ヨコエビおじさんはTwitterをやっていますが、久々に千バズしました(万じゃない)。
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| およそ30時間経過した時点で7000リツイート超。 しかもまだサチる気配がありません。 | 
ともすれば、とばすいの公式アカウントの数字を抜いてますから、申し訳ない気持ちが先に立ちます。
これだけバズると堅気(生物学の営みをよく知らない一般の人達)のナマのリアクションが集まってきて興味深いです。
やはり「新種」というのは一般にかなりウケるようですが、それより謂わば「格上」の新属ができた、というのは相当なインパクトがあるようです。
以下のようなコメントが多く見られました。
- ピンクでかわいい
- 新属というのを聞いたことが無かった
- 新種より貴重な成果
NHKの「夏休み子供科学電話相談」で北大の小林快次先生が「しんぞくしんしゅ」と言っていたのを、藤井アナウンサーが「親族新種」と誤った漢字に直していたことを思い出しました。それだけ一般的に馴染みのない言葉と考えてよいでしょう。
また、次のようなコメントもありました。
- 新属とは認定されたもの
- 属がそう簡単に増えるものか
- 一属一種はすごい
- 発見者が命名する
- 属が増えれば種も増やせる?
一般的な認識として興味深いので、深掘りしてみたいと思います。
1についてはよく似たような話を見かけますが、正確な説明とはいえません。鉱物なんかとは異なり、動物分類において新種を認定する仕組みは無いからです。このコメントは私のツイートに返信した人への解説のようなものでしたので、教えられた方は少し気の毒だなと思いました。
2について、何をもって多い少ないとするかによりますが、ヨコエビにおいては毎年のように新属が建つので、そのお鉢が日本に回ってくるのはそう不思議ではありません。ちなみに日本からヨコエビの新属が出たのは初めてではなく、新属として記載された種はホソナガシャクトリドロノミ (Ariyama , 2019),ミナミオカトビムシ (Morino, 2020),カワリスベヨコエビ (Ariyama, 2021) ,セイスイミノヨコエビ (Kodama and Kawamura, 2021),ワレカラドロノミ (Matsumoto et al., 2023) が著名でしょう(他にもあります)。科レベルで固有かつ単型の分類群としてコザヨコエビ (Tomikawa, 2007)、上科レベルではボウノボリヨコエビ (Ariyama and Hoshino, 2019) の例もあります。
| 年 | 設立科数 | 設立属数 | 設立種数 | 
|---|---|---|---|
| 2017 | 0 | 4 | 109 | 
| 2018 | 1 | 5 | 79 | 
| 2019 | 7 | 46 | 72 | 
| 2020 | 0 | 11 | 82 | 
| 2021 | 0 | 5 | 63 | 
| 2022 | 0 | 6 | 89 | 
| 2023 | 0 | 5 | 78 | 
| 2024 | 0 | 5 | 58 | 
3について素朴にそう思いますが、今回は一気に10種も記載されていますので単型分類群というわけではありません。これについては元ツイからは読み取れない部分であり、少し申し訳ないと思います。
4もよく聞きますし、発見者が自分の名前を付けるものだ、と固く信じている方はよく見かけます。発見者の定義によりますが、その生物を自然から見出して確保し標本にする行為に最も貢献した人とするならば、明確なルールはないものの、発見者は必ずしも命名行為に関わらない(記載論文の著者にならない)です。フタバスズキリュウなんかはよく例に出されます。新しい分類群の設立を行う論文の執筆には特殊な知識や技能が必要で、発見者が必ずしもそれを持っているとは限らず、逆もまた然りで、記載者が標本となる生物の採集に長じているとも限らないからです。また、発見者の名前がつくかは命名者の匙加減であり、採集に関わってない人の名でも別にダメということはありません(個人的にはどうなんだろうと思いますが)。更に、命名者が発見しようがしまいが、命名者が自分の名前を付けることは大変稀です。全動物で数十年に一度みたいな感じで、それをやると、多くの研究者から白眼視されます。というのも、誰かの名前を学名につける献名という行為は謂わばその生物の発見や研究にあたっての功績を示す賞状やトロフィーのようなものなので、自分でトロフィーを作って自分で授与式を開いているように見えて、非常にダサいのです。
5について、コメントの真意を掴めない部分もあったのですが、恐らく分類群を箱として捉えていて、箱が増えればそこに収納される下位分類群も増える、ということかと思います。新属が建つことで既存の属に新たな視点での考察が加わり、新属へ移されるといった現象は恐らく有り得ます。しかし、だいたい新属を建てる時に近縁の属に含まれる既知種は緻密に検討されているはずですし、もし新属に含まれうる新種が他にいて新属の設立を待っているならば、その新種を記載しようという人が必要に応じて新属を建てるのが筋だと思います。
一般の視点というのは、我々が泥沼にハマるまでに持っていたはずのものも少なくありません。忘れずにいたいものです。
— 小川洋.“2017年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2017-12-26 (最終更新2024-08-30). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2017/12/201712.html (2025-10-28)
— 小川洋.“2018年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2018-12-23 (最終更新2024-08-30). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2018/12/201812.html (2025-10-28)
— 小川洋.“ハマトビムシ科の新体制について(2019年2月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2019-02-11 (最終更新2024-08-15). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2019/02/20192.html (2025-10-28)
— 小川洋.“2019年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2019-12-27 (最終更新2024-08-30). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2019/12/201912.html (2025-10-28)
— 小川洋.“2020年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2020-12-30(最終更新2024-12-30). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2020/12/202012.html (2025-10-28)
— 小川洋.“2021年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2021-12-27 (最終更新2022-12-23). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2021/12/202112.html (2025-10-28)
— 小川洋.“2022年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2022-12-27 (最終更新2023-01-15). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2022/12/2022.html (2025-10-28)
— 小川洋.“2023年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2023-12-29 (最終更新2024-10-11). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2023/12/202312.html (2025-10-28)
— 小川洋.“2024年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2024-12-27 (最終更新2024-02-17). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2024/12/202412.html (2025-10-28)
- 新属新種として記載された種の例示を変更
- 過去の記載状況の表および各種の参考文献を追加
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