ヨコエビ文献紹介も第4弾となりました。
幾度となく能書きは垂れていますが、ヨコエビギナーはまず文献探しのハードルが高いと思われるため、
新規加入個体数が多いと思われる4月を意識して、毎年この時期にこのような記事を掲載しています。過去の紹介文献は以下の通りです。
(第一弾)
・富川・森野 (2009)
ヨコエビ類の描画方法
・小川 (2011)
東京湾のヨコエビガイドブック
・石丸 (1985)
ヨコエビ類の研究方法
・Chapman (2007)
"Chapman Chapter" In: Carlton Light and Smith Manual (West coast of USA)
・平山 (1995)
In: 西村 海岸動物図鑑
・Barnard & Karaman (1991)
World Families and Genera of Marine gammaridean Amphipoda
(第二弾)
・Lowry & Myers (2013)
Phylogeny and Classification of the Senticaudata
・World Amphipod Database / Amphipod Newsletter
・富川・森野 (2012)
日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方
・Arimoto (1976)
Taxonomic studies of Caprellids
・Takeuchi (1999)
Checklist and bibliography of the Caprellidea
・森野 (2015)
In: 青木 日本産土壌動物
(第三弾)
・有山 (2016)
ヨコエビとはどんな動物か
・森野・向井 (2016)
日本のハマトビムシ類
・Tomikawa (2017)
Freshwater and Terrestrial amphipod In: Species Diversity of Animals in Japan
・Bousfield (1973)
Shallow-Water Gammaridean Amphipoda of New England
・Ishimaru (1994)
Catalogue of gammaridean and ingolfiellidean amphipod
・椎野 (1964)
動物系統分類学
<課題図書>
・
Lowry, J.K. and A.A. Myers 2017. A Phylogeny and Classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265 (1): 1–89.
2013年にヨコエビ類の分類体系が抜本的に見直され、現在もアツい議論が続いていますが、この一連の動きの最終形態となる本研究(Lowry & Myers, 2017)では、インゴルフィエラ亜目を独立した目として建てるという人事異動に加えて、長らく親しまれたGammarideaヨコエビ亜目が消滅するという大事件が起きましたので、絶対に要チェックです。マストです。マストヨコエビです。来週までに目を通しておいてください(何様)。
ヨコエビの新体制については過去のブログにて、
Senticaudata亜目のリストやら
Gammaridea亡き後の世界やら
新体制のヤバさやらについて取り上げたりしていますのでご覧ください。
<おすすめ>
・
Bellan-Santini, D. 2015. Order Amphipoda Latreille, 1816. In: Klein, C.V. (ed.) Treatise on Zoology - Anatomy, Taxonomy, Biology. The Crustacea, Volume 5, pp 93-248. E-ISBN: 9789004232518. Chapter DOI: 10.1163/9789004232518_006.
個人的にヨコエビのバイブル認定をしている記事です。これは本当にすごいです。タイトルにありますが、解剖学,分類学,生物学(生理,発生,生態,行動,進化)などの基礎情報がぎっしり詰まって150Pです。もちろん各分野の詳細を知るには、それぞれの書籍や論文をあたるべきですが、広く概要を知ることができる文献は貴重です。引用文献リストからそれぞれの研究をたどっていくことができます。
・Hirayama, A. 1983-1988. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean
Amphipoda of West Kyushu, Japan.
Part Ⅰ,
Part Ⅱ,
Part Ⅲ,
Part Ⅳ,
Part Ⅴ,
Part Ⅵ,
Part Ⅶ,
Part Ⅷ.
Publications of The Seto Marine Biological Laboratory.
ヨコエビ研究のレジェンドこと平山明氏が九州大学博士課程の研究 (平山, 1982) において集積した膨大な知見を、瀬戸臨海実験所紀要に連載したもので、まさしく
「ヨコエビ A to Z」と呼べるほど非常に高い網羅性をもち、日本のヨコエビ研究の一つの節目であり頂点と言えるでしょう。紹介するのが遅すぎたくらいですが、そんな
伝説の書が今なら無料で読み放題ですので、まあとりあえず今日からでもお読みください。Lowry & Myers (2017) 以前どころか Barnard & Karaman (1991) より前の世代の文献ですので、言うまでもなく分類は少し古いです(下のリストで補足をさせていただきました)。
Part Ⅰ.
(Hirayama, 1983)
Acanthonotozomatidae科
Ampeliscidaeスガメソコエビ科
Ampithoidaeヒゲナガヨコエビ科
Amphilochidaeチビヨコエビ科
Anamixidaeクチナシヨコエビ科
Argissidaeヒヨリミヨコエビ科
Atylidaeフタハナヨコエビ科
Colomastigidaeツツヨコエビ科
Part Ⅱ.
(Hirayama, 1984a)
Corophiidaeドロクダムシ科
Part Ⅲ.
(Hirayama, 1984b)
Dexaminidaeエンマヨコエビ科
(Polycheriaホヤノカンノン属,Paradexamineトゲホホヨコエビ属)
Part Ⅳ.
(Hirayama, 1985a)
Dexaminidaeエンマヨコエビ科(Guerneaテッポウダマ属)
Eophiliantidaeネクイムシ科
Eusiridaeテンロウヨコエビ科
Haustoriidaeツノヒゲソコエビ科
Hyalidaeモクズヨコエビ科
Ischyroceridaeカマキリヨコエビ科
Part Ⅴ.
(Hirayama, 1985b)
Leucothoidaeマルハサミヨコエビ科
Liljeborgiidaeトゲヨコエビ科
Lysianassidaeフトヒゲソコエビ科⇒Lysianassoidaeフトヒゲソコエビ上科
{Pachynidae科(Prachynellaチョウチンソコエビ属),
Aristiidae科(Aristiasフカゾリソコエビ属),
Endevouridae科(Ensayaraアシュラソコエビ属),
Lysianassidaeフトヒゲソコエビ科
(Waldeckiaムチヒゲソコエビ属,
Lepidepecreumヒメグシソコエビ属,
Hippomedonシデムシソコエビ属),
Uristidae科(Anonyxツノアゲソコエビ属)}
Part Ⅵ.
(Hirayama, 1986)
Lysianassidaeフトヒゲソコエビ科(Orchomeneツノフトソコエビ属)
Megaluropusウチワヨコエビ科群
Melitidesメリタヨコエビ類⇒Hadzioidaeハッジヨコエビ上科
(Cottesloe⇒Gammarellaマルヨコエビ属,
Jerbarniaテンビンヨコエビ属⇒Maerellaポックリヨコエビ属,
Maeraスンナリヨコエビ属,Ceradocusノコギリヨコエビ属,
Eriopisellaセンドウヨコエビ属,Dulichiellaウチデノコヅチ属)
Part Ⅶ.
(Hirayama, 1987)
Melitidaeメリタヨコエビ科(Melitaメリタヨコエビ属)
Melphidippidaeサカサヨコエビ科
Oedicerotidaeクチバシソコエビ科
Philiantidaeミノガサヨコエビ科
Phoxocephalidaeヒサシソコエビ科
Part Ⅷ.
(Hirayama, 1988)
Pleustidaeテングヨコエビ科
Podoceridaeドロノミ科
Priscomilitaridaeキシドウヨコエビ科
Stenothoidaeタテソコエビ科
Synopiidaeフクスケヨコエビ科
Urothoidaeマルソコエビ科
*full citation
- 平山明 1982. Taxonomic study of shallow water gammaridean Amphipoda of west Kyushu, Japan (西九州浅海産端脚目ヨコエビ類の分類学的研究). 九州大学博士論文.
- Hirayama, A. 1983. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan. - I. Acanthonotozomatidae, Ampeliscidae, Ampithoidae, Amphilochidae, Anamixidae, Argissidae, Atylidae and Colomastigidae. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 28(1/4): 75-150.
- Hirayama, A. 1984a. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan - II. Corophiidae. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 29(1/3): 1-92.
- Hirayama, A. 1984b. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan - III. Dexaminidae (Polycheria and Paradexamine). Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 29(4-6): 187-230.
- Hirayama, A. 1985a. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan - IV. Dexaminidae (Guernea), Eophiliantidae, Eusiridae, Haustoriidae, Hyalidae, Ischyroceridae. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 30(1/3): 1-53.
- Hirayama, A. 1985b. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan - V. Leucothoidae, Liljeborgiidae, Lysianassidae (Prachynella, Aristias, Waldeckia, Ensayara, Lepidepecreum, Hippomedon and Anonyx). Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 30(4-6): 167-212.
- Hirayama, A. 1986. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan - VI. Lysianassidae (Orchomene), Megaluropus family group, Melitides (Cottesloe, Jerbarnia, Maera, Ceradocus, Eriopisella, Dulichiella). Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 31(1/2): 1-35.
- Hirayama, A. 1987. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan - VII. Melitidae (Melita), Melphidippidae, Oedicerotidae, Philiantidae and Phoxocephalidae. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 32(1-3): 1-62.
- Hirayama, A. 1988. Taxonomic studies on the shallow water gammaridean Amphipoda of West Kyushu, Japan - VIII. Pleustidae, Podoceridae, Priscomilitaridae, Stenothoidae, Synopiidae and Urothoidae. Publications of The Seto Marine Biological Laboratory, 33(1-3): 39-77.
・井上久夫 2012. 茨城県の海産小型甲殻類 III. ヨコエビ相(端脚目,ヨコエビ亜目).
茨城生物,
32: 9-16.
茨城県の沿岸で採れる海産ヨコエビについて、科レベルの検索表を提供しています。関東周辺では概ね適用可能と思われます。この文献はヒゲナガヨコエビ問題について久保島(1989)を採用するという独自のスタンスを貫いており、
Ampithoe shimizuensisとモズミヨコエビ
A. valida、
A. japonicaとニッポンモバヨコエビ
A. lacertosaをそれぞれ別種として扱ったりしています。入手困難文献ですが沿岸性ヨコエビをやられる方はぜひ。
※ヒゲナガヨコエビ問題:日本産ヒゲナガヨコエビ属の分類に不確定要素があり、普通種においてシノニムの再検討が必要と思われる状況のこと。
・永田樹三 1975. 端脚類の分類.
海洋科学,
104(7) : 127-134.
旧ソ連が行った海洋プランクトンの調査結果を日本語でまとめたものです。ヨコエビ類とクラゲノミ亜目の様々な科を横断的に紹介しており、和名が未設定であるなど今の知見と異なる部分もありますが、平山(1995)など沿岸を対象にした文献でカバーされていないグループに触れることができる貴重な日本語の資料です。
・
菊池泰二 1986. 第一編 ヨコエビ類の分類検索, 及び生態, 生活史に関する研究. In: ヨコエビ類の生物生産に関する基礎研究. 昭和60年度農林水作業特別試験研究費補助金による研究報告書. pp.9-24.
マニアックですが、日本の浅海性ヨコエビを俯瞰するにあたり重要な文献です。
日本の代表的なヨコエビの生態について、概要を知ることができます。海外の幾つかの研究を引いており、知見を広げることができるようにもなっています。
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さて、基礎的な文献を読んだ後、いかにして必要な文献を入手するか、というところ。
まず
普通にググってみましょう。ソースは様々ですがいろいろヒットします。
大学では提携しているサービスがあって、それを推奨しているかもしれませんが、それだけで文献が網羅できるわけではありません。
タイトルをググるとヒットする、ヨコエビの文献がアップされている主なサービスと得意分野は以下の通り。
・
Biodiversity Heritage Library(古い文献がどんどんアップロードされている)
・
CiNii(国内の雑誌や書籍の所在を教えてくれる;提携していれば強いが大人の事情で無料で読める論文が減ってしまった)
・
Google Scholar(新旧の世界の文献;名寄せ機能に定評がある)
・
J-Stage(主に国内の雑誌;CiNiiで読めなくなった文献も一部が移行している;提携していれば強い)
・
NDL search(国内の出版物;特に博論においては無双)
・
Research Gate(新しめの論文の本文が落ちてたりする;登録は簡単)
Citationが完全であれば、これらのサイトに入って検索しなくてもググれば横断的に探せてだいたいヒットします。凡庸なタイトルでなければ、タイトルの一部を入力しただけで行けます。著者名や年号は、表記にズレが出たり他の情報を巻き込む要因になるのであまりお勧めできません。
これらのサイトは雑誌名や出版年などで検索ができるので、Citationが完全でない場合や書籍の一部の記事だったりする場合など、タイトルでの検索でうまくいかない時の絞り込みにも適しています。また、キーワード検索を行うと思わぬ文献が見つかったりするのでそういう使い方も良いです。
文献そのものが入手できなくとも、Citationをゲットできれば司書さんにおねだりできます。ただ、複写料がかかったりするので、タダで入手できるものは予め落としておいたほうがよいですね。
この
司書さんへのおねだりというのは学費の対価として大学生が行使できる特権です。学生でない人間には手が届きません。
かつて国会図書館や県立図書館に問い合わせを行ったりしましたが、 国立国会図書館は海外文献に弱いのと、県立図書館からは
「そんなマニアックな資料なににつかうの研究機関で取り寄せなさいよ」的な訝しがるメールが来ました。世知辛い世の中です。
また、掲載されているジャーナルのサイトから探して閲覧することもできます。
雑誌名を知らなくても、このへんにアクセスしてキーワードを叩いたりバックナンバーを漁ったりするとかなり文献と出会えます。
・
紅(京大の学術情報データベース;過去の瀬戸臨海実験所紀要はここから入手可能)
・
Springer(Oecologia,Marine Biologyなどかなり幅広い雑誌を手掛けている出版社;物により無料公開)
ヨコエビの分類に関する論文がよく掲載されるのはだいたいこのへんです。平日は毎日更新されるので常時監視をおすすめします。
・
Zookeys
・
Zootaxa
このへんにもたまに載ります。
・
Crustaceana
・
European Journal of Taxonomy
・
Journal of Crustacean Biology
・
Scientific Report
・
Species Diversity
Zootaxaは大学が提携しているので、学生さんは普通に読めることが多いかと思います。無料公開は少ないですが、提携のない場合でも1本から買うこともできます。
Zookeysは無料なので野良研究者にはありがたいです。
生理や生態に関しては非常に多岐にわたりますが、それぞれのテーマの学会誌からあたるのが良いかと思います。
<参考文献> ※文献紹介1~4弾で紹介していないもの
- 久保島康子 1989. 日本におけるAmpithoe属(Ampithoidae)の分類学的研究. 茨城大学大学院理学研究科修士論文.