2016年8月5日金曜日

江ノ島ヨコエビ第二報(8月度活動報告その1)

 
 
 干潟に出るたび身の危険を感じる季節となって参りました。皆さまいかがお過ごしでしょうか。

 少し前から江ノ島に凝っていて、調査をしたらスゴかったという話はすでに記事にしましたが、未調査地点がありました。
 8月4日、今回は同行者の協力を得て、調査範囲を拡げてみました。





 橋からみて島の反対側に位置する稚児ヶ淵の岩礁がターゲットです。

高いヨコエビリティを感じる
風光明媚とはこのことか・・・


 岩の上にたまった水の中の緑藻をガサりますが、ドロクダしか出てきません。


 仕切り直して波が砕ける際に行くと、紅藻や褐藻がもっさりしています。


 太平洋の荒波にビビりつつ、海藻をむしりとってはバットにひろげてみるこれぞヨコエビ道。
 

紅藻(雑)

褐藻(雑)

 得られたヨコエビは以下の通り。 

Maeridaeスンナリヨコエビ科?

第三尾肢が短くオスの第二咬脚はこの通りrectipalmate

Elasmopusイソヨコエビ属

  スンナリヨコエビはわりと波当たりの強い紅藻上にいて、捕獲時は真っ赤でした。イソヨコエビは波当たりの弱いタイドプールで採れましたが、波打ち際にもいました。



Podocerusドロノミ属 P. brasiliensisではない

Stenothoidaeタテソコエビ科

 あとは、モクズヨコエビ類多数。もう何属おるのかも分かりません。
 
 ヒゲナガヨコエビ類は出ず、新顔のハッジヨコエビ上科の面々と、なぜかタテソコエビ科がたくさん出ました。藻類より付着生物(動物)系の基質で得られることが多いだけに、根元のカイメンについてきたのかもとは思いましたが、それにしても数が多い。紅藻を好むタテソコエビなのかもしれません。

 橋の下より多様性は高いように思えます。同じような環境はずっと続いていて、今回は途中で引き揚げざるを得なかったのは悔やまれます。

  あとは大量のキタフナムシ。海藻にコンタミするコツブムシと巨大なヘラムシ。Isopod天国でもあります。
 



  橋の下まわり(A地点)やメリタ天国(B地点)にも足を伸ばしたものの、上げ潮の時間帯であったため思ったような成果は無く。ただ、A地点では紅藻からAmpithoe validaモズミヨコエビが出ました。



 本土に戻り、漂着物をガサってみます。
  あまり目ぼしい海藻がなく、拾ったものにはことごとくモクズヨコエビ類が優占しておりました。そんな中で拾ったのがこちら。 

cf. Grandidierella japonica ニッポンドロソコエビ ♀


 前回6月のチャレンジでは、江ノ島側からアカヒゲドロソコエビ似のドロソコエビ類が出現しましたが、 今回はサイズや模様からして別種です。しかしながら、オスを得ることはできず、てっとり早い同定形質が見られなかったことから、種の確定には至りませんでした。ニッポンドロソコエビは本邦広域分布種なので、形態も同じようだしとりあえずこいつということにしておきます(雑) 

 ニッポンドロソコエビはその名の通り泥底を好み、経験上、砂地でも出ますがある程度の細かな泥粒子を含む場所で採れます。今回ドロソコエビを拾ったのは土と粗砂が混じった海岸に打ちあがった枯草や木の根などでした。砂そのものにいるのか、植物質の基質が必要なのかはよく分かりません。
  

 江ノ島侮り難し。楽しい時間はあっという間だね。

 とりあえず前回のサンプルもまだ同定できていないため、モクズヨコエビの分布を見ながら調査の道筋を決めていこうかなと思います。
 まだまだ調べられていない場所も多く、もっといろいろなヨコエビが見つかるはずだと確信しております。






2016年7月9日土曜日

驚異の7月度活動報告(深海展に行ってきました)

 
 ヨコエビを拾った数だけヨコエビを知る。

 つまり最近あまりヨコエビを拾えてないので、危険な状態です。ヨコエビ成分を補給すべく、私はあの場所へと向かいました・・・



・千葉県立中央博物館企画展「驚異の深海生物-新たなる深世界へ-」

 縁あって微力ながら協力させて頂いた「驚異の深海生物」展、本当に微力にも関わらず、協力者に名を連ねたばかりか、招待状まで頂きました。ありがたいかぎりです。
 開催初日のオープニングセレモニー、仕事があって間に合いませんでしたが、展示を観ながら初日の雰囲気を感じました。
 深海生物展といえば10年前にもありましたが、今回は新たな知見が加わったり、世界に1つしかないホロタイプ標本の展示が関連展示も合わせて3種あったり、研究の最前線からお届けするこの網羅性はなかなか他ではなかなかありません。



 ヨコエビは3種の標本を展示。
 ちなみに、私が検鏡・同定したものは展示の選考から漏れたようです!残念!


 以下、ほぼボールのマルフクレソコエビStegocephalus inflatus Krøyer, 1842
 そして、腐肉食性の巨大ヨコエビとして知られるオオオキソコエビEurythenes gryllus Lichtenstein, 1822
コロコロしてるのがフクレソコエビ。オオオキソコエビは生時の写真が添えられており、鮮やかな赤色をしていることが分かります。


 そして世界で一番深いところに住むマクロベントスとしてお馴染みのカイコウオオソコエビHirondellea gigas (Birstein and Vinogradov, 1955)
科博の深海展に出てきたものよりは小さな個体です。
 
 JAMSTECの写真パネルコーナーに”Gammaridea”と同定されたヨコエビのパネルがあります。こちらは博物館はタッチしておらず元の同定のままの展示だということですが、明らかにスガメヨコエビ科Ampeliscidaeの一種です。
 


 フクロエビ上目では、オオグソクムシ属Bathynomusの現生3種と化石種2種が展示されております。 私もこの展示で初めて知ったのですが、コウテイグソクムシと呼ばれる種には学名が対応せず、未記載種とのことです。やばい。ちなみに、展示の解説文にて触れられているLowry & Dempsey 2006は、ネットでタダで読むことができます!オオグソクムシファンはぜひ!
 このBathynomusの化石種というのが、今年4月に出版されたKato et al. 2016で記載されたばかりのコミナトダイオウグソクムシB. kominstoensisで、深海展とは別コーナーですが、一応同じ時期に、地学エリアの一角にて展示されております。 (※こちらの論文は出たばかりなのでまだ無料で読めるところはないようです)

 その他、ムンノプシス,オナシグソクムシ,タナイスなど珍品のオンパレードとなっています。

 今回不遇の分類群となったのは環形動物多毛類で、ハオリムシとタケフシゴカイのみの参戦となりました。タケフシゴカイは科までの同定となっておりますので、我こそはという多毛クラスタの方々は、ぜひ手を挙げてみてください。
 
 ミュージアムショップではオリジナルグッズのTシャツの他、ちょっとマニアックな深海生物グッズもいろいろと仕入れていました。 


 標本によっては皮むけが見られるなど細かいところではちょっとアレなものもありますが、とにかく本物を見せようという心意気が隅々まで満ちています。ハダカイワシだけ30種とか、ワニトカゲギスだけ30種とか、ディープな展示もございますよ。

 
ジオンの流れをくむMSみたいなんですがこれは







・進捗報告
 まだ浜野さんから顕微鏡入荷の連絡がありません。中古にこだわらず新品でも買うかといったところ…夏は仕事でバタバタなので時間をつくってまた相談ですね(;'∀')




-----

参考文献

-Kato, H., Y. Kurihara and T. Tokita 2016. New fossil record of the genus Bathynomus (Crustacea: Isopoda: Cirolanidae) from the middle and upper Miocene of central Japan, with description of a new supergiant species. Paleontological research, 20(2): 145-156. 
 
-Lowry, J.K. and K. Dempsey  2006. The giant deep-sea scavenger genus Bathynomus (Crustacea, Isopoda, Cirolanidae) in the Indo-West Pacific, in: RICHER DE FORGES B. & JUSTINE J.-L. (eds), Tropical Deep-Sea Benthos, volume 24. Mémoires du Muséum national d’Histoire naturelle, 193: 163-192. Paris. ISBN: 2-85653-585-2.



書籍紹介『海の寄生・共生生物図鑑』

 突然ですが、書籍をご紹介します。 

魚の頭部に寄生するカイアシ類や、口の中で暮らすウオノエ類、
吸血するムツボシウミクワガタ、保育をするオニナナフシ類・・・・・・、
著者が世界で初めてとらえた、謎に満ちたモンスターたちを大公開!!(カバー表紙紹介文より)

 激萌え!そして渋い!
 八景島シーパラのミクロモンスター展を彷彿とさせるマイナー甲殻類の大行進、僕にとってはモンスターというよりスターな顔ぶればっかりなんですが、いかんせん巷での知名度が低すぎるのです。

 そんな書籍が刊行されたとのことで、そういえばNob!!さん(著者の齋藤暢宏さん)こないだそのようなことを言ってらしたなと思いつつ、シャコパンチのごとき早業にて注文ボタンをクリックいたしました。 






 
表紙がウオノエさんコンニチワという衝撃


数千種もの生物が生息する東京湾のすぐ先にある伊豆大島の、身近な海にいながら、知られざる存在である小さな生物、寄生生物や共生生物たちは、その不思議な生活ぶりで、生態系の中で海を支える存在となっている。
年間500本の潜水観察と卓越した撮影技法によって、寄生・共生生物と特徴的な生態をもつ生物たちの、知られざる姿と驚きの生活ぶりを伝える。(カバー裏表紙紹介文より)



 な、なんか、生態系を捉える視点をもちながら伊豆大島のフィールドにこだわって写真を撮りまくった感じですかこれは・・・! Think globally, act locallyを地で行くようなやつですか! しかもフクロエビ上目に最大フォーカスとか攻めすぎでは?!



 届いてびっくり、これハードカバーですね・・・ 本棚から何度抜き差ししても、よれる心配はありません。
 読み進めると、途中で多少前後することはあるものの、橈脚類,等脚類...といった具合にだいたい分類群ごとにブロック分けがされていて、解説文や学名表記にも分類学と生態学の精神が隅々まで行きわたった構成に胸が躍ります。
 そして鮮やかな写真の応酬。「ええっ、そんなとこを!?こんなになるまで??(意味深)」と思わず目を覆った指の間からこっそり凝視したくなるようなアヤシイ写真が惜しげもなくコラムを挟みながら87pにわたって敷き詰められている。


 ちなみに、ありがたいことに築地書館のホームページにて少しサンプルが読めます。しかもカラー!神か!仏か!!



 そして予想外というか目を疑うほど驚いたのがなんと、ヨコエビが学名つきで12種も掲載されている!!! 

 これは事件です。

 いや、裏表紙に小さくテングヨコエビがついてたのでまさかとは思ったんですが・・・

 「寄生・共生」と銘打たれているだけあって、ヤギやカイメンに住むちょっとマニアックなヨコエビ,そして伊豆大島のスノーケリングというロケーションならではのちょっとエキゾチックな色彩のヨコエビ,同種や異種間の関係が面白いヨコエビ、いずれもそこらの普通の図鑑ではお目にかかることはできないし、論文でもここまで生態写真を堪能できるものは少ないし、そもそも日本語の出版物において質的にも量的にもここまでヨコエビが充実しているものはお目にかかったことがないです。というか裏表紙にカラーのヨコエビの写真が使用されている本というのもそうそう出合えるものでは(もうこのへんで)



 あまりの出来事に取り乱しつつ、通読してみて、どうしてもツッコミたいとこがありまして・・・ 大したことではないんですが・・・ できるのなら伝えてしまいたい、でも伝えられない・・・

 ・・・やはりツッコませて頂きます

 タイトルが内容とちょっと違う!?

 寄生,共生いずれでもなさそうなものについて、「これタイトル的にどうなんや」とちょっと思いました。貴重な育児の写真も目白押しなので、本題(タイトル)から外れた感じになってるのは非常にもったいない!


 まあ、そんなのわりとどうでもいいくらい圧倒的な、モンスターたちの競演がぎゅっと詰まっています。これらのモンスターがどうやって海を支えるのか?基盤生物としての小型甲殻類の地位についても、しっかりと解説がございます。
  コラムもなかなか楽しい。学問の匂いを感じられる良書です。
 
 夏休みの課題図書にしようよ(おいおい)



-----


※ 取扱サイト










 

 

 











2016年6月7日火曜日

江ノ島のヨコエビ観察不完全ガイド(6月度活動報告)

 いかがお過ごしでしょうか。

 潮が引く日にはいてもたってもいられず、仕事をサボ休暇をとって訪れたのはこちら。



江ノ島です。


 去年秋、片瀬海岸よりホソツツムシCerapusとハマトビムシPlatorchestia、そしてホソヨコエビEricthoniusの触角を持ち帰ったことは記憶に新しいものの、その日はえのすいを満喫したところで日暮れも迫り、江ノ島上陸は断念しました。 「湘南の海にヨコエビを求めて」
 今回はそのリベンジです。


 片瀬海岸はやや泥の混じる粗砂の環境で、岩場には褐藻なんかがウネウネしてるイメージ。江ノ島に行った人から桟橋の下に大量の海藻が見えたと聞き、これはモクズヨコエビのフィーバーではないかと妄想を逞しくしておりました。



~~~~~



 最干潮は昼、事情により上げ潮に転じるくらいのタイミングで到着しました。小雨ちらつくあいにくの天気にも関わらず途切れない人の列。やはりみんなこの潮を狙ってヨコエビを取りに来たのでしょうか(違)





 本土と連絡する橋のすぐ脇、砂泥底の上に転石やら漂着物やらが程よく乗っかっている海岸が見えます。名前の分からない紅藻が散乱していてgood!

今日の装備はとりあえずジーパンにスニーカー、念のため胴長と合羽をリュックに忍ばせてあります。




 おもむろに石の上の紅藻をちぎって掻きわけてみると、根元から出てくる出てくるモクズヨコエビ類、そしてカマキリヨコエビJassa属。

赤,緑,橙など色鮮やかなモクズヨコエビ類
Jassaのオス
 1ガサ目でこの成果とは、順調すぎる滑り出しです。

ちなみに根元のヒゲがない紅藻にはほとんど何もいない
  

 砂泥底にベタッと横たわる藻類やロープのかたまりをどかすと、モクズヨコエビ類に混じってフトメリタMelita rylovaeらしきものが採れます。(※補遺1)
緑のはモクズ、黒っぽいのがメリタ(おそらくフトメリタ)




 汀線の石の表面の紅藻を洗ってみると、わずかにヒゲナガヨコエビ科とドロクダムシ科が出るものの、カマキリヨコエビはついぞ見ず、ほぼモクズヨコエビ類しか出ません。モクズヨコエビ、だんだん食傷気味になってきます。このモクズも恐らく1種ではないのでしょうが、今回はとにかく潜在的なヨコエビリティ(ヨコエビが採れる可能性)の把握を目的としているので、似たものをそんなに採っても仕方がないのです。

 褐藻は打ちあがっている量が少なく、ヨコエビもほぼついていない。ここでは紅藻を狙うのがよいようです。

 ヨコエビと一緒によく採れるのがコツブムシ。イソガニっぽい丸みの強いカニ(未成熟含む)も多いです。





 陸側のコンクリート表面を黄色い双翅目幼虫が這い回り、それに混じっている黄色味を帯びた甲殻類はドロクダムシ科。どこから出てきたのかとよく見てみれば、階段も柱もことごとく表面がドロクダムシの巣で覆われています。表面にいるのは干潮時に巣に戻れなかった個体と思われますが、もしかしたら他に何か事情があるのかもしれません・・・  

この密度、恐らく平米数十万個体には達しているのではないか(適当)

  イガイやタテジマイソギンも共存しているようですが、付着の密度はとても低い。アリアケドロクダムシに覆われた三番瀬の杭でももう少しムラサキイガイやユウレイボヤが頑張ってる気がします。

  ちなみに、ここのドロクダムシはアリアケばかりの三番瀬とは異なり、トンガリドロクダムシMonocorophium insidiosumっぽいです。

石の上の藻類から採れたヒゲナガヨコエビ(※補遺1)とドロクダムシ、赤いのはモクズ



 石やカキをどかしてみると、モクズヨコエビ類よりフトメリタが多いです。(※補遺1)そしてなぜか暴れない。三番瀬でも新浜でも石をどかすとすぐに逸散してしまいますが、江ノ島のヨコエビはどっしり構えています。気温のせいか、土地柄なのか・・・・。とにかく接写の撮影は非常にやりやすそうです。

  その中に、見慣れないドロクダムシ上科ぽいヨコエビを見つけて拾ってみました。ニッポンドロソコエビよりかなり小さいですが、触角が赤味を帯びているドロソコエビGrandidierella属(ユンボソコエビ科)のようです。
触角の縞模様の違いは微妙ですが、オスの第一咬脚の基節の膨らみ具合がニッポンドロソコより弱い気がします 触角柄部はニッポンドロソコより太い気が・・・(※補遺1)

 今回は胴長の出番はなく、波を避けながら軽い足取りで採集を決めました(?)。
 潮目を選べば、長靴やマリンブーツで楽しめると思います。



~~~~~


  さて、潮があがってきたため撤収。
  更なるヨコエビリティを求めて海岸の偵察をすることにします。

地元の海鮮を売るお店を眺めていたところ、うっかりホンビノスを発見してしまう



  橋の反対側の砂浜は、陸繋島たる江ノ島を象徴するような、本土との間に大きく弧を描いた砂州が波に洗われる光景が拡がっています。
  この砂浜からもややヨコエビリティを感じますが、前回はハマトビムシすらそれほど採れなかったことから、採集にはフルイを用いるなど工夫が必要かと思われます。

 
 江ノ島側の護岸には良い感じに付着生物がついて紅藻も漂い、ヨコエビリティの高さが伺えるものの、降りる階段などはありません。網で掬うか、本土側から歩いてくるか…一人ではやらないほうがよさそうですね。



 ~~~~~




 更に進むとヨットハーバーに到着。
 
 
 桟橋や杭、ロープなど、船だまりにはヨコエビリティ高めのアイテムがつきものですが、いかんせんそうしたものを物色する行為は要らぬ警戒を引き起こすことが予想されます。案の定、桟橋の垂直面に触れられるような場所には、関係者以外立ち入り禁止の標示あり。



 ヨットハーバーのエリアの真ん中は突堤のような感じになっています。とりあえず先端まで行ってみます。

 すると・・・なんと、岬の先端に謎のスペースが・・・



タイドプールで・・・遊ぶ…だと…?

 お言葉に甘えてヨコエビを探します。

 お座なりに組まれてコンクリで固められた石の枠が、砂利の溜まったプールを囲むような構造です。


 プールの中には意図されているのかいないのか、いい感じに泥の溜まった部分もあり、何らかの生活痕も見えます。

  泥の上に転石が乗っているのでめくってみるとフトメリタ。(※補遺1)

  砂利の上の石の下には、シミズメリタっぽい白くて小さいヨコエビ。より大きく黄色っぽいメリタもいて、タイドプールでは3種程度のヨコエビがみられましたが、いずれもメリタです。

  壁面や転石ばかりでなく、捨てられたゴミの表面にもサンゴモが付着し、まさに磯的な環境となっています。ケガキとヒサラガイがあたちこちにひっつき、石の裏にはタマキビやトウガタガイ科っぽい巻き貝がみられます。
 
 ヤドカリもユビナガなどではなく干潟では馴染みのないもの。イソヨコバサミっぽいのは橋の下の砂泥底にもいた気がしますが、ここにいるのはホシゾラヤドカリ?江ノ島のヤドカリ相の論文を見つけましたが、このタイドプールは調査ポイントに入っていないっす。 また、フジツボの空き殻を拾い上げると、イソカニダマシぽい異尾類も見つかりました。

 カニ相はやはりイソガニが優占しているようです。

 プールの水が多いところに動きがあると思ったら、イソスジエビ的な十脚類。エビはもうええんや、ワイはヨコエビがほしいんや。


 結論: ここはメリタ天国


 タイドプールまわりは大型藻類がない代わりに石の表面に付着したサンゴモやその他のうっすらした藻類が非常に滑りやすく、サンダルはもってのほか。ただの長靴でも厳しいかもしれません。マリンブーツか胴長で、グローブを付けるなど手を切らないような工夫も必要です。



~~~~~



 さらに足を伸ばしてみたところ、防波堤の先で釣り人が並んでいる岩場を見つけたものの、装備をもう少し考えねばならないと思われます。江ノ島の西半分はこのように天然の岩礁となっていて波当たりも強く、1人で行くと何かあったときにいろんな人に迷惑をかけるかも。

by Google Map


A:砂泥底
B:タイドプール



~~~~~



橋を渡って本土へ戻ります。
ここは前回、ハマトビとホソヨコエビを採った場所ですね。



  漂着ワカメを攻めるも収穫なし。
 何だか期待して泣きそうな気持ち・・・

  このポヤポヤした紅藻(雑)にはモクズヨコエビやドロクダムシなどいろいろいました。

 そして念願の・・・
メスと思われますがフサゲヒゲナガAmpithoe zachsiの可能性が高いです
自分の手でフィールドでGETしたのは初めてのフサゲヒゲナガ的なヨコエビ。



   陸由来の漂着物、イネ科植物のヒゲ根をかきわけてみると・・・


モクズヨコエビ類。とにかくでかく、フサゲモクズの比ではない。

 巨大なモクズヨコエビが登場。小さな個体はもう見なかったことにして、十分に成熟した2カップルを持ち帰りました。
 このオス2個体の模様の違いが気になりますが、同所的に産していることから考えると、種内変異と思われます。
 


 これはかつて土嚢だったと思われるポリエチレンの編み製品。 
 モクズヨコエビがたくさん、そして小さなカマキリヨコエビ。



 他の漂着物を見ながらハマトビムシを探しましたが巡り会うことはできず。

 10月にはみられなかった巨大モクズヨコエビの嵐、潮目や漂着物の状態によるのか、季節性があるのか。


 本土側の砂泥底は長靴で楽しめそうです。普通の靴の場合は、木の枝などを持ってると、漂着物を引き寄せるのに使えるかもしれません。
  今日はバットを持っていきつつも全編をピンセットだけで強行しました。流れ藻などは水を入れたバットにぶち込んでからソーティングすると見やすく、またモクズが跳ねて逃げることも防止できます。

 チャック付き小袋を用意して臨みましたが、現場で「ドロクダムシ上科」「その他」に分けるようにしました。前回の教訓で、ハマトビムシのような掃除屋さんが他のサンプルを齧ってしまうような悲劇を繰り返してはならないと思ったからです。この点ではモクズが怖いのと、あとはコツブムシ。幸い、コツブムシが混入したパックでカマキリヨコエビのバラバラ死体が見つかるようなことはありませんでしたが、たぶんこいつはやらかすタイプです。コツブムシを持って帰っても学問のまな板に載せる予定はないのと、サンプルに悪さをするリスクから、なるべくコツブムシは海に返してから帰宅したいものです。
 ここでドロクダムシ上科を特別扱いするのは、身体が華奢なこと,フィルターフィーダーが多く互いに食べあうことがない,グレーザーであるヒゲナガヨコエビは純草食でやはりサンプルを害することがない、などの理由です。もし肉食性の種が採れたらそれはまたモクズのパックとも別にしなければならないと思います。




 今回は突然の思いつきで敢行となりましたが、今後は計画的に調査したいです! 
 あと、できれば桟橋の付着系もやりたい・・・



-----

<参考文献>

- 北嶋 円・伊藤寿茂・岩崎猛朗・冨永早希・佐野真奈美・植田育男・村石健一・萩原清司 2014. 江の島の潮間帯ヤドカリ類相. 神奈川自然誌資料, (35): 17–24.


-----
  

<補遺1>


ヒゲナガヨコエビ属 Ampithoe

 
 江ノ島の紅藻上のものはオスのみ同定し、A. validaの形質と概ね合致しました。
 本土側のフサゲヒゲナガ的な個体は抱仔メスでした。未同定です。


  

 ドロソコエビ属 Grandidierella

  本邦既知種の中ではアカヒゲドロソコエビG. insulaeに似ているものの、まだ検討できていない形質があります。


カマキリヨコエビ属 Jassa

 
  本邦既知種の中ではフトヒゲカマキリヨコエビJ. slatteryiに似ています。オスのサンプルにおいて形態変異の幅が大きく、研究材料としては良いものが採れましたが、同定には時間を要すると思われます。


 メリタヨコエビ属 Melita

 
  フトメリタによく似た色彩でしたが、触角および第3尾肢の形質を検討したところ、別種と判断されました。タイドプールのコーナーでは採取していませんので更に違う種かもしれませんが、フトメリタ然とした色合いはよく似ていました。




(2016年6月8日)

-----




2016年5月29日日曜日

5月度活動報告(東浜調査/文献調査)

 ご無沙汰しております。

 4月末より別件にて取り組んでいたことがあり、ブログ更新を後回しにしていたところ気がつけばタイムリミット。月内になんとか更新を。
 その別件についてはリリースされたらご紹介できると思います。


<三番瀬東浜調査>



 さて、5月度は三番瀬海域のベントス調査でヨコエビを探すも、主にモズミヨコエビAmpithoe validaとアリアケドロクダムシMonocorophium acherusicumしか見つからず、心なしかシミズメリタヨコエビMelita shimizuiも少なくなっているように思われました。ちなみにコドラートでの検出はなかった模様。

 生息基質には大きな変化があり、特に汀線側はカキ礁が派手にぶっこわれて破片が砂干潟を覆っている状況で、 潮間帯最下部あたりから広大なカキ礁が広がって、一般の方がそこで何を掘っているかというと還元土壌に染まって真っ黒になったホンビノスだったりして、何とも言えない光景が繰り広げられていました。
  ただ、カキ礁が干潟面を遮るように出来ると潮通しが悪くなり、カキの偽糞で有機物だらけになって干潟が死んでしまうかと思いきや、潮の流れが大きく変化した結果、カキ礁の手前の汀線付近の干潟の底質はさほど悪くないというか、むしろ以前の中途半端な場所にカキ礁があった頃より改善しているような印象でした。

 付着生物として優先しているアリアケドロクダムシの中からカマキリヨコエビが見つからないかと試みましたが発見ならず。今シーズン三番瀬で確認されたヨコエビは5種に留まっており、さみしい限りです。
地形が変わって大きな川が形成されていて、小学校の「水の流れ」の授業とかできるのではないかと。




<文献紹介>


佐藤隼夫・伊藤猛夫  1980. 『改訂 無脊椎動物採集・飼育・実験法』 (1956初版), 北隆館, 東京.



 僕が生まれる前に出た本ですね。そのためISBNコードもありません。


 この本にヨコエビが取り上げられていると知り、 もしかして飼育方法なぞを掲載しているのではと勘繰り、探して買いました。



 本書においてヨコエビが扱われている章は 13-1・8端脚類(Amphipoda)(p.257-258)。
掲載されているヨコエビは以下の種です。



 二ホンソコトビムシ [as Ampithoe japonica (synonymized taxon)] Ampithoe lacertosa Bate, 1858

 トゲドロクダムシ [as Corophium crassicorne] Crassicorophium crassicorne (Bruzelius, 1859)
 キクイモドキ Chelura terebrans
 ツノフトソコエビ [as Orchomenella nanaTryphosa nana (Krøyer, 1846)

 テングヨコエビ Pleustes panopla
 モクズヨコエビ [as Hyale grandicornis] Apohyale grandicornis (Krøyer, 1845)
 ヒメハマトビムシ [as Orchestia platensis ; not Platorchestia platensis (Krøyer, 1845)] cf. Platorchestia joi Stock & Biernbaum, 1994
 ヒゲナガハマトビムシ [as Talorchestia brito ; not Britorchestia brito (Stebbing, 1891)] cf. Trinorchestia trinitatis (Derzhavin, 1937)

 イソヨコエビ Elasmopus japonicus
 ニッポンヨコエビ [as Rivulogammarus nipponensis] Gammarus (Rivulogammarus) nipponensis (Uéno, 1940)
 シコクメクラヨコエビ Pseudocrangonyx shikokunis


 学名は近年の知見を元に直してみましたが、和名が今と違うものや、学名の対応に疑問が少なくないため、これを無視して引用などはできない代物です。生態情報は属ないし科レベルで理解できますので、本書の記述は和名に付属して定義される日本個体群の概論ということで、細かい分類はこの際はよいことにします。


 この顔ぶれ、蟹で言うところの渓流にサワガニ、干潟にオサガニ、岩場にイソガニといったオーソドックスなチョイスと思われます。ヨコエビについて「ベタ」と呼べるほど定番化したメニューはなく、これは貴重な資料です。

 特筆すべきは、ツノフトソコエビの紹介で筆者はこの仲間が魚を骨にするのを見たなどと書かれている点。実はヨコエビの入門に適した主な日本語の文献(永田1965;石丸1985;菊池1986;平山1995)において、この手の記述は見当たらない。貴重です。

 飼育については個別には記述されておらず、概ね同じだから他の各種小型甲殻類を参考にしてくれと軽くあしらわれております。

 まあ、かなり広範な生物を扱った中でのヨコエビということで些か物足りない部分もあるものの、当時としてはもちろん、今見てもかなり網羅的な見識が示された貴重な資料という印象です。


 <その他進捗>

 顕微鏡がまだ買えず、記載は進んでおりません。
 とにかく絵を描かねば・・・
 
 

-----

参考文献


-平山明 1995. 端脚類. In: 西村三郎(ed.)『原色検索日本海岸動物図鑑[II]』. 保育社, 東京.

-石丸信一 1985. ヨコエビ類の研究法. 生物教材, 19,20: 91-105.

-菊池泰二 1986. 第一編 ヨコエビ類の分類検索,及び生態, 生活史に関する研究. In: ヨコエビ類の生物生産に関する基礎研究. 昭和60年度農林水作業特別試験研究費補助金による研究報告書. pp.9-24.

-永田樹三 1965.端脚目(AMPHIPODA)概説. In: 岡田要(ed.)『新日本動物図鑑[中]』, 6th edition, 北隆館, 東京.