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2026年10月19日月曜日

水辺の小さな住人/ヨコエビみっけ!(10月度活動報告)

 

 小倉でヨコエビの生体展示と観察イベントがあるとのことで、まぁ、行くしかないです。


ストビューで見たときは目を疑いました。


 紫川という河川のほとりにある、ウナギの寝床のような施設ですね(なおパンダウナギの展示もあります)。

 1階がモンベルで2階が料理店?地階が水族館というのが、何を考えてるのかさっぱり分かりません。最高すぎる。


 コンパクトで熱量に溢れる水族館という感じで、足立区生物園やすさみエビとカニの水族館に通ずるものを感じます。

 受付からみて一番奥に、企画展会場があります。


ヨコエビの生体展示が含まれる「水辺の小さな住人」


 現時点のヨコエビ展示種は以下の通りです。

  • ニホンドロソコエビ Grandidierella japonica
  • フサゲモクズ Ptilohyale barbicornis
  • ニッポンヨコエビ Gammarus nipponensis
  • ヒゲツノメリタヨコエビ Melita setiflagella
  • モズミヨコエビ Ampithoe valida
  • ヒメハマトビムシ種群 Platorchestiinae gen. sp. (species group of Platorchestia pacifica, Demaorchestia joi)


 スタッフの完全独学かつ数日前まで同定に追われていた出来たてホヤホヤの展示とのことですが、最新の知見を織り込みながら、子供の好奇心に寄り添うパネルは完成度が高いです。ヒメハマトビムシを種群として扱っているのも好感が持てます。というか、これほどの規模で種同定された端脚目が一堂に会している生体展示は、世界初ではないでしょうか。


 観察イベント「ヨコエビみっけ!」は、ソーティングとヒメハマトビムシ種群の跳躍観察で約40分があっという間でした。


かなり甘いところから採ったという緑藻と
落ち葉の混じった塊の中に、
ヒゲツノメリタとニホンドロソコ、
よくわからん水棲幼虫とチビゲン的サムシングと
ウズムシとケンミジンコ。

 午前の部、午後の部で各4組の募集でしたが、前日時点では5枠埋まっているとのことで、当日は午後1枠を残して全て埋まっていたようです。異常成人男性は私だけのようで、概ねご夫婦?やお子さん連れで、施設イベントの常連の方もいるようです。これまでの感じから、イベント皆勤みたいなモチベーションでヨコエビに触れる、という流れが見えてきます。


 宮崎県での作者の体験をルーツに持つ「ガタガール」が置かれているなど、九州の水辺の環境学習施設らしさ?を強く感じました。

 ヨコエビの分類を身につけるというような目的ではなく、あくまで、ありふれた生物を調べてみたら姿形な動きが面白い、よく見たら種類によって全然違う、という部分を主題としていて、ヒメハマトビムシの跳躍の距離を実測するという、ありそうで無かった企画に落とし込んでいるのは面白かったです。



 以下、会場で交わされていた疑問に絡んで、一般の方が関心を持っていると思われる事柄について私見を述べます。


【北九州のヒメハマトビムシの正体】

 今回サンプルを解剖することはできませんでしたが、オス第7胸脚腕節の膨らみを見るに、門司の個体はタイヘイヨウヒメハマトビムシの可能性が高いです。

 和白の個体もタイヘイヨウヒメハマトビムシでしたし、Morino (2024) はタイヘイヨウヒメハマトビムシとクシヒメハマトビムシ以外のヒメハマトビムシ種群の日本での分布を報告していないため、細部が追加検討できれば、ヤバい未記載種がいない限りタイヘイヨウヒメハマトビムシに落ちるのではと思います。


【ハマトビムシのジャンプ】

 尾肢を地面に打ち付けて跳ねています。歩く足を使わない点で昆虫とは全く異なる行動といえます。尾肢のトゲが地面を良い感じにグリップするのに役立っていて、エネルギーが上方へ分散するのを防いで水平方向への飛距離を稼いでいるとのことです(須藤・天野,2014)。


【ハマトビムシの産卵】

 他のヨコエビと同様、覆卵葉の中で産卵と放精が行われるため、産卵の瞬間は普段の生活空間と同じものと思います。抱卵個体やプレコピュラ個体がその他のものに混じって獲れることがその証左です。実際、ヒメハマトビムシ種群において、湿った砂中に掘った巣穴深部において「交尾行動」が報告されています(井上,1982)。放精は産卵直後に行われるため、「交尾」(交接)行動が確認された時点でそれは産卵と前後した行動と考えられます。

 ただ、水中に住む一般的なフクロエビ類は当然水に満たされた覆卵葉の中に放精するはずで、水から揚がった状態の覆卵葉の中の卵へ放精して、満遍なく受精できるのでしょうか…?

 ハマトビムシ類と同じ属や科のものには水辺から離れた森林に暮らすものもいて、そういう種は遊泳できないほど腹肢が退化していることもあるので、受精のタイミングで必ず水に入るとは到底考えられません。

 これは後で調べることとします。



〈参考文献〉

— Morino H. 2024. Variations in the characters of Platorchestia pacifica and Demaorchestia joi (Amphipoda Talitridae, Talitrinae) with revised diagnoses based on specimens from Japan. Diversity, 16(31). 

— 井上久夫 1982. 潮上帯棲端脚類ヒメハマトビムシの砂中における行動について.Edaphologia,25 (26):1–13.

— 須藤 誠一・天野 拓也 2014. O220404 ハマトビムシの跳躍とそれに倣う跳躍メ力ニズ厶.日本機械学会2014年度年次大会講演論文集.


2026年9月20日日曜日

雨のプラベン(9月度活動報告)



  中山書店から『動物系統分類学』が出ましたね。北海道では日本動物学会大会。いろいろ盛り沢山の9月ですが、ヨコエビおじさんは日本プランクトン・ベントス学会大会に参戦(ROM専)です。


プラベン2026@長大文教キャンパス

 長崎といえば戦後まもなく端脚類相が記述された (Irie, 1948, 1956, 1959) 海域で、日本最大級のヨコエビ相の報文においても対象海域となっていた (Hiryayama, 1983-1988) ほか、漫然とヨコエビ論文を検索すると一番上に出てくると思われる相当メジャーな論文 (松尾ほか, 2007) も長崎をフィールドとしており、五島列島からは幻の淡水ヨコエビとの呼び声高いゴトウドウクツヨコエビが記載されています (Ueno, 1971)。更に遡れば、日本から最初に新種記載された端脚類であるオオワレカラの採集者であるシーボルトが滞在した出島があり、オオワレカラのシンタイプの産地であることやシーボルトが「warekara」という和名を聞き取りした土地とも推定できます (山口, 1993)。

 つまりは端脚類の聖地ではあるのですが、上陸は初となります。


ジョルダンだとキャンパス名が「文京」表記になっています。早く直して。


 ヨコエビを主題にした発表がいくつかあり、それぞれ異なる拠点で行われていたのが印象的でした。継続的なものとアドホックなものとがありましたが、ヨコエビの輪は確実に広がっていると感じました。

 今回は事務局に写真を送ってマグネットを作成する企画があり、僭越ながら Trinorchestia cf. trinitatis でエントリーさせていただきました。本種は形態の記述に不備があり、現時点で日本の個体群全てを近縁種と識別できず、種の定義が困難であることからcf.としています。



 ヨコエビを含めたフクロエビ上目のプレイヤーの間で、帯同を強める新たな動きがありました。これから更に盛り上がっていくものと思います。



磯採集@長崎市近郊

 せっかくなので現場に出ましょうかね。


会場から車で30分圏内の自然海岸です。


 粗い砂岩主体でゴリゴリ波に削られています。

 表面がすぐに持っていかれるせいか、付着生物は極めて少ない。クラックや、タイドプールの側面にウニが掘った穴、みたいな限定的な環境にイボイワオウギガニらしき赤い目のデカい十脚類が詰まっています。生息基質に乏しいのでハゼの類がそこここにいて、岩の表面の小型甲殻類はあらかた食い尽くされていると思われます。

 ガサガサする対象がないのでヨコエビ採集には不向き。それでもかろうじて見つけたアオサの類やウミウチワの類のまわりにドロクダムシ科が。砂浜にもヒメハマトビムシ種群はみられなかったものの、山側から来たと思われるホソハマトビムシ属の死骸はみられました。

 潮間帯採集には課題が残りました。もう少し活動圏を広げて選定してもよかったかもしれません。



<参考文献>

 — Hirayama A. 1983-1988. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan. Part Ⅰ, Part Ⅱ, Part Ⅲ, Part Ⅳ, Part Ⅴ, Part Ⅵ, Part Ⅶ, Part Ⅷ. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory.

—  Irie H. 1948. Preliminary report on Pelagic amphipods in the adjacent water. Journal of the Faculty Agriculture, Kyushu University, 9 (1): 33–39.

— Irie H. 1956. Tube-building amphipods occurring at the "wakame" (a species of brown algae: Undaria prinnatifida) grounds of Simabara, Nagasaki Prefecture. Bullerin of Faculity of Fish., Nagasaki Univ. 4: 1–6, 6 figs.

—Irie H. 1959. Studies on pelagic amphipods in the adjacent seas of Japan. Ibid., 8: 20–42, 4 figs., 11 tables.

— 松尾匡敏・首藤宏幸・東幹夫・近藤寛・玉置昭夫 2007. 諫早湾奥部締め切り後の有明海潮下帯ヨコエビ群集構造の変化. 日本ベントス学会誌, 62: 17–33.

— Ueno M. 1971. The fauna of the insular lava caves in West Japan. VII. Subterranean Amphipoda. Bulletin of the National Science Museum, Tokyo, 14 (2): 161–199. 

— 山口隆男 (編) 1993. シーボルトと日本の博物学 : 甲殻類.日本甲殻類学会.

2025年9月1日月曜日

書籍紹介『水の中の小さな美しい生き物たち』(9月度活動報告)

 またヨコエビが採り上げられた書物が出版されました。

 


— 仲村康秀・山崎博史・田中隼人(編) 2025.『カラー図解 水の中の小さな美しい生き物たち―小型ベントス・プランクトン百科―』.朝倉書店,東京.384pp. ISBN:978-4-254-17195-2(以下、仲村ほか, 2025)


 出版社は異なりますが『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン』の系譜のように思えます。ボリュームが充実し、ベントス要素が強化された感じでしょうか。なお、ページ数は2倍ちょっと、価格は10倍になっています。



仲村ほか (2025) を読む

 解説のないものも入れて、掲載端脚類は以下の通りです。この他に、表紙に姿があるリザリアライダーの話題も紹介されています。

  • Orientomaera decipiens(フトベニスンナリヨコエビ)
  • Ptilohyale barbicornis(フサゲモクズ)
  • Monocorophium cf. uenoi(ウエノドロクダムシと比定される種)
  • Pontogeneia sp.(アゴナガヨコエビ属の一種)
  • Caprella penantis(マルエラワレカラ)
  • Simorhynchotus antennarius
  • Vibilia robusta(マルヘラウミノミ)
  • Oxycephalus clausi(オオトガリズキンウミノミ)
  • Melita rylovae フトメリタヨコエビ
  • Grandidierella japonica ニホンドロソコエビ
  • Podocerus setouchiensis セトウチドロノミ
  • Sunamphitoe tea コブシヒゲナガ
  • Leucothoe nagatai ツバサヨコエビ
  • Jassa morinoi モリノカマキリヨコエビ
  • Caprella californica sensu lato トゲワレカラモドキ
  • Caprella andreae ウミガメワレカラ
  • Caprella monoceros モノワレカラ
  • Themisto japonica ニホンウミノミ
  • Phronima atlantica アシナガタルマワシ
  • Lestrigonus schizogeneios サンメスクラゲノミ

※仲村ほか (2025) に明示の無い和名は()内に示しています。


 なかなかボリュームがあります。

 だいたいが筆者のKDM先生が撮られた写真のように見受けられます。先生の主な研究テーマである藻場の生態系と端脚類に関するコラムもあり、エンジニア生物や物質循環といった観点から端脚類を見ることもできる構成となっています。KDM研における最新の分類学的知見を反映して「ウエノドロクダムシ」の同定に慎重になっている、といったライブ感があるのもポイント高いです。


 白眉はなんといってもヨコエビからクラゲノミまで揃い踏みしているところにありますが、驚愕したのは、堂々と旧3亜目体制に基づいている点。海外の文献では Lowry and Myers (2017) に基づく現在の6亜目体制を追認する動きが一般的となっている印象がありますが、日本人研究者は亜目を省略するなど距離をとる雰囲気がありました。「国内では不人気」という言い方もできるかもしれませんが、それを形にしたのは非常に画期的です。

 新知見を採用しないというと時代に取り残されている感じもしますが、6亜目体制は「形態に忠実であることを謳っている一方で例外を意図的に無視しており、自己矛盾している」「かといって系統を反映させる気はない(遺伝的知見との整合性を意図したような例外の扱いではない)」「形態的な明朗性・系統反映のポリシー・過去の慣例の全てを犠牲にしたわりに直感的に分かりにくく、使い勝手が良い場面が特にない」といった問題があります。Lowry and Myers (2017) は大量の分類群について形態マトリクスを作成して議論を試みた労作であることは間違いないのですが、このように中途半端な改変を行うより、「尾肢の先端に棘状刺毛があるグループとそうでないグループを発見した」というような発表に留めておいたほうが、論文として評価は高かったのではと思います。端脚類全体を網羅する下目・小目といった新概念を提唱しつつ、結局所属不明科を残したままというのも片手落ちの感があります。そろそろ10年になりますが、特に優れた点の無い体系のため安定して使い続けられる保障がないという判断から、採用に慎重になっている人がいるものと、個人的には理解しています。

 こういった分類のややこしさについても、仲村ほか (2025) は論文を引いて示しています。


 仲村ほか (2025) の印象を一言で表すとすれば「本棚にベンプラ大会」。タイトルからすると「生物ルッキズムを含んだ写真集」のように思えますが、写真はカットの物量こそあれど思いの外小さく、種や話題のチョイスの渋さ・ガチ感が光ります。前述のような分類学の議論をはじめ、ベントス・プランクトン学会大会で聴かれるお馴染みのテーマや学術的な課題が、当然のように並べられています。細菌の項で培地の写真が並んでいるのにはドン引きしました(誉め言葉)。マニアックな生物に対して、その珍奇さよりここに収録されるべき学術的意義に立脚して選定・解説しているのが、プランクトン学会とベントス学会が全面バックアップしているだけのことはあるなと、思いました。375ページに上る大著でありながら、水圏生物の花形である魚類が4ページしかないというのも特徴的だと思います。

 ただ、解説は非常に平易な文章に仕上がっており、文字数もそれほど多くありません。「写真をパラパラ見る」用途として問題はないかと思います。これだけ幅広い生物群を、「小さく美しい」というテーマに沿って網羅的に平等に扱おうと試みた書籍の例はあまりないものと思われます。『深海生物生態図鑑』のようにグラビアの美麗さや物量で押してくるタイプではないのですが、微生物やメイオベントス群集といった、ともすれば味気ない専門書の中の住人であった生物を、ビジュアル図鑑の世界へ招き入れたというのは、大きな出来事のように思えます。中学生から大学まで、生物分類や水棲生物研究全般に興味のある学生には、興味をそそるだけでなく基礎知識の勉強にもなる一冊でしょう。

 『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン』のコスパの良さが異常なので、こちらのほうがエッセンスだけ摂取したい方にはお勧めできるかもしれません。ただ、当然のことながら 仲村ほか (2025) において情報量は格段に増えていますし、学名の併記や参考文献もしっかり押さえられており、実用性を付与されているのは間違いありません。


 ちなみに、「ウミガメワレカラ」という和名が学名と明確に対応された出版物は初めてだと思います(和名の初出は青木・畑中, 2019)。そういった文脈でも参照され続ける文献と思われます。


 最後に、仲村ほか (2025) における端脚類の掲載箇所を詳細にご教示いただいた朝倉書店(公式ツイッターアカウント)様に、この場をお借りして篤く御礼申し上げます。



<参考文献>

— 青木優和 (著)・畑中富美子 (イラスト) 2019.『われから: かいそうの もりにすむ ちいさな いきもの』. 仮説社, 東京.39pp. ISBN-10:4773502967

— 藤原義弘・土田真二・ドゥーグル・J・リンズィー(写真・文)2025.『深海生物生態図鑑』.あかね書房,東京.143 pp. ISBN:978-4-251-09347-9 

— Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2017. A phylogeny and classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265 (1): 1–89.

— 山崎博史・仲村康秀・田中隼人(指導・執筆) 2024. 『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン クラゲ・ミジンコ・小さな水の生物』.小学館,東京.176pp. ISBN:9784092172975


2024年5月30日木曜日

LNO敗れる(5月度活動報告)

 

 今回はボウズかました話です。


【I海水浴場】

 例の未記載種の新鮮なサンプルが必要になりました。ヨコエビネットワークの情報に基づくと、今ここにいるはずです。


セーリングのサークルとかが活動しているようですね。


 なんというか…

 場違い感が…


 凝灰岩砕屑物を主体とすると思われる砂地をLNO法(ランドリーネットオペレーション)でガサゴソすると、よく分からない細いタナイスが大量に採れますが、ヨコエビは全くといっていいほど採れません。

 さすがに来た甲斐がなさすぎるため、ウミウチワ Padina をガサってみます。


コウライヒゲナガ Ampithoe koreana


カマキリヨコエビ科

 その他諸々。同定できそうな状態のサンプルも採れました。機会があればファウナの記述もできそう。

 しかし、目的のヨコエビは得られず。



【S海水浴場】

 ここにはいないそうですが、この近さで分布してないのは不自然なのと、昨日採れてない場所でまた採れなかった場合の精神的ダメージは計り知れないため、味変します。


ツバサゴカイ Chaetopterus のものと思われる棲管が大量に。
樋之口ほか(2024)には記載がなかったような。


 かなり遠浅ですね。

 火山岩質の黒っぽい細砂のリップルマークの畝の間に、河川から供給される凝灰岩系の淡色の粗砂が溜まっている感じです。


ドロソコエビ属 Grandidierella


 樋之口ほか(2024) にもニッポンドロソコエビの報告はありますが、学名の authorship と年との間にカンマがないのは気になるポイントですね。

 あとはクチバシソコエビ科 Oedicerotidae が大量に。今のところ属までは落としてません。
 せっかくなので検索表を載せておきます。


世界のクチバシソコエビ科の属までの二又式検索表 

(Barnard and Karaman 1991, Bousfield and Chevier 1996 に基づく)

1. 大顎臼歯部は粉砕形 … 20
— 大顎臼歯部は粉砕形でない … 2
2. 第2咬脚ははさみ形 … 3
— 第2咬脚は亜はさみ形 ... 6
3. 第3,4胸脚の指節は縮退する … 4
— 第3,4胸脚の指節は通常形 … 5
4. 第7胸脚の基節は後縁端部に葉状突起を具える … アメリカサンパツソコエビ属 Americhelidium
— 第7胸脚の基節は後縁端部に葉状突起を欠く … サンパツソコエビ属 Synchelidium 
5. 第2咬脚の前節の半分までがはさみ形となる … Chitonomandibulum
— 第2咬脚の前節の1/3未満までがはさみ形となる … ムカシサンパツソコエビ属 Eochelidium 
6. 第1咬脚の前節は延伸せず、延伸する第2咬脚の前節より明らかに短い … 7
— 第1咬脚と第2咬脚の前節はおおむね同長 … 8
7. 第1咬脚は transeverse … Monoculodopsis
—  第1咬脚は亜はさみ形 … Hartmanodes
8. 第1,2咬脚は腕節に葉状突起を具える … 10
— 第1,2咬脚は腕節に明瞭な葉状突起を欠く … 9
9. 第1触角柄部第1節は歯状突起を具える … Cornudilla 
— 第1触角柄部第1節は歯状突起を欠く … Aborolobatea 
10. 大顎髭を欠く;第1,2咬脚は発達しない … Machaironyx 
— 大顎髭を具える;第1,2咬脚は強壮 … 11
11. 第1咬脚の腕節の葉状突起は短い/前節をほとんど覆うことはない … 12
— 第1,2咬脚の腕節の葉状突起は長く前節を覆う … 13
12. 腕節の葉状突起は、第1,2咬脚において互いにほぼ同長 … Oediceros 
— 腕節の葉状突起は、第2咬脚より第1咬脚のほうが遥かに短い … Paroediceros 
13. 大顎髭の第3節は第2節とほぼ同長 … 14
— 大顎髭の第3節は第2節より短い … 15
14. 頭頂を具える;第3,4胸脚は長節側面に剛毛列を具える … Finoculodes 
— 頭頂を欠く;第3,4胸脚は長節側面に剛毛列を欠く … Arrhinopsis 
15. 第1,2咬脚の腕節は前縁が伸長し前節とほぼ同長となる、腕節の葉状突起は短く前節の掌縁に届かない … 16
— 第1,2咬脚の腕節は前縁が短い/不明瞭、腕節の葉状突起は伸長して前節の掌縁に達するか、あるいはこれを越える… 17
16. 第1,2咬脚の掌縁は指節と同長、後角は鈍角 … Imbachoculodes 
— 第1,2咬脚の掌縁は指節より短い、後角は不明瞭 … Hongkongvena 
17. 顎脚の外板は顎脚髭第1節の端部に達する;第1,2咬脚の腕節の後縁端部に葉状突起を欠く;第3,4胸脚の指節は前節より長い … Sinoediceros 
— 顎脚の外板は顎脚髭第1節の端部を越える;第1,2咬脚の腕節の後縁端部に葉状突起が伸長する;第3,4胸脚の指節は前節より明瞭に短い … 18
18. 第1触角柄部第1節は剛毛を欠く;大顎切歯部は歯状突起がよく発達する;尾節後縁は弯入しない … 19
— 第1触角柄部第1節は剛毛を具える;大顎切歯部は歯状突起を欠く;尾節後縁は弯入する … Perioculopsis 
19. 第1,2咬脚の腕節の前縁は前節長の約20%の長さ ... カンフーソコエビ属 Perioculodes 
— 第1,2咬脚の腕節の前縁は短い … Orthomanus 
20. 第2咬脚ははさみ形 … ハサミソコエビ属 Pontocrates
— 第2咬脚は亜はさみ形 … 21
21. 第1咬脚の掌縁は transverse … Carolobatea 
—  第1咬脚は強壮あるいは掌縁は鈍角 … 22
22. 大顎切歯部の歯状突起はよく発達する… 29
— 大顎切歯部の歯状突起は発達しない … 23
23. 第1咬脚は第2咬脚より大きい;第1触角柄部第1,3節は同長 … Monoculopsis
— 第1咬脚は第2咬脚より短い;第1触角柄部第3節は第1節より短い … 24
24. 第3あるいは第4底節板後部は弯入する … 25
— 第3および第4底節板後部は弯入しない … 27
25. 第1触角柄部第2節は第1節より短い … 26
— 第1触角柄部第2節は第1節と同長 … Arrhis 
26. 頭頂は尖り、第1触角柄部第1節の半分に届かない … Aceroides 
— 頭頂は伸長し、第1触角柄部第1節端部に到達する ... Rostroculodes
27. 第1,2咬脚は退化的;複眼は背面に円形を形作る  … Gulbarentsia
— 第1,2咬脚は退化的;複眼は背面に円形を形作らない、あるいは複眼を欠く ... 28
28. 複眼は縮退するかこれを欠く;大顎髭第2節は直線的 … ツッパリソコエビ属 Bathymedon
— 複眼はよく発達する;大顎髭第2節は湾曲する … Westwoodilla 
29. 第2尾節副肢先端は、第3尾肢柄部の端部に届く;第3尾肢は長大 … Halicreion
— 第2尾節副肢先端は、第3尾肢柄部の端部を明瞭に越える;第3尾肢は通常形 … 30
30. 第2咬脚の前節は第1咬脚の前節より短く、細長い … リクスイクチバシソコエビ属 Limnoculodes 
— 第2咬脚の前節は第1咬脚の前節より長いか、あるいは同長 … 31
31. 第5胸脚の長節後縁は伸長し腕節を覆う … 32
— 第5胸脚の長節は腕節を覆う突起を欠く … 33
32. 第5胸脚の長節は後縁端部に、腕節へ覆いかぶさる葉状突起を具える … Parexoediceros 
— 第5胸脚の長節は端部に突出部を欠く … Kroyera
33. 胸節背面に多数の隆起をもつ … 34
— 胸節背面に突起を欠く … 35
34. 複眼は大きく頭部背面で相接し、頭頂内へは入り込まない … Acanthostepheia
— 複眼は小さく頭頂内に収まる、あるいはこれを欠く ... Oediceroides
35. 左右の複眼は完全に癒合し、頭部の背面に位置する  … 36
— 複眼は癒合しない、あるいは癒合しても頭頂内に収まる、あるいはこれを欠く … 40
36.  第4底節板の葉状突起は発達が弱く鈍い;尾節板は後縁に切れ込みをもたず全縁  … 37
— 第4底節板は鋭く尖る葉状突起を具える;尾節板は後縁に切れ込みを具える … Paroediceroides 
37. 第1,2咬脚の腕節後縁端部の葉状突起は小さい …  Paraperioculodes 
— 第1,2咬脚の腕節後縁端部の葉状突起は、前節の掌縁後角に達する … 38
38. 第1咬脚の腕節は大きく、細長い … Pacifoculodes
— 第1咬脚の腕節は小さく、幅広い … 39
39. 第3,4胸脚の長節は腕節より長いか同長;第7胸脚の基節後角の葉状突起は不明瞭か、あるいはこれを欠く … Deflexilodes
— 第3,4胸脚の長節は腕節より長い;第7胸脚の基節は、座節を越える明瞭な葉状突起を後角に具える … Ameroculodes 
40. 第4底節板の後角は大きく鈍い葉状突起を具える … Oedicerina 
— 第4底節板の後角は大きな突出部を欠くか、あるいは大きく尖った葉状突起を具える … 41
41. 第2小顎の外板は強壮な棘状剛毛を具える … Anoediceros(一部)
— 第2小顎の外板は剛毛を欠く … 42
42. 第1触角は短く痕跡的/全長は第2触角柄部第5節を越えない;第2触角柄部は伸長し、湾曲した長剛毛を具える … 43
— 第1触角全長は第2触角柄部第5節を明らかに越える;第2触角柄部は湾曲した長剛毛を欠く … 45
43. 頭頂はよく発達する;第4底節板の後角は丸みを帯び葉状突起は不明瞭 ... Oediceroides
— 頭頂は痕跡的;第4底節板の後角は尖る … 44
44. 第1触角の柄部第1,2節は伸長する;第2触角の柄部は長剛毛を欠く;第2小顎の外板は剛毛を具える;第4底節板の葉状突起の突出は弱い … Anoediceros(一部)
— 第1触角の柄部第1,2節は短い;第2触角の柄部は長剛毛を具える;第2小顎の外板は剛毛を欠く;第4底節板は拡張する … Oediceropsis
45. 第1触角の柄部第3節は第1節より短い … クチバシソコエビ属 Monoculodes
— 第1触角の柄部第3節は第1節と同長 … 46
46. 第1,2咬脚の腕節葉状突起は前節に覆いかぶさる … Monoculopsis
— 第1,2咬脚の腕節葉状突起は前節に覆いかぶさらない … 47
47. 頭頂は前方へ伸長する … Paramonoculopsis 
 — 頭頂は伸長しない … Lopiceros

 クチバシソコエビも科としては 樋之口ほか(2024) に記録があります。

 なお、今回は上記グループ以外に文献記録がないと思われる属も見つかったので、K大での解析をお願いする予定です(丸投げ)。

 この地でもLNO法で採集を試みましたが、よりサンプルの損傷を防ぎ効率的に採捕する方法を編み出しました。これはヨコエビネットワークで共有していきたいと思います。

 東からの風が止まず、上げ潮はかなり食い気味に訪れました。潮上決戦にもつれこむことにします。


第7胸脚の長節,腕節の太さからすると、 
 タイヘイヨウヒメハマトビムシ Platorchestia pacifica 
 のような気がします。

 あまり大きな個体は採れませんでした。

 海岸に設置された環境学習施設のスタッフによると、ここの「干潟生物」の定義は厳密な干潟の定義に対して忠実に設定され、「潮間帯砂地のもののみ」に限定しているとのことで、ハマトビの類は「干潟生物ではない」という位置づけのようです。ただ 樋之口ほか(2024) は周辺の湿地のファウナも含んでいるようで、ハマトビの類もしっかり分類ができれば今後改訂版に掲載される可能性はあるかと思います。


 やはり狙ったヨコエビが採れなかったことには忸怩たる思いがありますが、久々に未踏の地で干潟を堪能できて良かったです。いるはずのヨコエビを採集できないという事態は回避していきたいので、採集方法や微環境選定など見直す精度の向上を図りたいと思います。



<参考文献>

— Barnard, J. L.; Karaman, G. S. 1991. The Families and Genera of Marine Gammaridean Amphipoa (Except Marine Gammaroids). Records of Australian Museum supplment 13, part 1,2, 866p. <part 1> <part2>

— Bousfield, E. L.; Chevrier, A. 1996. The Amphipod Family Oedicerotidae on the Pacific Coast of North America. 1. The Monoculodes & Synchelidium Generic Complexes: Systematics and Distributional Ecology. Amphipacifica, 2(2): 75–148.

— 樋之口蓉子・田島奏一朗・是枝伶旺・本村浩之 (編著) 2024. 『改訂版錦江湾奥干潟の生き物図鑑』. 特定非営利活動法人くすの木自然館, 姶良市. ISBN978-4-600-01440-7


2019年7月5日金曜日

ヨコエビ四番勝負 ~令和最初の夏も宝虫探し~(7月度活動報告)


 潮が良いので遠征してきました.

 今季は期限や目的のはっきりした採集が多く,自分のペースでフィールドのポテンシャルを測るような旅をあまりしていなかった気がします.S.A.M. project もほったらかしだし.

 件の記載論文もあとは図表に番号を振って関係方面に回すだけという段まで来たので,7月頭のこのビッグウェーブを逃すわけにはいかないと,新幹線に飛び乗りました.スマートEXまじで楽(それにしても全ての新幹線はつながっているのになぜIC乗車券に新幹線チケットを紐付けするシステムは東海道山陽と北陸上越は互換性がない…おや、誰か来たようd).



 S.A.M project とは,ヨコエビが人をかじることを確認する,極めてシンプルな企画です.
 とりあえず,できるだけ多くの人食いヨコエビを発見し,その傾向を知ることを目標としています.
 発端はオーストラリアでのこの事件です.ヨコエビが死肉を漁るのは常識といえるかもしれませんが,生きた人間をかじるという事象はあまり一般的ではないのが現状です.生きた人間がヨコエビに齧られるのかどうか.その知見が積み重なっていけば,今後無用な不安感を抱かなくても済むのではないでしょうか.余計に心配になったりして.



 さて,新幹線は思い出の岡山を過ぎて九州へ…


 しかし…


「木曜日まで豪雨」
「3日が特に激しい」
「九州は例年7月1ヶ月分の降水量が1日で降る可能性」
「気象庁が異例の会見」


 やめてよぉっ!



福岡激闘篇


 志賀島での S.A.M project の前に,九州北東部のヨコエビリティを探っておきたいと思います.

 山奥の採集であれば早期に中止を決めたでしょうが,今回の採集地は県のハザードマップでは大規模な土砂崩れの懸念箇所には含まれていなかったので,ひとまず予定通りに…



福岡県某所.


 意外と大丈夫じゃね?
 小雨がちらつく程度で時折晴れ間さえ見えます.

 ちなみに居酒屋のおばちゃんによると,ここ何日も「明日はヤバい」と予報されつつ,
ずっとこんな感じとのこと.むしろ水不足が心配らしい.ホンマかいな.




 干潟の端に電波塔が聳えています.これで分かる人は分かるかもしれません.

 アオサしかない絶望感もさることながら,干潟を埋め尽くすあまり細くないホソウミニナとヤドカリの物量.


 ヨシ原と連続していることもあってかやや泥っぽくもろもろとした砂泥の底質は悪くありませんが,少し掘るとすぐにその黒い本性を顕す潮通しの悪さと,LNO(ランドリーネットオペレーション=洗濯ネット作戦)を阻む粒径の大きさ.

 苦戦の予感.




 さっぱり採れん.

 三番瀬と谷津干潟を足して2で割った感じと言えば,千葉県のヨコエビ事情に通じている方ならばピンとくるでしょうか.アオサにはシミズメリタ,杭にはアリアケドロクダというメンバーの単調さ.モズミヨコエビもいますがかなり少ない.


モズミヨコエビ(Ampithoe valida).


メリタ属の一種(Melita ).
シミズメリタかもしれない.


ドロクダムシ科の一種(Corophiidae).
ちょっと見たことのないスレンダーなドロクダムシですね・・・
第2触角に見たことのない突起があります・・・


 ベントス相は,汀線上にコメツキ,汀線下にタマシキ,マメコブシ,ガザミ,タイワンガザミ,アサリと,ほぼ三番瀬です.アラムシロっぽい巻き貝とオキシジミっぽい二枚貝とマハゼっぽい魚もいました.違うところといえば,主張してくるフグでしょうか.


ガザミ先輩こわすぎ.


 仕方がないので,潮上決戦へ移行します.
 
 翻って,ハマトビリティは凄まじいものがあります.

 小雨パラつくコンディションが良かったのでしょう.米粒とか稗粒サイズのハマトビムシがそこらじゅうをぴょこぴょこしてます.

 このような場面にも遭遇.


この画像,ずっと自前でほしかったんだよねぇ.


 ハマトビムシを観察していると…


(チクッ)


 チクッ?!


 見ると,なんとハマトビムシがアラサーサラリーマンの汚い足を齧っているではないですか!



 ハマトビムシが人を刺すという話は以前からネットで見かけましたが,どうやらスナホリムシなどと区別がつきにくいようで,誰が犯人なのか決定的な証拠に欠けていました.新潟で土左衛門にハマトビムシがたくさん付いていたとの検死結果がありますが(小関・山内 1964),遺体の損壊には寄与していないとされています.
 オーストラリアではスナホリムシが(嘘か真か)博物館の理事長の息子さんのポークビッツを噛んだ事例(※1)がありますが,種の同定が信頼できる事例は非常に乏しかったわけです.

 しかし同時に,ハマトビムシが人を刺さない証を立てるのは「悪魔の証明」の部類です.一件でも明確にハマトビムシであることが分かればこの問題は解決できると思っていたところ,思いがけずハマトビムシに噛まれても痛いことがわかったのです!
 

 齧っているのは1個体ではないようです.指の腹を齧られても何も感じませんが,指の上や足の甲にとりついた個体は確かに口元を押し付けて齧る仕草をしています.そして明らかな痛み.

 齧っていたのは未成熟オスあるいはメスのようです.その個体そのものは確保できませんでしたが,周辺でピョコピョコしている個体の中から同定が可能なサイズのものを採取してみます.

ヒメハマトビムシの近似種(Platorchestia pacifica).



 結果:勝ち(豊かなヨコエビリティに触れることはできなかったものの新知見を得た).




志賀島再戦(リベンジマッチ)篇



 戻ってきたぜ志賀島!

 今年は2ヶ所のサイトを設定しました.



 サイト1.


 恐らく,この沖で件の事故(※2)があったものと思われます.事件発生箇所に近ければタカラムシが採れるはずですが果たして…



 サイト2.


 昨年,○○な○○を採取してしまった場所ですね.記載準備の準備中です…



 サイト2の地形やヨコエビリティは見当がついているので,最干潮の前にサイト1を見てみます.
 


 要するに,ビキニのチャンネーやらが肌を焼いているようなビーチです.ビキニも観察したいところですが,こちらはあまり潮の影響を受けないため,まずヨコエビを探ります.

 


 銚子の先っぽで見たことあるような,良さげな岩場がありますね.モクとミルを主体として,アオサや短い紅藻,場所によりサンゴ藻がこんもり生えています.ウニの密度もそれなりに.

 おもむろにガサると



ドロノミ(Podocerus ).



ソコエビ(Gammaropsis).


 
ニセヒゲナガヨコエビ(Sunamphithoe ).



ミノガサヨコエビ(Phliantidae).


イソヨコエビ(Elasmopus).


チビヨコエビ(Amphilochidae).


ホヤノカンノン(Polycheria).
これは自己初.
各胸脚の指節が付着に特化している.



 もうこんなもんでいいや(疲労).

 これ以上潮が引いても地形に変化はないようです.最干潮にあわせて場所を変えます.




 サイト2.なつかしい.


 相変わらず海藻の打ち寄せがすごい.

 昨年は血眼で Orchomenella を探した末にヤバいものを拾ってしまいました.今回は Orchomenella と Eohaustorius とついでに例のヤバいものも探してみましたが,潜砂性種は全くヒットせず.粒径の問題で LNO が機能しないという難しさが浮き彫りに.



 仕方がないので潮上決戦に持ち込み,フィニッシュとしました.採れたのはPlatorchestia pacifica でした.






 さて,今回はタカラムシに会うため,サイト1に鶏肉入りの洗濯ネットを仕掛けていたのですが…



 ダメでした…


装置の設計や設置時間に問題がある気がするので,
玄界灘に沈む夕日にリベンジを誓い,
島を後にしました.



 結果:負け(岩礁のヨコエビリティを発見したものの目的にかすりもせず)

 

ベイトトラップでなぜか Jassa がよく採れる.スカベンジャーなのかお主ら(たぶん付着基質として利用しただけ).






愛知死闘篇



 東海地方へ移動します.連戦によりぎょさん装備の足はもう限界です.

「九州南部に大雨を降らせた雨雲は東へ移動」
「東海から関東は夜にかけて雨」

 やめてよぉぉっっっ!!


 伊勢湾を挟んだ三重県と,いちおう伊豆は参戦したことがあるものの,愛知のヨコエビリティは未経験です.今回は愛知のヨコエビリティを知り,愛を知り,できれば最近集め始めた Eohaustorius を採ることを目的としています.

 愛知に Eohaustorius がいることがわかっているものの,電車で行くことを考慮して新たな干潟を探すことに.


 Googleマップでは,海苔網がかなり岸の近くまで張られているのがわかりました.李下の冠,怪しい行動は慎んで慎重な採集が求められます.

 
 しかし,串カツの美味さに我を忘れ,結局どこにも連絡しないまま現場へ.




 ロープとかは張ってないのね?

 富津を思わせる密漁絶許標示と茶色がかった砂底,繁茂したアマモ.東京湾が失ったものがここにあるようです.

 やたら転がっているワタリガニの脱皮殼.時々生体.


ハサミないけど大丈夫?


これは図鑑でしか見たことがないけど
ジャノメガザミというやつか…

 潮間帯上部はアマモやコアマモの群落が占めており,その隙間の砂地にはアオサがぽつぽつと.目につくのはタマシキとアラムシロとヤドカリ.

 潮間帯を上から下に移動し,汀線に沿っても歩いてみましたが,砂の状態は非常に均質でした.河川由来の堆積物も今回見た限りでは溜まっておらず,還元化しているところもありません.リップルマークのあるところとないところがありますが,概ね地形による感じです.表層2㎝ほどはややモロモロとした感じのする褐色,その下は東京湾奥に似た黒色の海砂です.1mmの洗濯ネットでふるうと黒い粒はすっかり抜けてしまい,少しだけ透明な粒が残るのが印象的です.



 そこへ近寄ってくる人影.優しそうなおばちゃんが声をかけてきました.

 どうやら密漁監視の方のようで,タダ乗り潮干狩り客と思われたようです.干潟でアサリなんか採れてもいつもそのへんに投げてるヨコエビおじさんとしては,身に覚えのないことです.スコップ持って干潟に立ってる時点で怪しすぎますが.

 ヨコエビを採っていることを伝えようとしましたが…せや…わてまだヨコエビ採れてへんかったわ…

 おっ,コアマモの間で枯草のフリしとるんはヒメイカはん…見てくださいこのイカが食べてるのがヨコエ…


エビジャコやんけ.


 現地にヨコエビに対応する言葉がないかと色々と探ってみましたが,やべー奴というのは伝わったらしく,逆に励まされて放免となりました…


 アカン…このままやとウシロマエソコエビを採る前にワイがパクられてまう…潔白を証明するためにまず何でもいいから「見せヨコエビ」を採らないと… 蛍光グリーンの活きのいいモズミヨコエビが欲しいところです.2㎝くらいの.


 それからアマモやコアマモをガサってみたものの,大量の微小巻貝とたまにヘラムシが落ちるだけで,一向にヨコエビが出ません.
 砂地からも何も採れません.


 もしかして,ヨコエビが存在しない世界線に来てしまったのでは?


 そんなことを考えつつ,汀線付近で波に洗われていたロープに付いたアオサをガサってみると





見せヨコエビGET!

ヒゲナガヨコエビ属の一種(Ampithoe cf. tarasovi).



 こんなに立派なヒゲナガを採ったのは久々です.

 がっちりした体形や体格を見ると,かなりニッポンモバヨコエビに見えます.一応第5底節板の下縁に短い剛毛があります.第1触角の特徴などから総合的に判断しました.


アゴナガヨコエビ(Pontogeneia).

チビヨコエビ科(Amphilochidae)のなにか.


タテソコエビ科(Stenothoidae)のなにか.

 しかし,それから砂を掘れども出てくるのはオフェリアとチロリとハマグリ(チョウセン?).ハマグリを遠投するたびHPが減少し,チロリをオルタナティヴする元気もありません.

 そこへまた地元の方が,貝を採っているのか聞いてきたではありませんか!見せヨコエビの出番!ヨコエビを採っていることを説明すべく懐からヨコエビセットを取り出そうとしていると「貝じゃないならいいです」と足早に去っていくではないですか!ちょっと!見てよ!かわいいモズミん見てよ!!ねぇ!!



 そうこうしているうちに潮は満ち始め,電車の時間もあるので,諦めて潮上決戦に移行します.

 海草場が豊かなので打ち寄せ物もアマモが多いようです.おや,まだ生きているワレカラが…


 どうやら,ここのハマトビムシは1種ではないようです.


ヒメハマトビムシの近似種(Platorchestia pacifica).



スナハマトビムシ(Sinorchstia sp.). 
あっ,やべぇこんな掌縁をした咬脚の種は見たことがねぇ.
やべぇ・・・
(ニホンスナハマトビムシでもタイリクスナハマトビムシでもないです).



結果:逆転勝ち(完全ボウズではないが,圧倒的ヨコエビリティ不足はロケハン技術不足.最後にヤバいのを引いたので加点.).





愛知突撃篇



 愛知の恐ろしさを知ったヨコエビおじさんは,例のごとく地元の有識者に助言を頼み,改めて採集地を見直すことにしました.ここから本気で Eohaustorius を求めます.



 かなりの密度でナミノリケナシザルが生息しています.群れを避けて,教えてもらったポイントへ向かいます.

 やはり密漁絶許看板が立っているので浜に下りてよいか近くの方に声をかけたところ,問題ないとのこと.スナホリケナシザルに優しいのは嬉しい.



 色が少し山砂っぽいものの,細かくさらっとした砂質が良い感じです.
 1mm メッシュの通りがとても良く,かといって腐った泥もなく,堤防に囲われかなり人工的な雰囲気が漂う環境ながら,自然海岸的な健全さを感じます.汀線付近にはうんざりするほどアオサが溜まっていますが,潮通しが極めて良好で,留まることなく移動しているようです.アオサだまりからやや下がるとアマモ場が広がっていて,その間にワタリガニやらタコやらが潜んでいるようです.


超 怖くね?

アミメキンセンガニというやつだろうか.


 あとは,夥しい稚魚,稚ガニ,貝形虫が印象的です.




ドロソコ(Grandidierella).
なぜか小さい個体しか採れない.




ウシロマエソコエビ(Eohaustorius).

 やったぜ.


 しかし,よく採れる場所を探し当てるまでにかなりの時間を使ってしまいました.それに小さいものばかり.
 Eohaustorius は,冬季のみ大型個体でしのぎ夏季に短いスパンで小型個体が出現するナミノリソコエビと異なり,通年で大型個体がいるはず.
 なお,持ち帰って形態を確認したところ,たいへんまずいことが発覚しました.これはまたいつの日か・・・

 

 硬い基質も見てみましょう.
 岩場の海藻をガサるとモクズとかいろいろ.少し小さめ.半ば干上がった岩の上まで歩いていて根性を感じました.

ヒゲナガヨコエビ(Ampithoe).



 そろそろタイムリミット.
 ナミノリケナシザルをかわしながらすでにハマトビリティの高さは感じていました.


プラゴミ少なくアマモがこんなに.
この海岸管理は全国のサーフスポットが真似してほしい.




 潮上決戦は残った時間でサクッとをキメたいところ.


スナハマトビムシ(Sinorchstia).

 あれ?ヒメハマは?

 ナミノリケナシザルの生息域では普通にヒメハマがいた気がします.確保しておくべきでした.これはまた後日かな…


 
 結果:辛勝(目的外のヤバいのを引いてしまった).






 総括.
 ”見せヨコエビ”以外は悉く狙いを外れ,実力不足を思い知らされました.愛知二日目は一応属レベルで目的を果たせたものの,欲しかったのは既知種の複数ポイントのサンプルであったため,今後の研究に対しては厳しい展開となりました.これは仕方ないけどね~
 とりあえず藻があればよい磯と比べて,干潟の潜砂性ヨコエビの生息密度は細かい底質状況に左右され,現場でもしばらく流してみないと狙ったヨコエビを得るのは難しいです.ヨコエビの情報がなくとも,既存の報告書などから現場の雰囲気を察知してヨコエビリティを推し量ることができればよいのですが…

 あとは,ターゲットとなる潜砂性ヨコエビの生態特性と,ヨコエビおじさんの採集スタイルとの乖離です.
 電車で移動して岸から歩いてエントリーする都合上,胴長と洗濯ネットが関の山です.盤州干潟でも潜砂ヨコエビはかなり潮下帯での活性が高かったので,メインハビタットに至らず,採集効率が悪い可能性があります.





※1:アンドリュー・ホジー氏(西オーストラリア博物館)の証言.
”このニュース記事を見てすぐ,私は博物館のコレクションにあるPseudolana concinna(スナホリムシ科)の標本のことを思い出した.
 これは1959年の夏にパース海岸にほど近いロットネスト島(西オーストラリア)で採集されたものだ.古い登記書類にはこのような備考がある ”水辺に座っていた小さな子供のペニスに取り付いて食らいついてた;非常に出血していた”.確証はないが,その小さな子供は,当時の西オーストラリア博物館理事長の息子だったと考えられる.”


※2:永田ほか (1967) の事例.
  投錨して操業していた小型漁船が鉄船にぶつけられ,漁師の男性が変わり果てた姿で発見された事件.ヨコエビによる蚕食事例として著名.


(参考文献)
— 小関恒雄・山内峻呉 1964. 水中死体の水生動物による死後損傷. 日本法医学雑誌, 18 (1): 12–20.
— 永田武明・福元孝三郎・小嶋亨 1967. フトヒゲソコエビ及びウミホタルによる水中死体損壊例. 日本法医学雑誌, 21(5): 524–530.

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補遺 (15-VIII-2024)
・一部書式設定変更。