2019年5月6日月曜日

Once Upon a Time in Okayama 3(5月度活動報告その2)


(前回までのあらすじ)
 土曜日の朝,二日酔いにあえぐアラサーサラリーマンの目に飛び込んできたのは,半月前のツイートに対する思いがけないレスポンスだった!岡山県自然環境課,岡山大学,そしてヨコエビおじさんの思惑が交錯する中,一人の男が瀬戸内の海辺へと降り立つ.既知種か?未記載種か?立ちはだかる形態分類の壁を前に,ヨコエビストの実力が試される.果たしてヨコエビおじさんは鬼退治を成し遂げることができるのか?美しい瀬戸内海を舞台に繰り広げられる,砂と海水にまみれた偏愛の物語が今,幕を開ける…!


 また岡山です(過去の採集⇒Once Upon a Time in Okayama 1, 2).
 とりあえず今期はこれで締めです.



 晴天に恵まれ…というか,日差しが強くかなり暑いです.


 

岡山県某所.


 今回はです.


 スローライフを観光の目玉にしていることから,自然海岸が結構残されているのではないかと.また,狭い範囲に岩礁や砂浜など海岸のあらゆる要素がぎゅっと圧縮されている感があり,効率的な採集ができそうな気がしたので,〆めに選びました.

 

 本土からは船で10分.何らかのイベント期間中らしく,理解できない人数が乗っています.

 まず外湾的な岩礁を見てみます.

近くを船が通ると波をかぶる感じ.



 塩分濃度は十分なはずですが,藻類の顔ぶれが非常に単調です.打ち上げ海藻へのフサゲモクズの付着すらなく,恐ろしくヨコエビリティが低い状態です.これはまずい.
 石積っぽい雰囲気のガチ護岸がいけないのでしょうか.





 港の近くに,潟湖のような場所があります.この地域は採石を生業としているようで,かつての石切り場へ海水が流れ込んだ場所の一つかもしれません.




 モクやミルが繁っており,塩分濃度は十分そう.


 おもむろにガサると


底節板の下縁に毛が無い.



 また新たな Ampithoe です.調査地を増やすごとに新たな種が出てくる怖いやつです.


やたら泳ぎが早い.

 これはどうやらエンマヨコエビ科のあの方のようです.


 





 落ちないドロノミ.既知の約80種のうち70種ほど検討を行いましたが形態合致せず.たぶん未記載.


 


関東でも見覚えのあるメリタ(Melita).

ユンボソコエビ属(Aoroides)でしょうかね.



相変わらず変態的な擬態能力を誇るテングヨコエビ科(左).



 最干潮まであと1時間半ほど.

 橋のかかった水路を通って,潟湖からどんどん海水が流れ出しています.そこをくぐると,砂浜に出られるようです.

 陸由来と海由来の漂着物が結構あります.


 
お馴染みのヒメハマトビムシ種群の1種(Platorchestia pacifica).
  掌縁に明瞭な山が2つ.
 第1尾肢内肢に棘状剛毛が4本.



ニホンヒメハマトビムシ(Platorchestia pachypus).
  掌縁の起伏は緩く,山は2つ.
  第1尾肢内肢に棘状剛毛が3本.
 最大の特徴は,第7胸脚腕節が長節と同じくらいあるいはそれより太いこと.
前節も太め.


 これはニホンヒメハマトビムシ(Platorchestia pachypus)!
 森野・向井 (2016) にて,岡山が分布域に入っていましたが,個人的には生体を見たのは初めてです.P. pacifica みたいな淡黄色~肌色にゴマを散らした砂地の色合いとは異なり,湿った土壌や落ち葉に寄せて,藍色や褐色の強いオカトビ風あるいはホソハマ風の体色になっているんですね.



オカトビムシ(Morinoia humicola).
  掌縁の起伏は緩く,山は1つ.

 同所的にこれだけ多様なハマトビが採れるなんて,これほどの場所はそうそうありません.
 



 さて,少し進むと,砂浜と岩の間に泥干潟が広がっています.




 干潮時にひたひたの水位の泥底.
 前回の自然海岸でもこんな場所がありました.



ニホンドロソコエビ(Grandidierella japonica).

 ものすごい密度で生息しています.



アリアケドロクダムシ(Monocorophium acherusicum).


 しかし,潮よりも船の時間がシビアなのでこのへんで退散.


港にハクセンシオマネキめっちゃおった.






 2日目.

 ホテルで惰眠を貪った後,鯖飯をかっ食らい,また同じ島へと向かいます.

 1日目は北側にあたる港周辺しか廻らなかったので,今度は島の反対側,南側へと足を伸ばしてみます.

ダメっぽい.


 近年整備されたというキャンプ場と海水浴場.

 海岸林の際の倒木を返すと Morinoia らしきヨコエビがいるものの,砂浜には生命の息吹は全くありません.


 少し海水浴場を外れると立入禁止標示あり.しかし,キャンプ場の外れまで進むと,人が歩ける海岸があります. 


こちらはなかなか良さげな景色.
特に奥の砂浜のハマトビリティが良い.


 潮は全く良くないのと,昨日の潟湖ほど海藻のバリエーションが無さそうで,あまり採れる気がしません.とりあえず浅場の海藻をガサってみます.


ヒゲナガヨコエビ属のいつものあいつ.






ふさげもくず.

 あまりバリエーションのある顔ぶれではありませんね.


 潮上帯に絞ることにします.

 切り立った崖が汀線まで迫り,岩の間に砂利と砂の間くらいの粗い粒が溜まっています.松葉を返してみると



またオカトビムシ(Morinoia humicola).


 打ち上げ海藻から落葉溜まりにかけて,ハマトビとオカトビがグラデーションをなしているように思われます.

 しかし,崖の下にある砂浜では,汀線からの距離の問題か,粗い粒の影響か,小さいハマトビしかいない新鮮な海藻と,何もいない乾いた海藻の二極化が進んでいます.ちょうどいい海藻を見極めないと採れない感じです.宿がとれれば夜間灯火採集をしたいところです.






 しかし,草地と連続した幅広めの砂浜にさしかかると,歩くだけで,ハマトビやらヒョウタンゴミムシやらがうろちょろしています.




 しかし,ここのハマトビは触角が小さく,頭部が大きく,全体に色が薄いような・・・
 

ヒメハマトビムシ(Platorchestia joi).


 これが森野・向井2016でいうところの真のヒメハマトビムシ!!
 自己初&岡山初!!
 こんなところで出会えるとは!


 
P. joi(♂):第1咬脚指節の上面の段差に棘状剛毛が無い;
第2咬脚前節の下面に3~5本(※1)の棘状剛毛がある.
P. pacifica(♂):第1咬脚指節の上面の段差に棘状剛毛がある;
第2咬脚前節の下面に棘状剛毛が無い(※2).

  • ※1:今回検鏡した個体は7本の棘状剛毛がありました.Miyamoto and Morino (2004) の範囲からは外れますが,個体差と考えました.
  • ※2:横須賀では2~3本程度の痕跡的な棘状剛毛を具える個体が得られており,今回も1本具える個体が得られています.森野博士の私信によると,第2咬脚のこの形質より,第1咬脚の形質のほうがより精度が高いとのことです.


 ほかに,腹肢柄部の端部に棘状剛毛があるかどうか,などの形質も使えますが,今回はとりあえず簡便に咬脚のみ確認しました.詳しくは過去のブログをご確認ください.



 岡山のヨコエビ調査の総括.

 船やバスがシビアで潮との調整が難しいのもさることながら,やはり見慣れないグループの同定がなかなか進みません.
 しかし,やればやるだけ見つかるという手ごたえは確かにあります.
 何とかこの成果をまとめたいと思います.
 



ありがとう岡山.





<参考文献>
—  Miyamoto, H. and Morino, H. 2004. Taxonomic studies on the Talitridae (Crustacea, Amphipoda) from Taiwan, II. The genus Platorchestia. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 40: 67–96.
森野浩・向井宏 2016. 砂浜フィールド図鑑 (1) 日本のハマトビムシ類. 海の生き物を守る会, 京都市.

 

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