2019年4月27日土曜日

Once Upon a Time in Okayama 2(4月度活動報告その2)


 また岡山です.
 こないだの様子はこちら.目録の行を1つでも増やすという目標に対しての成果はありましたが,フィールドの手応えはしょっぱい感じでした.海だけに.


 前回の反省をもとに,地形から塩分濃度を推定し,衛星写真から緑藻が多すぎるところを探り,採集候補地を更に絞り込みました.Googleで着生藻の種類まで特定するのは難しそうですが,リモセンでどんな光合成色素が多いとか将来的にロケハンに使えないものかしら.


 今回は日差しもあり,だいぶ暖かですが,海風が涼しいお陰で体力には影響ありません.申し分のない干潟日和です.

 


※雰囲気のみお楽しみください♡


 港の回りは新しい護岸が整備されています.着生生物には全く期待できません.


 最干潮のタイミングで本来の目的地をアタックしたいところですが,バスの本数がしぬほど少ない関係で結構早く到着していて,まだ時間があります.
 波消しブロックの間にいろいろあるので覗いてみます.


 そこらへんにアオサがでろでろと展開して,ところどころカヤモノリが生えているのはあまり魅力的に見えないものの,浅いところにもわずかにホンダワラ系が生えているのと,ロープが張ってあって,フクロノリを付けていたりして,基質のバリエーションが豊富です.張り出した岩の裏にはコケムシやカイメンがちらほら.

 この周辺は結構良いかもしれない.


Melita属の一種.たぶん東京湾にもいるあの方.



 信頼できる基質が少ない中,フクロノリの根元がかなり狙い目のようです

 石の下にはカニダマシ.どうやら競合するらしく,カニダマシがいるとヨコエビが採れません.果たして転石下はダメでした.





 さて,本命の自然海岸を目指します.

※雰囲気のみお楽しみください☆


 緑藻が目につきますが,潮が引くにつれて,着生したワカメやホンダワラ,紅藻などが見えてきます.緑藻や褐藻も先週の地点よりだいぶ種類が多いようです.岩肌にはカイメンのほか,群体ボヤ,オオヘビガイなど楽しい仲間がいっぱい.



Ampithoe属のアノカタ.

 
 色合いは変異が多いようですが,形態は外房で見たものによく似ています.最初は歓喜しましたがこの後は飽きるほど採れます.持ち帰って種同定したところ,やはり大陸で記載された種であると確信を得ました.




 付着生物も多様です.ワレカラやらタナイスやら小さなカニやら巻き貝やらやたら黒いコソミジンコやら貝形虫やら.特にタナイスはドロクダムシに混じって出現して非常に紛らわしい.



 そんなこんなで

Pereionotus属の一種.


 思わず声が出ました.
 あまり多くはないようですがよく探すと採れます.こいつがいるということは,外房並みの磯環境に出会えたようです.




 そして懸案の

Podocerus属の一種.


 これを採らずして帰れない,逆に採れたらもうこのへんで帰ってもいいかな的なドロノミです.ネットで話題(?)のフランダードロノミ(仮称)にたくさん会えました(黄色というより橙と青の組み合わせなので少し違いますが).

 岡山大学臨海実験所の伝統的リーフレットに Podocerus inconspicuus との記録があるものの,そもそも日本の沿岸からまともに記録のあるドロノミが少なすぎて真に受けるわけにはいきません.この種はオーストラリアのポートジャクソンから記載されたという怪しさもあります.しかし,分布や生息環境の齟齬を無視したとしても,背面の隆起の様子からして P. inconspicuus ではないようです.これから検討します.
 そして Podocerus brasiliensis でもないようです.関東でも海藻からPodocerus をたびたび得ていますが,全体の印象が結構違うのと,体サイズは小さく何と言っても数が少ないので性別やステージの違いを検討できていませんでした.壊れることも多いし.


 今回は壊れることを想定し,スウィートルームをご用意しました.厳選したオスとメスをそれぞれ個室へとご案内.
 それにしても,これほど飽きるくらいドロノミが採れたのはお台場以来です・・・



 あと,ヨコエビにありがちな3~7mmサイズ帯にひしめく怪しいヤツら.



Atylidaeは自己初.目録にもなし.

 Nototropis がどういう環境にいるのか今一つ分かっていませんでした.
 わりと外湾的な磯で,紅藻より褐藻や緑藻のある環境?少し土砂がある場所?


恐らく Gitanopsis属ではないかと.自己初.目録にもなし.



 あと,トゲホホヨコエビ(Paradexamine属)やテングの類(Pleustidae)っぽいのも採れました.



Ptilohyale 以外のモクズもやはりいる.属まで落ちるかすら不安.

 


Grandidierella属のアノカタ.


 Grandidierella は成熟オス採れず現場での種同定に至らず.メスと未成熟オスで何とかしなくては.



 最干潮を過ぎたので今日のところは撤収.ハマトビリティが感じられなかったのでハマトビチャレンジは割愛.








 二日目.

 頭が痛いです.

 駅前のチェーン居酒屋で地酒を引っかけたからでしょうか.
 それとも,深夜のスナックでバランタイン12年をロックで煽りながらヨコエビの良さについて熱く語ったせいでしょうか.
 岡山に来ると深酒をしてしまうのはなぜか.そんなことを考えながら濃いめのコーヒーを飲み干し,ホテルを抜け出します.


 6時半が最干潮です.採集に関係ない荷物を部屋に置いておけるのは便利.Googleロケハンでヨコエビリティを感じる海岸に近い宿を探したのは,他ならない朝の最干潮を狙うためです.

 朝の散歩が可能との旨を予め確認しておきましたが,フロントの人はどこを散歩するのかとても訝っていました.


※雰囲気のみお楽しみください♪


 釣り船の港のようです.1艘が港の中ほどでアイドリングしています.



 砂泥と緑藻を厚く纏った護岸.
イガイやフジツボは少なくわずかにコケムシが見られます.

 泥を掘ると小さなスナモグリ.これはこれで楽しい収穫ではありますが,ドロクダは少なくオスが採れません.


 屈んで,立ち上がって,の動作のたびに頭痛が走ります.もしかすると,ハーパー12年のせいかもしれません.


 アイドリングしていた釣り船が,調整を終えて港を出ていきます.浜を見ると,船底を掃除したのでしょう,カイメンやらコケムシやらシロボヤやらがごそっと転がっていました.これはありがたい.


Elasmopus属の誰か.種まで落ちる気がしない.



 科・属ともに目録に記載なし.前日のポイントで稼げなかったので儲けもの.ただ,このグループは日本での分類が進んでいなさすぎて,種に落ちる予感は全くありません.


とても少なかった Stenothoidae の一種.目録に記載なし.



 あとは先週のポイントにも多かったAmpithoeとか.



 砂浜は狭すぎ かつ キレイすぎたのでハマトビチャレンジを割愛.最干潮を見届けて,今回の採集を終了しました.






 総括.


 私のイメージしていた岡山の磯環境はまさにこんな感じです.ようやく狙ったレベルの採集が出来た気がします.
 ではこれから,と言いたいところですが,公共交通機関を利用した採集スタイルを基準に考えると,Googleロケハンで見る限りもう期待できる場所がほとんどないっぽいので,個人で稼げる種数はわりとこんなものなのではと思います(弱気).

 もちろん,確かめてみたいグループはまだ幾つもありますが,ピンポイントで狙って採りに行くには今ひとつ土地勘が足りない気がします.長期的な取り組みが必要です.また,潮下帯へのアタックは術がなく,文献に頼るほかないので,これから種数を増やすにあたってのやりこみ要素はそのへんにあるような気もします.

(つづく?)




(参考文献)
— 岡山大学理学部附属牛窓臨海実験所 刊行年不詳. 無脊椎動物実習手引 第3版.岡山大学理学部附属牛窓臨海実験所, 牛窓.

2019年4月19日金曜日

Once Upon a Time in Okayama(4月度活動報告)



 岡山に行きました.


 学生時代,臨海実習で牛窓に行ったことがあります.後にも先にも例のない3日酔いという失態を犯し,各方面に御迷惑をお掛けしました.改めましてこの場をお借りして謝罪します.大変申し訳ありませんでした.


 ひょんなことから,そんな思い出深い岡山のヨコエビ相を記述する機会を得ました.潮はあまり良くありませんが,発作的に新幹線へ飛び乗り,岡山攻略に向けた一歩を踏み出しました.臨海実習を受けていた当時はヨコエビを志す前だったので,全く採集はしていません.


 予報通り雨です.
 未経験のフィールドを訪ねるにはあまり良い条件とは言えませんが,弾丸ツアーなので仕方がない.前進あるのみ.


 夜なべをして県下の海岸をGoogleロケハンした末,ヨコエビリティが高そうで公共交通機関が使える場所を幾つか見つけました.今回は初回の肩慣らしとして,特に自然度の高そうなポイントが集まっていて,短時間でサクッと回れそうところにしました.

※雰囲気のみお楽しみください.


 自然ですね.

 関東でどうしてあんなにせせこましく採集していたのか分からなくなるくらい,ザ・自然という感じです(語彙力).

 ロケハンしていて,岡山県下の沿岸にはたくさん海苔網らしきものがあることは分かっていましたが,この場所も海苔網が見えました.沖合には漁師さんの船.立ち入り禁止標示などはありませんが,このへんは間違いなく漁師さんの仕事場の近くです.



 石英分の多いカーキの岩肌と粗砂の浜が瀬戸内っぽくて良いです.帰ってきた感じです.河口に程近く,前浜干潟に属するものと考えてよいのでしょう.


 岩場をよく見ると,海藻はあまりに貧弱.アオサの類などの緑藻に混じって,カヤモノリっぽい褐藻が少々.ヨコエビにしっかりした構造を提供してくれるワカメやホンダワラは岸には根を張らず,沖合いから切れ藻として漂着しているようです.

 外房や江ノ島では,岩を抱くように根を伸ばす紅藻や褐藻の間でたくさんヨコエビが採れたものです.

 ヨコエビリティを感じられないまま海中へ.


いつもの Ampithoe のあの方.


泥のたまったところに Monocorophium.

 残念なことに「もう見た」の連続.悪い意味で予想を裏切らない展開です.

 海藻相が単調で,またどれも構造が単純なので,恐ろしくヨコエビリティが低いように感じられます.モズミヨコエビ(Ampithoe valida)は繁殖期のようでアオサの間ではよく成熟した個体も見ることができましたが,三番瀬などでよくあるcopepodやdecapod優占というわけでもなく,生き物の活性そのものが少ない感じです.
 

打ち上げ海藻の下に Ptilohyale のあの方.


 岡山のヨコエビリティは今年3月刊行の野性動物目録の3倍は下らないと豪語していた(してない)だけに,焦りが募ります.悪夢再来でしょうか.





 しかしここで落ち葉の下から岡山初記録属登場.

Pyatakovestia のあの方.



 こちらは目録上は初記録科.ただし,藤井ほか (1997) では普通に記録あります.

何らかの Pontogeneiidae.

 

 あとは Jassa も出ました(種まで落ちる予感は無いです).何とかリストの拡充に繋げることができそうです.




 砂浜には打ち上げ海草があります.アマモ場は沖にあるのでしょうか.確かに牛窓の実習でもアマモ場へは船で行った気がします.


Platorchestia属 の一種.この個体は P. joi ではなさそう.

 Platorchestia の密度はかなり良い感じです.そして気温も低いので,あまり跳ねず採りやすい.オス第2咬脚下部にわずかに毛が散生しており,第7胸脚腕節が細いので,もしかすると P. joi かもしれませんが,関東で採れるのとはまた顔立ちが違う印象の P. pacifica も採れており,訳が分かりません.
 砂浜は,堤防をくぐって注ぐ水路と通じていて,後背湿地を伴う汽水環境のグラデーションを保っている感じがします.浜の攪乱があまりないのもさることながら,堤防の内側にハマダイコンやヨシなんかがあって,他のsand hopperやmarsh hopper系に期待してもよいかもしれない.

 しかし,バスの本数があまりにえぐいので,採集は1時間ほどで切り上げ.




 総括.

 鬼退治に出掛けたら返り討ちにされたというか,ヨコエビ連れ去り犯という点で実は私が鬼だったのか.
 何にせよ,岡山侵攻はまだはじまったばかり.これから他の場所も回るので,その際にはより慎重にロケハンをする必要がありそうです.
 このように緑藻が優占する感じは三番瀬や盤州に似ているので,河口に近いことで海水が甘すぎて,外房のような外湾的な藻類に適さないのかもしれません.確かに浜の漂着物には陸由来のものが多いです.

 まだ日はあるので,次こそはヨコエビリティ溢れるポイントにたどり着けるよう精進します.

 

(参考文献)
— 藤井義弘・松村眞作・篠原基之 1997. 片上湾における底生生物の分布とエビ類の生息状況. 岡山水試報, 12: 51–58.

— 岡山県野生動植物調査検討会 (ed.) 2019. 岡山県野生生物目録2019 Ver. 1.0. 岡山県環境文化部自然環境課.


2019年4月1日月曜日

2019年4月1日活動報告


 ヨコエビは,海から陸まで幅広い環境に進出したと言われます.

 では,空はどうでしょうか.

 南太平洋沖の小島から得られた標本について記述した19世紀の文献に,次のような記述があります.



Pterotalitrus plumosa sp. nov. (fig.1–3.)

   Body cylindrical. Eyes oval. Upperlip inflated to 1/3 of the head and with convex epistoma. Flagellum of anterior antenna is vestigial. Anterior antennal sinus is absent, lateral head lobe placed behind of rostrum. Posterior antenna length as twice as body, armed plumose setæ with complicated fine setæ. Proximal part of mandible is inflated.  Anterior and posterior gnathopods, first and seond pereiopods similar; each segment with many setæ; coxæ fleshy and elongated proximally; first to seventh segments minutes. Each segment of fifth to seventh pereopods is strongly fringed; sixth and seventh segments strongly curved, with spinous setæ. Each pleopod with single-segmented rami, peduncles and rami with long setæ. Urosome fused completely and all uropods without rami and setæ. First uropod robust and reach to root of third uropod. Lacking second uropod. Telson single, fleshy and broad, same to third uropod in length. Length 1/2 in.
   Hab. Moss forest. 
   We collected the specimen which flying to oil lamp with many DIPTERA.




 形だけを見ると,ちょっと変わったハマトビがおるな~程度ですが,さらっとおかしなことが書いてあります.


 ”灯火に飛来した”


 飛ぶんかワレ


 この時に厳密にどんな双翅目が飛んでいたのかは分かりませんが,同じ報告書では,ガガンボ科,ブユ科,ヌカカ科,クロキノコバエ科の種が,雲霧林の灯火採集で捕獲されたことになっています.

 これらは湿った環境の中に生活している連中です.
 ここでいう「飛ぶ」が「跳ねる」でないと証明することはできませんが,Pterotalitrusの鰓が底節板に隠されていたり肢に毛が多かったりするのは,止まった先で湿り気を得ながら飛び石的に移動していく生態を示しているのかもしれません.

 他に似たような種がいるのか分かりません.この種とて,後に記録が見当たらないため,幻と言ってよいでしょう.

 

  








2019年3月10日日曜日

干潟初め2019(3月度活動報告)


 昼に潮が引くようになってまいりました.

 こんな感じです.


C県某所.
 最大干潮は54cm,その1時間半前でこんな感じです.


 いいじゃん.



 今回も砂を濾してみようと思います(こうやって作ります).


テクニックを身に付けました.うまくいきました.


スナウミナナフシっぽいのが採れましたね.

 
 そして今回はターゲットとなるヨコエビがいたのですが,開始30分でノルマを達成してしまったので,あとは遊びます.








 久々にメリタも何匹か採りましたが,採れたのが全部別種というのが怖いです.


ヒゲツノっぽいが要検討.


 アゴナガヨコエビはいつでもたくさんいますね.11月のとは違うようにも見えますが.

アゴナガヨコエビ属の一種.Pontogeneia rostrataだろうか.



 ヨコエビを採るのに潮の引きは十分と思いましたが,アマモ場に到達することはできませんでした.ただ,幾つか切れ藻を発見することができました.


アカクラゲこわい(ガタガールsp.第29話参照).



 3月の干潟はだいぶ春めいて見えましたが,まだ空気は冷えており,風は強く,わりと体力を使った気がします. 

 海藻の打ち上げが少なく,海藻付着ヨコエビはあまり見られず,ハマトビチャレンジという感じでもありませんでした.これらを狙うとすればもう少し季節が下ったほうがよいかもしれません.


2019年3月3日日曜日

2019年のヨコエビギナーへ(文献紹介第五弾)



 すでに20本あまりの文献を紹介しているこの企画.今回は第5弾です.



 ヨコエビの入門者が触れるのに適していると思われる文献を独断と偏見でご案内しています.
 選定理由は,その年にhotというのもありますが,基本的に気づいたもの・思い出したものから掲載しておりますので,今年からの方はぜひ過去の紹介文献もご覧ください.

※たぶん今年ネ申図鑑が出るのですが,本記事の公開には間に合いませんでした・・・出版が待ち遠しい・・・





(第一弾)
・富川・森野 (2009) ヨコエビ類の描画方法
・小川 (2011) 東京湾のヨコエビガイドブック
・石丸 (1985) ヨコエビ類の研究方法
・Chapman (2007) "Chapman Chapter" In: Carlton Light and Smith Manual (West coast of USA)
・平山 (1995) In: 西村 海岸動物図鑑
・Barnard & Karaman (1991) World Families and Genera of Marine gammaridean Amphipoda


(第二弾)
・Lowry & Myers (2013) Phylogeny and Classification of the Senticaudata
・World Amphipod Database / Amphipod Newsletter
・富川・森野 (2012) 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方
・Arimoto (1976) Taxonomic studies of Caprellids
・Takeuchi (1999) Checklist and bibliography of the Caprellidea
・森野 (2015) In: 青木 日本産土壌動物


(第三弾)
・有山 (2016) ヨコエビとはどんな動物か
・森野・向井 (2016) 日本のハマトビムシ類
・Tomikawa (2017) Freshwater and Terrestrial amphipod In: Species Diversity of Animals in Japan
・Bousfield (1973) Shallow-Water Gammaridean Amphipoda of New England
・Ishimaru (1994) Catalogue of gammaridean and ingolfiellidean amphipod
・椎野 (1964) 動物系統分類学


(第四弾)
・Lowry & Myers (2017) Phylogeny and Classification
・Bellan-Santini (2015) Anatomy, Taxonomy, Biology
・Hirayama (1983–1988) West Kyushu
・井上 (2012) 茨城県のヨコエビ
・永田 (1975) 端脚類の分類
・菊池 (1986) 分類検索, 生態, 生活史






<番外編>
— ジュディス・E・ウィンストン[馬渡峻輔・柁原宏 訳]2008.『種を記載する』新井書院,東京,653 pp.,ISBN:9784903981000

 師匠の下でヨコエビの記載を目指している中で,ふと「どのように動物分類学を学んだか」と訊かれ,ぱっと思い浮かんだのが本書です.
 分厚い書籍で、例示や資料を差し引いてもそれなりのヴォリュームがあり,英語に慣れていないと原書を読みこなすのは難しいと思います.また,著者の得意とする分類群とそうでない分類群とでは情報の濃度が違うように思え,若干アヤシイ記述があって訳者に直されていたりしますので,日本人なら,一手間加わった日本語訳版を読むのが良いのではないでしょうか.
 豊富な例を引き,「学校で教えてくれない」的な分類学の基本から実践まで懇切丁寧に記述しています.




<今年のおすすめ文献>

— Arfianti, T., Wilson, S. and Costello, M. J. 2018. Progress in the discovery of amphipod crustaceans. PeerJ, 6: e5187; DOI 10.7717/peerj.5187

 昨年出版されました.これまで端脚類がいかに発見・記載されてきたか,その過程を多角的に分析した論文です.2016年時点での種数や属数がまとめられていたり,全ての化石種を紹介していたり,ちょっとした網羅的な情報を得るのにも便利ですが,そんな楽しい論文が無料で読めるというのですから読まない手はありません.ただし,資料収集期間に含まれない Lowry & Myers (2017) の知見は反映されていませんのであしからず.




— Ortiz, M. and Jimeno A. 2001. Guía ilustrada para la identificación de las familias y los géneros de los Anfípodos del suborden Gammaridea de la Península Ibérica. Graellsia, 57(2): 3–93.

 イベリア半島のヨコエビガイドブック的なものです.
 日本の浅海域に産する科はだいたい網羅されております.図を多用して視覚的に形質を検討しやすいように工夫されています.特に,適合する形態の番号を選んでその組み合わせで科から属へ落とし込める工夫が良いです.
 しかしながらというか,当然のことながらというか,オススメしておいて申し訳ないのですが,分類的知見は古く,現在の下目体系との乖離は頭に置いておかねばなりません.また,イベリア半島と日本では,属レベルでは互換性に乏しく,必ずしも同定には使えません.あくまで科レベルの把握と,共通した属があればそのレベルでの落とし込みにお使いください.あと,本文は全てスペイン語です.
  これほど多くの属を網羅しビジュアルとしてイメージできるように表現された文献はあまりない気がするので,グーグル先生の力を借りて訳しながらでも読む価値はあると思います.何にせよ無料です.



  さて,ヨコエビ全体に関する入門書的な出版物もそろそろネタ切れなので,少し細かいところに入っていこうかと思います.科などのグループごとに,分類群の概要の理解であったり,日本で分類同定を行う上で読んでおいた方がよい文献をご案内します.
 今年はひとまずハマトビムシ科をご案内します.



<ハマトビムシ科の分類にオススメ(1)>

— Miyamoto, H. and Morino, H. 1999. Taxonomic Studies on the Talitridae (Crustacea, Amphipoda)from Taiwan, I. The genera Talorchestia and Sinorchestia n. gen. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 8(5–6): 169–200.

 スナハマトビムシ Sinorchestia属の分類を行う上では押さえておくべき文献です.無料で読めます.
 なお,現在の Sinorchestia属 や Trinorchestia属,そして Platorchestia属 に含まれる種には,かつて Talorchestia属 として扱われていたものが含まれますが,現在 Talorchestia属 は南太平洋(東南アジア,オセアニア)からペルシャ湾にかけて分布するグループとされており,日本からは報告されていません.



— Miyamoto, H. and Morino, H. 2004. Taxonomic studies on the Talitridae (Crustacea, Amphipoda) from Taiwan, II. The genus Platorchestia. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 40: 67–96.

 Platorchestia pacifica の記載論文であるとともに,ヒメハマトビムシ種群およびオカトビムシ類の分類にあたって,非常に重要な文献です.無料で読めます.
 なお,当時 Platorchestia属 として扱われていたオカトビムシ2種(オカトビムシ,ニホンオカトビムシ)は Lowry and Myers (2019) の処遇により Morinoia属 となりました.



— Morino, H. and Miyamoto, H. 2015. Redefinition of Paciforchestia Bousfield, 1982 and description of Pyatakovestia gen. nov. (Crustacea, Amphipoda,Talitridae). Bulletin of the National Museum of Natural Sciences, Ser. A 41: 105–121.

  ホソハマトビムシ Pyatakovestia属の分類にあたって欠かせない文献です.無料で読めます.Pyatakovestia属 はかつて Paciforchestia属 とされていた種を含みますが,現在 Paciforchestia属 は北米沿岸に産する1種のみで,日本からは報告されていません.



— 笹子由希夫 2011. 日本産ハマトビムシ科端脚類の分布と分子系統解析. 三重大学修士論文.

 日本のハマトビムシ科について,各地から得られた標本の検討を行っています.同定のキーはありませんが,近似種の識別ポイント,生息環境や国内の分布について知ることができます.何はともあれ無料です.



※また,ハマトビムシ科に関しては過去のブログ(こちらやこちら)もご参照ください.





<野良で研究するために>

 まだ論文が出ていないのでニセチビ研究者モドキですが,問い合わせがありましたので.
 こうして今のところ,ヨコエビと無縁の仕事をしながら採集をしたり論文を追ったりしているのは,何かしらポイントがあるのだと思います.真に受けないほうがよい部分もあるかと思いますが,私が「今思うとやっておいて良かった」「もっと早くから意識すれば良かった」と感じることをご案内します.
 予めお断りしておきますと,当方のスペックとしては,勉強ができるわけでもなく,コミュ強なわけでもなく,仕事ができるわけでもないです.具体例を挙げると切なくなるのでこのくらいにしておきます.また,研究は卒論でカタを付けるつもりでおり,野良としてやっていく予定はありませんでした.

  さて,文献紹介シリーズは卒論を書き始める学生さんを想定読者としているので,まずは論文を仕上げることに専念して頂きたいです.その上で,今のうちにやっておくべきことを挙げるとすれば,学会(大会)へ参加しまくることではないでしょうか.

 大会はだいたい年に1回なので,短い学生生活の中で何回も参加することは難しいかもしれません.それでも,例えばヨコエビでは,甲殻類学会,ベントス学会,動物分類学会など、関係する組織がいくつもあります.また,普通の大会以外にもシンポジウムとか講演会とか,付随するイベントがあったりします.必修科目とかコアタイムとかあるかもしれませんが,万障繰合せて学会のイベントに参加することをお勧めします.卒論はだいたいラボのテーマに沿う形で取り組むと思いますので,関係する組織やイベントは,教官や先輩から教えてもらえるでしょうし,参加を促される場面もあるかと思います.

 学部生ならば必ずしも発表する必要はないと思います.発表を聴けば,聴かなくても要旨集を見れば,研究というものがどのように行われているのか,どの人がどんな研究をしているか,何となくわかります.
 教官や先輩の後ろを付いて回りながらでも,名刺をばら撒いて,研究者の方と何人も知り合って,今自分が追っている対象への情熱をぶつけてみてはいかがでしょうか.懇親会に出るのもいいですね.
 卒論生というのはめまぐるしく通り過ぎる旅人みたいなもので,大会を聴いていただけで誰かの記憶に残るのは難しいかと思いますが,研究対象とかアプローチとか共通項を狙い澄ましてぶつかっていけば,強い印象が残る気がします.誰かを捕まえたら、誰かを紹介してもらうのも良いです.知り合いの知り合い,みたいな曖昧な関係であっても,逆に紹介してくれた人に紐づいて印象が強くなることもある気がします.
 大会へ参加することは,学位論文を執筆するにあたってはもちろんのこと,その後の野良研究人生において大切な宝物になると思います.

 要するに「学会で出会った方と連絡を取って情報交換をしながら研究していくのがいいよ」という話なのですが,卒業研究から野良研究生活にかけて,こちらから助力を乞う場面がほとんどかと思います.ただ,プロの研究者はあくまでプロであり,こちらがいくら研究対象に情熱を持っていようとも,趣味でやってる人と交流するかのような(同好の志の親玉みたいな)認識で近づいていくのはNGです.所詮は学生ですし,世の中の先生には「いいよいいよ」と言ってくれる方も数多いかもしれませんが,敢えて私からお伝えしたいのは,見返りなく先方へ出費や手間を求めることにはとても慎重になってほしい,ということです.
 私自身は自分の興味の赴くままに動きますが,機関に所属して研究をしている方のスタンスが同じでないことは,想像できるかと思います.私の知る限り,プロの研究者の方も,深い部分では,同じ対象に携わる人間が増えて,研究が活発化することを願って,あるいはそれを使命として,活動されています.しかし,だからといって,何でもかんでもとりあえずお願いするのはダメです.例えば,お願いする内容(標本の同定や文献の提供)が自分にとってどういう位置づけでどのくらい必要なのか,一つ一つ考えて,その上でそれが伝わるようにお願いしてみてはいかがでしょうか.結果としてその考えが間違っていても良いかと思います.ただ,最初から明らかに重要でない事柄に膨大なコストをかけて,結局学生のためにも学問のためにもならないというのが,研究者が最も避けたいことだと思います.また,研究の過程を整理して相談することは,もしかすると問題解決への近道になるかもしれません.

 野良研究生活に入ったら「研究以外にしっかりと自分の生活を持つこと」.これは大切ではないでしょうか.例えば入社して3年くらいは大人しくしておくとか,研究を始めるまでに焦らないことも大切かと思います.
 もちろん,人のモチベーションや身体能力は,時に急激に低下して,大変な後悔を引き起こすこともあります.また,パートナーがいる人は,早めに野良研究生活を切り上げる場合もあるのではないでしょうか.こればかりは人それぞれです.

 野良研究生活に正解なし.私も機会がありましたらいろいろな人のやり方を知りたいと思っています.
 


<参考文献>(過去の文献紹介で挙げていないもの)

— Lowry, J. K. and Myers, A. A. 2019. New genera of Talitridae in the revised Superfamily Talitroidea Bulycheva 1957 (Crustacea, Amphipoda, Senticaudata). Zootaxa, 4553(1).


2019年2月11日月曜日

ハマトビムシ科の新体制について(2019年2月度活動報告)


 かつて、本邦産ハマトビムシ科を中心に記事を書きましたが,その見識が覆る大事件が起きました.

 Lowry and Myers (2019) の出版です.

 J. K. Lowry と A. A. Myers のコンビといえば,2013年の Senticaudata 亜目の設立に続き,2017年にヨコエビ亜目を葬り去るなど,ヨコエビの歴史に大きな影響を与える仕事をリリースし続けてきました.

 今回彼らが参戦したのは,ハマトビムシ上科です.





ハマトビムシ科新体制  
~Lowry and Myers (2019) を読む~ 



 Lowry and Myers (2019) — 以下,L&M (2019) — は,既存のハマトビムシ上科を総括するとともに,ハマトビムシ科を構成する属を整理・細分化しています.建てられた新属は 37 に上ります.あっ,ちなみに key はありません.


 ただ,単なる「切り裂き魔」というわけではないように思います.例えば,論文の中でTalorchestia属 を「 hodgepodge(ごちゃまぜ)属」 と表現しています.過去の研究者がなんでもかんでも Orchestia属 とか Talorchestia属 とかにぶち込んできた感は否めず,言い得て妙かと思います.他の属でも,例えば,Houlia bousfieldi (Hou & Li, 2003) などは洞窟性で無眼という際立った特徴があるにも関わらずヒメハマトビムシと同じ Platorchestia 属として記載されたりしてます.こういった過去の状況には,何とも違和感を禁じ得ません.

 また,L&M (2019) はハマトビムシ科の担名属である Talitrus属 が記載されてから今日に至るまでの歴史で,近年特に属の設立が激しいことも指摘しています.分類学が発達するに従って属レベルでの分類に関心が寄せられている科であることは確かでしょう.下のグラフをご覧ください.加速度的に増加しているのもさることながら,種が増え続けると耐えきれなくなって属が増える感は,ある気がします.言うなれば時代が求めたモノグラフというわけです.


ハマトビムシ科の増加,グラフにしてみたら結構ヤバい.
 (現在有効とされている115属と,グレーなものも含む339種の記載年をもとに集計.)




 しかし,これらの分類は,依然として形態的な知見に基づいています.上位分類の動きが活発なグループだからこそ,より深い議論を行うには,別のファクタの導入が必要かとも思います.このあたりは積み残した感が否めません.



 さて,L&M (2019) を経た世界のハマトビムシ科は以下の通りです.種数を[ ]内に示しました.提唱されていない属の和名は,勝手に推測して( )内に示しました.

  • Africorchestia Lowry & Coleman, 2011 [6種]
  • Agilestia Friend, 1982 [2種]
  • Albidiator Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Americorchestia Bousfield, 1991 [5種]
  • Amphiatlantica Lowry & Myers, 2019 [2種]
  • Arcitalitrus Hurley, 1975 [9種]
  • Asiaorchestia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Atlantorchestoidea Serejo, 2004 [1種]
  • Australorchestia Serejo & Lowry, 2008 [2種]
  • Austrotroides Friend, 1982 [1種]
  • Bellorchestia Serejo & Lowry, 2008 [9種]
  • ヤエヤマオカトビムシ属 Bousfieldia  Chou & Lee, 1982 [2種]
  • Brevitalitrus  Bousfield, 1971 [9種]
  • Britorchestia Lowry & Bopiah, 2012 [2種]
  • (オオハマトビムシ属)Bulychevia Lowry & Myers, 2019 [3種]
  • Calviator Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Canariorchestia Lowry & Myers, 2019 [5種]
  • Capeorchestia Lowry & Baldanzi, 2016 [1種]
  • Caribitroides Bousfield, 1984 [5種]
  • Cariborchestia Smith, 1998 [1種]
  • Cerrorchestia Lindeman, 1990 [1種]
  • Chelorchestia Bousfield, 1984 [5種]
  • Chevreuxiana Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Chiltonorchestia Bousfield, 1984 [2種]
  • Chroestia Marsden & Fenwick, 1984 [1種]
  • Cochinorchestia Lowry & Peart, 2010 [7種]
  • Cryptorchestia Lowry & Fanini, 2013 [5種]
  • Curiotalitrus Lowry & Coleman, 2012 [1種]
  • Dallwitzia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Dana Lowry, 2011 [2種]
  • Defeo Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Dendrorchestia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Derzhavinia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Deshayesorchestia Ruffo in Tafani et al., 2004 [1種]
  • ホッカイハマトビムシ属 Ditmorchestia  Morino & Miyamoto, 2015 [1種]
  • Dracorchestia Lowry & Myers, 2019 [2種]
  • Eorchestia Bousfield, 1984 [1種]
  • キタオカトビムシ属 Ezotinorchestia Morino & Miyamoto, 2016 [1種]
  • Fleuria Fleuriella Lowry, Myers and Nakano, 2019 [1種]
  • Floresorchestia Bousfield, 1984 [29種]
  • Galaporchestia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Hawaiorchestia  Bousfield, 1984 [2種]
  • Hermaniator Lowry & Myers, 2019 [2種]
  • Hermesorchestia Hughes & Lowry, 2017 [1種]
  • Houlia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Hurleyella Deshurleyella Lowry, Myers and Nakano, 2019 [4種]
  • Ignamborchestia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Indiorchestia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Insularorchestia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Kaalorchestia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Kanikania Duncan, 1994 [2種]
  • Kellyduncania Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Keratroides  Hurely, 1975 [5種]
  • コクボオカトビムシ属 Kokuborchestia Morino & Miyamoto, 2015 [1種]
  • Laniporchestia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Lanorchestia Miyamoto & Morino, 2010 [1種]
  • Laurenia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Lesliorchestia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • ヨシハラハマトビムシ属 Lowryella Morino & Miyamoto, 2016 [1種]
  • Lutruwitiator Lowry & Myers, 2019 [3種]
  • Macarorchestia Stock, 1989 [5種]
  • Makawe Duncan, 1994 [2種]
  • Megalorchestia Brandt, 1851 [7種]
  • Mexitroides Lindeman, 1990 [2種]
  • Mexorchestia Wildish & LeCroy, 2014 [3種]
  • Microrchestia Bousfield, 1984 [6種]
  • (イワヤトビムシ属)Minamitalitrus  White, Lowry & Morino, 2013 [1種]
  • ミズホトビムシ属 Mizuhorchestia Morino, 2014 [1種]
  • (オカトビムシ属)Morinoia Lowry & Myers, 2019 [3種]
  • Myanmarorchestia Hou in Hou & Zhao, 2017 [3種]
  • Mysticotalitrus Hurley, 1975 [1種]
  • Neorchestia Friend, 1987 [1種]
  • ニッポントビムシ属 Nipponorchestia Morino, 2015 [2種]
  • Notorchestia Serejo & Lowry, 2008 [5種]
  • Oamaru Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Omaiorchestia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Opunorchestia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Orchestia Leach, 1814 [7種+7不明種]
  • Orchestiella Friend, 1987 [2種]
  • Orchestoidea Nicolet, 1849 [1種]
  • Paciforchestia  Bousfield, 1982 [1種]
  • Palmorchestia Stock & Martin, 1988 [2種]
  • Parorchestia Stebbing, 1899 [1種+3不明種]
  • Persianorchestia Momtazi et al., 2017 [1種]
  • Pickorchestia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • (ヒメハマトビムシ属)Platorchestia Bousfield, 1982 [14種]
  • Protaustrotroides Bousfield, 1984 [1種]
  • Protorchestia Bousfield, 1982 [4種]
  • Pseudorchestoidea Bousfield, 1982 [4種]
  • Puhuruhuru Duncan, 1984 [1種]
  • ホソハマトビムシ属 Pyatakovestia Morino & Miyamoto, 2015 [4種]
  • Sardorchestia Ruffo in Tafani et al., 2004 [1種]
  • Sinbadorchestia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • スナハマトビムシ属 Sinorchestia Miyamoto & Morino, 1999 [3種]
  • Snaresorchestia Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Solitroides  Suzuki et al., 2017 [1種]
  • Spelaeorchestia Bousfield & Howarth, 1876 [1種]
  • Speziorchestia Lowry & Myers, 2019 [4種]
  • Swaziator Lowry & Myers, 2019 [1種]
  • Talitriator  Methuen, 1913 [2種+1不明種]
  • (ツメオカトビムシ属)Talitroides Bonnier, 1898 [2種]
  • Talitrus Bosc, 1802 [3種]
  • Talorchestia Dana, 1853 [29種]
  • Tasmanella Richardsoniella Lowry, Myers and Nakano, 2019 [1種]
  • Tasmanorchestia Friend, 1987 [1種]
  • Tethorchestia Bousfield, 1984 [現生2種+1化石種]
  • Tongorchestia Lowry & Bopiah, 2013 [3種]
  • Transorchestia Bousfield, 1982 [6種)
  • Traskorchestia Bousfield, 1982 [1種]
  • (ヒゲナガハマトビムシ属)Trinorchestia Bousfield, 1982 [2種]
  • Tropicorchestia Tropicorchestia, 2015 [2種]
  • Uhlorchestia Bousfield, 1984 [2種]
  • Vallorchestia Lowry, 2012 [1種]
  • Waematau Duncan, 1994 [3種]
  • Wairua Kohuroa Lowry, Myers and Nakano, 2019 [1種]


 L&M (2019) はただ形態分類によって属を増やしただけかというと,そうは思いません.生態情報を活用し,形態との整合性を踏まえて属を設けています.また,それと同時に,属を収納する生態的なまとまりを作り,どんどん大所帯になっていくハマトビムシ科を多少扱いやすくしています.
 Lowry & Coleman (2012) などでは,科と属の間に設けるグループは,生態に基づくものではありませんでした.咬脚の性的二形に基づく Orchestia group / Talitrus group という2グループです.このグループ分けは,オスの標本が知られていない Houlia 属や Solitroides 属などでは使えないという欠陥があります.しかし,L&M (2019) においてはこのポイントを,属をまとめるのではなく,属を分けるバックグラウンドとして重視しているのがわかります.このあたりのバランス感覚は優れていると思います.

 L&M (2019) の生態特性区分は Wildish (2017) と異なる部分がありつつ,だいたい共通しています.ただ,Wildish (2017) にある項目,「汀線際の漂着物」と「潮上帯へ完全に打ちあがった漂着物」との区別,「潜砂性」と「漂着物付着性」との区別というのは,私の経験的にも同意できます.なので,Wildish (2017) の定義と比べて,L&M (2019) の Beach-hoppers や Sand-hopper という区分は雑多すぎると思います.また,本邦産の2種が Morinoia 属となりましたが,生態区分では「Marsh; Riparian; Field」となっており,「Forest」が含まれていません.森野 (2015) の記述を踏まえても,個人的な感覚からも,Morinoia 属の生態要素に「Forest」は含まれて然るべきと思います.


関係あると思われるグループを対応させてみた.
 含まれている属や種からすると,
  このようなオーバーラップがあるものと考えられる.



 なお,本邦産ハマトビムシ科リストは以下の通りに改訂されます.L&M (2019) により属位が変更されたものは★をつけました.

  1. ★Bulychevia ochotensis (Brandt, 1851) オオハマトビムシ / 礫浜;北海道東部 (森野・向井 2016)
  2.  Bousfieldia omoto Morino, 2014 ヤエヤマオカトビムシ / 森林;石垣島,西表島(森野 2015)
  3.  Ditmorchestia ditmari (Derzhavin, 1923) ホッカイハマトビムシ / 海岸性 (Lowry and Myers 2019),海岸林;北海道東部 (森野・向井 2016)
  4.  Ezotinorchestia solifuga (Iwasa, 1939) キタオカトビムシ / 草地性 (Lowry and Myers 2019),海岸林;北海道東部,福井(森野 2015)
  5.  Kokuborchestia kokuboi (Uéno, 1929) コクボオカトビムシ / 草地性 (Lowry and Myers 2019),海岸林~森林;北海道南西部,東北北部 (森野 2015)
  6.  Lowryella wadai Morino & Miyamoto, 2016 ヨシハラハマトビムシ / 湿地性 (Lowry and Myers 2019),ヨシ原;宮崎県,愛媛県 (Morino and Miyamoto 2016b)
  7.  Mizuhorchestia urospina Morino, 2014 トゲオカトビムシ / 海岸林~森林;本州,四国,九州(森野 2015)
  8. ★Morinoia humicola (Martens, 1868) オカトビムシ / 森林;本州 (森野 2015),台湾 (Miyamoto and Morino 2004)
  9. ★Morinoia japonica (Tattersall, 1922) ニホンオカトビムシ / 湖岸,森林;北海道~沖縄 (森野 2015),台湾 (Miyamoto and Morino 2004)
  10.  Nipponorchestia curvatus Morino and Miyamoto, 2015 ヒメオカトビムシ / 海岸~海岸林;近畿,伊豆,四国,九州,対馬 (Morino and Miyamoto 2015a)
  11.  Nipponorchestia nudiramus Morino and Miyamoto, 2015 トゲナシオカトビムシ / 海岸林~森林;近畿,東海 (Morino and Miyamoto 2015a)
  12.  Platorchestia joi Stock and Biernbaum, 1994 ヒメハマトビムシ /  内湾的砂浜;日本各地 (森野・向井 2016),ロシア極東部,韓国 (Jo  1988),台湾 (Miyamoto and Morino 2004)
  13.  Platorchestia pachypus (Derzharvin, 1937) ニホンヒメハマトビムシ / 外湾的砂浜,砂利浜 (笹子 2011),潮間帯~潮上帯;北海道~九州 (森野・向井 2016),韓国 (Jo 1988)
  14.  Platorchestia pacifica Miyamoto and Morino, 2004 (和名未提唱)/ 内湾的砂浜,砂利浜,岩礁上部 (笹子 2011),礫浜 (小川 未発表);台湾 (Miyamoto and Morino 2004),日本各地,韓国 (笹子 2011)
  15.  Platorchestia sp. sensu 森野 (1999) ミナミオカトビムシ (※未記載種.将来的にMorinoia属に含められるものと推測する.) / 海岸林;本州日本海岸,四国,九州,トカラ(森野 2015)
  16.  Pyatakovestia boninensis Morino and Miyamoto, 2015 オガサワラホソハマトビムシ / 海岸~森林;母島 (森野 2015)
  17.  Pyatakovestia iwasai Morino and Miyamoto, 2015 ミナミホソハマトビムシ / 海岸林 (森野 2015),礫浜;台湾,沖縄,本州関東以南太平洋岸,福井以南日本海岸 (Morino and Miyamoto 2015b)
  18.  Pyatakovestia pyatakovi (Derzhavin, 1937) ホソハマトビムシ / 海岸林 (森野 2015),礫浜;ロシア,韓国,北海道,本州日本海岸,伊豆半島以北太平洋岸(Morino and Miyamoto 2015b)
  19.  Sinorchestia nipponensis (Morino, 1972) ニホンスナハマトビムシ / 砂浜性 潮上帯上部 漂着物;茨城以南~四国,九州 (森野・向井 2016)
  20.  Sinorchestia sinensis (Chilton, 1925) タイリクスナハマトビムシ / 砂浜性 潮上帯上部 漂着物;台湾,沖縄,西表,四国,紀伊半島 (森野・向井 2016)
  21.  Talitroides topitotum (Burt, 1934) ツメオカトビムシ / 草地性 (Lowry and Myers 2019),林床;沖縄 国頭郡 (森野 2015)
  22.  Trinorchestia longiramus Jo, 1988(和名未提唱)/ 韓国 ,日本 (笹子 2011)
  23.  Trinorchestia trinitatis (Derzhavin, 1937) ヒゲナガハマトビムシ / 砂浜性;韓国,北海道~九州 (森野・向井 2016)
  24.  Minamitalitrus zoltani White et al., 2013 ダイトウイワヤトビムシ / 洞窟性;南大東島 星野洞 (森野 2015)

 語呂的にアリかと思いますが,オカトビムシは Morinorchestia にはならなかったようです・・・



 M&L (2019) は各属の記述に終始せず,研究小史の部分や,小目~上科レベルでの diagnosis の再定義なども,たいへん読み応えがあります.また,今回の属位変更の中で位置づけができなかった種についても,最後の所属不明群で丁寧に解説しています.ハマトビ界隈関係者必読の文献であると思います.

 これほど手間のかかったモノグラフではありますが,Orchestia 属や Parorchestia 属についてはまだ幾つか謎が残されているようです.そして,Floresorchestia 属やPlatorchestia 属,Talorchestia 属については,総括が済んでいません.これから新種もどんどん増えるでしょうから,今後の展開に期待です.




 最後に.全体を通して幾つか気になる点がありました.私の指摘や推測が必ずしも正しいわけではないかと思いますが,該当部分を研究される方はご留意ください.


 p.5:「Afriorchestia Lowry and Coleman, 2010」という表記がありますが,原記載を見る限り,正しくは「Africorchestia Lowry and Coleman, 2011」です.これに類するゆれは Milne and Griffiths (2013) などでも確認されています.L&M (2019) のリファレンスにおいて Lowry and Coleman (2011) の citation(属名を含むタイトルと出版年)は完全なので,凡ミスと思われますが,どうなんでしょうか・・・?

 p.7:「Mexitroides gen. nov.」つまり新属ということになっていますが,この属は Lindeman (1990) p.2332 によって亜属として記載され,L&M (2019) p.60 が属に格上げしたので,「Mexitroides Lindeman, 1990 stat. nov.」とすべきではないでしょうか(p.60の属の解説では「Mexitroides Lindeman, 1990 stat. nov.」と表記されています).

 p.29:「Dendrorchestia parva」の原記載を「Orchestia parva Hurley, 1957」としています.しかし,Hurley (1957) p.188 はこの種の原記載を「Parorchestia parva Chilton, 1909」としており,Chilton (1909) p.640 には確かに記載が存在します.また,その後に属位を Makawe 属に変更した Duncan (1994) p.31 のシノニムリストでもこれらの経緯は踏襲されており,WoRMS(2019年2月10日閲覧)においてもその処遇が支持されています.L&M (2019) p.60 は本種の属を Makawe 属から Dendrorchestia 属へ変更したと明記しているにも関わらず,原記載については Duncan (1994) と食い違っています.記載されてから Duncan (1994) の処遇に至るまで運命を共にした Dracorchestia insularis と Dracorchestia maynei については Chilton (1909) を原記載として示しており,その違いについて何ら断りがないので気になります.

 p.45: Indiorchestia属のタイプ種を「Talorchestia kempii (Tattersall, 1914)」としていますが,この部分は原記載なので「Talorchestia kempii Tattersall, 1914」と括弧なしで表記すべきではないでしょうか.

 p.50:「Kanikania motuensis (Duncan, 1994) comb. nov.」と表記していますが,L&M (2019) では属位を変更していないので「Kanikania motuensis Duncan, 1994」とすべきではないでしょうか.

 p.91:疑問名 nomen dubium とされている Neotenorchestia kenwildishi Wildish, 2014 は,Wildish (2018) によって Orchestia mediterranea A. Costa, 1853 のジュニアシノニムとされた経緯があります.L&M (2019) に Wildish (2018) は引用されておらず,O. mediterranea について言及はありませんが,この短報は昨年11月(ちょうど私が満月の下で干潟の決死隊をやっていた頃)に出版されたため,間に合わなかったものと推測します.

 WoRMS(2019年2月10日閲覧)には Talitriator macronyx (K.H. Barnard, 1940) という種が掲載されています.この種は Talitroides eastwoodae forma macronyx K.H. Barnard, 1940 として記載されたもので,同時に記載された他の品種 formae(ヨコエビでこの階級が使われているのは他であまり見たことがありませんが・・・)についても,WoRMSには Talitriator calva (K.H. Barnard, 1940),Talitriator cylindripes (K.H. Barnard, 1940),Talitriator setosa (K.H. Barnard, 1940) として掲載されています.L&M (2019) では Talitriator setosa がTalitriator 属に残され,他はそれぞれ Calviator calvus と Hermaniator cylindripes として新たな属が与えられました.しかしながら,Talitriator macronyx の妥当性については否定も肯定もせず,何ら言及がありません.この種を消す根拠は見つけられませんでしたが,Talitriator macronyx をTalitriator setosa のシノニムとして消す見解(Milne & Griffiths 2013)を支持している可能性があります.





<参考文献>

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<補遺>
(3 Mar. 2019)
・Trinorchestia longiramusのauthorshipを訂正

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<補遺2> 13 Jun. 2019
・Lowry & Myers (2019) で設立された属のうち4属が,双翅目・腕足類・クモ類の属階級に同名が存在する新参ホモニムであることが判明したため,Lowry et al. (2019) により新たな属名が宛てられた.この処遇をリストに反映.

— Lowry, J. K., Myers, A. A., Nakano, T. 2019. Replacement names for four reoccupied talitrid genus-group names proposed by Lowry & Myers in 2019 (Crustacea, Amphipoda, Senticaudata). Zootaxa, 4615 (2): 395–396.



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補遺 (15-VIII-2024)
・一部書式設定変更。

2019年1月27日日曜日

モクズヨコエビ類について(1月度活動報告)



 モクズヨコエビ類というグループがあります.


 沿岸域において大型藻類に付着する海産ヨコエビの中では恐らく最大の生物量を誇るものの一つと思われ,浅海から河口あるいは少し陸側まで進出していて,しかも海藻表面だけでなく礫底などにも生息します.


 名前が似ている モズミヨコエビ Ampithoe valida というのもいますが,これはヒゲナガヨコエビ科の一種で,分類上はそれなりに遠いグループでございます.

 モクズヨコエビ類というのは対応する分類単位が存在せず,ややこしい部分が色々あります.そこで,自己主張と備忘録がてら整理を試みます(着手してから話をまとめるまでだいぶかかってしまいました).







代表種・フサゲモクズについて


 モクズヨコエビの仲間で,日本において最もよく見られるものは,おそらくフサゲモクズでしょう.
フサゲモクズ Ptilohyale barbicornis
 オスがメスを抱えているところ.



 フサゲモクズは海水~汽水における表在底生のヨコエビで,水がひたひたの状態,または濡れている程度の場所を好み,石の下や礫の間に潜んでいるのをよく見かけます.海藻にも付きます.

 色調は緑がかったものが多いイメージがありますが,小さな個体は半透明だったり,オレンジ色に近いものもいて,色だけではもちろん同定できません(フサゲモクズに限らずヨコエビの体色は恐らく環境によって変わることが多そうなのと,ハマトビムシ上科はアルコールに浸けて標本にすると体色が一様な黄白色に変わってしまうこともあり,同定資料となる文献において体色が記述されることはほとんどありません).緑がかったフサゲモクズは独特のツヤがあって美しくかなりお気に入りで,このブログの壁紙に使っています.

 石をめくったりすると,あるものは飛び跳ねたり,あるものは素早く裏側へ回り込んだりします.逃げていく個体を見ていると,オスがメスを抱える「交尾前ガード」をとっているペアが見つかります.この行動はいろいろなヨコエビにおいて記録されていますが,モクズヨコエビ類やハマトビムシ科など,ハマトビムシ上科では非常にポピュラーです.

 オスは第2咬脚が大きく発達します.ハマトビムシ上科において同様の特徴をもつものが多く,雄間闘争に使っているのではという気がします(今のところ観察したことはありませんが).

 大顎髭は退化しており,懸濁物食ではなく咀嚼をしているものと推測されます.Hiwatari and Kajihara (1988) ではアオサを与えて飼育しています(樋渡先生によると簡単ながら大量繁殖させるレシピがあるとか).普段は漂着物または石についている藻類やそれと一緒くたになったモノを食べているのかなと思っています.

 フサゲモクズは日本各地の海岸から報告があり,かつてはAllorchestes plumulosusという学名が対応されていました.
 このAllorchestes plumulosusという種は19世紀に北米で記載されたもので,サンフランシスコ湾に程近い河口域において礫底に多くみられるらしいです.その後,日本の研究者が詳細な検討を行った結果,北米のものと日本のものは別種にあたると判断され,新たな学名Hyale barbicornisが与えられました.

 そして,Bousfield and Hendrycks (2002) を経て,現在の学名はPtilohyale barbicornisとなっております(この変更を認めていない文献もあります).この「Ptilo」というのはギリシャ語で,羽毛を意味します.オスの第2触角に生えている毛にちなむもので,和名の「フサゲ」と同じ発想のようです.他のモクズヨコエビ類と比較しても,フサゲモクズの毛は特徴的です.
 この毛の用途について私自身は知見をもっていませんが,どうやら樋渡先生が興味深い観察を行われたようです.活字になることを待ち望んでおります.




モクズヨコエビ科について

 ハマトビムシ上科では,ハマトビムシ科に次いで大きなグループです.
 姿かたちはハマトビムシ科によく似ており,一部の種は濡れたところを歩いて登ってきたリして水陸両用っぽ感じなので非常に紛らわしいのですが,以下の点によって識別できます.


モクズヨコエビ:第1触角の全長は第2触角の柄部長を越える.
ハマトビムシ:第1触角の全長は第2触角の柄部長に届かない.


 ヨコエビ分類界隈屈指のバイブルであるBarnard and Karaman (1991) では,次のメンバーによって構成されるという知見が示されていました.

  1. ヘッピリモクズ属 Allorchestes Dana, 1849 : 太平洋に分布
  2. Micropythia (Bate, 1862) : 地中海~大西洋に分布(本邦未知)
  3. Hyachelia J.L. Barnard, 1967 : ウミガメに付着,恐らく世界の熱帯域に広域分布
  4. モクズヨコエビ属 Hyale Rathke, 1837 
  5. Lelehua J.L. Barnard, 1970 : 太平洋南東部に分布(本邦未知)
  6. Neobule Haswell, 1879 : 南太平洋および大西洋東岸に分布(本邦未知)
  7. フタアシモクズ属 Parallorchestes Shoemaker, 1941 : 北太平洋に分布
  8. ミナミモクズ属 Parhyale Stebbing, 1897 : インド洋~太平洋に分布




Bousfield and Hendrycks (2002) 着弾



 しかし2002年,モクズヨコエビ類の分類体系が大きく整理されました.
 80種以上を含む代表的なグループであったモクズヨコエビ属Hyaleから,次の5属が分離新設されました.

+Apohyale属 : 太平洋に分布
+Protohyale属 : 4亜属からなる
+Ptilohyale属 : 大西洋~太平洋に広く分布
+Ruffohyale属 : インド洋沿岸に分布,地下性で盲目(本邦未知)
+Serejohyale属 : 大西洋岸に分布(本邦未知)

 元のモクズヨコエビ属に残されたのは4分の1程度という大移動です.残された「狭義のモクズヨコエビ属」は,北大西洋および北太平洋に分布するグループということになりました.

 この論文,かなり細かい仕事をやった感もありますが,正直検討している形質がビミョーすぎて,属や亜属として分割する意義があるのか,ないのか,よく分かりません.誤字も多いし(愚痴).この時に設立した亜属を認めないという見解を示す研究者も多いようです.キーを進めて属レベルの同定を試みても,常に不安を感じます.そんなBousfield and Hendrycks (2002)ですが,BHLで無料公開されているので,ぜひ読んでみてください.




Serejo (2004) 着弾


 2004年、ハマトビムシ上科の見直しが行われた時、モクズヨコエビ科には次のような影響がありました.

 ハマトビムシ上科に含まれる種の形態を類型にあてはめて解析した結果,モクズヨコエビ科に含まれる2亜科(モクズヨコエビ亜科,Hyachelinae亜科)の関係の深さが浮き彫りになったのですが,それと同様の関係性が,ヒアレラ属 Hyalella,ヒョットコヨコエビ属Najina,従来のナミノリソコエビ科 Dogielinotidae sensu Barnard and Karaman, 1991,ヘッピリモクズ属 Allorchestes の間でもみられるということになりました.そこで,これらをナミノリソコエビ科にまとめた上で,亜科に分けて格納しました.

 この際,ヘッピリモクズ属がモクズヨコエビ科からナミノリソコエビ科 Dogielinotidae に移動されたのです.
 Bousfield & Tzetkova (1982) もヘッピリモクズ属がナミノリソコエビ科の祖先的なグループであるという見解を示していましたので,その流れを汲んだものと言えます.

 Serejo (2004) は43箇所の形質を比較しましたが,このうち9つの形質においてヘッピリモクズ属とモクズヨコエビ科との間に相違があると述べています.一方,新しいナミノリソコエビ科の中ではブレは2~4箇所程度に収まる,ということがポイントのようです.底節板の深さの比較や,オスの第2咬脚において腕節の張り出し部が消失するなど,発達の過程も追っています.このあたりの裏の取り方は非常に優れていると思います.

 Barnard and Karaman (1991) に代表される伝統的な形態分類では,歩脚の端部が張り出したり,身体各所に長剛毛をもつことを「潜砂に適応した形質」として重視していた傾向があります.Serejo (2004) では,こうした分類は系統関係を支持しない,という結論になったようです.環境に適応して二次的に獲得されたもの,という立場をとっているようで,ヨコエビにおいてはよくある話で,納得できる部分もあります.一部の種を比べてみて,確かに,毛を無視すると,基節の長さなど何となく類縁性が気になる形状も見受けられるような・・・



モクズヨコエビ科とナミノリソコエビ科の第5胸脚.
 ヘッピリモクズAllorchestesとナミノリソコエビHaustorioidesは,
 基節が長いという点でモクズヨコエビ科とは異なる.
ヘッピリモクズAllorchestesはモクズヨコエビ科によく似た細長い胸脚と短い剛毛束をもつが,
ナミノリソコエビHaustorioidesは長節や腕節が扁平に広がり,剛毛も長い.


  Serejo (2004) は,新しい体制によって淡水性グループや陸棲グループについては他とキレイに分離されることを強調している一方,潜砂性と海藻表在性という生態特性が混在していることは特に気にしていないようです.

 
 Serejo (2004) が主張する「ヘッピリモクズ属を内包するナミノリソコエビ科」が系統分類学的に正しいと仮定した場合,それは真のモクズヨコエビ科からヘッピリモクズ属を経て潜砂性ナミノリソコエビ科に分岐したというより,全く起源が異なるグループとして発展してきた可能性もあるのではと思います.
 潜砂性についてはハマトビムシ上科では現状として1科5属のみが記述されており,同様の生態をもつツノヒゲソコエビ科・マルソコエビ科・ヒサシソコエビ科などと比較すると,かなり特殊な性質です.また,こういったグループと比較して,剛毛束の発達や覆卵葉の発達などよく似た形質も見られるものの,節そのものの形状はまだ形態の特殊化度合いが穏やかであることから,わりと最近獲得されたものと考えるのが自然でしょう.このへんの潜砂性ならではの形質や生態特性については,覆卵葉の特性などを材料として,上平 (1990) が考察しています.
 もっと言えば、真のモクズヨコエビ科とは起源が異なるグループには中間的な特性をもった祖先がいて,一方が潜砂性を追究し,一方が海藻付着に適応した可能性も考えられます.

 形態的特徴をスクリーニングしたSerejo (2004) の研究は,これまでモクズヨコエビ科として互いによく似ていて近縁であると考えられていたグループの見方をいったん白紙に戻して,そういった「見せかけのそっくりさん」をあぶりだそうという試みとも理解できます.


Hiwatari et al. (2011) 着弾

 
 そしてSerejo (2004) から7年,形態分類の限界への一つの答えとも言うべき論文が発表されました.
  とうとうモクズヨコエビ界隈の上位分類群の整理にも,分子系統学的手法が採り入れられたのです.

 このHiwatari et al. (2011) は,Serejo (2004) に至るまでのモクズヨコエビ類の中のグループの変遷を細かく追っていて,研究史を理解する上で重要な文献です.そればかりでなく,導き出された分子系統解析の結果は驚くべきもので,次のような知見が示されることとなったのです.

①モクズヨコエビ科のProtohyale属が多系統群であることが示され、Protohyale misakiensis ミサキモクズ がナミノリソコエビ科と姉妹群となったものの、もう一方Protohyale (Boreohyale) triangulataはより遠い位置にブランチを形成しました.
 この整合性についてHiwatari et al. (2011) は,研究に用いたHaustorioides japonicusナミノリソコエビ(※1)を含む狭義のナミノリソコエビ類は種数が少なく分布も限られていることを根拠に,比較的最近分化したグループである可能性を指摘し,補強しています.Serejo (2004) がナミノリソコエビ類との類縁性を指摘したヘッピリモクズ属やHyalella属が広範な分布を持っていたり種多様性が高いことを考えると,Hiwatari et al. (2011) の主張は分があるように思えます.


②フタアシモクズ属Pallorchestesは,ハマトビムシ科を除くハマトビムシ上科のグループ(モクズヨコエビ科,ナミノリソコエビ科)の祖先型である可能性が示されました.フタアシモクズ属も北太平洋寄りの比較的狭い分布を示しますが,北太平洋沿岸はハマトビムシ上科の多くの属がみられている海域でもあります.ある分類群が分化を始めたエリアがあるとして,そのエリアの多様性が他の場所より高くなるというケースが知られており,これもそういうことかもしれません.

③ヘッピリモクズ属はハマトビムシ科の祖先的な位置づけとなりうることが示唆されました.裏付けとして,ヘッピリモクズ属とハマトビムシ科に幾つか共通する形質があることも示しています.この手法は,Serejo (2004) が形態学的解析にあたり使用した形質を全て等しく扱ったこととは対照的に,系統関係を推定する上でどの形質に重きを置くべきかという選別の問題を提起するものとも言えそうです.ただ,ハマトビムシ科に入れてしまうというのは少々やりすぎな感じも・・・

 Hiwatari et al. (2011) は,ヒョットコヨコエビ属など一部のグループが解析に含まれておらず,Serejo (2004) の検証としては完全ではありません.これは今後の研究に期待というところでしょう.


 しかしながら,Hiwatari et al. (2011) は系統樹の作成に近隣結合法,最尤法,最大節約法の3つの解析手法を用いており,そのいずれにおいても上記①②③の傾向が共通してみられました.類縁性についてはかなり確度の高いものとして取り扱うべきと考えられます.そんなわけで,伝統的なモクズヨコエビ科の単系統性は今世紀に入り,形態でも分子でも否定されたことになります.


 一部のグループ,たとえばParhyale属とApohyaleミナミモクズ属などの類縁性は強く支持されていますので,旧来のモクズヨコエビ科の中に単系統のグループを認めることができます.Hiwatari et al. (2011) は分子系統解析の結果を踏まえた科の定義はしていませんが,今後このまとまりを真のモクズヨコエビ科として再編成するという動きはあって然るべきです.

 Serejo (2004) が強調した淡水性グループとそれ以外のグループとの分離について,Hiwatari et al. (2011) は特にこだわっていないようです.Hiwatari et al. (2011) は海産性種の分化に言及していますが,淡水・汽水・海水性というグループの連続性を踏まえた上で,祖先系としての重みをどちらに置くかという観点から議論を行っており,話の流れとして非常に納得できます.


 そして,Protohyaleの亜属なしグループとBoreohyale亜属とが別の枝に入ったということで,偶然なのか必然なのか,ここにきてBousfield and Hendrycks (2002) による亜属の設定が活きてくる予感がします.分子と形態の両刀をもってここに切り込むべきでしょう.誰かお願いします.







モクズヨコエビ類とは何か


 さんざん「モクズヨコエビ類」という言葉を使ってきましたが,実はそのような分類単位はありません.その中身とか意図を以下に述べます.

 「ハマトビムシ上科」という単位を用いて議論すればよいのですが,このレベルでまとめてしまうと,陸棲のハマトビムシ科が含まれてしまいます.これは分けたいです.また潜砂性や海藻内在性,そして平べったすぎるミノガサ系とは別にしたいので,狭義のモクズヨコエビ科と同じような性質を共有したジェネラリストを表現するような単位は,今のところちょうどよい呼称がないのです.


こんな感じの,ジェネラリストの枠組みがほしいという話です.


 というわけで,現場で識別が困難と思われるものを,残り物的な感じでどんどんぶちこんでいこうと思います.分類単位としてこんなことをすると「ゴミ箱」との謗りは避けられませんが,便宜的なものなので気兼ねなくやります.


 本来であればこのへんは是非,世界を渡り歩いてモクズヨコエビを集めている方がどう思われているのかを聞きたいところですが,そういった方が見つかるまでは戯言にお付き合いください.



私の考えるモクズヨコエビ類(海産)リスト


Family Dogielinotidae Gurjanova, 1953 ナミノリソコエビ科
  1. Allorchestes Dana, 1849 ヘッピリモクズ属
  2. Exhyalella Stebbing, 1917  : インド洋に分布(本邦未知)
  3. Marinohyalella Lazo-Wasem & Gable, 2001  : 地中海に分布(本邦未知)
  4. Parhyalella Kunkel, 1910  : 太平洋~大西洋に分布(本邦未知)

Family Hyalidae Bulyčeva, 1957 モクズヨコエビ科
  1. Apohyale Bousfield & Hendrycks, 2002
  2. Hyachelia J.L. Barnard, 1967
  3. Hyale Rathke, 1837 モクズヨコエビ属
  4. Lelehua J.L. Barnard, 1970 (本邦未知)
  5. Neobule Haswell, 1879 (本邦未知)Parallorchestes Shoemaker, 1941 フタアシモクズ属
  6. Parhyale Stebbing, 1897 ミナミモクズ属
  7. Protohyale Bousfield & Hendrycks, 2002
  8. Ptilohyale Bousfield & Hendrycks, 2002
  9. Serejohyale Bousfield & Hendrycks, 2002 (本邦未知)

Family Najnidae J.L. Barnard, 1972 ヒョットコヨコエビ科
  1. Insula Kunkel, 1910 (本邦未知)



 ついでに,海産ではないけどモクズヨコエビ類っぽいグループを,生息環境ごとに並べてみます.

淡水性モクズヨコエビ類リスト


Family Chiltoniidae J.L. Barnard, 1972
  1. Afrochitonia K.H.Barnard, 1955 : 南アフリカ(本邦未知)
  2. Arabunnachiltonia King, 2009 : オーストラリア(本邦未知)
  3. Austrochiltonia Harley, 1958 : オーストラリア(本邦未知)
  4. Chiltonia Stebbing, 1906 : ニュージーランド(本邦未知)
  5. Kartachiltonia King & Leys, 2014 : オーストラリア(本邦未知) 
  6. Phreatochiltonia Zeidler, 1991 : オーストラリア(本邦未知) 
  7. Wangiannachiltonia King, 2009 : オーストラリア(本邦未知) 

Family Hyalellidae Bulyčeva, 1957 ヒアレラ科
  1. ヒアレラ属 Hyalella S. I. Smith, 1874 : アメリカ大陸の陸水に生息(本邦未知)


暗居性モクズヨコエビ類リスト


Family Chiltoniidae J.L. Barnard, 1972
  1. Scutachiltonia King, 2012 : オーストラリアの地下水系に生息,盲目(本邦未知)
  2. Stygochiltonia King, 2012 : オーストラリアの地下水系に生息,盲目(本邦未知)
  3. Yulgarniella King, 2012 : オーストラリアの地下水系に生息,盲目(本邦未知) 

Family Hyalidae Bulyčeva, 1957 モクズヨコエビ科
  1. Ruffohyale Bousfield & Hendrycks, 2002 (本邦未知)



 Insula属というのはバミューダ海域から1属1種だけが知られる単型分類群で、Bousfield(1996)は、Parhyalella属またはヘッピリモクズ属の未成熟個体ではないかという説を唱えています.これに従うとSerejo (2004) で定義されたナミノリソコエビ科のメンバーになるはずですが、Serejo (2004) ではヒョットコヨコエビ科Najnidaeに含められています.また、WoRMSは2017年9月現在モクズヨコエビ科としています。このように見解が分かれているため、誰かがちゃんとやらないといけない案件です.私は標本を見てはいませんが、記述された形態的特徴や過去の経緯を鑑みて、本稿では私見で、モクズヨコエビ類に含まれうるものと解釈します.


 モクズヨコエビ科の旧メンバーでOB会的な「モクズヨコエビ類」を組織した場合、現在はKuriidae科に属しているMicropythia属も候補に挙がってくるかと思います.このKuriidaeというグループは古くはヘッピリモクズ属として記載されたものですが,雌雄ともに咬脚が小さいという特徴をもっており,オスの第2咬脚が大きくなるという性的ニ形が表れる普通のモクズヨコエビ類からは外れている感があります.ということで,独断と偏見により,モクズヨコエビ類からは除外します.

 Serejo (2004) の見解を認めた現行の分類では,ヘッピリモクズ属と一緒にExhyalella属,Marinohyalella属,Parhyalella属がナミノリソコエビ科に含められていますが,これらの属は河口~浅海域を中心に藻類に付着する特徴が共通していおり,元来のナミノリソコエビ科とは生態的に大きく隔たっています.ナミノリソコエビ科も海藻をガシャガシャやると出てくることもありますが,基本的には潜砂性です.ということで,この4属はモクズヨコエビ類と呼びたいところです.


 モクズヨコエビ類という用語は全くもってコンセンサスを得られていませんが,趣旨にご賛同いただける方は(何の役にも立たないだろうとは思いつつ)陰ながら応援しますので,是非ご参考にしていただければと思います.