ラベル 東海 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 東海 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2023年11月3日金曜日

日本の淡水ヨコエビについて(2023年11月度活動報告)

 

 本邦産淡水ヨコエビの全貌把握と同定には、富川・森野 (2012) という決定版ともいえる文献が著名です。

 しかし、出版から10年が経過し知見が古くなっている部分があるのと、アクアリウム界隈で流通している外産種には対応していないことから、本稿では僭越ながらそういった部分を補いたいと思います。ただ、種の識別キーや種ごとの細かな情報については、富川・森野 (2012) に譲りたいと思います。

※抜け漏れある可能性が高いため、不足あれば随時更新します。



本邦産淡水性ヨコエビ一覧
(2023年11月更新)

 科の配列は Lowry and Myers (2017) に基づく。分布および生息環境の情報は、ことわりのない限り 富川・森野 (2012) によった

 なお、河岸や湖岸の”ガサり”においてしばしばハマトビムシ上科が採集され、淡水性ヨコエビと同じカテゴリとして扱われることもある (金田 In: 石綿・齋藤 2006) が、この類は水から出しても横向きに這いまわるだけでなく身体を立てて難なく歩いたり跳ねたりできることと、「第1触角全長が第2触角柄部長より短い」ことにより、他のヨコエビから識別できる。

 また、本稿では淡水性種として扱っていないが、河川や湖沼では場所により汽水性種が採集されることがある。そういった属としては、例えば次のようなグループが挙げられる:Grandidierella ドロソコエビ属,Melita メリタヨコエビ属,Paramoera ミギワヨコエビ属,Anisogammarus キタヨコエビ属,Eogammarus トゲオヨコエビ属,Jesogammarus オオエゾヨコエビ属。


カマカヨコエビ科 Kamakidae

カマカヨコエビ属 𝐾𝑎𝑚𝑎𝑘𝑎

  1.  ビワカマカ(ビワカマカヨコエビ) Kamaka biwae Uéno, 1943:滋賀県琵琶湖[固有]【湖】
  2.  マカヨコエビ Kamaka kuthae Dershavin, 1923:北海道;カムチャツカ半島【河川・湖沼】
  3.  モリノカマカ Kamaka morinoi Ariyama, 2007:本州【河川~汽水】

    メリタヨコエビ科 Melitidae

    メリタヨコエビ属 Melita

  4. チョウシガワメリタヨコエビ Melita choshigawaensis Tomikawa, Hirashima, Hirai, and Uchiyama, 2018 :和歌山県【河川間隙/表層水】(Tomikawa et al. 2018)
  5.   ミヤコメリタヨコエビ Melita miyakoensis Tomikawa, Sasaki, Aoyagi, and Nakano, 2022:沖縄県宮古島[固有]【湧水】(Tomikawa et al. 2022)

    アゴナガヨコエビ科 Pontogeneiidae

    アワヨコエビ属 Awacaris 

  6.  ヤマトヨコエビ Awacaris japonica (Tattersall, 1922):本州,佐渡島【湧水・渓流】
  7.  アワヨコエビ Awacaris kawasawai Uéno, 1971:徳島県,高知県 (Tomikawa et al. 2017)【地下水性】
  8.  モリノヨコエビ Awacaris morinoi (Tomikawa and Ishimaru in Tomikawa, Kobayashi, Kyono, Ishimaru, and Grygier, 2014):滋賀県【地下水性】(Tomikawa et al. 2014)
  9.  タキヨコエビ Awacaris rhyaca (Kuribayashi, Ishimaru, and Mawatari, 1996):北海道,本州,隠岐諸島,長崎県五島列島福江島【河川(回遊性)】

  10.  ツシマドウクツヨコエビ Awacaris tsushimana (Uéno, 1971):長崎県対馬[固有]【地下水】

  11.  エゾヨコエビ Awacaris yezoensis (Uéno, 1933):北海道[固有]【湧水・渓流】


    ミギワヨコエビ属 Paramoera 

  12.  ゴトウドウクツヨコエビ Paramoera relicta Uéno, 1971:長崎県五島列島福江島[固有]【地下水】

     

    カンゲキヨコエビ科 Bogidiellidae 

    カンゲキヨコエビ属 Bogidiella 

  13.  リュウキュウカンゲキヨコエビ Bogidiella broodbakkeri Stock, 1992:沖縄県世論島[固有]【地下水】

     

    マミズヨコエビ科 Crangonyctidae 

    マミズヨコエビ属 Crangonyx 

  14.  フロリダマミズヨコエビ Crangonyx floridanus Bousfield, 1963:本州,四国,九州;米国[原産]【表層水/地下水(篠田 2006)

     

    メクラヨコエビ科 Pseudocrangonyctidae 

    メナシヨコエビ属 Procrangonyx 

  15.  ヤマトメナシヨコエビ Procrangonyx japonicus (Uéno, 1930):東京都【地下水】

     

    メクラヨコエビ属 Pseudocrangonyx

  16.  アカツカメクラヨコエビ Pseudocrangonyx akatsukai Tomikawa and Nakano, 2018:長崎県【地下水】(Tomikawa and Nakano 2018)
  17.  トウヨウメクラヨコエビ Pseudocrangonyx  asiaticus Uéno, 1934:長崎県対馬;中国,朝鮮半島【地下水】
  18.  アスワメクラヨコエビ Pseudocrangonyx asuwaensis Shintani, Umemura, Nakano, and Tomikawa, 2023:福井県[固有]【地下水】(Shintani et al. 2023)
  19.  チョウセンメクラヨコエビ Pseudocrangonyx coreanus Uéno, 1966:島根県,長崎県五島列島福江島,対馬;朝鮮半島
    【地下水】
  20. (和名未提唱)Pseudocrangonyx dunan Tomikawa, Nishimoto, Nakahama and Nakano, 2022:沖縄県与那国島[固有]【地下水】(Tomikawa et al. 2022)
  21.  グダリメクラヨコエビ Pseudocrangonyx gudariensis Tomikawa, Nakano, Sato, Onodera, and Ohtaka, 2016:青森県[固有]【地下水】(Tomikawa et al. 2016)
  22.  コマイメクラヨコエビ  Pseudocrangonyx komaii Tomikawa and Nakano, 2018:岐阜県[固有]【地下水】(Tomikawa and Nakano 2018)
  23.  キョウトメクラヨコエビ Pseudocrangonyx kyotonis Akatsuka and Komai, 1922:京都府【地下水】
  24.  シコクメクラヨコエビ Pseudocrangonyx shikokunis Akatsuka and Komai, 1922:四国【地下水】
  25. (和名未提唱)Pseudocrangonyx uenoi Tomikawa, Abe, and Nakano, 2019:滋賀県[固有]【地下水】(Tomikawa et al. 2019)
  26.  エゾメクラヨコエビ Pseudocrangonyx yezonis Akatsuka and Komai, 1922:北海道[固有]【地下水】

     

    キタヨコエビ科 Anisogammaridae 

    トゲオヨコエビ属 Eogammarus 

  27.  トゲオヨコエビ Eogammarus kygi (Dershavin, 1923):北海道,青森県;沿海州,カムチャッカ半島,サハリン【湖沼・河川】
  28.  イトウトゲオヨコエビ Eogammarus itotomikoae Tomikawa, Morino, Toft, and Mawatari, 2006:北海道[固有]【河川】

     

    オオエゾヨコエビ属 Jesogammarus ― Jesogammarus亜属

  29.  シツコヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusacalceolus Tomikawa and Kimura, 2021:青森県[固有]【湧水】 (Tomikawa and Kimura 2021)
  30.  ナガレヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusbousfieldi Tomikawa, Nakano, and Hanzawa, 2017:山形県[固有]【渓流】(Tomikawa et al. 2017)
  31.  オオエゾヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusjesoensis (Schellenberg, 1937):北海道,東北地方,中部地方【河川・湖沼】
  32.  ヒメヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarus) paucisetulosus Morino, 1985:関東・東北地方の日本海沿岸【渓流】
  33.  アゴトゲヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusspinopalpus Morino, 1985:関東地方【河川・湖沼】 
  34.  ミカドヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusmikadoi Tomikawa, Morino, and Mawatari, 2003:東北地方【渓流】

     

     オオエゾヨコエビ属 Jesogammarus ― Annanogammarus亜属

  35.  アンナンデールヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarusannandalei (Tattersall, 1922):滋賀県琵琶湖[固有]【湖の中層】
  36.  ヒメアンナンデールヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarusfluvialis Morino, 1985:東海地方,近畿地方【湧水】

  37.  ナリタヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarusnaritai Morino, 1985:滋賀県琵琶湖,長野県諏訪湖【湖沼】

     

    ヨコエビ科 Gammaridae 

    ヨコエビ属 Gammarus

  38.  チョウセンヨコエビ Gammarus koreanus Uéno, 1940:長崎県五島列島;中国,朝鮮半島【渓流】
  39. (和名未提唱) Gammarus mukudai Tomikawa, Soh, Kobayashi, and Yamaguchi, 2014:長崎県[固有]【表層水】 (Tomikawa et al. 2014)

  40.  ニッポンヨコエビ Gammarus nipponensis Uéno, 1940:琵琶湖以西の本州,四国,九州,隠岐,壱岐,対馬【渓流】

     

    ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae 

    チカヨコエビ属 Eoniphargus

  41.  イワタチカヨコエビ Eoniphargus iwataorum Shintani, Lee, and Tomikawa, 2022:栃木県蛇尾川【表層水】(Shintani et al. 2022)
  42.  コジマチカヨコエビ Eoniphargus kojimai Uéno, 1955:関東地方【地下水・河川間隙水】
  43.  トリイチカヨコエビ Eoniphargus toriii Shintani, Lee, and Tomikawa, 2022:静岡県瀬戸川[固有]【河川】(Shintani et al. 2022)

     

    ヤツメヨコエビ属 Octopupilla

  44.  ヤツメヨコエビ Octopupilla felix Tomikawa, 2007:近畿地方,四国【河川間隙】

     

    コザヨコエビ科 Luciobliviidae

    コザヨコエビ属 Lucioblivio

  45.  コザヨコエビ Lucioblivio kozaensis Tomikawa, 2007:和歌山県古座川[固有]【河川間隙】

  46.  こうして見ると、2023年11月時点で和名が提唱された形跡のない種がいくつかありますね。今後の進展に期待したいところです。



    分類学上の扱いに注意を要する淡水ヨコエビ

    • アンナンデールヨコエビ:20世紀半ば頃まで全国から報告されてきたが、現在は琵琶湖固有種であることが確かめられている。よって、他地域の古い報告はキタヨコエビ科の代名詞のように考えることはできても、種の記録としては採用すべきでないとみられる。なお、富川・森野 (2012) における表記は「アナンデールヨコエビ」とされているが、本稿では種小名の綴りにより近く出版年がより古い Ishimaru (1994) を採用し「アナンデールヨコエビ」とした。
    • サワヨコエビ属:Sternomoera に与えられていた和名。アワヨコエビ属 Awacaris の新参シノニムとして消滅した (Tomikawa et al. 2017) ため、現在は使われない。
    • ヤマトメナシヨコエビ属:Eocrangonyx に与えられていた和名。メナシヨコエビ属 Procrangonyx の新参シノニムとして消滅した (Nakano et al. 2018) ため、現在は使われない。
    • ドウクツヨコエビ属:Relictomoera に与えられていた和名。ミギワヨコエビ属 Paramoera の新参シノニムとして消滅した (Nakano and Tomikawa 2018) ため、現在は使われない。
    • シンヨコエビ科 Neoniphargidae:かつてチカヨコエビ属が含まれていた。チカヨコエビ属の所属変更に伴い本邦未知科となったが、移動先の科(ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae)の和名に転用されたわけではないため注意。
    • ホクリクヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarus) hokurikuensis;フジノヨコエビ J. (J.) fujinoi;ショウナイヨコエビ J. (J.) shonaiensis:これら3種は、オオエゾヨコエビの新参シノニムであることが示唆されている (富川・森野 2012)
    • スワヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarus) suwaensis:ナリタヨコエビの新参シノニムであることが示唆されている (富川・森野 2012)
    • ハヤマサワヨコエビ Sternomoera hayamensis (Stephensen, 1944) :ヤマトヨコエビの新参シノニムとされている。
    • ミナミニッポンヨコエビ Gammarus sobaegensis:本邦の記録はニッポンヨコエビの誤同定の可能性が指摘されている (富川・森野 2012)
    • キョウトメクラヨコエビ:京都盆地に2系統が共存することが示唆されており、隠蔽種を内包するものとみられる (Yonezawa et al. 2020)
    • 岡山県のメクラヨコエビ属:3個体群が報告されており、このうち1あるいはそれ以上について未記載の可能性があるとされている (末永 2020)



    日本の淡水ヨコエビの科までの検索表(外来種・飼育種を含む)

    (1)第1~第2腹節後縁に棘状の突出部を具える・・・ヒアレラ属Hyalella[飼育種・アメリカ大陸原産]※和名はマグローヒル科学技術用語大辞典編集委員会  (1996) による

     — 第1~第2腹節後縁に棘状の突出部を欠く・・・(2)

    (2)尾節板は肉厚肥厚する・・・カマカヨコエビ科 Kamakidae

     — 尾節板は薄片状・・・(3)

    (3)第3尾肢外肢は先端が裁断形の薄葉状・・・メリタヨコエビ科 Melitidae

     — 第3尾肢外肢は槍状・・・(4)

    (4)腹肢は内肢を欠く・・・カンゲキヨコエビ科 Bogidiellidae

     — 腹肢は外肢と内肢を具える・・・(5)

    (5)第3尾肢は内肢を欠く・・・メクラヨコエビ科 Pseudocrangonyctidae

     — 第3尾肢は外肢と内肢を具える・・・(6)

    (6)頭部の触角洞はほとんど確認できない;第3尾肢は第2尾肢末端を越えない・・・マミズヨコエビ科 Crangonyctidae[外来種・アメリカ大陸原産]

     — 触角洞は明瞭;第3尾肢は第2尾肢末端を越える・・・(7)

    (7)尾節背面に刺毛を欠く・・・アゴナガヨコエビ科 Pontogeneiidae

     — 尾節背面に刺毛を具える・・・(8)

    (8)底節鰓に付属片を具える・・・キタヨコエビ科 Anisogammaridae

     — 底節鰓に付属片を欠く・・・(9)

    (9)第7胸脚に底節鰓を具える・・・ヨコエビ科 Gammaridae

     — 第7胸脚に底節鰓を欠く・・・(10)

    (10)第3尾肢の外肢は1節からなり、内肢は外肢とほぼ等長・・・コザヨコエビ科 Luciobliviidae

     — 第3尾肢の外肢は2節からなり、内肢は外肢より短い・・・ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae 



    <参考文献>

    Ishimaru S. 1994. A catalogue of gammaridean and ingolfiellidean Amphipoda recorded from the vicinity of Japan. Report of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, 24: 29–86.

    金田彰二 2006. ヨコエビ類. In: 石綿進一・齋藤和久(編)『酒匂川水系の水生動物~里地・里山の生きものたち~』.神奈川県環境科学センター.

    Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2017. A Phylogeny and Classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265(1): 1–89. 

    — マグローヒル科学技術用語大辞典編集委員会 (編) 1996. マグローヒル科学技術用語大辞典 (第3版). 日刊工業新聞社.

    — Nakano T.; Tomikawa K. 2018. Reassessment of the groundwater amphipod Paramoera relicta synonymizes the Genus Relictomoera with Paramoera (Crustacea: Amphipoda: Pontogeneiidae). Zoological Science, 35(5): 459–467. 

    Nakano T.; Tomikawa K.; Grygier, M. J. 2018. Rediscovered syntypes of Procrangonyx japonicus, with nomenclatural consideration of some crangonyctoidean subterranean amphipods (Crustacea: Amphipoda: Allocrangonyctidae, Niphargidae, Pseudocrangonyctidae). Zootaxa, 4532(1): 86–94.

    篠田授樹 2006. 東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査. 研究助成・一般研究. Vol.28, No.164.

    Shintani A.; Lee C.-W.; Tomikawa K. 2022. Two new species add to the diversity of Eoniphargus in subterranean waters of Japan, with molecular phylogeny of the family Mesogammaridae (Crustacea, Amphipoda). Subterranean Biology, 44: 21–50. 

    — Shintani A.; Umemura S.; Nakano T.; Tomikawa K. 2023. A new species of the genus Pseudocrangonyx (Crustacea: Amphipoda: Pseudocrangonyctidae) from subterranean waters of Japan. Zootaxa, 5301(3): 383–396. 

    末永崇之 2020. メクラヨコエビ属. In: 岡山県野生動植物調査検討会 (編) 岡山県版レッドデータブック2020動物編. 岡山県環境文化部自然環境課.

    Tomikawa K.; Abe Y.; Nakano T. 2019. A new stygobitic species of the genus Pseudocrangonyx (Crustacea: Amphipoda: Pseudocrangonyctidae)  from central Honshu, Japan. Species Diversity, 24: 259–266.

    Tomikawa K.; Hirashima K.; Hirai A.; Uchiyama, R. 2018. A new species of Melita from Japan (Crustacea, Amphipoda, Melitidae). ZooKeys, 760: 73–88.

    — Tomikawa K.; Kimura N. 2021. On the Brink of Extinction: A new freshwater amphipod Jesogammarus acalceolus (Anisogammaridae) from Japan. Research Square.

    Tomikawa K.; Kobayashi N.; Kyono M.; Ishimaru S.; Grygier, M. J. 2014. Description of a new species of Sternomoera (Crustacea: Amphipoda: Pontogeneiidae) from Japan, with an analysis of the phylogenetic relationships among the Japanese species based on the 28S rRNA gene. Zoological Science, 31: 475–490. 

    —  Tomikawa K.; Kyono M.; Kuribayashi K.; Nakano T. 2017.The enigmatic groundwater amphipod Awacaris kawasawai revisited: synonymisation of the genus Sternomoera, with molecular phylogenetic analyses of Awacaris and Sternomoera species (Crustacea : Amphipoda : Pontogeneiidae). Invertebrate Systematics, 31(2): 125–140. 

    富川光・森野浩 2012. 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方.タクサ, 32: 39–51.

    Tomikawa K.; Nakano T. 2018. Two new subterranean species of Pseudocrangonyx Akatsuka & Komai, 1922 (Amphipoda: Crangonyctoidea: Pseudocrangonyctidae), with an insight into groundwater faunal relationships in western Japan. Journal of Crustacean Biology, ruy031.

    Tomikawa K.; Nakano T.; Hanzawa N. 2017. Two new species of Jesogammarus from Japan (Crustacea, Amphipoda, Anisogammaridae), with comments on the validity of the subgenera Jesogammarus and Annanogammarus. Zoosystematics and Evolution, 93(2): 189–210.

    Tomikawa K.; Nakano T.; Sato A.; Onodera S.; Ohtaka A. 2016. A molecular phylogeny of Pseudocrangonyx from Japan, including a new subterranean species (Crustacea, Amphipoda, Pseudocrangonyctidae). Zoosystematics and Evolution, 92(2): 187–202. 

    Tomikawa K.; Sasaki T.; Aoyagi M.; Nakano T. 2022. Taxonomy and phylogeny of the genus Melita (Crustacea: Amphipoda: Melitidae) from the West Pacific Islands, with descriptions of four new species. Zoologischer Anzeiger, 296: 141–160.

    Tomikawa K.; Soh H. Y.; Kobayashi N.; Yamaguchi A. 2014. Taxonomic relationship between two Gammarus species, G. nipponensis and G. sobaegensis (Amphipoda: Gammaridae), with description of a new species. Zootaxa, 3873(5):451–476. 

    Yonezawa S.; Nakano T.; Nakahama N.; Tomikawa K.; Isagi Y. 2020. Environmental DNA reveals cryptic diversity within the subterranean amphipod genus Pseudocrangonyx Akatsuka & Komai, 1922 (Amphipoda: Crangonyctoidea: Pseudocrangonyctidae) from central Japan. Journal of Crustacean Biology, ruaa028. 

    -----

    補遺 (15-VIII-2024)
    ・一部書式設定変更。

2023年6月9日金曜日

大いなる寄り道(6月度活動報告)

 

 台風2号(マーワー)接近に付随する前線の活性化に伴う豪雨災害で被災された方に、心よりお見舞いを申し上げます。

 ちなみに私事ですが日本動物分類学会に遅刻しました。


〈地下鉄エビ〉

 事の発端は6月3日の朝6時半、東京駅で新幹線全線死亡の報に触れたことです。わたしが東京へ向けて出発した頃にどうやらHPのお知らせが更新されたようですが、確認が甘かったですな。

 かたや在来線下り復活も近いとの報もあり、ごった返す新幹線ホームを見るのも辛く、そちらに賭けることとしました(これが遅刻の元凶です)

 ただどのみち電車は動いてないため東京駅近傍を離れられず、日本橋ならではの採集と洒落込みます。


某ユーチューバーのアレ



なぜかスポイトが荷物に入ってたので



ミズムシしかおらん



〈熱海リベンジ〉

 過去、8月の熱海でヨコエビリティを探索した時は、打ち上げ海藻の乏しさに絶望しました。

 今回は在来線運転再開の日和見のため熱海入り。時間もあるのでサンビーチでも行きますか。


意外と魅力的な砂浜模様

 今回はメカブなどが見られて良い感じです。夏のビーチ全盛の頃と今とでは、恐らく清掃強度が異なるのでしょう。

 ウェーダーはまだ出さずに漂着海藻だけ見ます。


めかぶ

 ハマトビは出ず。

 代わりに

サキモクズ属 Protohyale


 少し放置されてる感のある流木。



ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis

 熱海にヨコエビはいないものと思っていたので、個人的にはかなり快挙です。しかもスナハマトビムシ属とは。夏にはリセットされるのでしょうが、どのように個体群を維持しているのか気になります。




〈第58回日本動物分類学会大会および第n回日本端脚類連絡協議会総会〉※個人の感想です

 今回は満身創痍で迎えた伝説的な回と捉えるむきもあるようですが、交通機関の混乱により実際に新幹線車内で急病人が出るなど、混雑そのものも災害と言え、また車の渋滞も緊急車両への影響や交通事故のリスクを高めると考えられることから、交通が大規模に麻痺した状態で参加者の招集を止めなかったことを武勇伝のように語るべきか、疑問もあります。過酷なフィールドワークに関しても同様。ただ天候そのものは開催予定時刻の時点で回復傾向にあり、2日目以降に関して開催を止める理由は何ら存在しない状況だったので、開催を延期や中止までにはしなかった判断そのものは妥当かと思います。

 2日目から参加なので半分しか聴けていませんが、全体を通して、普通種こそしっかり見つめる重要性を改めて認識することになりました。特にインパクトが大きいのはフナムシの件だと思います。また、印象に残ったのは、寄生性コペの幼生期表記を改めようという提言。とてもロジカルかつドラスティックな構成でした。

 通常の発表以外の部分、メタ的なところで印象に残ったのは、普通種の重要性に加えて、純粋な記載的研究と記載+αの意義、『海岸動物図鑑』の後の空白を埋めるべきというお話。特に “分類学から始まる総合生物学“ から「分類学者が実学的な他分野と積極的に協働して真価を示すべき」との提言は、多少物分かりが良すぎるように見えるきらいもありつつ、パイを取り合うしかない今日の日本社会を生き抜いていく強かさを、この上なく明確に示したハングリー精神の結晶にも見えます。区画整理されてない土地にどんなに立派なオブジェクトを設けようと、それは砂上の楼閣に過ぎないわけで、適切な(種)分類は実践的生物学に再現性をもたらす最低ラインだと思います。分類学者が興味の赴くまま土地を均すのをただ待っていろというのも、おかしな話かもしれません。よく人が通る場所こそ優先的に、精密に、整備していく。そういったプラオリティの付け方は、普通種をちゃんとやるという動きにも繋がっていくのかもしれません。

 日本端脚類協会決起集会の内容については、あまりにコアすぎるためここには記しません。




〈C県某所開拓事業〉

 月曜豊橋17時バラしというスケジュールがキツかったため、命名規則勉強会をブッチしていますが、潮回りには抗えず帰りに寄り道することに。豊橋からの帰り道、東海道本線沿いといえば真鶴が挙げられますが、行ったばかりなので、もう少し外してみます。


ちょっと外しすぎたか

 初エントリーとなります。

 堆積岩系の磯です。


イワガニ Pachygrapsus crassipes の優雅な朝食

飛び立つトビ Milvus migrans

 波当たりの穏やかなプールから波が直にぶつかる部分までがかなり近く、すぐ深くなる感じです。風が強いとかなり危険なフィールドといえるでしょう。砂浜を設置しているわけでないため沖側に波消しブロックもなく、波はダイレクトに来ます。

 紅藻は多様でかなり沖寄りの褐藻側にも進出しています。緑藻には全く期待できないものの、潮が引いてくるとかなりスガモが生えてるのが分かります。これだけ大量のは初めて見たかもしれん。


おわかりいただけただろうか…(海藻に紛れたタコ)

 モクズヨコエビ科 Hyalidae はあまり優占しません。あまり変わったものも出ません。紅藻から採れるイソヨコエビ Elasmopus がやたら小さい。

イソヨコエビ属 Elasmopus
恐ろしいことに同所的に明らかに形態が異なる2タイプが出ました



 褐藻はわりとヨコエビが好む形状のものが多い。ただ圧倒的にヘラムシが優占しています。

ニセヒゲナガヨコエビ属 Sunamphitoe



 岩の間の、砂利が溜まっているところが気になります。


ミナミモクズ属 Parhyale

 あまり馴染みがありません。伝統的に第3尾肢が双葉になることが主な識別形質ですが、よく調べるとあまりパッとしない種ばかりのようです。今回のサンプルもしかり。だとすると、これもミナミモクズ属だったっぽい。



 スガモが気になりますね。


Ampithoe changbaensis(和名未提唱)


呆れるほどデカいヒゲナガヨコエビ属
モズミヨコエビっぽい要素を具えつつ、たぶん別種でしょう
オスが採れていないので悶々としています(スケールはだいたい10mm)


オボコスガメ属 Byblis
頂き物の標本はありますが、スガメソコエビ科を自己採取したのは初
生きた姿を生で見たのも初めてです
意外と機敏に海藻・海草の間を動き回りますが、ツノヒゲ系の潜砂性種のような、独特な佇まいをしています
変な顔をしているのも生時からよく目立ちます



ユンボソコエビ属 Aoroides



?トウヨウスンナリヨコエビ属 Orientomaera


?カクスンナリヨコエビ属 Quadrimaera


 ドロクダムシ強化月間(6月~中止連絡まで)ですが、あまり採れず。課題です。

 さすがに最干潮を回って少し波が高くなってきたようなので、潮上決戦にもつれ込みます。


陸域由来の竹などが目立ちますが
海藻もかなり含まれているようです


 砂利と言えそうな粗砂や礫の浜なので、たぶん ホソハマトビムシ Pyatakovestia がいるはず。


ニホンヒメマハトビムシ
Platorchestia pachypus
頂き物の東北のサンプルは所有していますが
自己採取でいうと東日本初です

 


ミナミホソハマトビムシ 

Pyatakovestia iwasai

目論見通り

久しぶりに見ました



 デカいハサミムシとハマダン、マキバサシガメ、ムカデ、ザトウムシなどがうじゃうじゃと。そしてハマワラジへ移行するエコトーンが見えるのには唸らされました。ハマトビムシのバイオマスも相当なものでした。スナハマトビムシ属がいなかったのは砂浜ではないからだと思います(小並感)。


”ヒメハマトビムシ”種群
Demaorchestia joi sensu lato (cf. Platorchestia pacifica)

 何にせよスガモが育む独自のファウナが特筆に値します。種数は少ないですが、安定しています。ただ長い葉の間に入ったヨコエビは海藻に対するような普通の洗い出し法ではほとんど外れないため、採り方にはコツがいることが分かりました。

 今回はスガモにかまけて紅藻をあまり見ていません。また、漁業権の掲示がなかったため、触れてない生物も多くいます。このあたりを少し見直して、計画的にアタックできれば、かなりの科数を稼げる気がします。



〈美しいスケッチ〉

 日本端脚類連盟の議題に上がったものです。

 形態分類の論文に掲載するスケッチは「言葉にならない形状を伝える」機能が求められます。

 過去にも参考になる図が載っている論文を挙げていますが、今回は「スケッチの技法」として参考になる事例をここから抜粋した上で、更に別に事例も加えてまとめます。



Barnard (1967)

 羽毛状剛毛が多いナミノリソコエビの描画において、そこに埋もれた棘状剛毛を切り抜きのような表現で見せています。この画は論文の著者が描いたものではなく Jacqueline M. Hampton という画工の筆によるもので、そういった目で見るのも面白いです。


Kamihira (1977)

 底節鰓の構造を点描で描いています。


Hirayama (1990)

 ここ半世紀で出色の出来といえばこの論文だと思います。とにかく線が活き活きとしています。


Pretus and Abello (1993)

 頭頂の書き込みが特徴的です。また、変わったところでは前胃を描画しています。


Lowry and Berents (2005)

 色素斑を描くとともに、入っていた巣まで描画しています。


Jaume et al. (2009)

 体表を覆っている細かい剛毛などのテクスチャを、全体に書き込むのではなく、枠で囲った範囲に部分的に描いて表現しています。


Pérez-Schultheiss and Vásquez (2015)

 色素斑を描いています。


Marin and Sinelnikov (2018)

 影のついた特殊なタッチです。



<参考文献>

Barnard, J. L. 1967. New and old dogielinotid marine Amphipoda. Crustaceana, 13: 281–291.

— Hirayama A. 1990. Two new caprellidean (n. gen.) and known gammaridean amphipods (Crustacea) collected from a sponge in Noumea, New Caledonia. The Beagle, 7(2):21–28.

— Jaume, D.; Sket, B.; Boxshall, G. A. 2009. New subterranean Sebidae (Crustacea, Amphipoda, Gammaridea) from Vietnam and SW Pacific. Zoosystema, 31(2): 249-277.

— Kamihira Y. 1977. A new species of sand-burrowing marine amphipods from Hokkaido, Japan. Bulletin of the Faculty of Fisheries, Hokkaido University, 28(1): 1–5. pls. I–V.

Lowry, J. K.; Berents, P. B. 2005. Algal-tube dwelling amphipods in the genus Cerapus from Australia and Papua New Guinea (Crustacea: Amphipoda: Ischyroceridae). Records of the Australian Museum, 57: 153–164.

   Marin, I.; Sinelnikov, S. 2018. Two new species of amphipod genus Stenothoe Dana, 1852 (Stenothoidae) associated with fouling assemblages from Nhatrang Bay, Vietnam. Zootaxa, 4410(1).

    Pérez-Schultheiss, J.; Vásquez, C. 2015. Especie nueva de Podocerus Leach, 1814 (Amphipoda: Senticaudata: Podoceridae) y registros nuevos de otros anfípodos para Chile. Boletín del Museo Nacional de Historia Natural, Chile, 64: 169-180.

    Pretus, J. L.; Abelló, P. 1993. Domicola lithodesi n. gen. n. sp. (Amphipoda: Calliopiidae), inhabitant of the pleonal cavity of a South African lithodid crab. Scientia Marina, 57(1): 41–49.



2021年9月18日土曜日

ディケロガマルスだけじゃない淡水ヨコエビの外来種問題について(9月度活動報告)

 

 以前こちらの記事でディケロガマルス・ヴィローススについて触れましたが、ここ数年、淡水域を中心に様々な外来ヨコエビについての論文は数多く、研究者の間で関心事になっているのは間違いありません。

 

 今年のベントス・プランクトン合同大会 (以下、市原・田辺 2021) でも取り上げられた フロリダマミズヨコエビ Crangonyx floridanus(通称フロマミ)は、日本で最も注目されている淡水の外来ヨコエビといえるでしょう(「フロマミ」は私が2016年ごろから勝手に言っているものなので、基本的に世の中で通じないしつまり通称ではない・・・?!)

 利根水系で発見されて以来、90年代末から2000年初頭にかけて急激に広まったようです (金田ほか 2007)。海外では英国 (Mauvisseau et al. 2018)、 アイルランド (Baars et al. 2021) でも発見されており、今後も拡散していく可能性があります。

 フロマミの動態は、多少付き合いの長い日本でも、今まさに研究が行われている途中です。水域間の水草の移動に伴って拡散していると考えられますが、具体的にどのようなルートで分布を広げるのか、確証は得られていないようです。また、在来生態系や産業をどれほど脅かすのか、以下のような報告がありますが、十分な知見が得られている状況ではありません。

  • ワサビへ正の走行性を示すようです。ただし、ワサビへの食害については在来のオオエゾヨコエビ Jesogammarus jesoensis と比較して大きなものではないとのことで (古屋ほか 2011)、食害に寄与するにせよフロマミの侵入により生じる産業への害を予見したものではないと考えられます。
  • 在来種・オオエゾヨコエビ J. jesoensis とフロマミは微環境の違いによって棲み分けている傾向があり、若干の相互作用はありつつも排他的ではないとの報告があります (田中ほか 2010)
  • ナリタヨコエビ J. naritai はフロマミよりブルーギルの捕食圧を受けやすいとの報告があり、フロマミの拡散や在来ヨコエビとの競合という面からも、重要な外来魚であるブルーギルの管理という面からも、特筆すべき現象だと思います (石川ほか 2017;山本ほか 2017)。 

 市原・田辺 (2021) の考察はこの「捕食圧の違い」を前提にしているようで、ナリタヨコエビとフロマミの付着基質の違いは、フロマミによるナリタヨコエビの駆逐というよりは、それぞれの捕食回避戦略・基質選好性によるという解釈がしっくりくると思います。一方、例えば侵略的外来種の代表種であるディケロガマルス・ヴィローススは隠れ場所を巡る競争で在来ヨコエビに勝ることが知られ、外来魚とのコラボによって在来ヨコエビを絶滅に追い込んだ事例 (Beggel et al. 2016) も報告されています(ディケロガマルス・ヴィローススについては,こちらをご参照ください)。日本在来の多くのヨコエビと比較してフロマミの体躯は小さく、空間ニッチを巡る競争で分があるようには見えませんが、現状の情報だけで楽観はできないと思います。

 日本の在来ヨコエビは水質指標種として扱われる場面が多いなど、一般的に「きれいな水」を好むように思えます。一方フロマミは、有機物が多いあるいは水温が高い等、いわゆる「悪条件」の水域への適応性が高いようです (金田ほか 2007等)。これは、ニッチの競合に勝利する可能性以前に、多くの水域でそもそもニッチが異なることを示唆するように思えます。海外ではこれに類似したものとして、電気伝導度が高くなるに従って外来種 Echinogammarus ischnus が優占するとの研究があります (Kestrup and Ricciardi 2009)。開発に伴って清流環境が減ったことで在来種の生息域が減少し、人為的な改変圧のかかった環境が増えてそこを利用できる外来種が増殖する。アメリカザリガニなどが、こういった例の代表かもしれません

 一方、フロマミは食性も幅広く、前述の植食性のほか、捕食性が強いという説もあります。また、水質や水温の条件が幅広いことに加えて、表層水環境では複眼が出現し地下水環境では消失する(篠田 2006)など、その適応力には目を見張るものがあります。 こういった状況から、直接的な影響だけでなく、例えば地下水系の昆虫類等への捕食圧等、目に見えにくい場所の影響に留意するべきかと思います。


 英国では、ディケロガマルス・ヴィローススと同属の Dikerogammarus haemobaphes は、微胞子虫 Dictyocoela berillonum の寄生によって性転換が起こり、侵入能力が高まっているとのこと(Green Etxabe et al. 2015)。外来種1種だけでなく、付随している生物にも目を向ける必要があるといえます。

 ツイッター等を監視していると、日本ではアクアリウムショップで各種ヨコエビが販売されていて、Hyalella属などはフロマミと同様に水草に紛れて偶発的に水槽に現れているようです。今のところ、フロマミ以外のヨコエビが定着しているという話は聞こえてきませんが、引き続き監視を続けていく必要があると思います。

 

 淡水以外のヨコエビについてはまたの機会に。

 

 

<参考文献>

Baars, J.-.R; Minchin, D.; Feeley, H. B.; Brekkhus, S.; Mauvisseau, Q. 2021. The first record of the invasive alien freshwater amphipod Crangonyx floridanus (Bousfield, 1963) (Crustacea: Amphipoda) in two Irish river systems. BioInvasions Records, 10. 629–635.

Beggel, S.; Brandner, J.; Cerwenka, A. F.; Geist, J. 2016. Synergistic impacts by an invasive amphipod and an invasive fish explain native gammarid extinction. BMC Ecology, 16, 32. DOI: 10.1186/s12898-016-0088-6

— 古屋 洋一・今津 佳子・久米 一成・金子 亜由美 2011. 静岡県における外来種(フロリダマミズヨコエビ)の生態調査.静岡県環境衛生科学研究所報告, (54):13–19.

Green, E. A.; Short, S.; Flood, T.; Johns, T.; Ford, A. T. 2015. Pronounced and prevalent intersexuality does not impede the ‘Demon Shrimp’ invasion. PeerJ, 3:e757 

— 市原 龍・田辺 祥子 2021. PP04 琵琶湖におけるヨコエビの動態解析. 2021 年日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会 講演要旨集.

石川 俊之・木下 智晴・山本 賢樹 2017. 琵琶湖において同所的に生息するナリタヨコエビ(Jesogammarus naritai)とフロリダマミズヨコエビ(Crangonyx floridanus)に対するブルーギル(Lepomis macrochirus)による捕食圧の違い. 滋賀大学環境総合研究センター研究年報, 14 (1): 51–55. 

—  金田 彰二・倉西 良一・石綿 進一・東城 幸治・清水 高男・平良 裕之・佐竹 潔 2007. 日本における外来種フロリダマミズヨコエビ(Crangonyx floridanus Bousfield)の分布の現状. 陸水学雑誌, 68 (3): 449–460.

Kestrup, Å. M.; Ricciardi, A. 2009. Environmental heterogeneity limits the local dominance of an invasive freshwater crustacean. Biological Invasions, 11 (9). 2095–2105. 

Mauvisseau, Q.; Davy-Bowker, J.; Bryson, D.; Souch, G. R.; Burian, A.; Sweet, M. 2018. First detection of a highly invasive freshwater amphipod (Crangonyx floridanus) in the United Kingdom. BioInvasions Records, 8.

— 篠田授樹 2006. 東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査. 研究助成・一般研究. Vol.28, No.164.

田中 吉輝・長久保 麻子・東城 幸治 2010. 外来種フロリダマミズヨコエビと在来種オオエゾヨコエビが混棲する長野県安曇野市蓼川における両種の個体群動態. 陸水學雜誌, 71(2): 129–146. 

山本賢樹・木下智晴・藤野勇馬・饗庭優香・藤岡沙知子・石川俊之 2017. びわ湖に侵入した外来種フロリダマミズヨコエビと在来種ナリタヨコエビの現状について. 日本生態学会第64回全国大会, 一般講演(ポスター発表) P2-G-232.

 



2019年8月13日火曜日

東海サマー(8月度活動報告)


 ウシロマエソコエビを探して,近畿や東海を放浪しています.

 もう潮が引かなくなるので,夏の最後のチャンスを伊勢湾に賭けました.

 運命的な出会いがきっと待ってる・・・?



東海地方某所.


 事前に仕入れていた情報では,このへんで採れるとのこと.

 粒が粗い.


 クリークが校庭の砂利のような粗砂で満ちています.あまり見たことのない湿地です.




 岸から一定距離は砂利のような礫のような,潜砂性種狙いの身として扱いにくい底質が続いています.しかしヤドカリはいっぱい.



 ワンドを越えるごとに粒径が変わり,1mm 以下になるところもあります.なるほどこういう感じのフィールドなんだな…




 ワンドの間にはかなりの密度のアマモ場が.打ち上げ物を見ても海藻は少なく,バイオマスにおいてアマモがかなりの部分を占めているようです.

ドロソコ(Grandidierella).

 どこにでもいますね.

 二枚貝を採りに来ている人が多いようです.飽きるほどのマテと,マルスダレガイ科っぽい稚貝が見られました.
 チョロチョロと砂の上をハゼが滑り,スナモグリやワタリガニの子供,クーマ,オフェリア,チロリ,スピオ,スゴカイイソメ,ツバサゴカイなど,少し掘っただけでも砂の中のメンバーは厚いです.顔を出したスゴカイは初めて見た(さすがに撮影はできず).




 しかし,潜砂性ヨコエビは増えず.上げ潮に転じたためガサりに移ります.



ところどころ硬い石や人工物があり,アオサが付いています.



 

ヒゲナガヨコエビ(Ampithoe).




ポシェットトゲオヨコエビ(Eogammarus possjeticus).



メリタ(Melita)とイソヨコエビ(Elasmopus).




 ここまでの所要時間,およそ2時間半.驚くべき歩留まりの悪さ.

 日差しもきついので,潮上決戦で〆めます.


打ち上げられているのはほぼアマモ.  誰も掃除していない感じがGOOD.


 めっちゃおる.

 過去にないくらいのヒメハマ活性です.大人が多い.
 これ夜間に灯火を焚いたら楽しいやろなぁ.ついでにEHT法もぶちきまして…


 やはり海草の打ち上げが続いていることがハマトビリティには重要ということでしょうか.しかし,得られたのはPlatorchestia pacifica





 総括.

 事前情報を得ていながら,目的の成果を得ることができませんでした.伊勢湾はもう少し攻めたいところなので,この自然海岸のヨコエビリティをどうモノにするかが課題です.
 それにしても,ドロソコも,モズミんも,ポシェットタソも,P. pacifica も,本当にどこにでもいるのが驚きです.




 

2019年7月5日金曜日

ヨコエビ四番勝負 ~令和最初の夏も宝虫探し~(7月度活動報告)


 潮が良いので遠征してきました.

 今季は期限や目的のはっきりした採集が多く,自分のペースでフィールドのポテンシャルを測るような旅をあまりしていなかった気がします.S.A.M. project もほったらかしだし.

 件の記載論文もあとは図表に番号を振って関係方面に回すだけという段まで来たので,7月頭のこのビッグウェーブを逃すわけにはいかないと,新幹線に飛び乗りました.スマートEXまじで楽(それにしても全ての新幹線はつながっているのになぜIC乗車券に新幹線チケットを紐付けするシステムは東海道山陽と北陸上越は互換性がない…おや、誰か来たようd).



 S.A.M project とは,ヨコエビが人をかじることを確認する,極めてシンプルな企画です.
 とりあえず,できるだけ多くの人食いヨコエビを発見し,その傾向を知ることを目標としています.
 発端はオーストラリアでのこの事件です.ヨコエビが死肉を漁るのは常識といえるかもしれませんが,生きた人間をかじるという事象はあまり一般的ではないのが現状です.生きた人間がヨコエビに齧られるのかどうか.その知見が積み重なっていけば,今後無用な不安感を抱かなくても済むのではないでしょうか.余計に心配になったりして.



 さて,新幹線は思い出の岡山を過ぎて九州へ…


 しかし…


「木曜日まで豪雨」
「3日が特に激しい」
「九州は例年7月1ヶ月分の降水量が1日で降る可能性」
「気象庁が異例の会見」


 やめてよぉっ!



福岡激闘篇


 志賀島での S.A.M project の前に,九州北東部のヨコエビリティを探っておきたいと思います.

 山奥の採集であれば早期に中止を決めたでしょうが,今回の採集地は県のハザードマップでは大規模な土砂崩れの懸念箇所には含まれていなかったので,ひとまず予定通りに…



福岡県某所.


 意外と大丈夫じゃね?
 小雨がちらつく程度で時折晴れ間さえ見えます.

 ちなみに居酒屋のおばちゃんによると,ここ何日も「明日はヤバい」と予報されつつ,
ずっとこんな感じとのこと.むしろ水不足が心配らしい.ホンマかいな.




 干潟の端に電波塔が聳えています.これで分かる人は分かるかもしれません.

 アオサしかない絶望感もさることながら,干潟を埋め尽くすあまり細くないホソウミニナとヤドカリの物量.


 ヨシ原と連続していることもあってかやや泥っぽくもろもろとした砂泥の底質は悪くありませんが,少し掘るとすぐにその黒い本性を顕す潮通しの悪さと,LNO(ランドリーネットオペレーション=洗濯ネット作戦)を阻む粒径の大きさ.

 苦戦の予感.




 さっぱり採れん.

 三番瀬と谷津干潟を足して2で割った感じと言えば,千葉県のヨコエビ事情に通じている方ならばピンとくるでしょうか.アオサにはシミズメリタ,杭にはアリアケドロクダというメンバーの単調さ.モズミヨコエビもいますがかなり少ない.


モズミヨコエビ(Ampithoe valida).


メリタ属の一種(Melita ).
シミズメリタかもしれない.


ドロクダムシ科の一種(Corophiidae).
ちょっと見たことのないスレンダーなドロクダムシですね・・・
第2触角に見たことのない突起があります・・・


 ベントス相は,汀線上にコメツキ,汀線下にタマシキ,マメコブシ,ガザミ,タイワンガザミ,アサリと,ほぼ三番瀬です.アラムシロっぽい巻き貝とオキシジミっぽい二枚貝とマハゼっぽい魚もいました.違うところといえば,主張してくるフグでしょうか.


ガザミ先輩こわすぎ.


 仕方がないので,潮上決戦へ移行します.
 
 翻って,ハマトビリティは凄まじいものがあります.

 小雨パラつくコンディションが良かったのでしょう.米粒とか稗粒サイズのハマトビムシがそこらじゅうをぴょこぴょこしてます.

 このような場面にも遭遇.


この画像,ずっと自前でほしかったんだよねぇ.


 ハマトビムシを観察していると…


(チクッ)


 チクッ?!


 見ると,なんとハマトビムシがアラサーサラリーマンの汚い足を齧っているではないですか!



 ハマトビムシが人を刺すという話は以前からネットで見かけましたが,どうやらスナホリムシなどと区別がつきにくいようで,誰が犯人なのか決定的な証拠に欠けていました.新潟で土左衛門にハマトビムシがたくさん付いていたとの検死結果がありますが(小関・山内 1964),遺体の損壊には寄与していないとされています.
 オーストラリアではスナホリムシが(嘘か真か)博物館の理事長の息子さんのポークビッツを噛んだ事例(※1)がありますが,種の同定が信頼できる事例は非常に乏しかったわけです.

 しかし同時に,ハマトビムシが人を刺さない証を立てるのは「悪魔の証明」の部類です.一件でも明確にハマトビムシであることが分かればこの問題は解決できると思っていたところ,思いがけずハマトビムシに噛まれても痛いことがわかったのです!
 

 齧っているのは1個体ではないようです.指の腹を齧られても何も感じませんが,指の上や足の甲にとりついた個体は確かに口元を押し付けて齧る仕草をしています.そして明らかな痛み.

 齧っていたのは未成熟オスあるいはメスのようです.その個体そのものは確保できませんでしたが,周辺でピョコピョコしている個体の中から同定が可能なサイズのものを採取してみます.

ヒメハマトビムシの近似種(Platorchestia pacifica).



 結果:勝ち(豊かなヨコエビリティに触れることはできなかったものの新知見を得た).




志賀島再戦(リベンジマッチ)篇



 戻ってきたぜ志賀島!

 今年は2ヶ所のサイトを設定しました.



 サイト1.


 恐らく,この沖で件の事故(※2)があったものと思われます.事件発生箇所に近ければタカラムシが採れるはずですが果たして…



 サイト2.


 昨年,○○な○○を採取してしまった場所ですね.記載準備の準備中です…



 サイト2の地形やヨコエビリティは見当がついているので,最干潮の前にサイト1を見てみます.
 


 要するに,ビキニのチャンネーやらが肌を焼いているようなビーチです.ビキニも観察したいところですが,こちらはあまり潮の影響を受けないため,まずヨコエビを探ります.

 


 銚子の先っぽで見たことあるような,良さげな岩場がありますね.モクとミルを主体として,アオサや短い紅藻,場所によりサンゴ藻がこんもり生えています.ウニの密度もそれなりに.

 おもむろにガサると



ドロノミ(Podocerus ).



ソコエビ(Gammaropsis).


 
ニセヒゲナガヨコエビ(Sunamphithoe ).



ミノガサヨコエビ(Phliantidae).


イソヨコエビ(Elasmopus).


チビヨコエビ(Amphilochidae).


ホヤノカンノン(Polycheria).
これは自己初.
各胸脚の指節が付着に特化している.



 もうこんなもんでいいや(疲労).

 これ以上潮が引いても地形に変化はないようです.最干潮にあわせて場所を変えます.




 サイト2.なつかしい.


 相変わらず海藻の打ち寄せがすごい.

 昨年は血眼で Orchomenella を探した末にヤバいものを拾ってしまいました.今回は Orchomenella Eohaustorius とついでに例のヤバいものも探してみましたが,潜砂性種は全くヒットせず.粒径の問題で LNO が機能しないという難しさが浮き彫りに.



 仕方がないので潮上決戦に持ち込み,フィニッシュとしました.採れたのはPlatorchestia pacifica でした.






 さて,今回はタカラムシに会うため,サイト1に鶏肉入りの洗濯ネットを仕掛けていたのですが…



 ダメでした…


装置の設計や設置時間に問題がある気がするので,
玄界灘に沈む夕日にリベンジを誓い,
島を後にしました.



 結果:負け(岩礁のヨコエビリティを発見したものの目的にかすりもせず)

 

ベイトトラップでなぜか Jassa がよく採れる.スカベンジャーなのかお主ら(たぶん付着基質として利用しただけ).






愛知死闘篇



 東海地方へ移動します.連戦によりぎょさん装備の足はもう限界です.

「九州南部に大雨を降らせた雨雲は東へ移動」
「東海から関東は夜にかけて雨」

 やめてよぉぉっっっ!!


 伊勢湾を挟んだ三重県と,いちおう伊豆は参戦したことがあるものの,愛知のヨコエビリティは未経験です.今回は愛知のヨコエビリティを知り,愛を知り,できれば最近集め始めた Eohaustorius を採ることを目的としています.

 愛知に Eohaustorius がいることがわかっているものの,電車で行くことを考慮して新たな干潟を探すことに.


 Googleマップでは,海苔網がかなり岸の近くまで張られているのがわかりました.李下の冠,怪しい行動は慎んで慎重な採集が求められます.

 
 しかし,串カツの美味さに我を忘れ,結局どこにも連絡しないまま現場へ.




 ロープとかは張ってないのね?

 富津を思わせる密漁絶許標示と茶色がかった砂底,繁茂したアマモ.東京湾が失ったものがここにあるようです.

 やたら転がっているワタリガニの脱皮殼.時々生体.


ハサミないけど大丈夫?


これは図鑑でしか見たことがないけど
ジャノメガザミというやつか…

 潮間帯上部はアマモやコアマモの群落が占めており,その隙間の砂地にはアオサがぽつぽつと.目につくのはタマシキとアラムシロとヤドカリ.

 潮間帯を上から下に移動し,汀線に沿っても歩いてみましたが,砂の状態は非常に均質でした.河川由来の堆積物も今回見た限りでは溜まっておらず,還元化しているところもありません.リップルマークのあるところとないところがありますが,概ね地形による感じです.表層2㎝ほどはややモロモロとした感じのする褐色,その下は東京湾奥に似た黒色の海砂です.1mmの洗濯ネットでふるうと黒い粒はすっかり抜けてしまい,少しだけ透明な粒が残るのが印象的です.



 そこへ近寄ってくる人影.優しそうなおばちゃんが声をかけてきました.

 どうやら密漁監視の方のようで,タダ乗り潮干狩り客と思われたようです.干潟でアサリなんか採れてもいつもそのへんに投げてるヨコエビおじさんとしては,身に覚えのないことです.スコップ持って干潟に立ってる時点で怪しすぎますが

 ヨコエビを採っていることを伝えようとしましたが…せや…わてまだヨコエビ採れてへんかったわ…

 おっ,コアマモの間で枯草のフリしとるんはヒメイカはん…見てくださいこのイカが食べてるのがヨコエ…


エビジャコやんけ.


 現地にヨコエビに対応する言葉がないかと色々と探ってみましたが,やべー奴というのは伝わったらしく,逆に励まされて放免となりました…


 アカン…このままやとウシロマエソコエビを採る前にワイがパクられてまう…潔白を証明するためにまず何でもいいから「見せヨコエビ」を採らないと… 蛍光グリーンの活きのいいモズミヨコエビが欲しいところです.2㎝くらいの.


 それからアマモやコアマモをガサってみたものの,大量の微小巻貝とたまにヘラムシが落ちるだけで,一向にヨコエビが出ません.
 砂地からも何も採れません.


 もしかして,ヨコエビが存在しない世界線に来てしまったのでは?


 そんなことを考えつつ,汀線付近で波に洗われていたロープに付いたアオサをガサってみると





見せヨコエビGET!

ヒゲナガヨコエビ属の一種(Ampithoe cf. tarasovi).



 こんなに立派なヒゲナガを採ったのは久々です.

 がっちりした体形や体格を見ると,かなりニッポンモバヨコエビに見えます.一応第5底節板の下縁に短い剛毛があります.第1触角の特徴などから総合的に判断しました.


アゴナガヨコエビ(Pontogeneia).

チビヨコエビ科(Amphilochidae)のなにか.


タテソコエビ科(Stenothoidae)のなにか.

 しかし,それから砂を掘れども出てくるのはオフェリアとチロリとハマグリ(チョウセン?).ハマグリを遠投するたびHPが減少し,チロリをオルタナティヴする元気もありません.

 そこへまた地元の方が,貝を採っているのか聞いてきたではありませんか!見せヨコエビの出番!ヨコエビを採っていることを説明すべく懐からヨコエビセットを取り出そうとしていると「貝じゃないならいいです」と足早に去っていくではないですか!ちょっと!見てよ!かわいいモズミん見てよ!!ねぇ!!



 そうこうしているうちに潮は満ち始め,電車の時間もあるので,諦めて潮上決戦に移行します.

 海草場が豊かなので打ち寄せ物もアマモが多いようです.おや,まだ生きているワレカラが…


 どうやら,ここのハマトビムシは1種ではないようです.


ヒメハマトビムシの近似種(Platorchestia pacifica).



スナハマトビムシ(Sinorchstia sp.). 
あっ,やべぇこんな掌縁をした咬脚の種は見たことがねぇ.
やべぇ・・・
(ニホンスナハマトビムシでもタイリクスナハマトビムシでもないです).



結果:逆転勝ち(完全ボウズではないが,圧倒的ヨコエビリティ不足はロケハン技術不足.最後にヤバいのを引いたので加点.).





愛知突撃篇



 愛知の恐ろしさを知ったヨコエビおじさんは,例のごとく地元の有識者に助言を頼み,改めて採集地を見直すことにしました.ここから本気で Eohaustorius を求めます.



 かなりの密度でナミノリケナシザルが生息しています.群れを避けて,教えてもらったポイントへ向かいます.

 やはり密漁絶許看板が立っているので浜に下りてよいか近くの方に声をかけたところ,問題ないとのこと.スナホリケナシザルに優しいのは嬉しい.



 色が少し山砂っぽいものの,細かくさらっとした砂質が良い感じです.
 1mm メッシュの通りがとても良く,かといって腐った泥もなく,堤防に囲われかなり人工的な雰囲気が漂う環境ながら,自然海岸的な健全さを感じます.汀線付近にはうんざりするほどアオサが溜まっていますが,潮通しが極めて良好で,留まることなく移動しているようです.アオサだまりからやや下がるとアマモ場が広がっていて,その間にワタリガニやらタコやらが潜んでいるようです.


超 怖くね?

アミメキンセンガニというやつだろうか.


 あとは,夥しい稚魚,稚ガニ,貝形虫が印象的です.




ドロソコ(Grandidierella).
なぜか小さい個体しか採れない.




ウシロマエソコエビ(Eohaustorius).

 やったぜ.


 しかし,よく採れる場所を探し当てるまでにかなりの時間を使ってしまいました.それに小さいものばかり.
 Eohaustorius は,冬季のみ大型個体でしのぎ夏季に短いスパンで小型個体が出現するナミノリソコエビと異なり,通年で大型個体がいるはず.
 なお,持ち帰って形態を確認したところ,たいへんまずいことが発覚しました.これはまたいつの日か・・・

 

 硬い基質も見てみましょう.
 岩場の海藻をガサるとモクズとかいろいろ.少し小さめ.半ば干上がった岩の上まで歩いていて根性を感じました.

ヒゲナガヨコエビ(Ampithoe).



 そろそろタイムリミット.
 ナミノリケナシザルをかわしながらすでにハマトビリティの高さは感じていました.


プラゴミ少なくアマモがこんなに.
この海岸管理は全国のサーフスポットが真似してほしい.




 潮上決戦は残った時間でサクッとをキメたいところ.


スナハマトビムシ(Sinorchstia).

 あれ?ヒメハマは?

 ナミノリケナシザルの生息域では普通にヒメハマがいた気がします.確保しておくべきでした.これはまた後日かな…


 
 結果:辛勝(目的外のヤバいのを引いてしまった).






 総括.
 ”見せヨコエビ”以外は悉く狙いを外れ,実力不足を思い知らされました.愛知二日目は一応属レベルで目的を果たせたものの,欲しかったのは既知種の複数ポイントのサンプルであったため,今後の研究に対しては厳しい展開となりました.これは仕方ないけどね~
 とりあえず藻があればよい磯と比べて,干潟の潜砂性ヨコエビの生息密度は細かい底質状況に左右され,現場でもしばらく流してみないと狙ったヨコエビを得るのは難しいです.ヨコエビの情報がなくとも,既存の報告書などから現場の雰囲気を察知してヨコエビリティを推し量ることができればよいのですが…

 あとは,ターゲットとなる潜砂性ヨコエビの生態特性と,ヨコエビおじさんの採集スタイルとの乖離です.
 電車で移動して岸から歩いてエントリーする都合上,胴長と洗濯ネットが関の山です.盤州干潟でも潜砂ヨコエビはかなり潮下帯での活性が高かったので,メインハビタットに至らず,採集効率が悪い可能性があります.





※1:アンドリュー・ホジー氏(西オーストラリア博物館)の証言.
”このニュース記事を見てすぐ,私は博物館のコレクションにあるPseudolana concinna(スナホリムシ科)の標本のことを思い出した.
 これは1959年の夏にパース海岸にほど近いロットネスト島(西オーストラリア)で採集されたものだ古い登記書類にはこのような備考がある ”水辺に座っていた小さな子供のペニスに取り付いて食らいついてた;非常に出血していた”確証はないがその小さな子供は当時の西オーストラリア博物館理事長の息子だったと考えられる


※2:永田ほか (1967) の事例.
  投錨して操業していた小型漁船が鉄船にぶつけられ,漁師の男性が変わり果てた姿で発見された事件.ヨコエビによる蚕食事例として著名.


(参考文献)
— 小関恒雄・山内峻呉 1964. 水中死体の水生動物による死後損傷. 日本法医学雑誌, 18 (1): 12–20.
永田武明・福元孝三郎・小嶋亨 1967. フトヒゲソコエビ及びウミホタルによる水中死体損壊例. 日本法医学雑誌, 21(5): 524–530.

-----
補遺 (15-VIII-2024)
・一部書式設定変更。