2023年12月29日金曜日

2023年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)

  

 今年もヨコエビの新種です。

 1月にクラゲノミ亜目の新種,7,12月にワレカラの新種が記載されていますが、あえて追っていません。


※2017年実績
※2018年実績 
※2019年実績
※2020年実績
※2021年実績
※2022年実績

  学名に付随する記載者については、基本的に論文中あるいは私信で明言のある場合につけています。

 

New Species of
Gammaridean Amphipods
Described in 2023

(Temporary list)

 

JANUARY 

Özbek, Aksu, and Baytaşoğlu (2023)

Gammarus tumaf

 トルコの洞窟から ヨコエビ属 Gammarus の1新種を記載。形態に加えてミトコンドリア遺伝子COI領域,28S領域の解析も行って同属他種との関係を示しています。本文まで無料で読めます。



Ariyama and Mori (2022)

クダヨコエビ Scutischyrocerus japonicus 

 長崎から カマキリヨコエビ科 Ischyroceridae の1新種を記載。日本と縁が薄く和名がなかった Scutischyrocerus に クダヨコエビ属 との和名を提唱しています。

 また、これまで ユンボソコエビ科 Aoridae コンピラソコエビ属 Lembos に含まれていた ノゾキコンピラソコエビ を カマカヨコエビ科 Kamakidae の ルドワイエヨコエビ属 Ledoyerella に移動させるとともに、中国で記載された別の種も ルドワイエヨコエビ属 に含めています。本文は無料で読めます。




FEBRUARY

Shin (2023)

Paraphoxus jejuensis

 済州島からヒサシソコエビ科 Phoxocephalidae ナミノコソコエビ属の1新種を記載。本文まで無料で読めます。




MARCH

Matsumoto, Kajihara, and Kakui (2023a)

Leipsuropus seisuiae

 熊野灘からドロノミ属の1新種を記載。この属はオーストラリアから記載され、スベスベな種のみからなる単型分類群と思われていましたが、北西太平洋から続々とトゲトゲな種が記載され、デフォルトはトゲトゲであるとみなされるようになっています。また、本種の記載により属の構成種の過半数が日本から得られるに至っています。本文は無料で読めます。


Özbek and Aydin (2023)

Gammarus morcae 

 トルコから地下水性の無眼ヨコエビ属 Gammarus の1新種を記載。本文は無料で読めます。



Bhoi, Myers, Tarafdar, Smita, Jena, and Patro (2023)

Quadrivisio chilikensis 

 インドからスンナリヨコエビ科 Maeridae の Quadrivisio属の1新種を記載。この属は縦長で中央がくびれた特徴的な複眼をもちます。



Do Nascimento and Serejo (2023)

Caleidoscopsis carlosi

Caleidoscopsis karamani

 南大西洋深海域からミコヨコエビ科 Pardaliscidae の2新種を記載。



Palatov and Marin (2023)

Diasynurella kiwi Marin et Palatov 

Diasynurella dzhamirzoevi Palatov et Marin

Diasynurella cavatica Palatov et Marin

Diasynurella khalabensis Palatov et Marin 

 コーカサスからマミズヨコエビ科の4新種を記載。線画はなく、全ての付属肢を透過光写真で表現している珍しい記載です。本文は無料で読めます。




APRIL

Hughes and Lörz (2023)

Unciola conchicola 

Unciola icelandica

 アイスランドの深海域からユンボソコエビの類に近縁の Unciola属 の2新種を記載。既知の Neohela monstrosa についても写真や線画を添えて記録しています。本文は無料で読めます。



Ortiz, Winfield, and Ardisson (2023)

Pardaliscoides whiteae 

 メキシコ湾からミコヨコエビ科 Pardaliscidae の1新種を記載。米国のクリスティン・ホワイト博士に献名されています。




Durham and White (2023) 

Synchelidium purpurivitellum

 カリブ海からサンパツソコエビ属の1新種を記載。Hartmanodes nyeiについても再記載を行い、パナマ産3属3種の検索表を提供。本文まで無料で読めます。




MAY

Marrón-Becerra, Hermoso-Salazar, and Ayón-Parente (2023)

Hyalella marysolae

Hyalella morronei 

 メキシコ中部ハリスコ州の細流から Hyalella属の2新種を記載。本文まで無料で読めます。



Tomikawa, Kawasaki, Leiva, and Arroyo  (2023)

Hyalella yashmara

 ペルーの温泉から Hyalella属 の1新種を記載。広島大学のプレリリを受けて国内のメディアでも取り上げられ、海外のマイナー小型甲殻類の話題ながら、まあまあ盛り上がりました。

 この本でも触れられていましたが、甲殻類の中でも指折りの高熱耐性をもつ、かなりの変わり者です。記載に加えて、分子系統解析に基づいてヒアレラ科の分散シナリオに新たな仮説を提示しています。本文は有料。




JUNE

Thacker, Myers, and Trivedi (2023) 

Cymadusa kaureshi 

 インドからヒゲナガヨコエビ科 Cymadusa属 の1新種を記載するとともに、過去の C. filosa の記録についても精査しています。本文は有料。



Marin, Palatov, and Copilaş-Ciocianu (2023) 

Litorogammarus dursi 

 ロシアのノヴォロシースクから6種のヨコエビを報告するとともに、1新種(新属)を記載。1種について属位変更も行っています。このエリアには未解明の多様性がある、とアブストにあります。本文は有料。



Shintani, Umemura, Nakano, and Tomikawa (2023)

アスワメクラヨコエビ Pseudocrangonyx asuwaensis  

 福井の採石場跡からメクラヨコエビ属の1新種を記載。生体写真はこちら



Labay (2023a)

Paramoera staudei

Paramoera stepaniae 

Paramoera nataliae 

Paramoera erimoensis sakhalinensis 

 サハリンから ミギワヨコエビ属 Paramoera の3新種・1新亜種を記載。近年ヨコエビにおいて亜種が記載されることは非常に稀で、Labay氏くらいしかやってない気がします。本文は無料で読めます。



Marin and Palatov (2023a)

Pontonyx abchasicus 

 ロシア・アブハジアの森林地帯からマミズヨコエビ科に属する淡水性ヨコエビの1新種を記載。本文は無料で読めます。




JULY

Bhoi, Myers, Khatua, and Patro (2023) 

Talorchestia buensis 

 インド東岸からハマトビムシ上科の新種。本文は有料ですが、アブストに比較的詳しく形態情報が示されています。



Varela, Fenolio, and Bracken-Grissom (2023) 

Amathillopsis  colemani

 メキシコ湾の水深1200mの深海から、リュウコツヨコエビ科 Amathillopsidae の1新種を記載。第4~7胸脚の腕節より先が欠損しているあまり状態のよくない標本に基づいています。昨年引退したヨコエビ研究の大家・チャールズ・オリバー・コールマンに献名されていますが、特にこの種と直接の関係はないようです。記載文や所見の構成がごちゃごちゃしていてちょっと読みにくいです。本文は無料で読めます。  



Marrón-Becerra and Hermoso-Salazar (2023)

Hyalella lacandonis

Hyalella montebellensis

Hyalella parva

 メキシコ南部から Hyalella属 の 3新種を記載したとのこと。本文は有料。


    


AUGUST

Labay (2023b)

Renella lowryi 

 オホーツク海から、フトヒゲソコエビ類チョウチンソコエビ科 Pakynidae の1新種を記載。本文は有料ですが、アブストには詳細な形態の記述があります。



Baytaşoğlu (2023)

Echinogammarus ozbeki

 トルコのギュミュシュハーネ県の滝からヨコエビ上科の1新種を記載。本文まで無料で読めます。



Matsumoto, Kajihara, and Kakui (2023b)

カイゾクワレカラドロノミ Capropodocerus tagamaru 

オオガマワレカラドロノミ Capropodocerus kamaitachi 

 熊野灘および宮城県沖から、ドロノミ科 Podoceridae の1新属2新種を記載。巨大な咬脚を具える強壮な上半身と不釣り合いに見える華奢な下半身が目を引く珍種で、ずっと気になっていただけに出版されて安心しました。C. tagamaru の種小名は紀伊で活躍した海賊・多賀丸に、C. kamaitachi の種小名は妖怪・鎌鼬に、それぞれ因んでいるようです。本文は有料。




SEPTEMBER

Marin and Palatov (2023b)

Cryptorchestia ciscaucasica

 ロシア・アブハジアから半陸棲ハマトビムシ類の1新種を記載。分子系統解析を実施して、近縁種との分岐年代推定を試みています。本文は無料で読めます。



Sisco and Sawicki (2023)

Crangonyx stinei 

 フロリダから、フロリダマミズヨコエビ種群の6種目のメンバーにあたる1新種を記載。本文は有料。


OCTOBER

Özbek, Baytaşoğlu, and Aksu (2023)

Gammarus kunti 

 トルコの洞窟から有眼のヨコエビ属 Gammarus の1新種を記載。本文は無料で読めます。




NOVEMBER

Malek-Hosseini, Brad, Fatemi, Kuntner, and Fišer (2023)

Tegano tashanensis

 イランの洞窟から Tegano属 の1新種を記載。洞窟性らしく無眼のようです。形態と分子を用いた記載です。

 ちなみにこの属の状況について、唯一の本邦既知種である シオダマリメリタ T. shiodamari との関係を見ると、どうやら多系統なようです。これらの種の属位は暫定とみなければならないようです。



Wang, Sha, and Ren (2023)

Orchomenella compressa 

 沖縄トラフの熱水噴出孔からツノフトソコエビモドキ属の1新種を記載。ボリュームは少ないものの形態と分子の双方を検討しており、近縁7種との遺伝的距離も掲載。本文まで無料で読めます。




DECEMBER

Katnoum, Keetapithchayakul, Rahim, and Wongkamhaeng (2023)

Cerapus rivulus

 タイのメークロン川からホソツツムシ属 Cerapus の1新種を記載。雌雄の付属肢を全部描画するという手間の掛けぶりが白眉です。また、胸脚のアンフィポッドシルク出糸口をSEM撮影するとともに、造管行動や交尾前ガード行動の画像および動画を提供しています。全世界のホソツツムシ属25種の検索表も提供。本文まで無料で読めます。



Ariyama and Moritaki (2023)

ヤドカリタテソコエビ Metopelloides lowryi

ヤドカリヨコエビ Isaea concinnoides

 だいぶ前から鳥羽水族館が報じていた、熊野灘産・ヨコヤホンヤドカリPropagurus obtusifrons に付着する未記載のタテソコエビとイシクヨコエビが、やっと新種記載されました。Metopelloides属にヤドカリタテソコエビ属,Isaea属にヤドカリヨコエビ属との和名を提唱しています。ヤドカリタテソコエビ属5種,ヤドカリヨコエビ属4種の検索表を提供。有山 (2022) において2022年夏ごろに出ると予告されていた、ジェームス・ケネス・ロウリー追悼論文集に掲載。

※鳥羽水族館ブログ関連記事



Azman (2023)

Stenothoe lowryi

 マラッカ海峡の潮間帯からタテソコエビ属の1新種を記載。オス第2咬脚が細長く掌縁が直線的ないわゆる gallensis グループ です。東南アジア産タテソコエビ属5種の形態の幅をマトリクスに整理しています。ロウリー追悼論文集に掲載。



Berents (2023)

Cerapus brevirostris

Cerapus chiltoni

Cerapus dildilgang

Cerapus lowryi

Cerapus moonamoona

 ホソツツムシ属の5新種を記載。オーストラリア産ホソツツムシ属10種の検索表を提供。いずれの種も巣を描画しており、C. chiltoni, C. dildilgang, C. lowryi についてはヨコエビ本体側面・背面の凹凸や色素を表現した精緻な点描画も添えられています。ロウリー追悼論文集に掲載。



Karaman (2023)

Niphargus lowryi 

 マケドニア・オフリド湖畔から Niphargus属 の1新種を記載。1968年に大量の N. sanctinaumi に混じって採集されたサンプルに基づいた記載のようですが、その後は全く採集されていないそうです。ロウリー追悼論文集に掲載。



King, Stringer, and Leijs (2023)

Carnarvonis katjae

Warregoensis lowryi

 オーストラリア北部の湧水より、メクラヨコエビ上科 Chillagoeidae科 に2種を記載するとともに、2属を設立。ロウリー追悼論文集に掲載。



Lörz and Peart (2023)

Amathillopsis lowry

 ニュージーランド南東沖からリュウコツヨコエビ属の1新種を記載。線画に加えて、生時の色彩を示す写真と、ROVによる生態画像も掲載。また、A. grevei A. cf. charlottae を報告し、ニュージーランド産リュウコツヨコエビ属4種群についてマトリクス検索表を提供。ロウリー追悼論文集に掲載。



Lowry and Fanini (2023)

Chroestia amoa

Thiorchestia caledoniana

 ニューカレドニアから、海浜性ハマトビムシ科の2新種の記載と新属Thiorchestiaの設立。ニューカレドニア産ハマトビムシ類7種のオスの検索表を提供。ロウリー追悼論文集に掲載。

 なお、本論文で Chroestia属 は ハマトビムシ亜科 Talitrinae となっていますが、Lowry and Myers (2022) で Platorchestinae亜科 とされており、その後移動を明示する記述はありません。定義上、形態的に識別不可能なので当然といえば当然ですが…。



Myers and Lowry (2023)

Platorchestia oliveirae 

Platorchestia exter

Platorchestia negevensis

Platorchestia griffithsi

 大西洋沿岸域から、ハマトビムシ科 Platorchestia platensis の隠蔽種に位置づけられる4新種を記載。この記載は実物に基づいており、液浸標本のカラー写真が掲載されています。それにしても、Lowry and Myers (2022) の”P. koreanensis”は一体どうなったんでしょう…。ロウリー追悼論文集に掲載。



Okazaki and Tomikawa (2023)

アマミリュウグウヨコエビ Rhachotropis lowryi

 奄美大島近海からリュウグウヨコエビ属の1新種を記載。SEM撮影画像を用いて、体表の凹凸やボタン状感覚器の立体構造を記述。ホロタイプに対してミトコンドリア遺伝子COI領域の配列決定も行っています。本邦近海産10種の検索表を提供。ロウリー追悼論文集に掲載。



Poore and Lowry (2023)

Ampelisca capella

Ampelisca katoomba

Ampelisca mingela

Byblis liena

Byblis pialba

Byblis wadara

 グレートバリアリーフと東部オーストラリアからスガメソコエビ科の6種を記載。既知種の報告も行っています。東部オーストラリア産4属(実質26種)の検索表を提供。ロウリー追悼論文集に掲載。



Springthorpe (2023)

Melita lowryi 

 ニュージーランドからメリタヨコエビ属の1新種を記載。ロウリー追悼論文集に掲載。



Tandberg and Vader (2023)

Metopa insolita 

 カナダ浅海域から、フジツボや海綿に棲み込む刺胞動物・アフリカウミヒドラ属の一種に付着するタテソコエビの1新種を記載。ロウリー追悼論文集に掲載。



Taylor and Peart (2023)

Palabriaphoxus barnardi

Palabriaphoxus lowryi

Protophoxus munida

Zeaphoxus senecio

Zeaphoxus zealandicus

  ニュージーランドからヒサシソコエビ科5新種を記載するとともに、1新属を設立。Palabriaphoxus属の2新種は、ヨコエビ分類界の2大巨人の名前が冠されています。Palabriaphoxus属3種, Protophoxus属2種,Zeaphoxus属2種の検索表を提供。ロウリー追悼論文集に掲載。



Zettler, Bastrop, and Lowry (2023)

Scopelocheirus sossi

 ナミブ砂漠沿岸からクツミガキソコエビ属の1新種を記載。ロウリー追悼論文集に掲載。



Cannizzaro, Lange, and Berg (2023) 

Hyalella cretae

 ネヴァダ州からヒアレラ属 Hyalella の1新種を記載。本属において新北区から得られた初の地下水系種とのこと。本文は有料。



Bhoi, Tarafdar, and Patro (2023)

Demaorchestia alanensis 

 ヒメハマトビムシ種群の隠蔽種をインドから記載。Demaorchestia属の記録はインド初、最西端の分布のようです。ただし、本属は形態的にも遺伝的にも裏付けに乏しく、将来的に Platorchestia属あたりのジュニアシノニムとして抹消される公算大とみられます。

 この属の設立者であり、近年ハマトビムシ類の形態分類を意欲的に行っているアラン・マイヤースに種小名が献名されています。しかし、献名の理由については論文中で「端脚類界隈で有名だから」という雑な説明がされ、かつ語尾も場所を示す不適切な形がとられていて、粗さが目立ちます。本文は有料。



Marin, Yanygina, Ostroukhova, and Palatov (2023)

Palearcticarellus ulagani 

 アルタイ山脈の高地の湧水から地下水性ヨコエビの1新種を記載。本文は無料で読めます。



Cummings, White, and Thomas (2023)

Leucothoe mucifibrosa

Leucothoe darthvaderi 

 ベリーズとフロリダから海綿住み込みのマルハサミヨコエビ属の2新種を記載。本文は有料。



 というわけで、2023年は 78 77 76 1亜種 のヨコエビが記載されたようです。



<2023年新種ヨコエビ記載論文>

Ariyama H.; Mori K. 2023. Two distinctive amphipods (Crustacea) collected from the Ariake Sea, Western Japan, with the Description of a New Species. Species Diversity, 28(1): 31-44.

Ariyama H.; Moritaki T. 2023. Two new amphipods associated with a hermit crab from the Kumano-nada, central Japan (Crustacea: Amphipoda: Isaeidae, Stenothoidae). In: Berents, P. B.; Ahyong, S. T.; Myers, A. A.; Fanini, L. (ed.) Festschrift in Honour of James K. Lowry. Records of the Australian Museum, 75(4): 357–370.

Azman, A. R. 2023. Description of Stenothoe lowryi sp. nov. (Crustacea: Amphipoda:Stenothoidae), from the Straits of Malacca, Malaysia. In: Berents, P. B.; Ahyong, S. T.; Myers, A. A.; Fanini, L. (ed.) Festschrift in Honour of James K. Lowry. Records of the Australian Museum, 75(4): 371–379.

Berents, P. B. 2023. New species of Cerapus from Australian waters (Amphipoda: Senticaudata: Ischyroceridae). In: Berents, P. B.; Ahyong, S. T.; Myers, A. A.; Fanini, L. (ed.) Festschrift in Honour of James K. Lowry. Records of the Australian Museum, 75(4): 381–403.

Baytaşoğlu, H. 2023. A new freshwater amphipod (Arthropoda, Malacostraca, Amphipoda, Gammaridae), Echinogammarus ozbeki sp. nov. from the Tomara Waterfall, Turkey. ZooKeys, 1173: 231–242. 

Bhoi, G.; Myers, A. A.; Khatua, R.; Patro, S. 2023. Talorchestia buensis sp. nov. (Senticaudata, Talitridae), a new species of amphipod from West Bengal, east coast of India. Zootaxa5315(1): 77–82.

Bhoi, G.; Myers, A. A.; Tarafdar, L.; Smita, M.; Jena, A. K.; Patro, S. 2023. A new species of the amphipod genus Quadrivisio (Senticaudata, Maeridae) from Chilika Lagoon, India. Zootaxa

Bhoi, G.; Tarafdar, L.; Patro, S. 2023. A new species of amphipod of the genus Demaorchestia Lowry & Myers, 2022 (Senticaudata, Talitridae) from Chilika Lagoon, east coast of India. Zootaxa, 5383(2): 216–224. 

Cannizzaro, A. G.; Lange, C. J.; Berg, D. J. 2023. A new species of stygobitic Hyalella Smith, 1874 (Amphipoda: Hyalellidae) from Ash Meadows National Wildlife Refuge, Nevada, USA, with discussion of the unique presence of the species in the Nearctic groundwater fauna. Journal of Crustacean Biology, 43(4), ruad073. 

— Cummings, V. A.; White, K. N.; Thomas, J. D. 2023. Two new sponge inhabiting leucothoid amphipod species from the Western Atlantic. Zootaxa5389(2): 253–265.

Do Nascimento, P. S.; Serejo, C. S., 2023. New findings of the family Pardaliscidae from the deep-sea southwestern Atlantic the genus Caleidoscopsis Karaman, 1974. Zootaxa, 5256(2): 139-157.

— Durham, E. L.; White, K. N. 2023. Caribbean Amphipoda (Crustacea) of Panama. Part I: parvorder Oedicerotidira. ZooKeys, 1159: 37–50. 

Hughes, L. E.; Lörz, A.-N. 2023. Unciolidae of Deep-Sea Iceland (Amphipoda, Crustacea). Diversity, 15(4): 546. 

Karaman, G. S. 2023. New data on Niphargidae (Amphipoda) from northern Macedonia, Niphargus lowryi sp. nov. In: Berents, P. B.; Ahyong, S. T.; Myers, A. A.; Fanini, L. (ed.) Festschrift in Honour of James K. Lowry. Records of the Australian Museum, 75(4): 437–446.

Katnoum, C.; Keetapithchayakul, T. S.; Rahim, A. A.; Wongkamhaeng, K. 2023. A new species of Cerapus (Amphipoda, Senticaudata, Ischyroceridae) from Mae Klong Estuary, with a discussion on their nesting and types of mating behaviour. Zoosystematics and Evolution, 99(2): 557–574. 

King, R. A.; Stringer, D. N.; Leijs, R. 2023. Carnarvonis gen. nov. and Warregoensis gen. nov.: two new genera and species of subterranean amphipods (Crangonyctoidea: Chillagoeidae) described from north-eastern Australia. In: Berents, P. B.; Ahyong, S. T.; Myers, A. A.; Fanini, L. (ed.) Festschrift in Honour of James K. Lowry. Records of the Australian Museum, 75(4): 447–457.

— Labay, V. S. 2023. Review of amphipods of the genus Paramoera Miers, 1875 (Amphipoda: Pontogeneiidae) from the Sakhalin Island, Far East of Russia. Arthropoda Selecta, 32(2): 123–172.

—  Labay, V. S. 2023. A new deep-sea species of Renella (Amphipoda: Lysianassida: Pakynidae) from the Sea of Okhotsk. Zootaxa, 5325(3): 419–428.

Lörz, A.-N.; Peart, R. A. 2023. Amathillopsidae (Crustacea: Amphipoda) from New Zealand, including the description of a new species. In: Berents, P. B.; Ahyong, S. T.; Myers, A. A.; Fanini, L. (ed.) Festschrift in Honour of James K. Lowry. Records of the Australian Museum, 75(4): 459–470.

Lowry, J. K.; Fanini, L. 2023. The coastal talitroid amphipods of New Caledonia (Amphipoda: Talitroidea). In: Berents, P. B.; Ahyong, S. T.; Myers, A. A.; Fanini, L. (ed.) Festschrift in Honour of James K. Lowry. Records of the Australian Museum, 75(4): 471–484.

Marin, I. N.; Palatov, D. M. 2023a. A revision of the genus Pontonyx Palatov et Marin, 2021 (Amphipoda: Crangonyctidae), with an overview of crangonyctid diversity in the Palaearctic. Arthropoda Selecta, 32(2): 173–196.

Marin, I. N.; Palatov, D. M. 2023b. A new semi-terrestrial Cryptorchestia Lowry et Fanini, 2013 (Amphipoda: Talitridae) from the southwestern Caucasus and the Ciscaucasian Plain. Arthropoda Selecta, 32(3): 281–292.

Marin, I.; Palatov, D.; Copilaş-Ciocianu, D. 2023. The remarkable Ponto-Caspian amphipod diversity of the lower Durso River (SW Caucasus) with the description of Litorogammarus dursi gen. et sp. novZootaxa, 5297(4): 483–517. 

Marin, I. N.; Yanygina, L. V.; Ostroukhova, S. A.; Palatov, D. M. 2023. A new minute species of the genus Palearcticarellus Palatov et Marin, 2020 (Crustacea: Amphipoda: Crangonyctidae) from a high-altitude mountain spring of the Altai Mountains (Russia). Arthropoda Selecta, 32(4): 390–398.

Marrón-Becerra, A.; Hermoso-Salazar, A. M. 2023. Description of three new species of Hyalella Smith, 1874 (Crustacea: Amphipoda) from Southeast Mexico. Zootaxa, 5323(1): 71-93.

Marrón-Becerra, A.; Hermoso-Salazar, A. M.; Ayón-Parente, M. 2023. Description of two new epigean species of the genus Hyalella S.I. Smith, 1874 (Crustacea: Amphipoda: Hyalellidae) from Jalisco, Mexico. Nauplius31: e2023010.

Matsumoto T.; Kajihara H.; Kakui K. 2023a. A new species of Leipsuropus Stebbing, 1899 (Amphipoda: Podoceridae) from Japan. Nauplius, 31.

Matsumoto T.; Kajihara H.; Kakui K. 2023b. Capropodocerus, a new genus in Podoceridae (Crustacea: Amphipoda) from Japan, with descriptions of two new species. Zootaxa, 5336(4): 577–589. 

Malek-Hosseini, M. J.; Brad, T.; Fatemi, Y.; Kuntner, M.; Fišer, C. 2023. A new cave-dwelling hadzioid amphipod (Senticaudata, Hadzioidea, Melitidae) from sulfidic groundwaters in Iran. Contributions to Zoology, 1–20.

Myers, A. A.; Lowry, J. K. 2023. The beach-hopper genus Platorchestia (Crustacea: Amphipoda: Talitridae) on Atlantic Ocean coasts and on those of associated seas. In: Berents, P. B.; Ahyong, S. T.; Myers, A. A.; Fanini, L. (ed.) Festschrift in Honour of James K. Lowry. Records of the Australian Museum75(4): 485–505.

Okazaki M.; Tomikawa K. 2023. A new species of the genus Rhachotropis (Crustacea: Amphipoda: Eusiridae) from Japan. In: Berents, P. B.; Ahyong, S. T.; Myers, A. A.; Fanini, L. (ed.) Festschrift in Honour of James K. Lowry. Records of the Australian Museum, 75(4): 507–514.

Ortiz, M.; Winfield, I.; Ardisson, P. L. 2023. A new bathyal species of Pardaliscoides (Amphipoda, Amphilochidea, Pardaliscidae) from off the southwestern Gulf of Mexico. Zootaxa, 5264(2): 284–292. 

Özbek, M.; Aksu, İ.; Baytaşoğlu, H. 2023. A new freshwater amphipod (Amphipoda, Gammaridae), Gammarus tumaf sp. nov. from the Gökgöl Cave, Türkiye. Zoosystematics and Evolution, 99(1): 15-27. 

— Özbek, A.; Aydin, G. 2023. A new amphipod from the depths of the Morca Sinkhole (Anamur, Türkiye): Gammarus morcae n. sp. (Amphipoda: Gammaridae), with notes on cavernicolous amphipods of Türkiye. Turkish Journal of Zoology, 47(2),4: 81–93. https://doi.org/10.55730/1300-0179.3118

Özbek, M.; Baytaşoğlu, H.; Aksu, İ. 2023. A new freshwater amphipod (Amphipoda, Gammaridae) from the Fakıllı Cave, Düzce Türkiye: Gammarus kunti sp. nov.  Zoosystematics and Evolution, 99(2): 473–487. 

Palatov, D. M.; Marin, I. N. 2023. Diversity of the Caucasian genus Diasynurella Behning, 1940 (Amphipoda: Crangonyctidae) with description of four new species. Arthropoda Selecta, 32(1) 23–55. 

Poore, G. C. B.; Lowry, J. K. 2023. New Australian species of Ampeliscidae (Crustacea: Amphipoda) from the Great Barrier Reef and eastern Australia with a key to Australian species. In: Berents, P. B.; Ahyong, S. T.; Myers, A. A.; Fanini, L. (ed.) Festschrift in Honour of James K. Lowry. Records of the Australian Museum, 75(4): 519–533.

Shin M. 2023. A new species of Paraphoxus (Amphipoda, Phoxocephalidae) from Jeju Island, Korea, Crustaceana, 96(1): 87–96. 

Shintani A.; Umemura S.; Nakano T.; Tomikawa K. 2023. A new species of the genus Pseudocrangonyx (Crustacea: Amphipoda: Pseudocrangonyctidae) from subterranean waters of Japan. Zootaxa, 5301(3): 383–396. 

— Sisco, J. M.; Sawicki, T. R. 2023. Molecular and morphological analyses reveal a new hypogean species of amphipod in the genus Crangonyx Bate, 1859 (Crustacea: Crangonyctidae) within the floridanus species complex, from Suwannee County, Florida. Journal of Natural History, 57(21–24): 1257–1286.

Springthorpe, R. T. 2023. Melita lowryi, a new species of Melitidae (Crustacea: Amphipoda: Senticaudata) from New Zealand, and the redescription of Melita festiva (Chilton, 1885) from Australia. In: Berents, P. B.; Ahyong, S. T.; Myers, A. A.; Fanini, L. (ed.) Festschrift in Honour of James K. Lowry. Records of the Australian Museum, 75(4): 547–558.

Tandberg, A. H. S.; Vader, W. 2023. A new stenothoid (Crustacea: Amphipoda: Stenothoidae) from a shallow water hydroid polyp in British Columbia, Canada. In: Berents, P. B.; Ahyong, S. T.; Myers, A. A.; Fanini, L. (ed.) Festschrift in Honour of James K. Lowry. Records of the Australian Museum, 75(4): 559–565.

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Varela, C.; Fenolio, D.; Bracken-Grissom, H. D. 2023. First finding of the family Amathillopsidae (Amphipoda:  Amphilochidea) in the Gulf of Mexico, with the description of a new species. Novitates Caribaea, (22): 1–12. 

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Zettler, M. L.; Bastrop,R.; Lowry, J. K. 2023. Ten thousand kilometres away and still the same species? The mystery of identity of Scopelocheirus sp. (Amphipoda: Scopelocheiridae) from the South Atlantic. In: Berents, P. B.; Ahyong, S. T.; Myers, A. A.; Fanini, L. (ed.) Festschrift in Honour of James K. Lowry. Records of the Australian Museum, 75(4): 609–622.



<その他>

有山啓之 2022. 『ヨコエビガイドブック』. 海文堂, 東京. 160 pp.

Lowry, J.; Myers, A. 2022. Platorchestiinae subfam. nov. (Amphipoda, Senticaudata, Talitridae) with the description of three new genera and four new species. Zootaxa, 5100(1): 1–53.


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<補遺> 16-iii-2024

— Mastumoto et al. (2023a) および Leipsuropus seisuiae を追加

<補遺2> 11-x-2024

— Sisco and Sawicki (2023) および Crangonyx stinei を追加。

2023年12月11日月曜日

バルサムとユーパラルとホイヤーと(12月度活動報告)


 ヨコエビの形態分類に供する標本は、ほとんどの場合、液浸標本とした後にスライドグラスへ封入して観察する必要があります。 

 過去にはこのようにあるいはこのように、プレパラートに封入する手順をご案内しました。では、何に封入すればよいのでしょうか?



グリセリン Glycerin

 付属肢を本体から取り外した後、グリセリンに仮封入するとスケッチがはかどります。解剖からスムーズに移行でき、圧倒的に透明度が高く視界がクリアだからです。当然ながら流動的なので、持ち運んだり長期保管したりできません。1年もすれば空気が入って、じきに乾いてペカペカになります。あと、どこからともなくケナガコナダニがやってきます。
 流動的なプレパラートは、例えば折れる寸前まで尖らせた極細のタングステンニードルを横から差し込んだりすれば、カバーガラスの下の付属肢の向きを変えられます。よって、スケッチを行うときはグリセリンプレパラートが最良です。
 解剖をグリセリンアルコール中で行う場合、封入時にグリセリンを使うと馴染みやすいという利点もあります。目的を果たしたら、適当なタイミングでしっかりした封入剤に移し替えます。
  グリセリンは流動的といいましたが、他の「永久」プレパラート封入剤の硬化前の粘度と比較してもだいぶ緩いので、カバーガラスをかける時にパーツを定位置に留まらせるのは大変難しく、よく踊ります。次に挙げる「ホイヤー液」をグリセリンに添加するとアラビアゴムのおかげで粘度が上がりますが、無水エタノールとの相性が悪くなるため注意が必要です。



ホイヤー液 Hoyer

(ガムクロラール Gum-chloral)
 グリセリンベースの半永久プレパラート封入剤で、ホイヤー液というのは数あるガムクロラール系レシピの最古参とのことです。ヨコエビのプレパラート作成において王道の手法で(石丸1985;富川・森野2009)、近年の論文のマテメソを読んでもそれをうかがうことができます。
 どうやらガムクロラール系というのは本来自作するものらしく、目的によってアレンジを重ねたりするものらしいのですが、「ホイヤー液」は出来合いのものを買うことができます。
 液体は黄色を帯びています。液の成分上、グリセリン解剖・仮封入してからの移行が容易です。無水アルコールには馴染みません。硬化にはわりと時間がかかり、一週間やそこらではまだねばつきます。硬化したホイヤー液はグリセリンを触れさせると容易に緩みます。お湯でも軟化が可能なようです。
 ホイヤー液を用いたプレパラートの寿命はなんとものの数年(!?)と言われており、実際のところは数十年は維持できるとの話も聞きますが、寿命を迎えるとひび割れてくるらしいです。このまま使い続けてよいものか…



カナダバルサム Canada balsam

 既知の封入剤ではトップクラスの耐久性を誇り、これに敵うものは無いとも囁かれます。何にせよ歴史の長さがありますので、新参者が土俵に乗れない側面はあるでしょう。
 バルサムモミ Abies balsamea という針葉樹の樹液を、キシレンやトルエンに溶解させて使用するレジン系封入剤です。強い粘性のある黄色の液体です。いわば琥珀に封じ込めるような感じでしょうか。ただ、硬化の過程でトルエンがアウトガスとなるため、条件によってはヒビ割れが生じるようです。
 バルサムを使ったプレパラートの寿命は私の寿命を遥かに上回っており、今さら自分でプレパラートをこさえて検証する術はありません。しかし、バルサムの屈折率はヨコエビの外骨格と非常に近く、普通の生物顕微鏡の透過光では、見えづらく感じます。また、水と馴染まないため、封入前には無水エタノールに浸けて充分に脱水する必要があります(この工程をミスると白濁します)。
 価格:25g(溶解前の結晶)で1,600円程度。



ユーパラル(ユパラル)Euparal


 ケミカルな香りが立ち上る、褐色を帯びた粘性のある液体。その実体はバルサムと同じレジン系封入剤で、Callitris quadrivalvis というヒノキ科針葉樹の樹液を原料とし、溶剤などを加えて封入剤としての特性を持たせたとのことです。原料となる樹脂は接着剤等の用途で100年以上の歴史があるようです。基本的にはカナダバルサムと同等の性質と考えて良いのではないでしょうか。
 色味はホイヤー液より透明に近く、屈折率はヨコエビの外骨格とは違っているようで見にくさは感じません。ヨコエビの記載でも何例か使用事例があります(Hughes & Lörz 2019, 2023; Kodama & Kawamura 2021)。ただ、実際に使ってみると、肉厚のパーツは著しく萎縮し、皺が寄って観察しにくくなるようです。
 カナダバルサムと同様に、封入するパーツは無水エタノールで脱水する必要があります。ただし、脱水から包埋までの間にモタモタしてエタノールが飛ぶと、パーツ内に空気が入り込んでプレパラートのクオリティが極端に低下するため、そのへんも考慮しなければなりません。
  これを防ぐには、やはりグリセリン添加した無水エタノール中への浸漬が必要となります。しかし、ユーパラル中に入って一見無色の粒となったグリセリンは、透過光で観察すると気泡と同じくどす黒い影になります。完全に詰みます。 外骨格内をグリセリンで満たして水分の蒸発を防ぎつつ、外骨格表面は無水エタノールでドライに仕上げることが、ユーパラル封入成功のカギのようです。
  ユーパラルの粘つきは相当しつこいですが、アセトンできれいに落ちます。ただし、それだけ敏感にアセトンを吸収するようで、封入済プレパラートの縁を拭いたりすると一旦硬化した部分が緩んでカバーガラスがズレたりします。
 専門家の見解についてはこちらで確認できます。
 価格:50mLで5,000円程度。 



 これらをまとめるとこうなります。

  


 


 その他:有機溶媒系

 ユーパラルやオイキットは一般人には非常に敷居が高く、ネットで個人に卸してくれるようなサイトを血眼になって探していた時に、偶然見つけました。

「マウントクイック」

 何のひねりもないネーミングですね。

 成分表示を見ると「キシレン60%」とあり、何かをキシレンに溶かし込んでいる様子がうかがえます。正体を知りたかったのですが、メーカーのサイトでいくら調べてもそれらしい成分名が出てこない。問い合わせフォームに打ち込んで送信ボタンを押す寸前、「成分が分かったから何やねん」という天の声が聞こえて思いとどまりました。まあ、そういうモンがあるというだけで十分でしょう。とりあえず。

 ユーパラルよりも有機溶媒系の臭いが強いです。液の粘性というか糸を引く感じも他の封入剤とは一線を画しており、まさに接着剤といった感じ。あと、完全に無色です。ホイヤー液をはじめヨコエビ界隈の封入剤は黄色と相場が決まっていますが(?)、これは新鮮ですね。

 そして何より、固まるのが速い。速すぎる。その名に恥じぬ速さです。

 パーツをササッと1個入れる分には良いですが、ヨコエビは基本的に15対の付属肢・6個の口器部品・1個の尾節板をプレパラートにするので、合計22個の細片をシャーレからスライドガラス上に移動させることになります。後半から完全にマウントクイックの縁が固まってるのがわかります。

 ホイヤー液やユーパラルのタックフリータイムは1週間やそこらで済みませんが、マウントクイックは1日やそこらで硬化するのでそれは便利です。 

 しかし、ホイヤー液やユーパラルは圧力をかけても体積が変化しないのに対して、マウントクイックは相当柔らかく、硬化前も硬化後もそれ自体が凹んだり伸びたりします。何が起こるかというと、封入後にカバーガラスに圧力がかかった場合、そこだけがピンポイントに凹んで簡単にガラスが割れてしまうのです(ホイヤー液やユーパラルは伸縮しないので圧力は基本的にカバーガラス全体に分散されます)。速攻で硬化する性質から気泡が入りやすいのに、カバーガラスを押しながらそれを追い出すことはできません。

 というわけで、プレパラート1つあたりのパーツ点数が少ない時など、利用可能な場面が限られてくるように思われます。

 



その他:親水系

ゼラチン Gelatin

 植物生理や病理分野でスライドガラスの作成過程に「寒天」を含むメソッドがあるようです。さすがに包埋材として用いることはないようですが、とりあえずやってみますか。

 どう考えても腐るので、アズレン(アズレンスルホン酸ナトリウム水溶液)を添加することにいたします。

 顆粒状の寒天をスーパーで購入、ゼリーの要領で80~90℃くらいのお湯に溶かします。固まらないうちに付属肢を包埋してみると…

 白濁するね?

 当然といえば当然ですが、他のいかなる封入剤でも見たことのない状態になりました。透過性が非常に悪い。アドホックなプレパラートにしても使い勝手は悪そうです。


 2カ月後…


 ダメです。



水飴 Starch syrup

 屈折率が優れていて観察能が極めて高く、藻類の研究分野では常連という話も聞きますが、タイプ標本など重要な標本の長期保存にはさすがに限界がありそうです(カビ,ヒビ割れ等)。これもやってみますか。

 こちらもどう考えても腐るので、アズレンを添加します。世の中では酢酸とかイソジン(ポピドンヨード)を使うレシピが出回っているようです。酢酸はpHを下げて甲殻類の外骨格を破壊することが懸念され、またヨードは視界に影響を与えそうなので、アズレンを選択しました。

 封入直後の視界は極めて良好です。グリセリンと同じか、それ以上によく見えます。


 そして2カ月後…



 意外と良好です。

 常温常湿で放置していましたが、水飴自体はまだ粘っこい感じを保っています。これが完全に乾燥すると、ヒビ割れを招くような気がします。また、恐らく標本に麦芽糖がまとわりつくので、レジン系プレパラートへの移行には適さないものと考えられます。

 ガムクロラールのような親水性封入剤への移行ありきで、一時的な観察用プレパラートを作成するのには適している気がします。


 


 なお、こちらのサイトにはこれ以外のプレパラート封入剤の比較がいろいろ載っています。今は入手できないものもありそうですが。

 以下、使ったことは無いですが、聞いた話です。

その他:樹脂・蝋

オイキット(ユーキット)Eukitt

 キシレン溶媒系ですが、キシレンフリーやUV硬化バージョンもあるそうです。

 実に70年の歴史がありますが、主に病理分野の研究用途において長期保管用封入剤として著名なようです。自然科学系で悪い噂というのはありませんが、そもそもほとんど情報ありません。

 価格:100mLで5,000~10,000円程度。


パーマウント Permount

 日本では病理分野の研究用途で使用されているようですが、欧州の一部の博物館では自然科学系分野で主流のようです。55%もトルエンを含有するため、経時劣化に伴ってアウトガスを生じ、ヒビ割れは避けられないとのこと。真の永久プレパラートたりえないと考えられます。

 価格:100mLで22,000円。



Shandon Synthetic Mountant

 後述するカンファレンスで、米国スミソニアン国立自然史博物館が長期の耐久性を認めていた封入剤です。過去に別名で流通していた経緯があったり、呼び名は複数あるようです。現在、Paraloid B-48N, Acryloid B-48N などと呼ばれているものも同じ成分との由。日本では専ら病理分野での使用とみられます。

 メタクリル酸メチルを主成分とし、要するにアクリル樹脂のようです。トルエンベース,キシレンベースなど様々なバリエーションがあるようですが、どれが最良かまでは明言されていませんでした。メチルエチルケトンやアセトンにも溶解するようですが、そういったオリジナルレシピも世の中に流通しているのかもしれません。レシピによっては、スミソニアンがお墨付きを与えたような効果は得られないかもしれず、続報が俟たれます。

 価格:500mLで20,000円程度。



パラフィン Paraffin

 後述するカンファレンスによると、少なくとも動物標本用の長期封入剤としては最悪の部類に入るようです。ヒトの遺体・臓器を保存するために包埋するとは聞きますが、形態分類学の用途での半永久保存には向いていないと考えた方がよさそうです。

 



封入剤の特性と封入手順

 過去の記事は主にホイヤー液を念頭に書いていましたが、ユーパラル(レジン系)を使う場合はだいぶ注意しないとプレパラートが台無しになることがわかりました。前述の通り、ユーパラルはエタノールともグリセリンとも相性が悪く、標本の表面に黒い玉とか雲のような影がまとわりついてとても観察できる代物ではなくなるのです。

 この悲劇を防ぐため、ユーパラルの封入手順はホイヤー液とは変わってきます。まとめるとこうなります。

 

解剖から封入に至るまで、グリセリンとエタノールの割合が異なる液体をいくつか行き来する必要があります。ちょっとめんどくさいですね。


 しかも、種の記載といった重要な局面に供する線画を得る場合、工程はさらに複雑化します。付属肢はプレパラート化されてからが本番ですが、解剖が終わって残ったボディは往々にしてくたびれており、スケッチに耐えない場合が多いです。というわけで、以下のように適当なタイミングで描画工程を挟むことになります。 

 

※ちなみに、生物顕微鏡下で全身を観察する場合、個体の大きさによってはホールスライドガラスを導入したほうがよいでしょう。ホールスライドは凹みなしに比べてガラス全体の厚みが増して鏡筒のクリアランスにはハンデになりますが、低倍率で全身をスケッチするぶんには問題ないかと思います。

  

  解剖の精度を上げるため、あるいは美しい線画を得るためには、各節の輪郭が明瞭に見えることが重要です。ライトを強化してもよいのですが、それ以外には、染色するという方法は広く用いられています。過去に検証したとおり、一般人に過ぎないヨコエビおじさんが現実的に入手できる染色剤には限界があり、かつヘタな液を選ぶと標本を損傷するおそれがあります。


 


食紅の再検討

 過去の検証から、食紅を無水エタノールに溶解して標本に使うと、付属肢が外れたり、ダメージを与えるようです。また、粉をそのまま標本に触れさせたりすると、体表に赤いスライムが付着します。観察してみたところ、どうやらこれは食紅の賦形剤として添加されている「デキストリン」のようです。デキストリンより色素(ニューコクシン)のほうが早く溶けるようなので、デキストリンを沈殿させておいて上澄みを使えばイケるのでは…?

 

 というわけで、そういう構造を作りました。

 

 内側の器の中に食紅を入れ、グリセリンを滴下する。
オーバーフローした液を外側の器に溜め、スポイト等で吸い出して使う。


  液体の粘度が低いとデキストリンの粒が舞ったりするのと、解剖に使うグリセリンエタノール中での扱いの良さなどを考慮して、食紅を溶解する液はグリセリンに変更しました。

  染色液は視野が悪すぎて解剖や観察には使えないため、染色後の標本はグリセリンエタノール中に少し置いておき、余分な液を落とすようにします。グリセリンに浸し過ぎると組織が緩むため、必要に応じて無水エタノールに浸して身を引き締めてから解剖するようにします。このような方法にしてから、デキストリンの影響を少なくできているのか、標本が傷むことはなくなりました。






プレパラート管理のトレンド:フンボルト博物館のカンファレンスより

 9月19日~21日、ドイツにあるフンボルト博物館が、プレパラート管理に関するハイブリッド形式の特別会議を催していました。

 いちおう最初に「ここにいない人にも教えてあげてね(大意)」というアナウンスがあったので、豆知識として紹介したいと思います。ただし、個々の発表内容について要旨をそのまま転載といった権限はないですし、あくまで話題の共有と考えて下さい。また、カンファレンスは全体が英語かつ口頭のみ触れられた内容もあったので、聞き間違いや誤訳の可能性もあることを付記しておきます。

  • プレパラート標本の封入剤は極めて多様:国や分類群によっても違うし、同じ研究者でも時代によってレシピが変わったりする
  • プレパラート封入剤の劣化パターン:変色(黒化),結晶化,ヒビ割れ
  • プレパラートを劣化させる要因①封入剤そのもの:アウトガスによるヒビ割れ
  • プレパラートを劣化させる要因②縁部のシール:化学反応により封入剤の変色あるいは結晶化を誘発するが、シールしなければ酸素などの空気中の化学物質との接触が起こりやはり劣化の原因となる
  • プレパラートを劣化させる要因③標本:固定液(フォルマリン)や、透明化に使用した薬剤(クローブ油,フェノール,テルピン油)が残留、あるいは外皮の成分そのものが封入剤と反応する
  • プレパラートを劣化させる要因④環境:光,振動,高温,湿度,化学物質(木製キャビネットの防腐剤等あるいは金属キャビネットのエナメル塗料から放出されるVOCs)
  • プレパラートの加齢を再現する試験方法は確立されておらず、よって前もって封入剤の耐久性について確証を得ることは不可能な状態
  • ホイヤーは一般論として長期保存に向かない
  • ガムクロラールにアセトンを入れるレシピは最悪
  • ラベルが剥離あるいは虫害で破損することでも標本の価値は失われる
  • プレパラートは縦保存より横保存への切り替えが進んでいる(それはそう)
  • 病理分野ではプレパラートのスキャン技術が既に確立しており、転用による自然科学標本のデジタル化促進が期待されている
  • ラベルの読み取りなどプレパラート標本の目録化そのものが進んでおらず、プレパラートのデジタル化はまずメタデータの構築と、個々の標本を画像で記録しアーカイブ化するという、2つの異なる階層で進められている 

 
 


まとめ

  このたび、どうしてもユーパラル中で付属肢が収縮してしまうヨコエビがおり、結局永久プレパラートは作らずにダーラム管中に保存してホロタイプとすることに決めました。プレパラート化しておけば、後で観察したい時に余計な手間をかけずにすぐ検鏡できるメリットはありますが、封入剤との相性によって標本が劣化したり、プレパラート化できないボディと別に管理されることで迷子になるリスクがあります。ただ、プレパラート化しないことで、検鏡のたびにパーツを破損あるいは紛失しうるという大変大きなデメリットがあります。

 数あるプレパラート関係論文の中で決定版とされる論文 (Neuhaus et al. 2017) によると、博物館に収蔵する前提のプレパラートに適した封入剤としてバルサムやユーパラルなどのレジン系が挙げられています。理由は「琥珀が何万年や何億年も形状を維持できるならそれと同じような効果があるはずだ」というもので、シンプルな文脈においてこれには同意します。

 親水性・疎水性という面では、封入後の耐久性と生体組織との馴染みやすさがトレードオフになっている感はあります。耐久性は簡単に上げられないと思いますので、やはりレジン系封入剤とサンプルとをいかに馴染ませるかが極めて重要と思われます。

 ただ、屈折率や標本との馴染みの良さなど、作ったばかりの標本の出来栄えばかりに重きを置き、長期保存という使命に対して雑な憶測で臨んできたこれまでの一世紀以上の在り方を、そろそろ見直すべき時期のような気がします。たとえば、何億年と生物組織を保存し続けている琥珀の性質そのものに疑いの余地はありませんが、それをプレパラートに適用するためのアレンジとして「溶解の工程」が不可欠なことを軽視しすぎている感はあります。この有機溶媒は前述の通り、標本との化学反応やアウトガスの原因となり、プレパラートの劣化を引き起こします。つまり、いくら琥珀に倣っているとはいえ、レジン系プレパラートにおいて本来の琥珀の性質が発揮されているわけではないのです。

 カンファレンスを聴いたり文献を読んだりしても、封入剤について決定的な結論は出ませんでした。とりあえず、前述の通り、明確に劣化を誘発する事柄(透明化処理薬品の残留やトルエン含有の有機溶媒系包埋材)については、気づき次第速やかに排除するべきでしょう。また、本稿でも食紅を紹介しましたが、染色剤についても何かしら反応を起こすリスクを踏まえて、全ての標本を染色に供さないことや、染色した標本は包埋せず液浸して保存するなどの工夫は必要かもしれません。

 ちなみに最近『文化財と標本の劣化図鑑』(岩﨑ほか 2023) という良書が刊行されましたが、プレパラート標本に関する情報はありませんでした。液浸標本に関しては充実してますので、機会があれば内容を紹介したいと思います。





 (おまけ)スライドガラスの輸送方法

  そんなプレパラート標本ですが、割れたりズレたりと輸送には大変気を遣います。専用のケースも市販されていますが、容量が大きかったり、一般人に手が届きにくかったり、縦置きだったりして、ちょっと使い勝手が気になります。

 そんな中で見つけたのがこれです。



 ダイソーの名刺入れです。

 何十年と保管すると恐らく封入剤やシール材がPPと癒合したり反応したりして台無しになると思われますが、1・2年やそこらは平気なようです。持ち運び・輸送用として使うべきでしょう。

 なお、スライドガラスの幅に比べてかなり深さがあるため、手前にズレないようスポンジのようなものを入れるとよいです。


 


<参考文献>

— Hughes, L. E.; Lörz, A.-N. 2019. Boring Amphipods from Tasmania, Australia (Eophliantidae: Amphipoda: Crustacea). Evolutionary Systematics, 3(1): 41-52. 

— Hughes, L. E.; Lörz, A.-N. 2023. Unciolidae of Deep-Sea Iceland (Amphipoda, Crustacea). Diversity, 15(4): 546. 

— 石丸 信一 1985. ヨコエビ類の研究法. 生物教材, 19,20: 91–105.

— 岩﨑 奈緒子・佐藤 崇・中川 千種・横山 操 (編) / 京都大学総合博物館(協力) 2023. 『文化財と標本の劣化図鑑』. 136 pp., 朝倉書店, 東京. ISBN:978-4-254-10301-4 

Kodama M.; Kawamura T. 2021. Review of the subfamily Cleonardopsinae Lowry, 2006 (Crustacea: Amphipoda: Amathillopsidae) with description of a new genus and species from Japan. Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom, 101(2): 359–369.

— Neuhaus, B.; Schmid, T.; Riedel, J. 2017. Collection management and study of microscope slides: Storage, profiling, deterioration, restoration procedures, and general recommendations. Zootaxa4322(1).

— 富川 光・森野 浩 2009. ヨコエビ類の描画方法. 広島大学大学院教育学研究科紀要17: 179–183.


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補遺 (15-VIII-2024)
・一部書式設定変更。

2023年11月18日土曜日

文化端脚類学 in 博クリ(11月度活動報告その3)

 

 来年で10年になるという、博物学ひいては蒐集趣味をテーマとした物販交流イベント「博物ふぇすてぃばる」。だいたい夏にやってるらしいのですが、冬には「博物クリスマス」という冬季版が例年開かれているらしく、そこにヨコエビにまつわる品を扱うブースがあると聞きつけ、出かけていきました。


 観光客でごった返す浅草。

 6階で小型動物の即売会があるみたいで、ハシゴする人もいるんだろうなと思いつつ、7階の会場へ向かいます。


 先週のデザフェスと比べてしまうと、だいぶこぢんまりとした会場で、端から端まで全部見れるので見落とし感がないのは嬉しいですね。デザフェス会場で見かけたのと同じ出展者さんのブースも4,5つありました。


 まずお目当てのヨコエビです。

 メンダコのベルの分銅として、ヨコエビがあしらわれているとのこと。メンダコの餌としてはやはりヨコエビがメジャーですね。




 いやもうデザインもそうだけど、音がめちゃくちゃいい。特に気に入った真鍮の大きめサイズを購入しました。

 華やかかつ軽やかで、良いレストランに入ったようなワクワク感を鳴らすたびに味わえる感じ。



 博物画(実物)を扱っているブースを発見。何せよ必要な資料はPDFで手に入る世の中で、已むに已まれず古い原書を取り寄せたこともありつつ、ロマン的なものも感じてきました。前から興味はあったのですが、検索できないのが不便でなかなか手が出ませんでした。今回は商品のボリュームがちょうどよく、また分類群ごとにまとめてくれていたので、わりとスムーズに探せました。

 本命の博物画の中に端脚類はありませんでしたが…

 脇に「タバコのトレーディングカード」という箱が。

 その時まですっかり忘れていたのですが、実に95年前のイギリスでタバコのオマケとして実際に流通してた「トレーディングカード」に、フクロエビ上目があしらわれたものがあったような。

 ソーティングする時なみの集中力で探します。


 おいおい。


 ワレカラさんだ!ほんとにあった!


 第2咬脚と背中に剛毛が多いですね。

 簡単に調べてみたくなりました。ここはどこのご家庭にもある「イギリスの磯生物のハンドブック」でも開いて確認してみましょうかね。



 形態が完全に一致するものは載ってませんが、この中では何となく、Caprella acanthifera がモデルになってる気がしますね。


 端脚類に関してはこんな感じです。

 新旧の文化端脚類的産物を同時に味わえる貴重な場でした。ぜひ今後もアンテナを張っていきたいと思います。



<参考文献>

— Hayward, P. J. 2022. 『Rock pools』. Naturalists' Handbooks 35. Pelagic Publishing, London. ISBN978-1-78427-359-0

2023年11月11日土曜日

文化端脚類学 in デザフェス(11月度活動報告その2)

 

 今やアジア最大級のアートイベントになったという「デザインフェスタ(デザフェス)」に、端脚類モチーフの作品を出展するブースがあると嗅ぎつけ、偵察に出かけました。


いつぶりかの国際展示場

 開場からやや遅らせて到着しましたが、すごい人手です。これだけの人の目に端脚類が触れる可能性があるかと思うと、滾りますね(?)。


 予め目星のブースを選定して移動コースを想定していましたが、実際に会場へ足を踏み入れると人の流れが凄まじく、マークしてなかったブースに魅力的な品があったり、公式HPに記載されていない作家さんの出展を見つけたり、やはり計画通りにはいきませんでした。


捕獲結果(ごく一部)。


 端脚類をモチーフにした品を扱うブースはやはり当初の見立て通りでしたが、等脚類など他の甲殻類については他のブースでもぽつぽつと見つけました。


「かすみそう」さんの消しゴムはんこ(ワレカラほか)。
印影が美しいのもそうなんですが、
削り跡に迷いがなく活き活きとしていますね。


「むせきつい屋さん」さんのクリアファイル(ヨコエビとワレカラ)。
かなりかわいいですが体制はわりと正確ですね。



 マニアックな生物として扱われている状況は変わっていないようですが、そもそもこういった場に上げられる機会すら今までほとんどなかったわけで、かなりの躍進と思えます。

 これまで、ワレカラの革製キーホルダーアカントガンマルスの革製ポーチとか、ダイダラボッチのネクタイピンとか、雑貨が販売されていた経緯がありますが、安定した流通には至っていないようです。今後も繰り返しモチーフとして使われていくとありがたいですね。

 

2023年11月3日金曜日

日本の淡水ヨコエビについて(2023年11月度活動報告)

 

 本邦産淡水ヨコエビの全貌把握と同定には、富川・森野 (2012) という決定版ともいえる文献が著名です。

 しかし、出版から10年が経過し知見が古くなっている部分があるのと、アクアリウム界隈で流通している外産種には対応していないことから、本稿では僭越ながらそういった部分を補いたいと思います。ただ、種の識別キーや種ごとの細かな情報については、富川・森野 (2012) に譲りたいと思います。

※抜け漏れある可能性が高いため、不足あれば随時更新します。



本邦産淡水性ヨコエビ一覧

(2023年11月更新)

 科の配列は Lowry and Myers (2017) に基づく。分布および生息環境の情報は、ことわりのない限り 富川・森野 (2012) によった

 なお、河岸や湖岸の”ガサり”においてしばしばハマトビムシ上科が採集され、淡水性ヨコエビと同じカテゴリとして扱われることもある (金田 In: 石綿・齋藤 2006) が、この類は水から出しても横向きに這いまわるだけでなく身体を立てて難なく歩いたり跳ねたりできることと、「第1触角全長が第2触角柄部長より短い」ことにより、他のヨコエビから識別できる。

 また、本稿では淡水性種として扱っていないが、河川や湖沼では場所により汽水性種が採集されることがある。そういった属としては、例えば次のようなグループが挙げられる:Grandidierella ドロソコエビ属,Melita メリタヨコエビ属,Paramoera ミギワヨコエビ属,Anisogammarus キタヨコエビ属,Eogammarus トゲオヨコエビ属,Jesogammarus オオエゾヨコエビ属。



  カマカヨコエビ科 Kamakidae

  カマカヨコエビ属 Kamaka

  1.  ビワカマカ(ビワカマカヨコエビ) Kamaka biwae Uéno, 1943:滋賀県琵琶湖[固有]【湖】
  2.  マカヨコエビ Kamaka kuthae Dershavin, 1923:北海道;カムチャツカ半島【河川・湖沼】
  3.  モリノカマカ Kamaka morinoi Ariyama, 2007:本州【河川~汽水】 
     

    メリタヨコエビ科 Melitidae

    メリタヨコエビ属 Melita

  4.  チョウシガワメリタヨコエビ Melita choshigawaensis Tomikawa, Hirashima, Hirai, and Uchiyama, 2018 :和歌山県【河川間隙/表層水】(Tomikawa et al. 2018)
  5.   ミヤコメリタヨコエビ Melita miyakoensis Tomikawa, Sasaki, Aoyagi, and Nakano, 2022:沖縄県宮古島[固有]【湧水】(Tomikawa et al. 2022)

     

    アゴナガヨコエビ科 Pontogeneiidae

    アワヨコエビ属 Awacaris 

  6.  ヤマトヨコエビ Awacaris japonica (Tattersall, 1922):本州,佐渡島【湧水・渓流】
  7.  アワヨコエビ Awacaris kawasawai Uéno, 1971:徳島県,高知県 (Tomikawa et al. 2017)【地下水性】
  8.  モリノヨコエビ Awacaris morinoi (Tomikawa and Ishimaru in Tomikawa, Kobayashi, Kyono, Ishimaru, and Grygier, 2014):滋賀県【地下水性】(Tomikawa et al. 2014)
  9.  タキヨコエビ Awacaris rhyaca (Kuribayashi, Ishimaru, and Mawatari, 1996):北海道,本州,隠岐諸島,長崎県五島列島福江島【河川(回遊性)】

  10.  ツシマドウクツヨコエビ Awacaris tsushimana (Uéno, 1971):長崎県対馬[固有]【地下水】

  11.  エゾヨコエビ Awacaris yezoensis (Uéno, 1933):北海道[固有]【湧水・渓流】


    ミギワヨコエビ属 Paramoera 

  12.  ゴトウドウクツヨコエビ Paramoera relicta Uéno, 1971:長崎県五島列島福江島[固有]【地下水】

     

    カンゲキヨコエビ科 Bogidiellidae 

    カンゲキヨコエビ属 Bogidiella 

  13.  リュウキュウカンゲキヨコエビ Bogidiella broodbakkeri Stock, 1992:沖縄県世論島[固有]【地下水】

     

    マミズヨコエビ科 Crangonyctidae 

    マミズヨコエビ属 Crangonyx 

  14.  フロリダマミズヨコエビ Crangonyx floridanus Bousfield, 1963:本州,四国,九州;米国[原産]【表層水/地下水(篠田 2006)

     

    メクラヨコエビ科 Pseudocrangonyctidae 

    メナシヨコエビ属 Procrangonyx 

  15.  ヤマトメナシヨコエビ Procrangonyx japonicus (Uéno, 1930):東京都【地下水】

     

    メクラヨコエビ属 Pseudocrangonyx

  16.  アカツカメクラヨコエビ Pseudocrangonyx akatsukai Tomikawa and Nakano, 2018:長崎県【地下水】(Tomikawa and Nakano 2018)
  17.  トウヨウメクラヨコエビ Pseudocrangonyx  asiaticus Uéno, 1934:長崎県対馬;中国,朝鮮半島【地下水】
  18.  アスワメクラヨコエビ Pseudocrangonyx asuwaensis Shintani, Umemura, Nakano, and Tomikawa, 2023:福井県[固有]【地下水】(Shintani et al. 2023)
  19.  チョウセンメクラヨコエビ Pseudocrangonyx coreanus Uéno, 1966:島根県,長崎県五島列島福江島,対馬;朝鮮半島
    【地下水】
  20. (和名未提唱)Pseudocrangonyx dunan Tomikawa, Nishimoto, Nakahama and Nakano, 2022:沖縄県与那国島[固有]【地下水】(Tomikawa et al. 2022)
  21.  グダリメクラヨコエビ Pseudocrangonyx gudariensis Tomikawa, Nakano, Sato, Onodera, and Ohtaka, 2016:青森県[固有]【地下水】(Tomikawa et al. 2016)
  22.  コマイメクラヨコエビ  Pseudocrangonyx komaii Tomikawa and Nakano, 2018:岐阜県[固有]【地下水】(Tomikawa and Nakano 2018)
  23.  キョウトメクラヨコエビ Pseudocrangonyx kyotonis Akatsuka and Komai, 1922:京都府【地下水】
  24.  シコクメクラヨコエビ Pseudocrangonyx shikokunis Akatsuka and Komai, 1922:四国【地下水】
  25. (和名未提唱)Pseudocrangonyx uenoi Tomikawa, Abe, and Nakano, 2019:滋賀県[固有]【地下水】(Tomikawa et al. 2019)
  26.  エゾメクラヨコエビ Pseudocrangonyx yezonis Akatsuka and Komai, 1922:北海道[固有]【地下水】

     

    キタヨコエビ科 Anisogammaridae 

    トゲオヨコエビ属 Eogammarus 

  27.  トゲオヨコエビ Eogammarus kygi (Dershavin, 1923):北海道,青森県;沿海州,カムチャッカ半島,サハリン【湖沼・河川】
  28.  イトウトゲオヨコエビ Eogammarus itotomikoae Tomikawa, Morino, Toft, and Mawatari, 2006:北海道[固有]【河川】

     

    オオエゾヨコエビ属 Jesogammarus ― Jesogammarus亜属

  29.  シツコヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusacalceolus Tomikawa and Kimura, 2021:青森県[固有]【湧水】 (Tomikawa and Kimura 2021)
  30.  ナガレヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusbousfieldi Tomikawa, Nakano, and Hanzawa, 2017:山形県[固有]【渓流】(Tomikawa et al. 2017)
  31.  オオエゾヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusjesoensis (Schellenberg, 1937):北海道,東北地方,中部地方【河川・湖沼】
  32.  ヒメヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarus) paucisetulosus Morino, 1985:関東・東北地方の日本海沿岸【渓流】
  33.  アゴトゲヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusspinopalpus Morino, 1985:関東地方【河川・湖沼】 
  34.  ミカドヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarusmikadoi Tomikawa, Morino, and Mawatari, 2003:東北地方【渓流】

     

     オオエゾヨコエビ属 Jesogammarus ― Annanogammarus亜属

  35.  アンナンデールヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarusannandalei (Tattersall, 1922):滋賀県琵琶湖[固有]【湖の中層】
  36.  ヒメアンナンデールヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarusfluvialis Morino, 1985:東海地方,近畿地方【湧水】

  37.  ナリタヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarusnaritai Morino, 1985:滋賀県琵琶湖,長野県諏訪湖【湖沼】

     

    ヨコエビ科 Gammaridae 

    ヨコエビ属 Gammarus

  38.  チョウセンヨコエビ Gammarus koreanus Uéno, 1940:長崎県五島列島;中国,朝鮮半島【渓流】
  39. (和名未提唱) Gammarus mukudai Tomikawa, Soh, Kobayashi, and Yamaguchi, 2014:長崎県[固有]【表層水】 (Tomikawa et al. 2014)

  40.  ニッポンヨコエビ Gammarus nipponensis Uéno, 1940:琵琶湖以西の本州,四国,九州,隠岐,壱岐,対馬【渓流】

     

    ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae 

    チカヨコエビ属 Eoniphargus

  41.  イワタチカヨコエビ Eoniphargus iwataorum Shintani, Lee, and Tomikawa, 2022:栃木県蛇尾川【表層水】(Shintani et al. 2022)
  42.  コジマチカヨコエビ Eoniphargus kojimai Uéno, 1955:関東地方【地下水・河川間隙水】
  43.  トリイチカヨコエビ Eoniphargus toriii Shintani, Lee, and Tomikawa, 2022:静岡県瀬戸川[固有]【河川】(Shintani et al. 2022)

     

    ヤツメヨコエビ属 Octopupilla

  44.  ヤツメヨコエビ Octopupilla felix Tomikawa, 2007:近畿地方,四国【河川間隙】

     

    コザヨコエビ科 Luciobliviidae

    コザヨコエビ属 Lucioblivio

  45.  コザヨコエビ Lucioblivio kozaensis Tomikawa, 2007:和歌山県古座川[固有]【河川間隙】


 こうして見ると、2023年11月時点で和名が提唱された形跡のない種がいくつかありますね。今後の進展に期待したいところです。



分類学上の扱いに注意を要する淡水ヨコエビ

  • アンナンデールヨコエビ:20世紀半ば頃まで全国から報告されてきたが、現在は琵琶湖固有種であることが確かめられている。よって、他地域の古い報告はキタヨコエビ科の代名詞のように考えることはできても、種の記録としては採用すべきでないとみられる。なお、富川・森野 (2012) における表記は「アナンデールヨコエビ」とされているが、本稿では種小名の綴りにより近く出版年がより古い Ishimaru (1994) を採用し「アナンデールヨコエビ」とした。
  • サワヨコエビ属:Sternomoera に与えられていた和名。アワヨコエビ属 Awacaris の新参シノニムとして消滅した (Tomikawa et al. 2017) ため、現在は使われない。
  • ヤマトメナシヨコエビ属:Eocrangonyx に与えられていた和名。メナシヨコエビ属 Procrangonyx の新参シノニムとして消滅した (Nakano et al. 2018) ため、現在は使われない。
  • ドウクツヨコエビ属:Relictomoera に与えられていた和名。ミギワヨコエビ属 Paramoera の新参シノニムとして消滅した (Nakano and Tomikawa 2018) ため、現在は使われない。
  • シンヨコエビ科 Neoniphargidae:かつてチカヨコエビ属が含まれていた。チカヨコエビ属の所属変更に伴い本邦未知科となったが、移動先の科(ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae)の和名に転用されたわけではないため注意。
  • ホクリクヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarus) hokurikuensis;フジノヨコエビ J. (J.) fujinoi;ショウナイヨコエビ J. (J.) shonaiensis:これら3種は、オオエゾヨコエビの新参シノニムであることが示唆されている (富川・森野 2012)
  • スワヨコエビ Jesogammarus (Annanogammarus) suwaensis:ナリタヨコエビの新参シノニムであることが示唆されている (富川・森野 2012)
  • ハヤマサワヨコエビ Sternomoera hayamensis (Stephensen, 1944) :ヤマトヨコエビの新参シノニムとされている。
  • ミナミニッポンヨコエビ Gammarus sobaegensis:本邦の記録はニッポンヨコエビの誤同定の可能性が指摘されている (富川・森野 2012)
  • キョウトメクラヨコエビ:京都盆地に2系統が共存することが示唆されており、隠蔽種を内包するものとみられる (Yonezawa et al. 2020)
  • 岡山県のメクラヨコエビ属:3個体群が報告されており、このうち1あるいはそれ以上について未記載の可能性があるとされている (末永 2020)



日本の淡水ヨコエビの科までの検索表(外来種・飼育種を含む)

(1)第1~第2腹節後縁に棘状の突出部を具える・・・ヒアレラ属Hyalella[飼育種・アメリカ大陸原産]※和名はマグローヒル科学技術用語大辞典編集委員会  (1996) による

 — 第1~第2腹節後縁に棘状の突出部を欠く・・・(2)

(2)尾節板は肉厚肥厚する・・・カマカヨコエビ科 Kamakidae

 — 尾節板は薄片状・・・(3)

(3)第3尾肢外肢は先端が裁断形の薄葉状・・・メリタヨコエビ科 Melitidae

 — 第3尾肢外肢は槍状・・・(4)

(4)腹肢は内肢を欠く・・・カンゲキヨコエビ科 Bogidiellidae

 — 腹肢は外肢と内肢を具える・・・(5)

(5)第3尾肢は内肢を欠く・・・メクラヨコエビ科 Pseudocrangonyctidae

 — 第3尾肢は外肢と内肢を具える・・・(6)

(6)頭部の触角洞はほとんど確認できない;第3尾肢は第2尾肢末端を越えない・・・マミズヨコエビ科 Crangonyctidae[外来種・アメリカ大陸原産]

 — 触角洞は明瞭;第3尾肢は第2尾肢末端を越える・・・(7)

(7)尾節背面に刺毛を欠く・・・アゴナガヨコエビ科 Pontogeneiidae

 — 尾節背面に刺毛を具える・・・(8)

(8)底節鰓に付属片を具える・・・キタヨコエビ科 Anisogammaridae

 — 底節鰓に付属片を欠く・・・(9)

(9)第7胸脚に底節鰓を具える・・・ヨコエビ科 Gammaridae

 — 第7胸脚に底節鰓を欠く・・・(10)

(10)第3尾肢の外肢は1節からなり、内肢は外肢とほぼ等長・・・コザヨコエビ科 Luciobliviidae

 — 第3尾肢の外肢は2節からなり、内肢は外肢より短い・・・ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae 



<参考文献>

Ishimaru S. 1994. A catalogue of gammaridean and ingolfiellidean Amphipoda recorded from the vicinity of Japan. Report of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, 24: 29–86.

金田彰二 2006. ヨコエビ類. In: 石綿進一・齋藤和久(編)『酒匂川水系の水生動物~里地・里山の生きものたち~』.神奈川県環境科学センター.

Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2017. A Phylogeny and Classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265(1): 1–89. 

— マグローヒル科学技術用語大辞典編集委員会 (編) 1996. マグローヒル科学技術用語大辞典 (第3版). 日刊工業新聞社.

— Nakano T.; Tomikawa K. 2018. Reassessment of the groundwater amphipod Paramoera relicta synonymizes the Genus Relictomoera with Paramoera (Crustacea: Amphipoda: Pontogeneiidae). Zoological Science, 35(5): 459–467. 

Nakano T.; Tomikawa K.; Grygier, M. J. 2018. Rediscovered syntypes of Procrangonyx japonicus, with nomenclatural consideration of some crangonyctoidean subterranean amphipods (Crustacea: Amphipoda: Allocrangonyctidae, Niphargidae, Pseudocrangonyctidae). Zootaxa, 4532(1): 86–94.

篠田授樹 2006. 東京都の湧水等に出現する地下水生生物の調査. 研究助成・一般研究. Vol.28, No.164.

Shintani A.; Lee C.-W.; Tomikawa K. 2022. Two new species add to the diversity of Eoniphargus in subterranean waters of Japan, with molecular phylogeny of the family Mesogammaridae (Crustacea, Amphipoda). Subterranean Biology, 44: 21–50. 

— Shintani A.; Umemura S.; Nakano T.; Tomikawa K. 2023. A new species of the genus Pseudocrangonyx (Crustacea: Amphipoda: Pseudocrangonyctidae) from subterranean waters of Japan. Zootaxa, 5301(3): 383–396. 

末永崇之 2020. メクラヨコエビ属. In: 岡山県野生動植物調査検討会 (編) 岡山県版レッドデータブック2020動物編. 岡山県環境文化部自然環境課.

Tomikawa K.; Abe Y.; Nakano T. 2019. A new stygobitic species of the genus Pseudocrangonyx (Crustacea: Amphipoda: Pseudocrangonyctidae)  from central Honshu, Japan. Species Diversity, 24: 259–266.

Tomikawa K.; Hirashima K.; Hirai A.; Uchiyama, R. 2018. A new species of Melita from Japan (Crustacea, Amphipoda, Melitidae). ZooKeys, 760: 73–88.

— Tomikawa K.; Kimura N. 2021. On the Brink of Extinction: A new freshwater amphipod Jesogammarus acalceolus (Anisogammaridae) from Japan. Research Square.

Tomikawa K.; Kobayashi N.; Kyono M.; Ishimaru S.; Grygier, M. J. 2014. Description of a new species of Sternomoera (Crustacea: Amphipoda: Pontogeneiidae) from Japan, with an analysis of the phylogenetic relationships among the Japanese species based on the 28S rRNA gene. Zoological Science, 31: 475–490. 

—  Tomikawa K.; Kyono M.; Kuribayashi K.; Nakano T. 2017.The enigmatic groundwater amphipod Awacaris kawasawai revisited: synonymisation of the genus Sternomoera, with molecular phylogenetic analyses of Awacaris and Sternomoera species (Crustacea : Amphipoda : Pontogeneiidae). Invertebrate Systematics, 31(2): 125–140. 

富川光・森野浩 2012. 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方.タクサ, 32: 39–51.

Tomikawa K.; Nakano T. 2018. Two new subterranean species of Pseudocrangonyx Akatsuka & Komai, 1922 (Amphipoda: Crangonyctoidea: Pseudocrangonyctidae), with an insight into groundwater faunal relationships in western Japan. Journal of Crustacean Biology, ruy031.

Tomikawa K.; Nakano T.; Hanzawa N. 2017. Two new species of Jesogammarus from Japan (Crustacea, Amphipoda, Anisogammaridae), with comments on the validity of the subgenera Jesogammarus and Annanogammarus. Zoosystematics and Evolution, 93(2): 189–210.

Tomikawa K.; Nakano T.; Sato A.; Onodera S.; Ohtaka A. 2016. A molecular phylogeny of Pseudocrangonyx from Japan, including a new subterranean species (Crustacea, Amphipoda, Pseudocrangonyctidae). Zoosystematics and Evolution, 92(2): 187–202. 

Tomikawa K.; Sasaki T.; Aoyagi M.; Nakano T. 2022. Taxonomy and phylogeny of the genus Melita (Crustacea: Amphipoda: Melitidae) from the West Pacific Islands, with descriptions of four new species. Zoologischer Anzeiger, 296: 141–160.

Tomikawa K.; Soh H. Y.; Kobayashi N.; Yamaguchi A. 2014. Taxonomic relationship between two Gammarus species, G. nipponensis and G. sobaegensis (Amphipoda: Gammaridae), with description of a new species. Zootaxa, 3873(5):451–476. 

Yonezawa S.; Nakano T.; Nakahama N.; Tomikawa K.; Isagi Y. 2020. Environmental DNA reveals cryptic diversity within the subterranean amphipod genus Pseudocrangonyx Akatsuka & Komai, 1922 (Amphipoda: Crangonyctoidea: Pseudocrangonyctidae) from central Japan. Journal of Crustacean Biology, ruaa028. 

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補遺 (15-VIII-2024)
・一部書式設定変更。

2023年10月15日日曜日

久々の学会発表(10月度活動報告その2)


 久方ぶりに東京海洋大学を訪れました。





日本甲殻類学会 第61回東京大会

Carcinological Society of Japan 

61st Annual Meeting (CSJ61)


 学会でずっとROM専を決め込んでいるうちに、最後の学会発表から干支が一回りしております。前回はあの激震の生態学会なので、完全に浦島太郎です。



 今回はポスターで海亀の背中のヨコエビ・ワレカラの話をしました。こういったブログを書いたこともありますが、当時はまさか論文化する立場になるとは思っていませんでした。立ち寄って下さった方々ありがとうございました。まだ投稿誌が定まっていない案件ではありますが、なるべく早く皆さんの元へお届けできるよう進めて参ります。


 今回、ヨコエビに関する発表はかなり豊作でした。

 ここ10年ばかりの印象ですが、近年は複数拠点が安定して取り組むようになり、題材も記載的研究と生態や行動が密に連携している様子が伺え、大変嬉しいです。ポスター発表では他の端脚ネタを聞けず悔しい思いをしましたが、色々な方に便乗性ヨコエビに興味を持ってもらえた手応えを感じることができたのは貴重でした。


 ご近所分類群である等脚類、しらみちゃんネタなど本ブログで扱ったことがある話題があったりして面白かったですね。こちらもかなり研究者人口が増えてました。近年は適応放散のモデルとして扱われたり、記載分類のフェーズから昇華していく気配があります。分類学分野でもまだまだやることは沢山あるそうですが、それも含めてこれから一層盛り上がっていくことかと思います。


 しばらく学会ありませんが、何かしら案件あればお声かけください。


2023年10月2日月曜日

アスワメクラヨコエビ(2023年10月度活動報告その1)

 

 福井の博物館でヨコエビを見れるとのことなので、ついでに採集もしようと出かけていきました。



<F県M海岸採集>

 

なかなか良さげな海岸ですね。

 打ち上げ海藻と松林。ちょっと岡山に似ている感じもします。この引っ込んだ砂浜と植生の感じ、犬島南岸ぽい。ということは、狭義のヒメハマトビムシ(広義のDemaorhestia joi)(※補遺)もワンチャンあるか…?


 堤防には特に何もありません。アオノリ的なサムシングをガサガサするとエビ(十脚)。


 砂を掬ってみると粒径は粗め。まずい。ナミノリソコエビ狙いでしたが、これはボウズの公算大です。ヒサシソコエビやクチバシソコエビならあるいは…


 ダメだ。全く採れない。


 打ち上げ物を徐にめくってみます。 

 信じがたい。何もいない。

 小雨パラつくハマトビ日和じゃぁないのか?


 潮間帯上部はヨシの枯死体が優占し、汀線際はホンダワラ類やらミルやらが見られますが、かなりオオカナダモの割合が多く、陸域からの供給が多いものと考えられます。

 砂浜で拾った褐藻なんかをガサガサしてみても、何も出ません。ヨコエビだけしか視認できない変態知覚を有しているわけではなく、ゴカイ、巻き貝、メガロパ、コペなどもいません。あらかた波に洗われて、元々付いていた表在ベントスは落ちてしまうのでしょう。


 熱海の経験を思い出して堤防近くのヨシをめくってみると。


 おるやん。



 検索表からするとニホンヒメハマトビムシですが、オスの第7胸脚は肥大化しません。第1尾肢の棘数や触角の太さからすると、オカトビ系ということはなさそう。あまり大きな個体が採れなかったので、胸脚の発達が弱いだけか、あるいは…


 あとは最後の希望をかけて、堤防に挟まった諸々の藻屑を漁ります。


?フサゲモクズ Ptilohyale cf. barbicornis

 オスが採れたのは良いものの、成熟してないようであまり形態形質がはっきりしません。なお、フサゲモクズは潮間帯上部に棲息する本邦最普通種です。

 そういうことか。

 硬質基質のクラックや付着物の隙間に細々と暮らすフサゲモクズだけがこの海岸に棲めるヨコエビであって、攪乱の大きい砂浜は潜砂性種にとって良い環境ではないようです。





<福井市自然史博物館>

 こちらの記事で、22日までアスワメクラヨコエビ (Shintani et al. 2023) の展示をしてるとのことだったので、のぞいてみました。

 年内に新種記載されたばかりの生物を生体展示というのがそもそもしょっちゅうあることではないのですが、それが洞窟性の小型甲殻類となると相当レアな試みだと思います。


博物館はほぼ山頂のような場所にあります。



 どうやら、昆虫展の一角でやってるみたいです。


 これは…



おるおる。

 アスワメクラヨコエビ Pseudocrangonyx asuwaensis と初対面。

 洞窟性種なので、この時期に室内展示するため常に冷却を要するVIP待遇となっております。

 折しも本日、共同通信はじめ産経新聞などで報道がありましたが、食性については推測の域を出ませんね。富川先生から以前お伺いした話からすると、バクテリア食という線が濃厚な気がします。

 「新種認定」とか、ところどころ表現が気になるものの、かなり「真面目に騒いでる」感じが伝わってきます。

 発見場所である足羽山というのは、沖積平野に頭を出している「氷河時代の削り残し」で、ここに産する地下性動物というのは他と隔離されて独自の歴史を歩んできたものと考えられ、大変貴重な存在といえます。そういった足羽山の洞窟生態系の特異性がこの博物館の1つのテーマになっていて、今回もそれに沿った構成になっていました。


 それにしても…



 (アスワ)メクラヨコエビに言及したパネルだらけです。

 それに限らず、足羽山で量的に優占するのか、陸棲ヨコエビも他博物館に比べるとかなり扱いが良い雰囲気。


常設展の土壌動物コーナーにオカトビがいます。パネルの属位は古いようです。

 あと、入り口で売っていた図録、何気なくパラパラしていたら、半分以上にヨコエビが載っていて思わず爆買いしてしまった。




 もうこれは、福井は恐竜王国,蕎麦王国に次いで「ヨコエビ王国」でもあると言っても過言ではないのでは(過言です)。


 慌ただしい初福井でしたが、ヨコエビ収率が悪かったことを除けばかなりの充実度でした。ここまでヨコエビを堪能できる博物館があるとは(しかも海産はノータッチ)。福井のヨコエビリティの全貌を把握するには至りませんでしたが、いくらなんでも潮間帯~潮上帯で10種を切ることはないのではと思います。ご縁があれば調査してみたいとこではあります。


 

<補遺>

 “ヒメハマトビムシ“に対応する学名は Demaorhestia joi とされていますが(=狭義のヒメハマトビムシ)、「真の D. joi」といえる大陸個体群に対して、約20年にわたり同種とされていた台湾個体群が D. pseudojoi という別種にされました (Lowry and Myers 2022) 。これら2つの個体群と同種と考えられていた日本個体群について十分な検討は行われておらず、厳密にはどっちつかずという状況です。大陸と同種か、台湾と同種か、あるいは全く別の種か、はたまたこれらは結局同種なのか…。

 日本個体群が過去に D. joi と同定された経緯は間違いなくあり、現状それを覆せる証拠もないことから、消極的に踏襲しているという意味での「広義の D. joi」です。ただ、積極的に支持する証拠もまたありません。



<参考文献>

 Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2022. Platorchestiinae subfam. nov. (Amphipoda, Senticaudata, Talitridae) with the description of three new genera and four new species. Zootaxa5100(1): 1–53.

— Shintani A.; Umemura S.; Nakano T.; Tomikawa K. 2023. A new species of the genus Pseudocrangonyx (Crustacea: Amphipoda: Pseudocrangonyctidae) from subterranean waters of Japan. Zootaxa, 5301(3): 383–396.