2019年1月27日日曜日

モクズヨコエビ類について(1月度活動報告)



 モクズヨコエビ類というグループがあります.


 沿岸域において大型藻類に付着する海産ヨコエビの中では恐らく最大の生物量を誇るものの一つと思われ,浅海から河口あるいは少し陸側まで進出していて,しかも海藻表面だけでなく礫底などにも生息します.


 名前が似ている モズミヨコエビ Ampithoe valida というのもいますが,これはヒゲナガヨコエビ科の一種で,分類上はそれなりに遠いグループでございます.

 モクズヨコエビ類というのは対応する分類単位が存在せず,ややこしい部分が色々あります.そこで,自己主張と備忘録がてら整理を試みます(着手してから話をまとめるまでだいぶかかってしまいました).







I.代表種・フサゲモクズについて


 モクズヨコエビの仲間で,日本において最もよく見られるものは,おそらくフサゲモクズでしょう.
フサゲモクズ Ptilohyale barbicornis
 オスがメスを抱えているところ.



 フサゲモクズは海水~汽水における表在底生のヨコエビで,水がひたひたの状態,または濡れている程度の場所を好み,石の下や礫の間に潜んでいるのをよく見かけます.海藻にも付きます.

 色調は緑がかったものが多いイメージがありますが,小さな個体は半透明だったり,オレンジ色に近いものもいて,色だけではもちろん同定できません(フサゲモクズに限らずヨコエビの体色は恐らく環境によって変わることが多そうなのと,ハマトビムシ上科はアルコールに浸けて標本にすると体色が一様な黄白色に変わってしまうこともあり,同定資料となる文献において体色が記述されることはほとんどありません).緑がかったフサゲモクズは独特のツヤがあって美しくかなりお気に入りで,このブログの壁紙に使っています.

 石をめくったりすると,あるものは飛び跳ねたり,あるものは素早く裏側へ回り込んだりします.逃げていく個体を見ていると,オスがメスを抱える「交尾前ガード」をとっているペアが見つかります.この行動はいろいろなヨコエビにおいて記録されていますが,モクズヨコエビ類やハマトビムシ科など,ハマトビムシ上科では非常にポピュラーです.

 オスは第2咬脚が大きく発達します.ハマトビムシ上科において同様の特徴をもつものが多く,雄間闘争に使っているのではという気がします(今のところ観察したことはありませんが).

 大顎髭は退化しており,懸濁物食ではなく咀嚼をしているものと推測されます.Hiwatari and Kajihara (1988) ではアオサを与えて飼育しています(樋渡先生によると簡単ながら大量繁殖させるレシピがあるとか).普段は漂着物または石についている藻類やそれと一緒くたになったモノを食べているのかなと思っています.

 フサゲモクズは日本各地の海岸から報告があり,かつてはAllorchestes plumulosusという学名が対応されていました.
 このAllorchestes plumulosusという種は19世紀に北米で記載されたもので,サンフランシスコ湾に程近い河口域において礫底に多くみられるらしいです.その後,日本の研究者が詳細な検討を行った結果,北米のものと日本のものは別種にあたると判断され,新たな学名Hyale barbicornisが与えられました.

 そして,Bousfield and Hendrycks (2002) を経て,現在の学名はPtilohyale barbicornisとなっております(この変更を認めていない文献もあります).この「Ptilo」というのはギリシャ語で,羽毛を意味します.オスの第2触角に生えている毛にちなむもので,和名の「フサゲ」と同じ発想のようです.他のモクズヨコエビ類と比較しても,フサゲモクズの毛は特徴的です.
 この毛の用途について私自身は知見をもっていませんが,どうやら樋渡先生が興味深い観察を行われたようです.活字になることを待ち望んでおります.






II.モクズヨコエビ科について

 ハマトビムシ上科では,ハマトビムシ科に次いで大きなグループです.
 姿かたちはハマトビムシ科によく似ており,一部の種は濡れたところを歩いて登ってきたリして水陸両用っぽ感じなので非常に紛らわしいのですが,以下の点によって識別できます.


モクズヨコエビ:第1触角の全長は第2触角の柄部長を越える.
ハマトビムシ:第1触角の全長は第2触角の柄部長に届かない.


 ヨコエビ分類界隈屈指のバイブルであるBarnard and Karaman (1991) では,次のメンバーによって構成されるという知見が示されていました.

  1. ヘッピリモクズ属 Allorchestes Dana, 1849 : 太平洋に分布
  2. Micropythia (Bate, 1862) : 地中海~大西洋に分布(本邦未知)
  3. Hyachelia J.L. Barnard, 1967 : ウミガメに付着,恐らく世界の熱帯域に広域分布
  4. モクズヨコエビ属 Hyale Rathke, 1837 
  5. Lelehua J.L. Barnard, 1970 : 太平洋南東部に分布(本邦未知)
  6. Neobule Haswell, 1879 : 南太平洋および大西洋東岸に分布(本邦未知)
  7. フタアシモクズ属 Parallorchestes Shoemaker, 1941 : 北太平洋に分布
  8. ミナミモクズ属 Parhyale Stebbing, 1897 : インド洋~太平洋に分布






Bousfield and Hendrycks (2002) 着弾



 しかし2002年,モクズヨコエビ類の分類体系が大きく整理されました.
 80種以上を含む代表的なグループであったモクズヨコエビ属Hyaleから,次の5属が分離新設されました.

Apohyale属 : 太平洋に分布
Protohyale属 : 4亜属からなる
Ptilohyale属 : 大西洋~太平洋に広く分布
Ruffohyale属 : インド洋沿岸に分布,地下性で盲目(本邦未知)
Serejohyale属 : 大西洋岸に分布(本邦未知)

 元のモクズヨコエビ属に残されたのは4分の1程度という大移動です.残された「狭義のモクズヨコエビ属」は,北大西洋および北太平洋に分布するグループということになりました.

 この論文,かなり細かい仕事をやった感もありますが,正直検討している形質がビミョーすぎて,属や亜属として分割する意義があるのか,ないのか,よく分かりません.誤字も多いし(愚痴).この時に設立した亜属を認めないという見解を示す研究者も多いようです.キーを進めて属レベルの同定を試みても,常に不安を感じます.そんなBousfield and Hendrycks (2002)ですが,BHLで無料公開されているので,ぜひ読んでみてください.




Serejo (2004) 着弾


 2004年、ハマトビムシ上科の見直しが行われた時、モクズヨコエビ科には次のような影響がありました.

 ハマトビムシ上科に含まれる種の形態を類型にあてはめて解析した結果,モクズヨコエビ科に含まれる2亜科(モクズヨコエビ亜科,Hyachelinae亜科)の関係の深さが浮き彫りになったのですが,それと同様の関係性が,ヒアレラ属 Hyalella,ヒョットコヨコエビ属Najina,従来のナミノリソコエビ科 Dogielinotidae sensu Barnard and Karaman, 1991,ヘッピリモクズ属 Allorchestes の間でもみられるということになりました.そこで,これらをナミノリソコエビ科にまとめた上で,亜科に分けて格納しました.

 この際,ヘッピリモクズ属がモクズヨコエビ科からナミノリソコエビ科 Dogielinotidae に移動されたのです.
 Bousfield & Tzetkova (1982) もヘッピリモクズ属がナミノリソコエビ科の祖先的なグループであるという見解を示していましたので,その流れを汲んだものと言えます.

 Serejo (2004) は43箇所の形質を比較しましたが,このうち9つの形質においてヘッピリモクズ属とモクズヨコエビ科との間に相違があると述べています.一方,新しいナミノリソコエビ科の中ではブレは2~4箇所程度に収まる,ということがポイントのようです.底節板の深さの比較や,オスの第2咬脚において腕節の張り出し部が消失するなど,発達の過程も追っています.このあたりの裏の取り方は非常に優れていると思います.

 Barnard and Karaman (1991) に代表される伝統的な形態分類では,歩脚の端部が張り出したり,身体各所に長剛毛をもつことを「潜砂に適応した形質」として重視していた傾向があります.Serejo (2004) では,こうした分類は系統関係を支持しない,という結論になったようです.環境に適応して二次的に獲得されたもの,という立場をとっているようで,ヨコエビにおいてはよくある話で,納得できる部分もあります.一部の種を比べてみて,確かに,毛を無視すると,基節の長さなど何となく類縁性が気になる形状も見受けられるような・・・



モクズヨコエビ科とナミノリソコエビ科の第5胸脚.
 ヘッピリモクズAllorchestesとナミノリソコエビHaustorioidesは,
 基節が長いという点でモクズヨコエビ科とは異なる.
ヘッピリモクズAllorchestesはモクズヨコエビ科によく似た細長い胸脚と短い剛毛束をもつが,
ナミノリソコエビHaustorioidesは長節や腕節が扁平に広がり,剛毛も長い.


  Serejo (2004) は,新しい体制によって淡水性グループや陸棲グループについては他とキレイに分離されることを強調している一方,潜砂性と海藻表在性という生態特性が混在していることは特に気にしていないようです.

 
 Serejo (2004) が主張する「ヘッピリモクズ属を内包するナミノリソコエビ科」が系統分類学的に正しいと仮定した場合,それは真のモクズヨコエビ科からヘッピリモクズ属を経て潜砂性ナミノリソコエビ科に分岐したというより,全く起源が異なるグループとして発展してきた可能性もあるのではと思います.
 潜砂性についてはハマトビムシ上科では現状として1科5属のみが記述されており,同様の生態をもつツノヒゲソコエビ科・マルソコエビ科・ヒサシソコエビ科などと比較すると,かなり特殊な性質です.また,こういったグループと比較して,剛毛束の発達や覆卵葉の発達などよく似た形質も見られるものの,節そのものの形状はまだ形態の特殊化度合いが穏やかであることから,わりと最近獲得されたものと考えるのが自然でしょう.このへんの潜砂性ならではの形質や生態特性については,覆卵葉の特性などを材料として,上平 (1990) が考察しています.
 もっと言えば、真のモクズヨコエビ科とは起源が異なるグループには中間的な特性をもった祖先がいて,一方が潜砂性を追究し,一方が海藻付着に適応した可能性も考えられます.

 形態的特徴をスクリーニングしたSerejo (2004) の研究は,これまでモクズヨコエビ科として互いによく似ていて近縁であると考えられていたグループの見方をいったん白紙に戻して,そういった「見せかけのそっくりさん」をあぶりだそうという試みとも理解できます.


Hiwatari et al. (2011) 着弾

 
 そしてSerejo (2004) から7年,形態分類の限界への一つの答えとも言うべき論文が発表されました.
  とうとうモクズヨコエビ界隈の上位分類群の整理にも,分子系統学的手法が採り入れられたのです.

 このHiwatari et al. (2011) は,Serejo (2004) に至るまでのモクズヨコエビ類の中のグループの変遷を細かく追っていて,研究史を理解する上で重要な文献です.そればかりでなく,導き出された分子系統解析の結果は驚くべきもので,次のような知見が示されることとなったのです.

①モクズヨコエビ科のProtohyale属が多系統群であることが示され、Protohyale misakiensis ミサキモクズ がナミノリソコエビ科と姉妹群となったものの、もう一方Protohyale (Boreohyale) triangulataはより遠い位置にブランチを形成しました.
 この整合性についてHiwatari et al. (2011) は,研究に用いたHaustorioides japonicusナミノリソコエビ(※1)を含む狭義のナミノリソコエビ類は種数が少なく分布も限られていることを根拠に,比較的最近分化したグループである可能性を指摘し,補強しています.Serejo (2004) がナミノリソコエビ類との類縁性を指摘したヘッピリモクズ属やHyalella属が広範な分布を持っていたり種多様性が高いことを考えると,Hiwatari et al. (2011) の主張は分があるように思えます.


フタアシモクズ属Pallorchestesは,ハマトビムシ科を除くハマトビムシ上科のグループ(モクズヨコエビ科,ナミノリソコエビ科)の祖先型である可能性が示されました.フタアシモクズ属も北太平洋寄りの比較的狭い分布を示しますが,北太平洋沿岸はハマトビムシ上科の多くの属がみられている海域でもあります.ある分類群が分化を始めたエリアがあるとして,そのエリアの多様性が他の場所より高くなるというケースが知られており,これもそういうことかもしれません.

ヘッピリモクズ属ハマトビムシ科の祖先的な位置づけとなりうることが示唆されました.裏付けとして,ヘッピリモクズ属とハマトビムシ科に幾つか共通する形質があることも示しています.この手法は,Serejo (2004) が形態学的解析にあたり使用した形質を全て等しく扱ったこととは対照的に,系統関係を推定する上でどの形質に重きを置くべきかという選別の問題を提起するものとも言えそうです.ただ,ハマトビムシ科に入れてしまうというのは少々やりすぎな感じも・・・

 Hiwatari et al. (2011) は,ヒョットコヨコエビ属など一部のグループが解析に含まれておらず,Serejo (2004) の検証としては完全ではありません.これは今後の研究に期待というところでしょう.


 しかしながら,Hiwatari et al. (2011) は系統樹の作成に近隣結合法,最尤法,最大節約法の3つの解析手法を用いており,そのいずれにおいても上記①②③の傾向が共通してみられました.類縁性についてはかなり確度の高いものとして取り扱うべきと考えられます.そんなわけで,伝統的なモクズヨコエビ科の単系統性は今世紀に入り,形態でも分子でも否定されたことになります.


 一部のグループ,たとえばParhyale属とApohyaleミナミモクズ属などの類縁性は強く支持されていますので,旧来のモクズヨコエビ科の中に単系統のグループを認めることができます.Hiwatari et al. (2011) は分子系統解析の結果を踏まえた科の定義はしていませんが,今後このまとまりを真のモクズヨコエビ科として再編成するという動きはあって然るべきです.

 Serejo (2004) が強調した淡水性グループとそれ以外のグループとの分離について,Hiwatari et al. (2011) は特にこだわっていないようです.Hiwatari et al. (2011) は海産性種の分化に言及していますが,淡水・汽水・海水性というグループの連続性を踏まえた上で,祖先系としての重みをどちらに置くかという観点から議論を行っており,話の流れとして非常に納得できます.


 そして,Protohyaleの亜属なしグループとBoreohyale亜属とが別の枝に入ったということで,偶然なのか必然なのか,ここにきてBousfield and Hendrycks (2002) による亜属の設定が活きてくる予感がします.分子と形態の両刀をもってここに切り込むべきでしょう.誰かお願いします.







III.モクズヨコエビ類とは何か


 さんざん「モクズヨコエビ類」という言葉を使ってきましたが,実はそのような分類単位はありません.その中身とか意図を以下に述べます.

 「ハマトビムシ上科」という単位を用いて議論すればよいのですが,このレベルでまとめてしまうと,陸棲のハマトビムシ科が含まれてしまいます.これは分けたいです.また潜砂性や海藻内在性,そして平べったすぎるミノガサ系とは別にしたいので,狭義のモクズヨコエビ科と同じような性質を共有したジェネラリストを表現するような単位は,今のところちょうどよい呼称がないのです.


こんな感じの,ジェネラリストの枠組みがほしいという話です.


 というわけで,現場で識別が困難と思われるものを,残り物的な感じでどんどんぶちこんでいこうと思います.分類単位としてこんなことをすると「ゴミ箱」との謗りは避けられませんが,便宜的なものなので気兼ねなくやります.


 本来であればこのへんは是非,世界を渡り歩いてモクズヨコエビを集めている方がどう思われているのかを聞きたいところですが,そういった方が見つかるまでは戯言にお付き合いください.



私の考えるモクズヨコエビ類(海産)リスト


Family Dogielinotidae Gurjanova, 1953 ナミノリソコエビ科
  1. Allorchestes Dana, 1849 ヘッピリモクズ属
  2. Exhyalella Stebbing, 1917  : インド洋に分布(本邦未知)
  3. Marinohyalella Lazo-Wasem & Gable, 2001  : 地中海に分布(本邦未知)
  4. Parhyalella Kunkel, 1910  : 太平洋~大西洋に分布(本邦未知)

Family Hyalidae Bulyčeva, 1957 モクズヨコエビ科
  1. Apohyale Bousfield & Hendrycks, 2002
  2. Hyachelia J.L. Barnard, 1967
  3. Hyale Rathke, 1837 モクズヨコエビ属
  4. Lelehua J.L. Barnard, 1970 (本邦未知)
  5. Neobule Haswell, 1879 (本邦未知)Parallorchestes Shoemaker, 1941 フタアシモクズ属
  6. Parhyale Stebbing, 1897 ミナミモクズ属
  7. Protohyale Bousfield & Hendrycks, 2002
  8. Ptilohyale Bousfield & Hendrycks, 2002
  9. Serejohyale Bousfield & Hendrycks, 2002 (本邦未知)

Family Najnidae J.L. Barnard, 1972 ヒョットコヨコエビ科
  1. Insula Kunkel, 1910 (本邦未知)



 ついでに,海産ではないけどモクズヨコエビ類っぽいグループを,生息環境ごとに並べてみます.

淡水性モクズヨコエビ類リスト


Family Chiltoniidae J.L. Barnard, 1972
  1. Afrochitonia K.H.Barnard, 1955 : 南アフリカ(本邦未知)
  2. Arabunnachiltonia King, 2009 : オーストラリア(本邦未知)
  3. Austrochiltonia Harley, 1958 : オーストラリア(本邦未知)
  4. Chiltonia Stebbing, 1906 : ニュージーランド(本邦未知)
  5. Kartachiltonia King & Leys, 2014 : オーストラリア(本邦未知) 
  6. Phreatochiltonia Zeidler, 1991 : オーストラリア(本邦未知) 
  7. Wangiannachiltonia King, 2009 : オーストラリア(本邦未知) 

Family Hyalellidae Bulyčeva, 1957 ヒアレラ科
  1. ヒアレラ属 Hyalella S. I. Smith, 1874 : アメリカ大陸の陸水に生息(本邦未知)


暗居性モクズヨコエビ類リスト


Family Chiltoniidae J.L. Barnard, 1972
  1. Scutachiltonia King, 2012 : オーストラリアの地下水系に生息,盲目(本邦未知)
  2. Stygochiltonia King, 2012 : オーストラリアの地下水系に生息,盲目(本邦未知)
  3. Yulgarniella King, 2012 : オーストラリアの地下水系に生息,盲目(本邦未知) 

Family Hyalidae Bulyčeva, 1957 モクズヨコエビ科
  1. Ruffohyale Bousfield & Hendrycks, 2002 (本邦未知)



 Insula属というのはバミューダ海域から1属1種だけが知られる単型分類群で、Bousfield(1996)は、Parhyalella属またはヘッピリモクズ属の未成熟個体ではないかという説を唱えています.これに従うとSerejo (2004) で定義されたナミノリソコエビ科のメンバーになるはずですが、Serejo (2004) ではヒョットコヨコエビ科Najnidaeに含められています.また、WoRMSは2017年9月現在モクズヨコエビ科としています。このように見解が分かれているため、誰かがちゃんとやらないといけない案件です.私は標本を見てはいませんが、記述された形態的特徴や過去の経緯を鑑みて、本稿では私見で、モクズヨコエビ類に含まれうるものと解釈します.


 モクズヨコエビ科の旧メンバーでOB会的な「モクズヨコエビ類」を組織した場合、現在はKuriidae科に属しているMicropythia属も候補に挙がってくるかと思います.このKuriidaeというグループは古くはヘッピリモクズ属として記載されたものですが,雌雄ともに咬脚が小さいという特徴をもっており,オスの第2咬脚が大きくなるという性的ニ形が表れる普通のモクズヨコエビ類からは外れている感があります.ということで,独断と偏見により,モクズヨコエビ類からは除外します.

 Serejo (2004) の見解を認めた現行の分類では,ヘッピリモクズ属と一緒にExhyalella属,Marinohyalella属,Parhyalella属がナミノリソコエビ科に含められていますが,これらの属は河口~浅海域を中心に藻類に付着する特徴が共通していおり,元来のナミノリソコエビ科とは生態的に大きく隔たっています.ナミノリソコエビ科も海藻をガシャガシャやると出てくることもありますが,基本的には潜砂性です.ということで,この4属はモクズヨコエビ類と呼びたいところです.


 モクズヨコエビ類という用語は全くもってコンセンサスを得られていませんが,趣旨にご賛同いただける方は(何の役にも立たないだろうとは思いつつ)陰ながら応援しますので,是非ご参考にしていただければと思います.