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2026年2月23日月曜日

パンダヨリパンダ(2月度活動報告)

 

 一昨年にパンダメリタヨコエビ昨年ヨリパンダメリタヨコエビが記載されたことは記憶に新しいですが、これらパンダ柄メリタがジャイアントパンダ去りし和歌山県で生体展示されているとのことで、見てきました。



すさみ町立エビとカニの水族館

 実は初訪問となります。白浜の臨海実験所にはお邪魔したことがありますが、この時はパンダは見られず。





 訪れる前、かなりこぢんまりした施設という印象でしたが、実際観てみると物量は相当なものでかなり見応えありました。そしてウミガメとペンギンがいるとは露知らず。他にも甲殻類以外の展示も相当充実していました。

 これだけ細やかな運営ができるのはやはり海水がほぼ掛け流し状態というのもあるでしょう。地震大国においてかなり不安を煽る立地ではあるものの、海辺の水族館はやはり品質が良い。


 さて。


よく見ると標示が一部落下してるようですね

 過去に訪れた様々な端脚生体展示の中でも群を抜いた情報量と質ですね。パンダメリタヨコエビとヨリパンダメリタヨコエビのそれぞれの記載論文でコレスポとなった、広島大学の富川先生が全面監修していて、ヨコエビの特性から記載論文のシステム、メリタヨコエビの研究状況に至るまでとにかく分かりやすい本質情報の洪水です。水圏生物に配慮して周りが暗いので、少しだけ読みにくいのが難点ですが。


パンダメリタヨコエビ Melita panda

ヨリパンダメリタヨコエビ Melita pandina

 まぁ、違うっちゃ違うよね。

 形態学上は第3尾肢外肢に第2節が付加されるかどうか、といった明確な違いがあるものの、肉眼では「ヨリパンダのほうが模様がクッキリ」という違いくらいしかなさそうですね。模様の形状も体躯もほとんど同じ。これは野外での識別は厳しい。というか、仮に水槽の中で混ざっても、ほぼ気づかない気がします。

 交尾前ガードをしている個体もおり、生時の様子がよく分かります。餌を食べている様子が見れなかったのは残念。

 水槽の前で足を止めた年配のご夫妻、奥様が「かわいー」と黄色い声を上げてらっしゃいました。


 同館においては、これら2種の繁殖も狙っているとのこと。大型のメリタヨコエビなので水槽環境との相性は良さそうです。そして何より「横向きに移動する」という特性が、水槽においてあの微小甲殻類の姿を最大限見やすくする効果をもたらしているようです。同じサイズでも水槽底面や側面に対して身体の下部を向けて定位するような生物は、かなり見づらいでしょうから。メリタヨコエビは基質のビーズに沿って水槽の壁に整列していて、時々逆立ちしようよ、とばかり身体をくるりと回したり、オス同士がドツきあったりするものの、基本的には手前の壁沿いでイベントが起こるので、ずっと見てられます。

 今後レギュラーメンバー化するようなことがあれば、世界的にも珍しい「ヨコエビ専用の常設水槽をもつ水族館」となるのではと大いに期待させられます。



磯的環境

 せっかくなのでフィールドにも繰り出してみましょうか。これまでの和歌山での採集は白浜,名草浜と数えるほどで、まだまだ知見が足りません。

 最干潮の2時間前くらいで、あまり干出していません。かろうじて汀線より出ている転石に付着した緑藻や褐藻を洗っても、恐らくフサゲモクズと思われる幼体が多少出てくるだけで、あまり面白くありません。これは仕方ない。

 岩の上に小さなタイドプールがあります。これまで見向きもしてきませんでしたが、網走の経験がここで活きてきます。実はこの微小環境、特異的に棲息するヨコエビがおるのです。


 ツルツルした岩場ですね。数センチの深さの凹みに水が溜まっています。これといって海藻らしい海藻の姿もないタイドプールですが、こんなとこにもヨコエビはいます。


 このカサガイの縁とかクラックの隙間に入っています。模様がよく似てます。

アトモクズ属 Apohyale


 驚かすと、水中を猛スピードで遊泳し、更には水から勢いよく飛び出してジャンプして手が付けられません。とにかく瞬発力が異常に高い。サキモクズ属 Protohyale にはそのような能力はありませんので、普通の洗い出し法でヨコエビを集めるのとは全く違う工夫が必要になります。それでも浅場から海藻を持ち上げてバケツやバットに放り込み、振盪し、水を替え、といった動作を伴う洗い出し法より、こちらは最小限の動きで済むため、粘っていれば形態の検討に必要な何個体か集めることはできます。

 なお、パンダ柄メリタは採れませんでした。



<関連記事>


2023年11月3日金曜日

日本の淡水ヨコエビについて(2023年11月度活動報告)

 

 本邦産淡水ヨコエビの全貌把握と同定には、富川・森野 (2012) という決定版ともいえる文献が著名です。

 しかし、出版から10年が経過し知見が古くなっている部分があるのと、アクアリウム界隈で流通している外産種には対応していないことから、本稿では僭越ながらそういった部分を補いたいと思います。ただ、種の識別キーや種ごとの細かな情報については、富川・森野 (2012) に譲りたいと思います。

※抜け漏れある可能性が高いため、不足あれば随時更新します。



本邦産淡水性ヨコエビ一覧
(2023年11月更新)

 科の配列は Lowry and Myers (2017) に基づく。分布および生息環境の情報は、ことわりのない限り 富川・森野 (2012) によった

 なお、河岸や湖岸の”ガサり”においてしばしばハマトビムシ上科が採集され、淡水性ヨコエビと同じカテゴリとして扱われることもある (金田 In: 石綿・齋藤 2006) が、この類は水から出しても横向きに這いまわるだけでなく身体を立てて難なく歩いたり跳ねたりできることと、「第1触角全長が第2触角柄部長より短い」ことにより、他のヨコエビから識別できる。

 また、本稿では淡水性種として扱っていないが、河川や湖沼では場所により汽水性種が採集されることがある。そういった属としては、例えば次のようなグループが挙げられる:Grandidierella ドロソコエビ属,Melita メリタヨコエビ属,Paramoera ミギワヨコエビ属,Anisogammarus キタヨコエビ属,Eogammarus トゲオヨコエビ属,Jesogammarus オオエゾヨコエビ属。


カマカヨコエビ科 Kamakidae

カマカヨコエビ属 𝐾𝑎𝑚𝑎𝑘𝑎

  1.  ビワカマカ(ビワカマカヨコエビ) Kamaka biwae Uéno, 1943:滋賀県琵琶湖[固有]【湖】
  2.  マカヨコエビ Kamaka kuthae Dershavin, 1923:北海道;カムチャツカ半島【河川・湖沼】
  3.  モリノカマカ Kamaka morinoi Ariyama, 2007:本州【河川~汽水】

    メリタヨコエビ科 Melitidae

    メリタヨコエビ属 Melita

  4. チョウシガワメリタヨコエビ Melita choshigawaensis Tomikawa, Hirashima, Hirai, and Uchiyama, 2018 :和歌山県【河川間隙/表層水】(Tomikawa et al. 2018)
  5.   ミヤコメリタヨコエビ Melita miyakoensis Tomikawa, Sasaki, Aoyagi, and Nakano, 2022:沖縄県宮古島[固有]【湧水】(Tomikawa et al. 2022)

    アゴナガヨコエビ科 Pontogeneiidae

    アワヨコエビ属 Awacaris 

  6.  ヤマトヨコエビ Awacaris japonica (Tattersall, 1922):本州,佐渡島【湧水・渓流】
  7.  アワヨコエビ Awacaris kawasawai Uéno, 1971:徳島県,高知県 (Tomikawa et al. 2017)【地下水性】
  8.  モリノヨコエビ Awacaris morinoi (Tomikawa and Ishimaru in Tomikawa, Kobayashi, Kyono, Ishimaru, and Grygier, 2014):滋賀県【地下水性】(Tomikawa et al. 2014)
  9.  タキヨコエビ Awacaris rhyaca (Kuribayashi, Ishimaru, and Mawatari, 1996):北海道,本州,隠岐諸島,長崎県五島列島福江島【河川(回遊性)】

  10.  ツシマドウクツヨコエビ Awacaris tsushimana (Uéno, 1971):長崎県対馬[固有]【地下水】

  11.  エゾヨコエビ Awacaris yezoensis (Uéno, 1933):北海道[固有]【湧水・渓流】


    ミギワヨコエビ属 Paramoera 

  12.  ゴトウドウクツヨコエビ Paramoera relicta Uéno, 1971:長崎県五島列島福江島[固有]【地下水】

     

    カンゲキヨコエビ科 Bogidiellidae 

    カンゲキヨコエビ属 Bogidiella 

  13.  リュウキュウカンゲキヨコエビ Bogidiella broodbakkeri Stock, 1992:沖縄県世論島[固有]【地下水】

     

    マミズヨコエビ科 Crangonyctidae 

    マミズヨコエビ属 Crangonyx 

  14.  フロリダマミズヨコエビ Crangonyx floridanus Bousfield, 1963:本州,四国,九州;米国[原産]【表層水/地下水(篠田 2006)

     

    メクラヨコエビ科 Pseudocrangonyctidae 

    メナシヨコエビ属 Procrangonyx 

  15.  ヤマトメナシヨコエビ Procrangonyx japonicus (Uéno, 1930):東京都【地下水】

     

    メクラヨコエビ属 Pseudocrangonyx

  16.  アカツカメクラヨコエビ Pseudocrangonyx akatsukai Tomikawa and Nakano, 2018:長崎県【地下水】(Tomikawa and Nakano 2018)
  17.  トウヨウメクラヨコエビ Pseudocrangonyx  asiaticus Uéno, 1934:長崎県対馬;中国,朝鮮半島【地下水】
  18.  アスワメクラヨコエビ Pseudocrangonyx asuwaensis Shintani, Umemura, Nakano, and Tomikawa, 2023:福井県[固有]【地下水】(Shintani et al. 2023)
  19.  チョウセンメクラヨコエビ Pseudocrangonyx coreanus Uéno, 1966:島根県,長崎県五島列島福江島,対馬;朝鮮半島
    【地下水】
  20. (和名未提唱)Pseudocrangonyx dunan Tomikawa, Nishimoto, Nakahama and Nakano, 2022:沖縄県与那国島[固有]【地下水】(Tomikawa et al. 2022)
  21.  グダリメクラヨコエビ Pseudocrangonyx gudariensis Tomikawa, Nakano, Sato, Onodera, and Ohtaka, 2016:青森県[固有]【地下水】(Tomikawa et al. 2016)
  22.  コマイメクラヨコエビ  Pseudocrangonyx komaii Tomikawa and Nakano, 2018:岐阜県[固有]【地下水】(Tomikawa and Nakano 2018)
  23.  キョウトメクラヨコエビ Pseudocrangonyx kyotonis Akatsuka and Komai, 1922:京都府【地下水】
  24.  シコクメクラヨコエビ Pseudocrangonyx shikokunis Akatsuka and Komai, 1922:四国【地下水】
  25. (和名未提唱)Pseudocrangonyx uenoi Tomikawa, Abe, and Nakano, 2019:滋賀県[固有]【地下水】(Tomikawa et al. 2019)
  26.  エゾメクラヨコエビ Pseudocrangonyx yezonis Akatsuka and Komai, 1922:北海道[固有]【地下水】

     

    キタヨコエビ科 Anisogammaridae 

    トゲオヨコエビ属 Eogammarus 

  27.  トゲオヨコエビ Eogammarus kygi (Dershavin, 1923):北海道,青森県;沿海州,カムチャッカ半島,サハリン【湖沼・河川】
  28.  イトウトゲオヨコエビ Eogammarus itotomikoae Tomikawa, Morino, Toft, and Mawatari, 2006:北海道[固有]【河川】

     

    オオエゾヨコエビ属 Jesogammarus ― Jesogammarus亜属

  29.  シツコヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusacalceolus Tomikawa and Kimura, 2021:青森県[固有]【湧水】 (Tomikawa and Kimura 2021)
  30.  ナガレヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusbousfieldi Tomikawa, Nakano, and Hanzawa, 2017:山形県[固有]【渓流】(Tomikawa et al. 2017)
  31.  オオエゾヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusjesoensis (Schellenberg, 1937):北海道,東北地方,中部地方【河川・湖沼】
  32.  ヒメヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarus) paucisetulosus Morino, 1985:関東・東北地方の日本海沿岸【渓流】
  33.  アゴトゲヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusspinopalpus Morino, 1985:関東地方【河川・湖沼】 
  34.  ミカドヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusmikadoi Tomikawa, Morino, and Mawatari, 2003:東北地方【渓流】

     

     オオエゾヨコエビ属 Jesogammarus ― Annanogammarus亜属

  35.  アンナンデールヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarusannandalei (Tattersall, 1922):滋賀県琵琶湖[固有]【湖の中層】
  36.  ヒメアンナンデールヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarusfluvialis Morino, 1985:東海地方,近畿地方【湧水】

  37.  ナリタヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarusnaritai Morino, 1985:滋賀県琵琶湖,長野県諏訪湖【湖沼】

     

    ヨコエビ科 Gammaridae 

    ヨコエビ属 Gammarus

  38.  チョウセンヨコエビ Gammarus koreanus Uéno, 1940:長崎県五島列島;中国,朝鮮半島【渓流】
  39.  ムクダヨコエビ Gammarus mukudai Tomikawa, Soh, Kobayashi, and Yamaguchi, 2014:長崎県[固有]【表層水】 (Tomikawa et al. 2014).和名は富川 (2023) による。

  40.  ニッポンヨコエビ Gammarus nipponensis Uéno, 1940:琵琶湖以西の本州,四国,九州,隠岐,壱岐,対馬【渓流】

     

    ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae 

    チカヨコエビ属 Eoniphargus

  41.  イワタチカヨコエビ Eoniphargus iwataorum Shintani, Lee, and Tomikawa, 2022:栃木県蛇尾川【表層水】(Shintani et al. 2022)
  42.  コジマチカヨコエビ Eoniphargus kojimai Uéno, 1955:関東地方【地下水・河川間隙水】
  43.  トリイチカヨコエビ Eoniphargus toriii Shintani, Lee, and Tomikawa, 2022:静岡県瀬戸川[固有]【河川】(Shintani et al. 2022)

     

    ヤツメヨコエビ属 Octopupilla

  44.  ヤツメヨコエビ Octopupilla felix Tomikawa, 2007:近畿地方,四国【河川間隙】

     

    コザヨコエビ科 Luciobliviidae

    コザヨコエビ属 Lucioblivio

  45.  コザヨコエビ Lucioblivio kozaensis Tomikawa, 2007:和歌山県古座川[固有]【河川間隙】

  46.  こうして見ると、2023年11月時点で和名が提唱された形跡のない種がいくつかありますね。今後の進展に期待したいところです。



    分類学上の扱いに注意を要する淡水ヨコエビ

    • アンナンデールヨコエビ:20世紀半ば頃まで全国から報告されてきたが、現在は琵琶湖固有種であることが確かめられている。よって、他地域の古い報告はキタヨコエビ科の代名詞のように考えることはできても、種の記録としては採用すべきでないとみられる。なお、富川・森野 (2012) における表記は「アナンデールヨコエビ」とされているが、本稿では種小名の綴りにより近く出版年がより古い Ishimaru (1994) を採用し「アナンデールヨコエビ」とした。
    • サワヨコエビ属:Sternomoera に与えられていた和名。アワヨコエビ属 Awacaris の新参シノニムとして消滅した (Tomikawa et al. 2017) ため、現在は使われない。
    • ヤマトメナシヨコエビ属:Eocrangonyx に与えられていた和名。メナシヨコエビ属 Procrangonyx の新参シノニムとして消滅した (Nakano et al. 2018) ため、現在は使われない。
    • ドウクツヨコエビ属:Relictomoera に与えられていた和名。ミギワヨコエビ属 Paramoera の新参シノニムとして消滅した (Nakano and Tomikawa 2018) ため、現在は使われない。
    • シンヨコエビ科 Neoniphargidae:かつてチカヨコエビ属が含まれていた。チカヨコエビ属の所属変更に伴い本邦未知科となったが、移動先の科(ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae)の和名に転用されたわけではないため注意。
    • ホクリクヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarus) hokurikuensis;フジノヨコエビ J. (J.) fujinoi;ショウナイヨコエビ J. (J.) shonaiensis:これら3種は、オオエゾヨコエビの新参シノニムであることが示唆されている (富川・森野 2012)
    • スワヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarus) suwaensis:ナリタヨコエビの新参シノニムであることが示唆されている (富川・森野 2012)
    • ハヤマサワヨコエビ Sternomoera hayamensis (Stephensen, 1944) :ヤマトヨコエビの新参シノニムとされている。
    • ミナミニッポンヨコエビ Gammarus sobaegensis:本邦の記録はニッポンヨコエビの誤同定の可能性が指摘されている (富川・森野 2012)
    • キョウトメクラヨコエビ:京都盆地に2系統が共存することが示唆されており、隠蔽種を内包するものとみられる (Yonezawa et al. 2020)
    • 岡山県のメクラヨコエビ属:3個体群が報告されており、このうち1あるいはそれ以上について未記載の可能性があるとされている (末永 2020)



    日本の淡水ヨコエビの科までの検索表(外来種・飼育種を含む)

    (1)第1~第2腹節後縁に棘状の突出部を具える・・・ヒアレラ属Hyalella[飼育種・アメリカ大陸原産]※和名はマグローヒル科学技術用語大辞典編集委員会  (1996) による

     — 第1~第2腹節後縁に棘状の突出部を欠く・・・(2)

    (2)尾節板は肉厚肥厚する・・・カマカヨコエビ科 Kamakidae

     — 尾節板は薄片状・・・(3)

    (3)第3尾肢外肢は先端が裁断形の薄葉状・・・メリタヨコエビ科 Melitidae

     — 第3尾肢外肢は槍状・・・(4)

    (4)腹肢は内肢を欠く・・・カンゲキヨコエビ科 Bogidiellidae

     — 腹肢は外肢と内肢を具える・・・(5)

    (5)第3尾肢は内肢を欠く・・・メクラヨコエビ科 Pseudocrangonyctidae

     — 第3尾肢は外肢と内肢を具える・・・(6)

    (6)頭部の触角洞はほとんど確認できない;第3尾肢は第2尾肢末端を越えない・・・マミズヨコエビ科 Crangonyctidae[外来種・アメリカ大陸原産]

     — 触角洞は明瞭;第3尾肢は第2尾肢末端を越える・・・(7)

    (7)尾節背面に刺毛を欠く・・・アゴナガヨコエビ科 Pontogeneiidae

     — 尾節背面に刺毛を具える・・・(8)

    (8)底節鰓に付属片を具える・・・キタヨコエビ科 Anisogammaridae

     — 底節鰓に付属片を欠く・・・(9)

    (9)第7胸脚に底節鰓を具える・・・ヨコエビ科 Gammaridae

     — 第7胸脚に底節鰓を欠く・・・(10)

    (10)第3尾肢の外肢は1節からなり、内肢は外肢とほぼ等長・・・コザヨコエビ科 Luciobliviidae

     — 第3尾肢の外肢は2節からなり、内肢は外肢より短い・・・ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae 



    <参考文献>

    Ishimaru S. 1994. A catalogue of gammaridean and ingolfiellidean Amphipoda recorded from the vicinity of Japan. Report of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, 24: 29–86.

    金田彰二 2006. ヨコエビ類. In: 石綿進一・齋藤和久(編)『酒匂川水系の水生動物~里地・里山の生きものたち~』.神奈川県環境科学センター.

    Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2017. A Phylogeny and Classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265(1): 1–89. 

    — マグローヒル科学技術用語大辞典編集委員会 (編) 1996. マグローヒル科学技術用語大辞典 (第3版). 日刊工業新聞社.

    — Nakano T.; Tomikawa K. 2018. Reassessment of the groundwater amphipod Paramoera relicta synonymizes the Genus Relictomoera with Paramoera (Crustacea: Amphipoda: Pontogeneiidae). Zoological Science, 35(5): 459–467. 

    Nakano T.; Tomikawa K.; Grygier, M. J. 2018. Rediscovered syntypes of Procrangonyx japonicus, with nomenclatural consideration of some crangonyctoidean subterranean amphipods (Crustacea: Amphipoda: Allocrangonyctidae, Niphargidae, Pseudocrangonyctidae). Zootaxa, 4532(1): 86–94.

    篠田授樹 2006. 東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査. 研究助成・一般研究. Vol.28, No.164.

    Shintani A.; Lee C.-W.; Tomikawa K. 2022. Two new species add to the diversity of Eoniphargus in subterranean waters of Japan, with molecular phylogeny of the family Mesogammaridae (Crustacea, Amphipoda). Subterranean Biology, 44: 21–50. 

    — Shintani A.; Umemura S.; Nakano T.; Tomikawa K. 2023. A new species of the genus Pseudocrangonyx (Crustacea: Amphipoda: Pseudocrangonyctidae) from subterranean waters of Japan. Zootaxa, 5301(3): 383–396. 

    末永崇之 2020. メクラヨコエビ属. In: 岡山県野生動植物調査検討会 (編) 岡山県版レッドデータブック2020動物編. 岡山県環境文化部自然環境課.

     富川光 2023. 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』. 広島大学出版会, 東広島. 198pp. ISBN:978-4-903068-59-6

    Tomikawa K.; Abe Y.; Nakano T. 2019. A new stygobitic species of the genus Pseudocrangonyx (Crustacea: Amphipoda: Pseudocrangonyctidae)  from central Honshu, Japan. Species Diversity, 24: 259–266.

    Tomikawa K.; Hirashima K.; Hirai A.; Uchiyama, R. 2018. A new species of Melita from Japan (Crustacea, Amphipoda, Melitidae). ZooKeys, 760: 73–88.

    — Tomikawa K.; Kimura N. 2021. On the Brink of Extinction: A new freshwater amphipod Jesogammarus acalceolus (Anisogammaridae) from Japan. Research Square.

    Tomikawa K.; Kobayashi N.; Kyono M.; Ishimaru S.; Grygier, M. J. 2014. Description of a new species of Sternomoera (Crustacea: Amphipoda: Pontogeneiidae) from Japan, with an analysis of the phylogenetic relationships among the Japanese species based on the 28S rRNA gene. Zoological Science, 31: 475–490. 

    —  Tomikawa K.; Kyono M.; Kuribayashi K.; Nakano T. 2017.The enigmatic groundwater amphipod Awacaris kawasawai revisited: synonymisation of the genus Sternomoera, with molecular phylogenetic analyses of Awacaris and Sternomoera species (Crustacea : Amphipoda : Pontogeneiidae). Invertebrate Systematics, 31(2): 125–140. 

    富川光・森野浩 2012. 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方.タクサ, 32: 39–51.

    Tomikawa K.; Nakano T. 2018. Two new subterranean species of Pseudocrangonyx Akatsuka & Komai, 1922 (Amphipoda: Crangonyctoidea: Pseudocrangonyctidae), with an insight into groundwater faunal relationships in western Japan. Journal of Crustacean Biology, ruy031.

    Tomikawa K.; Nakano T.; Hanzawa N. 2017. Two new species of Jesogammarus from Japan (Crustacea, Amphipoda, Anisogammaridae), with comments on the validity of the subgenera Jesogammarus and Annanogammarus. Zoosystematics and Evolution, 93(2): 189–210.

    Tomikawa K.; Nakano T.; Sato A.; Onodera S.; Ohtaka A. 2016. A molecular phylogeny of Pseudocrangonyx from Japan, including a new subterranean species (Crustacea, Amphipoda, Pseudocrangonyctidae). Zoosystematics and Evolution, 92(2): 187–202. 

    Tomikawa K.; Sasaki T.; Aoyagi M.; Nakano T. 2022. Taxonomy and phylogeny of the genus Melita (Crustacea: Amphipoda: Melitidae) from the West Pacific Islands, with descriptions of four new species. Zoologischer Anzeiger, 296: 141–160.

    Tomikawa K.; Soh H. Y.; Kobayashi N.; Yamaguchi A. 2014. Taxonomic relationship between two Gammarus species, G. nipponensis and G. sobaegensis (Amphipoda: Gammaridae), with description of a new species. Zootaxa, 3873(5):451–476. 

    Yonezawa S.; Nakano T.; Nakahama N.; Tomikawa K.; Isagi Y. 2020. Environmental DNA reveals cryptic diversity within the subterranean amphipod genus Pseudocrangonyx Akatsuka & Komai, 1922 (Amphipoda: Crangonyctoidea: Pseudocrangonyctidae) from central Japan. Journal of Crustacean Biology, ruaa028. 

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    補遺 (15-VIII-2024)

    ・一部書式設定変更。

    遺(7-xii-2023)
    ・ムクダヨコエビの和名および参考文献を加筆。

2022年11月29日火曜日

書籍紹介『海産無脊椎動物多様性学』(11月度活動報告)


 

 京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所(以下、瀬戸臨海)が100周年を迎えられたとのこと。おめでとうございます。

 和歌山県白浜町はガタガールオタクにとって思い出深い土地であるばかりでなく、日本の端脚類研究の発展と深いつながりのある場所ですが、そういった経緯を理解することができる書籍が出版されました。『海産無脊椎動物多様性学:100年の歴史とフロンティア』(以下、海産無脊椎動物多様性学)です。


※表紙・裏表紙にヨコエビはいません。


 『海産無脊椎動物多様性学』は副題の通り、瀬戸臨海の過去と今、そして未来を俯瞰する密度の高い書物となっていますが、その歴史を語る上で欠かせない愉快な仲間たち・海産無脊椎動物の研究史について、その道の専門家が熱い原稿を寄せている、たいへん読み応えのある本です。個別の分類群についての基礎的な知見が、概ね大学生レベルの知識で理解できるよう、エッセンスとして摂取できる贅沢な構成といえるかもしれません。永久保存版であることは間違いないです。

 富川博士による専門的な解説は「日本におけるヨコエビ目の分類と系統」という項です。内容は京都大学および臨海実験所との関わりが軸になっており、改めて本邦端脚類研究における影響の大きさがうかがえます。京大といえばウエノドロクダムシのタイプ標本も大津臨海実験所(現:同大 生態学研究センター)で採られたものだったりするので (Stephensen, 1932)、やはり本邦端脚類学の黎明期は旧帝大の京都大学に担われていた感が強いです。

 有山 (2022) でも貴重なレビューがありましたが、ヨコエビ類の分類学的研究の経緯について、大分類の不安定性や国内の歴史が整理・総括されています。この2冊をあわせて読むことで、現状の嵐のような大分類の組み換えが、研究者達に一様に戸惑いをもって受け止められ、また同様な弱点が指摘されていることが理解できるかと思います(このセクションで若手研究者として末席を汚すことになったのは大変畏れ多いですが、今後もヨコエビ学の発展に何らかのかたちで寄与してまいりたい所存であります)

 後半は瀬戸臨海にゆかりの深いメクラヨコエビ科とメリタヨコエビ科の、これまでの研究の経緯や系統に関する最新知見の紹介です。ヨコエビのようなマイナー分類群においては特に、個別の分類群に関する歴史がまとめられた科学史的な文献は大変貴重です。

 瀬戸臨海では現在もどうやらハマトビムシ類は研究テーマの一つとなっているようですが、実験所に付属する畠島は森野博士によりハマトビムシ類の分類学的検討 (Morino, 1972, 1975) や”Orchestia platensis”の生態調査 (Morino, 1978) が行われたことで有名です。そしてこの時に記述されたスケッチ (Morino, 1975) をもとに、畠島の名を冠した新種 Demaorchestia hatakejima が記載されてもいます (Lowry and Myers, 2022)。奇しくも今年2月に出版された本種の記載論文もまた、臨海実験所の100周年に花を添えるものといえるかもしれません。



<取扱>

 出版社のサイトから直接購入できますが、一般ではヨドバシ.com楽天Amazonなどで求めることができます。また、なぜかキャラアニ.comでも買えます。



<参考文献>

有山啓之 2022.『ヨコエビ ガイドブック』. 海文堂, 東京. 160pp. [ISBN: 9784303800611]

— Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2022. Platorchestiinae subfam. nov. (Amphipoda, Senticaudata, Talitridae) with the description of three new genera and four new species. Zootaxa5100(1): 1–53.

Morino H. 1972.  Studies on the Talitridae (Amphipoda, Crustacea) in Japan I. Taxonomy of Talorchestia and OrchestoideaPublications of the Seto Marine Biological Laboratry21(1): 43–65.

Morino H. 1975. Studies on the Talitridae (Amphipoda, Crustacea) in Japan II. Taxonomy of sea-shore Orchestia, with notes on the sea-shore talitrids. Publications of the Seto Marine Biological Laboratry, 22(1–4): 171–193.

Morino H. 1978.  Studies on the Talitridae (Amphipoda, Crustacea) in Japan III. Life history and breeding activity of Orchestia platensis KrΦyer.  Publications of the Seto Marine Biological Laboratry, 24(46): 245267.

— Stephensen, K. 1932. Some new amphipods from Japan. Annotationes Zoologicæ Japnonenses13: 487–501, 5 figs.

富川光 2022. 日本におけるヨコエビ目の分類と系統. In: 京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所創立100周年記念出版編集委員会/編 2022. 『海産無脊椎動物多様性学:100年の歴史とフロンティア』.京都大学学術出版会,京都市.697P. [ISBN-10: 4814004494]


2022年6月30日木曜日

再びチーバくんのおしり(6月度活動報告)

 

 いつ以来のオフ会でしょうか。電車に乗ったのがそもそも数年ぶりです。

 今回は「潮間帯スタッカー!」の管理人・ひろこりん氏を、以前来たことのあるフィールドへお招きしました。


良い磯ですが何にせよ遠い

 といっても今回やっと2回目の訪問です。前に来たのはだいぶ昔のような気がします。相変わらず褐藻と珊瑚藻が多いです。

 

サメの子供。いっぱいいた。


  褐藻をガサガサすると、微小なアゴナガヨコエビ属とモクズヨコエビ科が多いですね。

 

 

Pleonexes koreana

 コウライヒゲナガだと思います。

 メスの白色斑には個体差があるようですね。




テングヨコエビ科

 

 雨も降ってきたので撤退がてら潮上決戦に移ります。

 

陸域由来の竹や落ち葉と、打ち上げ藻が混じった漂着物が多い


 


cf. Lactioria

 

 シマウミスズメでしょうか。色が抜けてるとよくわかりませんが。




 スナハマトビムシ属しか採れませんでしたね…



 今回の調査はインベントリが目的で、上記以外にも色々なヨコエビを見ることができました。今後の「潮間帯スタッカー!」に期待させていただきます。


2019年6月4日火曜日

後ろ前旅情(6月度活動報告)


 このたび,縁あって,ウシロマエソコエビ(Eohaustorius)属を集めるプロジェクトに参加することになりました.

 ウシロマエソコエビ属は,多くのヨコエビ類において前向きについている第4胸脚が後ろ向きについていることから名付けられました(石丸 私信).


 ヨコエビ属(Gammarus)はオーソドックスな体制を具えたヨコエビ.
第3,4胸脚は形状が互いに似ており,第1,2咬脚と同じく前方向へ向かって生えている.
第5~7胸脚は前者と異なる形状をして,
後ろ方向へ向かって生えている.歩く時の機能も異なる.
 ウシロマエソコエビ属(Eohaustorius)の第4胸脚は後ろ向きに生えており,
形状も第5~7胸脚に似ている.


  日本におけるウシロマエソコエビの記録は,天草地方(富岡湾)の潮下帯からスナウシロマエソコエビ(Eohaustorius subulicola)が記載されているほか,東京湾からは E. setulosus が報告されています(小川 2011;山田 2015).

 E. subulicola は第3腹側板後角が独特なカーブを描いて上向きに曲がっている点で,同属の他種と識別できます(生態や分布の詳細は,有山 (2012) 参照のこと).

 E. setulosus は韓国で記載された種であり,日本の生息状況は十分に解明されていません.山田 (2015) は漁業資源である二枚貝などとともに朝鮮半島から持ち込まれた外来種と推測しており,私もその説を支持します.盤州干潟の潮間帯では,山田氏の記録では遅くとも2004年には本種が採れているとようです.また,私の手元のサンプルを確認する限り2010年から昨年まで本種が採れています.これらのことから,本種が盤州干潟に定着しているのは確実と考えられます.また,実際に繁殖していると思われる状況をたびたび確認しています.




 さて,今回は特定の種を狙って採るミッションです.このため,かなりの土地勘を要します.しかも,岩礁や海藻など空からの写真で像が分かるものとは異なり,砂地を追いかけねばならず,圧倒的に経験値が足りません.自力ではどうしようもないため,過去の採集場所を教えて頂きました.


近畿地方某所.




 サーファーがいっぱいいますね.驚くべきことに,スナウシロマエソコエビを求める人は私の他にはいないようです!どうやらここは,そういう場所のようです.あの腹側板のカールは,絶対見ておいたほうがいいと思うんですがねぇ…


 ウシロマエソコエビといえば,遠浅で汀線まで歩いて1時間かかる盤州干潟のイメージがありました.
 一方,今回の調査地は遠浅には違いないですが,20㎝の干潮では幾つかの瀬が浮くだけで全体的に地盤が低いようです.海岸草地から汀線へのアクセスはしやすく,コンパクトな砂浜に思えます.



 さて,いつものように洗濯ネット作戦.


 しかし,細目ネットは砂が抜けない.


 どうやらこのあたりは粒径が粗く,ちょうど目合いと同じサイズの砂粒が優占しているらしく,ヨコエビと一緒にネット上へ残ってしまうようです.効率が悪すぎる.
 

 2mm目開きの中目ネットも投入します.

中目での残留物.アカン.


 しかしこれでは肝心のヨコエビが抜けてしまう.


 引き潮のはずなのにひっきりなしにそれなりの大きさの波がやってきます.サーファーには良いのでしょうが,こちらにとってはだいぶつらい…


 何も採れないのは,精神衛生上よくありません.モチベーション維持のため,絶対にハズレのない海藻ガサりもやっておきます.


ヒゲナガヨコエビ科(Ampithoidae).
よく見たらヤバい奴かもしれない.


カマキリヨコエビ科(Ischyroceridae).




ドロクダムシ科(Corophiidae).



アゴナガヨコエビ科(Pontogeneiidae).でかめ.



タテソコエビ科(Stenothoidae).


 同定できる/できないで言えば,あまり安心できるメンバーではありませんが,良しとします.



 潮間帯を右往左往してみたところ,細目洗濯ネットで濾せるところもあるようです.粒径としては,お馴染みの東京湾の砂干潟に近いと思われます.

 粒径が細かい場所を中心に洗濯ネット作戦を展開したところ,効率がアップしたお陰か,基質の選好性があるのか,粗い場所よりよく採れる気がする!


 たくさんいたのがクチバシソコエビ科(Oedicerotidae).過去,一度にこんな大量にクチバシソコエビを採ったことはない,というくらい採れます.盤州ではかなりレアキャラなのですが,ここではウシロマエソコエビより遥かに採りやすいです.
 


第1咬脚は亜はさみ状で掌縁が直角にならない;
第2咬脚はハサミ状で,前節と腕節の癒合していない箇所は指節と同長程度;
第7胸脚基節後縁が下垂する;
などの特徴により,Eochelidium属と同定しました.



マルソコエビ科(Urothoidae).目がかわいい.


ヒサシソコエビ科(Phoxocephalidae)の一種.
標本はもらったことがあるものの同定したことが無いため,
今回は科止めで.


  ヒサシソコエビ科は自己初採集.頭頂が平たく両刃剣のように前方へ突出していて,めちゃくちゃカッコいいです.そして2秒で砂に潜り込む早業.



 そして・・・

スナウシロマエソコエビ(Eohaustorius subulicola)の第3腹側板のカールに注目.


 やりました.


 現場では属がせいぜいですが,持ち帰って検鏡したところ,今回のターゲットであるスナウシロマエソコエビ(Eohaustorius subulicola)と判明しました(解剖していないので厳密にはアレですが・・・).

 Hirayama (1985) に記された図を最初に見たとき,正直何かの冗談にさえ思えた第3腹側板のカールは,確かに実在しました.この形質にどのような意味があるのかは分かりませんが,とりあえず我々にとっては手っ取り早く見分けるポイントとしてありがたいです.

 落射光写真ではあまり形がわかりませんがご容赦下さい.




 潮も満ちてきたので潮上決戦に向かいます.

 海岸は意外とハマトビリティが薄く,厳選した海藻をめくると奥深くから Platorchestia pacifica が出てきました.過去の研究では,近畿から色々と愉快なハマトビムシが報告されているのですが,今回は出会えず.



 総括.

 目的のサンプルを得ることができましたが,もう少し潮位にこだわったほうがよい気がしました.また,基本的に潮間帯上部での活動を想定している採集用具も,潮間帯下部の採集を意識して改善したいと思います.もうじき,大きな個体が採れない時期に差し掛かってくると思われるので,追加でやるならいつやるかを考えなければいけません.




(参考文献・web)
有山啓之 2012. スナウシロマエソコエビ. In: 日本ベントス学会 (編) 『干潟の絶滅危惧動物図鑑 海岸ベントスのレッドデータブック』. 320pp. 東海大学出版会, 平塚. ISBN978-4-486-01943-5 C3645
Hirayama, A. 1985. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan — IV. Dexaminidae (Guernea), Eophiliantidae, Eusiridae, Haustoriidae, Hyalidae, Ischyroceridae. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 30(1/3): 1–53.
— Jo, Y. W. 1990. Four new species of sand-burrowing haustoriid Amphipoda (Crustacea) of Korea. Bulletin Zoölogisch Museum, 12(9): 117–144.
小川洋 2011. 東京湾のヨコエビガイドブック. open edition ver.1.3. web publication. 140p.
山田一之 2015. Eohaustorius setulosus Jo, 1990.MIAW.(作成日:2008年6月30日;最終更新日:2015年5月14日;閲覧日:2019年6月2日)

2018年5月25日金曜日

ガタガール展と白浜遠征(5月度活動報告)


 稀代の本格的なフィールド調査マンガにして今やベントス関係者の必読書と言ってよい『ガタガール』。
 和歌山で企画展と関連イベントが開かれるとのことで、出掛けて行きました。




 南紀白浜は本州のオーソドックスな生物相を見ることができつつ、明瞭に黒潮の影響を受けており、特に海洋生物では色鮮やかなソフトコーラルを観察することができるなど、南国的な楽しみができる場所として知られているようです。昆虫ではサツマゴキブリやイシガケチョウといった、関東ではまず憧れるばかりの顔触れを見ることができました(近畿においてもオリジナルの分布ではなく、近年北上している昆虫です)。

サツマゴキブリ
イシガケチョウ


 京都大学瀬戸臨海実験所もここ白浜にあり、およそ100年にわたり様々な海岸生物の生きざまを解き明かしてきました。
 昭和天皇行幸の折は現在も残る研究棟に立ち寄られたという、歴史上大きな出来事の舞台にもなっています。





 瀬戸臨海実験所の特色として、現在に至るまで一般向けの水族館が併設されていることが挙げられます。今回の展示会場の1つもここです。



 もう1つの会場である南方熊楠記念館は、熊楠の功績を称えて半世紀ほど前に建てられたもので、熊楠が記した書類や所蔵していた文献などを展示しています。改築を経てかなりナウくて綺麗な建物になっています。この地に住んでいた熊楠が、すぐ近くに見える神島で昭和天皇を迎えて戦艦長門に移り御進講を行ったとのことですが、そういった歴史の現場を展望台から眺めることもできるロケーションとなっています。



 これらの施設は白浜の臨海というエリアにあります。周辺一体は砂岩でできた白っぽく脆い地質で、波で削られて切り立った崖となります。砂浜は狭いものの、砂岩由来の白く細かい砂の帯と人工的に敷かれたと思われる礫の帯が連続しており、たくさんの海藻がそこへ打ち上がります。海岸森は崖の上の台地まで続いており、中に入ると照葉樹やシダ類からなる艶やかな低層植生が眼に飛び込んできて、ガタガール無印2巻 (小原, 2017) を彷彿とさせるこんな看板もありました。

No more ”カニ踏んじまった”




 臨海実験所正面の浜はよく掃除がされておりヨコエビリティは低めです。

 一方、実験所の北側、熊楠記念館の裏の浜に下りることができるのですが、漂着物も多く、磯場が広がっていてなかなか良さげです。



 あまり潮は良くなかったのですが、ガサガサするとこんな感じ。


Elasmopus イソヨコエビ属


Maeridae スンナリヨコエビ科



Hyalidae モクズヨコエビ科

 モクズはあまり多くなく、アゴナガヨコエビ科が優占しておりました。また、小さなテングもいました。怪しげなヒゲナガヨコエビもいましたが、大きな個体を得ることが出来ず。もう少し深場にいるのかもしれません。



 さて、白浜水族館の「ガタガール生物展」では、主に無印から特別編にかけて登場した生物の標本や生体が展示してあります。


 常設の展示の中にはヨコエビがいます。Elasmopus イソヨコエビ属 とのことです。

amphipod in aquarium (cf. Elasmopus)




 熊楠記念館の「ガタガール原画展」では、複製原画のほかネーム,PC処理前生原稿,設定メモなどが展示され、関連グッズの再現まで行われているという、少し正気の沙汰とは思えない構成です。随所にどこかで読んだような、というか、書いた覚えのある文章が解説パネルとして掲出され、ガタガールのウィキペディアを読んだことがある人なら思わずニヤリとしてしまう工夫がされています。無印1巻表紙 (小原, 2016) のカバー返しに作者近影として掲載されていたニホンドロソコエビの生原画も展示されています。フィールドと文献の両方に造詣が深く、あくまで実物を示すことに強いこだわりを持っていたという熊楠のマインドがここにあるようです()。


 初日はギャラリートークでしたがネットに載せられない話も多いはずなので割愛します。





 その夜、かねてより画策していた灯火採集を敢行しました。

 ターゲットは最近何かと話題のヒメハマトビムシです。


 まず日暮れと同時に行動開始。バットに水を張り、適当な光源を当てます。今回は、LEDに加えて、白熱電球,紫外線ランプ,ケミカルライト(サイリューム)を用意しました。

 開始20分程度はまだ日も高くハマトビの気配はありません。
 風も強くあまり気温が高くない感じです。不安が募ります。


 コツは、いろいろな場所にとりあえず置いてみて採れるところを探す、という感じのようです。




 開始30分ほどで、捕獲の傾向が見えてきました。
 今回はほとんど基質を攪乱しない状態でライトによる誘引のみですが、普段の昼間の採集でハマトビリティが高いと見定めてひっくり返すような、良い感じの漂着物の真ん中に置いたバットでの捕獲が目立ちます。やはりか、といった感じです。


 今回は小原ヨシツグ氏のほか有志数名が集っていまして、空振りするわけにはいかなかったので、一安心しました。

 爆釣ポイントに、持ってきて頂いたダイビング用ライトでバットを照すと、付近の地面を覆い尽くすような大量のプリティー生物がピョンピョンしており、面白いようにバットの中に溜まっていきます。強光を浴びてパニックになっているようにも見えます。


 ここで少し実験をしてみます。


 バットにより捕集効率がバラついています。試しに高輝度のLEDを他のバットにも向けてみると、そこに多く集まるようになります。
 ハマトビムシにLEDの光はよく見えており、かつ誘引源として用いる場合に有効であると考えて良さそうです。


 次に、ハマトビが泳ぐバットの中に異なる2種類の光を入れてみます。


 面白いことに、紫外線ランプとLEDを並べてバットの一角を照すと、紫外線のほうに多く集まります。位置を交換しても同様でした。白熱電球と比べても、LEDより白熱電球のほうが集まりやすいような感じでした。

 すなわち、ハマトビムシを灯火採集する場合、紫外線を含む光源を用いたほうが効率的である可能性が考えられます。

Platorchestia ヒメハマトビムシ属

 誘引された個体をざっと確認しましたが、2mm程度の微小な個体がとても多く、成熟個体の特にオスについてはかなりレアでした。これは、同じ場所で昼間に漂着物をひっくり返すという従来の方法によって得られる個体群の構成と大差はない印象です。
 種同定のためにある程度成熟したオスを採取したいところですが、つまりはたくさんの個体を採ってその中から拾うことになります。
 これだけ大量の個体を得るにはかなりの量の漂着物をひっくり返す必要があり、またバットに普通の海水を張るだけではすぐ逸散してしまいます。光を当てるだけで向こうから寄ってきて、しかも留まってくれるというなら、こんなに楽なことはありません。


 ハマトビ採取において灯火採集はアリということが確認されました。



~~~~~


 遠征2日目、白浜最大の干潟である内之浦にて干潟観察会です。



 内之浦はもともと田辺湾南岸の入り込んだ海岸線だったところを、大人の事情で堤を築き、水路でのみ海とつながる内海化した場所とのことです。成り立ちは東京湾で言うところの谷津干潟とか新浜湖を彷彿とさせます。

 周回徒歩15分程度の泥干潟です。電柱の上でイソヒヨドリが鳴き、干潟面ではアオサギやシギsp.が餌を探していて、なぜかテングチョウも泥の上にいます。まわりをウメエダシャクが乱舞しこれもどことなく谷津干潟っぽいです。

 そんな小さな干潟ですが、公園として整備されており、駐車場もあり、自販機があり、水道やトイレも充実しております。コンビニやバス停まで徒歩5分。観察にはかなり有利です。

 パッと見の印象は海藻が少ないということ… つまり谷津や新浜よりだいぶ海の影響が少ないと思われます。


 
 さっそくドロソコを探しますが、驚くほど採れません。

 卒論を始めた頃、初めての採集で江戸川のヨシ原にうずくまって延々と泥を濾していたことを思い出します。
 しかし不肖この私も無為に干潟に埋まってきたわけではありません。心の中のヨコエビが囁くままに、今度は澪筋に入って牡蛎殻をガサります。

 澪筋の底は黒く無酸素分解されている感があります。牡蛎殻も泥に埋もれていた部分が真っ黒で、陸由来の落葉が主な有機物の供給源となっているようです。コケゴカイとミズヒキゴカイが多い感じです。


 ドロソコおった。


 橋をくぐって上流に行ったところで、なんとかオスを見つけました。

Grandidierellaドロソコエビ属

 和歌山と言えばAriyama (1996) で記述された多くのドロソコ標本の産地ですが、どうやら内之浦にいるのはニホンドロソコエビのようです。



 白浜はとても良い土地だったのですが、いかんせん関東からは遠く、あまりガタガールファンを集められなかった印象があります。地元でこのマンガの知名度はかなり低いと思われ、こじんまりとしたイベントでした。
 とはいえ、マイナーながらも作り手のこだわりが詰められた展示の数々、今月いっぱいまでとは実に勿体ない。会期いっぱい、より多くの人の目に触れてほしいと願います。



 帰り、白浜駅を利用しました。
 水族館の出前展示があり、なかなか癒されました。


Kuroshio Sirara (mascot charactor of Shirahama St.)



 実はこのたびの遠征にて、瀬戸臨海実験所に籍を置かれている大和茂之先生とお会いすることができました。日本のメリタヨコエビ研究に先鞭をつけられた先生で、ヨコエビストの間で知らない人はいません。白浜の地理や歴史の概要を教えて頂き、本稿にも採り入れさせて頂きました。ヨコエビトークに花が咲き、とても楽しい時間を過ごしたのですが、コーヒーをMelittaのドリッパーで淹れるかどうかだけは聞きそびれてしまいました。この話はまたの機会に積み残しです。




(参考文献)
- Ariyama, A. 1996. Four Species of the Genus Grandidierella (Crustacea: Amphipoda: Aoridae) from Osaka Bay and the Northern Part of the Kii Channel, Central Japan. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 37(1/2): 167-191.
- 小原ヨシツグ 2016. 『ガタガール①』. 講談社. 174p. (in Japanese)
- 小原ヨシツグ 2017. 『ガタガール②』. 講談社. 229p. (in Japanese)

(web)
- 白浜水族館特別企画展「ガタガール生物展」(3/3-5/30まで)
- 3月3日(土)ガタガール原画展がオープン!(南方熊楠記念館)





2013年8月15日木曜日

8月の活動報告(大阪遠征)


更新が遅いです!どうもすみません!


お盆に調査とかアリだな、って言ったりしていましたが、それほど暇にならず、できないことが判明。で、何を狂ったのか遠征。


http://www.mus-nh.city.osaka.jp/tokuten/

大阪市立自然史博物館

「いきもの いっぱい 大阪湾 ~フナムシからクジラまで~」



に行ってきたで~~♪♪♪


撮影制限がほぼないというネ申展示。



大阪水試絡みという話をきき、これはドロソコエビの展示を外す訳がない。そう信じて、確証もないまま大阪まで来ちゃいました。


で、結果は










思ったより扱いが良すぎて震える





 初めて見るオオサカドロソコエビGrandidierella osakaensisはダーラム管越しだからやっぱりよく見えなかったけど、有山氏の仕事を間近で見れることに感動。連れの友人たちにAriyama,1996の素晴らしさを力説するも反応薄い。

そりゃ、ヨコエビ好きの集まりじゃないからね・・




これだけでも相当満足したのに、まだまだヨコエビが続く。


ヒゲツノメリタヨコエビMelita rylovae setiflagellaヒメハマトビムシ
三番瀬にもいるコンビ!

ヒメハマトビムシの学名にPlatorchestia platensisが当てられている!
解剖したい!
(※投稿後、学名の誤りを訂正しました)


展示構成は生息環境を軸にしていて、その場所ごとに様々な生物の標本が展示されています。すごい物量。ぎっしり並べてあるのに見やすいです。
貝や海藻の乾燥標本,イルカ・クジラの骨格標本,鳥類の剥製、とにかくバラエティに富んでいます。パネルも、最低限の地理や社会的な説明を入れつつ、メインはやはり実物を見せるという姿勢が感じられました。
生体展示は、クロベンケイガニ,ヤマトシジミ,アシハラガニ。そして、フナムシ,キタフナムシ。空前のクラスタセアン推し。タカノケフサイソガニもいると書いてありましたが見れず残念。




そしてヨコエビはまだまだ続く。 

イソヨコエビElasmopus japonicaきた!
小さくてぜんぜん見えないよ!
でもかわいいよ!


モクズヨコエビHyale grandicornisニッポンモバヨコエビAmpithoe lacertosaも!
モクズヨコエビは初見!
ニッポンモバヨコエビは小櫃とか横浜のより小さい!
たまたまかな。



 興奮のうちに企画展を出て、本館へ。時間の都合で若干駆け足になりましたが、本館もまた素晴らしい。オーソドックスな標本の展示,豪華な模型、そして愛を感じるラベルや説明文ですね。

(ただ、クビキリギスとヤブキリの標本はいちど全て再同定したほうがいいかもしれませんね・・・)


 驚いたのは植物生態学の展示。メタ個体群など最新の知見をいちはやく取り込み、明快かつ視覚的に訴求する展示の技術と思想に感服しました。あのコーナーは、生態学を学ぶ大学生にはぴったり。 

(生態学なんて大学で選択しちゃだめだと思いますけどね・・・)





さて、大阪市立自然史博物館は、実はグッズも充実していました。



これは博物館オリジナルバンダナ。
ヨコエビが書かれているバンダナ初めて見た!
即購入!



オリジナルリーフレット『大阪湾の磯の甲殻類』のほうは、ヨコエビ類に関しては永田,1975のデチューン仕様。
『干潟ベントスフィールド図鑑』は恐らくこないだ教えてもらったやつ。これってWIJのフィールド図鑑の焼き直しじゃないですか。ただ、ヨコエビ類に関しては多留氏が担当と思われ、ヒメハマトビムシにPlatorchestia pasificaを、フサゲモクズにPtilohyale barbicornisをあてるなど、ちょっと新しくなってる気がする。Ampithoe validaからはcf.を外してもいいような気もしますが、標本がないということでしょうか。



さて、大満足のうちに 遠征は終了し、私はお土産を抱えて大阪を後にました。
サヨナラ、ありがとう。
付き合ってくれた皆さんも本当にありがとう。
たまにはいいよね、こういうの。


あとは、上野の深海展かなあ・・
カイコウオオソコエビHirondellea gigasの標本があるはずなんだよね・・
(これも憶測)





<引用文献>

- 永田樹三. 1975. 端脚目 (AMPHIPODA) 概説. In; 岡田要『新日本海岸動物図鑑〔中〕』 第六版. 北隆館, 東京.

- Ariyama, H. 1996. Four species of the genus Grandidierella (Crustacea: Amphipoda: Aoridae) from Osaka Bay and the Northern Part of Kii Channel, Central Japan. Publication of the Seto Marine Biological Laboratory, 37(1/2): 167-191.