2017年4月20日木曜日

ひがたちほー(4月度活動報告)


 ガタガール、ガタボーイの皆様、いかがお過ごしでしょうか。


 先日の健康診断で、血中のヨコエビ濃度が低下しているとの結果が出て、改善命令が下されました。潮が引かないのと仕事がごちゃごちゃしていて、なかなか海に足が向いていなかったという心当たりがあり、さすがにまずいと思い、過去の調査計画メモを引っぱり出して作戦を練りました。潮はあまりよろしくないのですが、ガタガール存続リツイートキャンペーンが大詰めなので願掛けの意味も込め、仕事をサボって旅に出ることにしました(血液検査のくだりは真に受けないで下さい)


 まず、首都圏の干潟でヨコエビを集めるなら断然木更津なのです。盤州のような広大な天然干潟は微環境の多様性が高いのと、それぞれの微環境の存在量も大きいことから、多様な基質への適応戦略に長けているヨコエビを集めるにあたってこの上ないフィールドです。
 しかし、潮干狩り場になっているような場所では潮が良いシーズンは立ち入りができなかったり、思い立ってすぐ行けるものではありません。

 そうなると、海水浴場になります。

 二色浜でハマトビムシを集めた経験から、海水浴場での採集には手応えを感じています。
 とりあえず砂浜と後背草地がセットになっていれば汀線のヨコエビを狙えると考え、そのような地理的条件をもち、かつ私が追いかけている分類群の分布に新知見を提供できる位置関係にあるフィールドを探しておいたのです。

 その中から今回チョイスしたのは、九十九里です。


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 この地に降り立つのは小学生以来になります。

といっても当時はヨコエビ目当てではありませんでしたので、何もない海辺町を駅から1時間歩いて浜に向かうなどというイベントは発生しませんでした。

そして突然の横殴りの雨。雨具は装備済でしたが、たまらず木陰に待避しました。



 雨も収まり、再び歩き出してから浜につく頃には、陽が照って気温も上がってきました。

 黒色の海砂と陸の土が混ざる暗色の砂で、貝殻片もかなり含まれています。
 太平洋に面しているため波当たりは強く、テトラポッドが縦横の列となって配されています。


 


 衛星写真でみた通りエコトーンは狭く、草地と呼べるような場所は限られるため、潮上帯の雰囲気を見ながら、汀線から岡のライン上にヨコエビリティを感じるポイントを探ります。



 

 辺りの砂地には豪雨の後を物語る点状の凹みが刻まれており、何か小さな生物が飛び跳ねています。

 どうせユスリカやコバエの類であろうと目を凝らしてみれば、目的のひとつであったハマトビムシでした。



 

 雨の後ということもあるのか、ハマトビムシの行動はこれまで盤州や三番瀬でみたものとは大きく違っていました。

 まずオスらしき大きな個体が、砂地に空いた穴に入り、頭を出しています。そこに何やらちょっかいをかける別の個体。他方では砂の上で取っ組み合いを演じ、片方が片方に突進したり、顎か咬脚で捕まえて引き回したりの大立ち回り。カリフォルニアの海岸でMegalorchestiaのオスが争っている画像(こんなの)をネットで見かけますが、まさにそんな感じです。
 こちらはかなり近づいているにも関わらず闘争を続ける彼ら。砂上を瞬間移動するように跳ねながら散っていく姿しか見たことがなかったため衝撃的です。あと心なしか体サイズも大きい。



  打ち上がった褐藻の下にも多く見つかりますが、いつもより捕獲しやすい気がします…追い詰める 問い詰める 捕まえる のリズムがとれる。もしかしていつのまにか採集テクがアップしてる…?!


海藻がうにょうにょと動くくらい、砂に埋まりながら大量に群がっていた。


 今度は流木の下を見てみます。すると、ポップコーンのように手のつけられないほど弾け飛ぶ無数のヨコエビ!あっ、これいつものやつや。

 つまり、僕のテクは全く向上していません・・・!

  岡側のテトラポッドの手前と奥では、汀線のほうの海藻にこの小ぶりでよく跳ねるハマトビムシが多いようです。



 まさかの別種すか…


 そういえばあの白っぽい地色で胸節と底節板の間あたりに連続する黒紋、外房にいると言われるスナハマトビムシ属Sinorchestiaっぽいような・・・



 最干潮が迫ってきたためハマトビムシはこのへんにしておきます。




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 汀線の付近の砂を掘ってみますが、あみてきなものしか採れません。
 時々ちょっと丸っこいシルエットが見られましたが残念ながらスナホリムシ…

 
あみてき

 このあと、散々歩き回るものの…

 
 イワガニさんですかね

Plagusia dentipes ショウジンガニではとの指摘がありました


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 このままだと日が暮れてしまうので、波打ち際は諦め、戻りながら硬質基質を攻めることにします。

 汀線に直角方向に並べられたテトラポッド群にも海水が押し寄せてきました。
 テトラポッドの間に海藻の切れ端やロープなどがみられますが、日頃から太平洋の荒波に揉まれているだけあって取り外そうとしてもびくともしません。タイドプールを覗き込むと何かが泳いでいますがスナホリムシだらけ…



 他にも海水に浸るテトラポッドを見つけました。表面には海苔のような暗色の紅藻と、カキの類と思われる二枚貝が固着しています。これはモクズヨコエビリティメリタヨコエビリティが高いと感じられ、近くのタイドプールで適当に海水を汲んでから二枚貝を洗おうとしたところ…

 


 
 なんだいこりゃ!?




 学生時代から愛用しているバットの中に、大量の何かが泳ぎまわっています。

 イサザアミだ、スナホリムシだ、いやこれはヨコエだ…!


 テトラポッド下のタイドプールにいたのは探し求めていたアンフィポッドでした。


 大きな眼と半透明のボディ、内蔵が黄色や青に透けています。胸部背面は丸みが少なく背筋が伸び気味で、各節に控えめな黒褐色の紋があります。やや体幅があり、水中では横向きではなく背中を上にして定位します。第1から第3尾肢にかけて段階的に細長くなり、先端が尖ることから、アゴナガヨコエビ科と考えられます。

アゴナガヨコエビ科Pontogeneiidaeの一種


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 狙っていた汀線のヨコエビを得ることはできませんでしたが、アゴナガヨコエビの遊泳性を改めて認識するとともに、潮の流れが速くかつ陰になった場所で群泳するという生態を垣間見ることができました。盤州のナミノリソコエビにおいて潮汐とリンクした消長があることは確認していましたが、やはりアゴナガヨコエビPontogeneia rostrataにおいても同様のパターンがあるらしく(Yu et al., 2009)、それかもしれません。一緒にユスリカの幼虫も採れたので関係も気になります。

 また、砂浜において漂着褐藻類を食するハマトビムシには、漂着物という硬質基質に依存して身を隠すものと、単独で巣穴を掘り堂々と砂上を歩くものがいることが分かりました。


いつもの感じのハマトビムシ。
たぶんPlatorchestia pacificaではと思うのだが果たして・・・?



 そして、喧嘩をしていたよく分からないハマトビムシも観察してみます。


 おや、第2触角の根元にヘラ状突起があるからヒメハマトビムシではないじょい・・・

 そして第1尾肢の外葉にトゲが並んでいるようなので・・・


 Sinorchestia nipponensis (Morino, 1972) 二ホンスナハマトビムシ(自己初)じゃん・・・ 


Sinorchestia nipponensis 二ホンスナハマトビムシ


  厳密にどのような棲み分けになっているかは定量調査をしてみなければ分かりませんが、ヒメハマトビムシっぽいやつの生息様式は流木の下に入り込むという点で三番瀬と共通していて、二ホンスナハマトビムシのほうはそれとは明らかに異なる生息様式だったので、同じ海岸で利用する場所を変えて棲み分けているように思えます。


 


 ヒメハマトビムシは種の整理が必要なのと、アゴナガヨコエビは日本における多様性が十分に記述されていない可能性があり、生態の議論より先に分類を進めねばという焦りは募ります…



今回は飯岡駅を利用しましたが、九十九里には干潟という名前の駅があるんです。
 (テンプレはガタガールより)

 

 <参考文献>

- 森野浩 ・ 向井宏 2016. 砂浜フィールド図鑑(1) 日本のハマトビムシ類. 海の生き物を守る会, 京都.
- Yu, O.H., S.J. Jeong, D. Kim, J.-H. Lee, H.-L. Suh 2009. Seasonal variation in diel and tidal effects among benthic amphipods with different lifestyles in a sandy surf zone of Korea. Crustaceana, 82 (11): 1441-1456. DOI:10.1163/001121609X12511103974376


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(補遺) 20 April 2017

ショウジンガニの指摘を付記。























2017年4月1日土曜日

4月1日活動報告

 新年度となりました。
 ヨコエビギナーの皆様が活動を開始される頃かと存じます。

 ヨコエビといえばその名の通り、 横向きになっていることが特徴的で、英語圏でもside swimmerなどと呼ばれたりします。その横向きのビジュアルは、かなり古い時代から認知されていたことがわかっています。


 こちらは20世紀初頭にイギリスの探検家によって発見され、今は大英博物館に収蔵されているスカラベの裏に刻まれたヒエログリフです。紀元前1370年ごろにエジプトで作られたものとされています。見慣れたシルエットが2匹ほど見られます。


 古代エジプトでは、王(ファラオ)が即位すると、その権威を示すために大規模な狩りを行い、その結果をこうして記録し、領土にばら撒いたそうです。その証拠に、当時エジプトの支配下にあった都市や、交易のあった世界各地の港から、これと同じものが数百個もの単位で出土しているとのことです。
 このヒエログリフも、王が在位中に何匹を仕留めたか、そのような記載がみられます。

 その記録にヨコエビが登場するということは、一体何を示しているのでしょうか。



 この「ヨコエビ」を示すヒエログリフの音などは後世に伝わっておらず、表意文字としてのみ理解されています。



 ライオン狩りなどはその勇猛さを示すためのものと伝えられています。

 一説には、ヨコエビ狩りはヨード分が慢性的に不足している内陸民が海藻を採取する過程で生まれた文化ではないかとのことです(参考ページ)。

 ナイル川の流域に栄えたエジプト文明は、氾濫によってもたらされる栄養分により豊かな農業生産が可能となりました。ナイルの氾濫がもたらす養分には多種多様な無機塩類が含まれ、塩分などもまかなえたようです。ということで、海藻を採取する動機としては、日本のような塩づくりではなく、海藻そのものを摂取する生理的需要があったものと考えられます。

 海藻は数えにくく、また動きもないため、ファラオが即位した際に行う狩りとしてはかなり地味なものとなるでしょう。そこで、少しでも動きがあり、国民が海藻を扱うことに目を向けられるように、そこに多く付着するヨコエビが注目されたのではないでしょうか。



 





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 以上、エイプリルフールでした。

 お付き合いいただきありがとうございましたm(_ _)m


※Gardiner Sign ListのL区分(無脊椎および小型動物)に加えて、JSeshのSign libraryを参照し、端脚類のヒエログリフが存在しないことを確認しておりますが、もしかしたら・・・