3年前に出た図鑑のレビューをしていないことに気づいたので、今更ですが書籍紹介です。
— 有山啓之 2023. 端脚目.In: 今原幸光(編著)2023.『新 写真でわかる磯の生き物図鑑』.海文堂,東京.288 pp. ISBN13: 978-4-303-80056-7(以下、新刊)
前身となる 有山 in 今原 (2011) (以下、旧刊)の出版から10年余、2022年に版元のトンボ出版が解散したことで改訂版が世に出ることはないと考えられていましたが、あの『ヨコエビ ガイドブック』で名を馳せた海文堂が名乗りを上げ、出版に至りました。
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| 新刊は旧刊よりちょっと小さい。定価もちょっと安い。 |
ページ数も少なくなっているのですが、内容の充実度はむしろ上がっていると評判です。分類群全体では集計していませんが、端脚類は以下の通りです。
- ヨツデヒゲナガ Ampithoe tarasovi
- コウライヒゲナガ Pleonexes koreana
- アカヒゲドロソコエビ Grandidierella rubroantennata
- フサゲモクズ Hyale barbicornis
- イソホソヨコエビ Ericthonius pugnax
- イソヨコエビ属の1種 Elasmopus sp.
- フトベニスンナリヨコエビ Orientomaera decipiens
- ナガタメリタヨコエビ Melita nagatai
- フトメリタヨコエビ Melita rylovae
- メリタヨコエビ属の1種 Melita sp. 1
- マルエラワレカラ Caprella penantis
※太字は旧刊から続投。
倍近くに増えてます。
コウライヒゲナガの属位がカワリヒゲナガヨコエビ属となっていますが、これは Souza-Filho and Andrade (2022) によってヒゲナガヨコエビ属 Ampithoe に変更されています。
旧刊で別種の可能性が示唆されていた通り、アカヒゲドロソコエビの学名が最新の知見を反映したものとなっています。この種は和名が先につき、後から和名とマッチした学名がつけられるという、ヨコエビにおいて珍しい命名の経緯をもちます (Ariyama and Taru, 2017)。
フサゲモクズの属位がモクズヨコエビ属となっていますが、新刊と同じ筆者による 有山 (2022) では フサゲモクズ属 Ptilohyale へ移動されているため、これは筆者の最新の見解を示すものというより旧刊をトレースしたものと思います。旧刊が世に出た時点で、この新属を提唱した Bousfield and Hendrycs (2002) から10年経っておらず、当時は採用していない文献もありました。
フトベニスンナリヨコエビは旧刊出版後に属ごと記載された種であるため (Ariyama, 2018)、満を持しての登場といったところでしょうか。
メリタヨコエビ属の1種 Melita sp.1 は、あのパンダメリタヨコエビ M. panda ですね。そして旧刊で紹介されたメリタヨコエビ属の未同定種は、新刊の線画にあるMelita sp. 2 =ヨリパンダメリタヨコエビ M. pandina に該当します (Tomikawa et al., 2025)。
旧刊を出した出版社が所在する大阪を中心に作られた書物であったことによる地域性なのか、かなり Senticaudata亜目寄りで、テングヨコエビ科のような、それなりに体サイズが大きく属レベルの同定が可能なグループが入っても良かったのではと思います。ただ、紙面に限りがあるのは旧刊も新刊も変わりなく、細かい話をしてもしょうがないですね。磯的環境の潮間帯上部で、粗砂~礫や、緑藻,紅藻なんかの間からざっくり採れる種類は網羅されている印象です。
旧刊の頃から、近年の図鑑には珍しい硬派な構成で、写真と線画が添えられ分類ができる資料になっています。サイズがコンパクトになって種数が増えているというのはありがたいことで、ヨコエビを採りながら一緒にみられる他分類群までカバーといった使い方もできます。付着性のヨコエビは基質情報も重要となるので、大まかな名前は分かったほうがよいです。
専門書が出版社と命運を共にして消えていくという話がよくある中で、本書の辿った道筋はかなり特徴的で希望が見えます。
<参考文献>
— 有山啓之 2011. 端脚目.In: 今原幸光(編著)2011.『写真でわかる磯の生き物図鑑』.トンボ出版, 大阪.279 pp. ISBN-13: 978-4887161825
— 有山啓之 2022. 『ヨコエビ ガイドブック』. 海文堂, 東京. 160pp. ISBN-13: 978-4303800611

