眼は重要ではない
- フロリダマミズヨコエビ Crangonyx floridanus:表層水の個体は複眼を具えるが、地下環境に生息する個体は「複眼を欠く」(篠田, 2006)。
- ガイコツヨコエビ科 Lepechinella arctica:複眼の有無は種内多型である (Lörz et al., 2020)。
光を見てはいる
- ヨコエビ属 Gammarus:加齢とともに負の光走性を示す (Hunte and Myers, 1984)。
- ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis:昼間の活動量は日照と負の相関にある (松井ほか, 2023)。
光だけ見ている
- カイコウオオソコエビ Hirondellea gigas:感覚器の遺伝子発現を解析したところ、洞窟に生息するヨコエビの長波長 Opsin 遺伝子と近縁の配列が同定された。頭部にはレンズ構造が消失した領域には神経の集中がみられた。実際に光線を照射すると、水中での透過率が高い波長域の近傍にあたる 526 nm 付近の波長で発色団の高い光異性化が確認された(小林ほか,2015)。
捕食
- Guerra-García et al. (2014) は、イベリア半島に生息する端脚類の食性を多角的に検討した文献である。
- ワレカラ科,チビヨコエビ科,スガメソコエビ科,エンマヨコエビ科(テッポウダマ属),モクズヨコエビ科,マルハサミヨコエビ科,トゲヨコエビ科,アゴナガヨコエビ科(ダイコクヨコエビ属)などで動物由来(甲殻類・環形動物・動吻動物)の内容物が優占している。なお、タテソコエビ科は小川 (2011) でも捕食性であることが示されている。
- スガメソコエビ科は分散した個眼をもち、捕食に適しているとは考えにくい。水中の振動を感知している可能性、あるいは濾過食の過程で微小な甲殻類・環形動物を捕集したことも考えられる。
- これ以外の種類は、概ねヨコエビにおいて一般的・常識的といえる範疇の複眼構造を有する。
- 特に、クチバシソコエビ科は複数の属で甲殻類が優占した。この科のメンバーは、菊池 (1986) において発達した複眼を砂の上に出して獲物を狙うとされ、Yu et al. (2003) において主にソコミジンコ類を捕食しているとされる。
- 他方、複眼が目立たないヒサシソコエビ科も2属で甲殻類が優占した。このうち Metaphoxus属 はあまり発達していない複眼をもつが、Harpinia属 は一見すると複眼を持たない。レンズ構造をもたないヒサシソコエビ科は生時、頭部に白点をもつものがいるが、光刺激の受容はできても像を捉えているとは思えない。いずれにせよ、ヒサシソコエビ科は視力においてクチバシソコエビ科より劣位と考えられる。視覚に依存しない狩りの手法があるのかもしれない。
- Stepien and Brusca (1985) は、生きた魚にフトヒゲソコエビ類 Aruga holmesi が攻撃する様子を野外観察している。この種の複眼はそれなりに発達しており、像を結び動きを追う能力をもつと考えられる。
性選択
- ハマトビムシ類:メスを獲得しているオスは、獲得していないオスと比較して体サイズが17%大きかった。体サイズの大きさは雄間闘争の優位性を示すものと考えられる。また、体重(体サイズ)の増大に比例して第2触角の長さは増し、加えて触角の赤みが強まる傾向がみられた。触角の赤さはオスが質の良さをメスへ示すための指標と解釈できるが、実際はメスの選択よりもオスが闘争によってメスを獲得することでペアが形成される傾向が示された (Iyengara and Starks, 2008)。
複眼および視葉の構造
- クラゲノミ亜目:中層遊泳性の端脚類のグループで、種類によって頭部全体に複眼の構造が拡大するものが知られる。Lin et al. (2021) はクラゲノミ亜目の4属にヨコエビ属を加えた5属の端脚類を題材として、複眼に連なる神経および脳組織の構造を記述している。
- 円錐あるいは円筒形に大きく発達した頭部全体が「眼」になっているフクロウミノミ属 Cystisoma では、視葉が脳体積に占める割合は73%に達する。
- 光量が少ない深海に棲むランケオラ属 Lanceola の複眼はヨコエビ然とした大きさであり、視葉は脳体積の6%にとどまる代わりに、嗅葉は24%を占める。
- 視葉はその大きさのみならず構造も多様であり、とりわけロビュラ複合体はその構成ひいては在不在に至るまで、クラゲノミ亜目内で差異がみられる。
- フクロウミノミ属はロビュラおよびロビュラプレートを共に具えるロビュラ複合体構造を示しており、これはヨコエビ属およびその他の軟甲綱と共通した特徴である。これらの種類が得ている視覚情報の質は、ある部分で似通っている可能性がある。
- ロビュラを喪失したクラゲノミ属やタルマワシ属は、細部の形状や動きの感知において妥協しているものと考えられる。ロビュラプレートを一部あるいは部分的に喪失したランケオラ属やタルマワシ属は、広い空間を把握するに留まると考えられる。
- クラゲノミ亜目が標的とするゼラチン質プランクトンは動きが緩慢なため、動きの感知に関わる部位を失うことは大きな問題ではない可能性がある。
複眼および個眼の構造
- フトヒゲソコエビ類:Meyer-Rochow and Tiang (1979) はOrchomene cf. rossi の新鮮な標本を解剖し、複眼の微細構造を観察することでどういった視覚情報を得ているかを考察している。
- O. cf. rossi は径の大きな桿体を持つことから個眼の受光角が広く、僅かな光を感知することに適した複眼をもつ。これに加えて個眼同士の隔離が十分でないといった特徴から、解像度という意味で視力はあまり良くないといえる。
- なお、Pontoporeia affinis,Abyssorchomene plebs,O. cf. rossi の3種は、個眼の大きさや数が異なるため、像の見え方に違いがあると推測される。また、複眼の色調はそれぞれ赤みを帯びた白色,黒色,橙色をしており、生活環境に応じて異なる遮蔽色素をもっていることが示唆される。
- ハマトビムシ類:複眼の領域によって機能が異なり、上方は空を感知するといった分担によって砂浜上での位置把握を行っている (Ciofini et al., 2019)。
- ハマトビムシ類:観察記録および複眼の構造から、夜間と昼間の活動に適応しており、海側と陸側とを識別していると考えられる (Ugolini et al., 2020)。
視物質
- 甲殻類は発色団として普遍的にレチナール (A1) を具える。これに加え、端脚類では 3-ヒドロキシレチナール (A3) が発見されている。浅海・潮下帯種はレチナールのみをもつが、陸棲・淡水・深海種は3-ヒドロキシレチナールのみ、あるいは両方をあわせもつ(外山,2021)。
発光
- Thoriellidae科 Chevreuxiopsis franki :顎脚を生物発光させ、その光を装飾的な突起をもつ第2触角で反射、あるいは黒色の第1咬脚で覆い隠すことで、何らかのコミュニケーションをとっていることが示唆されている (Halfter and Coleman, 2019)。
- Photosella属:胸脚の基節に発光体を具える (Lowry and Stoddart, 2011)。
- マルソコエビ属 Urothoe poseidonis:体表から発光バクテリアが発見されている (Gillan and Dubilier, 2004)。
- ハマトビムシ類 Orchestoidea gracilis:体表の発光現象はバクテリアの影響と考えられている (Bousfield and Klawe, 1963)
色覚
- ヨコエビ科 Pectenogammarus olivii:日当たりの良い水路に生息する本種は、青色光と紫色光の暴露には反応を示したが、赤色には無反応だった (Grintsov et al., 2022)。
体色
- ハマトビムシ類:鉤頭虫の寄生はハマトビムシ類に体色変化を引き起こす (Lagrue et al., 2016)。
- フトヒゲソコエビ類:液相クロマトグラフィーを用いてカロテノイドを抽出したところ、オオオキソコエビおよびツノアゲソコエビ属の一種の双方においてアスタキサンチンが主成分であった。それ以外の少量のカロテノイド色素の組み合わせによって、それぞれの種の体色が決定されているものと考えられた (Thoen et al., 2011)。
- ヨコエビ上科 Eulimnogammarus属:青色/赤色,緑色/黄色の部位でカロテノイドのppm値を比較すると、僅かに差がみられた。体色が異なる個体同士でヘモリンパ液中のクラスタシアニンの分子量を解析したところ、その組成には明瞭な差がみられた。体色の違いは色素タンパクの割合によると考えられる (Drozdova et al., 2020)。体色は必ずしも種の違いを反映せず、異なる体色の個体同士での交尾前ガード行動も観察されている。
体色パターン
- ハマトビムシ類:背面の斑紋パターンに注目し、分類への活用が試みられている (Inoue, 1979; Chapman, 2007; Wildish and Martell, 2013)。
- ユンボソコエビ属:体表の色素斑のパターンに種間で差異があることが指摘されている (Conlan and Bousfield, 1982)。
- メリタヨコエビ属:よく似た色彩パターンをもつ2種において、境界のくっきり度合いや色分けエリアが微妙に異なる (有山, 2022; Tomikawa et al., 2025)。
まとめると以下のようになると思います。
- 沿岸表在底生種は中層遊泳性より細かな形状の把握に優れている可能性。
- 大きな個眼は解像度が低い可能性。
- 「無眼種」は視力を失っていると考えられるが、光情報を得られているかどうかとは別の話。
- 浅海・潮下帯種と、陸棲・淡水・深海種とでは、短波長および長波長の可視領域での感受性が異なる可能性。
- 発光する種は僅かであり、意図的に発光して同種他個体同士でコミュニケーションを図る例は立証されていない。将来的に検証されたとしても、非常に稀な例と考えられる。
- 体色の色調はヘモリンパ液中の色素タンパクの組成によって決定し、斑紋パターンは外骨格内の色素胞の分布により決定するが、種内のコミュニケーションには必ずしも活用されない。
<参考文献>
— 有山啓之 2022. 『ヨコエビ ガイドブック』. 海文堂, 東京. 160pp. [ISBN: 9784303800611]
— Chapman, J. W. 2007. Gammaridea. In: Carlton, J. T. The Light and Smith Manual Intertidal Invertibrates from Central California to Oregon. Fourth Edition, Universary California Press, pp.545–618.
— 菊池泰二 1986. 第一編 ヨコエビ類の分類検索, 及び生態, 生活史に関する研究. In: ヨコエビ類の生物生産に関する基礎研究. 昭和60年度農林水作業特別試験研究費補助金による研究報告書. pp. 9–24.
— 小林英城・山濱由美・外山美奈・高久康春・針山孝彦・荒井渉・高見英人 2015. トランスクリプトーム解析から予想されるカイコウオオソコエビの感覚器.ブルーアース 2015発表資料.
— 松井里菜・柚原剛・市毛崚太郎・鈴木碩通・占部城太郎 2023. P1-079 アクトグラムからわかった砂浜のハマトビムシ類の日周活動:光と湿度の交互作用【A】. 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨.
— 小川洋 2011. 東京湾のヨコエビガイドブック (web publication). 138pp.
— 篠田 授樹 2006. 東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査. 研究助成・一般研究 vol.28-No.164.
— 杉崎宏哉 1991. ニホンウミノミの生態学的研究. 日本生態学会関東地区会 会報, 40: 12–13.