2018年3月25日日曜日

盤州に懲りずに(3月度活動報告)



 ヨコエビの季節、春がやってきました。皆さまいかがワシャワシャされていますでしょうか。


 もう少しサンプルが欲しいと思い、件のヨコエビの採集を企てました。3月で予報最高18℃とはいえ絶対寒いです。


 前回から一ヶ月ぶりの盤州です。




 小櫃川沿いにはかなり巣穴が増えています。








 この足跡は…
 


Helice tridens
アシハラ殿でござったか…

 カニが多く、先月とはかなり様子が違います。





 前浜に移動します。


 天気は良いです。

 
最干潮は千葉港で16時頃に44㎝、まずまずの潮回り。



 打ち上げ海藻は全く溜まっていません。

 仕方なく流木を引っくり返すと、今、物議を醸しているPlatorchestiaヒメハマトビムシ属がぴょんぴょんと。
 どれも小さい個体ばかりなので捕まえません。



 干出面にカラスがヒチコクってた(鳥が群れて何やら威圧感を放っている様子)ので、何かあるのかと思って見てみると、


まわりには鳥の足跡多数


 カラスによると思われる材割りの形跡が…

 一通り楽しんで諦めたようです。さて、何となく想像できますが、何が彼らを駆り立てたのか…





 やっぱりね



存在感のあるこつぶ


 どうやらコツブ長屋だったようです。


 せっかくなので、眼光鋭いカラスを尻目に、文明の利器樹脂スコップを用いてヨコエビを探します。





 この背中は…

ドロソコエビ属♀

 Grandidierellaドロソコエビ属のメスです。
 材に穿孔するという話は聞いたことがありませんが、コツブ長屋の間借りでしょう。



 さらにほじほじすると、Ptilohyale barbicornisフサゲモクズのオスです。

フサゲモクズ♂

 そして今、世間を騒がせているPlatorchestiaヒメハマトビムシ属も、ひょこっと出てきました。これは成熟オスではなかったのでリリース。






 これまたヨコエビリティの高そうな流木が。









Crab house Kisarazu


 こちらはクラブハウスでした。

 最高潮のアゲアゲ真っ最中に失礼します。

 こちらも有扇類と、わずかにメリタがいました。

 






 汀線まわりをうろつきます。





群体ボヤのように見える


 怪しい物体を拾います。


 ここでJassaカマキリヨコエビ属を確保。

カマキリヨコエビ属

  いくらガシャガシャやってもこれ以上出てきませんでした。両方ともオスじゃないっぽいです。


 たぶんヤバいやつなので厳重に保管しておきます。







 海綿ですね。

 ほじほじすると、見慣れないピンクいボディが…

マルハサミヨコエビ科の仲間
 melochelateかっこよすぎか。


 Leucothoidaeマルハサミヨコエビ科ですね。これは自己初の科です。感動です。

 東京湾にどんな種がいるのか、あまり分かっていません。とりあえず今回は科まで…

 第2咬脚でパンチする様子が見れました。普段は何使いなんでしょうか…




 そしてElasmopusイソヨコエビ属も確保。
イソヨコエビ属の一種

 その名の通り磯系すなわち硬質基質でよく見られ、海綿との相性は良い印象です。


 赤い物体Xも、黄色い海綿も、元のハビタットからちぎれて流れてきたものと思われます。河口域なのか、それとも別の硬質環境なのか、ちょっと気になります。







 フレッシュなアオサと、よく育った紅藻があちこちにみられました。端脚シーズン到来と言って良いでしょう。


 UlvaアオサにはEogammarusトゲオヨコエビ属やPtilohyale barbicornisフサゲモクズのメス,Paragrandidierella minimaヒメドロソコエビが付いていました。あっ、でもワレカラはいない…(先月の方がまだいたかも)


たぶんポシェットトゲオヨコエビ




 更に沖に向かうと、Zostera marinaアマモのパッチが広がっていました。




 アマモの根元に落ち葉が溜まり、周りの干潟面は泥や土が覆っています。



 アマモの葉の間を、波紋を立てるくらいの勢いで泳いでいるやつが見えました。


 すくってみると…


アゴナガヨコエビの仲間
 右がラヴ・プリズン前。複眼に光が反射して白く見える。


 Pontogeneiaアゴナガヨコエビ属のようです。

 捕食性のはずなので、こうしてアマモ場のプランクトンなどを食べているのかもしれません。





 今回、目的のヨコエビを得るため、我が師より道具を授けられています。




 1mmメッシュネットです。



 前回はスコップで網に乗せたりしたので、今回は更に人間ドレッジを試してみます。



 採れない。



 採れませんねぇ。



 目的としたヨコエビは坊主と相成りました。




 前回同様のヒゲツノっぽいメリタは採れたので、ポイントや方法に間違いはないはずですが、全くかかりません。




ヒメドロソコエビ


 Paragrandidierella minima ヒメドロソコエビ、そしてクーマとエビジャコが多いです。


かっこいいクーマがいた




 それと、7年ぶりにEohaustoriusウシロマエソコエビ属を拝むことができました。大型個体と小型個体が採れたので、越冬個体の産仔が始まっているようです。

 『東京湾のヨコエビガイドブック』ではEohaustorius sp.となっていますが、こちらのwebページにて韓国のE. setulosusではないかと指摘されています。今回のも見たところ2010年ごろに採れたのと同じような感じがします。







 そして残念ながら、潜砂性のサンプルについては現場にて紛失してしまいました。目当てのものが入っていなかったとはいえへこみます…


 今回は3時間程度の採集で10科11属が集まりました。盤州干潟恐るべしといったところです。

2018年3月19日月曜日

2018年のヨコエビギナーたちへ(文献紹介第四弾)



 ヨコエビ文献紹介も第4弾となりました。

 幾度となく能書きは垂れていますが、ヨコエビギナーはまず文献探しのハードルが高いと思われるため、新規加入個体数が多いと思われる4月を意識して、毎年この時期にこのような記事を掲載しています。過去の紹介文献は以下の通りです。


(第一弾)
・富川・森野 (2009) ヨコエビ類の描画方法
・小川 (2011) 東京湾のヨコエビガイドブック
・石丸 (1985) ヨコエビ類の研究方法
・Chapman (2007) "Chapman Chapter" In: Carlton Light and Smith Manual (West coast of USA)
・平山 (1995) In: 西村 海岸動物図鑑
・Barnard & Karaman (1991) World Families and Genera of Marine gammaridean Amphipoda


(第二弾)
・Lowry & Myers (2013) Phylogeny and Classification of the Senticaudata
・World Amphipod Database / Amphipod Newsletter
・富川・森野 (2012) 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方
・Arimoto (1976) Taxonomic studies of Caprellids
・Takeuchi (1999) Checklist and bibliography of the Caprellidea
・森野 (2015) In: 青木 日本産土壌動物


(第三弾)
・有山 (2016) ヨコエビとはどんな動物か
・森野・向井 (2016) 日本のハマトビムシ類
・Tomikawa (2017) Freshwater and Terrestrial amphipod In: Species Diversity of Animals in Japan
・Bousfield (1973) Shallow-Water Gammaridean Amphipoda of New England
・Ishimaru (1994) Catalogue of gammaridean and ingolfiellidean amphipod
・椎野 (1964) 動物系統分類学




<課題図書>

Lowry, J.K. and A.A. Myers 2017. A Phylogeny and Classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265 (1): 1–89.

 2013年にヨコエビ類の分類体系が抜本的に見直され、現在もアツい議論が続いていますが、この一連の動きの最終形態となる本研究(Lowry & Myers, 2017)では、インゴルフィエラ亜目を独立した目として建てるという人事異動に加えて、長らく親しまれたGammarideaヨコエビ亜目が消滅するという大事件が起きましたので、絶対に要チェックです。マストです。マストヨコエビです。来週までに目を通しておいてください(何様)。
 ヨコエビの新体制については過去のブログにて、Senticaudata亜目のリストやらGammaridea亡き後の世界やら新体制のヤバさやらについて取り上げたりしていますのでご覧ください。



<おすすめ>

Bellan-Santini, D. 2015. Order Amphipoda Latreille, 1816. In: Klein, C.V. (ed.) Treatise on Zoology - Anatomy, Taxonomy, Biology. The Crustacea, Volume 5, pp 93-248. E-ISBN: 9789004232518. Chapter DOI: 10.1163/9789004232518_006.

 個人的にヨコエビのバイブル認定をしている記事です。これは本当にすごいです。タイトルにありますが、解剖学,分類学,生物学(生理,発生,生態,行動,進化)などの基礎情報がぎっしり詰まって150Pです。もちろん各分野の詳細を知るには、それぞれの書籍や論文をあたるべきですが、広く概要を知ることができる文献は貴重です。引用文献リストからそれぞれの研究をたどっていくことができます。




・Hirayama, A. 1983-1988. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan. Part Ⅰ, Part Ⅱ, Part Ⅲ, Part Ⅳ, Part Ⅴ, Part Ⅵ, Part Ⅶ, Part Ⅷ. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory.

 ヨコエビ研究のレジェンドこと平山明氏が九州大学博士課程の研究 (平山, 1982) において集積した膨大な知見を、瀬戸臨海実験所紀要に連載したもので、まさしく「ヨコエビ A to Z」と呼べるほど非常に高い網羅性をもち、日本のヨコエビ研究の一つの節目であり頂点と言えるでしょう。紹介するのが遅すぎたくらいですが、そんな伝説の書が今なら無料で読み放題ですので、まあとりあえず今日からでもお読みください。Lowry & Myers (2017) 以前どころか Barnard & Karaman (1991) より前の世代の文献ですので、言うまでもなく分類は少し古いです(下のリストで補足をさせていただきました)。

Part Ⅰ.
(Hirayama, 1983)
Acanthonotozomatidae科
Ampeliscidaeスガメソコエビ科
Ampithoidaeヒゲナガヨコエビ科
Amphilochidaeチビヨコエビ科
Anamixidaeクチナシヨコエビ科
Argissidaeヒヨリミヨコエビ科
Atylidaeフタハナヨコエビ科
Colomastigidaeツツヨコエビ科

Part Ⅱ.
(Hirayama, 1984a)
Corophiidaeドロクダムシ科

Part Ⅲ.
(Hirayama, 1984b) 
Dexaminidaeエンマヨコエビ科
Polycheriaホヤノカンノン属,Paradexamineトゲホホヨコエビ属)

Part Ⅳ.   
 (Hirayama, 1985a)
Dexaminidaeエンマヨコエビ科(Guerneaテッポウダマ属)
Eophiliantidaeネクイムシ科
Eusiridaeテンロウヨコエビ科
Haustoriidaeツノヒゲソコエビ科
Hyalidaeモクズヨコエビ科
Ischyroceridaeカマキリヨコエビ科

Part Ⅴ.
(Hirayama, 1985b) 
Leucothoidaeマルハサミヨコエビ科
Liljeborgiidaeトゲヨコエビ科
Lysianassidaeフトヒゲソコエビ科⇒Lysianassoidaeフトヒゲソコエビ上科
Pachynidae科(Prachynellaチョウチンソコエビ属),
Aristiidae科(Aristiasフカゾリソコエビ属), 
Endevouridae科(Ensayaraアシュラソコエビ属),
Lysianassidaeフトヒゲソコエビ科
Waldeckiaムチヒゲソコエビ属,
Lepidepecreumヒメグシソコエビ属,
Hippomedonシデムシソコエビ属),
Uristidae科(Anonyxツノアゲソコエビ属)}

Part Ⅵ.   
 (Hirayama, 1986) 
Lysianassidaeフトヒゲソコエビ科(Orchomeneツノフトソコエビ属)
Megaluropusウチワヨコエビ科群
Melitidesメリタヨコエビ類⇒Hadzioidaeハッジヨコエビ上科
CottesloeGammarellaマルヨコエビ属,
Jerbarniaテンビンヨコエビ属⇒Maerellaポックリヨコエビ属,
Maeraスンナリヨコエビ属,Ceradocusノコギリヨコエビ属,
Eriopisellaセンドウヨコエビ属,Dulichiellaウチデノコヅチ属)

Part Ⅶ.   
 (Hirayama, 1987) 
Melitidaeメリタヨコエビ科(Melitaメリタヨコエビ属)
Melphidippidaeサカサヨコエビ科
Oedicerotidaeクチバシソコエビ科
Philiantidaeミノガサヨコエビ科
Phoxocephalidaeヒサシソコエビ科

Part Ⅷ.   
 (Hirayama, 1988) 
Pleustidaeテングヨコエビ科
Podoceridaeドロノミ科
Priscomilitaridaeキシドウヨコエビ科
Stenothoidaeタテソコエビ科
Synopiidaeフクスケヨコエビ科
Urothoidaeマルソコエビ科

*full citation
- 平山明 1982. Taxonomic study of shallow water gammaridean Amphipoda of west Kyushu, Japan (西九州浅海産端脚目ヨコエビ類の分類学的研究). 九州大学博士論文.
- Hirayama, A. 1983. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan. - I. Acanthonotozomatidae, Ampeliscidae, Ampithoidae, Amphilochidae, Anamixidae, Argissidae, Atylidae and Colomastigidae. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 28(1/4): 75-150.
- Hirayama, A. 1984a. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan - II. Corophiidae. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 29(1/3): 1-92.
- Hirayama, A. 1984b. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan - III. Dexaminidae (Polycheria and Paradexamine). Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 29(4-6): 187-230.
- Hirayama, A. 1985a. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan - IV. Dexaminidae (Guernea), Eophiliantidae, Eusiridae, Haustoriidae, Hyalidae, Ischyroceridae. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 30(1/3): 1-53.
- Hirayama, A. 1985b. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan - V. Leucothoidae, Liljeborgiidae, Lysianassidae (Prachynella, Aristias, Waldeckia, Ensayara, Lepidepecreum, Hippomedon and Anonyx). Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 30(4-6): 167-212.
- Hirayama, A. 1986. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan - VI. Lysianassidae (Orchomene), Megaluropus family group, Melitides (Cottesloe, Jerbarnia, Maera, Ceradocus, Eriopisella, Dulichiella). Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 31(1/2): 1-35.
- Hirayama, A. 1987. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan - VII. Melitidae (Melita), Melphidippidae, Oedicerotidae, Philiantidae and Phoxocephalidae. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 32(1-3): 1-62.
- Hirayama, A. 1988. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan - VIII. Pleustidae, Podoceridae, Priscomilitaridae, Stenothoidae, Synopiidae and Urothoidae. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 33(1-3): 39-77.




・井上久夫 2012. 茨城県の海産小型甲殻類 III. ヨコエビ相(端脚目,ヨコエビ亜目). 茨城生物, 32: 9-16.

 茨城県の沿岸で採れる海産ヨコエビについて、科レベルの検索表を提供しています。関東周辺では概ね適用可能と思われます。この文献はヒゲナガヨコエビ問題について久保島(1989)を採用するという独自のスタンスを貫いており、Ampithoe shimizuensisとモズミヨコエビA. validaA. japonicaとニッポンモバヨコエビA. lacertosaをそれぞれ別種として扱ったりしています。入手困難文献ですが沿岸性ヨコエビをやられる方はぜひ。

※ヒゲナガヨコエビ問題:日本産ヒゲナガヨコエビ属の分類に不確定要素があり、普通種においてシノニムの再検討が必要と思われる状況のこと。



・永田樹三 1975. 端脚類の分類. 海洋科学, 104(7) : 127-134.

 旧ソ連が行った海洋プランクトンの調査結果を日本語でまとめたものです。ヨコエビ類とクラゲノミ亜目の様々な科を横断的に紹介しており、和名が未設定であるなど今の知見と異なる部分もありますが、平山(1995)など沿岸を対象にした文献でカバーされていないグループに触れることができる貴重な日本語の資料です。



菊池泰二 1986. 第一編 ヨコエビ類の分類検索, 及び生態, 生活史に関する研究. In: ヨコエビ類の生物生産に関する基礎研究. 昭和60年度農林水作業特別試験研究費補助金による研究報告書. pp.9-24.

 マニアックですが、日本の浅海性ヨコエビを俯瞰するにあたり重要な文献です。
 日本の代表的なヨコエビの生態について、概要を知ることができます。海外の幾つかの研究を引いており、知見を広げることができるようにもなっています。



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 さて、基礎的な文献を読んだ後、いかにして必要な文献を入手するか、というところ。


 まず 普通にググってみましょう。ソースは様々ですがいろいろヒットします。

 大学では提携しているサービスがあって、それを推奨しているかもしれませんが、それだけで文献が網羅できるわけではありません。


 タイトルをググるとヒットする、ヨコエビの文献がアップされている主なサービスと得意分野は以下の通り。

Biodiversity Heritage Library(古い文献がどんどんアップロードされている)
CiNii(国内の雑誌や書籍の所在を教えてくれる;提携していれば強いが大人の事情で無料で読める論文が減ってしまった)
Google Scholar(新旧の世界の文献;名寄せ機能に定評がある)
J-Stage(主に国内の雑誌;CiNiiで読めなくなった文献も一部が移行している;提携していれば強い)
NDL search(国内の出版物;特に博論においては無双)
Research Gate(新しめの論文の本文が落ちてたりする;登録は簡単)



 Citationが完全であれば、これらのサイトに入って検索しなくてもググれば横断的に探せてだいたいヒットします。凡庸なタイトルでなければ、タイトルの一部を入力しただけで行けます。著者名や年号は、表記にズレが出たり他の情報を巻き込む要因になるのであまりお勧めできません。

 これらのサイトは雑誌名や出版年などで検索ができるので、Citationが完全でない場合や書籍の一部の記事だったりする場合など、タイトルでの検索でうまくいかない時の絞り込みにも適しています。また、キーワード検索を行うと思わぬ文献が見つかったりするのでそういう使い方も良いです。

 文献そのものが入手できなくとも、Citationをゲットできれば司書さんにおねだりできます。ただ、複写料がかかったりするので、タダで入手できるものは予め落としておいたほうがよいですね。

 この司書さんへのおねだりというのは学費の対価として大学生が行使できる特権です。学生でない人間には手が届きません。
 かつて国会図書館や県立図書館に問い合わせを行ったりしましたが、 国立国会図書館は海外文献に弱いのと、県立図書館からは「そんなマニアックな資料なににつかうの研究機関で取り寄せなさいよ」的な訝しがるメールが来ました。世知辛い世の中です。


 また、掲載されているジャーナルのサイトから探して閲覧することもできます。

 雑誌名を知らなくても、このへんにアクセスしてキーワードを叩いたりバックナンバーを漁ったりするとかなり文献と出会えます。
(京大の学術情報データベース;過去の瀬戸臨海実験所紀要はここから入手可能)
Springer(Oecologia,Marine Biologyなどかなり幅広い雑誌を手掛けている出版社;物により無料公開) 


 ヨコエビの分類に関する論文がよく掲載されるのはだいたいこのへんです。平日は毎日更新されるので常時監視をおすすめします。
Zookeys
Zootaxa


 このへんにもたまに載ります。
Crustaceana
European Journal of Taxonomy
Journal of Crustacean Biology
Scientific Report
Species Diversity


 Zootaxaは大学が提携しているので、学生さんは普通に読めることが多いかと思います。無料公開は少ないですが、提携のない場合でも1本から買うこともできます。
 Zookeysは無料なので野良研究者にはありがたいです。


 生理や生態に関しては非常に多岐にわたりますが、それぞれのテーマの学会誌からあたるのが良いかと思います。


  



 


<参考文献> ※文献紹介1~4弾で紹介していないもの
- 久保島康子 1989. 日本におけるAmpithoe属(Ampithoidae)の分類学的研究. 茨城大学大学院理学研究科修士論文.



2018年3月12日月曜日

ハマトビオフ 潮上決戦(3月度活動報告)


 昨年7月に「端脚オフ」を開催して半年以上。
 更なるヨコエビのポテンシャルを追究すべく、再び『ガタガール』シリーズの作者である小原ヨシツグ氏とともに、「ハマトビオフ」を企画しました。


 九十九里のロケハンと同様、後背草地の感じられる砂浜をターゲットとし、なおかつ今回はなるべく多くの属を得られるよう、礫っぽさと磯っぽさを追加しました。


  諸々の事情から着想・企画・実施のスパンが極めて短く、ロケハンもグーグルマップで済ませるというおよそ人様をお招きして良い状況ではなかったのですが、幸いにもお声かけした方々の何人かと日程が合ったので、何とかオフ会0人を回避することができました。


 今回は「潮上決戦」と題し、どれだけ多くの種類のハマトビムシを集められるかを競います(すいません今考えました)。




 朝、集合したのはこちら。

 ツイッターで見かけた時は笑いましたが、こういうふざk・・・粋なことをする鉄道会社もあるのですね。


 三浦半島の西岸。
 港がひしめきあう辺りで、釣り人には人気のスポットのようです。
 「横須賀のヨコエビ」 というのも韻を踏んでいてなかなか良さげです(?)。



潮上決戦に挑む勇者たちです

 海藻は打ちあがっているものの、ピョンピョンしている虫はみあたりません。
 船をしょっちゅう上げ下げしているのでしょう、砂浜は踏み荒らされてあまり安定した隠れ場所がないのかもしれません。


 今日は小潮でしかもほぼ満潮の時間にフィールドに到着したため、漁師さんに訝しがられましたが、にこやかに挨拶を交わした後、一同めいめいに海藻やら石やらをめくります。


 砂質はかなり粒が大きく、川砂やら貝殻やら植物片やらが多く不均質でした。




このツヤは・・・


  
ヒメハマトビムシ種群です



 気温は手元の温度計で12℃程度。寒いせいかハマトビがほぼ跳びません。掘った砂に目を凝らすと丸まっていて、簡単に手で採れる状態でした。

 今回は人数が多いためあちこち探しながらかなり個体数が集まりました。それでも恐らくまだまだ砂に紛れて隠れていることでしょう。



  多様な手法を試すということで、かつて伊豆で使用した最終(採集)兵器「沈黙を抱く湖(エキストラハイパートニック)」の威力をご披露しましょう。


 跳ねない・・・


 EHT法の利点はあちこちに飛び跳ねて分散するハマトビムシを面で受け止めることですが、何しろハマトビが跳ねないためその真価が発揮されません

 仕方がないので見つけたハマトビを沈めて捕獲します。


 高張液の中ではオスのハマトビは脱出できずジタバタしていますが、メスは縁から登っていきます。恐るべし。水深をとらないとEHT法とはいえどもハマトビの生命力には太刀打ちできないということでしょう。




 少し進むと、家の土台が朽ちたような場所がありました。

 コンクリートの枠に砕石やコンクリート片がガラガラと溜まり、落ち葉と混ざっているような場所です。


 磯的環境かつ安定した潮上帯環境ということで、 石をどかしてキタフナムシを物色していると、おやどこかで見たような背中が・・・



ミナミホソハマトビムシ。参加者の間でもデカいと話題に。


 いつぞやぶりのミナミホソハマトビムシPyatakovestia iwasaiでした。

 卒論生当時、さる方に生体を提供していただいたことがありますが、そういえば当時は未記載種だったわけですねこれは(汗)



 

 南三陸にてホソハマトビムシPyatakovestia pyatakoviを捕獲したのは礫浜に打ちあがった海藻下でした。
 ホソハマトビムシ属は砂質より石を好み、海藻だけでなく落ち葉のような植物質も利用しているようです。
 また、このガラの下は見た感じ有機物の多い泥質となっていて、このグループは海岸林の縁のような場所にも生息できるのかもしれません。


 ちなみにこちらがそのホソハマトビムシP. pyatakoviです。

南三陸町産 無印ホソハマトビムシ





お わ か り い た だ け た だ ろ う か ?





 第1尾肢の外肢にトゲがあるのがホソハマトビムシP. pyatakoviで、トゲがなくツルツルしているのがミナミホソハマトビムシP. iwasaiです。


 このホソハマゾーンの近くにはヒメハマトビムシ種群も出現していて、連中の環境選好性の幅広さを実感しました。








 この後、 2時間半ほどさまよいましたが、なかなか良い砂浜がなく、体力の消耗も激しいので、半ばヤケになってハマトビ以外のヨコエビを探すという暴挙に出たりもしました。

地元の方も浜に出ていたのでハマトビを探しているのかと思ったら違った


浜から続く岩場。漂着物なし。絶対ハマトビはいない。


 石を洗って落ちるメリタを小原氏に渡しつつ、潮上決戦がもはやなし崩し的に潮間帯にその舞台を移してしばし経った頃、石からぽとりとヨコエビが落ちました。



モクズヨコエビ科の一種


 モクズヨコエビ gen. sp. です。


 交尾前ガード中のペアを採ることができましたが、一部険しい形質があり、Bousfield & Hendrycks (2002) のキーが進みません。今後の課題とします。

 とりあえず今回の採集では、ハマトビムシ上科2科3属3種を数えることができたようです。まずまずの成果と言えるのではないでしょうか(強引)。


 寒い中お付き合いいただいた皆様、誠にありがとうございました。






~~~~~



 では、持ち帰ったヒメハマトビムシ種群をさっそく同定してみます。このグループにはいろいろ難しいことがあるのですが、今回はそのへんを勘弁して頂き、簡便な咬脚の剛毛を使います。



・・・これjoiやん。


オス:前節下縁に剛毛がある
 メス:掌縁に剛毛がある





 お わ か り い た だ け た だ ろ う か ?





  今回のヒメハマトビムシは、どうやらほとんどがPlatorchestia joiだったようです。オス第2咬脚下縁の剛毛を見たのは初めてです。感動ものです。



 ちなみにこちらが三番瀬産のPlatorchestia pacificaですが、

三番瀬産のヒメハマトビムシ属の一種(Platorchestia pacifica) オス第2咬脚前節下縁は剛毛を欠きツルツルしている。

 ぱっと見ぜんぜん変わらん。



 形態分類はもちろん形質のコンビネーションが重要なので、今回検討していない腹肢裏側の剛毛の本数など、他の形質をチェックすれば、もっと分かることはあるかと思います。しかし、ここまで普通に似ているとどうしたらよいものか・・・

  あと、恐ろしいことに、1頭だけ、その箇所に剛毛がないオスが採れました。
  なんということでしょう・・・

 とりあえず然るべきルートに流します(逃走)。

※専門家による精査の結果、「P. joi っぽい P. pacifica」との知見が示されました。










  このjoipacificaの問題について、密かに妄想していたのは、Inoue (1979) という文献で、当時でいうところのOrchestia platensisに2つの系統があるという主張がされていた件です。もしかしてそれが今世間を騒がせているヒメハマトビムシ種群に解決の糸口となるのでは・・・?という淡い期待を胸に、早速形態を確認してみます。

  Inoue (1979)では第7胸節背面の紋を11種類くらいに分類し、それを4タイプとして扱って関係性を見ました。結論として、タイプ1のみが独立し、残りのタイプは相互に変異するということが分かったようです。

 このタイプ1というのは、全体的に逆Y字あるいは六の字で、他のタイプではよく目立つ背の真ん中を走る黒い帯が、終端に少しだけある、というようなものなのですが・・・



 pacificaがタイプ1じゃね・・・?

 今回のハマトビオフで得られたヒメハマトビムシ種群については、第2咬脚前節下縁に毛の無かったオスも含め、20個体近くを観察しましたが、いずれも節の中央を通る筋は上部の黒色斑とつながるか、幅よりは明らかに長く伸びていました。

 三番瀬産pacificaでは基本的に単純な褐色の三角形の紋があり、後端から伸びる筋らしきものはほとんどありません。ごく低頻度で、写真中央の個体のような小さな斑が出ます。

 もしかするともしかするかもしれません。これは今後も追及していきたいと思います。






 そしてもう一つ懸案事項。

 それは、EHT法がサンプルに与える影響です。

 ほっとくと死んでしまうほど強力な塩分に晒された体組織はどのようになっているのか、形態分類に使用する形質に変化はないか、確認してみることにしました。




  まず全体。

この写真では多少ライティングの違いもありますが、


  目視でも、EHT法のほうが青みが強くなっています。

 手で捕まえてラヴ・プリズンしたものと、EHT法で〆めたものを、蒸留水に浮かべてみると、ラヴ・プリズンしたサンプルは脚が広がって少々お行儀が悪い感じがします。一方、EHT法のサンプルは各付属肢の向きが揃っており、背筋も伸びています。脚が揃っているのはもしかしたらチャック付きポリ袋での輸送中に高張液の中でお亡くなりになったことによる効果なのかもしれませんが、背筋が伸びているのは説明がつきません。高張液は筋肉に働きかけているのでしょうか・・・?
 何はともあれ、背筋が伸びているのはありがたいです。理想的な体勢をしています。 良い影響があると言ってよいかもしれません。





 次に軟質部。



 抱卵メスを腹側から観察してみます。

 底節鰓,覆卵葉,そして胚に至るまで、特にこれといった異常は見当たりません。


 結論として、EHT法はサンプルに対して、外部形態を用いた分類に支障を来す類の影響は及ぼさないものと考えられる、としておきます。






 最後に・・・

 せっかくたくさんハマトビが採れたので、アレをやってみたいと思います。






魚が焼ける皿の上にヨコエビを載せてレンジでチン。約20秒。



  やや湿り気が残る程度に温めてみました。
 湯気に混じる甲殻系のかほり。

 そして、箸でつまんで一匹ずつ味わってみると・・・

 味がしない・・・

 以前メリタを食べた時にも思いましたが、やはりこれは香りを楽しむもので、味を追究するならかなりの量が必要となるでしょう。胸脚が口に残るのも、人によっては気になるかも。
 そして何より、分類学的に知見が不足しているサンプルを食すという後ろめたさ。早く解決してほしいものですjoi/pacifica問題・・・
 





(参考文献)
- Bousfield, E.L., E.A. Hendrycks 2002. The talitroidean amphipod Family Hyalidae revised, with emphasis on the North Pacific Fauna: Systematics and distributional ecology. Amphipacifica, 3(3): 7-134.
- Inoue, K.1979. The significance of variations in dorsal body markings of Orchestia platensis Krφyer (Amphipoda, Talitridae). Proceedings of the Japanese Society of Systematic Zoology, (16): 23-32. 
- Miyamoto, H., H. Morino 2004. Taxonomic studies on the Talitridae (CrustaceaAmphipoda) from Taiwan, II. The genus Platorchestia. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 40: 67–96.
- Morino,H. and H. Miyamoto 2015. Redefinition of Paciforchestia Bousfield, 1982 and description of Pyatakovestia gen. nov. (Crustacea, Amphipoda,Talitridae). Bulletin of the National Museum of Natural Sciences, Ser.A 41: 105-121.
- 森野浩・向井宏 2016. 砂浜フィールド図鑑(1)日本のハマトビムシ類. 海の生き物を守る会, 京都市.




補遺
17-Mar.- 2018

専門家の同定結果を追加