2016年7月9日土曜日

驚異の7月度活動報告(深海展に行ってきました)

 
 ヨコエビを拾った数だけヨコエビを知る。

 つまり最近あまりヨコエビを拾えてないので、危険な状態です。ヨコエビ成分を補給すべく、私はあの場所へと向かいました・・・



・千葉県立中央博物館企画展「驚異の深海生物-新たなる深世界へ-」

 縁あって微力ながら協力させて頂いた「驚異の深海生物」展、本当に微力にも関わらず、協力者に名を連ねたばかりか、招待状まで頂きました。ありがたいかぎりです。
 開催初日のオープニングセレモニー、仕事があって間に合いませんでしたが、展示を観ながら初日の雰囲気を感じました。
 深海生物展といえば10年前にもありましたが、今回は新たな知見が加わったり、世界に1つしかないホロタイプ標本の展示が関連展示も合わせて3種あったり、研究の最前線からお届けするこの網羅性はなかなか他ではなかなかありません。



 ヨコエビは3種の標本を展示。
 ちなみに、私が検鏡・同定したものは展示の選考から漏れたようです!残念!


 以下、ほぼボールのマルフクレソコエビStegocephalus inflatus Krøyer, 1842
 そして、腐肉食性の巨大ヨコエビとして知られるオオオキソコエビEurythenes gryllus Lichtenstein, 1822
コロコロしてるのがフクレソコエビ。オオオキソコエビは生時の写真が添えられており、鮮やかな赤色をしていることが分かります。


 そして世界で一番深いところに住むマクロベントスとしてお馴染みのカイコウオオソコエビHirondellea gigas (Birstein and Vinogradov, 1955)
科博の深海展に出てきたものよりは小さな個体です。
 
 JAMSTECの写真パネルコーナーに”Gammaridea”と同定されたヨコエビのパネルがあります。こちらは博物館はタッチしておらず元の同定のままの展示だということですが、明らかにスガメヨコエビ科Ampeliscidaeの一種です。
 


 フクロエビ上目では、オオグソクムシ属Bathynomusの現生3種と化石種2種が展示されております。 私もこの展示で初めて知ったのですが、コウテイグソクムシと呼ばれる種には学名が対応せず、未記載種とのことです。やばい。ちなみに、展示の解説文にて触れられているLowry & Dempsey 2006は、ネットでタダで読むことができます!オオグソクムシファンはぜひ!
 このBathynomusの化石種というのが、今年4月に出版されたKato et al. 2016で記載されたばかりのコミナトダイオウグソクムシB. kominstoensisで、深海展とは別コーナーですが、一応同じ時期に、地学エリアの一角にて展示されております。 (※こちらの論文は出たばかりなのでまだ無料で読めるところはないようです)

 その他、ムンノプシス,オナシグソクムシ,タナイスなど珍品のオンパレードとなっています。

 今回不遇の分類群となったのは環形動物多毛類で、ハオリムシとタケフシゴカイのみの参戦となりました。タケフシゴカイは科までの同定となっておりますので、我こそはという多毛クラスタの方々は、ぜひ手を挙げてみてください。
 
 ミュージアムショップではオリジナルグッズのTシャツの他、ちょっとマニアックな深海生物グッズもいろいろと仕入れていました。 


 標本によっては皮むけが見られるなど細かいところではちょっとアレなものもありますが、とにかく本物を見せようという心意気が隅々まで満ちています。ハダカイワシだけ30種とか、ワニトカゲギスだけ30種とか、ディープな展示もございますよ。

 
ジオンの流れをくむMSみたいなんですがこれは







・進捗報告
 まだ浜野さんから顕微鏡入荷の連絡がありません。中古にこだわらず新品でも買うかといったところ…夏は仕事でバタバタなので時間をつくってまた相談ですね(;'∀')




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参考文献

-Kato, H., Y. Kurihara and T. Tokita 2016. New fossil record of the genus Bathynomus (Crustacea: Isopoda: Cirolanidae) from the middle and upper Miocene of central Japan, with description of a new supergiant species. Paleontological research, 20(2): 145-156. 
 
-Lowry, J.K. and K. Dempsey  2006. The giant deep-sea scavenger genus Bathynomus (Crustacea, Isopoda, Cirolanidae) in the Indo-West Pacific, in: RICHER DE FORGES B. & JUSTINE J.-L. (eds), Tropical Deep-Sea Benthos, volume 24. Mémoires du Muséum national d’Histoire naturelle, 193: 163-192. Paris. ISBN: 2-85653-585-2.



書籍紹介『海の寄生・共生生物図鑑』

 突然ですが、書籍をご紹介します。 

魚の頭部に寄生するカイアシ類や、口の中で暮らすウオノエ類、
吸血するムツボシウミクワガタ、保育をするオニナナフシ類・・・・・・、
著者が世界で初めてとらえた、謎に満ちたモンスターたちを大公開!!(カバー表紙紹介文より)

 激萌え!そして渋い!
 八景島シーパラのミクロモンスター展を彷彿とさせるマイナー甲殻類の大行進、僕にとってはモンスターというよりスターな顔ぶればっかりなんですが、いかんせん巷での知名度が低すぎるのです。

 そんな書籍が刊行されたとのことで、そういえばNob!!さん(著者の齋藤暢宏さん)こないだそのようなことを言ってらしたなと思いつつ、シャコパンチのごとき早業にて注文ボタンをクリックいたしました。 






 
表紙がウオノエさんコンニチワという衝撃


数千種もの生物が生息する東京湾のすぐ先にある伊豆大島の、身近な海にいながら、知られざる存在である小さな生物、寄生生物や共生生物たちは、その不思議な生活ぶりで、生態系の中で海を支える存在となっている。
年間500本の潜水観察と卓越した撮影技法によって、寄生・共生生物と特徴的な生態をもつ生物たちの、知られざる姿と驚きの生活ぶりを伝える。(カバー裏表紙紹介文より)



 な、なんか、生態系を捉える視点をもちながら伊豆大島のフィールドにこだわって写真を撮りまくった感じですかこれは・・・! Think globally, act locallyを地で行くようなやつですか! しかもフクロエビ上目に最大フォーカスとか攻めすぎでは?!



 届いてびっくり、これハードカバーですね・・・ 本棚から何度抜き差ししても、よれる心配はありません。
 読み進めると、途中で多少前後することはあるものの、橈脚類,等脚類...といった具合にだいたい分類群ごとにブロック分けがされていて、解説文や学名表記にも分類学と生態学の精神が隅々まで行きわたった構成に胸が躍ります。
 そして鮮やかな写真の応酬。「ええっ、そんなとこを!?こんなになるまで??(意味深)」と思わず目を覆った指の間からこっそり凝視したくなるようなアヤシイ写真が惜しげもなくコラムを挟みながら87pにわたって敷き詰められている。


 ちなみに、ありがたいことに築地書館のホームページにて少しサンプルが読めます。しかもカラー!神か!仏か!!



 そして予想外というか目を疑うほど驚いたのがなんと、ヨコエビが学名つきで12種も掲載されている!!! 

 これは事件です。

 いや、裏表紙に小さくテングヨコエビがついてたのでまさかとは思ったんですが・・・

 「寄生・共生」と銘打たれているだけあって、ヤギやカイメンに住むちょっとマニアックなヨコエビ,そして伊豆大島のスノーケリングというロケーションならではのちょっとエキゾチックな色彩のヨコエビ,同種や異種間の関係が面白いヨコエビ、いずれもそこらの普通の図鑑ではお目にかかることはできないし、論文でもここまで生態写真を堪能できるものは少ないし、そもそも日本語の出版物において質的にも量的にもここまでヨコエビが充実しているものはお目にかかったことがないです。というか裏表紙にカラーのヨコエビの写真が使用されている本というのもそうそう出合えるものでは(もうこのへんで)



 あまりの出来事に取り乱しつつ、通読してみて、どうしてもツッコミたいとこがありまして・・・ 大したことではないんですが・・・ できるのなら伝えてしまいたい、でも伝えられない・・・

 ・・・やはりツッコませて頂きます

 タイトルが内容とちょっと違う!?

 寄生,共生いずれでもなさそうなものについて、「これタイトル的にどうなんや」とちょっと思いました。貴重な育児の写真も目白押しなので、本題(タイトル)から外れた感じになってるのは非常にもったいない!


 まあ、そんなのわりとどうでもいいくらい圧倒的な、モンスターたちの競演がぎゅっと詰まっています。これらのモンスターがどうやって海を支えるのか?基盤生物としての小型甲殻類の地位についても、しっかりと解説がございます。
  コラムもなかなか楽しい。学問の匂いを感じられる良書です。
 
 夏休みの課題図書にしようよ(おいおい)



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