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2024年1月21日日曜日

原画展(1月度活動報告)

  広島大学でヨコエビの展示があるとの情報を掴み、日帰りで突撃してみました。


広島大学です。

 その道では知らぬ者のいないヨコエビのメッカで、毎年何本も記載論文が出ています。


広島大学中央図書館です。


地域・国際交流プラザです。

 この「ヨコエビの系統分類学的研究とその成果の書籍化」は、去年出版された『ヨコエビはなぜ横になるのか』に関連する展示で、著者の富川先生が担当されているそうです。


 基本的には、書籍やネット記事や一般向け講演の内容がコンパクトにまとめられ、ポスター化されていますが、「書籍化による研究内容の周知の意義」といった新しい切り口です。

 学生さん手作りと思われる世界地図にヨコエビの写真が貼り付けられているのはなかなかかわいかったです。

 標本はジンベエドロノミPodocerus jinbe,オオエゾヨコエビJesogammarus jesoensis,アケボノツノアゲソコエビAnonyx eous,ヒゲナガハマトビムシTrinorchestia trinitatis,ヒロメオキソコエビEurythenes aequilatusの5種で、うち2種が富川先生が関わって記載されたものになります(Narahara-Nakano, Nakano, & Tomikawa, 2017; Tomikawa, Yanagisawa, Higashiji, Yano, & Vader 2019)。ヒロメオキソコエビのインパクトは抜群。


ヒゲナガハマトビムシは…よくわかりませんでした。
trinitatis/longiramus問題についてはこちら

 また、シツコヨコエビJesogammarus acalceolusParonesimoides calceolus,アカツカメクラヨコエビPseudocrangonyx akatsukaiの直筆原画と原記載論文(Tomikawa & Nakano 2018; Tomikawa & Kimura 2021; Tomikawa, Watanabe Kayama, Tanaka, & Ohara 2022)、そして”例のパンダメリタ”の直筆原画の展示。ほとんどホワイトを入れず一気に全身図を描ききる技が工芸品や絵画の職人そのものです。

 

 「原画展」というとマンガでは一般的でしょうか。一方、分類に携わる人間として、記載論文に使われたスケッチの実物を見られるというのは、その実物の貴重さのみならず、テクニックの一端を見られるという実利があります。私は記憶の限り一発で線画の墨入れをできたためしがないのですが、手直しするには余計な時間がかかるので、一発で仕上げるというのは芸術的なスキルだけでなく、効率的な記載図の生産という部分を考えずにはいられませんでした。


 展示は1月いっぱいまでとのこと。無料で誰でも見れます。



<参考文献>

Narahara-Nakano Y.; Nakano T.; Tomikawa K. 2018. Deep-sea amphipod genus Eurythenes from Japan, with a description of a new Eurythenes species from off Hokkaido (Crustacea: Amphipoda: Lysianassoidea). Marine Biodiversity, 48(1): 603–620.

富川光 2023. 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』. 広島大学出版会, 東広島. 198pp. ISBN:978-4-903068-59-6

Tomikawa K.; Kimura N. 2021. On the Brink of Extinction: A new freshwater amphipod Jesogammarus acalceolus (Anisogammaridae) from Japan. Zookeys, 1065: 81–100.

Tomikawa K.; Nakano T. 2018. Two new subterranean species of Pseudocrangonyx Akatsuka & Komai, 1922 (Amphipoda: Crangonyctoidea: Pseudocrangonyctidae), with an insight into groundwater faunal relationships in western Japan. Journal of Crustacean Biology, ruy031.

Tomikawa K.; Watanabe Kayama H.; Tanaka K.; Ohara Y. 2022. Discovery of a new species of Paronesimoides (Crustacea: Amphipoda: Tryphosidae) from a cold seep of Mariana Trench. Journal of Natural History, 56(5–8): 463–474.

Tomikawa K.; Yanagisawa M.; Higashiji T.; Yano N.; Vader, W. 2019. A new species of Podocerus (Crustacea: Amphipoda: Podoceridae) associated with the Whale Shark Rhincodon typus. Species Diversity, 24: 209–216. 

2023年11月3日金曜日

日本の淡水ヨコエビについて(2023年11月度活動報告)

 

 本邦産淡水ヨコエビの全貌把握と同定には、富川・森野 (2012) という決定版ともいえる文献が著名です。

 しかし、出版から10年が経過し知見が古くなっている部分があるのと、アクアリウム界隈で流通している外産種には対応していないことから、本稿では僭越ながらそういった部分を補いたいと思います。ただ、種の識別キーや種ごとの細かな情報については、富川・森野 (2012) に譲りたいと思います。

※抜け漏れある可能性が高いため、不足あれば随時更新します。



本邦産淡水性ヨコエビ一覧
(2023年11月更新)

 科の配列は Lowry and Myers (2017) に基づく。分布および生息環境の情報は、ことわりのない限り 富川・森野 (2012) によった

 なお、河岸や湖岸の”ガサり”においてしばしばハマトビムシ上科が採集され、淡水性ヨコエビと同じカテゴリとして扱われることもある (金田 In: 石綿・齋藤 2006) が、この類は水から出しても横向きに這いまわるだけでなく身体を立てて難なく歩いたり跳ねたりできることと、「第1触角全長が第2触角柄部長より短い」ことにより、他のヨコエビから識別できる。

 また、本稿では淡水性種として扱っていないが、河川や湖沼では場所により汽水性種が採集されることがある。そういった属としては、例えば次のようなグループが挙げられる:Grandidierella ドロソコエビ属,Melita メリタヨコエビ属,Paramoera ミギワヨコエビ属,Anisogammarus キタヨコエビ属,Eogammarus トゲオヨコエビ属,Jesogammarus オオエゾヨコエビ属。


カマカヨコエビ科 Kamakidae

カマカヨコエビ属 𝐾𝑎𝑚𝑎𝑘𝑎

  1.  ビワカマカ(ビワカマカヨコエビ) Kamaka biwae Uéno, 1943:滋賀県琵琶湖[固有]【湖】
  2.  マカヨコエビ Kamaka kuthae Dershavin, 1923:北海道;カムチャツカ半島【河川・湖沼】
  3.  モリノカマカ Kamaka morinoi Ariyama, 2007:本州【河川~汽水】

    メリタヨコエビ科 Melitidae

    メリタヨコエビ属 Melita

  4. チョウシガワメリタヨコエビ Melita choshigawaensis Tomikawa, Hirashima, Hirai, and Uchiyama, 2018 :和歌山県【河川間隙/表層水】(Tomikawa et al. 2018)
  5.   ミヤコメリタヨコエビ Melita miyakoensis Tomikawa, Sasaki, Aoyagi, and Nakano, 2022:沖縄県宮古島[固有]【湧水】(Tomikawa et al. 2022)

    アゴナガヨコエビ科 Pontogeneiidae

    アワヨコエビ属 Awacaris 

  6.  ヤマトヨコエビ Awacaris japonica (Tattersall, 1922):本州,佐渡島【湧水・渓流】
  7.  アワヨコエビ Awacaris kawasawai Uéno, 1971:徳島県,高知県 (Tomikawa et al. 2017)【地下水性】
  8.  モリノヨコエビ Awacaris morinoi (Tomikawa and Ishimaru in Tomikawa, Kobayashi, Kyono, Ishimaru, and Grygier, 2014):滋賀県【地下水性】(Tomikawa et al. 2014)
  9.  タキヨコエビ Awacaris rhyaca (Kuribayashi, Ishimaru, and Mawatari, 1996):北海道,本州,隠岐諸島,長崎県五島列島福江島【河川(回遊性)】

  10.  ツシマドウクツヨコエビ Awacaris tsushimana (Uéno, 1971):長崎県対馬[固有]【地下水】

  11.  エゾヨコエビ Awacaris yezoensis (Uéno, 1933):北海道[固有]【湧水・渓流】


    ミギワヨコエビ属 Paramoera 

  12.  ゴトウドウクツヨコエビ Paramoera relicta Uéno, 1971:長崎県五島列島福江島[固有]【地下水】

     

    カンゲキヨコエビ科 Bogidiellidae 

    カンゲキヨコエビ属 Bogidiella 

  13.  リュウキュウカンゲキヨコエビ Bogidiella broodbakkeri Stock, 1992:沖縄県世論島[固有]【地下水】

     

    マミズヨコエビ科 Crangonyctidae 

    マミズヨコエビ属 Crangonyx 

  14.  フロリダマミズヨコエビ Crangonyx floridanus Bousfield, 1963:本州,四国,九州;米国[原産]【表層水/地下水(篠田 2006)

     

    メクラヨコエビ科 Pseudocrangonyctidae 

    メナシヨコエビ属 Procrangonyx 

  15.  ヤマトメナシヨコエビ Procrangonyx japonicus (Uéno, 1930):東京都【地下水】

     

    メクラヨコエビ属 Pseudocrangonyx

  16.  アカツカメクラヨコエビ Pseudocrangonyx akatsukai Tomikawa and Nakano, 2018:長崎県【地下水】(Tomikawa and Nakano 2018)
  17.  トウヨウメクラヨコエビ Pseudocrangonyx  asiaticus Uéno, 1934:長崎県対馬;中国,朝鮮半島【地下水】
  18.  アスワメクラヨコエビ Pseudocrangonyx asuwaensis Shintani, Umemura, Nakano, and Tomikawa, 2023:福井県[固有]【地下水】(Shintani et al. 2023)
  19.  チョウセンメクラヨコエビ Pseudocrangonyx coreanus Uéno, 1966:島根県,長崎県五島列島福江島,対馬;朝鮮半島
    【地下水】
  20. (和名未提唱)Pseudocrangonyx dunan Tomikawa, Nishimoto, Nakahama and Nakano, 2022:沖縄県与那国島[固有]【地下水】(Tomikawa et al. 2022)
  21.  グダリメクラヨコエビ Pseudocrangonyx gudariensis Tomikawa, Nakano, Sato, Onodera, and Ohtaka, 2016:青森県[固有]【地下水】(Tomikawa et al. 2016)
  22.  コマイメクラヨコエビ  Pseudocrangonyx komaii Tomikawa and Nakano, 2018:岐阜県[固有]【地下水】(Tomikawa and Nakano 2018)
  23.  キョウトメクラヨコエビ Pseudocrangonyx kyotonis Akatsuka and Komai, 1922:京都府【地下水】
  24.  シコクメクラヨコエビ Pseudocrangonyx shikokunis Akatsuka and Komai, 1922:四国【地下水】
  25. (和名未提唱)Pseudocrangonyx uenoi Tomikawa, Abe, and Nakano, 2019:滋賀県[固有]【地下水】(Tomikawa et al. 2019)
  26.  エゾメクラヨコエビ Pseudocrangonyx yezonis Akatsuka and Komai, 1922:北海道[固有]【地下水】

     

    キタヨコエビ科 Anisogammaridae 

    トゲオヨコエビ属 Eogammarus 

  27.  トゲオヨコエビ Eogammarus kygi (Dershavin, 1923):北海道,青森県;沿海州,カムチャッカ半島,サハリン【湖沼・河川】
  28.  イトウトゲオヨコエビ Eogammarus itotomikoae Tomikawa, Morino, Toft, and Mawatari, 2006:北海道[固有]【河川】

     

    オオエゾヨコエビ属 Jesogammarus ― Jesogammarus亜属

  29.  シツコヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusacalceolus Tomikawa and Kimura, 2021:青森県[固有]【湧水】 (Tomikawa and Kimura 2021)
  30.  ナガレヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusbousfieldi Tomikawa, Nakano, and Hanzawa, 2017:山形県[固有]【渓流】(Tomikawa et al. 2017)
  31.  オオエゾヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusjesoensis (Schellenberg, 1937):北海道,東北地方,中部地方【河川・湖沼】
  32.  ヒメヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarus) paucisetulosus Morino, 1985:関東・東北地方の日本海沿岸【渓流】
  33.  アゴトゲヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusspinopalpus Morino, 1985:関東地方【河川・湖沼】 
  34.  ミカドヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusmikadoi Tomikawa, Morino, and Mawatari, 2003:東北地方【渓流】

     

     オオエゾヨコエビ属 Jesogammarus ― Annanogammarus亜属

  35.  アンナンデールヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarusannandalei (Tattersall, 1922):滋賀県琵琶湖[固有]【湖の中層】
  36.  ヒメアンナンデールヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarusfluvialis Morino, 1985:東海地方,近畿地方【湧水】

  37.  ナリタヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarusnaritai Morino, 1985:滋賀県琵琶湖,長野県諏訪湖【湖沼】

     

    ヨコエビ科 Gammaridae 

    ヨコエビ属 Gammarus

  38.  チョウセンヨコエビ Gammarus koreanus Uéno, 1940:長崎県五島列島;中国,朝鮮半島【渓流】
  39.  ムクダヨコエビ Gammarus mukudai Tomikawa, Soh, Kobayashi, and Yamaguchi, 2014:長崎県[固有]【表層水】 (Tomikawa et al. 2014).和名は富川 (2023) による。

  40.  ニッポンヨコエビ Gammarus nipponensis Uéno, 1940:琵琶湖以西の本州,四国,九州,隠岐,壱岐,対馬【渓流】

     

    ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae 

    チカヨコエビ属 Eoniphargus

  41.  イワタチカヨコエビ Eoniphargus iwataorum Shintani, Lee, and Tomikawa, 2022:栃木県蛇尾川【表層水】(Shintani et al. 2022)
  42.  コジマチカヨコエビ Eoniphargus kojimai Uéno, 1955:関東地方【地下水・河川間隙水】
  43.  トリイチカヨコエビ Eoniphargus toriii Shintani, Lee, and Tomikawa, 2022:静岡県瀬戸川[固有]【河川】(Shintani et al. 2022)

     

    ヤツメヨコエビ属 Octopupilla

  44.  ヤツメヨコエビ Octopupilla felix Tomikawa, 2007:近畿地方,四国【河川間隙】

     

    コザヨコエビ科 Luciobliviidae

    コザヨコエビ属 Lucioblivio

  45.  コザヨコエビ Lucioblivio kozaensis Tomikawa, 2007:和歌山県古座川[固有]【河川間隙】

  46.  こうして見ると、2023年11月時点で和名が提唱された形跡のない種がいくつかありますね。今後の進展に期待したいところです。



    分類学上の扱いに注意を要する淡水ヨコエビ

    • アンナンデールヨコエビ:20世紀半ば頃まで全国から報告されてきたが、現在は琵琶湖固有種であることが確かめられている。よって、他地域の古い報告はキタヨコエビ科の代名詞のように考えることはできても、種の記録としては採用すべきでないとみられる。なお、富川・森野 (2012) における表記は「アナンデールヨコエビ」とされているが、本稿では種小名の綴りにより近く出版年がより古い Ishimaru (1994) を採用し「アナンデールヨコエビ」とした。
    • サワヨコエビ属:Sternomoera に与えられていた和名。アワヨコエビ属 Awacaris の新参シノニムとして消滅した (Tomikawa et al. 2017) ため、現在は使われない。
    • ヤマトメナシヨコエビ属:Eocrangonyx に与えられていた和名。メナシヨコエビ属 Procrangonyx の新参シノニムとして消滅した (Nakano et al. 2018) ため、現在は使われない。
    • ドウクツヨコエビ属:Relictomoera に与えられていた和名。ミギワヨコエビ属 Paramoera の新参シノニムとして消滅した (Nakano and Tomikawa 2018) ため、現在は使われない。
    • シンヨコエビ科 Neoniphargidae:かつてチカヨコエビ属が含まれていた。チカヨコエビ属の所属変更に伴い本邦未知科となったが、移動先の科(ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae)の和名に転用されたわけではないため注意。
    • ホクリクヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarus) hokurikuensis;フジノヨコエビ J. (J.) fujinoi;ショウナイヨコエビ J. (J.) shonaiensis:これら3種は、オオエゾヨコエビの新参シノニムであることが示唆されている (富川・森野 2012)
    • スワヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarus) suwaensis:ナリタヨコエビの新参シノニムであることが示唆されている (富川・森野 2012)
    • ハヤマサワヨコエビ Sternomoera hayamensis (Stephensen, 1944) :ヤマトヨコエビの新参シノニムとされている。
    • ミナミニッポンヨコエビ Gammarus sobaegensis:本邦の記録はニッポンヨコエビの誤同定の可能性が指摘されている (富川・森野 2012)
    • キョウトメクラヨコエビ:京都盆地に2系統が共存することが示唆されており、隠蔽種を内包するものとみられる (Yonezawa et al. 2020)
    • 岡山県のメクラヨコエビ属:3個体群が報告されており、このうち1あるいはそれ以上について未記載の可能性があるとされている (末永 2020)



    日本の淡水ヨコエビの科までの検索表(外来種・飼育種を含む)

    (1)第1~第2腹節後縁に棘状の突出部を具える・・・ヒアレラ属Hyalella[飼育種・アメリカ大陸原産]※和名はマグローヒル科学技術用語大辞典編集委員会  (1996) による

     — 第1~第2腹節後縁に棘状の突出部を欠く・・・(2)

    (2)尾節板は肉厚肥厚する・・・カマカヨコエビ科 Kamakidae

     — 尾節板は薄片状・・・(3)

    (3)第3尾肢外肢は先端が裁断形の薄葉状・・・メリタヨコエビ科 Melitidae

     — 第3尾肢外肢は槍状・・・(4)

    (4)腹肢は内肢を欠く・・・カンゲキヨコエビ科 Bogidiellidae

     — 腹肢は外肢と内肢を具える・・・(5)

    (5)第3尾肢は内肢を欠く・・・メクラヨコエビ科 Pseudocrangonyctidae

     — 第3尾肢は外肢と内肢を具える・・・(6)

    (6)頭部の触角洞はほとんど確認できない;第3尾肢は第2尾肢末端を越えない・・・マミズヨコエビ科 Crangonyctidae[外来種・アメリカ大陸原産]

     — 触角洞は明瞭;第3尾肢は第2尾肢末端を越える・・・(7)

    (7)尾節背面に刺毛を欠く・・・アゴナガヨコエビ科 Pontogeneiidae

     — 尾節背面に刺毛を具える・・・(8)

    (8)底節鰓に付属片を具える・・・キタヨコエビ科 Anisogammaridae

     — 底節鰓に付属片を欠く・・・(9)

    (9)第7胸脚に底節鰓を具える・・・ヨコエビ科 Gammaridae

     — 第7胸脚に底節鰓を欠く・・・(10)

    (10)第3尾肢の外肢は1節からなり、内肢は外肢とほぼ等長・・・コザヨコエビ科 Luciobliviidae

     — 第3尾肢の外肢は2節からなり、内肢は外肢より短い・・・ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae 



    <参考文献>

    Ishimaru S. 1994. A catalogue of gammaridean and ingolfiellidean Amphipoda recorded from the vicinity of Japan. Report of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, 24: 29–86.

    金田彰二 2006. ヨコエビ類. In: 石綿進一・齋藤和久(編)『酒匂川水系の水生動物~里地・里山の生きものたち~』.神奈川県環境科学センター.

    Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2017. A Phylogeny and Classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265(1): 1–89. 

    — マグローヒル科学技術用語大辞典編集委員会 (編) 1996. マグローヒル科学技術用語大辞典 (第3版). 日刊工業新聞社.

    — Nakano T.; Tomikawa K. 2018. Reassessment of the groundwater amphipod Paramoera relicta synonymizes the Genus Relictomoera with Paramoera (Crustacea: Amphipoda: Pontogeneiidae). Zoological Science, 35(5): 459–467. 

    Nakano T.; Tomikawa K.; Grygier, M. J. 2018. Rediscovered syntypes of Procrangonyx japonicus, with nomenclatural consideration of some crangonyctoidean subterranean amphipods (Crustacea: Amphipoda: Allocrangonyctidae, Niphargidae, Pseudocrangonyctidae). Zootaxa, 4532(1): 86–94.

    篠田授樹 2006. 東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査. 研究助成・一般研究. Vol.28, No.164.

    Shintani A.; Lee C.-W.; Tomikawa K. 2022. Two new species add to the diversity of Eoniphargus in subterranean waters of Japan, with molecular phylogeny of the family Mesogammaridae (Crustacea, Amphipoda). Subterranean Biology, 44: 21–50. 

    — Shintani A.; Umemura S.; Nakano T.; Tomikawa K. 2023. A new species of the genus Pseudocrangonyx (Crustacea: Amphipoda: Pseudocrangonyctidae) from subterranean waters of Japan. Zootaxa, 5301(3): 383–396. 

    末永崇之 2020. メクラヨコエビ属. In: 岡山県野生動植物調査検討会 (編) 岡山県版レッドデータブック2020動物編. 岡山県環境文化部自然環境課.

     富川光 2023. 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』. 広島大学出版会, 東広島. 198pp. ISBN:978-4-903068-59-6

    Tomikawa K.; Abe Y.; Nakano T. 2019. A new stygobitic species of the genus Pseudocrangonyx (Crustacea: Amphipoda: Pseudocrangonyctidae)  from central Honshu, Japan. Species Diversity, 24: 259–266.

    Tomikawa K.; Hirashima K.; Hirai A.; Uchiyama, R. 2018. A new species of Melita from Japan (Crustacea, Amphipoda, Melitidae). ZooKeys, 760: 73–88.

    — Tomikawa K.; Kimura N. 2021. On the Brink of Extinction: A new freshwater amphipod Jesogammarus acalceolus (Anisogammaridae) from Japan. Research Square.

    Tomikawa K.; Kobayashi N.; Kyono M.; Ishimaru S.; Grygier, M. J. 2014. Description of a new species of Sternomoera (Crustacea: Amphipoda: Pontogeneiidae) from Japan, with an analysis of the phylogenetic relationships among the Japanese species based on the 28S rRNA gene. Zoological Science, 31: 475–490. 

    —  Tomikawa K.; Kyono M.; Kuribayashi K.; Nakano T. 2017.The enigmatic groundwater amphipod Awacaris kawasawai revisited: synonymisation of the genus Sternomoera, with molecular phylogenetic analyses of Awacaris and Sternomoera species (Crustacea : Amphipoda : Pontogeneiidae). Invertebrate Systematics, 31(2): 125–140. 

    富川光・森野浩 2012. 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方.タクサ, 32: 39–51.

    Tomikawa K.; Nakano T. 2018. Two new subterranean species of Pseudocrangonyx Akatsuka & Komai, 1922 (Amphipoda: Crangonyctoidea: Pseudocrangonyctidae), with an insight into groundwater faunal relationships in western Japan. Journal of Crustacean Biology, ruy031.

    Tomikawa K.; Nakano T.; Hanzawa N. 2017. Two new species of Jesogammarus from Japan (Crustacea, Amphipoda, Anisogammaridae), with comments on the validity of the subgenera Jesogammarus and Annanogammarus. Zoosystematics and Evolution, 93(2): 189–210.

    Tomikawa K.; Nakano T.; Sato A.; Onodera S.; Ohtaka A. 2016. A molecular phylogeny of Pseudocrangonyx from Japan, including a new subterranean species (Crustacea, Amphipoda, Pseudocrangonyctidae). Zoosystematics and Evolution, 92(2): 187–202. 

    Tomikawa K.; Sasaki T.; Aoyagi M.; Nakano T. 2022. Taxonomy and phylogeny of the genus Melita (Crustacea: Amphipoda: Melitidae) from the West Pacific Islands, with descriptions of four new species. Zoologischer Anzeiger, 296: 141–160.

    Tomikawa K.; Soh H. Y.; Kobayashi N.; Yamaguchi A. 2014. Taxonomic relationship between two Gammarus species, G. nipponensis and G. sobaegensis (Amphipoda: Gammaridae), with description of a new species. Zootaxa, 3873(5):451–476. 

    Yonezawa S.; Nakano T.; Nakahama N.; Tomikawa K.; Isagi Y. 2020. Environmental DNA reveals cryptic diversity within the subterranean amphipod genus Pseudocrangonyx Akatsuka & Komai, 1922 (Amphipoda: Crangonyctoidea: Pseudocrangonyctidae) from central Japan. Journal of Crustacean Biology, ruaa028. 

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    補遺 (15-VIII-2024)

    ・一部書式設定変更。

    遺(7-xii-2023)
    ・ムクダヨコエビの和名および参考文献を加筆。

2023年3月1日水曜日

書籍紹介『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』(3月度活動報告・その1)

 

 近年、ヨコエビ本が豊作です。

 2月末にまた楽しそうな本が出ました。


ほんの去年まで、一般向けに「ヨコエビ」をシングルイシューとした書籍はついぞ出版されていませんでしたので、驚くべきファンシーさにちょっと目を疑うような表紙です。夢かどうかフトヒゲソコエビに齧ってもらって確かめたいところです。特に高度に抽象化されたヨロイヨコエビがかわいいですね。

 

 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』(以下、富川 2023)を児童書か中高生向けの書物だと思っていると、たいへんな裏切りが待っています。目次を見てもまだはっきりと分かりませんが、本文に目を通すと、非常に濃密な内容になっていることに驚かされます。目次から想像される内容の3~10倍くらい濃いです(当社比)。


 「ヨコエビ」とは何か、またその特性である「横向きの姿勢」の特異性を正しく理解するには、ヨコエビやそれを内包する甲殻類という範囲まで含めて、分類学的構造や身体の形状についての基礎知識が必要になります。富川 (2023) ではそういった学術的な下地の形成にかなりのページを割きつつ、そこから先は軽快なテンポでヨコエビの様々な側面について専門的な解説を連ねていきます。

 後半の解説は解剖学のみならず捕食・被食・寄生の関係や、繁殖様式などにも及びます。その濃度たるや、多少甲殻類学に造詣がなければ、この本を開いたほんの数十分前には到底ついていけなかったであろうガチめな領域に達しています。そしてたとえ心得があったとしても、かなり造詣を深められるものになっていると思われます。

 そして、後半部へ達する前に前半部で身につけられる濃密な知見は、ヨコエビの学術書を読み解くためというより、一般書や学校教材などで使われている用語や見方と学術的場面でのそれとの違いを理解するというような、日常場面を土台にした構成になっているところに、芸の細かさを感じました。


 そういった「教科書」的な要素をひととおり堪能した後には、実際の研究を進めるための具体的な情報を手にすることができます。採り方や固定の仕方だけではなく、飼い方にもちょっと触れているところは、とても新しいと思います。また、海水・汽水域の22科と淡水域の10科(重複有)について図解検索表が掲載されています。有山 (2022) でもブレイクスルーと言える巨大な検索表が提供されましたが、富川 (2023) では図が付いていてビジュアル的な理解が捗ります。ハマトビムシ類に限っては 森野 in 青木 (2015) などに前例がありますが、海産でこういった資料が日本語としてまとめられたというのはかなり革新的な出来事です。今日日「フトヒゲソコエビ科」という表記を使うのは誤解を招く可能性もありますが、「類」と読み替えていただくのがスムーズかと思います。

 

 ヨコエビヲタクとして特に驚いたのは、最近では 大森 (2021) で言及があった、恐らく日本最古のヨコエビの商業的生体展示にして世界最高温度帯に棲息する種であろう南米のヨコエビについて、富川先生の手によって分類学的研究が進められているという情報。この属は現在100種ほどを擁し毎年何種も新種が記載される状況が続いているグループで、かつ形態的な差が少ないという難物なのです。続報に期待です。

 あと、本筋とは関係ないですが、引用文献が略式の表記になっていて、個人的にはタイトル込みの citation のほうが論文を探しやすい感があるので、芋づる式に学び直したり知見を深めていったりするには少々敷居が高いように思われました。そしてもっとどうでもいいですが気になった点を少々。すみません…細かいところが気になってしまうものでして…。

(p.76, 77) ”ペランピトエ・フェモラタ”は イッケヒゲナガヨコエビ属 Peramphithoe の消滅に伴って ニセヒゲナガヨコエビ属 Sunamphitoe に属位変更され、現在は S. femorata (Krøyer, 1845) となっている (Peat and Ahyong 2016)。

(p.157など) ”胸肢”という語が「胸脚」と混同されて使用されている可能性がある。「胸肢 thoracopod」はヨコエビにおいて「顎脚 maxilliped」「咬脚 gnathopod」「胸脚 pereopod」に相当し、以下のようになっているはず。

 第1胸肢=顎脚
 第2胸肢=第1咬脚
 第3胸肢=第2咬脚
 第4胸肢=第3胸脚

 :

 第8胸肢=第7胸脚

(p. 179) Brevitalitridae科は「和名なし」となっているが、富川 (2023) において引用文献に連なっている 有山 (2022) で「サキシマオカトビムシ科」という和名が提唱されている。


 個人的には、あまり疑問を持たずに受け入れてきた「ヨコエビが横向きになったまま動き回っている」というシーンをここまで真正面から論じられていることに、蒙を啓かれた感がありました。よくよく考えれば、背腹に扁平となって物の表面に張り付いている生物は数知れず、ヨコエビ(主に上科)のように左右を気まぐれに反転させながら横向きの姿勢を保っているグループというのは、あまり思い浮かびません。その理由を解き明かすカギは、確かにこれまで富川先生がネット記事や講演会などで繰り返し語ってこられた中にヒントがあったのですが、そうした洞察が改めてこうして書籍として再構築されたのは、たいへん意義深いことです。

 これは真の意味での「分かりやすさ」を目指した書物のように思えます。恐らく高校生をターゲットの中心に据えているようですが、単語や表現は可能な限り平易に、しかし記述内容そのものに一切の妥協や省略はなく、知識の無い状態から「ヨコエビはなぜ横になるのか」を理解できるようになる、最も確実かつ最短距離を突っ走っているように感じられました。何かと「分かりやすさ」が求められる今日、手前勝手な誇張や単純化によってそれを実現しようとする手合いは後を絶ちませんが、そういったざんねんな状況に一石を投じるものにも思えました。

 個人的な見どころはあとがきで、本邦端脚類学の権威・森野先生との会話から本のアイディアが出てきたといったくだりは、研究者が普段なにを考えてどういう会話をしているのか、という日常の一コマに想いを巡らせずにはいられません。



<取り扱い状況>

 3月1日現在、一般の書店やネットストアでの取り扱い状況は、わかりませんでした広大出版会ページ。大学生協に問い合わせるか、取り扱い開始を待つ必要がありそうです。



<参考文献>

— 有山啓之 2022. 『ヨコエビガイドブック』. 海文堂, 東京. 160 pp.

— 大森信 2021. 『エビとカニの博物誌―世界の切手になった甲殻類』. 築地書館, 東京. 208pp. ISBN978-4-8067-1622-8 

— 森野浩 2015. ヨコエビ目. In: 青木淳一(編) 『日本産土壌動物 第二版-分類のための図解検索』 1069–1089. 東海大学出版会, 東京. ISBN978-4-486-01945-9

— Peat, R. A.; S. T. Ahyong 2016. Phylogenetic analysis of the family Ampithoidae Stebbing, 1899 (Crustacea: Amphipoda), with a synopsis of the genera. Journal of Crustacean Biology, 36(4): 456–474.

 富川光 2023. 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』. 広島大学出版会, 東広島. 198pp. ISBN:978-4-903068-59-6

 

2022年10月10日月曜日

海じまい(10月度活動報告)

 


 

 久々に桃太郎に会えました。

 最後にここに来たのは2019年の夏とかだった気がします。今回は日本甲殻類学会大会の自由集会から参加のため、連泊の旅行です。

 O大学のキャンパスには初めて立ち入ります。広い。



 オンサイトの学会大会そのものがかなり久し振りです。分類学会もベントス学会もオンラインだけでしたね。

 生物科学学会連合の加盟団体を中心に、これに隣接した分野に対応していると思われる団体を含めて、ホームページで大会や集会の類の情報を公開しているところをざっと確認したところ、水産学会や動物学会など他にもオンサイト開催をしているところはあるようです。リモート参加も「情報を得る」という意味でそれほど悪いものではなかったと思いますが、現場には現場の良さがあるのでオンラインに取って代われれることはあり得ないでしょう。


 さて、せっかくここまで来たので、個人的なヨコエビ空白地帯を埋めたいと思います。




1.河口泥干潟



 塩分はかなり甘めです。

 最干潮時間と学会開始時間を踏まえ、時間的にトライ可能な非直立護岸にアタリをつけただけで、その他の要素は多分に妥協しています。逆に、Googleロケハンの限りでは、市街から1時間圏内には海産ヨコエビの採取可能と思われる未踏ポイントは無いと言えます。


 踏み込んでみると…


 ドロドロだもん。

 ソロチャレンジしていたら最悪落命していたかもしれません。


 それなりに水草の残骸が見られますが、還元化しているというより、河川からのシルト・クレイの供給が盛んなようです。

 ボウズは回避しましたが、ドロクダ・ドロソコ近辺のラインナップで、目新しいものはありませんでした。




2.砂礫海岸


 海に迫る山肌にホテルやレストランがまばらに配されたエリアで、堤防の内側に道路、外に砂浜があります。浜はとにかく汀線方向に距離があって、今回は片道20分程度歩きました。これだけ広いとあまりコストをかけて砂の投入や漂着物除去をやっているようには思えないのでこれがデフォなのでしょうが、打ち上げ海藻はほぼ皆無で、その代わりリールから引き出された磁気テープのようになったアマモが散在しています。潮廻りや時間帯もありましょうが、カラカラのアマモの下にはハサミムシ類だけいて寂しいです。



 瀬戸内でよく見る石英の多い岩と砂ですが、岩の配置に何となくアーティフィシャルな雰囲気を感じます。道路を造る時に切り取った分を海側に置いたのかな。


 海藻少ない。

 沖合いにアマモ場がある感じなんですかね。汀線際の浮遊物も遠くから流れ着くアマモが優占していて、岩には紅藻とカヤモノリのような単純構造の褐藻だけちらほら。


モクズヨコエビ科ほか。

 

エンマヨコエビ上科ほか。丸いのは等脚です。


 主に海藻からしかヨコエビが採れません。このエンマヨコエビ上科ぽいのは恐らく県初記録ですが、同定できる自信はないです。


 打ち上げ物が砂に埋まっている部分からはハマトビムシが見つかりました。

 細かい砂は倉敷のヒゲナガハマトビを彷彿とさせますが、掘ってみて納得。ここはすぐまあまあの大きさの礫でできた層があってとても硬い。小型の動物には掘りにくそうです。


ハマトビ寄生ダニ。


 これも県初ではないでしょうか。幼体だろうけど分類できるんだろうか…


 「せっかくなら採集」なりの結果となってしまった感もありますが、新しいものも見れました。この2Pを回れたことで、公共交通機関でのアクセサビリティなどの条件を踏まえると、行ける範囲の海岸はだいたいカバーしたのではと思っています。

 離島や道があまり通っていない地域など、手付かずとなっている場所のヨコエビリティは未知数ですし、潮下帯ともなれば尚更です。目録の完成にはこのあたりへの対応が鍵となりそうです。




3.前浜砂泥干潟

 O県から戻った後、今年最後の海へと出かけました。

 今回は「潮間帯スタッカー!」の管理人・ひろこりん氏とのコラボ第二弾、干潟編です。


イマジナリーでないことの証拠として同行者の写真を載せます。


 数年前に来た時よりアオサの打ち上げは悪化しているようです。このような状況になる要因はいくつか考えられますが、あまり続くようだと底質は還元化して生物相は単純化していきます。

 沖に向かっていくとワンドのヘリにもかなりアオサが溜まっています。ここまでひどい状況はあまり見たことがない気がします。

 漂っているアオサそのものは面白くないのですが、漂着物の中や表面にはアオサに混じってヨコエビが見られました。


何らかのサキモクズ属 Protohyale と思われる。


これは何のタテソコエビ Stanothoidae だろうか…



イソヨコエビ属 Elasmopus。おそらく未記載。


 このサイトの干潟面でこれだけイソヨコエビ属が採れたのは初めてです。以前も同じような干潟面の構造物をガサガサとやったことはあったのですが、環境が何かしら変化しているのか、今回はだいぶ時間をかけてガサガサしていたのでそのお陰かもしれません。過去に1個体だけ得られたものと同じか分かりません。


 最干潮を迎えてからの上げ潮がやはりエグいですね。潮上帯へ退避。


個人的にタイヘイヨウヒメハマトビムシ Platorchestia pacifica と信じているもの。


 実は今回の主目的はこれらの種ではありません。いちおう採りたいものは採れたので、のちほどひろこりん氏からリリースされるものと思います。乞うご期待。



また来るで!


 


2020年4月4日土曜日

岡山県産ヨコエビに新和名を提唱してみた(4月度活動報告)


 岡山に通ってヨコエビを集めた話は既に述べました(Once Upon a Time in Okayama 1, 2, 3, 4).7回の調査で360頭あまりのヨコエビを得て,種を同定するに至りました.ほかに上位分類群で止めているものがあります.また,確実に未記載種というものも含まれています.

 フィールドワークに加えて,県立図書館で文献も漁ったりしてたのですが,こうして得られた調査結果が,2020年3月31日から岡山県のHPで公開されています.

 2019年3月末の時点で端脚目は 1120種(群)だったのですが,採集調査によって23種(群),文献調査によって21種を追加し,3倍以上の 2764(群)まで育てました.これはさすがに自慢してもよいと思いますので,ここで少し威張ります.えっへん.


 さて,和名未提唱の分類群が幾つかあったので,和名を提唱させて頂きました.せっかくなのでその説明をします.




コウライヒゲナガ Pleonexes koreana (Kim and Kim, 1988)

 


 和名は種小名からとりました.「チョウセン」とすると別の意味合いで名付けられた和名(チョウセンカマキリ,チョウセンハマグリ等)と混同されると考えました.また,「高麗」という語感が,Ampithoe 属の中で装飾的な部類に入る本種に合っているように思いました.
 県への報告では Ampithoe 属として出しましたが,実は Peart and Ahyong (2016) で Pleonexes 属に属位変更されてます.
 しかしながら,Peart and Ahyong (2016) には不審な記述が散見されます.例えば,尾節板の突起について,keyで「大きく湾曲する」となっている一方,diagnosisでは「小さい」と書かれています(この形質は Pleonexes 属 最大の特徴とも言えるもので,長らく Ampithoe 属 との識別形質の一つでしたが).なお,P. koreana の記載および今回得られた標本において,尾節板に特に変わったところは見受けられず,Ampithoe 属の特徴とよく一致します.

3種の尾節板(いずれも過去の文献に示された図を元に作成).

 また,第5~7胸脚について,Peart and Ahyong (2016) に掲載された Pleonexes 属 の diagnosis では「把握できる形状」となっています.この形質は Sars (1895) に示された Pleonexes gammaroides の図と合致するものの,P. koreana の記載論文(および今回得られた標本)とは矛盾します.

3種の第7胸脚(いずれも過去の文献に示された図を元に作成).


 このように,Peart and Ahyong (2016) には不可解な点が多いので,コウライヒゲナガを Pleonexes 属 として扱うのは不適切だと(個人的には)思っています(※1).


 さて,本種の最大の特徴は太く立派な咬脚や触角です.成熟したオスであれば,この特徴的な第2咬脚を見れば現場でも容易に同定ができます.
 しかし, この形質で確信がもてない場合,実はフサゲヒゲナガ A. zachsi A. shimizuensis など,触角に毛の多い近似種との識別は容易ではありません.記載論文に示された識別形質は結構頼りないのです.

せっかくなのでまとめました.




ヨツデヒゲナガ Ampithoe tarasovi Bulycheva, 1952

 


 和名は,オスの第1と第2咬脚がともに大きく発達することに由来します.元気な個体を観察すると,4本の咬脚を盛んに動かす様子などが見られます.写真の個体はオスですが,咬脚があまり発達していないので,「四つ手」感は薄いかもしれません.ぜひフィールドで探してみてください(国内のまとまった記録は見つけることができませんでしたが,瀬戸内以東には分布していると考えてよいと思います)
 本種の形質は,モズミヨコエビ A. valida と ニッポンモバヨコエビ A. lacertosa のまさに中間と言えます.咬脚だけを見ても,モズミヨコエビのトレードマークとも言える櫛状構造を具えた台形状突起(オス第2咬脚掌縁)をもちながら,掌縁全体が斜走するというニッポンモバヨコエビの特徴も兼ね備えています.そんなこんなで,近似種との識別点としては,以下のポイントを押さえておけば間違いはないかと思います.

底節板縁部の剛毛は重要な識別形質です.

 印象としては全体的にやや細身で,体色は濃淡のある赤褐色の個体が多いようです.Shin et al. (2010) は逆パンダのような体色を特徴として挙げており,本邦でもこのように白い襟巻あるいは襷を締めた個体がしばしば発見されるようです.一般論としてヨコエビの同定において体色はあてになりませんが,ユンボソコエビ科では体表の色素斑がある程度種の特徴を表すという事例もあり,襷の有無は気になります.個人的には,成長段階や地域個体群の差,あるいは隠蔽種(岡山や市川の個体群は真の A. tarasovi ではない未記載種)の可能性も検討したほうがよいと考えています.今のところ,Shin et al. (2010) に挙げられた形質と特に矛盾しなかったので,本種と同定しています.
 ちなみに最近,脱皮殻から成長を推定する研究が発表されました (首藤・吉田 2019).




タカラソコエビ科 Tryphosidae Lowry and Stoddart, 1997

 


 実は今のところ自力で採集したことのないグループです.写真や線画は見たことがあります.例のプロジェクトで探したのもこのグループです.
  和名の由来は,志賀島で耳にした「タカラムシ」という方言です.正確にナイカイツノフトソコエビを示すものとは断定できませんが,ギリシャ語の”Tryphosa”を「優雅」「かけがえのないもの」といった意味をもつ言葉として女の子の名前に推す英語のサイトを見つけたので,「タカラ」は原語の意味にも近いと考えて決めました.元々 Tryphosa はギリシャ神話に登場する王女の姉妹(の姉)に由来するようです.こういった例は多く,Ampithoe(ヒゲナガヨコエビ)や Dexamine(エンマヨコエビ),Lysianassa(フトヒゲソコエビ),Melita(メリタヨコエビ)などもギリシャ神話のネレイデスに同じ名前があります.
 タカラソコエビ科は42もの属を含むフトヒゲソコエビ類最大のグループで,分類も難しいです.科の概要や,他のフトヒゲソコエビ類との識別については過去のブログ(俺たち太ひげ海賊団太ひげ危機一発)をご参照ください.

他のフトヒゲソコエビ類との主な識別点です.


 今年も岡山に行きたいと考えていましたが,時世が許してはくれなさそうです.今度は新たな島なども開拓したいと思っています.



※1
 Peart and Ahyong (2016) は77形質を検討し,ヒゲナガヨコエビ科分類体系の再構築を試みています.その中で,過去に Ampithoe 属 の新参シノニムとして消されたこともあった Pleonexes 属を,有効な分類群と認めました.しかし, Pleonexes 属のタイプ種として P. gammaroides Spence Bate, 1857 を挙げつつ,構成種の中では本種の記載年を1856年としています.Spence Bate (1857) にも確かに P. gammaroides が登場しますが,Spence Bate (1856) において既に言及があるため, P. gammaroides Spence Bate, 1857 という表記は不適切と思われます(しかし,記載論文を探し出すことはできませんでした)
 なお,WoRMS においては Pleonexes gammaroides Spence Bate, 1857 とともに,Ampithoe gammaroides (Spence Bate, 1856) という種も「accepted」のステータスが与えられています.本種は”原記載においてスペルミスAmphitoe gammaroidesとの表記)があった”とWoRMSに記されていますが,Spence Bate (1856) にその様子は見られませんでした.Spence Bate (1856) に該当する文献が他にあるのかもしれませんが,謎は深まるばかりです.



2019年9月3日火曜日

山口さんち(8,9月度活動報告)


 この夏はウシロマエソコエビを求め,あちこち遠征をしてきました(和歌山愛知など).前回の伊勢湾遠征を「この夏最後」と考えていましたが,せっかくなのでここでもう一息と仕切り直し,未踏の地,山口へと足を伸ばしました.



サイト1


 崩れず,照り過ぎず.天候は申し分ありません.

 やばい.めっちゃ広い.

山口県某所.


 淡い色の,石英優占の粗砂がメインの砂浜です. 

 瀬戸内といえば,自然海岸を求めてさまよった岡山の調査が記憶に新しいところ.山口ではあっさりたどり着きました.岡山のロケハン難易度に比べてだいぶハードルが低いように思います.

 少し知多半島に似ていて,遠浅で海草が根付いた良さげな砂浜ですね.


 そんなに変わった生き物はいません.







 何かしらのヤドカリと何かしらのトウガタガイとカブトガニ…














 カブトガニ?!










 マジかよ.





 博物館の収蔵庫とかで見たことありますが,こうして野外で死骸を見つけたのは初めてです.ちっこい子供とかでも動揺は不可避なところ,いきなり大人でしかも2杯.こわすぎ.

 岡山遠征の折,「笠岡のカブトガニは天然記念物」という記憶が強く脳裏に刻まれており,非常にビビりました.でも,どうやら山口県下では天然記念物になってないらしく,ビビる必要はなかったようです.それにしても,この干潟のどこかに生きたカブトガニがいるとでも…? 


 とりあえずいつもの通り,汀線へと向かいます.


※カブトガニは地域によって天然記念物の指定を受けており,採集など「現状を変更する行為」には許可が必要です.また,長崎県のように,独自に条例を制定して捕獲を禁じている場合もあります.


これは何かしらの背骨.



 ひたすらに LNO を繰り出しますが


マルソコエビ(Urothoe).




クチバシソコエビ(Oedicerotidae).




ドロソコエビ(Grandidierella).





 掘るとオフェリアが多く,あとは何かしらのハゼとワタリガニ.たまにウミナナフシ,稀にクーマ.

 採れない.





 仕方がないので固着物に打撃を.

ユンボソコエビ属(Aoroides).


ドロクダムシ科(Corophiidae).


 驚きのヨコエビリティの低さ.


 砂の中のマルソコエビ密度はなかなかのものですが,磯的環境について特に見処はないようです.

 例のごとくタイムリミットが近づいてきたため潮上決戦に移行します.


 
ヒメハマトビムシの近似種(Platorchestia pacifica).


ニホンスナハマトビムシ(Sinorchstia nipponensis
第1尾肢の外肢に棘状剛毛があります.


 
 ヒゲナガハマトビムシみのある孔は見つかりませんでしたが,分布はしていてもおかしくない.課題とします.





 

サイト2


 未明.28時半.天気は雨.




山口県某所.


 夜に偵察したところパリピが活発に活動していましたが,さすがにこの時間,この空模様,誰もいません.

 打ち上げ物はかなり綺麗にされているようです.


 

 粗砂の浜が続き,リゾートみは感じますが,ヨコエビリティは感じられません.暗いせいもあってなかなか良いポイントがわかりません.

 浜の外れの雰囲気はやや磯っぽく,砂浜の凹凸にもヨコエビリティが感じられてきました.

 おもむろにLNOを繰り出すと


ヒサシソコエビ(Phoxocephalidae). 


 そっちか!


 潜砂性の優占種がヒサシソコエビに寄っているのは,和歌山に似ています.

 ならばもう一声,と周囲を探索したものの,上げ潮により敢えなく撤退.もっと早く始めるべきでした.



 さて,5時半を過ぎたあたりから,浜辺に人が集まりはじめました.
 近づくにつれ,釣り人であることと,ゴミ拾いをしている様子が見えました.



 釣り師のおじさんによると,ここらは6時から9時までの3時間だけ釣りが可能で,それにも幾つか条件があるそうです.
 その一つがゴミ拾いで,釣りが終わった時点で袋一杯にゴミを拾っていないと,ルール違反になるとのことです.ゴミの基準も「土に還らないもの」に限定しているとのこと.
 確かに,腐ったような打ち上げ海草/海藻は除去しているように見えましたが,良い感じにくたびれた植物体はわりと残されており,ニホンスナハマトビムシが見られました.汀線際の新鮮な打ち上げ物のまわりには,Platorchestiaと思われる微小なハマトビの子供たち.なかなか良い状態です.
 そして何より,この釣りルールを全面的に管理・運営しているのが市だというので,その実行力に驚きました.ぜひ全国で発展させてほしい.そして我々も参加できる枠組みになればいいな…


 「パアン」という花火が2回,浜に響くと,汀線に控えていた釣り人たちはめいめいに針を沈めていきました.


これはうまく撮れなかったゴンズイ玉.




 総括.

 ウシロマエソコエビを探る旅は,これにて一旦終わりです.2勝を収めましたが,いずれも細かく生息地を教えて頂いた場所で,自力のGoogleロケハンで突き止めた生息地は皆無です.

 敗因の1つは,アクセサビリティを重視しているため訪れる干潟が限られる点かと.生息情報があるエリアの中で,電車やバスで行きやすい場所を優先しているため,そこが必ずしも生息密度が高いとは限らない可能性.

 もう1つは採集方法の難点.約1mmメッシュの洗濯ネットを使っていますが,粒径が大きい場所ではヨコエビといっしょに砂粒が篩に残り,あまり意味をなしません.また,潮下帯で篩を使う場合,砂を採って持ち上げた時に逃げてしまう可能性がある.潮下帯へのアプローチが甘い中で,土地のヨコエビリティを受け止めきれているだろうか.あと,もしかすると網やバットを黒くすれば視認性が向上するのかもしれない.

 採集スタイルについては,まだ改善の余地があると思います.九州遠征を経て,改めてレンタカー採集の素晴らしさを認識しました.ホテルや宅配便センターとの連携により,大きな荷物を別送して採集に臨むこともできるはず.

 あとはロケハンの眼を養うため,失敗を重ねつつ,何度か同じ場所にアタックして知見を深めながら次の干潟へ行く,という心掛けも大切かもしれません.












2019年5月24日金曜日

Once Upon a Time in Okayama 4(5月度活動報告その3)



 ふたたび岡山に足を踏み入れました(過去の経緯はこちら→ Once Upon a Time in Okayama 1,2,3).GWに 「今期はこれで終わり」と言ったような気もしますが,おそらく気のせいでしょう.


 当初,GWまでに採集を終わらせるという計画でした.しかし,その後収集した文献に気になるところを見つけてしまいました.さらになぜか潮も良いので,腹に飼っている干潟の虫がどうにも騒ぎ出してしまい,現場へ赴いて裏取りを試みた次第です.


 今回の遠征期間,予報では曇りが続くようです.大潮で曇り.これはもう海に行くしかないのでは(真顔).



岡山県某所.



 いや,絶対いないよね.ターゲットのあいつ絶対いないよね.



 海藻がなさすぎます.

 堤防の向こうは淡水湖で,元々ここ一帯は汽水環境だったようです.堤防が閉められた状態でも周辺河川や水路から淡水の流入があり,水は(測定していませんが)恐らくかなり甘め.

 今回気になった記述というのは,某岡山県水産試験場報告書なのですが,ニッポンモバヨコエビ(Ampithoe lacertosa)の記録があります.しかし,私の経験上,台風の後のようなタイミングでもない限り,A. lacertosa が生息するようには思えません.


 上空ではカラスとトンビが鎬を削っていました.


 かなり泥.死を覚悟するレベル.


ほら結構どろどろしてる.


電マ弐号機.
 これまで(11月とか5月とか)ネタ扱いでしたが,今回からガチ採集用具として投入.



 掘っても無臭.東京湾奥のような硫黄のオイニーは皆無で,還元されてる感があまりない.栄養塩が少なく有酸素分解能力を超えたバイオマスが溜まらないのかもしれません.



いつものドロソコと,
尾節が分かれているタイプのドロクダ.


 このドロクダ,一応これまで私が回った岡山県内の調査地では出てこなかった種ですが,3月公開のリストには掲載されています.東京湾では,江戸川や荒川などのかなり甘めの泥底にいます.改めて見ると大きいですね.


 護岸と石積にはいろいろ付着しており,磯的環境になっているので,一応フジツボやイガイを剥がしてみます.


尾節が癒合するタイプのドロクダ.



 Googleロケハンでは周囲に砂浜らしい場所も見つけており,地元の小学生からも打ち上げ物の多い海岸があると聞いたのですが,やや距離があり制限時間内には辿りつけませんでした.ここら一帯の水路や湾は地盤が低いようで,全体に泥が優占しており,見て回ることができた範囲では,ハマトビリティも感じられません.



 実り少なく意外性もないまま離脱.一応,Ampithoe valida っぽい未成熟個体は得られましたが,A. lacertosa はおらず.
 いないことを確かめる的な感じではあったので,ひとまずこの遠征の前哨戦はこれで良いことにします.







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 何より本当の戦いは2日目,磯採集です.

 某倉敷市自然博物館の報告書では Hyale grandicornisGrandidierella sp. が記録されており,前者は誤同定ではないのか?後者はいったいどういうことなのか?とても気になりました.


 早朝.


 起きたら暗すぎてビビりましたが,身支度を整えるころにはあたりが白み始め,朝靄の中に瀬戸内の島々が緑を頂いて海に浮かんでいるのが見えました.

 
 ホテルからのアクセスは申し分ありませんが,船着き場があることや幹線道路にも近いことから,人の手が入ってあまりヨコエビリティは高くないのではと思い,Googleロケハンの段階では調査の候補地から外していました.


岡山県某所.


 そんな場所も,実際に訪れてみれば申し分のない自然海岸です.突き出た岬のような地形で,近くに川がなく,波を遮る構造もないことから,わりと外湾的な雰囲気があります.

 立派な鯛を釣り上げていたおっさんに話を聞いたところ,浜に下りるのが難しいせいか人がほとんど来ない穴場とのこと.崖から松がせり出す瀬戸内然とした風景ですが,わりと急なのか岩場から上の潮上帯にはほとんど砂浜を伴わず,落ち葉や打ち上げ海藻が溜まっている場所はありません.ハマトビリティ無し.

 沿岸の海藻は,潮間帯下部の砂底を埋め尽くすほど繁茂したモクが目立ちます.しかし,汀線際の岩場上に緑藻や紅藻は少なく見え,ヨコエビの種数を稼ぐにはもっと欲しいかなと.泥が溜まったところはサンゴモに取られていて,岩場の泥干潟みたいな場所はなかなか見つからず.これで本当にドロソコエビ属(Grandidierella)が採れるのだろうか…?


 海藻をガサると,やはり外房を彷彿とさせるモクズ感.しかし,ニセヒゲナガはいないらしい.Jassa も少ない.ドロクダはわりといる.
 石の下にはメリタとGammaropsis


ソコエビ属(Gammaropsis).目録としては新メンバー.


これはProtohyaleHyale属ではない.

 結局 Hyale grandicornis は採れませんでした.採れないから居ないということにはなりませんが,何にせよ30年前の報告書であり,Bousfield & Hendrycks (2002) のレビューが出る遥か前の記録なので,知見が十分でなかったとも考えられます.あるいは昔はいたものが今はいなくなったのか・・・?またいつか,改めてここを攻めたいと思います.



 その他海藻の間からは,Aoroides と,触角に毛が多いヒゲナガはメスしか採れず.ドロノミ(Podocerus)もいますがどうせ未記載なのがわかっているのであまりサンプルは増やしたくない…


 潮間帯の下から攻めていきましたが,丹念に見るとタイドプールには少し泥っぽい場所もあります.

ドロソコエビ属(Grandidierella).


 やりました.

 こちらで Grandidierella と共存しているのは,尾節が分かれているタイプではなく,尾節が癒合するタイプのドロクダですね.

 こうして見ると,ヨコエビ相は外湾的というより,やや内湾的なメンバーの割合が多いでしょうか.



 狙っていたグループのサンプルが揃ったのと,潮がヤバいので,岩礁から外れた砂浜へ移動し,締めの潮上決戦をおっぱじめることにします.



 打ち上げ海藻は貧弱です.
 しかし,草地や岩礁と連続したこの幅広い砂浜,そこらへんに点在する謎の穴,手ぶらで帰ることにはならない気がします.Platorchestia joi でもいるのではとおもむろに砂堀りを開始すると・・・






?!!



デカすぎ.


 迷う余地もなく Trinorchestia です.

 いくらなんでもデカすぎます.

 森野・向井 (2016) によると体長25mmとのことですが,今回得られた個体は触角がまだまだ長くなりそうなので,もっと大きくなるのではないでしょうか.


 このサイズ感.深いところから引き揚げるでもしないとなかなかお目にかかれないボリュームのヨコエビさんです.ピョンピョンするヒメハマトビムシとは対照的に,「ゴロン」と出てくる感じが堪りません.


 そして機動力.普通の深さのバットからは容易に脱出してしまいます.しかし,身体の比率でいうとヒメハマトビムシほど飛距離を稼げない様子・・・生息密度も高くなく,1頭1頭を狙って捕る感じなので,掘り出してさえしまえばあとは虫取りの要領です.今回はEHT法の準備はしておらず,高塩分への応答は不明です.



 何はともあれ自己初採集のヒゲナガハマトビムシです.岡山県初記録というのがもはやどうでもよくなるレベルの感動…!!瀬戸内の奇跡!!そりゃヴィレヴァンに出品したくもなるわ.


 さて,問題が一つ.こやつは何者なのか?


 日本に分布しているヒゲナガハマトビムシ属(Trinorchestia)は,担名種の Trinorchestia trinitatis とされています.しかし,笹子 (2011) は北海道,宮城,福島,千葉,京都などから得られたサンプルの形態形質を検討し,その中から,韓国から記載された T. longiramus の特徴を具える個体を見出だしています.


 どうなんだろうか…?


 明瞭な凸部があるという第2咬脚の特徴は T. trinitatis とよく合致します.
 尾肢については,内肢と外肢の比が同定形質とされていますが,笹子 (2011) が指摘しているように,Jo (1988) の記載には長さの比は数値で示されておらず,図を見る限りは非常に微妙な差のように思われます(Jo 1988 がいつの間にか無料で読めるようになっていますね・・・驚きです・・・).
 今回はひとまず森野・向井 (2016) に示された同定形質と矛盾しないことと, Jo (1988) および笹子 (2011) が議論の中心に据えている第2尾肢の形状を拠り所に,T. trinitatis として同定・報告しました.



 さて,Jo (1988) に記された T. longiramus の remarks においては,T. trinitatis との識別にあたって,次の形質も挙げられています.実際のところ両者の違いはどこにあって,今回の岡山県産サンプルは胸を張って T. trinitatis と言えるのでしょうか?

  • 第4胸脚の指節は爪に被さって突出する構造がある(vs. トゲを欠く)
  • 左大顎の可動葉は6歯(vs. 5歯)
  • 顎脚鬚の第4節は退化的(vs. これを欠く)

オスの第2咬脚:指節の根元に凸部があり,掌縁には凹部がある.
第2尾肢:副肢の内肢と外肢の比.
顎脚髭:第3節の先端に微小な第4節が付加されている.
左大顎:可動葉に5歯を具える.
第4胸脚:指節の先端近くに張り出し部および剛毛あり.


 岡山産オスは,5つの形質のうち3つが該当するものと判断しました.つまり T. trinitatis とも T. longiramus とも言えない,ということです.しかし,これら5つの形質には,以下のような問題があります.

  • 第2咬脚の凸部と凹部の形状の違いは,description の文言や図の描かれ方に違いがあるものの,定量的に表現されていない.
  • 口器および第4胸脚の形質について Morino (1972) は文章として述べておらず,図から読み取るしかない.Jo (1988) は網走産サンプルを確認し,T. longiramus と同定しているが,T. trinitatis の標本との比較を行ったかどうかは不明.
  • Jo (1988) は尾肢の内肢と外肢の長さの違いを重視しているが,定量的な基準など十分な情報が示されていない.

 特に T. longiramus の命名の由来ともなっている第2尾肢の特徴については,Jo (1988) が何をいわんとするのか,探る必要がありそうです.


岡山産オスの左第2尾肢.
内肢:外肢は8:7で,やや内肢が長い.


岡山県産オスにおいて,第2尾肢副肢の長さのみを比べると内肢が長くなります.しかし,尾肢の柄部において内肢より外肢のほうがより遠位から生えており,先端の位置は概ね揃っています.極端に言うと,副肢の長さを比べる時に「柄部についたまま比べる」のと「別々に測る」のとで,どちらの種に合致するかが変わってしまう状態です.

 Jo (1988) における T. longiramus の図は,内肢:外肢=9:8と読み取れますが,先端の位置がズレています.よって,副肢を外しても外さなくても常に内肢が長いのが T. longiramus と考えられます.
 対照的に,Jo (1988) が引用している Morino (1972) では,T. trinitatis の図は内肢と外肢の先端が揃っています.しかし,生える位置の関係は不明瞭で,尾肢そのものの長さを図から読み取ることができません(推定1:1).
 一方,Jo (1988) が T. longiramus として扱っている Stephensen (1945) の図は,内肢:外肢=5:4でだいぶ先端の位置がズレて見えます.しかし,柄部から生える位置は揃っていました.
 よって,Jo (1988) が重視する尾肢の長さの違いは,「尾肢そのものの長さ」「端部の位置関係」の両方を指すものと判断しました.つまり,岡山県産オスが T. trinitatis T. longiramus のどちらかに相当するか,第2尾肢では判断がつきませんでした.


 だんだん訳がわからなくなってきたので,他のサンプルも見てみようと思います.
 以前,大槌のさる方から頂いたサンプルです.


左大顎:可動葉に6歯を具える.
顎脚髭:第3節の先端に微小な第4節が付加されている.
第4胸脚:指節の先端近くに張り出し部および剛毛あり.
第2尾肢:副肢の内肢と外肢の端部は同じ位置.


 これらをまとめると・・・


驚きの結果が・・・


 Jo (1988) が網走産標本を検鏡して T. longiramus と同定していることと,笹子 (2011) において北海道,宮城,福島,千葉で T. longiramus が報告されていることから,もしかすると岩手県産オスは T. longiramus かもしれないと予想していました.果たして,かなり T. longiramus でした.にもかかわらず,第2尾肢の形状だけは判然としません.



 ちなみに,こちらがヴィレヴァンで購入したヒゲナガハマトビムシ.

芸術作品としての意図を尊重し,解剖はせず.どうせ産地不明だし・・・

 角度を変えながら見ると,第2尾肢の内肢がけっこう長く見えます.
 この尾肢は,T. longiramus で間違いなさそうです.




 以上の通り,Jo (1988) が挙げた4形質(+第2咬脚)を検討した結果,岡山県産オスは真のヒゲナガハマトビムシ T. trinitatis の特徴を具えつつ,T. longiramus の条件を満たす部分がいくつもあることが示されました.特に Jo (1988) が重視していた第2尾肢と第4胸脚について,前者は先端が揃っている点は T. trinitatis に近いと解釈しても,後者は T. longiramus そのものであることを踏まえると,種同定は見送るべきだったかもしれません.報告を急ぎすぎたか?

 このたび T. longiramus に固有とされる形質が同定において必ずしも有効ではなかったことを考えると,岡山県産オス(岩手県産オスも?)は T. trinitatis および T. longiramus とは異なる形質のコンビネーションに基づいて定義される未記載種なのでしょうか.あるいは両者を見分ける別の同定形質の開発が必要かもしれませんし,両者が同種を指している可能性もあります.このあたりはいずれ分子で決着をつける必要があると思います.


 
 何はともあれ,今回”ヒゲナガハマトビムシ”の生息環境を実際に知ることができたのは大きな収穫でした.ヒゲナガハマトビムシは身体が大きく,夜間の活動範囲が広いようなので,汀線から陸までの幅広いエコトーンを要求するものと考えていました.この条件は,今回のフィールドに合致します.
 また,鉄腕d○shの「da○h島」 にヒゲナガハマトビムシが出現して界隈が騒然とした時に,砂はかなり細かく見えました.これも,今回のフィールドと同じ傾向です.
 ただ,今回のフィールドは砂浜上に海藻が乏しく,ヒゲナガハマトビムシの巨躯を支える餌がどのように供給されているか,よくわかりませんでした.周囲を見わたしたところ,砂浜の外れに明らかに人が投棄したと思われる海藻の束がごっそりと落ちていて,そういったものを利用していることが考えられました.そして,汀線の近くには足にまとわりつくほどの藻場が広がっていることから,もしかすると,高い頻度で打ち上げ海藻が供給され,朝までにあらかた食い尽くされているのかもしれません.

 

 岡山県調査の総括. 

 リストの拡充にあたり,まだ行けていない場所が多いことは既に述べました.一方で,調査ごとに増えるリストの行数は,だんだん減ってきました.歩いて行けるエリアについては,岡山のヨコエビリティの実態に迫ることができたのでは,と思います.
 
 結果の詳細は岡山県の発表をお待ちください!





(参考文献)
Bousfield, E. L. & Hendrycks, E. A. 2002. The talitroidean amphipod Family Hyalidae revised, with emphasis on the North Pacific Fauna: Systematics and distributional ecology. Amphipacifica, 3(3): 7–134.
Jo, Y. W. 1988. Talitridae (Crustacea — Amphipoda) of the Korean coasts. Beaufortia, 38(7): 153–179.
Morino, H. 1972. Studies on the Talitridae (Amphipoda, Crustacea) in Japan — I. Taxonomy of Talorchestia and Orchestoidea —. Publications of the Seto Marine Biological laboratory, 21(1): 43–65.
森野浩・向井宏 2016. 砂浜フィールド図鑑(1) 日本のハマトビムシ類. 海の生き物を守る会, 京都市.
—  笹子由希夫 2011. 日本産ハマトビムシ科端脚類の分布と分子系統解析. 三重大学修士論文.
— Stephensen, K. 1945. Some Japanese Amphipodes. Videnskabelige Meddelelser Dansk Naturhistorisk Forening, Vol. 108: 25–88.