2017年9月30日土曜日

科博の深海展に行ってきました(9月度活動報告)



 2017年夏、上野にまた深海展がやってきました。

 前回は2013年でしたね。実に四年ぶり。


 ネットでは、ホルマリン漬けにがっかりだの人混みでよく見えないだの飛び交っておりましたが、どうやらヨコエビの展示もそれなりにあるらしいとのことで、会期も終わりに近づいた9月末、覆卵葉いっぱいに希望を詰めこみつつ、仕事を放り出して上野の地に降り立ったのでした。





  今回は3点のダイダラボッチAlicella giganteaをはじめ複数種のヨコエビが展示されていました。

ダイダラボッチその1。


ダイダラボッチその2。
隣にはイガグリヨコエビ
Uschakoviella echinophora



ダイダラボッチその3。
 隣にはカイコウオオソコエビHirondellea gigas

えびのおすし。

 今回の目玉の一つが、しょこたんによる音声ガイド。しかもその中でカイコウオオソコエビ役まで務めているという驚きの仕様。リピートしてしまいました。行かれていない方はたぶん金輪際聴く機会がないと思われますがこれは勿体ない。けもフレでいうとツチノコっぽい感じでした。


最近の音声ガイドはすごいっすね。

 しょこたん(カイコウオオソコエビ)は「エビじゃなくてヨコエビ」と断言していたのでこれは端脚類界隈に光明となるでしょう(合掌)。
 



10924mから有孔虫の記録があるものの、
カイコウオオソコエビが稼いだ深度は相当なもの。



 深海の生物を紹介する中で、新種記載についてコーナーを設けていたのが印象的でした。図録でもそのへんの話題を見開きで紹介するなど、分類学のエッセンスを伝えようとする姿勢があります。


トウホクサカテヨコエビTrischizostoma tohokuense


 このトウホクサカテヨコエビという種は福島県沖で得られた標本に基づいて2009年に記載されたヨコエビで、フトヒゲソコエビ上科に含まれます。帰宅してから調べてみると、なぜかちゃんと文献をDLしてあったのですが全く記憶にない・・・ (記載論文はここからタダで読めます)

 サカテヨコエビ科サカテヨコエビ属は咬脚が亜はさみ状となりますが、普通のヨコエビと逆向きになっていて、特徴的なグループです。魚類に体表寄生することを最近知りました(Freire & Serejo, 2004)。



日本海のヨコエビとして紹介されていたオオオキソコエビ。
 ”ユーリテネス科”ということで、上位分類に和名はない。

 オオオキソコエビEurythenes gryllusは、Ishimaru 1994で和名提唱されたもののしばらく放置されていたヨコエビの一つです。こちらの書籍でも「エウリセネス・グリルス」と学名のカナ表記で紹介されていましたね。表記も揺れていて全く顧みられていない感が・・・
 
 カイコウオオソコエビ,ダイダラボッチ,オオオキソコエビはどれも「巨大ヨコエビ」あるいは「超巨大ヨコエビ」と表現されてよく似ています。


 こちらは去年作ってみた見分け方です。



 すみません、正しくはこちらです。
深海ヨコエビ3種の見分け方

 オオオキソコエビは生時はかなり鮮やかな赤色をしているようです。

 このEurythenes属は他の種もまあまあ大きいですが、オオオキソコエビは中でも飛びぬけています。



 後半は地学パートで、やはり東日本大震災のメカニズムが解き明かされていく様子は、国立博物館として世に出さねばいけないという強い想いを感じました。

 ずぶの素人ですが、地震発生時のプレートの状態から津波が発生する関係性や、実際にズレた断層を発見してその周辺を調査して明らかになった数々の要因など、恐るべき先端科学の威力というか、映画『アルマゲドン』を彷彿とさせるSFチックなガジェットや映像にしばし酔いました。


 

 流れで常設展(地球館)も見学。


Gammarus sp. !?

 今回一緒に行ったヨコエビストのK氏と2人で「どう見てもGammarusじゃない・・・」としばし戸惑いました。ヨコエビ下目ですらない可能性が高いです。

 何とも言えませんが、体サイズ・形態的特徴・入手しやすさから総合的に判断して、Hyalella aztecaの線を洗ってみた方がよさそうです。

 まあ、この展示を見た人が「これがGammarusなんだ~」 と信じきって他で間違いを犯す可能性があるかというとたぶんないですが・・・ でも仮にこうやって写真を撮った人がいてこれをGammarusの資料として使うのはアカンですね・・・ 相談案件ですかね・・・



 
 日本館では植物画の企画展やマリモの展示を見ました。

 「フローラ ヤポニカ」というかなりそそられるタイトルがついていましたが、キュー王立植物園で展示された現在の日本人画家が描いた植物画の原画と、英国で刊行され続けている市民向け植物専門誌『Curtis's Botanical Magazine』の挿絵原画の二本立てでした。日本産の植物を描いているというテーマに沿っていたものの、キュー王立植物園にピンとこない人にはよく分からない展示だったのでは。挿絵はどれも精緻ながら個性があり、必要に迫られて画を書く形態分類クラスタからすれば、さすが画家としか言えません。12月3日まで。

 マリモの展示は、分子系統解析と分布の考察や個体群維持機構など最新の知見をわかりやすく伝えようとしていました。




 科博はあの講座以来でしかもその時は展示はほぼ見ていないので、かなりのご無沙汰でした。根を詰めて観たせいかものすごく疲れましたが、楽しい休日を過ごせました。



K氏のイタリア土産。

恐らくGammarus roeselii




(参考文献)

Freire P.R., C.S. Serejo 2004. The genus Trischizostoma (Crustacea: Amphipoda: Trischizostomidae) from the Southwest Atlantic, collected by the REVIZEE Program. Zootaxa, 645: 1–15.
-Ishimaru, S. 1994. A catalogue of gammaridean and ingolfiellidean Amphipoda recorded from the vicinity of Japan. Report of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, 24: 29-86.
Tomikawa, K., H. Komatsu 2009. New and Rare Species of the Deep-sea Gammaridea (Crustacea: Amphipoda) off Pacific Coast of Northern Honshu, Japan. Deep - sea Fauna and Pollutants off Pacific Coast of Northern Japan , edited by T. Fujita, National Museum of Nature and Science Monographs, 39: 447-466.