また銚子が良い話です。
砂浜を中心にやりたいのと、ハマトビムシを中心としたスマート採集法を模索したいので、あまり見境なくフィールドを荒らしたくないですが、先日見かけた赤いあいつがどうしても気になって、また同じ場所に来ました。
潮は前回よりかなり良いです。
基本的に前回網羅した分類群はスルーし、赤いあいつだけを追うことにします。体力に余裕があれば、前回あまり良い標本が得られていないドロクダムシ下目の界隈や、前回諦めた、潮上帯のより上部のハマトビムシ科の追究も試みます。
打ち上げ海藻は前回より多いようだ。 |
波が弾けている岩の方へ進みます。
ターゲットのあいつは紅いので、紅藻を狙います。
紅藻をガサろうとしたところ、岩ごと付いてきました。
せっかくなので洗ってみると…
たぶんPleustes テングヨコエビ属 |
巻き貝がボロボロと落ちたかと思ったら、テングヨコエビでした。
自己初の属です。
このデカさ、ヴォリューム、そして何より、見れば見るほど貝に似ています。
自由胸節の節くれ具合は巻貝の螺旋構造にしか見えませんし、テングヨコエビに特徴的な尖った頭頂は、殻頂をよく模しています。
ラヴ・プリズンすると上の画像のように脚を畳んでしまいますが、生時にはこの脚の黄色も、巻貝の軟体部から伸びる触角や突起そのものです。
泳げばすぐわかりますが、そのへんに掴まってる状態では騙されます。巻き貝は上から見ると左右非対称で、ヨコエビは左右対称なので、そこに注目すれば簡単に見分けられますが、それを頭に入れていても、一瞬 ?! となります。
ヨコエビは基本的にルーズで、「あれもこれも食べてみた」「あそこにもここにも隠れてみた」的な様子をよく目にしているのですが、このテングヨコエビは目指す方向が全くブレず、道を究めているのがすごいですね。
前回あまり良い標本が得られなかったGammaropsisっぽいものも集めてみます。
その中に、明らかにサイズが小さいのがいます。
別のクダオソコエビのようです。
そして何の変哲もない磯のゴミ。
現場で見えたんですよ・・・触角が・・・
Siphonoecetiniヤドカリモドキ族っすね。 |
そして、バットの中を泳いでいた小さなやつ。
Amphilochidaeチビヨコエビ科のようです |
チビヨコエビ、前回は採れませんでした。
本科を自力で採取したのは初だと思います。
Gitanopsis感はありますが、細部は検討できていません。
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更に沖へ向かいます。
海水浴場を護るように、沖側に岩礁の列があります。
赤いあいつは、汀線際の潮間帯上部、砂地に顔を出した岩に付いているような、ごく浅場の海藻では、前回の採集では1頭しか採れていません。このことから、こういった荒磯から流れてきたものではないか、と考えました。
赤いあいつの色や模様を思い浮かべながら、オリジナルのハビタットの目星を付けてガサります。
チビヨコエビと思われる小さなヨコエビが多いです。浅場の海藻で優占していたモクズやクダオは減ってきている感じがします。ぱっと見た感じさっきテングと一緒に採れたのとは違うのもかなり混じってそうですが、チビヨコエビは小さすぎてしんどいので、あまり採らないようにします。
そしてついに・・・
赤いあいつ。 |
抱卵メスです。
よって、ここいらを繁殖場所としている可能性が高いものと考えられます。
執念が実った感、そしてヨコエビストの意地を見せた感もありつつ、しかし、肝心のオスが見つかりません。
何度見ても不思議な模様をしています。
今回は、混在ながら基質の海藻をチェックしておきましたが、どうやらベニヒバのようです。 心なしか、トゲトゲ感がよく似ています。
別の紅藻からは…
Maeridae スンナリヨコエビ科 |
こちらはまた立派な第2咬脚。
前回のは掌縁が斜走する典型的な亜はさみ状でしたが、今回はかなりrectipalmateが効いており、なおかつ目を引くのは平滑な掌縁でしょうか。そして面白いことに、固定すると真緑になってしまいました(もしかして、ミドリホソヨコエビというのはそういう性質のこと・・・?)。このへんもなかなかヤバそうなのでひとまず科留めです。
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海岸近くに戻り、ガサりを続けます。
前回ほど多くない感じがしつつ、やはりモクズが大量に採れます。今のところサンプルは十分なのでスルーします。
引き続きGammaropsisっぽい大型個体を狙ってみます。
Jassa カマキリヨコエビ属 |
この界隈には明らかに雰囲気の異なる2種がいそうですが、深追いは避けます。
Ericthonius ホソヨコエビ属(抱卵メス) |
前回もEricthoniusは採れていますが、JassaやPhotidaeに混じっていて、あまり多くありません。本来は高密度系のヨコエビです。
Photidae クダオソコエビ科 |
Gammaropsisっぽいクダオソコエビ科については、状態の良いオスが採れました。これもなかなか破損しやすいヨコエビです。
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そして、まだチャック付きポリ袋と体力に余裕があったため、岸からかなり離れた海岸低木林の際あたりの朽木を起こしてみることに。
たぶん P. japonica ニホンオカトビムシ |
ハマトビリティの検証。今回は打ち上げ海藻がかなり乾燥し、P. cf. pacifica(※2)が少なめで、ニホンスナハマトビムシ S. nipponensisのほうがよく見られました。しかし潮の影響が及ぶ範囲が小さいらしく、砂浜に木など落ちていてもすぐにダンゴムシやワラジムシが優占してしまいます。
そんな中、分解が進んだ朽ち木の下に活路を求めたところ、ハマトビの如くたくさんいて意外と高密度でした。ただし、大型個体を狙って採ったつもりでしたが、オスは未成熟なものが1個体しか採れず、オカトビ採取の厳しさも改めて実感しました。効率的な採取については難しい課題ですが、朽ち木の活用については、今後のヒントにしたいと思います。
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これにて、この採集地で発見したヨコエビは、ざっと11科17属22種(群)くらいです。
しかしまだ、東映のオープニングのような波当たりの場所を避けていたり(※1)、岩のめくりが足りてなかったり、付着生物を裂いてなかったり、アマモを抜いたりしてないので、やればやるだけ、まだまだ出てくるかと思います。
赤いヒゲナガヨコエビについては結局オスが採れていないため、またチャレンジしてみたいと思います。
※1:「荒磯に波」の撮影場所までそう遠くないようです。
※2:前回採取したヒメハマトビムシは、すべてP. pacificaとのことでした。