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2024年11月17日日曜日

書籍紹介『タイムカプセルの開き方』(11月度活動報告)

 

 9月、10月は活動が滞っておりました。否、活動しすぎたのかもしれません。いずれご報告できればと思います。

 今扱っているサンプルの分子系統解析をお願いすることになった共同研究者から、出版されたばかりのホットな書籍を紹介してもらったのですぐポチりました。


『種生物学シリーズ タイムカプセルの開き方 博物館標本が紬ぐ生物多様性の過去・現在・未来』(以下、種生物学会 2024)を読む


 種生物学会 (2024) は、複数の著者が寄稿した論文集のような構成となっています。それぞれの記事はタイトルに非常にマッチしていて、一言で言うならば、博物館標本を扱う分子生物学研究の最前線について書かれた書籍です。

 ちなみにヨコエビは出てきませんが、個人的に親交のある方が書いた文献が思わぬところでちらほら引用されていたりして、ニヤリとしました。


 第1部は、超並列シーケンサー(所謂”次世代シーケンサー”)という新技術が、DNA解析の効率向上のみならず、分子生物学研究の在り方まで変えていく過程を多角的に述べたセクションといえます。

 近年流行りの「研究者の人柄が分かるエッセイ」として読むこともできますが、どの記事も問題意識・課題と研究手法(短いDNA断片を解析する技術)、研究対象(博物館標本)が結びつく過程が鮮やかに描かれており、研究者を志す若者に大きな示唆を与えるものと思います。


 第2部は、具体的な研究事例や手法を掘り下げていく構成になっています。

 基礎知識や具体的な手技の工夫だけでなく、解析サンプルとして博物館標本を用いる場合やそういった依頼を受けた場合の注意点がチェックリスト化されているなど、面倒見の良さが目立ちます。また、有用なサイトを紹介する記事があるのも特色といえるでしょう。ちなみに最近、BHLは画像管理の委託先へのサイバー攻撃により画像表示ができなくなり、種生物学会 (2024) に示されたような真価を発揮できない状態でしたが、今は少しずつ復旧しているようです。


 同位体分析の事例紹介もありますが、全体的にほぼ「博物館標本からいかに遺伝物質を取り出し、その劣化した遺伝物質からいかに情報を引き出すか」という話題で統一されています。タイトル通り、分子生物学が標本の外見からは分からない情報を巧みに引き出し、時計を巻き戻すように研究対象の過去を解き明かしていきます。分類群やアプローチの違いで、三者三様の新鮮な味わいがあります。


 私がしつこく有用性を宣伝しているプロピレングリコール液浸標本も、その先駆的分類群である昆虫のセクションで登場します。

 昆虫の場合、酢酸エチルなどの化学物質を使って〆ることが多く、また虫害を防ぐため標本庫の燻蒸はつきものです。しかし、こういった薬剤がDNAの断片化を引き起こし、解析の効率を低下させる可能性があるようです。乾燥標本としたチョウの中脚においてDNAが残っているといえるのはせいぜい30年とのことですが、肉食性の種は自己消化により断片化が促進されるなど、グループにより違いがあるようです(第3章)。チョウは食植性かつ薬品を使わず〆るため、特にDNA損傷リスクの小さいグループといえるでしょう。

 ヨコエビの場合、安楽死にはしばしば”凍てつく愛の監獄”(ラヴ・プリズン:小原, 2016)が用いられますが、これは恐らくDNAへの影響が最も少ない方法の一つです。しかもすぐ固定液中に密栓浸漬するため「虫も食わない」状態となり、生物の遺骸が空気中に露出している乾燥標本のように虫害や燻蒸による損傷リスクもありません。固定液も酵素の不活化を狙っているため、肉食性種特有のDNA損傷も恐らく防げます。別の要因での劣化は避けられないにせよ、標本作製や管理の工程そのものにDNAに有害なプロセスを含まないというのはアドバンテージな気がします。また同じプロピレングリコール液浸標本でも、昆虫は現状としてエッペンドルフチューブ的なディスポーザブルな使途を想定された樹脂製容器を用いる手法なのに対して、甲殻類やクモなど昆虫と同じ門で同じようなサイズ感の生物で全身を液浸標本にする場合は、長期保管が考慮されたガラス瓶を用います。こういった面からも、昆虫に適合したプロピレングリコール液浸手法というのは、アルコール液浸で管理されてきた節足動物標本において昆虫を上回る保存性を有するのではと思います。

 なお、種生物学会 (2024) にはありませんが、液浸標本には保存液の揮発や瓶の破損といったリスクのほか、紫外線や単純な経時劣化による遺伝物質の変質なども課題となると思います。こういった話題も今後文献上で議論されたりこういった書籍にまとめてくれると有難いと思います。


 特に印象深かったのは、DNAバーコードリファレンスの信頼性に言及した記事。博物館標本はその実物が永続的に管理・保管されており、専門家が分類に関わっているため、そこから配列情報を得て紐づけできれば極めて理想的なリファレンスが取得できるというのです。

 裏を返せば、そうではないリファレンスがどのようなものか、考えてしまいます。そもそも高精度に種同定ができるほど形態分類に造詣が深ければ形態分類の特性を理解しているはずで、実物もスケッチも残さずサンプルの廃棄なんてできるはずないという想像はつくところです。つまり、悪く言えば、標本や文献等を指定しない配列データや、文献の指定があっても形態形質の検討過程の透明性や追証性の担保に不足のある場合は、素人のなんちゃって同定の可能性があるわけです。

 劣化し短断片となったDNAまで分析できる超並列シーケンサーなどの技術は非常にパワフルで、使いこなせればあらゆる疑問や課題を解決できるポテンシャルがありますが、それはあくまで現状の分類体系との整合性を整理した上での話であって、翻せばその既存の分類体系こそ(原則論として)博物館等の収蔵施設が維持を担ってきた標本が核となって積み上げてきたものであり、博物館標本に触れることは分子生物学の命題に迫る側面もある気がします。博物館標本の活用は、分子生物学のサンプルの一つの選択肢ではなく、既存の生物学の基盤たる分類体系をDNA解析の世界に導入する、重要な架け橋といえるのではないでしょうか。種生物学会 (2024) は、そういった根源的な部分を改めて考えるきっかけとなりました。



参考文献


2023年9月18日月曜日

文化端脚類学ことはじめ(2023年9月度活動報告3)

 

 文化端脚類学 Cultural amphipodology とは未だに真っ当な場で提唱された形跡のない学問分野であり、端脚類を自然科学的手法によって理解しようとする(自然)端脚類学とは異なり、端脚類の文化的側面に着目している。人間が端脚類に対して試みた、自然科学以外のありとあらゆるアプローチを記述することで、その変遷や意義を理解の下に置くことがその目的である。

 今回は芸術作品のほか、漫画などのサブカル的創作物に登場する端脚類について時系列に列挙し、その意義を比較検討していく。今回は両側からの検証には至っていないが、今後はより幅広い視点から端脚類が芸術のモチーフとなる意義についてより深められるスキームの開発を進めていきたい。

※以下、ネタバレを含みます。

 


— 「ハマトビムシ」のあやとり

 これは恐らく有史以前の芸術。ソースは国際あやとり協会のHPですが、どうやらアメリカ原住民には「ハマトビムシ」のあやとりが伝わっていたようです。輪の下側を横に張り、あそびを持たせた上側をその上に跨らせ、横に張った糸を引っ張ったり緩めたりしながら跨らせた糸を弾き上げることで、ハマトビムシの跳躍を表現しているようです。



—  1900? Chromo chocolat ⅾ'aiguebelle. —Les crustaces—. "Le Cyame", "La Dulichia", "L'Epimeria", "L'Iphimedia".

 ここから有史以降となります。

 100年以上前のフランスにて、「チョコレートのおまけトレーディングカード」に端脚類が採用されたことがあったようです。顔ぶれは以下の通り。

  • クジラジラミ類
  • シャクトリドロノミ属
  • ヨロイヨコエビ属
  • カッチュウヨコエビ属(モデルは Epimeria loricata か?)

 自然物・人工物問わず、万物をカードにまとめるという博物学的なコンセプトで、恐ろしい種類が作られたようです。甲殻類というシリーズが設けられて特集され、かつ端脚類だけでこれだけラインナップされているというのは驚きです。参照した博物学の書籍などでの扱われ方が影響している気がしますが、原典は辿れませんでした。



— 1928. Wills’s cigarettes. 20 Wonders of the sea. A series of 50. “skeleton shrimp”.

 イギリスの「タバコのおまけトレーディングカード」のモチーフにワレカラが採用されたことがあります。

 これもフランスのチョコレートと同様、万物をカード化するという野心的な企画です。タバコを吸う大人がカードを集めたり交換したりしている様子を思い浮かべると微笑ましく思えますが、子供にあげたりする用途が想定されていたのでしょうか。全体の種類がチョコレートほど多くないのか、あるいは端脚類が推されてないのか、ワレカラ以外のものは見つかりませんでした。



— Lurçat, J. 1957–1965. “Le Chant du Monde“.

 半世紀以上前のタペストリーに、ハマトビムシがあしらわれています。付属肢の節まで表現されておりハマトビムシ上科は確実であるものの、当然ながら種同定には適しません。かなりお行儀のよい側面図であることから、野外で観察したというより、分類学の専門家により描画された学術的スケッチを参照したように見えます。プロポーションや資料の入手しやすさを考慮すると、欧州における海浜性ハマトビムシ類の代表種である Talitrus saltator をモデルにした可能性が高いと思います。 

 ハマトビムシ類が自然の一部をなすものと理解されていて、その普遍性あるいは形態的な面白さが、モチーフとなった要因ではないでしょうか。

 実物はフランスのアンジェロにあるためなかなか見に行けませんが、Bellan-Santini (2015) では写真付きで紹介されています。このあたりで確認頂くのがお手頃かと思います。

 


— Brand, S. (ed.) 1968. Whole Earth Catalogue. #1010. 64 pp. (Fall 1968)

 続いてカウンターカルチャーから。

 ヒッピー文化のバイブルとしてあまりに有名な本書の創刊号に、ヨコエビとウミノミが出てきます。顔ぶれは以下の通り。

  • Harpinia plumosa
  • Stegocephalus inflatus 
  • Hyperia galba 

 側面像のボディプランの多様性を、二次元格子の変形で表現する場面でモデルにされるという、左右扁平生物・ヨコエビにうってつけの役目を負っています(スナソコエビ属は背腹に扁平のはずだし、フクレソコエビはほぼ球形だし、ウミノミはヨコエビじゃないですが)。



— チゾン,A.; テイラー, T.(訳:山下明生) 1975. 『バーバパパたびにでる』. 32 pp. 講談社, 東京. ISBN978-4-06-128761-7

 皆さんご存知の(Youtuberでないほうの)バーバパパですが、最初はシリーズではなくパパ一人だけの単発作品でした。そしてその続編にあたる本作は、シリーズ第一作に位置づけられるもので、ここでやっとバーバパパファミリーが出てきます。

 冒頭、突如として体調不良にみまわれたバーバパパは医師の診察を受け、伴侶「バーバママ」を探すよう促されます。その場面で後ろの壁にかかっている画が、完全にヨコエビです。書きこまれているパーツの感じからすると、恐らく鉤頭虫の生活環を示した図と考えられます。この吸虫はしばしば寄生生物のモデル生物として扱われ専門書に登場することから、生物学の教師をしていたタラス・テイラーによって教科書等から持って来られたものと推測されます。本編は、苦労して女性と結ばれる課題婚型のプロットですが、世界各地を旅して結婚そのものに対する考えを深める部分に重きが置かれています。

 なぜこの絵が出てくるのか。寄生虫の図ということで医師のオフィスに飾られたものと思われますが、特にバーバパパという「人ならざる者」を診察する医師であることから、人以外を宿主にもつ生物が採用されたのではないでしょうか。 タラスが個人的に気に入っていたのかもしれません。

 


— 野呂昶(文); 遠藤てるよ(画)「メクラヨコエビのゆめ」.

 これは今のところ、このサイトでしか存在が確認できていません。 何かの全集か雑誌に掲載されていた短編のようですが、国会図書館で検索してもヒットしませんでした。

 異常誕生譚の体裁をとり、母親が我が子を捨てに行くという非常に重たいストーリーではありますが、最後に救いが待っています。 

 挿絵や文中の表記を見るに、胸甲が発達していることから明らかにヨコエビではなく、強いていえば十脚類のエビ類がモデルに思えます。少なくともメクラヨコエビ Pseudocrangonyx とは無関係です。しかし、このプロットにおいてヨコエビの名を借りたことはあながち間違いではないと思います。というのも、ヨコエビは多くのエビと異なり子供を産みっぱなしにせずしばらく保持して育てるのと、一部の種では複眼の有無に種内多型がみられることが知られているからです(篠田 2006; Lörz et al. 2020)。

 ただ、本書にそういったバックボーンがあったわけではなく、単純にドラマの主題に適した「メクラ」という和名と、身近な淡水域に暮らしていることから、メクラヨコエビが採用されたものと思います。



— 「禅師かっぱ」像.美祢市商工会.

 秋芳洞の入り口に位置する商店街に、興味深い像が建っているそうです。BuNaでも富川先生が紹介しています。

 かつてこの地が干ばつにみまわれた時、禅師様が秋芳洞で祈祷を行い、そこに河童たちが従ったという伝承があるそうです。その河童のなかにどうやらヨコエビストがいたらしく、手に明らかにヨコエビを持っています。アカツカメクラヨコエビ Pseudocrangonyx akatsukai が地元から愛されている証拠でしょうか。



— 1999. 「シルバー事件」(PS3用ゲーム).株式会社アスキー.

 登場人物が飼っているカメの餌として「ヨコエビ」という語が出てきます。サブカル的ヨコエビのはしりかもしれません。本作は2021年に Nintendo Switch に再編・移植されましたが、ヨコエビのくだりも引き継がれているようです。



— 光瀬龍(作); 加藤唯史(画) 2003. 第2話 ヒキガエルとハマトビムシ 『ロン先生の虫眼鏡(1)』.秋田書店,東京.

 自然科学系の漫画の金字塔のような作品です。ヨコエビが描かれた漫画としては最古のもののように思われます。原作のエッセイは単行本として出版されていますが、そちらにはこのエピソードは含まれていないようです。

 ヒキガエルとハマトビムシの隠れた関係が描かれます。体制が誤っているなど描画のクオリティは甘いですが、興味深いネタでとても面白いです。



— 川上統 2009(初演). ワレカラ.In: 組曲甲殻類 第二集.

 ワレカラをモチーフとした現代音楽。2022年に楽譜とCDがリリースされましたが、初演は2009年です。第5~7胸脚を使って基質にしがみついて身体の前半を揺らす行動や、触角や口器を細かく動かす動作などを表現したとの由。

 肉眼で捉えることが難しいワレカラの細かな動きまで目を配る、作曲家の凄まじい観察眼と深い想いが伝わってくる一曲です。現代音楽の中でも特定の生物の形状や動きといった具体的な事柄を表現する作品は珍しいようです。なおこの組曲、端脚目としては第四集に「タルマワシ」,第五集に「ダイダラボッチ」の製作を控えているとのことで、この組曲は目が離せないコンテンツです。

 音楽でマイナー甲殻類を表現するのは突飛な発想のように思えますが、前例がないわけではありません。日本動物学会 第94回大会(自由集会)で紹介されたとおり、20世紀初頭にエリック・サティが「Embryons desseches」という組曲を発表しており、その中に「d'edriophthalma」という2分30秒の楽章があるそうです。「Edriophthalma」というのは当時使われていた目階級分類群で、端脚類や等脚類など眼柄と胸甲を欠く甲殻類を指すようです。富川先生は「フクロエビの胎児」と訳していました。

 


— 青木優和『われから かいそうにすむちいさないきもの』(自費出版).

 青木 (2019) については文献紹介でレビューした通りですが、本書はその前身となる自費出版本です。青木2019は何かと検索表や研究法が注目されがちですが、本書にそれはなく、本編もいきなりワレカラの世界から始まります。ワレカラの心情を擬人化したボーイミーツガールもので、筋はありがちながら表在ベントスの世界へ丁寧に落とし込まれており楽しいです。そして、あちこちにヨコエビが出てきます。ちなみに、青木 (2019) のヨコエビの第1触角は単肢ですが、自費出版バージョンには副鞭があります。



— TBS系 2012. 『日曜劇場 ATARU』「CASE3 身勝手な男心vs奇妙な女心」(2012年4月29日放送).

 中居くんが演じる主人公が警察に協力して事件を解決する、異能系推理ドラマといった構成です。主人公・チョコザイはサヴァン症候群という設定で、(なぜか)膨大な知識を有しています。

 港で男性の遺体が発見され、当初は事故と考えられた。被害者の行動や周囲を調べるうちに、動機など関係者を疑うに足る要素が見つかっていくが、アリバイは堅い。そんな中、 チョコザイは現場近くの市場で海苔を物色しながら「エビがありません」「スイーパー」という謎の言葉を発する。この「エビ」は、被害者の胃内容物の情報からチョコザイが連想したものだった。確かめてみると港では「ヨコエビ」が多数生息しており、このヨコエビの成分は胃内容物の「エビ」と一致した。また、海の掃除屋(スイーパー)であるヨコエビの分解作用により、被害者の死亡推定時刻が実際より早めに見積もられていたことが分かった。これによって、犯人のアリバイは崩れた。

 恐らくこのエピソードは、永田ほか (1967) に掲載されている実際の事件を下敷きにしているものと思われます。このブログやwikiにも色々書いたので詳細は割愛しますが、ヨコエビの分解作用は軟組織の蚕食によって部分的な白骨化が起こり、死後1日程度の御遺体でも一見すると何週間も経ってるように見える類のもので、検視の死亡推定時刻を数時間ずらすというレベルではないです。あと、犯人がヨコエビによる影響を予期していなかったにも関わらず的確にアリバイ工作をしているのが、ミステリーとしては引っ掛かるところです。

  また、劇中では「港で採取されたサンプル」という設定でヨコエビの生体がメインキャストらとの共演を果たしていますが、見たところどうやら海産種ではなく実験動物として流通している Hyalella azteca が使用されているようです。



— 伊藤寿規 2014. 「深海児」週刊モーニング.講談社.

 4号連続で掲載された読み切り作品です。事故により有人深海探査艇に閉じ込められた乗員たちの人間模様を描くパニックサスペンス。

 事故が起こる前、探査船の外に見える深海生物の中にヨコエビがちらっと登場します。「カイコウオオソコエビの近縁種」とコメントされています。深海生物の中で特に過酷な環境に適応したグループであることから採用されたと思われます。



— Inertia Game Studios 2014. 「facility47」(アプリゲーム). 

 氷に閉ざされた研究施設で目覚めた主人公が、ヒントをかき集めて脱出を図るゲーム。美麗な止め絵をベースに、一人称視点であちこちを触ってアイテムやスイッチを探す。脱出のステップと並行して謎解きが進み、最後に決断を迫るというエンディング分岐型の凝った構成で、映画のように作りこまれた世界観を体感できます。日本語版は今のところありませんが、STEAMで配信されており、英語版のダウンロードやプレイは可能。

 有料版のみですが、脱出に使うアイテムの中にフトヒゲソコエビ類と思われるヨコエビの液浸標本やら、ウミグモやらが出てきます。「antarctic invertebrates」などでググると、ヨコエビが結構上位に出てきます。極域で採れる小型の生き物の中で特にヒントとして指示しやすい形態的特徴があったことが、抜擢の理由ではないかと思います。



— ZENのロゴマーク

 北半球のアマモ場研究ネットワーク (The Zostera Experimental Network: ZEN) のロゴに、ヒゲナガヨコエビ科とみられるヨコエビが象られています。

 日本ではどちらかというとアオサのような場所で多産し、アマモ属の代表種というイメージはありませんが、どうやらサンフランシスコでは海草に深刻なダメージを与えるほどモズミヨコエビが爆増するらしく (Harper et al. 2022)、そういった、日本とは異なる生態学的地位を示すヒゲナガヨコエビ類の姿が念頭にあったのかもしれません。



— バイカルヨコエビの京焼

 琵琶湖博物館のお土産コーナーで売られていた一品。清水焼の陶芸作家・廣田朱里氏による作品らしいです。「バイカルヨコエビ」というのはバイカル湖に産するヨコエビの総称と思われますが、この作品のモチーフは明らかに琵琶湖博物館で飼育展示されているアカントガンマルス・ヴィクトリィです。詳細な流通期間は不明ですが、私が購入したのは2016年夏で、わりと初期かと思います。

 デフォルメされつつ雰囲気を損なわない造形もさることながら、色つやがまさにアカントガンマルス生体のそれというか、素朴さの中にも確かな写実性が宿る品です。こういった立体造形物において付属肢をどのように単純化するか等、端脚類のデザインを落とし込むには課題が多いこともわかります。


 

— Silt-clay 2017. 「外来種のなげき」on「うちの父さん仕事は研究」. POLYDORA RECORDS

 2017年9月リリースの、あまりに有名な Silt-clay のファーストマキシシングル2曲目に、「トンガリドロクダ」(=トンガリドロクダムシ, Monocorophium insidiosum)が登場します。 干潟の外来種としてのエントリーと考えられます。



— ウラノ 3Dペーパーパズル 「バイカルヨコエビ」

 アカントガンマルスをモデルにしたとみられるペーパークラフトです。2018年頃から見かけるようになりました。特徴的なシルエットや、琵琶湖博物館で展示が始まったという話題性から採用されたように思えます。

 高精度のレーザーカッティング技術を売りに、生物をモチーフにした緻密なペーパークラフト作品を数多く世に送り出している株式会社ウラノさんによるもので、ネットショップから買えます。



— 駒井悠 2019. 第1067話 「楽しい釣り仲間「よこえび」」. In:『大人のそんな奴ァいねえ!!(5)』(Webコミックサイト「モアイ」2018/11/08更新分).講談社,東京.

 ひたすら雑学を紹介する四コマとして有名な本作にヨコエビが登場。ちなみに元ネタは例の事件です。

 


— 小原ヨシツグ 2019. 第11話「ヨコエビはエビじゃない!! その①」~第13話「ヨコエビはエビじゃない!! その③」. In:『ガタガールsp. 阿比留中生物部活動レポート(2)』. 2019年5月8日刊行(電子書籍).講談社,東京.

 言わずと知れた「ガタガール」には伝説のヨコエビ回があります。しかも連続3話。電子書籍しか出ていないのは大変な痛手です。紙の本が読みたい。



— Full Depth Studio のロゴ

 渋谷のライブ配信用スタジオのロゴ。深海マザー氏によるもので、モデルはダイダラボッチ Alicella gigantea とのことです。



— Gruber, B. (wrote) 2021. SpongeBob SquarePants (season 13). ”Under the Small Top(邦題:海ノミ大サーカス)”. 

 スポンジボブ(シーズン13)に登場する Sea fleas は、英語圏での用法や劇中でのビジュアルからして、ヨコエビの類をイメージしている部分が多いとみられます。

 スポンジボブの隣人・イカルド・テンタクルズ(Squidward Q. Tentacles)の元に、謎の荷物が届く。それはスポンジボブが通販で購入した「Circus sea fleas box」が誤配されたものだったが、日頃からスポンジボブを鬱陶しく思っているイカルドは本人に知らせることなく、乱雑にゴミ箱へと葬る。しかし、中にいた「Circus sea fleas」が箱から出てきて、好き勝手にイカルドを吸血して悩ませるように…。

 「Circus sea fleas」は、全身が紫色で二足歩行、2本のアンテナを持ち、4つ指の前足・2つ指の後足を1対ずつ具え、典型的なヨコエビの姿そのものではありませんが、逆に Sea fleas と呼ばれる他の生き物・スナホリガニ Hippidae やスナノミ Tunga penetrans を示す形態的特徴はありません。ただ、これの元ネタは明らかに「蚤のサーカス」であり、それを単純に海中へ持ってきて、俗に「Sea fleas」と呼ばれている有象無象と言葉遊び的に置き換えたというのが実際のところだと思います。集団で吸血を行う小さな生き物ということで、2017年のオーストラリアの例の事件も脚本の念頭にはあったものと思います。どのみち、「Sea fleas」というのは亜目の和名として実在する「ウミノミ」とは異なる生物を指すもので、これを「海ノミ」と訳すのは混乱を招く処遇だと思います。



— 中原ふみ 2022. ナッちゃんはテンションで水深が変わる 第9話「海底2万マイル」. In: 漫画誌 ハルタ vol.98, 角川書店, 東京.

 「水深(=テンション)に対応する魚介類」を周囲に現出させる能力をもつ(?)女子高生・ナッちゃん。第9話では度重なる失敗に見舞われてテンションを下げまくった結果、とうとう水深10,900mに達してカイコウオオソコエビが出現してしまう。

 気分の浮き沈みを水深に置き換えることで、主人公の気持ちを可視化する装置として水深に応じた様々な生物を用いています。そうなると、深海最深部に棲息する数少ないマクロ生物として有名なカイコウオオソコエビにお呼びがかかるわけです。


 

— 大童澄瞳 2023. 映像研には手を出すな!第56話「みんな子供だった」. In: 月刊!スピリッツ  2023年3月号, 小学館, 東京.

 作業工程の実況動画などでかねてより予告されていたヨコエビ登場回は、巨大なコマに緻密に描き込まれたわくら葉やダフニアに混じっての出演。構図からするとこのチャームの画像がモデルと思われましたが、大童氏いわくモデルはないとのことです。

 今回ヨコエビがいたのは屋上ビオトープであるため、購入した水草等への混入あるいは意図的な移入の可能性もあります。いずれにせよ、アクアリウムの分野からアプローチされた例といえるでしょう。



— 早良朋 2023. 『へんなものみっけ! 9』. ビッグ コミックス. 小学館, 東京. (2023年7月12日発売) ISBN9784098617388

 博物館の仕事のあれこれをリアリティたっぷりに描く驚異の作品ですが、とうとうヨコエビが登場。ただ『よこえび』という架空の絵本に登場人物が感化されるという、小道具として出てきます。セリフから『われから』と『がろあむし』が念頭にありそうです。

 「ヨコエビの中のヨコエビ」であるヨコエビ属ではなく、どうやら表紙には陸棲のオカトビムシがあしらわれているようです。生態特性から、陸上でのフィールドワークにおいて親しみやすいグループであり、そういった方向からの起用と考えられます。



— ジェフリー・フォード(著);谷垣暁美(編訳) 2023. イーリン=オク年代記. In: 『最後の三角形ジェフリー・フォード短篇傑作選』. 東京創元社, 東京. 446pp., ISBN978-4-488-01683-8

 ニュージャージー州の浜辺で拾われた貝殻の中から見つかった、イーリン=オクという名のトゥイルミッシュ(妖精)が記した年代記を紹介するという体裁の作品です。文字通り砂上の楼閣に住まう妖精の、わずな一夜の冒険に満ちた生活を描いていますが、「ハマトビムシ」のファーゴが相棒という驚きのバディものです。

 ただ、飛び跳ねるという描写こそあれ、「全身毛むくじゃら」「くぼみのある小さな頭」など、現実のハマトビムシとはかなり違うようです。原作本の入手に至りませんでしたが、どうやら原文では「a sand flea」との表記らしいです。スナホリガニのビジュアルを念頭に置いているのかもしれません。

 本を電顕で見ても文字は読めないだろうとか、突っ込みどころもいっぱいありますが、『平行植物』とか『幻の動物とその生息地』に似た、絶妙な「本当に居そうな感じ」から始まる、楽しい幻想文学です。そして短編集全体にわたり、SFともファンタジーともオカルトともつかない、じわっと掌が汗ばむような不思議な雰囲気が漂っています。



— 切手

 詳細は 大森 (2021) に詳しいですが、以下の通り挙げます。

 Amaryllis philatelica の種小名は「切手蒐集 Philatelia」に由来している筋金入りの「切手ヨコエビ」ですが、切手に象られてから新種記載まで実に18年もかかっています。また、今年新種記載されて (Tomikawa et al. 2023) 話題となっている Hyalella yashmara も長らく種名が未確定で、やはり記載まで20年以上経っています。それにしてもなぜ1984年は当たり年なのでしょう…?




 他には、例えばTシャツなどのオンデマンド印刷市場において、様々なデザインに用いられています。際限がないので、これは別の機会に改めてまとめてみたいと思います。

 なお、創作物に登場する端脚類として、日本の和歌に登場する「われから」が世界最古の可能性があります。しかし、この正体について思うところがあるため、今回はラインナップには加えませんでした。和歌の「われから」はなぜ「創作物に登場する端脚類」にカウントされないのか。その理由はまた改めて。




<参考文献>

— Bellan-Santini, D. 2015. Order Amphipoda Latreille, 1816. In: Klein, C.V. (ed.) Treatise on Zoology - Anatomy, Taxonomy, Biology. The Crustacea, Volume 5, pp 93-248. E-ISBN: 9789004232518.

— Harper, K.E.; Scheinberg, L.A., Boyer, K.E.;Sotka, E. E. 2022. Global distribution of cryptic native, introduced and hybrid lineages in the widespread estuarine amphipod Ampithoe valida. Conservation Genetics, 23:791–806. 

— レオ・レオニ 1990. 『平行植物』.

— Lörz, A.-N.; Brix, S.; Jażdżewska, A. M.; Hughes, L. E. 2020. Diversity and distribution of North Atlantic Lepechinellidae (Amphipoda: Crustacea). Zoological Journal of the Linnean Society, 190(4): 1095–1122.

— 永田武明・福元孝三郎・小嶋亨 1967. フトヒゲソコエビ及びウミホタルによる水中死体損壊例. 日本法医学雑誌, 21(5): 534–530.

— ニュート・スキャマンダー(著);松岡佑子(翻訳) 2001.『幻の動物とその生息地』. 静山社. ISBN978-4915512438

— 大森信 2021. 『エビとカニの博物誌―世界の切手になった甲殻類』. 築地書館, 東京. 208pp. ISBN978-4-8067-1622-8 

— 篠田授樹 2006. 東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査. 東急財団研究助成・一般研究, 28(164). 

— 舘野鴻 2020. がろあむし. 偕成社, 東京. 40pp. ISBN978-4-03-437080-3

— 富川光 2023. 特異な環境に出現するヨコエビ類の種多様性と進化.
関連集会 K3 小さきものたちの世界:ゴカイとヨコエビのおもしろ最新トピックス. 日本動物学会 第94回大会.

— Tomikawa K.; Kawasaki Y.; Leiva, A. M.; Arroyo, N. D. 2023. Description of a new thermal species of the genus Hyalella from Peru with molecular phylogeny of the family Hyalellidae (Crustacea, Amphipoda). Systematics, phylogeny and biogeography,  37(4): 254-270. 



(補遺)8-x-2023

  • Gruber (2021) を追加

(補遺2)18-xi-2023

  • chocolate trade card と cigarette trade card を追加

2023年9月6日水曜日

北のベンプラ(9月度活動報告)

 

 ベントス学会・プランクトン学会合同大会に参加しました。とっておきのネタが無かったわけでもないのですが、色々あって今回も聴講生です。すいません。


 平日から函館というハードめのスケジュールですが、仕事をかなぐり捨ててやってきました。




 ちょっと天気が悪いですね。

 函館は、私と関係が浅くない某ヨコエビのタイプ産地でもあるため、どうしてもついでの採集を試みたいところ。



<朝採れヨコエビ>

 初日シンポジウムは午後スタートのため、朝イチで海辺を散策します。あいにくの雨です。

 砂浜には漁師さんがいます。漁師さんの仕事場にお邪魔させて頂くという意識は絶対に忘れてはいけないと思います。





 割と簡単に獲れる。

 

ナミノリソコエビ Haustorioides japonicus

 日本から初めて記載されたナミノリソコエビ科です (Kamihira 1977) 。

 夏季個体群なので小ぶりですね。それでも同時期のウスゲナミノリよりだいぶデカい印象です。


 あとは謎のハマトビムシ。ちょっとまだ細部を見れてませんが、成熟オスは採れてないっぽいので結局分からんかもです。




<聖地巡礼>

 夜の干潮を狙い、真の聖地に向かいます。



 波当たりが強い。

 湾の外にあたるためか、朝のポイントより遙かに激しいことになっています。

 いつものように胴長で腰高まで浸かると間違いなく波に飲まれてヨコエビの餌ですので、今日は脛の二割を超えないよう動きます。


 砂浜には照明を設置(誑かす砂上の月光ハマトビキャッチャー)。LEDでも集まることは和歌山で確認済み。北海道の「ヒメハマトビムシ」は恐らく全て未記載なので、この機会に姿を拝みたいところ。




 しかし、この暗がりでも分かる、ヒゲナガハマトビの気配。灯りを付けると20ミリ級の巨躯が次々現れます。カッコいいヨコエビではありますが、呼んでない…


ヒゲナガハマトビムシ属の何か Trinorchestia sp.


 ヒゲナガハマトビの種分類は混沌としており、既存の同定形質の設定に無理があるため、タイプシリーズを見るしか解決手段はありません。1種にまとまるのか、はたまたとんでもない種多様性が内包されているのか。ペンディング案件のため3、4個体だけ持ち帰らせてもらいます。


 波打ち際ではなんとかナミノリソコエビを少数確保。粒径はかなりムラがあり、生息適地の微環境を探るのにコツがいりそうです。暗いと猶更。


 

<全日本端脚類交流会道南分科会>

 学会大会後の恒例のやつです。

 北大における潮間帯のフィールドといえば厚岸のイメージが強いですが、西側にもサイトがあり、こういったホームページで紹介されています。

 端脚類交流会で時々「カットシ」という言葉が出てきて、北海道にもケット・シー(アイルランド伝承の猫の妖精)がいるのかと思ったのですが、これは「葛登支(かっとし)」という地名で、今まで呑んでた学生さんたちは実は例のホームページを管理しているメンバーだったのでした。


 さて、特に頼まれてはいませんが、所感を述べたいと思います。

  • スンナリヨコエビ科の1種 Maeridae sp.:良好な写真のため属までの同定に支障はないと思います。Ariyama (2018, 2019a, 2019b, 2020) Ariyama et al. (2020)あたりをおさえると、すんなりいくかと思います。
  • フトヒゲソコエビ科の1種? Lysianassidae cf. sp.:Dactylopleustinae亜科にみえます。
  • チョビヒゲモクズ Hyale pumila Hiwatari & Kajihara, 1981:評判の芳しい論文ではありませんがさすがに20年も経つので、Bousfield and Hendrycks (2002) を参照したほうがいい気がします。この体系については本ブログでも取りあげました。
  • ニッポンモバヨコエビ Ampithoe lacertosa Bate, 1858:概ね正しいと思いますが、ヨツデヒゲナガも採れる可能性があるので、近似種の整理は性別や成長度合いに左右されない複数形質をピックアップして、密に検証した方がよさそうです。
  • フサゲヒゲナガ?Ampithoe cf. zachsi Gurjanova, 1938:触角に毛が多いヒゲナガヨコエビ属には、フサゲヒゲナガのほかコウライヒケナガや Ampithoe shimizuensis なども候補になります。フサゲヒゲナガの原記載は咬脚がまだ変身を残しているように見えて仕方がないので、これも多角的な検討が必要です。
  • ヒゲナガヨコエビ科の1種 Ampithoidae sp.:わたしもこの類は不案内ですが、オオアシソコエビ属 Pareurystheus のようです。

 なお、近年のヒゲナガヨコエビ科を理解する上では Peat (2007) や Peat and Ahyong (2016) などが重要です(注:最新の処遇ではありませんが大枠として)。


 あと、サンプルももらいました。


ヒゲナガヨコエビを頂きました。
こんなんなんぼあってもええですからね。
(メスのため同定困難、モズミっぽいが本州と模様が異なる)


 かなり端脚の発表が多く、また多くの若手に会うことができました。ベントスそしてヨコエビの未来は明るい。

 プランクトンの発表も聴く機会があり、大変美味しい学会でした。皆様お疲れ様でした。



〈参考文献〉

— Ariyama H. 2018.  Species of the Maera-clade collected from Japan. Part 1: genera Maeropsis Chevreux, 1919 and Orientomaera gen. nov. (Crustacea: Amphipoda: Maeridae). Zootaxa, 4433(2).

— Ariyama H. 2019a. Species of the Maera-clade collected from Japan. Part 2: genera Austromaera Lowry & Springthorpe, 2005 and Quadrimaera Krapp-Schickel & Ruffo, 2000 (Crustacea: Amphipoda: Maeridae). Zootaxa, 4554(2).

— Ariyama H. 2019b. Two species of Ceradocus collected from coastal areas in Japan, with description of a new species (Crustacea: Amphipoda: Maeridae). Zootaxa, 4658(2): 297–316.

— Ariyama H. 2020. Species of the Maera-clade collected from Japan. Part 3: genera Maera Leach, 1814, Meximaera Barnard, 1969 and Orientomaera Ariyama, 2018 (addendum), with a key to Japanese species of the clade (Crustacea: Amphipoda: Maeridae). Zootaxa, 4743(4): 451–479.

— Ariyama H.; Kodama M.; Tomikawa K. 2020. Species of the Maera-clade collected from Japan. Part 4: addenda to genera Maera Leach, 1814 and Quadrimaera Krapp-Schickel & Ruffo, 2000, with revised keys to Japanese species of the clade (Crustacea: Amphipoda: Maeridae). Zootaxa, 4885(3): 336–352.

— Bousfield, E. L.; Hendrycks, E. A. 2002. The talitroidean amphipod Family Hyalidae revised, with emphasis on the North Pacific Fauna: Systematics and distributional ecology. Amphipacifica, 3(3): 7–134.

— Kamihira Y. 1977. A new species of sand-burrowing marine amphipods from Hokkaido, Japan. Bulletin of the Faculty of Fisheries, Hokkaido University, 28(1): 1–5. pls.I–V.

— Peat, R. A. 2007. A review of the Australian species of Ampithoe Leach, 1814 (Crustacea:  Amphipoda:  Ampithoidae)  with  descriptions  of  seventeen new species. Zootaxa, 1566: 1-95.

— Peat, R. A.; Ahyong, S. T. 2016. Phylogenetic analysis of the family Ampithoidae Stebbing, 1899 (Crustacea: Amphipoda), with a synopsis of the genera. Journal of Crustacean Biology, 36(4): 456–474 . 


2019年5月3日金曜日

令和はバイブレーションとともに(5月度活動報告)



 元号が改まって初めての採集です.平成をどう終えたかといえば自宅に籠って文献調査,令和をどう迎えたかといえば自宅に籠って文献調査をしておりました.岡山は手強いです…


 さて,今回はせっかくの10連休の中の大潮を大切にしたい(?)という気持ちから,採集会を企画いたしました.



干潟漫画家・小原先生と行く!
GW 電マ端脚採集会!!


物好きな皆さん.


 電マ採集とは,昨年から私が提唱している新しい干潟採集法で,大地とひとつになる感覚を味わえる稀有な方法です.昨年11月の深夜に実施した実績はあるものの,目覚ましい成果を上げるには至っていません.


   今回はその真価を確かめたいと思います.


11月に使用したものと同じ,干潟専用の完全防水マッサージ器です.



 電マを使うことに加えて,採るのは端脚類だけというニッチ・オブ・ニッチの企画ですが,普段から科とか属とか種レベルで採集計画を立てることが常のヨコエビストにしてみれば,何ら違和感はありませんね().




 千葉県某所干潟.午前9時30分.
 



 潮はわりと引いています.


 あと,親子連れをはじめとして,人がめっちゃいます.


 そこに響き渡るモーター音.


 干潟面の穴や海藻を刺激してみます.

 すると

電マは優しく当てます.


 海藻から這い出してくるトゲワレカラ(Caprella scaura)の皆さん.



 バットを用いて採集をする際,海藻に付いているヨコエビやワレカラを洗い落とす工程を経た後,バットに残った生き物を収集します.しかし,電マを使うことで,拾ったままの海藻から這い出してくる生物を効率よく発見することができそうです.


定番のモズミん(Ampithoe valida).


 モズミんに混じって,赤みを帯びたヒゲナガヨコエビがいます.確か過去にこの界隈で赤茶色のヒゲナガが採れた時は別種だったような気が・・・


こちらはAmpithoe tarasoviです.


 Ampithoe valida と A. tarasovi はよく似ていますが,底節板後縁に剛毛束があるかどうかで見分けられます.

モズミんの第4底節板以外の剛毛は見えにくいですが,
 顕微鏡下で剛毛の存在を確認しました.

 見慣れてくると,全体のプロポーションやオス第2咬脚の形状を見れば,肉眼でも見分けられます.また,成熟しきったオスは第1咬脚が大きく発達するので,A. valida とはだいぶ趣が異なるように見えます.




 電マを砂の中に押し込んだり,沈めたりして待っていると,オサガニなんかが飛び出してきます.他にはヒモハゼやシミズメリタなど.

 やるじゃないか,俺の電マ.

シミズメリタヨコエビ(Melita shimizui)ですね.


 しかし,途中からどうもスイッチの反応が悪くなり,汀線へたどり着くころにはとうとう沈黙・・・

 大地はやはり強かった.

 次の出撃に備え,さっそく新たに(もっと強そうな)電マを発注しました.
 

※機器の操作に集中しており,あまり写真を撮っていませんでした.ご了承ください.








 さて,電マ採集後は,谷津干潟に寄って「ガタガール原画展」を拝ませていただきました.


何年振りかの谷津干潟.


 原画撮影自由という太っ腹!
 

ガタガール既刊を買うこともできます.




フェスティバルと原画展のポスターが干潟の柵にも張ってあります.



2018年11月24日土曜日

干潟の望月(11月度活動報告その2)


 秋も彩り豊かにいよいよ深まり、朝晩の冷え込みの中にどこか冬の足音が聞こえる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 さて最近、11月と12月のラベルの干潟のヨコエビ標本がほとんどないことに気付きました。

 春を過ぎると潮が悪くなるとともに、海藻の現存量も芳しくなく、干潟でヨコエビを採るのはだんだん厳しくなってきます。

 しかしまあ、一度も調査したことがないというのもアレなので、東京湾内湾最大級のヨコエビリティを誇る干潟で冬季採集を試みました。




 折しも、藤原道長が望月の歌を詠んでからちょうど1000年目にあたるという満月が、纏った薄雲を眩く輝かせながら、天頂から見下ろしています。



 千葉県某所干潟
 午後10時

 暗いので写真はほぼないです。
 この干潟の夜間アタックは学生以来ですね。当時は1.2kmばかり歩いて30測点以上採取し、その後夜通しソーティングなどしていましたから、若かったんですねぇ・・・

 今回の本命は潜砂性種とします。

 また、新たな採集法も試します。



誑かす砂上の月光

(ハマトビキャッチャー)



 砂浜水盤ライトトラップです。
 ここでのハマトビキャッチャーも学生以来です。

 白浜では採れるかどうかの確認でしたが、今回は効率的な採集を目的として、放置プレイバージョンと、攪乱ありバージョンなどで効果を比較してみました。この結果については改めてどこかで。

ハマトビキャッチャー(改)

 使用したLEDライトは公称1000LMらしいのですが、見た感じはよく分かりません。COB12灯の拡散光、とにかく頼もしい明るさです。

 ハマトビキャッチャー実施中に沖で採集していましたが、この通り、遠くからでもよく見えます。暗くなると道が分かりにくくなるので、以前の夜間アタック時もライトを吊るしたり工夫していましたが、これは一石二鳥です。

矢印部分がハマトビキャッチャー改の光です

 ありがたいことにというべきか、不思議なことにというべきか、これをやるとハマトビ(と寄生ダニ)しか採れません。土地柄や季節もあるでしょうが、目的外の生物を殺さずに済むのは良いことです。

Platorchestia pacifica

 ハマトビキャッチャーは、沈黙を抱く湖(エキストラハイパートニック)と併用できますが、集められたハマトビは光に寄せられてバットからあまり逃げないので、普通の海水でも問題ありません。




濡れそぼつ小さな秘め事

(シークレットバイブレーション)


 これはフエコチドリの足技から着想した技です。
 砂をコチョコチョして獲物を探索する行動は渉禽類などでよく見られるのですが、その再現を狙ったものです。

 使用するのはこちらです。


Amaz○nにて購入。2399円。

 市販されている観察用具です。モーターが内蔵されており、10種類のモードから振動パターンを選択できる優れモノです。

 全体がシリコンコーティングされており、マグネット電極充電式なので、水中でも使用できます。 

オゴノリに潜らせてみる

 やってみると、海藻の中にいるヘラムシやアゴナガヨコエビなどがフラフラと出てくる感じがします。
 海藻の付着生物狙いであれば従来のように普通にバットで洗ってもよいのですが、海藻が基質から取り外せない場合や、バットにあけると噛んでいた砂がばっと広がって生き物を見つけにくいような、夾雑物が邪魔になる場合などに使えそうです。


アゴナガヨコエビ属 Pontogeneia

 また、今回砂中に挿入した限りでは、特にこれといった収穫はありませんでしたが、スゴカイイソメやイワムシなど潜行能力が高く掘り起こし採集が難しい多毛類に使っても良いかもしれません。

 この観察用具、寒い干潟では握り締めることで指先の血行が促進され、またモーター部が発熱することで、暖を取ることができるというメリットがあります。
 また、本来の用法ではありませんが、眼精疲労や肩こりによく効きます。
 ただし、取扱説明書を見ると、なぜか対象年齢が18禁表記になっていましたので、ご購入時にはお気を付けください。




 ちなみに、砂を掘りましたが、出てくるのはウミナナフシばかりで・・・
 あとはヒメドロソコエビ属と、エビジャコと、クーマですね・・・


未成熟だがたぶんヒメドロソコエビ Paragrandidierella cf. minima




 夜の干潟は視界が非常に悪く、泥干潟などに入り込むと極めて危険です。夜間チャレンジする前に、昼間に何度も足を運んで現場の状況を頭に入れておく必要があるでしょう。
 また、干潟を吹きすさぶ風と突いた膝から上ってくる冷気は、身体を冷やすには十分です。冬干潟は楽しいものですが、風を遮断できる素材,保温素材,首周りの防寒,そして手足から逃げる熱への対策が重要です。

 夜間かつ冬の採集は、これらが連携攻撃で襲ってきます。単独行動は極めて危険(良い子は真似しないでね☆)であることと、引き際が肝心であることは申し添えておきます。
 今回も不甲斐無いことに目的種についてはボウズでしたが、無事に還れたのでこれでよいこととします。


2018年5月25日金曜日

ガタガール展と白浜遠征(5月度活動報告)


 稀代の本格的なフィールド調査マンガにして今やベントス関係者の必読書と言ってよい『ガタガール』。
 和歌山で企画展と関連イベントが開かれるとのことで、出掛けて行きました。




 南紀白浜は本州のオーソドックスな生物相を見ることができつつ、明瞭に黒潮の影響を受けており、特に海洋生物では色鮮やかなソフトコーラルを観察することができるなど、南国的な楽しみができる場所として知られているようです。昆虫ではサツマゴキブリやイシガケチョウといった、関東ではまず憧れるばかりの顔触れを見ることができました(近畿においてもオリジナルの分布ではなく、近年北上している昆虫です)。

サツマゴキブリ
イシガケチョウ


 京都大学瀬戸臨海実験所もここ白浜にあり、およそ100年にわたり様々な海岸生物の生きざまを解き明かしてきました。
 昭和天皇行幸の折は現在も残る研究棟に立ち寄られたという、歴史上大きな出来事の舞台にもなっています。





 瀬戸臨海実験所の特色として、現在に至るまで一般向けの水族館が併設されていることが挙げられます。今回の展示会場の1つもここです。



 もう1つの会場である南方熊楠記念館は、熊楠の功績を称えて半世紀ほど前に建てられたもので、熊楠が記した書類や所蔵していた文献などを展示しています。改築を経てかなりナウくて綺麗な建物になっています。この地に住んでいた熊楠が、すぐ近くに見える神島で昭和天皇を迎えて戦艦長門に移り御進講を行ったとのことですが、そういった歴史の現場を展望台から眺めることもできるロケーションとなっています。



 これらの施設は白浜の臨海というエリアにあります。周辺一体は砂岩でできた白っぽく脆い地質で、波で削られて切り立った崖となります。砂浜は狭いものの、砂岩由来の白く細かい砂の帯と人工的に敷かれたと思われる礫の帯が連続しており、たくさんの海藻がそこへ打ち上がります。海岸森は崖の上の台地まで続いており、中に入ると照葉樹やシダ類からなる艶やかな低層植生が眼に飛び込んできて、ガタガール無印2巻 (小原, 2017) を彷彿とさせるこんな看板もありました。

No more ”カニ踏んじまった”




 臨海実験所正面の浜はよく掃除がされておりヨコエビリティは低めです。

 一方、実験所の北側、熊楠記念館の裏の浜に下りることができるのですが、漂着物も多く、磯場が広がっていてなかなか良さげです。



 あまり潮は良くなかったのですが、ガサガサするとこんな感じ。


Elasmopus イソヨコエビ属


Maeridae スンナリヨコエビ科



Hyalidae モクズヨコエビ科

 モクズはあまり多くなく、アゴナガヨコエビ科が優占しておりました。また、小さなテングもいました。怪しげなヒゲナガヨコエビもいましたが、大きな個体を得ることが出来ず。もう少し深場にいるのかもしれません。



 さて、白浜水族館の「ガタガール生物展」では、主に無印から特別編にかけて登場した生物の標本や生体が展示してあります。


 常設の展示の中にはヨコエビがいます。Elasmopus イソヨコエビ属 とのことです。

amphipod in aquarium (cf. Elasmopus)




 熊楠記念館の「ガタガール原画展」では、複製原画のほかネーム,PC処理前生原稿,設定メモなどが展示され、関連グッズの再現まで行われているという、少し正気の沙汰とは思えない構成です。随所にどこかで読んだような、というか、書いた覚えのある文章が解説パネルとして掲出され、ガタガールのウィキペディアを読んだことがある人なら思わずニヤリとしてしまう工夫がされています。無印1巻表紙 (小原, 2016) のカバー返しに作者近影として掲載されていたニホンドロソコエビの生原画も展示されています。フィールドと文献の両方に造詣が深く、あくまで実物を示すことに強いこだわりを持っていたという熊楠のマインドがここにあるようです()。


 初日はギャラリートークでしたがネットに載せられない話も多いはずなので割愛します。





 その夜、かねてより画策していた灯火採集を敢行しました。

 ターゲットは最近何かと話題のヒメハマトビムシです。


 まず日暮れと同時に行動開始。バットに水を張り、適当な光源を当てます。今回は、LEDに加えて、白熱電球,紫外線ランプ,ケミカルライト(サイリューム)を用意しました。

 開始20分程度はまだ日も高くハマトビの気配はありません。
 風も強くあまり気温が高くない感じです。不安が募ります。


 コツは、いろいろな場所にとりあえず置いてみて採れるところを探す、という感じのようです。




 開始30分ほどで、捕獲の傾向が見えてきました。
 今回はほとんど基質を攪乱しない状態でライトによる誘引のみですが、普段の昼間の採集でハマトビリティが高いと見定めてひっくり返すような、良い感じの漂着物の真ん中に置いたバットでの捕獲が目立ちます。やはりか、といった感じです。


 今回は小原ヨシツグ氏のほか有志数名が集っていまして、空振りするわけにはいかなかったので、一安心しました。

 爆釣ポイントに、持ってきて頂いたダイビング用ライトでバットを照すと、付近の地面を覆い尽くすような大量のプリティー生物がピョンピョンしており、面白いようにバットの中に溜まっていきます。強光を浴びてパニックになっているようにも見えます。


 ここで少し実験をしてみます。


 バットにより捕集効率がバラついています。試しに高輝度のLEDを他のバットにも向けてみると、そこに多く集まるようになります。
 ハマトビムシにLEDの光はよく見えており、かつ誘引源として用いる場合に有効であると考えて良さそうです。


 次に、ハマトビが泳ぐバットの中に異なる2種類の光を入れてみます。


 面白いことに、紫外線ランプとLEDを並べてバットの一角を照すと、紫外線のほうに多く集まります。位置を交換しても同様でした。白熱電球と比べても、LEDより白熱電球のほうが集まりやすいような感じでした。

 すなわち、ハマトビムシを灯火採集する場合、紫外線を含む光源を用いたほうが効率的である可能性が考えられます。

Platorchestia ヒメハマトビムシ属

 誘引された個体をざっと確認しましたが、2mm程度の微小な個体がとても多く、成熟個体の特にオスについてはかなりレアでした。これは、同じ場所で昼間に漂着物をひっくり返すという従来の方法によって得られる個体群の構成と大差はない印象です。
 種同定のためにある程度成熟したオスを採取したいところですが、つまりはたくさんの個体を採ってその中から拾うことになります。
 これだけ大量の個体を得るにはかなりの量の漂着物をひっくり返す必要があり、またバットに普通の海水を張るだけではすぐ逸散してしまいます。光を当てるだけで向こうから寄ってきて、しかも留まってくれるというなら、こんなに楽なことはありません。


 ハマトビ採取において灯火採集はアリということが確認されました。



~~~~~


 遠征2日目、白浜最大の干潟である内之浦にて干潟観察会です。



 内之浦はもともと田辺湾南岸の入り込んだ海岸線だったところを、大人の事情で堤を築き、水路でのみ海とつながる内海化した場所とのことです。成り立ちは東京湾で言うところの谷津干潟とか新浜湖を彷彿とさせます。

 周回徒歩15分程度の泥干潟です。電柱の上でイソヒヨドリが鳴き、干潟面ではアオサギやシギsp.が餌を探していて、なぜかテングチョウも泥の上にいます。まわりをウメエダシャクが乱舞しこれもどことなく谷津干潟っぽいです。

 そんな小さな干潟ですが、公園として整備されており、駐車場もあり、自販機があり、水道やトイレも充実しております。コンビニやバス停まで徒歩5分。観察にはかなり有利です。

 パッと見の印象は海藻が少ないということ… つまり谷津や新浜よりだいぶ海の影響が少ないと思われます。


 
 さっそくドロソコを探しますが、驚くほど採れません。

 卒論を始めた頃、初めての採集で江戸川のヨシ原にうずくまって延々と泥を濾していたことを思い出します。
 しかし不肖この私も無為に干潟に埋まってきたわけではありません。心の中のヨコエビが囁くままに、今度は澪筋に入って牡蛎殻をガサります。

 澪筋の底は黒く無酸素分解されている感があります。牡蛎殻も泥に埋もれていた部分が真っ黒で、陸由来の落葉が主な有機物の供給源となっているようです。コケゴカイとミズヒキゴカイが多い感じです。


 ドロソコおった。


 橋をくぐって上流に行ったところで、なんとかオスを見つけました。

Grandidierellaドロソコエビ属

 和歌山と言えばAriyama (1996) で記述された多くのドロソコ標本の産地ですが、どうやら内之浦にいるのはニホンドロソコエビのようです。



 白浜はとても良い土地だったのですが、いかんせん関東からは遠く、あまりガタガールファンを集められなかった印象があります。地元でこのマンガの知名度はかなり低いと思われ、こじんまりとしたイベントでした。
 とはいえ、マイナーながらも作り手のこだわりが詰められた展示の数々、今月いっぱいまでとは実に勿体ない。会期いっぱい、より多くの人の目に触れてほしいと願います。



 帰り、白浜駅を利用しました。
 水族館の出前展示があり、なかなか癒されました。


Kuroshio Sirara (mascot charactor of Shirahama St.)



 実はこのたびの遠征にて、瀬戸臨海実験所に籍を置かれている大和茂之先生とお会いすることができました。日本のメリタヨコエビ研究に先鞭をつけられた先生で、ヨコエビストの間で知らない人はいません。白浜の地理や歴史の概要を教えて頂き、本稿にも採り入れさせて頂きました。ヨコエビトークに花が咲き、とても楽しい時間を過ごしたのですが、コーヒーをMelittaのドリッパーで淹れるかどうかだけは聞きそびれてしまいました。この話はまたの機会に積み残しです。




(参考文献)
- Ariyama, A. 1996. Four Species of the Genus Grandidierella (Crustacea: Amphipoda: Aoridae) from Osaka Bay and the Northern Part of the Kii Channel, Central Japan. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 37(1/2): 167-191.
- 小原ヨシツグ 2016. 『ガタガール①』. 講談社. 174p. (in Japanese)
- 小原ヨシツグ 2017. 『ガタガール②』. 講談社. 229p. (in Japanese)

(web)
- 白浜水族館特別企画展「ガタガール生物展」(3/3-5/30まで)
- 3月3日(土)ガタガール原画展がオープン!(南方熊楠記念館)





2018年3月12日月曜日

ハマトビオフ 潮上決戦(3月度活動報告)


 昨年7月に「端脚オフ」を開催して半年以上。
 更なるヨコエビのポテンシャルを追究すべく、再び『ガタガール』シリーズの作者である小原ヨシツグ氏とともに、「ハマトビオフ」を企画しました。


 九十九里のロケハンと同様、後背草地の感じられる砂浜をターゲットとし、なおかつ今回はなるべく多くの属を得られるよう、礫っぽさと磯っぽさを追加しました。


  諸々の事情から着想・企画・実施のスパンが極めて短く、ロケハンもグーグルマップで済ませるというおよそ人様をお招きして良い状況ではなかったのですが、幸いにもお声かけした方々の何人かと日程が合ったので、何とかオフ会0人を回避することができました。


 今回は「潮上決戦」と題し、どれだけ多くの種類のハマトビムシを集められるかを競います(すいません今考えました)。




 朝、集合したのはこちら。

 ツイッターで見かけた時は笑いましたが、こういうふざk・・・粋なことをする鉄道会社もあるのですね。


 三浦半島の西岸。
 港がひしめきあう辺りで、釣り人には人気のスポットのようです。
 「横須賀のヨコエビ」 というのも韻を踏んでいてなかなか良さげです(?)。



潮上決戦に挑む勇者たちです

 海藻は打ちあがっているものの、ピョンピョンしている虫はみあたりません。
 船をしょっちゅう上げ下げしているのでしょう、砂浜は踏み荒らされてあまり安定した隠れ場所がないのかもしれません。


 今日は小潮でしかもほぼ満潮の時間にフィールドに到着したため、漁師さんに訝しがられましたが、にこやかに挨拶を交わした後、一同めいめいに海藻やら石やらをめくります。


 砂質はかなり粒が大きく、川砂やら貝殻やら植物片やらが多く不均質でした。




このツヤは・・・


  
ヒメハマトビムシ種群です



 気温は手元の温度計で12℃程度。寒いせいかハマトビがほぼ跳びません。掘った砂に目を凝らすと丸まっていて、簡単に手で採れる状態でした。

 今回は人数が多いためあちこち探しながらかなり個体数が集まりました。それでも恐らくまだまだ砂に紛れて隠れていることでしょう。



  多様な手法を試すということで、かつて伊豆で使用した最終(採集)兵器「沈黙を抱く湖(エキストラハイパートニック)」の威力をご披露しましょう。


 跳ねない・・・


 EHT法の利点はあちこちに飛び跳ねて分散するハマトビムシを面で受け止めることですが、何しろハマトビが跳ねないためその真価が発揮されません。

 仕方がないので見つけたハマトビを沈めて捕獲します。


 高張液の中ではオスのハマトビは脱出できずジタバタしていますが、メスは縁から登っていきます。恐るべし。水深をとらないとEHT法とはいえどもハマトビの生命力には太刀打ちできないということでしょう。




 少し進むと、家の土台が朽ちたような場所がありました。

 コンクリートの枠に砕石やコンクリート片がガラガラと溜まり、落ち葉と混ざっているような場所です。


 磯的環境かつ安定した潮上帯環境ということで、 石をどかしてキタフナムシを物色していると、おやどこかで見たような背中が・・・



ミナミホソハマトビムシ。参加者の間でもデカいと話題に。


 いつぞやぶりのミナミホソハマトビムシPyatakovestia iwasaiでした。

 卒論生当時、さる方に生体を提供していただいたことがありますが、そういえば当時は未記載種だったわけですねこれは(汗)



 

 南三陸にてホソハマトビムシPyatakovestia pyatakoviを捕獲したのは礫浜に打ちあがった海藻下でした。
 ホソハマトビムシ属は砂質より石を好み、海藻だけでなく落ち葉のような植物質も利用しているようです。
 また、このガラの下は見た感じ有機物の多い泥質となっていて、このグループは海岸林の縁のような場所にも生息できるのかもしれません。


 ちなみにこちらがそのホソハマトビムシP. pyatakoviです。

南三陸町産 無印ホソハマトビムシ





お わ か り い た だ け た だ ろ う か ?





 第1尾肢の外肢にトゲがあるのがホソハマトビムシP. pyatakoviで、トゲがなくツルツルしているのがミナミホソハマトビムシP. iwasaiです。


 このホソハマゾーンの近くにはヒメハマトビムシ種群も出現していて、連中の環境選好性の幅広さを実感しました。








 この後、 2時間半ほどさまよいましたが、なかなか良い砂浜がなく、体力の消耗も激しいので、半ばヤケになってハマトビ以外のヨコエビを探すという暴挙に出たりもしました。

地元の方も浜に出ていたのでハマトビを探しているのかと思ったら違った


浜から続く岩場。漂着物なし。絶対ハマトビはいない。


 石を洗って落ちるメリタを小原氏に渡しつつ、潮上決戦がもはやなし崩し的に潮間帯にその舞台を移してしばし経った頃、石からぽとりとヨコエビが落ちました。



モクズヨコエビ科の一種


 モクズヨコエビ gen. sp. です。


 交尾前ガード中のペアを採ることができましたが、一部険しい形質があり、Bousfield & Hendrycks (2002) のキーが進みません。今後の課題とします。

 とりあえず今回の採集では、ハマトビムシ上科2科3属3種を数えることができたようです。まずまずの成果と言えるのではないでしょうか(強引)。


 寒い中お付き合いいただいた皆様、誠にありがとうございました。






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 では、持ち帰ったヒメハマトビムシ種群をさっそく同定してみます。このグループにはいろいろ難しいことがあるのですが、今回はそのへんを勘弁して頂き、簡便な咬脚の剛毛を使います。



・・・これjoiやん。


オス:前節下縁に剛毛がある
 メス:掌縁に剛毛がある





 お わ か り い た だ け た だ ろ う か ?





  今回のヒメハマトビムシは、どうやらほとんどがPlatorchestia joiだったようです。オス第2咬脚下縁の剛毛を見たのは初めてです。感動ものです。



 ちなみにこちらが三番瀬産のPlatorchestia pacificaですが、

三番瀬産のヒメハマトビムシ属の一種(Platorchestia pacifica) オス第2咬脚前節下縁は剛毛を欠きツルツルしている。

 ぱっと見ぜんぜん変わらん。



 形態分類はもちろん形質のコンビネーションが重要なので、今回検討していない腹肢裏側の剛毛の本数など、他の形質をチェックすれば、もっと分かることはあるかと思います。しかし、ここまで普通に似ているとどうしたらよいものか・・・

  あと、恐ろしいことに、1頭だけ、その箇所に剛毛がないオスが採れました。
  なんということでしょう・・・

 とりあえず然るべきルートに流します(逃走)。

※専門家による精査の結果、「P. joi っぽい P. pacifica」との知見が示されました。










  このjoiとpacificaの問題について、密かに妄想していたのは、Inoue (1979) という文献で、当時でいうところのOrchestia platensisに2つの系統があるという主張がされていた件です。もしかしてそれが今世間を騒がせているヒメハマトビムシ種群に解決の糸口となるのでは・・・?という淡い期待を胸に、早速形態を確認してみます。

  Inoue (1979)では第7胸節背面の紋を11種類くらいに分類し、それを4タイプとして扱って関係性を見ました。結論として、タイプ1のみが独立し、残りのタイプは相互に変異するということが分かったようです。

 このタイプ1というのは、全体的に逆Y字あるいは六の字で、他のタイプではよく目立つ背の真ん中を走る黒い帯が、終端に少しだけある、というようなものなのですが・・・



 pacificaがタイプ1じゃね・・・?

 今回のハマトビオフで得られたヒメハマトビムシ種群については、第2咬脚前節下縁に毛の無かったオスも含め、20個体近くを観察しましたが、いずれも節の中央を通る筋は上部の黒色斑とつながるか、幅よりは明らかに長く伸びていました。

 三番瀬産pacificaでは基本的に単純な褐色の三角形の紋があり、後端から伸びる筋らしきものはほとんどありません。ごく低頻度で、写真中央の個体のような小さな斑が出ます。

 もしかするともしかするかもしれません。これは今後も追及していきたいと思います。






 そしてもう一つ懸案事項。

 それは、EHT法がサンプルに与える影響です。

 ほっとくと死んでしまうほど強力な塩分に晒された体組織はどのようになっているのか、形態分類に使用する形質に変化はないか、確認してみることにしました。




  まず全体。

この写真では多少ライティングの違いもありますが、


  目視でも、EHT法のほうが青みが強くなっています。

 手で捕まえてラヴ・プリズンしたものと、EHT法で〆めたものを、蒸留水に浮かべてみると、ラヴ・プリズンしたサンプルは脚が広がって少々お行儀が悪い感じがします。一方、EHT法のサンプルは各付属肢の向きが揃っており、背筋も伸びています。脚が揃っているのはもしかしたらチャック付きポリ袋での輸送中に高張液の中でお亡くなりになったことによる効果なのかもしれませんが、背筋が伸びているのは説明がつきません。高張液は筋肉に働きかけているのでしょうか・・・?
 何はともあれ、背筋が伸びているのはありがたいです。理想的な体勢をしています。 良い影響があると言ってよいかもしれません。





 次に軟質部。



 抱卵メスを腹側から観察してみます。

 底節鰓,覆卵葉,そして胚に至るまで、特にこれといった異常は見当たりません。


 結論として、EHT法はサンプルに対して、外部形態を用いた分類に支障を来す類の影響は及ぼさないものと考えられる、としておきます。






 最後に・・・

 せっかくたくさんハマトビが採れたので、アレをやってみたいと思います。






魚が焼ける皿の上にヨコエビを載せてレンジでチン。約20秒。



  やや湿り気が残る程度に温めてみました。
 湯気に混じる甲殻系のかほり。

 そして、箸でつまんで一匹ずつ味わってみると・・・

 味がしない・・・

 以前メリタを食べた時にも思いましたが、やはりこれは香りを楽しむもので、味を追究するならかなりの量が必要となるでしょう。胸脚が口に残るのも、人によっては気になるかも。
 そして何より、分類学的に知見が不足しているサンプルを食すという後ろめたさ。早く解決してほしいものですjoi/pacifica問題・・・
 





(参考文献)
- Bousfield, E.L., E.A. Hendrycks 2002. The talitroidean amphipod Family Hyalidae revised, with emphasis on the North Pacific Fauna: Systematics and distributional ecology. Amphipacifica, 3(3): 7-134.
- Inoue, K.1979. The significance of variations in dorsal body markings of Orchestia platensis Krφyer (Amphipoda, Talitridae). Proceedings of the Japanese Society of Systematic Zoology, (16): 23-32. 
- Miyamoto, H., H. Morino 2004. Taxonomic studies on the Talitridae (Crustacea,  Amphipoda) from Taiwan, II. The genus Platorchestia. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 40: 67–96.
- Morino,H. and H. Miyamoto 2015. Redefinition of Paciforchestia Bousfield, 1982 and description of Pyatakovestia gen. nov. (Crustacea, Amphipoda,Talitridae). Bulletin of the National Museum of Natural Sciences, Ser.A 41: 105-121.
- 森野浩・向井宏 2016. 砂浜フィールド図鑑(1)日本のハマトビムシ類. 海の生き物を守る会, 京都市.




補遺
17-Mar.- 2018

専門家の同定結果を追加