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2026年5月5日火曜日

宇野太郎伝(5月度活動報告)

 

 日本ヨコエビ研究の祖というと、誰が思い浮かぶでしょうか。永田樹三?岩佐正男?アナンデールやタッターソール、あるいは入江春彦やシーボルドを挙げる方もいるかもしれません。

 個人的に、日本初のヨコエビ研究者といえば宇野太郎だと思います。当時の東京帝国大学理科大学(東大大学院理学系研究科に相当)で卒業研究にヨコエビの分類を選び、動物学博士の学位を取得した人物なので、生粋の「ヨコエビ研究者」と言えるのではないでしょうか(異論は認める)。


 宇野太郎(以下、太郎)に関する情報源は非常に限られています。普通に検索して出てくるのは動物学雑誌の記事2篇、太郎本人による うの (1901) と、同窓生による 高橋 (1902) くらいです。とはいえこの 高橋 (1902) は相当な情報量があり、太郎に関して以下のことがわかります。

  • 生没年・生没地
  • 研究内容と進捗
  • 学歴


 このたび、若手ヨコエビ研究者駒鳥氏@komadoriyahataから支援を受け、また金沢市内泉野図書館および石川県立図書館にリファレンスをかけて情報収集を行いましたので、粗はありますが現時点での結果をご報告します。それにしても、図書館には普段から異常な調べ物をする逸般人が多く来館するためか、理由も訊かずに協力してくれるのはありがたいです。



東京

 太郎の業績を確認してみます。うの (1901) のほか、マッキントッシの原稿を翻訳した報文が幾つかあります (マッキントッシ, 1901a–c)。うの (1901) もステビングの種リスト (Stebbing, 1888) のレビューのようなものなので、海外の研究事情を日本に紹介するようなスタイルを好んだようです。今日の日本動物学会ではこのような原稿は受け付けられない気がしますが、時代ですね。そして肝心の卒論は東京大学にあるものと思いますが、これは関係者に手を回してもらう必要がありそうです。

 太郎は大学側の扱いの上では東京の出身とされており(東京帝国大学, 1916)、御茶の水幼稚園を出てからずっと東京にいて「家」として東京に在住していた実態があるといえそうです。文科省のホームページによると、当時の幼稚園は今とさほど変わらない年齢をカバーしていたそうなので、太郎は生後間もなくから遅くとも6歳までの間に東京へ移住していたことになります。

 病没した時には小石川同心町に住まいがあったとのことですが、この町名は明治五年に成立したものらしく、太郎が上京した時から住んでいた家ではなく、後に進学に応じて移り住んだ場所かもしれません。上京の折、太郎単身で東京の縁者に預けられていた可能性もありますが、太郎が3歳になった時点で一家で金沢から東京へ移住していた可能性を考えるべきでしょう。ただ、戦前の東京の情報はだいたい失われていることが多いため確かな材料を得ることは困難と思われ、ここで一旦保留とします。



金沢

 太郎は「加州金澤寺町」に生まれたとあります。生家が残っている可能性はまずなさそうですが、親類は辿れるかもしれません。



 石川県立図書館が提供する「石川県ゆかりの人物」のサイトで宇野姓を検索すると、16人が該当しました。太郎本人は拾えませんでしたが、ここに血縁者が含まれる可能性があります。太郎の先祖は加賀藩の侍だったとあるので、今も残る寺町という地名と合わせて、絞り込みはできないでしょうか。

 武家としての宇野家には様々な系統があるようです(石川県姓氏歴史人物大辞典 編纂委員会, 2000;以下、歴史人物大辞典)。ただ、どの家が寺町に拠点を置いていたかは分かりません。

 石川県のデジタルコレクションにある寛文七 (1668) 年の「金沢図(寛文金沢図)」、延宝年間 (1672~1681年) の「金沢図(延宝金沢図)」で寺町の地割を確認したものの、確認できる武家屋敷に宇野姓はみられませんでした。その他、宇野家の始祖である宇野鉄作榮應が寛永六 (1629) 年に居を構えていたという油車など、宇野家にゆかりのある町の周囲でも探してみましたが、宇野家らしき屋敷は見つかりませんでした。城下全体までは見れていないため、寛文・延宝年間には他の文献に登場する町には住んでいなかったのかもしれませんし、町名の対応の誤りや役職や屋号で記載されている可能性といった、探索の精度も再考が必要かもしれません。

 享保九 (1725) 年にまとめられたと考えられている侍帳では、宇野姓は4人です(高木,1999:以下、侍帳)。ただ、出大工町片町2丁目,古道といった町名はあるものの、寺町に居住していた家はないようです。

 明治三 (1870) 年の時点で加賀藩ゆかりの宇野姓の人物は17人が数えられ、その菩提寺は10あります。このうち、寺町に菩提寺を持つのは2人です(古川, 1997;以下、先祖由緒并一類附帳)


 妙法寺は鉄作榮應の菩提寺で、この家系は歴史人物大辞典で「八郎左衛門系」とされています。


 八郎左衛門系は、前田利常に仕え200石を数えた八郎左衛門から始まり、享保九 (1725) 年には定番御馬廻五番組で120石を奉じていた小忠太長太夫、そして幕末から明治にかけては三郎左衛門栄精とその子・直次郎益之のつながりが見えます(侍帳,諸氏系譜,先祖由緒并一類附帳,歴史人物大辞典)


 墓碑は15基あり、うち1基は「榮應」と読める文字、そして大正時代に直次郎益之が建てたものも確認できました。他の墓碑には宝永,天保,慶応,文久といった年号を読み取れるものがありましたが、ほとんどが戒名のみ記載されており、系譜との対応はできませんでした。


 実成寺は洪平保親の子・辰太郎親孝の菩提寺で、明治三 (1870) 年当時の石高は100石だったようです(先祖由緒并一類附)


 ただ、今回の踏査では墓碑を発見することはできませんでした。


 加賀藩は前田利常が計画的に寺院をまとめて寺町を整備した経緯もあって、鉄作榮應が油車に居を構えていたように、そもそも菩提寺と同じ街に住んでいるとは限りません。寺町に菩提寺のない家も太郎の系譜にあたる可能性があります。

 先祖由緒并一類附帳は太郎生誕の前年の調査に基づいています。子をなす可能性がある年齢での絞り込みも試みましたが、除外できる家はなさそうです。

 少なくとも江戸中期においていずれの家も川向かいの城下に居を構えていて、太郎の家系はどこかの時期に寺町へ移住、明治になって東京へ移ったようです。享保から明治の間には100年単位の隔たりがありますので、この間を埋める史料が見つからない限り諸家の足取りは見えてきません。


 なお、歴史人物大辞典を参考に諸資料(石川県, 1974等)を検討した結果、次に挙げる宇野家は太郎の系譜と無関係と考えてよいと思われます。

  • 明和年間に絶えた前田家家臣(十兵衛)
  • 田子島の地侍
  • 羽咋郡の一族(明治初頭の藤兵衛・次三郎福久・亀一郎の3代、ならびに明治末期の羽咋郡長・与一順美,飯山高等小学校長・長秀,海軍機関中尉・宗二)
  • 高松町の一族(精一)
  • 文化人(柳壷)



まとめ

 太郎に繋がる系譜を年表に整理してみます。

  • 寛永六 (1629) 宇野家興る
  • 寛文七 (1668)  金沢図まとめられる,太郎の先祖は寺町に居住していない?
  • 延宝年間 (~1681) 金沢図まとめられる,太郎の先祖は寺町に居住していない?
  • 享保九 (1725) 侍帳まとめられる,太郎の先祖は寺町に居住していない?
  • 明治三 (1870) 先祖由緒并一類附帳まとめられる
  • 明治四 (1871) 4月 太郎生まれる
  • 明治七 (1874) 一家東京へ移住?
  • 明治三一 (1898) 7月 太郎、共立學校第二部卒業
  • 同年9月 太郎、帝國大學理科大學に入学
  • 明治三四 (1901)7月 太郎、帝國大學理科大學卒業
  • 明治三五 (1902) 4月 太郎、青山女學院の博物學講師の職を得るが、肺を患い熱海で療養に入る
  • 同年10月15日 太郎、東京にて没する

 東京への移住、名門校への進学など、太郎のキャリアは経済的基盤や社会的地位の高さを伴っているように思えます。八郎左衛門系の石高は享保年間に120石、市郎兵衛系の石高は300石を越えていますので、宇野家においてこの2家が並び立つ存在といえ、太郎はこのどちらかの家から支援を受けていたと推測されます。

 八郎左衛門系の直次郎益之は、大正十二 (1923) 年に日露戦争従軍中に夭逝した武之(息子?)の墓碑を建てており、妙法寺を菩提寺として金沢に残っていたことが考えられます。寺町に生家があったという点で有力ではあるものの、明治初期に東京へ移ったとは思われず太郎の父とは考えにくいです。

 市郎兵衛系の又市直副より後の系譜は不明瞭ですが、「妙円寺」を菩提寺とする大作富素・直作富有・源一郎富良の3名(兄弟と兄の子)は明治三年の石高を足し合わせると335石になるので、ここに繋がるものと解釈できます。直作富有は産業振興や教育分野に携わり、地元石川県で活躍していたことから、太郎の父とは考えにくいです。「妙円寺」という寺院が寺町に現存していない点でも太郎との接点は薄いといえるものの、直作富有が共立学校(開成高校)の設立に携わったという点は太郎の来歴と交わります。直作富有の名は複数の文献にみられるため、ここから辿って市郎兵衛系の全体を押さえることができないか思案しています。

 菩提寺が寺町に立地する・経済的地盤・明治四年より後に足取りがない、という点で洪平保親・辰太郎親孝の家系はかなりポイントが高いですが、他の家系と本質的に違いは無いように思えます。

 調査方法を模索しながら走り出してしまったため時間が足りず、リファレンス頂いた資料の中に精査できていないものがあり、アプローチできていない場所もあります。対象とした年代の文書が多く収められている玉川図書館が改装中で閉館していたのも痛手でした。今後、ほとんど注目されていない太郎の来歴に光を当てるとともに、菩提寺を突き止めてお参りをすることを目標に、引き続き進めていきたいと思います。とはいえ積み新種の処理が優先なので、次のアクションはだいぶ先になると思います。


 最後になりますが、貴重な資料を提供頂き調査にご協力下さった駒鳥氏@komadoriyahata、並びに金沢市立泉野図書館と石川県立図書館の司書の方に篤く御礼申し上げます。



<参考文献>

— 古川脩(編著)1997. 『加賀藩士人別帳』.(先祖由緒并一類附帳

— 石川県 1974.『石川県史 第4編』.石川県図書協会,金沢.

— 石川県姓氏歴史人物大辞典 編纂委員会 2000.『角川日本姓氏歴史人物大辞典17 石川県姓氏歴史人物大辞典』.角川書店,東京.ISBN4-04-002170-3

— 石川県史調査委員会・石川県立図書館史料編さん室 2011.『石川県史資料 近世篇(11) 諸士系譜 四』.石川県,金沢市.

ダブリウ、シー、マッキントッシ William Carmichael  M'Intosh(著),宇野太郎(訳)1901a.海産動物の着色に就て. 動物學雜誌13 (151):164-167.

ダブリウ、シー、マッキントッシ William Carmichael  M'Intosh(著),宇野太郎(訳)1901b.海産動物の着色に就て(十三巻第百五十一號續き). 動物學雜誌14 (159):6-10.

ダブリウ、シー、マッキントッシ William Carmichael  M'Intosh(著),宇野太郎(訳)1901c.海産動物の着色に就て(承前). 動物學雜誌14 (160):46-50.

— 高木喜美子(翻刻)1999.『享保侍帳』.

Stebbing, T. R. R. 1888. Report on the Amphipoda collected by H.M.S. Challenger during the years 1873–1876. Report on the Scientific Results of the Voyage of H.M.S. Challenger during the years 1873–76. Zoology, 29 (part 67): i–xxiv, 1–1737, pls. 1–212.

高橋堅 1902. 理學士 宇野太郎君逝く. 動物學雜誌, 14 (169): 424-425. 

東京帝国大学(編)1916.『東京帝国大学一覧』從大正4年 至大正5年,東京帝国大学, 東京. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2026-05-05)

うの 1901. 日本近海にて「チヤレンヂー」號に由て採集せられたる「アムフイポーダ」.  動物學雜誌13 (150): 146–147. 

2025年10月27日月曜日

新属新種(10月度活動報告その2)

 

 ヨコエビおじさんはTwitterをやっていますが、久々に千バズしました(万じゃない)


およそ30時間経過した時点で7000リツイート超。
しかもまだサチる気配がありません。


 ともすれば、とばすいの公式アカウントの数字を抜いてますから、申し訳ない気持ちが先に立ちます。


 これだけバズると堅気(生物学の営みをよく知らない一般の人達)のナマのリアクションが集まってきて興味深いです。

 やはり「新種」というのは一般にかなりウケるようですが、それより謂わば「格上」の新属ができた、というのは相当なインパクトがあるようです。


 以下のようなコメントが多く見られました。

  • ピンクでかわいい
  • 新属というのを聞いたことが無かった
  • 新種より貴重な成果

 NHKの「夏休み子供科学電話相談」で北大の小林快次先生が「しんぞくしんしゅ」と言っていたのを、藤井アナウンサーが「親族新種」と誤った漢字に直していたことを思い出しました。それだけ一般的に馴染みのない言葉と考えてよいでしょう。


 また、次のようなコメントもありました。

  1. 新属とは認定されたもの
  2. 属がそう簡単に増えるものか
  3. 一属一種はすごい
  4. 発見者が命名する
  5. 属が増えれば種も増やせる?

 一般的な認識として興味深いので、深掘りしてみたいと思います。

 1についてはよく似たような話を見かけますが、正確な説明とはいえません。鉱物なんかとは異なり、動物分類において新種を認定する仕組みは無いからです。このコメントは私のツイートに返信した人への解説のようなものでしたので、教えられた方は少し気の毒だなと思いました。

 2について、何をもって多い少ないとするかによりますが、ヨコエビにおいては毎年のように新属が建つので、そのお鉢が日本に回ってくるのはそう不思議ではありません。ちなみに日本からヨコエビの新属が出たのは初めてではなく、新属として記載された種はホソナガシャクトリドロノミ (Ariyama , 2019),ミナミオカトビムシ (Morino, 2020),カワリスベヨコエビ (Ariyama, 2021) ,セイスイミノヨコエビ (Kodama and Kawamura, 2021),ワレカラドロノミ (Matsumoto et al., 2023) が著名でしょう(他にもあります)。科レベルで固有かつ単型の分類群としてコザヨコエビ (Tomikawa, 2007)、上科レベルではボウノボリヨコエビ (Ariyama and Hoshino, 2019) の例もあります。



過去の記載状況
設立科数 設立属数 設立種数
2017 0 4 109
2018 1 5 79
2019 7 46 72
2020 0 11 82
2021 0 5 63
2022 0 6 89
2023 0 5 78
2024 0 5 58

 3について素朴にそう思いますが、今回は一気に10種も記載されていますので単型分類群というわけではありません。これについては元ツイからは読み取れない部分であり、少し申し訳ないと思います。

 4もよく聞きますし、発見者が自分の名前を付けるものだ、と固く信じている方はよく見かけます。発見者の定義によりますが、その生物を自然から見出して確保し標本にする行為に最も貢献した人とするならば、明確なルールはないものの、発見者は必ずしも命名行為に関わらない(記載論文の著者にならない)です。フタバスズキリュウなんかはよく例に出されます。新しい分類群の設立を行う論文の執筆には特殊な知識や技能が必要で、発見者が必ずしもそれを持っているとは限らず、逆もまた然りで、記載者が標本となる生物の採集に長じているとも限らないからです。また、発見者の名前がつくかは命名者の匙加減であり、採集に関わってない人の名でも別にダメということはありません(個人的にはどうなんだろうと思いますが)。更に、命名者が発見しようがしまいが、命名者が自分の名前を付けることは大変稀です。全動物で数十年に一度みたいな感じで、それをやると、多くの研究者から白眼視されます。というのも、誰かの名前を学名につける献名という行為は謂わばその生物の発見や研究にあたっての功績を示す賞状やトロフィーのようなものなので、自分でトロフィーを作って自分で授与式を開いているように見えて、非常にダサいのです。

 5について、コメントの真意を掴めない部分もあったのですが、恐らく分類群を箱として捉えていて、箱が増えればそこに収納される下位分類群も増える、ということかと思います。新属が建つことで既存の属に新たな視点での考察が加わり、新属へ移されるといった現象は恐らく有り得ます。しかし、だいたい新属を建てる時に近縁の属に含まれる既知種は緻密に検討されているはずですし、もし新属に含まれうる新種が他にいて新属の設立を待っているならば、その新種を記載しようという人が必要に応じて新属を建てるのが筋だと思います。

 一般の視点というのは、我々が泥沼にハマるまでに持っていたはずのものも少なくありません。忘れずにいたいものです。


<参考文献> 
— Morino H. 2020. Description of Aokiorcheestia jajima, A new genus and species from coastal forests in Southern Japan (Crustacea: Amphipoda: Talitridae). The Montenegrin Academy of Sciences And Arts Proceedings of The Section of Natural Sciences, 23: 191–208. 
Tomikawa K.; Kobayashi N.; Morino H.; Mawatari S. F. 2007. New gammaroid family, genera and species from subterranean waters of Japan, and their phylogenetic relationships (Crustacea: Amphipoda). Zoological Journal of the Linnean Society, 149(4): 643–670.


 <参考web> 

— 小川洋.“2017年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2017-12-26 (最終更新2024-08-30). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2017/12/201712.html (2025-10-28)

— 小川洋.“2018年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2018-12-23 (最終更新2024-08-30). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2018/12/201812.html (2025-10-28)

— 小川洋.“ハマトビムシ科の新体制について(2019年2月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2019-02-11 (最終更新2024-08-15). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2019/02/20192.html (2025-10-28)

— 小川洋.“2019年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2019-12-27 (最終更新2024-08-30). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2019/12/201912.html (2025-10-28)

— 小川洋.“2020年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2020-12-30(最終更新2024-12-30). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2020/12/202012.html (2025-10-28)

— 小川洋.“2021年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2021-12-27 (最終更新2022-12-23). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2021/12/202112.html (2025-10-28)

— 小川洋.“2022年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2022-12-27 (最終更新2023-01-15). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2022/12/2022.html (2025-10-28)

— 小川洋.“2023年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2023-12-29 (最終更新2024-10-11). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2023/12/202312.html (2025-10-28)

— 小川洋.“2024年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)”.ヨコエビがえし.2024-12-27 (最終更新2024-02-17). https://yokoebi-gaeshi.blogspot.com/2024/12/202412.html (2025-10-28)


 <補遺>28-X-2025 
  • 新属新種として記載された種の例示を変更 
  • 過去の記載状況の表および各種の参考文献を追加

2025年8月23日土曜日

甲殻WONDER(8月度活動報告)

 

 7月末、地方の博物館で「ヨコエビ」をテーマとした展示をやるという情報が駆け巡り、衝撃を受けました。

 場所は北の大地。

 数年来、東農大オホキャン近辺で新しいヨコエビストが爆誕した霊圧を感じてはいたのですが、それと関係はあるのでしょうか。


 8月1日から開始の特別企画展「甲殻WONDER・網走のヨコエビ展」。子供の夏休みに合わせた企画展ならなぜ7月からやらないのか疑問に思われるかもしれませんが、網走市内の公立小学校の夏休みは7月25日~8月21日みたいな感じで本州とはだいぶ趣が違うんですよね。しかしまぁ、言ってもしょうがないですが、どのみち夏休み開始には間に合ってないですね。


 網走で特にヨコエビ研究が盛んという話は訊かないので、行ってみるまではどういう方向から攻めてくるのかまったくわかりません。しかも主催は地域の郷土博物館です。完全ノーマークでした。恐らく標本とパネルを用いた地域ファウナの紹介を軸として、基礎情報や親しみかたなんかを扱うのではないかと思われました。フクロエビ上目が前に出てるのは、このへんで十脚の多様性がそれほど高くないためでしょうか?

 ダンゴムシの観察イベントの実績がある施設のようですが、ほとんどの沿岸性ヨコエビはダンゴムシよりだいぶ小さい気がします。体長で勝てるのはニッポンモバヨコエビとヒゲナガハマトビムシ属,オオエゾヨコエビ属くらいなのでは。なお、本州からしてみると「今更ダンゴムシなんて」と思われるかもしれませんが、北海道では四半世紀前までオカダンゴムシはUMAみたいな存在で、今もそれほどありふれた虫ではないので、このへんの温度感の違いというのも、フクロエビ上目への眼差しと関係があるかもしれません。


 茨城栃木でも潮間帯ベントスや甲殻類をテーマとした企画展でヨコエビが展示されていましたが、分類がされてなかったり或いは怪しかったり、タイトルからハブられてたり、扱いが悪いのはデフォだった想い出(正直網走の展示ポスターも驚くほど主役のヨコエビが目立たないデザインなのですが)。科博で謎の講座が行われたことはありましたが、それ並みの、あるいはそれ以上のイレギュラーに思えます。道東で一体何が起きているのか…



〈網走市某所〉

 せっかくなので自力の採集を計画しました。

 節理が目立つ火山岩地質の自然海岸で、崖がオーバーハングしています。付近に真新しい落石はないようですが、崖下に長居するのは危ない気がします。


 磯環境は洗濯板のような一枚岩で、転石は少ないようです。表面は小さなフジツボで被覆され、これといって大型藻類は見えません。とても限られた範囲にタイドプールがありました。

 砂浜は潮上帯から潮間帯上部にかけて泥シルトは少なく、山砂が卓越します。

 漂着物はスゲアマモを主体とし各種褐藻が混じるようです。

 ヘラムシやコツブムシが多いですね。本州ならアゴナガヨコエビ科とかたくさん出るはず。


ヘッピリモクズ属Allorchestes
実物は初めて見ましたが、どのへんが「へっぴり」なのかわかりません。

キタヨコエビ科Anisogammaridaeの2属。
キタヨコエビ属Anisogammarusは初めて見ました。

 河口に流れ込んで腐朽した褐藻にもトゲオヨコエビ属がついています。


 洗濯板の片隅に典型的なタイドプールがあり、こちらを見上げている奴と目が合いました。



たぶんモクズヨコエビApohyale cf. punctata。これが元祖ですか。

ドロクダ。数は採れず。

 潮上決戦といきますか。

ヒメハマトビムシ種群。

 ヒゲナガハマトビムシもいるはずですが、昼間に採るのはやはり難しいですね。



〈網走市立郷土博物館〉

 考古がメインかと思いましたが、どうやら1階が自然史、2階が人文といった構成になっているようです。建物自体が戦前の建築物で、和洋折衷と北海道の大自然やアイヌ文化の文脈を参照しようと試みた、「時代の建築」といった趣です。空調は当然後付けですが、建築家が自らデザインしたという調度品やステンドグラスといった細かいものもそのまま使われていたりして、見応えがあります。



 「甲殻WONDER」は、一部常設展や他館から展示物を借りつつ、大きく「網走における甲殻類の利用」「甲殻類の化石」「非カニ下目・ヤドカリ下目十脚類」「カニ下目」「ヤドカリ下目」「口脚目―アナジャコ下目―エビジャコ上科/オキアミ目―アミ目/カブトガニ」「六幼生綱/等脚目」「端脚目」「汎甲殻類」といったテーマごとにまとめられています。



 会期は8月末までで今日はギャラリートークの日なのですが、これからパネルや標本はもう少し増やす予定とのことでした。



 気になる企画の趣旨ですが、昨年にテーマとしていた「ダンゴムシ」から派生してその親戚という位置づけでヨコエビをターゲットに据えたそうです。1年間サンプルを蓄積し準備してきたものの、分類に苦戦して種名の確定に至ったのはごく一部、とのこと。確かに難物のドロクダムシ科やヒゲナガハマトビムシ属といった標本が散見され、現状種分類が不可能ともいえる側面が見えつつ、キタナミノリソコエビなど比較的落ちやすいグループもいました。道東では厚岸周辺での研究進捗が比較的有名ですが、網走の潮間帯においてまとまった研究はないように思えるので、先立つものがない不便さは大きいと思います。また、展示担当学芸員の方は地下水性種にも興味があるそうで、洒落にならない展開が待っている可能性もありそうです。こわい。


 ギャラリートークに参加されていたのは概ね近郊にお住まいと思われる方々で、この博物館のイベント常連といった雰囲気でした。定員20名に対して当日飛び込み含めて参加者は8名ほど。ヨコエビに対してこれといったアツさを持って帰って頂けたのかわかりませんが、色彩の多様性はリアクションが良かったような気がします。

 確かに日本の温帯~寒帯において潮間帯をガサガサした時に見られる端脚類の色や形は、同所的に獲れる他の甲殻類と比べて、目単位で見るとより多様な気がします。



 個人的に「甲殻WONDER」の白眉はなんといっても日本に2つしかないオニノコギリヨコエビ Megaceradocus gigas の化石標本のうち1つが展示されていることです。これを生で見れることは他の施設ではまずありません。


 また、端脚類の標本や写真はどれも美麗で、多くの深海展などで見られる白く褪色してフォルマリン瓶の向こうにいる、みたいなヨコエビ像より目に楽しいのは印象的でした。ダイダラボッチはもともと白いので仕方ないですが。アクアマリンふくしまでヒロメオキソコエビを液浸にせず特殊な薬品によって柔軟性を保ったまま展示するといった試みが昨年学会発表されていましたが、やはり褪色する液浸より乾燥標本とかのほうが、短期間では間違いなく見栄えがするといえるでしょう。


ヒゲナガハマトビムシ属の主張が強い。

 タイトルにある「網走のヨコエビ」については、分類や生態の掘り下げは十分でなく、例えば地場の端脚類相を勉強したいという方にはあまり有用ではないかもしれません。ただ、富川(2023)でも採り上げられた、ホッチャレ(放精・産卵を終えた鮭の遺骸)を分解するという部分や、またその鮭の餌資源になっている話などが、魚の剥製や写真を交えて紹介されており、網走の重要な漁業資源を支えている一面にリアルな感覚をもって触れることができるでしょう。

 甲殻類全体としては、入れ子構造を示す複雑な分類の概念や、似て非なるものにややこしい呼び名がついていることに対して、果敢に説明を試みている点に好感がもてます。


 「甲殻WONDER」はほぼ個人的研究の賜物らしく、残念ながら今後機材などを揃えてヨコエビをフィーチャーしていく予定はないとのことですが、まぁ、企画展でヨコエビを扱うこと即ち端脚沼に骨を埋める覚悟、というのも相当不健全に思えますので、改めて、研究基盤のない拠点でもヨコエビに光を当てた展示を積極的にやってほしいという気持ちです。

 

 ちなみに、網走市立郷土博物館の人文パートは縄文から昭和までを網羅していますが、網走に特有かつ北海道考古学において重要な発見とされているオホーツク文化の展示は、分館のモヨロ貝塚館でより掘り下げられています。



<参考文献>

2025年7月20日日曜日

書籍紹介『海のちいさないきもの図鑑』(7月度活動報告)

 

 博ふぇすに行ってまいりました。

 今までありそうでなかったワレカラのトートバッグをはじめ、クジラジラミのブローチなど端脚類グッズは年々充実してきています。


 そして端脚類が載った書籍がまた出たそうなので購入しました。




 むせきつい屋さん(著) ・ 広瀬雅人(監修) 2025.『海のちいさないきもの図鑑』.西東社,東京.176pp. (以下、むせきつい屋さん,2025)です。

 箔押しの装丁が豪華です。本邦海産無脊椎動物学もとうとうここまできました。


むせきつい屋さん(2025)を読む

 所謂「子供むけ生物学の本」カテゴリのものと思います。

 ただだいぶ内容はしっかりしていて、水生生物の生態区分やウミエラの骨片の類型、軟体動物の系統関係やウミウシの近似種まで、大学の研究室レベルの知見がてんこ盛りされています。それも単なる豆知識というより、それぞれの生き物の有り様を理解するためのアプローチとして、生物学の文脈の中に位置づけられている味わいを感じます。かわいくない参考文献群からも、著者が堅実に研究をされていたことが伺えます。悪く言えば教科書的かもしれませんが、ホホベニモウミウシの盗葉緑体やプラニザ幼生の体色決定などここ数年の間に学会発表されてコンセンサスになりつあるような、教科書の水準を上回るアツアツの話題が惜しげも無く投入されており、それにも関わらず、首尾一貫したポップな絵柄と平易な文体によって「分かり易さ」を諦めている部分がどこにもないのは驚くばかりです。

 独立の項としてコケムシが入ってないところから、良好な師弟関係が伺えますね。詳しい裏話はわかりませんが、こういう場面で教え子に寄り添って一肌脱いでくれる恩師というのは本当にありがたいものです。


 さて、項が設けられている端脚類は次の通りです。

  • カイコウオオソコエビ
  • オオタルマワシ
  • ワレカラ


 カイコウオオソコエビについて、示されている食性が植物に偏ってますが腐肉もかなり貪食するものと考えてよいでしょう (Jamieson and Weston. 2023)。また、体組織に脂質を多く含む理由を飢餓への耐性としていますが、個人的には、恐らくこれと同じくらい重要なのは浮力の確保だと思います。脂質を蓄える深海性ヨコエビにおいて意義は一律でなく、個別の種において意味合いは違うのかもしれませんが。

 オオタルマワシの和名の由来はあっさりとしています。和名を提唱した入江 (1960)に示されているような(いないような)理由に、忠実な記述だと思います。エイリアンというニックネームについてもあっさりしていて、世の中の議論はもうこのくらいふわっとした認識でよい気がします。それっぽい理由を捻り出すとたぶんドツボに嵌まります。というか、ネット上には話を作っている人が多くて辟易してしまいます。


 このような細部は全体の構成に影響を与えませんが、並べてみると、項ごとに濃度や厚みが違う気がします。特にウミクワガタは情報量こそ定型に収めてありますが、生活環やその特性について厳選して詰め込んだ感じがします。

 著者は北里大の卒業生で、主に三陸海岸など浅海のベントスに直に触れてきた来歴の持ち主なので、その時に得た豊富な知識や経験が作品に反映されていると思います。過去に書籍紹介したこの本も、その研究の成果の一つです。むせきつい屋さん(2025)の出版にあたり様々な意向が働いたような気がしますが、生き物との付き合いの長さの違いがムラに繋がっているように見えます。

 とはいえ、むせきつい屋さん(2025)は150ページ超フルカラーというハイボリュームをたった一人で、テンションを落とさず、たぶんそれほど時間をかけずに仕上げた、恐るべき書物といえると思います。熊坂長範からウルトラマン、タコ焼きから茶釜狸、ゾエアからオエー鳥まで縦横無尽に描けるイラストレーターでありつつ、生物学研究の最先端を子供むけにサマライズできるのは、控えめに言っても働きすぎです。

 個人的に白眉と思ったのは、各生物の体サイズ比較。名前や生態にちなんだり、あるいはひねったり、単にサイズが近いモノを選んだり、心地良く軽妙に題材を選んでいるのが最高ですね。


 小学生以上から余裕で理解できる構成です。子供向けとして読んでもよいですが、生物学の知識を得る本として大人も驚きをもって読むことができるのは間違いないです。元々アクセサリーやイラストボードといったグッズを提供するブランドだったこともあり、色使いが絶妙なイラスト本としても楽しめると思います。



<参考文献>

— 入江春彦 1960.In:内田清之助 等(著)『原色動物大圖鑑Ⅳ』.北隆館,東京.

むせきつい屋さん(著) ・ 広瀬雅人(監修) 2025.『海のちいさないきもの図鑑』.西東社,東京.176pp. ISBN:9784791634453

Jamieson, A. J.; Weston, J. N. J. 2023. Amphipoda from depths exceeding 6,000 meters revisited 60 years on. Journal of Crustacean Biology, 43: 1–28.


2025年5月31日土曜日

試論:双方向社会における分類学の還元(5月度活動報告)

 

 『ヨコエビ ガイドブック』(有山, 2022)が出版された時、「ヨコエビに絵合わせ分類のビッグウェーブが来る」といった趣旨のことを言いました。実際、そういった潮流は大きくなっている印象があります。

 とりあえず参考文献があるのはここまでで、以下は妄想になります。


 個人が生物を同定して不特定多数へ共有する双方向プラットフォームは、もはや枚挙に暇がありません。BiomeいきものログiNaturalistナニコレンズ日本まるごと生き物図鑑なんかが有名でしょうか。本来それ専用ではありませんが、Facebookなどの各SNSもそのようなコミュニティが散見されます。そういった中にヨコエビが登場する頻度が上がった印象があり、同時に信頼性の低い同定が放置されている状況も決して少なくありません。


 昔から、個人ブログなどで取り上げられている写真に間違った同定が掲載され続けている状況は確かに存在していて(弊ブログも見る人によってそういった一角に位置づけられている可能性もありますが)、裾野の広いプラットフォームができてからネット情報の同定精度が目に見えて下がっているかというと、そういう感覚はありません。昔に比べると有用な文献・webサイトは増えましたし、分類に必要な学術誌を取り寄せる難易度もだいぶ下がり、一般人も研究者に近い手法で生物の同定を行うことができる環境となったことで、精度の高い情報発信が行われる素地もまた充実してきています。

 ただ双方向プラットフォームの発達に伴い「ネットの海に放流される名前つき写真」の規模が拡大している感じがするのと、そういった仕組みが当たり前の社会では、利用者が生物分類に用いるソースの軸足が紙からネットへ移行している雰囲気があります。特にプラットフォーム内だけで情報を得るようになると、ひとたびプラットフォーム内の分類体系と現実の学界におけるコンセンサスとの間に乖離が生じた場合、それが固定化あるいは乖離の加速を招くことが懸念されます。

 ヨコエビにおいてこの現象を明確に観測したことはありませんが、Biomeの昆虫界隈で分類学の営みがプラットフォーム内で完結していると信じ込んでいるように見受けられる利用者を実際に見かけたことがあります。


 これは、個人が「ネットにアップロードされている文献」「有用なwebサイト」「プラットフォーム上で他の利用者から提案される情報」に親しむようになった側面があるのと同時に、AI同定機能の発達によっても特徴づけられると思います。

 プラットフォームごとにAIの精度を比べたことがありますが、良くも悪くも決定的な違いはないように見えました。完成度の議論は脇に置いて、AIが出す成果物は最終的に使用者が自らの責任で扱いを決めるべきで(真っ当な分析・生成サービスにはこの手の注意書きが必ずあります)、鵜呑みにするものではありません。AIのそれっぽい結果を追認して仮にそれが間違っていた場合、その場面での錯誤のみならず、その後のAIの精度にも恐らく良い影響は与えません。原則論からすると、教師データには「既存の手法に基づき人力で学術的な名前と紐づけられた画像」が用いられたはずで、AIに追従するだけでその手順を踏まないデータが還元されていくとすれば、精度はどんどん下がっていきます。


 ヨコエビの分類が困難な理由はこの記事あるいはこの記事でしつこく掘り下げましたが、要するに専門家が適切な設備・文献・技術を駆使して初めて種が分かるような連中がかなりの割合を占めており、例えば識別形質を網羅した資料があったとしても、顕微鏡や解剖技術がないと同定のしようがない、といった不案内な状況がデフォです。

 そのへんで採れる普通種であっても、記載以来まともに記録が無いような種の不明瞭な原記載を何十本と集めたり、時には図もなくラテン語やイタリア語で書かれた論文と照らし合わせて、ようやく既知種かどうかが分かる、ということもザラです。

 誇張ではなく、実際に野外で無作為にヨコエビを採集するとそういう作業になってしまうのです。

 あと、そもそも小さすぎますね。特徴的な形態形質をもつものであればかなり引きの写真で種や雌雄まで判別可能な場合がある一方、数十マイクロの大きさしかない口器を見ないと科の識別形質を確認できないヨコエビもいます。


 「だからこそ厳密な話をしてもしょうがないじゃないか」という声が聞こえてきそうですが、「難しいから適当に名前をつけてもいい」というのが当たり前になってしまうと、そもそもなぜ同定をするのかの意義、そして蓄積されるデータの有用性も失われてきます。識別が容易な種についてそれを分類する意義を認識しているのであれば、識別が困難な種に対しても(実際に今から正確な種同定をできるかどうかは別にして)その意義だけは認めるのが道理だと思います。


 もちろん、見つけた生き物をどう呼ぼうが個人の勝手であり、そういった愛称を共有する場がネット上に広がっているという解釈もできます。知名度の割に種分類が進んでいないといわれるウミウシ類では、ダイバーがつけた愛称が先行して便宜的な種として知見の整理に役立っているようです。ヨコエビにおける「ピカチュウヨコエビ」「パンダメリタ」も似たようなものでしょう。ただ学術的な分類体系には典拠となる決め事が既にあり、また仲間内だけで通用する愛称にも別の背景があるわけで、両者は別の枠組みである点には注意が必要です。愛称がそのまま和名に採用されるとは限りませんし、分類学的検討によって複数の便宜的な種が統合、あるいは複数種を内包していることが明らかになるかもしれません。また、発端となった文献は特定できていないのですが、流布した愛称が実在の他の生き物の和名と被る事例もあります(タルマワシ)。

 未記載種に何らかの愛称が存在することは観察や採集を助けることにつながり、本来は分類学の発展とは何ら競合しないものと思います。愛称と和名の関係性を理解せず、あるいは愛称の曖昧さを隠れ蓑にするようなよほどの濫用でもされなければ、既知種・未記載種問わず積極的に共存を図るべきと思います。


 過程はともあれ、学術的文脈で生み出され現実世界で運用されている分類体系が、ネットのオープンなコミュニティでその通りに扱われない場面というのは、更に増えていく気がします。

 こういった状況に対して、皆が研究者になればいいというような話ではなく、専門的な文献の世界に入っていかなくともできることやすべきことがあると思っています。


  • プラットフォームに正確な写真を載せる


  • 有用なソースを共有する

  • 同定に際して有用な文献・webサイト
  • 信頼できる目録の類
  • これらをSNSなどで同好の志に共有する
  • 可能であればフォーマットのコメント欄などに同定根拠を記載する(iNaturalistでは、利用者に表示されない仕組みにはなっているものの、和名を付加する時に理由やソースを付属させることが必須となっています)


  • 種同定にこだわらない

  • 科や属で止めるという分類(iNaturalistは、種より上の各分類階級が整備されています)


 種同定ありきで枠が作られているフォーマットがあまりに多いため、利用者側からはどうしようもできない部分もあります。マイナー分類群との棲み分けやサービスそのものの淘汰といった流れが必要かもしれません。

 なにはともあれ、信頼できる図鑑や書籍で情報を得ながら適切な手段で分類を行うというやり方を、ネット上へ移植すればいいだけだと思います。ただし、それこそ学術誌や同好会誌などと異なり同定に使用した文献の明示は必須ではなく、外の情報が入りにくい設計となっている現実があります。ソースを義務付けても、裾野の拡大にブレーキをかけたり、仕組みが形骸化することも考えられます。そこまで専門的なものは求めてないという意見もあるでしょう。ただ、サービス提供側が「誰でも専門家になれる」「ビッグデータで研究者や行政を支援できる」と謳っている以上、専門性や精度を蔑ろにしてよい道理はないはずです。

 実際にこういったフォーマットを利用しなくとも、利用者が多くいるであろうSNSなどで有用な文献やwebの情報を積極的に共有したり、信頼できる専門家の言動をモニターすることは、ネット上での分類の在り方を一定の範囲に留める方向に働くのではと思います。


 そもそもの同定が合っている間違っているという話をしてきましたが、分類体系は日々改廃されており「生き物の分類は生き物」というのが実情です。どちらかというと、円滑に修正が行われる仕組みの方が大切だと思っています。

 Biomeは、写真の投稿主が採用しない限り、他の利用者が提案した同定は反映されません。提案を検討する力量のない利用者には向いておらず、投稿主が非協力的、あるいはログインをやめてしまうと、修正されないデータが永遠に残り続けます。こういった事態に対して、明らかに分布が異なるといった観察記録に運営アカウントが介入しているのを見かけたことがありますが、あくまで緊急対応のようです。分類階級の改廃も運営に集約する申請方式です。膨大な分類群を一元管理するには途轍もない人的資源が要求されるはずですが、管理体制が整っているとは思えません。

 生物分類には誤同定がついて回る一方、情報を受け取る側はそれを疑ってかかるとは限りません。それはwebだろうが紙媒体だろうが同じです。

 またプラットフォームには手軽さを謳うものもあり、裾野が広がればそれだけ多様な価値観の人が集まり、学界における生物分類の理念と相容れない利用者の数も増えます。生物多様性の記録ひいては保全への協力を仰ぐといった文脈で、生物分類に携わる人の裾野を広げることは非常に意義深いですが、例えば「写真から連想される生物名を矢継ぎ早に思いつくまま挙げる」といった提案を繰り返す利用者も見かけたことがあります。

 当然想定されるはずの事象に対してこれといったフォローが無いのは、むしろ裾野を広げることに消極的なのではとさえ思えます。

 iNaturalistでは、提案者の同定が多数決の原理で自動反映されます。分類階級の改廃は、実績ある利用者の中で特に権限付与を受けた「キュレーター」がそれを行う権限を持ちます。もちろん民主的方法に委ねた故のヌケモレやムラがあるでしょうが、不具合への反応速度という観点では運営に集約する仕組みより合理的だと思います。


 プラットフォームの「手軽さ」は「ゲーム感覚」と強く紐づけられている印象があり、例えば「ポケモンGO」の現実世界版のような捉え方をする利用者も少なくない感じがします。

 ゲーム感覚を踏まえてか、Biomeでは行政などと連携したイベントを頻繁に開催して、インベントリのような活動を行っています。

 こういったゲーム性の導入は、ともすれば現実の生物を分類する営みを、図鑑をかざしさえすれば自動で正確に同定できるポケモンと混同させかねません。確かに過去には十分な同定資料が提供されないなどの不案内が多々見受けられましたが、最近はかなり充実したガイドが添付されており、分類の経験を積むことができるようになってきていると思います。終了したイベントの資料も引き続き参照できる仕様は評価できます。



 また、今後は生成AIによる検索汚染も強く懸念されます。

 マイナー分類群であるヨコエビがどのような影響を受けるのか想像つきませんが、某国のウィキペディアが暇に任せて一個人が粗製濫造した出鱈目な記事で汚染された事例なんかを踏まえると、例えば、双方プラットフォームの空いているところを埋めることに使命感を持った暇人が、ブランクになっている種名の枠にそれっぽい生成画像をひたすら貼っていくといった奇行に及ぶ可能性も十分にあり、現状はそれを防いだり復旧させたりする体制が十分ではないといえます。そういった状況そのものを観測したわけではありませんが、規約に違反したオモチャやヒトの画像を意図的に投稿している利用者は見たことがあります。

 例えば「Gammaridean amphipoda」というプロンプトだけをSoraに与えた場合、このような画像が出力されてきます。胸節~尾節の数、形状が異なるので違和感を指摘することはできますが、触角や胸脚なんかはわりと現実の体制との矛盾が少なく、異常の出方によっては「そういう未記載種もいるかもしれない」程度に落とし込んできそうな感じはあります。それこそAIの進化は日進月歩ですから、一目でわかるような画像のほうがもはや珍しい状況といえるでしょう。



 もし双方向プラットフォームが、その中だけで完結するものではなく現実の分類体系との連結を標榜しているのであれば、そういった前提を踏まえたシステム設計は欠かせないでしょう。利用者の状況もwebサービスの在り方も刻一刻と変わりますし、もちろん画一的な答えは出しようもないですが、よりよいサービスを模索して採用していくことが重要だと思います。



<参考文献>

— 有山啓之 2022. 『ヨコエビガイドブック』. 海文堂, 東京. 160 pp.

2024年2月11日日曜日

ディボフスキィのたそがれ(2月度活動報告)


 ~ とう場人ぶつ ~
 
こうたくん
ヨコエビのことが気になっている男の子。


ひろきくん
さいきん、こうたくんやはかせと、あそぶようになった男の子。
あまりしゃべらないけど、するどい。

 
よこえびはかせ
ヨコエビの本やひょうほんをいっぱいもっている。
ヨコエビのことにくわしくて、何でもしらべて教えてくれるけど、
そのほかのことにはまるっきりきょうみがないんだ。


~~~~~~~


よこえびたんていだん

だい5話 ディボフスキィのたそがれ




じけんはっ生


こうたくん: はかせ!ヨコエビの名前が長いんだって!

はかせ: どれどれ、見せてごらん。


これまでにつけられた学名で最も長いとされるものは51文字のGammaracan-thuskytodermogammarus loricatobaical-ensisという甲殻類ヨコエビの仲間だ。発音すれば「ガンマラカントゥスキトデルモガンマルス・ロリカトバイカレンシス」となる。(ソトコト


はかせ:ホッホッホッ、これはロマンのかけらじゃよ。

こうたくん:どこが?

はかせ:これはただのエッセイで、げんじつの「生ぶつ学」と、かんけいあるとは、かぎらないんじゃ。

こうたくん:なんだ~。じゃあうそなの?

はかせ:いやいや、「もっとも長いとされる」と、大じなところはだんげんしておらん。「生ぶつ学」の話ではないが、ウソでもないぞい。

こうたくん:じゃあ、いちばん長い名前は、ほんとにこのヨコエビなの?

はかせ:それはどうかのう。ちょっとしらべてみるぞい。



しつもん

はかせ:「ガンマラカントゥスキトデルモガンマルス・ロリカトバイカレンシス」は長すぎるので、これから[K1]と書いてあったら、これのことじゃと思ってくれい。

こうたくん:うん。

はかせ:この話は、メアリー・ジェーン・ラスバンさんが「どうぶつ めい名ほう 国さい しんぎ会」にしつもんをしたところから、はじまるようじゃのう。ラスバンさんといえば、カニかいわいでちょうゆう名なアメリカのけんきゅうしゃだぞい。

こうたくん:どうぶつ…めーめー?

はかせ:どうぶつに学名をつけるときに、おきることがある、いろいろむずかしいこと話しあうための、あつまりのことじゃよ。

こうたくん:ふーん。何があったの?

はかせ:ラスバンさんのしつもんは「ディボフスキィさんが Dybowski (1926a) でヨコエビにつけた学名はこのままでいいのか?」というのじゃのう。たとえばこんな名前じゃ。

  • Siemienkiewiczieshinogammarus siemienkiewitshi
  • Cancelloidokytodermogammarus (Loveninuskytodermogammarus) loveni
  • Axelboeckiakytodermogammarus carpenteri
  • Garjajewiakytodermogammarus dershawini
  • Parapallaseakytodermogammarus borowskii var. dichrous
※以下、[R1]~[R5]

こうたくん:げー、なにこれ。きもちわるっ。ダメにきまってんじゃん。

はかせ:そしてこれが Dybowski (1926a) にのってる「ぞく」の、いちらんなわじゃが、

I. Genus Boeckia Grimm.
II. Genus Siemienkiewicziella Dyb.
III. Genus Sowicnskiella Dyb.
IV. Genus Paradoxogammarus nov. gen. Dyb.
V. Genus Hyalellopsis Stebb.
VI. Genus Crypturopus Sow.
VII. Genus Micruropus Stebb.
VIII. Genus Baicalogammarus Stebb.
IX. Genus Microgammarus Sow.
X. Genus Echiuropus Sow.
XI. Genus Brandtha Bate
XII. Genus Rugosogammarus Dyb.
XIII. Genus Morawitzigammarus Dyb.
XIV. Genus Smaradinogammarus Dyb.
XV. Genus Paramicruropus Stebb.
XVI. Genus Pentagonurus Sow.
XVII. Genus Hakonboeckia Stebb.
XVIII. Genus Gymnogammarus Sow.
XIX. Genus Plesiogammarus Stebb.
XX. Genus Sukaczewigammarus Dyb.
XXI. Genus Poekilogammarus Stebb.
XXII. Genus Ignotogammarus Dyb.
XXIII. Genus Pictogammarus Dyb.
XXIV. Genus Sophianosigammarus Dyb.
XXV. Genus Bifasciatohammarus Dyb.
XXVI. Genus Branchialogammarus Dyb.
XXVII. Genus Hyacinthinogammarus Dyb.
XXVIII. Genus Ommatogammarus Stebb.
XXIX. Genus Kietlinskigammarus Dyb.
XXX. Genus Pulexogammarus Dyb.
XXXI. Genus Macropereiopus Sow.
XXXII. Genus Ursinopereiopus Dyb.
XXXIII. Genus Pristipereiopus Dyb.
XYXIV. Genus Odontogammarus Stebb.
XXXV. Genus Cyanogammarus Dyb.
XXXVI. Genus Unguisetosogammarus Dyb.
XXXVI. Genus Stanislaviechinogammarus Dyb.
XXXVIII. Genus Kietlinskiechinogammarus Dyb.
XXXIX. Genus Laeviechinogammarus Dyb.
XL. Genus Sophiaeechinogammarus Dyb.
XLI. Genus Lividoechinogammarus Dyb.
XLII. Genus Aheneoechinogammarus Dyb.
XLIII. Genus Ceratogammarus Sow. —Ceratoechinogammarus Dyb.
XLIV. Genus Leucophtalmoechinogammarus Dyb.
XLV. Genus Leptoceroechinogammarus Dyb.
XLVI. Genus Ibexoechinogammarus Dyb.
XLVII. Genus Crassicornoechinogammarus Dyb.
XLVIII. Genus Parvoechinogammarus Dyb.
XLIX. Genus Ibexiformiechinogammarus Dyb.
L. Genus Czerskiechinogammarus Dyb.
LI. Genus Maackiechinogammarus Dyb.
LII. Genus Strenuechinogammarus Dyb.
LIII. Genus Toxophthalmoechinogammarus Dyb.
LIV. Genus Longicornoechinogammarus Dyb.
LV. Genus Polyartroechinogammarus Dyb.
LVI. Genus Parvexigammarus Dyb.
LVII. Genus Nematoceroechinogammarus Dyb.
LVIII. Genus Kuzuniezowiechinogammarus Dyb.
LIX. Genus Capreoloechinogammarus Dyb.
LX. Genus Stenophthalmoechinogammarus Dyb.
LXI. Genus Schamanensiechinogammarus Dyb.
LXII. Genus Saphiriniechinogammarus Dyb.
LXIII. Genus Viridiechinogammarus Dyb.
LXIV. Genus Viridiformiechinogammarus Dyb.
LXV. Genus Vittatoechinogammarus Dyb.
LXVI. Genus Siemienkiewicziechinogammarus 
LXVII. Genus Petersiechinogammarus Dyb.
LXVIII. Genus Violaceoechinogammarus Dyb.
LXIX. Genus Sarmatoechinogammarus Dyb.
LXX. Genus Graciliechinogammarus Dyb.
LXXI. Genus Swartschewskiechinogammarus Dyb.
LXXII. Genus Ussolzewiechinogammarus Dyb.
LXXIII. Genus Cornutokytodermogammarus Dyb.
LXXIV. Genus Eucarinogammarus K. G. Dyb.
LXV. Genus Rhodophthalmo K. G. Dyb.
LXXVI. Genus Pulchello K. G. Dyb.
LXXVII. Genus Cheiro K. G. Dyb.
LXXVIII. Genus Bronislavia (Rakowski) K. G. Dyb.
LXXIX. Genus Coniurogammarus Sow. C. K.G. Dyb.
LXXX. Genus Conipleono C.K. G. Dyb.
LXXXI. Genus Ruber K. G. Dyb.
LXXXII. Genus Reissneri K. G. Dyb.
LXXXIII. Genus Parabrandtia K. G. Dyb.
LXXXIV. Genus Axelboeckia Stebb. K. G. Dyb.
LXXXV. Genus Gammaracanthus Bate K. G. Dyb.
LXXXVI. Genus Korotniewi G. K. Dyb.
LXXXVII. Genus Flavo K. G. Dyb.
LXXXVIII. Genus Neo K. G. Dyb.
LXXXIX. Genus Zienkowiczi K. G.
XC. Genus Garjajewia Sow. K. G. Dyb.
XCI. Genus Roseo K. G. Dyb.
XCII. Genus Dryshenkoi Garj.
XCIII. Genus Meyeri K. G. Dyb.
XCIV. Genus Nigro K. G. Dyb.
XCV. Genus Radoszkowski K. G.
XCVI. Genus Platytropo K. G. Dyb.
XCVII. Genus Armato K. G. Dyb.
XCVIII. Genus Cancelloido K. G. Dyb.
XCIX. Genus Pallasea Bate K. G. Dyb.
CI. Genus Acanthogammarus Stebb. Acantho K. G. Dyb.
CII. Genus Puzylli K G. Dyb.
CIII. Genus Parapallasea Stebb.
CIV. Genus Dawydowi K. G. Dyb.
CV. Genus Varinurus Sow. Carinuro K. G. Dyb.


こうたくん:長っ。

はかせ:ふしぎなことに、ラスバンさんは「原記さい」としてこのろん文を引用してるはずなのに、本当にのってる学名は[R1]しかないぞい。

こうたくん:元気なの?

はかせ:ちがわい!その「しゅ」を「記さい」したろん文、つまりこれらのヨコエビに名前をつけた「けっていてきしゅん間」じゃ。

こうたくん:じゃあ、めーめーなんとかとは、かんけいないの?

はかせ:いくつかパターンがあるようじゃのう。バブァーさんによると、ディボフスキィさんがつけた学名を「しんぎ会」がむこうにしたのは、つぎの4つだそうじゃ (Barbour 1943)。

  • Leucophthalmoechinogammarus leucophthalmus
  • Stenophthalmoechinogammarus stenophthalmus
  • Cornutokytodermogammarus cornutus
  • Brachyuropushkydermatogammarus grewinglii mnemonotus
※以下、[B1]~[B4]

はかせ:じゃが、ラスバンさんの[R1]~[R5]と同じ学名は、1つもないんじゃ。Dybowski (1926a) には1つだけ同じ学名が、のっておるがのう。

こうたくん:長いヨコエビの名前は、けっきょくどうなってるの?

はかせ:ヨズヴィアクさんが言うには、Dybowski (1926a) がつけた6つの学名を「しんぎ会」がむこうにして、同じろん文で名前がつけられた、あの長ったらしい[K1]は、むこうになってない、とのことじゃ (Jóźwiak et al. 2010)。

  • Crassocornoechinogammarus crassicornis
  • Parapallaseakytodermogammarus abyssalis
  • Zienkowiczikytodermogammarus zienkowiczi
  • Toxophthalmoechinogammarus toxophthalmus
  • Siemienkiewicziechinogammarus siemenkiewitschii
  • Rhodophthalmokytodermogammarus cinnamomeus
※以下、[J1]~[J6]

はかせ:じゃが、この中にラスバンさんの学名は[R1]しかないんじゃ。

こうたくん:どういうこと?みんなへんだよ?

はかせ:ヨバブァーさんもズヴィアクさんも、何かかんちがいをしてるとしか、かんがえられんのう。

こうたくん:つかれてたの?

はかせ:1つたしかなのは、こうたくんがさいしょに言っていた[K1]は、Dybowski (1926a) にも、ラスバンさんの[R1]~[R5]にも、本当はのってなかったということじゃ。

こうたくん:長すぎてダメになったからじゃないの?

はかせ:むこうになったという記ろくも、そもそも本当にあったしょうこも、何もないんじゃ。

こうたくん:わけがわからないよ。



「つみ」なき「つみ」

はかせ:ちなみに「Gammaracan-thuskytodermogammarus loricatobaical-ensis」というハイフネーションは「ソトコト」のあの記じオリジナルのようじゃ。

こうたくん:よこぼうがあるのは、うそってこと?

はかせ:そうでもないんじゃ。どうぶつでは今でこそゆるされないが、古い学名には Polygonia c-album みたいにハイフンが入ったものがある。

こうたくん:なんだ!よこぼう、あってもいいの?

はかせ:じゃか、このハイフンは「C」と「白」というように、べつのことばをつなぐように入っとるぞい。「ソトコト」のハイフネーションは、ことばのつながりとは、かんけいないところに入っておる。日本ごにすると、だいたいこんなかんじじゃ。


Gammaracan-thuskytodermogammarus 

ヨコエビ トゲあり 革質の ヨコエビ

loricatobaical-ensis

鎧を着た バイカル 産の


はかせ:acan-thus」は、ことばのとちゅうでハイフンが入っていて、ふしぜんじゃ。さいごの「baical-ensis」はたしかにハイフンを入れることはできるが、それよりも、その前のことばとの間に入れるほうが、くぎりとしてはしぜんじゃ。

こうたくん:「?」はどうしたの?

はかせ:「kyto」が何をいみするのか分からなかったんじゃ。くすぶるとか、やけるとか、そういういみとは思うんじゃが…

こうたくん:だっさ。

はかせ:うるさいわい!

こうたくん:じゃあ、その「-」がないのが本当なの?

はかせ:ハイフンがない[K1]がネットにあらわれるのは、21せいきからじゃ。2001年にはこういう記じがあったぞい。しらべたかぎり、これが[K1]のいちばん古いものらしい。

ひろきくん:でもこれ、こんきょが分からないっすね・・・

こうたくん:あれ、ひろきくん、いつの間に?

はかせ:うむ。さっきたしかめたとおり、ディボフスキィさんもラスバンさんも、本当は[K1]の話をしてなかったわけじゃ。

ひろきくん:この記じが、1から学名をつくったんですかね・・・

はかせ:そのことなんじゃが、[K1]のもとネタは、Dybowski (1926a) の「Gammaracanthus loricato-baicalensis」のことかもしれん。

こうたくん:これも長いじゃん!

はかせ:この学名は Dybowski (1926c) では「Gammaracanthus loricatus baicalensis」となっておるが、もともとこの「へんしゅ」に名前をつけたのはソウィンスキィさんで、ディボフスキィさんではないんじゃ (Sowinsky 1915)。[K1]はディボフスキさんがつけた名前と言われてるが、そこも話がもられているようじゃ。ちなみにもう1つ Dybowski (1926b) は「アカントガンマルス あか」の「Carinurus ぞく」をとりあげたもので、ぜんぜんかんけいないぞい。

こうたくん:キャラふえすぎて、入ってこないよ。

はかせ:ちなみに、このloricato-baicalensis」のハイフンの入れかたは「ソトコト」とはちがって、よりしぜんなばしょに入っておる。

ひろきくん:1927年というせつも、あるみたいっすね・・・

はかせ:がい当する文けんは、どうやら、そんざいしないようじゃ。10月にとうこうされた Dybowski (1926c) を、1927年のしゅっぱんだと、かんがえた人がいるようじゃ。

こうたくん:それからそれから?

はかせ:2009年12月には、クレタ大学の Poulakakisさんが[k1]を話だいにしたこうぎスライドをネットにあげておる。

こうたくん:学こうのじゅぎょうなの?

はかせ:そうみたいじゃのう。このスライドはラスバンさんのしつもんの「画ぞう」をはってるし、Dybowski (1926a) を引用してるんじゃが、今まで言ってきたように、これらに[K1]はのっていないはずじゃ。こんきょになってないんじゃ。

こうたくん:そうなの?

はかせ:2010年あたりには、この長ったらしい[K1]が「しんぎ会」でみとめられなかったことが、きせいじじつになっていくぞい。

こうたくん:こんきょがないのに?

はかせ:2014年には「だいきげんじほう」が目をつける。これで知った人も多いきがするのう。日本で[K1]が広まっていったのは、おそらく2015年からじゃ。

ひろきくん:長い[K1]は、引用文けんといっしょに、日本ばんウィキペディアにものってますよね・・・

はかせ:このウィキの内ようは、2017年3月に「ヨコエビ」のこう目へ、ついかされたぞい。そして引用文けんは、2019年1月についかされたわけじゃが、Poulakakisさんのスライドと同じで、こんきょはないんじゃ。そして今は、書きなおされておる。

こうたくん:えっ?ウィキペディアに書いてあることはぜんぶ正しいんじゃないの?

はかせ:いやいや、ウィキは、しろうとが書いている、いいかげんなサイトじゃわい。



けつろん

ひろきくん:ふたしかな話が、「生ぶつ学しゃ」もふくめて、広まってしまったんですね・・・

はかせ:ウィキや「ソトコト」のような「科学っぽい」記じが、ちゃんと作られなかったことが、もんだいじゃのう。ふつう「分るい」をせんもんにする「分るい学しゃ」は、けんきゅうのなかで「分けん」をよまず話をすすめることは、ありえないんじゃ。あの学名は「てきかく名」じゃないから、正しくあつかおうという心がけが足りず、手をぬいたのかもしれん。

こうたくん:いいかげんな人、多いんだね。

はかせ:ヨコエビの分るいは、こみ入っておるからのう。「ソトコト」のエッセイストはせんもん外の人じゃし、「原記さい」をよまないのは、むりもないと思うぞい。それはともかく、ウィキのほうは、それなりにヨコエビをべんきょうしてたはずじゃから、このまちがいは「たいまん」としか言いようがないのう。

こうたくん:どこをどうまちがえたら、ああなるの?

はかせ:[K1]は、今もつかわれている「Gammaracanthus」に「kytodermogammarus」をつけたものみたいじゃ。「ロリカトバイカレンシス」は、Dybowski (1926a) にある「loricato-baicalensis」のことみたいだのう。じゃがこれはもともと「loricatus baicalensis」として「しゅ」「へんしゅ」をならべていたものを、なぜかハイフンでつないだものだぞい。

  • [K1] Gammaracanthuskytodermogammarus loricatobaicalensis
  • [D1] Dybowski (1926)  Gammaracanthus loricato-baicalensis

ひろきくん:ほかのは、どうなんすかね・・・

はかせ:ラスバンさんが「しんぎかい」にあげた[R1]~[R5]のうち、 Dybowski (1926a) には[R1]だけ同じ。[R2]~[R5]は「ぞく」の頭だけ同じじゃ。

  • [R1] ICZN (1929) Siemienkiewiczieshinogammarus siemienkiewitshi 

 =[D2] Dybowski (1926)  Siemienkiewicziechinogammarus siemienkiewitshi


  • [R2] ICZN (1929) Cancelloidokytodermogammarus (Loveninuskytodermogammarus) loveni
  • [D3] Dybowski (1926)  Cancelloido loveni

  • [R3] ICZN (1929) Axelboeckiakytodermogammarus carpenteri
  • [D4] Dybowski (1926)   Axelboeckia carpenteri

  • [R4] ICZN (1929) Garjajewiakytodermogammarus dershawini
  • [D5] Dybowski (1926)  Garjajewia dershawini

  • [R5] ICZN (1929) Parapallaseakytodermogammarus borowskii var. dichrous
  • [D6] Dybowski (1926)  Parapallasea borowskii var. dichrous

 

はかせ:バブァーさんの[B1]~[B4]のうち、[B4]だけ Dybowski (1926a) に同じ名前がない。[B2]は「ぞく」だけラスバンさんの[R2]と同じじゃ。

  • [B1] Barbour (1943) Leucophthalmoechinogammarus leucophthalmus

 =[D7] Dybowski (1926)  Leucophthalmoechinogammarus leucophthalmus 


  • [B2] Barbour (1943) Stenophthalmoechinogammarus stenophthalmus

 =[D2] Dybowski (1926)  Stenophthalmoechinogammarus stenophthalmus  

  • [R1] ICZN (1929) Siemienkiewiczieshinogammarus  siemienkiewitshi

  • [B3] Barbour (1943) Cornutokytodermogammarus cornutus

 =[D8] Dybowski (1926) Cornutokytodermogammarus cornutus 


  • [B4] Barbour (1943) Brachyuropushkydermatogammarus grewinglii mnemonotus
  • [D9] Dybowski (1926) Brachyuropus grewinglii mnemonotus  


はかせ:ヨズヴィアクさんの[J1]~[J6]のうち、ラスバンさんと同じなのは[J5]だけ、Dybowski (1926a) と同じなのは[J1]だけで、あとはDybowski (1926a) とよくにているが、べつものじゃ

  • [J1] Jóźwiak et al. (2010) Crassicornoechinogammarus crassicornis

 =[D10] Dybowski (1926)  Crassocornoechinogammarus crassicornis


  • [J2] Jóźwiak et al. (2010)  Parapallaseakytodermogammarus abyssalis
  • [D11] Dybowski (1926)  Parapallasea abyssalis 

  • [J3] Jóźwiak et al. (2010) Zienkowiczikytodermogammarus zienkowiczi
  • [D12] Dybowski (1926)  Zienkowiczi zienkowiczi

  • [J4] Jóźwiak et al. (2010) Toxophthalmoechinogammarus toxophthalmus

 =[D13] Dybowski (1926)  Toxophthalmoechinogammarus toxophthalmus


  • [J5] Jóźwiak et al. (2010) Siemienkiewicziechinogammarus siemenkiewitschii

 =[R1] ICZN (1929) Siemienkiewiczieshinogammarus siemienkiewitshi 

 =[D2] Dybowski (1926)  Siemienkiewicziechinogammarus siemenkiewitschii

  • [J6] Jóźwiak et al. (2010) Rhodophthalmokytodermogammarus cinnamomeus
  • [D14] Dybowski (1926)  Rhodophthalmo cinnamomeus


はかせ:名前の後ろによけいにつけられがちなのは「kytodermogammarus」じゃな。これは、Dybowski (1926a) にのっている「Cornutokytodermogammarus」の後ろと、まったく同じじゃから、もとネタかもしれんのう。このぶぶんが、じっさいの学名につけられて、じっさいにはない、長い名前がつくられてきたようじゃ。

こうたくん:そうなんだ。

はかせ:バブァーさんのろん文からわかるように、ラスバンさんのしつもんから20年もたってないのに、話はかならずしも正しくつたわってないんじゃ。その後、ネットにあがってくる2000年台の間に[K1]のうわさが、出来上がったのかもしれんのう。じゃが、そのしんそうまでは、たどることができんかったぞい。

ひろきくん:でも・・・いっぱんの人が、じょうだん半分に楽しんでいる「としでんせつ」に、ここまでやるひつよう、ありますかね・・・ウィキペディアとかのネット記じはしょせんは「しろうと」ですし、「ソトコト」にしてもせんもん外の人が書いた「エスディージーズのエッセイ」ですし・・・

はかせ:科学をよそおった「としでんせつ」によくあるのが、ソースを見ないことや、ニセのソースをでっちあげることなんじゃ。日ごろからソースふめいの「科学だんぎ」になれきってしまうと、「エセ科学」にのみこまれる人を、ふやしてしまうかもしれんぞい。

こうたくん: そうなんだ!帰ったらお母さんにも教えてあげようっと。



(ついしん)

 ウィキまちがってた。ごめんね。


<さんこうぶんけん>

— Barbour, T. 1943. The Sea and the Cave. The Atlantic monthly, 99–103.

— Dybowski, B. 1926a. Spis synoptyczny i krótkie omówienie rodzajów i gatunko'w kiełży Bajkału.—Synoptisches Verzeichnis mit kurzer Besprechung der Gattungen und Arten dieser Abteilung der Baikalflohkrebse. Bulletin of the Polish Academy of Sciences, Scientific Letters B: 1–77. 

— Dybowski, B. 1926b. Prazyczynek do znajomości kiełży Bajkału. Rodzaj Paramicruropus (Stebbing). —Beitrag zur Kenntnis der Gammariden des Baikalsees. Die Gattung Paramicruropus (Stebbing). Bulletin of the Polish Academy of Sciences, Scientific Letters B: 79–94.

— Dybowski, B. 1926c. Uwagi i uzupełnienia do mojej praci o kiełżach bajkałskich —Bemerkungen und Zusätze zu meinen Arbeiten über die Gammariden des Baikalsees: 1924–1926. Bulletin international de l'Académie Polonaise des Sciences et des Lettres, Classe des Sciences Mathématiques et Naturelles, Série B, Sciences naturelles, 8B, S: 673–700.

— Dybowski, B. 1927. Bemerkungen un Zusatze zu meinen Arbeiten uber die Gammariden des Baikalsees. 1924–1926. Bulletin International de l'Academie Polonnaise des Sciences et des Lettres, Classe des Sciences Mathematiques et Naturelles, Serie B: Sciences Naturelles, 1927, 8B: 673–700.

International Commission on Zoological Nomenclature 1929. Opinion 105. Dybowski's (1926) Names of Crustacea Suppressed. Opinions Rendered by the International Commission on Zoological Nomenclature: Opinions 105 to 114, Smithsonian Miscellaneous Collections, 73: 1–3,

— Jóźwiak, P.; Rewicz, T.; Pabis, K. 2010. Inspiracje I osobliwości naukowego nazewnictwa zoologicznego. Kosmos, 59(1–2) (286–287): 39–59.

— Sowinsky, V. K. 1915. Amphipoda ozera Baikala (Sem. Gammaridae). Zoologicheskiye issledovaniya ozera Baikala, IX., Kiev, 381 pp. 37 pls.

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補遺 (15-VIII-2024)
・一部書式設定変更。

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「よこえびたんていだん」シリーズ

 ネットにただようヨコエビ(とか)のうわさを、じゅんすいすぎるこうき心をもった「はかせ」と「こうたくん」がすきかってにきりまくる!よむ人みんなをこんわくにつつみこむ、マイナー分るいぐんエンターテインメントここにばくたん!

だい1話「ダイダラボッチのなぞ」

だい2話「めいきゅうのヨロイヨコエビ」

だい3話「ようぎしゃ フトヒゲソコエビ」

だい4話「エイリアンとタルマワシ」

2024年1月21日日曜日

原画展(1月度活動報告)

  広島大学でヨコエビの展示があるとの情報を掴み、日帰りで突撃してみました。


広島大学です。

 その道では知らぬ者のいないヨコエビのメッカで、毎年何本も記載論文が出ています。


広島大学中央図書館です。


地域・国際交流プラザです。

 この「ヨコエビの系統分類学的研究とその成果の書籍化」は、去年出版された『ヨコエビはなぜ横になるのか』に関連する展示で、著者の富川先生が担当されているそうです。


 基本的には、書籍やネット記事や一般向け講演の内容がコンパクトにまとめられ、ポスター化されていますが、「書籍化による研究内容の周知の意義」といった新しい切り口です。

 学生さん手作りと思われる世界地図にヨコエビの写真が貼り付けられているのはなかなかかわいかったです。

 標本はジンベエドロノミPodocerus jinbe,オオエゾヨコエビJesogammarus jesoensis,アケボノツノアゲソコエビAnonyx eous,ヒゲナガハマトビムシTrinorchestia trinitatis,ヒロメオキソコエビEurythenes aequilatusの5種で、うち2種が富川先生が関わって記載されたものになります(Narahara-Nakano, Nakano, & Tomikawa, 2017; Tomikawa, Yanagisawa, Higashiji, Yano, & Vader 2019)。ヒロメオキソコエビのインパクトは抜群。


ヒゲナガハマトビムシは…よくわかりませんでした。
trinitatis/longiramus問題についてはこちら

 また、シツコヨコエビJesogammarus acalceolusParonesimoides calceolus,アカツカメクラヨコエビPseudocrangonyx akatsukaiの直筆原画と原記載論文(Tomikawa & Nakano 2018; Tomikawa & Kimura 2021; Tomikawa, Watanabe Kayama, Tanaka, & Ohara 2022)、そして”例のパンダメリタ”の直筆原画の展示。ほとんどホワイトを入れず一気に全身図を描ききる技が工芸品や絵画の職人そのものです。

 

 「原画展」というとマンガでは一般的でしょうか。一方、分類に携わる人間として、記載論文に使われたスケッチの実物を見られるというのは、その実物の貴重さのみならず、テクニックの一端を見られるという実利があります。私は記憶の限り一発で線画の墨入れをできたためしがないのですが、手直しするには余計な時間がかかるので、一発で仕上げるというのは芸術的なスキルだけでなく、効率的な記載図の生産という部分を考えずにはいられませんでした。


 展示は1月いっぱいまでとのこと。無料で誰でも見れます。



<参考文献>

Narahara-Nakano Y.; Nakano T.; Tomikawa K. 2018. Deep-sea amphipod genus Eurythenes from Japan, with a description of a new Eurythenes species from off Hokkaido (Crustacea: Amphipoda: Lysianassoidea). Marine Biodiversity, 48(1): 603–620.

富川光 2023. 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』. 広島大学出版会, 東広島. 198pp. ISBN:978-4-903068-59-6

Tomikawa K.; Kimura N. 2021. On the Brink of Extinction: A new freshwater amphipod Jesogammarus acalceolus (Anisogammaridae) from Japan. Zookeys, 1065: 81–100.

Tomikawa K.; Nakano T. 2018. Two new subterranean species of Pseudocrangonyx Akatsuka & Komai, 1922 (Amphipoda: Crangonyctoidea: Pseudocrangonyctidae), with an insight into groundwater faunal relationships in western Japan. Journal of Crustacean Biology, ruy031.

Tomikawa K.; Watanabe Kayama H.; Tanaka K.; Ohara Y. 2022. Discovery of a new species of Paronesimoides (Crustacea: Amphipoda: Tryphosidae) from a cold seep of Mariana Trench. Journal of Natural History, 56(5–8): 463–474.

Tomikawa K.; Yanagisawa M.; Higashiji T.; Yano N.; Vader, W. 2019. A new species of Podocerus (Crustacea: Amphipoda: Podoceridae) associated with the Whale Shark Rhincodon typus. Species Diversity, 24: 209–216. 

2023年11月18日土曜日

文化端脚類学 in 博クリ(11月度活動報告その3)

 

 来年で10年になるという、博物学ひいては蒐集趣味をテーマとした物販交流イベント「博物ふぇすてぃばる」。だいたい夏にやってるらしいのですが、冬には「博物クリスマス」という冬季版が例年開かれているらしく、そこにヨコエビにまつわる品を扱うブースがあると聞きつけ、出かけていきました。


 観光客でごった返す浅草。

 6階で小型動物の即売会があるみたいで、ハシゴする人もいるんだろうなと思いつつ、7階の会場へ向かいます。


 先週のデザフェスと比べてしまうと、だいぶこぢんまりとした会場で、端から端まで全部見れるので見落とし感がないのは嬉しいですね。デザフェス会場で見かけたのと同じ出展者さんのブースも4,5つありました。


 まずお目当てのヨコエビです。

 メンダコのベルの分銅として、ヨコエビがあしらわれているとのこと。メンダコの餌としてはやはりヨコエビがメジャーですね。




 いやもうデザインもそうだけど、音がめちゃくちゃいい。特に気に入った真鍮の大きめサイズを購入しました。

 華やかかつ軽やかで、良いレストランに入ったようなワクワク感を鳴らすたびに味わえる感じ。



 博物画(実物)を扱っているブースを発見。何せよ必要な資料はPDFで手に入る世の中で、已むに已まれず古い原書を取り寄せたこともありつつ、ロマン的なものも感じてきました。前から興味はあったのですが、検索できないのが不便でなかなか手が出ませんでした。今回は商品のボリュームがちょうどよく、また分類群ごとにまとめてくれていたので、わりとスムーズに探せました。

 本命の博物画の中に端脚類はありませんでしたが…

 脇に「タバコのトレーディングカード」という箱が。

 その時まですっかり忘れていたのですが、実に95年前のイギリスでタバコのオマケとして実際に流通してた「トレーディングカード」に、フクロエビ上目があしらわれたものがあったような。

 ソーティングする時なみの集中力で探します。


 おいおい。


 ワレカラさんだ!ほんとにあった!


 第2咬脚と背中に剛毛が多いですね。

 簡単に調べてみたくなりました。ここはどこのご家庭にもある「イギリスの磯生物のハンドブック」でも開いて確認してみましょうかね。



 形態が完全に一致するものは載ってませんが、この中では何となく、Caprella acanthifera がモデルになってる気がしますね。


 端脚類に関してはこんな感じです。

 新旧の文化端脚類的産物を同時に味わえる貴重な場でした。ぜひ今後もアンテナを張っていきたいと思います。



<参考文献>

— Hayward, P. J. 2022. 『Rock pools』. Naturalists' Handbooks 35. Pelagic Publishing, London. ISBN978-1-78427-359-0