2019年7月5日金曜日

ヨコエビ四番勝負 ~令和最初の夏も宝虫探し~(7月度活動報告)


 潮が良いので遠征してきました.

 今季は期限や目的のはっきりした採集が多く,自分のペースでフィールドのポテンシャルを測るような旅をあまりしていなかった気がします.S.A.M. project もほったらかしだし.

 件の記載論文もあとは図表に番号を振って関係方面に回すだけという段まで来たので,7月頭のこのビッグウェーブを逃すわけにはいかないと,新幹線に飛び乗りました.スマートEXまじで楽(それにしても全ての新幹線はつながっているのになぜIC乗車券に新幹線チケットを紐付けするシステムは東海道山陽と北陸上越は互換性がない…おや、誰か来たようd).



 S.A.M project とは,ヨコエビが人をかじることを確認する,極めてシンプルな企画です.
 とりあえず,できるだけ多くの人食いヨコエビを発見し,その傾向を知ることを目標としています.
 発端はオーストラリアでのこの事件です.ヨコエビが死肉を漁るのは常識といえるかもしれませんが,生きた人間をかじるという事象はあまり一般的ではないのが現状です.生きた人間がヨコエビに齧られるのかどうか.その知見が積み重なっていけば,今後無用な不安感を抱かなくても済むのではないでしょうか.余計に心配になったりして.



 さて,新幹線は思い出の岡山を過ぎて九州へ…


 しかし…


「木曜日まで豪雨」
「3日が特に激しい」
「九州は例年7月1ヶ月分の降水量が1日で降る可能性」
「気象庁が異例の会見」


 やめてよぉっ!



福岡激闘篇


 志賀島での S.A.M project の前に,九州北東部のヨコエビリティを探っておきたいと思います.

 山奥の採集であれば早期に中止を決めたでしょうが,今回の採集地は県のハザードマップでは大規模な土砂崩れの懸念箇所には含まれていなかったので,ひとまず予定通りに…



福岡県某所.


 意外と大丈夫じゃね?
 小雨がちらつく程度で時折晴れ間さえ見えます.

 ちなみに居酒屋のおばちゃんによると,ここ何日も「明日はヤバい」と予報されつつ,
ずっとこんな感じとのこと.むしろ水不足が心配らしい.ホンマかいな.




 干潟の端に電波塔が聳えています.これで分かる人は分かるかもしれません.

 アオサしかない絶望感もさることながら,干潟を埋め尽くすあまり細くないホソウミニナとヤドカリの物量.


 ヨシ原と連続していることもあってかやや泥っぽくもろもろとした砂泥の底質は悪くありませんが,少し掘るとすぐにその黒い本性を顕す潮通しの悪さと,LNO(ランドリーネットオペレーション=洗濯ネット作戦)を阻む粒径の大きさ.

 苦戦の予感.




 さっぱり採れん.

 三番瀬と谷津干潟を足して2で割った感じと言えば,千葉県のヨコエビ事情に通じている方ならばピンとくるでしょうか.アオサにはシミズメリタ,杭にはアリアケドロクダというメンバーの単調さ.モズミヨコエビもいますがかなり少ない.


モズミヨコエビ(Ampithoe valida).


メリタ属の一種(Melita ).
シミズメリタかもしれない.


ドロクダムシ科の一種(Corophiidae).
ちょっと見たことのないスレンダーなドロクダムシですね・・・
第2触角に見たことのない突起があります・・・


 ベントス相は,汀線上にコメツキ,汀線下にタマシキ,マメコブシ,ガザミ,タイワンガザミ,アサリと,ほぼ三番瀬です.アラムシロっぽい巻き貝とオキシジミっぽい二枚貝とマハゼっぽい魚もいました.違うところといえば,主張してくるフグでしょうか.


ガザミ先輩こわすぎ.


 仕方がないので,潮上決戦へ移行します.
 
 翻って,ハマトビリティは凄まじいものがあります.

 小雨パラつくコンディションが良かったのでしょう.米粒とか稗粒サイズのハマトビムシがそこらじゅうをぴょこぴょこしてます.

 このような場面にも遭遇.


この画像,ずっと自前でほしかったんだよねぇ.


 ハマトビムシを観察していると…


(チクッ)


 チクッ?!


 見ると,なんとハマトビムシがアラサーサラリーマンの汚い足を齧っているではないですか!



 ハマトビムシが人を刺すという話は以前からネットで見かけましたが,どうやらスナホリムシなどと区別がつきにくいようで,誰が犯人なのか決定的な証拠に欠けていました.新潟で土左衛門にハマトビムシがたくさん付いていたとの検死結果がありますが(小関・山内 1964),遺体の損壊には寄与していないとされています.
 オーストラリアではスナホリムシが(嘘か真か)博物館の理事長の息子さんのポークビッツを噛んだ事例(※1)がありますが,種の同定が信頼できる事例は非常に乏しかったわけです.

 しかし同時に,ハマトビムシが人を刺さない証を立てるのは「悪魔の証明」の部類です.一件でも明確にハマトビムシであることが分かればこの問題は解決できると思っていたところ,思いがけずハマトビムシに噛まれても痛いことがわかったのです!
 

 齧っているのは1個体ではないようです.指の腹を齧られても何も感じませんが,指の上や足の甲にとりついた個体は確かに口元を押し付けて齧る仕草をしています.そして明らかな痛み.

 齧っていたのは未成熟オスあるいはメスのようです.その個体そのものは確保できませんでしたが,周辺でピョコピョコしている個体の中から同定が可能なサイズのものを採取してみます.

ヒメハマトビムシの近似種(Platorchestia pacifica).



 結果:勝ち(豊かなヨコエビリティに触れることはできなかったものの新知見を得た).




志賀島再戦(リベンジマッチ)篇



 戻ってきたぜ志賀島!

 今年は2ヶ所のサイトを設定しました.



 サイト1.


 恐らく,この沖で件の事故(※2)があったものと思われます.事件発生箇所に近ければタカラムシが採れるはずですが果たして…



 サイト2.


 昨年,○○な○○を採取してしまった場所ですね.記載準備の準備中です…



 サイト2の地形やヨコエビリティは見当がついているので,最干潮の前にサイト1を見てみます.
 


 要するに,ビキニのチャンネーやらが肌を焼いているようなビーチです.ビキニも観察したいところですが,こちらはあまり潮の影響を受けないため,まずヨコエビを探ります.

 


 銚子の先っぽで見たことあるような,良さげな岩場がありますね.モクとミルを主体として,アオサや短い紅藻,場所によりサンゴ藻がこんもり生えています.ウニの密度もそれなりに.

 おもむろにガサると



ドロノミ(Podocerus ).



ソコエビ(Gammaropsis).


 
ニセヒゲナガヨコエビ(Sunamphithoe ).



ミノガサヨコエビ(Phliantidae).


イソヨコエビ(Elasmopus).


チビヨコエビ(Amphilochidae).


ホヤノカンノン(Polycheria).
これは自己初.
各胸脚の指節が付着に特化している.



 もうこんなもんでいいや(疲労).

 これ以上潮が引いても地形に変化はないようです.最干潮にあわせて場所を変えます.




 サイト2.なつかしい.


 相変わらず海藻の打ち寄せがすごい.

 昨年は血眼で Orchomenella を探した末にヤバいものを拾ってしまいました.今回は Orchomenella と Eohaustorius とついでに例のヤバいものも探してみましたが,潜砂性種は全くヒットせず.粒径の問題で LNO が機能しないという難しさが浮き彫りに.



 仕方がないので潮上決戦に持ち込み,フィニッシュとしました.採れたのはPlatorchestia pacifica でした.






 さて,今回はタカラムシに会うため,サイト1に鶏肉入りの洗濯ネットを仕掛けていたのですが…



 ダメでした…


装置の設計や設置時間に問題がある気がするので,
玄界灘に沈む夕日にリベンジを誓い,
島を後にしました.



 結果:負け(岩礁のヨコエビリティを発見したものの目的にかすりもせず)

 

ベイトトラップでなぜか Jassa がよく採れる.スカベンジャーなのかお主ら(たぶん付着基質として利用しただけ).






愛知死闘篇



 東海地方へ移動します.連戦によりぎょさん装備の足はもう限界です.

「九州南部に大雨を降らせた雨雲は東へ移動」
「東海から関東は夜にかけて雨」

 やめてよぉぉっっっ!!


 伊勢湾を挟んだ三重県と,いちおう伊豆は参戦したことがあるものの,愛知のヨコエビリティは未経験です.今回は愛知のヨコエビリティを知り,愛を知り,できれば最近集め始めた Eohaustorius を採ることを目的としています.

 愛知に Eohaustorius がいることがわかっているものの,電車で行くことを考慮して新たな干潟を探すことに.


 Googleマップでは,海苔網がかなり岸の近くまで張られているのがわかりました.李下の冠,怪しい行動は慎んで慎重な採集が求められます.

 
 しかし,串カツの美味さに我を忘れ,結局どこにも連絡しないまま現場へ.




 ロープとかは張ってないのね?

 富津を思わせる密漁絶許標示と茶色がかった砂底,繁茂したアマモ.東京湾が失ったものがここにあるようです.

 やたら転がっているワタリガニの脱皮殼.時々生体.


ハサミないけど大丈夫?


これは図鑑でしか見たことがないけど
ジャノメガザミというやつか…

 潮間帯上部はアマモやコアマモの群落が占めており,その隙間の砂地にはアオサがぽつぽつと.目につくのはタマシキとアラムシロとヤドカリ.

 潮間帯を上から下に移動し,汀線に沿っても歩いてみましたが,砂の状態は非常に均質でした.河川由来の堆積物も今回見た限りでは溜まっておらず,還元化しているところもありません.リップルマークのあるところとないところがありますが,概ね地形による感じです.表層2㎝ほどはややモロモロとした感じのする褐色,その下は東京湾奥に似た黒色の海砂です.1mmの洗濯ネットでふるうと黒い粒はすっかり抜けてしまい,少しだけ透明な粒が残るのが印象的です.



 そこへ近寄ってくる人影.優しそうなおばちゃんが声をかけてきました.

 どうやら密漁監視の方のようで,タダ乗り潮干狩り客と思われたようです.干潟でアサリなんか採れてもいつもそのへんに投げてるヨコエビおじさんとしては,身に覚えのないことです.スコップ持って干潟に立ってる時点で怪しすぎますが.

 ヨコエビを採っていることを伝えようとしましたが…せや…わてまだヨコエビ採れてへんかったわ…

 おっ,コアマモの間で枯草のフリしとるんはヒメイカはん…見てくださいこのイカが食べてるのがヨコエ…


エビジャコやんけ.


 現地にヨコエビに対応する言葉がないかと色々と探ってみましたが,やべー奴というのは伝わったらしく,逆に励まされて放免となりました…


 アカン…このままやとウシロマエソコエビを採る前にワイがパクられてまう…潔白を証明するためにまず何でもいいから「見せヨコエビ」を採らないと… 蛍光グリーンの活きのいいモズミヨコエビが欲しいところです.2㎝くらいの.


 それからアマモやコアマモをガサってみたものの,大量の微小巻貝とたまにヘラムシが落ちるだけで,一向にヨコエビが出ません.
 砂地からも何も採れません.


 もしかして,ヨコエビが存在しない世界線に来てしまったのでは?


 そんなことを考えつつ,汀線付近で波に洗われていたロープに付いたアオサをガサってみると





見せヨコエビGET!

ヒゲナガヨコエビ属の一種(Ampithoe cf. tarasovi).



 こんなに立派なヒゲナガを採ったのは久々です.

 がっちりした体形や体格を見ると,かなりニッポンモバヨコエビに見えます.一応第5底節板の下縁に短い剛毛があります.第1触角の特徴などから総合的に判断しました.


アゴナガヨコエビ(Pontogeneia).

チビヨコエビ科(Amphilochidae)のなにか.


タテソコエビ科(Stenothoidae)のなにか.

 しかし,それから砂を掘れども出てくるのはオフェリアとチロリとハマグリ(チョウセン?).ハマグリを遠投するたびHPが減少し,チロリをオルタナティヴする元気もありません.

 そこへまた地元の方が,貝を採っているのか聞いてきたではありませんか!見せヨコエビの出番!ヨコエビを採っていることを説明すべく懐からヨコエビセットを取り出そうとしていると「貝じゃないならいいです」と足早に去っていくではないですか!ちょっと!見てよ!かわいいモズミん見てよ!!ねぇ!!



 そうこうしているうちに潮は満ち始め,電車の時間もあるので,諦めて潮上決戦に移行します.

 海草場が豊かなので打ち寄せ物もアマモが多いようです.おや,まだ生きているワレカラが…


 どうやら,ここのハマトビムシは1種ではないようです.


ヒメハマトビムシの近似種(Platorchestia pacifica).



スナハマトビムシ(Sinorchstia sp.). 
あっ,やべぇこんな掌縁をした咬脚の種は見たことがねぇ.
やべぇ・・・
(ニホンスナハマトビムシでもタイリクスナハマトビムシでもないです).



結果:逆転勝ち(完全ボウズではないが,圧倒的ヨコエビリティ不足はロケハン技術不足.最後にヤバいのを引いたので加点.).





愛知突撃篇



 愛知の恐ろしさを知ったヨコエビおじさんは,例のごとく地元の有識者に助言を頼み,改めて採集地を見直すことにしました.ここから本気で Eohaustorius を求めます.



 かなりの密度でナミノリケナシザルが生息しています.群れを避けて,教えてもらったポイントへ向かいます.

 やはり密漁絶許看板が立っているので浜に下りてよいか近くの方に声をかけたところ,問題ないとのこと.スナホリケナシザルに優しいのは嬉しい.



 色が少し山砂っぽいものの,細かくさらっとした砂質が良い感じです.
 1mm メッシュの通りがとても良く,かといって腐った泥もなく,堤防に囲われかなり人工的な雰囲気が漂う環境ながら,自然海岸的な健全さを感じます.汀線付近にはうんざりするほどアオサが溜まっていますが,潮通しが極めて良好で,留まることなく移動しているようです.アオサだまりからやや下がるとアマモ場が広がっていて,その間にワタリガニやらタコやらが潜んでいるようです.


超 怖くね?

アミメキンセンガニというやつだろうか.


 あとは,夥しい稚魚,稚ガニ,貝形虫が印象的です.




ドロソコ(Grandidierella).
なぜか小さい個体しか採れない.




ウシロマエソコエビ(Eohaustorius).

 やったぜ.


 しかし,よく採れる場所を探し当てるまでにかなりの時間を使ってしまいました.それに小さいものばかり.
 Eohaustorius は,冬季のみ大型個体でしのぎ夏季に短いスパンで小型個体が出現するナミノリソコエビと異なり,通年で大型個体がいるはず.
 なお,持ち帰って形態を確認したところ,たいへんまずいことが発覚しました.これはまたいつの日か・・・

 

 硬い基質も見てみましょう.
 岩場の海藻をガサるとモクズとかいろいろ.少し小さめ.半ば干上がった岩の上まで歩いていて根性を感じました.

ヒゲナガヨコエビ(Ampithoe).



 そろそろタイムリミット.
 ナミノリケナシザルをかわしながらすでにハマトビリティの高さは感じていました.


プラゴミ少なくアマモがこんなに.
この海岸管理は全国のサーフスポットが真似してほしい.




 潮上決戦は残った時間でサクッとをキメたいところ.


スナハマトビムシ(Sinorchstia).

 あれ?ヒメハマは?

 ナミノリケナシザルの生息域では普通にヒメハマがいた気がします.確保しておくべきでした.これはまた後日かな…


 
 結果:辛勝(目的外のヤバいのを引いてしまった).






 総括.
 ”見せヨコエビ”以外は悉く狙いを外れ,実力不足を思い知らされました.愛知二日目は一応属レベルで目的を果たせたものの,欲しかったのは既知種の複数ポイントのサンプルであったため,今後の研究に対しては厳しい展開となりました.これは仕方ないけどね~
 とりあえず藻があればよい磯と比べて,干潟の潜砂性ヨコエビの生息密度は細かい底質状況に左右され,現場でもしばらく流してみないと狙ったヨコエビを得るのは難しいです.ヨコエビの情報がなくとも,既存の報告書などから現場の雰囲気を察知してヨコエビリティを推し量ることができればよいのですが…

 あとは,ターゲットとなる潜砂性ヨコエビの生態特性と,ヨコエビおじさんの採集スタイルとの乖離です.
 電車で移動して岸から歩いてエントリーする都合上,胴長と洗濯ネットが関の山です.盤州干潟でも潜砂ヨコエビはかなり潮下帯での活性が高かったので,メインハビタットに至らず,採集効率が悪い可能性があります.





※1:アンドリュー・ホジー氏(西オーストラリア博物館)の証言.
”このニュース記事を見てすぐ,私は博物館のコレクションにあるPseudolana concinna(スナホリムシ科)の標本のことを思い出した.
 これは1959年の夏にパース海岸にほど近いロットネスト島(西オーストラリア)で採集されたものだ.古い登記書類にはこのような備考がある ”水辺に座っていた小さな子供のペニスに取り付いて食らいついてた;非常に出血していた”.確証はないが,その小さな子供は,当時の西オーストラリア博物館理事長の息子だったと考えられる.”


※2:永田ほか (1967) の事例.
  投錨して操業していた小型漁船が鉄船にぶつけられ,漁師の男性が変わり果てた姿で発見された事件.ヨコエビによる蚕食事例として著名.


(参考文献)
— 小関恒雄・山内峻呉 1964. 水中死体の水生動物による死後損傷. 日本法医学雑誌, 18 (1): 12–20.
— 永田武明・福元孝三郎・小嶋亨 1967. フトヒゲソコエビ及びウミホタルによる水中死体損壊例. 日本法医学雑誌, 21(5): 524–530.

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補遺 (15-VIII-2024)
・一部書式設定変更。

2019年6月4日火曜日

後ろ前旅情(6月度活動報告)


 このたび,縁あって,ウシロマエソコエビ(Eohaustorius)属を集めるプロジェクトに参加することになりました.

 ウシロマエソコエビ属は,多くのヨコエビ類において前向きについている第4胸脚が後ろ向きについていることから名付けられました(石丸 私信).


 ヨコエビ属(Gammarus)はオーソドックスな体制を具えたヨコエビ.
第3,4胸脚は形状が互いに似ており,第1,2咬脚と同じく前方向へ向かって生えている.
第5~7胸脚は前者と異なる形状をして,
後ろ方向へ向かって生えている.歩く時の機能も異なる.
 ウシロマエソコエビ属(Eohaustorius)の第4胸脚は後ろ向きに生えており,
形状も第5~7胸脚に似ている.


  日本におけるウシロマエソコエビの記録は,天草地方(富岡湾)の潮下帯からスナウシロマエソコエビ(Eohaustorius subulicola)が記載されているほか,東京湾からは E. setulosus が報告されています(小川 2011;山田 2015).

 E. subulicola は第3腹側板後角が独特なカーブを描いて上向きに曲がっている点で,同属の他種と識別できます(生態や分布の詳細は,有山 (2012) 参照のこと).

 E. setulosus は韓国で記載された種であり,日本の生息状況は十分に解明されていません.山田 (2015) は漁業資源である二枚貝などとともに朝鮮半島から持ち込まれた外来種と推測しており,私もその説を支持します.盤州干潟の潮間帯では,山田氏の記録では遅くとも2004年には本種が採れているとようです.また,私の手元のサンプルを確認する限り2010年から昨年まで本種が採れています.これらのことから,本種が盤州干潟に定着しているのは確実と考えられます.また,実際に繁殖していると思われる状況をたびたび確認しています.




 さて,今回は特定の種を狙って採るミッションです.このため,かなりの土地勘を要します.しかも,岩礁や海藻など空からの写真で像が分かるものとは異なり,砂地を追いかけねばならず,圧倒的に経験値が足りません.自力ではどうしようもないため,過去の採集場所を教えて頂きました.


近畿地方某所.




 サーファーがいっぱいいますね.驚くべきことに,スナウシロマエソコエビを求める人は私の他にはいないようです!どうやらここは,そういう場所のようです.あの腹側板のカールは,絶対見ておいたほうがいいと思うんですがねぇ…


 ウシロマエソコエビといえば,遠浅で汀線まで歩いて1時間かかる盤州干潟のイメージがありました.
 一方,今回の調査地は遠浅には違いないですが,20㎝の干潮では幾つかの瀬が浮くだけで全体的に地盤が低いようです.海岸草地から汀線へのアクセスはしやすく,コンパクトな砂浜に思えます.



 さて,いつものように洗濯ネット作戦.


 しかし,細目ネットは砂が抜けない.


 どうやらこのあたりは粒径が粗く,ちょうど目合いと同じサイズの砂粒が優占しているらしく,ヨコエビと一緒にネット上へ残ってしまうようです.効率が悪すぎる.
 

 2mm目開きの中目ネットも投入します.

中目での残留物.アカン.


 しかしこれでは肝心のヨコエビが抜けてしまう.


 引き潮のはずなのにひっきりなしにそれなりの大きさの波がやってきます.サーファーには良いのでしょうが,こちらにとってはだいぶつらい…


 何も採れないのは,精神衛生上よくありません.モチベーション維持のため,絶対にハズレのない海藻ガサりもやっておきます.


ヒゲナガヨコエビ科(Ampithoidae).
よく見たらヤバい奴かもしれない.


カマキリヨコエビ科(Ischyroceridae).




ドロクダムシ科(Corophiidae).



アゴナガヨコエビ科(Pontogeneiidae).でかめ.



タテソコエビ科(Stenothoidae).


 同定できる/できないで言えば,あまり安心できるメンバーではありませんが,良しとします.



 潮間帯を右往左往してみたところ,細目洗濯ネットで濾せるところもあるようです.粒径としては,お馴染みの東京湾の砂干潟に近いと思われます.

 粒径が細かい場所を中心に洗濯ネット作戦を展開したところ,効率がアップしたお陰か,基質の選好性があるのか,粗い場所よりよく採れる気がする!


 たくさんいたのがクチバシソコエビ科(Oedicerotidae).過去,一度にこんな大量にクチバシソコエビを採ったことはない,というくらい採れます.盤州ではかなりレアキャラなのですが,ここではウシロマエソコエビより遥かに採りやすいです.
 


第1咬脚は亜はさみ状で掌縁が直角にならない;
第2咬脚はハサミ状で,前節と腕節の癒合していない箇所は指節と同長程度;
第7胸脚基節後縁が下垂する;
などの特徴により,Eochelidium属と同定しました.



マルソコエビ科(Urothoidae).目がかわいい.


ヒサシソコエビ科(Phoxocephalidae)の一種.
標本はもらったことがあるものの同定したことが無いため,
今回は科止めで.


  ヒサシソコエビ科は自己初採集.頭頂が平たく両刃剣のように前方へ突出していて,めちゃくちゃカッコいいです.そして2秒で砂に潜り込む早業.



 そして・・・

スナウシロマエソコエビ(Eohaustorius subulicola)の第3腹側板のカールに注目.


 やりました.


 現場では属がせいぜいですが,持ち帰って検鏡したところ,今回のターゲットであるスナウシロマエソコエビ(Eohaustorius subulicola)と判明しました(解剖していないので厳密にはアレですが・・・).

 Hirayama (1985) に記された図を最初に見たとき,正直何かの冗談にさえ思えた第3腹側板のカールは,確かに実在しました.この形質にどのような意味があるのかは分かりませんが,とりあえず我々にとっては手っ取り早く見分けるポイントとしてありがたいです.

 落射光写真ではあまり形がわかりませんがご容赦下さい.




 潮も満ちてきたので潮上決戦に向かいます.

 海岸は意外とハマトビリティが薄く,厳選した海藻をめくると奥深くから Platorchestia pacifica が出てきました.過去の研究では,近畿から色々と愉快なハマトビムシが報告されているのですが,今回は出会えず.



 総括.

 目的のサンプルを得ることができましたが,もう少し潮位にこだわったほうがよい気がしました.また,基本的に潮間帯上部での活動を想定している採集用具も,潮間帯下部の採集を意識して改善したいと思います.もうじき,大きな個体が採れない時期に差し掛かってくると思われるので,追加でやるならいつやるかを考えなければいけません.




(参考文献・web)
— 有山啓之 2012. スナウシロマエソコエビ. In: 日本ベントス学会 (編) 『干潟の絶滅危惧動物図鑑 海岸ベントスのレッドデータブック』. 320pp. 東海大学出版会, 平塚. ISBN978-4-486-01943-5 C3645
— Hirayama, A. 1985. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan — IV. Dexaminidae (Guernea), Eophiliantidae, Eusiridae, Haustoriidae, Hyalidae, Ischyroceridae. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 30(1/3): 1–53.
— Jo, Y. W. 1990. Four new species of sand-burrowing haustoriid Amphipoda (Crustacea) of Korea. Bulletin Zoölogisch Museum, 12(9): 117–144.
— 小川洋 2011. 東京湾のヨコエビガイドブック. open edition ver.1.3. web publication. 140p.
— 山田一之 2015. Eohaustorius setulosus Jo, 1990.MIAW.(作成日:2008年6月30日;最終更新日:2015年5月14日;閲覧日:2019年6月2日)