2021年12月27日月曜日

2021年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)

 

 今年も新種を振り返ります。 
 
 
※2017年実績
※2018年実績 
※2019年実績
※2020年実績
 

 記載者については、基本的に論文中あるいは私信で明言のある場合につけています。今年は千葉県沖の深海底からワレカラの新種等もありましたが、本稿では旧ヨコエビ亜目に含まれる分類群のみを対象としております。


New Species of
Gammaridean Amphipods
Described in 2021

(Temporary list)

 

 

January


Hadjab et al. (2021)

Echinogammarus monodi

 アルジェリアから Echinogammarus 属の新種を記載。2020年12月に公開されましたが論文の巻号が21年であったため今年としました。無料で読めます。

 

 

Lee and Min (2021)

Pseudocrangonyx deureunensis

Pseudocrangonyx kwangcheonseonensis

Pseudocrangonyx hwanseonensis

 韓国の鍾乳洞からメクラヨコエビ属の3新種を記載。形態と分子の手法を併用しています。18種の系統樹を描くとともに、韓国に産する13種の検索表を提供。本文は無料。

 

 

Bargrizaneh, Fišer and Esmaeili-Rineh (2020)

Niphargus yasujenis

Niphargus nasrullahi

 イランの地下水系から Niphargus属 の2新種を記載。分子と形態をともに検討しています。3月時点では無料で読めることを確認。



February

 

Heo and Kim (2021)

Opisa parvimana

  韓国から Opisidae科 フトヒゲソコエビ類 の1新種を記載するとともに、本邦で記載されていた Opisa takafuminakanoi の新産地を報告。本文までタダで読めます。

 

 

Tomikawa, Watanabe, Tanaka and Ohara (2021)

Princaxelia marianaensis

  マリアナ海溝から Pardaliscidae科 の1新種を記載。昨年記載されそうでされなかった種です。この属は肉食性で、他の深海ヨコエビを捕食する様子が Nスぺ で紹介され、お茶の間に届けられたこともあります。科以下の和名は未提唱のようです。本文までタダで読めます。

 

 

Shimomura and Fujita (2021)

Seborgia cavernicola ドウクツミジンヨコエビ

 沖縄の海中洞窟からセバヨコエビ科の1新種を記載。Seborgia属9種の検索表を提供。本文は有料。



Alves, Lowry, Neves and Johnsson (2021)

Panamapisa guaymii

 パナマから センドウヨコエビ科 の1新属新種を記載。パナマ地峡からセンドウヨコエビ科が出たのは初めてとのこと。第3尾肢が長いことで有名な本科ですが、この属は特にその特徴が発達しています(カラー写真)。アブストにまあまあ詳しい他属との識別点を掲載。



Bichang'a, Kioko, Liu, Li and Hou (2021)

Floresorchestia mkomani Bichang’a and Hou in Bichang'a, Kioko, Liu, Li and Hou, 2021

 ケニアから ハマトビムシ Talitridae 科 Floresorchestiinae亜科 の1新種を記載(カラー写真)。加えて、同じ亜科の Gazia gazi Lowry & Springthorpe, 2019 を再記載。



Conlan, Desiderato and Beermann (2021)

Jassa laurieae 

Jassa kimi

 とんでもない大論文が出ました。世界中の博物館からカマキリヨコエビ属を集めて分子系統解析を行うとともに、形態分類における新たな知見を紹介しています。膨大な標本から導き出される結論の説得力に圧倒されます。



Wei, Dong, Huang, Du, Hegna, Lian and Audo (2021)

Gammaroidorum yooling

 中国から新第三紀のヨコエビが記載されました。




March


Ogawa, Takada and Sakuma (2021)

Haustorioides furotai Ogawa in Ogawa, Takada and Sakuma, 2021 ウスゲナミノリソコエビ

  東京湾から ナミノリソコエビ科 Dogielinotidae の1新種を記載。分子解析の結果に基づき、WoRMS(2021年3月22日閲覧)等で適格とされていた Eohaustorioides属 を新参シノニムとして抹消するとともに、この属ありきで定義されていた Parhaustorioides属 も抹消。これによって、ナミノリソコエビ科は 9属 となりましたが、いまだに十分な検討が済んでいないと思います。ナミノリソコエビ Haustorioides属 10種の検索表を提供。SDなので本文は無料で読めます(そのためにSDに投稿しました)。論文の背景等についてはこちらに。

 

 

Ariyama (2021a)

Mucrocalliope ryukyuensis リュウキュウトゲゲンコツヨコエビ

 沖縄から ゲンコツヨコエビ科 トゲゲンコツヨコエビ属 の1種を記載。メリケンサックのような和名がついていますが、”拳骨”部分ではなく背中にトゲが生えているグループです。また、昨年新産地が報告された (司村 2020) ことで話題になっている シオカワヨコエビ Paracalliope dichotomus についても線画付きで報告しています。

 

 

 April

 

Suklom, Danaisawadi and Wongkamhaeng (2021)

Floresorchestia kongsemae

 タイのカセサート大学構内から ハマトビムシ科 Floresorchestiinae亜科 の1新種を記載。人工的に造成された池の周辺で採取されたとのこと。タイ国内においてこの属は F. boonyanusithii Wongkamhaeng et al., 2016 と F. buraphana Wongkamhaeng et al., 2016 に次いで3種目とされています。さすがpensoft、本文は無料です。

 

 

 Gibson, Hutchins, Krejca, Diaz and Sprouse (2021)

Stygobromus bakeri

  テキサスの地下水系・トリニティ帯水層およびエドワーズ帯水層から暗居性ヨコエビの1新種。

 

 

Lörz and Horton (2021)

Amathillopsis inkenae

 大西洋の新海域から リュウコツヨコエビ Amathillopsidae科・リュウコツヨコエビ Amathillopsis属 の1新種を記載。Cleonardopsis属を含む近縁16種のリストと、リュウコツヨコエビ属14種の形態マトリクスを掲載。また、既往研究におけるリュウコツヨコエビ属の写真記録について緯度経度や水深を整理し、考察を試みています。本文は無料です。

 

 

Marin, Krylenko, Palatov, (2021a)

Niphargus bzhidik 

 ロシア南部のゲレンジーク—トゥアプセ地方から Niphargus属の1新種を記載。本文は有料ですが、アブストにわりと形態の特徴が記されています。



Iwasa-Arai, Siqueira, Segadilha and Leite (2021)

Ampithoe thaix Siqueira and Iwasa-Arai in Iwasa-Arai, Siqueira, Segadilha and Leite, 2021
Elasmopus gabrieli
Siqueira and Iwasa-Arai
in Iwasa-Arai, Siqueira, Segadilha and Leite, 2021
Eusiroides lucai
Siqueira and Iwasa-Arai in Iwasa-Arai, Siqueira, Segadilha and Leite, 2021

  南大西洋の火山島・トリンダデ島周辺海域のアミジグサ属から 4科6属9種 のヨコエビおよび 2種 のタナイスを報告。このうちヨコエビについては 3種 を新種として記載しています。トリンダデ島はブラジル沖 1,160km に位置し、より大陸に近いアブロルホス島よりヨコエビの種数は少ないものの固有種の割合が高いことが示されたとのことです。7種の落射光写真を掲載。本文まで無料で読めます。

 

 

May

 
Talhaferro, Bueno, Pires, Stenert, Maltchik and Kotzian (2021)

Hyalella minuana

Hyalella lagoana

Hyalella sambaqui 

 Hyalella属 の3新種を記載。これで Hyalella属 は、ブラジルからは33種、アメリカ大陸から83種になったとのことです。主に形態の情報を使っているようです。本文は有料。

 

 

Weston, Espinosa-Leal, Wainwright, Stewart, González, Linley, Reid, Hidalgo, Oliva,  Ulloa, Wenzhöfer, Glud, Escribano and Jamieson (2021)

Eurythenes atacamensis 

 ペルー:チリ海溝の深海域からオキソコエビ類の1新種を記載。成長段階によって深度を棲み分けているようです。本文は無料で読めます。

 

 

Alther, Bongni, Borko, Fišer and Altermatt (2021)

Niphargus arolaensis

  スイスにおいて、井戸水の組み上げ施設で市民が収集したサンプルの中から1新種を記載。本文は無料で読めます。


 

Walters, Cannizzaro, Trujillo and Berg (2021)

Gammarus langi

Gammarus percalacustris

Gammarus colei

Gammarus malpaisensis

  チワワ砂漠北部より Gammarus lacustris 種群の隠蔽種4種を記載。出版は2020年11月のようですが、6月発行の雑誌に掲載されたため今年分でカウントしています。本文は有料。

 

 

Labay (2021)

Hendrycksopleustes neimanii
Neopleustes boecki pacifica
Neopleustes pulchellus asiaticus

 サハリンのテングヨコエビ科亜科のをレビューするとともに、新属 Hendrycksopleustes を設立。この新属に含まれる1新種と、別の属に含まれる種に対して2亜種を記載。ここ20年の論文で亜種を使っているのはほぼ Labay だけのような気がします。この亜科に含まれる全属の検索表と、 Neopleustes属 および Shoemakeroides属 の種までの検索表を提供。本文は有料。

 

 

 

 June

 

Kodama and Kawamura (2021)

Carinocleonardopsis seisuiae セイスイミノヨコエビ

 熊野灘の水深190–195 mから、1新属1新種の記載。Carinocleonardopsis ミノヨコエビ属の設立とともに、Amathillopsidae科に「リュウコツヨコエビ」との和名を提唱しています。Cleonardopsinae亜科全体についてもレビューを実施。本文は今のところ無料で読めるようです。

 

 

Tong, Hao, Liu, Li and Hou (2021)

Floresorchestia xueli

 中国雲南省からハマトビムシの1新種。本文は有料ですが、アブストにわりと詳しく形態の記述があります。

 

 

Tomikawa and Kimura (2021)

Jesogammarus (Jesogammarus) acalceolus シツコヨコエビ

 弘前の清水(シツコ)から キタヨコエビ科 Anisogammaridae の1新種を記載。喪失リスクが高い冷涼な湧水中に生息することから、絶滅の危機に瀕していることが強調されています。また、本種は本属で唯一触角にカルセオライを欠くとのことで、進化上も極めて重要な種といえます。本文は無料で読めます。

 

 

Limberger, da Silva Castiglioni and Graichen (2021)

Hyalella longipropodus

 ブラジル南部から Hyalella属の1新種を記載。




Marin & Palatov (2021a)

Lyurella mikhailovi 

Lyurella fanagorica 

Lyurella fontinalis 

Lyurella asheensis 

 2種のみが知られていたマミズヨコエビ科 Lyurella属に、一気に4新種を追加。本文は有料。

 

 

Azman (2021)

Nuuanu othmani 

 マレイシアから Nuuau属 の1新種を記載。本文は有料ですがアブストに詳細な形態記述があります。

 



July


Yanrong, Zhu, Sha and Ren (2021)

Liuomelita mollipalma

 沖縄トラフからメリタヨコエビ科の1新属新種を記載。

 

 

Esmaeili-Rineh and Mirghaffari (2021)

Niphargus hegmatanensis 

 イランから Niphargus属  の1新種を記載。イラン産全種の同属種との遺伝的差異を検討しています。本文まで無料で読めます。

 

Marin and Palatov (2021b)

Echinogammarus mazestiensis 

 コーカサスから Echinogammarus 属の1新種を記載。本文は有料。

 


September

 

Marin, Krylenko and Palatov (2021b)

Niphargus utrishensis Marin and Palatov in Marin, Krylenko and Palatov, 2021

Niphargus novorossicus Marin and Palatov
in Marin, Krylenko and Palatov, 2021

Niphargus alisae Marin, Krylenko and Palatov in Marin, Krylenko and Palatov, 2021

Niphargus ashamba Marin, Krylenko and Palatov in Marin, Krylenko and Palatov, 2021

Niphargus malakhovi Marin and Palatov in Marin, Krylenko and Palatov, 2021

Niphargus dederkoyi Marin and Palatov in Marin, Krylenko and Palatov, 2021

 ルーマニア,クリミア,コーカサス山麓南西部の黒海北岸地域から Niphargus属の6新種を記載。美しい黒バックの全身写真に加え、プレパラートの透過光写真のみで付属肢の形態を表現し、背面の棘状剛毛についてはSEM写真を使うなど、線画を使わない姿勢が貫かれています。オス第3尾肢が伸長する N. “tauricus” 種群の検索表を提供。隠蔽種の整理に留まらず、種分化の時期や分布を進化学的に考察。本文は無料で読めます。



November


Ariyama (2021b)

Metodius cyanomaculatus  ルリホシスベヨコエビ

Metodius leucomaculatus  シラホシスベヨコエビ

Postodius albifacies シロガオスベヨコエビ

Postodius sanguineus チゴケスベヨコエビ

 カワリスベヨコエビ属 Metodius を設立するとともに2新種を記載。さらに ヒメスベヨコエビ属 Postodius の2新種を記載。チゴケスベヨコエビの「チゴケ」とは付着基質の チゴケムシ属(血苔虫)Watersipora に由来するとのことで(有山私信)、擬態しているのか模様も似ています。本種は4歳児が採取したタイプ標本に基づいて記載されたとのことで、そのご褒美を巡って「バズった分だけ◯◯する」方式を採ったところ、Twitter民の悪ノリ便乗が相次ぎ大いにバズりハフポスに取り上げられ、挙句に Yahoo! News のトップを飾りました。結局「新種採集のご褒美」は46.2万円になったとのことです。ここまで Twitter を沸かせたヨコエビというのも珍しいです。

 日本人研究者が責任著者となった記載論文で Lowry and Myers (2017) の亜目体制が採用されたのは初めてっぽいです。狭義のスベヨコエビ科6属と、改めてヒメスベヨコエビ属6種の検索表を提供。あと面白いところといえば、体長の計測方法が独特です。本文は有料ですが、「ややこしい和名を変えろ」だの「発見者に献名しろ」だの好き勝手言ってる Twitter民の果たして何%が課金して原典に当たったのかは分かりません。

 

 

Green, Appadoo, Lowry and Myers (2021)

Mauritiorchestia fayetta

 モーリシャスからハマトビムシ科の新属新種を記載。本文は有料。

 

 

Mamos, Jażdżewski, Čiamporová‑Zaťovičová, Čiampor Jr. and Grabowski (2021)

Gammarus stasiuki Jażdżewski, Mamos and Grabowski, 2021

 ポーランド山間の渓流からヨコエビ属の1新種を記載。ポーランド出身の作家アンジェイ・スタシュクに献名されています。



Cummings, Araujo, Andrade and Senna (2021)

Dulichiella brunoi

  ブラジルからメリタヨコエビ科 Melitidae ウチデノコヅチ属の1新種を記載。既知全種の検索表を提供。本文は有料ですが、アブストに詳細な形態の記述があります。ウェブ版の公開は2022年ですが、出版は2021年11月1日になるようです。

 



December

 

Andrade, Alves-Júnior, Bertrand & Senna (2021)

Cyphocaris boecki

 ブラジルからネコゼヨコエビ属の1新種を記載。本文まで無料で読めます。

 

 

Shin and Coleman (2021)

Ampithoe changbaensis

 韓国からヒゲナガヨコエビ属の1新種を記載するとともに、モスクワに保存されていた Ampithoe tarasovi ヨツデヒゲナガのホロタイプ標本を再記載しています。Zookeys なので本文まで無料で読めます。

  この Ampithoe changbaensis という種は Shin et al. (2010) で”ヨツデヒゲナガ”として報告されていたもので、全身の色素斑が描画されるなど、Bulycheva (1952) による原記載では読み取れない部分を参照するのに有用でした。しかし、どうやら原記載とは異なるように思える部分もありました。日本でも”Bulycheva のヨツデヒゲナガ"”と”Shin のヨツデヒゲナガ”それぞれに似ている個体が見つかっていたことから、別種ではないかと囁かれていました。私はこれらの種を千葉と岡山で少数ながら得ていて、ヨツデヒゲナガは緑藻が優占する甘めで湾奥的な砂泥底環境、A. changbaensis は紅藻や褐藻が優占する岩礁で得られる印象があります。

 本論文では A. changbaensis の所見でヨツデヒゲナガとの識別点が示され、それに続いてヨツデヒゲナガの再記載も行われているため、両者の同定が可能です。しかし個人的に、採用されている形質には不満があります。手元のサンプルを同定する際には、識別形質として示されている全ての特徴を確認して、慎重に判断する必要があると思います。

 ちなみに、岡山県野生生物目録(坂本ほか 2020)で”ヨツデヒゲナガ”としているのは Bulycheva の原記載を参照して同定した個体で、本論文を受けての学名変更はありません。

 


Zhang, Wang, Ge and Zhou (2021) 

Gammarus zhouqiongi

 新疆ウイグルの淡水からヨコエビ属の1新種を記載。形態での記載とともに、CO1,16S,28S, EF1α領域を解析し、7種の系統樹を描いています。9種の検索表を提供。本文は無料で読めます。

 


Esmaeili-Rineh and Shabani (2021)

Gammarus ilamensis 

 イランからヨコエビ属の1新種を記載。本文は無料。



 というわけで、2021年のヨコエビの新種は 56 60 61 62 63 種(2亜種)となりました。

 当方も積み新種を処理中ですのでお待ちください。

 

 

(特記事項)

  • Winfield and Herrera-Dorantes (2021) は 、メキシコ湾の大陸棚と深部からカマキリヨコエビ属 Jassa 数種を報告。うちモリノカマキリヨコエビ J. morinoi についてはメキシコ湾から初記録、そして新種として J. mendozai を記載しました。しかしこの種は Conlan et al. (2021) において、J. valida のシノニムとされてしまいました。
  • Rogers et al. (2021) という文献で「Hyalella n. sp.」との文言が見つかりましたが、”We will describe this new species after we collect more material” などと述べており、飛ばしのようです。記載行為を含まない文献中で n. sp. という表記が成立する理屈については、全く理解できませんでした。
  • クチバシソコエビ科の4新種の記載について情報が流れていますが、巻号が2022年分なので今回は採り上げていません。

 

 

 

<2021年記載論文>

Alther, R.; Bongni, N.; Borko, Š.; Fišer, C.; Altermatt, F. 2021. Citizen science approach reveals groundwater fauna in Switzerland and a new species of Niphargus (Amphipoda, Niphargidae). Subterranean Biology, 39: 1–31.

Alves, J.; Lowry, J. K.; Neves, E. G.; Johnsson, R. 2021. A new genus and species, Panamapisa guaymii gen. nov. sp. nov., the first record of the family Eriopisidae Lowry & Myers, 2013 from Central America. Zootaxa, 4927(2). 

Andrade, L.F.; Alves-Júnior, F.A.; Bertrand, A.; Senna, A.R. 2021. A New
Species of Cyphocaris Boeck, 1871 (Amphipoda: Lysianassoidea: Cyphocarididae): Found off the Rocas Atoll, Northeastern Brazil. Taxonomy, 1: 360–373.

Ariyama H. 2021a. Two Species of Paracalliopiidae from the Ryukyu Archipelago in Japan, with the Description of a New Species (Crustacea: Amphipoda). Species Diversity, 26(1): 7991.

Ariyama H. 2021b. Five species of the family Odiidae (Crustacea: Amphipoda) collected from Japan, with descriptions of a new genus and four new species. Zootaxa, 5067(4): 485–516.

Azman, B. A. R. 2021. Description of Nuuanu othmani sp. nov. (Amphipoda, Nuuanuidae) from the Strait of Malacca (Malaysia) with identification keys to females of Nuuanu species. Crustaceana, 94: 731741.

 Bargrizaneh, Z.; Fišer, C.; Esmaeili-Rineh, S. 2021. Groundwater amphipods of the genus Niphargus Schiødte, 1834 in Boyer-Ahmad region (Iran) with description of two new species. Zoosystema, 43(7): 127144.

Bichang'a, J.S.; Kioko, E. N.; Liu, H.; Li, S.; Hou, Z. 2021. Two species of Talitridae (Crustacea, Amphipoda) from Kenya. Zootaxa, 4927(3).

Conlan, K. E.; Desiderato, A.; Beermann, J. 2021. Jassa (Crustacea: Amphipoda): a new morphological and molecular assessment of the genus. Zootaxa, 4939(1).

— Cummings, C. M.; Araujo, F. V.; Andrade, L. F.; Senna, A. R. 2022. A new species of Dulichiella Stout, 1912 (Amphipoda: Melitidae) from Guanabara Bay, Rio de Janeiro, Brazil. Journal of Natural History, 55: 33–34. 

Esmaeili-Rineh, S.; Mirghaffari, S. A. 2021. Niphargus hegmatanensis sp. nov. (Crustacea, Amphipoda, Niphargidae), a new species from subterranean freshwaters of western Iran. Iranian Journal of Fisheries Science, 20(4): 10491063. 

— Esmaeili-Rineh, S.; Shabani, S. 2021. A new species of freshwater amphipod of the genus Gammarus from Iran. North-western Journal of Zoology, 17 (2): 170-179.

 —  Gibson, R.; Hutchins, B. T.; Krejca, J. K.; Diaz, P. H.; Sprouse, P. S. 2021. Stygobromus bakeri, a new species of groundwater amphipod (Amphipoda, Crangonyctidae) associated with the Trinity and Edwards aquifers of central Texas, USA. Subterranean Biology, 38: 1945.

Green, A.; Appadoo, C.; Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2021. A new genus and species of sand-hopper, Mauritiorchestia fayetta gen. nov., sp. nov. (Amphipoda, Talitridae) from Mauritius. Zootaxa, 5068(2): 295–300.

Hadjab, R.; Ayati, K.; Piscart, C. 2021. A new species of freshwater amphipods Echinogammarus (Amphipoda, Gammaridae) from Algeria. Taxonomy, 1: 36–47.

Heo, J.-H.; Kim, Y.-H. 2021. A new species of the genus Opisa Boeck, 1876 (Crustacea, Amphipoda, Opisidae) and a new record for Opisa takafuminakanoi from the East Sea, South Korea. ZooKeys, 1015: 99-113.

Iwasa-Arai, T.; Siqueira, S. G. L.; Segadilha, J. L.; Leite, F. P. P. 2021. The Unique Amphipoda and Tanaidacea (Crustacea: Peracarida) Associated with the Brown Algae Dictyota sp. From the Oceanic Trindade Island, Southwestern Atlantic, With Biogeographic and Phylogenetic Insights. Frontiers of Marine Science, 8:641236.

Kodama M.; Kawamura T. 2021. Review of the subfamily Cleonardopsinae Lowry, 2006 (Crustacea: Amphipoda: Amathillopsidae) with description of a new genus and species from Japan. Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom, 1–11.

Labay, V. S. 2021. Review of amphipods of the family Pleustidae Buchholz, 1874 (Crustacea: Amphipoda) from the coastal waters of Sakhalin Island (Far East of Russia). I. Subfamily Neopleustinae Bousfield & Hendrycks, 1994. Zootaxa, 4974(2).

Lee C.; Min G. 2021. Three new species of subterranean amphipods (Pseudocrangonyctidae: Pseudocrangonyx) from limestone caves in South Korea. PeerJ, 9:e10786 

Limberger, M.; Da Silva Castiglioni, D.; Graichen, D. Â. S. 2021. A new species of freshwater amphipod (Crustacea, Peracarida, Hyalellidae) from Southern Brazil. Zootaxa, 5026 (2): 182–200.

Lörz, A.-N.; Horton, T. 2021. Investigation of the Amathillopsidae (Amphipoda, Crustacea), including the description of a new species, reveals a clinging lifestyle in the deep sea worldwide. ZooKeys, 1031: 1939.

Mamos, T.; Jażdżewski, K.; Čiamporová‑Zaťovičová, Z.; Čiampor Jr., F.; Grabowski, M. 2021. Fuzzy species borders of glacial survivalists in the Carpathian biodiversity hotspot revealed using a multimarker approach. Scientific Reports, 11: 21629.

Marin, I.; Krylenko, S.; Palatov, D. 2021a. The Caucasian relicts: a new species of the genus Niphargus (Crustacea: Amphipoda: Niphargidae) from the Gelendzhik–Tuapse area of the Russian southwestern Caucasus. Zootaxa, 4963(3).

— Marin, I. N.; Krylenko, S. V.; Palatov, D. M. 2021b. Euxinian relict amphipods of the Eastern Paratethys in the subterranean fauna of coastal habitats of the Northern Black Sea region. Invertebrate Zoology, 18(3): 247–320.

Marin, I. N.; Palatov, D. M. 2021a. The hidden diversity of the genus Lyurella Derzhavin, 1939 (Crustacea: Amphipoda: Crangonyctidae): four new species from the subterranean habitats of the northwestern Caucasus, Russia. Zootaxa, 5006(1): 127–168.

Marin, I.; Palatov, D. 2021b. New and non-alien: Echinogammarus mazestiensis sp.n. from the southwestern Caucasus. Zoology in the Middle East, 67: 309320.

Ogawa H.; Takada Y.; Sakuma K. 2021. A new species of the sand-burrowing Dogielinotidae, Haustorioides furotai, from Tokyo Bay, Japan (Crustacea: Amphipoda). Species Diversity, 26: 65–78. 

Shimomura M.; Fujita Y. 2021. Seborgia cavernicola sp. nov. from a submarine cave on Okinawa Island, Ryukyu Islands, southwestern Japan (Crustacea, Amphipoda, Seborgiidae). Zootaxa, 4927(1).

Shin M.-.H; Coleman, C. O. 2021. A new species of Ampithoe (Amphipoda, Ampithoidae) from Korea, with a redescription of A. tarasovi. ZooKeys, 1079: 129–143.

 — Suklom, A.; Danaisawadi, P.; Wongkamhaeng, K. 2021. Floresorchestia kongsemae sp. n. a new species (Crustacea: Amphipoda: Talitridae) from Kasetsart University, Bangkok, Thailand. Biodiversity Data Journal, 9: e63197.

Talhaferro, J. T.; Bueno, A. A. P.; Pires, M. M.; Stenert, C.; Maltchik, L.; Kotzian, C. B. 2021. Three new species of Hyalella (Crustacea: Amphipoda: Hyalellidae) from the Southern Brazilian Coastal Plain. Zootaxa, 4970(2).

Tomikawa K.; Kimura N. 2021. On the Brink of Extinction: A new freshwater amphipod Jesogammarus acalceolus (Anisogammaridae) from Japan. Research Square.

— Tomikawa K.; Watanabe H. K,; Tanaka K.; Ohara Y. 2021. A new species of Princaxelia from Shinkai Seep Field, Mariana Trench (Crustacea, Amphipoda, Pardaliscidae). ZooKeys, 1015: 115-127.

Tong Y.: Hao J.: Liu H.: Li S.: Hou Z. 2021. Floresorchestia xueli, a new terrestrial crustacean (Amphipoda, Talitridae) from Yunnan, China. Zootaxa, 4991(2): 318–330.

Walters, A. D.; Cannizzaro, A. G.; Trujillo, D. A.; Berg, D. J. 2021. Addressing the Linnean shortfall in a cryptic species complex. Zoological Journal of the Linnean Society, 192(2)277–305.

— Wei, Y.-F.; Dong, A.-G.; Huang, D.-Y.; Du, Y.-W.; Hegna, T. A.; Lian, X.-N.; Audo, D. 2021. Amphipoda from the Late Neogene of Shanxi, China. Palaeoentomology, 4(1).

Weston, J. N. J.; Espinosa-Leal, L.; Wainwright, J. A.; Stewart, E. C. D.; González, C.a E.; Linley, T. D.; Reid, W. D. K.; Hidalgo, P.; Oliva, M. E.; Ulloa, O.; Wenzhöfer, F.; Glud, R. N.; Escribano, R.; Jamieson, A. J. 2021. Eurythenes atacamensis sp. nov. (Crustacea: Amphipoda) exhibits ontogenetic vertical stratification across abyssal and hadal depths in the Atacama Trench, eastern South Pacific Ocean. Marine Biodiversity, 51: 51. 

Yanrong, W.; Zhu, C.; Sha, Z.; Ren, X. 2021. Liuomelita mollipalma, a new genus and species of Melitidae (Amphipoda: Hadzioidea) from hydrothermal vents of the Okinawa Trough, North-West Pacific. Journal of Natural History, 55(19–20): 1299–1310.

— Zhang K.; Wang J.; Ge Y.; Zhou Q. 2021. A new Gammarus species from Xinjiang Uygur Autonomous Region (China) with a key to Xinjiang freshwater gammarids (Crustacea, Amphipoda, Gammaridae). ARPHA Preprints

 

 

<その他参考文献>

—Bulycheva, A. I. 1952. Novue vidy bokoplavov (Amphipoda, Gammaridea) iz Japonskogo Morja. Akademii︠a︡ nauk SSSR, Trudy Zoologicheskogo instituta, 12: 195−250.

—  Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2017. A phylogeny and classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265(1): 1–89.

Rogers, D. C.; Cruz-Rivera, E. 2021. A preliminary survey of the inland aquatic macroinvertebrate biodiversity of St. Thomas, US Virgin Islands, Journal of Natural History, 55: 13–14, 799-850.

— 坂本明弘・中田和義・福田宏 2020. 12 汎甲殻類. In: 岡山県自然環境課 (編) 岡山県野生生物目録2019. Ver1-2.

— 司村宜祥 2020. 久米島からシオカワヨコエビを記録. 兵庫陸水生物, 71: 69−70.

Shin M.-H.; Hong J. S.; Kim W. 2010. Redescriptions of two ampithoid amphipods, Ampithoe lacertosa and A. tarasovi (Crustacea: Amphipoda), from Korea. The Korean Journal of Systematic Zoology, 26: 295–305.

Winfield, I.; Herrera-Dorantes, M. T. 2021. Distribution of genus Jassa (Amphipoda, Ischyroceridae) in the Bay of Campeche, SW Gulf of Mexico, with a description of a new deepwater species. Bulletin of Marine Science, 97(1): 219–236. 

— Wongkamhaeng, K.; Dumrongrojwattana, P.; Pattaratumrong, M. S. 2016. Two new species of Floresorchestia (Crustacea, Amphipoda, Talitridae) in Thailand. ZooKeys, 635: 31–51.

 

 

2021年11月30日火曜日

書籍紹介『酒匂川水系の水生動物』(11月度活動報告)

 

 今月は水生昆虫談話会の例会に参加しました。じつに9年振り。

 ヨコエビの演題に耳を傾けていたのですが、例会後のオンライン飲み会で淡水産ヨコエビが載っている書籍を知り、さっそく購入しました。

 

わずか1営業日で発送。神奈川県のネ申対応やばい。


— 金田彰二 2006. ヨコエビ類. In: 石綿進一・齋藤和久(編)『酒匂川水系の水生動物~里地・里山の生きものたち~』.神奈川県環境科学センター.

 

 

 本書に掲載されているヨコエビは以下の4種類です。

  1. アゴナガヨコエビ科
  2. キタヨコエビ科アゴトゲヨコエビ
  3. マミズヨコエビ科フロリダマミズヨコエビ
  4. ハマトビムシ科

 

  本書によると、神奈川県の河川においてアゴナガヨコエビ科は2種が知られるとのことです。富川・森野 (2012) 、Tomikawa et al. (2017) あたりを参照するに、ヤマトヨコエビ Awacaris japonica と タキヨコエビ A. rhyaca のことかと思われます。

 ハマトビムシ科(当時)については、全身図は第7胸脚の形状や全身の姿勢などから ニホンヒメハマトビムシ Platorchestia pachypus のオスを土壌動物図鑑から転載したように見えます。ただし、尾節板は背面に剛毛を欠き、種の特定には至りませんでした。ちなみにニホンヒメハマトビムシは海浜性で、おそらく河川の採集で得られるのはモリノオカトビムシ属であろうと考えられます。

 

 今回の例会では、北関東がオオエゾヨコエビ属の空白地帯であることを知りました。確かに全く採れません。今後の展望としては、オオエゾヨコエビ属がいる場所を巡って採集スキルを磨き、改めて地元の分布を細かく調べてみたいとは思っています。ただ、どう考えても解明度が低く記載が喫緊の課題なのは海産なんですよね…

 

 

 

<参考文献>

— 森野浩 1991. ヨコエビ目. In: 青木淳一(編)『日本産土壌物検索図説』.東海大学出版会.

— 富川光・森野浩 2012. 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方.タクサ, 32: 39–51. 

Tomikawa K.; Kyono M.; Kuribayashi K.; Nakano T. 2017.The enigmatic groundwater amphipod Awacaris kawasawai revisited: synonymisation of the genus Sternomoera, with molecular phylogenetic analyses of Awacaris and Sternomoera species (Crustacea : Amphipoda : Pontogeneiidae). Invertebrate Systematics, 31(2): 125–140. 

2021年10月31日日曜日

Inktober2021(10月度活動報告)

  「Inktober」をご存知だろうか。

 2009年に1人のアメリカ人漫画家が始めたSNSイベントで、今や世界から参加者が集う大きなものとなっている。

 ルールは簡単。「10月いっぱい、毎日絵を描いてSNSにアップロードする」。これだけである。公式アカウントが提示するお題に沿って1日1枚ずつ31枚のイラストを生成するのが基本だが、お題に従わなくとも、また、毎日でなくとも1日1枚でなくとも別に良い。

 

 某コペの先生がスケッチ技術向上のためドローイングの教室に通ったという話も聞いたことがあるし、いつかこのイベントに参加したいと思いつつ、もう何年も期を逃していた。今年は早めに意識して波に乗っかることができたわけだが、ただ漫然とヨコエビの絵を描こうと思っており公式のお題があることも直前まで知らなかった程度には準備してなかったので少し慌てた。

 

Inktober2021成果物:31種類のヨコエビ

 

 スケッチはよく描くので、Inktoberでもちゃちゃっと見栄えのする絵が描けるものと根拠のない自負を持っていたが、こうしてイラストを主役に据えてネットに放流する場合、それぞれの線をしっかり描かないとどう見ても「やっつけ」にしか見えないしょうもない画像が生成されることを痛感した。また、同じ線でも表現したい対象(毛なのか殻の輪郭なのか影なのか陰なのかみたいな)によってルールを決めて描き分ける必要があるので、こういう肌感覚みたいなものを養うことは記載図に携わる上でも重要だと思った。

 

(今月は原稿が立て込んでるのでこのへんで…)

2021年9月18日土曜日

ディケロガマルスだけじゃない淡水ヨコエビの外来種問題について(9月度活動報告)

 

 以前こちらの記事でディケロガマルス・ヴィローススについて触れましたが、ここ数年、淡水域を中心に様々な外来ヨコエビについての論文は数多く、研究者の間で関心事になっているのは間違いありません。

 

 今年のベントス・プランクトン合同大会 (以下、市原・田辺 2021) でも取り上げられた フロリダマミズヨコエビ Crangonyx floridanus(通称フロマミ)は、日本で最も注目されている淡水の外来ヨコエビといえるでしょう(「フロマミ」は私が2016年ごろから勝手に言っているものなので、基本的に世の中で通じないしつまり通称ではない・・・?!)

 利根水系で発見されて以来、90年代末から2000年初頭にかけて急激に広まったようです (金田ほか 2007)。海外では英国 (Mauvisseau et al. 2018)、 アイルランド (Baars et al. 2021) でも発見されており、今後も拡散していく可能性があります。

 フロマミの動態は、多少付き合いの長い日本でも、今まさに研究が行われている途中です。水域間の水草の移動に伴って拡散していると考えられますが、具体的にどのようなルートで分布を広げるのか、確証は得られていないようです。また、在来生態系や産業をどれほど脅かすのか、以下のような報告がありますが、十分な知見が得られている状況ではありません。

  • ワサビへ正の走行性を示すようです。ただし、ワサビへの食害については在来のオオエゾヨコエビ Jesogammarus jesoensis と比較して大きなものではないとのことで (古屋ほか 2011)、食害に寄与するにせよフロマミの侵入により生じる産業への害を予見したものではないと考えられます。
  • 在来種・オオエゾヨコエビ J. jesoensis とフロマミは微環境の違いによって棲み分けている傾向があり、若干の相互作用はありつつも排他的ではないとの報告があります (田中ほか 2010)
  • ナリタヨコエビ J. naritai はフロマミよりブルーギルの捕食圧を受けやすいとの報告があり、フロマミの拡散や在来ヨコエビとの競合という面からも、重要な外来魚であるブルーギルの管理という面からも、特筆すべき現象だと思います (石川ほか 2017;山本ほか 2017)。 

 市原・田辺 (2021) の考察はこの「捕食圧の違い」を前提にしているようで、ナリタヨコエビとフロマミの付着基質の違いは、フロマミによるナリタヨコエビの駆逐というよりは、それぞれの捕食回避戦略・基質選好性によるという解釈がしっくりくると思います。一方、例えば侵略的外来種の代表種であるディケロガマルス・ヴィローススは隠れ場所を巡る競争で在来ヨコエビに勝ることが知られ、外来魚とのコラボによって在来ヨコエビを絶滅に追い込んだ事例 (Beggel et al. 2016) も報告されています(ディケロガマルス・ヴィローススについては,こちらをご参照ください)。日本在来の多くのヨコエビと比較してフロマミの体躯は小さく、空間ニッチを巡る競争で分があるようには見えませんが、現状の情報だけで楽観はできないと思います。

 日本の在来ヨコエビは水質指標種として扱われる場面が多いなど、一般的に「きれいな水」を好むように思えます。一方フロマミは、有機物が多いあるいは水温が高い等、いわゆる「悪条件」の水域への適応性が高いようです (金田ほか 2007等)。これは、ニッチの競合に勝利する可能性以前に、多くの水域でそもそもニッチが異なることを示唆するように思えます。海外ではこれに類似したものとして、電気伝導度が高くなるに従って外来種 Echinogammarus ischnus が優占するとの研究があります (Kestrup and Ricciardi 2009)。開発に伴って清流環境が減ったことで在来種の生息域が減少し、人為的な改変圧のかかった環境が増えてそこを利用できる外来種が増殖する。アメリカザリガニなどが、こういった例の代表かもしれません

 一方、フロマミは食性も幅広く、前述の植食性のほか、捕食性が強いという説もあります。また、水質や水温の条件が幅広いことに加えて、表層水環境では複眼が出現し地下水環境では消失する(篠田 2006)など、その適応力には目を見張るものがあります。 こういった状況から、直接的な影響だけでなく、例えば地下水系の昆虫類等への捕食圧等、目に見えにくい場所の影響に留意するべきかと思います。


 英国では、ディケロガマルス・ヴィローススと同属の Dikerogammarus haemobaphes は、微胞子虫 Dictyocoela berillonum の寄生によって性転換が起こり、侵入能力が高まっているとのこと(Green Etxabe et al. 2015)。外来種1種だけでなく、付随している生物にも目を向ける必要があるといえます。

 ツイッター等を監視していると、日本ではアクアリウムショップで各種ヨコエビが販売されていて、Hyalella属などはフロマミと同様に水草に紛れて偶発的に水槽に現れているようです。今のところ、フロマミ以外のヨコエビが定着しているという話は聞こえてきませんが、引き続き監視を続けていく必要があると思います。

 

 淡水以外のヨコエビについてはまたの機会に。

 

 

<参考文献>

Baars, J.-.R; Minchin, D.; Feeley, H. B.; Brekkhus, S.; Mauvisseau, Q. 2021. The first record of the invasive alien freshwater amphipod Crangonyx floridanus (Bousfield, 1963) (Crustacea: Amphipoda) in two Irish river systems. BioInvasions Records, 10. 629–635.

Beggel, S.; Brandner, J.; Cerwenka, A. F.; Geist, J. 2016. Synergistic impacts by an invasive amphipod and an invasive fish explain native gammarid extinction. BMC Ecology, 16, 32. DOI: 10.1186/s12898-016-0088-6

— 古屋 洋一・今津 佳子・久米 一成・金子 亜由美 2011. 静岡県における外来種(フロリダマミズヨコエビ)の生態調査.静岡県環境衛生科学研究所報告, (54):13–19.

Green, E. A.; Short, S.; Flood, T.; Johns, T.; Ford, A. T. 2015. Pronounced and prevalent intersexuality does not impede the ‘Demon Shrimp’ invasion. PeerJ, 3:e757 

— 市原 龍・田辺 祥子 2021. PP04 琵琶湖におけるヨコエビの動態解析. 2021 年日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会 講演要旨集.

石川 俊之・木下 智晴・山本 賢樹 2017. 琵琶湖において同所的に生息するナリタヨコエビ(Jesogammarus naritai)とフロリダマミズヨコエビ(Crangonyx floridanus)に対するブルーギル(Lepomis macrochirus)による捕食圧の違い. 滋賀大学環境総合研究センター研究年報, 14 (1): 51–55. 

—  金田 彰二・倉西 良一・石綿 進一・東城 幸治・清水 高男・平良 裕之・佐竹 潔 2007. 日本における外来種フロリダマミズヨコエビ(Crangonyx floridanus Bousfield)の分布の現状. 陸水学雑誌, 68 (3): 449–460.

Kestrup, Å. M.; Ricciardi, A. 2009. Environmental heterogeneity limits the local dominance of an invasive freshwater crustacean. Biological Invasions, 11 (9). 2095–2105. 

Mauvisseau, Q.; Davy-Bowker, J.; Bryson, D.; Souch, G. R.; Burian, A.; Sweet, M. 2018. First detection of a highly invasive freshwater amphipod (Crangonyx floridanus) in the United Kingdom. BioInvasions Records, 8.

— 篠田授樹 2006. 東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査. 研究助成・一般研究. Vol.28, No.164.

田中 吉輝・長久保 麻子・東城 幸治 2010. 外来種フロリダマミズヨコエビと在来種オオエゾヨコエビが混棲する長野県安曇野市蓼川における両種の個体群動態. 陸水學雜誌, 71(2): 129–146. 

山本賢樹・木下智晴・藤野勇馬・饗庭優香・藤岡沙知子・石川俊之 2017. びわ湖に侵入した外来種フロリダマミズヨコエビと在来種ナリタヨコエビの現状について. 日本生態学会第64回全国大会, 一般講演(ポスター発表) P2-G-232.

 



2021年8月27日金曜日

ピアレビューは突然に(8月度活動報告)

 

 起床後、いつものようにジーメールを立ち上げる。

 生命科学分野の連絡に使っているアドレスを開くと、学術誌共有サイトが今日も論文を勧めてきた。何かの文献をタダで入手する代償として登録したサイトで、今後のことも考えてまだそのままにしているが、勧めてくるタイトルの多くは求めるものではないか、すでに目を通したものばかりだ。

 その中に、ただならぬメールを見つけた。

 差出人は学生の頃からのお付き合いになる端脚類研究者。その内容は驚くべきことに、分類学論文の査読依頼だった。

 

 

 大学卒業後、どこぞの学術誌から研究室宛てに論文の査読依頼があったという話を思い出した。何らかの伝手からヨコエビ研究者が在籍しているとの噂を聞きつけたそうだが、一足違いで該当者はアカデミーの世界を去っていた。今回はそのリベンジになるような気がした。

 投稿準備中の原稿を抱えてはいたが、記載の核心を書き換える可能性がある材料を追加する予定で、それが入手できるまで少し時間があった。そして何より、投稿先の候補の一つとしていた学術誌であった。

 2秒ほど悩んでから引き受けることを決めた。 

 

 

 実際のところ、責任著者として、共著者として、それぞれ1度しか査読受けたことがない。ほとんどの学術誌に対するスタンスを一読者として貫いてきたヨコエビ愛好家としては、未知の領域といわざるを得ない。それでも、新しい知見があるたぴ論文を買い漁り、時に「物足りない」「詰めが甘い」などと悪態をつきながら、主に分類学や系統分類学の分野では最新の情報をアップデートしてきたつもりだ。その結果はウィキペディアの記事、あるいはブログに反映してきた。査読する立場になることは正直考えたこともなかったが、これだけ知的資源を消費しておきながら、今さら戦線の遥か後方でガヤを飛ばすのが本分、などと言うのも白々しい気がする。

 

 査読に際して有象無象のウェブサイトを読み漁ったが、もちろん真理を突いていそうなものは見当たらず、従って本記事もその有象無象に伍することになるわけだが、備忘録的に経緯や流れを記しておく。

 

  1. 査読依頼(突然来る)
  2. 規定の確認(※1)
  3. 査読実施(※2)
  4. 編集部へ流す(まだ提出してないのでこの先はよくわからん)

 

※1・・・投稿規定への適合性や文章として成立するか等は、大枠として編集部が確認して受け取るかどうかをジャッジするのが普通のはず。査読者は専用の文書(チェックシートやガイドライン)、そして動物分類学の場合は命名規約(ICZN)およびその改訂履歴を把握しながら査読を進める。

※2・・・分野や論文の長さにもよろうが、査読に費やす期間は1か月とか2か月とかだろう(過去に受けた時は4か月くらいかかった気がするが)。 編集部のチェックを差し引くと査読者の持ち時間は更に短くなり、今回提示された納期もやはりそんな感じであった。自分の論文がそろそろ次の動きに入る可能性もあるためあまりダラダラとやってはいられないという至極手前勝手な事情もあり、数週間で片をつけるように動いた。

 

 

 査読は匿名という固定観念があったが、過去に受けた時に署名らしきものが見受けられたのと、今回も査読者が希望すれば名前を明かすシステムになっていた。わたしが産まれる前からヨコエビと戦っているような超大先輩の原稿に対しかなり厳しめにコメントを付けたので、名前を明かす勇気がなく、今回は匿名希望としたい。

 思えば、匿名査読者がどの論文をレビューしたかを知るのは編集部だけである。どれだけ頑張って査読しても、その努力を知る者はごく僅か。これぞ縁の下の力持ち、人類の叡智の研鑽に勤しむ知のアスリート達の究極の社会貢献の姿ではなかろうか。

  

 なればこそ、そのシステムの維持に払われるコストに、強い関心を抱かざるを得ない。

 被査読者すなわち学術論文を書く側は、原則的にその仕事ぶりが衆目に晒され、個人の実績として積み上がっていくシステムになっている。しかしその学術論文が学術論文たることを担保する重要な要素こそ人知れず行われることが多い「査読」であり、その過程はその妥当性の担保も含めて全てが表沙汰になるわけではない。しかし、査読そのものの質が担保されていなければ、それを拠り所としている学術論文そのものの品質が問われる事態とならないか。査読者を複数選んでそれぞれにレビューさせるのはそのためかと思われるが、それによって各々の査読の質が底上げされるわけではない。

 分類学では、その手法そのものがありふれたものであっても、該当する分類学にそれなりに詳しくなければ妥当性を判断できないことが多いと考えている。特定の分類群に携わる人間は潤沢に存在するとは限らず、わたしの処女記載論文の例を引くまでもなく、論文の執筆にあたって同じ土俵にいる人間に声を掛け過ぎると必然的に査読者不足を招く。マイナー分類群の呼び声高いヨコエビはそういうことが日常的に起きやすい気もするが、そういった層の薄さが査読の質を下げることはあっても上げることは稀だとすれば、マイナー分類群の抱える問題の根深さが浮き彫りとなろう。


(つづく?)


2021年7月31日土曜日

ヨコエビの寿司性に就ひての一考察(7月度活動報告)

 

  最近、アクアマリンふくしまのツイートがバズっていますね。

  展示している「ヒロメオキソコエビ」「ウオノシラミ属の一種」(しらみちゃん)が寿司に見えるという話で、過去に一世を風靡したカイコウオオソコエビも巻き込んで世間は寿司祭りの様相です。




 

※イメージ

 

 カイコウオオソコエビは長らく「エビの握り」と混同されてきましたが、しらみちゃんは「エビ」あるいは「サーモン」に見えます。ヒロメオキソコエビはさしづめ「えんがわ」か飾り包丁の入った「イカ」でしょうか。

 

 カイコウオオソコエビとしらみちゃんはともに「エビ」担当ですが、ずいぶんベクトルの違うエビに見えます。これはまさか・・・

 

 

 思った通りです。

 

 カイコウオオソコエビはおそらく、2012年にリリースされたこの記事に代表されるJAMSTECの写真が発端となって寿司説が流布したものと思われますが、その写真に見られるボディのツヤ感やローズピンクのムラ感、胸節表面を縦に走る筋の感じが、甘えびを2,3尾載せた握りによく似ています。

 一方、しらみちゃんは全体に黄色みが強く橙色に見え、背面に筋感はなくよりフラットです。これはボイルしたエビの開きを載せた握りによく似ています。

 

 これらが似ているのは、カイコウオオソコエビ(端脚目)やしらみちゃん(等脚目)と、寿司ネタのエビ(十脚目)が、同じ軟甲類というグループに属していて比較的近縁なせいだと思います。これに加えて、寿司に用いられるエビの身は第1~5腹節と尾節(尾肢と尾節板)に相当する部分で、これはそのままカイコウオオソコエビやしらみちゃんとも対応します。


 しかし、シャリは違います。寿司におけるシャリは、ネタであるエビとは分類学的にかなり遠いイネ(被子植物:単子葉類)の胚乳が人為的に付加されたもので、元々身体の一部をなしていた構造ではありません。

 カイコウオオソコエビにおけるシャリは、主に底節板より先の胸脚に相当するようです。一方、しらみちゃんの場合は底節板にわりと色がついていて、ネタ側に相当するように思えます。しらみちゃんのシャリは基節から先の胸脚と、保育嚢から構成されるようです(そう、しらみちゃんは女の子なんです!!)。


 

 思うに、以下のような要素が寿司性に寄与しているのではなかろうかと思います。

  • 上に色の濃い「ネタ」・下に白っぽい「シャリ」が位置する
  • プロポーションが一般的な寿司の範疇に収まる(幅:厚:長=1:2:2.5~4.5程度ではないでしょうか)
  • 「ネタ」の方が少し大きく、垂れ下がっている
  • 「ネタ」上面は平らで、横に筋がある
  • 「シャリ」下面は丸く、多少凹凸がある


 そういう要素を満たす動物は他にもいる気がします。例えば・・・

 


 ミズムシ(等脚目)はシャコ(口脚目)と同じ軟甲類に含まれるので、これも分類学的に近位であることと、形態的に相同であることが、寿司性の演出に寄与した例と思われます。

 ヒメアルマジロ(哺乳綱)については中トロ(マグロ:硬骨魚綱)と分類学的に遠く、相同性もありません。そのせいか、今回はガリ(被子植物:単子葉類)に助けを求めることとなりましたが、相当な寿司性を具えています。ヒメアルマジロは種小名に「truncatus」とある通り、尾部が切り落とされたような形状をしていますが、これがマグロのサクの感じとよく似ています。

 

 端脚目や等脚目は背側の殻が厚く、表面がごつごつしていたり、色素が多く含まれたりします。対照的に腹側や脚は殻の表面が平滑で色が薄めです。こういった条件は寿司への収斂を促す可能性があります。

 これからもまだまだ寿司性を具えたヨコエビやその仲間たちが見つかるかもしれません。もっと探してみたいと思います。



 

2021年6月24日木曜日

書籍紹介『三陸の海の無脊椎動物』(6月度活動報告)

 

 多少私が関わった書籍が出版されました。

— 加戸隆介(編著)/奥村誠一・広瀬雅人・三宅裕志(著)2021.『三陸の海の無脊椎動物』恒星社厚生閣,東京.ISBN978-4-7699-1664-2.

 

本文278ページの大ボリューム、
図鑑パートはフルカラーの大盤振る舞いで2,000円です。

 

 かつて三陸には北里大のキャンパスがあり、震災の後に一時閉鎖されたものの、現在は研究センターとして復活したそうです。そういった縁で、三陸の海の生物の知見が集積された本書が著されるに至ったようです。

 本書の大部分は、12門318種(群)の写真および解説に割かれています。各分類群の体制や系統について真摯な記述があるほか、用語解説や採集の注意点等も充実しています。近傍海域において浅海の無脊椎動物を学ぼうとする者にとって、これほどうってつけの本は無いと思います。

 ヨコエビに限ってですが、文化祭にお邪魔した時に本書の私家版を見て私なりにコメントを寄せた内容が反映されており、協力者としてクレジット頂いております。あと、よく見たら参考文献に『ヨコエビガイドブック』を挙げて頂いておりました。恐縮です。

 

 いちおう、端脚類のリストを掲載しておきます。8属18種のようです。5%というのは多いのか少ないのか…

 

  ヒゲナガヨコエビ科 Ampithoidae

  1. ニッポンモバヨコエビ Ampithoe lacertosa
  2. ヒゲナガヨコエビ科の一種

    クダオソコエビ科 Photidae

  3. ニホンソコエビ Gammaropsis japonica

    カマキリヨコエビ科 Ischyroceridae

  4. フトヒゲカマキリヨコエビ Jassa slatteryi
  5. イソホソヨコエビ Ericthonius pugnax

    ドロノミ科 Podoceridae

  6. ドロノミ属の一種 Podocerus sp.

    テングヨコエビ科 Pleustidae

  7. オタフクヨコエビ Parapleustes bicuspoides
  8. テングヨコエビ科の一種

    アゴナガヨコエビ科 Pontogeneiidae

  9. アゴナガヨコエビ科の一種

    タテソコエビ科 Stenothoidae

  10. タテソコエビ科の一種

    ワレカラ科 Caprellidae

  11. セムシワレカラ Caprella brevirostris
  12. トゲワレカラ C. scaura
  13. トゲワレカラモドキ C. californica
  14. コシトゲワレカラ C. mutica 
  15. イバラワレカラ C. acanthogaster
  16. クビナガワレカラ C. equilibra
  17. マルエラワレカラ C. penantis
  18. コブワレカラ C. verrucosa


 確証はありませんが、おそらく収録されていない知見がまだあると思われます。また、今後調査を続ければ、ヨコエビはまだまだ出てくるのではないのでしょうか。

 私家版の時点でどういう形に仕上がるのかよく分かっていなかったのですが、このように出版されクレジットされるのであれば、もう少し内容に突っ込んだり標本の検討に参加しても良かったかなと思います。種リストとしての厚みはもとより、各動物門の概要や磯の生態系についての知見を網羅的に深めることができる良書ですが、同定キーが無いことや、未収録・未同定の項目があるのは、まだ変身を残している印象があります(こういった書物にキーは必須とは思いませんが、地元のアマチュアにとっては大いにニーズがあるものと思います)。更に研究が進んでパワーアップすることを祈っております。その時はもっとドラスティックにご協力させていただきたく。

 

2021年5月31日月曜日

ドロクダムシについて(5月度活動報告)


 ヨコエビ類の中に、ドロクダムシというグループがあります。
 ヨコエビといえば、身体の下側に底節板が張り出し、身体が横向きになりやすいイメージが強いかと思いますが、ドロクダムシにその気配はありません。

 日本の沿岸で見られるドロクダムシの身体は細長く筒状をしていて、真っすぐに歩いたり泳いだりします。中には底節板が深めのものもいますが、世界的にもその多くが砂泥底にトンネルを掘って暮らしているようです。過半数が明らかな懸濁物食者で、咬脚に密生した長剛毛を使って水中の粒子を濾し取って食べているようです。


 そういった性質をもつドロクダムシですが、沿岸性ヨコエビの中でも特に同定がめんどくさいグループと思われます。

 ドロクダムシの分類を難しくしている要因として、文献が乏しいことに加えて、Bousfield and Hoover (1997) などで用いられている形質を理解しにくいことが挙げられます。

 属の検索表における形態記述は難解で、思うように key が走りません。また、4桁程度のサンプルを見るとわかってきますが、種の識別に有効とされる形質の一部に個体変異があり、形態だけで確証を得るのは困難です。過去には、別種とされた2つのタイプが、累代飼育を経て同種だったと判明した事例があります (Chapman 2007)。ただ、全て諦めて科止まりにしておくのも少し勿体ないグループではあります。


 そんなわけで、ドロクダムシの分類について、知見を整理してみたいと思います。



世界のドロクダムシ科リスト

List of World Corophiidae

 体系はWoRMSに基づく。和名は Ishimaru (1994) に基づき、過去に提唱されていないものの順当と思われるものは括弧内に示した。

 また、Eocorophium属 には2017年に E. longiconum という種が記載されたが、WoRMSには反映されていない。採用しない理由が特に見当たらないため、本リストにはこの種を加え Eocorophium属 を2種とした。


ドロクダムシ亜科 Corophiinae Leach, 1814
 ドロクダムシ族 Corophiini Leach, 1814

  • Americorophium Bousfield and Hoover, 1997 [9種]
  • Apocorophium Bousfield and Hoover, 1997 [5種]
  • Chelicorophium Bousfield and Hoover, 1997 [12種]
  • Corophium Latreille, 1806 [11種]
  • (トゲドロクダムシ属)Crassicorophium Bousfield and Hoover, 1997 [3種]
  • (タイガードロクダムシ属)Eocorophium Bousfield and Hoover, 1997 [2種]
  • Hirayamaia Bousfield and Hoover, 1997 [3種]
  • Laticorophium Bousfield and Hoover, 1997 [2種]
  • (ウチワドロクダムシ属)Lobatocorophium Bousfield and Hoover, 1997 [1種]
  • Medicorophium Bousfield and Hoover, 1997 [7種]
  • Microcorophium Bousfield and Hoover, 1997 [1種]
  • Monocorophium Bousfield and Hoover, 1997 [11種]
  • Sinocorophium Bousfield and Hoover, 1997 [13種]

 Haplocheirini Myers and Lowry, 2003(族)
  • Anonychocheirus Moore and Myers, 1983 [1種]
  • Haplocheira Haswell, 1879 [4種]
  • Kuphocheira K. H. Barnard, 1931 [2種]
  • Leptocheirus Zaddach, 1844 [15種]

 Paracorophiini Myers and Lowry, 2003(族)
  • Paracorophium Stebbing, 1899 [8種]
  • Stenocorophium G. Karaman, 1979 [1種]

Protomedeiinae Myers and Lowry, 2003(亜科)
  • Cheirimedeia J. L. Barnard, 1962 [8種]
  • Cheiriphotis Walker, 1904 [17種]
  • Goesia Boeck, 1871 [2種]
  • オオアシソコエビ属 Pareurystheus Tzvetkova, 1977 [8種]
  • Plumiliophotis Myers, 2009 [1種]
  • キヌタソコエビ属 Protomedeia Krøyer, 1842 [13種]

 

ユンボソコエビ科は、第2咬脚がバスケット状でなく且つオスの第1咬脚が発達することで、ドロクダムシ科から識別するそうです。
 

 

 このように、ドロクダムシ科は 2亜科 3族 24属 160種 から構成されます。実はさほど大きなグループではありません。

 現状は、ドロクダムシ上科がドロクダムシ科ヒゲナガヨコエビ科を内包しています。ドロクダムシ科とヒゲナガヨコエビ科は、第3尾肢の剛毛により識別されます。また、その他の近縁の科(カマキリヨコエビ科等)とは、第1触角第3節の長さによって識別可能です(上図)。


 

 ドロクダムシ科には2亜科が含まれます。これら2亜科は、咬脚の剛毛配列によって識別されます。ドロクダムシ亜科は微粒子を濾し取る形状となっていますが、Protomedeiinae亜科 はそうではありません(ドロクダムシ亜科の第2咬脚の形状については直近ではこの記事に透過光写真を載せています)

 代表的な文献 Bousfield and Hoover (1997) では、ドロクダムシ科は ドロクダムシ亜科 に加えて ヤドカリモドキ亜科 Siphoecetinae(ハイハイドロクダムシ,スナクダヤドムシが含まれる)が含まれることになっていました。その後、Myers and Lowry (2003) の大改造を経て、今日ではヤドカリモドキ類は カマキリヨコエビ科 Ischyroceridae に含められています。その根拠の一つは、前述の触角の節の長さということになってます。

 かつてドロクダムシ上科には相当な数の科が含まれていて、伝統的にカマキリヨコエビ科やドロノミ科などもその仲間とされていました。現在この「伝統的なドロクダムシ上科」は概ね下目に格上げされています。このように、ドロクダムシの仲間の分類階級は時代によって変遷を重ねており、亜目として扱われたこともあります (Barnard and Karaman 1983)




ドロクダムシ亜科ドロクダムシ族の同定

 ドロクダムシ亜科の約半数はドロクダムシ族(≒ ”古き良きCorophium属” )に含まれます。ドロクダムシを征服するにはこの ”古き良きCorophium属” を押さえることが重要です。

 ドロクダムシ族と他の2族とは、以下のような形質で識別できます。なお、Myers and Lowry (2003) は Haplocheirini族 の判別文に ”第1,2尾肢の副葉に棘状剛毛列を密生する” と記していますが、ドロクダムシ族の第1,2尾肢副葉にも棘状剛毛の列や束がみられ、Myers and Lowry (2003) からはその密度を評価する基準が読み取れなかったため、今回は採用しませんでした。


 

 

 

 さて、ドロクダムシ族に含まれる13属は、今のところ Bousfield and Hoover (1997) で同定できます。しかしながら、前述の通りこの論文は至るところに理解が難しい部分があり、そもそも手元の標本が未記載の可能性すらあるという「ヨコエビあるある」も相まって、思ったような結果が得られない場面が多いように思われます。

 そこで、Bousfield and Hoover (1997) で用いられている形質のうち、使いやすいものだけを選んでマトリクス検索表を作成しました。

 

参考文献:Bousfield and Hoover 1997 .
これを使えば7形質だけで13属を識別できる(はず)。

 「第3腹側板が鋭く尖る」と「第2尾肢が第1尾肢より長い」という形質は、それぞれ単一の属にしかないことが分かります。これら2つの形質を確認すれば、まず2属が確定します

 

 なお、日本の沿岸では以下の種が報告されています。

  1. Crassicorophium属:トゲドロクダムシ C. crassicorne
  2. Eocorophium属:タイガードロクダムシ E. kitamorii
  3. Lobatocorohpium属:ウチワドロクダムシ L. lobatum
  4. Monocorophium属:アリアケドロクダムシ M. acherusicum,トンガリドロクダムシ M. insidiosum,ウエノドロクダムシ M. uenoi
  5. Sinocorophium属: ニホンドロクダムシ S. japonium,トミオカドロクダムシ S. lamellatum,タイリクドロクダムシ S. sinensis

  Ishimaru (1994) にはあと4種ほど挙げられていますが、それぞれ要点となる文献が手元になく、記録の妥当性を検証できませんでした。いずれ確認したいと思います。日本産生物種数のHPでドロクダムシ科が13種になっているのも、恐らくこれら4種を加算しているためかと思われます。


 私の知る限り、磯とか干潟でドロクダる場合、個体数では Monocorophium属 が圧倒的に多い気がしますので、まずは Monocorophium属 と関係がありそうな形質を確認していくと検索が早いかもしれません(ちなみに、三浦2008の「二ホンドロクダムシ」の写真は、Monocorophium属 のように見えます)。ただ、まだ報告されていないやつもいるでしょうから、決めつけてはいけません。

 ドロクダムシ類は太平洋で20年以上まともにレビューされていませんから、調べれば調べるほど発見があるグループかもしれません。また、日本固有属が1つ、香港固有属が2つもあることから、太平洋北西部は世界的に見てもドロクダムシ族の多様性が高いのではとも思います。




Haplocheirini族の同定

 Anonychocheirus属,Haplocheira属,Kuphocheira属,Leptocheirus属 の4属からなります。 主に大西洋や亜南極に分布します。かつてユンボソコエビ科に含められていました。せっかくなので形態マトリクスを作成しました。

 
参考文献:Moore and Myers 1983; Barnard and Karaman 1991.

 


Paracorophiini族の同定

 Paracorophium属は第2咬脚がはさみ形となり、Stenocorophium属は第7胸脚が巨大に発達するため識別は容易です。これら2属は南太平洋に分布します。

 

 

 

Protomedeiinae亜科の同定

  6属が含まれます。第3尾肢の形状が非常に重要ですが、逆にそこだけ見ればわりと落ちます。 また、第2咬脚の剛毛の様子や節の長さの比も同定形質に用いられますが、検索表を単純化するために省略しました。

 

参考文献:Barnard and Karaman 1991, Myers 2009.

 

 これらのメンバーは、伝統的にイシクヨコエビ科に含められていました。

 オオアシソコエビ属 Pareurystheus は、本邦からケナガオオアシソコエビ P. amakusaensis が知られます。

 キヌタソコエビ属 Protomedeia は、本邦からはミナミキヌタソコエビ P. crudoliops が知られます。属名はギリシャ神話に同名のネレイデス「Πρωτομέδεια」が登場することから、神話由来と思われます。和名の「キヌタ」は、第2咬脚の形状が木槌状であることから「砧」を連想したものでしょう。たぶん。

 

  以上、現在のドロクダムシ界隈の概況をご案内しました。ドロクダムシ類の中核はドロクダムシ族にあり、その理解には20幾年前の論文が今なお非常に重要です。私が卒研をしていた頃「Amphipacifica」はマイナーで入手困難なジャーナルでしたが、近年は BHL の躍進で非常に入手ハードルが下がりました。皆様にはぜひ Bousfield and Hoover (1997) をDLしていただき、存分にドロクダって頂ければと思います。

 前述の通り、ヤドカリモドキ類など過去にドロクダムシと姉妹群となっていたグループについては、現在は移動しているため説明を割愛しています。このあたりはまた別の機会に。

 

 


<参考文献>
— Barnard, J. L.; Karaman, G. S. 1983. Australia as a major evolutionary centre for Amphipoda (Crustecea). Australian Museum Memoir, 18: 45–61.
— Barnard, J. L.; Karaman, G. S. 1991. The families and genera of marine gammaridean Amphipoda (except marine gammaroids). Records of Australian Museum supplment 13, part 1,2, 866p.
Bousfield, E. L.; Hoover, P. W. 1997. The amphipod superfamily Corophioidea on the Pacific coast of North America; 5. Family Corophiidae: Corophiinae, newsubfamilly: systematics and distributional ecology. Amphipacifica, 2(3): 67–139.
Chapman, J. W. 2007. Gammaridea. In: Carlton, J. T. (ed.) The Light and Smith manual intertidal invertebrates from Central California to Oregon. Fourth Edition, University California Press, 545–618 pp.
Heo, J.-H.; Kim, Y.-H. 2017. A new species of The genus Eocorophium (Amphipoda, Corophiidae) from Korea. Crustaceana, 90(1112): 14051414. 
Ishimaru, S. 1994. A catalogue of gammaridean and ingolfiellidean Amphipoda recorded from the vicinity of Japan. Report of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, 24: 29–86.
— 三浦知之 2008. 小型甲殻類.In: 三浦知之 2008. 『干潟の生き物図鑑』.南方新社,鹿児島.109–119 pp.
Moore, P. G.; Myers, A. A. 1983. A revision of the Haplocheira group of genera (Amphipoda: Aoridae). Zoological Journal of the Linnean Society, 79: 179–221. With 31 figures
— Myers, A. A. 2009. Corophiidae. In: Lowry, J. K.; Myers, A. A. (Eds.) 2009. Benthic Amphipoda (Crustacea: Peracarida) of the Great Barrier Reef, Australia. Zootaxa, 2260: 1–930.
Myers, A. A.; Lowry, J. K. 2003. A phylogeny and a new classification of the Corophiidea Leach, 1814 (Amphipoda). Journal of Crustacean Biology, 23(2): 443–485.



<参考Web>
— WoRMS(2021年1月)