしていますが、潮回りには抗えず帰りに寄り道することに。豊橋からの帰り道、東海道本線沿いといえば真鶴が挙げられますが、行ったばかりなので、もう少し外してみます。
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ちょっと外しすぎたか |
初エントリーとなります。
堆積岩系の磯です。
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イワガニ Pachygrapsus crassipes の優雅な朝食 |
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飛び立つトビ Milvus migrans |
波当たりの穏やかなプールから波が直にぶつかる部分までがかなり近く、すぐ深くなる感じです。風が強いとかなり危険なフィールドといえるでしょう。砂浜を設置しているわけでないため沖側に波消しブロックもなく、波はダイレクトに来ます。
紅藻は多様でかなり沖寄りの褐藻側にも進出しています。緑藻には全く期待できないものの、潮が引いてくるとかなりスガモが生えてるのが分かります。これだけ大量のは初めて見たかもしれん。
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おわかりいただけただろうか…(海藻に紛れたタコ) |
モクズヨコエビ科 Hyalidae はあまり優占しません。あまり変わったものも出ません。紅藻から採れるイソヨコエビ Elasmopus がやたら小さい。
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イソヨコエビ属 Elasmopus 恐ろしいことに同所的に明らかに形態が異なる2タイプが出ました |
褐藻はわりとヨコエビが好む形状のものが多い。ただ圧倒的にヘラムシが優占しています。
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ニセヒゲナガヨコエビ属 Sunamphitoe |
岩の間の、砂利が溜まっているところが気になります。
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ミナミモクズ属 Parhyale |
あまり馴染みがありません。伝統的に第3尾肢が双葉になることが主な識別形質ですが、よく調べるとあまりパッとしない種ばかりのようです。今回のサンプルもしかり。だとすると、これもミナミモクズ属だったっぽい。
スガモが気になりますね。
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Ampithoe changbaensis(和名未提唱) |
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呆れるほどデカいヒゲナガヨコエビ属 モズミヨコエビっぽい要素を具えつつ、たぶん別種でしょう オスが採れていないので悶々としています(スケールはだいたい10mm) |
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オボコスガメ属 Byblis 頂き物の標本はありますが、スガメソコエビ科を自己採取したのは初 生きた姿を生で見たのも初めてです 意外と機敏に海藻・海草の間を動き回りますが、ツノヒゲ系の潜砂性種のような、独特な佇まいをしています 変な顔をしているのも生時からよく目立ちます |
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ユンボソコエビ属 Aoroides |
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?トウヨウスンナリヨコエビ属 Orientomaera |
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?カクスンナリヨコエビ属 Quadrimaera |
ドロクダムシ強化月間(6月~中止連絡まで)ですが、あまり採れず。課題です。
さすがに最干潮を回って少し波が高くなってきたようなので、潮上決戦にもつれ込みます。
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陸域由来の竹などが目立ちますが 海藻もかなり含まれているようです |
砂利と言えそうな粗砂や礫の浜なので、たぶん ホソハマトビムシ Pyatakovestia がいるはず。
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ニホンヒメマハトビムシ Platorchestia pachypus 頂き物の東北のサンプルは所有していますが 自己採取でいうと東日本初です |
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ミナミホソハマトビムシ Pyatakovestia iwasai 目論見通り 久しぶりに見ました
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デカいハサミムシとハマダン、マキバサシガメ、ムカデ、ザトウムシなどがうじゃうじゃと。そしてハマワラジへ移行するエコトーンが見えるのには唸らされました。ハマトビムシのバイオマスも相当なものでした。スナハマトビムシ属がいなかったのは砂浜ではないからだと思います(小並感)。
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”ヒメハマトビムシ”種群 Demaorchestia joi sensu lato (cf. Platorchestia pacifica) |
何にせよスガモが育む独自のファウナが特筆に値します。種数は少ないですが、安定しています。ただ長い葉の間に入ったヨコエビは海藻に対するような普通の洗い出し法ではほとんど外れないため、採り方にはコツがいることが分かりました。
今回はスガモにかまけて紅藻をあまり見ていません。また、漁業権の掲示がなかったため、触れてない生物も多くいます。このあたりを少し見直して、計画的にアタックできれば、かなりの科数を稼げる気がします。
〈美しいスケッチ〉
日本端脚類連盟の議題に上がったものです。
形態分類の論文に掲載するスケッチは「言葉にならない形状を伝える」機能が求められます。
過去にも参考になる図が載っている論文を挙げていますが、今回は「スケッチの技法」として参考になる事例をここから抜粋した上で、更に別に事例も加えてまとめます。
Barnard (1967)
羽毛状剛毛が多いナミノリソコエビの描画において、そこに埋もれた棘状剛毛を切り抜きのような表現で見せています。この画は論文の著者が描いたものではなく Jacqueline M. Hampton という画工の筆によるもので、そういった目で見るのも面白いです。
Kamihira (1977)
底節鰓の構造を点描で描いています。
Hirayama (1990)
ここ半世紀で出色の出来といえばこの論文だと思います。とにかく線が活き活きとしています。
Pretus and Abello (1993)
頭頂の書き込みが特徴的です。また、変わったところでは前胃を描画しています。
Lowry and Berents (2005)
色素斑を描くとともに、入っていた巣まで描画しています。
Jaume et al. (2009)
体表を覆っている細かい剛毛などのテクスチャを、全体に書き込むのではなく、枠で囲った範囲に部分的に描いて表現しています。
Pérez-Schultheiss and Vásquez (2015)
色素斑を描いています。
Marin and Sinelnikov (2018)
影のついた特殊なタッチです。
<参考文献>
— Barnard, J. L. 1967. New and old dogielinotid marine Amphipoda. Crustaceana, 13: 281–291.
— Hirayama A. 1990. Two new caprellidean (n. gen.) and known gammaridean amphipods (Crustacea) collected from a sponge in Noumea, New Caledonia. The Beagle, 7(2):21–28.
— Jaume, D.; Sket, B.; Boxshall, G. A. 2009. New subterranean Sebidae (Crustacea, Amphipoda, Gammaridea) from Vietnam and SW Pacific. Zoosystema, 31(2): 249-277.
— Kamihira Y. 1977. A new species of sand-burrowing marine amphipods from Hokkaido, Japan. Bulletin of the Faculty of Fisheries, Hokkaido University, 28(1): 1–5. pls. I–V.
— Lowry, J. K.; Berents, P. B. 2005. Algal-tube dwelling amphipods in the genus Cerapus from Australia and Papua New Guinea (Crustacea: Amphipoda: Ischyroceridae). Records of the Australian Museum, 57: 153–164.
— Marin, I.; Sinelnikov, S. 2018. Two new species of amphipod genus
Stenothoe Dana, 1852 (Stenothoidae) associated with fouling assemblages from
Nhatrang Bay, Vietnam. Zootaxa, 4410(1).
—
Pérez-Schultheiss, J.; Vásquez, C. 2015. Especie nueva de Podocerus Leach, 1814 (Amphipoda: Senticaudata:
Podoceridae) y
registros nuevos de otros anfípodos para Chile. Boletín del Museo Nacional
de Historia Natural, Chile, 64: 169-180.
—
Pretus, J. L.; Abelló, P. 1993. Domicola
lithodesi n. gen. n. sp. (Amphipoda:
Calliopiidae),
inhabitant of the pleonal cavity of a South African lithodid crab. Scientia
Marina, 57(1): 41–49.