2023年3月2日木曜日

2023年のヨコエビギナーへ(文献紹介第九弾)


  今年もヨコエビの知見を得るのに有用な文献を紹介します。第九弾です。

 

(第一弾)
— 富川・森野 (2009) ヨコエビ類の描画方法
— 小川 (2011) 東京湾のヨコエビガイドブック
— 石丸 (1985) ヨコエビ類の研究方法
— Chapman (2007) "Chapman Chapter" In: Carlton Light and Smith Manual (West coast of USA)
— 平山 (1995) In: 西村 海岸動物図鑑
— Barnard and Karaman (1991) World Families and Genera of Marine gammaridean Amphipoda

(第二弾)
— Lowry and Myers (2013) Phylogeny and Classification of the Senticaudata
— World Amphipod Database / Amphipod Newsletter
— 富川・森野 (2012) 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方
— Arimoto (1976) Taxonomic studies of Caprellids
— Takeuchi (1999) Checklist and bibliography of the Caprellidea
— 森野 (2015) In: 青木 日本産土壌動物
【コラム】文献情報のルール

(第三弾)
— 有山 (2016) ヨコエビとはどんな動物か
— 森野・向井 (2016) 日本のハマトビムシ類
— Tomikawa (2017) Freshwater and Terrestrial amphipod In: Species Diversity of Animals in Japan
— Bousfield (1973) Shallow-Water Gammaridean Amphipoda of New England
— Ishimaru (1994) Catalogue of gammaridean and ingolfiellidean amphipod
— 椎野 (1964) 動物系統分類学
【コラム】ヨコエビの分類にはどこから手を付けるか

(第四弾)
— Lowry and Myers (2017) Phylogeny and Classification
— Bellan-Santini (2015) Anatomy, Taxonomy, Biology
— Hirayama (1983–1988) West Kyushu
— 井上 (2012) 茨城県のヨコエビ
— 永田 (1975) 端脚類の分類
— 菊池 (1986) 分類検索, 生態, 生活史
【コラム】文献の入手

(第五弾)
— Arfianti et al. (2018) Progress in the discovery
— Ortiz and Jimeno (2001) Península Ibérica
— Miyamoto and Morino (1999) Talorchestia and Sinorchestia from Taiwan
— Miyamoto and Morino (2004) Platorchestia from Taiwan
— Morino and Miyamoto (2015) Paciforchestia and Pyatakovestia
— 笹子 (2011) 日本産ハマトビムシ科
【コラム】野良研究者

(第六弾)
— Lecroy (2000–2011) Illustrated identification guide of Florida
— Cadien (2015) Review of NE Pacific
— Copias-Ciocianua et al. (2019) The late blooming amphipods
— Bate and Westwood (1863) British sessile-eyed Crustacea
— 青木・畑中 (2019) われから
— Bousfield and Hoover (1997) Corophiidae
【コラム】ヨコエビの同定

(第七弾)
— 岡西 (2020) 新種の発見
— Conlan (1990) Revision of Jassa 
— Ariyama (1996) Four Species of Grandidierella 
— Ariyama (2004) Nine Species of Aoroides 
— Ariyama (2007) Aoridae from Osaka and Wakayama
— Ariyama (2020) Six species of Grandidierella
【コラム】ヨコエビリティの探索


(第八弾)
— Hughes and Ahyong (2016) Collecting and processing
— Буруковский and Судник (2018) Атлас-определитель Балтики и Калининградской 
— Гурьянова (1938) Gammaroidea заливов Сяуху и Судухе 
— Гурьянова (1951) Бокоплавы морей СССР
— Цветкова (1967) Бокоплавов залива Посьет
— Takhteev et al. (2015) Checklist of the Amphipoda from continental waters of Russia

【コラム】海外の司書さんを$29でパシる方法


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<超おすすめ①>

有山啓之 2022. 『ヨコエビガイドブック』. 海文堂, 東京. 160 pp.

 日本にヨコエビ学が勃興して約120年(※1)。全国45(ヨコ)万人のヨコエビファンが待ち望んでいた書籍がついに出版されました。海産種を中心に雌雄の生態カラー写真がわんさか載っている、世界的にも類のない書籍です。2023年3月時点で第2版2刷のはこびとなっており、かなり売れてるらしいです。ぽつぽつと公立図書館にも入ってるようですし、ビジュアルブック感覚でもとりあえず開いていただければ。決して損はさせません。その読みどころについてはこのあたりをご参照ください。

(※1)うの (1901) を、本邦ヨコエビ学の起点となる文献と考えています。



<超おすすめ②>

 富川光 2023. 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』. 広島大学出版会, 東広島. 198pp. ISBN:978-4-903068-59-6

 2月末に刊行されたばかりの書籍です。見た目と中身とのギャップが異常で、完全に裏切られますのでご注意ください。読みどころはこちらに。ヨコエビの特性について学術的知見の要点がわかりやすく集約されているばかりでなく、本邦浅海域および陸域のヨコエビの代表的グループについて科までの図解検索表が搭載されております。3月1日現在、入手経路が確立していないようですが、とりあえず価格は 2,640円(税込)です。



<アゴナガヨコエビ科 Pontogeneiidae の文献>

 結論から述べると、21世紀のアゴナガヨコエビ科の全貌が総括されかつ同定ができる文献はないです。アゴナガヨコエビ属についても同様です。

 アゴナガヨコエビ科は伝統的にテンロウヨコエビ科と姉妹群を形成していましたが、Senticaudata亜目設立と共にバラバラにされてしまった、いわば Lowry and Myers (2013) 被害者の会の一員ということになります。そしてテンロウヨコエビ科は後の分子系統学的検討 (Copilaş-Ciocianua et al. 2019) により、アゴナガヨコエビ科を含むウラシマヨコエビ上科との類縁関係が示唆され、改定前の分類体系に系統学的妥当性があったことが明らかになりました。そればかりでなく、以前から指摘されていたテングヨコエビ科との関連 (石丸 1988) についても裏付けが得られるに至りました。つまり現状、これといった意義のない分類学的枠組みが作りっぱなしの状態で、混沌を極めているわけです。

 ただ伝統的にどういった形態形質が重視され、どういったグループを含めて理解されていたのか等を理解するのに、以下の文献は役立つでしょう。



Bousfield, E. L.; Hendrycks, E. A. 1995. The amphipod superfamily Eusiroidea in the North American Pacific region. I. Family Eusiridae: systematics and distributional ecology. Amphipacifica, 1(4): 3–59.

 古き良き時代のテンロウ上科として、アゴナガヨコエビ科を含む8科の検索表が掲載されています。迷ったらまずコレ、といったところでしょうか。



— Gurjanova, E. F. 1938. Amphipoda, gammaroidea Zajibob Siaukhu I Sudzukhe (Japonskoe More) [Amphipoda, gammaroidea of Siaukhu Bay and Sudzukhe Bay (Japan Sea)]. Fijnaj Akademii Nauk SSSR, Trudy Gidrobiojogicheskoi Ekspedichii Zinan 1934 Japonskoe Morei [Reports of the Japan Sea Hydrobiological Expedition of the Zoological Institute of the Academy of Science USSR in 1934], 1: 241–404. (In Russian)

 アゴナガヨコエビ科およびアゴナガヨコエビ属の検索表を提供していますが、現在に通用するのは12属のうち8属,15種のうち4種のみです。ちなみにロシア語です。


p. 329~:科から属の検索表 

※以下は属(現在の属)— 現在の科

  • Atyloella — アゴナガヨコエビ科 Pontogeneiidae
  • Atyloides — フタハナヨコエビ科 Atylidae
  • Bovallia — アゴナガヨコエビ科 
  • Djerboa — アゴナガヨコエビ科
  • Eurymera — アゴナガヨコエビ科
  • Harpinioidella (=Harpinioides) — ウラシマヨコエビ科 Calliopiidae 
  • ミギワヨコエビ属 Paramoera — アゴナガヨコエビ科
  • アゴナガヨコエビ属 Pontogeneia — アゴナガヨコエビ科
  • Pontogeneiella (=Prostebbingia) — アゴナガヨコエビ科 
  • Prostebbingia — アゴナガヨコエビ科 
  • Pseudomoera — アゴナガヨコエビ科
  • Zaramilla — Zaramillidae


p. 337~:属から種の検索表

※以下は現在の属位を反映したもの(配列は種小名のアルファベット)

  • Gondogeneia antarctica
  • Gondogeneia bidentata
  • Gondogeneia georgiana
  • Gondogeneia gracilicauda
  • Pontogeneia inermis
  • Pontogeneia intermedia
  • Tethygeneia longleyi
  • Gondogeneia macrodon
  • Pontogeneia melanophthalma
  • Pontogeneia minuta
  • アゴナガヨコエビ Pontogeneia rostorata
  • Gondogeneia simplex
  • Accedomoera tricuspidata
  • Gondogeneia tristanensis
  • Gondogeneia ushuaiae



— Gurjanova, E. F. 1951. Bokoplavy morey SSSR i sopredelinyh vod (Amphipoda – Gammaridea), opredeliteli po faune SSSR [Gammarids from USSR seas and adjacent waters (Amphipoda – Gammaridea), determinants of fauna in USSR]. Zoologicheskii Institutom Akademii Nauk [Zoological Institute Academy of Science], 41: 1–1029. (In Russian) 

 アゴナガヨコエビ科3属の検索表を提供しています。アゴナガヨコエビ属については12種が実装されていますが、現在も属位変更がないのは8種です。ちなみにロシア語です。

p. 717~:属から種の検索表

※以下は現在の属位を反映したもの(配列は種小名のアルファベット)

  • Pontogeneia andrijaschevi
  • Pontogeneia inermis
  • Pontogeneia intermedia
  • Pontogeneia ivanovi
  • Pontogeneia kondakovi
  • Tethygeneia longleyi
  • Tethygeneia makarovi
  • Pontogeneia melanophthalma
  • Pontogeneia minuta
  • Tethygeneia pacifica
  • アゴナガヨコエビ Pontogeneia rostorata
  • Accedomoera tricuspidata




 アワヨコエビ属6種の検索表を提供。分布情報についても大いに参考になるかと思います。


 アゴナガヨコエビ科は一目見てそのグループと分かりやすい特徴に乏しいため、より広い範囲から検討して絞り込んでいく必要があります。上記文献の他は(とりわけ読みにくいことで有名な)Barnard and Karaman (1991) や Cadien (2015) などを適宜参照するのがよいでしょう。

 アゴナガヨコエビ属について、Ren (2012) は中国産3種、Cadien (2015) は北太平洋産4種を対象に、それぞれ検索表を提供しており、日本を含む海域では一応これらが最新の知見となります。しかし、これだけでは国内の分類には全く役に立たないため、2023年現在の既知種をまとめました(※authorshipのcitationは割愛しています)



Pontogeneiidaeアゴナガヨコエビ科 Pontogeneiaアゴナガヨコエビ属 の検索表(Gurjanova 1951 を改変)
 
1. 頭頂は短く直線的に尖り、下垂あるいは上反しない・・・2
— 頭頂はサーベル状に下垂あるいは上反する・・・9
2. 頭頂は幅広く、第1触角柄部第1節の長さおよび幅の50%を超える・・・P. opata J.L. Barnard, 1979
— 頭頂は小さく痕跡的、あるいは第1触角柄部第1節の長さおよび幅の50%に満たない・・・3
3. 第1, 2咬脚の腕節長は前節長より長いかほぼ同長;尾節板は剛毛を欠く・・・4
— 第1, 2咬脚の腕節は前節より短い;尾節板に剛毛を具える・・・8
4. 第1, 2咬脚は腕節長>前節長・・・P. inermis (Krøyer, 1838)
— 第1, 2咬脚は腕節長≒前節長・・・5
5. 第3尾肢の外肢は内肢よりやや長い・・・P. stocki Hirayama, 1990 ホンアゴナガヨコエビ
— 第3尾肢の外肢は内肢より短いかほぼ同長・・・6
6. 第3尾肢の外肢は内肢より短い・・・P. oligoseta Ren, 2012
— 第3尾肢の外肢と内肢はほぼ同長・・・7
7. 尾節板の長さは幅の2倍程度で、2/3程度まで切れ込む・・・P. arenaria Bulyčeva, 1952
— 尾節板の長さは幅の1.5倍程度で、1/2程度まで切れ込む・・・P. littorea Ren, 1992
8. 第1, 2咬脚は腕節長<前節長;尾節板側縁に2対程度の棘状剛毛を具える・・・P. melanophthalma Gurjanova, 1938
— 第1, 2咬脚は腕節長<<前節長;尾節板背面に5束程度の棘状剛毛を具える・・・P. bartschi Shoemaker, 1948
9. 複眼はアルコール固定中で黒色・・・10
— 複眼はアルコール固定中で黄色・・・11
10. 第1, 2咬脚は腕節長>前節長;第3腹側板後縁は弱く突出する・・・P. intermedia Gurjanova, 1938
— 第1, 2咬脚は腕節長>>前節長;第3腹側板後縁は強く突出する・・・P. andrijashevi Gurjanova, 1951
11. 第1, 2咬脚は腕節長>前節長・・・P. rostrata Gurjanova, 1938 アゴナガヨコエビ
— 第1, 2咬脚は腕節長>>前節長・・・12
12. 頭頂は微小かつ下垂する;尾節板は棘状剛毛を欠く・・・P. ivanovi Gurjanova, 1951
— 頭頂は上反する;尾節板は側縁に3対の棘状剛毛を具える・・・P. kondakovi Gurjanova, 1951



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コラム:ヨコエビ採集の安全対策


 フィールドでの安全対策に関して、ネットではまた活発な発信が行われています。こういったテーマは常に関心のトップに置いておかねばと分かっていながらも、人は忘れがちで、口の端に上るのは何かがあった時だけになりがちです。どれほど貴重なサンプル・データをその手に掴もうと、生還しなければ採れたことにはなりません。命がけでやってる自負がある方もいるかもしれませんが、事故が起きれば「覚悟ができている」当人だけの問題では終わりません。研究組織や道楽カテゴリと心中する可能性すらあります。


 事故や遭難の原因は、制度設計や組織の指揮系統など勘案すべき事項が多岐にわたるかと思いますが、個人がルールを踏まえて行動することが前提になるかと思います。危険な場所は立ち入り禁止になっていたり、危険を招く行為はルールとして禁止されていて、これが予防策になりうるわけです。また、これと関連して、生物そのものあるいは生物に関わる産業の保護などを目的として、各種法令が制定されている場合もあります。これについては昨年たいへん良い書籍が出ましたので(山渓いきもの部 2022)、未読の方は参考にしていただきたいと思います。ルールは、知らなければ守れませんので、こういった事柄を事前に調べ、また教えることが第一歩かと思います。

 これらを踏まえた上で個人に帰属する安全対策は、一般論として、事前に然るべき指導を受け無事に帰る術を身につけること、単独行動しないこと、などが挙げられます。原理的・究極的な部分では大変優れたマニュアルが公開されていますのでこちらをまず頭に入れることが肝要かと思います。また、学校など組織に所属されている方は、まずは各々の組織が定めているフィールドワーカー向けの安全マニュアルの類に目を通していただければと思います。そして近年では、インターネットで色々な大学の安全マニュアルを読めたりします。土地柄や調査の内容によって微妙に違いがあったりしますので、「フィールドワーク」(野外調査)「安全」「マニュアル」などのキーワードで検索するとかなり良質な情報が得られますので、参考にしてみてください。また、もう少し敷居を下げてレクリエーション的な活動に対しても、各自治体や民間団体がマニュアルを公開している場合があります。フィールドワークを「野外活動」「自然体験」などに置き換えると、いろいろヒットします。


 その他の非常に主観的で細かな話として、主に潮間帯でのヨコエビ採集にあたってフィールドワーカー個人が予め注意したほうがよい事柄をご提案します。なお、以下の内容は全ての人・地域・調査方法に当てはまるものではなく、また事故・不具合の予防を保障するものではありません。


 事前に考えられる危険を予知します。


【磯】
 足元が不安定で、更に波が打ち付けてくる過酷な環境です。転がりやすい・滑りやすい石は一見して判断できないこともありますので、急な動きを避けて慎重に進むことが必要です。バランスを崩して咄嗟に手や足を着いても、着いた先が安定しているとは限りません。波は一定のタイミングで押し寄せてきますが、引き潮あるいは満ち潮の時刻にはめまぐるしく大きさや向きが変わります。沖をこまめに見て白波の高さを確認する,近くを船が通ったら航跡波に備える、などの注意をしたほうがよいです。
 また、波消しブロックの隙間は水流が複雑に入り乱れ、吸い込まれると生還はおろか遺体が上がるかどうかさえわからないと言われます。近づかないことです。 
 磯の脇に崖が切り立っていることがあります。真新しい石などが近くに落ちてないか注意します。

【干潟】
 一見何の危険もないようですが、砂泥の中に鋭い貝殻の破片が埋まっていたり、アカエイ・イシガニ・有毒クラゲなどの危険生物に出くわしたり、いきなり底なし沼にハマる可能性があります。

【河口】
 河口付近や川の中まで入って採集を行う場合、少なくとも直近3日間程度の上流の降水状況を把握すべきと思います。川の形状によっては鉄砲水のリスクがあります。


 
季節のコーデ。
※個人の見解です


 海は陸上動物であるヒトにとってアウェイな環境です。特に都会化されたヒトにとっては、潮間帯さえ完全アウェイです。吹き渡る風さえ、街のそれとは違います。一年を通して肌の露出を極力減らし、気温変化に直接身体を晒さないことが体力維持において重要と考えられます。体力の低下は機動力の低下を招き、思わぬ事故を招く可能性がありますし、何よりせっかくのアクティビティが有意義なものになりません。体力が有り余っている方は平気と思うかもしれませんが…


【夏季】
 遮るもののない海辺に照り付ける太陽は相当なものです。前述の服装によって身を守るとともに、水分を持ち歩くようにします。また、夏の盛りを外れた時期は体感温度が目まぐるしく変わることも考慮すべきです。

【冬季】
 潮汐に依存した採集は自ずと夜潮になります。水辺において冬の夜の寒さは異次元です。どうしても行かなければならない場合、複数人で十分なバックアップ体制を敷くことが重要です。また、干潟なら平坦な道を進めますが、磯は地形が複雑で非常に危険です。転倒や滑落などもそうですが、エントリーポイントが分からなくなると戻れなくなることも有り得ます。よほど慣れた場所でもないかぎり、何人で行っても危険性はさほど減らないように思えます。私は行く気にはなれません。

 また、その他の装身具でいうと、マスクをしたままにしていると水を被ったり誤って水中に落ちた時に呼吸ができず生命に関わります。


 採集用具に関しても、安全対策の一環になると考えています。かさばる器具を持ち歩くことは疲労や忘れ物・紛失につながります。人工物の紛失は環境汚染であるばかりではなく、例えばそれを取ろうとして思わぬ事故が起きる可能性もあります。採集を終えて体力を損耗した状態であっても管理できる点数・重量に収めるべきです。私はサコッシュとリュックに入れるのをデフォとし、手元が空くようにしています。


 前述の生態学会のマニュアルは、組織の体制作りからロープワークや蘇生法まで、極めて幅広くかつ実践的な内容が凝縮されていますので、フィールドに出る前に一読されることを強くお勧めします。その中では自身の危険体験を「武勇伝」のように語ることを戒める文言もあります。

 指導教員や研究リーダー、先輩らは、自らの危険な経験・無理・無茶を武勇伝にしてはいけない。冒してしまった危険な経験や無理は、論文の盗用と同じぐらい恥ずべき経験である。恥を忍んで、同じ過ちを後輩が冒すことがないようにという気持ちで、自らの経験を語るべきである。無謀な野外調査の思い出話や冒険談は、調査前の計画や準備の能力不足を吐露しているだけであり、自らの能力の低さを証明しているに等しいことを、年長者は年少者を前にして自覚すべきである。(p.S4)

 改めて強調しておきますが、これは「誰かの個人的意見」ではなく、委員会組織の見解として表明されているものです。また、その本当の意図については、単純な自分語りの否定とは読まずに前後の文脈からも読み取ったほうがいいと思います。
 危険事例を共有することそのものは安全教育に不可欠と思いますが、例えばもし同様のアクシデントで人一人死んでたら同じテンションで話せるのか、見つめ直すべきとも思います。聞き手に「自分ならもっと上手く立ち回れる」と思わせて災害を増やすと言われることもありますが、単純に「同様の危険を冒して仮に遭難しても無事に生還できて話のタネになる」と思われてしまうのではないでしょうか。現状、フィールドワークの危険事例をシステマティックに集約する仕組みはこれといってなく、個の発信になってしまっているのも、もしかすると武勇伝を許している一因かもしれません。学術組織を中心にそういったプラットフォームを作ることができれば、あるいは尊い人命が喪われる場面を1つでも減らせるような気がしています。

 

<本項おすすめ本以外の参考文献>
— Ren X. 2012. Crustacea, Amphipoda, Gammaridea (II). Fauna Sinica, Invertebrata. vol. 43. Science Press, Beijing, 651pp.

2023年3月1日水曜日

書籍紹介『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』(3月度活動報告・その1)

 

 近年、ヨコエビ本が豊作です。

 2月末にまた楽しそうな本が出ました。


ほんの去年まで、一般向けに「ヨコエビ」をシングルイシューとした書籍はついぞ出版されていませんでしたので、驚くべきファンシーさにちょっと目を疑うような表紙です。夢かどうかフトヒゲソコエビに齧ってもらって確かめたいところです。特に高度に抽象化されたヨロイヨコエビがかわいいですね。

 

 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』(以下、富川 2023)を児童書か中高生向けの書物だと思っていると、たいへんな裏切りが待っています。目次を見てもまだはっきりと分かりませんが、本文に目を通すと、非常に濃密な内容になっていることに驚かされます。目次から想像される内容の3~10倍くらい濃いです(当社比)。


 「ヨコエビ」とは何か、またその特性である「横向きの姿勢」の特異性を正しく理解するには、ヨコエビやそれを内包する甲殻類という範囲まで含めて、分類学的構造や身体の形状についての基礎知識が必要になります。富川 (2023) ではそういった学術的な下地の形成にかなりのページを割きつつ、そこから先は軽快なテンポでヨコエビの様々な側面について専門的な解説を連ねていきます。

 後半の解説は解剖学のみならず捕食・被食・寄生の関係や、繁殖様式などにも及びます。その濃度たるや、多少甲殻類学に造詣がなければ、この本を開いたほんの数十分前には到底ついていけなかったであろうガチめな領域に達しています。そしてたとえ心得があったとしても、かなり造詣を深められるものになっていると思われます。

 そして、後半部へ達する前に前半部で身につけられる濃密な知見は、ヨコエビの学術書を読み解くためというより、一般書や学校教材などで使われている用語や見方と学術的場面でのそれとの違いを理解するというような、日常場面を土台にした構成になっているところに、芸の細かさを感じました。


 そういった「教科書」的な要素をひととおり堪能した後には、実際の研究を進めるための具体的な情報を手にすることができます。採り方や固定の仕方だけではなく、飼い方にもちょっと触れているところは、とても新しいと思います。また、海水・汽水域の22科と淡水域の10科(重複有)について図解検索表が掲載されています。有山 (2022) でもブレイクスルーと言える巨大な検索表が提供されましたが、富川 (2023) では図が付いていてビジュアル的な理解が捗ります。ハマトビムシ類に限っては 森野 in 青木 (2015) などに前例がありますが、海産でこういった資料が日本語としてまとめられたというのはかなり革新的な出来事です。今日日「フトヒゲソコエビ科」という表記を使うのは誤解を招く可能性もありますが、「類」と読み替えていただくのがスムーズかと思います。

 

 ヨコエビヲタクとして特に驚いたのは、最近では 大森 (2021) で言及があった、恐らく日本最古のヨコエビの商業的生体展示にして世界最高温度帯に棲息する種であろう南米のヨコエビについて、富川先生の手によって分類学的研究が進められているという情報。この属は現在100種ほどを擁し毎年何種も新種が記載される状況が続いているグループで、かつ形態的な差が少ないという難物なのです。続報に期待です。

 あと、本筋とは関係ないですが、引用文献が略式の表記になっていて、個人的にはタイトル込みの citation のほうが論文を探しやすい感があるので、芋づる式に学び直したり知見を深めていったりするには少々敷居が高いように思われました。そしてもっとどうでもいいですが気になった点を少々。すみません…細かいところが気になってしまうものでして…。

(p.76, 77) ”ペランピトエ・フェモラタ”は イッケヒゲナガヨコエビ属 Peramphithoe の消滅に伴って ニセヒゲナガヨコエビ属 Sunamphitoe に属位変更され、現在は S. femorata (Krøyer, 1845) となっている (Peat and Ahyong 2016)。

(p.157など) ”胸肢”という語が「胸脚」と混同されて使用されている可能性がある。「胸肢 thoracopod」はヨコエビにおいて「顎脚 maxilliped」「咬脚 gnathopod」「胸脚 pereopod」に相当し、以下のようになっているはず。

 第1胸肢=顎脚
 第2胸肢=第1咬脚
 第3胸肢=第2咬脚
 第4胸肢=第3胸脚

 :

 第8胸肢=第7胸脚

(p. 179) Brevitalitridae科は「和名なし」となっているが、富川 (2023) において引用文献に連なっている 有山 (2022) で「サキシマオカトビムシ科」という和名が提唱されている。


 個人的には、あまり疑問を持たずに受け入れてきた「ヨコエビが横向きになったまま動き回っている」というシーンをここまで真正面から論じられていることに、蒙を啓かれた感がありました。よくよく考えれば、背腹に扁平となって物の表面に張り付いている生物は数知れず、ヨコエビ(主に上科)のように左右を気まぐれに反転させながら横向きの姿勢を保っているグループというのは、あまり思い浮かびません。その理由を解き明かすカギは、確かにこれまで富川先生がネット記事や講演会などで繰り返し語ってこられた中にヒントがあったのですが、そうした洞察が改めてこうして書籍として再構築されたのは、たいへん意義深いことです。

 これは真の意味での「分かりやすさ」を目指した書物のように思えます。恐らく高校生をターゲットの中心に据えているようですが、単語や表現は可能な限り平易に、しかし記述内容そのものに一切の妥協や省略はなく、知識の無い状態から「ヨコエビはなぜ横になるのか」を理解できるようになる、最も確実かつ最短距離を突っ走っているように感じられました。何かと「分かりやすさ」が求められる今日、手前勝手な誇張や単純化によってそれを実現しようとする手合いは後を絶ちませんが、そういったざんねんな状況に一石を投じるものにも思えました。

 個人的な見どころはあとがきで、本邦端脚類学の権威・森野先生との会話から本のアイディアが出てきたといったくだりは、研究者が普段なにを考えてどういう会話をしているのか、という日常の一コマに想いを巡らせずにはいられません。



<取り扱い状況>

 3月1日現在、一般の書店やネットストアでの取り扱い状況は、わかりませんでした広大出版会ページ。大学生協に問い合わせるか、取り扱い開始を待つ必要がありそうです。



<参考文献>

— 有山啓之 2022. 『ヨコエビガイドブック』. 海文堂, 東京. 160 pp.

— 大森信 2021. 『エビとカニの博物誌―世界の切手になった甲殻類』. 築地書館, 東京. 208pp. ISBN978-4-8067-1622-8 

— 森野浩 2015. ヨコエビ目. In: 青木淳一(編) 『日本産土壌動物 第二版-分類のための図解検索』 1069–1089. 東海大学出版会, 東京. ISBN978-4-486-01945-9

— Peat, R. A.; S. T. Ahyong 2016. Phylogenetic analysis of the family Ampithoidae Stebbing, 1899 (Crustacea: Amphipoda), with a synopsis of the genera. Journal of Crustacean Biology, 36(4): 456–474.

 富川光 2023. 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』. 広島大学出版会, 東広島. 198pp. ISBN:978-4-903068-59-6

 

2023年2月9日木曜日

書籍紹介「ヨコエビ類からみた琵琶湖の生物地理」In:『琵琶湖の生物はいつ、どこからきたのか?』(2月度活動報告)


 2022年11月に出版された 『琵琶湖の生物はいつ、どこからきたのか?』に、ヨコエビの節(以下、富川 2022)がありましたのでご紹介します。


表紙に琵琶湖固有種アナンデールヨコエビがいます。


 巻頭に琵琶湖産ヨコエビ3種のカラー写真があります。かわいいですね。

 本書は富川 (2022) のような分類群ごとの解説がほとんどを占めますが、深底部のベントスといった環境に着目した節もあります。殊に魚類に関しては本草学的なアプローチもあり、読んでいて楽しいです。また、巻末に用語解説と参考文献が完備されており、初学者の参考書として活用することができるでしょう。


 さて、本邦において淡水ヨコエビは海産と比べると解明度が比較的高い雰囲気がありますが、「いつ、どこからきたのか」というような進化学的・系統学的な問いに対しては国境を超えた解析が不可欠です。富川 (2022) は極めてローカルな話題を扱いつつ、筆者ならではのグローバルな視点で深い洞察を与えています。そしてその範疇は現在琵琶湖から知られているヨコエビの起源に留まらず、世界的に知られる他の古代湖のヨコエビ相の概説にも及んでいます。琵琶湖博物館ではバイカル湖との連携でアカントガンマルスの展示実績があることからも、こういった比較の意義深さがうかがえます。

 富川 (2022) の構成は以下の通りとなっています。検索表などを提供する類の書籍ではありませんが、内容は極めて専門的でありつつ、表現は平易で読みやすいです。


1.はじめに

2.ヨコエビとは

3.世界の古代湖のヨコエビ

  • バイカル湖
  • チチカカ湖
4.琵琶湖のヨコエビ
  • 分類学的研究の歴史
  • 固有種
  • 外来種
  • 琵琶湖のヨコエビはどこから来たのか


 富川 (2022) を読み、改めてアナンデールヨコエビ(アンナンデールヨコエビ)が分類学的意味で特異な固有種であるばかりでなく、琵琶湖の環境へ巧みに適応した生態を獲得した特異な生物であることを認識しました。アナンデールヨコエビ亜属に含まれるアナンデールヨコエビやナリタヨコエビについては分子系統解析に基づいてある程度侵入・分化のシナリオが描けているのに対して、ビワカマカは情報が不足していることも改めて示され、大いに首を縦に振るところであります。

 本書で触れられている外来種問題はフロリダマミズヨコエビのことで、琵琶湖(滋賀県)は全国に先駆けて警戒体制を敷いていることで知られています。在来のナリタヨコエビとフロリダマミズヨコエビとの間には外来魚による捕食圧の違いがあることが示されていますが、これはそれぞれの種が転石上と水草上という異なる環境を利用するためという考察もなされていて(市原・田辺 2021)、かなりホットな話題です。フロリダマミズヨコエビは日本全体に拡散していて、その適応力の高さから侵入を防ぐことは難しいと考えられている一方、在来ヨコエビとはそもそも生息環境が異なるため直ちに競合や追い出しが起こるかは分からないとも言われます。しかしながら、これほどの勢いで拡散している外来種が、数多いる在来淡水生物に対して何の影響も与えていないと判断するのは無理筋のように思えます。在来ヨコエビのみならず、幅広い生物種を視野に入れて影響を注視する必要があるでしょう。


 琵琶湖というと、(外来種対策ではないですが)日本の湖水生物分野における先進地域というイメージがあり、長い研究史の中で幾度となくレビューが行われ、知見は整理され尽くしている印象でした。しかし本書を読み、個々の生物の起源といったテーマは近年の分子系統解析の手法により深化されている段階にあり、琵琶湖は今もなお生物学的研究の最前線にあることがわかりました。そして何といっても本書はアナンデール博士が琵琶湖の生物相を記述した論文を発表してからちょうど100年にあたる年に出版されたという、記念碑的な書物でもあります。今後も新たな謎や解析手法が出てくるたびに、琵琶湖に注がれる研究者の眼は更に熱を帯びてくるものと思います。



<参考文献>

— 市原 龍・田辺 祥子 2021. PP04 琵琶湖におけるヨコエビの動態解析. 2021 年日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会 講演要旨集.

— 富川光 2022.ヨコエビ類からみた琵琶湖の生物地理.In:西野麻知子 2022.『琵琶湖の生物はいつ、どこからきたのか?』.サンライズ出版,彦根.p. 350.


2023年1月30日月曜日

祝・ワレカラLABO開設(1月度活動報告)

 

 八景島シーパラダイスにワレカラLABOが設立されたとのことで、Twitterで大バズりしてました(1月23日投稿:1月28日時点で1,400RT)。


 なので、仕事をサボってさっそく覗いてきました。


驚くべき光景が広がっています。


 水槽とシャーレにトゲワレカラの生体がいるようです。双眼実体がセットアップしてありますが、ワレカラくんは視野外へいってしまった模様。

 よく見るとワレカラだけではないような…。



 カマキリヨコエビ属 Jassa,ホソヨコエビ属 Ericthonius,イソヨコエビ属 Elasmopus のようですね。ミズヒキゴカイの類もいます。こいつらは競合しないタイプということでしょうか。

 あと、だいぶ話題になった「キングギドラシリス」の生体展示もありました。こちらは海綿に潜り込んでいて姿を見ることはできませんでした…


いちおう全体をまわりましたよ。


 こういった施設でワレカラに光が当たるのは大変意義深いことです。コウイカちゃんに比べるとちょっと客足が鈍い感もありましたが、フラッシュ焚かない限りはラボ内も撮影自由とのことなので、是非多くの方に映える写真を撮って帰ってほしいと思います。


2022年12月27日火曜日

2022年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)

 

 今年もヨコエビの新種です。

 メキシコとオーストラリアからワレカラの新種が記載されていますが、あえて掲載していません。
 
 
※2017年実績
※2018年実績 
※2019年実績
※2020年実績
※2021年実績

 

 学名に付随する記載者については、基本的に論文中あるいは私信で明言のある場合につけています。

 

New Species of
Gammaridean Amphipods
Described in 2022

(Temporary list)

 

JANUARY 


Jażdżewska, Brandt, Martínez Arbizu and Vink (2022)

Oedicerina henrici
Oedicerina teresae
Oedicerina claudei
Oedicerina lesci 

  クチバシソコエビ科 Oedicerotidae の4新種を記載。2022年1月現在本文は無料で読めます。

 

 

 Ceriello, Senna, Andrade and Stampar (2022)

 Podocerus carmelina

  ブラジルからハナギンチャク付着性の ドロノミ属 Podocerus 1新種を記載。種が未同定のものも含めて同所的に得られたヨコエビのほか、等脚類、タナイス、コノハエビの記述もあります。

 


Tomikawa, Sasaki, Aoyagi and Nakano (2022)

Melita miyakoensis ミヤコメリタヨコエビ

Melita nunomurai ヌノムラメリタヨコエビ

Melita ogasawaraensis オガサワラメリタヨコエビ

Melita okinawaensis オキナワメリタヨコエビ

  沖縄および小笠原から メリタヨコエビ属 Melita の4新種を記載。既知種も加えた系統関係を解析し、本州・沖縄・小笠原にまたがるクレードと、沖縄・小笠原のみのクレードが存在することを明らかにしています。本文は有料。

 ミヤコメリタヨコエビについては沖縄タイムス等で取り上げられ、Yahoo!ニュースにも取り上げられてコメ欄やTwitterが賑わいました。メリタヨコエビ属において無眼種は珍しく、特に今回は表層水で発見されたとのことで憶測が憶測を呼んでいますが、筆頭著者の富川先生曰く「地下水棲種が湧水に乗って表層へ出てきたのでは」とのことです(2021年日本動物分類学会第56回大会発表)。また、海を隔てて近縁種が生息することに疑問をもつ方もいるようですが、本属は海水種・汽水種・淡水種を内包する極めて適応力の高いグループであり、海流等の検証は済んでいないものの、祖先が海を渡ってきたというシナリオが最も妥当と思います(同発表)。御多分に漏れず研究が進んでいないため、他の地域の記述が進めば、より精度が高い分散様式の推定が可能になるのではないでしょうか。そして、生息地は外来植物アカギの繁殖が進み、ヨコエビをはじめとする淡水性の動物が生息する渓流が堰き止められて消滅するという危機的状況にあるとのことです(同発表)。争点にするべきはそういった喫緊の課題だと思います。

 

 

FEBRUARY

 

Sir and White (2022)

Elasmopus mukuinu

 沖縄から イソヨコエビ属 Elasmopus の1新種を記載するとともに、これまでマレーシアでの原記載のみが既知であった同科の Ceradocus mizani Lim, Azman & Othman, 2010 を報告しています。新種として記載された E. mukuinu の種小名は日本語の「尨犬」のことで、第2咬脚に不揃いの剛毛を密生する様子にちなむとのことです。命名したのは米国人研究者ですが、日本語センスがずば抜けています。南西諸島ではスンナリヨコエビ科を含めてヨコエビ相の記録は乏しく、またイソヨコエビ属は世界的に見て日本が分布の北端にあたるものの種多様性の高さに記載が追いついておらず、貴重な研究です。また、これらの種の他にも同所的に未記載のヨコエビはたくさんいそうです。アブストに簡単な形態の記述あり。本文は有料。

 ちなみに、本種の記載の過程は「New species podcast」というポッドキャスト番組に採り上げられ、コレスポの White博士が出演しています。



Marin and Palatov (2022)

Victoriopisa nhatrangensis 

Victoriopisa cangio

 ヴィエトナムのマングローブ林から ホソオヨコエビ属 Victoriopisa の2新種を記載。本文は有料。

 

 

Lowry and Myers (2022)

Demaorchestia hatakejima

Demaorchestia mie

Demaorchestia pseudojoi 

Insularorchestia susorum 

 ハマトビムシ大改造論文がまた出ました。3新属(CocorchestiaDemaorchestiaInsularorchestia)を含む15属を Platorchestiinae亜科として再構成し、Talitrinae亜科から分離・独立させました。何といっても注目すべきは、これまで2種として扱うのも不評だった「ヒメハマトビムシ」が、とうとう2属4種の大所帯になった点です。本論文は「armchair taxonomy」(自ら標本を収集・検討して分類に必要な一次情報を得ることはせず、出版済の文献およびそれに付随した私信を拠り所として行われる分類学研究:わたしの造語)に終始しており、このような細分化が果たして意味を持つのか疑問がありますが、少なくとも同種とするには気持ち悪い形質の違いがあることもまた事実です。今後の研究、主に分子系統解析に期待です。巻末で15属のオスの検索表を提供。本文は有料。「ヒメハマトビムシ」をめぐる本論文の処遇について、特に本論文で記載された2新種と、タイプロカリティ付近に現在棲息している個体群との対応については、こちらで考察しています。

 ちなみに、本論文は端脚類分類学における巨人の一人ジェームス・ケネス・ロウリーの遺稿となってしまいました。しかし、極めて重要な論文にも関わらず、本文中に「P. koreaensis sp. nov.」という記述がある一方でアブストで新種として示されず、属の構成種に挙げられず、記載らしいパートも見当たらないという不可思議な点があり、恐らくミスと思われます。査読者は何をしていたのでしょうか。

  

 

King, Fagan-Jeffries, Bradford, Stringer, Finston, Halse, Eberhard, Humphreys, Humphreys, Austin and Cooper (2022)

Nedsia canensis King & Cooper, 2022
Nedsia cheela King & Cooper, 2022
Nedsia erinnae King & Cooper, 2022
Nedsia mcraeae King & Cooper, 2022
Nedsia nanutarra King & Cooper, 2022
Nedsia pannawonica King & Cooper, 2022
Nedsia quobba King & Cooper, 2022
Nedsia robensis King & Cooper, 2022
Nedsia shawensis King & Cooper, 2022
Nedsia wanna King & Cooper, 2022
Nedsia weelumurra King & Cooper, 2022
Nedsia wyloo King & Cooper, 2022
Nedsia yarraloola King & Cooper, 2022
 

 西オーストラリアの地下水からハッジヨコエビ上科 センドウヨコエビ科Eriopsidae の13新種を記載した超大作が出ました。分子と形態の両刀使いです。本文まで無料で読めます。

 

 

Verónica, Águeda and Alejandra (2022).

Hyalella fatimae Verónica & Alejandra, 2022

 アルゼンチンの標高 4,000 m 級の山地から Hyalella属 の1新種を記載。形態を用いた記載で、アブストにもかなり詳しく記述があります。


 

Myers and Ashelby (2022)

Pontocrates moorei 

 クチバシソコエビ科 Pontocrates属 の1新種を記載。全世界の既知種レビューと全種の検索表を掲載という、これまでありそうでなかった文献です。本文は有料。

 

 

Rangel, Da Silva, Siegloch, Limberger and Da Silva Castiglioni (2022)

Hyalella insulae

 ブラジルから Hyalella属 の1新種を記載。本属初の島嶼性とのことで、それを示す種小名がついています。本文は有料。

 

 

Tong, Wang, Liu, Li and Hou (2022)

Gammarus hoboksar Hou, 2022

 新疆ウイグルから ヨコエビ属 Gammarus の1新種を記載。Gammarus zhouqiongi Zhang, Wang, Ge and Zhou, 2021 のタイプ産地にほど近いようです。本文は有料。

 

 

 APRIL

 

Wang, Sha and Ren (2022)

Cyphocaris lubrica 

Cyphocaris formosa

 南シナ海のメタン湧出域から ネコゼヨコエビ属 Cyphocaris の2新種を記載。形態のみを用い、線画のほか固定前の全身写真と、一部口器のSEM画像も載せています。世界の既知のネコゼヨコエビ科全種の検索表を提供するとともに、世界のメタン湧出域から得られた端脚類を総括しているかなり意欲的な論文です。本文まで無料で読めます。

 

 

Labay (2022a)

Eosymtes magnumoculis

 サハリンに産するテングヨコエビ科 Eosymtinae亜科 をレビューするとともに1新種を記載。亜科から属の検索表、および Eosymtes属 の全種の検索表を提供。本文は有料。



Ariyama and Kawabe (2022) 

Aoroides macrops  オオメブラブラソコエビ

Grandidierella ogasawarensis オガサワラドロソコエビ

 父島から ユンボソコエビ科 Aoridae の2新種を記載。このうちオガサワラドロソコエビは、濵邉 (2017) で Aoridae sp. とされていたものとのことです。SDなのでタダで読めます。



Andrade, Souza-Filho and Senna (2022)

Magnaphoxus ajaja 

Magnaphoxus simplex 

Magnaphoxus longicarpus

 ブラジルから ヒサシソコエビ科 Phoxocephalidae の1新属3新種を記載。属の識別形質はアブストに詳しく書かれています。


 

Paz-Ríos and Daniel Pech (2022)

Dentimelita lecroyae 

Pardaliscella perdido  

Paraeperopeus longirostris

Pardaliscoides ecosur

Tosilus cigomensis 

Neohela winfieldi  

 メキシコ湾の深海域から メリタヨコエビ科 Melitidae の1新属(Dentimelita)・1新種,Pardaliscidae科の1新属(Paraeperopeus)・4新種,Unciolidae科の1新種を記載。本文は有料。



Tomikawa, Watanabe Kayama, Tanaka and Ohara (2022)

Paronesimoides calceolus

 マリアナ海溝から タカラソコエビ科 Tryphosidae の1新種を記載。3種のオスの検索表を提供。本文は有料。




 MAY

 

Wongkamhaeng, Dumrongrojwattana, Sumitrakij and Keetapithchayakul (2022)

Thailandorchestia rhizophila

 タイからハマトビムシ上科の 1新属 1新種 を記載。Protorchestiidae科 の 7属 の検索表を提供。本科において最東端かつ初の漂着木性属の報告と思われます。本文まで無料で読め、しかも生態動画付きです。漂着木性ハマトビムシ類の生態動画そのものが大変貴重だと思います。この発見は現地の新聞でも取り上げられました。

 

  

Marin, Sinelnikov and Antokhina (2022)

Pleusymtes actiniae

 北極バレンツ海から、イソギンチャク類 Urticina eques に付着している テングヨコエビ科 Pleustidae の1新種を記載。なかなか書き込みが多いスケッチが楽しめます。本文は無料で読めます。

 


JUNE


Cannizzaro, Sisco and Sawicki (2022)

Crangonyx apalachee

 フロリダから マミズヨコエビ属 Crangonyx の1新種を記載。現在「フロリダマミズヨコエビ Crangonyx floridanus」は種群として認識するのが妥当なようです。良からぬことが起きねばよいのですが。本文は有料。



Ariyama and Kohtsuka (2022a)

Aora biarticulata ニセツヒメユンボソコエビ
Aoroides sagamiensis  
サガミブラブラソコエビ
Grandidierella gracilis 
ホソナガドロソコエビ

 相模湾から ユンボソコエビ科 Aoridae の3属3新種を記載。本文は有料。




Momtazi (2022)

Cymadusa makranica

 オマーンから ヒゲナガヨコエビ科 Ampithoidae の1新種を記載。



Hendrycks and De Broyer (2022)

Abyssorchomene patriciae 

Abyssorchomene shannonae 

 大西洋北東部と南極からフトヒゲ2種を記載。種小名の Patricia は Claude De Broyer の奥様で、Shannon は Ed Hendrycks の奥様とのことで、それぞれの著者のパートナーに献名しています。既知種である A. abyssorum についてこれまでに得られている標本を再同定し、かなり A. patriciae が含まれていたことを示しています。個人的には体長の測り方に納得できません。EJT なので無料で読めます。



Bueno, Bichuette, Zepon and Penoni (2022)

Spelaeogammarus ginae Bueno and Penoni, 2022

 ブラジルから カンゲキヨコエビ上科 Bogidielloidea の新種を記載。同属8種の形態マトリクスを掲載。無料で読めます。



JULY


Suklom, Keetapithchayakul, Abdul Rahim and Wongkamhaeng (2022)

Floresorchestia amphawaensis
Floresorchestia pongrati

 タイから河岸性ハマトビムシ類の2新種を記載。全身図に点描が用いられておりタッチが凝っています。本文まで無料で読めます。



Tomikawa, Nishimoto, Nakahama and Nakano (2022)

Pseudocrangonyx dunan 

 メクラヨコエビ属設立100周年の今年、与那国島から メクラヨコエビ属Pseudocrangonyx の1新種を記載。本文は有料。



AUGUST


Cannizzaro, Daniels and Berg (2022)

Sicifera cahawba 

 アラバマ州ダラス郡から マミズヨコエビ科 Crangonyctidae の1新種を記載。この属の下に3種を加えたとのこと。昨年末に出版されているはずですが、出版年は今年になっているみたいです。本文は有料のようです。



Labay (2022b)

Desdimelita spicatimanus 

 オホーツク海から メリタヨコエビ科 Melitidae の1新種を記載。著者自身は属の在り方に不審を抱いているようですが、再定義等には至っていないようです。本文は有料。



Zhang, Kim and Kim (2022)

Paradexamine acuta 

Paradexamine rotundogena 

 韓国近海から トゲホホヨコエビ属 Paradexamine の2新種を記載。頭側葉の形状が尖っているものと丸まっているものという、対照的な2種のようです。韓国近海産5種の検索表を提供。本文無料。



Ahn, Lee and Min (2022) 

Gammarus somaemulensis 

 韓国から ヨコエビ属 Gammarus の1新種を記載。本文は無料で読めます。



Limberger, Santos and Castiglioni (2022) 

Hyalella luciae 

 ブラジルのヴァルゼア川流域から5種目となる Hyalella属 の新種を記載。アブストに形態がわりと細かく書かれています。本文は有料。



Shintani, Lee and Tomikawa (2022)

Eoniphargus iwataorum イワタチカヨコエビ

Eoniphargus toriii トリイチカヨコエビ

 静岡と栃木から チカヨコエビ属 Eoniphargus の2新種を記載。属内全種の検索表を提供。ヨコエビ小目7科22属29種(+外群としてマミズヨコエビ小目1種)の分子系統樹を描き、Eoniphargus属, Octopupilla属, Mesogammarus属 の 3属5種 についてまとまりよさげな枝が描かれたので一安心しましたが、ヨコエビ科どころかヨコエビ属の散らばりっぷりに眩暈がします。本文は無料。



SEPTEMBER


Ortiz, Winfield and Ardisson (2022)

Bathypisella spinicauda 

 メキシコ湾南西部の深海 884m から センドウヨコエビ科 Eriopisidae の1新属1新種を記載。このグループは淡水から浅海にかけて見つかることが多く、深海性は珍しいです。アブストでは省略されていますが、第3尾肢の形状から、伝統的区分における Eriopisella line に該当するものと思われます。本文は有料。



Ariyama and Kohtsuka (2022b)

Metarhachotropis parva カワリリュウグウウヨコエビ

 相模湾から テンロウ科 Eusiridae の新属新種を記載。属名はカワリリュウグウウヨコエビ属となりました。頭身低めの特徴的なプロポーションをしています。本文は有料。



Marrón-Becerra and Hermoso-Salazar (2022)

Hyalella alvarezi Marrón-Becerra and Hermoso-Salazar, 2022

Hyalella garyi Marrón-Becerra and Hermoso-Salazar, 2022

Hyalella sarukhani Marrón-Becerra and Hermoso-Salazar, 2022

Hyalella villalobosi Marrón-Becerra and Hermoso-Salazar, 2022

Hyalella viviannae Marrón-Becerra and Hermoso-Salazar, 2022

 ベラクルスおよびメキシコシティから Hyalella属 の5新種を記載。分類には形態を用い、SEMでの観察を行ったとのことです。本文は有料。



Stringer, King, Austin and Guzik (2022)

Pilbarana grandis Stringer & King, 2022 

Pilbarana lowryi Stringer & King, 2022 

 オーストラリアから センドウヨコエビ科 Eriopisidae 1新属2新種を記載。河床間隙性の無眼種とのことで、形態的に Eriopisella line に属するものとみられますPilbarana Stringer & King, 2022 という属名は産地である西オーストラリアの地名・ピルバラに由来するとのことです。本文はなんと無料です(2022年9月22日現在)。



Andrade and Souza-Filho (2022)

Biancolina suassunai Andrade & Souza-Filho, 2022

 ブラジルからガラモノネクイムシの1新種を記載。本属がヒゲナガヨコエビ科に移されてから初めての新種です。本文は無料で読めます(2022年10月12日現在)。



Liu, Tong, Zheng, Li and Hou (2022)

Morinoia aosen

 中国から モリノオカトビムシ属 Morinoia の1新種を記載。日本,中国,韓国に分布する ニホンオカトビムシ M. japonica に生物地理学的に8系統が内包されるとの結果を導いており、その中で遺伝的・形態的に識別されうる中国の種を記載したようです。本文は有料。



Kodama, White, Hosoki and Yoshida (2022)

Leucothoe vermicola Kodama, White, Hosoki & Yoshida, 2022 ユキレンゲマルハサミヨコエビ 

 フサゴカイ類の棲管・ホヤ類の内部に棲み込みを行う マルハサミヨコエビ属 Leucothoe の1新種を記載。本科においてホヤ類への棲み込みは報告があるものの、環形動物とヨコエビとの関係はあまり報告がなく、近年研究が進み始めた感はあります。ヨコエビ屈指の風雅な提唱されていますが、ちょっと長すぎる気も…。遺伝子は COI mtDNA のほか 18S rDNA を解析。飼育下での行動を観察した動画も付属させている労作。本文は有料。



Arai, Ohno and Tomikawa (2022)

Podocerus setouchiensis セトウチドロノミ 

 瀬戸内海から ドロノミ属 Podocerus の1新種を記載。愛媛県立西条農業高校3年生の男子生徒が筆頭著者になっていますが、形態のみならず分子解析の要素を加えるなど、近年の新種記載の中でも優れたものです。高校生がここまでできるというのは衝撃的です。岡山のサイトについては私がサンプル提供させていただきましたが、マテメソに「polyvinyl alcohol」とあるのは正しくはプロピレングリコールです。本文まで無料で読めます。



Ortiz and Winfield (2022)

Vemana touzeti

 メキシコ湾の深海域から Vemana属の1新種を記載。ダイダラボッチと同じ上科に含まれるフトヒゲソコエビ類です。本属の5種の検索表を提供。本文は有料。



Raut, Prakash, Arjunan and Kumar (2022) 

Protohyale covelongensis 

 インドから サキモクズ属 Protohyale の1新種を記載。形態とMt DNA COI領域の解析による検討を実施し、重要種についてはマトリクス形態比較表と系統樹を掲載しています。本文は有料。



Souza-Filho and Andrade (2022)

Pleonexes lowryi

 ブラジルからカワリヒゲナガヨコエビ属 Pleonexes の1新種を記載。

 カワリヒゲナガヨコエビ属は過去にヒゲナガヨコエビ属 Ampithoe のシノニムとして抹消されたことがあり、Peat and Ahyong (2016) が復活させた経緯があります。しかしながら、Peat and Ahyong (2016) にはいくつもの問題があり、この体制を継承した論文群について妥当性に議論の余地がありました。今回 Souza-Filho and Andrade (2022) はコウライヒゲナガを元のヒゲナガヨコエビ属に戻すなど、この問題を6年越しに是正してくれました。ありがたや。本文は有料。



Zettler, Hendrycks and Freiwald (2022)

Dautzenbergia concavipalma 

 アンゴラからアゴナガヨコエビ科 Pontogeneiidae の1新種を記載。本文は有料。



Marin, Turbanov, Prokopov and Palatov (2022)

Niphargus tarkhankuticus

 クリミア半島の地下水から Niphargus属 の1新種を記載。大変珍しい手法が用いられ、解剖済付属肢の透過光写真と線画を巧みに組み合わせて形態を示しています。本文はタダで読めます。



DECEMBER


Coleman, Krapp-Schickel and Häussermann (2022)

Liouvillea rocagloria

 57ページに及ぶモノグラフの中で、チリからアゴナガヨコエビ科 Pontogeneiidae の1新種を記載。この属はこれまで南極大陸から1種のみが知られていました。同じ地域で見つかった9種の端脚類も報告しており、一部の種には線画と生態写真を掲載しています。EJTなので無料で読めます。



Pereira, Andrade and Senna (2022)

Elasmopus helenae

 ブラジルからイソヨコエビ属 Elasmopus の1新種を記載。第5~7胸脚基節後縁の形態的特徴から castelloserrate group に属する種とのことです。Invertebrate Zoology はあまりなじみのないジャーナルですが、本文は無料で読めるようです。



White and Thomas (2022)

Leucothoe panjang

Leucothoe wheromura

 ニュージーランドおよび北インドネシアから固有の Leucothoe マルハサミヨコエビ属の2新種を記載。本文は有料。



  というわけで、今年は 8789 種が記載されたようです。当方の積み新種については論文の構成が当初とだいぶ変わりそうですが、来年辺りには1本くらいお届けできる予定です。



(特記事項)

  • Waller et al. (2022) はヒアレラ属に「new provisional species」を提案しているが、記載行為は行っていない模様
  • Penoni et al. (2022) はタイトルからしてブラジルからヒアレラ属の1新種を記載している雰囲気の講演要旨だが、どういった形態での公表なのか、記載の要件を満たすものなのかは不明(もしオンライン集会要旨で記載したとか言い出したらケジメ案件です)

(補遺)

  • White and Thomas (2022) を追加 (15-I-2023)。



<2022年新種ヨコエビ記載論文>

Ahn Y.-U.; Lee C.-W.; Min G.-S. 2022. A new species of Gammarus (Crustacea, Amphipoda, Gammaridae) from South Korea. ZooKeys, 1117: 53–69. 

Andrade, L. F.; Souza-Filho, J. F.; Senna, A.R. 2022. Description of a novel genus with three new species of Phoxocephalidae G. O. Sars, 1891 (Crustacea: Amphipoda) from off northeastern Brazil. Zootaxa, 5128(3).

Andrade, Renan de M.; Souza-Filho, J. F. 2022, A new species and record of Biancolina Della Valle, 1893 (Amphipoda, Senticaudata, Ampithoidae) from the Southwestern Atlantic. Papéis Avulsos de Zoologia (Pap. Avulsos Zool., S. Paulo), 62: e202262048, 7p.

— Arai T.; Ohno Y.; Tomikawa K. 2022. A new species of the genus Podocerus from the Seto Inland Sea, Japan (Crustacea, Amphipoda, Podoceridae). ZooKeys, 1128: 99-109. 

— Ariyama H.; Kawabe K. 2022. Two new Species of Aoridae from Chichijima Island, the Ogasawara Islands in Japan (Crustacea: Amphipoda). Species Diversity, 27(1):113–128.

Ariyama H.; Kohtsuka H. 2022a. Three new species of the family Aoridae collected from Sagami Bay, central Japan (Crustacea: Amphipoda). Zootaxa, 5159(3): 393–413.

Ariyama H.; Kohtsuka H. 2022b. Metarhachotropis parva, a new genus and species of Eusiridae (Crustacea: Amphipoda) from Sagami Bay, central Japan. Zootaxa, 5188(1): 95-100. 

 Bueno, A. A. P.; Bichuette, M. E.; Zepon, T.; Penoni, L. R. 2022. A new species of the troglobitic genus Spelaeogammarus da Silva Brum, 1975 (Amphipoda: Artesiidae) from a cave in the Brazilian semi-arid region, with new records of its congener, Spelaeogammarus spinilacertus Koenemann and Holsinger, 2000. Nauplius, 30: e2022020.

 Cannizzaro, A. G.; Daniels, J. D.; Berg, D. J., 2022. Phylogenetic analyses of a new freshwater amphipod reveal polyphyly within the Holarctic family Crangonyctidae, with revision of the genus Synurella. Zoological Journal of the Linnean Society, 195: 1100–1115.

Cannizzaro, A. G.; Sisco, J. M.; Sawicki, T. R. 2022. Reappraisal of the Crangonyx floridanus species complex, with the description of a new species of Crangonyx Bate, 1859 (Amphipoda: Crangonyctidae) from northern Florida, USA. Journal of Crustacean Biology, 42(2), ruac027.

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Tomikawa K.; Sasaki T.; Aoyagi M.; Nakano T. 2022. Taxonomy and phylogeny of the genus Melita (Crustacea: Amphipoda: Melitidae) from the West Pacific Islands, with descriptions of four new species. Zoologischer Anzeiger,
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Tomikawa K.; Watanabe Kayama, H.; Tanaka, K.; Ohara, Y. 2022. Discovery of a new species of Paronesimoides (Crustacea: Amphipoda: Tryphosidae) from a cold seep of Mariana Trench. Journal of Natural History, 56(5–8): 463–474.

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Wongkamhaeng, K.; Dumrongrojwattana, P.; Sumitrakij, R.; Keetapithchayakul, S. T. 2022. Thailandorchestia rhizophila sp. nov., a new genus and species of driftwood hopper (Crustacea, Amphipoda, Protorchestiidae) from Thailand. Zookeys, 1099: 139–153.

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— Zhang X.; Kim K.-W.; Kim Y.-H. 2022. Two new species of the genus Paradexamine (Crustacea, Amphipoda, Dexaminidae) from Korean Waters. ZooKeys, 1117: 37–52. 



<その他>

Bousfield, E.L.; Chevrier, A. 1996. The amphipod family Oedicerotidae on the Pacific Coast of North America. 1. The Monoculodes & Synchelpdium generic complexes: Systematics and distributional ecology. Amphipacifica, 2(2): 75148.

Peat, R. A.; Ahyong, S. T. 2016. Phylogenetic analysis of the family Ampithoidae Stebbing, 1899 (Crustacea: Amphipoda), with a synopsis of the genera. Journal of Crustacean Biology, 36(4): 456–474.

Penoni, L. R. et al. 2022. A new species of Hyalella Smith, 1874 (Amphipoda: Hyalellidae) from Estadual Turístico do alto Ribeira – Petar/São Paulo, Brazil. In: Annals of XI Brazilian Congress on Crustaceans / The Crustacean Society - Summer Meeting Brazil. Anais. Santos (SP) Online Event, 2022.  

Waller, A.; González, E. R.; Verdi, A.; Tomasco, I. H. 2022. Genus Hyalella (Amphipoda: Hyalellidae) in Humid Pampas: molecular diversity and a provisional new species. Arthropod Systematics & Phylogeny, 80: 261–278.

濵邉昂平 2017. 小笠原諸島父島におけるヨコエビ類について. 首都大学東京 小笠原研究年報, 40: 59–72.

— Zhang K.; Wang J.; Ge Y.; Zhou Q. 2021. A new Gammarus species from Xinjiang Uygur Autonomous Region (China) with a key to Xinjiang freshwater gammarids (Crustacea, Amphipoda, Gammaridae). ARPHA Preprints


2022年11月29日火曜日

書籍紹介『海産無脊椎動物多様性学』(11月度活動報告)


 

 京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所(以下、瀬戸臨海)が100周年を迎えられたとのこと。おめでとうございます。

 和歌山県白浜町はガタガールオタクにとって思い出深い土地であるばかりでなく、日本の端脚類研究の発展と深いつながりのある場所ですが、そういった経緯を理解することができる書籍が出版されました。『海産無脊椎動物多様性学:100年の歴史とフロンティア』(以下、海産無脊椎動物多様性学)です。


※表紙・裏表紙にヨコエビはいません。


 『海産無脊椎動物多様性学』は副題の通り、瀬戸臨海の過去と今、そして未来を俯瞰する密度の高い書物となっていますが、その歴史を語る上で欠かせない愉快な仲間たち・海産無脊椎動物の研究史について、その道の専門家が熱い原稿を寄せている、たいへん読み応えのある本です。個別の分類群についての基礎的な知見が、概ね大学生レベルの知識で理解できるよう、エッセンスとして摂取できる贅沢な構成といえるかもしれません。永久保存版であることは間違いないです。

 富川博士による専門的な解説は「日本におけるヨコエビ目の分類と系統」という項です。内容は京都大学および臨海実験所との関わりが軸になっており、改めて本邦端脚類研究における影響の大きさがうかがえます。京大といえばウエノドロクダムシのタイプ標本も大津臨海実験所(現:同大 生態学研究センター)で採られたものだったりするので (Stephensen, 1932)、やはり本邦端脚類学の黎明期は旧帝大の京都大学に担われていた感が強いです。

 有山 (2022) でも貴重なレビューがありましたが、ヨコエビ類の分類学的研究の経緯について、大分類の不安定性や国内の歴史が整理・総括されています。この2冊をあわせて読むことで、現状の嵐のような大分類の組み換えが、研究者達に一様に戸惑いをもって受け止められ、また同様な弱点が指摘されていることが理解できるかと思います(このセクションで若手研究者として末席を汚すことになったのは大変畏れ多いですが、今後もヨコエビ学の発展に何らかのかたちで寄与してまいりたい所存であります)

 後半は瀬戸臨海にゆかりの深いメクラヨコエビ科とメリタヨコエビ科の、これまでの研究の経緯や系統に関する最新知見の紹介です。ヨコエビのようなマイナー分類群においては特に、個別の分類群に関する歴史がまとめられた科学史的な文献は大変貴重です。

 瀬戸臨海では現在もどうやらハマトビムシ類は研究テーマの一つとなっているようですが、実験所に付属する畠島は森野博士によりハマトビムシ類の分類学的検討 (Morino, 1972, 1975) や”Orchestia platensis”の生態調査 (Morino, 1978) が行われたことで有名です。そしてこの時に記述されたスケッチ (Morino, 1975) をもとに、畠島の名を冠した新種 Demaorchestia hatakejima が記載されてもいます (Lowry and Myers, 2022)。奇しくも今年2月に出版された本種の記載論文もまた、臨海実験所の100周年に花を添えるものといえるかもしれません。



<取扱>

 出版社のサイトから直接購入できますが、一般ではヨドバシ.com楽天Amazonなどで求めることができます。また、なぜかキャラアニ.comでも買えます。



<参考文献>

有山啓之 2022.『ヨコエビ ガイドブック』. 海文堂, 東京. 160pp. [ISBN: 9784303800611]

— Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2022. Platorchestiinae subfam. nov. (Amphipoda, Senticaudata, Talitridae) with the description of three new genera and four new species. Zootaxa5100(1): 1–53.

Morino H. 1972.  Studies on the Talitridae (Amphipoda, Crustacea) in Japan I. Taxonomy of Talorchestia and OrchestoideaPublications of the Seto Marine Biological Laboratry21(1): 43–65.

Morino H. 1975. Studies on the Talitridae (Amphipoda, Crustacea) in Japan II. Taxonomy of sea-shore Orchestia, with notes on the sea-shore talitrids. Publications of the Seto Marine Biological Laboratry, 22(1–4): 171–193.

Morino H. 1978.  Studies on the Talitridae (Amphipoda, Crustacea) in Japan III. Life history and breeding activity of Orchestia platensis KrΦyer.  Publications of the Seto Marine Biological Laboratry, 24(46): 245267.

— Stephensen, K. 1932. Some new amphipods from Japan. Annotationes Zoologicæ Japnonenses13: 487–501, 5 figs.

富川光 2022. 日本におけるヨコエビ目の分類と系統. In: 京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所創立100周年記念出版編集委員会/編 2022. 『海産無脊椎動物多様性学:100年の歴史とフロンティア』.京都大学学術出版会,京都市.697P. [ISBN-10: 4814004494]