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2025年7月26日土曜日

書籍紹介『茨城の磯の動物ガイド』

 

 6月に図鑑的な文献が出版されたようです。


—茨城の海産動物研究会(編)2025.『茨城の磯の動物ガイド』.ミュージアムパーク茨城県自然博物館.(以下、茨城の海産動物研究会,2025)



 ネットには情報ないですね。博物館の報告書に匂わせ記述があるほか、Facebookにこういった投稿があるくらい。一般の書店に出回っているものではなさそうですが、恐らく日本財団の支援により作成した限定的な部数をミュージアムショップのような限られた場で頒布しているっぽいです。ただISBNは取得されていますし、オマケ冊子のようなものではないです。


 掲載端脚類は以下の通りです。

  • ヨツデヒゲナガ Ampithoe tarasovi
  • タイヘイヨウヒメハマトビムシ Platorchestia pacifica
  • マルエラワレカラ Caprella penantis


 ヨツデヒゲナガは線画が挙げられているのは第3尾肢のみでオス第2咬脚の形状はわかりませんが、掲載写真の個体は体色的には恐らくAmpithoe changbaensis(和名未提唱)と思います。Shin et al. (2010) でも混同されていた歴史がありよく似た種ではありますが、いちおう色彩と外骨格形態 (Shin and Coleman, 2021) および色彩と遺伝子 (Sotka et al., 2016) の対応がとれています。この外骨格形状と遺伝子が対応しない可能性もありますし、真のA. tarasoviが茨城に分布する可能性も十分にありますが、久保島 (1989) もA. tarasoviとしてA. changbaensisを掲載している経緯があり、また井上 (2012) の"A. tarasovi"がどちらを指すか不明なため、現時点では「真のA. tarasoviは未記録」「現時点での定義に基づくA. changbaensisはいる」という判断が適当と思われます。Ampithoe lacertosa種群あるいはtarasovi種群と呼ぶべき一団は形態での種同定が難しく、日本にはまだ種として記載されうる個体群が北海道とかにいるようです。

 タイヘイヨウヒメハマトビムシに関しては、日本全国にわたって本種の形態差異をレビューした Morino (2024) の著者その方が執筆を担当しているため、この手の図鑑ではまずみられない高精度での検討が行われているものと考えてよいでしょう。ただ、載っているのは引きの生体写真だけで、このビジュアルだけで同定できる種ではないため、絵合わせしてよいということではありません。

 マルエラワレカラはRタイプとされるもののようです。


 茨城の海産動物研究会(2025)は前身となるテキストのようなものがあったようで、それを冊子体にまとめたもののようです。地域のファウナをまとめた書籍は非常に貴重で、手探りでフィールドに出るよりも関心を深めるのに役立ちます。茨城の磯には金色のやつとかその他諸々大量に面白いヨコエビがいますので、これから類書が出る折には更なる充実が図られることが望まれます。



<参考文献>

— 茨城の海産動物研究会(編)2025.『茨城の磯の動物ガイド』.ミュージアムパーク茨城県自然博物館,坂東市.111pp. ISBN978-4-902959-87-1 C3045

井上久夫 2012. 茨城県の海産小型甲殻類 III. ヨコエビ相(端脚目,ヨコエビ亜目).茨城生物32:9–16.

— 久保島康子 1989.日本におけるAmpithoe属(Ampithoidae)の分類学的研究.茨城大学大学院理学研究科修士論文.

Morino H. 2024. Variations in the characters of Platorchestia pacifica and Demaorchestia joi (Amphipoda Talitridae, Talitrinae) with revised diagnoses based on specimens from Japan. Diversity, 16(31). 

Shin M.-H.; Hong J. S.; Kim W. 2010. Redescriptions of two ampithoid amphipods, Ampithoe lacertosa and A. tarasovi (Crustacea: Amphipoda), from Korea. The Korean Journal of Systematic Zoology, 26: 295–305.

Shin M.-.H; Coleman, C. O. 2021. A new species of Ampithoe (Amphipoda, Ampithoidae) from Korea, with a redescription of A. tarasovi. ZooKeys, 1079: 129–143.

Sotka, E. E.; Bell, T.;  Hughes, L. E.; Lowry, J. K.; Poore, A. G. B. 2016. A molecular phylogeny of marine amphipods in the herbivorous family Ampithoidae. Zoologica Scripta, 46: 85–95.


2024年6月29日土曜日

まんが王国はヨコエビ王国たるか(6月度活動報告)

 

 日本動物分類学会大会に参加しました。

 論文化されていない未発表の内容も含まれるため、発表についてこの場で言及することは避けますが、第n回全日本端脚振興協会懇親会(仮称)や、第n回日本端脚類評議会和名問題対策チームミーティング(仮称)、サシ飲みなどが併催され、盛況を極めました。牛骨ラーメンと猛者エビとらっきょううまい。




日本端脚審議会和名分科会(仮称)報告

 このたび、本邦に産しないヨコエビの分類群に対して個別の和名は提唱せず、学名のカタカナ表記揺れへの配慮を行うという今後の方針が示されました。属では以下のような先例があります。

  • タリトルス Talitrus (朝日新聞社 1974)
  • ニファルグス Niphargus (朝日新聞社 1974)
  • アカントガンマルス Acanthogammarus (山本 2016;富川 2023)
  • ディケロガマルス Dikerogammarus(環境省 2020)
  • アマリリス Amaryllis(大森 2021)
  • オルケスティア Orchestia(大森 2021)
  • ヒヤレラ Hyalella (大森 2021)
  • プリンカクセリア Princaxelia(石井 2022;富川 2023)
  • ヒアレラ Hyalella (広島大学 2023;富川 2023)
  • ディオペドス Dyopedos(富川 2023)
  • ミゾタルサ Myzotarsa(富川 2023)
  • パキスケスィス Pachyschesis(富川 2023)
  • ガリャエウィア Garjajewia(富川 2023)

 ラテン語をバックグラウンドとする学名に画一的な読みを与えカタカナで表記するのは言語学的に難しい部分がありそうですが、幸い日本はローマ字に親しんでいるので、古典式に近い読みを無理なく直感的に発音できる素地はある気がします。

 現状既に Hyalella属 については「ヒアレラ」(広島大学 2023;富川 2023)と「ヒヤレラ」(大森 2021)という異なる読みがあてられており、今後はこういった差異の調整が必要となってくるものと思われます。

 また、過去に日本から報告されていた種が移動してしまい、和名提唱後に本邦既知種が不在になったグループというのもあります。移動先の分類群が、新設されたり本邦初記録だったりすれば和名を移植すれば事足りますが、既に和名があった場合、元の分類群に和名が取り残される感じになります。厳密には和名を廃してカタカナ読みを当て直すべきですが、分類というものはコロコロ変わるので、また戻ってきたり、別の種が報告されたりする可能性もあり、都度改めて和名を提唱するというのは無用な混乱に繋がる気がします。この辺をどう扱うかは更なる議論が必要かもしれません。

  • シンヨコエビ科 Neoniphargidae:コジマチカヨコエビ Eoniphargus kojimai が含まれていたが、後の研究で ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae へ移されたため、本邦未知科となった。
  • カワリヒゲナガヨコエビ属 Pleonexes:コウライヒゲナガ Ampithoe koreana が含められていたが、後の研究でヒゲナガヨコエビ属へ移されたため、本邦未知属となった。

 なお、本邦に自然分布しないと判明しているグループ(フロリダマミズヨコエビ、ツメオカトビムシなど)にも和名は提唱されています。将来的に日本への侵入・定着が起これば、ディケロガマルスなどにも和名が提唱される可能性があります。



T県F海岸

 学会は午後からなので、午前は採集を行うことにします。潮回りは気にせず、ハマトビムシを狙う感じです。

 

とても細かな白砂です。
どうやら花崗岩の風化砕屑物が形成している砂浜のようです。


Trinorchestia sp.
恐らく今日本で一番種同定が困難、
というか不可能なハマトビムシでしょう。
完璧な標本が手元にあっても無理です。
詳細はこちら


メスばかりでよくわかりませんがおそらくヒメハマトビムシ属Platorchestia?
背中に見たことの無いバッテンがついてます。

 なかなか巡り会えずボウズの予感に打ち震えましたが、汀線際の濡れている漂着物の周りにいました。房総や熱海のパターンを思い出します。しかし、ヒゲナガハマトビムシとヒメハマトビムシが混ざっているのはあまり見た覚えがありません。

 他のハマトビムシは採れず。バスの本数がヤバいので撤収。





T県U海水浴場

 学会後に最干潮となるので、夕方から採集を行うことにします。といっても日本海側で小潮なので、ちょっと出れば御の字です。

 天気も微妙な感じで駐車場に若干の余裕が感じられましたが、展望台には人が多く、ヨコエビスト一行はかなり浮き気味…。



 小潮でしたが、引く範囲でも様々なタイプの基質を見られる、変化に富む海岸でした。少し歩いただけでヨコエビ相ががらりと変わる、なかなかポテンシャルの高い自然海岸といえます。


Ampithoe changbaensis は褐藻についていました。
近々和名を提唱したいです。


コウライヒゲナガ Ampithoe koreana
磯的環境の緑藻上だとよく見かけます。


ユンボソコエビ属 Aoroides
なぜか状態よく採れました。


何らかの カマキリヨコエビ属 Jassa


Parhyalella属が結構採れました。
本属の日本における分布情報は文献として出版されたことはないはず。
ちなみに江ノ島で採れた本属は未記載種だったので、
ここのも怪しいです。


日本海沿いだけどオス第7胸脚の太さからすると
タイヘイヨウヒメハマトビムシ Platorchestia cf. pacifica と思われる。
未記載だとしても驚きはない。 


ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis でした。

 10科13属くらいは採れました。大潮の時はさぞかし、といったところ。ヨコエビ王国の資格あり、と言ってよいでしょう。



あとこれなに…?



<参考文献・サイト>

朝日新聞社 [編] 1974. 週刊世界動物百科 (181). 朝日新聞社.

広島大学 2023.【研究成果】ペルー北部の温泉から新種ヨコエビ発見. (プレスリリース)

石井英雄 2022.『深海の生き物超大全』.彩図社,東京.359 pp. [ISBN: 9784801305861]

大森信 2021. 『エビとカニの博物誌―世界の切手になった甲殻類』. 築地書館, 東京. 208pp. ISBN978-4-8067-1622-8 

環境省 2020. 報道発表資料「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律施行令の一部を改正する政令」の閣議決定 について. (2020年09月11日)

富川光 2023. 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』. 広島大学出版会, 東広島. 198pp. ISBN:978-4-903068-59-6

山本充孝 2016. (280)極寒 バイカル湖の生き物. 2016年12月10日 00時44分 (10月17日 13時23分更新). 中日新聞.

2023年5月23日火曜日

ヨコ●●国立大学(5月度活動報告その2)

 

 まだ関東近郊でアタックしていない自然海岸がありました。

 天下のヨコ⚫⚫国立大学(通称:横国)・臨海環境センターのお膝元、当然ヨコエビは研究され尽くしているものと思われますが、行ったことがなかったので覗いてみます。


 海水浴場になってるようです。朝の天気が微妙で大型連休から絶妙に離れてるので、たぶんごった返しではないはず。

 よい子の皆さんが磯遊びに興じていますね。

 打ち上げ海藻は多様ですが、歩いて行ける範囲には ヒラガラガラ? Dichotomaria が多く、そこにヒラミル Codium latum が混じったり、岩の空いてるところに サンゴモの類 Corallina が入ったりと、概ね単調なリズムです。ところどころ、潮間帯の上部には イシゲ Ishige、砂を被る岩のあたりに別の幅広い褐藻がチョロチョロと。


クロサギ(鳥)Egretta sacra

野生個体は初めて見たかもしれん



 汀線際まで進むと、ホンダワラ類 Sargassaceae が少し出てきて、紅藻も Laurencia が加わるなど多少バリエーションが増えてきますが、葉の切れ込みが多いヨコエビが好むような紅藻や緑藻が群生するようなエリアは見えません。少し特徴的なのは、ハイミル Codium lucasii sensu lato の近縁でしょうか。めくるとヒゲナガヨコエビ属 Ampithoe などがゴロゴロと採れましたが、かなり飛び石的な環境のようでほとんど見かけませんでした。


大きなチビマルヨコエビ属 Houstonius
5mmくらいあったので、現場では別のグループに見えた
もはやチビとは呼ばせない


タテソコエビ科 Stenothoidae


ヒゲナガヨコエビ属 Ampithoe


ユンボソコエビ属 Aoroides




ドロノミ属 Podocerus



カマキリヨコエビ属 Jassa


小さめのイソヨコエビ属 Elasmopus


たぶんフトメリタヨコエビ Melita cf. rylovae


 さて、水面に漂うこれは何でしょう。








 カツオノカンムリ Velella velella ですね。引っくり返ることもあるようです。瞬間的に相手の形態を捉えて類推する能力は磯で生き残るために重要です。


 これは何でしょう。




 死んだ ミカン属 Citrus のようですね。新鮮な個体は、捕食時に圧力を加えられると、刺激性・溶解性・引火性をもつテルペン油を霧状に噴射することで知られ、これも大変危険な生物です。



Hypselodoris festiva

アオ いいよね

いい…




 ここから潮上決戦へ移ります。
 海水浴場らしく人工物はある程度清掃され、河川由来とみられるヨシなどの枯死体と流木、わずかに海藻が混じっています。エボシガイまみれの浮きや瓶なども漂着している。



ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis


 なぜか ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis ばかり採れ、タイヘイヨウヒメハマトビムシの特徴を具えたヒメハマトビムシ種群 Demaorchestia joi sensu lato (cf. Platorchestia pacifica) が混じる感じでした。猫の額ほどの砂浜、塩分はかなり甘めで、不安定な環境に見え、ヒメハマトビムシ種群のみ定着できると予想していたので意外です。海藻の打ち上げが目立たないかわり陸域から植物の供給が多く、そのせいかもしれません。

 なお、落ち葉を噛んだ転石があったのでホソハマトビムシ属を探してみましたが、見つかりませんでした。


ニホンスナハマトビムシ♂(上)とヒメハマトビムシ種群♂(下)



潮上帯採集でごつい手袋が必要な理由(ウミケムシ Amphinomidae)


 ドロノミ属とカマキリヨコエビ属には不自由せず、またタテソコエビ科がわりと採れるという特徴がみられましたが、ヒゲナガヨコエビ属など同定が可能なグループは少ない場所と考えられます。昔から "The Only Good Amphipod Is an Identified Amphipod" と言われるように(言われたことない)、同定ができるグループが採れることは、誰かにオススメできるかどうかという点で重要と考えています。

 他に、サキモクズ属は採れたことは採れましたが、バイオマスも種多様性も少なそう。イソヨコエビ属も多産とは言えなさそうです。転石帯があるためか「砂の中の岩」だけの磯ではあまり会えないメリタを稼げるのは良いです。

 最干潮を二時間ほど回ってもあまり潮位に変化はなく、長く遊べる場所のように思われます。ただ、潮回りはそれほど悪くないにも関わらず歯応えは薄かったので、上記の種構成の特徴の他に、パピコの入手が非常に容易なことと、意外と便利だったアクセス以外には、あまり利点はなさそうです。



2023年5月9日火曜日

Gammarid Week (5月度活動報告)


  今年のGW後半はかなり良さげな潮廻りなので、いそいそと出かけてみました。

 なお、以下の写真はほとんどラヴ・プリズンを経て解凍した個体ですが、今回はサンプル処理の途中で資材が品切れとなり、仕入れ待ちの間は解凍・固定作業を止めていたため写真が録れず、そのぶんブログ更新が遅れました(言い訳)。



〈ハイアイアイ臨海実験所銚子臨海実習〉

 ハイアイアイ臨海実験所についてはこちらを参照。ハイアイアイ群島の生態系においてもヨコエビが重要な役割を担っていたことが示唆されていますが (Stümpke 1961)、ヨコエビ相の記述やその種間関係が解き明かされることがなかったのは慚愧に堪えません。

 さて、今回はヨコエビ採取のポイントを見て頂こうという実習です。特定のグループを狙っていましたが、勝手知ったる銚子を選んだのもそのためです。

 ただ、勝手知ったるとはいえ最後に来たのはコロナ禍の前で、銚子電鉄がバンナム資本に呑まれている状況は知らず。それより文豪つながりで角川とコラボとかしないすかね。


白波の騒ぐ磯辺の…

 風は容赦ありませんが、数字通りまでは潮は引いてる感じです。サクサクとヨコエビを集めていきます。


チビマルヨコエビ属 Hourstonius


テングヨコエビ亜科 Pleustinae 


モクズヨコエビ科 Hyalidae


Ampithoe changbaensis(和名未提唱)


コウライヒゲナガ Ampithoe koreana
さんざんヨコエビおじさんが不満をこぼしていた処遇がやっと見直され、
コウライヒゲナガは無事ヒゲナガヨコエビ属に戻ってきました (Souza-Filho and Andrade 2022)。おかえりなさい。


ヒゲナガヨコエビ類の未記載種



ソコエビ属 Gammaropsis



イソヨコエビ属 Elasmopus(どうせ未記載)


メリタヨコエビ属 Melita


カクスンナリヨコエビ属 Quadrimaera


アゴナガヨコエビ属 Pontogeneia


 うんざりしたのでサンプルはほとんど採っていませんが、褐藻・紅藻表面の付着ヨコエビで最も多かったのはサキモクズ属 Protohyale のようでした。


 コアマモの根元の砂をガサガサやると見慣れない白い影が。


ヒサシソコエビ科 Phoxocephalidae

 「波当たりの強い銚子に自然砂浜はないので潜砂性ヨコエビはいない」などと言っていたのは完全な思い込みでした(確かにこのへんの粒径はヒサシソコエビ科が優占していた光市の海岸に近いので、予想は働かせるべきでした)。そして今でこそ海水浴場として波消しブロックの裏側に飼い殺しにされている砂浜は、実は護岸の整備が進む前はこのあたりにありふれた風景の一つで、君ヶ浜あたりはとんでもない広さの自然海岸が広がっていたとのこと。改修によって幾多の潜砂性ヨコエビが滅んだかと思うと残念です。当時の粒径の構成や分布はよく分かりませんが、仮に今みられる砂に近い底質が主体であったなら、海水浴場に生き残っている面子は当時の潜砂性ヨコエビ相を反映していると期待してもよいかもしれません。




〈I県某所開拓事業〉

 新たなヨコエビ産地を求めて関東を彷徨っております。

 ある地域のヨコエビ相を知りたい、あるいは逆に特定のグループを見たい・採りたいといった要望にヨコエビおじさんが応えるためには、各地のヨコエビの状況を正確に把握している必要があります。こういう分布も積極的にアウトプットすべきなのですが、いかんせん未記載・国内未記録のオンパレードで、現状の種や属の分類も安定しないため、後世に禍根を残さぬためには記載レベルのしっかりとした報文となってしまいます。現状とりあえず明らかに未記載種というやつが多すぎるため、これを片付けながら各地のヨコエビ相を報告していければ理想的です。

 Googleロケハンによりかなりのポテンシャルは感じていますが、余裕をもって日帰り採集を行う場合の限界がこのへんになりそうです。


不安要素として相変わらず天候は微妙

 

関東にこんな砂州が残っているとは。


 最寄駅からしばし歩きます。電車が少ないためオンタイムの現着・離脱は難しく、時間ロスは大きめです。

 基本的には砂浜。かなりの規模がありヒゲナガハマトビムシに期待しましたが、粒径がお気に召さないのか全くヒットせず。

 波がすごい。不用意に近づくと被るでしょう。

 潜砂性種もいる可能性はありますが、今回は装備がないので見送り。気が向いたらチャレンジしてみたいです。

 それにしても海藻もとい硬質環境がない。1時間半前ですが気配なし。


 砂の表面に生えている紅藻をガサガサっと。


 ウソやん。





 大量のモクズヨコエビ科。

 拾うのが追いつきません。

 それにしても、同種なのに体色がこんなに違うのがヨコエビの怖いところです。


それにしてもこの金色は一体どうしたことでしょう。
筆で塗ったようにしか見えませんが、残念ながら生時からこれです。


 最干潮回ってからが引きが良くていい感じ。


イソホソヨコエビ Ericthonius pugnax


オタフクヨコエビ亜科 Parapleustinae ?

 科数はそれほどではありませんでしたが、物量が恐ろしい場所でした。


ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis


 潮上帯では流木下にニホンスナハマトビムシ,オオハサミムシ,シロスジコガネらしき幼虫と蛹がみられました。


 季節変化はわかりませんが、紅藻にひたすらモクズヨコエビ・コツブムシ・ヘラムシが多産する地域のようです。風が強く波頭の高さに恐怖を覚えたものの、マイナス潮位でこれですから、海況が穏やかであったとしても、かなり引かない限りは自由に歩き回れるフィールドではないかもしれません。動き回る必要のないほど量的な優位性を感じましたが、種構成は極めて単調でした。触れそうな基質が紅藻のみであるため、汀線に沿って移動しても種構成が劇的に変わる可能性はなさそうなので、通ってポテンシャルを見極める必要がありそうです。



<参考文献>

Souza-Filho, J. F.; Andrade; L. F. 2022. A new species of Pleonexes Spence Bate, 1857 (Amphipoda: Senticaudata: Ampithoidae) from the São Pedro and São Paulo Archipelago, Equatorial Atlantic, Brazil, with comments on the genus. Zootaxa, 5209(2): 199-210.