2017年5月6日土曜日

めいきゅうのヨロイヨコエビ(5月度活動報告)



~ とう場人ぶつ ~


こうたくん
さいきんヨコエビとまりちゃんのことが気になっている男の子。 

まりちゃん
ヨコエビのことがすきなちょっとおませな女の子。  
こうたくんとはかせのことはあまりすきじゃない。 

よこえびはかせ
ヨコエビの本やひょうほんをいっぱいもっている。
ヨコエビのことにくわしくて、何でもしらべて教えてくれるけど、
そのほかのことにはまるっきりきょうみがないんだ。 



~~~~~~~

よこえびたんていだん

だい2話 めいきゅうのヨロイヨコエビ


こうたくん: はかせ!すごいヨコエビがいるんだって!

はかせ: どれどれ、見せてごらん。


こうたくん: このヨコエビ、南きょくにいるんだって!でもってトゲトゲなんだって!

はかせ: こうたくん、これはビッパー(VIPPER)じゃよ。

こうたくん: ビッパー?なにそれおいしいの?

はかせ: ビッパーは、大きなとく名「ネットけいじばん」の「ニュースいた」をよくつかう人のことじゃよ。

こうたくん:このヨコエビ、インターネットできるの?

はかせ: ちがわい!ノリのよさや耳の早さがもとめられる「ニュースいた」の人は、とくべつなそんざいなんじゃよ。

こうたくん: ビッパーはヨコエビがすきなの?

はかせ: そのようじゃ。ここに「日本ごのぶんけんは少ない」と書いてあるじゃろう。いろいろな本をいっぱい読んでいるということじゃ。

こうたくん: すごーい!

まりちゃん: それにしては、書きかたがぼやっとしてるじゃない。 あやしいものよ。

こうたくん: え~?じゃあこのヨコエビはうそなの?

はかせ:まあまあ、1まいずつたしかめるぞい。




まりちゃん: 1まい目。スレとツイートとは少しちがうけど、もとは同じよ。

はかせ: スレのしゃしんは海外のサイトにのったものじゃ。ツイートのしゃしんはこのブログにあったものがネットをただよっていたものじゃよ。

こうたくん: このえいごがヨコエビの名前なの?

まりちゃん: これは学名。ラテンごやギリシャごをつかうことが多いの。

はかせ: では、これが本当にエピメリア・ルブリエクエス(Epimeria rubrieques)かどうかをたしかめてみようかのう。これがきさいろんぶんじゃよ。

こうたくん: げ~!またえいご!

はかせ: せかいにいるヨロイヨコエビのなかま(Epimeria)は55しゅいるんじゃ。これからじゃよ。

こうたくん: もう帰りたいよ~

はかせ: この話をはじめたのはこうたくんじゃろ!

まりちゃん: すぐに55しゅをぜんぶたしかめられるとは思えないけど。

はかせ: きさいろんぶんには、ほかのしゅるいとの見分けかたが書かれておる。

こうたくん: やった!

はかせ: じゃが、トゲが大きくよくにているものや、同じ海にいるものについてしか書かれておらんし、この時にはヨロイヨコエビのなかまは、今とくらべて3ぶんの2しか見つかってなかったんじゃ。

こうたくん: やっぱ帰る。

まりちゃん:はかせ、もっと何かないの?

はかせ:このろんぶんにのってないものは、それぞれのきさいろんぶんを読むしかないようじゃのう。2014年にどのヨロイヨコエビのなかまがどの海にいるかをまとめたろんぶんが出ておるから、これも読んでみるんじゃ。



Reference: Andres (1985), J.L.Barnard (1961, 1971), K.H.Barnard (1916, 1930), Birstein & Vinogradov (1958), Coleman (1990, 1994), Coleman & Lowry (2014),  De Broyer & Klages (1991), Griffiths (1977), Gurjanova (1972), Hurley (1957), Ishimaru (1994), Ledoyer (1986), Lörz (2008, 2009, 2011, 2012), Lörz & Coleman (2001, 2009, 2014), Lörz et al. (2007), McCain (1963), Nagata (1963), Shimomura & Tomikawa (2016), Varela & García-Gómez (2015), Wakabara & Serejo (1999), Walker (1906), Watling (1981), Winfield et al. (2012).

はかせ: 何とかおわったのう・・・

まりちゃん: トゲが長く見えるのは3しゅだけみたいね。

はかせ: エピメリア・オキシカリナータ(Epimeria oxicarinata) は、「だい2きょうせつ」のトゲがほかより小さいから、ルブリエクエスとはかんたんに見分けられるんじゃよ。エピメリア・ロリカータ(Epimeria loricata)は、「だい6きょうきゃく」のつけねのトゲがないから、これもかんたんに見分けられるんじゃ。

Reference: De Broyer & Klages (1991) , Coleman (1990), Sars (1895).


まりちゃん: ということは、このしゃしんはエピメリア・ルブリエクエスでまちがいないわね。


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はかせ:つぎは2まい目じゃ。これは「ぞく」がちがうんじゃ。

こうたくん: ぞくってなに?

はかせ: おお、こうたくん。やっと目がさめたかい。

まりちゃん: ぶんるいのまとまりのことでしょ。じょうしきじゃない。

こうたくん: へぇ~。っていうか、外がまっくらだけど、今なんじなの?

はかせ: にている「しゅ」をあつめたものが「ぞく」なんじゃよ。

まりちゃん: このヨコエビ、よくインターネットでみかけるよね。

はかせ: ヘッジホッグ・アンフィポッド、ハリネズミヨコエビなどとよばれているものじゃのう。学名はパランフィソエ(Paramphithoe)というんじゃ。

こうたくん: すっごいトゲトゲ!

まりちゃん: この「ぞく」はせかいに7しゅいるみたいだけど、ちゃんと見分けられてるのやら。

こうたくん: さっきよりぜんぜん少ない!

はかせ: ネットではパランフィソエ・ヒストリクス(Paramphithoe hystrix)とされていることが多いのう。これを見るんじゃ。

Reference: d'Udekem d'Acoz & Vader (2004), Gurjanova (1972).


こうたくん: みんな同じじゃん。

はかせ: ほっほっほっ、よーく見てごらん。トゲが生えるところやむきがちがうじゃろう。

こうたくん: でも、上のれつも下のれつもトゲが立ってる3つのヨコエビは、見分けがつかないよ?

はかせ: パランフィソエ・ブッフホルツィ(Paramphithoe buchholzi)は頭の前に長くとがっているところがあるじゃろう?ここがパランフィソエ・ヒストリクスと大きくちがうところじゃ。

こうたくん: なるほど!

はかせ: パランフィソエ・カスピダータ(Paramphithoe cuspidata)は、パランフィソエ・ヒストリクスとくらべて、頭のすぐ後ろにあるトゲとそのまわりがなみうって大きくはりだしてくるといわれておる。

こうたくん: そういわれてみれば・・・

はかせ: ようするにパランフィソエ・ヒストリクスの頭はかくれているところが少なくて、デコが広いんじゃよ。目も、パランフィソエ・ヒストリクスのほうがパランフィソエ・カスピダータよりもちょっと小さいんじゃ。

こうたくん: それじゃあ・・・?

まりちゃん: だいじなところが見えないけど、このしゃしんはパランフィソエ・ヒストリクスっぽいわね。


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はかせ: さいごは3まい目じゃ。これは1まい目と同じ「ぞく」じゃろう。

まりちゃん: ひょうほんみたいね。

はかせ: これはもともと、ウォームス(WoRMS)のギャラリーにあったものじゃな。

こうたくん: もーむす?はろぷろ?

はかせ: ちがわい!ヨコエビのなかまについてけんきゅうしゃがまとめているサイトじゃよ。

まりちゃん: ここに書いてあるなら名前はまちがいないでしょ。

はかせ: それがそうでもないんじゃ。学名の後ろに「?」がついておるじゃろう。まだプロの人のチェックがおわっていないんじゃよ。

こうたくん: えー、じゃあこのヨコエビはうそなの?

はかせ: さっきのヨロイヨコエビぞくの見分けかたをおもいだすんじゃ。

まりちゃん:さっき二つ目のトゲの大きさで見分けたやつじゃない。

はかせ: そのとおりじゃ。エピメリア・オキシカリナータじゃよ。

まりちゃん: このサイトに書いてある名前でまちがいないということね。


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まりちゃん: けつろん。1まい目いがいは、ちがうヨコエビだったね。

こうたくん: いっぱいリツイートされてサイトにものってるのに・・・

はかせ: もとツイをけしたり、まとめサイトにはたらきかけることで、このヨコエビのようにしゃしんをかくすことはできるぞう。

こうたくん: そっか~良かった~。

はかせ: 人間じゃからまちがえるのはしかたないんじゃが、このくらいまちがえてもだいじょうぶ、というのは、話をするほうじゃなくて、話をきくほうがきめるものだということは、わすれないようにしたいものじゃのう。

こうたくん: うん!帰ったらお母さんにも教えてあげようっと。っていうか、今なんじなの?




(参考文献)

- Andres, H.G. 1985. Die Gammaridea (Crustacea: Amphipoda) der Deutschen Antarktis-Expeditionen 1975/76 und 1977/78. 4. Acanthonotozomatidae, Paramphithoidae und Stegocephalidae. Mitteilungen aus dem Hamburgischen Zoologischen Museum und Institut, 82: 119–153. [in Germany]
- Barnard, J.L. 1961. Gammaridean Amphipoda from depths of 400 to 6000 meters. Galathea Report, 5: 23–128.
- Barnard, J.L. 1971. Gammaridean Amphipoda from a deep-sea transect off Oregon. Smithsonian Contributions to Zoology, 61: 1–86.
- Barnard, K.H. 1916. Contributions to the crustacean fauna of South Africa. 5. The Amphipoda. Annals of the South African Museum, 15: 105–302. [pls 26–28]
- Barnard, K.H. 1930. Crustacea. Part XI. — Amphipoda. British Antarctic ("Terra Nova") Expedition, 1910, Natural History Reports, Zoology, 8: 307–454.
- Бирштейн Я.А., Виноградов М.Е. 1958. Пелагические гаммариды (Amphipoda, Gammaridea) себеро-западной части тихого океана. Акаемия Наук СССР, Труды Институт Океанологии, 27: 119-257. [in Russian]
- Coleman, C.O. 1990. Two new Antarctic species of the genus Epimeria (Crustacea: Amphipoda: Paramphithoidae), with description of juveniles. Journal of the Royal Society of New Zealand, 20: 151–178.
- Coleman, C.O. 1994. A new Epimeria species (Crustacea: Amphipoda: Epimeriidae) and redescription of three other species in the genus from the Antarctic Ocean. Journal of Natural History, 28: 555–576.
- Coleman, C.O. & J.K. Lowry 2014. Epimeria rafaeli sp. nov. (Crustacea, Amphipoda, Epimeriidae) from Western Australia. Zootaxa, 3873 (3): 218–232.
- d'Udekem d'Acoz, C., W. Vader 2004. Occurrence of Paramphithoe buchholzi Stebbing, 1888 in the Barents Sea (Crustacea, Amphipoda, Epimeriidae). Sarsia, 89: 292-295.
- De Broyer, C., M. Klages 1991. A new Epimeria (Crustacea, Amphipoda, Paramphithoidae) from the Weddell Sea. Antarctic Science, 3 (2), 159–166.
- Griffiths, C.L. 1977. Deep-sea amphipods from west of Cape Point, South Africa. Annals of the South African Museum, 13 (4): 93–104. [6 figs]
- Гурьянова, Е.Ф. 1955. Новые виды бокоплавов (Амфипода, Гаммаридэ)  из северной части Тихого Океана. Акаемия Наук СССР, Труды Зоологического Института, 18: 166-218, фиг. 23 . [in Russian]
- Гурьянова, Е.Ф. 1972.  Новые виды бокоплавов (Амфипода, Гаммаридэ) из северозападной части тихого окена и высокой лрктики. Акаемия Наук СССР, Труды Зоологического Института, 52: 129-200. фиг. 43.  [in Russian]
- Hurley, D.E. 1957. Some Amphipoda, Isopoda and Tanaidacea from Cook Strait. Zoology Publications from Victoria University College, 21: 1–20.
- Ishimaru, S. 1994. A catalogue  of  gammaridean and  ingolfiellidean Amphipoda recorded  from the vicinity of Japan. Report of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, 24: 29-86.
- Ledoyer, M. 1986. Crustacés Amphipodes Gammariens. Familles des Haustoriidae Vitjazianidae. Faune de Madagascar, 59: 599–1112.
- Lörz, A.-N. 2008. Epimeriidae (Crustacea, Amphipoda) from New Zealand with a description of a new species. Zootaxa, 1847: 49–61.
- Lörz, A.-N. 2009. Synopsis of Amphipoda from two recent Ross Sea voyages with description of a new species of Epimeria (Epimeriidae, Amphipoda, Crustacea). Zootaxa, 2167: 59–68.
- Lörz, A.-N. 2011. Pacific Epimeriidae (Amphipoda: Crustacea): Epimeria. Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom, 91: 471–477.
- Lörz, A.-N. 2012. First records of Epimeriidae and Iphimediidae (Crustacea, Amphipoda) from Macquarie Ridge, with description of a new species and its juveniles. Zootaxa, 3200: 49–60.
- Lörz A.-N., C.O. Coleman, 2001. Epimeria reoproi n. sp., a new amphipod (Epimeriidae) from the Antarctic. Crustaceana, 74: 991–1002.
- Lörz A.-N., C.O. Coleman, 2009. in: Lörz, A.-N., E.W. Maas,  K. Linse, C.O. Coleman 2009. Do circum-Antarctic species exist in peracarid Amphipoda? A case study in the genus Epimeria Costa, 1851 (Crustacea, Peracarida, Epimeriidae). Zookeys, 18: 91–128.
- Lörz A.-N., C.O. Coleman 2014. Amazing new Amphipoda (Crustacea, Epimeriidae) from New Zealand’s deep-sea. Zootaxa, 3838 (4): 423–434.
- Lörz, A.-N., E.W. Maas, K .Linse & G.D. Fenwick, 2007. Epimeria schiaparelli sp. nov., an amphipod crustacean (family Epimeriidae) from the Ross Sea, Antarctica, with molecular characterisation of the species complex. Zootaxa, 1402: 23–37.
- McCain, J.C. 1971. A new deep-sea species of Epimeria (Amphipoda, Paramphithoidae) from Oregon. Crustaceana, 20 (2): 159–166.
- Nagata, K. 1963. Two new gammaridean amphipods (Crustacea) collected by the second cruise of the Japanese Expedition of Deep Sea (JEDS-2). Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 11(1): 1-5.  
- Sars, G.O. 1895. The Crustacea of Norway. Vol 1: Amphipoda. Alb Cammermeyers Forlag, Christiania.
- Shimomura, M., K. Tomikawa 2016. Epimeria abyssalis sp. n. from the Kuril-KamchatkaTrench (Crustacea, Amphipoda, Epimeriidae). ZooKeys, 638: 125–142.
- Varela, C., J. García-Gómez, 2015. Especie nueva de Epimeria (Amphipoda: Epimeriidae) del Golfo de México y el Mar Caribe.  SOLENODON, 12: 1-8.
- Wakabara, Y., C.S. Serejo 1999. Amathillopsidae and Epimeriidae (Crustacea, Amphipoda) from bathyal depths off the Brazilian coast. Zoosystema, 21: 625–645.
- Walker, A.O. 1906. Preliminary descriptions of new species of Amphipoda from the "Discovery" Antarctic Expedition, 1902–1904. Annals and Magazine of Natural History, 18: 13–18. [Series 7]
- Watling, L. 1981. Amphipoda from the northwestern Atlantic: The genera Jerbarnia, Epimeria, and Harpinia. Sarsia, 66: 203–211.
- Winfield, I., M. Ortiz, M.E. Hendrickx, 2012. A new deepwater species of Epimeria (Amphipoda: Gammaridea: Epimeriidae) from the continental slope of western Mexico. Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom, 93, 991–997.




2017年4月20日木曜日

ひがたちほー(4月度活動報告)


 ガタガール、ガタボーイの皆様、いかがお過ごしでしょうか。


 先日の健康診断で、血中のヨコエビ濃度が低下しているとの結果が出て、改善命令が下されました。潮が引かないのと仕事がごちゃごちゃしていて、なかなか海に足が向いていなかったという心当たりがあり、さすがにまずいと思い、過去の調査計画メモを引っぱり出して作戦を練りました。潮はあまりよろしくないのですが、ガタガール存続リツイートキャンペーンが大詰めなので願掛けの意味も込め、仕事をサボって旅に出ることにしました(血液検査のくだりは真に受けないで下さい)


 まず、首都圏の干潟でヨコエビを集めるなら断然木更津なのです。盤州のような広大な天然干潟は微環境の多様性が高いのと、それぞれの微環境の存在量も大きいことから、多様な基質への適応戦略に長けているヨコエビを集めるにあたってこの上ないフィールドです。
 しかし、潮干狩り場になっているような場所では潮が良いシーズンは立ち入りができなかったり、思い立ってすぐ行けるものではありません。

 そうなると、海水浴場になります。

 二色浜でハマトビムシを集めた経験から、海水浴場での採集には手応えを感じています。
 とりあえず砂浜と後背草地がセットになっていれば汀線のヨコエビを狙えると考え、そのような地理的条件をもち、かつ私が追いかけている分類群の分布に新知見を提供できる位置関係にあるフィールドを探しておいたのです。

 その中から今回チョイスしたのは、九十九里です。


~ ~ ~ ~ ~

 この地に降り立つのは小学生以来になります。

といっても当時はヨコエビ目当てではありませんでしたので、何もない海辺町を駅から1時間歩いて浜に向かうなどというイベントは発生しませんでした。

そして突然の横殴りの雨。雨具は装備済でしたが、たまらず木陰に待避しました。



 雨も収まり、再び歩き出してから浜につく頃には、陽が照って気温も上がってきました。

 黒色の海砂と陸の土が混ざる暗色の砂で、貝殻片もかなり含まれています。
 太平洋に面しているため波当たりは強く、テトラポッドが縦横の列となって配されています。


 


 衛星写真でみた通りエコトーンは狭く、草地と呼べるような場所は限られるため、潮上帯の雰囲気を見ながら、汀線から岡のライン上にヨコエビリティを感じるポイントを探ります。



 

 辺りの砂地には豪雨の後を物語る点状の凹みが刻まれており、何か小さな生物が飛び跳ねています。

 どうせユスリカやコバエの類であろうと目を凝らしてみれば、目的のひとつであったハマトビムシでした。



 

 雨の後ということもあるのか、ハマトビムシの行動はこれまで盤州や三番瀬でみたものとは大きく違っていました。

 まずオスらしき大きな個体が、砂地に空いた穴に入り、頭を出しています。そこに何やらちょっかいをかける別の個体。他方では砂の上で取っ組み合いを演じ、片方が片方に突進したり、顎か咬脚で捕まえて引き回したりの大立ち回り。カリフォルニアの海岸でMegalorchestiaのオスが争っている画像(こんなの)をネットで見かけますが、まさにそんな感じです。
 こちらはかなり近づいているにも関わらず闘争を続ける彼ら。砂上を瞬間移動するように跳ねながら散っていく姿しか見たことがなかったため衝撃的です。あと心なしか体サイズも大きい。



  打ち上がった褐藻の下にも多く見つかりますが、いつもより捕獲しやすい気がします…追い詰める 問い詰める 捕まえる のリズムがとれる。もしかしていつのまにか採集テクがアップしてる…?!


海藻がうにょうにょと動くくらい、砂に埋まりながら大量に群がっていた。


 今度は流木の下を見てみます。すると、ポップコーンのように手のつけられないほど弾け飛ぶ無数のヨコエビ!あっ、これいつものやつや。

 つまり、僕のテクは全く向上していません・・・!

  岡側のテトラポッドの手前と奥では、汀線のほうの海藻にこの小ぶりでよく跳ねるハマトビムシが多いようです。



 まさかの別種すか…


 そういえばあの白っぽい地色で胸節と底節板の間あたりに連続する黒紋、外房にいると言われるスナハマトビムシ属Sinorchestiaっぽいような・・・



 最干潮が迫ってきたためハマトビムシはこのへんにしておきます。




 ~ ~ ~ ~ ~



 

 汀線の付近の砂を掘ってみますが、あみてきなものしか採れません。
 時々ちょっと丸っこいシルエットが見られましたが残念ながらスナホリムシ…

 
あみてき

 このあと、散々歩き回るものの…

 
 イワガニさんですかね

Plagusia dentipes ショウジンガニではとの指摘がありました


 ~ ~  ~ ~ ~


 このままだと日が暮れてしまうので、波打ち際は諦め、戻りながら硬質基質を攻めることにします。

 汀線に直角方向に並べられたテトラポッド群にも海水が押し寄せてきました。
 テトラポッドの間に海藻の切れ端やロープなどがみられますが、日頃から太平洋の荒波に揉まれているだけあって取り外そうとしてもびくともしません。タイドプールを覗き込むと何かが泳いでいますがスナホリムシだらけ…



 他にも海水に浸るテトラポッドを見つけました。表面には海苔のような暗色の紅藻と、カキの類と思われる二枚貝が固着しています。これはモクズヨコエビリティメリタヨコエビリティが高いと感じられ、近くのタイドプールで適当に海水を汲んでから二枚貝を洗おうとしたところ…

 


 
 なんだいこりゃ!?




 学生時代から愛用しているバットの中に、大量の何かが泳ぎまわっています。

 イサザアミだ、スナホリムシだ、いやこれはヨコエだ…!


 テトラポッド下のタイドプールにいたのは探し求めていたアンフィポッドでした。


 大きな眼と半透明のボディ、内蔵が黄色や青に透けています。胸部背面は丸みが少なく背筋が伸び気味で、各節に控えめな黒褐色の紋があります。やや体幅があり、水中では横向きではなく背中を上にして定位します。第1から第3尾肢にかけて段階的に細長くなり、先端が尖ることから、アゴナガヨコエビ科と考えられます。

アゴナガヨコエビ科Pontogeneiidaeの一種


~ ~ ~ ~ ~



 狙っていた汀線のヨコエビを得ることはできませんでしたが、アゴナガヨコエビの遊泳性を改めて認識するとともに、潮の流れが速くかつ陰になった場所で群泳するという生態を垣間見ることができました。盤州のナミノリソコエビにおいて潮汐とリンクした消長があることは確認していましたが、やはりアゴナガヨコエビPontogeneia rostrataにおいても同様のパターンがあるらしく(Yu et al., 2009)、それかもしれません。一緒にユスリカの幼虫も採れたので関係も気になります。

 また、砂浜において漂着褐藻類を食するハマトビムシには、漂着物という硬質基質に依存して身を隠すものと、単独で巣穴を掘り堂々と砂上を歩くものがいることが分かりました。


いつもの感じのハマトビムシ。
たぶんPlatorchestia pacificaではと思うのだが果たして・・・?



 そして、喧嘩をしていたよく分からないハマトビムシも観察してみます。


 おや、第2触角の根元にヘラ状突起があるからヒメハマトビムシではないじょい・・・

 そして第1尾肢の外葉にトゲが並んでいるようなので・・・


 Sinorchestia nipponensis (Morino, 1972) 二ホンスナハマトビムシ(自己初)じゃん・・・ 


Sinorchestia nipponensis 二ホンスナハマトビムシ


  厳密にどのような棲み分けになっているかは定量調査をしてみなければ分かりませんが、ヒメハマトビムシっぽいやつの生息様式は流木の下に入り込むという点で三番瀬と共通していて、二ホンスナハマトビムシのほうはそれとは明らかに異なる生息様式だったので、同じ海岸で利用する場所を変えて棲み分けているように思えます。


 


 ヒメハマトビムシは種の整理が必要なのと、アゴナガヨコエビは日本における多様性が十分に記述されていない可能性があり、生態の議論より先に分類を進めねばという焦りは募ります…



今回は飯岡駅を利用しましたが、九十九里には干潟という名前の駅があるんです。
 (テンプレはガタガールより)

 

 <参考文献>

- 森野浩 ・ 向井宏 2016. 砂浜フィールド図鑑(1) 日本のハマトビムシ類. 海の生き物を守る会, 京都.
- Yu, O.H., S.J. Jeong, D. Kim, J.-H. Lee, H.-L. Suh 2009. Seasonal variation in diel and tidal effects among benthic amphipods with different lifestyles in a sandy surf zone of Korea. Crustaceana, 82 (11): 1441-1456. DOI:10.1163/001121609X12511103974376


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(補遺) 20 April 2017

ショウジンガニの指摘を付記。























2017年4月1日土曜日

4月1日活動報告

 新年度となりました。
 ヨコエビギナーの皆様が活動を開始される頃かと存じます。

 ヨコエビといえばその名の通り、 横向きになっていることが特徴的で、英語圏でもside swimmerなどと呼ばれたりします。その横向きのビジュアルは、かなり古い時代から認知されていたことがわかっています。


 こちらは20世紀初頭にイギリスの探検家によって発見され、今は大英博物館に収蔵されているスカラベの裏に刻まれたヒエログリフです。紀元前1370年ごろにエジプトで作られたものとされています。見慣れたシルエットが2匹ほど見られます。


 古代エジプトでは、王(ファラオ)が即位すると、その権威を示すために大規模な狩りを行い、その結果をこうして記録し、領土にばら撒いたそうです。その証拠に、当時エジプトの支配下にあった都市や、交易のあった世界各地の港から、これと同じものが数百個もの単位で出土しているとのことです。
 このヒエログリフも、王が在位中に何匹を仕留めたか、そのような記載がみられます。

 その記録にヨコエビが登場するということは、一体何を示しているのでしょうか。



 この「ヨコエビ」を示すヒエログリフの音などは後世に伝わっておらず、表意文字としてのみ理解されています。



 ライオン狩りなどはその勇猛さを示すためのものと伝えられています。

 一説には、ヨコエビ狩りはヨード分が慢性的に不足している内陸民が海藻を採取する過程で生まれた文化ではないかとのことです(参考ページ)。

 ナイル川の流域に栄えたエジプト文明は、氾濫によってもたらされる栄養分により豊かな農業生産が可能となりました。ナイルの氾濫がもたらす養分には多種多様な無機塩類が含まれ、塩分などもまかなえたようです。ということで、海藻を採取する動機としては、日本のような塩づくりではなく、海藻そのものを摂取する生理的需要があったものと考えられます。

 海藻は数えにくく、また動きもないため、ファラオが即位した際に行う狩りとしてはかなり地味なものとなるでしょう。そこで、少しでも動きがあり、国民が海藻を扱うことに目を向けられるように、そこに多く付着するヨコエビが注目されたのではないでしょうか。



 





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 以上、エイプリルフールでした。

 お付き合いいただきありがとうございましたm(_ _)m


※Gardiner Sign ListのL区分(無脊椎および小型動物)に加えて、JSeshのSign libraryを参照し、端脚類のヒエログリフが存在しないことを確認しておりますが、もしかしたら・・・

2017年3月8日水曜日

2017年のヨコエビギナーたちへ(ヨコエビ文献リスト第三弾)



 何人いるか分からないものの毎年日本のどこかで生まれているはずのヨコエビギナーにむけて、オススメの文献をご紹介するこの企画。「配属されたらテーマがヨコエビだった件」「ヨコエビやることになったんだが俺はもうダメかもしれない」など、突然ヨコエビを分類することになり、気持ちだけ焦ってるという話をよく聞きます。




 ヨコエビ類は2015年の時点で日本から411種が知られていますが、それを網羅した資料がないばかりか、実際の種数がどのくらいに落ち着くのかすら見当がついていないと思われます。ちょっとドキドキします。

 ヨコエビはプランクトン幼生期をもたないため拡散力が低く、一般論として、地域ごとに種分化しやすい傾向にあります。しかしながら、世界でヨコエビの分類学的研究が行われてきたエリアは少なく、解像度が極めて低いか、或いは全く手付かずになっている地域は広大です。また、そういった地域においてはもちろんのこと、繰り返し研究が行われている地域でも未だにコンスタントに新種が記載されており、そのたびに属以上の階級が作り変えられたりして、全貌を追うことを難しくしています。

 世界の海産ヨコエビについては1991年に全種を網羅した決定版の文献が出版されています(Barnard & Karaman, 1991)。しかし、それから分類が変わっているものも多いのと、淡水や陸生についてはそのような文献が乏しいため、往々にして苦戦を強いられることになります。

 国際的な進捗においてもそのような状態ですので、ヨコエビの分類の最新事情を日本語で読むことはまず叶いません。1994年に日本産種リストが出版されましたが(Ishimaru, 1994)、それ以降、海産まで包括して日本のヨコエビ相を網羅した文献はありません。

 また、ヨコエビは体長数mmの小型種がほとんどを占めますが、主に形態分類に使用する付属肢はさらに小さく、また互いに重なり合っていて、暗視野では観察ができません。かといって十分な光量が透過する大きさでもないため、1本ずつ切り離してプレパラートに封入する必要があります。取り外すパーツは1個体につき20個程度。しかも、最も複雑に入り組んでいる口器の形質は属以上の階級でもよく使われ、例えばヨコエビ類とクラゲノミ亜目を分けるのも顎脚鬚の有無だったりして、そこそこで分類を止めようとしても解剖作業が付いて回る鬼畜仕様となっています。形質の検討を重ねてより観察しやすい特徴を探すこともできますが、それができるレベルに到達する頃には解剖もお手の物になっていることでしょう・・・

 そして、新種が出ることもそう珍しくはありません。ヨコエビを集めているうちに、かなりの確率で新種または疑わしいものに遭遇します。そうなると、新種を記載するまでそのヨコエビには名前がつかないことになりますので、自ずと本来の研究の想定が狂っていくことになります。恐ろしいことです。




 さて、そんなヨコエビですが、いろいろと良い文献やツールがありますので、過去の紹介文献も併せて、ご参考にして頂ければと思います。

・富川・森野 (2009) ヨコエビ類の描画方法
・小川 (2011) 東京湾のヨコエビガイドブック
・石丸 (1985) ヨコエビ類の研究方法
・Chapman (2007) "Chapman Chapter" In: Carlton Light and Smith Manual
・平山 (1995) In: 西村 海岸動物図鑑
・Barnard & Karaman (1991) Families and Genera of Marine Gammaridean Amphipoda

・Lowry & Myers (2013) Phylogeny and Classification of the Senticaudata
・World Amphipod Database / Amphipod Newsletter
・富川・森野 (2012) 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方
・Arimoto (1976) Taxonomic studies of Caprellids 
・Takeuchi (1999) Checklist and bibliography of the Caprellidea
・森野 (2015) In: 青木 日本産土壌動物



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 初心者向けのヨコエビの概論的な文献が爆誕しました。形態や生態の特徴について、日本沿岸にみられる種を中心に解説しています。有山氏が記載した種が多く取り上げられており、論文の材料となった生体写真もふんだんに使われていて綺麗です。しかもタダで読み放題です。分類についてはLowry & Myers 2013をひとまず置いておき、従来の4亜目体系に基づく解説を行っています。


・森野浩・向井宏 2016. 砂浜フィールド図鑑(1)日本のハマトビムシ類. 海の生き物を守る会, 京都市.
 日本の浜辺でみられるハマトビムシ類を網羅し、簡易かつ確実な識別法まで載せた画期的な書物ですが、なんと100円(送料別)で販売されています。ヒメハマトビムシ問題に終止符を打つべく新たな学名との対応も行っていますが、Platorchestia joiP. pacificaの識別など険しすぎる課題については突っ込んでいません。ともあれ、土壌動物図鑑を買うのは躊躇うけどハマトビムシは同定したいというハマトビフリークには堪らない文献です。二又式の検索表を採用していないところもポイントです。ちょっとした贈り物をしたい時などにも最適です。
※ヒメハマトビムシ問題:長きにわたり常識であったヒメハマトビムシ(和名)=Platorchestia platensis(学名)の対応が誤りであることが分かり、これまでヒメハマトビムシと同定されていた標本と対応する学名の再検討が必要となっている状況のこと。森野・向井2016によってヒメハマトビムシ=P. joiということで一応の決着をみたが、他にもP. pacificaなどが含まれている可能性があり、過去のどのヒメハマトビムシがP. joiで、どれがP. pacificaなのか等の課題は解決されていない。


・ Tomikawa, K. 2017. Chapter 9 Species Diversity and Phylogeny of Freshwater and Terrestrial Gammaridean Amphipods (Crustacea) in Japan. In: Motokawa, M., H. Kajihara (eds.), Species Diversity of Animals in Japan, Diversity and Commonality in Animals, DOI 10.1007/978-4-431-56432-4_9
 日本産の淡水棲(37種)および陸棲(21種)ヨコエビを網羅し、分布を示すとともに分散や種分化の考察を加えています。ヒメハマトビムシ問題については、「P. platensis=日本を含め世界中にいる」とした伝統的な解釈を踏まえつつ、Miyamoto & Morino, 2004が形態分類によって示したアジアの地域種(P. pacifica)の位置づけを分子系統解析によって明確にする必要があるとしています。長らく「P. platensis」とされていた「ヒメハマトビムシ」が、P. joiP. pacificaなどの別種として独立する可能性が示唆されたことで分類学的に不確定となっている現状を認めつつ、裏付けとなる研究を重ねてから結論を導きたいという判断のようです。
 とにかく、日本産の淡水と陸のヨコエビを知るにあたって、近隣地域との関係や分子系統学の最新知見に触れることができるネ申文献です。該当部分のみダウンロード購入ができるほか、本稿を含むハードカバー書籍も販売しています。
※陸棲ヨコエビ(ハマトビムシ科)のリストでは、笹子(2011)が報告しているP. pacificaTrinorchestia longiramusおよび森野・向井(2016)が示唆しているP. parapacificaについて、日本からの記録を認めていません。



・Bousfield, E.L. 1973. Shallow-Water Gammaridean Amphipoda of New England. Cornell University Press; Ithaca & London, 312 pp.
 昨年亡くなったヨコエビの大家Edward Lloyd Bousfieldが著したニューイングランドのヨコエビの書籍です。日本との共通種もいます。ムシャカマキリヨコエビJassa marmorataをカマキリヨコエビJ. falcataとしているなど、分類において気になる点はあるものの、形態分類や生態などの基礎情報が記されていて内容が横断的なのと、線画が綺麗なのでオススメです。 


 日本におけるヨコエビ類とインゴルフィエラ亜目の記録を洗いざらい論文から図鑑に到るまで調べあげた恐るべき文献です。種名に文献情報を添えてリスト化したもので、レビュー的なカラーは薄いため、闇雲に欧州産種の学名を当てはめていた頃のアヤシイ記録も拾われているのですが、ダイダラボッチAlicella giganteaをはじめとして、たくさん和名提唱が行われているため要チェックです。


・椎野季雄 1964. 端脚類. In: 内田亨『動物系統分類学』. 第7巻上. 節足動物 第1. 中山書店, 東京.
 ヨコエビの分類・形態・系統・発生・生理・生態などの基礎中の基礎に触れることができる、ありそうであまりない文献です。裳華房のバイオディバーシティーシリーズにも類書はありますが、手厚さはその比ではありません。知見が古い部分もありますが、かなり網羅性が高く、ヨコエビという生物を理解するにあたり最初に頭に入れておきたい内容が一通り記されています。
 また、和名が悉く古いため、呼称の変遷を追う資料としても有用です。


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 ヨコエビの分類を始めるにあたり、幾つかの普通種を頭に入れてから出発する方法が考えられます。
 淡水や陸のように既知種が整理されていれば、有効な手段の一つです。ただし、海産ヨコエビにおいてその地域における普通種の情報がない場合、本邦既知種どころか海外からのみ知られていて和名もないような種も候補に入ってくるので、種を一つ一つ覚えようとするのは無謀といえるでしょう。

 従来の知見が乏しいエリアで海のヨコエビを始める場合、実際に採れるサンプルをベースに、まずは科や属のレベルで名前がつけられると、理解が進みやすいと思います。

 さらに大枠で捉えた方が便利な場合もあります。
 2013年にSenticaudata亜目が設けられ、ヨコエビを下目や小目の単位で整理するようになりました。しかしその前には、上科を用いるのが一般的でした。
 属より上の類縁関係については、覚えることが増えて煩雑になったりして、一概に重要性が高いともいえません。ただ、科を羅列するよりは、少しでもまとまっていたほうが、全体像のイメージがつきやすいと思います。

 伝統的な上科の分類は、平山1995Ishimaru1994で確認できます。
 新しい下目の分類は、過去のブログ(SenticaudataGammaridea)でご紹介しています。文献としては、原典のLowry & Myers 2013を読んでみるのがよいかと思います。








2017年2月12日日曜日

ダイダラボッチのなぞ (2月度活動報告)


~とう場人ぶつ~


こうたくん
さいきんヨコエビとまりちゃんのことが気になっている男の子。 

まりちゃん 
ヨコエビのことがすきなちょっとおませな女の子。  
こうたくんとはかせのことはあまりすきじゃない。 

よこえびはかせ
ヨコエビの本やひょうほんをいっぱいもっている。
 ヨコエビのことにくわしくて、何でもしらべて教えてくれるけど、 
そのほかのことにはまるっきりきょうみがないんだ。 





~~~~~~


よこえびたんていだん

だい1話 ダイダラボッチのなぞ


こうたくん: はかせ!すごいヨコエビがいるんだって!

はかせ: どれどれ、見せてごらん。



【超巨大ヨコエビ】
海で見つかる一般的なヨコエビの大きさは2~3cmだが、ニュージーランドの北の海域で体長28cmのヨコエビが発見された。これは通常のヨコエビの約10倍の大きさ。
ある1日だけこの巨大ヨコエビが出現した。




こうたくん: 1日だけすごい大きなヨコエビが見つかったけど、その後は見つかってないんだって!ふしぎだね!はかせ!

はかせ: こうたくん、それはぎょうしゃアカウントじゃよ。

こうたくん: ぎょうしゃ・・・アカウント?

はかせ: ふつうのアカウントのふりをして近づいたり、おもしろい話をして人をあつめて、お金をもうけるのにつかうんじゃよ。

こうたくん:このヨコエビ、お金もうけるの?


はかせ: ちがわい!あぶないサイトをひらかせるためにアカウントを作る人もいるし、たくさん人をあつめたアカウントを売る人もいるんじゃ。

こうたくん: それって楽しいの?

はかせ: 自分が楽しくなくても、多くの人がおもしろがる話をつぶやくんじゃ。インターネットでもりあがったことを、自分でかんがえたようにつぶやくこともあるぞ。

こうたくん: ええ~!じゃあ、このヨコエビはうそなの?まとめサイトにも書いてあるのに?!



深海で見つかる一般的なヨコエビの大きさは2~3cmだが、ニュージーランドの北の海域で体長28cmのヨコエビが発見された。これは通常のヨコエビの約10倍の大きさで、大きさが約34cm以上にもなる超巨大ヨコエビも深海7000mで映像にとらえた。それまでは2~3cmしか捕獲されなかったが、ある1日だけこの巨大ヨコエビが出現した。それ以降、この巨大ヨコエビの姿は撮影されていない。
(NAVERまとめ)


はかせ: ぜんぶがうそというわけじゃないぞ。このページを読んでみるんじゃ。

こうたくん: はかせ!えいごばっかりで分からないよ!

はかせ: ほっほっほっ、すまんすまん。これはイギリスの大学のホームページじゃよ。ここを見てごらん。

こうたくん: あっ!同じ! 

はかせ: その通りじゃ。ぎょうしゃアカウントのしゃしんは、はじめはこのホームページにあったものなんじゃ。このヨコエビは、本当に海でとれたものじゃよ。

こうたくん: そうなんだ!ぎょうしゃアカウント正しいじゃん!

はかせ: じゃが、そうでもないんじゃ。さっきこうたくんは何て言ったか、おぼえているかい?

こうたくん:えっとね・・・「おなじしゃしん」って・・・

はかせ: もっと前じゃ。

こうたくん:「えいごばっかり」

はかせ: もっとじゃ。

こうたくん:「おじゃまします」


はかせ: もどりすぎじゃ。こうたくん、「ヨコエビは1日だけいた」「それから見つかっていない」と言ったじゃろう?

こうたくん: うん!

はかせ: じつは、少しちがうんじゃよ。


こうたくん: どういうこと?







はかせ: その前に、ヨコエビはせかいの海に何しゅるいいるんだったかのう?

こうたくん: ええと・・・100しゅる・・・

まりちゃん: だいたい7千4百しゅ、よ。

こうたくん: まりちゃんすごい!

まりちゃん: そんなのじょうしきでしょ。

はかせ: じょうしき・・・というほどではないかもしれんのう。

まりちゃん: はかせ、あの本どこ?

はかせ: あっちのつくえにおいてあるのがそうじゃ。おもたいから、気をつけるんじゃよ。

まりちゃん: 分かってる。

こうたくん:(まりちゃん、ぶあつくて古そうな本を読んでるよ・・・)

はかせ: さてこうたくん、ふつうのヨコエビの大きさが2,3センチだと書いてあったが、そもそもヨコエビは大きいものから小さいものまで、いろいろいるんじゃ。30センチのヨコエビはめずらしいが、大きくなるしゅるいというだけで、おかしなことでも何でもないんじゃよ。

こうたくん: へえ~!

はかせ: そしてこのヨコエビはニュージーランドで見つかるずっと昔、120年前にフランスのけんきゅうしゃがアフリカの西の海で見つけたんじゃ。今、まりちゃんが見ている本も、その人が書いたんじゃよ。

まりちゃん: モナコのおひめさまの名前がついた船「プリンセス・アリス」でちょうさした時に見つかったのが、そのヨコエビなの。 

こうたくん: まりちゃん本当にくわしいな~

はかせ: その後、1980年と1984年に見つかって、けんきゅうがすすんだのじゃ。

こうたくん:ふーん。

はかせ:そしてニュージーランドで見つかった次の年にもとれているんじゃよ。

こうたくん: なんだ~よく見つかってるじゃん!

はかせ: このヨコエビをとった人はたしかに「何日かしてまた同じようにとろうとしたら、とれなかった」と言っておるが、どこにあらわれるか分からないのは、ニュージーランドだけの話ではないんじゃ。

まりちゃん:つまり、ぎょうしゃアカウントは話をおおげさにしてるってこと。




こうたくん: でもぎょうしゃアカウントってすごいね。えいごも読んでるんだね。

はかせ: それがそうでもないんじゃよ。これこれを読んでごらん。

こうたくん: あっ!これならぼくにも読めそう。

はかせ: ぎょうしゃアカウントを作る人は、ふしぎな話をこういうホームページからひろってくるようなんじゃよ。

こうたくん: このヨコエビの名前、アンフィポッドっていうんだ。


まりちゃん: アンフィポッドは、ヨコエビのなかまのこと。そのヨコエビは「ダイダラボッチ」でしょ。

こうたくん: まりちゃん何でも知ってるな~!

まりちゃん: じょうしきでしょ。ウィキペディアにもそう書いてあるし。

はかせ: ダイダラボッチは体が大きいから人目をひくことも多いんじゃが、でんごんゲームみたいに話がつながるうちに、もとのできごとがわからなくなってしまうことも多いんじゃ。気をつけないとじゃな。

こうたくん: うん!帰ったらお母さんにも教えてあげようっと。




(参考文献)
有山啓之 2016. ヨコエビとはどんな動物か?―形態・色彩・生態について―. Cancer, 25: 121–126.
Barnard, J.L. and C.L. Ingram 1986. The Supergiant Amphipod Alicella gigantea Chevreux from the North Pacific Gyre. Journal of Crustacean Biology, 6(4): 825-839.
Chevreux, E. 1899. Sur quelques intéressante espéces d'amphipodes provenant de la derniére campagne du yacht Princess Alice.  Bulletin de la Société Zoologique de France, 24: 147–152.
de Broyer, C. and M.H. Thurston 1987. New Atlantic material and redescription of the type specimens of the giant abyssal amphipod Alicella gigantea Chevreux (Crustacea). Zoologica Scripta, 16(4): 335–350.
Jamieson, A.J., N.C. Lacey, A.-N. Lörz, A.A. Rowden, S.B. Piertney 2013. The supergiant amphipod Alicella gigantea (Crustacea: Alicellidae) from hadal depths in the Kermadec Trench, SW Pacific Ocean. Deep-Sea Research II, 92: 107–113.
Wilson, J.P.A. 2015. Scavenging amphipods of the Tonga Trench: an analysis of community assemblage and population structure (Master's Theses). Victoria University of Wellington.

2017年2月1日水曜日

ヒゲナガヨコエビについて(2017年1月度活動報告)




 あけましておめでとうございます.今年もよろしくお願いします.

 昨年末から今年にかけて,「ヒゲナガヨコエビが分からない」というご意見を幾度か頂戴しました.折しも昨年はPeat & Ahyong (2016) と Sotka et al. (2016) という,ヒゲナガヨコエビ類にとって分類学的に重要な2本の論文が発表されたいわば「ヒゲナガyear」でありましたので,今回は,ヨコエビガイドブックでカバーされていない部分を取り上げることにします.



ヒゲナガヨコエビについて

About Ampithoe and Ampithoidae


<分類学的地位>

 Suborder Senticaudata Lowry & Myers, 2013
  Infraorder Corophiida Leach, 1814(ドロクダムシ下目)
   Parvorder Corophiidira Leach, 1814(ドロクダムシ小目)
    Superfamily Corophioidea Leach, 1814ドロクダムシ上科
     Family Ampithoidae Stebbing, 1899 ヒゲナガヨコエビ科
      Subfamily Ampithoinae Stebbing, 1899 ヒゲナガヨコエビ亜科
       Genus Ampithoe Leach, 1814 ヒゲナガヨコエビ属


 ヒゲナガヨコエビ類は主に海藻に依存し,褐藻や緑藻を分泌物(Amphipod silk)で綴り合せて巣を作り,子供を育てます.海草場でもよく見られ,アマモ研究の国際機関「ZEN」のマークにもヒゲナガヨコエビ類があしらわれています.



 ヒゲナガヨコエビ科と他のヨコエビとの簡単な識別方法として,第1~5底節板が大きいことが挙げられます.
 ドロクダムシ科Corophiidaeやユンボソコエビ科Aoridaeは第1~7がほぼ同じ大きさになります.メリタヨコエビ科Melitidaeやモクズヨコエビ類Hyalidは第1~4底節板が大きくなり,第5~7はそれより小さくなります.
 ただし、クダオソコエビ属Photisも第1~5底節板が大きいので,他の形質を確認した上で判断する必要があります.

ドロソコエビ属Grandidierella,メリタヨコエビ属Melitaとの比較(第1~5底節板の大きさ).


 Peat & Ahyong (2016) の判別文は,ヒゲナガヨコエビ科を第3尾肢外肢および尾節板の形状によって定義づけています.しかし,「曲がっている」「尖っている」など定量的とは言い難い表現が用いられているため,総合的に特徴を捉えたほうがよいです.

第3尾肢の外葉が湾曲していて,先端に棘状剛毛をもつこと,
尾節板が肉厚で端に尖った部分があること.
その他の特徴としては,第2触角の生えている位置が触角複眼より前方にあり,
明らかに後方に生えているヨコエビ(例えばクダオソコエビ属Photis)との識別点となります.


 さて,10属を含むヒゲナガヨコエビ科において模式属にあたるのがヒゲナガヨコエビ属Ampithoeです。他の属とは以下の点で見分けられます.

(ヒゲナガヨコエビ属)
第1咬脚が亜はさみ状で掌縁は斜めになる;
第5底節板は深く(体軸とは直角方向に)発達する;
第1尾肢柄部の終端に長く尖った突出部があるない;
(突出部があるのはニセヒゲナガヨコエビ属等);
第2尾肢柄部に薄く張り出すような突起がない;
尾節板に鉤状の突出部がない .


 日本からは、ニセヒゲナガヨコエビ属Sunamphithoeと,Pleonexes属が知られます(※補遺3:2017年現在).
 かつてイッケヒゲナガヨコエビ属Peramphithoeというグループがあり,日本からはトウヨウヒゲナガP. orientalisなどが報告されていました。しかし,Peat & Ahyong (2016)による解析の結果、このグループはニセヒゲナガヨコエビ属に含まれることになりました.

 また,別の研究により,ハマトビムシ小目において上科を形成していたガラモノネクイムシ類Biancolinoidが、ヒゲナガヨコエビ科に含められました.
 




日本産ヒゲナガヨコエビ属Ampithoeについて

Genus Ampithoe from Japan


 ヨコエビガイドブックには,モズミヨコエビA. validaとニッポンモバヨコエビA. lacertosaの2種が掲載されています.どちらも日本各地の浅海域で採れます.


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モズミヨコエビ
Ampithoe valida Smith, 1873

体長:(♂)6~12mm,(♀)5~12.6mm .
生息場所:泥~礫質海岸の海藻,海草上。浮き,漂流物。潮間帯~水深30m程度。海水~汽水に生息.
生態:太平洋北東部において,♀は5~8月に抱卵する.未成熟個体は2~5週間にわたって保育され,1週間に1mm成長する.成熟まで6週間を要する. (Conlan & Bousfield 1982)



モズミヨコエビ生体(♂).

モズミヨコエビ生体(♀).

 生時の体色は鮮やかな緑色または褐色で,赤色の眼をもちます.♂は鮮緑色~褐色を帯びた緑色となります.一方,♀は淡い緑のものはあまり見かけず,全身が濃い褐色となる個体をよく見かけます.エタノールで固定すると目は黒色となり,体の緑色がほとんど失われ,色素の粒だけがドット模様で残ります.
 干潟面のごく浅い水たまりの中のアオサやオゴノリの上でよくみられます.磯的環境にも生息し,イガイやフジツボの間にいます.
 Conlan & Bousfield (1982) では温暖な海域の種とされており,日本では東北地方などではほとんど採れないようですが,東京湾では多産します.

エタノールで固定されたモズミヨコエビ(♂)

  モズミヨコエビと似たA. shimizuensis Stephensen, 1944(和名未提唱)という種があり,Conlan & Bousfield (1982)など主な文献ではモズミヨコエビの同物異名(synonym)とされています.
 しかしながら,Stephensenの記述を確認するとどうも同種とは思えず,井上(2012)は別種として扱っています.モズミヨコエビは♂の第1咬脚上面に剛毛がびっしり生えていますが,A. shimizuensisの図ではかなり毛が少ないです.その他にもわずかな形態の違いがあります.

 Kim & Kim (1988)はこのヨコエビをモズミヨコエビの亜種と考え,モズミヨコエビA. validaとは別に、A. valida shimizuensisとして報告しています.韓国産の♂と♀の図は,Stephensen (1944) に示された形質と概ね一致しますが,亜種という地位が適切かどうかについては更なる議論が待たれます.



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ニッポンモバヨコエビ
Ampithoe lacertosa Bate, 1885

 体長:(♂)12~24mm,(♀)10~23mm (Conlan & Bousfield 1982).
生息場所:泥・砂・礫質海岸の、海藻,海草,木片。海水~低塩分濃度まで生息するが,汽水では稀 (Conlan & Bousfield 1982).潮間帯~水深11mに生息 (Chapman 2007).
生態:太平洋北東部において,♀は5~8月に抱卵する (Conlan & Bousfield 1982).

ニッポンモバヨコエビ生体(♂).
http://yokoebi-gaeshi.blogspot.jp/2013/06/6.html
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 生時の体色は橙色~褐色(Conlan & Bousfield 1982)ですが,エタノールで固定すると白っぽい黄土色になります.緑藻より褐藻を好み,干潟面などより潮間帯下部の藻場や岸から離れた流れ藻から得られる印象です.
 海藻に付着して製品に混入することもあり,「おしゃぶり昆布」の但し書きに種名が記載されて話題になったこともあります.。

エタノールで固定したニッポンモバヨコエビ(♂).
エタノールで固定したニッポンモバヨコエビ(♀).


 ニッポンモバヨコエビのsynonymとして,Ampithoe japonica Stebbing, 1888Ampithoe macrurus Stephensen, 1944Ampithoe stimpsoni Boeck, 1871があります
 A. japonicaはロシアの日本海岸,A. macrurusは清水港,A. stimpsoniはサンフランシスコで記載されたものです


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 モズミヨコエビA. validaとニッポンモバヨコエビA. lacertosaの分布は図の通りです。

分布データソース:Alonso et al. (1995); Conlan & Bousfield (1982); Faasse (2015); Kim & Kim (1987); Martin & Diaz (2003); Pardal et al. (2000); Ren (2006).  

 ニッポンモバヨコエビが北太平洋沿岸に分布する一方,モズミヨコエビは大西洋と太平洋にみられます.モズミヨコエビは19世紀末にマサチューセッツで記載された種ですが、欧州や南米ではここ20年ほどで記録されていることから,アメリカ東海岸以外の記録は移入されたものではないかともいわれています.
 このような議論が可能なのは欧州のように分類学の知見が集積されているエリアに限られ,例えば日本で新たにヨコエビが見つかった場合,元からいたものが発見されなかっただけというパターンが多めです・・・


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 ヒゲナガヨコエビ属は世界から88種が知られています.日本海洋データセンターのリストによると,本邦からは上記の2種の他に,以下の報告があるようです.分布と共に示します.

ラモンドヒゲナガ Ampithoe ramondi (Audouin, 1826) / 欧州,北太平洋

(和名未提唱)Ampithoe kussakini Gurjanova, 1955 / ロシア カムチャツカ半島 (Gurjanova 1955); バンクーバー島,色丹島(Conlan & Bousfield 1982)

(和名未提唱) Ampithoe prolata Hughes & Peat, 2013 / オーストラリア,富岡湾

オヤユビヒゲナガ Ampithoe pollex Kunkel, 1910 / 大西洋,太平洋

(和名未提唱)Ampithoe rubricata (Montagu, 1808) / 大西洋,太平洋,インド洋

(和名未提唱)Ampithoe tarasovi Bulycheva, 1952 / ロシア 日本海岸 (Bulycheva 1952) ; 韓国 (Shin & Kim 2010) ;日本 館山 (有山 2000)
※2020年4月に和名提唱「ヨツデヒゲナガ」

フサゲヒゲナガ Ampithoe zachsi Gurjanova, 1938 / ロシア 日本海岸 (Gurjanova 1938) ;日本 館山 (有山 2000)



 A. prolataはモズミヨコエビによく似ていますが,♂の第2咬脚掌縁中央の突出部はより薄く,くぼみはありません.ニッポンモバヨコエビより掌縁の角度は直角に近いのが特徴ですが,個体変異があるものと思われ,他の識別形質を見つける必要があります.

 A. tarasoviは密集した色素斑をもち,全身が黒色に見えますが,首のあたり(第1胸節)と腰のあたり(第5胸節)に帯を締めたような白色の紋があります.日本では太平洋岸で記録があり,水槽で発見されたこちらのヨコエビも恐らく本種です.

 フサゲヒゲナガA. zachiは砂泥質より粗砂や磯浜の環境を好み,河口に近い汽水のごく浅い場所の漂着物などにいるようです.形態的な特徴として、第2触角に羽毛状の剛毛を密に生やすことが挙げられ,本邦既知種との識別は容易です.ただし,韓国からやはり第2触角に毛が多いA. koreana Kim & Kim, 1988という別種が報告されているほか,毛が多い種は世界全体で10種程度いることから,同定する際には他の形質を検討した上での判断が必要です.

 大西洋に記録のある種は人為的に拡散されている可能性が考えられますが,ロシアで記載されたような種に関しては,日本においては在来種であろうと推測されます.


 また,19世紀の東京で得られたサンプルにAmpithoe mitsukurii (Della-Valle, 1893)という学名が与えられたこともありましたが,後の研究で種として扱うことが適切ではないとの見解が示され(Barnard 1965),現在は無効名とされています.




モズミヨコエビとニッポンモバヨコエビの同定

Identification of A. valida and A. lacertosa



 昨年のブログではモズミヨコエビとニッポンモバヨコエビの識別について,オスの第二咬脚の特徴を記述しましたが,もう少し突っ込んでみたいと思います.

 雌雄ともに有用で比較的視認しやすい特徴を以下に挙げました.
 イチオシは底節板の後縁の毛束で,この特徴は生まれたばかりの幼体にもみられますので,安心して利用できます.

(ニッポンモバヨコエビA. lacertosa
第1触角柄部第1節の後端に棘状剛毛がある;
第5底節板後縁に剛毛束がある;
第3腹側板後縁の筋が発達し、終端が尖る .



 まとまった数の個体がある場合,成熟オスの咬脚の形や体色を確認すれば,現場でぱっと見で区別することも可能です.しかし,成長段階によって咬脚の形が定まらなかったり,個体の老衰や薬品固定によって色彩が変わることもあり,種を確定するには他の特徴と合せて複合的に判断する必要があります.

ヒゲナガヨコエビ属各種のオスの第2咬脚(概略図).


 ヒゲナガヨコエビに限らず,海産ヨコエビは在来種にせよ外来種にせよ,何が出るか分からない部分がありますが,同じ海で採れた同じように見える種を比べても微妙に生息地の広がりが違ったりして面白いものです.




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参考文献

Alonso G, Tablado, A., Lopez-Gappa, J. and Magaldi, N. 1995. Seasonal changes in an intertidal population of the amphipod Ampithoe valida Smith, 1873. Oebalia, xxi: 77–91.
— 有山啓之 2000. 2) 端脚類 ヨコエビ亜目. In; 財団法人千葉県史科研究財団『千葉県の自然誌』. 本編7 千葉県の動物2 —海の動物—, pp. 318–320.
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補遺(14 Feb. 2017)

・ヒゲナガヨコエビ科の識別,ヒゲナガヨコエビ属の識別の画像の説明文の誤りを訂正


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補遺(26 Mar. 2017)


・ヒゲナガヨコエビ属の日本産種にA. prolataを追加





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補遺1(19 Jan. 2019)


・不完全なcitationの補完

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補遺2(25 Jan. 2019)


・Sotka et al. (2016) のcitationとリンクの追加

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補遺3(26 May 2019)

・改題(西暦を追加).
・(2017年現在)の但し書きを追記.
・全体の句読点を横書きに適したタイプに変更(、→,)(。→.).

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補遺4(26 Jan. 2021)
 
Ampithoe tarasovi の和名を追記(ソース