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2025年9月1日月曜日

書籍紹介『水の中の小さな美しい生き物たち』(9月度活動報告)

 またヨコエビが採り上げられた書物が出版されました。

 


仲村康秀・山崎博史・田中隼人(編) 2025.『カラー図解 水の中の小さな美しい生き物たち―小型ベントス・プランクトン百科―』.朝倉書店,東京.384pp. ISBN:978-4-254-17195-2(以下、仲村ほか, 2025)


 出版社は異なりますが『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン』の系譜のように思えます。ボリュームが充実し、ベントス要素が強化された感じでしょうか。なお、ページ数は2倍ちょっと、価格は10倍になっています。



仲村ほか (2025) を読む

 解説のないものも入れて、掲載端脚類は以下の通りです。この他に、表紙に姿があるリザリアライダーの話題も紹介されています。

  • Orientomaera decipiens(フトベニスンナリヨコエビ)
  • Ptilohyale barbicornis(フサゲモクズ)
  • Monocorophium cf. uenoi(ウエノドロクダムシと比定される種)
  • Pontogeneia sp.(アゴナガヨコエビ属の一種)
  • Caprella penantis(マルエラワレカラ)
  • Simorhynchotus antennarius
  • Vibilia robusta(マルヘラウミノミ)
  • Oxycephalus clausi(オオトガリズキンウミノミ)
  • Melita rylovae フトメリタヨコエビ
  • Grandidierella japonica ニホンドロソコエビ
  • Podocerus setouchiensis セトウチドロノミ
  • Sunamphitoe tea コブシヒゲナガ
  • Leucothoe nagatai ツバサヨコエビ
  • Jassa morinoi モリノカマキリヨコエビ
  • Caprella californica sensu lato トゲワレカラモドキ
  • Caprella andreae ウミガメワレカラ
  • Caprella monoceros モノワレカラ
  • Themisto japonica ニホンウミノミ
  • Phronima atlantica アシナガタルマワシ
  • Lestrigonus schizogeneios サンメスクラゲノミ

※仲村ほか (2025) に明示の無い和名は()内に示しています。


 なかなかボリュームがあります。

 だいたいが筆者のKDM先生が撮られた写真のように見受けられます。先生の主な研究テーマである藻場の生態系と端脚類に関するコラムもあり、エンジニア生物や物質循環といった観点から端脚類を見ることもできる構成となっています。KDM研における最新の分類学的知見を反映して「ウエノドロクダムシ」の同定に慎重になっている、といったライブ感があるのもポイント高いです。


 白眉はなんといってもヨコエビからクラゲノミまで揃い踏みしているところにありますが、驚愕したのは、堂々と旧3亜目体制に基づいている点。海外の文献では Lowry and Myers (2017) に基づく現在の6亜目体制を追認する動きが一般的となっている印象がありますが、日本人研究者は亜目を省略するなど距離をとる雰囲気がありました。「国内では不人気」という言い方もできるかもしれませんが、それを形にしたのは非常に画期的です。

 新知見を採用しないというと時代に取り残されている感じもしますが、6亜目体制は「形態に忠実であることを謳っている一方で例外を意図的に無視しており、自己矛盾している」「かといって系統を反映させる気はない(遺伝的知見との整合性を意図したような例外の扱いではない)」「形態的な明朗性・系統反映のポリシー・過去の慣例の全てを犠牲にしたわりに直感的に分かりにくく、使い勝手が良い場面が特にない」といった問題があります。Lowry and Myers (2017) は大量の分類群について形態マトリクスを作成して議論を試みた労作であることは間違いないのですが、このように中途半端な改変を行うより、「尾肢の先端に棘状刺毛があるグループとそうでないグループを発見した」というような発表に留めておいたほうが、論文として評価は高かったのではと思います。端脚類全体を網羅する下目・小目といった新概念を提唱しつつ、結局所属不明科を残したままというのも片手落ちの感があります。そろそろ10年になりますが、特に優れた点の無い体系のため安定して使い続けられる保障がないという判断から、採用に慎重になっている人がいるものと、個人的には理解しています。

 こういった分類のややこしさについても、仲村ほか (2025) は論文を引いて示しています。


 仲村ほか (2025) の印象を一言で表すとすれば「本棚にベンプラ大会」。タイトルからすると「生物ルッキズムを含んだ写真集」のように思えますが、写真はカットの物量こそあれど思いの外小さく、種や話題のチョイスの渋さ・ガチ感が光ります。前述のような分類学の議論をはじめ、ベントス・プランクトン学会大会で聴かれるお馴染みのテーマや学術的な課題が、当然のように並べられています。細菌の項で培地の写真が並んでいるのにはドン引きしました(誉め言葉)。マニアックな生物に対して、その珍奇さよりここに収録されるべき学術的意義に立脚して選定・解説しているのが、プランクトン学会とベントス学会が全面バックアップしているだけのことはあるなと、思いました。375ページに上る大著でありながら、水圏生物の花形である魚類が4ページしかないというのも特徴的だと思います。

 ただ、解説は非常に平易な文章に仕上がっており、文字数もそれほど多くありません。「写真をパラパラ見る」用途として問題はないかと思います。これだけ幅広い生物群を、「小さく美しい」というテーマに沿って網羅的に平等に扱おうと試みた書籍の例はあまりないものと思われます。『深海生物生態図鑑』のようにグラビアの美麗さや物量で押してくるタイプではないのですが、微生物やメイオベントス群集といった、ともすれば味気ない専門書の中の住人であった生物を、ビジュアル図鑑の世界へ招き入れたというのは、大きな出来事のように思えます。中学生から大学まで、生物分類や水棲生物研究全般に興味のある学生には、興味をそそるだけでなく基礎知識の勉強にもなる一冊でしょう。

 『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン』のコスパの良さが異常なので、こちらのほうがエッセンスだけ摂取したい方にはお勧めできるかもしれません。ただ、当然のことながら 仲村ほか (2025) において情報量は格段に増えていますし、学名の併記や参考文献もしっかり押さえられており、実用性を付与されているのは間違いありません。


 ちなみに、「ウミガメワレカラ」という和名が学名と明確に対応された出版物は初めてだと思います(和名の初出は青木・畑中, 2019)。そういった文脈でも参照され続ける文献と思われます。


 最後に、仲村ほか (2025) における端脚類の掲載箇所を詳細にご教示いただいた朝倉書店公式ツイッターアカウント様に、この場をお借りして篤く御礼申し上げます。



<参考文献>

青木優和 (著)・畑中富美子 (イラスト) 2019.『われから: かいそうの もりにすむ ちいさな いきもの』. 仮説社, 東京.39pp. ISBN-10:4773502967

藤原義弘・土田真二・ドゥーグル・J・リンズィー(写真・文)2025.『深海生物生態図鑑』.あかね書房,東京.143 pp. ISBN:978-4-251-09347-9 

Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2017. A phylogeny and classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265 (1): 1–89.

山崎博史・仲村康秀・田中隼人(指導・執筆) 2024. 『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン クラゲ・ミジンコ・小さな水の生物』.小学館,東京.176pp. ISBN:9784092172975


2025年1月22日水曜日

書籍紹介『深海生物生態図鑑』(1月度活動報告)

 

 美しい写真が満載の書籍が出ました。



— 藤原義弘・土田真二・ドゥーグル・J・リンズィー(写真・文)2025.『深海生物生態図鑑』.あかね書房,東京.143 pp. ISBN:978-4-251-09347-9 

(以下,藤原ほか2025)


藤原ほか(2025)を読む

 さっそくですが、掲載されている端脚目は以下の通りです。

  • テンロウヨコエビ属の一種 Eusirus cuspidatus
  • ワレカラ属の一種 Caprella ungulina
  • ホテイヨコエビ科の一種 Cyproideidae gen. sp.
  • フトヒゲソコエビ上科の一種 Lysianassoidea (fam. gen. sp.)
  • テングウミノミ科の一種 Platyscelidae gen. sp.


 私はこのうち「フトヒゲソコエビ上科の一種」の同定に協力したのですが、こうして見ると学名の表記に難ありですね(括弧に補足しました)。申し訳ない。誰でも言えるような結果に落ちていますが、ちゃんと見るところは見た上で、全球を視野に手順に沿って検討しています。咬脚の形状などを総合的に判断してタカラソコエビ科かツノアゲソコエビ科のどちらかだと思いましたが、私の力量では写真同定には至りませんでした。機会があればいつか実物を確認して結論を出せればと思ってはいます。

 というか、こんな重厚な趣の本の本文中に同定責任者として載ることになるとは、思ってもみませんでした(巻末にちょろっと名前が出ればいいかなくらいのつもりでした)。個人的には、あらゆる出版物に正確なヨコエビの記述されること以外に興味はないつもりでいたのですが、さすがに少しビビりました。


 テンロウヨコエビ属が「海の掃除屋」と紹介されていますが、個人的にこの属をはじめとするテンロウヨコエビ科のかなりの部分は、死骸を食べる「スカベンジャー」よりも他の小さな生物を捕まえる「プレデター」という紹介が合っているではと思っています。確定的なことは何もいえませんが、Lörz et al. (2018) にそういった記述があるほか、同じ科のリュウグウヨコエビ属の一種 Rhachotropis abyssalis (Lörz et al. 2023)、ドゥルシベラ・カマンチャカ Dulcibella camanchaca なんか (Weston et al. 2024) は捕食性と推定されています。また、テンロウヨコエビ属は藤原ほか(2025)にもあるように咬脚がボクサーのような特殊な形状になっていて、これは可動域からみて、咬脚を突き出すのと同時に腕節の接続部が滑らかに動くことで、指節と前節を素早く閉じるような機構になっているのではと思います。この動きは捕食と関係しそうです。ただし、科は違いますが魚と思われる組織に混じって木屑や多毛類のような断片が消化管内から発見されている深海性ヨコエビもいる (Barnard, 1961) ので、死骸に集まるヨコエビの食性は実際のところかなり流動的なのだろうとも思います。

 ワレカラ属の一種は Takeuchi et al. (1989) で再記載されたりしており、界隈では少し名の知れた種かもしれません。本文中にあるように、複眼など生態写真ならではの情報が含まれているのは貴重です。


 見たところ藤原ほか(2025)に掲載された端脚目は全て固定前の写真のように見え、他の分類群も(詳しくないので推測ですが)多くが生時あるいは絶命して間もない個体を使用しているように見えます。「深海生物図鑑カレンダー」の定期購入者であればどこかで見たことのある写真もあるかもしれませんが、ハードカバーに厚口ページの堅牢製本で全面グラビアカラー印刷、これだけしっかり作られた大判の写真集で定価¥6,000-ですから、当方としてはものすごくお買い得に思えます(このサイズ感の学術図鑑だと2万はしそう)(比較対象がおかしい)

 「生態」図鑑と銘打ちつつ、ヨコエビの生態についてこれといった見解が示されていない部分は、読者によっては消化不良となりそうです。が、実際のところ学術研究がそこまで進んでないのでどうにも仕方ないです。一般層としてはやはり「何を食べているか」みたいな部分は生態情報として真っ先に興味の対象となる部分かと思うので、近縁種の情報からこのへんをもう少し引っ張ってきてもよかったかもしれません。もちろん科や属の中でも食性の幅はあるので、どこまで適用できるかは慎重になるべきとは思いますが。

 JAMSTECの研究者による執筆なので、最後に海洋汚染問題とそれに対して海洋研究が果たす役割や、一般読者が深海生物にアクセスできる方法なんかを紹介しています。ページを幾度も繰りながら深海生物の生き様に想いを馳せるのも一興、この本を入り口に深海生物推しの深みにはまっていくのもまた一興、といった造りになっています。



<参考文献>

Barnard, J. L. 1961. Gammaridean Amphipoda from depths of 400–6000 meters. Galathea Report, 5: 23–128.

Lörz​, A.-N.; Jażdżewska, A. M.; Brandt, A. 2018. A new predator connecting the abyssal with the hadal in the Kuril-Kamchatka Trench, NW Pacific. PeerJ, 6: e4887. 

Lörz, A. N.; Schwentner, M.; Bober, S.; Jażdżewska, A. M. 2023. Multi-ocean distribution of a brooding predator in the abyssal benthos. Scientidic Report, 13: 15867.

Takeuchi I.; Takeda M.; Takeshita K. 1989. Redescription of the Bathyal Caprellid, Caprella ungulina MAYER, 1903 (Crustacea, Amphipoda) from the North Pacific. Bulletin of The National Science Museum Series A (Zoology), 15(1): 19–28. 

Weston, J. N. J.; González, C. E.; Escribano, R.; Ulloa, O. 2024. A new large predator (Amphipoda, Eusiridae) hidden at hadal depths of the Atacama Trench. Systematics and Biodiversity, 22:1, 2416430. 

2024年12月27日金曜日

2024年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)

 

 今年もヨコエビの新種です。

 

※2017年実績
※2018年実績 
※2019年実績
※2020年実績
※2021年実績
※2022年実績
※2023年実績


  学名に付随する記載者については、基本的に論文中で明言のある場合につけています。

 

New Species of
Gammaridean Amphipods
Described in 2024

(Temporary list)

 

JANUARY 

Limberger, Castiglioni, and Santos (2024)

Hyalella jaboticabensis 

 ブラジルからヒアレラ科 Hyalellidae ヒアレラ属の1新種を記載。本文は有料。




FEB

Patro, Bhoi, Myers, and Sahu (2024)

Parhyale odian 

 インド・チリカ湖からモクズヨコエビ科 Hyalidae ミナミモクズ属の1新種を記載。オゴノリ属に付着するようです。本文は有料。



Mussini, Stepan, and Vargas (2024) 

Hyalella mboitui

Hyalella julia 

 パラグアイからヒアレラ属の2新種を記載。Hyalella mboitui の種小名は現地に伝わるグアラニー神話の7体の伝説の怪物の一つ・ボイトゥーテイに由来し、H. julia はパラグアイの生物多様性研究へ貢献したジュリオ・ラファエル・コントレラス氏への献名とのことです。大顎の形状が生息ニッチの違いを反映しているとの考察がなされています。ヒアレラ属をナミノリソコエビ科に含めていますが、現在のコンセンサスは独立したヒアレラ科に位置づけるべきと思います。本文は無料で読めます。




MARCH

Wang, Sha, and Ren (2024a) 

Stegocephalus carolus

 フクレソコエビ科 Stegocephalidae フクレソコエビ属の1新種を、ニューギニア島の北に位置する海山から記載。本文は無料で読めます。




APRIL

Xin, Zhang, Ali, Zhang, Li, and Hou (2024)

Sarothrogammarus miandamensis

Sarothrogammarus kalamensis 

 パキスタンの淡水域からヨコエビ科 Gammaridae の2新種を記載。本文は有料ですが、アブストにわりと細かな形態の記述があります。



Lee and Min (2024)

Pseudocrangonyx seomjinensis 

Pseudocrangonyx danyangensis

 韓国の河川間隙水的な環境からメクラヨコエビ科 Pseudocrangonyctidae メクラヨコエビ属の2新種を記載。形態の検討に加えて、28S rRNA と COI Mt DNA の解析を実施しているとのこと。本文は有料。



Ariyama and Kodama (2024)

リュウキュウマエアシヨコエビ Protolembos ryukyuensis 

ヘコミマエアシヨコエビ Tethylembos cavatus 

 日本近海よりユンボソコエビ科 Aoridae の2新種を記載。T. japonicus ニッポンマエアシヨコエビの生態写真および線画も掲載。そして、何といっても日本産ユンボソコエビ科34種の検索表が載ってる超有用文献です。本文は有料。



Lörz, Nack, Tandberg, Brix, and Schwentner (2024)

Halirages spongiae

 アイスランドの低温海域において海綿表面から得られたウラシマヨコエビ科 Calliopiidae の1新種を記載。9種の検索表を提供。本文は無料で読めます。



Navarro‑Mayoral, Gouillieux, Fernandez‑Gonzalez, Tuya,  Lecoquierre, Bramanti, Terrana, Espino, Flot, Haroun, and Otero‑Ferrer (2024)

Wollastenothoe minuta Gouillieux & Navarro-Mayoral, 2024

 カナリー諸島の水深60mに自生するサンゴに付着するタテソコエビが、新属新種として記載されました。タテソコエビ科 Stenothoidae の属までの二又式検索表が掲載されていてかなり有用です。本文まで無料で読めます。




MAY

Thacker, Myers, Trivedi, and Mitra (2024)

Parhyale kalinga

Chilikorchesta chiltoni 

Grandidierella rabindranathi 

    インドのチリカ湖から3新種と、ハマトビムシ上科 Talitroidea の1新属を記載。アブストに形態の記述がわりとしっかり記されています。本文は有料。



Ahmed, Kamel, Maher, and Zeina (2024)

Pontocrates longidactylus Ahmed, Kamel, Maher & Zeina, 2024

 エジプトからクチバシソコエビ科 Oedicerotidae ハサミソコエビ属の1新種を記載。投稿時点の既知種6種の2又式検索表を提供しています。2024年12月2日現在、本文は無料で読めます。




JUNE

Kaim-Malka (2024)

Paranamixis fishelsoni 

 地中海からマルハサミヨコエビ科 Leucothoidae タンゲヨコエビ属 Paranamixis の1新種を記載。本属において地中海からの記録は初めてとのことです。半世紀のキャリアをもつレジェンド仏人研究者の独り親方仕事です。本文は有料。



Mirghaffari and Esmaeili-Rineh (2024) 

Niphargus elburzensis 

Niphargus zagrosensis 

 イランから ニファルグス属 Niphargus の2新種を記載。形態と分子を見ています。配列はCOI領域と28S領域を見ているようです。本文は無料で読めます。



Ortiz, Winfield, and Chazaro-Olvera (2024)

Pseudorhachotropis longipalpus

 メキシコ湾水深2,321mの海底からテンロウ科 Eusiridae の新属を記載。本文は有料。



Garcia Gómez, Myers, Avramidi, Grammatiki, Ⅼymperaki, Resaikos, Papatheodoulou, Ⅼouca, Xevgenos, and Küpper (2024)

Pontocrates marmario Garcia Gomez & Myers, 2024

 キプロスからクチバシソコエビ科ハサミソコエビ属の1新種を記載。記載図の大部分を、染色した標本の透過光写真で表現しています。地中海のハサミソコエビ属の検索表を提供。2024年6月25日現在、無料で読めます。



Tandberg and Vader (2024)

Stenula traudlae

 ブリティッシュコロンビアから、クダウミヒドラ科に付着するタテソコエビ科の記載。世界に産する Stenula属 17種 と Metopa属 2種 の検索表を提供しています。2024年8月3日現在無料で読めます。




JULY

Giulianini, De Broyer, Hendrycks, Greco, D’Agostino, Donato, Giglio, Gerdol, Pallavicini, and Manfrin (2024)

Orchomenella rinamontiae 

 南極からタカラソコエビ科 Tryphosidae ツノフトソコエビモドキ属の1新種を記載。COI領域を解析しています。形態の記述において、マイクロCTによって得られた3D画像を”デジタルホロタイプ”とするポテンシャルを提示しています。本文は有料ですが、研究内容を紹介した記事がタダで読めます。



Baytaşoğlu, Aksu, and Özbek (2024)

Gammarus sezgini 

 トルコからヨコエビ科ヨコエビ属の1新種を記載。形態の観察に加えて、COI領域と28S領域の解析を行っています。本文は無料で読めます。



Thacker, Myers, and Trivedi (2024) 

Maera gujaratensis

Quadrimaera okha

 インドのグジャラート州からスンナリヨコエビ科 Maeridae の4属の2新種と2既知種を報告。Coleman method を踏襲したスケッチの出来がイマイチで見栄え云々どころでなく信用性に欠けると思われる部分があるのと、文中において可算名詞が正しく複数形表記されてないといった英文法の誤りがあったり、亜属の括弧がイタリックになっているなど「キホンのキ」に問題があり、読んでいると頭が痛くなります。こういった恥ずかしい論文を世に出さないよう、精進していきたいところです。本文は有料。



Pérez-Schultheiss, Fernández, and Ribeiro (2024)

Atacamorchestia atacamensis

Lafkenorchestia oyarzuni 

 チリーからハマトビムシ科 Talitridae の2新属2新種を記載。また、太平洋南東岸から初めてヒメハマトビムシ属 Platorchestia を報告。本文は有料。



Nascimento and Serejo (2024)

Halicoides campensis 

Halicoides iemanja

 大西洋南西域からミコヨコエビ科 Pardaliscidae の2種を記載。ブラジル沖からの本属の記録は初のとのことです。本文は有料。



Ariyama (2024)

オウギヨコエビモドキ Curidia japonica 

 和歌山から北西太平洋初記録科の1新種を記載。Ochlesidae に オウギヨコエビ科,Curidia に オウギヨコエビモドキ属 との和名を提唱。この科はスベヨコエビ科がシノニマイズされた経緯があります(詳細はこちら。本文は無料で読めます。




AUGUST

SOSA et al. (2024)

Cuniculomaera grata Tandberg & Jażdżewska in SOSA et al. 2024

 ベーリング海から、海底に特徴的な巣穴を作るスンナリヨコエビ科の新属新種を記載。オープンアクセスで、一緒に発見された他の分類群の10もの新種が一緒に記載されています。また、その興味深い生態を解き明かした論文 (Brandt et al. 2023) も今のところ無料で読めます。



Bhoi, Myers, Kumar, and Patro (2024)

Floresorchestia odishi Bhoi, Patro and Myers in Bhoi, Myers, Kumar, and Patro, 2024

 インドのチリカ・ラグーンの潮間帯のオゴノリ属の間から、ハマトビムシ科の新種が記載されたようです。何がとは言いませんが、品質が悪いです。本文は有料です。



Stewart, Bribiesca-Contreras, Weston, Glover, and Horton (2024)

Valettietta synchlys

Valettietta trottarum

 太平洋の4,000m以深の深海域から Valettiopsidae科 の2新種を記載。形態の検討に加え、フトヒゲソコエビ類12属の配列情報を用いた分子系統解析を行っていますが、Alicelloidea(ダイダラボッチ上科?)の単系統性は否定されています。本文は無料で読めます(2024年8月現在)。



Kim, Choi, Kim, Im, and Kim (2024) 

Aoroides gracilicrus

Grandidierella naroensis 

 韓国からユンボソコエビ科の2新種を記載。韓国産ユンボソコエビ科9種の検索表を提供。本文は無料で読めます。



Kodama, Mukaida, Hosoki, Makino, and Azuma (2024)

ナンセイソコエビ Podoceropsis nanseiae 

 鹿児島湾からクダオソコエビ科 Photidae の1新種を記載。Podoceropsis属 に ソコエビモドキ属 との和名を提唱しています。鹿児島大がシンプルなプレリリを出しています。本文は無料で読めます(2024年8月現在)。


Hosein, Zeina, Kawy, ElFeky, and Omar (2024)

Vasco amputatus 

 エジプトの紅海沿岸からヒサシソコエビ科 Phoxocephalidae の1新種を記載。充実した背景情報の記述と精緻なスケッチ、分布情報まで添えてある作り込まれた論文ですが、あらゆる表記で本種の種小名の1文字目が大文字となっており(既知種においては正常の表記)、大変気味が悪いです。本文は無料で読めます。



Stoch, Knüsel, Zakšek, Alther, Salussolia, Altermatt, Fišer, and Flot (2024) 

Niphargus absconditus

Niphargus tizianoi 

 ルーマニアからニファルグス属の2新種を記載。カルパチア山脈の一角の個体群とアルプスの個体群が N. bihorensis の隠蔽種にあたることを遺伝的手法により確認した研究で、この種のタイプ標本をもとに再記載も行って分類学的混乱の整理を試みています。本文は無料で読めます(2025年2月現在)



SEPTEMBER

Mamaghani-Shishvan, Akmali, Fišer, and EsmaeiliRineh (2024)

Niphargus sahandensis

Niphargus chaldoranensis 

 イランからニファルグス属の2新種を記載。形態とCOI領域の解析を併用しています。本文は無料で読めます(2024年12月現在)



Wang, Sha, and Ren (2024b) 

Phoxirostus longicarpus

Phoxirostus yapensis 

 Laphystiopsidaeというレアな科を太平洋の熱帯域から報告。Phoxirostus属を設立するとともに2種を記載。「頭頂が尖っている」という意味の属名ですが、近縁種を見渡しても突出はそれほど目立ちません。Laphystiopsidae科の4属の検索表を提供。本文まで無料で読めます。



Souza-Filho, Guedes-Silva, and Andrade (2024)

Adeliella debroyeri

Tectovalopsis potiguara

Epimeria colemani

Alexandrella cedrici

 ブラジル北東部のPotiguar海盆から4新種を記載。4種中1種の種小名は地名に由来、3種がヨコエビ界隈の著名な西側研究者(フランスのクロード・ドゥブロワイエ,ベルギーのセドリック・デュデケム・ダコ,ドイツのチャールズ・オリバー・コールマン)に献名されています。本文は有料。



Tomikawa, Yamato, and Ariyama (2024)

パンダメリタヨコエビ Melita panda 

 NHKの特集でスケッチがチラ見せされたり、広大の図書館に原画が展示されたり、じわじわ盛り上がっていたメリタヨコエビ科 Melitidae メリタヨコエビ属の新種がついに記載されました。海外のサイトでも取り上げられていますね。

 そうとしか言いようのない模様から、かねてよりヨコエビストの間で「パンダメリタ」と呼ばれていた集団の一部です。タイプ産地は卓越したジャイアントパンダの繁殖技術をもつ某動物園の近くであるため、これも必然的な帰着の命名といえるでしょう。あまりに出来すぎていることから「人為的にパンダ模様にしたものではないか」という陰謀論さえ飛び交っているようですが、たとえ写真でもジャイアントパンダを見たことがあれば本種の体色が厳密には「パンダ柄」ではなく「逆パンダ柄」であることに気づかないはずはなく、また白浜だけに棲息するものでもないことから、パンダ模様に染められたなどという妄言には一顧だにする価値もないことは言うまでもありません(そういう意味では、狙って白浜産標本をタイプに指定したように思えます)(知らんけど)

 形態的にはカギメリタヨコエビに近いようですが、体色のほかにオスの第1咬脚前節前縁の突出部に大きな特徴があります。また、有山 (2022) に掲載されているパンダ感のある未記載種 Melita sp. 2 とは、第3尾肢外肢の節数で識別が可能です。

 第二著者にメリタヨコエビ類の大家である大和茂之先生が入っており、しばらくヨコエビの記載研究をお休みされていた大和先生の復帰作という点でも非常に話題性のある論文といえます。無料で読めます。




DECEMBER

Copilaş-Ciocianu, Prokin, Esin, Shkil, Zlenko, Markevich, and Sidorov (2024) 

Palearcticarellus hyperboreus Sidorov & Copilaş-Ciocianu, in Copilaş-Ciocianu et al., 2024

Pseudocrangonyx elgygytgynicus Sidorov & 

Copilaş-Ciocianu, in Copilaş-Ciocianu et al., 2024

 ロシアのエリギギトギン湖からマミズヨコエビ科 Crangonyctidae の1新種を記載。ミトコンドリアCOI,核16S,ヒストンH3,18S,28Sの領域を用いてマミズヨコエビ科やメクラヨコエビ科を含む Crangonyctoidea上科(マミズヨコエビ上科?)の系統関係を解析するとともに、地理的イベントとの整合性も示しています。本文は有料。



Weston, González, Escribano, and Ulloa (2024)

ドゥルシベラ・カマンチャカ Dulcibella camanchaca 

 アタカマ海溝からテンロウ科の1新種を記載。新しいタイプの捕食性種ということで、力を入れて生態特性の推定をしています。物見高いサイトが虚飾織り交ぜて取り上げていましたが、本当の研究内容を知りたい場合カラパイアの書き方が一番誤解が少ないと思います。本文は無料で読めます。



Choi and Kim (2024)

Melita aestuarina

 韓国からメリタヨコエビ属の1新種を記載。”シミズメリタヨコエビ”についても韓国から初報告しています。本文は有料。



Stoch, Citoleux, Weber, Salussolia, and Flot (2024)

Niphargus quimperensis 

 ブリュターニュからニファルグス属の1新種を記載。科全体の分子系統解析を行い、Niphargellus属をニファルグス属の新参シノニムとしています。本文は有料。



Labay (2024)

Vonimetopa longimana 

 樺太からタテソコエビ科の1新種を記載。Vonimetopa属6種の二又式検索表を提供。本文は無料で読めます(2024年12月現在)。


 というわけで、54 56 58が記載されたようです。



<参考文献>

Ahmed, Y. S.; Kamel, R. O.: Maher, S.; Zeina, A. F. 2024. New Species of Genus Pontocrates Boeck, 1871 (Amphipoda: Oedicerotidae) from the Red Sea Soft Bottom Substrates, Egypt. Egyptian Journal of Aquatic Biology and Fisheries28(3): 257–267.

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Stoch, F.; Citoleux, J.; Weber, D.; Salussolia, A.; Flot, J.-F. 2024. New insights into the origin and phylogeny of Niphargidae (Crustacea: Amphipoda), with description of a new species and synonymization of the genus Niphargellus with Niphargus, Zoological Journal of the Linnean Society, 202(4). zlae154. 

Stoch, F.; Knüsel, M.; Zakšek, V.; Alther, R.; Salussolia, A.; Altermatt, F.; Fišer, C.; Flot, J.-F. 2024. Integrative taxonomy of the groundwater amphipod Niphargus bihorensis Schellenberg, 1940 reveals a species-rich clade. Contributions to Zoology, 93(4): 371–395.

Tandberg, A. N. S.; Vader, W. 2024. Description of a new species of Stenula Barnard, 1962 (Amphipoda: Stenothoidae) from British Columbia, Canada associated with Bouillonia sp. (Cnidaria: Hydrozoa: Tubulariidae), with a key to the world species of StenulaJournal of Crustacean Biology, 44, ruae036.

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Thacker, D.; Myers, A. A.; Trivedi, J. N.; Mitra, S. 2024. On a small collection of amphipods (Crustacea, Amphipoda) from Chilika Lake with the description of three new species and a new genus. Zootaxa, 5446(3): 383-404.

Tomikawa K.; Yamato S.; Ariyama H. 2024. Melita panda, a new species of Melitidae (Crustacea, Amphipoda) from Japan. ZooKeys, 1212: 267–283. 

Wang Y.; Sha Z.; Ren X. 2024a. One new species of Stegocephalus Krøyer, 1842 (Amphipoda, Stegocephalidae) described from a seamount of the Caroline Plate, NW Pacific. ZooKeys, 1195: 121–130. 

—  Wang Y.; Sha Z.; Ren X. 2024b. Taxonomic exploration of rare amphipods: A new genus and two new species (Amphipoda, Iphimedioidea, Laphystiopsidae) described from seamounts in the Western Pacific. Diversity, 16(9): 564pp. 

Weston, J. N. J.; González, C. E.; Escribano, R.; Ulloa, O. 2024. A new large predator (Amphipoda, Eusiridae) hidden at hadal depths of the Atacama Trench. Systematics and Biodiversity, 22:1, 2416430. 

Xin W.; Zhang C.; Ali, A.; Zhang X.; Li S.; Hou Z. 2024. Two new species of Sarothrogammarus (Crustacea, Amphipoda) from Swat Valley, Pakistan, Zootaxa, 5432(4): 509–534.


<その他参考文献>

有山啓之 2022.『ヨコエビ ガイドブック』.海文堂,東京.160頁.ISBN 9784303800611.

Brandt, A.; Chen, C.; Tandberg, A. H. S.; Miguez-Salas, O.; Sigwart, J. D. 2023. Complex sublinear burrows in the deep sea may be constructed by amphipods. Ecology and Evolution, 13: e9867. 


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<補遺>28-xii-2024

— Copilaş-Ciocianu, Prokin, Esin, Shkil, Zlenko, Markevich, Sidorov (2024) を追加


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<補遺2>17-ii-2025

— Stoch, Knüsel, Zakšek, Alther, Salussolia, Altermatt, Fišer, and Flot (2024) を追加 

2024年6月29日土曜日

まんが王国はヨコエビ王国たるか(6月度活動報告)

 

 日本動物分類学会大会に参加しました。

 論文化されていない未発表の内容も含まれるため、発表についてこの場で言及することは避けますが、第n回全日本端脚振興協会懇親会(仮称)や、第n回日本端脚類評議会和名問題対策チームミーティング(仮称)、サシ飲みなどが併催され、盛況を極めました。牛骨ラーメンと猛者エビとらっきょううまい。




日本端脚審議会和名分科会(仮称)報告

 このたび、本邦に産しないヨコエビの分類群に対して個別の和名は提唱せず、学名のカタカナ表記揺れへの配慮を行うという今後の方針が示されました。属では以下のような先例があります。

  • タリトルス Talitrus (朝日新聞社 1974)
  • ニファルグス Niphargus (朝日新聞社 1974)
  • アカントガンマルス Acanthogammarus (山本 2016;富川 2023)
  • ディケロガマルス Dikerogammarus(環境省 2020)
  • アマリリス Amaryllis(大森 2021)
  • オルケスティア Orchestia(大森 2021)
  • ヒヤレラ Hyalella (大森 2021)
  • プリンカクセリア Princaxelia(石井 2022;富川 2023)
  • ヒアレラ Hyalella (広島大学 2023;富川 2023)
  • ディオペドス Dyopedos(富川 2023)
  • ミゾタルサ Myzotarsa(富川 2023)
  • パキスケスィス Pachyschesis(富川 2023)
  • ガリャエウィア Garjajewia(富川 2023)

 ラテン語をバックグラウンドとする学名に画一的な読みを与えカタカナで表記するのは言語学的に難しい部分がありそうですが、幸い日本はローマ字に親しんでいるので、古典式に近い読みを無理なく直感的に発音できる素地はある気がします。

 現状既に Hyalella属 については「ヒアレラ」(広島大学 2023;富川 2023)と「ヒヤレラ」(大森 2021)という異なる読みがあてられており、今後はこういった差異の調整が必要となってくるものと思われます。

 また、過去に日本から報告されていた種が移動してしまい、和名提唱後に本邦既知種が不在になったグループというのもあります。移動先の分類群が、新設されたり本邦初記録だったりすれば和名を移植すれば事足りますが、既に和名があった場合、元の分類群に和名が取り残される感じになります。厳密には和名を廃してカタカナ読みを当て直すべきですが、分類というものはコロコロ変わるので、また戻ってきたり、別の種が報告されたりする可能性もあり、都度改めて和名を提唱するというのは無用な混乱に繋がる気がします。この辺をどう扱うかは更なる議論が必要かもしれません。

  • シンヨコエビ科 Neoniphargidae:コジマチカヨコエビ Eoniphargus kojimai が含まれていたが、後の研究で ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae へ移されたため、本邦未知科となった。
  • カワリヒゲナガヨコエビ属 Pleonexes:コウライヒゲナガ Ampithoe koreana が含められていたが、後の研究でヒゲナガヨコエビ属へ移されたため、本邦未知属となった。

 なお、本邦に自然分布しないと判明しているグループ(フロリダマミズヨコエビ、ツメオカトビムシなど)にも和名は提唱されています。将来的に日本への侵入・定着が起これば、ディケロガマルスなどにも和名が提唱される可能性があります。



T県F海岸

 学会は午後からなので、午前は採集を行うことにします。潮回りは気にせず、ハマトビムシを狙う感じです。

 

とても細かな白砂です。
どうやら花崗岩の風化砕屑物が形成している砂浜のようです。


Trinorchestia sp.
恐らく今日本で一番種同定が困難、
というか不可能なハマトビムシでしょう。
完璧な標本が手元にあっても無理です。
詳細はこちら


メスばかりでよくわかりませんがおそらくヒメハマトビムシ属Platorchestia?
背中に見たことの無いバッテンがついてます。

 なかなか巡り会えずボウズの予感に打ち震えましたが、汀線際の濡れている漂着物の周りにいました。房総や熱海のパターンを思い出します。しかし、ヒゲナガハマトビムシとヒメハマトビムシが混ざっているのはあまり見た覚えがありません。

 他のハマトビムシは採れず。バスの本数がヤバいので撤収。





T県U海水浴場

 学会後に最干潮となるので、夕方から採集を行うことにします。といっても日本海側で小潮なので、ちょっと出れば御の字です。

 天気も微妙な感じで駐車場に若干の余裕が感じられましたが、展望台には人が多く、ヨコエビスト一行はかなり浮き気味…。



 小潮でしたが、引く範囲でも様々なタイプの基質を見られる、変化に富む海岸でした。少し歩いただけでヨコエビ相ががらりと変わる、なかなかポテンシャルの高い自然海岸といえます。


Ampithoe changbaensis は褐藻についていました。
近々和名を提唱したいです。


コウライヒゲナガ Ampithoe koreana
磯的環境の緑藻上だとよく見かけます。


ユンボソコエビ属 Aoroides
なぜか状態よく採れました。


何らかの カマキリヨコエビ属 Jassa


Parhyalella属が結構採れました。
本属の日本における分布情報は文献として出版されたことはないはず。
ちなみに江ノ島で採れた本属は未記載種だったので、
ここのも怪しいです。


日本海沿いだけどオス第7胸脚の太さからすると
タイヘイヨウヒメハマトビムシ Platorchestia cf. pacifica と思われる。
未記載だとしても驚きはない。 


ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis でした。

 10科13属くらいは採れました。大潮の時はさぞかし、といったところ。ヨコエビ王国の資格あり、と言ってよいでしょう。



あとこれなに…?



<参考文献・サイト>

朝日新聞社 [編] 1974. 週刊世界動物百科 (181). 朝日新聞社.

広島大学 2023.【研究成果】ペルー北部の温泉から新種ヨコエビ発見. (プレスリリース)

石井英雄 2022.『深海の生き物超大全』.彩図社,東京.359 pp. [ISBN: 9784801305861]

大森信 2021. 『エビとカニの博物誌―世界の切手になった甲殻類』. 築地書館, 東京. 208pp. ISBN978-4-8067-1622-8 

環境省 2020. 報道発表資料「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律施行令の一部を改正する政令」の閣議決定 について. (2020年09月11日)

富川光 2023. 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』. 広島大学出版会, 東広島. 198pp. ISBN:978-4-903068-59-6

山本充孝 2016. (280)極寒 バイカル湖の生き物. 2016年12月10日 00時44分 (10月17日 13時23分更新). 中日新聞.

2023年4月29日土曜日

甲殻類ワールド開幕(4月度活動報告)

 

 栃木県立博物館で甲殻類の企画展が開かれるとのことで、フライヤーに一切ヨコエビが登場しないなど推されてない感は察しつつ、足を運んでみました。

 栃木県立博物館といえば過去に「よろいを着けたおどけもの」や「節足動物の多様な世界」など、ヨコエビ的にイカした企画展をやってますね。期待するのは的外れでないはず、という打算的判断です。


 2階の一番奥に位置する企画展会場をまず拝んでみます。まだ誰も来てない様子。一番乗りかしら。


 圧倒的十脚類!これぞメジャー分類群の横暴!約15,000種の十脚目と、各10,000種の等脚目・端脚目、どの目も陸域から深海まで進出してるし、勢力にそれほど格差は(以下省略)



 「日本に約600種類」はおかしい数字ではありませんが、ソースが分かりません。有山 (2022) による2021年までの集計に、2022年中に記載された17種と、今年1月に記載された1種 (Ariyama & Mori 2023) および新たに分布が報告された1種 (Kodama & Hemmi 2023) を加えると、開催初日である4月29日時点では 512種 となるでしょう。

 栃木県に海はないので、海産ヨコエビの分類は驚くほど淡白、というか、かろうじてヨコエビとして同定されている程度。


 しかし、栃木県内の記述に関しては面目躍如。去年新種も記載されたことですし (Shintani et al. 2022)、アツい話題なのは間違いないでしょう。確かにこれまでの解明状況は青森や神奈川などに及ばない部分もあるでしょうが、調査によりアゴトゲヨコエビを報告するなど本邦ヨコエビ相の知見を牽引しうる県だと思います。



 他の分類群も、科とかのがっつりめの検索表が提供されています。ミジンコについては白旗を揚げてる感もありますが(タイトルに謳ってるのに)、等脚類はかなりの充実。しかもこれらは図録にしっかり収録されています。買わない選択肢はないです。



 ヨコエビに割かれるリソースが少ないことは予見していましたが、陸域産と海産でこれほど差があるとは思ってませんでした。あと、展示内全ての分類群に学名併記がなく(隣接の菌類の展示は学名付き)、知見が固まった十脚ベースの設計であることが覗えます。まあ、「ヒメハマトビムシ」と手書きされた標本にうっかり四半世紀前の学名が添えられていようものなら、その場でキュレーターを呼ばざるを得ない可能性もあるので、ある意味正しい対応なのですが…。図録も、メスとはいえ科レベルの分類を見送るべきとは思えない海産種の同定が全く行われておらず、甲殻類の多様さ・奥深さみたいなテーマを掲げたわりに踏み込みが浅く、物足りなさを感じます。

 図録の掲載ヨコエビは茨城・千葉の出現種を念頭に写真を見る限り、

Ampithoe cf. changbaensis

Thorlaksonius sp.

Ampithoe sp.

Elasmopus sp.(どうせ未記載)

Ampithoe cf. shimizuensis

 くらいのことは言えると思います。


 テーマに沿って集められた大量の十脚類標本の物量には圧倒されるものがあります。解説はやや散らかり気味にも思えますが、甲殻類の基礎情報に触れることができ、楽しみ方を見つけられることでしょう。古文書における日本最古の甲殻類の記録や、室町時代に描かれた掛け軸については修復作業の過程を含めた展示など、人文的アプローチに関してとても意欲的に感じられました。

 5月の大潮に合わせて茨城某所の磯で観察会が開かれるとのことで、既にキャンセル待ちの状況らしいす。内陸県民の海への憧憬にはどうしても凄まじいものが出てしまいます。井上 (2012) では茨城の沿岸からかなりのヨコエビが報告されており、来月の会でそれらが適当にあしらわれるのは残念ではありますが、栃木県博がいずれ海産種に多少のやる気を出してくれる日が訪れることを祈るばかりです。



<参考文献>

— 有山啓之 2022. 『ヨコエビ ガイドブック』. 海文堂, 東京. 160pp. [ISBN: 9784303800611]

— Ariyama H.; Mori K. 2023. Two Distinctive Amphipods (Crustacea) Collected from the Ariake Sea, Western Japan, with the Description of a New Species. Species Diversity28(1): 31-44.

— 井上久夫 2012. 茨城県の海産小型甲殻類 III. ヨコエビ相(端脚目,ヨコエビ亜目). 茨城生物, 32: 9–16.

Kodama M.; Henmi Y. 2023. Southernmost record of Rhachotropis aculeata (Lepechin, 1780) (Crustacea: Amphipoda: Eusiridae) in the Pacific Ocean with notes on the geographical genetic divergence. Marine Biodiversity, 53(25). 

 Shintani A.; Lee C.-W.; Tomikawa K. 2022. Two new species add to the diversity of Eoniphargus in subterranean waters of Japan, with molecular phylogeny of the family Mesogammaridae (Crustacea, Amphipoda). Subterranean Biology44: 21–50. 

2020年11月29日日曜日

他の動物に棲み込み・共生を行うヨコエビ(11月度活動報告)


 ヨコエビは、隣接したニッチを行き来し幾度も適応を繰り返して多様化を遂げたという説を過去に紹介しました。

 海藻への適応では、他へ移動できないほど形態を変化させたグループ(ミノガサヨコエビ科 Phliantidae,ネクイムシ科 Eophliantidae 等)が知られていますが、動物へ寄生するヨコエビはやはり中途半端のように思われ、比較的容易に他のニッチへ移っていける状態のように見えます。

端脚類が付着する海産動物の模式図。

 

 ヨコエビ(Senticaudata,Hyperiopsidea,Amphilochidea,Colomastigidea の4亜目体制)では、付着生活に特化して遊泳力を犠牲にしたグループとしてワレカラの仲間が知られています。特に鯨類への付着に特化して身体を扁平に、歩脚を鈎状に変化させたクジラジラミは、ずば抜けて付着生活への適応が進んでいるといえましょう。
 端脚目 Amphipoda 全体でいえば、ヨコエビとは別にクラゲノミ亜目という外洋性のグループがおり、クラゲなど寒天質浮遊性動物に寄生しています。このグループの一部は幼生期をもつなど暮らしぶりが特殊化していて、ヨコエビより寄生生活に適応しているようです(変態することで「宿主の探索」と「成長・繁殖」という異なる目的にそれぞれ特化した身体構造を獲得できると思われます)。 




  しかし、こういったスペシャリストであっても、ある種の等脚類のように体節を喪失するレベルの適応は見せていません。

 このように付着生活へ特化しきれていないヨコエビですが、動物に付着する事例は世界中から報告され、近年も何本か論文が出ています。寄生も含めて、そういった話題を集めてみました。




魚類

 2019年、ネットを賑わせた寄生性ヨコエビが ジンベエドロノミ Podocerus jinbe です (Tomikawa et al. 2019)。この種は、美ら海水族館の生け簀で飼われていたジンベエザメの口内(鰓耙)に付着した状態で発見されました。鰓を通過する海水に含まれる有機懸濁物を頂戴して生活しているとされていますが、1個体に1,000匹もついていたとのことで本当に邪魔になっていないのか気になるところです。
 軟骨魚類については他に、北大西洋においてカッチュウヨコエビ上科の Lafystius sturionis Krøyer, 1842 が ガンギエイ grey skate をはじめとする多様なエイにつくことや、北大西洋および北太平洋においてはフトヒゲソコエビ上科の Opisa tridentata Hurley, 1963 がアブラツノザメ Squalus suckleyi につくことが知られています.同じくフトヒゲソコエビ上科に含まれるサカテヨコエビ科 Trischizostomatidae Trichizostoma raschi は クロハラカラスザメ Etmopterus spinax に寄生するとのことです (Benz and Bullard 2004)
 また、サカテヨコエビ属は Bathypterois phenax(イトヒキイワシ属の一種)などの硬骨魚類へ寄生する(Freire and Serejo 2004)ことも知られています。





爬虫類

 モクズヨコエビ科の Hyachellia が、アカウミガメとアオウミガメの体表から見つかっています (Yabut et al. 2014)。また、ウミガメドロノミ Podocerus chelonophilus というそのままの名前のやつもいます (Yamato 1992)
 ウミガメはワレカラやタナイスなどの生息基質として知られていますが、こういった小型甲殻類はウミガメの体表の溝に入り込んだり、生える海藻に付着しているようです。




脊索動物

 その名も「ホヤノカンノン(海鞘之観音)」というヨコエビは、ホヤ類の体表に埋没して生活しています。近縁のエンマヨコエビ科の各属とは、歩脚の先端が亜はさみ形になっていることで識別されるほど、属レベルで付着・埋没生活への適応がみられます。Foster and Thoma (2016) や 星野 (2020) で美麗な生態写真を見ることができます。




海綿動物

 経験上、マルハサミヨコエビ科 Leucothoidae や イソヨコエビ属 Elasmopus などが入っていたりします。海綿は、濾過食者として新鮮な水流やデトリタスを得やすい環境に定位しやすいと思われ、棲み込みだけでなくデトリタス食ヨコエビの足場としても利用されやすい気がします。

 文献ではセバヨコエビ科 Sebidae の記録が散見され、Seba alvarezi セバヨコエビ属の一種 (Winfield et al. 2009) が棲み込むことが知られています。

 ネット上では、ツツヨコエビの一種が付着する様子が紹介されていたりします(asturnatura.com)。

 また、アシマワシヨコエビ Maxillipius rectitelson が乗っかっている写真もあります (星野 2020)




刺胞動物

 刺胞動物と共生するには毒の銛を克服する必要があるように思えますが、タテソコエビ科 Stenothoidae との親和性が高くわりと事例が報告されているようです (Marin and Sinelnikov 2018; 星野 2020)。ヒメイボヤギ Tubastraea coccinea にマルハサミヨコエビ属 Leucothoe とタテソコエビ属 Stenothoe が付着するとの報告もあります (Alves et al. 2020)
 イソバナ Melithaea flabellifera にはテングヨコエビ科のイソバナヨコエビ Pleusymtes symniotica が付着することが知られています (Gamô and Shimpo 1992)。

 深海イソギンチャク Bolocera tuediae からは、フトヒゲソコエビ類の一種 Onisimus turgidus が見つかっています (Vader et al. 2020)。 

 クダウミヒドラ類には、マスト形成ヨコエビである キシシャクトリドロノミ Dulichia biarticulata がマストを形成して付着する様子が観察されています (星野 2020)

 

 



軟体動物

 タテソコエビ科の Metopa alderiiMe. glacialis と、ツノアゲソコエビ属の一種 Anonyx affinis は、Musculus discorsMu. laevigatusMu. niger などの二枚貝の中に入り込むことが知られているようです (Just 1983; Tandberg, Schander and Pleijel 2010; Tandberg, Vader and Berge 2010)。生態写真はベルゲン大学博物館のブログで見ることができます。




棘皮動物

 著名なところでは、シャクトリドロノミ属の一種 Dulichia rhabdoplastis が、ハリナガオオバフンウニ Mesocentrotus franciscanus のトゲの先にマストを作る事例が知られています(Invertebrates of the Salish Sea)。

 ロス海では「南極ウニ」の一種 Sterechinus neumayeri に付着するフトヒゲソコエビ類 Lepidepecreella debroyeri が発見されています (Schiaparelli et al. 2015)
 エゾテングノウニヤドリ Dactylopleustes yoshimurai は、エゾバフンウニ Strongylocentrotus intermedius の棘の間に生息しています。町田 (1991) は D. obsolescens (not Dactylopleustes obsolescens Hirayama, 1988; D. cf. yoshimurai) を解剖し、体内がウニの組織らしきもので満たされているのを確認しており、ウニの軟組織を食べている可能性が高いようです。今年の夏には、ウニ付着性ヨコエビが宿主の弱った組織に集まるという事例が発表されており (Kodama et al. 2020)、ウニ付着性ヨコエビは今ホットなテーマの一つと思われます。

 ナマコの体腔内から見つかっているフトヒゲソコエビ類 Adeliella属 もいます (Frutos et al. 2017)
 メリタヨコエビ属の一種は、ヒトデの一種 Ophionereis schayeri の体表に付着している様子が観察されていますが、その関係は十分にわかっていないようです (Lowry and Springthorpe 2005)




環形動物

 カンザシゴカイ類の棲管に、イソホソヨコエビ Ericthonius pugnax が二次的に棲管を形成して生活する様子が報告されています (星野 2020)

 

 

 


甲殻類

 バイカル湖に生息する Pachyschesidae 科 は、他の大型ヨコエビの覆卵葉内部に寄生します (Karaman 1976)
 カニに付着する例もあります (Vader and Krapp 2005)。また、日本からはイセエビの鰓室に入り込むという、その名も イセエビチビヨコエビ Gitanopsis iseebi というチビマルヨコエビの仲間が知られています (Yamato 1993)
 鳥羽水族館がブログに載せていたヤドカリの体表から発見された Isaea属の未記載種は、日本からは報告が乏しいグループなので続報が俟たれます。

 深海ではフトヒゲソコエビ類の一種 Paracyphocaris praedator が、遊泳性十脚類ヒオドシエビ類の一種 Oplophorus novaezeelandiae の卵に擬態しながら卵を摂食しているとの説があります (Lowry and Stoddart 2011)。これは卵に対する寄生や捕食の類ですが、親エビに対しては体表付着という扱いになるでしょう。

 その他、Vader and Tandberg (2015)  にすごくいろいろ載ってます.無料なのがありがたいですが、ところどころリファレンスが間違っているので注意が必要です。


 海綿(コルクカイメン属 Suberites)付きの貝殻を使用しているカイメンホンヤドカリ Pagurus pectinatus などから複数のヨコエビ(テングヨコエビ科:Sympleustes japonicus,カマキリヨコエビ科:Ischyrocerus commensalis,タテソコエビ科:Metopelloides paguri)が見つかった、という報告もあります (Marin and Sinelnikov 2016)。こうなると、もはや誰が誰に寄生しているのか訳が分かりません。



 やはりヨコエビ類において付着生活への適応度合いは低く、眼で見てヨコエビと分かるレベルの体制を具えています。明確な寄生性というより、デトリタス食において多少の御利益があるとか、底生自由生活の延長線上にある印象です。岩場などに棲むヨコエビは、二枚貝の足糸の間にコケムシやら海綿やらが入り込んだ構造に隠れていることがよくありますが、彼らにとって生きたベントスの体表もそういう複合的な環境と、大した違いはないのかもしれません。付着生物の体組織そのものに用事はなく、二次的に自ら造成した生息基質を利用しているヨコエビがいることは、その典型と思います。いずれ等脚類や橈脚類のように身体が袋状に変化してしまう日がやってくるのか、気になるところです。

 

 



2019年7月5日金曜日

ヨコエビ四番勝負 ~令和最初の夏も宝虫探し~(7月度活動報告)


 潮が良いので遠征してきました.

 今季は期限や目的のはっきりした採集が多く,自分のペースでフィールドのポテンシャルを測るような旅をあまりしていなかった気がします.S.A.M. project もほったらかしだし.

 件の記載論文もあとは図表に番号を振って関係方面に回すだけという段まで来たので,7月頭のこのビッグウェーブを逃すわけにはいかないと,新幹線に飛び乗りました.スマートEXまじで楽(それにしても全ての新幹線はつながっているのになぜIC乗車券に新幹線チケットを紐付けするシステムは東海道山陽と北陸上越は互換性がない…おや、誰か来たようd).



 S.A.M project とは,ヨコエビが人をかじることを確認する,極めてシンプルな企画です.
 とりあえず,できるだけ多くの人食いヨコエビを発見し,その傾向を知ることを目標としています.
 発端はオーストラリアでのこの事件です.ヨコエビが死肉を漁るのは常識といえるかもしれませんが,生きた人間をかじるという事象はあまり一般的ではないのが現状です.生きた人間がヨコエビに齧られるのかどうか.その知見が積み重なっていけば,今後無用な不安感を抱かなくても済むのではないでしょうか.余計に心配になったりして.



 さて,新幹線は思い出の岡山を過ぎて九州へ…


 しかし…


「木曜日まで豪雨」
「3日が特に激しい」
「九州は例年7月1ヶ月分の降水量が1日で降る可能性」
「気象庁が異例の会見」


 やめてよぉっ!



福岡激闘篇


 志賀島での S.A.M project の前に,九州北東部のヨコエビリティを探っておきたいと思います.

 山奥の採集であれば早期に中止を決めたでしょうが,今回の採集地は県のハザードマップでは大規模な土砂崩れの懸念箇所には含まれていなかったので,ひとまず予定通りに…



福岡県某所.


 意外と大丈夫じゃね?
 小雨がちらつく程度で時折晴れ間さえ見えます.

 ちなみに居酒屋のおばちゃんによると,ここ何日も「明日はヤバい」と予報されつつ,
ずっとこんな感じとのこと.むしろ水不足が心配らしい.ホンマかいな.




 干潟の端に電波塔が聳えています.これで分かる人は分かるかもしれません.

 アオサしかない絶望感もさることながら,干潟を埋め尽くすあまり細くないホソウミニナとヤドカリの物量.


 ヨシ原と連続していることもあってかやや泥っぽくもろもろとした砂泥の底質は悪くありませんが,少し掘るとすぐにその黒い本性を顕す潮通しの悪さと,LNO(ランドリーネットオペレーション=洗濯ネット作戦)を阻む粒径の大きさ.

 苦戦の予感.




 さっぱり採れん.

 三番瀬と谷津干潟を足して2で割った感じと言えば,千葉県のヨコエビ事情に通じている方ならばピンとくるでしょうか.アオサにはシミズメリタ,杭にはアリアケドロクダというメンバーの単調さ.モズミヨコエビもいますがかなり少ない.


モズミヨコエビ(Ampithoe valida).


メリタ属の一種(Melita ).
シミズメリタかもしれない.


ドロクダムシ科の一種(Corophiidae).
ちょっと見たことのないスレンダーなドロクダムシですね・・・
第2触角に見たことのない突起があります・・・


 ベントス相は,汀線上にコメツキ,汀線下にタマシキ,マメコブシ,ガザミ,タイワンガザミ,アサリと,ほぼ三番瀬です.アラムシロっぽい巻き貝とオキシジミっぽい二枚貝とマハゼっぽい魚もいました.違うところといえば,主張してくるフグでしょうか.


ガザミ先輩こわすぎ.


 仕方がないので,潮上決戦へ移行します.
 
 翻って,ハマトビリティは凄まじいものがあります.

 小雨パラつくコンディションが良かったのでしょう.米粒とか稗粒サイズのハマトビムシがそこらじゅうをぴょこぴょこしてます.

 このような場面にも遭遇.


この画像,ずっと自前でほしかったんだよねぇ.


 ハマトビムシを観察していると…


(チクッ)


 チクッ?!


 見ると,なんとハマトビムシがアラサーサラリーマンの汚い足を齧っているではないですか!



 ハマトビムシが人を刺すという話は以前からネットで見かけましたが,どうやらスナホリムシなどと区別がつきにくいようで,誰が犯人なのか決定的な証拠に欠けていました.新潟で土左衛門にハマトビムシがたくさん付いていたとの検死結果がありますが(小関・山内 1964),遺体の損壊には寄与していないとされています.
 オーストラリアではスナホリムシが(嘘か真か)博物館の理事長の息子さんのポークビッツを噛んだ事例(※1)がありますが,種の同定が信頼できる事例は非常に乏しかったわけです.

 しかし同時に,ハマトビムシが人を刺さない証を立てるのは「悪魔の証明」の部類です.一件でも明確にハマトビムシであることが分かればこの問題は解決できると思っていたところ,思いがけずハマトビムシに噛まれても痛いことがわかったのです!
 

 齧っているのは1個体ではないようです.指の腹を齧られても何も感じませんが,指の上や足の甲にとりついた個体は確かに口元を押し付けて齧る仕草をしています.そして明らかな痛み.

 齧っていたのは未成熟オスあるいはメスのようです.その個体そのものは確保できませんでしたが,周辺でピョコピョコしている個体の中から同定が可能なサイズのものを採取してみます.

ヒメハマトビムシの近似種(Platorchestia pacifica).



 結果:勝ち(豊かなヨコエビリティに触れることはできなかったものの新知見を得た).




志賀島再戦(リベンジマッチ)篇



 戻ってきたぜ志賀島!

 今年は2ヶ所のサイトを設定しました.



 サイト1.


 恐らく,この沖で件の事故(※2)があったものと思われます.事件発生箇所に近ければタカラムシが採れるはずですが果たして…



 サイト2.


 昨年,○○な○○を採取してしまった場所ですね.記載準備の準備中です…



 サイト2の地形やヨコエビリティは見当がついているので,最干潮の前にサイト1を見てみます.
 


 要するに,ビキニのチャンネーやらが肌を焼いているようなビーチです.ビキニも観察したいところですが,こちらはあまり潮の影響を受けないため,まずヨコエビを探ります.

 


 銚子の先っぽで見たことあるような,良さげな岩場がありますね.モクとミルを主体として,アオサや短い紅藻,場所によりサンゴ藻がこんもり生えています.ウニの密度もそれなりに.

 おもむろにガサると



ドロノミ(Podocerus ).



ソコエビ(Gammaropsis).


 
ニセヒゲナガヨコエビ(Sunamphithoe ).



ミノガサヨコエビ(Phliantidae).


イソヨコエビ(Elasmopus).


チビヨコエビ(Amphilochidae).


ホヤノカンノン(Polycheria).
これは自己初.
各胸脚の指節が付着に特化している.



 もうこんなもんでいいや(疲労).

 これ以上潮が引いても地形に変化はないようです.最干潮にあわせて場所を変えます.




 サイト2.なつかしい.


 相変わらず海藻の打ち寄せがすごい.

 昨年は血眼で Orchomenella を探した末にヤバいものを拾ってしまいました.今回は Orchomenella Eohaustorius とついでに例のヤバいものも探してみましたが,潜砂性種は全くヒットせず.粒径の問題で LNO が機能しないという難しさが浮き彫りに.



 仕方がないので潮上決戦に持ち込み,フィニッシュとしました.採れたのはPlatorchestia pacifica でした.






 さて,今回はタカラムシに会うため,サイト1に鶏肉入りの洗濯ネットを仕掛けていたのですが…



 ダメでした…


装置の設計や設置時間に問題がある気がするので,
玄界灘に沈む夕日にリベンジを誓い,
島を後にしました.



 結果:負け(岩礁のヨコエビリティを発見したものの目的にかすりもせず)

 

ベイトトラップでなぜか Jassa がよく採れる.スカベンジャーなのかお主ら(たぶん付着基質として利用しただけ).






愛知死闘篇



 東海地方へ移動します.連戦によりぎょさん装備の足はもう限界です.

「九州南部に大雨を降らせた雨雲は東へ移動」
「東海から関東は夜にかけて雨」

 やめてよぉぉっっっ!!


 伊勢湾を挟んだ三重県と,いちおう伊豆は参戦したことがあるものの,愛知のヨコエビリティは未経験です.今回は愛知のヨコエビリティを知り,愛を知り,できれば最近集め始めた Eohaustorius を採ることを目的としています.

 愛知に Eohaustorius がいることがわかっているものの,電車で行くことを考慮して新たな干潟を探すことに.


 Googleマップでは,海苔網がかなり岸の近くまで張られているのがわかりました.李下の冠,怪しい行動は慎んで慎重な採集が求められます.

 
 しかし,串カツの美味さに我を忘れ,結局どこにも連絡しないまま現場へ.




 ロープとかは張ってないのね?

 富津を思わせる密漁絶許標示と茶色がかった砂底,繁茂したアマモ.東京湾が失ったものがここにあるようです.

 やたら転がっているワタリガニの脱皮殼.時々生体.


ハサミないけど大丈夫?


これは図鑑でしか見たことがないけど
ジャノメガザミというやつか…

 潮間帯上部はアマモやコアマモの群落が占めており,その隙間の砂地にはアオサがぽつぽつと.目につくのはタマシキとアラムシロとヤドカリ.

 潮間帯を上から下に移動し,汀線に沿っても歩いてみましたが,砂の状態は非常に均質でした.河川由来の堆積物も今回見た限りでは溜まっておらず,還元化しているところもありません.リップルマークのあるところとないところがありますが,概ね地形による感じです.表層2㎝ほどはややモロモロとした感じのする褐色,その下は東京湾奥に似た黒色の海砂です.1mmの洗濯ネットでふるうと黒い粒はすっかり抜けてしまい,少しだけ透明な粒が残るのが印象的です.



 そこへ近寄ってくる人影.優しそうなおばちゃんが声をかけてきました.

 どうやら密漁監視の方のようで,タダ乗り潮干狩り客と思われたようです.干潟でアサリなんか採れてもいつもそのへんに投げてるヨコエビおじさんとしては,身に覚えのないことです.スコップ持って干潟に立ってる時点で怪しすぎますが

 ヨコエビを採っていることを伝えようとしましたが…せや…わてまだヨコエビ採れてへんかったわ…

 おっ,コアマモの間で枯草のフリしとるんはヒメイカはん…見てくださいこのイカが食べてるのがヨコエ…


エビジャコやんけ.


 現地にヨコエビに対応する言葉がないかと色々と探ってみましたが,やべー奴というのは伝わったらしく,逆に励まされて放免となりました…


 アカン…このままやとウシロマエソコエビを採る前にワイがパクられてまう…潔白を証明するためにまず何でもいいから「見せヨコエビ」を採らないと… 蛍光グリーンの活きのいいモズミヨコエビが欲しいところです.2㎝くらいの.


 それからアマモやコアマモをガサってみたものの,大量の微小巻貝とたまにヘラムシが落ちるだけで,一向にヨコエビが出ません.
 砂地からも何も採れません.


 もしかして,ヨコエビが存在しない世界線に来てしまったのでは?


 そんなことを考えつつ,汀線付近で波に洗われていたロープに付いたアオサをガサってみると





見せヨコエビGET!

ヒゲナガヨコエビ属の一種(Ampithoe cf. tarasovi).



 こんなに立派なヒゲナガを採ったのは久々です.

 がっちりした体形や体格を見ると,かなりニッポンモバヨコエビに見えます.一応第5底節板の下縁に短い剛毛があります.第1触角の特徴などから総合的に判断しました.


アゴナガヨコエビ(Pontogeneia).

チビヨコエビ科(Amphilochidae)のなにか.


タテソコエビ科(Stenothoidae)のなにか.

 しかし,それから砂を掘れども出てくるのはオフェリアとチロリとハマグリ(チョウセン?).ハマグリを遠投するたびHPが減少し,チロリをオルタナティヴする元気もありません.

 そこへまた地元の方が,貝を採っているのか聞いてきたではありませんか!見せヨコエビの出番!ヨコエビを採っていることを説明すべく懐からヨコエビセットを取り出そうとしていると「貝じゃないならいいです」と足早に去っていくではないですか!ちょっと!見てよ!かわいいモズミん見てよ!!ねぇ!!



 そうこうしているうちに潮は満ち始め,電車の時間もあるので,諦めて潮上決戦に移行します.

 海草場が豊かなので打ち寄せ物もアマモが多いようです.おや,まだ生きているワレカラが…


 どうやら,ここのハマトビムシは1種ではないようです.


ヒメハマトビムシの近似種(Platorchestia pacifica).



スナハマトビムシ(Sinorchstia sp.). 
あっ,やべぇこんな掌縁をした咬脚の種は見たことがねぇ.
やべぇ・・・
(ニホンスナハマトビムシでもタイリクスナハマトビムシでもないです).



結果:逆転勝ち(完全ボウズではないが,圧倒的ヨコエビリティ不足はロケハン技術不足.最後にヤバいのを引いたので加点.).





愛知突撃篇



 愛知の恐ろしさを知ったヨコエビおじさんは,例のごとく地元の有識者に助言を頼み,改めて採集地を見直すことにしました.ここから本気で Eohaustorius を求めます.



 かなりの密度でナミノリケナシザルが生息しています.群れを避けて,教えてもらったポイントへ向かいます.

 やはり密漁絶許看板が立っているので浜に下りてよいか近くの方に声をかけたところ,問題ないとのこと.スナホリケナシザルに優しいのは嬉しい.



 色が少し山砂っぽいものの,細かくさらっとした砂質が良い感じです.
 1mm メッシュの通りがとても良く,かといって腐った泥もなく,堤防に囲われかなり人工的な雰囲気が漂う環境ながら,自然海岸的な健全さを感じます.汀線付近にはうんざりするほどアオサが溜まっていますが,潮通しが極めて良好で,留まることなく移動しているようです.アオサだまりからやや下がるとアマモ場が広がっていて,その間にワタリガニやらタコやらが潜んでいるようです.


超 怖くね?

アミメキンセンガニというやつだろうか.


 あとは,夥しい稚魚,稚ガニ,貝形虫が印象的です.




ドロソコ(Grandidierella).
なぜか小さい個体しか採れない.




ウシロマエソコエビ(Eohaustorius).

 やったぜ.


 しかし,よく採れる場所を探し当てるまでにかなりの時間を使ってしまいました.それに小さいものばかり.
 Eohaustorius は,冬季のみ大型個体でしのぎ夏季に短いスパンで小型個体が出現するナミノリソコエビと異なり,通年で大型個体がいるはず.
 なお,持ち帰って形態を確認したところ,たいへんまずいことが発覚しました.これはまたいつの日か・・・

 

 硬い基質も見てみましょう.
 岩場の海藻をガサるとモクズとかいろいろ.少し小さめ.半ば干上がった岩の上まで歩いていて根性を感じました.

ヒゲナガヨコエビ(Ampithoe).



 そろそろタイムリミット.
 ナミノリケナシザルをかわしながらすでにハマトビリティの高さは感じていました.


プラゴミ少なくアマモがこんなに.
この海岸管理は全国のサーフスポットが真似してほしい.




 潮上決戦は残った時間でサクッとをキメたいところ.


スナハマトビムシ(Sinorchstia).

 あれ?ヒメハマは?

 ナミノリケナシザルの生息域では普通にヒメハマがいた気がします.確保しておくべきでした.これはまた後日かな…


 
 結果:辛勝(目的外のヤバいのを引いてしまった).






 総括.
 ”見せヨコエビ”以外は悉く狙いを外れ,実力不足を思い知らされました.愛知二日目は一応属レベルで目的を果たせたものの,欲しかったのは既知種の複数ポイントのサンプルであったため,今後の研究に対しては厳しい展開となりました.これは仕方ないけどね~
 とりあえず藻があればよい磯と比べて,干潟の潜砂性ヨコエビの生息密度は細かい底質状況に左右され,現場でもしばらく流してみないと狙ったヨコエビを得るのは難しいです.ヨコエビの情報がなくとも,既存の報告書などから現場の雰囲気を察知してヨコエビリティを推し量ることができればよいのですが…

 あとは,ターゲットとなる潜砂性ヨコエビの生態特性と,ヨコエビおじさんの採集スタイルとの乖離です.
 電車で移動して岸から歩いてエントリーする都合上,胴長と洗濯ネットが関の山です.盤州干潟でも潜砂ヨコエビはかなり潮下帯での活性が高かったので,メインハビタットに至らず,採集効率が悪い可能性があります.





※1:アンドリュー・ホジー氏(西オーストラリア博物館)の証言.
”このニュース記事を見てすぐ,私は博物館のコレクションにあるPseudolana concinna(スナホリムシ科)の標本のことを思い出した.
 これは1959年の夏にパース海岸にほど近いロットネスト島(西オーストラリア)で採集されたものだ古い登記書類にはこのような備考がある ”水辺に座っていた小さな子供のペニスに取り付いて食らいついてた;非常に出血していた”確証はないがその小さな子供は当時の西オーストラリア博物館理事長の息子だったと考えられる


※2:永田ほか (1967) の事例.
  投錨して操業していた小型漁船が鉄船にぶつけられ,漁師の男性が変わり果てた姿で発見された事件.ヨコエビによる蚕食事例として著名.


(参考文献)
— 小関恒雄・山内峻呉 1964. 水中死体の水生動物による死後損傷. 日本法医学雑誌, 18 (1): 12–20.
永田武明・福元孝三郎・小嶋亨 1967. フトヒゲソコエビ及びウミホタルによる水中死体損壊例. 日本法医学雑誌, 21(5): 524–530.

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補遺 (15-VIII-2024)
・一部書式設定変更。