2018年4月22日日曜日

最近の銚子(4月度活動報告その3)


 また銚子が良い話です。
 
 砂浜を中心にやりたいのと、ハマトビムシを中心としたスマート採集法を模索したいので、あまり見境なくフィールドを荒らしたくないですが、先日見かけた赤いあいつがどうしても気になって、また同じ場所に来ました。

 潮は前回よりかなり良いです。




 基本的に前回網羅した分類群はスルーし、赤いあいつだけを追うことにします。体力に余裕があれば、前回あまり良い標本が得られていないドロクダムシ下目の界隈や、前回諦めた、潮上帯のより上部のハマトビムシ科の追究も試みます。

 
打ち上げ海藻は前回より多いようだ。


 波が弾けている岩の方へ進みます。


 ターゲットのあいつは紅いので、紅藻を狙います。



 紅藻をガサろうとしたところ、岩ごと付いてきました。





 せっかくなので洗ってみると…



たぶんPleustes テングヨコエビ属

 巻き貝がボロボロと落ちたかと思ったら、テングヨコエビでした。
 自己初の属です。

 このデカさ、ヴォリューム、そして何より、見れば見るほど貝に似ています。

 自由胸節の節くれ具合は巻貝の螺旋構造にしか見えませんし、テングヨコエビに特徴的な尖った頭頂は、殻頂をよく模しています。


 ラヴ・プリズンすると上の画像のように脚を畳んでしまいますが、生時にはこの脚の黄色も、巻貝の軟体部から伸びる触角や突起そのものです。

 泳げばすぐわかりますが、そのへんに掴まってる状態では騙されます。巻き貝は上から見ると左右非対称で、ヨコエビは左右対称なので、そこに注目すれば簡単に見分けられますが、それを頭に入れていても、一瞬 ?! となります。

 ヨコエビは基本的にルーズで、「あれもこれも食べてみた」「あそこにもここにも隠れてみた」的な様子をよく目にしているのですが、このテングヨコエビは目指す方向が全くブレず、道を究めているのがすごいですね。





 前回あまり良い標本が得られなかったGammaropsisっぽいものも集めてみます。



 その中に、明らかにサイズが小さいのがいます。



 別のクダオソコエビのようです。




 そして何の変哲もない磯のゴミ。





 現場で見えたんですよ・・・触角が・・・



  Siphonoecetiniヤドカリモドキ族っすね。




 そして、バットの中を泳いでいた小さなやつ。

Amphilochidaeチビヨコエビ科のようです


 チビヨコエビ、前回は採れませんでした。
 本科を自力で採取したのは初だと思います。

 Gitanopsis感はありますが、細部は検討できていません。




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 更に沖へ向かいます。

 海水浴場を護るように、沖側に岩礁の列があります。

 赤いあいつは、汀線際の潮間帯上部、砂地に顔を出した岩に付いているような、ごく浅場の海藻では、前回の採集では1頭しか採れていません。このことから、こういった荒磯から流れてきたものではないか、と考えました。

 




 赤いあいつの色や模様を思い浮かべながら、オリジナルのハビタットの目星を付けてガサります。

 チビヨコエビと思われる小さなヨコエビが多いです。浅場の海藻で優占していたモクズやクダオは減ってきている感じがします。ぱっと見た感じさっきテングと一緒に採れたのとは違うのもかなり混じってそうですが、チビヨコエビは小さすぎてしんどいので、あまり採らないようにします。






 そしてついに・・・





赤いあいつ。




 抱卵メスです。
 よって、ここいらを繁殖場所としている可能性が高いものと考えられます。



 執念が実った感、そしてヨコエビストの意地を見せた感もありつつ、しかし、肝心のオスが見つかりません。



 何度見ても不思議な模様をしています。
 今回は、混在ながら基質の海藻をチェックしておきましたが、どうやらベニヒバのようです。 心なしか、トゲトゲ感がよく似ています。




 別の紅藻からは…

Maeridae スンナリヨコエビ科

 こちらはまた立派な第2咬脚。
 前回のは掌縁が斜走する典型的な亜はさみ状でしたが、今回はかなりrectipalmateが効いており、なおかつ目を引くのは平滑な掌縁でしょうか。そして面白いことに、固定すると真緑になってしまいました(もしかして、ミドリホソヨコエビというのはそういう性質のこと・・・?)。このへんもなかなかヤバそうなのでひとまず科留めです。




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 海岸近くに戻り、ガサりを続けます。

 前回ほど多くない感じがしつつ、やはりモクズが大量に採れます。今のところサンプルは十分なのでスルーします。


 引き続きGammaropsisっぽい大型個体を狙ってみます。


Jassa カマキリヨコエビ属

 この界隈には明らかに雰囲気の異なる2種がいそうですが、深追いは避けます。



Ericthonius ホソヨコエビ属(抱卵メス)

 前回もEricthoniusは採れていますが、JassaPhotidaeに混じっていて、あまり多くありません。本来は高密度系のヨコエビです。



Photidae クダオソコエビ科


 Gammaropsisっぽいクダオソコエビ科については、状態の良いオスが採れました。これもなかなか破損しやすいヨコエビです。




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 そして、まだチャック付きポリ袋と体力に余裕があったため、岸からかなり離れた海岸低木林の際あたりの朽木を起こしてみることに。


たぶん P. japonica ニホンオカトビムシ


 
 ハマトビリティの検証。今回は打ち上げ海藻がかなり乾燥し、P. cf. pacifica(※2)が少なめで、ニホンスナハマトビムシ S. nipponensisのほうがよく見られました。しかし潮の影響が及ぶ範囲が小さいらしく、砂浜に木など落ちていてもすぐにダンゴムシやワラジムシが優占してしまいます。
 そんな中、分解が進んだ朽ち木の下に活路を求めたところ、ハマトビの如くたくさんいて意外と高密度でした。ただし、大型個体を狙って採ったつもりでしたが、オスは未成熟なものが1個体しか採れず、オカトビ採取の厳しさも改めて実感しました。効率的な採取については難しい課題ですが、朽ち木の活用については、今後のヒントにしたいと思います。



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 これにて、この採集地で発見したヨコエビは、ざっと11科17属22種(群)くらいです。
 しかしまだ、東映のオープニングのような波当たりの場所を避けていたり(※1)、岩のめくりが足りてなかったり、付着生物を裂いてなかったり、アマモを抜いたりしてないので、やればやるだけ、まだまだ出てくるかと思います。

 赤いヒゲナガヨコエビについては結局オスが採れていないため、またチャレンジしてみたいと思います。






※1:「荒磯に波」の撮影場所までそう遠くないようです。
※2:前回採取したヒメハマトビムシは、すべてP. pacificaとのことでした。

2018年4月6日金曜日

銚子に乗って(4月度活動報告)


 桜吹雪の中にどこか華やいだ鳥の声が混じる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 今日も今日とて仕事をサボり、心の中のヨコエビが囁くまま、海へとやってきました。

 このたびのフィールドは銚子です。


 Google Mapを活用したロケハンの賜物、ハマトビオフの候補でもあったのですが、未だヨコエビを求めたことのない土地で、そのポテンシャルは未知数です。外房の更に太平洋に突き出た岬ですから、ガシガシと波に削られ、さぞ外湾環境を極めていることと思います。


 フィールドはこんな感じです。




溢れるヨコエビリティ




  おもむろに手近な海藻をガシャってみると…



 どんだけおんねん。




 2mmくらいのヨコエビがたくさん泳ぎ回っています。しかも速い。


 

 あいにく海藻の種は分かりませんが、やはり構造の細かいものにヨコエビが多く、枝分かれがない帯のような葉部にはヘラムシの仲間が幅を利かせているようです。





モクズヨコエビ類は少なくとも4種くらいはいそう。

 モクズヨコエビ科が圧倒的に優占していますが、ヒゲナガヨコエビ科やElasmopusイソヨコエビ属も混じります。

恐らくAmpithoeヒゲナガヨコエビ属ですが、
 下のやつはヤバいです。

  この赤い網目のヒゲナガヨコエビは一体何者なんでしょう・・・
 未成熟らしく性別は不明でした。プロポーションからしてもかなり頭部が大きく、これから成長するのかもしれませんが既に10mmくらいあるので普通に大きな種なのでしょう。底節板や尾肢の形質からヒゲナガヨコエビ属で問題ないかと思いますが、成熟個体を採らないと議論は難しそうです。


Aoroidesユンボソコエビ属

  数は少ないもののAoroidesユンボソコエビ属も採れました。この類はこれまで潮下帯砂泥底でお目にかかってきましたが、ユンボソコエビの仲間は海藻表面からよく採れるグループでもあります。





 そして、場所によりカマキリヨコエビ科も。根をゴソゴソやるとゴカイと一緒に採れました。

Jassaカマキリヨコエビ属

Ericthoniusホソヨコエビ属




 もう少し磯の方に行ってみます。




 砂浜の先に岩の防波堤があり、そこから陸につながる磯場が広がっています。

 海水浴のオフシーズンは磯遊びを楽しむ人が結構来ているようです。砂浜側も楽しいよ。



 こんな感じの岩場です。

Aplysia


Patiria





 そのへんをゴソゴソしてみると…

Maeridae スンナリヨコエビ科

 スンナリヨコエビ科ですね。
 江ノ島で見かけたのもこんな色してました(咬脚の形状は違う)。


 やはりイソヨコエビ属もいます。

10mm以上あるElasmopus

 というかイソヨコエビこんなデカくなるのか…


 こちらはモクズ率が低い気がします。


 あと、これは・・・

Photidaeクダオソコエビ科・・・?


 Gammaropsisのような気がしますがもう少しサンプルを集めたいところです。








 上げ潮に転じてから、何やら水面スレスレを粟粒らしきものがジグザグ動いています…



 直感ですが、まあこれはたぶんヨコエビでしょう。そうに違いない。



 海藻から飛び出て、少し泳ぐとすぐに別の海藻の中に入り込んでいます。
 こういう習性のやつは捕食性のことが多いのですがどうなんでしょう…


 とりあえずバットですくってみると、



 恐らくGuerneaテッポウダマ属(エンマヨコエビ科)です。
 この亜科は自己初です。

生時は眼が赤いGuernea


 ”鉄砲玉”というので真っすぐ突き抜けるのかと思いきや、ジグザグ遊泳をしながら水面近くで餌を採っているようです。 この浅場では小魚をたくさん見かけたので捕食圧は半端ないはずですが、この泳ぎ方に生き残りのヒントがありそうです。




 潮がぐんぐんと上がってきたので、潮上帯の採集に切り替えます。



 まわりの岩の表面が海藻だらけなので、打ち上げ海藻もかなり充実しています。


 めくると大量のハマトビムシが…


Sinorchestia nipponensis


 九十九里では、もっと上のほうの砂地に穴を掘っている感じだったニホンスナハマトビムシですが、ここではヒメハマトビムシのように漂着物の下に潜りこんでいたので驚きました。少し跳ねるし(森野・向井, 2016にもそう書いてはある)。


 もちろんヒメハマトビムシもいました。おそらくpacificaではないかと。

Platorchestia cf. pacifica



 海岸には砂浜か草地が連続しており、林に繋がっていますが、乾燥気味であまりヨコエビリティを感じません。砂浜も狭く短いせいか、スナハマトビムシ感はあまりなさげで、潮間帯の採集で標本のロットを稼ぎすぎてしまったため今回はこのくらいで引き揚げることにしました。




 2時間程度の採集で、8科12+属が得られました。しかしまだフィールドから匂い立つヨコエビリティを感じます。
 稀に見る駅近のサイトで、銚電沿いにはずっと同じような岩場が続いているので、また攻めてみたいと思います。




 これはさすがに今どきあんまりない



(引用文献)
- 森野浩・向井宏 2016. 砂浜フィールド図鑑(1)日本のハマトビムシ類. 海の生き物を守る会, 京都市.



 

2018年4月1日日曜日

2018年4月1日活動報告


 世界最大のヨコエビといえば深海のアイツが挙げられますが、実はこのような説があります。



 19世紀、貿易船の船長であったAlbrecht Jens-Miespottなる人物が航海から持ち帰った珍品の中に、ハマトビムシの乾燥標本があったという話です。

 彼の死後、コレクションは逸散し、この乾燥標本も行方が分からなくなり、戦火で焼失したとも、破損により廃棄されたとも、言われています。しかし、特筆すべきはその大きさで、



”無眼柄甲殻類の乾燥標本。1点。産地不明。取得日不明。砂ノミ(ハマトビムシ類)と同じ形をしているが、かの動物を100匹並べてもやっとその胴体の半ばに達するほど。木製の簡便な台座の上には綿が敷き詰められ、本体は針金を組み外骨格を組み上げた構造をしているが、強壮な男性でも2,3人がかりで運ばねばならない。”(氏の友人が記したと考えられている遺品目録より)



”最初に大きな砂ノミ(ハマトビムシ類)の剥製が運び込まれたとき、適した置き場がなく、物置のベッドの上にいっぱいに置かれたと記憶している。何にせよそれは大きかった。奇妙な物だと思ったが、他にも奇妙なものはいくらでもあったので、さほど細かくは覚えていない。”(氏の召使いが語ったとされる証言)



 つまり、頭頂から尾節板の先まで、大人が寝ころんだくらいはあったというのです。

 海生の甲殻類の中には確かにヒトを凌ぐ大きさのものが知られており、フクロエビ上目で言えば等脚類の中にはグソクムシ類のようにかなり大型化するグループもいます・・・が、陸生の無脊椎動物としてはおよそ常識的とは言えない大きさです。

 標本が然るべき研究者の元に渡っていれば記載される機会もあったと思われますが、どうやらそれには至らなかったらしく、それらしい文献は見つかっていません。





 しかし、どうやらこれと同じ類のハマトビムシの撮影に成功した人がいたようです。



 欧州の探検家が遺したハンティングの画像を集めたデータベースの中に、撮影者や場所は不詳ながら、それらしいものがありました。一応「about mid 20C」とあり、Jens-Miespott氏の没後に撮られたものであると考えられ、近縁の他種かもしれませんが、とにかく巨大ハマトビムシ類というくくりでは、再発見と判断して良さそうです。

 参照できるのはこの写真だけのようです。

hunter with super giant talitrid

 真偽も不確かな上に不鮮明ですが、まあ確かにデカい・・・


 このヨコエビに関しても、サンプルを持ち帰ったのかどうかすら不明となっています。



 ハマトビムシの天敵は数知れず。素早く逃げる方向への進化が最適解と思われますが、巨大化して身を護る方向へ舵を切ったというのは驚きです。

 この件については今後も情報を集めていきたいと思います。




(参考文献)
- Michel Arrivé. 2001. Jean-François Jeandillou. Supercheries littéraires : La vie et l'œuvre des auteurs supposés. Nouvelle édition revue et augmentée.




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  毎度お付き合いいただき誠にありがとうございます。

 今年のエイプリルフールでした。



 お粗末な画像ですが、私が伊豆大島で撮影したスコリアの平原に、ハンターとハマトビムシの画を合成したものです。

 Jens-Miespott氏については、Stümpke著『Bau und leben der Rhinogradentia』にて、MorgensternにHi-Iayの動物相について教えたのではないかと目されている人物の名前をお借りしました。

 恐らくヨコエビ類は鰓の構造が未発達で、陸上でのこれ以上の大型化は望めないのではないかと思われます。ただ、大きなものにはそれだけロマンがあります。ダイダラボッチの34cmを越えるヨコエビはいつか現れるのではないかとちょっと期待しています。