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2025年7月20日日曜日

書籍紹介『海のちいさないきもの図鑑』(7月度活動報告)

 

 博ふぇすに行ってまいりました。

 今までありそうでなかったワレカラのトートバッグをはじめ、クジラジラミのブローチなど端脚類グッズは年々充実してきています。


 そして端脚類が載った書籍がまた出たそうなので購入しました。




 むせきつい屋さん(著) ・ 広瀬雅人(監修) 2025.『海のちいさないきもの図鑑』.西東社,東京.176pp. (以下、むせきつい屋さん,2025)です。

 箔押しの装丁が豪華です。本邦海産無脊椎動物学もとうとうここまできました。


むせきつい屋さん(2025)を読む

 所謂「子供むけ生物学の本」カテゴリのものと思います。

 ただだいぶ内容はしっかりしていて、水生生物の生態区分やウミエラの骨片の類型、軟体動物の系統関係やウミウシの近似種まで、大学の研究室レベルの知見がてんこ盛りされています。それも単なる豆知識というより、それぞれの生き物の有り様を理解するためのアプローチとして、生物学の文脈の中に位置づけられている味わいを感じます。かわいくない参考文献群からも、著者が堅実に研究をされていたことが伺えます。悪く言えば教科書的かもしれませんが、ホホベニモウミウシの盗葉緑体やプラニザ幼生の体色決定などここ数年の間に学会発表されてコンセンサスになりつあるような、教科書の水準を上回るアツアツの話題が惜しげも無く投入されており、それにも関わらず、首尾一貫したポップな絵柄と平易な文体によって「分かり易さ」を諦めている部分がどこにもないのは驚くばかりです。

 独立の項としてコケムシが入ってないところから、良好な師弟関係が伺えますね。詳しい裏話はわかりませんが、こういう場面で教え子に寄り添って一肌脱いでくれる恩師というのは本当にありがたいものです。


 さて、項が設けられている端脚類は次の通りです。

  • カイコウオオソコエビ
  • オオタルマワシ
  • ワレカラ


 カイコウオオソコエビについて、示されている食性が植物に偏ってますが腐肉もかなり貪食するものと考えてよいでしょう (Jamieson and Weston. 2023)。また、体組織に脂質を多く含む理由を飢餓への耐性としていますが、個人的には、恐らくこれと同じくらい重要なのは浮力の確保だと思います。脂質を蓄える深海性ヨコエビにおいて意義は一律でなく、個別の種において意味合いは違うのかもしれませんが。

 オオタルマワシの和名の由来はあっさりとしています。和名を提唱した入江 (1960)に示されているような(いないような)理由に、忠実な記述だと思います。エイリアンというニックネームについてもあっさりしていて、世の中の議論はもうこのくらいふわっとした認識でよい気がします。それっぽい理由を捻り出すとたぶんドツボに嵌まります。というか、ネット上には話を作っている人が多くて辟易してしまいます。


 このような細部は全体の構成に影響を与えませんが、並べてみると、項ごとに濃度や厚みが違う気がします。特にウミクワガタは情報量こそ定型に収めてありますが、生活環やその特性について厳選して詰め込んだ感じがします。

 著者は北里大の卒業生で、主に三陸海岸など浅海のベントスに直に触れてきた来歴の持ち主なので、その時に得た豊富な知識や経験が作品に反映されていると思います。過去に書籍紹介したこの本も、その研究の成果の一つです。むせきつい屋さん(2025)の出版にあたり様々な意向が働いたような気がしますが、生き物との付き合いの長さの違いがムラに繋がっているように見えます。

 とはいえ、むせきつい屋さん(2025)は150ページ超フルカラーというハイボリュームをたった一人で、テンションを落とさず、たぶんそれほど時間をかけずに仕上げた、恐るべき書物といえると思います。熊坂長範からウルトラマン、タコ焼きから茶釜狸、ゾエアからオエー鳥まで縦横無尽に描けるイラストレーターでありつつ、生物学研究の最先端を子供むけにサマライズできるのは、控えめに言っても働きすぎです。

 個人的に白眉と思ったのは、各生物の体サイズ比較。名前や生態にちなんだり、あるいはひねったり、単にサイズが近いモノを選んだり、心地良く軽妙に題材を選んでいるのが最高ですね。


 小学生以上から余裕で理解できる構成です。子供向けとして読んでもよいですが、生物学の知識を得る本として大人も驚きをもって読むことができるのは間違いないです。元々アクセサリーやイラストボードといったグッズを提供するブランドだったこともあり、色使いが絶妙なイラスト本としても楽しめると思います。



<参考文献>

— 入江春彦 1960.In:内田清之助 等(著)『原色動物大圖鑑Ⅳ』.北隆館,東京.

むせきつい屋さん(著) ・ 広瀬雅人(監修) 2025.『海のちいさないきもの図鑑』.西東社,東京.176pp. ISBN:9784791634453

Jamieson, A. J.; Weston, J. N. J. 2023. Amphipoda from depths exceeding 6,000 meters revisited 60 years on. Journal of Crustacean Biology, 43: 1–28.


2025年7月12日土曜日

聖地巡礼シリーズ「松川浦」

 

 函館福井と続けてきた、主に端脚類のタイプ産地を廻るこのシリーズ(?)。今回は環境省のモニタリングサイト1000の調査協力で、福島県の松川浦に行ってきました。サンプルの同定協力はしたことがありますが、現場は初です。





松川浦の端脚類相

 松川浦は言わずと知れたヨコエビ聖地の一つではあるものの、継続して端脚類研究の拠点になっているわけではなく、何より32年前に採られた手法がプランクトンネット採集であったため、親しみやすい潮間帯のファウナはあまり語られていないのが実情だったりします。


過去の調査結果
文献 Hirayama and Takeuchi (1993) 環境省 (2013) 富川 (2013)
出現種 Pontogeneia stocki, Atylus matsukawaensis, Synchelidium longisegmentum, Dulichia biarticulata, Gitanopsis oozekii, Stenothoe dentirama, Lepidepecreum gurjanovae, Eogammarus possjeticus, Tiron spiniferus, Allorchestes angusta, Ampithoe lacertosa, Aoroides columbiae, Corophium acherusicum, Ericthonius pugnax, Gammaropsis japonicus, Guernea ezoensis, Jassa aff. falcata, Synchelidium lenorostralum, Melita shimizui Ampithoidae gen. sp., Grandidierella japonica, Corophiidae gen. sp., Melita shimizui, Melita setiflagella, Ampithoe sp.
Ampithoe lacertosaAmpithoe valida, Hyale sp., Melita shimizui, Talitridae gen. sp.

 属位変更はなんとかなるとして、後に日本個体群が別種として記載されたブラブラソコエビAoroides columbiae(→A. curvipesなどは解釈に注意が必要です。Jassa aff. falcataは順当にいけばフトヒゲカマキリヨコエビJ. slatterlyと推定されますが、他の近似種や未記載種の可能性もあります。
 富川 (2013) の各種は0.5mm目合いの篩にかけて採取されたもので、モニ1000の定量調査に近い手法で行われています。Hyale sp.は恐らくフサゲモクズPtilohyale barbicornis、Talitridae gen. sp.は広義のヒメハマトビムシであろうと思います。


 今回の調査結果はいずれ然るべき媒体でアウトプットされるはずですが、本稿ではフィールドの雰囲気だけお伝えします。比較対象が関東の干潟になってしまうのはご了承ください。



松川浦北部前浜的干潟

 砂州から内側へ突き出た遊歩道の周辺が、調査地になっています。遊歩道の左手には転石帯、右手にはヨシ原が広がっています。転石帯側は、遊歩道根元の少し引っ込んだエントリーポイントから澪筋を越えると、いつの間にか流れのある川へ至ります。ヨシ原側は、汀線方向へ進むにつれカキ礁が卓越します。基質は全体的に有機物の多い砂泥で、転石帯にはパッチ状に底無し沼的なゾーンがあります。


 今回はアオサやオゴノリの繁茂はみられず、干出面はホソウミニナとマツカワウラカワザンショウに被覆されています。深さのある場所では流れの中にアマモの群落が散見されます。


 アマモ葉上やカキ殻表面にはホンダワラ類の付着が散見されました。
 端脚類はアマモ葉上で最も充実しており、表在底生グレーザー・植物基質寄りの自由生活ジェネラリスト・遊泳グレーザーの3者が最も優占していました。いずれの基質においても、造管濾過食者はかなり少ない、むしろほとんどいない印象です。




松川浦南部河口的干潟

 最奥部に開口した細い水路周辺に形成されている、典型的な内湾の富栄養泥干潟です。表層に触れるだけで還元化した黒い部分がのぞくシルトの底質に、転石やカキ殻が散らばっています。一歩進めるごとに足をとられ、ケフサイソガニ類が横っ飛びします。膝をついてじっとしていると、いつの間にか大量のヤマトオサガニに取り囲まれます。

 造管懸濁物食者が高密度に棲息し、漂着物のような多少柔軟性のある基質の周囲には硬質基質寄りの自由生活ジェネラリストが見えますが、際立って端脚類の多様性が高い箇所はみられません。


 潮上帯において、打ち上げ物は陸由来の植物質が卓越し、転石帯とともに、関東の同様の環境から推測できる代表的な属ないし種の構成となっています。 



おまけ:松川浦北部河口

 ここはモニ1000の対象ではありませんが、かなり特色のあるポイントです。


 松川浦に注ぐ最も大きな川の河口部です。ヨシ原が発達しており、深みにはわずかなカキ殻などの硬質基質にオゴノリやアオサが付着しています。底質は基本的に石英や珪岩などが卓越する明色の砂泥で、場所により陸上植物砕屑物が多く混入したり、ヨシ原が幅広く残っている場所ではシルト・クレイ分が増えて底なし沼化しています。泥干潟おなじみのカニがひしめいています。

 甘めかつ基質の多様性が低い環境で、大型藻類上や堆積物中には植物基質寄りの自由生活ジェネラリスト,遊泳性グレーザー,表在底生グレーザー,硬質基質寄りの自由生活ジェネラリストが優占していました。顔ぶれは三番瀬や小櫃川河口に似ています。潮上帯転石下にはフナムシ属が優占し、ヨコエビは僅少でした。



 今回は、定量調査を補完しリストを充実させる意味合いで定性調査専任での参加でした。結論からいうと劇的な種数増には至りませんでしたが、フィールドの感じは何となく掴めてきたので是非ともリベンジしたいところです。もし松川浦という海域のインベントリを行う場合、燈火採集や硬質基質の要素が加われば、科~種の数はもう少し増やせそうです。もはや干潟のモニ1000ではありませんが。



おまけ:蒲生干潟

 環境省やWIJとは関係なく、地元で連綿と継承されてきた定量調査に同行しました。

過去の調査結果
文献 松政・栗原 (1988) Aikins and Kikuchi (2002) 近藤 (2017)
出現種 Grandidierella japonica, Corophium uenoi, Kamaka sp., Melita sp. Corophium uenoi, Grandidierella japonica, Eogammarus possjecticus, Melita setiflagella Monocorophium insidiosum, Grandidierella japonica


 なんと蒲生干潟には「カマカが出る」んですね。
 これはヨコエビストにとって垂涎ものなのですが(平たくいうと、この形態的にも系統的にも特異な科は生息地が限定的かつ体サイズが微小なため、おいそれとはお目にかかれないのです)、今回はダメでした。分布や生息環境を踏まえると、恐らくモリノカマカKamaka morinoiであろうと思います。宮城県のRDBにも掲載されていることですし。
 ウエノドロクダムシMonocorophium uenoiとトンガリドロクダムシM. insidiosumの是非についてここで掘り下げることは避けますが、これら文献における記述内容と今回の実地調査の結果を総合的に判断して、この地においてモノドロクダムシ属の形態種は2種いると解釈して差し支えないものと思います。


 水門を挟んで七北田川河口に接続した潟湖で、堤防の外側に陸上植生からヨシ原の連続性が維持されている奇跡的な場所です。奥部はきめ細かなシルト・クレイで、下るにつれ砂が卓越してきます。ヨシ原を縫い水門へ続く本流は、地盤高が下がるにつれて陸上植物の砕屑物が混ざった砂質からカキ殻の混じる富栄養砂泥へ変容します。本流は水門に近づくにつれ深さを増し、貧酸素化が顕著で三番瀬の澪筋を彷彿とさせます。



 潮廻りの関係か、植物基質寄りの自由生活ジェネラリストが大量に遊泳していて驚きました。底質中には造管性懸濁物食者がパッチ状に分布しており、潮上帯は海浜性種しか得られませんでした。

 調査範囲外だったため手を伸ばしていませんが、潟湖に加えて蒲生干潟の一部とされている七北田川河口の砂浜も、潟湖とはだいぶ様子がかなり違うのでなかなか面白そうです。

 


 東北の干潟をベントスの専門家と一緒にがっつり回るという経験は、かなり貴重でした。ベントス研究拠点としての東北大の将来が心配される中、石巻専修大の底力を目の当たりにしました。



<参考文献>

Aikins, S.; Kikuchi, E. 2002. Grazing pressure by amphipods on microalgae in Gamo Lagoon, Japan. Marine Ecology Progress Series245: 171–179.

Hirayama A.; Takeuchi I. 1993. New species and new Japanese records of the Gammaridea (Crustacea: Amphipoda) from Matsukawa-ura Inlet, Fukushima Prefecture, Japan. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 36(3):141–178.

環境省 2013. 平成24年度 モニタリングサイト1000 磯・干潟・アマモ場・藻場 調査報告書.

— 近藤智彦 2017. 東北地方太平洋沖地震と津波攪乱後の蒲生干潟 (宮城県) における底生生物の群集動態と優占種の生活史戦略(学位論文).

松政正俊・栗原康 1988. 宮城県蒲生潟における底生小型甲殻類の分布と環境要因.日本ベントス研究会誌33/34:33–41.

富川光 2013. 東日本大震災による津波が松川浦(福島県相馬市)の生物多様性に与えた影響の評価と環境回復に関する研究. 公益財団法人ソルト・サイエンス研究財団平成25年度助成研究報告書. pp.123–132.


2025年1月22日水曜日

書籍紹介『深海生物生態図鑑』(1月度活動報告)

 

 美しい写真が満載の書籍が出ました。



— 藤原義弘・土田真二・ドゥーグル・J・リンズィー(写真・文)2025.『深海生物生態図鑑』.あかね書房,東京.143 pp. ISBN:978-4-251-09347-9 

(以下,藤原ほか2025)


藤原ほか(2025)を読む

 さっそくですが、掲載されている端脚目は以下の通りです。

  • テンロウヨコエビ属の一種 Eusirus cuspidatus
  • ワレカラ属の一種 Caprella ungulina
  • ホテイヨコエビ科の一種 Cyproideidae gen. sp.
  • フトヒゲソコエビ上科の一種 Lysianassoidea (fam. gen. sp.)
  • テングウミノミ科の一種 Platyscelidae gen. sp.


 私はこのうち「フトヒゲソコエビ上科の一種」の同定に協力したのですが、こうして見ると学名の表記に難ありですね(括弧に補足しました)。申し訳ない。誰でも言えるような結果に落ちていますが、ちゃんと見るところは見た上で、全球を視野に手順に沿って検討しています。咬脚の形状などを総合的に判断してタカラソコエビ科かツノアゲソコエビ科のどちらかだと思いましたが、私の力量では写真同定には至りませんでした。機会があればいつか実物を確認して結論を出せればと思ってはいます。

 というか、こんな重厚な趣の本の本文中に同定責任者として載ることになるとは、思ってもみませんでした(巻末にちょろっと名前が出ればいいかなくらいのつもりでした)。個人的には、あらゆる出版物に正確なヨコエビの記述されること以外に興味はないつもりでいたのですが、さすがに少しビビりました。


 テンロウヨコエビ属が「海の掃除屋」と紹介されていますが、個人的にこの属をはじめとするテンロウヨコエビ科のかなりの部分は、死骸を食べる「スカベンジャー」よりも他の小さな生物を捕まえる「プレデター」という紹介が合っているではと思っています。確定的なことは何もいえませんが、Lörz et al. (2018) にそういった記述があるほか、同じ科のリュウグウヨコエビ属の一種 Rhachotropis abyssalis (Lörz et al. 2023)、ドゥルシベラ・カマンチャカ Dulcibella camanchaca なんか (Weston et al. 2024) は捕食性と推定されています。また、テンロウヨコエビ属は藤原ほか(2025)にもあるように咬脚がボクサーのような特殊な形状になっていて、これは可動域からみて、咬脚を突き出すのと同時に腕節の接続部が滑らかに動くことで、指節と前節を素早く閉じるような機構になっているのではと思います。この動きは捕食と関係しそうです。ただし、科は違いますが魚と思われる組織に混じって木屑や多毛類のような断片が消化管内から発見されている深海性ヨコエビもいる (Barnard, 1961) ので、死骸に集まるヨコエビの食性は実際のところかなり流動的なのだろうとも思います。

 ワレカラ属の一種は Takeuchi et al. (1989) で再記載されたりしており、界隈では少し名の知れた種かもしれません。本文中にあるように、複眼など生態写真ならではの情報が含まれているのは貴重です。


 見たところ藤原ほか(2025)に掲載された端脚目は全て固定前の写真のように見え、他の分類群も(詳しくないので推測ですが)多くが生時あるいは絶命して間もない個体を使用しているように見えます。「深海生物図鑑カレンダー」の定期購入者であればどこかで見たことのある写真もあるかもしれませんが、ハードカバーに厚口ページの堅牢製本で全面グラビアカラー印刷、これだけしっかり作られた大判の写真集で定価¥6,000-ですから、当方としてはものすごくお買い得に思えます(このサイズ感の学術図鑑だと2万はしそう)(比較対象がおかしい)

 「生態」図鑑と銘打ちつつ、ヨコエビの生態についてこれといった見解が示されていない部分は、読者によっては消化不良となりそうです。が、実際のところ学術研究がそこまで進んでないのでどうにも仕方ないです。一般層としてはやはり「何を食べているか」みたいな部分は生態情報として真っ先に興味の対象となる部分かと思うので、近縁種の情報からこのへんをもう少し引っ張ってきてもよかったかもしれません。もちろん科や属の中でも食性の幅はあるので、どこまで適用できるかは慎重になるべきとは思いますが。

 JAMSTECの研究者による執筆なので、最後に海洋汚染問題とそれに対して海洋研究が果たす役割や、一般読者が深海生物にアクセスできる方法なんかを紹介しています。ページを幾度も繰りながら深海生物の生き様に想いを馳せるのも一興、この本を入り口に深海生物推しの深みにはまっていくのもまた一興、といった造りになっています。



<参考文献>

Barnard, J. L. 1961. Gammaridean Amphipoda from depths of 400–6000 meters. Galathea Report, 5: 23–128.

Lörz​, A.-N.; Jażdżewska, A. M.; Brandt, A. 2018. A new predator connecting the abyssal with the hadal in the Kuril-Kamchatka Trench, NW Pacific. PeerJ, 6: e4887. 

Lörz, A. N.; Schwentner, M.; Bober, S.; Jażdżewska, A. M. 2023. Multi-ocean distribution of a brooding predator in the abyssal benthos. Scientidic Report, 13: 15867.

Takeuchi I.; Takeda M.; Takeshita K. 1989. Redescription of the Bathyal Caprellid, Caprella ungulina MAYER, 1903 (Crustacea, Amphipoda) from the North Pacific. Bulletin of The National Science Museum Series A (Zoology), 15(1): 19–28. 

Weston, J. N. J.; González, C. E.; Escribano, R.; Ulloa, O. 2024. A new large predator (Amphipoda, Eusiridae) hidden at hadal depths of the Atacama Trench. Systematics and Biodiversity, 22:1, 2416430. 

2024年12月27日金曜日

2024年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)

 

 今年もヨコエビの新種です。

 

※2017年実績
※2018年実績 
※2019年実績
※2020年実績
※2021年実績
※2022年実績
※2023年実績


  学名に付随する記載者については、基本的に論文中で明言のある場合につけています。

 

New Species of
Gammaridean Amphipods
Described in 2024

(Temporary list)

 

JANUARY 

Limberger, Castiglioni, and Santos (2024)

Hyalella jaboticabensis 

 ブラジルからヒアレラ科 Hyalellidae ヒアレラ属の1新種を記載。本文は有料。




FEB

Patro, Bhoi, Myers, and Sahu (2024)

Parhyale odian 

 インド・チリカ湖からモクズヨコエビ科 Hyalidae ミナミモクズ属の1新種を記載。オゴノリ属に付着するようです。本文は有料。



Mussini, Stepan, and Vargas (2024) 

Hyalella mboitui

Hyalella julia 

 パラグアイからヒアレラ属の2新種を記載。Hyalella mboitui の種小名は現地に伝わるグアラニー神話の7体の伝説の怪物の一つ・ボイトゥーテイに由来し、H. julia はパラグアイの生物多様性研究へ貢献したジュリオ・ラファエル・コントレラス氏への献名とのことです。大顎の形状が生息ニッチの違いを反映しているとの考察がなされています。ヒアレラ属をナミノリソコエビ科に含めていますが、現在のコンセンサスは独立したヒアレラ科に位置づけるべきと思います。本文は無料で読めます。




MARCH

Wang, Sha, and Ren (2024a) 

Stegocephalus carolus

 フクレソコエビ科 Stegocephalidae フクレソコエビ属の1新種を、ニューギニア島の北に位置する海山から記載。本文は無料で読めます。




APRIL

Xin, Zhang, Ali, Zhang, Li, and Hou (2024)

Sarothrogammarus miandamensis

Sarothrogammarus kalamensis 

 パキスタンの淡水域からヨコエビ科 Gammaridae の2新種を記載。本文は有料ですが、アブストにわりと細かな形態の記述があります。



Lee and Min (2024)

Pseudocrangonyx seomjinensis 

Pseudocrangonyx danyangensis

 韓国の河川間隙水的な環境からメクラヨコエビ科 Pseudocrangonyctidae メクラヨコエビ属の2新種を記載。形態の検討に加えて、28S rRNA と COI Mt DNA の解析を実施しているとのこと。本文は有料。



Ariyama and Kodama (2024)

リュウキュウマエアシヨコエビ Protolembos ryukyuensis 

ヘコミマエアシヨコエビ Tethylembos cavatus 

 日本近海よりユンボソコエビ科 Aoridae の2新種を記載。T. japonicus ニッポンマエアシヨコエビの生態写真および線画も掲載。そして、何といっても日本産ユンボソコエビ科34種の検索表が載ってる超有用文献です。本文は有料。



Lörz, Nack, Tandberg, Brix, and Schwentner (2024)

Halirages spongiae

 アイスランドの低温海域において海綿表面から得られたウラシマヨコエビ科 Calliopiidae の1新種を記載。9種の検索表を提供。本文は無料で読めます。



Navarro‑Mayoral, Gouillieux, Fernandez‑Gonzalez, Tuya,  Lecoquierre, Bramanti, Terrana, Espino, Flot, Haroun, and Otero‑Ferrer (2024)

Wollastenothoe minuta Gouillieux & Navarro-Mayoral, 2024

 カナリー諸島の水深60mに自生するサンゴに付着するタテソコエビが、新属新種として記載されました。タテソコエビ科 Stenothoidae の属までの二又式検索表が掲載されていてかなり有用です。本文まで無料で読めます。




MAY

Thacker, Myers, Trivedi, and Mitra (2024)

Parhyale kalinga

Chilikorchesta chiltoni 

Grandidierella rabindranathi 

    インドのチリカ湖から3新種と、ハマトビムシ上科 Talitroidea の1新属を記載。アブストに形態の記述がわりとしっかり記されています。本文は有料。



Ahmed, Kamel, Maher, and Zeina (2024)

Pontocrates longidactylus Ahmed, Kamel, Maher & Zeina, 2024

 エジプトからクチバシソコエビ科 Oedicerotidae ハサミソコエビ属の1新種を記載。投稿時点の既知種6種の2又式検索表を提供しています。2024年12月2日現在、本文は無料で読めます。




JUNE

Kaim-Malka (2024)

Paranamixis fishelsoni 

 地中海からマルハサミヨコエビ科 Leucothoidae タンゲヨコエビ属 Paranamixis の1新種を記載。本属において地中海からの記録は初めてとのことです。半世紀のキャリアをもつレジェンド仏人研究者の独り親方仕事です。本文は有料。



Mirghaffari and Esmaeili-Rineh (2024) 

Niphargus elburzensis 

Niphargus zagrosensis 

 イランから ニファルグス属 Niphargus の2新種を記載。形態と分子を見ています。配列はCOI領域と28S領域を見ているようです。本文は無料で読めます。



Ortiz, Winfield, and Chazaro-Olvera (2024)

Pseudorhachotropis longipalpus

 メキシコ湾水深2,321mの海底からテンロウ科 Eusiridae の新属を記載。本文は有料。



Garcia Gómez, Myers, Avramidi, Grammatiki, Ⅼymperaki, Resaikos, Papatheodoulou, Ⅼouca, Xevgenos, and Küpper (2024)

Pontocrates marmario Garcia Gomez & Myers, 2024

 キプロスからクチバシソコエビ科ハサミソコエビ属の1新種を記載。記載図の大部分を、染色した標本の透過光写真で表現しています。地中海のハサミソコエビ属の検索表を提供。2024年6月25日現在、無料で読めます。



Tandberg and Vader (2024)

Stenula traudlae

 ブリティッシュコロンビアから、クダウミヒドラ科に付着するタテソコエビ科の記載。世界に産する Stenula属 17種 と Metopa属 2種 の検索表を提供しています。2024年8月3日現在無料で読めます。




JULY

Giulianini, De Broyer, Hendrycks, Greco, D’Agostino, Donato, Giglio, Gerdol, Pallavicini, and Manfrin (2024)

Orchomenella rinamontiae 

 南極からタカラソコエビ科 Tryphosidae ツノフトソコエビモドキ属の1新種を記載。COI領域を解析しています。形態の記述において、マイクロCTによって得られた3D画像を”デジタルホロタイプ”とするポテンシャルを提示しています。本文は有料ですが、研究内容を紹介した記事がタダで読めます。



Baytaşoğlu, Aksu, and Özbek (2024)

Gammarus sezgini 

 トルコからヨコエビ科ヨコエビ属の1新種を記載。形態の観察に加えて、COI領域と28S領域の解析を行っています。本文は無料で読めます。



Thacker, Myers, and Trivedi (2024) 

Maera gujaratensis

Quadrimaera okha

 インドのグジャラート州からスンナリヨコエビ科 Maeridae の4属の2新種と2既知種を報告。Coleman method を踏襲したスケッチの出来がイマイチで見栄え云々どころでなく信用性に欠けると思われる部分があるのと、文中において可算名詞が正しく複数形表記されてないといった英文法の誤りがあったり、亜属の括弧がイタリックになっているなど「キホンのキ」に問題があり、読んでいると頭が痛くなります。こういった恥ずかしい論文を世に出さないよう、精進していきたいところです。本文は有料。



Pérez-Schultheiss, Fernández, and Ribeiro (2024)

Atacamorchestia atacamensis

Lafkenorchestia oyarzuni 

 チリーからハマトビムシ科 Talitridae の2新属2新種を記載。また、太平洋南東岸から初めてヒメハマトビムシ属 Platorchestia を報告。本文は有料。



Nascimento and Serejo (2024)

Halicoides campensis 

Halicoides iemanja

 大西洋南西域からミコヨコエビ科 Pardaliscidae の2種を記載。ブラジル沖からの本属の記録は初のとのことです。本文は有料。



Ariyama (2024)

オウギヨコエビモドキ Curidia japonica 

 和歌山から北西太平洋初記録科の1新種を記載。Ochlesidae に オウギヨコエビ科,Curidia に オウギヨコエビモドキ属 との和名を提唱。この科はスベヨコエビ科がシノニマイズされた経緯があります(詳細はこちら。本文は無料で読めます。




AUGUST

SOSA et al. (2024)

Cuniculomaera grata Tandberg & Jażdżewska in SOSA et al. 2024

 ベーリング海から、海底に特徴的な巣穴を作るスンナリヨコエビ科の新属新種を記載。オープンアクセスで、一緒に発見された他の分類群の10もの新種が一緒に記載されています。また、その興味深い生態を解き明かした論文 (Brandt et al. 2023) も今のところ無料で読めます。



Bhoi, Myers, Kumar, and Patro (2024)

Floresorchestia odishi Bhoi, Patro and Myers in Bhoi, Myers, Kumar, and Patro, 2024

 インドのチリカ・ラグーンの潮間帯のオゴノリ属の間から、ハマトビムシ科の新種が記載されたようです。何がとは言いませんが、品質が悪いです。本文は有料です。



Stewart, Bribiesca-Contreras, Weston, Glover, and Horton (2024)

Valettietta synchlys

Valettietta trottarum

 太平洋の4,000m以深の深海域から Valettiopsidae科 の2新種を記載。形態の検討に加え、フトヒゲソコエビ類12属の配列情報を用いた分子系統解析を行っていますが、Alicelloidea(ダイダラボッチ上科?)の単系統性は否定されています。本文は無料で読めます(2024年8月現在)。



Kim, Choi, Kim, Im, and Kim (2024) 

Aoroides gracilicrus

Grandidierella naroensis 

 韓国からユンボソコエビ科の2新種を記載。韓国産ユンボソコエビ科9種の検索表を提供。本文は無料で読めます。



Kodama, Mukaida, Hosoki, Makino, and Azuma (2024)

ナンセイソコエビ Podoceropsis nanseiae 

 鹿児島湾からクダオソコエビ科 Photidae の1新種を記載。Podoceropsis属 に ソコエビモドキ属 との和名を提唱しています。鹿児島大がシンプルなプレリリを出しています。本文は無料で読めます(2024年8月現在)。


Hosein, Zeina, Kawy, ElFeky, and Omar (2024)

Vasco amputatus 

 エジプトの紅海沿岸からヒサシソコエビ科 Phoxocephalidae の1新種を記載。充実した背景情報の記述と精緻なスケッチ、分布情報まで添えてある作り込まれた論文ですが、あらゆる表記で本種の種小名の1文字目が大文字となっており(既知種においては正常の表記)、大変気味が悪いです。本文は無料で読めます。



Stoch, Knüsel, Zakšek, Alther, Salussolia, Altermatt, Fišer, and Flot (2024) 

Niphargus absconditus

Niphargus tizianoi 

 ルーマニアからニファルグス属の2新種を記載。カルパチア山脈の一角の個体群とアルプスの個体群が N. bihorensis の隠蔽種にあたることを遺伝的手法により確認した研究で、この種のタイプ標本をもとに再記載も行って分類学的混乱の整理を試みています。本文は無料で読めます(2025年2月現在)



SEPTEMBER

Mamaghani-Shishvan, Akmali, Fišer, and EsmaeiliRineh (2024)

Niphargus sahandensis

Niphargus chaldoranensis 

 イランからニファルグス属の2新種を記載。形態とCOI領域の解析を併用しています。本文は無料で読めます(2024年12月現在)



Wang, Sha, and Ren (2024b) 

Phoxirostus longicarpus

Phoxirostus yapensis 

 Laphystiopsidaeというレアな科を太平洋の熱帯域から報告。Phoxirostus属を設立するとともに2種を記載。「頭頂が尖っている」という意味の属名ですが、近縁種を見渡しても突出はそれほど目立ちません。Laphystiopsidae科の4属の検索表を提供。本文まで無料で読めます。



Souza-Filho, Guedes-Silva, and Andrade (2024)

Adeliella debroyeri

Tectovalopsis potiguara

Epimeria colemani

Alexandrella cedrici

 ブラジル北東部のPotiguar海盆から4新種を記載。4種中1種の種小名は地名に由来、3種がヨコエビ界隈の著名な西側研究者(フランスのクロード・ドゥブロワイエ,ベルギーのセドリック・デュデケム・ダコ,ドイツのチャールズ・オリバー・コールマン)に献名されています。本文は有料。



Tomikawa, Yamato, and Ariyama (2024)

パンダメリタヨコエビ Melita panda 

 NHKの特集でスケッチがチラ見せされたり、広大の図書館に原画が展示されたり、じわじわ盛り上がっていたメリタヨコエビ科 Melitidae メリタヨコエビ属の新種がついに記載されました。海外のサイトでも取り上げられていますね。

 そうとしか言いようのない模様から、かねてよりヨコエビストの間で「パンダメリタ」と呼ばれていた集団の一部です。タイプ産地は卓越したジャイアントパンダの繁殖技術をもつ某動物園の近くであるため、これも必然的な帰着の命名といえるでしょう。あまりに出来すぎていることから「人為的にパンダ模様にしたものではないか」という陰謀論さえ飛び交っているようですが、たとえ写真でもジャイアントパンダを見たことがあれば本種の体色が厳密には「パンダ柄」ではなく「逆パンダ柄」であることに気づかないはずはなく、また白浜だけに棲息するものでもないことから、パンダ模様に染められたなどという妄言には一顧だにする価値もないことは言うまでもありません(そういう意味では、狙って白浜産標本をタイプに指定したように思えます)(知らんけど)

 形態的にはカギメリタヨコエビに近いようですが、体色のほかにオスの第1咬脚前節前縁の突出部に大きな特徴があります。また、有山 (2022) に掲載されているパンダ感のある未記載種 Melita sp. 2 とは、第3尾肢外肢の節数で識別が可能です。

 第二著者にメリタヨコエビ類の大家である大和茂之先生が入っており、しばらくヨコエビの記載研究をお休みされていた大和先生の復帰作という点でも非常に話題性のある論文といえます。無料で読めます。




DECEMBER

Copilaş-Ciocianu, Prokin, Esin, Shkil, Zlenko, Markevich, and Sidorov (2024) 

Palearcticarellus hyperboreus Sidorov & Copilaş-Ciocianu, in Copilaş-Ciocianu et al., 2024

Pseudocrangonyx elgygytgynicus Sidorov & 

Copilaş-Ciocianu, in Copilaş-Ciocianu et al., 2024

 ロシアのエリギギトギン湖からマミズヨコエビ科 Crangonyctidae の1新種を記載。ミトコンドリアCOI,核16S,ヒストンH3,18S,28Sの領域を用いてマミズヨコエビ科やメクラヨコエビ科を含む Crangonyctoidea上科(マミズヨコエビ上科?)の系統関係を解析するとともに、地理的イベントとの整合性も示しています。本文は有料。



Weston, González, Escribano, and Ulloa (2024)

ドゥルシベラ・カマンチャカ Dulcibella camanchaca 

 アタカマ海溝からテンロウ科の1新種を記載。新しいタイプの捕食性種ということで、力を入れて生態特性の推定をしています。物見高いサイトが虚飾織り交ぜて取り上げていましたが、本当の研究内容を知りたい場合カラパイアの書き方が一番誤解が少ないと思います。本文は無料で読めます。



Choi and Kim (2024)

Melita aestuarina

 韓国からメリタヨコエビ属の1新種を記載。”シミズメリタヨコエビ”についても韓国から初報告しています。本文は有料。



Stoch, Citoleux, Weber, Salussolia, and Flot (2024)

Niphargus quimperensis 

 ブリュターニュからニファルグス属の1新種を記載。科全体の分子系統解析を行い、Niphargellus属をニファルグス属の新参シノニムとしています。本文は有料。



Labay (2024)

Vonimetopa longimana 

 樺太からタテソコエビ科の1新種を記載。Vonimetopa属6種の二又式検索表を提供。本文は無料で読めます(2024年12月現在)。


 というわけで、54 56 58が記載されたようです。



<参考文献>

Ahmed, Y. S.; Kamel, R. O.: Maher, S.; Zeina, A. F. 2024. New Species of Genus Pontocrates Boeck, 1871 (Amphipoda: Oedicerotidae) from the Red Sea Soft Bottom Substrates, Egypt. Egyptian Journal of Aquatic Biology and Fisheries28(3): 257–267.

Ariyama H. 2024. Curidia japonica sp. nov., the First Species of the Family Ochlesidae from the Northwest Pacific (Crustacea: Amphipoda). Species Diversity29(2): 199–207.

Ariyama H.; Kodama M. 2024. Three species of the family Aoridae Stebbing, 1899 (Crustacea: Amphipoda) collected from remote islands in southern Japan, with a key to all Japanese species of the family. Zootaxa, 5433(4): 500–528.

Baytaşoğlu, H.; Aksu, İ.; Özbek, M. 2024. Gammarus sezgini sp. nov. (Arthropoda, Amphipoda, Gammaridae), a new amphipod species from the Eastern Black Sea region of Türkiye. Zoosystematics and Evolution, 100(3): 989–1004. 

Bhoi, G.; Myers, A. A.; Kumar, R. K.; Patro, S. 2024. A new species of the genus Floresorchestia (Crustacea, Amphipoda, Talitridae) from Chilika Lagoon, east coast of India. Zootaxa, 5493 (5): 590–598.

Choi J.-H.; Kim Y.-H. 2024. A new species of the genus Melita (Crustacea, Amphipoda, Melitidae) and a new record for Melita shimizui from Korean Brackish Waters. Zootaxa, 5551(3): 512–530.

Copilaş-Ciocianu, D.; Prokin, A.; Esin, E.; Shkil, F.; Zlenko, D.; Markevich, G.; Sidorov, D. 2024. The subarctic ancient Lake El’gygytgyn harbours the world’s northernmost ‘limnostygon communityʼ and reshuffles crangonyctoid systematics (Crustacea, Amphipoda). Invertebrate Systematics, 38: IS24001. 

Do Nascimento, P. S.; Serejo, C. S. 2024. New findings of the family Pardaliscidae from the southwestern Atlantic: the genus Halicoides Walker, 1896. Zootaxa, 5481(5): 501–519.

Garcia Gómez, S. C.; Myers, A. A.; Avramidi, E.; Grammatiki, K.; Ⅼymperaki, M. M.; Resaikos, V.; Papatheodoulou, M.; Ⅼouca, V.; Xevgenos, D.; Küpper, F. 2024. A new species of Pontocrates Boeck, 1871 (Crustacea, Amphipoda, Oedicerotidae) from Cyprus. Zootaxa5474(1): 59–67.

Giulianini, P. G.; De Broyer, C.; Hendrycks, E. A.; Greco, S.; D’Agostino, E.; Donato, S.; Giglio, A.; Gerdol, M.; Pallavicini, A.; Manfrin, C. 2024. A new Antarctic species of Orchomenella G.O. Sars, 1890 (Amphipoda: Lysianassoidea: Tryphosidae): is phase-contrast micro-tomography a mature technique for digital holotypes? Zoological Journal of the Linnean Society, 201(3): zlae075. 

Hosein, S. G.; Zeina, A. F.; Soheir Abdel Kawy, S. A.; ElFeky, F. A.; Omar, N. R. 2024. A New Species of Vasco, Barnard and Drummond (1978) (Amphipoda:Phoxocephalidae) from the Egyptian Red Sea Coast. Egyptian Journal of Aquatic Biology & Fisheries, 28(4): 1643–1654.

Kaim-Malka, R. M. 2024. A new species of the family Leucothoidae (Crustacea, Amphipoda) from the Mediterranean Sea, Paranamixis fishelsoni sp. nov. Zootaxa, 5463(3): 441-450.

— Kodama M.; Mukaida Y.; Hosoki T. K.; Makino F.; Azuma T. 2024. A new species of the genus Podoceropsis Boeck, 1861 (Crustacea: Amphipoda: Photidae) from Kagoshima Bay, Japan. Plankton & Benthos Research19(3): 141–152.

Labay, V. S. 2024. Vonimetopa longimana sp.n. (Crustacea: Amphipoda: Stenothoidae), a new amphipod species from the Russian coasts of the Sea of Japan. Arthropoda Selecta, 33(4): 527–535.

— Lee C.-W.; Min G.-S. 2024. Two new species of Pseudocrangonyx (Amphipoda: Pseudocrangonyctidae) from the hyporheic zones in South Korea. Zootaxa5433(2): 249–265.

— Limberger, M.; Castiglioni, D. S.; Santos, S. 2024. Description of one species of freshwater amphipod Hyalella (Crustacea, Peracarida, Hyalellidae) from the northwest region of the state of Rio Grande do Sul, Southern Brazil. Zootaxa, 5403(3): 331–345.

Lörz, A.-N.; Nack, M.; Tandberg, A.-H.S.; Brix, S.; Schwentner, M. 2024. A new deep-sea species of Halirages Boeck, 1871  (Crustacea: Amphipoda: Calliopiidae) inhabiting sponges. European Journal of Taxonomy930: 53–78.

Mamaghani-Shishvan, M.; Akmali, V.; Fišer, C.; EsmaeiliRineh, S. 2024. Two New Species of Stygobiotic Amphipod Niphargus (Amphipoda: Niphargidae) and their Phylogenetic Relationship with Other Congeners from Iran. Zoological Studies, 63:e23.

Mirghaffari, S. A.; Esmaeili-Rineh, S. 2024. Two new species of groundwater-inhabiting amphipods belonging to the genus Niphargus (Arthropoda, Crustacea), from Iran. Zoosystematics and Evolution, 100(2): 721–738. 

Mussini, G.; Stepan, N. D.; Vargas, G. 2024. Two new species of Hyalella (Amphipoda, Dogielinotidae) from the Humid Chaco ecoregion of Paraguay. ZooKeys, 1191: 105–127.

Navarro‑Mayoral, S; Gouillieux, B.; Fernandez‑Gonzalez, V.; Tuya, F.; Lecoquierre, N.; Bramanti, L.; Terrana, L.; Espino, F.; Flot, J.-F.; Haroun, R.; Otero‑Ferrer, F. 2024. “Hidden” biodiversity: a new amphipod genus dominates epifauna in association with a mesophotic black coral forest. Coral Reefs

Ortiz, M.; Winfield, I.; Chazaro-Olvera, S. 2024. A new genus and species of Eusiridae (Crustacea, Amphipoda, Amphilochidea) from bathyal sediments off the southwestern Gulf of Mexico. Zootaxa, 5468(3): 569–580.

Patro, S.; Bhoi, G.; Myers, A. A.; Sahu, S. 2024. A new species of amphipod of the genus Parhyale Stebbing, 1897 from Chilika Lagoon, India. Zootaxa, 5410(3): 376–383.

Pérez-Schultheiss, J.; Fernández, L. D.; Ribeiro, F. B. 2024. Two new genera of coastal Talitridae (Amphipoda: Senticaudata) from Chile, with the first record of Platorchestia Bousfield, 1982 in the southeastern Pacific coast. Zootaxa, 5477(2): 195–218.

SOSA; Brandt, A.;, Chen, C.; Engel, L.; Esquete, P.; Horton, T.; Jażdżewska, A. M.; Johannsen, N.; Kaiser, S.; Kihara, T. C.; Knauber, H.; Kniesz, K.; Landschoff, J.; Lörz A.-N.; Machado, F. M.; Martínez-Muñoz, C. A.; Riehl, T.; Serpell-Stevens, A.; Sigwart, J. D.; Tandber,g A. H. S.; Tato, R.; Tsuda M.; Vončina, K.; Watanabe H. K.; Wenz, C.; Williams, J. D. 2024. Ocean Species Discoveries 1–12 — A primer for accelerating marine invertebrate taxonomy. Biodiversity Data Journal, 12: e128431. 

Souza-Filho, J. F.; Guedes-Silva, E.; Andrade, L. F. 2024. Four new species and two new records of deep-sea Amphipoda (Crustacea: Peracarida) from Potiguar Basin, north-eastern Brazil. Journal of Natural History, 58(41–44): 1615–1655.

Stewart, E. C. D.; Bribiesca-Contreras, G.; Weston, J. N. J.; Glover, A. G.; Horton, T. 2024. Biogeography and phylogeny of the scavenging amphipod genus Valettietta (Amphipoda: Alicelloidea), with descriptions of two new species from the abyssal Pacific Ocean. Zoological Journal of the Linnean Society, 201, zlae102.

Stoch, F.; Citoleux, J.; Weber, D.; Salussolia, A.; Flot, J.-F. 2024. New insights into the origin and phylogeny of Niphargidae (Crustacea: Amphipoda), with description of a new species and synonymization of the genus Niphargellus with Niphargus, Zoological Journal of the Linnean Society, 202(4). zlae154. 

Stoch, F.; Knüsel, M.; Zakšek, V.; Alther, R.; Salussolia, A.; Altermatt, F.; Fišer, C.; Flot, J.-F. 2024. Integrative taxonomy of the groundwater amphipod Niphargus bihorensis Schellenberg, 1940 reveals a species-rich clade. Contributions to Zoology, 93(4): 371–395.

Tandberg, A. N. S.; Vader, W. 2024. Description of a new species of Stenula Barnard, 1962 (Amphipoda: Stenothoidae) from British Columbia, Canada associated with Bouillonia sp. (Cnidaria: Hydrozoa: Tubulariidae), with a key to the world species of StenulaJournal of Crustacean Biology, 44, ruae036.

Thacker, D.; Myers, A. A. Trivedi, J. N. 2024. On a small collection of Maeridae Krapp-Schickel, 2008 (Crustacea: Amphipoda) from Gujarat, India. Zootaxa, 5474(5): 563–583.

Thacker, D.; Myers, A. A.; Trivedi, J. N.; Mitra, S. 2024. On a small collection of amphipods (Crustacea, Amphipoda) from Chilika Lake with the description of three new species and a new genus. Zootaxa, 5446(3): 383-404.

Tomikawa K.; Yamato S.; Ariyama H. 2024. Melita panda, a new species of Melitidae (Crustacea, Amphipoda) from Japan. ZooKeys, 1212: 267–283. 

Wang Y.; Sha Z.; Ren X. 2024a. One new species of Stegocephalus Krøyer, 1842 (Amphipoda, Stegocephalidae) described from a seamount of the Caroline Plate, NW Pacific. ZooKeys, 1195: 121–130. 

—  Wang Y.; Sha Z.; Ren X. 2024b. Taxonomic exploration of rare amphipods: A new genus and two new species (Amphipoda, Iphimedioidea, Laphystiopsidae) described from seamounts in the Western Pacific. Diversity, 16(9): 564pp. 

Weston, J. N. J.; González, C. E.; Escribano, R.; Ulloa, O. 2024. A new large predator (Amphipoda, Eusiridae) hidden at hadal depths of the Atacama Trench. Systematics and Biodiversity, 22:1, 2416430. 

Xin W.; Zhang C.; Ali, A.; Zhang X.; Li S.; Hou Z. 2024. Two new species of Sarothrogammarus (Crustacea, Amphipoda) from Swat Valley, Pakistan, Zootaxa, 5432(4): 509–534.


<その他参考文献>

有山啓之 2022.『ヨコエビ ガイドブック』.海文堂,東京.160頁.ISBN 9784303800611.

Brandt, A.; Chen, C.; Tandberg, A. H. S.; Miguez-Salas, O.; Sigwart, J. D. 2023. Complex sublinear burrows in the deep sea may be constructed by amphipods. Ecology and Evolution, 13: e9867. 


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<補遺>28-xii-2024

— Copilaş-Ciocianu, Prokin, Esin, Shkil, Zlenko, Markevich, Sidorov (2024) を追加


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<補遺2>17-ii-2025

— Stoch, Knüsel, Zakšek, Alther, Salussolia, Altermatt, Fišer, and Flot (2024) を追加 

2024年1月21日日曜日

原画展(1月度活動報告)

  広島大学でヨコエビの展示があるとの情報を掴み、日帰りで突撃してみました。


広島大学です。

 その道では知らぬ者のいないヨコエビのメッカで、毎年何本も記載論文が出ています。


広島大学中央図書館です。


地域・国際交流プラザです。

 この「ヨコエビの系統分類学的研究とその成果の書籍化」は、去年出版された『ヨコエビはなぜ横になるのか』に関連する展示で、著者の富川先生が担当されているそうです。


 基本的には、書籍やネット記事や一般向け講演の内容がコンパクトにまとめられ、ポスター化されていますが、「書籍化による研究内容の周知の意義」といった新しい切り口です。

 学生さん手作りと思われる世界地図にヨコエビの写真が貼り付けられているのはなかなかかわいかったです。

 標本はジンベエドロノミPodocerus jinbe,オオエゾヨコエビJesogammarus jesoensis,アケボノツノアゲソコエビAnonyx eous,ヒゲナガハマトビムシTrinorchestia trinitatis,ヒロメオキソコエビEurythenes aequilatusの5種で、うち2種が富川先生が関わって記載されたものになります(Narahara-Nakano, Nakano, & Tomikawa, 2017; Tomikawa, Yanagisawa, Higashiji, Yano, & Vader 2019)。ヒロメオキソコエビのインパクトは抜群。


ヒゲナガハマトビムシは…よくわかりませんでした。
trinitatis/longiramus問題についてはこちら

 また、シツコヨコエビJesogammarus acalceolusParonesimoides calceolus,アカツカメクラヨコエビPseudocrangonyx akatsukaiの直筆原画と原記載論文(Tomikawa & Nakano 2018; Tomikawa & Kimura 2021; Tomikawa, Watanabe Kayama, Tanaka, & Ohara 2022)、そして”例のパンダメリタ”の直筆原画の展示。ほとんどホワイトを入れず一気に全身図を描ききる技が工芸品や絵画の職人そのものです。

 

 「原画展」というとマンガでは一般的でしょうか。一方、分類に携わる人間として、記載論文に使われたスケッチの実物を見られるというのは、その実物の貴重さのみならず、テクニックの一端を見られるという実利があります。私は記憶の限り一発で線画の墨入れをできたためしがないのですが、手直しするには余計な時間がかかるので、一発で仕上げるというのは芸術的なスキルだけでなく、効率的な記載図の生産という部分を考えずにはいられませんでした。


 展示は1月いっぱいまでとのこと。無料で誰でも見れます。



<参考文献>

Narahara-Nakano Y.; Nakano T.; Tomikawa K. 2018. Deep-sea amphipod genus Eurythenes from Japan, with a description of a new Eurythenes species from off Hokkaido (Crustacea: Amphipoda: Lysianassoidea). Marine Biodiversity, 48(1): 603–620.

富川光 2023. 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』. 広島大学出版会, 東広島. 198pp. ISBN:978-4-903068-59-6

Tomikawa K.; Kimura N. 2021. On the Brink of Extinction: A new freshwater amphipod Jesogammarus acalceolus (Anisogammaridae) from Japan. Zookeys, 1065: 81–100.

Tomikawa K.; Nakano T. 2018. Two new subterranean species of Pseudocrangonyx Akatsuka & Komai, 1922 (Amphipoda: Crangonyctoidea: Pseudocrangonyctidae), with an insight into groundwater faunal relationships in western Japan. Journal of Crustacean Biology, ruy031.

Tomikawa K.; Watanabe Kayama H.; Tanaka K.; Ohara Y. 2022. Discovery of a new species of Paronesimoides (Crustacea: Amphipoda: Tryphosidae) from a cold seep of Mariana Trench. Journal of Natural History, 56(5–8): 463–474.

Tomikawa K.; Yanagisawa M.; Higashiji T.; Yano N.; Vader, W. 2019. A new species of Podocerus (Crustacea: Amphipoda: Podoceridae) associated with the Whale Shark Rhincodon typus. Species Diversity, 24: 209–216. 

2023年8月5日土曜日

海(8月度活動報告)

 

 今年の科博の夏休みのやつは「海」とのこと。海といえば当然ヨコエビが関わってくるわけで、覗いてきました。


 なかなかの人手です。


涼しげな看板


 生物の紹介パートに入って、いきなり海洋における線虫の暴力的な多様性が提示されました。もう他の多細胞生物のことがどうでもよくなってしまうレベルです。陸上にそのまま当てはまるものではないですが、いやはや、恐ろしい。


線虫すごいぜ



いました

 これらのヨコエビの画像はネットで散々見ていますが、今回の標本は固定方法なのかライティングなのか、節々の細部までかなり観察しやすく、身体の構造が非常にわかりやすいです。いつも置いてあるだけで御の字だったヨコエビですが、今回は実利として大満足です。それにしても、ダイダラボッチの第2,3尾節背面にある凹みというか2本の強いキールは、一体どんな機能を有しているのでしょう。



ヨコエビの視点(ハイパードルフィン)



ヨコエビの視点(ベイトランダー)


ダイダラボッチの群れ


 とりあえずダイダラボッチを買ってきました。


PN:胸節;PS:腹節;US:尾節;CX:底節板


 全体的に背腹扁平の作りになっていて、あまりヨコエビ感はありません。ぬいぐるみとして側方に平べったいのはちょっと親しみにくい部分もあるので、そういった設計なのではと思います。
 まず体節ですが、頭部のほか胸節7節と腹節3節に加えて、尾節が2節という編成のようです。実際のダイダラボッチは尾節が3節ありますが、互いに被っている部分がありそういったビジュを表現したものと思われます。
 胸脚は7対あり、身体にくっついている底節板と概ね対応しています。これは実際のダイダラボッチと同じですが、第5底節板が異常に大きく、それ以降も、第1~4底節板と同じ深さになっています。また、第6胸節の下に潜り込んだ第7胸節の下から第6・第7底節板が生じており、これは現実のヨコエビの体制からは明らかに逸脱しています。
 二又の付属肢が、第3腹節と第1尾節から1対ずつ生じていますが、実際のヨコエビにおいて腹肢と尾肢は形状が違います。これは恐らく第1尾肢と第2尾肢を表現したもので、この5節になっている尾体部というのは、尾節をオミットしたというより、腹節をオミットしたのかもしれません。その後ろには3対の三角形の棘を有したフリルがありますが、もしかすると尾端にある二又の尾節板と、それに続く二又の第3尾肢を表現しているのかもしれません。
 

 そしてもう一つ、猿田彦珈琲から出ている「超深海ブレンド」。1箱に5袋入っていますがそのうち2つがカイコウオオソコエビとダイダラボッチという、ちょっと正気ではない編成です。6,000m以深に住んでる目に見えるサイズの動物がそんなもんなので、当然の帰着かもしれません。


※深海生物由来の成分は含まれません


5袋中2袋がヨコエビという異常グッズ。


他の3袋はこれ。


 猿田彦といえば天狗のような風貌の国津神ですが、今後はテングヨコエビをモチーフにしたコーヒーなんかを作ってくれないですかね(無理筋)。


 ヨコエビ成分は少なく、また今日は混みまくっていてじっくり見れていない部分もありますが、副題の「生命のみなもと」に内包される多様な意味合いが興味深い構成となっていました。まだの方はぜひ足を運んでみてください。


 

<おまけ>


いつもの。

 Gammarus sp. とありますが、どう見ても Hyalella あたりなんですよね。


2023年3月27日月曜日

書籍紹介『深海の生き物超大全』(3月度活動報告その3)


 最近フィールドに出ていないこともあり書籍紹介が続いています。

 今回は『深海の生き物超大全』(以下、石井 2022)です。

 こういった書物も昔は片っ端から目を通していたのですが、ヨコエビに関して押並べて洗練される気配がないこともあってしばらくスルーしてました。


359ページにわたって
全613種のオリジナルカラーイラストが載って2600円。
正気の沙汰ではありません。 


 タイトルや帯からして良い子のための教養書といった趣ですが、開いてみると単なる子供向けでないことがわかります。ルビが振ってあるわけでもなく、高校生以上対象の一般書を意図しているようです。


 掲載端脚類は以下の通りです(登場順)。

  • キタノコギリウミノミ Scina borealis
  • オオタルマワシ Phronima sedentaria
  • オニノコギリヨコエビ Megaceradocus gigas
  • マルフクレソコエビ Stegocephalus inflatus
  • エピメリア ルブリエキュエス Epimeria rubrieques
  • カイコウオオソコエビ Hirondellea gigas
  • プリンカクセリア ヤミエソニ Princaxelia jamiesoni
  • ダイダラボッチ Alicella gigantea
  • オオオキソコエビ Eurythenes gryllus
  • カプレラ ウングリナ Caprella unglina
  • アビソドデカス スティクス Abyssododecas styx


 帯でも謳っていますが、一般書にカラーイラストとして登場したことがなさそうな種がかなり含まれています。

 この著者、どうやら二足の草鞋系イラストレーターらしいのですが、これだけの原稿を分筆せずまとめ上げるというのは只事ではありません。また当然端脚類の専門家ではないはずですが、少なくともここ10年くらいの分類体系・生態学的知見などを過不足なく把握していて、浮ついた誇張やこれといって間違った記述はみられませんでした。そのリサーチ力や記述力に驚かされます。類書の中で指折りの労作といえるでしょう。


 帯に同じ科がまとまっていて比較しやすいとありますが、目はことごとくバラバラになっています。生息環境ごとの章立てゆえ仕方ない部分もありますが、ページのデザイン上、目はかなり軽視されており、マイナー分類群を追いにくい構成となっています。

 分類群の名称については 石井 (2022) が出版された7月22日の1か月以上前(6月5日付)に「Eurytheneidae科」にはオキソコエビ科,「パルダリシダ科」にはミコヨコエビ科との和名が提唱されていますが(有山 2022)、反映させる術はなかったと思われますので、仕方のないことです。

 イラストは精密ですがあくまでインプレッション優先で描かれていて、第1触角の副鞭があり得ない場所から生えているように見えたり底節や基節の表現が一定しないなど、真に受けてはいけないポイントもあります。正確な姿を知りたい方は然るべき文献にあたるべきです。

 また、学名の仮名表記は独自に考えられたものでコンセンサスのあるものではなく、例えば E. rubrieques の種小名は「紅色+騎手/騎士」に由来するはずなので、読みは「ルブリエキュエス」より「ルブリエクェス」といった感じになるのではと。

 冒頭で最新の知見をもとにしていると言いつつ参考文献が皆無であること、(ヨコエビ以外でですが)属名の頭文字が小文字になっているところがあるなど生物学の書物として読む上での危うさや、「触角」をずっと「触覚」と表記しているなどエディタについても脇の甘さは気になるところです。


 昨今の二足の草鞋系クリエーターの勢いを象徴する一冊かと思います。どのくらい売れたのかは知りませんが、こういった量こそ質みたいな狂気の作品が出版されるのは喜ばしいことです。



<参考文献>

— 有山啓之 2022.『ヨコエビ ガイドブック』. 海文堂,東京.160 pp. [ISBN: 9784303800611]

— 石井英雄 2022.『深海の生き物超大全』.彩図社,東京.359 pp. [ISBN: 9784801305861]


2021年7月31日土曜日

ヨコエビの寿司性に就ひての一考察(7月度活動報告)

 

  最近、アクアマリンふくしまのツイートがバズっていますね。

  展示している「ヒロメオキソコエビ」「ウオノシラミ属の一種」(しらみちゃん)が寿司に見えるという話で、過去に一世を風靡したカイコウオオソコエビも巻き込んで世間は寿司祭りの様相です。




 

※イメージ

 

 カイコウオオソコエビは長らく「エビの握り」と混同されてきましたが、しらみちゃんは「エビ」あるいは「サーモン」に見えます。ヒロメオキソコエビはさしづめ「えんがわ」か飾り包丁の入った「イカ」でしょうか。

 

 カイコウオオソコエビとしらみちゃんはともに「エビ」担当ですが、ずいぶんベクトルの違うエビに見えます。これはまさか・・・

 

 

 思った通りです。

 

 カイコウオオソコエビはおそらく、2012年にリリースされたこの記事に代表されるJAMSTECの写真が発端となって寿司説が流布したものと思われますが、その写真に見られるボディのツヤ感やローズピンクのムラ感、胸節表面を縦に走る筋の感じが、甘えびを2,3尾載せた握りによく似ています。

 一方、しらみちゃんは全体に黄色みが強く橙色に見え、背面に筋感はなくよりフラットです。これはボイルしたエビの開きを載せた握りによく似ています。

 

 これらが似ているのは、カイコウオオソコエビ(端脚目)やしらみちゃん(等脚目)と、寿司ネタのエビ(十脚目)が、同じ軟甲類というグループに属していて比較的近縁なせいだと思います。これに加えて、寿司に用いられるエビの身は第1~5腹節と尾節(尾肢と尾節板)に相当する部分で、これはそのままカイコウオオソコエビやしらみちゃんとも対応します。


 しかし、シャリは違います。寿司におけるシャリは、ネタであるエビとは分類学的にかなり遠いイネ(被子植物:単子葉類)の胚乳が人為的に付加されたもので、元々身体の一部をなしていた構造ではありません。

 カイコウオオソコエビにおけるシャリは、主に底節板より先の胸脚に相当するようです。一方、しらみちゃんの場合は底節板にわりと色がついていて、ネタ側に相当するように思えます。しらみちゃんのシャリは基節から先の胸脚と、保育嚢から構成されるようです(そう、しらみちゃんは女の子なんです!!)。


 

 思うに、以下のような要素が寿司性に寄与しているのではなかろうかと思います。

  • 上に色の濃い「ネタ」・下に白っぽい「シャリ」が位置する
  • プロポーションが一般的な寿司の範疇に収まる(幅:厚:長=1:2:2.5~4.5程度ではないでしょうか)
  • 「ネタ」の方が少し大きく、垂れ下がっている
  • 「ネタ」上面は平らで、横に筋がある
  • 「シャリ」下面は丸く、多少凹凸がある


 そういう要素を満たす動物は他にもいる気がします。例えば・・・

 


 ミズムシ(等脚目)はシャコ(口脚目)と同じ軟甲類に含まれるので、これも分類学的に近位であることと、形態的に相同であることが、寿司性の演出に寄与した例と思われます。

 ヒメアルマジロ(哺乳綱)については中トロ(マグロ:硬骨魚綱)と分類学的に遠く、相同性もありません。そのせいか、今回はガリ(被子植物:単子葉類)に助けを求めることとなりましたが、相当な寿司性を具えています。ヒメアルマジロは種小名に「truncatus」とある通り、尾部が切り落とされたような形状をしていますが、これがマグロのサクの感じとよく似ています。

 

 端脚目や等脚目は背側の殻が厚く、表面がごつごつしていたり、色素が多く含まれたりします。対照的に腹側や脚は殻の表面が平滑で色が薄めです。こういった条件は寿司への収斂を促す可能性があります。

 これからもまだまだ寿司性を具えたヨコエビやその仲間たちが見つかるかもしれません。もっと探してみたいと思います。



 

2020年11月29日日曜日

他の動物に棲み込み・共生を行うヨコエビ(11月度活動報告)


 ヨコエビは、隣接したニッチを行き来し幾度も適応を繰り返して多様化を遂げたという説を過去に紹介しました。

 海藻への適応では、他へ移動できないほど形態を変化させたグループ(ミノガサヨコエビ科 Phliantidae,ネクイムシ科 Eophliantidae 等)が知られていますが、動物へ寄生するヨコエビはやはり中途半端のように思われ、比較的容易に他のニッチへ移っていける状態のように見えます。

端脚類が付着する海産動物の模式図。

 

 ヨコエビ(Senticaudata,Hyperiopsidea,Amphilochidea,Colomastigidea の4亜目体制)では、付着生活に特化して遊泳力を犠牲にしたグループとしてワレカラの仲間が知られています。特に鯨類への付着に特化して身体を扁平に、歩脚を鈎状に変化させたクジラジラミは、ずば抜けて付着生活への適応が進んでいるといえましょう。
 端脚目 Amphipoda 全体でいえば、ヨコエビとは別にクラゲノミ亜目という外洋性のグループがおり、クラゲなど寒天質浮遊性動物に寄生しています。このグループの一部は幼生期をもつなど暮らしぶりが特殊化していて、ヨコエビより寄生生活に適応しているようです(変態することで「宿主の探索」と「成長・繁殖」という異なる目的にそれぞれ特化した身体構造を獲得できると思われます)。 




  しかし、こういったスペシャリストであっても、ある種の等脚類のように体節を喪失するレベルの適応は見せていません。

 このように付着生活へ特化しきれていないヨコエビですが、動物に付着する事例は世界中から報告され、近年も何本か論文が出ています。寄生も含めて、そういった話題を集めてみました。




魚類

 2019年、ネットを賑わせた寄生性ヨコエビが ジンベエドロノミ Podocerus jinbe です (Tomikawa et al. 2019)。この種は、美ら海水族館の生け簀で飼われていたジンベエザメの口内(鰓耙)に付着した状態で発見されました。鰓を通過する海水に含まれる有機懸濁物を頂戴して生活しているとされていますが、1個体に1,000匹もついていたとのことで本当に邪魔になっていないのか気になるところです。
 軟骨魚類については他に、北大西洋においてカッチュウヨコエビ上科の Lafystius sturionis Krøyer, 1842 が ガンギエイ grey skate をはじめとする多様なエイにつくことや、北大西洋および北太平洋においてはフトヒゲソコエビ上科の Opisa tridentata Hurley, 1963 がアブラツノザメ Squalus suckleyi につくことが知られています.同じくフトヒゲソコエビ上科に含まれるサカテヨコエビ科 Trischizostomatidae Trichizostoma raschi は クロハラカラスザメ Etmopterus spinax に寄生するとのことです (Benz and Bullard 2004)
 また、サカテヨコエビ属は Bathypterois phenax(イトヒキイワシ属の一種)などの硬骨魚類へ寄生する(Freire and Serejo 2004)ことも知られています。





爬虫類

 モクズヨコエビ科の Hyachellia が、アカウミガメとアオウミガメの体表から見つかっています (Yabut et al. 2014)。また、ウミガメドロノミ Podocerus chelonophilus というそのままの名前のやつもいます (Yamato 1992)
 ウミガメはワレカラやタナイスなどの生息基質として知られていますが、こういった小型甲殻類はウミガメの体表の溝に入り込んだり、生える海藻に付着しているようです。




脊索動物

 その名も「ホヤノカンノン(海鞘之観音)」というヨコエビは、ホヤ類の体表に埋没して生活しています。近縁のエンマヨコエビ科の各属とは、歩脚の先端が亜はさみ形になっていることで識別されるほど、属レベルで付着・埋没生活への適応がみられます。Foster and Thoma (2016) や 星野 (2020) で美麗な生態写真を見ることができます。




海綿動物

 経験上、マルハサミヨコエビ科 Leucothoidae や イソヨコエビ属 Elasmopus などが入っていたりします。海綿は、濾過食者として新鮮な水流やデトリタスを得やすい環境に定位しやすいと思われ、棲み込みだけでなくデトリタス食ヨコエビの足場としても利用されやすい気がします。

 文献ではセバヨコエビ科 Sebidae の記録が散見され、Seba alvarezi セバヨコエビ属の一種 (Winfield et al. 2009) が棲み込むことが知られています。

 ネット上では、ツツヨコエビの一種が付着する様子が紹介されていたりします(asturnatura.com)。

 また、アシマワシヨコエビ Maxillipius rectitelson が乗っかっている写真もあります (星野 2020)




刺胞動物

 刺胞動物と共生するには毒の銛を克服する必要があるように思えますが、タテソコエビ科 Stenothoidae との親和性が高くわりと事例が報告されているようです (Marin and Sinelnikov 2018; 星野 2020)。ヒメイボヤギ Tubastraea coccinea にマルハサミヨコエビ属 Leucothoe とタテソコエビ属 Stenothoe が付着するとの報告もあります (Alves et al. 2020)
 イソバナ Melithaea flabellifera にはテングヨコエビ科のイソバナヨコエビ Pleusymtes symniotica が付着することが知られています (Gamô and Shimpo 1992)。

 深海イソギンチャク Bolocera tuediae からは、フトヒゲソコエビ類の一種 Onisimus turgidus が見つかっています (Vader et al. 2020)。 

 クダウミヒドラ類には、マスト形成ヨコエビである キシシャクトリドロノミ Dulichia biarticulata がマストを形成して付着する様子が観察されています (星野 2020)

 

 



軟体動物

 タテソコエビ科の Metopa alderiiMe. glacialis と、ツノアゲソコエビ属の一種 Anonyx affinis は、Musculus discorsMu. laevigatusMu. niger などの二枚貝の中に入り込むことが知られているようです (Just 1983; Tandberg, Schander and Pleijel 2010; Tandberg, Vader and Berge 2010)。生態写真はベルゲン大学博物館のブログで見ることができます。




棘皮動物

 著名なところでは、シャクトリドロノミ属の一種 Dulichia rhabdoplastis が、ハリナガオオバフンウニ Mesocentrotus franciscanus のトゲの先にマストを作る事例が知られています(Invertebrates of the Salish Sea)。

 ロス海では「南極ウニ」の一種 Sterechinus neumayeri に付着するフトヒゲソコエビ類 Lepidepecreella debroyeri が発見されています (Schiaparelli et al. 2015)
 エゾテングノウニヤドリ Dactylopleustes yoshimurai は、エゾバフンウニ Strongylocentrotus intermedius の棘の間に生息しています。町田 (1991) は D. obsolescens (not Dactylopleustes obsolescens Hirayama, 1988; D. cf. yoshimurai) を解剖し、体内がウニの組織らしきもので満たされているのを確認しており、ウニの軟組織を食べている可能性が高いようです。今年の夏には、ウニ付着性ヨコエビが宿主の弱った組織に集まるという事例が発表されており (Kodama et al. 2020)、ウニ付着性ヨコエビは今ホットなテーマの一つと思われます。

 ナマコの体腔内から見つかっているフトヒゲソコエビ類 Adeliella属 もいます (Frutos et al. 2017)
 メリタヨコエビ属の一種は、ヒトデの一種 Ophionereis schayeri の体表に付着している様子が観察されていますが、その関係は十分にわかっていないようです (Lowry and Springthorpe 2005)




環形動物

 カンザシゴカイ類の棲管に、イソホソヨコエビ Ericthonius pugnax が二次的に棲管を形成して生活する様子が報告されています (星野 2020)

 

 

 


甲殻類

 バイカル湖に生息する Pachyschesidae 科 は、他の大型ヨコエビの覆卵葉内部に寄生します (Karaman 1976)
 カニに付着する例もあります (Vader and Krapp 2005)。また、日本からはイセエビの鰓室に入り込むという、その名も イセエビチビヨコエビ Gitanopsis iseebi というチビマルヨコエビの仲間が知られています (Yamato 1993)
 鳥羽水族館がブログに載せていたヤドカリの体表から発見された Isaea属の未記載種は、日本からは報告が乏しいグループなので続報が俟たれます。

 深海ではフトヒゲソコエビ類の一種 Paracyphocaris praedator が、遊泳性十脚類ヒオドシエビ類の一種 Oplophorus novaezeelandiae の卵に擬態しながら卵を摂食しているとの説があります (Lowry and Stoddart 2011)。これは卵に対する寄生や捕食の類ですが、親エビに対しては体表付着という扱いになるでしょう。

 その他、Vader and Tandberg (2015)  にすごくいろいろ載ってます.無料なのがありがたいですが、ところどころリファレンスが間違っているので注意が必要です。


 海綿(コルクカイメン属 Suberites)付きの貝殻を使用しているカイメンホンヤドカリ Pagurus pectinatus などから複数のヨコエビ(テングヨコエビ科:Sympleustes japonicus,カマキリヨコエビ科:Ischyrocerus commensalis,タテソコエビ科:Metopelloides paguri)が見つかった、という報告もあります (Marin and Sinelnikov 2016)。こうなると、もはや誰が誰に寄生しているのか訳が分かりません。



 やはりヨコエビ類において付着生活への適応度合いは低く、眼で見てヨコエビと分かるレベルの体制を具えています。明確な寄生性というより、デトリタス食において多少の御利益があるとか、底生自由生活の延長線上にある印象です。岩場などに棲むヨコエビは、二枚貝の足糸の間にコケムシやら海綿やらが入り込んだ構造に隠れていることがよくありますが、彼らにとって生きたベントスの体表もそういう複合的な環境と、大した違いはないのかもしれません。付着生物の体組織そのものに用事はなく、二次的に自ら造成した生息基質を利用しているヨコエビがいることは、その典型と思います。いずれ等脚類や橈脚類のように身体が袋状に変化してしまう日がやってくるのか、気になるところです。

 

 



2020年4月4日土曜日

岡山県産ヨコエビに新和名を提唱してみた(4月度活動報告)


 岡山に通ってヨコエビを集めた話は既に述べました(Once Upon a Time in Okayama 1, 2, 3, 4).7回の調査で360頭あまりのヨコエビを得て,種を同定するに至りました.ほかに上位分類群で止めているものがあります.また,確実に未記載種というものも含まれています.

 フィールドワークに加えて,県立図書館で文献も漁ったりしてたのですが,こうして得られた調査結果が,2020年3月31日から岡山県のHPで公開されています.

 2019年3月末の時点で端脚目は 1120種(群)だったのですが,採集調査によって23種(群),文献調査によって21種を追加し,3倍以上の 2764(群)まで育てました.これはさすがに自慢してもよいと思いますので,ここで少し威張ります.えっへん.


 さて,和名未提唱の分類群が幾つかあったので,和名を提唱させて頂きました.せっかくなのでその説明をします.




コウライヒゲナガ Pleonexes koreana (Kim and Kim, 1988)

 


 和名は種小名からとりました.「チョウセン」とすると別の意味合いで名付けられた和名(チョウセンカマキリ,チョウセンハマグリ等)と混同されると考えました.また,「高麗」という語感が,Ampithoe 属の中で装飾的な部類に入る本種に合っているように思いました.
 県への報告では Ampithoe 属として出しましたが,実は Peart and Ahyong (2016) で Pleonexes 属に属位変更されてます.
 しかしながら,Peart and Ahyong (2016) には不審な記述が散見されます.例えば,尾節板の突起について,keyで「大きく湾曲する」となっている一方,diagnosisでは「小さい」と書かれています(この形質は Pleonexes 属 最大の特徴とも言えるもので,長らく Ampithoe 属 との識別形質の一つでしたが).なお,P. koreana の記載および今回得られた標本において,尾節板に特に変わったところは見受けられず,Ampithoe 属の特徴とよく一致します.

3種の尾節板(いずれも過去の文献に示された図を元に作成).

 また,第5~7胸脚について,Peart and Ahyong (2016) に掲載された Pleonexes 属 の diagnosis では「把握できる形状」となっています.この形質は Sars (1895) に示された Pleonexes gammaroides の図と合致するものの,P. koreana の記載論文(および今回得られた標本)とは矛盾します.

3種の第7胸脚(いずれも過去の文献に示された図を元に作成).


 このように,Peart and Ahyong (2016) には不可解な点が多いので,コウライヒゲナガを Pleonexes 属 として扱うのは不適切だと(個人的には)思っています(※1).


 さて,本種の最大の特徴は太く立派な咬脚や触角です.成熟したオスであれば,この特徴的な第2咬脚を見れば現場でも容易に同定ができます.
 しかし, この形質で確信がもてない場合,実はフサゲヒゲナガ A. zachsi A. shimizuensis など,触角に毛の多い近似種との識別は容易ではありません.記載論文に示された識別形質は結構頼りないのです.

せっかくなのでまとめました.




ヨツデヒゲナガ Ampithoe tarasovi Bulycheva, 1952

 


 和名は,オスの第1と第2咬脚がともに大きく発達することに由来します.元気な個体を観察すると,4本の咬脚を盛んに動かす様子などが見られます.写真の個体はオスですが,咬脚があまり発達していないので,「四つ手」感は薄いかもしれません.ぜひフィールドで探してみてください(国内のまとまった記録は見つけることができませんでしたが,瀬戸内以東には分布していると考えてよいと思います)
 本種の形質は,モズミヨコエビ A. valida と ニッポンモバヨコエビ A. lacertosa のまさに中間と言えます.咬脚だけを見ても,モズミヨコエビのトレードマークとも言える櫛状構造を具えた台形状突起(オス第2咬脚掌縁)をもちながら,掌縁全体が斜走するというニッポンモバヨコエビの特徴も兼ね備えています.そんなこんなで,近似種との識別点としては,以下のポイントを押さえておけば間違いはないかと思います.

底節板縁部の剛毛は重要な識別形質です.

 印象としては全体的にやや細身で,体色は濃淡のある赤褐色の個体が多いようです.Shin et al. (2010) は逆パンダのような体色を特徴として挙げており,本邦でもこのように白い襟巻あるいは襷を締めた個体がしばしば発見されるようです.一般論としてヨコエビの同定において体色はあてになりませんが,ユンボソコエビ科では体表の色素斑がある程度種の特徴を表すという事例もあり,襷の有無は気になります.個人的には,成長段階や地域個体群の差,あるいは隠蔽種(岡山や市川の個体群は真の A. tarasovi ではない未記載種)の可能性も検討したほうがよいと考えています.今のところ,Shin et al. (2010) に挙げられた形質と特に矛盾しなかったので,本種と同定しています.
 ちなみに最近,脱皮殻から成長を推定する研究が発表されました (首藤・吉田 2019).




タカラソコエビ科 Tryphosidae Lowry and Stoddart, 1997

 


 実は今のところ自力で採集したことのないグループです.写真や線画は見たことがあります.例のプロジェクトで探したのもこのグループです.
  和名の由来は,志賀島で耳にした「タカラムシ」という方言です.正確にナイカイツノフトソコエビを示すものとは断定できませんが,ギリシャ語の”Tryphosa”を「優雅」「かけがえのないもの」といった意味をもつ言葉として女の子の名前に推す英語のサイトを見つけたので,「タカラ」は原語の意味にも近いと考えて決めました.元々 Tryphosa はギリシャ神話に登場する王女の姉妹(の姉)に由来するようです.こういった例は多く,Ampithoe(ヒゲナガヨコエビ)や Dexamine(エンマヨコエビ),Lysianassa(フトヒゲソコエビ),Melita(メリタヨコエビ)などもギリシャ神話のネレイデスに同じ名前があります.
 タカラソコエビ科は42もの属を含むフトヒゲソコエビ類最大のグループで,分類も難しいです.科の概要や,他のフトヒゲソコエビ類との識別については過去のブログ(俺たち太ひげ海賊団太ひげ危機一発)をご参照ください.

他のフトヒゲソコエビ類との主な識別点です.


 今年も岡山に行きたいと考えていましたが,時世が許してはくれなさそうです.今度は新たな島なども開拓したいと思っています.



※1
 Peart and Ahyong (2016) は77形質を検討し,ヒゲナガヨコエビ科分類体系の再構築を試みています.その中で,過去に Ampithoe 属 の新参シノニムとして消されたこともあった Pleonexes 属を,有効な分類群と認めました.しかし, Pleonexes 属のタイプ種として P. gammaroides Spence Bate, 1857 を挙げつつ,構成種の中では本種の記載年を1856年としています.Spence Bate (1857) にも確かに P. gammaroides が登場しますが,Spence Bate (1856) において既に言及があるため, P. gammaroides Spence Bate, 1857 という表記は不適切と思われます(しかし,記載論文を探し出すことはできませんでした)
 なお,WoRMS においては Pleonexes gammaroides Spence Bate, 1857 とともに,Ampithoe gammaroides (Spence Bate, 1856) という種も「accepted」のステータスが与えられています.本種は”原記載においてスペルミスAmphitoe gammaroidesとの表記)があった”とWoRMSに記されていますが,Spence Bate (1856) にその様子は見られませんでした.Spence Bate (1856) に該当する文献が他にあるのかもしれませんが,謎は深まるばかりです.