2017年8月17日木曜日

ようぎしゃ フトヒゲソコエビ(8月度活動報告)



 ~ とう場人ぶつ ~



こうたくん
さいきんヨコエビとまりちゃんのことが気になっている男の子。


まりちゃん
ヨコエビのことがすきなちょっとおませな女の子。  
こうたくんとはかせのことはあまりすきじゃない。
今日はお休み。


ひろきくん
まりちゃんのきんじょにすんでいる。
あまりしゃべらないけど、するどい。



よこえびはかせ
ヨコエビの本やひょうほんをいっぱいもっている。
ヨコエビのことにくわしくて、何でもしらべて教えてくれるけど、
そのほかのことにはまるっきりきょうみがないんだ。




~~~~~~~


よこえびたんていだん


だい3話 ようぎしゃ フトヒゲソコエビ




(1)じけんはっせい


こうたくん:はかせ!こわい生きものがいるんだって!

はかせ:どれどれ、見せてごらん。





こうたくん:ウミノミっていうやつで、日本にもいるらしいよ!しってた?

はかせ:ホッホッホ、こうたくん、これはごやくじゃよ。

こうたくん:ごひゃく?ウミノミって番ごうがついてるの?

はかせ:ちがわい!えいごから日本語にしたときに、まちがえたのじゃ。

こうたくん:えー!じゃあこのウミノミはうそなの?

はかせ:まあまあ、これからたしかめるぞい。






はかせ:これはワシントンポストのニュースじゃよ。

こうたくん:しってる!ワシントンにあるポストでしょ!

はかせ:ちがわい!アメリカの新聞じゃよ。

こうたくん:えいごじゃん!

はかせ:アメリカなんじゃから、当たり前じゃよ。

こうたくん:なんて書いてあるの?

はかせ:とりあえず、日本語にしてみるかのう。



『肉食性の海の虫がオーストラリアの十代の若者の足を襲った「血が止まらなかった」』

 先週金曜日、
16歳のサム・カニザイはブリンストンビーチの水の中を歩いていた。それはこのオーストラリアの少年にとってよくあることだった。彼はメルボルンのこの地域で育ち、トライアスロンに参加したり、よく海で泳いだりするような、活動的な家族に囲まれていた。

 今日早くからのサッカーの練習で足には痛みがあり、それを冷たい海水で鎮めようと、アイフォーンで音楽を聴きながら、暗闇の中で30分ほど腰の深さほどの海に立っていた。

 水から揚がって間もなく、彼は足からの出血に気付いた。それもかなりの量だった。

”私たちは道路をはさんで海岸の向かいに住んでいます。”サムの父、ジャロッド・カニザイ氏はワシントンポストの取材にこう話した。

”サムはびっこを引きながらとても急いで家に戻ってきた。彼はすぐ外から私に電話をしてきた。そして彼は言った「父さん、外に出てきてくれないかな?」私が「どうして?」と訊くと、彼はこう言った「すぐに来て!」”

”私たちはとても驚きました。”

 彼らが少年の足に発見した、何千もの細かな噛み跡は、ピンで何度も突き刺したのとほとんど同じだった。大量の血もまた同様だった。

”血が止まらなかった。”ジャロッドは言った。”私たちはすぐに彼を病院に連れて行きました。”

 湾に立っている間に噛まれたのを感じなかったとき、水によってサムの足は全く感覚がなくなるまで冷えきっていた。

 しかし、病院へ向かう途中、サムは”8割以上”痛みが増した、と話したという。

 緊急措置室でそう長く待たねばならないということはなさそうだったため、ジャロッドは息子に、痛みについて正直に看護士へ話すよう言い聞かせた。

 サムの足と血だまりを一目見て、病院のスタッフはすぐにサムを収容してくれた。心配はなかったと、カニザイ氏は言った。
 

(サムへのインタビュー動画)

 当初、サムの傷は医師と看護士を困惑させた。

 彼らは出血を手当てするとともに足を診察したが、誰一人サムの足が映画『ピラニア 3D』 に出てくるエキストラのように血塗れになった原因について、確かなことを言えなかった。

 20年ほどブリンストンビーチの地区に住んでいるというカニザイ氏は、サムの足の写真をフェイスブックに投稿し、近所の住民や友人にミステリーとして話した。

”私も、ご近所さんも友人も、医療関係者の誰も、こんな事件は聞いたことがなかった。”ジャロッドは言った。”報道されるまで、何人かは小さな出血をしたことがあっても、地方の医者に行っただけだったのです。”

 カニザイ氏は湾に戻り、サムが立っていたのと同じ場所に歩いて行った - 皮膚を護るためにウェットスーツを二重に身に付けた上ではあったが。

 プールのゴミ取り用すくい網と生肉を使い、彼は体長2mmほどのダニのようなものを何千匹も採集した。

”御存知の通り、病院の看護士と医者は、この生物に言及することも捕らえようと試みることもしなかったんですよ?”カニザイ氏は言った。”何がサムの足を食ったのか、誰かがその難題を解いてくれると思っていました。”


(サムの写真)

 メルボルンにあるヴィクトリア博物館はフェイスブックの記事で、海洋生物学者ジェニファー・ウォーカースミスが、カニザイ氏が採集した生物を、分解されている肉から出る化学物質などに誘引される腐肉食性の小型生物であるフトヒゲソコエビの仲間の端脚類と同定したことを明かした。

 端脚類の仲間はしばしば”海のノミ”と呼ばれるが、傷が長引く原因にならないだろうと、彼女は言った。

”彼らは大群をなし、死んだ魚に群がり、瞬く間に食べてしまう”と、ウォーカースミス女史はABC(オーストラリア放送協会)に語った。

 彼女はこの事件はサムの”不幸”によって起きたものとして、ビーチを楽しむ他の人は同じような攻撃を怖がる必要のないことを付け加えた。

”食事をしている群れをサムがかき乱した可能性がありますが、彼らは普通はピラニアのように攻撃の期を待っていることはありません。”彼女はABCの取材に語った。”この甲殻類は死んだ魚の肉片に群がっていて、サムの足に接触したのでしょう。サムには恐らくすでに切り傷があって、彼らはその匂いや化学物質を嗅ぎつけたのです。”

(フトヒゲソコエビ類の動画)

 サムは快方に向かっている。

”確実に治ってきている。私たちは完治することを願っています。”父は言った。”彼が帰宅するとき、たぶん幾つか傷跡があるのでしょう。望んではいませんが。”


 サムは水を避けることは考えていない - もっとも、彼は水中の同じ場所に長い時間立つ前に2倍は考えなくてはいけない、と父は言っている。

”彼は大人しい子です。大人しくて落ち着いている。”カニザイ氏は言った。”これはちょっと人生が脇道に逸れただけ。些細なことです。息子の身に起こった本当に奇妙な一つの出来事に過ぎないのです。私たちは気持ちよく水辺に戻り、安心を感じることだってできます。”




こうたくん:かんじが多すぎるよ!

はかせ:シーエヌエヌのほうも読んでみるかのう。




『オーストラリアの十代の若者の足の噛み跡からの出血は、’海のノミ’によるものか?』

 オーストラリア メルボルンの十代の若者がビーチを訪れたところ、そこはホラー映画の世界へと変貌してしまった。真相はちょっとしたミステリーだが、おそらく小さな甲殻類によるものだろう。

 7ニュースによると、土曜日、16歳のサム・カニザイは友人とサッカーをした後、火照った筋肉を鎮めようと、慣れ親しんだブライトンデンジー通りの浜に足を浸していた。そして予期せぬことが起こった。

”歩いて水から揚がろうとしたら、ふくらはぎから足首に砂が覆っているのが見えて、強く振るうと、それは落ちたんだ。”彼はオーストラリアのセブンネットワークニュースに語った。だが、その時彼の足から振り落とされたのは砂ではなかった。

 サムの父、ジャロッド・カニザイは、サムが水から足を引き揚げたとき、大量の血を見たと言っている。

”サムはびっこを引きながらとても急いで家に戻ってきた。彼はすぐ外から私に電話をしてきた。そして彼は言った「父さん、外に出てきてくれないかな?」私が「どうして?」と訊くと、彼はこう言った「すぐに来て!」”

 彼らが少年の足に発見した、何千もの細かな噛み跡は、ピンで何度も突き刺したのとほとんど同じだった。大量の血もまた同様だった。

”私たちはこの細かい出血を拭き取ったほうがよいと考えたのですが、洗い流すことができないことがわかりました。”サムの母親、ジェーン・カニザイはセブンネットワークニュースに語った。

”血が止まらなかった。”サムの父はワシントンポストの取材に語った。”私たちはすぐに彼を病院に連れて行きました。”

 地方病院では医師たちが止血を試みていたが、サムの足にできた無数の針穴の大きさの噛み跡からは血が流れ続けていた。

 ジャロッドはワシントンポストの取材に、痛みについてサムは”8割以上”と言っていたと語り、病院のスタッフはサムの負傷に困惑していたと付け加えた。

 自ら調査すべく、ジャロッド・カニザイはウェットスーツを二重に着込むと、息子が足を休めていた場所へと戻って、生肉を餌に未知の有害生物をプールのゴミ取りネットに収めた。ワシントンポストによると、彼は体長2mmほどのダニのような小虫を数千匹採集した。

 その後、彼の信じる犯人が生肉の塊を貪る映像をユーチューブにアップロードした。

(フトヒゲソコエビの動画)

”奴らは肉片から血を啜り、表面に食らいつき続けたんです。”ジャロッド・カニザイはオーストラリアのセブンネットワークニュースにそう話した。

 ヴィクトリア博物館のフェイスブックの投稿によると、この甲殻類が出す抗凝血物質によって血が止まらなかったものと考えられるという。同組織の海洋生物学者ジェニファー・ウォーカースミスはカニザイ氏が捕獲したサンプルを検討し、”腐肉食性甲殻類の一種フトヒゲソコエビの仲間の端脚類”が容疑者らしいと結論づけた。

 投稿によると”端脚類はときに「海のノミ」と呼ばれる。”  ”メディアは加害者を「海のシラミ」と記述して報道したが、この用語は、甲殻類の別のグループである等脚類に対して用いられるものである。”
 端脚類は咬むことが知られている”自然にいる腐肉食生物”である。しかしながら、投稿によるとこのような類の負傷を引き起こすことは普通は無いという。

 ”血が止まらなかったことは抗凝血物質によって説明でき、また非常に冷たい水によってサムは噛まれたのを感じなかった”ことが有り得るという。

 投稿によると、彼らは有毒物質をもっておらず、ケガはそう長引かない、サムはすぐ回復するだろうという。

 オーストラリアのモナシュ大学生物科学部のリチャード・レイナ助教授は、フェイスブックの投稿で”海のシラミ”がサムのケガを引き起こしたとした。

 サムが足を齧られているのに気づかなかったことに対して、レイナ氏は”私の想像に余りある非開放創だが、長時間水の中に立ち続けたことが原因となったのだろう。”と記している。

”これは、あなたが蚊をとまらせるのに少し似ているが、もし何千匹もの蚊に腕の上で30分も食事を続けさせたなら - ただならぬ反応を示すだろうが、普通はそんなことをする人はいない。”そうレイナ氏は記した。彼は人々にさほど心配しなくていいと、加えてこう綴っている。

”水から出ていなければいけない、ということはないのです。”


 

はかせ:ワシントンポストとシーエヌエヌは、どっちも「うみのノミ」ということばがあるんじゃ。えいごでは「sea flea」と書いてあったものじゃよ。

こうたくん:じゃあウミノミは、ほんとうにいるの?

はかせ:ワシントンポストには「Sometimes referred to as “sea fleas,” the amphipods will not cause lasting damage, she said.」と書いてあったんじゃ。じつは、この「シ―フリー(sea flea)」は、ヨコエビのなかまのことなんじゃよ。

こうたくん:ウミノミはヨコエビってこと?

ひろきくん: ・・・こっちは・・・ヨコエビって・・・書いて・・・あるっす。



はかせ:ひろきくん、来てたのかい。

こうたくん:だれ?

ひろきくん:・・・まりちゃんの・・・きんじょに・・・すんでます。・・・あんのひろきです。

こうたくん:せちこうたです。

はかせ:ウミノミはヨコエビとはちがう生きもので、ひろきくんがおしえてくれたほうが、正しいんじゃよ。

こうたくん:ひろきくん、すごいじゃん!

はかせ:シ―フリー(sea flea)はざっくりしたよびかたなんじゃが、ニュースのしゃしんのヨコエビは、ウミノミのなかまとは、ぜんぜんちがうんじゃよ。


こうたくん:ふ~ん。





(2)ひぎしゃのなまえ



はかせ:ウミノミと書いてあるニュースは、かなりあるんじゃ。いくつかのニュースは、あとで気づいて、「ウミノミはまちがいでした」といって、あやまったりしておるんじゃよ。

こうたくん:どうしてそうなっちゃったの?

はかせ:まず、このニュースがどうやってつたわったのか、たしかめてみようかのう。

こうたくん:うん!




国内ニュース12本,海外ニュース15本を調査。
 記事に明記されていた出典を収録したが、3AWとHerald Sunは原典を確認できず。


はかせ:ネットにあるニュースをしらべてみたんじゃ。日本のニュースはだいたいシーエヌエヌワシントンポストを元にしておるのう。
 
こうたくん:そうなんだ!

はかせ:シーエヌエヌが「ウミノミ」と言いはじめたようなんじゃが、シーエヌエヌをそのままのせているヤフーライブドアのニュースにも「ウミノミ」ということばが出てきて、いっきに広まったのじゃ。ナショナルジオグラフィックカラパイアは、べつの新聞を元にしてるんじゃが、「ウミノミ」というなまえは、つられてつかってしまったようじゃのう。

こうたくん:へえ~、ニュースっていつも正しいのかとおもってた!


はかせ:「ウミノミ」と書いてないのが、ビービーシーと、ひろきくんがおしえてくれた、ギガジンなんじゃ。ビービーシーでは「フトヒゲソコエビ」と書いてあるし、ギガジンは「ヨコエビ」と書いてあったのう。

こうたくん:つられなかったんだね!


はかせ:おそらくそうじゃろう。ニュースの書きかたが、ちがったんじゃな。

こうたくん:つられないには、どうすればいいの?

はかせ:そうじゃのう・・・ たとえば左下にギガジンがあって、その上にエーエフピービービーというニュースがあるじゃろう。

こうたくん:うん!


はかせ:エーエフピーは、とてもれきしが長いニュースのかいしゃで、あんしんのブランドなんじゃ。サムくんの話も地元のラジオなどから聞いて、オーストラリアの海にくわしい人からも話を聞いて、ほかとはちがうニュースを書いているんじゃよ。それを元にしたギガジンも、シーエヌエヌやワシントンポストとはちがうニュースになっておるのう。

こうたくん:へえ~

はかせ:あと、よく見ると、右上のエイジという新聞は、赤い線が多いじゃろう。

こうたくん:たしかに!

はかせ:エイジはメルボルンの新聞で、4本の地方ニュースと、1本のしゃせつを出しておるんじゃ。地元の海でいつもおよいでいる人にインタビューするなど、ほかの新聞のやらないことをやっておるのう。ナショナルジオグラフィックは、いっしゅんつられてしまったようじゃが、エイジを元にして、ほかとはちがうニュースを書いていたんじゃよ。

こうたくん:そうなんだ!

はかせ:ナショナルジオグラフィックは、エイジなどがとりあげている「sea lice(海のシラミ)」「ウオジラミ」として、ほかの新聞がのせていない話もとりあげているんじゃ。


こうたくん:ほかの新聞がやらないことをやればいいんだね!

はかせ:それがそうでもないんじゃ。シーエヌエヌなどの日本のニュースに、つられずに書かれたハザードラボのニュースだと、「リシエンサス両生類(りょうせいる)」という、わけの分からないことばが生まれたりしておる。「amphipod(端脚類)」を「amphibia(両生類)」に、してしまったんじゃろう。

こうたくん:むずかしいんだね!

はかせ:そうじゃのう。とりあえず、日本でもともと「ウミノミ」と言っているものと、海外のニュースで「シ―フリー(sea flea)」と言っていたものとは、ちがうことはわかったかな?


こうたくん:うん…。でも、どっちもヨコエビのなかまなんでしょ?


はかせ:そうじゃのう・・・・。こうたくん、セミとカメムシが同じなかまというのは知ってるかな?

こうたくん:カメムシってあのくさいやつ?

はかせ:そうじゃ。セミとカメムシは見た目やくらしかたがちがうんじゃが、ハリのような口をもっているとか、よくにているところもあるから、おなじ目(もく)にぶんるいされているんじゃ。ヨコエビとウミノミも、そんなかんじなんじゃよ。


フトヒゲソコエビ(ヨコエビ)とウミノミ(クラゲノミ)の関係。Lowry and Myers (2017)に基づく。



こうたくん:じゃあ、このあぶないウミノミはヨコエビなの?ウミノミなの?

はかせ:「Genefor Walker-Smith, a marine biologist at Museum Victoria in Melbourne, identified the creatures Kanizay had collected as lysianassid amphipods, minuscule scavenging crustaceans that are attracted to the chemicals emitted by decaying meat, the museum said in a statement.」と書いてあるじゃろう。ウォーカースミスさんが言うには、これはフトヒゲソコエビというなかまのヨコエビなんじゃよ。

こうたくん:フトヒゲソコエビは人を食べるの?こわーっ!

はかせ:フトヒゲソコエビのなかまはたくさんおるんじゃが、ふつうはしんだ魚を食べたりしておるんじゃ。

こうたくん:フトヒゲソコエビは日本にもいるの?

はかせ:東北のりょうしさんは「スムス」といって、海にしずんだしたいを食べる虫をよく知っているようなんじゃよ。ここには、そんな話が書いてある。あと「とやまわん」で、りょうしさんが魚がかかったあみをひとばん海に入れておいたら、ほねとかわだけになったという、そんな話がテレビに出たこともあったんじゃ。そのはんにんもフトヒゲソコエビのなかまじゃよ。

こうたくん:こわすぎじゃん!

はかせ:フトヒゲソコエビのなかまは、日本のすなはまでは、ほとんど見つからないんじゃ。

こうたくん:よかった~。これであんしんして海に行けるよ!

はかせ:海水よくのときには、クラゲやエイなどあぶない生きものも多いから、気をつけるんじゃぞい。

こうたくん:うん!



(3)けんしょう


ひろきくん:・・・でも・・・フトヒゲソコエビはほんとうに・・・はんにん・・・なんですかね・・・。



はかせ:ひろきくん、なかなかするどいのう。じつは、何とも言えないんじゃよ。

こうたくん:ええっ!?こんなに引っぱったのに!?

はかせ:ホッホッホ、すまんのう。ニュースには「ちが止まらなくなった」と書いてあったじゃろう?

こうたくん:そうだったかも…

はかせ:ちが止まらないのは、フトヒゲソコエビが「ちをかたまらなくするぶっしつ」を出しているから、という人もおるんじゃが、それはヒルのように、ふだんから「ちをすっている」生きものが出すもので、しんだ魚を食べているフトヒゲソコエビのような生きものが出すとは、思えないんじゃよ。

こうたくん:そうなの!?

ひろきくん:・・・ヨコエビのなかまについて・・・日本一か二か三か四のせいたいけんきゅうしゃの人が・・・このブログで・・・ニュースにダメ出ししてる・・・っすね・・・

こうたくん:すごい人がいるんだ!


はかせ:これはすごい人のブログを見つけたのう。じゃが、ユーチューブを見て「ナミノリソコエビ」と言っておる。 ナミノリソコエビ科は、2004年からほかのヨコエビも入ることになったんじゃが、もともとは、すなはまにもぐって小さなエサのカケラを食べているヨコエビなんじゃ。

こうたくん:ちがうヨコエビなの?

はかせ:フトヒゲソコエビとはちがうんじゃ。日本にいるものとくらべても、目はここまで大きくないし、こんなに力強くおよがないし、「生にく」にむらがったりはせんのじゃよ。

ひろきくん:・・・オーストラリアにいるのが・・・とくべつということは・・・ありませんかね・・・?

はかせ:そうじゃのう・・・すなにもぐるナミノリソコエビは今のところ12しゅいるが、中国、かんこく、日本、カナダ、アメリカなど北たいへいようだけにすんでおるんじゃ。今のところオーストラリアでは見つかっておらん、ということじゃ。あと、ABCなどの新聞には、ウォーカースミスさんは、サムくんのお父さんがあつめた「ひょうほん」をその目でたしかめてから、「フトヒゲソコエビ」という答えを出したと書いてある。このユーチューブのヨコエビを「ナミノリソコエビ」と言うのは、むりがあるのう。

こうたくん:なんだ~またうそか~。


フトヒゲソコエビ類とナミノリソコエビ類
太い触角など似ている特徴もあるが複眼の形状は全く異なる。


はかせ:それが、あながちウソとも言えんのじゃ。このブログでは、ヨコエビがとれたからといってケガはさせてないと思う、スナホリムシがやったのではないか、と言っておるじゃろう。たしかに、明らかにスナホリムシにかまれてケガをしたという話はネットで見かけるんじゃが、生きた人がヨコエビにかまれてケガをしたという話は、これといったものがないんじゃ。

こうたくん:え~!?

はかせ:これは、こうかくるいのけんきゅうをしている人が、フェイスブックでしょうかいしてくれた話じゃ。海外のけんきゅうしゃが教えてくれたらしい。



  このニュース記事を見てすぐ、私は博物館のコレクションにあるPseudolana concinna(スナホリムシ科)の標本のことを思い出した。

 これは1959年の夏にパース海岸にほど近いロットネスト島(西オーストラリア)で採集されたものだ。古い登記書類にはこのような備考がある ”水辺に座っていた小さな子供のペニスに取り付いて食らいついてた;非常に出血していた”。確証はないが、その小さな子供は、当時の西オーストラリア博物館理事長の息子だったと考えられる。


アンドリュー・ホジー氏(西オーストラリア博物館)の証言





こうたくん:ふぇぇ・・・っ・・・

はかせ:男子には、ちとつらい話じゃのう。これは、サムくんのお父さんが海にもどってフトヒゲソコエビをあつめてウォーカースミスさんに見てもらう前のニュースじゃが、この時に、うたがわれていたのが、スナホリムシのなかま(モモブトスナホリムシぞく)なんじゃよ。このニュースはオーストラリアのゆうめいなおいしゃさん、ドクター・クリス・ブラウンがフェイスブックでしょうかいして、ネットで広まったんじゃ。ほかにも、スナホリムシがあやしい、と言っている人はけっこういるんじゃよ。


こうたくん:ってことは、スナホリムシがやったの?

はかせ:それじゃあ、これまでのニュースやしょうげんを、まとめてみよう。

こうたくん:うん!

各メディアの報道より抜粋した専門家の意見。
Facebookへの投稿を記事に掲載したものなど、
メディアによる直接取材に基づかないものもあるが、特に区別せずに集めた。


はかせ:この中で、ヨコエビのろんぶんをよく書いているのは、ニューサウスウェールズ大学の「プアじょきょうじゅ」と、メイン大学の「ワットリングきょうじゅ」じゃのう。シドニー大学のはかせは、お父さんがつかまえた「ひょうほん」を見ないで「ニセスナホリムシ」ときめつけておるようじゃが、あやしいもんじゃ。

こうたくん:「きょうじゅ」や「はかせ」でも、分からないの?


はかせ:たとえば、サムくんの足に食らいついている時につかまえたら、何でキズがついたのか、なやむことはないじゃろう。

こうたくん:そうだね。

はかせ:おしいことじゃが、サムくんは「しんはんにん」をつかまえてないし、すがたを見てもいないんじゃ。ただ、「水から上がる時に足にすなのようなものがモヤモヤまとわりついていた」という話をしておるから、小さな生きもののしわざとかんがえてみよう。そうすると、やはりフトヒゲソコエビとスナホリムシが、ようぎしゃになるんじゃ。「はかせ」や「きょうじゅ」も、答えを出すために、もっと知りたいことがあると思っているはずじゃ。

こうたくん:なるほどね。

フトヒゲソコエビ類とスナホリムシ類の比較。
人を出血させる可能性は、スナホリムシ類の方が高い。
一方、サム・カニザイ君の近くにいた可能性が高いのは、フトヒゲソコエビ類である。
サム君に傷を負わせたことについて、
どちらも裏が取れている状態ではない。


はかせ:ところでこうたくん、ダイダラボッチの話をおぼえているかな?

こうたくん:えっと・・・大きいヨコエビはうそだったっていう・・・

はかせ:ちがわい!ダイダラボッチはたしかに海の中におるんじゃが、つかまえようとしても、ちょっと日がたったりすると、もうつかまらないという話じゃわい。

こうたくん:ああ、そういえば・・

はかせ:サムくんのお父さんはフトヒゲソコエビをたくさんつかまえたが、それがほんとうにサムくんが海に入っていた時にもいたのか、たしかめることはできないんじゃよ。

こうたくん:ほかにかまれた人は、ほんとうにいないの?

はかせ:サムくんのニュースが広まったあと、オーストラリアのクイーンズランドにある「ゴールドコースト」というところで、3年前に同じような生きもの「シーライス(sea lice)」にかまれた、ということがあったらしく、アデーレ・シュリンプトンという女の人の話が、オーストラリアの新聞に出たんじゃ。2015年には、ヴィクトリアにある「サンドリンガム」というところで、ニック・マリーとウィル・マリーという父子が、サムくんほどではないが、こまかいキズをたくさんうけていたんじゃ。この時はメルボルン大学「マイケル・キーオきょうじゅ」が、「シーライス(sea lice)」だったと言っていたんじゃ。

こうたくん:シーライス?カレーライスみたいなの?

はかせ:ちがわい!ナショジオの話にも出たじゃろう。この「ライス」はお米じゃなくて、「シラミ」のほうじゃ。ウオジラミのことを「シーライス」とよぶこともあるが、シーエヌエヌのニュースでウォーカースミスさんは、スナホリムシのなかまの「とうきゃくるい」のことじゃと言っておる。どのみち、ヨコエビとはちがうんじゃ。

こうたくん:ええ~!じゃあ、スナホリムシがはんにんじゃん!

はかせ:そうとも言えるんじゃが、シュリンプトンさんがかじられてケガをしているとき、あせっていたはずじゃから、スナホリムシヨコエビを正しく見分けていたとは思えんじゃろう?これも、はんにんときめつけることはできないんじゃ。

こうたくん:けっきょく、どっちも人を食べるってこと?



(4)さいはんのおそれ


はかせ:サムくんやシュリンプトンさんをおそったのは、どっちか分からんが、もしこうたくんが海でかじられるとすれば、スナホリムシの方かも知れないのう。

こうたくん:そうなの!?





ニセスナホリムシとフトヒゲソコエビ類の比較。
矢印は、大顎のナイフ状突起の有無を示す。
体長は、Auroi onagawaeが11mmで、
ニセスナホリムシは12~13mmである。
スナホリムシ類の大顎の切歯部および中間突起は、
Auroi onagawaeより発達していると考えられ、
より肉食に特化している可能性がある。



はかせ:ヨコエビやスナホリムシは、「大あご」をもっておる。これをつかって、食べものをこまかくするようなんじゃが、食べものによって、かたちはちがうんじゃ。「ワットリングきょうじゅ」が言っていたのも、これじゃな。


こうたくん:ふ~ん。

はかせ:スナホリムシのなかま(ニセスナホリムシCirolana harfordiは、「大あご」に大きなナイフのようなものがついておる。じゃが、フトヒゲソコエビのなかま(アウロイ・オナガワエAuroi onagawaeには、それはないんじゃ。おそらくじゃが、にくを食べるのがとくいなのは、スナホリムシの方なんじゃよ。

こうたくん:そうなんだ!



(5)そうさしゅうりょう


はかせ:けっきょく、はんにんのきめては、見つからなかったのう。


こうたくん:どうすればいいの?

はかせ:たしかなことを、1つずつ、つみかさねることが、ちかみちになるんじゃ。さっき、シーエヌエヌのニュースが日本でいろいろなニュースにそのままながしていた、という話があったじゃろう?

こうたくん:あったかも。

はかせ:シーエヌエヌは”「ウミノミ」原因か”という見出しだったんじゃが、ライブドアニュースは”原因はウミノミと判明”と、きめつけたんじゃ。おんなじニュースなのに、見出しだけ、おおげさに書いたんじゃよ。

こうたくん:ええー!?うそじゃん!

はかせ:ライブドアだけではないぞい。カラパイアはヨコエビのしゃしんを、ウィキペディアコモンズから引っぱってきたんじゃ。これはBathyporeia sarsi(バシポレイア・サルシィ)というヨコエビなんじゃが、「Amphilochideaあもく」のフトヒゲソコエビではなく、べつの「Senticaudataあもく」「Gammaridaかもく」のなかまなんじゃ。カラパイアはほかにも、「half an hour」を「30分」ではなく「一時間半」と言ったり、かなりざつなんじゃ。


こうたくん:ええーっ!?これもうそじゃん!


はかせ:「ウミノミ」というなまえも、よくしらべてみるとまちがっていたし、お父さんがつかまえたフトヒゲソコエビも、しらべてみると、はんにんとは言いきれないことが分かったじゃろう。あせって、おおげさに言うと、知らず知らずのうちに、うそをついてしまうこともあるんじゃ。

こうたくん:うん!帰ったらお母さんにも教えてあげようっと。







(参考ウェブページ)

- ABC. 'Sea bug' creatures behind bloody attack on Melbourne teen's legs identified as amphipods. (投稿:現地時間2017.8.7 15:27)
- abc 10 NEWS. Teen taken to hospital after dozens mysterious sea creatures bite his feet. (投稿:現地時間2017.8.7 14:30)
- AFP BB. 海に漬かって血だらけに、足に原因不明の無数の穴 オーストラリア.(投稿:日本時間2017.8.7 22:00)
- AFP BB.  海で両足血まみれの少年、原因は肉食小型甲殻類? 父親が写真公開.(投稿:日本時間2017.8.10 12:17)
- Au one. 海水に浸した両足が血まみれに、「ウミノミ」原因か 豪州. (投稿:日本時間2017.8.8 11:47)
- BBC news. Sea bug attack: Why was a wading teenager left covered in blood? (投稿:現地時間2017.8.8)
- BBC日本版.豪の16歳、海に足をつけたら血だらけに 出血止まらず.  (投稿:日本時間2017.8.8)
- BIGLOBE.  海の中にある恐怖。オーストラリアの少年を襲った人食いヨコエビ(小型甲殻類大量注意).(投稿:日本時間2017.8.12 22:30)
- BUZFEED NEWS. An Australian Teenager's Legs Were Eaten By Sea Fleas And Everyone Is Traumatised. (投稿:現地時間2017.8.7 20:13)
- CNN. Are 'sea fleas' to blame for bloody bites on Australian teen's legs? (投稿:グリニッジ標準時2017.8.8)
- CNN日本版. 海水に浸した両足が血まみれに、「ウミノミ」原因か 豪州. (投稿:日本時間2017.8.8 11:47)
- Daily mail. 'He was in the wrong place at the wrong time': Expert solves mystery of exactly what ate teen's flesh when he went for evening swim at Melbourne beach - and why he was targeted. (発行:英国夏時間2017.8.7 11:25,投稿:英国夏時間2017.8.7 13:45)
- Dr. Chris Brown Facebook (投稿:現地時間2017.8.8 11:47)
- excite NEWS. 海の中にある恐怖。オーストラリアの少年を襲った人食いヨコエビ(小型甲殻類大量注意).(投稿:日本時間2017.8.12)
- フジテレビ FNSアワード. 第19回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『不可解な事実 ~黒部川ダム排砂問題~』 (制作:富山テレビ)
- GIGAZINE. 海から上がった少年の足に出血を伴う無数の穴ができるホラー現象発生、その原因とは? (投稿:日本時間2017.8.8 17:00)
- ハザードラボ. 閲覧注意「血が止まらない!」ビーチで謎の生物に足を食われた少年 豪州. (投稿:日本時間2017.8.8 13:48)
- Herald Sun. Gold Coast woman recalls sea flea bites after Melbourne teen likely ‘eaten’ by critters. (投稿:現地時間2017.8.8 22:56)
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- カラパイア. 海の中にある恐怖。オーストラリアの少年を襲った人食いヨコエビ(小型甲殻類大量注意). (投稿:日本時間2017.8.12,訂正:日本時間2017.8.14)
- 駒井智幸  Facebook (投稿:日本時間2017.8.11 12:32)
- LIVE SCIENCE. Horror at the Beach: 'Sea Fleas' Dine on Aussie Teen's Legs. (投稿:東部標準時2017.8.7 20:11)
- livedoor NEWS. オーストラリアで海に入った少年の足が血だらけ 原因はウミノミと判明. (投稿:日本時間2017.8.8 11:47)
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- National Geographic. Mysterious Flesh-Eating Sea Creature Causes Shocking Injury. (投稿:現地時間2017.8.7)
- ナショナルジオグラフィック日本版ニュース. 【動画】海で脚が血まみれに、犯人は?対策は? (投稿:日本時間2017.8.8,訂正:日本時間2017.8.9)
- 漁師の徒然なるブログ. 海の分解者 スムス. (投稿:日本時間2010.08.27 17:3'57")
- The Age. It's not a movie: Did marine critters eat Brighton teenager's legs? (投稿:現地時間2017.8.7)
- The Age. Explainer: What are sea fleas anyway? (投稿:現地時間2017.8.7)
- The Age. Bitten teen's dad films Brighton Beach sea fleas enjoying a meal of fresh meat. (投稿:現地時間2017.8.7)
- The Age. Flesh-eating bugs at Brighton beach: What really ate Sam and why.  (投稿:現地時間2017.8.8)
- The Age.Flesh-eating sea fleas enter the great Aussie wildlife folklore. (投稿:現地時間2017.8.8)
- The New York Times. Mysterious Sea Creatures in Australia Chew Up Teenager’s Legs. (投稿:現地時間2017.8.7)
- The Washington Post. Flesh-eating sea bugs attacked an Australian teen’s legs: ‘There was no stopping the bleeding.’ 
- Time. Strange Sea Creatures Chewed Up This Teen Boy's Legs. (投稿:東部標準時2017.8.7 11:37)
- 超サーランピー.【取り急ぎ】オーストラリアの海辺で青年が「ウミノミ」に足を食われて血まみれ事故案件について、ご質問へのお応えと所感.(投稿:日本時間2013.8.13) 
- Wikipedia commons. File:Bathyporeia sarsi.jpg
- Yahoo! ニュース.海水に浸した両足が血まみれに、「ウミノミ」原因か 豪州. (投稿:日本時間2017.8.8 11:48)
- YAHOO! 7. WATCH: Mystery sea creatures devour meat after vicious attack on teen.  (投稿:現地時間2017.8.7)





(参考文献)

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- Ren, X. 2006.  Fauna Sinica, Invertebra. Vol. 41, Crustacea, Amphipoda, Gammaridea (I). Science Press, Beijing, China. 588 pp.
- Serejo, C.S. 2004. Cladistic revision of talitroidean amphipods (Crustacea, Gammaridea), with a proposal of a new classification. Zoologica Scripta, 33: 551–586.






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補遺(18 VIII 2017)




・コメント欄を通して指摘を受け、ブログ記事に対する「よこえびはかせ」のコメントを修正(赤字)。