だいぶ焼けました。
調査01 多摩川 (神奈川県)
いわずと知れた一級河川。山梨から東京,神奈川と流れる長い川です。
最河口部には、2010年に羽田空港のD滑走路ができました。
今回はNPO海辺つくり研究会が主催する市民調査「SCOP100」に参加し、ついでにヨコエビを拾いました。自分だけでどこかへ行って調査してもよいのですが、何かあった時が大変なのと、一人で変質者になる度胸がないのとで、当面は便乗して出かけることにします。
主催者,参加者の方々から色々な話を聞けるのも楽しいしね。
神奈川県某所。多摩川の河畔。
調査地はこんな感じ。千葉県木更津市の小櫃川河口干潟に似ている、発達したヨシ原と泥湿地です。ヤマトオサガニなど、見られる生き物も似ている。
割り当てられた地点の砂泥を掘り、網に入れてよくふるい、内容物を確保。ヨシの残骸が多く嫌な予感がする。表層土,浸出水をさっさと採取し、いよいよ自分の調査を開始。
ヨシの切れ端はそこらへんにあります。
波打ち際に溜まっているヨシを拾い、バットの上で洗います。ふと、視界の隅を横切る影・・・
ニッポンドロソコエビGrandidierella japonicaです。
2年前もこの近くで採れました。多摩川下流部の干潟を代表するヨコエビといえます。
本種は砂や泥に穴を掘り、触角だけを出して流れてくるものを集めて食べているようです。
この属は、本種以外のものは東京湾では確認していません。現場では、色合いで大体の見分けはつきます。
何か人工物が落ちてます。
環境NPOといえば、親の仇とばかりに川ゴミを拾い集めるようなイメージがありますが、私はこういうのが落ちてると欣喜雀躍です。さっそく拾う。
バットの上で洗ってみます。釣り人の帽子でした。
内側の折り返し部分には、ニッポンドロソコエビが何匹も隠れていました。大きいものから小さいものまで採り放題。ナイス落し物!!
そして、こちらの種も採れました。
たぶん、ヒゲツノメリタヨコエビMelita setiflagellaです。
メリタ属の種はどれもよく似ていますが、本種は写真のように各節の後縁に濃褐色のL字紋があります。砂泥底を中心にみられ、石などの基質の裏でよく採れます。
よく目立つ特徴は、オスの第2触角に毛の束があること。ただし、肉眼ではほとんど確認できません。
いずれにせよ、ちゃんと同定するには、色々な肢をよく観察しなければなりません。
碧い空、蒼いヨシ
ヨシ原を歩いて帰ります。
流木をひっくり返すと、そこには・・・
ヒメハマトビムシと思われます。
長らくPlatorchestia platensisという学名があてられてきましたが、Miyamoto and Morino(2004)ではアジアに生息しているP. platensisは本来のP.platensisではなく、新種のP. pasificaに相当するとの見解が示されました。その後の森野(2007)では、ヒメハマトビムシの学名はP. platensis sensu latoとなっていて、P. pasificaと区別されています。(※sensu latoというのは「広義の」という意味です。)
これを踏まえると、ヒメハマトビムシ=P. platensis sensu latoで、P. pasificaは和名なしとして置いておくのが無難かもしれません。とにかく、種が確定していない、ということです。
ちなみに、卒論では、多摩川下流,葛西臨海公園,三番瀬,新浜(行徳近郊緑地),盤洲干潟(木更津)などのサンプルを比較しましたが、全部P.pasificaのように見えました。難しい・・・
和名と学名というのは、微妙な関係にあるといえます。その辺のつまらない話はまたいずれ・・・
いずれにせよ、 ヒメハマトビムシはビーチの流木の下にいる、砂浜にはつきもののヨコエビです。木をひっくり返すと、驚くべき速さで跳躍し、どこかへ逃げてしまいます。
今日も無事に調査終了。
まさに「スコップ100」という光景を貼って、この話題を閉じます。
調査02 三番瀬(千葉県市川市東浜)
多摩川が終わった昨日の今日ですが、三番瀬に行きました。
卒論をやってた時は3日に1回くらいは通ってました。
マジです。
千葉県の北西部、浦安,市川,船橋,習志野の4市に挟まれた干潟浅海域です。
海苔,貝など今でも漁が行われている海域ですが、毎年、青潮(貧酸素水塊)による生物への被害は深刻です。
今回は、千葉県立中央博物館と東邦大学が共催で毎年実施している観察会に便乗しています。 押し寄せた潮干狩り客を横目に、いざ干潟へ。
ふなばし三番瀬海浜公園潮干狩り場の端。こちらから西側は市川市の土地で、潮干狩りは実施されていない。
件の大震災以降、一部のエリアは立ち入り禁止にされているようです。
砂浜に行くと必ず見るのは、流木の下。
ヒメハマトビムシPlatorchestia platensis sensu latoがピョンピョン飛び跳ねています。写真はカラカラになっていたもの。
アオサがあちこちに。 すくって、バットの中で洗います。
アオサの表面には、お決まりのモズミヨコエビAmpithoe validaがいました。干潟表面の海藻上には、必ずと言っていいほどみられます。
鮮やかな緑色をしていて、参加者の皆さまから意外とご好評頂きました。必ず緑色をしているわけではなく、暗褐色や赤褐色をしているものも多いです。もし東京湾で足首くらいの水深の場所にあるアオサから緑色のヨコエビが採れたなら、十中八九、モズミヨコエビでしょう。
三番瀬にはカキ礁もあります。ここは避けて、波打ち際を進みます。
波打ち際にワカメらしい海藻が。ヨコエビ以外のものはちょっと分からなくてすみません。
根の塊を割ってみると・・・
アリアケドロクダムシMonocorophium acherusicumがものすごい密度で棲み込んでいます。
ドロクダムシ科は、第2触角がよく発達します。特に、写真中央の成熟オスはかなり立派ですね。
体が大きいので、頭頂が大きく凹んでいるのが分かる・・・かもしれません。資料があれば、頭部の色合いなどで大体種が分かります。Bousfield(1973)はお勧めです。
さて、こちらは護岸の裏。
ホンビノスガイを採っている方がたくさんいますね。
しかし、私の狙いはこの1種。
体長10mm前後と大型のヨコエビで、東京湾浅海域のメリタ属では最大クラスではないでしょうか。
背中と触角は赤褐色で、肢が白と黒の縞模様になっているのが特徴です。
それにしても、ひどい赤潮でした。
東京湾の赤潮はこのような赤褐色がかるものが多いようです。
瀬戸内のように魚を殺したりという類のものではないとのことですが、青潮の原因となったりして、頭の痛い状況です。
以上、2つの調査をご報告します。
久々の干潟巡りでちょっと疲れましたが、いいリフレッシュになりました。
参考文献
-Bousfield, E.L. (1973) Shallow water gammaridean Amphipoda of New England. Cornell University Press, 314 pp.
-Miyamoto, H. and H. Morino. (2004) Taxonomic studies on the Talitridae (Crustacea, Amphipoda) from Taiwan. II. The genus Platorchestia, Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 40(1/2): 67-96.
-森野浩 (2007) 節足動物門 軟甲綱 端脚目. In; 環境省自然環境局 生物多様性センター(ed.) 第7回自然環境保全基礎調査 浅海域生態系調査 (干潟調査) 報告書. i-iv, 1-235, (1)-(99).