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2023年7月27日木曜日

端脚グルメ情報(7月度活動報告)

 

 ヨコエビの話をするとよく出てくる「それって食えんの?」という質問。結論から言うと、食えなくはないものの、一般的な食材となりえない要素がいろいろある感じです。以下、国内の例を挙げてみます。


古典から

— 茅原定 1833.『茅窗漫録』中巻.

 四国ではワレカラを酒の肴にするとのこと。ただ、調理法は不明です。


 また、山形県などの地域で食用にされていたという記録もあるようです(サイカルJournal)が、原典を見つけることはできませんでした。一方、クジラジラミについては食用にならんと一蹴している文献もあるとのこと(小山田是清 1829. 『勇魚取絵詞』)



救荒食

— 原徹一・早川孝太郎 1944. 『戦時国民栄養問題』. 霞ケ関書房.

 非常時の代替食糧として検討されたことがあるようです。このあたりは前述の伝統食がヒントになってるのかもしれません。



プレミア

— のりのふくい磯音ニュース「少し変わり種の海苔の話/えび等級というナゾの海苔」(2020/11/5)

 「エビ入りの海苔はプレミア」という話は海苔業界の方から聞いていたのですが、こうしてネット記事になっている例はあまり多くない気がします。



現代の冒険者たち

東京湾のヨコエビガイドブック Open edition ver. 2.0 (2021/3/22)

 水槽に湧いていたフトメリタをレンチンして醤油味にしたものです。エビの香りがしてうまいですが、肉はほぼ感じません。


— 原人のCatch & Eat「【キチ○イ回】ワレカラを食う!」 (2016/4/4)

 玉ねぎや三つ葉?と一緒にワレカラをかき揚げにすると、香りが立って美味いようです。


TW釣りetc.「ヨコエビを食ってみた」(2019/5/30)

 これは有名な記事ですね。ヒゲナガハマトビムシを脱糞させて塩茹でにて齧ったはいいものの、汚いモノを食べてる気がして完食できなかったとのことです。確かに…



そもそも食べて大丈夫?

 端脚類は固い殻を持ち、何かに隠れたり、泳いで逃げたり、トゲを生やしたり、あるいは多産でカバーしたりと、ケミカル方面以外の戦略を発達させているためか、毒を持ってるという注意喚起はあまり見かけません。

 ワレカラにおいて咬脚に"poison tooth"と呼ばれる器官があり、どうやら水中で格闘する時に相手に毒の一撃を加えるもののようです。捕食された後に効かせることを想定したものではないにせよ、食べ方によっては口などに刺さるかもしれません。

 また、海産物にコンタミしがちな端脚類にはアレルギーの表示義務はありません塩見一雄 2009. 「えび」,「かに」のアレルギー表示の義務化. 日本水産学会誌75(3): 495–499.が、がっつりアレルゲンが含まれています (Motoyama et al. 2007. Allergenicity and allergens of amphipods found in nori (dried laver). Food Additives & Contaminants, 24(9).) ので、えびかにアレルギー持ちの方は忌避すべき食材です。混入については「えびかにが棲息する海域で採取」などとやんわり示唆するメーカーが多いので、事前に確認すべきでしょう。

 さらに、生態系において分解者の役割を果たすヨコエビは、生物濃縮により有害な化学物資を溜め込んでいる可能性があります (一例:Curtis et al. 2019. Effects of temperature, salinity, and sediment organic carbon on methylmercury bioaccumulation in an estuarine amphipod. Science of The Total Environment, 687(15): 907–916. )。そういった面を考えると、無理して食べるべき食材でもないような気はします。


2021年9月18日土曜日

ディケロガマルスだけじゃない淡水ヨコエビの外来種問題について(9月度活動報告)

 

 以前こちらの記事でディケロガマルス・ヴィローススについて触れましたが、ここ数年、淡水域を中心に様々な外来ヨコエビについての論文は数多く、研究者の間で関心事になっているのは間違いありません。

 

 今年のベントス・プランクトン合同大会 (以下、市原・田辺 2021) でも取り上げられた フロリダマミズヨコエビ Crangonyx floridanus(通称フロマミ)は、日本で最も注目されている淡水の外来ヨコエビといえるでしょう(「フロマミ」は私が2016年ごろから勝手に言っているものなので、基本的に世の中で通じないしつまり通称ではない・・・?!)

 利根水系で発見されて以来、90年代末から2000年初頭にかけて急激に広まったようです (金田ほか 2007)。海外では英国 (Mauvisseau et al. 2018)、 アイルランド (Baars et al. 2021) でも発見されており、今後も拡散していく可能性があります。

 フロマミの動態は、多少付き合いの長い日本でも、今まさに研究が行われている途中です。水域間の水草の移動に伴って拡散していると考えられますが、具体的にどのようなルートで分布を広げるのか、確証は得られていないようです。また、在来生態系や産業をどれほど脅かすのか、以下のような報告がありますが、十分な知見が得られている状況ではありません。

  • ワサビへ正の走行性を示すようです。ただし、ワサビへの食害については在来のオオエゾヨコエビ Jesogammarus jesoensis と比較して大きなものではないとのことで (古屋ほか 2011)、食害に寄与するにせよフロマミの侵入により生じる産業への害を予見したものではないと考えられます。
  • 在来種・オオエゾヨコエビ J. jesoensis とフロマミは微環境の違いによって棲み分けている傾向があり、若干の相互作用はありつつも排他的ではないとの報告があります (田中ほか 2010)
  • ナリタヨコエビ J. naritai はフロマミよりブルーギルの捕食圧を受けやすいとの報告があり、フロマミの拡散や在来ヨコエビとの競合という面からも、重要な外来魚であるブルーギルの管理という面からも、特筆すべき現象だと思います (石川ほか 2017;山本ほか 2017)。 

 市原・田辺 (2021) の考察はこの「捕食圧の違い」を前提にしているようで、ナリタヨコエビとフロマミの付着基質の違いは、フロマミによるナリタヨコエビの駆逐というよりは、それぞれの捕食回避戦略・基質選好性によるという解釈がしっくりくると思います。一方、例えば侵略的外来種の代表種であるディケロガマルス・ヴィローススは隠れ場所を巡る競争で在来ヨコエビに勝ることが知られ、外来魚とのコラボによって在来ヨコエビを絶滅に追い込んだ事例 (Beggel et al. 2016) も報告されています(ディケロガマルス・ヴィローススについては,こちらをご参照ください)。日本在来の多くのヨコエビと比較してフロマミの体躯は小さく、空間ニッチを巡る競争で分があるようには見えませんが、現状の情報だけで楽観はできないと思います。

 日本の在来ヨコエビは水質指標種として扱われる場面が多いなど、一般的に「きれいな水」を好むように思えます。一方フロマミは、有機物が多いあるいは水温が高い等、いわゆる「悪条件」の水域への適応性が高いようです (金田ほか 2007等)。これは、ニッチの競合に勝利する可能性以前に、多くの水域でそもそもニッチが異なることを示唆するように思えます。海外ではこれに類似したものとして、電気伝導度が高くなるに従って外来種 Echinogammarus ischnus が優占するとの研究があります (Kestrup and Ricciardi 2009)。開発に伴って清流環境が減ったことで在来種の生息域が減少し、人為的な改変圧のかかった環境が増えてそこを利用できる外来種が増殖する。アメリカザリガニなどが、こういった例の代表かもしれません

 一方、フロマミは食性も幅広く、前述の植食性のほか、捕食性が強いという説もあります。また、水質や水温の条件が幅広いことに加えて、表層水環境では複眼が出現し地下水環境では消失する(篠田 2006)など、その適応力には目を見張るものがあります。 こういった状況から、直接的な影響だけでなく、例えば地下水系の昆虫類等への捕食圧等、目に見えにくい場所の影響に留意するべきかと思います。


 英国では、ディケロガマルス・ヴィローススと同属の Dikerogammarus haemobaphes は、微胞子虫 Dictyocoela berillonum の寄生によって性転換が起こり、侵入能力が高まっているとのこと(Green Etxabe et al. 2015)。外来種1種だけでなく、付随している生物にも目を向ける必要があるといえます。

 ツイッター等を監視していると、日本ではアクアリウムショップで各種ヨコエビが販売されていて、Hyalella属などはフロマミと同様に水草に紛れて偶発的に水槽に現れているようです。今のところ、フロマミ以外のヨコエビが定着しているという話は聞こえてきませんが、引き続き監視を続けていく必要があると思います。

 

 淡水以外のヨコエビについてはまたの機会に。

 

 

<参考文献>

Baars, J.-.R; Minchin, D.; Feeley, H. B.; Brekkhus, S.; Mauvisseau, Q. 2021. The first record of the invasive alien freshwater amphipod Crangonyx floridanus (Bousfield, 1963) (Crustacea: Amphipoda) in two Irish river systems. BioInvasions Records, 10. 629–635.

Beggel, S.; Brandner, J.; Cerwenka, A. F.; Geist, J. 2016. Synergistic impacts by an invasive amphipod and an invasive fish explain native gammarid extinction. BMC Ecology, 16, 32. DOI: 10.1186/s12898-016-0088-6

— 古屋 洋一・今津 佳子・久米 一成・金子 亜由美 2011. 静岡県における外来種(フロリダマミズヨコエビ)の生態調査.静岡県環境衛生科学研究所報告, (54):13–19.

Green, E. A.; Short, S.; Flood, T.; Johns, T.; Ford, A. T. 2015. Pronounced and prevalent intersexuality does not impede the ‘Demon Shrimp’ invasion. PeerJ, 3:e757 

— 市原 龍・田辺 祥子 2021. PP04 琵琶湖におけるヨコエビの動態解析. 2021 年日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会 講演要旨集.

石川 俊之・木下 智晴・山本 賢樹 2017. 琵琶湖において同所的に生息するナリタヨコエビ(Jesogammarus naritai)とフロリダマミズヨコエビ(Crangonyx floridanus)に対するブルーギル(Lepomis macrochirus)による捕食圧の違い. 滋賀大学環境総合研究センター研究年報, 14 (1): 51–55. 

—  金田 彰二・倉西 良一・石綿 進一・東城 幸治・清水 高男・平良 裕之・佐竹 潔 2007. 日本における外来種フロリダマミズヨコエビ(Crangonyx floridanus Bousfield)の分布の現状. 陸水学雑誌, 68 (3): 449–460.

Kestrup, Å. M.; Ricciardi, A. 2009. Environmental heterogeneity limits the local dominance of an invasive freshwater crustacean. Biological Invasions, 11 (9). 2095–2105. 

Mauvisseau, Q.; Davy-Bowker, J.; Bryson, D.; Souch, G. R.; Burian, A.; Sweet, M. 2018. First detection of a highly invasive freshwater amphipod (Crangonyx floridanus) in the United Kingdom. BioInvasions Records, 8.

— 篠田授樹 2006. 東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査. 研究助成・一般研究. Vol.28, No.164.

田中 吉輝・長久保 麻子・東城 幸治 2010. 外来種フロリダマミズヨコエビと在来種オオエゾヨコエビが混棲する長野県安曇野市蓼川における両種の個体群動態. 陸水學雜誌, 71(2): 129–146. 

山本賢樹・木下智晴・藤野勇馬・饗庭優香・藤岡沙知子・石川俊之 2017. びわ湖に侵入した外来種フロリダマミズヨコエビと在来種ナリタヨコエビの現状について. 日本生態学会第64回全国大会, 一般講演(ポスター発表) P2-G-232.

 



2020年8月11日火曜日

ディケロガマルス・ヴィローススとは(8月度活動報告)



 環境省は8月6日から,「特定外来生物」に4科・4種群・5種を新規指定することについてのパブコメを開始しています.この中には1種のヨコエビが含まれています.


 そのヨコエビこそ,ディケロガマルス・ヴィロースス = Dikerogammarus villosus (Sowinsky, 1894) —以下,D. villosus — です.
 まだ和名も無い D. villosus は日本での知名度が極めて低く,今回のプレスリリースに触れて初めて知ったという人も少なくないようです.


 D. villosus を特定外来生物に指定する方針が示されたのは,昨年2月のことです.更にさかのぼると,環境省と農水省は2016年の時点 D. villosus を「侵入予防外来種」に定めていました.すでに海外では D. villosus にまつわる問題が数多く報告されており,世界的に問題意識が高まっているのが一因でしょう.近年のWCA(世界端脚類会議)でも,この種に関わる発表がかなりの割合を占めていました.

 D. villosus について,日本語で記述された文章は少ないように思います.近年の研究から幾つかご紹介します.



これがディケロガマルス・ヴィローススだ!!




形態・生態


 こちらのサイトに詳しいです.
 体長は30mmにも達し,(バイカルの連中は例外として)淡水ヨコエビの中ではまあまあ大きく,日本ではまず見かけないサイズ感です.
 背面に縞模様が目立ちますが,体色には変化が多い (Nesemann et al. 1995) との報告もあるので(複数種を混同していた可能性を否定できる材料はないものの),例の如く種の分類において模様は重要ではないと考えておいたほうがよいと思います.他のヨコエビ上科と同様に交尾前ガードを行うようです.

 WoRMS によると原産地は黒海で,完全な淡水からやや汽水っぽい水域まで進出が可能とのことです.




分類


 Dikerogammarus属 は,今のところ5種からなります(WoRMS)D. villosus 以外の種について,環境省の専門家グループ会合では「未判定」扱いとしたようですが,海外では既に外来種となっている種も散見されます.詳細は後述します.

 WoRMS に基づけば,Dikerogammarus属 は ヨコエビ科(Gammaridae)に含まれます.しかし,ミトコンドリアCOI領域を用いた分子系統解析では,Dikerogammarus属 と ヨコエビ科の担名属であるヨコエビ属(Gammarus)との遺伝的な関係は,別の科であるキタヨコエビ科(Anisogammaridae)より更に遠縁であるとの知見が示されています (Hou et al. 2009).科階級の分類については検討を要すると言えるでしょう.






英名


 英語では killer shrimp との別名が与えられています(#ヨコエビはエビじゃない).そう呼ばれる所以には,どうやら魚の卵や稚魚を平らげる旺盛な食欲があるようです.在来ヨコエビと比較して大型であることから,体サイズのアドバンテージがあり,より大きな卵を食べることができるようです (Taylor and Dunn 2017)
 ちなみに,同属の D. haemobaphesdevil shrimp と呼ばれており,性転換を武器にする悪魔のような生態を持っています.後で述べます.




フランス語名


 なお,こちらのサイトによるとフランス語では Gammare du Danube(ドナウのヨコエビ)と呼ばれているらしいです.英名よりだいぶ穏やか,というか優雅ですらあります.ドナウ流域のオーストリアやハンガリーでは,20世紀末には既に名の知れた外来種だったようです.




外来種としての特性


 ライン川において,D. villosus は在来生物の種数、個体数,シャノン多様度を急激に減少させたとのことです.一方,エルベ川においては状況は異なり,環境によって D. villosus の侵入リスクが異なることが示唆されています (Hellmann et al. 2017)

 また,Chen et al. (2012) はライン川上流で D. villosus が優占し,下流で別の侵略的外来ヨコエビである Echinogammarus ischnus が優占するといった現象を報告しています.同一の河川でも,他の外来種との関係によって分布に偏りがみられるようです.

 生息環境の選好性については,実験的に確かめた論文があります.例えば,同属の Dikerogammarus haemobaphes は硬質・人工的な底質を好むのに対して,D. villosus は砂利を好むようです (Clinton et al. 2018)

  他の外来種は,競合や棲み分けだけでなく,相乗効果がみられることもあります.Yohannes et al. (2017) によると,侵略的外来種であるカワホトトギスガイが進出している環境では D. villosus がより定着しやすくなるようです.

 D. villosus は,在来の生態系にどのような影響を与えるのでしょうか.
 肉食性とはいえ,魚卵などを主食としており,他のヨコエビを捕食して直接的な攻撃をするわけではないようです.

 D. villosus は,在来ヨコエビと競争関係になることが多いようです.D. villosus を在来ヨコエビと比較した研究では,魚類の存在を感知しても摂餌行動をやめて逃げることが少ないため摂食効率が高く,また外骨格が発達してより硬くなっていることで,魚類の捕食圧を受けにくいという見解があります (Jermacz and Kobak 2018)

 また,高い捕食圧を与える外来魚 Neogobius melanostomus が存在する環境では,D. villosus が潜伏場所を巡って優位に立ち,結果として在来ヨコエビ Gammarus pulex を絶滅に追い込んだとのことです (Beggel et al. 2016)

 




近縁の外来ヨコエビ


 D. villosus に同属の外来種がいることは既に述べた通りですが,その侵略性には違いがあるようです.

 イギリスの在来ヨコエビ Gammaru pulex を調査した研究では,寄生している微胞子虫(真菌)が Dikerogammarus属にも寄生することが示されました.しかし,D. haemobaphes には寄生するものの,D. villosus には寄生しないとのことです (Bojko et al. 2018).人にとって形態のよく似た2種ですが,寄生生物には明確に識別ができるようです.
 D. haemobaphesD. villosus ほど侵略性が高くないとされており,このケースでは,侵入した先で真菌に寄生されるかどうかの違いが「侵略性の強さ」に表れている可能性があります.ただし,D. haemobaphes には性転換という特技があり,これに微胞子虫の寄生率が関わっているという見解があります.D. haemobaphes が猛威を振るっている地域もあることから,D. haemobaphes がマイルドで D. villosus がシビア,という考え方もいずれ廃れるかもしれません.

 D. villosus のほかに,ユーラシア西部において D. bispinosus が相次いで見つかっているとの報告があります (Copilaș-Ciocianu and Arbačiauskas 2018).これは何シュリンプと呼ばれるのでしょうか.

 
 やや遠縁となりますが,Dikerogammarus属と同じヨコエビ科では,先に挙げた Echinogammarus ischnus や,Gammarus pulexG. roeselii が外来種となっている地域があるそうです.これらの種について,寄生虫との相性と侵略的な性質に関する議論が行われています (Kestrup and Ricciardi 2009;Galipaud et al. 2017)



日本における淡水外来ヨコエビの現状

淡水性の外来ヨコエビとしては,日本にはすでに先客がいます.
 ヨコエビ科とは異なる「マミズヨコエビ科」に含まれる,北米原産のフロリダマミズヨコエビ Crangonyx floridanus (以下,フロマミ)という種が定着しています(侵入・拡散等の経緯は Wikipedia 日本語版 に記事があるので割愛します)一部都道府県では規制がかかっているものの,今回の特定外来種の検討には上がってきていません.

 フロマミの体サイズは5mm前後で,D. villosus の巨躯には遠く及びません.このことから,前述のようにあからさまな在来ヨコエビとの競合は起こりにくそうです.
 また,フロマミはワサビに正の選択性を有するとの研究がある(古屋ほか 2011)ものの,より大型の在来ヨコエビによる食害は過去から継続しており,フロマミだけで壊滅的な被害が出たような話は今のところ見当たりません.フロマミは用水路などからも見つかっており,在来ヨコエビが住めない人工的な環境への生息が可能であることから,水質や水温によってある程度棲み分けができていると考えています.しかし一方で,表層水と地下水のどちらにも適応できるというチート能力の持ち主(篠田 2006)であるため,私たちの知らないところでフロマミが在来ヨコエビと競合している可能性もあります.劣悪な環境でも爆発的に繁殖するらしいので,「数の暴力」みたいな現象によってニッチを占有しやすい気もします.
 フロマミの拡散様式については現在研究中ですが,主にペットショップで流通している水草を野に放つことで,そこに混じっていた個体が定着している可能性があります.直接的な捕食/被食や競合関係にとどまらず,目に見えない寄生虫との相性など,在来種への影響が不明確である以上は,野放図な放流は厳に慎むべきと考えます.


 また,これまで定着したとの報告はないものの個人的に気になるのは,実験動物としての流通や水草への混入が日常的に起こっていると思われる,ヒアレラ属 Hyalella sp. or spp. です.本種はバイオアッセイ法に用いられ,比較的古い年代から日本で流通しています.そのせいか,国立科学博物館の新館で恐らく本属と考えられる標本が展示されていたり(同定は間違っていますが),「港で採取されたヨコエビの役」としてドラマ「ATARU」に出演したこともあります.ヒアレラ属はアメリカ大陸原産で,実験動物として流通していることを考えると飼育環境への順応性が高いのでしょうから,フロマミのように人工的な淡水環境を中心に拡散しそうなものですが,いまだに野外での採集例は聞いたことがありません.情勢を注視したいと思います.


 海産種や陸生種の議論はまたの機会に.




2013年3月21日木曜日

3月の活動報告(青森・三沢漁港)


言い訳だとか過ちだとかを、いまさら何を言っても関係ないですね。
映ってしまったものは仕方がない。


3月20日、朝10時15分、三沢漁港へ。


 じつは新幹線を寝過ごして遠回りしたという失態。
 青森県初入県にして、このしでかし。
 そして乗り込んだタクシー。漁港内を大仰に一周した運ちゃんに若干の敵意を滲ませた。
 入口でいいって言ったのに!

 さて、海なし県埼玉のしがないサラリーマンがたった1日の休みを使って青森まで足を運んだ最大の理由は、オレゴン州立大のJohn Chapman博士に会うため。Light manualの端脚目の部分(Chapman 2007)を担当されるなど、カリフォルニア界隈のヨコエビといえばこの方、というイメージがあります。また、日本からアメリカへのニッポンドロソコエビGranddierella japonicaの移入を論じた論文(Chapman 1975)はそのテーマもさることながら形態の記載も詳細で、卒論で読んだ500本余りの論文の中でも最も好きなものの一つです。

今回の調査の具体的な内容としては、浮桟橋に付着している生物をコドラート(方形枠)で採取して持ち帰り、単位面積あたりの生物種数と量を調べるという、いわば王道的な手法です。
 先の震災で発生した津波によって、三沢漁港の4つの浮桟橋が太平洋へと流され、うち2つがアメリカ本土に漂着したとのことです。その、漂着した桟橋に付着していた生物と、現在三沢漁港でみられる生物とがどのくらい重複しているかを分析するようです。例えば、アメリカで新たに付着したと思われる生物はいないか、または流されてくる間にどのくらい死滅するのか、など。
 現在、漂着瓦礫(Tsunami debris)は国際問題となっていて、 漂着先に与える影響の一つとして付着生物の移入というのは無視できないもののようです。生態系の汚染は、人間に直接の危害はなくとも、長い目で見るとその土地の生物の有り様を大きく変えてしまうものです。

取材を受けるJohnと風呂田教授。

 調査結果の詳細はJohnの論文として発表されることになりますが、ヨコエビの出現科としてはお台場,神奈川方面の護岸でみられるような感じに近いらしいです。
 体長20mm近いヨコエビも得られましたが、細部の観察をしないと種までは落ちません。

 目からウロコだったのは、日本の普通種で、北アメリカでよく記載されるようないわばコスモポリタン種が、実はアジア起源なのではというJohnの説。海流の関係からすると、たしかし!と肯ける。もちろん、日本でのヨコエビをはじめとする様々な生物の記載が遅れているのは調査が行われていなかっただけで、タイプ標本が得られた場所(Type locality)が必ずしも原産地ではないことは承知していましたが、まさかまさか。あの種もあの種も、元は日本なのかな?そう思うとワクワクしてきます。

 Johnは私の作ったガイドブックやTシャツの話もしてくれて、未記載種(新種)が含まれてるはずだから記載しないか、と言ってくれました。そのためには月のお給料に匹敵する出費をして描画装置付きの顕微鏡を買わなくてはならない!無理!
 だからせめて、今手元にある資料の整理と、必要なものの洗い出しを行って、あとは実行するだけという状態を作らなければと思いました。

じゃあ、いつやるか。今でしょう。



P.S.

TBSのNews23Xでとりあげられて偉そうに喋りました。 
教授の受け売りです。
大学関係者でも何でもないのに、失礼致しました。
関係方面から「お前何してるん?」と問い合わせがありました。
ぺろっ。



Thank you for your present for me, John.
Now displaying it on my desk =)
See you next time!





<参考文献>

-Chapman, J.W. and Dorman, J.A. (1975) Diagnosis, systematics, and notes on Grandidierella japonica (Amphipoda : Gammaridea) and its introduction to The Pacific Coast of The United States. Bulletin of the Southern California Academy of Sciences, 74(3): 104-108.


- Chapman, J.W. (2007) Gammaridea. In; Carlton, J.T.(ed.) 『The Light and Smith manual intertidal invertebrates from central California to Oregon, fourth edition』 Completely Revised and Expanded. University California Press, pp. 545-618.