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2025年9月1日月曜日

書籍紹介『水の中の小さな美しい生き物たち』(9月度活動報告)

 またヨコエビが採り上げられた書物が出版されました。

 


仲村康秀・山崎博史・田中隼人(編) 2025.『カラー図解 水の中の小さな美しい生き物たち―小型ベントス・プランクトン百科―』.朝倉書店,東京.384pp. ISBN:978-4-254-17195-2(以下、仲村ほか, 2025)


 出版社は異なりますが『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン』の系譜のように思えます。ボリュームが充実し、ベントス要素が強化された感じでしょうか。なお、ページ数は2倍ちょっと、価格は10倍になっています。



仲村ほか (2025) を読む

 解説のないものも入れて、掲載端脚類は以下の通りです。この他に、表紙に姿があるリザリアライダーの話題も紹介されています。

  • Orientomaera decipiens(フトベニスンナリヨコエビ)
  • Ptilohyale barbicornis(フサゲモクズ)
  • Monocorophium cf. uenoi(ウエノドロクダムシと比定される種)
  • Pontogeneia sp.(アゴナガヨコエビ属の一種)
  • Caprella penantis(マルエラワレカラ)
  • Simorhynchotus antennarius
  • Vibilia robusta(マルヘラウミノミ)
  • Oxycephalus clausi(オオトガリズキンウミノミ)
  • Melita rylovae フトメリタヨコエビ
  • Grandidierella japonica ニホンドロソコエビ
  • Podocerus setouchiensis セトウチドロノミ
  • Sunamphitoe tea コブシヒゲナガ
  • Leucothoe nagatai ツバサヨコエビ
  • Jassa morinoi モリノカマキリヨコエビ
  • Caprella californica sensu lato トゲワレカラモドキ
  • Caprella andreae ウミガメワレカラ
  • Caprella monoceros モノワレカラ
  • Themisto japonica ニホンウミノミ
  • Phronima atlantica アシナガタルマワシ
  • Lestrigonus schizogeneios サンメスクラゲノミ

※仲村ほか (2025) に明示の無い和名は()内に示しています。


 なかなかボリュームがあります。

 だいたいが筆者のKDM先生が撮られた写真のように見受けられます。先生の主な研究テーマである藻場の生態系と端脚類に関するコラムもあり、エンジニア生物や物質循環といった観点から端脚類を見ることもできる構成となっています。KDM研における最新の分類学的知見を反映して「ウエノドロクダムシ」の同定に慎重になっている、といったライブ感があるのもポイント高いです。


 白眉はなんといってもヨコエビからクラゲノミまで揃い踏みしているところにありますが、驚愕したのは、堂々と旧3亜目体制に基づいている点。海外の文献では Lowry and Myers (2017) に基づく現在の6亜目体制を追認する動きが一般的となっている印象がありますが、日本人研究者は亜目を省略するなど距離をとる雰囲気がありました。「国内では不人気」という言い方もできるかもしれませんが、それを形にしたのは非常に画期的です。

 新知見を採用しないというと時代に取り残されている感じもしますが、6亜目体制は「形態に忠実であることを謳っている一方で例外を意図的に無視しており、自己矛盾している」「かといって系統を反映させる気はない(遺伝的知見との整合性を意図したような例外の扱いではない)」「形態的な明朗性・系統反映のポリシー・過去の慣例の全てを犠牲にしたわりに直感的に分かりにくく、使い勝手が良い場面が特にない」といった問題があります。Lowry and Myers (2017) は大量の分類群について形態マトリクスを作成して議論を試みた労作であることは間違いないのですが、このように中途半端な改変を行うより、「尾肢の先端に棘状刺毛があるグループとそうでないグループを発見した」というような発表に留めておいたほうが、論文として評価は高かったのではと思います。端脚類全体を網羅する下目・小目といった新概念を提唱しつつ、結局所属不明科を残したままというのも片手落ちの感があります。そろそろ10年になりますが、特に優れた点の無い体系のため安定して使い続けられる保障がないという判断から、採用に慎重になっている人がいるものと、個人的には理解しています。

 こういった分類のややこしさについても、仲村ほか (2025) は論文を引いて示しています。


 仲村ほか (2025) の印象を一言で表すとすれば「本棚にベンプラ大会」。タイトルからすると「生物ルッキズムを含んだ写真集」のように思えますが、写真はカットの物量こそあれど思いの外小さく、種や話題のチョイスの渋さ・ガチ感が光ります。前述のような分類学の議論をはじめ、ベントス・プランクトン学会大会で聴かれるお馴染みのテーマや学術的な課題が、当然のように並べられています。細菌の項で培地の写真が並んでいるのにはドン引きしました(誉め言葉)。マニアックな生物に対して、その珍奇さよりここに収録されるべき学術的意義に立脚して選定・解説しているのが、プランクトン学会とベントス学会が全面バックアップしているだけのことはあるなと、思いました。375ページに上る大著でありながら、水圏生物の花形である魚類が4ページしかないというのも特徴的だと思います。

 ただ、解説は非常に平易な文章に仕上がっており、文字数もそれほど多くありません。「写真をパラパラ見る」用途として問題はないかと思います。これだけ幅広い生物群を、「小さく美しい」というテーマに沿って網羅的に平等に扱おうと試みた書籍の例はあまりないものと思われます。『深海生物生態図鑑』のようにグラビアの美麗さや物量で押してくるタイプではないのですが、微生物やメイオベントス群集といった、ともすれば味気ない専門書の中の住人であった生物を、ビジュアル図鑑の世界へ招き入れたというのは、大きな出来事のように思えます。中学生から大学まで、生物分類や水棲生物研究全般に興味のある学生には、興味をそそるだけでなく基礎知識の勉強にもなる一冊でしょう。

 『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン』のコスパの良さが異常なので、こちらのほうがエッセンスだけ摂取したい方にはお勧めできるかもしれません。ただ、当然のことながら 仲村ほか (2025) において情報量は格段に増えていますし、学名の併記や参考文献もしっかり押さえられており、実用性を付与されているのは間違いありません。


 ちなみに、「ウミガメワレカラ」という和名が学名と明確に対応された出版物は初めてだと思います(和名の初出は青木・畑中, 2019)。そういった文脈でも参照され続ける文献と思われます。


 最後に、仲村ほか (2025) における端脚類の掲載箇所を詳細にご教示いただいた朝倉書店公式ツイッターアカウント様に、この場をお借りして篤く御礼申し上げます。



<参考文献>

青木優和 (著)・畑中富美子 (イラスト) 2019.『われから: かいそうの もりにすむ ちいさな いきもの』. 仮説社, 東京.39pp. ISBN-10:4773502967

藤原義弘・土田真二・ドゥーグル・J・リンズィー(写真・文)2025.『深海生物生態図鑑』.あかね書房,東京.143 pp. ISBN:978-4-251-09347-9 

Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2017. A phylogeny and classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265 (1): 1–89.

山崎博史・仲村康秀・田中隼人(指導・執筆) 2024. 『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン クラゲ・ミジンコ・小さな水の生物』.小学館,東京.176pp. ISBN:9784092172975


2025年7月26日土曜日

書籍紹介『茨城の磯の動物ガイド』

 

 6月に図鑑的な文献が出版されたようです。


—茨城の海産動物研究会(編)2025.『茨城の磯の動物ガイド』.ミュージアムパーク茨城県自然博物館.(以下、茨城の海産動物研究会,2025)



 ネットには情報ないですね。博物館の報告書に匂わせ記述があるほか、Facebookにこういった投稿があるくらい。一般の書店に出回っているものではなさそうですが、恐らく日本財団の支援により作成した限定的な部数をミュージアムショップのような限られた場で頒布しているっぽいです。ただISBNは取得されていますし、オマケ冊子のようなものではないです。


 掲載端脚類は以下の通りです。

  • ヨツデヒゲナガ Ampithoe tarasovi
  • タイヘイヨウヒメハマトビムシ Platorchestia pacifica
  • マルエラワレカラ Caprella penantis


 ヨツデヒゲナガは線画が挙げられているのは第3尾肢のみでオス第2咬脚の形状はわかりませんが、掲載写真の個体は体色的には恐らくAmpithoe changbaensis(和名未提唱)と思います。Shin et al. (2010) でも混同されていた歴史がありよく似た種ではありますが、いちおう色彩と外骨格形態 (Shin and Coleman, 2021) および色彩と遺伝子 (Sotka et al., 2016) の対応がとれています。この外骨格形状と遺伝子が対応しない可能性もありますし、真のA. tarasoviが茨城に分布する可能性も十分にありますが、久保島 (1989) もA. tarasoviとしてA. changbaensisを掲載している経緯があり、また井上 (2012) の"A. tarasovi"がどちらを指すか不明なため、現時点では「真のA. tarasoviは未記録」「現時点での定義に基づくA. changbaensisはいる」という判断が適当と思われます。Ampithoe lacertosa種群あるいはtarasovi種群と呼ぶべき一団は形態での種同定が難しく、日本にはまだ種として記載されうる個体群が北海道とかにいるようです。

 タイヘイヨウヒメハマトビムシに関しては、日本全国にわたって本種の形態差異をレビューした Morino (2024) の著者その方が執筆を担当しているため、この手の図鑑ではまずみられない高精度での検討が行われているものと考えてよいでしょう。ただ、載っているのは引きの生体写真だけで、このビジュアルだけで同定できる種ではないため、絵合わせしてよいということではありません。

 マルエラワレカラはRタイプとされるもののようです。


 茨城の海産動物研究会(2025)は前身となるテキストのようなものがあったようで、それを冊子体にまとめたもののようです。地域のファウナをまとめた書籍は非常に貴重で、手探りでフィールドに出るよりも関心を深めるのに役立ちます。茨城の磯には金色のやつとかその他諸々大量に面白いヨコエビがいますので、これから類書が出る折には更なる充実が図られることが望まれます。



<参考文献>

— 茨城の海産動物研究会(編)2025.『茨城の磯の動物ガイド』.ミュージアムパーク茨城県自然博物館,坂東市.111pp. ISBN978-4-902959-87-1 C3045

井上久夫 2012. 茨城県の海産小型甲殻類 III. ヨコエビ相(端脚目,ヨコエビ亜目).茨城生物32:9–16.

— 久保島康子 1989.日本におけるAmpithoe属(Ampithoidae)の分類学的研究.茨城大学大学院理学研究科修士論文.

Morino H. 2024. Variations in the characters of Platorchestia pacifica and Demaorchestia joi (Amphipoda Talitridae, Talitrinae) with revised diagnoses based on specimens from Japan. Diversity, 16(31). 

Shin M.-H.; Hong J. S.; Kim W. 2010. Redescriptions of two ampithoid amphipods, Ampithoe lacertosa and A. tarasovi (Crustacea: Amphipoda), from Korea. The Korean Journal of Systematic Zoology, 26: 295–305.

Shin M.-.H; Coleman, C. O. 2021. A new species of Ampithoe (Amphipoda, Ampithoidae) from Korea, with a redescription of A. tarasovi. ZooKeys, 1079: 129–143.

Sotka, E. E.; Bell, T.;  Hughes, L. E.; Lowry, J. K.; Poore, A. G. B. 2016. A molecular phylogeny of marine amphipods in the herbivorous family Ampithoidae. Zoologica Scripta, 46: 85–95.


2025年7月12日土曜日

聖地巡礼シリーズ「松川浦」

 

 函館福井と続けてきた、主に端脚類のタイプ産地を廻るこのシリーズ(?)。今回は環境省のモニタリングサイト1000の調査協力で、福島県の松川浦に行ってきました。サンプルの同定協力はしたことがありますが、現場は初です。





松川浦の端脚類相

 松川浦は言わずと知れたヨコエビ聖地の一つではあるものの、継続して端脚類研究の拠点になっているわけではなく、何より32年前に採られた手法がプランクトンネット採集であったため、親しみやすい潮間帯のファウナはあまり語られていないのが実情だったりします。


過去の調査結果
文献 Hirayama and Takeuchi (1993) 環境省 (2013) 富川 (2013)
出現種 Pontogeneia stocki, Atylus matsukawaensis, Synchelidium longisegmentum, Dulichia biarticulata, Gitanopsis oozekii, Stenothoe dentirama, Lepidepecreum gurjanovae, Eogammarus possjeticus, Tiron spiniferus, Allorchestes angusta, Ampithoe lacertosa, Aoroides columbiae, Corophium acherusicum, Ericthonius pugnax, Gammaropsis japonicus, Guernea ezoensis, Jassa aff. falcata, Synchelidium lenorostralum, Melita shimizui Ampithoidae gen. sp., Grandidierella japonica, Corophiidae gen. sp., Melita shimizui, Melita setiflagella, Ampithoe sp.
Ampithoe lacertosaAmpithoe valida, Hyale sp., Melita shimizui, Talitridae gen. sp.

 属位変更はなんとかなるとして、後に日本個体群が別種として記載されたブラブラソコエビAoroides columbiae(→A. curvipesなどは解釈に注意が必要です。Jassa aff. falcataは順当にいけばフトヒゲカマキリヨコエビJ. slatterlyと推定されますが、他の近似種や未記載種の可能性もあります。
 富川 (2013) の各種は0.5mm目合いの篩にかけて採取されたもので、モニ1000の定量調査に近い手法で行われています。Hyale sp.は恐らくフサゲモクズPtilohyale barbicornis、Talitridae gen. sp.は広義のヒメハマトビムシであろうと思います。


 今回の調査結果はいずれ然るべき媒体でアウトプットされるはずですが、本稿ではフィールドの雰囲気だけお伝えします。比較対象が関東の干潟になってしまうのはご了承ください。



松川浦北部前浜的干潟

 砂州から内側へ突き出た遊歩道の周辺が、調査地になっています。遊歩道の左手には転石帯、右手にはヨシ原が広がっています。転石帯側は、遊歩道根元の少し引っ込んだエントリーポイントから澪筋を越えると、いつの間にか流れのある川へ至ります。ヨシ原側は、汀線方向へ進むにつれカキ礁が卓越します。基質は全体的に有機物の多い砂泥で、転石帯にはパッチ状に底無し沼的なゾーンがあります。


 今回はアオサやオゴノリの繁茂はみられず、干出面はホソウミニナとマツカワウラカワザンショウに被覆されています。深さのある場所では流れの中にアマモの群落が散見されます。


 アマモ葉上やカキ殻表面にはホンダワラ類の付着が散見されました。
 端脚類はアマモ葉上で最も充実しており、表在底生グレーザー・植物基質寄りの自由生活ジェネラリスト・遊泳グレーザーの3者が最も優占していました。いずれの基質においても、造管濾過食者はかなり少ない、むしろほとんどいない印象です。




松川浦南部河口的干潟

 最奥部に開口した細い水路周辺に形成されている、典型的な内湾の富栄養泥干潟です。表層に触れるだけで還元化した黒い部分がのぞくシルトの底質に、転石やカキ殻が散らばっています。一歩進めるごとに足をとられ、ケフサイソガニ類が横っ飛びします。膝をついてじっとしていると、いつの間にか大量のヤマトオサガニに取り囲まれます。

 造管懸濁物食者が高密度に棲息し、漂着物のような多少柔軟性のある基質の周囲には硬質基質寄りの自由生活ジェネラリストが見えますが、際立って端脚類の多様性が高い箇所はみられません。


 潮上帯において、打ち上げ物は陸由来の植物質が卓越し、転石帯とともに、関東の同様の環境から推測できる代表的な属ないし種の構成となっています。 



おまけ:松川浦北部河口

 ここはモニ1000の対象ではありませんが、かなり特色のあるポイントです。


 松川浦に注ぐ最も大きな川の河口部です。ヨシ原が発達しており、深みにはわずかなカキ殻などの硬質基質にオゴノリやアオサが付着しています。底質は基本的に石英や珪岩などが卓越する明色の砂泥で、場所により陸上植物砕屑物が多く混入したり、ヨシ原が幅広く残っている場所ではシルト・クレイ分が増えて底なし沼化しています。泥干潟おなじみのカニがひしめいています。

 甘めかつ基質の多様性が低い環境で、大型藻類上や堆積物中には植物基質寄りの自由生活ジェネラリスト,遊泳性グレーザー,表在底生グレーザー,硬質基質寄りの自由生活ジェネラリストが優占していました。顔ぶれは三番瀬や小櫃川河口に似ています。潮上帯転石下にはフナムシ属が優占し、ヨコエビは僅少でした。



 今回は、定量調査を補完しリストを充実させる意味合いで定性調査専任での参加でした。結論からいうと劇的な種数増には至りませんでしたが、フィールドの感じは何となく掴めてきたので是非ともリベンジしたいところです。もし松川浦という海域のインベントリを行う場合、燈火採集や硬質基質の要素が加われば、科~種の数はもう少し増やせそうです。もはや干潟のモニ1000ではありませんが。



おまけ:蒲生干潟

 環境省やWIJとは関係なく、地元で連綿と継承されてきた定量調査に同行しました。

過去の調査結果
文献 松政・栗原 (1988) Aikins and Kikuchi (2002) 近藤 (2017)
出現種 Grandidierella japonica, Corophium uenoi, Kamaka sp., Melita sp. Corophium uenoi, Grandidierella japonica, Eogammarus possjecticus, Melita setiflagella Monocorophium insidiosum, Grandidierella japonica


 なんと蒲生干潟には「カマカが出る」んですね。
 これはヨコエビストにとって垂涎ものなのですが(平たくいうと、この形態的にも系統的にも特異な科は生息地が限定的かつ体サイズが微小なため、おいそれとはお目にかかれないのです)、今回はダメでした。分布や生息環境を踏まえると、恐らくモリノカマカKamaka morinoiであろうと思います。宮城県のRDBにも掲載されていることですし。
 ウエノドロクダムシMonocorophium uenoiとトンガリドロクダムシM. insidiosumの是非についてここで掘り下げることは避けますが、これら文献における記述内容と今回の実地調査の結果を総合的に判断して、この地においてモノドロクダムシ属の形態種は2種いると解釈して差し支えないものと思います。


 水門を挟んで七北田川河口に接続した潟湖で、堤防の外側に陸上植生からヨシ原の連続性が維持されている奇跡的な場所です。奥部はきめ細かなシルト・クレイで、下るにつれ砂が卓越してきます。ヨシ原を縫い水門へ続く本流は、地盤高が下がるにつれて陸上植物の砕屑物が混ざった砂質からカキ殻の混じる富栄養砂泥へ変容します。本流は水門に近づくにつれ深さを増し、貧酸素化が顕著で三番瀬の澪筋を彷彿とさせます。



 潮廻りの関係か、植物基質寄りの自由生活ジェネラリストが大量に遊泳していて驚きました。底質中には造管性懸濁物食者がパッチ状に分布しており、潮上帯は海浜性種しか得られませんでした。

 調査範囲外だったため手を伸ばしていませんが、潟湖に加えて蒲生干潟の一部とされている七北田川河口の砂浜も、潟湖とはだいぶ様子がかなり違うのでなかなか面白そうです。

 


 東北の干潟をベントスの専門家と一緒にがっつり回るという経験は、かなり貴重でした。ベントス研究拠点としての東北大の将来が心配される中、石巻専修大の底力を目の当たりにしました。



<参考文献>

Aikins, S.; Kikuchi, E. 2002. Grazing pressure by amphipods on microalgae in Gamo Lagoon, Japan. Marine Ecology Progress Series245: 171–179.

Hirayama A.; Takeuchi I. 1993. New species and new Japanese records of the Gammaridea (Crustacea: Amphipoda) from Matsukawa-ura Inlet, Fukushima Prefecture, Japan. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 36(3):141–178.

環境省 2013. 平成24年度 モニタリングサイト1000 磯・干潟・アマモ場・藻場 調査報告書.

— 近藤智彦 2017. 東北地方太平洋沖地震と津波攪乱後の蒲生干潟 (宮城県) における底生生物の群集動態と優占種の生活史戦略(学位論文).

松政正俊・栗原康 1988. 宮城県蒲生潟における底生小型甲殻類の分布と環境要因.日本ベントス研究会誌33/34:33–41.

富川光 2013. 東日本大震災による津波が松川浦(福島県相馬市)の生物多様性に与えた影響の評価と環境回復に関する研究. 公益財団法人ソルト・サイエンス研究財団平成25年度助成研究報告書. pp.123–132.


2024年6月30日日曜日

書籍紹介『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン』(6月度活動報告その2)

 

 書籍紹介です。

 SNSで話題となっていた『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン クラゲ・ミジンコ・小さな水の生物(以下、山崎ほか 2024)が、6月25日に発売されました。

 端脚類界隈ではプランクトニックな役割はウミノミ・クラゲノミ・タルマワシなんかに任せている関係で、まずヨコエビは載っていない想定でしたが、タナイスなど底生生物も本邦トップクラスの専門家が監修を行った上でしっかり掲載しているとのことで、ヨコエビも多少の期待ができるかもしれないと考え、おそるおそる購入しました。

 それにしても…安すぎんか?小学館大丈夫か。

 ただ所詮は子供向けの簡易図鑑ですからね。端脚類コーナーが半ページくらいあって、種同定が半分以上合ってれば、まぁ、大手出版社の一般向け書籍としては及第点ではないでしょうか。過去の学習図鑑は惨憺たるものですから。

 前フリはここまでにして。



 山崎ほか (2024) の掲載端脚類は以下の通りです。

  • ニホンウミノミ
  • オオトガリズキンウミノミ
  • オリタタミヒゲ類
  • オナガズキン
  • ツノウミノミ
  • アシナガタルマワシ
  • タルマワシモドキ
  • オオタルマワシ
  • アリアケドロクダムシ
  • フトベニスンナリヨコエビ
  • チゴケスベヨコエビ
  • ニホンドロソコエビ
  • トゲワレカラ
  • ヒヌマヨコエビ
  • モズミヨコエビ
  • マルエラワレカラ


 プランクトンの話題がメインではありますが、ベントスの生息地の説明にもわずかに底生端脚類(アリアケドロクダムシやトゲワレカラ)が登場しています。また、大きさ比較のコーナーでアシナガタルマワシが、チリモンのコーナーにはトガリズキンウミノミが紹介されています。

 それにしても…

 ヨコエビの種の選定が絶妙、かつ同定精度の高さが尋常ではありません。写真で確認できる形質を見る限り、おかしな点は見当たりません。

 エンカウント率が高い浅海普通種を多く収録して実用性に軸足を置きつつ、咬脚など写真同定の余地のある形態形質が発達している種をメインに据えて正確性・検証可能性を担保し、なおかつこれらにこだわらず話題の種もしっかりフォローしています。何が起きたのかと思ったら、K大のK先生が協力されているとのこと。納得の仕上がり。


 結論。

 山崎ほか (2024) は海洋ベントスを扱った一般向け写真図鑑のニュースタンダードと言えるのではないでしょうか。他の分類群の精度は分かりませんが、ヨコエビのクオリティが相当高いことから考えると、全体にわたって細かく注意が払われた、かなりの労作であることが窺えます。1冊1,100円はさすがに安すぎるのではないでしょうか。特にヤバいと思ったのは巻末付近にある系統樹。スーパーグループの概念に基づいていて、監修に名を連ねている錚々たるメンバーの本気度が伝わってきます。

 残念な点を挙げるとすれば、学名の併記がないようです。こういった一般的図鑑の仕様上仕方ないですが、分類体系が確定的とはとても言えない分類群をこれだけふんだんに扱っているので、良い写真を載せながらも結局何を示しているのか分からなくなる展開は予想されます。この点では、一般向け写真図鑑の分野でいえば、丸山 (2022) に分があるように思えます(陸棲ヨコエビの掲載あり)

 何はともあれ、こういった専門家の膨大な知識や技術を子供に惜しげもなく伝える図鑑が低価格で出回ることは、非常に良いことです。各社がこういった方面に参入し、名作が生み出され続けることを願います。



<参考文献>

丸山宗利(総監修)2022.『学研の図鑑 LIVE(ライブ)昆虫 新版』.学習研究社,東京.316pp. ISBN978-4-05-205176-0

山崎博史・仲村康秀・田中隼人(指導・執筆) 2024. 『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン クラゲ・ミジンコ・小さな水の生物』.小学館,東京.176pp. ISBN9784092172975


<補遺>

  • (I-vii-2024)タナイスを担当された角井先生が、掲載種の学名を別途補完されたようです。これに倣って以下の通り端脚類の学名を補完します。
  • ニホンウミノミ Themisto japonica
  • オオトガリズキンウミノミ Oxycephalus clausi 
  • オリタタミヒゲ類 Platysceloidea fam. gen. sp.
  • オナガズキン Rhabdosoma whitei
  • ツノウミノミ Phrosina semilunata
  • アシナガタルマワシ Phronima atlantica 
  • タルマワシモドキ Phronimella elongata
  • オオタルマワシ Phronima sedentaria
  • アリアケドロクダムシ Monocorophium acherusicum
  • フトベニスンナリヨコエビ Orientomaera decipiens 
  • チゴケスベヨコエビ Postodius sanguineus 
  • ニホンドロソコエビ Grandidierella japonica
  • トゲワレカラ Caprella scaura
  • ヒヌマヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarus) hinumensis
  • モズミヨコエビ Ampithoe valida
  • マルエラワレカラ Caprella penantis(Sタイプ)

2024年6月29日土曜日

まんが王国はヨコエビ王国たるか(6月度活動報告)

 

 日本動物分類学会大会に参加しました。

 論文化されていない未発表の内容も含まれるため、発表についてこの場で言及することは避けますが、第n回全日本端脚振興協会懇親会(仮称)や、第n回日本端脚類評議会和名問題対策チームミーティング(仮称)、サシ飲みなどが併催され、盛況を極めました。牛骨ラーメンと猛者エビとらっきょううまい。




日本端脚審議会和名分科会(仮称)報告

 このたび、本邦に産しないヨコエビの分類群に対して個別の和名は提唱せず、学名のカタカナ表記揺れへの配慮を行うという今後の方針が示されました。属では以下のような先例があります。

  • タリトルス Talitrus (朝日新聞社 1974)
  • ニファルグス Niphargus (朝日新聞社 1974)
  • アカントガンマルス Acanthogammarus (山本 2016;富川 2023)
  • ディケロガマルス Dikerogammarus(環境省 2020)
  • アマリリス Amaryllis(大森 2021)
  • オルケスティア Orchestia(大森 2021)
  • ヒヤレラ Hyalella (大森 2021)
  • プリンカクセリア Princaxelia(石井 2022;富川 2023)
  • ヒアレラ Hyalella (広島大学 2023;富川 2023)
  • ディオペドス Dyopedos(富川 2023)
  • ミゾタルサ Myzotarsa(富川 2023)
  • パキスケスィス Pachyschesis(富川 2023)
  • ガリャエウィア Garjajewia(富川 2023)

 ラテン語をバックグラウンドとする学名に画一的な読みを与えカタカナで表記するのは言語学的に難しい部分がありそうですが、幸い日本はローマ字に親しんでいるので、古典式に近い読みを無理なく直感的に発音できる素地はある気がします。

 現状既に Hyalella属 については「ヒアレラ」(広島大学 2023;富川 2023)と「ヒヤレラ」(大森 2021)という異なる読みがあてられており、今後はこういった差異の調整が必要となってくるものと思われます。

 また、過去に日本から報告されていた種が移動してしまい、和名提唱後に本邦既知種が不在になったグループというのもあります。移動先の分類群が、新設されたり本邦初記録だったりすれば和名を移植すれば事足りますが、既に和名があった場合、元の分類群に和名が取り残される感じになります。厳密には和名を廃してカタカナ読みを当て直すべきですが、分類というものはコロコロ変わるので、また戻ってきたり、別の種が報告されたりする可能性もあり、都度改めて和名を提唱するというのは無用な混乱に繋がる気がします。この辺をどう扱うかは更なる議論が必要かもしれません。

  • シンヨコエビ科 Neoniphargidae:コジマチカヨコエビ Eoniphargus kojimai が含まれていたが、後の研究で ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae へ移されたため、本邦未知科となった。
  • カワリヒゲナガヨコエビ属 Pleonexes:コウライヒゲナガ Ampithoe koreana が含められていたが、後の研究でヒゲナガヨコエビ属へ移されたため、本邦未知属となった。

 なお、本邦に自然分布しないと判明しているグループ(フロリダマミズヨコエビ、ツメオカトビムシなど)にも和名は提唱されています。将来的に日本への侵入・定着が起これば、ディケロガマルスなどにも和名が提唱される可能性があります。



T県F海岸

 学会は午後からなので、午前は採集を行うことにします。潮回りは気にせず、ハマトビムシを狙う感じです。

 

とても細かな白砂です。
どうやら花崗岩の風化砕屑物が形成している砂浜のようです。


Trinorchestia sp.
恐らく今日本で一番種同定が困難、
というか不可能なハマトビムシでしょう。
完璧な標本が手元にあっても無理です。
詳細はこちら


メスばかりでよくわかりませんがおそらくヒメハマトビムシ属Platorchestia?
背中に見たことの無いバッテンがついてます。

 なかなか巡り会えずボウズの予感に打ち震えましたが、汀線際の濡れている漂着物の周りにいました。房総や熱海のパターンを思い出します。しかし、ヒゲナガハマトビムシとヒメハマトビムシが混ざっているのはあまり見た覚えがありません。

 他のハマトビムシは採れず。バスの本数がヤバいので撤収。





T県U海水浴場

 学会後に最干潮となるので、夕方から採集を行うことにします。といっても日本海側で小潮なので、ちょっと出れば御の字です。

 天気も微妙な感じで駐車場に若干の余裕が感じられましたが、展望台には人が多く、ヨコエビスト一行はかなり浮き気味…。



 小潮でしたが、引く範囲でも様々なタイプの基質を見られる、変化に富む海岸でした。少し歩いただけでヨコエビ相ががらりと変わる、なかなかポテンシャルの高い自然海岸といえます。


Ampithoe changbaensis は褐藻についていました。
近々和名を提唱したいです。


コウライヒゲナガ Ampithoe koreana
磯的環境の緑藻上だとよく見かけます。


ユンボソコエビ属 Aoroides
なぜか状態よく採れました。


何らかの カマキリヨコエビ属 Jassa


Parhyalella属が結構採れました。
本属の日本における分布情報は文献として出版されたことはないはず。
ちなみに江ノ島で採れた本属は未記載種だったので、
ここのも怪しいです。


日本海沿いだけどオス第7胸脚の太さからすると
タイヘイヨウヒメハマトビムシ Platorchestia cf. pacifica と思われる。
未記載だとしても驚きはない。 


ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis でした。

 10科13属くらいは採れました。大潮の時はさぞかし、といったところ。ヨコエビ王国の資格あり、と言ってよいでしょう。



あとこれなに…?



<参考文献・サイト>

朝日新聞社 [編] 1974. 週刊世界動物百科 (181). 朝日新聞社.

広島大学 2023.【研究成果】ペルー北部の温泉から新種ヨコエビ発見. (プレスリリース)

石井英雄 2022.『深海の生き物超大全』.彩図社,東京.359 pp. [ISBN: 9784801305861]

大森信 2021. 『エビとカニの博物誌―世界の切手になった甲殻類』. 築地書館, 東京. 208pp. ISBN978-4-8067-1622-8 

環境省 2020. 報道発表資料「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律施行令の一部を改正する政令」の閣議決定 について. (2020年09月11日)

富川光 2023. 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』. 広島大学出版会, 東広島. 198pp. ISBN:978-4-903068-59-6

山本充孝 2016. (280)極寒 バイカル湖の生き物. 2016年12月10日 00時44分 (10月17日 13時23分更新). 中日新聞.

2024年5月30日木曜日

LNO敗れる(5月度活動報告)

 

 今回はボウズかました話です。


【I海水浴場】

 例の未記載種の新鮮なサンプルが必要になりました。ヨコエビネットワークの情報に基づくと、今ここにいるはずです。


セーリングのサークルとかが活動しているようですね。


 なんというか…

 場違い感が…


 凝灰岩砕屑物を主体とすると思われる砂地をLNO法(ランドリーネットオペレーション)でガサゴソすると、よく分からない細いタナイスが大量に採れますが、ヨコエビは全くといっていいほど採れません。

 さすがに来た甲斐がなさすぎるため、ウミウチワ Padina をガサってみます。


コウライヒゲナガ Ampithoe koreana


カマキリヨコエビ科

 その他諸々。同定できそうな状態のサンプルも採れました。機会があればファウナの記述もできそう。

 しかし、目的のヨコエビは得られず。



【S海水浴場】

 ここにはいないそうですが、この近さで分布してないのは不自然なのと、昨日採れてない場所でまた採れなかった場合の精神的ダメージは計り知れないため、味変します。


ツバサゴカイ Chaetopterus のものと思われる棲管が大量に。
樋之口ほか(2024)には記載がなかったような。


 かなり遠浅ですね。

 火山岩質の黒っぽい細砂のリップルマークの畝の間に、河川から供給される凝灰岩系の淡色の粗砂が溜まっている感じです。


ドロソコエビ属 Grandidierella


 樋之口ほか(2024) にもニッポンドロソコエビの報告はありますが、学名の authorship と年との間にカンマがないのは気になるポイントですね。

 あとはクチバシソコエビ科 Oedicerotidae が大量に。今のところ属までは落としてません。
 せっかくなので検索表を載せておきます。


世界のクチバシソコエビ科の属までの二又式検索表 

(Barnard and Karaman 1991, Bousfield and Chevier 1996 に基づく)

1. 大顎臼歯部は粉砕形 … 20
— 大顎臼歯部は粉砕形でない … 2
2. 第2咬脚ははさみ形 … 3
— 第2咬脚は亜はさみ形 ... 6
3. 第3,4胸脚の指節は縮退する … 4
— 第3,4胸脚の指節は通常形 … 5
4. 第7胸脚の基節は後縁端部に葉状突起を具える … アメリカサンパツソコエビ属 Americhelidium
 第7胸脚の基節は後縁端部に葉状突起を欠く … サンパツソコエビ属 Synchelidium 
5. 第2咬脚の前節の半分までがはさみ形となる … Chitonomandibulum
— 第2咬脚の前節の1/3未満までがはさみ形となる … ムカシサンパツソコエビ属 Eochelidium 
6. 第1咬脚の前節は延伸せず、延伸する第2咬脚の前節より明らかに短い … 7
— 第1咬脚と第2咬脚の前節はおおむね同長 … 8
7. 第1咬脚は transeverse … Monoculodopsis
—  第1咬脚は亜はさみ形 … Hartmanodes
8. 第1,2咬脚は腕節に葉状突起を具える … 10
— 第1,2咬脚は腕節に明瞭な葉状突起を欠く … 9
9. 第1触角柄部第1節は歯状突起を具える … Cornudilla 
 第1触角柄部第1節は歯状突起を欠く … Aborolobatea 
10. 大顎髭を欠く;第1,2咬脚は発達しない … Machaironyx 
— 大顎髭を具える;第1,2咬脚は強壮 … 11
11. 第1咬脚の腕節の葉状突起は短い/前節をほとんど覆うことはない … 12
— 第1,2咬脚の腕節の葉状突起は長く前節を覆う … 13
12. 腕節の葉状突起は、第1,2咬脚において互いにほぼ同長 … Oediceros 
— 腕節の葉状突起は、第2咬脚より第1咬脚のほうが遥かに短い … Paroediceros 
13. 大顎髭の第3節は第2節とほぼ同長 … 14
— 大顎髭の第3節は第2節より短い … 15
14. 頭頂を具える;第3,4胸脚は長節側面に剛毛列を具える … Finoculodes 
— 頭頂を欠く;第3,4胸脚は長節側面に剛毛列を欠く … Arrhinopsis 
15. 第1,2咬脚の腕節は前縁が伸長し前節とほぼ同長となる、腕節の葉状突起は短く前節の掌縁に届かない … 16
— 第1,2咬脚の腕節は前縁が短い/不明瞭、腕節の葉状突起は伸長して前節の掌縁に達するか、あるいはこれを越える… 17
16. 第1,2咬脚の掌縁は指節と同長、後角は鈍角 … Imbachoculodes 
 第1,2咬脚の掌縁は指節より短い、後角は不明瞭 … Hongkongvena 
17. 顎脚の外板は顎脚髭第1節の端部に達する;第1,2咬脚の腕節の後縁端部に葉状突起を欠く;第3,4胸脚の指節は前節より長い … Sinoediceros 
— 顎脚の外板は顎脚髭第1節の端部を越える;第1,2咬脚の腕節の後縁端部に葉状突起が伸長する;第3,4胸脚の指節は前節より明瞭に短い … 18
18. 第1触角柄部第1節は剛毛を欠く;大顎切歯部は歯状突起がよく発達する;尾節後縁は弯入しない … 19
— 第1触角柄部第1節は剛毛を具える;大顎切歯部は歯状突起を欠く;尾節後縁は弯入する … Perioculopsis 
19. 第1,2咬脚の腕節の前縁は前節長の約20%の長さ ... カンフーソコエビ属 Perioculodes 
— 第1,2咬脚の腕節の前縁は短い … Orthomanus 
20. 第2咬脚ははさみ形 … ハサミソコエビ属 Pontocrates
— 第2咬脚は亜はさみ形 … 21
21. 第1咬脚の掌縁は transverse … Carolobatea 
—  第1咬脚は強壮あるいは掌縁は鈍角 … 22
22. 大顎切歯部の歯状突起はよく発達する… 29
— 大顎切歯部の歯状突起は発達しない … 23
23. 第1咬脚は第2咬脚より大きい;第1触角柄部第1,3節は同長 … Monoculopsis
— 第1咬脚は第2咬脚より短い;第1触角柄部第3節は第1節より短い … 24
24. 第3あるいは第4底節板後部は弯入する … 25
— 第3および第4底節板後部は弯入しない … 27
25. 第1触角柄部第2節は第1節より短い … 26
— 第1触角柄部第2節は第1節と同長 … Arrhis 
26. 頭頂は尖り、第1触角柄部第1節の半分に届かない … Aceroides 
— 頭頂は伸長し、第1触角柄部第1節端部に到達する ... Rostroculodes
27. 第1,2咬脚は退化的;複眼は背面に円形を形作る  … Gulbarentsia
— 第1,2咬脚は退化的;複眼は背面に円形を形作らない、あるいは複眼を欠く ... 28
28. 複眼は縮退するかこれを欠く;大顎髭第2節は直線的 … ツッパリソコエビ属 Bathymedon
— 複眼はよく発達する;大顎髭第2節は湾曲する … Westwoodilla 
29. 第2尾節副肢先端は、第3尾肢柄部の端部に届く;第3尾肢は長大 … Halicreion
— 第2尾節副肢先端は、第3尾肢柄部の端部を明瞭に越える;第3尾肢は通常形 … 30
30. 第2咬脚の前節は第1咬脚の前節より短く、細長い … リクスイクチバシソコエビ属 Limnoculodes 
— 第2咬脚の前節は第1咬脚の前節より長いか、あるいは同長 … 31
31. 第5胸脚の長節後縁は伸長し腕節を覆う … 32
— 第5胸脚の長節は腕節を覆う突起を欠く … 33
32. 第5胸脚の長節は後縁端部に、腕節へ覆いかぶさる葉状突起を具え … Parexoediceros 
— 第5胸脚の長節は端部に突出部を欠く … Kroyera
33. 胸節背面に多数の隆起をもつ … 34
— 胸節背面に突起を欠く … 35
34. 複眼は大きく頭部背面で相接し、頭頂内へは入り込まない … Acanthostepheia
— 複眼は小さく頭頂内に収まる、あるいはこれを欠く ... Oediceroides
35. 左右の複眼は完全に癒合し、頭部の背面に位置する  … 36
— 複眼は癒合しない、あるいは癒合しても頭頂内に収まる、あるいはこれを欠く … 40
36.  第4底節板の葉状突起は発達が弱く鈍い;尾節板は後縁に切れ込みをもたず全縁  … 37
— 第4底節板は鋭く尖る葉状突起を具える;尾節板は後縁に切れ込みを具える … Paroediceroides 
37. 第1,2咬脚の腕節後縁端部の葉状突起は小さい …  Paraperioculodes 
— 第1,2咬脚の腕節後縁端部の葉状突起は、前節の掌縁後角に達する … 38
38. 第1咬脚の腕節は大きく、細長い … Pacifoculodes
— 第1咬脚の腕節は小さく、幅広い … 39
39. 第3,4胸脚の長節は腕節より長いか同長;第7胸脚の基節後角の葉状突起は不明瞭か、あるいはこれを欠く … Deflexilodes
— 第3,4胸脚の長節は腕節より長い;第7胸脚の基節は、座節を越える明瞭な葉状突起を後角に具える … Ameroculodes 
40. 第4底節板の後角は大きく鈍い葉状突起を具える … Oedicerina 
— 第4底節板の後角は大きな突出部を欠くか、あるいは大きく尖った葉状突起を具える … 41
41. 第2小顎の外板は強壮な棘状剛毛を具える … Anoediceros(一部)
— 第2小顎の外板は剛毛を欠く … 42
42. 第1触角は短く痕跡的/全長は第2触角柄部第5節を越えない;第2触角柄部は伸長し、湾曲した長剛毛を具える … 43
— 第1触角全長は第2触角柄部第5節を明らかに越える;第2触角柄部は湾曲した長剛毛を欠く … 45
43. 頭頂はよく発達する;第4底節板の後角は丸みを帯び葉状突起は不明瞭 ... Oediceroides
— 頭頂は痕跡的;第4底節板の後角は尖る … 44
44. 第1触角の柄部第1,2節は伸長する;第2触角の柄部は長剛毛を欠く;第2小顎の外板は剛毛を具える;第4底節板の葉状突起の突出は弱い … Anoediceros(一部)
— 第1触角の柄部第1,2節は短い;第2触角の柄部は長剛毛を具える;第2小顎の外板は剛毛を欠く;第4底節板は拡張する … Oediceropsis
45. 第1触角の柄部第3節は第1節より短い … クチバシソコエビ属 Monoculodes
— 第1触角の柄部第3節は第1節と同長 … 46
46. 第1,2咬脚の腕節葉状突起は前節に覆いかぶさる … Monoculopsis
— 第1,2咬脚の腕節葉状突起は前節に覆いかぶさらない … 47
47. 頭頂は前方へ伸長する … Paramonoculopsis 
 — 頭頂は伸長しない … Lopiceros

 クチバシソコエビも科としては 樋之口ほか(2024) に記録があります。

 なお、今回は上記グループ以外に文献記録がないと思われる属も見つかったので、K大での解析をお願いする予定です(丸投げ)。

 この地でもLNO法で採集を試みましたが、よりサンプルの損傷を防ぎ効率的に採捕する方法を編み出しました。これはヨコエビネットワークで共有していきたいと思います。

 東からの風が止まず、上げ潮はかなり食い気味に訪れました。潮上決戦にもつれこむことにします。


第7胸脚の長節,腕節の太さからすると、 
 タイヘイヨウヒメハマトビムシ Platorchestia pacifica 
 のような気がします。

 あまり大きな個体は採れませんでした。

 海岸に設置された環境学習施設のスタッフによると、ここの「干潟生物」の定義は厳密な干潟の定義に対して忠実に設定され、「潮間帯砂地のもののみ」に限定しているとのことで、ハマトビの類は「干潟生物ではない」という位置づけのようです。ただ 樋之口ほか(2024) は周辺の湿地のファウナも含んでいるようで、ハマトビの類もしっかり分類ができれば今後改訂版に掲載される可能性はあるかと思います。


 やはり狙ったヨコエビが採れなかったことには忸怩たる思いがありますが、久々に未踏の地で干潟を堪能できて良かったです。いるはずのヨコエビを採集できないという事態は回避していきたいので、採集方法や微環境選定など見直す精度の向上を図りたいと思います。



<参考文献>

— Barnard, J. L.; Karaman, G. S. 1991. The Families and Genera of Marine Gammaridean Amphipoa (Except Marine Gammaroids). Records of Australian Museum supplment 13, part 1,2, 866p. <part 1> <part2>

Bousfield, E. L.; Chevrier, A. 1996. The Amphipod Family Oedicerotidae on the Pacific Coast of North America. 1. The Monoculodes & Synchelidium Generic Complexes: Systematics and Distributional Ecology. Amphipacifica, 2(2): 75–148.

樋之口蓉子・田島奏一朗・是枝伶旺・本村浩之 (編著) 2024. 『改訂版錦江湾奥干潟の生き物図鑑』. 特定非営利活動法人くすの木自然館, 姶良市. ISBN978-4-600-01440-7


2023年7月27日木曜日

端脚グルメ情報(7月度活動報告)

 

 ヨコエビの話をするとよく出てくる「それって食えんの?」という質問。結論から言うと、食えなくはないものの、一般的な食材となりえない要素がいろいろある感じです。以下、国内の例を挙げてみます。


古典から

— 茅原定 1833.『茅窗漫録』中巻.

 四国ではワレカラを酒の肴にするとのこと。ただ、調理法は不明です。


 また、山形県などの地域で食用にされていたという記録もあるようです(サイカルJournal)が、原典を見つけることはできませんでした。一方、クジラジラミについては食用にならんと一蹴している文献もあるとのこと(小山田是清 1829. 『勇魚取絵詞』)



救荒食

— 原徹一・早川孝太郎 1944. 『戦時国民栄養問題』. 霞ケ関書房.

 非常時の代替食糧として検討されたことがあるようです。このあたりは前述の伝統食がヒントになってるのかもしれません。



プレミア

— のりのふくい磯音ニュース「少し変わり種の海苔の話/えび等級というナゾの海苔」(2020/11/5)

 「エビ入りの海苔はプレミア」という話は海苔業界の方から聞いていたのですが、こうしてネット記事になっている例はあまり多くない気がします。



現代の冒険者たち

東京湾のヨコエビガイドブック Open edition ver. 2.0 (2021/3/22)

 水槽に湧いていたフトメリタをレンチンして醤油味にしたものです。エビの香りがしてうまいですが、肉はほぼ感じません。


— 原人のCatch & Eat「【キチ○イ回】ワレカラを食う!」 (2016/4/4)

 玉ねぎや三つ葉?と一緒にワレカラをかき揚げにすると、香りが立って美味いようです。


TW釣りetc.「ヨコエビを食ってみた」(2019/5/30)

 これは有名な記事ですね。ヒゲナガハマトビムシを脱糞させて塩茹でにて齧ったはいいものの、汚いモノを食べてる気がして完食できなかったとのことです。確かに…



そもそも食べて大丈夫?

 端脚類は固い殻を持ち、何かに隠れたり、泳いで逃げたり、トゲを生やしたり、あるいは多産でカバーしたりと、ケミカル方面以外の戦略を発達させているためか、毒を持ってるという注意喚起はあまり見かけません。

 ワレカラにおいて咬脚に"poison tooth"と呼ばれる器官があり、どうやら水中で格闘する時に相手に毒の一撃を加えるもののようです。捕食された後に効かせることを想定したものではないにせよ、食べ方によっては口などに刺さるかもしれません。

 また、海産物にコンタミしがちな端脚類にはアレルギーの表示義務はありません塩見一雄 2009. 「えび」,「かに」のアレルギー表示の義務化. 日本水産学会誌75(3): 495–499.が、がっつりアレルゲンが含まれています (Motoyama et al. 2007. Allergenicity and allergens of amphipods found in nori (dried laver). Food Additives & Contaminants, 24(9).) ので、えびかにアレルギー持ちの方は忌避すべき食材です。混入については「えびかにが棲息する海域で採取」などとやんわり示唆するメーカーが多いので、事前に確認すべきでしょう。

 さらに、生態系において分解者の役割を果たすヨコエビは、生物濃縮により有害な化学物資を溜め込んでいる可能性があります (一例:Curtis et al. 2019. Effects of temperature, salinity, and sediment organic carbon on methylmercury bioaccumulation in an estuarine amphipod. Science of The Total Environment, 687(15): 907–916. )。そういった面を考えると、無理して食べるべき食材でもないような気はします。


2023年6月9日金曜日

大いなる寄り道(6月度活動報告)

 

 台風2号(マーワー)接近に付随する前線の活性化に伴う豪雨災害で被災された方に、心よりお見舞いを申し上げます。

 ちなみに私事ですが日本動物分類学会に遅刻しました。


〈地下鉄エビ〉

 事の発端は6月3日の朝6時半、東京駅で新幹線全線死亡の報に触れたことです。わたしが東京へ向けて出発した頃にどうやらHPのお知らせが更新されたようですが、確認が甘かったですな。

 かたや在来線下り復活も近いとの報もあり、ごった返す新幹線ホームを見るのも辛く、そちらに賭けることとしました(これが遅刻の元凶です)

 ただどのみち電車は動いてないため東京駅近傍を離れられず、日本橋ならではの採集と洒落込みます。


某ユーチューバーのアレ



なぜかスポイトが荷物に入ってたので



ミズムシしかおらん



〈熱海リベンジ〉

 過去、8月の熱海でヨコエビリティを探索した時は、打ち上げ海藻の乏しさに絶望しました。

 今回は在来線運転再開の日和見のため熱海入り。時間もあるのでサンビーチでも行きますか。


意外と魅力的な砂浜模様

 今回はメカブなどが見られて良い感じです。夏のビーチ全盛の頃と今とでは、恐らく清掃強度が異なるのでしょう。

 ウェーダーはまだ出さずに漂着海藻だけ見ます。


めかぶ

 ハマトビは出ず。

 代わりに

サキモクズ属 Protohyale


 少し放置されてる感のある流木。



ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis

 熱海にヨコエビはいないものと思っていたので、個人的にはかなり快挙です。しかもスナハマトビムシ属とは。夏にはリセットされるのでしょうが、どのように個体群を維持しているのか気になります。




〈第58回日本動物分類学会大会および第n回日本端脚類連絡協議会総会〉※個人の感想です

 今回は満身創痍で迎えた伝説的な回と捉えるむきもあるようですが、交通機関の混乱により実際に新幹線車内で急病人が出るなど、混雑そのものも災害と言え、また車の渋滞も緊急車両への影響や交通事故のリスクを高めると考えられることから、交通が大規模に麻痺した状態で参加者の招集を止めなかったことを武勇伝のように語るべきか、疑問もあります。過酷なフィールドワークに関しても同様。ただ天候そのものは開催予定時刻の時点で回復傾向にあり、2日目以降に関して開催を止める理由は何ら存在しない状況だったので、開催を延期や中止までにはしなかった判断そのものは妥当かと思います。

 2日目から参加なので半分しか聴けていませんが、全体を通して、普通種こそしっかり見つめる重要性を改めて認識することになりました。特にインパクトが大きいのはフナムシの件だと思います。また、印象に残ったのは、寄生性コペの幼生期表記を改めようという提言。とてもロジカルかつドラスティックな構成でした。

 通常の発表以外の部分、メタ的なところで印象に残ったのは、普通種の重要性に加えて、純粋な記載的研究と記載+αの意義、『海岸動物図鑑』の後の空白を埋めるべきというお話。特に “分類学から始まる総合生物学“ から「分類学者が実学的な他分野と積極的に協働して真価を示すべき」との提言は、多少物分かりが良すぎるように見えるきらいもありつつ、パイを取り合うしかない今日の日本社会を生き抜いていく強かさを、この上なく明確に示したハングリー精神の結晶にも見えます。区画整理されてない土地にどんなに立派なオブジェクトを設けようと、それは砂上の楼閣に過ぎないわけで、適切な(種)分類は実践的生物学に再現性をもたらす最低ラインだと思います。分類学者が興味の赴くまま土地を均すのをただ待っていろというのも、おかしな話かもしれません。よく人が通る場所こそ優先的に、精密に、整備していく。そういったプラオリティの付け方は、普通種をちゃんとやるという動きにも繋がっていくのかもしれません。

 日本端脚類協会決起集会の内容については、あまりにコアすぎるためここには記しません。




〈C県某所開拓事業〉

 月曜豊橋17時バラしというスケジュールがキツかったため、命名規則勉強会をブッチしていますが、潮回りには抗えず帰りに寄り道することに。豊橋からの帰り道、東海道本線沿いといえば真鶴が挙げられますが、行ったばかりなので、もう少し外してみます。


ちょっと外しすぎたか

 初エントリーとなります。

 堆積岩系の磯です。


イワガニ Pachygrapsus crassipes の優雅な朝食

飛び立つトビ Milvus migrans

 波当たりの穏やかなプールから波が直にぶつかる部分までがかなり近く、すぐ深くなる感じです。風が強いとかなり危険なフィールドといえるでしょう。砂浜を設置しているわけでないため沖側に波消しブロックもなく、波はダイレクトに来ます。

 紅藻は多様でかなり沖寄りの褐藻側にも進出しています。緑藻には全く期待できないものの、潮が引いてくるとかなりスガモが生えてるのが分かります。これだけ大量のは初めて見たかもしれん。


おわかりいただけただろうか…(海藻に紛れたタコ)

 モクズヨコエビ科 Hyalidae はあまり優占しません。あまり変わったものも出ません。紅藻から採れるイソヨコエビ Elasmopus がやたら小さい。

イソヨコエビ属 Elasmopus
恐ろしいことに同所的に明らかに形態が異なる2タイプが出ました



 褐藻はわりとヨコエビが好む形状のものが多い。ただ圧倒的にヘラムシが優占しています。

ニセヒゲナガヨコエビ属 Sunamphitoe



 岩の間の、砂利が溜まっているところが気になります。


ミナミモクズ属 Parhyale

 あまり馴染みがありません。伝統的に第3尾肢が双葉になることが主な識別形質ですが、よく調べるとあまりパッとしない種ばかりのようです。今回のサンプルもしかり。だとすると、これもミナミモクズ属だったっぽい。



 スガモが気になりますね。


Ampithoe changbaensis(和名未提唱)


呆れるほどデカいヒゲナガヨコエビ属
モズミヨコエビっぽい要素を具えつつ、たぶん別種でしょう
オスが採れていないので悶々としています(スケールはだいたい10mm)


オボコスガメ属 Byblis
頂き物の標本はありますが、スガメソコエビ科を自己採取したのは初
生きた姿を生で見たのも初めてです
意外と機敏に海藻・海草の間を動き回りますが、ツノヒゲ系の潜砂性種のような、独特な佇まいをしています
変な顔をしているのも生時からよく目立ちます



ユンボソコエビ属 Aoroides



?トウヨウスンナリヨコエビ属 Orientomaera


?カクスンナリヨコエビ属 Quadrimaera


 ドロクダムシ強化月間(6月~中止連絡まで)ですが、あまり採れず。課題です。

 さすがに最干潮を回って少し波が高くなってきたようなので、潮上決戦にもつれ込みます。


陸域由来の竹などが目立ちますが
海藻もかなり含まれているようです


 砂利と言えそうな粗砂や礫の浜なので、たぶん ホソハマトビムシ Pyatakovestia がいるはず。


ニホンヒメマハトビムシ
Platorchestia pachypus
頂き物の東北のサンプルは所有していますが
自己採取でいうと東日本初です

 


ミナミホソハマトビムシ 

Pyatakovestia iwasai

目論見通り

久しぶりに見ました



 デカいハサミムシとハマダン、マキバサシガメ、ムカデ、ザトウムシなどがうじゃうじゃと。そしてハマワラジへ移行するエコトーンが見えるのには唸らされました。ハマトビムシのバイオマスも相当なものでした。スナハマトビムシ属がいなかったのは砂浜ではないからだと思います(小並感)。


”ヒメハマトビムシ”種群
Demaorchestia joi sensu lato (cf. Platorchestia pacifica)

 何にせよスガモが育む独自のファウナが特筆に値します。種数は少ないですが、安定しています。ただ長い葉の間に入ったヨコエビは海藻に対するような普通の洗い出し法ではほとんど外れないため、採り方にはコツがいることが分かりました。

 今回はスガモにかまけて紅藻をあまり見ていません。また、漁業権の掲示がなかったため、触れてない生物も多くいます。このあたりを少し見直して、計画的にアタックできれば、かなりの科数を稼げる気がします。



〈美しいスケッチ〉

 日本端脚類連盟の議題に上がったものです。

 形態分類の論文に掲載するスケッチは「言葉にならない形状を伝える」機能が求められます。

 過去にも参考になる図が載っている論文を挙げていますが、今回は「スケッチの技法」として参考になる事例をここから抜粋した上で、更に別に事例も加えてまとめます。



Barnard (1967)

 羽毛状剛毛が多いナミノリソコエビの描画において、そこに埋もれた棘状剛毛を切り抜きのような表現で見せています。この画は論文の著者が描いたものではなく Jacqueline M. Hampton という画工の筆によるもので、そういった目で見るのも面白いです。


Kamihira (1977)

 底節鰓の構造を点描で描いています。


Hirayama (1990)

 ここ半世紀で出色の出来といえばこの論文だと思います。とにかく線が活き活きとしています。


Pretus and Abello (1993)

 頭頂の書き込みが特徴的です。また、変わったところでは前胃を描画しています。


Lowry and Berents (2005)

 色素斑を描くとともに、入っていた巣まで描画しています。


Jaume et al. (2009)

 体表を覆っている細かい剛毛などのテクスチャを、全体に書き込むのではなく、枠で囲った範囲に部分的に描いて表現しています。


Pérez-Schultheiss and Vásquez (2015)

 色素斑を描いています。


Marin and Sinelnikov (2018)

 影のついた特殊なタッチです。



<参考文献>

Barnard, J. L. 1967. New and old dogielinotid marine Amphipoda. Crustaceana, 13: 281–291.

— Hirayama A. 1990. Two new caprellidean (n. gen.) and known gammaridean amphipods (Crustacea) collected from a sponge in Noumea, New Caledonia. The Beagle, 7(2):21–28.

— Jaume, D.; Sket, B.; Boxshall, G. A. 2009. New subterranean Sebidae (Crustacea, Amphipoda, Gammaridea) from Vietnam and SW Pacific. Zoosystema, 31(2): 249-277.

— Kamihira Y. 1977. A new species of sand-burrowing marine amphipods from Hokkaido, Japan. Bulletin of the Faculty of Fisheries, Hokkaido University, 28(1): 1–5. pls. I–V.

Lowry, J. K.; Berents, P. B. 2005. Algal-tube dwelling amphipods in the genus Cerapus from Australia and Papua New Guinea (Crustacea: Amphipoda: Ischyroceridae). Records of the Australian Museum, 57: 153–164.

   Marin, I.; Sinelnikov, S. 2018. Two new species of amphipod genus Stenothoe Dana, 1852 (Stenothoidae) associated with fouling assemblages from Nhatrang Bay, Vietnam. Zootaxa, 4410(1).

    Pérez-Schultheiss, J.; Vásquez, C. 2015. Especie nueva de Podocerus Leach, 1814 (Amphipoda: Senticaudata: Podoceridae) y registros nuevos de otros anfípodos para Chile. Boletín del Museo Nacional de Historia Natural, Chile, 64: 169-180.

    Pretus, J. L.; Abelló, P. 1993. Domicola lithodesi n. gen. n. sp. (Amphipoda: Calliopiidae), inhabitant of the pleonal cavity of a South African lithodid crab. Scientia Marina, 57(1): 41–49.