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2018年11月24日土曜日

干潟の望月(11月度活動報告その2)


 秋も彩り豊かにいよいよ深まり、朝晩の冷え込みの中にどこか冬の足音が聞こえる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 さて最近、11月と12月のラベルの干潟のヨコエビ標本がほとんどないことに気付きました。

 春を過ぎると潮が悪くなるとともに、海藻の現存量も芳しくなく、干潟でヨコエビを採るのはだんだん厳しくなってきます。

 しかしまあ、一度も調査したことがないというのもアレなので、東京湾内湾最大級のヨコエビリティを誇る干潟で冬季採集を試みました。




 折しも、藤原道長が望月の歌を詠んでからちょうど1000年目にあたるという満月が、纏った薄雲を眩く輝かせながら、天頂から見下ろしています。



 千葉県某所干潟
 午後10時

 暗いので写真はほぼないです。
 この干潟の夜間アタックは学生以来ですね。当時は1.2kmばかり歩いて30測点以上採取し、その後夜通しソーティングなどしていましたから、若かったんですねぇ・・・

 今回の本命は潜砂性種とします。

 また、新たな採集法も試します。



誑かす砂上の月光

(ハマトビキャッチャー)



 砂浜水盤ライトトラップです。
 ここでのハマトビキャッチャーも学生以来です。

 白浜では採れるかどうかの確認でしたが、今回は効率的な採集を目的として、放置プレイバージョンと、攪乱ありバージョンなどで効果を比較してみました。この結果については改めてどこかで。

ハマトビキャッチャー(改)

 使用したLEDライトは公称1000LMらしいのですが、見た感じはよく分かりません。COB12灯の拡散光、とにかく頼もしい明るさです。

 ハマトビキャッチャー実施中に沖で採集していましたが、この通り、遠くからでもよく見えます。暗くなると道が分かりにくくなるので、以前の夜間アタック時もライトを吊るしたり工夫していましたが、これは一石二鳥です。

矢印部分がハマトビキャッチャー改の光です

 ありがたいことにというべきか、不思議なことにというべきか、これをやるとハマトビ(と寄生ダニ)しか採れません。土地柄や季節もあるでしょうが、目的外の生物を殺さずに済むのは良いことです。

Platorchestia pacifica

 ハマトビキャッチャーは、沈黙を抱く湖(エキストラハイパートニック)と併用できますが、集められたハマトビは光に寄せられてバットからあまり逃げないので、普通の海水でも問題ありません。




濡れそぼつ小さな秘め事

(シークレットバイブレーション)


 これはフエコチドリの足技から着想した技です。
 砂をコチョコチョして獲物を探索する行動は渉禽類などでよく見られるのですが、その再現を狙ったものです。

 使用するのはこちらです。


Amaz○nにて購入。2399円。

 市販されている観察用具です。モーターが内蔵されており、10種類のモードから振動パターンを選択できる優れモノです。

 全体がシリコンコーティングされており、マグネット電極充電式なので、水中でも使用できます。 

オゴノリに潜らせてみる

 やってみると、海藻の中にいるヘラムシやアゴナガヨコエビなどがフラフラと出てくる感じがします。
 海藻の付着生物狙いであれば従来のように普通にバットで洗ってもよいのですが、海藻が基質から取り外せない場合や、バットにあけると噛んでいた砂がばっと広がって生き物を見つけにくいような、夾雑物が邪魔になる場合などに使えそうです。


アゴナガヨコエビ属 Pontogeneia

 また、今回砂中に挿入した限りでは、特にこれといった収穫はありませんでしたが、スゴカイイソメやイワムシなど潜行能力が高く掘り起こし採集が難しい多毛類に使っても良いかもしれません。

 この観察用具、寒い干潟では握り締めることで指先の血行が促進され、またモーター部が発熱することで、暖を取ることができるというメリットがあります。
 また、本来の用法ではありませんが、眼精疲労や肩こりによく効きます。
 ただし、取扱説明書を見ると、なぜか対象年齢が18禁表記になっていましたので、ご購入時にはお気を付けください。




 ちなみに、砂を掘りましたが、出てくるのはウミナナフシばかりで・・・
 あとはヒメドロソコエビ属と、エビジャコと、クーマですね・・・


未成熟だがたぶんヒメドロソコエビ Paragrandidierella cf. minima




 夜の干潟は視界が非常に悪く、泥干潟などに入り込むと極めて危険です。夜間チャレンジする前に、昼間に何度も足を運んで現場の状況を頭に入れておく必要があるでしょう。
 また、干潟を吹きすさぶ風と突いた膝から上ってくる冷気は、身体を冷やすには十分です。冬干潟は楽しいものですが、風を遮断できる素材,保温素材,首周りの防寒,そして手足から逃げる熱への対策が重要です。

 夜間かつ冬の採集は、これらが連携攻撃で襲ってきます。単独行動は極めて危険(良い子は真似しないでね☆)であることと、引き際が肝心であることは申し添えておきます。
 今回も不甲斐無いことに目的種についてはボウズでしたが、無事に還れたのでこれでよいこととします。


2013年2月17日日曜日

2013年2月の活動

頑張ってもみるよ、という意思表示なのか、これまでにない短期間でのブログ更新に至りました。ご声援ありがとうございます。
しかしこれは長続きしないパターンです・・

さて、予告していたベントス調査、無事に行うことができました。
事務局に確認していないため(確認しなさいよ)、背景は一切説明せず、とにかくヨコエビの話しかしません。ご了承ください。


東京湾湾奥の某海域です。夜です。
新月の大潮で、御覧の通り真っ暗でした。

ベントス調査は先日の多摩川&三番瀬以来になります。このため、色々と勝手を忘れていて、サンプル用の瓶やチャック袋もなければ、ライトもないという、夜の干潟を完全にナメている装備でした。でも、胴長だけは冬の渓流仕様の高いやつでした(^^;)

(昔、間違って買っちゃったやつです)

本調査があるので、私は暇を見つけてはそのへんのものを拾ってガシャガシャやるというパターン。
悪い写真ですみません。報告書に使えなさそうなショットを選んで掲載しております。わざとです。

これはエドカサネカンザシ※1の棲管が集まったもの。他にも、杭に付着した海藻のカタマリなどを採取。 杭に付着=アリアケドロクダムシMonocorophium acherusicumの棲管 というイメージがありますが、それらしいものは全く確認できず。
リップルマークは、普段見慣れているお白州のような模様ではなく、網の目状になっていました。


・・で、何が出たかというと




モズミヨコエビAmpithoe varidaの抱卵♀。かと思いきや、もう卵が孵化して子供がたくさん。思わず叫び、そしてヨコエビの母性愛について熱く熱く語ってしまいました。

「見て下さいほら、ここに子供たちが・・」
「そうなんです、ヨコエビって、プランクトン幼生期がないんです!直達発生なんですよ!」
「こうやって、母親が卵から子供まで守ってやるんですよ。」
「子育てにはこのコクサルプレート、つまり底節板の構造が重要なんですよ。この溝を、こう、水が流れて、新鮮な海水を運んで、酸素が卵に・・」


周囲はドン引き。


他にもドロクダムシ科の一種が得られたのですが、細部を観察する前にどこかへ行ってしまいました。


あとは、こちら

モズミヨコエビの子供に混じっていましたが、見つけました(ドヤァ。 
おそらく、ポシェットトゲオヨコエビEogammarus possjeticusでしょう。ポシェットたんです。ポシェットと言っても肩から下げるあのポシェットではありませんよ。詳細はTzvetkova(1967)参照。

この海域では、春先からモズミヨコエビやポシェットトゲオヨコエビが増えてくるようなイメージがありますが、時期的にまだまだ数が少ないということなのか、今年は棲みかが少ないのか・・?
このポシェットは明らかに、生まれてからさほど成長していない子供です。再生産が行われていることは喜ばしいのですが、今後どうなるかは分かりません。



この調査は今後も継続していく予定ではありますが、それに甘んじていてはいけませんね。
自分の両手でつかみとらないと、サンプルは得られません。
どこ行こうかな・・


これら調査一連のデータは、NPOの報告書という形で世に出るはずです。
私はひたすらヨコエビの存在感を高める推し事に精を出します。それじゃダメじゃん。




<参考文献>

-Tzvetkova, N.L. (1967) Issledovanija fauny morej V (XIII) Biochenozy Zaliva Possjet Japonskogo Morja, Gidroviolodicheskie raboty s pomosshju akvalangov
[ Explorations of the fauna of the seas V ( XIII ) Biocoenoses of the Possjet Bay of the Sea of Japan (Hydrobiological investigations by means of aqualungs ) ].
Akademija Nauk SSSR, Zoologicheskii Institut [ Academy of Science of the USSR ,
Zoological Institute ], 5: 160–195.



追記

※1 エドカサネカンザシ
てやんでい!
これはエゾカサネカンザシHydroides ezoensisの誤りです。
学名からして江戸要素ゼロです。
トウキョウトガリネズミ的な間違いです。
お詫びして、訂正致します。