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2026年5月5日火曜日

宇野太郎伝(5月度活動報告)

 

 日本ヨコエビ研究の祖というと、誰が思い浮かぶでしょうか。永田樹三?岩佐正男?アナンデールやタッターソール、あるいは入江春彦やシーボルドを挙げる方もいるかもしれません。

 個人的に、日本初のヨコエビ研究者といえば宇野太郎だと思います。当時の東京帝国大学理科大学(東大大学院理学系研究科に相当)で卒業研究にヨコエビの分類を選び、動物学博士の学位を取得した人物なので、生粋の「ヨコエビ研究者」と言えるのではないでしょうか(異論は認める)。


 宇野太郎(以下、太郎)に関する情報源は非常に限られています。普通に検索して出てくるのは動物学雑誌の記事2篇、太郎本人による うの (1901) と、同窓生による 高橋 (1902) くらいです。とはいえこの 高橋 (1902) は相当な情報量があり、太郎に関して以下のことがわかります。

  • 生没年・生没地
  • 研究内容と進捗
  • 学歴


 このたび、若手ヨコエビ研究者駒鳥氏@komadoriyahataから支援を受け、また金沢市内泉野図書館および石川県立図書館にリファレンスをかけて情報収集を行いましたので、粗はありますが現時点での結果をご報告します。それにしても、図書館には普段から異常な調べ物をする逸般人が多く来館するためか、理由も訊かずに協力してくれるのはありがたいです。



東京

 太郎の業績を確認してみます。うの (1901) のほか、マッキントッシの原稿を翻訳した報文が幾つかあります (マッキントッシ, 1901a–c)。うの (1901) もステビングの種リスト (Stebbing, 1888) のレビューのようなものなので、海外の研究事情を日本に紹介するようなスタイルを好んだようです。今日の日本動物学会ではこのような原稿は受け付けられない気がしますが、時代ですね。そして肝心の卒論は東京大学にあるものと思いますが、これは関係者に手を回してもらう必要がありそうです。

 太郎は大学側の扱いの上では東京の出身とされており(東京帝国大学, 1916)、御茶の水幼稚園を出てからずっと東京にいて「家」として東京に在住していた実態があるといえそうです。文科省のホームページによると、当時の幼稚園は今とさほど変わらない年齢をカバーしていたそうなので、太郎は生後間もなくから遅くとも6歳までの間に東京へ移住していたことになります。

 病没した時には小石川同心町に住まいがあったとのことですが、この町名は明治五年に成立したものらしく、太郎が上京した時から住んでいた家ではなく、後に進学に応じて移り住んだ場所かもしれません。上京の折、太郎単身で東京の縁者に預けられていた可能性もありますが、太郎が3歳になった時点で一家で金沢から東京へ移住していた可能性を考えるべきでしょう。ただ、戦前の東京の情報はだいたい失われていることが多いため確かな材料を得ることは困難と思われ、ここで一旦保留とします。



金沢

 太郎は「加州金澤寺町」に生まれたとあります。生家が残っている可能性はまずなさそうですが、親類は辿れるかもしれません。



 石川県立図書館が提供する「石川県ゆかりの人物」のサイトで宇野姓を検索すると、16人が該当しました。太郎本人は拾えませんでしたが、ここに血縁者が含まれる可能性があります。太郎の先祖は加賀藩の侍だったとあるので、今も残る寺町という地名と合わせて、絞り込みはできないでしょうか。

 武家としての宇野家には様々な系統があるようです(石川県姓氏歴史人物大辞典 編纂委員会, 2000;以下、歴史人物大辞典)。ただ、どの家が寺町に拠点を置いていたかは分かりません。

 石川県のデジタルコレクションにある寛文七 (1668) 年の「金沢図(寛文金沢図)」、延宝年間 (1672~1681年) の「金沢図(延宝金沢図)」で寺町の地割を確認したものの、確認できる武家屋敷に宇野姓はみられませんでした。その他、宇野家の始祖である宇野鉄作榮應が寛永六 (1629) 年に居を構えていたという油車など、宇野家にゆかりのある町の周囲でも探してみましたが、宇野家らしき屋敷は見つかりませんでした。城下全体までは見れていないため、寛文・延宝年間には他の文献に登場する町には住んでいなかったのかもしれませんし、町名の対応の誤りや役職や屋号で記載されている可能性といった、探索の精度も再考が必要かもしれません。

 享保九 (1725) 年にまとめられたと考えられている侍帳では、宇野姓は4人です(高木,1999:以下、侍帳)。ただ、出大工町片町2丁目,古道といった町名はあるものの、寺町に居住していた家はないようです。

 明治三 (1870) 年の時点で加賀藩ゆかりの宇野姓の人物は17人が数えられ、その菩提寺は10あります。このうち、寺町に菩提寺を持つのは2人です(古川, 1997;以下、先祖由緒并一類附帳)


 妙法寺は鉄作榮應の菩提寺で、この家系は歴史人物大辞典で「八郎左衛門系」とされています。


 八郎左衛門系は、前田利常に仕え200石を数えた八郎左衛門から始まり、享保九 (1725) 年には定番御馬廻五番組で120石を奉じていた小忠太長太夫、そして幕末から明治にかけては三郎左衛門栄精とその子・直次郎益之のつながりが見えます(侍帳,諸氏系譜,先祖由緒并一類附帳,歴史人物大辞典)


 墓碑は15基あり、うち1基は「榮應」と読める文字、そして大正時代に直次郎益之が建てたものも確認できました。他の墓碑には宝永,天保,慶応,文久といった年号を読み取れるものがありましたが、ほとんどが戒名のみ記載されており、系譜との対応はできませんでした。


 実成寺は洪平保親の子・辰太郎親孝の菩提寺で、明治三 (1870) 年当時の石高は100石だったようです(先祖由緒并一類附)


 ただ、今回の踏査では墓碑を発見することはできませんでした。


 加賀藩は前田利常が計画的に寺院をまとめて寺町を整備した経緯もあって、鉄作榮應が油車に居を構えていたように、そもそも菩提寺と同じ街に住んでいるとは限りません。寺町に菩提寺のない家も太郎の系譜にあたる可能性があります。

 先祖由緒并一類附帳は太郎生誕の前年の調査に基づいています。子をなす可能性がある年齢での絞り込みも試みましたが、除外できる家はなさそうです。

 少なくとも江戸中期においていずれの家も川向かいの城下に居を構えていて、太郎の家系はどこかの時期に寺町へ移住、明治になって東京へ移ったようです。享保から明治の間には100年単位の隔たりがありますので、この間を埋める史料が見つからない限り諸家の足取りは見えてきません。


 なお、歴史人物大辞典を参考に諸資料(石川県, 1974等)を検討した結果、次に挙げる宇野家は太郎の系譜と無関係と考えてよいと思われます。

  • 明和年間に絶えた前田家家臣(十兵衛)
  • 田子島の地侍
  • 羽咋郡の一族(明治初頭の藤兵衛・次三郎福久・亀一郎の3代、ならびに明治末期の羽咋郡長・与一順美,飯山高等小学校長・長秀,海軍機関中尉・宗二)
  • 高松町の一族(精一)
  • 文化人(柳壷)



まとめ

 太郎に繋がる系譜を年表に整理してみます。

  • 寛永六 (1629) 宇野家興る
  • 寛文七 (1668)  金沢図まとめられる,太郎の先祖は寺町に居住していない?
  • 延宝年間 (~1681) 金沢図まとめられる,太郎の先祖は寺町に居住していない?
  • 享保九 (1725) 侍帳まとめられる,太郎の先祖は寺町に居住していない?
  • 明治三 (1870) 先祖由緒并一類附帳まとめられる
  • 明治四 (1871) 4月 太郎生まれる
  • 明治七 (1874) 一家東京へ移住?
  • 明治三一 (1898) 7月 太郎、共立學校第二部卒業
  • 同年9月 太郎、帝國大學理科大學に入学
  • 明治三四 (1901)7月 太郎、帝國大學理科大學卒業
  • 明治三五 (1902) 4月 太郎、青山女學院の博物學講師の職を得るが、肺を患い熱海で療養に入る
  • 同年10月15日 太郎、東京にて没する

 東京への移住、名門校への進学など、太郎のキャリアは経済的基盤や社会的地位の高さを伴っているように思えます。八郎左衛門系の石高は享保年間に120石、市郎兵衛系の石高は300石を越えていますので、宇野家においてこの2家が並び立つ存在といえ、太郎はこのどちらかの家から支援を受けていたと推測されます。

 八郎左衛門系の直次郎益之は、大正十二 (1923) 年に日露戦争従軍中に夭逝した武之(息子?)の墓碑を建てており、妙法寺を菩提寺として金沢に残っていたことが考えられます。寺町に生家があったという点で有力ではあるものの、明治初期に東京へ移ったとは思われず太郎の父とは考えにくいです。

 市郎兵衛系の又市直副より後の系譜は不明瞭ですが、「妙円寺」を菩提寺とする大作富素・直作富有・源一郎富良の3名(兄弟と兄の子)は明治三年の石高を足し合わせると335石になるので、ここに繋がるものと解釈できます。直作富有は産業振興や教育分野に携わり、地元石川県で活躍していたことから、太郎の父とは考えにくいです。「妙円寺」という寺院が寺町に現存していない点でも太郎との接点は薄いといえるものの、直作富有が共立学校(開成高校)の設立に携わったという点は太郎の来歴と交わります。直作富有の名は複数の文献にみられるため、ここから辿って市郎兵衛系の全体を押さえることができないか思案しています。

 菩提寺が寺町に立地する・経済的地盤・明治四年より後に足取りがない、という点で洪平保親・辰太郎親孝の家系はかなりポイントが高いですが、他の家系と本質的に違いは無いように思えます。

 調査方法を模索しながら走り出してしまったため時間が足りず、リファレンス頂いた資料の中に精査できていないものがあり、アプローチできていない場所もあります。対象とした年代の文書が多く収められている玉川図書館が改装中で閉館していたのも痛手でした。今後、ほとんど注目されていない太郎の来歴に光を当てるとともに、菩提寺を突き止めてお参りをすることを目標に、引き続き進めていきたいと思います。とはいえ積み新種の処理が優先なので、次のアクションはだいぶ先になると思います。


 最後になりますが、貴重な資料を提供頂き調査にご協力下さった駒鳥氏@komadoriyahata、並びに金沢市立泉野図書館と石川県立図書館の司書の方に篤く御礼申し上げます。



<参考文献>

— 古川脩(編著)1997. 『加賀藩士人別帳』.(先祖由緒并一類附帳

— 石川県 1974.『石川県史 第4編』.石川県図書協会,金沢.

— 石川県姓氏歴史人物大辞典 編纂委員会 2000.『角川日本姓氏歴史人物大辞典17 石川県姓氏歴史人物大辞典』.角川書店,東京.ISBN4-04-002170-3

— 石川県史調査委員会・石川県立図書館史料編さん室 2011.『石川県史資料 近世篇(11) 諸士系譜 四』.石川県,金沢市.

ダブリウ、シー、マッキントッシ William Carmichael  M'Intosh(著),宇野太郎(訳)1901a.海産動物の着色に就て. 動物學雜誌13 (151):164-167.

ダブリウ、シー、マッキントッシ William Carmichael  M'Intosh(著),宇野太郎(訳)1901b.海産動物の着色に就て(十三巻第百五十一號續き). 動物學雜誌14 (159):6-10.

ダブリウ、シー、マッキントッシ William Carmichael  M'Intosh(著),宇野太郎(訳)1901c.海産動物の着色に就て(承前). 動物學雜誌14 (160):46-50.

— 高木喜美子(翻刻)1999.『享保侍帳』.

Stebbing, T. R. R. 1888. Report on the Amphipoda collected by H.M.S. Challenger during the years 1873–1876. Report on the Scientific Results of the Voyage of H.M.S. Challenger during the years 1873–76. Zoology, 29 (part 67): i–xxiv, 1–1737, pls. 1–212.

高橋堅 1902. 理學士 宇野太郎君逝く. 動物學雜誌, 14 (169): 424-425. 

東京帝国大学(編)1916.『東京帝国大学一覧』從大正4年 至大正5年,東京帝国大学, 東京. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2026-05-05)

うの 1901. 日本近海にて「チヤレンヂー」號に由て採集せられたる「アムフイポーダ」.  動物學雜誌13 (150): 146–147. 

2026年4月28日火曜日

端脚類に世界はどう見えているか(4月度活動報告その3)

 ヨコエビは眼柄をもたず複眼が頭部の外骨格に埋没しています。身体の姿勢をそのままに眼をあちこちへ向けて情報を得ることができないため、基本的に視覚に頼った生活はしておらず、眼はよくないと言われます。
 種によっては「複眼を失っている」ものもいます。ヨコエビの「無眼種」は往々にして伝統的な形態観察手法において眼が観察できないものを指し、観察可能なレンズ構造を喪失しているだけで、視細胞が残っている可能性はあります。とはいえ、レンズ構造を喪失、あるいは複眼が分散して個眼化しているような種類は、少なくとも像として景色を捉える必要性は薄いのでしょう。
 ヨコエビの視覚について、既往研究から考えてみます。

眼は重要ではない

  • フロリダマミズヨコエビ Crangonyx floridanus:表層水の個体は複眼を具えるが、地下環境に生息する個体は「複眼を欠く」(篠田, 2006)。 
  • ガイコツヨコエビ科 Lepechinella arctica:複眼の有無は種内多型である (Lörz et al., 2020)。
 配偶相手や餌の探索において視覚に依存していないと考えられます。暗所と明所で行動パターンが変化する局面で、複眼を使っていると思われます。光量が減少したら逃げる、といった簡単なカギ刺激の一つとして視覚が機能しているのかもしれません。複眼の大きさ・存在感がこれらの種と同程度のヨコエビというのは他にもおり、こういった種は暗所適応能力をもつのか、あるいは複眼を欠いている種が明所で複眼を発現させることもあるのか、実験的なアプローチが俟たれます。

光を見てはいる

  • ヨコエビ属 Gammarus:加齢とともに負の光走性を示す (Hunte and Myers, 1984)。
  • ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis:昼間の活動量は日照と負の相関にある (松井ほか, 2023)。
 いずれもレンズ構造がそれなりに発達している種類です。これらの群において、少なくとも光量の多寡を感知して行動を変化させている可能性が示唆されます。他の用途に関する検証が俟たれます。

光だけ見ている

  • カイコウオオソコエビ Hirondellea gigas:感覚器の遺伝子発現を解析したところ、洞窟に生息するヨコエビの長波長 Opsin 遺伝子と近縁の配列が同定された。頭部にはレンズ構造が消失した領域には神経の集中がみられた。実際に光線を照射すると、水中での透過率が高い波長域の近傍にあたる 526 nm 付近の波長で発色団の高い光異性化が確認された(小林ほか,2015)。
 光情報の受容能力は、レンズ構造の消失とは必ずしも関係しないといえます。

捕食

  1. Guerra-García et al. (2014) は、イベリア半島に生息する端脚類の食性を多角的に検討した文献である。
  2. ワレカラ科,チビヨコエビ科,スガメソコエビ科,エンマヨコエビ科(テッポウダマ属),モクズヨコエビ科,マルハサミヨコエビ科,トゲヨコエビ科,アゴナガヨコエビ科(ダイコクヨコエビ属)などで動物由来(甲殻類・環形動物・動吻動物)の内容物が優占している。なお、タテソコエビ科は小川 (2011) でも捕食性であることが示されている。
  3. スガメソコエビ科は分散した個眼をもち、捕食に適しているとは考えにくい。水中の振動を感知している可能性、あるいは濾過食の過程で微小な甲殻類・環形動物を捕集したことも考えられる。
  4. これ以外の種類は、概ねヨコエビにおいて一般的・常識的といえる範疇の複眼構造を有する。
  5. 特に、クチバシソコエビ科は複数の属で甲殻類が優占した。この科のメンバーは、菊池 (1986) において発達した複眼を砂の上に出して獲物を狙うとされ、Yu et al. (2003) において主にソコミジンコ類を捕食しているとされる。
  6. 他方、複眼が目立たないヒサシソコエビ科も2属で甲殻類が優占した。このうち Metaphoxus属 はあまり発達していない複眼をもつが、Harpinia属 は一見すると複眼を持たない。レンズ構造をもたないヒサシソコエビ科は生時、頭部に白点をもつものがいるが、光刺激の受容はできても像を捉えているとは思えない。いずれにせよ、ヒサシソコエビ科は視力においてクチバシソコエビ科より劣位と考えられる。視覚に依存しない狩りの手法があるのかもしれない。
  • Stepien and Brusca (1985) は、生きた魚にフトヒゲソコエビ類 Aruga holmesi が攻撃する様子を野外観察している。この種の複眼はそれなりに発達しており、像を結び動きを追う能力をもつと考えられる。
 クチバシソコエビ科とヒサシソコエビ科は同じような軟質基質に同じように埋没して生活しますが、捕食の様式は全く異なるようです。クチバシソコエビ科はかなり複眼が発達していますが、動きを捉えるだけなのか、獲物の種類等を見極められるのかは、今後の展開に期待です。なお、クチバシソコエビ科の体色パターンは保護色の部類と考えられ、優れた視力が同族認知にも使われている可能性は低いと思います。

性選択

  • ハマトビムシ類:メスを獲得しているオスは、獲得していないオスと比較して体サイズが17%大きかった。体サイズの大きさは雄間闘争の優位性を示すものと考えられる。また、体重(体サイズ)の増大に比例して第2触角の長さは増し、加えて触角の赤みが強まる傾向がみられた。触角の赤さはオスが質の良さをメスへ示すための指標と解釈できるが、実際はメスの選択よりもオスが闘争によってメスを獲得することでペアが形成される傾向が示された (Iyengara and Starks, 2008)。
 実験デザインによっては、メスがオスの体色を識別していることを検証できる気がします。どのくらいの距離でオスを発見し、どのくらいの距離で質の違いを判断できるか、といったデータがとれると相当革新的だと思います。なお、オスの触角が赤みを帯びる現象は日本のヒメハマトビムシ種群でもみられるため、日本でも同様の実験が可能と考えられます。

複眼および視葉の構造

  1. クラゲノミ亜目:中層遊泳性の端脚類のグループで、種類によって頭部全体に複眼の構造が拡大するものが知られる。Lin et al. (2021) はクラゲノミ亜目の4属にヨコエビ属を加えた5属の端脚類を題材として、複眼に連なる神経および脳組織の構造を記述している。
  2. 円錐あるいは円筒形に大きく発達した頭部全体が「眼」になっているフクロウミノミ属 Cystisoma では、視葉が脳体積に占める割合は73%に達する。
  3. 光量が少ない深海に棲むランケオラ属 Lanceola の複眼はヨコエビ然とした大きさであり、視葉は脳体積の6%にとどまる代わりに、嗅葉は24%を占める。
  4. 視葉はその大きさのみならず構造も多様であり、とりわけロビュラ複合体はその構成ひいては在不在に至るまで、クラゲノミ亜目内で差異がみられる。
  5. フクロウミノミ属はロビュラおよびロビュラプレートを共に具えるロビュラ複合体構造を示しており、これはヨコエビ属およびその他の軟甲綱と共通した特徴である。これらの種類が得ている視覚情報の質は、ある部分で似通っている可能性がある。
  6. ロビュラを喪失したクラゲノミ属やタルマワシ属は、細部の形状や動きの感知において妥協しているものと考えられる。ロビュラプレートを一部あるいは部分的に喪失したランケオラ属やタルマワシ属は、広い空間を把握するに留まると考えられる。
  7. クラゲノミ亜目が標的とするゼラチン質プランクトンは動きが緩慢なため、動きの感知に関わる部位を失うことは大きな問題ではない可能性がある。
 クラゲノミ亜目において視葉の構造が特殊化していることが示唆されていますが、フクロウミノミ属を代表とした場合は軟甲綱全体にわたって共通した構造を有しているという結論に帰着するものと思いますので、それぞれの目から異なる系統・生息環境のサンプルを網羅的に集めて解析する必要があると思います。とはいえ、ヨコエビ属とフクロウミノミ属は中層遊泳性と沿岸表在底生という異なる生活様式を持ちながら、系統といった要素によって同じ視葉構造を共有していることが示唆されたといえます。どちらの環境にも対応できる幅をもったシステムを、沿岸表在底生の種が有しているという見方もできそうです。
 Lin et al. (2021) はクラゲノミ属が主にゼラチン質プランクトンを捕食していると述べていますが、杉崎 (1991) は鉛直運動をしながら珪藻食と肉食とを切り替える種を報告しています。捕食行動に耐える視力が求められる一方、対象の形状を見る必要がない摂餌様式もとりうることが、ロビュラを維持しなかったことと関係がある気がします。

複眼および個眼の構造

  1. フトヒゲソコエビ類:Meyer-Rochow and Tiang (1979) はOrchomene cf. rossi の新鮮な標本を解剖し、複眼の微細構造を観察することでどういった視覚情報を得ているかを考察している。
  2. O. cf. rossi は径の大きな桿体を持つことから個眼の受光角が広く、僅かな光を感知することに適した複眼をもつ。これに加えて個眼同士の隔離が十分でないといった特徴から、解像度という意味で視力はあまり良くないといえる。
  3. なお、Pontoporeia affinisAbyssorchomene plebsO. cf. rossi の3種は、個眼の大きさや数が異なるため、像の見え方に違いがあると推測される。また、複眼の色調はそれぞれ赤みを帯びた白色,黒色,橙色をしており、生活環境に応じて異なる遮蔽色素をもっていることが示唆される。
  • ハマトビムシ類:複眼の領域によって機能が異なり、上方は空を感知するといった分担によって砂浜上での位置把握を行っている (Ciofini et al., 2019)。
  • ハマトビムシ類:観察記録および複眼の構造から、夜間と昼間の活動に適応しており、海側と陸側とを識別していると考えられる (Ugolini et al., 2020)。
 これらの種の複眼は大きく発達しているように見えますが、必ずしも視力の良さを示すものではなく、広範囲の光を集めたり、視野角を確保するといった意味がありそうです。複眼の領域の面積を総体として捉えるよりも、個眼の大きさなどの要素を検討することが、視力(解像度)の推定につながるようです。

視物質

  • 甲殻類は発色団として普遍的にレチナール (A1) を具える。これに加え、端脚類では 3-ヒドロキシレチナール (A3) が発見されている。浅海・潮下帯種はレチナールのみをもつが、陸棲・淡水・深海種は3-ヒドロキシレチナールのみ、あるいは両方をあわせもつ(外山,2021)。
 A3は長波長帯に光異性化のピークを持つため、陸棲種は浅海種と比較して、赤色寄りの可視領域に高い感受性を持つ可能性があります。これはIyengara and Starks (2008) が提示した「ハマトビムシ類においてオスの触角の赤色の強さをメスが感知している」というシナリオと矛盾しません。

発光

  •  Thoriellidae科 Chevreuxiopsis franki :顎脚を生物発光させ、その光を装飾的な突起をもつ第2触角で反射、あるいは黒色の第1咬脚で覆い隠すことで、何らかのコミュニケーションをとっていることが示唆されている (Halfter and Coleman, 2019)。
  • Photosella属:胸脚の基節に発光体を具える (Lowry and Stoddart, 2011)。
  • マルソコエビ属 Urothoe poseidonis:体表から発光バクテリアが発見されている (Gillan and Dubilier, 2004)。
  • ハマトビムシ類 Orchestoidea gracilis:体表の発光現象はバクテリアの影響と考えられている (Bousfield and Klawe, 1963) 
 捕食者との関係性が指摘されがちな発光現象、 Thoriellidae科において種内のコミュニケーションに利用されている可能性は大いに検討の余地があります。ただし、そもそも1属を構成する種数が少なく、またオスのみ・メスのみで記載されている種が珍しくないため、この群は基盤となる分類学的知見が不足しています。

色覚

  • ヨコエビ科 Pectenogammarus olivii:日当たりの良い水路に生息する本種は、青色光と紫色光の暴露には反応を示したが、赤色には無反応だった (Grintsov et al., 2022)。
 P. olivii は浅海・汽水に生息する種ですが、これは外山(2021)が示した「浅海・潮下帯種がもつ発色団は短波長寄りの可視領域に光異性化ピークがある」との見解と矛盾しません。ただ、この論文は人工光による光害の影響を踏まえた基礎研究であり、物体の色調に対する認知や反応とは必ずしも結びつかない可能性があります。

体色

  • ハマトビムシ類:鉤頭虫の寄生はハマトビムシ類に体色変化を引き起こす (Lagrue et al., 2016)。
  • フトヒゲソコエビ類:液相クロマトグラフィーを用いてカロテノイドを抽出したところ、オオオキソコエビおよびツノアゲソコエビ属の一種の双方においてアスタキサンチンが主成分であった。それ以外の少量のカロテノイド色素の組み合わせによって、それぞれの種の体色が決定されているものと考えられた (Thoen et al., 2011)。
  • ヨコエビ上科 Eulimnogammarus属:青色/赤色,緑色/黄色の部位でカロテノイドのppm値を比較すると、僅かに差がみられた。体色が異なる個体同士でヘモリンパ液中のクラスタシアニンの分子量を解析したところ、その組成には明瞭な差がみられた。体色の違いは色素タンパクの割合によると考えられる (Drozdova et al., 2020)。体色は必ずしも種の違いを反映せず、異なる体色の個体同士での交尾前ガード行動も観察されている。
 メカニズム,色素の種類,体内での存在状態といった、それぞれ異なるアプローチの研究といえます。分類群や生息環境が異なること、寄生生物といった要因が複雑に絡み合うことを踏まえると、ヨコエビの体色決定についてその生物学的要因から生理学的機序、物理的作用までを一貫して解明することは非常に困難に思えます。摂餌を介した色素物質の移行といった現象も気になります。

体色パターン

  • ハマトビムシ類:背面の斑紋パターンに注目し、分類への活用が試みられている (Inoue, 1979; Chapman, 2007; Wildish and Martell, 2013)。
  • ユンボソコエビ属:体表の色素斑のパターンに種間で差異があることが指摘されている (Conlan and Bousfield, 1982)。
  • メリタヨコエビ属:よく似た色彩パターンをもつ2種において、境界のくっきり度合いや色分けエリアが微妙に異なる (有山, 2022; Tomikawa et al., 2025)。
 ハマトビムシ類・ユンボソコエビ属・メリタヨコエビ属の体色は保護色(特に分断色)の機能が主で、種内で同族識別に用いられるとは考えにくいです。


 まとめると以下のようになると思います。

  • 沿岸表在底生種は中層遊泳性より細かな形状の把握に優れている可能性。
  • 大きな個眼は解像度が低い可能性。
  • 「無眼種」は視力を失っていると考えられるが、光情報を得られているかどうかとは別の話。
  • 浅海・潮下帯種と、陸棲・淡水・深海種とでは、短波長および長波長の可視領域での感受性が異なる可能性。
  • 発光する種は僅かであり、意図的に発光して同種他個体同士でコミュニケーションを図る例は立証されていない。将来的に検証されたとしても、非常に稀な例と考えられる。
  • 体色の色調はヘモリンパ液中の色素タンパクの組成によって決定し、斑紋パターンは外骨格内の色素胞の分布により決定するが、種内のコミュニケーションには必ずしも活用されない。


<参考文献>

有山啓之 2022. 『ヨコエビ ガイドブック』. 海文堂, 東京. 160pp. [ISBN: 9784303800611]

— Chapman, J. W. 2007. Gammaridea. In: Carlton, J. T. The Light and Smith Manual Intertidal Invertibrates from Central California to Oregon. Fourth Edition, Universary California Press, pp.545–618.

Ciofini, A.; Mercatelli, L.; Yamahama Y.; Hariyama T.; Ugolini, A. 2019. Regionalization in the compound eye of Talitrus saltator (Crustacea, Amphipoda). bioRxiv, 844027.

Conlan, K. E. and Bousfield, E. L. 1982. The Superfamily Corophioidea in the North Pacific Region. Family Aoridae: Systematics and Distributional Ecology. National Museums of Canada, Publications in Biological Oceanography, 10: 77–100.

Drozdova, P.; Saranchina, A.; Morgunova, M.; Kizenko, A.; Lubyaga, Y.; Baduev, B.; Timofeyev, M. 2020. The level of putative carotenoid-binding proteins determines the body color in two species of endemic Lake Baikal amphipods. PeerJ, 8: e9387. 

Gillan, D. and Dubilier, N. 2004. Novel epibiotic Thiothrix Bacterium on a marine amphipod. Environmental Microbiology, 70 (6).

Grintsov, V. A. ; Kuznetsov, A. V. ; Zheleznova, S. N. ; Ryabushko, V. I. 2022. Colour vision of the amphipod Chaetogammarus olivia H. Milne Edwards, 1830 under acute light Exposure. Ecological Safety of Coastal and Shelf Zones of Sea, (4): 104–116. 

Guerra-García J. M.; Tierno de Figueroa, J. M.; Navarro-Barranco, C.; Ros, M.; Sánchez-Moyano, J. E.; Moreira, J. 2014. Dietary analysis of the marine Amphipoda (Crustacea: Peracarida) from the Iberian Peninsula. Journal of Sea Research, 85: 508–517.

Halfter, S. and Coleman C. O. 2019. Chevreuxiopsis franki gen. n., sp. n. (Crustacea, Amphipoda, Thoriellidae) from the deep sea southwest of Tasmania. Zoosystematics and Evolution, 95 (1): 125–132. 

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Lagrue, C.; Heaphy, K.; Presswell, B.; Poulin, R. 2016. Strong association between parasitism and phenotypic variation in a supralittoral amphipod. Marine Ecology Progress Series, 553: 111–123. 

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Lörz, A.-N.; Brix, S.; Jażdżewska, A. M.; Hughes, L. E. 2020. Diversity and distribution of North Atlantic Lepechinellidae (Amphipoda: Crustacea). Zoological Journal of the Linnean Society, 190 (4): 1095–1122.

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Meyer-Rochow, V. B. and  Tiang K. M. 1979. The effects of light and temperature on the structural organization of the eye of the Antarctic amphipod Orchomene plebs (Crustacea). Proceedings of the Royal Society London B, 206: 353–368. 

小川洋 2011. 東京湾のヨコエビガイドブック (web publication). 138pp. 

篠田 授樹 2006. 東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査. 研究助成・一般研究 vol.28-No.164.

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杉崎宏哉 1991. ニホンウミノミの生態学的研究. 日本生態学会関東地区会 会報, 40: 12–13.

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Tomikawa K.; Yamato S.; Ariyama H. 2025. Black-and-white disruptive coloration maybe convergent: a new species of Melita (Amphipoda: Melitidae) from Japan. Zoological Science, 42 (6): 605–619. 

Ugolini, A.; Borgioli, G.; Galanti, G.; Mercatelli, L.; Hariyama T. 2020. Photoresponses of the compound eye of the sandhopper Talitrus saltator (Crustacea, Amphipoda) in the ultraviolet-blue range. The Biological Bulletin, 219 (1): 72–79.

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Yu O. H.; Suh H.-L.; Shirayama Y. 2003. Feeding ecology of three amphipod species Synchelidium lenorostralum, S. trioostegitum and Gitanopsis japonica in the surf zone of a sandy shore. Marine Ecology Progress Series, 258: 189–199.

2026年3月6日金曜日

2026年のヨコエビギナーへ(文献紹介第十二弾)


  今年もヨコエビの知見を得るのに有用な文献を紹介します。過去の実績はこちらにあります。


イチオシ

吉村比呂・富川光 2025.端脚類(節足動物門:甲殻亜門)を用いた生物分類教材開発に向けた標本観察方法の確立.広島大学大学院人間社会科学研究科紀要 教育学研究:35-42.

 初学者に最適な手引き文献に、新たなラインナップが加わりました。教材という視点から、活かした状態でヨコエビを運搬・撮影するプロの手法を「ここまで教えていいの?」というくらい親切に解説しています。本文は無料で読めます。当該メソッドで撮影された美麗なカラー写真がこれでもかと目白押しで、生体撮影の予定がない方も眺めるだけでも楽しいと思います。


 有山啓之 2023. 若手の会自由集会報告「ヨコエビガイドブック」の出版について. 日本甲殻類学会 Symposium Report,CANCER, 32: 57–60.

 吉村・富川 (2025) 以前にヨコエビの撮影メソッドを紹介した出版物は、この有山 (2023) くらいでした。 学会集会の発表を報文化したもので内容はかなりコンパクトですが、標本撮影に関しては固定状態による性状の違いや写り込むゴミの除去などに触れているのが特色です。無料で読めます。


メリタヨコエビ科の分類にオススメ

 パンダメリタヨコエビ,ヨリパンダメリタヨコエビが話題なので、メリタヨコエビ科の分類に有用な文献を挙げていきます。

— Labay, V. A. 2013. Review of amphipods of the Melita group (Amphipoda: Melitidae) from the costal waters of Sakhalin Island (Far East of Russia). I. Genera Megamoera Bate, 1862 and Armatomelita gen. nov. Zootaxa3700(1): 65–112.

— Labay, V. A. 2014. Review of amphipods of the Melita group (Amphipoda: Melitidae) from the coastal waters of Sakhalin Island (Far East of Russia). II. Genera Quasimelita Jarrett & Bousfield, 1996 and Melitoides Gurjanova, 1934. Zootaxa3869(3): 237–280.

— Labay, V. A. 2016. Review of amphipods of the Melita group (Amphipoda: Melitidae) from the coastal waters of Sakhalin Island (Far East of Russia). III. Genera Abludomelita Karaman, 1981 and Melita Leach, 1814. Zootaxa4156(1): 1–73.

 メリタヨコエビ類についてこちらで多少解説しましたが、こちらはメリタヨコエビ属に近縁な海産属を分類するにあたって重要な文献です。樺太の知見であり種レベルでは他地域と一致しない部分もありますが、属の概要を把握することができます。


— Yamato S. 1990. Two New Species of the Genus Melita (Crustacea: Amphipoda) from Shallow Waters of the Seto Inland Sea of Japan. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory34: 149–165.

 ホシノメリタヨコエビ M. hoshinoi,ヨツハメリタヨコエビ M. quadridentata の新種記載論文です。京大のリポジトリから無料でアクセスできます。



コラム:Senticaudata-Amphilochideaとの付き合い方

 和名はないものの、ヨコエビを扱う上で避けては通れない「Senticaudata」「Amphilochidea」という亜目。

 2017年の大事件以降、実質的に「ヨコエビ」が消滅した混乱は容易には終息せず、たびたび「亜目なきヨコエビの扱い方」という問題が取り沙汰されています。実際、研究者の間ではどういった扱いをされているのでしょうか。



 全てのヨコエビの論文を集計することはできなかったので、Zookeysで行われた新種記載論文に絞って採用状況を確認してみました。

 結論からいえば、年を追って浸透、といった傾向には見えず、初期から一定の割合で採用され続けている様子が見受けられます。この母数では何とも言えませんが、初期の採用者が継続して使用し続けている一方、途中から使い始める研究者は少ないのかもしれません。

 日本では、新体制設立当初に全くと言ってよいほど人気がなかった事実があります。改めて集計してはいないものの、体感的にこの空気感は続いているように思え、日本の研究者の多くは今なお見送り側であり続けている印象です。


 生物学の知見を採用する基準は忖度でも勝ち馬でもないはずですが、モノを言うのはコンセンサスなので、どのくらい共通認識のある枠組みなのかは重要です。その視点でいえば「Senticaudata」「Amphilochidea」は WoRMS (Horton et al., 2026) に掲載される水準のコンセンサスを有しており、学術をはじめ様々な場面で採用に足るものです。ただし、この枠組みの採用不採用が議論の土俵に立てるかを左右するようなことはなく、従って積極的に用いる動機はなく、消極的な不使用に至るのは当然の帰着といえそうです。


 政治的背景を抜きにした実用面、「Senticaudata」「Amphilochidea」を採用しにくい理由には以下のものがあります。

  • 従来の体系と互換性に乏しい
  • 亜目の識別点とされる形質に例外がある
  • 系統関係と整合性がない

 Lowry and Myers (2017) の分類体系を支持しない分子系統解析の結果には、Sotka et al. (2016) や Copilaş-Ciocianu et al. (2019)といった例があります。また、形態分類の視点からは d’Udekem d’Acoz & Verheye (2017) という強い批判があり、これに対する反論 (Myers & Lowry, 2018) も問題を認めつつ一定の合理性があるという主張に留まり、立場の違いを鮮明にしただけで根本的な解消には至っていません。

 従来の「ヨコエビ亜目」「ワレカラ亜目」「クラゲノミ亜目」という体系も、必ずしも系統との整合性はありません。むしろ「ワレカラ亜目」において、系統解析の結果を踏まえると「Senticaudata」の中にドロクダムシの仲間と一緒に格納する新体制のほうが、系統との整合性は高いといえます (Ito et al., 2008)。ただ、そういったバランスが全体に行きわたってはおらず、要するに旧体制を上書きするほどの強い説得力があるとはいえないのです。そして純粋な形態分類における中途半端さと、系統分類学との関わりの薄さから、学術的議論の基盤となる共通認識としての価値が生まれず、存在意義に繋がっていないことが伺えます。


 そんな中、仲村ほか(2025)では「敢えて旧3亜目体制に戻す」という手法が採られました。これは一般向け書籍での措置とも読めますが、「Senticaudata」「Amphilochidea」を広く採用する必要が無い、という扱いにも思えます(さすがに分類学の学術誌において旧体制を持ち出すと物言いがつく可能性はあります)。


 では、「Senticaudata」「Amphilochidea」の新体制に本当にメリットは無いのか。

 亜目から上科まで視点を転ずれば、ごく一部の所属不明群を除いて、ヨコエビ全体が秩序の中に置かれているのが特色です。このことで、より細やかに科より上の類似性を表現できます。それぞれの分類単位に収められている下位分類群の数が少なめに抑えられていて、大箱に入っている小箱の数が少ないことが取り回しの良さに繋がっています。これらは、高次分類止めの同定を行う場面で利点になります。Lowry and Myers (2013, 2017) がいずれもOAでリリースされているのも、端脚類の分類の基盤として遍く採用されることを意図しているものと思います。


 使いたい人が使い、そうでない人は見送る。今のところ個々の判断が許されています。

 端脚類全体の分子系統解析が終わるにはかなりの時間がかかりそうですし、そもそも系統を分類と融合しなければならないというのも一つの思想に過ぎませんし、かといってまた形態フェノグラムをやっても同じような結果にしかならない可能性は高く、しばらくは決定打に欠ける状態が続くものと予想されます。

 安定性が求められる分類システムにおいて「10年やそこら」というのは非常に短いスパンと言わざるを得ません。また、時間のかかる分子系統解析を少しずつ進めるにつれ、既存の分類体系と大幅な乖離が明らかになり、またそれを支持する形態形質が開発されるようなことがあれば、4亜目体制は全体を一気に組み替えるのではなく少しずつ崩されていくことになります。そうなると、ただでさえ流動性が高いと見られがちな領域は、更に流動化するリスクが高いといえます。

 亜目~上科の領域は不安定なものと解釈し、比較的安定している目とか科だけを採用するのが賢明な気がします。特に思想が無ければ引き続き、紛争地帯を避けて触らない、という接し方が無難に思えます。



<参考文献>

— Copilaş-Ciocianu, D.; Borko, Š.; Fišer, C. 2019. The late blooming amphipods: Global change promoted post-Jurassic ecological radiation despite Palaeozoic origin. Molecular Phylogenetics and Evolution143: 106664.

— d’Udekem d’Acoz, C.; Verheye, M. L. 2017. Epimeria of the Southern Ocean with notes on their relatives (Crustacea, Amphipoda, Eusiroidea). European Journal of Taxonomy, 359: 1–553.

Horton, T.; Lowry, J.; De Broyer, C.; Bellan-Santini, D.; Copilas-Ciocianu, D.; Corbari, L.; Costello, M.J.; Daneliya, M.; Dauvin, J.-C.; Fišer, C.; Gasca, R.; Grabowski, M.; Guerra-García, J. M.; Hendrycks, E.; Hughes, L.; Jaume, D.; Jazdzewski, K.; Kim, Y.-H.; King, R.; Krapp-Schickel, T.; LeCroy, S.; Lörz, A.-N.; Mamos, T.; Senna, A. R.; Serejo, C.; Souza-Filho, J.F.; Tandberg, A. H.; Thomas, J. D.; Thurston, M.; Vader, W.; Väinölä, R.; Valls Domedel, G.; Vonk, R.; White, K.; Zeidler, W. 2026. World Amphipoda Database. Senticaudata. Accessed through: World Register of Marine Species at: https://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=719424 on 2026-02-13 

Ito A.; Wada H.; Aoki M. N. 2008. Phylogenetic analysis of caprellid and corophioid amphipods (Crustacea) based on the 18S rRNA gene, with special emphasis on the phylogenetic position of Phtisicidae. The University of Chicago Press Journal, 214: 176–183.

Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2013. A phylogeny and classification of the Senticaudata subord. nov.(Crustacea: Amphipoda). Zootaxa, 3610 (1): 1–80.

Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2017. A phylogeny and classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265 (1): 1–89.

Myers, A. A.; Lowry, J. K. 2018. The Senticaudata, a suborder of the Amphipoda – A commentary on d’Udekem d’Acoz and Verheye (2017). ZooKeys, 730: 149–153. 

仲村康秀・山崎博史・田中隼人(編) 2025.『カラー図解 水の中の小さな美しい生き物たち―小型ベントス・プランクトン百科―』.朝倉書店,東京.384pp. ISBN:978-4-254-17195-2

2025年10月24日金曜日

書籍紹介『水の中のダンゴムシ』(10月度活動報告)

 最近ヨコエビ関連書籍が多くて、ちょっと載っているくらいでは購入していられないほどです。どうなっているんでしょうか。

 さて、そんな中でフクロエビ類を主役に据えた一般書が刊行されたとのことで、等脚研究者ではないのですが(いや1本だけ等脚論文の第二著者に入っているから等脚研究者か?)手に取ってみました。



 

 この『水の中のダンゴムシ』(以下、富川, 2025)は、ヨコエビ研究者としてその道では知らない人はいない広島大学の富川先生による、一般向けの生物関連書籍です。あの『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』を彷彿とさせる装丁が目を引き、出版元は違いますが、シリーズ的な立ち位置を意識したものに思えます。というかもう2年半も前の本になるわけですね。光陰矢の如し。

 広島大学には等脚類標本を提供あるいは横流しした実績があるため、ヨコエビおじさんも本書の関係者と言って過言はないでしょう(妄言にも程がある)

 ヨコエビ(端脚目)と等脚目はしばしば親戚のように扱われるグループで、実際生息環境や体制はかなり似ています。大きな違いは呼吸器系の構造で、これが陸上・淡水・海洋の構成比に効いているのではと思います。どちらの目も世界に1万種程度を擁し海洋に産するものが主ですが、端脚目において陸棲種は全体の5%に満たない一方、等脚目は4割程度とかなり構成が異なります。また、淡水性種は端脚目において2割程度、等脚目では数%になっています。端脚目が海産ヨコエビを中心に語られ、等脚目がダンゴムシを中心に語られる背景には、こういった生息環境の違いがあると思われます。



富川 (2025) を読む

 タイトルを見た第一印象は「コツブムシだけで一冊の本になるのだろうか」だったのですが、実際は等脚目からフクロエビ上目までを扱っています。ゆえに前作と一部内容が被るむきもありますが、富川 (2025) はよりパワフルに俯瞰的に書かれています。

 全体的に平易な表現が貫かれており、分類群そのものを掘り下げるだけでなく研究の側面を追うパートも充実しています。字の大きさやルビの具合からすると、中学2年くらいより上が対象と思われます。カラー写真も随所に用いられ、眺めるのも楽しい書籍になっています。他に前作と異なる点としては、横書きになっている点が挙げられます。


 第1章。「ダンゴムシは虫か?」という基本的かつ奥深い問いを据えたかと思うと、フルスロットルでガチの分類談議、解剖学談議が始まります。「これを知ってれば君も●●博士」みたいな謳い文句はよくありますが、まさにそれを地でいくような、学部レベルでもここまで徹底的に掘り下げることはあるのだろうか?という水準まで読者を連れて行きます。

 第2章。ダイナミックに紡がれる等脚類の進化の歴史は、さながら地球科学の導入によくある「人類へつながる生命46億年の歴史」です。その過程は洞察に富み、10年ばかりフクロエビ類と遊んできた私からしても「うまく言語化してもらった」と感じるような、研究者側が漠然と考えているような等脚類の特性を、分かりやすく共有する工夫に溢れています。

 第3章。書名を冠したこのセクションは、富川研の研究風景が目に浮かぶような、躍動感のある筆致で綴られています。学会発表(や飲み会)を通して存在や記載者の人と成りを知ってはいたギョウジャヒラタウミセミについて、記載の経緯を改めて臨場感をもって知ることができました。

 第4章。ヘイケヨコエビの命名は、第2咬脚の底節板が大袖のように拡張していることが一因なのかと思っていましたが、普通に竹原沖の瀬戸内海産という理由なんですね…。それはさておき、等脚類の生物浸食という側面の中で、人間との経済的な関わりが大上段に構えず自然に語られているのが印象に残りました。

 第5章。チチジマオカトビムシ Morinoia chichijimaensis の生体写真が掲載されている媒体は、恐らく本書が初ではと思います。橙色と暗緑色のコントラストがなかなか印象的な生き物ですね。等脚類という切り口から海洋島の特異性から「ニッチ」や「適応放散」といった概念まで、分かりやすくも前のめりに駆け抜けていきます。

 第6章。最後のセクションはずばり「分類学のすすめ」。下地ができたところで「お前も分類学者にならないか?」という、ダイレクトマーケティングが始まったように感じられます。具体的な手技の指導ではないものの、中学校の学習指導要領にも触れつつ、分類学の歴史や意義を簡潔に述べています。


 富川 (2025) を通読してみた印象は、等脚類の本という体裁をとりつつ生物学の教科書に登場する様々な概念や現象を数珠繋ぎにして見せた、稀有な教育本といった感じです。私が学部時代に基礎生物学や生態学の講義で習ったことが、かなりの割合で網羅されている感覚です。執筆の動機として、中学校の学習指導要領に「生物分類」が加わったことを挙げているなど、教育学部ならではの視点が光っています。全てが必ずしも直接等脚類と結びつかずとも、等脚類の個々の種の生き様を正しく理解するにはこのくらいのバックボーンが必要なのだ、という信念が強く感じられます。等脚類に絡めて生物学の本を作ろうとしたのではなく、ここまで風呂敷が拡がっていながらも、あくまで等脚類を正しく生物学的に説明したらこうなった、という雰囲気を強く感じました。

 気になる点を挙げるとすれば、等脚類の代表を「ダンゴムシ」としたことで、等脚目の和名を「ワラジムシ目」とする場面が多い学術シーンとのギャップが際立ってしまったのではないかという点。そして、タイトルや装丁のゆるさとは一線を画する、「だ」「である」調で詰め込まれた専門知識というのが、かなり鈍器の様相を呈していることです。実際に中高生が読めば刺さるのかもしれませんが。ただ、このくらい「ガチ」で取り組まないと誤解なく伝えられない、ややこしい命題に挑んだ書籍といえるでしょう。


※誤植を見つけてしまったので挙げておきます

  • 図4-7 ×触覚 〇触角


<参考文献>

富川光 2025. 『水の中のダンゴムシ あなたの知らない等脚類の多様な世界』.156 pp. 八坂書房,東京.ISBN978-4-89694-383-2 


2025年9月1日月曜日

書籍紹介『水の中の小さな美しい生き物たち』(9月度活動報告)

 またヨコエビが採り上げられた書物が出版されました。

 


仲村康秀・山崎博史・田中隼人(編) 2025.『カラー図解 水の中の小さな美しい生き物たち―小型ベントス・プランクトン百科―』.朝倉書店,東京.384pp. ISBN:978-4-254-17195-2(以下、仲村ほか, 2025)


 出版社は異なりますが『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン』の系譜のように思えます。ボリュームが充実し、ベントス要素が強化された感じでしょうか。なお、ページ数は2倍ちょっと、価格は10倍になっています。



仲村ほか (2025) を読む

 解説のないものも入れて、掲載端脚類は以下の通りです。この他に、表紙に姿があるリザリアライダーの話題も紹介されています。

  • Orientomaera decipiens(フトベニスンナリヨコエビ)
  • Ptilohyale barbicornis(フサゲモクズ)
  • Monocorophium cf. uenoi(ウエノドロクダムシと比定される種)
  • Pontogeneia sp.(アゴナガヨコエビ属の一種)
  • Caprella penantis(マルエラワレカラ)
  • Simorhynchotus antennarius
  • Vibilia robusta(マルヘラウミノミ)
  • Oxycephalus clausi(オオトガリズキンウミノミ)
  • Melita rylovae フトメリタヨコエビ
  • Grandidierella japonica ニホンドロソコエビ
  • Podocerus setouchiensis セトウチドロノミ
  • Sunamphitoe tea コブシヒゲナガ
  • Leucothoe nagatai ツバサヨコエビ
  • Jassa morinoi モリノカマキリヨコエビ
  • Caprella californica sensu lato トゲワレカラモドキ
  • Caprella andreae ウミガメワレカラ
  • Caprella monoceros モノワレカラ
  • Themisto japonica ニホンウミノミ
  • Phronima atlantica アシナガタルマワシ
  • Lestrigonus schizogeneios サンメスクラゲノミ

※仲村ほか (2025) に明示の無い和名は()内に示しています。


 なかなかボリュームがあります。

 だいたいが筆者のKDM先生が撮られた写真のように見受けられます。先生の主な研究テーマである藻場の生態系と端脚類に関するコラムもあり、エンジニア生物や物質循環といった観点から端脚類を見ることもできる構成となっています。KDM研における最新の分類学的知見を反映して「ウエノドロクダムシ」の同定に慎重になっている、といったライブ感があるのもポイント高いです。


 白眉はなんといってもヨコエビからクラゲノミまで揃い踏みしているところにありますが、驚愕したのは、堂々と旧3亜目体制に基づいている点。海外の文献では Lowry and Myers (2017) に基づく現在の6亜目体制を追認する動きが一般的となっている印象がありますが、日本人研究者は亜目を省略するなど距離をとる雰囲気がありました。「国内では不人気」という言い方もできるかもしれませんが、それを形にしたのは非常に画期的です。

 新知見を採用しないというと時代に取り残されている感じもしますが、6亜目体制は「形態に忠実であることを謳っている一方で例外を意図的に無視しており、自己矛盾している」「かといって系統を反映させる気はない(遺伝的知見との整合性を意図したような例外の扱いではない)」「形態的な明朗性・系統反映のポリシー・過去の慣例の全てを犠牲にしたわりに直感的に分かりにくく、使い勝手が良い場面が特にない」といった問題があります。Lowry and Myers (2017) は大量の分類群について形態マトリクスを作成して議論を試みた労作であることは間違いないのですが、このように中途半端な改変を行うより、「尾肢の先端に棘状刺毛があるグループとそうでないグループを発見した」というような発表に留めておいたほうが、論文として評価は高かったのではと思います。端脚類全体を網羅する下目・小目といった新概念を提唱しつつ、結局所属不明科を残したままというのも片手落ちの感があります。そろそろ10年になりますが、特に優れた点の無い体系のため安定して使い続けられる保障がないという判断から、採用に慎重になっている人がいるものと、個人的には理解しています。

 こういった分類のややこしさについても、仲村ほか (2025) は論文を引いて示しています。


 仲村ほか (2025) の印象を一言で表すとすれば「本棚にベンプラ大会」。タイトルからすると「生物ルッキズムを含んだ写真集」のように思えますが、写真はカットの物量こそあれど思いの外小さく、種や話題のチョイスの渋さ・ガチ感が光ります。前述のような分類学の議論をはじめ、ベントス・プランクトン学会大会で聴かれるお馴染みのテーマや学術的な課題が、当然のように並べられています。細菌の項で培地の写真が並んでいるのにはドン引きしました(誉め言葉)。マニアックな生物に対して、その珍奇さよりここに収録されるべき学術的意義に立脚して選定・解説しているのが、プランクトン学会とベントス学会が全面バックアップしているだけのことはあるなと、思いました。375ページに上る大著でありながら、水圏生物の花形である魚類が4ページしかないというのも特徴的だと思います。

 ただ、解説は非常に平易な文章に仕上がっており、文字数もそれほど多くありません。「写真をパラパラ見る」用途として問題はないかと思います。これだけ幅広い生物群を、「小さく美しい」というテーマに沿って網羅的に平等に扱おうと試みた書籍の例はあまりないものと思われます。『深海生物生態図鑑』のようにグラビアの美麗さや物量で押してくるタイプではないのですが、微生物やメイオベントス群集といった、ともすれば味気ない専門書の中の住人であった生物を、ビジュアル図鑑の世界へ招き入れたというのは、大きな出来事のように思えます。中学生から大学まで、生物分類や水棲生物研究全般に興味のある学生には、興味をそそるだけでなく基礎知識の勉強にもなる一冊でしょう。

 『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン』のコスパの良さが異常なので、こちらのほうがエッセンスだけ摂取したい方にはお勧めできるかもしれません。ただ、当然のことながら 仲村ほか (2025) において情報量は格段に増えていますし、学名の併記や参考文献もしっかり押さえられており、実用性を付与されているのは間違いありません。


 ちなみに、「ウミガメワレカラ」という和名が学名と明確に対応された出版物は初めてだと思います(和名の初出は青木・畑中, 2019)。そういった文脈でも参照され続ける文献と思われます。


 最後に、仲村ほか (2025) における端脚類の掲載箇所を詳細にご教示いただいた朝倉書店公式ツイッターアカウント様に、この場をお借りして篤く御礼申し上げます。



<参考文献>

青木優和 (著)・畑中富美子 (イラスト) 2019.『われから: かいそうの もりにすむ ちいさな いきもの』. 仮説社, 東京.39pp. ISBN-10:4773502967

藤原義弘・土田真二・ドゥーグル・J・リンズィー(写真・文)2025.『深海生物生態図鑑』.あかね書房,東京.143 pp. ISBN:978-4-251-09347-9 

Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2017. A phylogeny and classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265 (1): 1–89.

山崎博史・仲村康秀・田中隼人(指導・執筆) 2024. 『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン クラゲ・ミジンコ・小さな水の生物』.小学館,東京.176pp. ISBN:9784092172975


2025年7月26日土曜日

書籍紹介『茨城の磯の動物ガイド』

 

 6月に図鑑的な文献が出版されたようです。


—茨城の海産動物研究会(編)2025.『茨城の磯の動物ガイド』.ミュージアムパーク茨城県自然博物館.(以下、茨城の海産動物研究会,2025)



 ネットには情報ないですね。博物館の報告書に匂わせ記述があるほか、Facebookにこういった投稿があるくらい。一般の書店に出回っているものではなさそうですが、恐らく日本財団の支援により作成した限定的な部数をミュージアムショップのような限られた場で頒布しているっぽいです。ただISBNは取得されていますし、オマケ冊子のようなものではないです。


 掲載端脚類は以下の通りです。

  • ヨツデヒゲナガ Ampithoe tarasovi
  • タイヘイヨウヒメハマトビムシ Platorchestia pacifica
  • マルエラワレカラ Caprella penantis


 ヨツデヒゲナガは線画が挙げられているのは第3尾肢のみでオス第2咬脚の形状はわかりませんが、掲載写真の個体は体色的には恐らくAmpithoe changbaensis(和名未提唱)と思います。Shin et al. (2010) でも混同されていた歴史がありよく似た種ではありますが、いちおう色彩と外骨格形態 (Shin and Coleman, 2021) および色彩と遺伝子 (Sotka et al., 2016) の対応がとれています。この外骨格形状と遺伝子が対応しない可能性もありますし、真のA. tarasoviが茨城に分布する可能性も十分にありますが、久保島 (1989) もA. tarasoviとしてA. changbaensisを掲載している経緯があり、また井上 (2012) の"A. tarasovi"がどちらを指すか不明なため、現時点では「真のA. tarasoviは未記録」「現時点での定義に基づくA. changbaensisはいる」という判断が適当と思われます。Ampithoe lacertosa種群あるいはtarasovi種群と呼ぶべき一団は形態での種同定が難しく、日本にはまだ種として記載されうる個体群が北海道とかにいるようです。

 タイヘイヨウヒメハマトビムシに関しては、日本全国にわたって本種の形態差異をレビューした Morino (2024) の著者その方が執筆を担当しているため、この手の図鑑ではまずみられない高精度での検討が行われているものと考えてよいでしょう。ただ、載っているのは引きの生体写真だけで、このビジュアルだけで同定できる種ではないため、絵合わせしてよいということではありません。

 マルエラワレカラはRタイプとされるもののようです。


 茨城の海産動物研究会(2025)は前身となるテキストのようなものがあったようで、それを冊子体にまとめたもののようです。地域のファウナをまとめた書籍は非常に貴重で、手探りでフィールドに出るよりも関心を深めるのに役立ちます。茨城の磯には金色のやつとかその他諸々大量に面白いヨコエビがいますので、これから類書が出る折には更なる充実が図られることが望まれます。



<参考文献>

— 茨城の海産動物研究会(編)2025.『茨城の磯の動物ガイド』.ミュージアムパーク茨城県自然博物館,坂東市.111pp. ISBN978-4-902959-87-1 C3045

井上久夫 2012. 茨城県の海産小型甲殻類 III. ヨコエビ相(端脚目,ヨコエビ亜目).茨城生物32:9–16.

— 久保島康子 1989.日本におけるAmpithoe属(Ampithoidae)の分類学的研究.茨城大学大学院理学研究科修士論文.

Morino H. 2024. Variations in the characters of Platorchestia pacifica and Demaorchestia joi (Amphipoda Talitridae, Talitrinae) with revised diagnoses based on specimens from Japan. Diversity, 16(31). 

Shin M.-H.; Hong J. S.; Kim W. 2010. Redescriptions of two ampithoid amphipods, Ampithoe lacertosa and A. tarasovi (Crustacea: Amphipoda), from Korea. The Korean Journal of Systematic Zoology, 26: 295–305.

Shin M.-.H; Coleman, C. O. 2021. A new species of Ampithoe (Amphipoda, Ampithoidae) from Korea, with a redescription of A. tarasovi. ZooKeys, 1079: 129–143.

Sotka, E. E.; Bell, T.;  Hughes, L. E.; Lowry, J. K.; Poore, A. G. B. 2016. A molecular phylogeny of marine amphipods in the herbivorous family Ampithoidae. Zoologica Scripta, 46: 85–95.


2025年7月20日日曜日

書籍紹介『海のちいさないきもの図鑑』(7月度活動報告)

 

 博ふぇすに行ってまいりました。

 今までありそうでなかったワレカラのトートバッグをはじめ、クジラジラミのブローチなど端脚類グッズは年々充実してきています。


 そして端脚類が載った書籍がまた出たそうなので購入しました。




 むせきつい屋さん(著) ・ 広瀬雅人(監修) 2025.『海のちいさないきもの図鑑』.西東社,東京.176pp. (以下、むせきつい屋さん,2025)です。

 箔押しの装丁が豪華です。本邦海産無脊椎動物学もとうとうここまできました。


むせきつい屋さん(2025)を読む

 所謂「子供むけ生物学の本」カテゴリのものと思います。

 ただだいぶ内容はしっかりしていて、水生生物の生態区分やウミエラの骨片の類型、軟体動物の系統関係やウミウシの近似種まで、大学の研究室レベルの知見がてんこ盛りされています。それも単なる豆知識というより、それぞれの生き物の有り様を理解するためのアプローチとして、生物学の文脈の中に位置づけられている味わいを感じます。かわいくない参考文献群からも、著者が堅実に研究をされていたことが伺えます。悪く言えば教科書的かもしれませんが、ホホベニモウミウシの盗葉緑体やプラニザ幼生の体色決定などここ数年の間に学会発表されてコンセンサスになりつあるような、教科書の水準を上回るアツアツの話題が惜しげも無く投入されており、それにも関わらず、首尾一貫したポップな絵柄と平易な文体によって「分かり易さ」を諦めている部分がどこにもないのは驚くばかりです。

 独立の項としてコケムシが入ってないところから、良好な師弟関係が伺えますね。詳しい裏話はわかりませんが、こういう場面で教え子に寄り添って一肌脱いでくれる恩師というのは本当にありがたいものです。


 さて、項が設けられている端脚類は次の通りです。

  • カイコウオオソコエビ
  • オオタルマワシ
  • ワレカラ


 カイコウオオソコエビについて、示されている食性が植物に偏ってますが腐肉もかなり貪食するものと考えてよいでしょう (Jamieson and Weston. 2023)。また、体組織に脂質を多く含む理由を飢餓への耐性としていますが、個人的には、恐らくこれと同じくらい重要なのは浮力の確保だと思います。脂質を蓄える深海性ヨコエビにおいて意義は一律でなく、個別の種において意味合いは違うのかもしれませんが。

 オオタルマワシの和名の由来はあっさりとしています。和名を提唱した入江 (1960)に示されているような(いないような)理由に、忠実な記述だと思います。エイリアンというニックネームについてもあっさりしていて、世の中の議論はもうこのくらいふわっとした認識でよい気がします。それっぽい理由を捻り出すとたぶんドツボに嵌まります。というか、ネット上には話を作っている人が多くて辟易してしまいます。


 このような細部は全体の構成に影響を与えませんが、並べてみると、項ごとに濃度や厚みが違う気がします。特にウミクワガタは情報量こそ定型に収めてありますが、生活環やその特性について厳選して詰め込んだ感じがします。

 著者は北里大の卒業生で、主に三陸海岸など浅海のベントスに直に触れてきた来歴の持ち主なので、その時に得た豊富な知識や経験が作品に反映されていると思います。過去に書籍紹介したこの本も、その研究の成果の一つです。むせきつい屋さん(2025)の出版にあたり様々な意向が働いたような気がしますが、生き物との付き合いの長さの違いがムラに繋がっているように見えます。

 とはいえ、むせきつい屋さん(2025)は150ページ超フルカラーというハイボリュームをたった一人で、テンションを落とさず、たぶんそれほど時間をかけずに仕上げた、恐るべき書物といえると思います。熊坂長範からウルトラマン、タコ焼きから茶釜狸、ゾエアからオエー鳥まで縦横無尽に描けるイラストレーターでありつつ、生物学研究の最先端を子供むけにサマライズできるのは、控えめに言っても働きすぎです。

 個人的に白眉と思ったのは、各生物の体サイズ比較。名前や生態にちなんだり、あるいはひねったり、単にサイズが近いモノを選んだり、心地良く軽妙に題材を選んでいるのが最高ですね。


 小学生以上から余裕で理解できる構成です。子供向けとして読んでもよいですが、生物学の知識を得る本として大人も驚きをもって読むことができるのは間違いないです。元々アクセサリーやイラストボードといったグッズを提供するブランドだったこともあり、色使いが絶妙なイラスト本としても楽しめると思います。



<参考文献>

— 入江春彦 1960.In:内田清之助 等(著)『原色動物大圖鑑Ⅳ』.北隆館,東京.

むせきつい屋さん(著) ・ 広瀬雅人(監修) 2025.『海のちいさないきもの図鑑』.西東社,東京.176pp. ISBN:9784791634453

Jamieson, A. J.; Weston, J. N. J. 2023. Amphipoda from depths exceeding 6,000 meters revisited 60 years on. Journal of Crustacean Biology, 43: 1–28.


2025年3月3日月曜日

2025年のヨコエビギナーへ(文献紹介第十一弾)

 

  今年もヨコエビの知見を得るのに有用な文献を紹介します。過去の実績はこちらに掲載しています。 

 

<今年のイチオシ(1)>

樋渡武彦・森野浩・池澤広美 2024. 茨城県沿岸を含む日本産ナミノリソコエビ科Dogielinotidaeとモクズヨコエビ科Hyalidae (甲殻亜門・フクロエビ上目・端脚目)全種の分類と検索.茨城県自然博物館研究報告,(27): 89–105, pls. 1–22.

 日本から報告のあるナミノリソコエビ科とモクズヨコエビ科の全種(8属3亜属22種)をレビューした労作が出版されました。これまで樋渡先生含めて「スルーが吉」としていた亜属にも和名を与えるなど、一歩踏み出したというか、歩み寄った感があります。さすがに亜属体制が敷かれて20年以上経ちますから、知らんぷりもしにくいといったところでしょうか。ただし、どれだけ時が経とうが投稿済みの論文の質が上がるはずもなく、Bousfield and Hendrycks (2002) は相変わらず取り扱い注意の奇書なので、誰かが真正面から否定する日が来るまでは、引き続き批判的に見ていく必要があります。
 全種の線画と二又式検索表が完備されており、しかも無料でアクセスできる紀要への掲載ということで実用性が極めて高い仕様になっています。ヨコエビの和文総説は珍しいので、そういった意味でも非常に意義深い研究です。なお、これら2科の未記載種や未記録属はそこらへんに大量に眠っているものとみられ、載っていないものを見つけた方は速やかにお近くの Amphipodologist へお届けください。



<今年のイチオシ(2)>

Jamieson, A. J.; Weston, J. N. J. 2023. Amphipoda from depths exceeding 6,000 meters revisited 60 years on. Journal of Crustacean Biology, 43: 1–28.

 タイトル通り、過去60年におよぶ超深海ヨコエビ研究をレビューした決定的な論文が出てました。目録として優れているのは言うまでもなく、超深海ヨコエビの特性を様々な角度からピックアップした各項目も読みごたえがあります。無料というのもポイント高いです。



<メリタヨコエビ属 𝑀𝑒𝑙𝑖𝑡𝑎 の分類にオススメ(1)>

 このグループは地域により種分化を遂げている可能性が高く、未記載種がゴロゴロしていると考えられます。種内変異や地域変異の複雑さによって難しい分類群と捉えられてきましたが、近年は分子系統解析の進歩も手伝って種の輪郭が少しずつ解明されつつあります。そんなわけで、本邦既知種を同定する手がかりになり、かつ入手の難易度が低いものを挙げます。


 メリタヨコエビ科の重厚なレビューです。本邦のメリタヨコエビ属に関わる部分としては、太平洋北西部の10種について検索表と解説があります。古いながらも、環太平洋の他の種や隣接した属についても俯瞰的に把握できます。BHLから無料で読めますので便利な時代になりました。


 言わずもがな、パンダメリタヨコエビの記載論文です。メリタヨコエビ属本邦産17種が同定できる最新の検索表がついてオープンアクセスという大盤振る舞いです。


 ナガタメリタヨコエビ M. nagatai,ビンゴメリタヨコエビ M. bingoensis の新種記載と、フトメリタヨコエビ M. rylovae,カギメリタヨコエビ M. koreana の報告を行っています。京大のリポジトリから無料でアクセスできます。


— Yamato, S. 1988. Two species of the genus Melita (Crustacea: Amphipoda) from brackish waters in Japan. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory33 (1/3): 79–95.
 ヒゲツノメリタヨコエビ M. setiflagella の新種記載と、シミズメリタヨコエビ M. shimizui の報告を行っています。この論文でシミズメリタの種内変異として挙げられている沖縄個体群(form 3)は、後に別種・オキナワメリタヨコエビ M. okinawaensis として記載されました(Tomikawa et al., 2022)。京大のリポジトリから無料でアクセスできます。


<参考文献>

Bousfield, E. L.; Hendrycks, E. A.  2002. The talitroidean amphipod family Hyalidae revised, with emphasis on the North Pacific Fauna: Systematics and distributional ecology. Amphipacifica, 3(3): 17–134.

 Tomikawa K.; Sasaki T.; Aoyagi M.; Nakano T. 2022. Taxonomy and phylogeny of the genus Melita (Crustacea: Amphipoda: Melitidae) from the West Pacific Islands, with descriptions of four new species. Zoologischer Anzeiger296: 141–160.




コラム:在野研究者は遺伝子を読めるか?

 

端脚類のα分類における遺伝子解析の実情

 

α分類とβ分類

 分類学の中には、個々の種を記述する局面(α分類)とそれらの関係を整理する局面(β分類)とがあります。いずれの局面も(少なくともヨコエビでは)形態情報に基づいて行われてきた経緯があります。

 ヨコエビのα分類は形態観察に主軸があり、遺伝情報しか使わない新種記載 (Esmaeili-Rineh et al., 2015) は極めて限られています。

 β分類も形態情報に基づく体系が優勢です。分子系統解析の結果が従来の知見と食い違っても分類体系への反映に至らないものが多く (Hiwatari et al., 2011; Copilaş-Ciocianua et al., 2019) 、分類体系に組み込まれたもの (Sotka et al., 2016) は少数です。

 分子系統解析の知見が分類へ反映されにくいのは、系統学と分類学とが異なる学問である点が重要と思います。分子情報を用いた系統学の論文群と、形態情報に基づく分類学の論文群は、それぞれ別方向の研究分野です。
 「分子-系統」「形態-分類」は対をなすものとして語られがちではあるものの、原義上はそうではありません。多様な姿をもつハトの品種の比較検討に勤しんだダーウィンの例を引くまでもなく、系統学も分類学も遺伝物質を材料とせず営まれてきた経緯があります。要するにどの手法が選ばれるかというだけなのです。実際、ヨコエビでも形態を用いた系統学的研究Barnard and Karaman, 1983; 上平, 1984; Bousfield and Shih, 1994)があります。系統学と分類学との違いを掘り下げるのは趣旨から外れるため、本稿ではあくまで分子・形態が採用されるポテンシャルに差は無いものと捉え、分子情報をα・β分類学へ適用する要点に絞って述べます。
 なお、本コラムでの「分子(生物学)」という語は遺伝物質のみならず酵素や色素,フェロモンの類も念頭に置いています。しかし、そういったものを系統学や分類学と結びつけた研究 (Drozdova et al., 2021) はとても少ないので、「遺伝子」と読み替えて頂いて構いません。

 ともかく現状は「ヨコエビのα・β分類では分子情報に形態情報が併用されている」といったところでしょうか。


なぜ分子は形態の顔色を窺わねばならないのか

 ヨコエビのようなマイナー分類群では、既存の形態分類の全体を見通すこともままならない状況なので、形態分類されたものを後から追いかけて塗り直す作業はかなり遅れているといえます。新しい手法がいかに有用でも、新たな分類群を仲間に加えながら従来の知見を置き換える作業が容易でないのは、想像に難くありません。
 これは、広く材料を集めるβ分類のみならず、限られた範囲で近縁種との比較を行うα分類においても同様です。分子情報に基づいて識別されうる単位(mOTU=molecular Operational Taxonomic Unit)が分類学的な種たり得ることを示すには、近縁種のどれとも違うことを確認する必要があります。しかし、分子情報が得られていない種とは比較できません。結局、過去に種の根拠を示した手法、即ち形態分類の土俵に乗らざるを得ないわけです。

 こういった理由から、ヨコエビのα分類は「分子はまだ本格的に運用できないから形態を使い続ける」という流れになりがちです。そして、分子のみでの記載が成立しにくい一方、形態のみの記載は普通に成立します。従来手法で事足りるため形態偏重の手法が否定されることはなく、従って分子情報を採用する動機につながらず、情報が集積しないので新手法の利便性も向上せず、形態だけで事足りる状況を延命する、といった循環に陥っているのが実情です。「多くの研究者に採用されるだけの有用性を持つには多くの研究者に採用されねばならない」という矛盾を抱えているともいえます。



端脚類のα分類における遺伝子解析の意義

別次元の客観性

 ヨコエビならではともいえる意義もあります。

 生殖隔離と結びついた形態形質が知られる分類群では、生殖器などの形態的(機械的)要素を使った種分化の仮説が導出できる可能性があります。更に分布情報を加えれば、より精度高く種の境界を指し示すことができるでしょう。こういった群には昆虫など陸棲の節足動物が知られ、近年では遺伝情報による裏付けも盛んです。個々の形態形質が生殖隔離を誘発する具体的な機構が解明されているとは限らず、mOTUが形態種と一致しない場合もあるようです。とはいえ、昆虫などのα分類において生殖器や副生殖器の形態形質が特に重視されてきた経緯を踏まえると、形態分類の通底に生物学的種概念の思想が流れていることは間違いないでしょう。

 一方ヨコエビにおいて、交尾前ガードに関わる部位の形状と生殖隔離との相関が示唆される例(Tomikawa et al., 2024)がないわけではありません。しかし、その交尾前ガード行動そのものが逃避の有無に基づく雌雄選別という極めて雑な機構であると指摘されていたり(Holmes, 1903)、種内で体格差のある個体が交接可能という報告があり鍵と鍵穴の関係が不透明になっていたり(草野・草野, 1989)、そもそも交尾前ガードを行わないヨコエビが相当な数に上るという点などから、今のところ十分な有用性をもつものではありません。
 つまり、ごく一部の種において形態情報から生殖隔離の可能性を推定するのが関の山で、それ以外の大多数は「形態形質の不連続性のみをもって間接的に生殖隔離が示唆される程度の、実質的な形態種」であり続けてきました。そして、生殖隔離を効果的に指し示す形質は簡単には見つからず、科の識別形質が後に種内多型と判明したり(Lörz et al., 2020)、後から種の分け過ぎが指摘された例もあります(富川・森野, 2012)
 これは、形態分類の手法が洗練されれば解決される類の問題ではないと思われます。知見が蓄積すればするほど、線画として記述すべき形態形質が増えているのが、その証左でしょう。学問の発展に伴って洗練されているようで、実は焦点が定まらず拡散し続けているのです。
 このような事態になった理由は、分類群の特性として形態観察から生殖隔離を合理的に推し量るのが無理筋だからと思っています。先に述べた通り、ヨコエビ自身が視覚情報や機械的要因で同族認知を行っているという仮説は立てにくく過去ブログも参照)、また体内受精を行う昆虫のような節足動物と、覆卵葉内で体外受精するヨコエビとでは、外骨格の物理的嵌合性が生殖隔離に与える影響が全く違うと言えます。そういった意味で、形態観察によって駆動される端脚類分類学は、系統学と交わらない「純粋な分類学」として、形態種の入れ物や近似種の束ね紐といった役割に徹してきたのであろうと思います。

 こういった、配偶に関わる物理的嵌合性が立証されていない有性生殖生物において、遺伝情報を用いた分類手法は、生殖隔離の傍証という文脈で形態観察の客観性とは段違いの成果を期待されることになります。これは既存の分類体系の精度を上げるというより、「形態種」が支配する世界に生物学的種概念を持ち込むという、革命的な出来事だと思います。もちろん、種分化を駆動する根源的な要素とはいえ遺伝物質の配列も表現形質の一つに過ぎず、「イデアルな種そのものであってほしい」という願望を投影すべきではありません。必ずしも生殖隔離に直結する配列が解析に用いられているわけではありませんし、分子時計の仮説に間違いがあれば系統学的に大きな見当違いを引き起こす可能性があります。


対立する概念ではない

 分子情報を用いた手法と形態情報を用いた手法は、網羅性と客観性において相克のような関係にあると思えますが、相補的とも解釈できます。

 α分類において、分子系統解析から導かれたmOTUに形態分類の視点から裏付けを与える、あるいは形態種とmOTUとの対応を確認する、といった方式であれば、合理性が高いと思います。実際のところ分子と形態の情報を併用している昨今の記載論文は、基本的にこのような構造にまとまっている印象です。


「よい種」の補強材として

 分類学で扱う「種」の本質は「よい種」という概念に帰着し、それは分類学者の合意に担保される、という思想があります(網谷, 2020)。「種」の定義を巡る議論は「分類学の最小単位たる種階級」と「記載された分類群としての種階級タクソン」とを区別せねば成り立たず、網谷 (2020) の主張はそうなっていない点で致命的な欠陥があるように思えます。とはいえ、少なくともα分類において新たに記載される種が「良い種階級タクソン」であることは非常に重要であり、それを担保する学界の合意に注意を払う、もっといえば学界の合意を「種」の本質と捉えるという思想に読み替えれば、非常に示唆深い視点だと思います。

 「形態種」の問題点を解決しうるとはいえ、生物学的種概念は「よい種」における一つの要素に過ぎません。だからこそα分類においては、分子情報と形態観察を併用するなど可能な限り多くの材料を用いて、その時点での「よい種」を目指すことが重要と思います。また、遺伝情報に基づく傍証が有用であるためには「遺伝的種」に基づいた「よい種」の合理性を示して、多くの分類学者の合意を引き寄せるのが道理です。これは一朝一夕には成し得ません。後世の研究を視野に入れて可能な限り配列情報を充実させることが必要と思います。

 生物学的種概念を突き詰めると飼育や交配実験をやろうぜという話になりますが、ご多分に漏れずヨコエビでそのような試みはほぼ論文化されていません。


 こういった背景から「新種記載には形態情報を完備した上で配列情報を紐づけしたい」と考えているわけですが、その実践過程で分かったことや思ったことを以下に述べていきます。



遺伝情報を用いた記載の流れの一例

  遺伝子をα分類に用いる場合、以下のような手順を踏むことになり、必要な機材や試薬もだいぶ複雑です。

  1. 標本から遺伝物質を抽出
  2. 抽出物を精製
  3. 任意のプライマーを添加
  4. PCRで目的の領域を増幅
  5. PCR産生物の確認・精製
  6. シーケンサーを用いて配列情報を得る
  7. 得られた配列情報を保存・出力
  8. 得られた配列情報に加えて、既知種の配列情報をデータベースから参照し、データセットを構築
  9. アライメントを行う
  10. 相同領域の類似度から遺伝的距離を算出
  11. 系統樹を出力

※これはサンプルや配列データそのものへの操作を列挙したもので、当然のことながらそれぞれの工程には別途試薬の調製や解析パラメータの設定など準備があったり、うまくいかなければ工程を戻して調整し直したりします。


 No.8~11はかつて別々のソフトでやっていたようですが、今日ではしぬほど便利なMEGAというフリーソフトが業界を席巻しており、新種記載に求められる程度の処理であれば全てお任せできると思います。

 諸種の配列情報は、自前のものを読み込ませるだけでなくGenBankから呼び出してデータセットに加えることができます。このGenBankは米国衛生研究所が構築しているものですが、3月に入ってから繋がりにくいとの報告があります。時間帯によりアクセス負荷が大きかったり、MEGA側にhttpの形式がうまく認識されず505のエラーコードを吐くことは稀にありましたが、今回はどうやらIPアドレスの識別そのものができないタイミングがあるようです。反知性主義者の陰謀という冗談みたいな噂が流れていますが、わりと本当っぽいのが笑えません。

 GenBankはデータを引っ張るだけでなく、新種記載に紐づけしたい配列情報を共有する場でもありました。なお同じデータ群を別途公開している日本版プラットフォームとしてDDBJがありますが、折しも休止期間中らしいです。もう一つ、欧州には「甲殻類研究者なら黙って」感が漂うEBIENA)があるものの、GenBankの利便性は捨てがたいです。

 なお、日本において朝方にGenBankのアクセス負荷が高い印象があったのは、アメリカの職業研究者が定時の時間帯に頻繁に使用しているからと思われます。昼から夜にかけて接続したほうがストレスが少ないかもしれません。EBIなら逆に朝から夕方までのほうが良さそうです。



課題


閾値設定という壁

 ヨコエビにおいて3–4%の遺伝的差異が種の閾値とされています (Rock et al., 2007; Witt et al., 2008; Hou et al., 2009; Tomikawa et al., 2018) が、海産種で一定の閾値を決められないという説もあります (Tempestini et al., 2018)。再生産や移動など生理生態様式の違いによって適正な閾値が大きく変わってくることは想像がつくものの、「X%の違いを科とするか種とするか」みたいな分類階級の定義に関わるほどの見解の相違があります。そもそも配列情報が得られていない連中は蚊帳の外ですし、控えめにいって混乱しています。

 分子情報を使ったα分類を「桁違いの客観性」などと述べましたが、閾値が定まっていないどころか決められるかも分からない有様では、客観性も説得力もあったものではありません。

 形態と分子を併用して「よい種」を追究する利点は、種の閾値を求める場面、つまり「種階級タクソン」の合理性を高めるだけではなく「種階級」の定義を行う場面でも発揮されると思います。例えば、形態的な証拠に基づいて合意が得られている既知種同士で遺伝的距離を求めておき、その値をもとに新種として記載されうる閾値を模索すればよいのです。形態情報より定量性を期待しやすいとはいえ分子情報に基づく分類も結局は自然界に存在する類似度の階層構造に意味を与える営みでしかないため、どこに種階級の線を引くかというは判断軸は内から自然に湧いてくるものではありません。何度もフィードバックを繰り返す覚悟は必要でしょうが、意義は大きいと思います。


網羅性という壁

 分子情報の網羅性は、「遺伝情報が読まれた種」と「個々の種における配列領域」という2つの側面があると思います。

 遺伝情報のデータベースでは、登録されている配列情報の中にも長短や解析対象箇所のズレがあり、同じ領域を比較するためには最大公約数をとることになります。形態分類に例えると「どの既知種の記載もどこかしら付属肢が欠けていて、仮に手持ちの標本の状態が良くても比較できる部分が自ずと少なくなってしまう」状態です(これはあながち喩え話でもなくて、実際に古い記載図には口器の描画がなかったり、そもそも簡単な判別文のみが添えられていて図がない場合もあります)

 形態分類の発展とともに全身の形態形質を記述するようになった歴史の再現よろしく、分子系統解析の手法が洗練されるにつれてより長い配列が得られたり有用な領域が発見されたりするわけですが、現時点で限定的な配列しか登録されていないことも多々あります。そういった場合、配列が取得されていない部分は、参照できる情報がないという点では分子系統解析が未導入の状態で記載された種と差がありません。また、配列情報だけの存在としてデータベースに格納されている近縁種は、形態情報を参照できないぶんむしろその同定の信憑性を傍証できず、更に配列情報が限定的となるとその価値は大きく下がることになります。
 さらに、配列の長さや使用する領域によってサンプル同士の類似度は変わってくるので、短い配列情報を無理やり使うことで間違った結果を導きかねないという問題もあります。系統分類学的な仮説を強化するために遺伝情報を用いるのに、これでは本末転倒です。もちろん、いかなる材料も完璧に正しいということはないわけですが、遺伝子解析の利点を十分に引き出せる体制でないという事実は重いと思います。全ゲノム解析が当たり前になれば万事解決ですが、配列情報の取得と解析の障壁は格段に上がり、現時点では確実にある意味での有用性を損なうことになるでしょう。

 配列が不完全なら、後から補うことも考えられます。形態分類でいえば「博物館に保管されているタイプ標本を見せてもらって再記載を行う」といった場面です。

 しかし、分子系統解析に供される標本は往々にしてその所在が管理されていません。分子の解析は破壊法であり、例えば標本から取り出した遺伝物質はシーケンサにかけて配列を読んでしまえば廃棄物になるので当然といえば当然ですが、問題はその抽出に供した残りの部分です。これはいくらでも残す方法があります。ヨコエビにおいてはプロテアーゼへの浸漬時間を調整することで外骨格を残すことができ、これは非破壊の形態観察に回せます。そもそも形態分類において重要な口器などの構造は碌に遺伝物質を含んでいないので、こういった部位へ手を付けずに必要最低限の筋肉組織を分析すればいいだけの話です。実物を軽視する傾向は、形態観察を念頭に築かれてきたα分類システムとは雲泥の差で、(過去の記載にはどうしても実物が残っていないことが多々ありますが)国際動物命名規約においては後世の研究者がタイプ標本を参照できることを担保する重要性が明文化されています。「分子を用いた手法は客観性が高く、形態を用いた手法は主観寄り」ということで「分子のほうが科学的」みたいな雰囲気で話を進めてきましたが、研究文化においてはこれが逆転し、むしろ形態分類のほうが検証可能性を重んじる文化や仕組みを具えている感があります。また、非破壊の形態観察とは異なり分子は分析すればするほど損耗していきますし、この後に述べる通り、現時点では形態情報よりも分子情報のほうが経時劣化で使い物にならなくなる危険が大きいのです。



分子構造の時限爆弾という壁

 動物分類学の原則の1つに「唯一無二のホロタイプ標本が全ての基本」というものがあり、剥製や液浸標本,樹脂封入標本などあらゆる工夫によってそれを達成しようとする数百年にわたる分類学者の努力は、ある意味では形態分類との食い合わせの良さによって駆動されてきた部分もあるといえます。そういった文脈の中で、前述の通りタイプ標本を後世へ伝える配慮に言及した国際動物命名規約が成立したものと考えられます。

 しかしながら、分子はどうでしょう。

 遺伝物質の構造は外部形態のそれより遥かに脆弱です。
 「実物さえ残しておけば」という理念があらゆる問題へ解決策を与え、分類体系の安定化に寄与してきたことに疑いの余地はありませんが、分子情報の解析は比較的新しい技術であることやパッと見で分からないことも手伝って、「恒久的な実物の保存」に対して明確な答えが出ていないように思えます。乾燥,液浸など様々な標本が何世紀か形態を保持できることはわかっています。しかし、形態分類分野において歴史のあるプレパラート標本ですらこういった有様で、その主因が「包埋する化学物質の安定性や堅牢性」であることからも、分子構造を保持する難しさがわかります。脊椎動物では Saitta et al. (2024) といった研究もあるようですが、昆虫の乾燥標本においてマイクロサテライト法が有効な期間は半世紀に満たないといい、標本に含まれる遺伝情報を何世紀も保存する技術は確立されているとはいえません。

 となると、既存の分類学が要求する検証可能性に忠実であろうとするならば、記載論文にタイプ標本の配列を紐づけするのが、最も現実的な答えではないでしょうか。もちろん、遺伝情報のデータバンクが未来永劫稼働するとは思えませんし、オンラインに存在する論文についても同じです。しかし、多少屁理屈をこねるとすれば、既知種の学名が使われ続ける状態は論文へのアクセサビリティが担保されている状態と言い換えることができるでしょうし、記載論文に記されたタイプ標本のアセンション番号と同列に配列情報を残すことは、実物の中で漸減していく核酸分子配列の残存に期待するより、遥かに堅牢性が高いと言えるのではないでしょうか。前述のような人為災害がないことと、インターネット回線やサーバーといった社会基盤が博物館の標本庫なみの寿命をもっている前提ではありますが。



ABS(Access and Benefit-Sharing)という壁

 遺伝情報を取り扱う場面で、国をまたぐ場合は全く別の注意が必要です。

 遺伝子資源の利益配分に関する「名古屋議定書」という国際的な取り決めがあり、国の間の遺伝子資源のやりとりには本来制約があります。これは遺伝子抽出の準備がされた標本や配列情報そのものの頒布というより、遺伝子資源を取得可能な生物体全般が対象となります。原則的に遺伝子資源のやりとりは当事国の研究機関同士で、書類の取り交わし等を進めていきます。
 東南アジアなどで採取された標本はかなり厳しい場合があるようで、論文の公表にも関わります(菊池ほか,2021)。まかり間違えば研究成果がお蔵入りということにもなりかねません。
 日本は海外研究者に対して特別な規制を設けない方針のようで過去記事も参照、国立公園や他人の敷地内における採集などには注意喚起を行っていますが、これは国内での扱いにおいても、そして遺伝子資源のみならず研究活動全般に当てはまるものでしょう。しかし「互いにABS(取得機会および利益の公平分配)に準拠していることの確認」などを行うMAT(Mutually agreed terms:移動同意書)を用意するといった対応が求められるようです。

 「片方が個人研究の場合は研究室間の移動じゃないからMATは不要」という見解もあるようで、ここにきて在野研究者の強みが発見されるのも面白いですが、実際のところ全ての場合にこれが適用できるかわかりません。最低限の下調べと相手方への問い合わせは必要と思います。



学部卒在野研究者の壁

 これまでは手法への愚痴でしたが、ここからは自分自身の問題です。全ての学部卒在野研究者には当てはまらないと思っていますが、個人的な状況を具体例として挙げておきます。

 一つは個人の力量。PCRと電気泳動で遺伝物質を見る実習は学部時代に経験済でしたが、当然のことながら御膳立てされた状態で、必要な工程のごく一部に過ぎませんでした。つまり、自力で計画を立てて遂行する能力はないのです。記載論文は読みまくってますが、マテメソだけ読んでも全ての操作や資機材はわかりません。

 もう一つは資材。金額面で二大巨頭といえるのは「PCR装置」「シーケンサー」でしょう。PCR装置は某疫病の影響で腐るほど市場投入され終息後はダブついているという噂ですが、それでも本来は平気で100万とか200万はする代物です。シーケンサーともなれば簡易的なものでも200万程度、グレードによっては一千万を超えてくるらしいです。そんな設備を自前で揃えてるなら検査会社を起業した方がよいでしょう。そしてこちらがその扱いに熟達していないという問題。ある程度慣れていれば最低限目的に沿った中古品なんかを効率的に集めたりできそうなものですが、自信はありません。そして、各種試薬。アズ●ンのIDすら振り出しできない一般人に、試薬の購入や廃棄の道筋を構築できるのか?

 というわけで、外注待ったなしですが、これにも大きな問題が。シーケンシングを受け付けている会社は基本的に、精製済みDNAサンプルをプライマーと混合した状態を要求してきます。前述のNo.1~3(DNAをヨコエビから取り出し、精製し、プライマーと混ぜる工程)はこちらで担当せねばならないわけです。結局DNAラボの開設は不可避と。

 前述の通り、配列情報さえ得られればその先No.8~11はフリーソフトにおまかせできそうです。しかし、記載にあたって配列情報の添付にこだわるかぎり、抽出からシーケンシング(No.1~7)をまるごとお願いできる共著者が捕獲されるまで出版できないわけです。



在野研究者が遺伝子を読むということ

  • 潤沢な資金と知識があればDNAラボを設立する(500万~)
  • 少しの金と知識があればPCRからシークエンシングまで外注する(数万?/種)
  • 共同研究者を捕獲する

 50万~100万円程度の投資で顕微鏡と描画装置を用意すれば、在野研究者でも形態だけは十二分に観察・記述できます。しかも、描画に使う筆記用具などの消耗品やスキャナーなどは一般的な事務用品です。個人的に外注したことはありませんが、過去の論文において著者本人が線画を書かない事例もあり (J. L. Barnard, 1967)、最近でも筆頭著者以外が線画を担当した事例があるそうです。線画の役割分担が一般化して、例えばサイエンスイラストレーターが普及すれば形態分類も外注化の流れになると思いますが、今のところは自炊が一般的です。

 ちなみに、電子顕微鏡写真を添えたほうが親切という分類群もありますが、SEMがないと分類形質の観察や記述ができないという状況ではありません(個人で購入・設置できる可能性のある卓上SEMはそう多くないが500万円前後らしい)
 というわけで、形態観察と比較すると、個人でラボを立ち上げて行う遺伝子解析は初期投資がえげつないのと、その後の運用も試薬の調達や管理などが既に茨の道です。かなり現実離れしているので、やはりサンプル調製からシークエンシングまでを頼める共著者を捕獲するのが吉でしょう。

 遺伝情報を扱う困難さを強調する結論になりましたが「それでも遺伝子を読むべきか」というと、個人的には「YES」です。「よい種」を記載するために形態と分子は相補的に運用されるのが望ましく、また今目の前の記載論文においてそれほど役に立たなくとも、紐づけさえしておけば後世の学問の基盤となる可能性があります。これは新種記載やβ分類学的研究のみならず、環境DNA分野での活用なども含まれます。

 しかし、単に分子を分析すればいいというわけではなく、なるべく既知種との比較に有用な遺伝領域を選ぶことや、後から追加の配列や形態などの情報を得られるよう標本と紐づける工夫が必要だと思います。記載論文においてはホロタイプそのものの解析を行うのが最良ですが、最悪パラタイプでもいいから検証可能性の担保を疎かにしないこと、再記載でも積極的に標本を残すなどの文化の醸成が不可欠と思います。

 ここまでα分類の話ばかりしてきましたが、β分類はむしろ在野研究者に優しい時代になったといえるかもしれません。
 回線に繋がったパソコンさえあれば大量の配列データを個人で入手・解析でき、armchair taxonomy が捗るようになった感はあります。従来も「独り親方で形態フェノグラム解析」みたいなβ分類の手法はありました。しかし最初に述べたように、ヨコエビにおいて分子情報は形態情報とは異次元の説得力を持ち得ます。在野の個人研究者という身分では猶更、独りで形態の選択や重みづけを行う解析よりも、だいぶ客観性を担保しやすい側面があるのではないでしょうか。また、IOTの発達により処理できる情報量は桁違いになっています。配列やモデル選択のセンスに全振りした在野研究というのが、これから流行ったりするかもしれません。


<参考文献> *上記おすすめ文献で掲出したものを除く

網谷 祐一 2020.『種を語ること、定義すること 種問題の科学哲学』.株式会社勁草書房,東京.264pp.

Barnard, J. L. 1967. New and old dogielinotid marine Amphipoda. Crustaceana, 13(3): 281–291.

Barnard, J. L.; Karaman, G. S. 1983. Australia as a major evolutionary centre for Amphipoda (Crustacea). Australian Museum Memoir, 18: 45–61.

Bousfield, E. L.; Shih C.-T. 1994. The phyletic classification of amphipod crustaceans: problems in resolution. Amphipacifica, 1(3): 76–134.

Copilaş-Ciocianu, D.; Borko, Š.; Fišer, C. 2019. The late blooming amphipods: Global change promoted post-Jurassic ecological radiation despite Palaeozoic origin. Molecular Phylogenetics and Evolution, 143: 106664.

Drozdova, P.; Alena Kizenko, A.; Saranchina, A.; Gurkov, A.; Firulyova, M.; Govorukhina, E.; Timofeyev, M. 2021. The diversity of opsins in Lake Baikal amphipods (Amphipoda: Gammaridae). BMC Ecology and Evolution, 21, 81: 15 pp.

Esmaeili-Rineh, S.; Sari, A.; Delić, T.; Moškrič, A.; Fišer, C. 2015. Molecular phylogeny of the subterranean genus Niphargus (Crustacea: Amphipoda) in the Middle East: a comparison with European Niphargids. Zoological Journal of the Linnean Society, 175(4): 812–826.

Hiwatari T.; Shinotsuka Y.; Morino H.; Kohata K. 2011. Phylogenetic relationships among families and genera of talitroidean amphipods (Crustacea) deduced from 28S rRNA gene sequence. Biogeography, 13: 1–8.

Holmes, S. J. 1903. Sex recognition among amphipods. Biological Bulletin, 5(5): 288–292.

Hou Z.; Li Z.; Li S. 2009. Identifying Chinese species of Gammarus (Crustacea: Amphipoda) using DNA barcoding. Current Zoology, 55: 158–164.

上平 幸好 1984. 日本産ナミノリソコエビの分類上の地位と関連諸属の類縁関係.函館大学論究17: 55–69.

— 菊地 波輝・石田 孝英・鹿児島 浩・江口 克之 2021.ABSに関連した論文撤回と付随する問題(2021年2 月13 日現在までの経過報告).タクサ,(50): 23–24.

草野 晴美・草野 保 1989. 同類交配と性的二型:ヨコエビをめぐる論争. 日本生態学会誌, 39: 147–161.

Lörz, A.-N.; Brix, S.; Jażdżewska, A. M.; Hughes, L. E. 2020. Diversity and distribution of North Atlantic Lepechinellidae (Amphipoda: Crustacea). Zoological Journal of the Linnean Society, 190(4):1095–1122.

Rock, J.; Ironside, J.; Potter, T.; Whiteley, N. M.; Lunt, D. H. 2007. Phylogeography and environmental diversification of a highly adaptable marine amphipod Gammarus duebeni. Heredity, 99: 102–111.

— Saitta, E. T.; Vinther, J.; Crisp, M. K.; Abbott, G. D.; Wheeler, L.; Presslee, S.; Kaye, T. G.; Bull, I.; Fletcher, I.; Chen X.; Vidal, D.; Sanguino, F.; Buscalioni, Á. D.; Calvo. J.; Sereno, P. C.; Baumgart, S. L.; Pittman, M.; Collins, M. J.; Sakalauskaite, J.; Mackie, M.; Penkman, K. E. H. 2024. Non-avian dinosaur eggshell calcite can contain ancient, endogenous amino acids. Geochimica et Cosmochimica Acta365: 1–20.

Sotka, E. E.; Bell, T.; Hughes, L. E.; Lowry, J. K.; Poore, A. G. B. 2016. A molecular phylogeny of marine amphipods in the herbivorous family Ampithoidae. Zoologica Scripta, 46: 85-95.

Tempestini, A.; Rysgaard, S.; Dufresne, F. 2018. Species identification and connectivity of marine amphipods in Canada’s three oceans. PLoS ONE, 13(5): e0197174.

富川 光・森野 浩 2012.日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方.タクサ32:39–51.

Tomikawa K.; Hirashima K.; Hirai A.; Uchiyama R. 2018. A new species of Melita from Japan (Crustacea, Amphipoda, Melitidae). ZooKeys, 760: 73–88.

Witt, J. D. S.; Threloff, D. L.; Hebert, P. D. N. 2006. DNA barcoding reveals extraordinary cryptic diversity in an amphipod genus: implications for desert spring conservation. Molecular Ecology, 15: 3037–3082.



【追記】8-vi-2025

本稿は、長期保管液浸標本において保存できる形態形質と分類形質とが一致している前提を必要とすることを付記しておきます。

少なくともヨコエビにおいて、液浸標本としたことで失われる形態形質を、それだけを理由にして分類形質に選ばないというルールや文化があるわけではありません。

2025年1月22日水曜日

書籍紹介『深海生物生態図鑑』(1月度活動報告)

 

 美しい写真が満載の書籍が出ました。



— 藤原義弘・土田真二・ドゥーグル・J・リンズィー(写真・文)2025.『深海生物生態図鑑』.あかね書房,東京.143 pp. ISBN:978-4-251-09347-9 

(以下,藤原ほか2025)


藤原ほか(2025)を読む

 さっそくですが、掲載されている端脚目は以下の通りです。

  • テンロウヨコエビ属の一種 Eusirus cuspidatus
  • ワレカラ属の一種 Caprella ungulina
  • ホテイヨコエビ科の一種 Cyproideidae gen. sp.
  • フトヒゲソコエビ上科の一種 Lysianassoidea (fam. gen. sp.)
  • テングウミノミ科の一種 Platyscelidae gen. sp.


 私はこのうち「フトヒゲソコエビ上科の一種」の同定に協力したのですが、こうして見ると学名の表記に難ありですね(括弧に補足しました)。申し訳ない。誰でも言えるような結果に落ちていますが、ちゃんと見るところは見た上で、全球を視野に手順に沿って検討しています。咬脚の形状などを総合的に判断してタカラソコエビ科かツノアゲソコエビ科のどちらかだと思いましたが、私の力量では写真同定には至りませんでした。機会があればいつか実物を確認して結論を出せればと思ってはいます。

 というか、こんな重厚な趣の本の本文中に同定責任者として載ることになるとは、思ってもみませんでした(巻末にちょろっと名前が出ればいいかなくらいのつもりでした)。個人的には、あらゆる出版物に正確なヨコエビの記述されること以外に興味はないつもりでいたのですが、さすがに少しビビりました。


 テンロウヨコエビ属が「海の掃除屋」と紹介されていますが、個人的にこの属をはじめとするテンロウヨコエビ科のかなりの部分は、死骸を食べる「スカベンジャー」よりも他の小さな生物を捕まえる「プレデター」という紹介が合っているではと思っています。確定的なことは何もいえませんが、Lörz et al. (2018) にそういった記述があるほか、同じ科のリュウグウヨコエビ属の一種 Rhachotropis abyssalis (Lörz et al. 2023)、ドゥルシベラ・カマンチャカ Dulcibella camanchaca なんか (Weston et al. 2024) は捕食性と推定されています。また、テンロウヨコエビ属は藤原ほか(2025)にもあるように咬脚がボクサーのような特殊な形状になっていて、これは可動域からみて、咬脚を突き出すのと同時に腕節の接続部が滑らかに動くことで、指節と前節を素早く閉じるような機構になっているのではと思います。この動きは捕食と関係しそうです。ただし、科は違いますが魚と思われる組織に混じって木屑や多毛類のような断片が消化管内から発見されている深海性ヨコエビもいる (Barnard, 1961) ので、死骸に集まるヨコエビの食性は実際のところかなり流動的なのだろうとも思います。

 ワレカラ属の一種は Takeuchi et al. (1989) で再記載されたりしており、界隈では少し名の知れた種かもしれません。本文中にあるように、複眼など生態写真ならではの情報が含まれているのは貴重です。


 見たところ藤原ほか(2025)に掲載された端脚目は全て固定前の写真のように見え、他の分類群も(詳しくないので推測ですが)多くが生時あるいは絶命して間もない個体を使用しているように見えます。「深海生物図鑑カレンダー」の定期購入者であればどこかで見たことのある写真もあるかもしれませんが、ハードカバーに厚口ページの堅牢製本で全面グラビアカラー印刷、これだけしっかり作られた大判の写真集で定価¥6,000-ですから、当方としてはものすごくお買い得に思えます(このサイズ感の学術図鑑だと2万はしそう)(比較対象がおかしい)

 「生態」図鑑と銘打ちつつ、ヨコエビの生態についてこれといった見解が示されていない部分は、読者によっては消化不良となりそうです。が、実際のところ学術研究がそこまで進んでないのでどうにも仕方ないです。一般層としてはやはり「何を食べているか」みたいな部分は生態情報として真っ先に興味の対象となる部分かと思うので、近縁種の情報からこのへんをもう少し引っ張ってきてもよかったかもしれません。もちろん科や属の中でも食性の幅はあるので、どこまで適用できるかは慎重になるべきとは思いますが。

 JAMSTECの研究者による執筆なので、最後に海洋汚染問題とそれに対して海洋研究が果たす役割や、一般読者が深海生物にアクセスできる方法なんかを紹介しています。ページを幾度も繰りながら深海生物の生き様に想いを馳せるのも一興、この本を入り口に深海生物推しの深みにはまっていくのもまた一興、といった造りになっています。



<参考文献>

Barnard, J. L. 1961. Gammaridean Amphipoda from depths of 400–6000 meters. Galathea Report, 5: 23–128.

Lörz​, A.-N.; Jażdżewska, A. M.; Brandt, A. 2018. A new predator connecting the abyssal with the hadal in the Kuril-Kamchatka Trench, NW Pacific. PeerJ, 6: e4887. 

Lörz, A. N.; Schwentner, M.; Bober, S.; Jażdżewska, A. M. 2023. Multi-ocean distribution of a brooding predator in the abyssal benthos. Scientidic Report, 13: 15867.

Takeuchi I.; Takeda M.; Takeshita K. 1989. Redescription of the Bathyal Caprellid, Caprella ungulina MAYER, 1903 (Crustacea, Amphipoda) from the North Pacific. Bulletin of The National Science Museum Series A (Zoology), 15(1): 19–28. 

Weston, J. N. J.; González, C. E.; Escribano, R.; Ulloa, O. 2024. A new large predator (Amphipoda, Eusiridae) hidden at hadal depths of the Atacama Trench. Systematics and Biodiversity, 22:1, 2416430. 

2024年12月27日金曜日

2024年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)

 

 今年もヨコエビの新種です。

 

※2017年実績
※2018年実績 
※2019年実績
※2020年実績
※2021年実績
※2022年実績
※2023年実績


  学名に付随する記載者については、基本的に論文中で明言のある場合につけています。

 

New Species of
Gammaridean Amphipods
Described in 2024

(Temporary list)

 

JANUARY 

Limberger, Castiglioni, and Santos (2024)

Hyalella jaboticabensis 

 ブラジルからヒアレラ科 Hyalellidae ヒアレラ属の1新種を記載。本文は有料。




FEB

Patro, Bhoi, Myers, and Sahu (2024)

Parhyale odian 

 インド・チリカ湖からモクズヨコエビ科 Hyalidae ミナミモクズ属の1新種を記載。オゴノリ属に付着するようです。本文は有料。



Mussini, Stepan, and Vargas (2024) 

Hyalella mboitui

Hyalella julia 

 パラグアイからヒアレラ属の2新種を記載。Hyalella mboitui の種小名は現地に伝わるグアラニー神話の7体の伝説の怪物の一つ・ボイトゥーテイに由来し、H. julia はパラグアイの生物多様性研究へ貢献したジュリオ・ラファエル・コントレラス氏への献名とのことです。大顎の形状が生息ニッチの違いを反映しているとの考察がなされています。ヒアレラ属をナミノリソコエビ科に含めていますが、現在のコンセンサスは独立したヒアレラ科に位置づけるべきと思います。本文は無料で読めます。




MARCH

Wang, Sha, and Ren (2024a) 

Stegocephalus carolus

 フクレソコエビ科 Stegocephalidae フクレソコエビ属の1新種を、ニューギニア島の北に位置する海山から記載。本文は無料で読めます。




APRIL

Xin, Zhang, Ali, Zhang, Li, and Hou (2024)

Sarothrogammarus miandamensis

Sarothrogammarus kalamensis 

 パキスタンの淡水域からヨコエビ科 Gammaridae の2新種を記載。本文は有料ですが、アブストにわりと細かな形態の記述があります。



Lee and Min (2024)

Pseudocrangonyx seomjinensis 

Pseudocrangonyx danyangensis

 韓国の河川間隙水的な環境からメクラヨコエビ科 Pseudocrangonyctidae メクラヨコエビ属の2新種を記載。形態の検討に加えて、28S rRNA と COI Mt DNA の解析を実施しているとのこと。本文は有料。



Ariyama and Kodama (2024)

リュウキュウマエアシヨコエビ Protolembos ryukyuensis 

ヘコミマエアシヨコエビ Tethylembos cavatus 

 日本近海よりユンボソコエビ科 Aoridae の2新種を記載。T. japonicus ニッポンマエアシヨコエビの生態写真および線画も掲載。そして、何といっても日本産ユンボソコエビ科34種の検索表が載ってる超有用文献です。本文は有料。



Lörz, Nack, Tandberg, Brix, and Schwentner (2024)

Halirages spongiae

 アイスランドの低温海域において海綿表面から得られたウラシマヨコエビ科 Calliopiidae の1新種を記載。9種の検索表を提供。本文は無料で読めます。



Navarro‑Mayoral, Gouillieux, Fernandez‑Gonzalez, Tuya,  Lecoquierre, Bramanti, Terrana, Espino, Flot, Haroun, and Otero‑Ferrer (2024)

Wollastenothoe minuta Gouillieux & Navarro-Mayoral, 2024

 カナリー諸島の水深60mに自生するサンゴに付着するタテソコエビが、新属新種として記載されました。タテソコエビ科 Stenothoidae の属までの二又式検索表が掲載されていてかなり有用です。本文まで無料で読めます。




MAY

Thacker, Myers, Trivedi, and Mitra (2024)

Parhyale kalinga

Chilikorchesta chiltoni 

Grandidierella rabindranathi 

    インドのチリカ湖から3新種と、ハマトビムシ上科 Talitroidea の1新属を記載。アブストに形態の記述がわりとしっかり記されています。本文は有料。



Ahmed, Kamel, Maher, and Zeina (2024)

Pontocrates longidactylus Ahmed, Kamel, Maher & Zeina, 2024

 エジプトからクチバシソコエビ科 Oedicerotidae ハサミソコエビ属の1新種を記載。投稿時点の既知種6種の2又式検索表を提供しています。2024年12月2日現在、本文は無料で読めます。




JUNE

Kaim-Malka (2024)

Paranamixis fishelsoni 

 地中海からマルハサミヨコエビ科 Leucothoidae タンゲヨコエビ属 Paranamixis の1新種を記載。本属において地中海からの記録は初めてとのことです。半世紀のキャリアをもつレジェンド仏人研究者の独り親方仕事です。本文は有料。



Mirghaffari and Esmaeili-Rineh (2024) 

Niphargus elburzensis 

Niphargus zagrosensis 

 イランから ニファルグス属 Niphargus の2新種を記載。形態と分子を見ています。配列はCOI領域と28S領域を見ているようです。本文は無料で読めます。



Ortiz, Winfield, and Chazaro-Olvera (2024)

Pseudorhachotropis longipalpus

 メキシコ湾水深2,321mの海底からテンロウ科 Eusiridae の新属を記載。本文は有料。



Garcia Gómez, Myers, Avramidi, Grammatiki, Ⅼymperaki, Resaikos, Papatheodoulou, Ⅼouca, Xevgenos, and Küpper (2024)

Pontocrates marmario Garcia Gomez & Myers, 2024

 キプロスからクチバシソコエビ科ハサミソコエビ属の1新種を記載。記載図の大部分を、染色した標本の透過光写真で表現しています。地中海のハサミソコエビ属の検索表を提供。2024年6月25日現在、無料で読めます。



Tandberg and Vader (2024)

Stenula traudlae

 ブリティッシュコロンビアから、クダウミヒドラ科に付着するタテソコエビ科の記載。世界に産する Stenula属 17種 と Metopa属 2種 の検索表を提供しています。2024年8月3日現在無料で読めます。




JULY

Giulianini, De Broyer, Hendrycks, Greco, D’Agostino, Donato, Giglio, Gerdol, Pallavicini, and Manfrin (2024)

Orchomenella rinamontiae 

 南極からタカラソコエビ科 Tryphosidae ツノフトソコエビモドキ属の1新種を記載。COI領域を解析しています。形態の記述において、マイクロCTによって得られた3D画像を”デジタルホロタイプ”とするポテンシャルを提示しています。本文は有料ですが、研究内容を紹介した記事がタダで読めます。



Baytaşoğlu, Aksu, and Özbek (2024)

Gammarus sezgini 

 トルコからヨコエビ科ヨコエビ属の1新種を記載。形態の観察に加えて、COI領域と28S領域の解析を行っています。本文は無料で読めます。



Thacker, Myers, and Trivedi (2024) 

Maera gujaratensis

Quadrimaera okha

 インドのグジャラート州からスンナリヨコエビ科 Maeridae の4属の2新種と2既知種を報告。Coleman method を踏襲したスケッチの出来がイマイチで見栄え云々どころでなく信用性に欠けると思われる部分があるのと、文中において可算名詞が正しく複数形表記されてないといった英文法の誤りがあったり、亜属の括弧がイタリックになっているなど「キホンのキ」に問題があり、読んでいると頭が痛くなります。こういった恥ずかしい論文を世に出さないよう、精進していきたいところです。本文は有料。



Pérez-Schultheiss, Fernández, and Ribeiro (2024)

Atacamorchestia atacamensis

Lafkenorchestia oyarzuni 

 チリーからハマトビムシ科 Talitridae の2新属2新種を記載。また、太平洋南東岸から初めてヒメハマトビムシ属 Platorchestia を報告。本文は有料。



Nascimento and Serejo (2024)

Halicoides campensis 

Halicoides iemanja

 大西洋南西域からミコヨコエビ科 Pardaliscidae の2種を記載。ブラジル沖からの本属の記録は初のとのことです。本文は有料。



Ariyama (2024)

オウギヨコエビモドキ Curidia japonica 

 和歌山から北西太平洋初記録科の1新種を記載。Ochlesidae に オウギヨコエビ科,Curidia に オウギヨコエビモドキ属 との和名を提唱。この科はスベヨコエビ科がシノニマイズされた経緯があります(詳細はこちら。本文は無料で読めます。




AUGUST

SOSA et al. (2024)

Cuniculomaera grata Tandberg & Jażdżewska in SOSA et al. 2024

 ベーリング海から、海底に特徴的な巣穴を作るスンナリヨコエビ科の新属新種を記載。オープンアクセスで、一緒に発見された他の分類群の10もの新種が一緒に記載されています。また、その興味深い生態を解き明かした論文 (Brandt et al. 2023) も今のところ無料で読めます。



Bhoi, Myers, Kumar, and Patro (2024)

Floresorchestia odishi Bhoi, Patro and Myers in Bhoi, Myers, Kumar, and Patro, 2024

 インドのチリカ・ラグーンの潮間帯のオゴノリ属の間から、ハマトビムシ科の新種が記載されたようです。何がとは言いませんが、品質が悪いです。本文は有料です。



Stewart, Bribiesca-Contreras, Weston, Glover, and Horton (2024)

Valettietta synchlys

Valettietta trottarum

 太平洋の4,000m以深の深海域から Valettiopsidae科 の2新種を記載。形態の検討に加え、フトヒゲソコエビ類12属の配列情報を用いた分子系統解析を行っていますが、Alicelloidea(ダイダラボッチ上科?)の単系統性は否定されています。本文は無料で読めます(2024年8月現在)。



Kim, Choi, Kim, Im, and Kim (2024) 

Aoroides gracilicrus

Grandidierella naroensis 

 韓国からユンボソコエビ科の2新種を記載。韓国産ユンボソコエビ科9種の検索表を提供。本文は無料で読めます。



Kodama, Mukaida, Hosoki, Makino, and Azuma (2024)

ナンセイソコエビ Podoceropsis nanseiae 

 鹿児島湾からクダオソコエビ科 Photidae の1新種を記載。Podoceropsis属 に ソコエビモドキ属 との和名を提唱しています。鹿児島大がシンプルなプレリリを出しています。本文は無料で読めます(2024年8月現在)。


Hosein, Zeina, Kawy, ElFeky, and Omar (2024)

Vasco amputatus 

 エジプトの紅海沿岸からヒサシソコエビ科 Phoxocephalidae の1新種を記載。充実した背景情報の記述と精緻なスケッチ、分布情報まで添えてある作り込まれた論文ですが、あらゆる表記で本種の種小名の1文字目が大文字となっており(既知種においては正常の表記)、大変気味が悪いです。本文は無料で読めます。



Stoch, Knüsel, Zakšek, Alther, Salussolia, Altermatt, Fišer, and Flot (2024) 

Niphargus absconditus

Niphargus tizianoi 

 ルーマニアからニファルグス属の2新種を記載。カルパチア山脈の一角の個体群とアルプスの個体群が N. bihorensis の隠蔽種にあたることを遺伝的手法により確認した研究で、この種のタイプ標本をもとに再記載も行って分類学的混乱の整理を試みています。本文は無料で読めます(2025年2月現在)



SEPTEMBER

Mamaghani-Shishvan, Akmali, Fišer, and EsmaeiliRineh (2024)

Niphargus sahandensis

Niphargus chaldoranensis 

 イランからニファルグス属の2新種を記載。形態とCOI領域の解析を併用しています。本文は無料で読めます(2024年12月現在)



Wang, Sha, and Ren (2024b) 

Phoxirostus longicarpus

Phoxirostus yapensis 

 Laphystiopsidaeというレアな科を太平洋の熱帯域から報告。Phoxirostus属を設立するとともに2種を記載。「頭頂が尖っている」という意味の属名ですが、近縁種を見渡しても突出はそれほど目立ちません。Laphystiopsidae科の4属の検索表を提供。本文まで無料で読めます。



Souza-Filho, Guedes-Silva, and Andrade (2024)

Adeliella debroyeri

Tectovalopsis potiguara

Epimeria colemani

Alexandrella cedrici

 ブラジル北東部のPotiguar海盆から4新種を記載。4種中1種の種小名は地名に由来、3種がヨコエビ界隈の著名な西側研究者(フランスのクロード・ドゥブロワイエ,ベルギーのセドリック・デュデケム・ダコ,ドイツのチャールズ・オリバー・コールマン)に献名されています。本文は有料。



Tomikawa, Yamato, and Ariyama (2024)

パンダメリタヨコエビ Melita panda 

 NHKの特集でスケッチがチラ見せされたり、広大の図書館に原画が展示されたり、じわじわ盛り上がっていたメリタヨコエビ科 Melitidae メリタヨコエビ属の新種がついに記載されました。海外のサイトでも取り上げられていますね。

 そうとしか言いようのない模様から、かねてよりヨコエビストの間で「パンダメリタ」と呼ばれていた集団の一部です。タイプ産地は卓越したジャイアントパンダの繁殖技術をもつ某動物園の近くであるため、これも必然的な帰着の命名といえるでしょう。あまりに出来すぎていることから「人為的にパンダ模様にしたものではないか」という陰謀論さえ飛び交っているようですが、たとえ写真でもジャイアントパンダを見たことがあれば本種の体色が厳密には「パンダ柄」ではなく「逆パンダ柄」であることに気づかないはずはなく、また白浜だけに棲息するものでもないことから、パンダ模様に染められたなどという妄言には一顧だにする価値もないことは言うまでもありません(そういう意味では、狙って白浜産標本をタイプに指定したように思えます)(知らんけど)

 形態的にはカギメリタヨコエビに近いようですが、体色のほかにオスの第1咬脚前節前縁の突出部に大きな特徴があります。また、有山 (2022) に掲載されているパンダ感のある未記載種 Melita sp. 2 とは、第3尾肢外肢の節数で識別が可能です。

 第二著者にメリタヨコエビ類の大家である大和茂之先生が入っており、しばらくヨコエビの記載研究をお休みされていた大和先生の復帰作という点でも非常に話題性のある論文といえます。無料で読めます。




DECEMBER

Copilaş-Ciocianu, Prokin, Esin, Shkil, Zlenko, Markevich, and Sidorov (2024) 

Palearcticarellus hyperboreus Sidorov & Copilaş-Ciocianu, in Copilaş-Ciocianu et al., 2024

Pseudocrangonyx elgygytgynicus Sidorov & 

Copilaş-Ciocianu, in Copilaş-Ciocianu et al., 2024

 ロシアのエリギギトギン湖からマミズヨコエビ科 Crangonyctidae の1新種を記載。ミトコンドリアCOI,核16S,ヒストンH3,18S,28Sの領域を用いてマミズヨコエビ科やメクラヨコエビ科を含む Crangonyctoidea上科(マミズヨコエビ上科?)の系統関係を解析するとともに、地理的イベントとの整合性も示しています。本文は有料。



Weston, González, Escribano, and Ulloa (2024)

ドゥルシベラ・カマンチャカ Dulcibella camanchaca 

 アタカマ海溝からテンロウ科の1新種を記載。新しいタイプの捕食性種ということで、力を入れて生態特性の推定をしています。物見高いサイトが虚飾織り交ぜて取り上げていましたが、本当の研究内容を知りたい場合カラパイアの書き方が一番誤解が少ないと思います。本文は無料で読めます。



Choi and Kim (2024)

Melita aestuarina

 韓国からメリタヨコエビ属の1新種を記載。”シミズメリタヨコエビ”についても韓国から初報告しています。本文は有料。



Stoch, Citoleux, Weber, Salussolia, and Flot (2024)

Niphargus quimperensis 

 ブリュターニュからニファルグス属の1新種を記載。科全体の分子系統解析を行い、Niphargellus属をニファルグス属の新参シノニムとしています。本文は有料。



Labay (2024)

Vonimetopa longimana 

 樺太からタテソコエビ科の1新種を記載。Vonimetopa属6種の二又式検索表を提供。本文は無料で読めます(2024年12月現在)。


 というわけで、54 56 58が記載されたようです。



<参考文献>

Ahmed, Y. S.; Kamel, R. O.: Maher, S.; Zeina, A. F. 2024. New Species of Genus Pontocrates Boeck, 1871 (Amphipoda: Oedicerotidae) from the Red Sea Soft Bottom Substrates, Egypt. Egyptian Journal of Aquatic Biology and Fisheries28(3): 257–267.

Ariyama H. 2024. Curidia japonica sp. nov., the First Species of the Family Ochlesidae from the Northwest Pacific (Crustacea: Amphipoda). Species Diversity29(2): 199–207.

Ariyama H.; Kodama M. 2024. Three species of the family Aoridae Stebbing, 1899 (Crustacea: Amphipoda) collected from remote islands in southern Japan, with a key to all Japanese species of the family. Zootaxa, 5433(4): 500–528.

Baytaşoğlu, H.; Aksu, İ.; Özbek, M. 2024. Gammarus sezgini sp. nov. (Arthropoda, Amphipoda, Gammaridae), a new amphipod species from the Eastern Black Sea region of Türkiye. Zoosystematics and Evolution, 100(3): 989–1004. 

Bhoi, G.; Myers, A. A.; Kumar, R. K.; Patro, S. 2024. A new species of the genus Floresorchestia (Crustacea, Amphipoda, Talitridae) from Chilika Lagoon, east coast of India. Zootaxa, 5493 (5): 590–598.

Choi J.-H.; Kim Y.-H. 2024. A new species of the genus Melita (Crustacea, Amphipoda, Melitidae) and a new record for Melita shimizui from Korean Brackish Waters. Zootaxa, 5551(3): 512–530.

Copilaş-Ciocianu, D.; Prokin, A.; Esin, E.; Shkil, F.; Zlenko, D.; Markevich, G.; Sidorov, D. 2024. The subarctic ancient Lake El’gygytgyn harbours the world’s northernmost ‘limnostygon communityʼ and reshuffles crangonyctoid systematics (Crustacea, Amphipoda). Invertebrate Systematics, 38: IS24001. 

Do Nascimento, P. S.; Serejo, C. S. 2024. New findings of the family Pardaliscidae from the southwestern Atlantic: the genus Halicoides Walker, 1896. Zootaxa, 5481(5): 501–519.

Garcia Gómez, S. C.; Myers, A. A.; Avramidi, E.; Grammatiki, K.; Ⅼymperaki, M. M.; Resaikos, V.; Papatheodoulou, M.; Ⅼouca, V.; Xevgenos, D.; Küpper, F. 2024. A new species of Pontocrates Boeck, 1871 (Crustacea, Amphipoda, Oedicerotidae) from Cyprus. Zootaxa5474(1): 59–67.

Giulianini, P. G.; De Broyer, C.; Hendrycks, E. A.; Greco, S.; D’Agostino, E.; Donato, S.; Giglio, A.; Gerdol, M.; Pallavicini, A.; Manfrin, C. 2024. A new Antarctic species of Orchomenella G.O. Sars, 1890 (Amphipoda: Lysianassoidea: Tryphosidae): is phase-contrast micro-tomography a mature technique for digital holotypes? Zoological Journal of the Linnean Society, 201(3): zlae075. 

Hosein, S. G.; Zeina, A. F.; Soheir Abdel Kawy, S. A.; ElFeky, F. A.; Omar, N. R. 2024. A New Species of Vasco, Barnard and Drummond (1978) (Amphipoda:Phoxocephalidae) from the Egyptian Red Sea Coast. Egyptian Journal of Aquatic Biology & Fisheries, 28(4): 1643–1654.

Kaim-Malka, R. M. 2024. A new species of the family Leucothoidae (Crustacea, Amphipoda) from the Mediterranean Sea, Paranamixis fishelsoni sp. nov. Zootaxa, 5463(3): 441-450.

— Kodama M.; Mukaida Y.; Hosoki T. K.; Makino F.; Azuma T. 2024. A new species of the genus Podoceropsis Boeck, 1861 (Crustacea: Amphipoda: Photidae) from Kagoshima Bay, Japan. Plankton & Benthos Research19(3): 141–152.

Labay, V. S. 2024. Vonimetopa longimana sp.n. (Crustacea: Amphipoda: Stenothoidae), a new amphipod species from the Russian coasts of the Sea of Japan. Arthropoda Selecta, 33(4): 527–535.

— Lee C.-W.; Min G.-S. 2024. Two new species of Pseudocrangonyx (Amphipoda: Pseudocrangonyctidae) from the hyporheic zones in South Korea. Zootaxa5433(2): 249–265.

— Limberger, M.; Castiglioni, D. S.; Santos, S. 2024. Description of one species of freshwater amphipod Hyalella (Crustacea, Peracarida, Hyalellidae) from the northwest region of the state of Rio Grande do Sul, Southern Brazil. Zootaxa, 5403(3): 331–345.

Lörz, A.-N.; Nack, M.; Tandberg, A.-H.S.; Brix, S.; Schwentner, M. 2024. A new deep-sea species of Halirages Boeck, 1871  (Crustacea: Amphipoda: Calliopiidae) inhabiting sponges. European Journal of Taxonomy930: 53–78.

Mamaghani-Shishvan, M.; Akmali, V.; Fišer, C.; EsmaeiliRineh, S. 2024. Two New Species of Stygobiotic Amphipod Niphargus (Amphipoda: Niphargidae) and their Phylogenetic Relationship with Other Congeners from Iran. Zoological Studies, 63:e23.

Mirghaffari, S. A.; Esmaeili-Rineh, S. 2024. Two new species of groundwater-inhabiting amphipods belonging to the genus Niphargus (Arthropoda, Crustacea), from Iran. Zoosystematics and Evolution, 100(2): 721–738. 

Mussini, G.; Stepan, N. D.; Vargas, G. 2024. Two new species of Hyalella (Amphipoda, Dogielinotidae) from the Humid Chaco ecoregion of Paraguay. ZooKeys, 1191: 105–127.

Navarro‑Mayoral, S; Gouillieux, B.; Fernandez‑Gonzalez, V.; Tuya, F.; Lecoquierre, N.; Bramanti, L.; Terrana, L.; Espino, F.; Flot, J.-F.; Haroun, R.; Otero‑Ferrer, F. 2024. “Hidden” biodiversity: a new amphipod genus dominates epifauna in association with a mesophotic black coral forest. Coral Reefs

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Patro, S.; Bhoi, G.; Myers, A. A.; Sahu, S. 2024. A new species of amphipod of the genus Parhyale Stebbing, 1897 from Chilika Lagoon, India. Zootaxa, 5410(3): 376–383.

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SOSA; Brandt, A.;, Chen, C.; Engel, L.; Esquete, P.; Horton, T.; Jażdżewska, A. M.; Johannsen, N.; Kaiser, S.; Kihara, T. C.; Knauber, H.; Kniesz, K.; Landschoff, J.; Lörz A.-N.; Machado, F. M.; Martínez-Muñoz, C. A.; Riehl, T.; Serpell-Stevens, A.; Sigwart, J. D.; Tandber,g A. H. S.; Tato, R.; Tsuda M.; Vončina, K.; Watanabe H. K.; Wenz, C.; Williams, J. D. 2024. Ocean Species Discoveries 1–12 — A primer for accelerating marine invertebrate taxonomy. Biodiversity Data Journal, 12: e128431. 

Souza-Filho, J. F.; Guedes-Silva, E.; Andrade, L. F. 2024. Four new species and two new records of deep-sea Amphipoda (Crustacea: Peracarida) from Potiguar Basin, north-eastern Brazil. Journal of Natural History, 58(41–44): 1615–1655.

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Stoch, F.; Citoleux, J.; Weber, D.; Salussolia, A.; Flot, J.-F. 2024. New insights into the origin and phylogeny of Niphargidae (Crustacea: Amphipoda), with description of a new species and synonymization of the genus Niphargellus with Niphargus, Zoological Journal of the Linnean Society, 202(4). zlae154. 

Stoch, F.; Knüsel, M.; Zakšek, V.; Alther, R.; Salussolia, A.; Altermatt, F.; Fišer, C.; Flot, J.-F. 2024. Integrative taxonomy of the groundwater amphipod Niphargus bihorensis Schellenberg, 1940 reveals a species-rich clade. Contributions to Zoology, 93(4): 371–395.

Tandberg, A. N. S.; Vader, W. 2024. Description of a new species of Stenula Barnard, 1962 (Amphipoda: Stenothoidae) from British Columbia, Canada associated with Bouillonia sp. (Cnidaria: Hydrozoa: Tubulariidae), with a key to the world species of StenulaJournal of Crustacean Biology, 44, ruae036.

Thacker, D.; Myers, A. A. Trivedi, J. N. 2024. On a small collection of Maeridae Krapp-Schickel, 2008 (Crustacea: Amphipoda) from Gujarat, India. Zootaxa, 5474(5): 563–583.

Thacker, D.; Myers, A. A.; Trivedi, J. N.; Mitra, S. 2024. On a small collection of amphipods (Crustacea, Amphipoda) from Chilika Lake with the description of three new species and a new genus. Zootaxa, 5446(3): 383-404.

Tomikawa K.; Yamato S.; Ariyama H. 2024. Melita panda, a new species of Melitidae (Crustacea, Amphipoda) from Japan. ZooKeys, 1212: 267–283. 

Wang Y.; Sha Z.; Ren X. 2024a. One new species of Stegocephalus Krøyer, 1842 (Amphipoda, Stegocephalidae) described from a seamount of the Caroline Plate, NW Pacific. ZooKeys, 1195: 121–130. 

—  Wang Y.; Sha Z.; Ren X. 2024b. Taxonomic exploration of rare amphipods: A new genus and two new species (Amphipoda, Iphimedioidea, Laphystiopsidae) described from seamounts in the Western Pacific. Diversity, 16(9): 564pp. 

Weston, J. N. J.; González, C. E.; Escribano, R.; Ulloa, O. 2024. A new large predator (Amphipoda, Eusiridae) hidden at hadal depths of the Atacama Trench. Systematics and Biodiversity, 22:1, 2416430. 

Xin W.; Zhang C.; Ali, A.; Zhang X.; Li S.; Hou Z. 2024. Two new species of Sarothrogammarus (Crustacea, Amphipoda) from Swat Valley, Pakistan, Zootaxa, 5432(4): 509–534.


<その他参考文献>

有山啓之 2022.『ヨコエビ ガイドブック』.海文堂,東京.160頁.ISBN 9784303800611.

Brandt, A.; Chen, C.; Tandberg, A. H. S.; Miguez-Salas, O.; Sigwart, J. D. 2023. Complex sublinear burrows in the deep sea may be constructed by amphipods. Ecology and Evolution, 13: e9867. 


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<補遺>28-xii-2024

— Copilaş-Ciocianu, Prokin, Esin, Shkil, Zlenko, Markevich, Sidorov (2024) を追加


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<補遺2>17-ii-2025

— Stoch, Knüsel, Zakšek, Alther, Salussolia, Altermatt, Fišer, and Flot (2024) を追加